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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034627
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20220225BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20220225BHJP
【FI】
H01M12/06 G
H01M12/06 F
H01M2/16 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138396
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】蓑輪 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
(72)【発明者】
【氏名】荒井 創
(72)【発明者】
【氏名】池澤 篤憲
【テーマコード(参考)】
5H021
5H032
【Fターム(参考)】
5H021EE04
5H021EE25
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS12
5H032CC06
5H032CC11
5H032CC16
5H032EE08
5H032EE17
5H032HH02
(57)【要約】
【課題】酸素還元反応を促進させ、電池電圧およびレート特性が高い金属空気電池を提供する。
【解決手段】金属空気電池は、カーボンを含む正極101と、金属および金属化合物の少なくとも1つを含む負極102と、正極101と負極102との間に配置され、サレン系金属錯体を含む電解質103と、セパレータ104とを備え、サレン系金属錯体は、電解質103中を移動可能であり、セパレータ104で仕切られた正極側領域Aにおける電解質103中のサレン系金属錯体の濃度は、セパレータで仕切られた負極側領域Bにおける電解質103中のサレン系金属錯体の濃度よりも高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンを含む正極と、
金属および金属化合物の少なくとも1つを含む負極と、
前記正極と前記負極との間に配置され、サレン系金属錯体を含む電解質と、
セパレータと、を備え、
前記サレン系金属錯体は、前記電解質中を移動可能であり、
前記セパレータで仕切られた正極側領域における電解質中のサレン系金属錯体の濃度は、前記セパレータで仕切られた負極側領域における電解質中のサレン系金属錯体の濃度よりも高い
金属空気電池。
【請求項2】
前記セパレータに、陰イオン交換膜を用いる
請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項3】
前記サレン系金属錯体の中心金属は、Cr、Mn、FeおよびCoからなる群より選択される1つである
請求項1または2に記載の金属空気電池。
【請求項4】
前記サレン系金属錯体は、前記正極側領域の電解質に飽和濃度で溶解された
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用い、電解質を充填した電池である。金属空気電池は、外部から常に酸素が供給され、電池内に大量の金属負極を充填できるため、非常に高いエネルギー密度を有する。
【0003】
金属空気電池は、放電時に正極で酸素還元反応が起こるが、正極活物質である酸素の供給が十分になされている場合でも、正極の酸素還元反応の速度が電池反応の律速となる。この電池反応の律速が、電池の抵抗成分となり、電池電圧の低下および高レート(電流)特性の低下が課題となっている。
【0004】
酸素還元反応を促進させるために、正極に触媒材料を混合する方法がある(非特許文献)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】V. Neburchilov, H. Wang, J. J. Martin, W. Qu, J. Power Sources, 195 (2010) 1271.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸素還元反応は、気相(酸素)、液相(電解質)、固相(正極)の三相界面で進む。非特許文献1では固相(正極)に触媒材料を混合するが、混合される触媒材料は粉体であるため、三相界面上に存在する割合が低く、触媒材料の酸素還元活性を促進させる性能を発揮しきれない。