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特開2022-34094球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034094
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/193 20060101AFI20220224BHJP
   A01N 25/28 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C01B33/193
A01N25/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019118930
(22)【出願日】2019-06-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/047619
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390005728
【氏名又は名称】AGCエスアイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 広幸
(72)【発明者】
【氏名】金 賢枝
(72)【発明者】
【氏名】松原 俊哉
【テーマコード(参考)】
4G072
4H011
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB07
4G072BB16
4G072DD03
4G072DD04
4G072DD05
4G072DD06
4G072EE01
4G072GG02
4G072HH21
4G072JJ14
4G072JJ22
4G072JJ47
4G072KK01
4G072KK03
4G072KK17
4G072LL02
4G072MM22
4G072MM23
4G072MM31
4G072MM33
4G072MM36
4G072SS02
4G072SS07
4G072SS10
4G072SS14
4G072TT01
4G072UU30
4H011BA04
4H011BC18
4H011DA05
4H011DF02
(57)【要約】
【課題】封入物の徐放性に優れる、球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液の提供。
【解決手段】シェル層を有する球状中空シリカ粒子の群を含み、シェル層は、外部空間と内部空間とを連通する1の開孔を有し、走査型電子顕微鏡で1視野あたり、最大球状シリカ粒子の直径の1/10以上の直径を有する球状シリカ粒子の粒子径を100個以上測定した際に、粒子径が10nm~10μmであり、かつ、表面に直径が1nm以上かつ球状シリカ粒子の粒子径の1/3以下の1の開孔を有する球状中空シリカ粒子の数が、測定した球状シリカ粒子の総数の5%以上である、球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液、内包剤、分散液及び水分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル層を有する球状中空シリカ粒子の群を含み、
前記シェル層は、外部空間と内部空間とを連通する1の開孔を有し、
走査型電子顕微鏡で1視野あたり、最大球状シリカ粒子の直径の1/10以上の直径を有する球状シリカ粒子の粒子径を100個以上測定した際に、粒子径が10nm~10μmであり、かつ、表面に直径が1nm以上かつ球状シリカ粒子の粒子径の1/3以下の1の開孔を有する球状中空シリカ粒子の数が、測定した球状シリカ粒子の総数の5%以上である、
球状中空シリカ粒子組成物。
【請求項2】
前記球状中空シリカ粒子が稠密なシェル層を有する、請求項1に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
【請求項3】
前記内部空間に液体を内包する、請求項1又は2に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
【請求項4】
前記液体が疎水性である、請求項3に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
【請求項5】
前記液体が香料、農薬及び肥料からなる群から選択されるいずれか1種である、請求項3又は4に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の球状中空シリカ粒子組成物からなる内包剤。
【請求項7】
請求項6に記載の内包剤が分散媒に分散した分散液。
【請求項8】
請求項6に記載の内包剤が水に分散した水分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬、農薬、化粧品、洗浄剤又は柔軟剤の用途において、多孔質粒子又は多孔質中空粒子を薬剤又は香料等の機能性化合物の徐放担体として利用することが知られている。
【0003】
特許文献1には、ケイ酸エステル組成物を比表面積が1~1000m/gかつ平均細孔径が0.4~100nmであるシリカの多孔質粒子に担持した賦香剤が開示されている。
【0004】
特許文献2には、シリカ層からなる外殻を有し、平均粒子径が10nm以上1000nm以下であり、前記外殻に複数の貫通穴を有する穴あき中空シリカ粒子が開示され、さらに、中空シリカ粒子の内部に内包された物質の放出制御を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-116334号公報
【特許文献2】特開2012-051770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された賦香剤は、香料であるケイ酸エステル組成物をシリカの多孔質粒子に含浸させているため、長期間に亘る徐放性を維持できなかった。
特許文献2に記載された中空シリカ粒子では、内包された物質の単位時間あたりの放出量と放出持続時間との両立が困難であり、徐放性に改良の余地があった。
