(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034088
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】医療用具、医療用具の製造方法、および塗布液
(51)【国際特許分類】
A61L 29/08 20060101AFI20220224BHJP
C08F 20/22 20060101ALI20220224BHJP
C08F 220/22 20060101ALI20220224BHJP
A61L 29/02 20060101ALI20220224BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20220224BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20220224BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20220224BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20220224BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20220224BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220224BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20220224BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20220224BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
A61L29/08 100
C08F20/22
C08F220/22
A61L29/02
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/12 100
A61L29/16
A61L29/14
A61L31/02
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L31/16
A61L31/14
A61L33/06 200
A61L33/06 300
A61L27/50 300
A61L27/10
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/34
A61L27/44
A61L27/50
C08J7/04 A CEW
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018233573
(22)【出願日】2018-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 太平
(72)【発明者】
【氏名】小口 亮平
(72)【発明者】
【氏名】眞貝 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 今日子
【テーマコード(参考)】
4B029
4C081
4F006
4J100
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DG10
4B029GA08
4C081AB13
4C081AB23
4C081AB31
4C081AC08
4C081AC09
4C081AC12
4C081BA02
4C081BB01
4C081BB04
4C081BB07
4C081CA031
4C081CA082
4C081CA131
4C081CA132
4C081CA182
4C081CA271
4C081CC01
4C081CF131
4C081DA02
4C081DA03
4C081DC02
4C081DC03
4C081EA02
4C081EA06
4F006AA15
4F006AA18
4F006AA42
4F006AB19
4F006BA11
4F006CA09
4F006DA04
4J100AL04R
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100BA08Q
4J100BA38R
4J100BB18P
4J100BC73R
4J100CA05
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】充分な機械特性を有し、かつ生体成分に対する非吸着性に優れた医療用具を提供する。
【解決手段】基材と、前記基材の表面に形成された膜とを備え、前記基材の前記膜が形成される表面の表面張力が10~35mN/mであり、前記膜は含フッ素重合体からなり、前記含フッ素重合体は、生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ式:(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))で表される比率Pが0.5~4.5である、医療用具。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に形成された膜とを備え、
前記基材の前記膜が形成される表面の表面張力が10~35mN/mであり、
前記膜は含フッ素重合体からなり、
前記含フッ素重合体は、生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ下式で表される比率Pが0.5~4.5である、医療用具。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
【請求項2】
前記生体親和性基が、下式1で表される基、下式2で表される基、および下式3で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の医療用具。
【化1】
ただし、前記式中、nは1~10の整数であり、mは前記式1で表される基が含フッ素重合体において側鎖に含まれる場合は1~100の整数であり、主鎖に含まれる場合は5~300であり、R
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、X
-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、cは1~20の整数であり、dは1~5の整数である。
【化2】
【請求項3】
前記フッ素原子含有率が10~35質量%である、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ下式で表される比率Pが0.5~4.5である含フッ素重合体を含有する塗布液を、基材の表面張力が10~35mN/mである表面に塗布し、乾燥して膜を形成する、医療用具の製造方法。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
【請求項5】
前記生体親和性基が、下式1で表される基、下式2で表される基および下式3で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の医療用具の製造方法。
【化3】
ただし、前記式中、nは1~10の整数であり、mは前記式1で表される基が含フッ素重合体において側鎖に含まれる場合は1~100の整数であり、主鎖に含まれる場合は5~300であり、R
1~R
3は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、X
-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、cは1~20の整数であり、dは1~5の整数である。
【化4】
【請求項6】
前記フッ素原子含有率が10~35質量%である、請求項4または5に記載の医療用具の製造方法。
【請求項7】
基材の表面張力が10~35mN/mである表面に膜形成するための塗布液であって、