このため、正極に触媒材料を混合する方法では、電池電圧およびレート特性の向上は限定的であるという課題がある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、金属空気電池の正極において酸素還元反応を促進させ、電池電圧およびレート特性が高い金属空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の金属空気電池は、カーボンを含む正極と、金属および金属化合物の少なくとも1つを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置され、サレン系金属錯体を含む電解質と、セパレータと、を備え、前記サレン系金属錯体は、前記電解質中を移動可能であり、前記セパレータで仕切られた正極側領域における電解質中のサレン系金属錯体の濃度は、前記セパレータで仕切られた負極側領域における電解質中のサレン系金属錯体の濃度よりも高い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属空気電池の正極において酸素還元反応を促進させ、電池電圧およびレート特性が高い金属空気電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態の金属空気電池の基本構成を示す図である。
図2図2は、サレン系金属錯体の構造式である。
図3図3は、実施例の金属空気電池セルの断面構成を示す図である。
図4図4は、実施例1および比較例1の放電曲線を示すグラフである。
図5図5は、実施例1および比較例1のレート特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
[金属空気電池の構成]
図1は、本発明の実施形態の金属空気電池の基本構成を示す図である。図示する金属空気電池は、正極101と、負極102と、電解質103と、セパレータ104と、を備える。
【0013】
正極101は、正極活物質として空気中の酸素を用いる空気極である。本実施形態の正極101はカーボンを含む。負極102は、負極活物質として金属及び金属化合物の少なくとも1つを含む。
【0014】
電解質103は、正極101と負極102の間に配置され、水酸化物イオン導電性を有する。すなわち、電解質103は、電池反応に必要な水酸化物イオンが正極101と負極102の間を泳動することができる物質である。本実施形態の電解質103は、酸素還元反応を促進させるサレン系金属錯体を含む。
【0015】
サレン系金属錯体は、電解質103の中を拡散又は泳動により移動することができる。サレン系金属錯体の中心金属は、Cr、Mn、FeおよびCoからなる群より選択される1つであることが望ましい。また、電解質103には、サレン系金属錯体が飽和濃度で溶解していることが望ましい。
【0016】
セパレータ104は、電解質103に配置され、正極101と負極102とを隔離する。セパレータ104には、公知の各種材料を使用することができる。セパレータ104は、電解質103に含まれるサレン系金属錯体の移動を抑制する機能を有することが望ましい。具体的には、本実施形態の金属空気電池は、セパレータ104で仕切られた正極側領域Aにおける電解質103中のサレン系金属錯体が、負極側領域Bの電解質103に移動しないように構成されていることが望ましい。これにより、セパレータ104で仕切られた正極側領域Aにおける電解質103中のサレン系金属錯体の濃度は、負極側領域Bにおける電解質103中のサレン系金属錯体の濃度よりも高い。
【0017】
この電池構造を実現するために、正極101と負極102とを隔離するセパレータ104として、電池反応に寄与するイオン等は透過するが、サレン系金属錯体の透過率が前記イオン等よりも低いという、選択的透過性を有する膜を用いることが好ましい。また、セパレータ104に、正極101で生成される水酸化物イオンのみを負極側へ透過する陰イオン交換膜を用いることがより好ましい。
【0018】
このように本実施形態の金属空気電池では、電解質103は、酸素還元反応を促進させるサレン系金属錯体を含み、セパレータ104は、サレン系金属錯体が負極側領域Bの電解質103に移動することを抑制する。これにより、本実施形態では、電解質103中に溶解しているサレン系金属錯体が、正極101に形成される三相界面上に豊富に存在するため、酸素還元反応が促進され、電池電圧が高くなり、大きな電流を取り出すことができる。これにより、本実施形態では、高い電池電圧および高いレート特性を有する金属空気電池を実現できる。
【0019】
以下、本実施形態の正極101、負極102、電解質103およびセパレータ104について具体的に説明する。
【0020】
[正極(空気極)]
金属空気電池の正極101は空気極とも呼ばれ、正極101では、正極活物質である酸素の電気化学的還元反応が進行する。
【0021】
本実施形態の正極101は、カーボンと、触媒と、バインダーとを含む。正極101は、例えば、触媒粉末と、カーボン粉末と、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダー粉末との混合物を、チタンメッシュ等の支持体の上に冷間プレスで圧着成形する作製工程によって形成してもよい。また、正極101は、自身の電極の強度を高めるために、冷間プレスだけでなく、ホットプレスにより形成してもよい。ホットプレスを行うことで、より安定性に優れた正極101を作製することができる。