【0007】
すなわち、多孔質粒子又は多孔質中空粒子に液体状の香料等を含浸させても、孔が開放なので、香料等は含浸直後から揮散が始まり、長期に保存できなかった。
【0008】
そこで、本発明は、封入物の徐放性に優れる、球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の構成によって解決される。
[1] シェル層を有する球状中空シリカ粒子の群を含み、
前記シェル層は、外部空間と内部空間とを連通する1の開孔を有し、
走査型電子顕微鏡で1視野あたり、最大球状シリカ粒子の直径の1/10以上の直径を有する球状シリカ粒子の粒子径を100個以上測定した際に、粒子径が10nm~10μmであり、かつ、表面に直径が1nm以上かつ球状シリカ粒子の粒子径の1/3以下の1の開孔を有する球状中空シリカ粒子の数が、測定した球状シリカ粒子の総数の5%以上である、
球状中空シリカ粒子組成物。
[2] 前記球状中空シリカ粒子が稠密なシェル層を有する、[1]に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
[3] 前記内部空間に液体を内包する、[1]又は[2]に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
[4] 前記液体が疎水性である、[3]に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
[5] 前記液体が香料、農薬及び肥料からなる群から選択されるいずれか1種である、[3]又は[4]に記載の球状中空シリカ粒子組成物。
[6] [3]~[5]のいずれか1つに記載の球状中空シリカ粒子組成物からなる内包剤。
[7] [6]に記載の内包剤が分散媒に分散した分散液。
[8] [6]に記載の内包剤が水に分散した水分散液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、封入物の徐放性に優れる、球状中空シリカ粒子組成物、内包剤、分散液及び水分散液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明は後述する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変更を加えることが可能である。
【0012】
「~」を用いて表現される数値範囲は「~」の両側の数値を含むものとする。
「最大球状シリカ粒子」は、形状が球状であるシリカ粒子のうち、直径が最大であるものをいう。
【0013】
[球状中空シリカ粒子組成物]
本発明の球状中空シリカ粒子組成物は、以下の特徴を有する。
シェル層を有する球状中空シリカ粒子の群を含む。
前記シェル層は、外部空間と内部空間とを連通する1の開孔を有する。
走査型電子顕微鏡(SEM)で1視野あたり、最大球状シリカ粒子の直径の1/10以上の直径を有する球状シリカ粒子の粒子径を100個以上測定した際に、粒子径が10nm~10μmであり、かつ、表面に直径が1nm以上かつ球状シリカ粒子の粒子径の1/3以下の1の開孔を有する球状中空シリカ粒子の数が、測定した球状シリカ粒子の総数の5%以上である。
【0014】
<球状中空シリカ粒子>
球状中空シリカ粒子がシェル層に囲まれた内部空間を有することは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって確認できる。また、TEM観察によって確認できる、内部に空隙を持つ球状の粒子を「一次粒子」と定義する。焼成及び乾燥の工程によって一次粒子同士が一部結合するため、得られた中空シリカは一次粒子が凝集した二次粒子の集合体となっていることが多い。
球状中空シリカ粒子の一次粒子径は、TEMによって球状中空シリカ粒子を観察し、粒子径を測定する。具体的には、極端に粒子径が大きい又は小さい粒子が存在せず、観察範囲における一次粒子径の分布が、得られた球状中空シリカ粒子全体の一次粒子径の分布と同程度と思われる部分を拡大観察し、個々の一次粒子の大きさを測定し、それらを集計して得られた一次粒子の大きさの分布を、全体の一次粒子の大きさの分布と推定する。
一次粒子の大きさの平均値は、10nm~10μmが好ましく、50nm~2μmがより好ましく、100nm~1μmがさらに好ましい。
一次粒子径の大きさの平均値がこの範囲内にある球状中空シリカ粒子は、シェル層の厚みを確保しながら内部空間の容積も確保しやすい。シェル層の厚みを確保でき、粒子強度が充分に高いので、使用中及び保管中に球状中空シリカ粒子が破壊されるリスクをより小さくできる。内部空間の容積を確保できるので、比較的多量の薬剤又は香料(以下「薬剤等」という)を内部空間に導入しやすい。また、一次粒子径がこの範囲にある球状中空シリカ粒子は、後述する製造方法によって製造しやすい。
【0015】
本発明の球状中空シリカ粒子組成物をSEMで観察し、1視野あたり、最大球状シリカ粒子の直径の1/10以上の直径を有する球状シリカ粒子の粒子径を100個以上測定した際に、粒子径が10nm~10μmであり、かつ、表面に直径が1nm以上かつ球状シリカ粒子の粒子径の1/3以下の1の孔を有する球状中空シリカ粒子の数が、測定した球状シリカ粒子の総数の5%以上であり、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。
最大球状シリカ粒子の直径は、0.1~50μmが好ましく、0.5~25μmがより好ましい。
シェル層の開孔は1つだけである。そしてSEMで観察する球状中空シリカ粒子の向きはランダムなので、すべての球状シリカ粒子が開孔を有する球状中空シリカ粒子であっても、1視野あたりで観察される開孔を有する球状中空シリカ粒子の数は確率的に50%以下である。よって、すべての球状中空シリカ粒子が、一次粒子径が10nm~10μmであり、かつ、表面に直径が1nm以上かつ球状中空シリカ粒子の一次粒子径の1/3以下の1つの孔を有する球状中空シリカ粒子であったとしても、この条件を満たして観察される球状中空シリカ粒子の数は確率的に球状シリカ粒子の総数の50%以下である。