生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ下式で表される比率Pが0.5~4.5である含フッ素重合体を含有する、塗布液。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用具、医療用具の製造方法、および塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、血液保存パック等の医療用具には、基材として、含フッ素重合体等の疎水性高分子や、ポリビニルアルコール等の親水性高分子といった合成高分子材料や、ガラスが広く用いられている。しかし、前記合成高分子材料やガラスを用いた医療用具は、タンパク質や血液成分等の生体成分が吸着しやすい。
【0003】
特許文献1には、基材表面に、ポリオキシエチレングリコール鎖等の生体親和性基を有する含フッ素重合体からなる膜を形成し、タンパク質等の生体成分の吸着を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特にカテーテル等の生体内に挿入される医療用具や、血液保存パック等の生体内に送られる血液成分と接する医療用具は、機械特性に優れ、かつ抗血栓性に優れることが求められる。そのため、特にこれらの医療用具においては、充分な機械特性を確保しつつ、血液成分等の生体成分に対する非吸着性を向上させることが重要である。
【0006】
本発明は、充分な機械特性を有し、かつ生体成分に対する非吸着性に優れた医療用具、医療用具の製造方法、および医療用具の製造に用いる塗布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]基材と、前記基材の表面に形成された膜とを備え、
前記基材の前記膜が形成される表面の表面張力が10~35mN/mであり、
前記膜は含フッ素重合体からなり、
前記含フッ素重合体は、生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ下式で表される比率Pが0.5~4.5である、医療用具。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
[2]前記生体親和性基が、下式1で表される基、下式2で表される基、および下式3で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の医療用具。
【0008】
【0009】
ただし、前記式中、nは1~10の整数であり、mは前記式1で表される基が含フッ素重合体において側鎖に含まれる場合は1~100の整数であり、主鎖に含まれる場合は5~300であり、R1~R3は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、R4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、X-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、cは1~20の整数であり、dは1~5の整数である。)
【0010】
【0011】
[3]前記フッ素原子含有率が10~35質量%である、[1]または[2]に記載の医療用具。
[4]生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ下式で表される比率Pが0.5~4.5である含フッ素重合体を含有する塗布液を、基材の表面張力が10~35mN/mである表面に塗布し、乾燥して膜を形成する、医療用具の製造方法。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
[5]前記生体親和性基が、下式1で表される基、下式2で表される基および下式3で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[4]に記載の医療用具の製造方法。
【0012】
【0013】
ただし、前記式中、nは1~10の整数であり、mは前記式1で表される基が含フッ素重合体において側鎖に含まれる場合は1~100の整数であり、主鎖に含まれる場合は5~300であり、R1~R3は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数であり、bは1~5の整数であり、R4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基であり、X-は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、cは1~20の整数であり、dは1~5の整数である。
【0014】
【0015】
[6]前記フッ素原子含有率が10~35質量%である、[4]または[5]に記載の医療用具の製造方法。
[7]基材の表面張力が10~35mN/mである表面に膜形成するための塗布液であって、
生体親和性基を有し、フッ素原子含有率が10~60質量%であり、かつ下式で表される比率Pが0.5~4.5である含フッ素重合体を含有する、塗布液。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、充分な機械特性を有し、かつ生体成分に対する非吸着性に優れた医療用具、医療用具の製造方法、および医療用具の製造に用いる塗布液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における以下の用語の定義は、以下の通りである。
「単量体」とは、重合性不飽和結合を有する化合物を指す。重合性不飽和結合としては、炭素原子間の二重結合、三重結合が例示される。
「単量体に基づく単位」とは、単量体が重合することで、直接形成される原子団と、前記原子団の一部を化学変換することで得られる原子団を指す。なお、以下、場合により、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
「生体親和性基」とは、タンパク質、血液成分等の生体成分が重合体に吸着して動かなくなることを抑制する性質を有する基を意味する。
「生体成分の非吸着性」とは、タンパク質、血液成分等の生体成分が吸着しにくい性質を意味する。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む。
明細書中においては、式m1で表される単量体を単量体m1と記す。他の式で表される単量体も同様に記す。また、式1で表される基を基1と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0018】
[医療用具]
本発明の医療用具は、基材と、基材の表面に形成された膜とを備えている。本発明の医療用具では、基材表面の一部の領域に膜が限定的に形成されていてもよく、基材表面に全体的に膜が形成されていてもよい。
医療用具とは、治療、診断、解剖学的又は生物学的な検査等の医療用として用いられる器具を指し、人体等の生体内に挿入あるいは接触させる、又は生体から取り出した成分(血液等)と接触させる如何なる器具をも含む。
【0019】
基材としては、特に限定されず、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャ、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤ、血液フィルタ、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、包装材、細胞培養容器、細胞培養シート、細胞捕捉フィルタを例示できる。
【0020】
基材を形成する材料としては、特に限定されず、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、含フッ素重合体、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂材料、ガラスを例示できる。
【0021】
基材の膜が形成される表面の表面張力は、10~35mN/mであり、12~30mN/mが好ましく、15~25mN/mがより好ましい。表面張力が前記範囲の下限値以上であれば、塗布性に優れる。表面張力が前記範囲の上限値以下であれば、生体成分に対する非吸着性に優れる。
なお、基板表面の表面張力は、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサノール、2-プロパノール(IPA)、およびエタノールの接触角から作成したZismanプロットにおけるcosθ=1(θ=0°)のときの表面張力とする。
【0022】
基材表面の表面張力は、例えば、表面処理によって調節できる。