【0022】
また、正極101は、上記混合物を有機溶剤等の溶媒中に分散し、スラリー状にして、金属メッシュ又はカーボンシート上に塗布した後乾燥させる作製工程によって形成してもよい。正極101は、これら以外の作製工程で形成してもよい。
【0023】
金属空気電池において、上記のような作製工程で形成された正極101を、図1に示すように配置する。つまり、正極101は、正極101の一方の面(片面)が大気(空気(O))に曝され、他方の面(片面)が電解質103と接するように配置される。これにより、正極101では、正極活物質である酸素の電気化学的還元反応が進行する。
【0024】
本実施形態では、電池反応(放電反応)を促進するために、正極101に触媒が添加される。触媒としては、Pt、Ag等の貴金属、遷移金属を含む二酸化マンガン等の遷移金属系酸化物、遷移金属を含むポルフィリン(Porphyrin)等の遷移金属系大環状化合物等が用いられる。
【0025】
また、正極101には、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンファイバー等のカーボンを用いることができる。正極101としては、酸素との大きな反応面積を有し、触媒の高分散担持が可能なものが好適である。例えば、正極101に、BET比表面積が800m/g以上のカーボンブラック、活性炭などを用いることが望ましい。
【0026】
[負極]
負極102は、金属および金属化合物の少なくとも1つを含む。すなわち、負極102は、金属および金属化合物の少なくとも1つを負極材料として用いる。金属および金属化合物には、バルクまたは板状のもの、粉末のものを圧粉体やバインダー等で結着したものなどを用いてもよい。
【0027】
また、負極102は、放電によって得られる金属酸化物や金属水酸化物を、放電とは逆の反応である充電によっても形成できる。例えば、金属、金属化合物等の酸化物または水酸化物を、必要に応じて導電剤および結着剤と混合して、電極の前駆体を形成する。そして、金属空気電池を形成して充電すると、負極102側で金属、金属化合物等の酸化物または水酸化物が還元され、活物質である金属および金属化合物の少なくとも1つを含む負極102を形成できる。
【0028】
負極102として用いる金属材料は、シート状又は粉末のものを用いることができる。負極材料としては、反応面積を大きくするために、粉末を用いることが望ましい。粉末を用いる場合には、金属粉末を金属シート又は金属メッシュに圧着することによって、負極102を作製できる。
【0029】
[電解質]
電解質103は、負極活物質に用いる金属種により、水系および非水系等の溶媒または塩を選択することとなる。サレン系金属錯体を含む電解質103の場合は、アルカリ系の電解液が望ましく、NaOH(水酸化ナトリウム)水溶液、KOH(水酸化カリウム)水溶液等を用いることができる。KOH水溶液等のアルカリ電解液のモル濃度は、導電性を有する0.1-8mol/lの範囲内に設定することが望ましい。
【0030】
図2は、サレン系金属錯体の構造式である。サレン系金属錯体は、N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミノコバルト(II)である。サレン系金属錯体の中心金属Mは、Cr、Mn、FeおよびCoからなる群より選択される1つであることが望ましい。
【0031】
Cr、Mn、FeおよびCoは、II~IIIの価数変化が起こりやすい遷移金属の中で、1モル当たりの重量が軽い金属であり、電池のエネルギー密度を大きくできる。本実施形態では、中心金属MがCr、Mn、FeおよびCoのいずれかのサレン系金属錯体を用いることで、触媒としての機能を損なうことなく、正極101での酸素還元反応を促進することができる。中心金属MがCr、Mn、Feのいずれかの場合、カウンターアニオンとして中心金属MにCl基が結合される。このようなサレン系金属錯体を、正極側領域Aの電解質103中に飽和するまで溶解させることが望ましい。
【0032】
[セパレータ]
セパレータ104は、正極101と負極とを隔離する。本実施形態のセパレータ104は、電解質103を正極側領域Aと、負極側領域Bとに仕切る。セパレータ104には、公知の各種材料を使用することができる。本実施形態のセパレータ104は、電解質103に含まれるサレン系金属錯体の移動を抑制することが好ましい。サレン系金属錯体は、H、OHなどのイオンと比べると、イオン分子径が大きい。したがって、本実施形態のセパレータ104は、サレン系金属錯体の移動を抑制するために、サレン系金属錯体のイオン分子径未満の細孔を有することが好ましい。セパレータ104に、水酸化物イオンのみを透過させる陰イオン交換膜を用いることがより好ましい。
【0033】
[その他の要素]