【0016】
シェル層が有する開孔の直径は、内部空間に封入した薬剤等の徐放性に影響する因子である。直径が大きいほど、単位時間あたりの放出量が多くなり、直径が小さいほど、放出持続時間が長くなる傾向がある。
【0017】
本発明の球状中空シリカ粒子組成物が含む球状中空シリカ粒子は、稠密なシェル層を有することが好ましい。ここで、シェル層が「稠密」とは、シェル層が水密性を有し、水を透過しないことをいう。シェル層が「稠密」であることは、球状中空シリカ粒子を気圧100kPa下で水に分散した時に、球状中空シリカ粒子が沈まないことによって確認できる。シェル層が稠密でなければ、球状中空シリカ粒子の内部空間に水が浸入して、水に沈むからである。すなわち球状中空シリカ粒子は、気圧100kPa下で水に分散した時に沈まず、気圧5kPa下で水に分散し、100kPaに戻した時に水に沈む。
【0018】
球状中空シリカ粒子のシェル層の厚みは、球状中空シリカ粒子の一次粒子径を1として、0.01~0.3が好ましく、0.02~0.2がより好ましく、0.03~0.1がさらに好ましい。
シェル層の厚みがこの範囲内であると、球状中空シリカ粒子の強度を充分に確保でき、かつ、内部空間の容積を充分に確保できる。
ここで、シェル層の厚みは、TEMによって球状中空シリカ粒子を観察し、個々の球状中空シリカ粒子のシェル層の厚さを測定して求める。
【0019】
球状中空シリカ粒子のBET比表面積は、300m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましく、150m/g以下がさらに好ましい。
BET(Brunauer,Emmett,Teller)比表面積がこの範囲内であると、シェル層に必要な稠密性を付与することができる。
ここで、BET比表面積は、自動比表面積/細孔分布測定装置(トライスターII3020、島津製作所社製)を用い、前処理として230℃で50mTorr(6.7Pa)となるまで乾燥させた後、液体窒素を用いた多点法で測定して求める。
【0020】
本発明の球状中空シリカ粒子組成物は、球状中空シリカ粒子の内部空間に液体を内包可能である。
液体は、親水性液体及び疎水性液体のいずれも内包し得るが、疎水性液体が好ましい。
球状中空シリカ粒子が内包する液体が疎水性液体の場合、球状中空シリカ粒子組成物が含む球状中空シリカ粒子は、水に分散した場合であっても、内部空間の薬剤等が水で置換されることがない。
疎水性液体は、水に対する溶解度が、1g/100g水以下である液体であり、0.1g/100g水よりも小さい液体が好ましい。
疎水性液体の例は、精油などの液体香料、有機系農薬などである。
前記香料は、例えばシネオール、リモネンなどである。
前記農薬は、例えばクロルピクリン、フェニトロチオンなどである。
【0021】
球状中空シリカ粒子の内部空間に液体を内包する方法は、例えば、球状中空シリカ粒子を減圧下で(必要に応じて加熱して)液体に浸漬して、常圧に戻して余剰の液体を除き、内部空間に液体を導入する方法を採用できる。これを水中に分散させると、シェル層の1の開孔から水の表面張力により薬剤等が出てくることが妨げられ、球状中空シリカ粒子に含浸させた薬剤等が水に置換されて球状中空シリカ粒子より流出し油層として分離することなく、内部空間に薬剤等を保持したまま水分散液とすることができる。
薬剤等は油性(疎水性)であることが多く、これらを内包させた球状中空シリカ粒子を含む水ベースの分散体(水分散液)を調製できることにより、薬剤等が孔に水で封入され、長期の保存が可能になる。必要な場所に噴霧、塗布して、水が揮散した後に、球状中空シリカ粒子に内包させた薬剤等が揮散し、所期の効果を発揮できる。
【0022】
<球状中空シリカ粒子の製造方法>
本発明の球状中空シリカ粒子組成物に含まれる球状中空シリカ粒子の製造方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションのpHを3.0以下として、水中油型エマルションに第1のシリカ原料を生成するシリカ質量が界面活性剤に対する質量割合で0.55以下になるように添加し、第1のシリカ原料を添加した液体のpHを5~7で保持し、アルカリ金属イオン存在下、第1のシリカ原料が添加されたエマルションにそのpHが8以上で第2のシリカ原料を添加し、球状中空シリカ粒子前駆体分散液を得て、球状中空シリカ粒子前駆体分散液から球状中空シリカ粒子前駆体を得、次いで球状中空シリカ粒子前駆体から球状中空シリカ粒子を得る。
シリカ原料に制限はなく、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩を用いても、上述の球状中空シリカ粒子を製造できる。
【0023】
この製造方法では、水相、油相及び界面活性剤を含む水中油型エマルションを用いる。この水中油型エマルションは、水中に油相が分散したエマルションであり、このエマルションにシリカ原料が添加されると油滴にシリカ原料が付着し、オイルコア-シリカシェル粒子を形成できる。以下、水中油型エマルションを単にエマルションとも記す。なお、第1のシリカ原料が添加されて生成し、かつ、第2のシリカ原料が添加される前のオイルコア-シリカシェル粒子が分散した分散液、及び第2のシリカ原料が添加された後のオイルコア-シリカシェル粒子が分散した分散液も、エマルションと記すことがある。後者の第2のシリカ原料が添加された後のオイルコア-シリカシェル粒子が分散した分散液は球状中空シリカ粒子前駆体分散液と同等のものであってもよい。
【0024】
エマルションの水相は、主として水を溶媒として含む。水相には、水溶性の有機液体、水溶性樹脂等の添加剤がさらに添加されてもよい。水相における水の割合は50~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0025】
エマルションの油相は、水相成分と相溶しない非水溶性の有機液体を含むことが好ましい。この有機液体がエマルション中で液滴となり、球状中空シリカ粒子前駆体のオイル-コア部分を形成する。