例えば、フッ素樹脂製等の表面張力が低い基材表面に対しては、コロナ処理等で表面張力が高くなる傾向がある。また、ガラス製等の表面張力が高い基材表面に対しては、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤による表面処理等によって表面張力が低くなる傾向がある。表面処理無しでも表面張力が前記範囲内である基材は、表面処理することなく使用できる。この観点では、基材を形成する材料としては、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂が利用でき、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレンが好ましい。その他の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンも利用できる。
【0023】
膜は、生体親和性基を有し、フッ素原子含有率(以下、「含有率F」とも記す。)が10~60質量%であり、かつ比率Pが0.5~4.5である含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体A」とも記す。)からなる。
(比率P)=(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(含フッ素重合体のフッ素原子含有率(質量%))
【0024】
含フッ素重合体Aのフッ素原子含有率は、10~60質量%であり、10~35質量%が好ましく、10~32質量%がより好ましい。含有率Fが前記範囲の下限値以上であれば、耐水性に優れる。含有率Fが前記範囲の上限値以下であれば、生体成分に対する非吸着性に優れる。
【0025】
なお、含フッ素重合体Aの含有率Fは、下式で求められる。
(含有率F)=[19×NF/MA]×100
NF:含フッ素重合体Aを構成する単位の種類毎に、単位中のフッ素原子数と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
MA:含フッ素重合体Aを構成する単位の種類毎に、単位を構成する全ての原子の原子量の合計と、全単位に対する当該単位のモル比率とを乗じた値の総和。
【0026】
例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)単位50モル%とエチレン(E)単位50モル%とを有する含フッ素重合体の含有率Fは、以下のように求められる。
TFE単位のフッ素原子数は4個であり、全単位に対するTFE単位のモル比率は0.5であるため、それらを乗じた値は2である。E単位のフッ素原子数は0個であり、全単位に対するE単位のモル比率は0.5であるため、それらを乗じた値は0である。そのため、NFは2+0=2である。
TFE単位を構成する全ての原子の原子量の合計は100であり、全単位に対するTFE単位のモル比率は0.5であるため、それらを乗じた値は50である。E単位を構成する全ての原子の原子量の合計は28であり、全単位に対するE単位のモル比率は0.5であるため、それらを乗じた値は14である。そのため、MAは50+14=64である。
したがって、含有率Fは、{(19×2)/64}×100=59.4(質量%)となる。
含有率Fは、実施例に記載の方法で測定でき、また含フッ素重合体Aの製造に使用する単量体の仕込み量からも算出できる。
【0027】
含フッ素重合体Aの比率Pは、0.5~4.5であり、0.5~3.5が好ましく、1.0~3.5がより好ましい。比率Pが前記範囲の下限値以上であれば、生体成分に対する非吸着性に優れる。比率Pが前記範囲の上限値以下であれば、耐水性に優れる。
なお、比率Pは、実施例に記載の方法で測定できる。また、含フッ素重合体Aの製造に使用する単量体の仕込み量からも算出できる。
【0028】
含フッ素重合体Aの数平均分子量(Mn)は、2,000~1,000,000が好ましく、5,000~800,000が特に好ましい。Mnが前記範囲の下限値以上であれば、耐久性に優れる。Mnが前記上限値以下であれば、加工性に優れる。
【0029】
含フッ素重合体Aの質量平均分子量(Mw)は、2,000~2,000,000が好ましく、5,000~1,000,000が特に好ましい。Mwが前記下限値以上であれば、耐久性に優れる。Mwが前記範囲の上限値以下であれば、加工性に優れる。
【0030】
含フッ素重合体Aの分子量分布(Mw/Mn)は、1~10が好ましく、1.1~5が特に好ましい。Mw/Mnが前記範囲内であれば、耐水性に優れ、かつ生体成分が吸着しにくい。
なお、含フッ素重合体のMn及びMwは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリスチレン換算として測定される。
【0031】
含フッ素重合体Aが有する生体親和性基としては、血液成分等の生体成分の非吸着性に優れた膜を形成しやすい点から、下記の基1、基2および基3からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、基1のみ、または、基2および基3のいずれか一方もしくは両方がより好ましく、基1、基2または基3のいずれか1種がさらに好ましく、基1が特に好ましい。
【0032】
【0033】
ただし、前記式1中、nは1~10の整数である。mは前記式1で表される基が含フッ素重合体Aにおいて側鎖に含まれる場合は1~100の整数であり、主鎖に含まれる場合は5~300である。R1~R3は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基である。aは1~5の整数である。bは1~5の整数である。R4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1~5のアルキル基である。X-は下記の基3-1または基3-2である。cは1~20の整数である。dは1~5の整数である。
【0034】
【0035】
基1は、血液中等での運動性が高いため、膜表面に生体成分が吸着しにくい。基1は、含フッ素重合体Aの主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよい。基1は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。生体成分の非吸着性に優れる点から、基1は直鎖状が好ましい。
【0036】
基1におけるnは、生体成分が吸着しにくい点から、1~6の整数が好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
mは、基1が含フッ素重合体Aの側鎖に含まれる場合、耐水性に優れる点から、1~40が好ましく、1~20が特に好ましい。基1が含フッ素重合体Aの主鎖に含まれる場合、耐水性に優れる点から、mは、5~300が好ましく、10~200が特に好ましい。
【0037】
mが2以上の場合、基1の(CnH2nO)は、1種でもよく、2種以上でもよい。mが2以上の場合、異なる(CnH2nO)の並び方は、ランダム、ブロック、交互のいずれであってもよい。nが3以上の場合、(CnH2nO)は、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよい。
含フッ素重合体Aが基1を有する場合、基1は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0038】
基2は、含フッ素重合体Aの側鎖に含まれることが好ましい。
基2におけるR1~R3は、原料の入手容易性の点から、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
aは、原料の入手容易性の点から、2~5の整数が好ましく、2が特に好ましい。
bは1~5の整数であり、生体成分が吸着しにくい点から、1~4の整数が好ましく、2が特に好ましい。
含フッ素重合体Aが基2を有する場合、基2は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0039】
基3は、含フッ素重合体Aの側鎖に含まれることが好ましい。
基3におけるR4およびR5は、生体成分が吸着しにくい点から、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
cは、含フッ素重合体Aが柔軟性に優れる点から、1~15の整数が好ましく、1~10の整数がより好ましく、2が特に好ましい。