本実施形態の金属空気電池は、上記構成要素に加え、電池ケース等の構造部材、その他の金属空気電池に要求される要素を含むことができる。これらは、公知の各種材料を使用することができ、特に制限はない。
【0034】
[実施例]
本実施形態の金属空気電池について、具体的な実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できる。
【0035】
[実施例1]
実施例1の正極、電解質および金属空気電池の作製方法を説明する。また、実施例1の金属空気電池の充放電試験結果に基づく性能評価を説明する。
【0036】
(正極)
正極101の構成材料である酸化物触媒粉末と、ケッチェンブラック(カーボン)粉末と、バ具体的インダー(ポリフッ化ビニリデン)とを、50:30:20の重量比で粉砕および混合し混合物を得た。その後、前記混合物をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と十分混合し、スラリーを作製した。このスラリーをカーボンシートに塗布し、90℃の真空乾燥機に入れ、12時間乾燥させることで、正極101を得た。
【0037】
前記酸化物触媒粉末として、まず、遷移金属型酸化物であるペロブスカイト型酸化物La0.6Ca0.4CoOを合成した。遷移金属型酸化物は、La、Ca、Coがモル比で6:4:10になるように調製した金属硝酸塩混合水溶液に、リンゴ酸水溶液を混合し、攪拌しながら蒸発乾固を行うことによって得られるものである。この遷移金属型酸化物を粉砕した後、更に空気中において650℃で5時間の焼成を行うことにより酸化物触媒粉末を作製した。得られた焼成後の酸化物触媒粉末は、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定によりペロブスカイト単相であることを確認した。
【0038】
(電解質)
6mol/lのKOH水溶液に、大量のZnO(酸化亜鉛)粉末を飽和するまで溶解させ、上澄みを濾過することにより、アルカリ水溶液電解質を得た。また、このアルカリ水溶液電解質に、電解質体積基準で0.05%の市販のCoサレン錯体(アルドリッチ社製)を混合し、48時間以上攪拌することによりサレン系金属錯体水溶液電解質を得た。
【0039】
(負極)
負極102には、活物質として市販のZn板(ニラコ社製、厚さ0.2mm)を使用した。
【0040】
(セパレータ)
セパレータ104には、厚さ0.04mmのポリエチレン製のセパレータを使用した。なお、セパレータ104は、サレン系金属錯体の移動を抑制するために、サレン系金属錯体のイオン分子径未満の細孔を有する。
【0041】
(電池作製)
図3は、実施例1の金属空気電池の断面図である。図示する金属空気電池は、上述の正極101、負極102、電解質103およびセパレータ104を用いて作製した。
【0042】
図示する金属空気電池は、正極101と、集電体115と、正極層111と、正極側の電解質103Aと、当該電解質103Aを収容する電解質層113と、セパレータ104と、負極102と、負極側の電解質103Bと、当該電解質103Bを収容する負極層112層とを備える。正極層111、電解質層113および負極層112は、アクリル製のケース(筐体)である。
【0043】
正極101は、上述の正極を直径22mmの円形に打ち抜いて作製した。この円形の正極101を、直径18mmの穴があいた集電体115の上に、穴を覆うようにカーボンシート側から貼り付ける。集電体115は、表面が金メッキされた厚さ1mmのステンレス板である。
【0044】
集電体115に貼り付けた正極101を、それぞれ直径18mmの穴が開いたOリング116を介して、正極層111と電解質層113との間に挟み込んだ。正極層111は、両端(図示する例では、上面と下面)に空気が出入り可能になるように直径20mmの穴が開いている。なお、正極101および集電体115を固定し、電解質103Aの液漏れを防止可能な場合は、正極層111はなくてもよい。
【0045】
セパレータ104は、上述のセパレータを直径22mmの円形に打ち抜いて作製した。この円形のセパレータ104を、それぞれ直径18mmの穴が開いたOリング117を介して、正極101とは逆側の電解質層113と負極層112との間に挟み込んだ。
【0046】
電解質層113に上記のサレン系金属錯体水溶液電解質103Aを充填し、負極層112に上述のアルカリ水溶液電解質103Bを充填した後、負極層112内に板状の負極102を差し込み、金属空気電池を作製した。なお、セパレータ104で仕切られた電解質層113(正極側領域)における電解質103A中のサレン系金属錯体の濃度は、負極層112(負極側領域)における電解質103B中のサレン系金属錯体の濃度よりも高い。
【0047】
(放電試験)
実施例1の金属空気電池を、放電電流2mAで、電池電圧(放電電圧)が0.8Vに低下するまで電池電圧を測定した。この放電試験は、室温で大気中の条件下において行った。
【0048】
また、この金属空気電池を、放電電流1mA、2mA、10mA、20mA、100mAの順でそれぞれ10分放電して、レート特性を測定した。