【0026】
前記有機液体の例は、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、イソノナン、n-ペンタン、イソペンタン、n-デカン、イソデカン、n-ドデカン、イソドデカン及びペンタデカン等の脂肪族炭化水素及びこれらの混合物であるパラフィン系基油、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環式炭化水素及びこれらの混合物であるナフテン系基油、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン及びスチレン等の芳香族炭化水素、プロピルエーテル及びイソプロピルエーテル等のエーテル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-アミル、酢酸イソアミル、乳酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル及び酪酸ブチル等のカルボン酸エステル、パーム油、ダイズ油及びナタネ油等の植物油、並びにハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン及びパーフルオロポリエーテル等のフッ素系溶剤である。
【0027】
前記有機液体として、シェル層形成反応温度で疎水性液体となるポリオキシアルキレングリコールを用いることもできる。ポリオキシアルキレングリコールの例は、ポリプロピレングリコール(分子量1000以上)、オキシエチレン単位の割合が20質量%未満で、曇点(1質量%水溶液)が40℃以下、好ましくは20℃以下、のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体であり、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン型のブロック共重合体が好ましく用いられる。
前記有機液体は1種を単独で使用してもよいし、単一相で油相を形成する範囲で2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
前記有機液体としては、炭素数8~16の炭化水素が好ましく、炭素数9~12の炭化水素がより好ましい。有機液体は、操作性、火気への安全性、球状中空シリカ粒子前駆体と有機液体との分離性、球状中空シリカ粒子の形状特性、水への有機液体の溶解性などを総合的に考慮して選定される。炭素数が8~16の炭化水素は、その化学的安定性が良好であれば、直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素であってよく、炭素数の異なる炭化水素を混合して用いてもよい。炭化水素としては、飽和炭化水素が好ましく、直鎖状飽和炭化水素がより好ましい。
【0029】
有機液体の引火点は、20~90℃が好ましく、30~80℃がより好ましい。引火点が20~90℃の有機液体を用いると、防火上、作業環境上の特別な対策が不要であり、揮発性が適度に大きいことから、得られる球状中空シリカ粒子に付着する有機液体の量が適度なものとなる。
【0030】
エマルションは、乳化安定性を高めるために、界面活性剤を含む。界面活性剤は、水溶性又は水分散性が好ましく、水相へ添加して用いることが好ましい。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0031】
非イオン性界面活性剤の例は、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル及びポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート及びポリオキシエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪族エステル系界面活性剤、ステアリン酸モノグリセライド及びオレイン酸モノグリセライド等のグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤、並びにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系界面活性剤である。
前記非イオン性界面活性剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
これらの非イオン性界面活性剤のなかでも、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体系界面活性剤が好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、ポリオキシエチレンブロック(EO)とポリオキシプロピレンブロック(PO)とが結合したブロック共重合体である。ブロック共重合体としては、EO-PO-EOブロックコポリマー、EO-POブロックコポリマー等が挙げられ、EO-PO-EOブロックコポリマーが好ましい。EO-PO-EOブロックコポリマーのオキシエチレン単位の割合は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体の質量平均分子量は、3,000~27,000が好ましく、6,000~19,000がより好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体全体に対して、ポリオキシエチレンブロックの合計量は40~90質量%が好ましく、ポリオキシプロピレンブロックの合計量は10~60質量%が好ましい。
【0033】
界面活性剤の使用量は、界面活性剤の種類、界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を表す指標であるHLB(Hydrophile-lipophile balance)、目的とする球状中空シリカ粒子の粒子径等の条件により異なるが、水相中の含有量が500~20,000質量ppmが好ましく、1,000~10,000質量ppmがより好ましい。500質量ppm以上で、エマルションをより安定化できる。また、20,000質量ppm以下で、製品である球状中空シリカ粒子に残留する界面活性剤の量をより少なくできる。