dは、1~5の整数であり、生体成分が吸着しにくい点から、1~4の整数が好ましく、1が特に好ましい。
【0040】
含フッ素重合体Aが基3を有する場合、生体成分が吸着しにくい点から、X-は、基3-1または基3-2のいずれか1種が好ましい。
含フッ素重合体Aが基3を有する場合、基3は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0041】
含フッ素重合体Aとしては、耐水性が高く、血液成分等の生体成分が吸着しにくい点から、下記の単量体m1に基づく単位(以下、「単位m1」とも記す。)、および単量体m2に基づく単位(以下、「単位m2」とも記す。)を有する含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体A1」とも記す。)が好ましい。
【0042】
【0043】
ただし、前記式中、R6は、水素原子、塩素原子またはメチル基である。eは、0~3の整数である。R7およびR8は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。Rf1は、炭素数1~20のペルフルオロアルキル基である。
R9は水素原子、塩素原子またはメチル基である。Q1は、-COO-または-COO(CH2)h-NHCOO-である。hは1~4の整数である。R10は、水素原子または-(CH2)i-R11である。R11は炭素数1~8のアルコキシ基、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基またはシアノ基である。iは1~25の整数である。fは、1~10の整数である。gは、1~100の整数である。
【0044】
式m1中、R6は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
eは、含フッ素重合体A1の柔軟性に優れる点から、1~3の整数が好ましく、1または2が特に好ましい。
R7およびR8は、耐水性に優れる点から、フッ素原子が好ましい。
Rf1のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。Rf1としては、原料が入手容易な点から、炭素数1~10のペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数1~5のペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
【0045】
単量体m1の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH2=C(CH3)COO(CH2)2(CF2)5CF3(以下、「C6FMA」とも記す。)、
CH2=CHCOO(CH2)2(CF2)5CF3(以下、「C6FA」とも記す。)、
CH2=C(CH3)COOCH2CF3、
CH2=CHCOOCH2CF3、
CH2=CR6COO(CH2)eCF2CF2CF3、
CH2=CR6COO(CH2)eCF2CF(CF3)2、
CH2=CR6COOCH(CF3)2、
CH2=CR6COOC(CF3)3等。
【0046】
単量体m1としては、耐水性に優れる点から、C6FMA、C6FA、CH2=CCH3COOCH2CF3が好ましい。
含フッ素重合体A1中の単位m1は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0047】
単量体m2は、基1を有する単量体である。
式m2中、R9は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
Q1は、-COO-が好ましい。
R10は、水素原子が好ましい。
【0048】
gが2以上の場合、複数存在する(CfH2fO)の種類が同じであっても異なっていてもよい。(CfH2fO)の種類が異なる場合には、その並び方はランダム、ブロック、交互のいずれであってもよい。fが3以上の場合、(CfH2fO)は直鎖構造でも分岐構造でもよい。
(CfH2fO)としては(CH2O)、(CH2CH2O)、(CH2CH2CH2O)、(CH(CH3)CH2O)、(CH2CH2CH2CH2O)を例示できる。
fは、生体成分が吸着しにくい点から、1~6の整数が好ましく、1~4の整数が特に好ましい。
gは、排除体積効果が高く、生体成分が吸着しにくい点から、1~50の整数が好ましく、2~30の整数がより好ましく、3~20の整数が特に好ましい。
【0049】
iは、含フッ素重合体A1の柔軟性に優れる点から、1~4の整数が好ましく、1または2が特に好ましい。
R9は、生体成分が吸着しにくい点から、アルコキシ基が好ましい。
【0050】
単量体m2としては、単量体m21が好ましい。
【0051】
【0052】
単量体m2の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH2=CH-COO-(C2H4O)9-H(以下、「PEG9A」とも記す。)、
CH2=CH-COO-(C2H4O)4-H(以下、「PEG4A」とも記す。)、
CH2=CH-COO-(C2H4O)5-H(以下、「PEG5A」とも記す。)、
CH2=CH-COO-(C2H4O)9-CH3、
CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)9-H、
CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)4-H、
CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)5-H、
CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)9-CH3、
CH2=CH-COO-(CH2O)-(C2H4O)g1-CH2-OH、
CH2=CH-COO-(C2H4O)g2-(C4H8O)g3-H、
CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)g2-(C4H8O)g3-H、
CH2=CH-COO-(C2H4O)g2-(C4H8O)g3-CH3、
CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)g2-(C4H8O)g3-CH3等。
前記式において、g1は1~20の整数である。g2およびg3は、それぞれ独立に、1~50の整数である。
【0053】
単量体m2としては、生体成分が吸着しにくい点から、PEG9A、PEG4A、PEG5A、CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)9-CH3、CH2=CH-COO-(CH2O)-(C2H4O)g1-CH2-OH、CH2=C(CH3)-COO-(C2H4O)g2-(C4H8O)g3-Hが好ましい。
含フッ素重合体A1中の単位m2は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0054】
含フッ素重合体A1は、単量体m1および単量体m2以外の他の単量体に基づく単位を有していてもよい。他の単量体に基づく単位としては、耐水性に優れる点から、下記の単量体m3に基づく単位(以下、「単位m3」とも記す。)が好ましい。
CH2=CR11-COO-Q2-R12 ・・・式m3
ただし、前記式中、R11は、水素原子、塩素原子またはメチル基である。R12は、炭素数1~8のアルコキシ基、水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、または置換基を有してもよいピラゾリル基である。Q2は、単結合、炭素数1~20のアルキレン基、炭素数1~12のポリフルオロアルキレン基、-(CH2)j-NH-CO-、または-CF2-(OCF2CF2)k-OCF2-である。jは1~6の整数である。kは1~6の整数である。
【0055】
式m3中、R11は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。ピラゾリル基が有する置換基としては、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