【0034】
水相と油相とは、質量比で、200:1~5:1で配合することが好ましく、100:1~9:1で配合することがより好ましい。
【0035】
水中油型エマルションの作製方法を以下に説明するが、これに限定されない。
水中油型エマルションを作製するには、事前に水相及び油相をそれぞれ調製しておき、水相に油相を添加して、充分に混合又は撹拌する方法を使用できる。また、物理的に強いせん断力を与える超音波乳化、撹拌式乳化又は高圧乳化等の方法も使用できる。さらに、微細孔を持つ膜を通して微細にした油相を水相中に分散させる膜乳化法、界面活性剤を油相に溶解させた後に水相を加えて乳化を行う転相乳化法、又は界面活性剤が曇点付近の温度を境に水溶性から油溶性に変化することを利用した転相温度乳化法等の方法も使用できる。これらの乳化方法は、目的とする粒子径及び粒度分布等により、適宜選択できる。
得られる球状中空シリカ粒子を小粒子径化し、粒度分布を狭めるために、水相中に油相が充分に分散し乳化されることが好ましい。例えば、混合液は、高圧ホモジナイザーを用いて、10MPa以上の圧力で乳化することが好ましく、40MPa以上の圧力で乳化することがより好ましい。
【0036】
本製造方法では、水中油型エマルションに、第1のシリカ原料を添加する。
第1のシリカ原料としては、例えば、水溶性シリカが溶解した水溶液、固体シリカが分散した水性分散液及びこれらの混合物、並びにアルカリ金属ケイ酸塩、活性ケイ酸及びケイ素アルコキシドからなる群から選ばれる1種以上又はこれらの水溶液若しくは水分散液が挙げられる。これらのうちアルカリ金属ケイ酸塩、活性ケイ酸及びケイ素アルコキシドからなる群から選ばれる1種以上又はこれらの水溶液若しくは水分散液が、入手容易性が高い点で好ましい。
固体シリカとしては、例えば、有機ケイ素化合物を加水分解して得られたシリカゾル、市販のシリカゾルが挙げられる。
アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等が挙げられ、中でも入手の容易さ、経済的理由によりナトリウムが好ましい。すなわちアルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸ソーダが好ましい。ケイ酸ソーダは、NaO・nSiO・mHOで表される組成を有する。ナトリウムとケイ酸の割合は、NaO/SiOのモル比nで1.0~4.0が好ましく、さらには2.0~3.5が好ましい。
【0037】
活性ケイ酸はアルカリ金属ケイ酸塩を陽イオン交換処理によりアルカリ金属を水素に置換して得られるものであり、この活性ケイ酸の水溶液は弱酸性を示す。陽イオン交換には、水素型陽イオン交換樹脂を用いることができる。
アルカリ金属ケイ酸塩及び活性ケイ酸は、水に溶解又は分散させてから、エマルションに添加することが好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩及び活性ケイ酸水溶液の濃度は、SiO濃度として3~30質量%が好ましく、さらには5~25質量%が好ましい。
【0038】
ケイ素アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルキルシラン類を好ましく用いることができる。
また、シリカ原料とともに、他の金属酸化物等を混合することで、複合粒子を得ることも可能である。他の金属酸化物としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化銅、酸化鉄、酸化錫等が挙げられる。
【0039】
第1のシリカ原料としては、上記したシリカ原料を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なかでも、第1のシリカ原料として、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液、特にケイ酸ソーダ水溶液を好ましく用いることができる。
【0040】
本製造方法で第1のシリカ原料の水中油型エマルションへの添加は、水中油型エマルションのpHが3.0以下で行う。水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションに酸を添加することでpHが3.0以下とすることが好ましい。
第1のシリカ原料の添加の一例は、エマルションに酸を添加し、次いでケイ酸ソーダ水溶液を添加して行う。
中性のエマルションを一旦酸性にしてから、アルカリ成分であるケイ酸ソーダ水溶液を添加するため、第1のシリカ原料の添加においてエマルション全体を酸性に保持できる。
第1のシリカ原料の添加では、エマルションに酸を添加した後のエマルションのpHを2以下とし、次いでケイ酸ソーダ水溶液を添加した後にpHを3.0以下とすることが好ましい。
エマルションへの第1のシリカ原料の添加の際のpHは、3.0以下が好ましく、2.4以下がより好ましい。これによって、エマルション中の油滴に、界面活性剤を介して、シリカ原料による1層目の皮膜が形成される際に、皮膜の厚さをより均一にし、得られる中空シリカのシリカシェル層をより稠密にすることができる。
エマルションへの第1のシリカ原料の添加の際のpHは、1以上であってよい。
【0041】
前記酸の例は、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、過塩素酸、臭化水素酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸である。
前記酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
第1のシリカ原料の添加では、第1のシリカ原料の添加量は、エマルション中に含まれる油相100質量部に対して、第1のシリカ原料中のSiOが1~50質量部が好ましく、3~30質量部がより好ましい。
第1のシリカ原料の添加では、第1のシリカ原料を添加後のエマルションのpHを3.0以下の条件下で、1分以上保持することが好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。
【0043】
次に、第1のシリカ原料を添加したエマルションのpHを5~7で保持することが好ましい。これによって、第1のシリカ原料から生成した微粒子が油滴の表面に沿って結合し、一つ孔の空いた中空粒子を形成する。
エマルションのpHを5~7で保持する方法として、第1のシリカ原料を添加したエマルションに塩基を添加する方法を使用できる。
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン類等が挙げられる。
又は陰イオン交換処理によりハロゲンイオン等の陰イオンを水酸化物イオンに交換する方法を用いてもよい。
【0044】
塩基を添加する際は、シリカ原料を添加したエマルションを撹拌しながら塩基を徐々に添加して、エマルションのpHを徐々に上昇させることが好ましい。撹拌が弱かったり、多量の塩基を一度に投入したりすると、エマルションのpHが不均一になり、1層目の被膜の厚みが不均一になることがある。
エマルションのpHを5~7とした状態で、好ましくは撹拌しながら、エマルションを保持することが好ましい。この保持時間は、10分以上であってよく、1時間以上が好ましく、4時間以上であってもよい。
【0045】
次に、アルカリ金属イオン存在下、エマルションのpHが8以上で第2のシリカ原料を添加する。これによって、球状中空シリカ粒子前駆体分散液が得られる。ここで、球状中空シリカ粒子前駆体は、オイルコア-シリカシェル粒子となっている。
【0046】
第2のシリカ原料としては、上記した第1のシリカ原料と同様のものを単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なかでも、第2のシリカ原料の添加では、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液の少なくとも一方を好ましく用いることができる。
エマルションのpHを8以上で第2のシリカ原料を添加する際には、第2のシリカ原料と同時にアルカリ金属水酸化物を添加する方法を用いてもよい。また、第2のシリカ原料にアルカリ金属ケイ酸塩としてケイ酸ソーダを用いる方法でもよい。この場合、第1のシリカ原料の添加後にpHを5以上とした弱酸性のエマルションに、アルカリ成分であるケイ酸ソーダ成分を添加するため、第2のシリカ原料を添加しながらエマルションのpHを8以上のアルカリ性に保持できる。また、アルカリ金属イオンがエマルション中に存在するようになる。
【0047】
エマルションへの第2のシリカ原料の添加の際のエマルションのpHは、8以上が好ましく、9以上であってもよい。これによって、第1のシリカ原料による1層目の皮膜の上に、より稠密な2層目の皮膜を形成できる。
第1のシリカ原料の添加では、油滴への第1のシリカ原料の付着をより均一にするために、エマルションを一旦酸性とした後にpHを5~7にする方法を用いている。この方法によって得られる1層目のシリカ層は多孔質であり、稠密性が不充分なため強度が低くなってしまう。第2のシリカ原料の添加において、エマルションをアルカリ性とすることで、先に得られた1層目のシリカ層上に、高密度な2層目のシリカ層を形成できる。この2段階で形成したシリカ層から、稠密なシリカシェル層を形成できる。
エマルションへの第2のシリカ原料の添加の際のエマルションのpHは、特に限定されないが、13以下であってよく、11以下であってもよい。第2のシリカ原料にケイ酸ソーダ水溶液を用いる場合などで、pHが上がりすぎてしまう場合は、pHを調整するために酸を加えてもよい。ここで用いる酸には、第1のシリカ原料を添加する時と同じ酸を用いてもよい。
【0048】
第2のシリカ原料の添加はアルカリ金属イオンの存在下で行う。このアルカリ金属イオンは、第1のシリカ原料由来、第2のシリカ原料由来、pH調整のために加えた塩基由来であってよく、エマルションへの添加剤の添加等によっても配合が可能である。例えば、第1のシリカ原料及び第2のシリカ原料の少なくとも一方に、アルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合である。また、エマルションの添加剤に、アルカリ金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、脂肪酸塩等を用いる場合である。
【0049】
第2のシリカ原料の添加は、例えば、第1のシリカ原料の添加後のエマルションに、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液のうち一方を添加してもよく、両方を添加してもよい。両方を添加する場合は、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液を一括して添加してもよいし、順番に添加してもよい。
【0050】
例えば、第2のシリカ原料の添加は、pH調整をしながら、1層目のシリカ層上へのシリカ原料の付着を促進するために、ケイ酸ソーダ水溶液を添加する工程と、活性ケイ酸水溶液を添加する工程とを、1回以上繰り返すことができる。
【0051】
第2のシリカ原料は、1層目のシリカ層上へのシリカ原料の付着を促進するために、加熱されたエマルションに添加することが好ましい。加熱温度は、30~100℃が好ましく、50~80℃がより好ましい。加熱されたエマルションを用いた場合、第2のシリカ原料の添加後は、生成したエマルションを室温(23℃)まで徐冷することが好ましい。
【0052】
第2のシリカ原料の添加では、第2のシリカ原料の添加量は、油相100質量部に対して、第2のシリカ原料中のSiOが20~500質量部となるように調整されるのが好ましく、40~300質量部となるように調整されるのがより好ましい。
第2のシリカ原料の添加では、第2のシリカ原料を添加後にエマルションのpHが8以上の条件下で、10分以上保持することが好ましい。