Q2のアルキレン基およびポリフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。Q2は、耐水性に優れる点から、炭素数1~12のアルキレン基、-(CH2)j-NH-CO-が好ましく、炭素数1~6のアルキレン基、-(CH2)2-NH-CO-が特に好ましい。
R12は、耐水性に優れる点から、水素原子、置換基を有してもよいピラゾリル基が好ましい。
【0056】
単量体m3の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH2=CH-COO-(CH2)4-H、
CH2=CH-COO-(CH2)6-H、
CH2=CH-COO-(CH2)8-H、
CH2=CH-COO-(CH2)16-H、
CH2=CH-COO-CH2CH(C2H5)CH2CH2CH2CH3(以下、「2-EHA」とも記す。)、
2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート(以下、「IMADP」とも記す。)等。
【0057】
単量体m3としては、2-EHA、IMADP、ヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレートが好ましく、2-EHA、IMADPが特に好ましい。
含フッ素重合体A1が単位m3を有する場合、含フッ素重合体A1中の単位m3は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0058】
他の単量体は、単量体m3には限定されない。
単量体m3以外の他の単量体としては、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルペピリジン、N,N-ジメチルアミノオキシドエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノオキシドエチル(メタ)アクリレートを例示できる。また、2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、2-イソシアネートエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアネートプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアネートブチル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノグリシジルエーテル(メタ)アクリレート等を用いてもよい。
【0059】
含フッ素重合体A1の全単位に対する単位m1の割合は、5~95モル%が好ましく、10~90モル%が特に好ましい。単位m1の割合が前記範囲の下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位(m1)の割合が前記範囲の上限値以下であれば、生体成分が吸着しにくい。
【0060】
含フッ素重合体A1の全単位に対する単位m2の割合は、5~95モル%が好ましく、10~90モル%が特に好ましい。単位m2の割合が前記範囲の下限値以上であれば、生体成分が吸着しにくい。単位m2の割合が前記範囲の上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0061】
含フッ素重合体A1が単位m3を有する場合、含フッ素重合体A1の全単位に対する単位m3の割合は、1~90モル%が好ましく、5~85モル%が特に好ましい。単位m3の割合が前記範囲の下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位m3の割合が前記範囲の上限値以下であれば、生体成分が吸着しにくい。
【0062】
含フッ素重合体Aは、生体親和性基を有し、含有率Fおよび比率Pの条件を満たしていれば、含フッ素重合体A1には限定されない。
含フッ素重合体A1以外の好ましい含フッ素重合体としては、単位m1と、単量体m4に基づく単位(以下、「単位m4」とも記す。)および単量体m5に基づく単位(以下、「単位m5」とも記す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を有する含フッ素重合体(以下、「含フッ素重合体A2」とも記す。)が挙げられる。
【0063】
【0064】
ただし、前記式中、R13は、水素原子、塩素原子またはメチル基である。Q2は、-C(=O)-O-または-C(=O)-NH-である。R1~R3、a、bは前記式2と同じである。R13は、水素原子、塩素原子またはメチル基である。Q14は、-C(=O)-O-または-C(=O)-NH-である。R4、R5、X-、c、dは前記式3と同じである。
【0065】
単量体m4は、基2を有する単量体である。
式m4中、R13は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
Q2は、生体成分が吸着しにくい点から、-C(=O)-O-が好ましい。
【0066】
単量体m4としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを例示できる。
含フッ素重合体A2が単位m4を有する場合、含フッ素重合体A2中の単位m4は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0067】
単量体m5は、基3を有する単量体である。
式m5中、R14は、重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
Q3は、生体成分が吸着しにくい点から、-C(=O)-O-が好ましい。
【0068】
単量体m5としては、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-プロピルスルホキシベタイン、N-メタクリロイルアミノプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム-α-N-プロピルスルホキシベタインを例示できる。
含フッ素重合体A2が単位m5を有する場合、含フッ素重合体A2中の単位m5は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0069】
含フッ素重合体A2は、単量体m1、単量体m4および単量体m5以外の他の単量体に基づく単位を有していてもよい。他の単量体としては、含フッ素重合体Aにおいて例示した他の単量体を例示できる。
【0070】
含フッ素重合体A2の全単位に対する単位m1の割合は、5~95モル%が好ましく、10~90モル%が特に好ましい。単位m1の割合が前記範囲の下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位m1の割合が前記範囲の上限値以下であれば、生体成分が吸着しにくい。
【0071】
含フッ素重合体A2の全単位に対する単位m4と単位m5との合計の割合は、5~95モル%が好ましく、10~90モル%が特に好ましい。単位m4と単位m5との合計の割合が前記範囲の下限値以上であれば、生体成分が吸着しにくい。単位m4と単位m5との合計の割合が前記範囲の上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0072】
好ましい含フッ素重合体としては、単量体m6に基づく単位(以下、「単位m6」とも記す。)を含むセグメントIと、下式4で表される構造(以下、「構造4」と記す。)を有する高分子アゾ開始剤に由来する分子鎖を含むセグメントIIと、を有するブロック共重合体(以下、「含フッ素重合体A3」とも記す。)も挙げられる。含フッ素重合体A3は、基1を主鎖に有する。
【0073】
【0074】
ただし、前記式中、R15は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはハロゲン原子である。Q4は、単結合または2価の連結基である。R16は、炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1~6のポリフルオロアルキル基である。pは、5~300の整数である。βは、1~20の整数である。
【0075】
R15は、原料の入手が容易な点、および重合しやすい点から、水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