【0053】
第1のシリカ原料の添加及び第2のシリカ原料の添加を通して、第1のシリカ原料及び第2のシリカ原料の添加量の合計量は、油相100質量部に対して、第1のシリカ原料中のSiOと第2のシリカ原料中のSiOの合計が30~500質量部となるように調整されるのが好ましく、50~300質量部となるように調整されるのがより好ましい。
【0054】
シリカ層は主としてシリカより構成されるが、屈折率調整など、必要に応じてTiやZrなどの他の金属成分を含有させても良い。他の金属成分を含有させる方法は特に限定されないが、例えばシリカ原料を添加する工程で金属ゾル液又は金属塩水溶液を同時に添加するなどの方法を用いることができる。
【0055】
以下、球状中空シリカ粒子前駆体分散液から球状中空シリカ粒子前駆体を得、次いで球状中空シリカ粒子前駆体から球状中空シリカ粒子を得る工程について説明する。
【0056】
球状中空シリカ粒子前駆体分散液から球状中空シリカ粒子前駆体を得る方法としては、例えば、分散液をろ過する方法、加熱して水相を除去する方法、又は沈降分離若しくは遠心分離により前駆体を分離する方法等を使用できる。
【0057】
具体例として、球状中空シリカ粒子前駆体分散液から球状中空シリカ粒子前駆体を得る方法の、0.1μm~5μm程度のフィルターを用いて分散液をろ過し、ろ別した球状中空シリカ粒子前駆体を乾燥する方法が挙げられる。
また、必要に応じて、得られた球状中空シリカ粒子前駆体を、水、酸、アルカリ水溶液又は有機溶媒等で洗浄してもよい。
【0058】
球状中空シリカ粒子前駆体からオイルコアを除去して球状中空シリカ粒子を得る方法としては、例えば、球状中空シリカ粒子前駆体を焼成しオイルを燃焼分解する方法、乾燥によりオイルを揮発させる方法、適切な添加剤を加えてオイルを分解させる方法、又は有機溶媒等を用いてオイルを抽出する方法等を使用できる。
球状中空シリカ粒子前駆体を加熱して球状中空シリカ粒子前駆体からオイルコアを除去し、球状中空シリカ粒子を得る方法では、加熱条件として、加熱温度は300~800℃が好ましく、400~600℃がより好ましく、加熱時間は1~8時間が好ましく、3~6時間がより好ましく、昇温速度は1~20℃/分が好ましく、2~10℃/分がより好ましい。
【0059】
また、球状中空シリカ粒子前駆体を加熱して球状中空シリカ粒子前駆体からオイルコアを除去して球状中空シリカ粒子を得た後、より高温で球状中空シリカ粒子を加熱して、シェル層をより稠密なものとしてもよい。この場合、球状中空シリカ粒子前駆体からオイルコアを除去するための加熱条件として、加熱温度は300℃以上600℃未満が好ましく、加熱時間は1~8時間が好ましく、3~6時間がより好ましく、昇温速度は1~20℃/分が好ましく、2~10℃/分がより好ましい。球状中空シリカ粒子をさらに加熱するための加熱条件として、加熱温度は700~900℃が好ましく、加熱時間は1~8時間が好ましく、3~6時間がより好ましく、昇温速度は1~20℃/分が好ましく、2~10℃/分がより好ましい。
【0060】
乾燥及び焼成の工程により、球状中空シリカ粒子は一次粒子が凝集した二次粒子を形成していることがある。凝集粒子を取り扱いやすい凝集径にするために解砕しても良い。解砕の方法としては、例えば、乳鉢を使う方法、乾式又は湿式のボールミルを使う方法、振とう式篩を使う方法、又はピンミル、カッターミル、ハンマーミル、ナイフミル若しくはローラーミル等の解砕機を使う方法を使用できる。
【0061】
球状中空シリカ粒子は、水中油型エマルションの油滴をコア粒子として形成されるため、形状が球状、好ましくは真球状、となる。
【0062】
球状中空シリカ粒子のシェル層には、アルカリ金属成分が含まれることがある。このアルカリ金属成分は、シリカ原料としてケイ素アルコキシドを用いる場合は、ほとんど観測されない。例えば、シリカ原料としてケイ酸ソーダ水溶液を用いた場合、得られる球状中空シリカ粒子のシェル層のNa成分の質量濃度は500質量ppm以上となり、より多い場合は1000質量ppm以上となる。一方、シリカ原料としてオルトケイ酸テトラエチルを用いて作られた一般的な球状中空シリカ粒子のシェル層のNa成分の質量濃度は100質量ppm以下である。
このNa成分の測定方法は、得られた球状中空シリカ粒子に過塩素酸とフッ酸を加えて強熱し主成分のケイ素を除去したのちに誘導結合プラズマ(ICP)発光分析で測定することができる。
また、シリカ原料としてアルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合は、シリカ原料としてケイ素アルコキシドを用いる場合に比べて、得られる球状中空シリカ粒子のシェル層に原料由来の炭素(C)成分は少なくなる。
【0063】
本発明の球状中空シリカ粒子組成物に含まれる球状中空シリカ粒子はシリカを含むシェル層を有する。シェル層には、外部空間と内部空間とを連通する1の開孔があるので、球状中空シリカ粒子を薬剤等の徐放剤として利用できる。すなわち、減圧下で内部空間に導入した液体又は溶液の薬剤等が、大気圧下では、シェル層の1の開孔から徐々に放出される。
このような球状中空シリカ粒子は、製造した球状中空シリカ粒子群から、例えば、以下の方法で選別できる。まず、100kPa気圧下で液状媒体に投入し、浮上したものを回収する。
その次に、回収された粒子群を5kPa減圧下で液状媒体に投入する。シェル層に1の開孔を有する球状中空シリカ粒子は、内部空間に液状媒体が入るため、液状媒体に沈む。
このため液状媒体に沈降した粒子を回収し乾燥させれば、目的とする球状中空シリカ粒子の割合が向上した粒子群が回収される。
【0064】
[内包剤]
【0065】
内部空間に液体を内包する球状中空シリカ粒子を含む本発明の球状中空シリカ粒子組成物は、内包剤として使用できる。
【0066】
[分散液及び水分散液]
【0067】
内包剤は、分散媒に分散して、分散液として使用できる。分散媒は、親水性分散媒及び疎水性分散媒のいずれも使用できる。
内部空間に内包する液体が疎水性液体であるときは、分散媒として親水性分散媒が好ましく、水がより好ましい。球状中空シリカ粒子の内部空間に封入された疎水性液体は、親水性分散媒によって、内部空間に閉じ込められ、分散液に漏出することがない。分散媒として水と使用する場合の分散液を、特に、水分散液という。例えば、香料を内包させて水分散液とした場合、水分散液の状態では香料は揮散せず、肌に塗り広げ、水が揮発してから香料が揮散して香り始める。一つ孔で揮散速度が抑制されるため、長時間香りが保たれる効果も期待できる。
【実施例0068】
以下では、実施例により、本発明をより具体的に説明する。本発明は後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変更が可能である。
以下の例1は実施例である。
【0069】
[例1]
純水480gにEO-PO-EOブロックコポリマー(Pluronic PE10500、BASF社製)を2.4g添加し、溶解するまで撹拌した。この水溶液にn-ドデカン16gを加え、ホモジナイザー(IKA社製)を使って、液全体が均一になるまで撹拌し、粗エマルションを作製した。
この粗エマルションに、高圧乳化機(LAB1000、エムエステー社製)を使い、圧力40MPaで3回乳化を行い、微細エマルションを作製した。
【0070】
得られた微細エマルション442gに2M塩酸9gを加え、pHを1.5に調整した。
次に、希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4質量%、NaO濃度3.6質量%)12.3gを加え良く撹拌し、pHを2.1とした状態で15分保持した。
この液を良く撹拌しながら1M水酸化ナトリウム水溶液4gをゆっくり滴下し、撹拌状態を1時間保持した後、pHが5.8のオイルコア-シリカシェル粒子分散液を得た。
【0071】
得られたオイルコア-シリカシェル粒子分散液400gを30℃に加熱し、撹拌しながら希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4質量%、NaO濃度3.6質量%)3gをゆっくり添加し、pHを9とした。
次に、希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4質量%、NaO濃度3.6質量%)127gを0.5M塩酸とともに徐々に添加し、pHを9に調整して、懸濁液を得た。
この懸濁液を30℃で2日間保持した後、ゆっくり室温まで冷却し、球状中空シリカ粒子前駆体分散液を得た。
【0072】
得られた球状中空シリカ粒子前駆体分散液770gを、0.45μmの親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターを用いて加圧ろ過(圧力0.28MPa)でろ過を行った。
ろ過後のケーキを、窒素雰囲気下で、60℃で1時間、400℃で4時間乾燥し(昇温時間5℃/分)、球状中空シリカ粒子前駆体を得た。
得られた球状中空シリカ粒子前駆体を550℃で4時間焼成し(昇温時間5℃/分)、球状中空シリカ粒子13.8gを得た。
さらに、得られた試料を800℃で5時間焼成した後、1.5gを採取して20mLの水を添加し、薄膜旋回型高速ミキサー(フィルミックス40-40型、PRIMIX社製)を用いて、周速40m/秒の条件で5分間、4回分散処理(通算20分)して分散液を調製した。
調製した分散液を試験管に移液し、水を加えて40gにした後、遠心分離機(Avanti JXN-30、BECKMAN COULTER社製)を用いて、設定回転数30000rpm、設定時間10分の条件で処理した。上澄みを分取し、同体積のエタノールを添加した後、公称目開き0.1μmのフィルターを用いて濾過した。エタノールで洗浄した後、減圧下で乾燥した。乾燥粉に減圧下(5kPa)で水を添加した後、遠心分離機を用いて同条件(30000rpm、10分)で処理した。沈降した部分を回収し、エタノールで洗浄した後、減圧下で乾燥した。
【0073】
得られた試料をTEMで観察したところ、球状中空シリカ粒子であることを確認でき、20個の球状中空シリカ粒子の一次粒子径を測定したところ、100~500nmの範囲内であった。
【0074】
得られた試料をエタノールに分散し、ケイ素(Si)板上に滴下し、乾燥してSEM像を観察した。
1視野あたり、最大球状シリカ粒子の直径が483nmであったので、粒子径が48~483nmの球状シリカ粒子の数を計測したところ112個であった。このうち表面に直径が1nm以上かつ球状シリカ粒子の粒子径の1/3以下の1の孔を有する球状シリカ粒子の数は24個であった。すなわち、視野内の球状シリカ粒子の総数の21%が所望の球状中空シリカ粒子であったことから、上記の操作で所望の球状中空シリカ粒子組成物を調製できることが分かった。
【0075】
得られた試料0.22gに減圧(5kPa)下で、1.0gのn-ドデカンを添加した。
熱質量測定装置(TG-DTA2000SA、BRUKER社製)を用いて、この試料とn-ドデカンの混合物を設定温度40℃(セル温度76℃)の条件で経時的な質量減少を測定した。質量減少速度が3段階に変化することが観察された。1回目の質量減少速度の変化は、過剰のn-ドデカン揮発による質量減少から球状中空シリカ粒子間のn-ドデカンの揮発による質量減少に変化したことによる変化であり、2回目の質量減少速度の変化は、球状中空シリカ粒子間のn-ドデカンの揮発による質量減少から球状中空シリカ粒子の内部空間のn-ドデカンの揮発による質量減少に変化したことによる変化であると推定された。5kPa減圧下で球状中空シリカ粒子の内部空間にn-ドデカンが浸入し、100kPa大気圧下でシェル層の開孔からn-ドデカンが徐放されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の球状中空シリカ粒子組成物は、内部空間に封入した液体の徐放性に優れるため、皮膚に適用して、香料等の内封物を持続的に放出させる化粧品用途、植物に適用して、殺菌剤、殺虫剤、除草剤等の内封物を持続的に放出させる農薬用途、液体肥料、肥料溶液等の内封物を持続的に放出させる肥料用途などの応用がある。