Q4としては、-O-、-S-、-NH-、-SO2-、-PO2-、-CH=CH-、-CH=N-、-N=N-、-N(O)=N-、-OCO-、-COO-、-COS-、-CONH-、-COCH2-、-CH2CH2-、-CH2-、-CH2NH-、-CO-、-CH=CH-COO-、-CH=CH-CO-、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基、アルケニレン基、アルキレンオキシ基、2価の4~7員環の置換基、2価の6員環の芳香族炭化水素基、2価の4~6員環の脂環式炭化水素基、2価の5または6員環の複素環基、これらの縮合環、2価の連結基の組み合わせから構成される基を例示できる。
【0076】
Q4の2価の連結基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子等)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基等)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基等)、アシル基(アセチル基等)、スルホニル基(メタンスルホニル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基等)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基等)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等)、アミド基(アセチルアミノ基等)、カルバモイル基(N,N-ジメチルカルバモイル基等)、アルキル基(メチル基等)、アリール基(フェニル基等)、複素環基(ピリジル基等)、アルケニル基(ビニル基等)、アルコシアシルオキシ基(アセチルオキシ基等)、アルコシキカルボニル基(メトキシカルボニル基等)、重合性基(ビニル基等)を例示できる。
【0077】
Q4としては、単結合、-O-、-(CH2CH2O)r-、-COO-、6員環芳香族炭化水素基、直鎖状または分岐状のアルキレン基、水素原子の一部が水酸基に置換された直鎖状または分岐状のアルキレン基、これら2価の連結基の組み合わせから構成される基が好ましく、単結合、炭素数1~5のアルキレン基、または-COOY1-が特に好ましい。rは1~10の整数である。Y1としては、-(CH2)s-、-(CH2)s-CH(OH)-(CH2)t-、-(CH2)s-NR17-SO2-等が挙げられ、-(CH2)s-が特に好ましい。ただし、sは1~5の整数である。tは1~5の整数である。R17は水素原子または炭素数1~3のアルキル基である。
【0078】
単量体m6の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CH2=CHCOO(CH2)2(CF2)3CF3、
CH2=C(CH3)COO(CH2)2(CF2)3CF3、
CH2=CHCOOCH2CH(OH)CH2(CF2)3CF3、
CH2=C(CH3)COOCH2CH(OH)CH2(CF2)3CF3、
CH2=CHC6H4(CF2)3CF3、
CH2=CHCOOCH2CH2N(CH3)SO2(CF2)3CF3、
CH2=C(CH3)COOCH2CH2N(CH3)SO2(CF2)3CF3、
CH2=CHCONHCH2C4F9、
CH2=CHCONHCH2CH2OCOC4F9、
CH2=CHCOOCH(CF3)2、
CH2=C(CH3)COOCH(CF3)2等。
【0079】
式4のpは、生体成分が吸着しにくい点から、10~200の整数が好ましく、20~100の整数が特に好ましい。
qは、重合しやすい点から、2~20の整数が好ましく、5~15の整数が特に好ましい。
構造4を有する高分子アゾ開始剤としては、和光純薬工業社製のVPEシリーズ(VPE-0201、VPE-0401、VPE-0601)を例示でできる。
【0080】
含フッ素重合体A3の全単位に対する、単位m6の割合は、50~99モル%が好ましく、60~90モル%が特に好ましい。単位m6の割合が前記範囲の下限値以上であれば、耐水性に優れる。単位m6の割合が前記範囲の上限値以下であれば、生体成分が吸着しにくい。
【0081】
セグメントI(100質量%)中の単位m6の割合は、5~100質量%が好ましく、10~100質量%が特に好ましい。前記単位m6の割合が前記範囲の下限値以上であれば、セグメントIを構成する単量体の重合が容易になる。
【0082】
含フッ素重合体A3の全単位に対する、構造4の分子鎖における各単位の合計割合は、1~50モル%が好ましく、10~40モル%が特に好ましい。前記単位の合計割合が前記範囲の下限値以上であれば、生体成分が吸着しにくい。前記単位の合計割合が前記範囲の上限値以下であれば、耐水性に優れる。
【0083】
含フッ素重合体の製造方法は、特に限定されず、例えば、重合溶媒中で単量体を重合して製造できる。
重合溶媒としては、特に限定されず、ケトン類(アセトン等)、アルコール類(メタノール等)、エステル類(酢酸エチル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル等)、グリコールエーテル類(エチレングリコールエチルエーテル等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン等)、ハロゲン化炭化水素類(メタキシレンヘキサフルオリド等)、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ブチロアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)を例示できる。
含フッ素重合体を得る重合反応における反応液中のすべての単量体の合計濃度は、5~60質量%が好ましく、10~40質量%が特に好ましい。
【0084】
含フッ素重合体を得る重合反応においては、重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤としては、過酸化物(ベンジルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、スクシニルパーオキシド、tert-ブチルパーピバレート等)、アゾ化合物(2,2’-アゾイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾ(2-メチルプロピオネート)等)を例示できる。含フッ素重合体A3の製造においては、構造4を有する高分子アゾ開始剤を用い、前記した重合開始剤を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の合計量100質量部に対して0.1~1.5質量部が好ましく、0.2~1.0質量部がより好ましい。
【0085】
含フッ素重合体の重合度(分子量)を調節するために、重合反応において連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることにより、重合溶媒中の単量体の濃度の合計を高められる効果もある。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、アミノエタンチオールを例示できる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体の合計量100質量部に対して、0~2質量部が好ましく、0.1~1.5質量部がより好ましい。
【0086】
重合反応における反応温度は、室温から反応液の沸点までの範囲が好ましい。重合開始剤を効率良く使う点からは、重合開始剤の半減期温度以上が好ましく、30~90℃がより好ましく、40~80℃がより好ましい。
【0087】
膜の水中における膜表面の気泡接触角は、100°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、120°以上がさらに好ましい。膜表面の気泡接触角が前記下限値以上であれば、膜に生体成分が吸着しにくい。膜表面の気泡接触角は、大きければ大きいほど良い。
【0088】
膜の厚さは、0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。膜の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、連続膜として機能し、充分な膜強度が得られる。膜の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、材料の利用効率が高い。
【0089】
[医療用具の製造方法]
本発明の医療用具の製造方法としては、含フッ素重合体Aを含有する塗布液を、基材の表面張力が10~35mN/mである表面に塗布し、乾燥して膜を形成する方法が挙げられる。
【0090】
塗布液に用いる溶媒としては、特に限定されず、エタノール、メタノール、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、メトキシプロパノール、ジメチルホルムアミドを例示できる。
【0091】
塗布液中の含フッ素重合体Aの濃度は、0.01~30質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。含フッ素重合体Aの濃度が前記範囲内であれば、均一に塗布できるため、均一な膜を形成しやすい。
【0092】
塗布液は、必要に応じて、含フッ素重合体Aおよび溶媒以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、レベリング剤、架橋剤等が挙げられる。
含フッ素重合体Aを架橋する架橋剤を塗布液に添加し、膜中の架橋度合いを調整することで、優れた生体親和性がより長期にわたって持続する。例えば、含フッ素重合体Aが水酸基を有する場合、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、HDI系ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の水酸基と反応する架橋剤を添加する。膜中の架橋度合いは、含フッ素重合体A中の水酸基量と添加する架橋剤の量、反応率によって決まり、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調節できる。
【0093】
以上説明したように、本発明では、表面張力が10~35mN/mの基材表面に含フッ素重合体Aからなる膜を形成する。これにより、充分な機械特性を確保しつつ、血液成分等の生体成分の非吸着性に優れた医療用具が得られる。
【0094】
表面張力が10~35mN/mの基材と、含フッ素重合体Aからなる膜とを組み合わせることによって生体成分の非吸着性に優れるという効果が奏される理由は、必ずしも明らかでないが、以下のように考えられる。
表面張力が高い基材表面は、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の官能基が多く、形成された膜中の含フッ素重合体Aの生体親和性基が基材側に向き、膜表面に含フッ素重合体Aの疎水性部分が集まりやすくなると考えられる。これに対し、表面張力が10~35mN/mの基材表面には前記官能基が少なく、膜中の含フッ素重合体Aの生体親和性基が膜表面に出やすいため、生体成分に対する非吸着性が優れると考えられる。
【実施例0095】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1~10は実施例であり、例11~26は比較例である。
【0096】
[共重合組成]
得られた含フッ素重合体の20mgをクロロホルムに溶かし、1H-NMRにより共重合組成を求めた。
【0097】
[分子量]
含フッ素重合体のMn、MwおよびMw/Mnは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするGPC装置(HLC8220、東ソー社製)を用いてポリスチレン換算として測定した。
【0098】
[フッ素原子含有率]
フッ素原子含有率(単位:質量%)は、1H-NMRによる測定結果から算出した。
【0099】
[比率P]
比率Pの算出には、含フッ素重合体の1H-NMR(JEOL社製、AL300)、イオンクロマトグラフ(Dionex社製、DX500)、および元素分析(パーキンエルマー社、2400・CHSN)による測定結果を用い、下式から比率Pを算出した。
(比率P)=[(含フッ素重合体の全単位に対する生体親和性基を有する単位の割合(質量%))/(フッ素原子含有率(質量%))]
【0100】
[表面張力]
接触角計(KRUS Gmbh DSA25)により、基板表面において水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサノール、2-プロパノール(IPA)、およびエタノールの接触角を測定した。それらの接触角からZismanプロットを作成し、cosθ=1(θ=0°)のときの表面張力を基板の表面張力(単位:mN/m)とした。
【0101】
[原料の略号]
含フッ素重合体の製造に用いた原料の略号を以下に示す。
(単量体)
C6FA:CH2=CH-COO-(CH2)2-(CF2)5-CF3
2-EHA:CH2=CH-COO-CH2CH(C2H5)CH2CH2CH2CH3
PEG9A:CH2=CH-COO-(C2H4O)9-H(EO数平均9)
IMADP:2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート
【0102】
(重合開始剤)
AIBN:2,2’-アゾイソブチロニトリル
V-601:ジメチル-2,2’-アゾ(2-メチルプロピオネート)
【0103】
(重合溶媒)
m-XHF:メタキシレンヘキサフルオリド
【0104】
[含フッ素重合体の製造]
(製造例1)
100mLの耐圧ガラス瓶に、2-EHAの40g、PEG9Aの40g、V-601(油溶性アゾ重合開始剤、和光純薬社製)の0.66g、およびm-XHF(セントラル硝子社製)の49.8gを仕込み、密閉した後、70℃で16時間加熱した。この反応液に、C6FAの20g、m-XHFの40g、およびV-601の0.48gを仕込み、密閉した後、70℃で16時間加熱し、重合体A-1を得た。
重合体A-1の共重合組成を測定した結果、PEG9A単位とC6FA単位と2-EHA単位とのモル比は24:14:62(質量比は40:20:40)であった。重合体A-1のMnは17,000、Mwは40,000、Mw/Mnは2.3であった。
【0105】
(製造例2)
20mLの耐圧ガラス瓶に、C6FAの2090mg、PEG9Aの1450mg、IMADPの500mg、AIBNの40.4mg、およびアセトンの7.4mLを仕込み、密閉した後、70℃で16時間加熱した。この反応液を100mLのヘキサンに滴下して重合体を沈殿させた。得られた重合体を減圧乾燥し、重合体A-2を得た。
重合体A-2の共重合組成を測定した結果、C6FA単位とPEG9A単位とIMADP単位とのモル比は51:32:17(質量比は52:38:10)であった。重合体A-2のMnは20,000、Mwは39,000、Mw/Mnは2.0であった。
【0106】
(製造例3)
20mLの耐圧ガラス瓶に、C6FAの209mg、PEG9Aの4584mg、AIBNの47.9mg、およびトルエンの10.1mLを仕込み、密閉した後、70℃で16時間加熱した。この反応液を100mLのヘキサンに滴下して重合体を沈殿させた。得られた重合体を減圧乾燥し、重合体X-1を得た。
重合体X-1の共重合組成を測定した結果、C6FA単位とPEG9A単位とのモル比は6:94(質量比は5:95)であった。重合体X-1のMnは18,000、Mwは28,000、Mw/Mnは1.6であった。
【0107】
(製造例4)
20mLの耐圧ガラス瓶に、C6FAの3345mg、PEG9Aの965mg、AIBNの43.1mg、およびトルエンの7.1mLを仕込み、密閉した後、70℃で16時間加熱した。この反応液を100mLのヘキサンに滴下して重合体を沈殿させた。得られた重合体を減圧乾燥し、重合体X-2を得た。
重合体X-2の共重合組成を測定した結果、C6FA単位とPEG9A単位とのモル比は80:20(質量比は78:22)であった。重合体X-2のMnは12,000、Mwは22,000、Mw/Mnは1.8であった。
【0108】
[例1]
重合体A-1の100mgをエタノール20gに溶解させ、ミックスローターで30分間撹拌し、重合体A-1の濃度が0.5質量%である塗布液を得た。
30mm径の円盤状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基板(表面張力:18mN/m)を、純水とIPAのそれぞれで3分間ずつ超音波洗浄した。洗浄後のPTFE基板に1mLの塗布液を滴下して1000rpmで30秒間スピンコートし、40℃のオーブンで3時間乾燥させ、PTFE基板上に重合体A-1からなる膜を有する膜付基板を得た。
【0109】
[例2、21、22]
表1に示す重合体を用いる以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0110】
[例3、4、23、24]
PTFE基板の代わりにポリジメチルシロキサン(PDMS)基板(表面張力:23mN/m)を用い、表1に示す重合体を用いる以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0111】
[例5、6]
PTFE基板の代わりにポリスチレン(PS)基板(表面張力:31mN/m)を用い、表1に示す重合体を用いる以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0112】
[例7、8、25、26]
35mm径のソーダライムガラス基板(表面張力:87mN/m)を、純水とIPAのそれぞれで3分間ずつ超音波洗浄した。純水とIPAの質量比1:9の混合溶媒に、表面処理剤としてKBM-7103(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製)を1質量%となるように溶解させ、さらに硝酸を0.1質量%となるよう滴下して16時間撹拌し、表面処理液を作製した。洗浄後のソーダライムガラス基板上に前記表面処理液1mLを滴下し、1000rpmで30秒間スピンコートし、150℃のホットプレートで1時間熱処理した。表面処理後のソーダライムガラス基板の表面張力は11mN/mであった。
表1に示す重合体を用い、ソーダライムガラス基板の表面処理した面に膜を形成した以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0113】
[例9、10]
表面処理に用いる表面処理剤をヘキサメチルジシロキサン(HMDS)に変更した以外は、例7と同様にして表面処理したソーダライムガラス基板を得た。表面処理後のソーダライムガラス基板の表面張力は22mN/mであった。表1に示す重合体を用い、ソーダライムガラス基板の表面処理した面に膜を形成した以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0114】
[例11、12]
PTFE基板の代わりにソーダライムガラス基板(表面張力:87mN/m)を用い、表1に示す重合体を用いる以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0115】
[例13、14]
例1と同様にして洗浄したPTFE基板をテトラエッチA(表面処理剤、潤工社製)に10秒間浸漬した後、IPA、水の順に浸漬し、表面張力が68mN/mのPTFE基板を得た。表1に示す重合体を用い、PTFE基板の表面処理した面に膜を形成した以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0116】
[例15、16]
例1と同様にして洗浄したPTFE基板の表面をコロナ処理(放電電圧:23.4kV、放電電力:100W、走査速度:10mm/秒)し、表面張力が42mN/mの表面を有するPTFE基板を得た。表1に示す重合体を用い、PTFE基板の表面処理した面に膜を形成した以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0117】
[例17、18]
PTFE基板の代わりにPDMS基板を用いる以外は例15、16と同様にして表面張力が67mN/mの表面を有するPDMS基板を得た。表1に示す重合体を用い、PDMS基板の表面処理した面に膜を形成した以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0118】
[例19、20]
PTFE基板の代わりにPS基板を用いる以外は例15、16と同様にして表面張力が78mN/mの表面を有するPS基板を得た。表1に示す重合体を用い、PS基板の表面処理した面に膜を形成した以外は、例1と同様にして膜付基板を得た。
【0119】
[評価]
各例で得た膜付基板を以下の方法で評価した。
(機械特性)
テンシロン万能材料試験機を用いて各例の膜付基板のヤング率を測定した。基板に対して表面処理していないこと以外の条件が同じ膜付基板のヤング率を基準にして、表面処理によるヤング率の変化率を算出し、変化率が1%未満のものを「〇」、1%以上5%未満のものを「△」、5%以上のものを「×」とした。また、表面処理してない基板を用いた例の膜付基板の機械特性は「〇」と評価した。
【0120】
(塗布性)
膜付基板を30分間水に浸漬した後、膜表面の中心部、左端、右端の3点において、水中で気泡の接触角(°)を測定し、それらを平均して気泡接触角(°)とした。1点の測定につき、2μLの気泡を使用した。評価基準は以下のとおりとした。
○:気泡接触角が100°以上。
×:気泡接触角が100°未満。
【0121】
(非吸着性)
膜の生体成分の非吸着性の評価として、以下のタンパク質吸着試験によりタンパク質の非吸着性を評価した。
<タンパク質非吸着性試験>
(1)発色液、およびタンパク質溶液の準備
発色液は、ペルオキシダーゼ発色液(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)、KPL社製)50mLとTMB Peroxidase Substrate(KPL社製)50mLとを混合したものを使用した。
タンパク質溶液として、タンパク質(POD-goat anti mouse IgG、Biorad社製)を、リン酸緩衝溶液(D-PBS、Sigma社製)で16,000倍に希釈したものを使用した。
(2)タンパク質吸着
1.8cmφの膜付基板の3枚を24ウェルプレートの3ウェルにそれぞれ入れ、膜表面にそれぞれタンパク質溶液を2.0mLずつ滴下し、室温で1時間放置した。
ブランクとして、タンパク質溶液を96ウェルマイクロプレートにおける3ウェルに、2μL分注(1ウェル毎に2μLを使用)した。
(3)膜洗浄
次いで、膜付基板の膜表面を、界面活性剤(Tween20、和光純薬社製)を0.05質量%含ませたリン酸緩衝溶液(D-PBS、Sigma社製)で4回洗浄した。
(4)発色液分注
次いで、洗浄を終えた膜付基板を別の24ウェルプレートに移し替え、発色液の2mLを滴下し、7分間発色反応させ、2N硫酸の1mLを加えて発色反応を停止させた。
ブランクは、96ウェルマイクロプレートに、発色液の100μLを分注し(1ウェル毎に100μLを使用)、7分間発色反応を行い、2N硫酸の50μLを加えることで(1ウェル毎に50μLを使用)発色反応を停止させた。
(5)吸光度測定準備
次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルから150μLの液を取り、96ウェ
ルマイクロプレートに移した。
(6)吸光度測定およびタンパク質吸着率Q
吸光度は、MTP-810Lab(コロナ電気社製)により、450nmの吸光度を測定した。ブランクの吸光度(N=3)の平均値をA0とした。膜付基板の膜表面から96ウェルマイクロプレートに移動させた液の吸光度をA1とした。
タンパク質吸着率Q1を下式から求め、それらの平均値をタンパク質吸着率Qとした。
Q1=A1/{A0×(100/ブランクのタンパク質溶液の滴下量)}×100=A1/{A0×(100/2)}×100 [%]
非吸着性の評価は、タンパク質吸着率Qが0.1%未満のものを「〇」、0.1%以上のものを「×」とした。
【0122】
各例の製造条件および評価結果を表1および表2に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
表1および表2に示すように、表面張力が特定範囲の基材と含フッ素重合体Aとを組み合わせた例1~10では、膜付基材の機械特性に優れ、膜の生体成分の非吸着性にも優れていた。また、塗布液の塗布性も優れていた。
一方、基材表面の表面張力が大きすぎる例11~20、および含フッ素重合体A以外の含フッ素重合体を用いた例22、24、26では、例1~10に比べて生体成分の非吸着性が劣っていた。含フッ素重合体X-1を含む塗布液を用いた例21、23、25では、塗布液の塗布性が劣っており、膜を形成できなかった。