【0049】
[比較例1]
(電池作製)
比較例1は、電解質層113に充填する電解質103Aのみが実施例1と異なる。比較例1の電解質103Aには、6mol/lのKOH水溶液に、大量のZnO(酸化亜鉛)粉末を飽和するまで溶解させ、上澄みを濾過することにより得られたアルカリ水溶液電解質を用いた。すなわち、比較例1の電解質103Aと電解質103Bは、同じ電解質である。電解質103A以外は、実施例1と同様の手順で比較例1の金属空気電池を作製した。
【0050】
(放電試験)
実施例1と同様の条件で、比較例1の放電試験を実施した。
【0051】
[実施例1および比較例1の電池性能]
図4に、実施例1および比較例1の放電曲線を示す。図4に示すように、電解質層113にサレン系金属錯体を含む電解質103Aを充填した実施例1の金属空気電池の平均電池電圧は、1.32Vで、比較例1の金属空気電池の平均電池電圧は、1.27Vである。同じ放電電流2mAで放電しているにもかかわらず、実施例1の電池電圧が比較例1の電池電圧より常時高い状態で放電していることがわかる。
【0052】
図5に、実施例1および比較例1のレート特性を示す。図5に示すように、電解質層113にサレン系金属錯体を含む電解質103Aを充填した実施例1の金属空気電池は、大きな電流で放電しても、比較例1の金属空気電池に比べて電圧降下が抑えられ、高いレート特性を示している。これは、電解質層113の液中のサレン系金属錯体が、正極101上の三相界面に多く存在し、酸素還元反応を促進しているためと考えられる。
【0053】
[実施例2]
(陰イオン交換膜)
厚さ25μmの架橋ポリエチレンフィルムに、電子線加速装置によって加速電圧を300kV、ビーム電流を10mAとした電子線を窒素雰囲気下で100kGy(キログレイ)照射した。照射した架橋ポリエチレンフィルムを、あらかじめ窒素によって脱酸素されたアクリル酸20重量部、水79重量部、モール氏塩1重量部からなる溶液中に、常温で3時間浸漬してグラフト重合した陰イオン交換膜を得た。
【0054】
(電池作製)
実施例2では、金属空気電池のセパレータ104に、上記陰イオン交換膜を用いた。セパレータ104以外は、実施例1と同様の手順で実施例2の金属空気電池を作製した。
【0055】
(放電試験)
実施例1と同様の条件で、実施例2の放電試験を実施した。
【0056】
(電池性能)
実施例2の金属空気電池は、表1に示す通り実施例1よりも大きな放電容量を示した。これは、負極金属とサレン系金属錯体とが相互作用し、正極101で生成される水酸化物イオンのみを透過する陰イオン交換膜を用いることにより、負極層112へのサレン系金属錯体の流入が抑えられ、負極金属を無駄なく利用できたためと考えられる。
【0057】
【表1】
【0058】
[実施例3~5]
(電解質)
実施例3では、実施例1のアルカリ水溶液電解質に、電解質体積基準で0.05%の市販のCrサレン錯体(アルドリッチ社製)を混合し、48時間以上攪拌することによりサレン系金属錯体水溶液電解質を得た。
【0059】
実施例4では、実施例1のアルカリ水溶液電解質に、電解質体積基準で0.05%の市販のMnサレン錯体(アルドリッチ社製)を混合し、48時間以上攪拌することによりサレン系金属錯体水溶液電解質を得た。
【0060】
実施例5では、実施例1のアルカリ水溶液電解質に、電解質体積基準で0.05%の市販のFeサレン錯体(アルドリッチ社製)を混合し、48時間以上攪拌することによりサレン系金属錯体水溶液電解質を得た。
【0061】
(電池作製)
実施例3では、電解質層113に充填する電解質103Aに、Crサレン錯体を混合したサレン系金属錯体水溶液電解質を用い、それ以外は実施例1と同様の手順で実施例3の金属空気電池を作製した。
【0062】
実施例4では、電解質層113に充填する電解質103Aに、Mnサレン錯体を混合したサレン系金属錯体水溶液電解質を用い、それ以外は実施例1と同様の手順で実施例4の金属空気電池を作製した。
【0063】
実施例5では、電解質層113に充填する電解質103Aに、Feサレン錯体を混合したサレン系金属錯体水溶液電解質を用い、それ以外は実施例1と同様の手順で実施例5の金属空気電池を作製した。
【0064】
(放電試験)
実施例1と同様の条件で、実施例3~5の放電試験をそれぞれ実施した。
【0065】
(電池性能)
実施例3~5の金属空気電池は、表1に示す通り実施例1と同程度の性能を示した。これは、実施例3~5のサレン系金属錯体を用いることで、酸素還元活性を促進させる効果があると考えられる。
【0066】
[実施例6]
(電解質)
実施例6では、実施例1のアルカリ水溶液電解質に、電解質体積基準で1%の市販のCoサレン錯体(アルドリッチ社製)を混合し、48時間以上攪拌したのち得られた水溶液の上澄みを用いることにより、Coサレン錯体が飽和濃度で溶解されたサレン系金属錯体水溶液電解質を得た。
【0067】
(電池作製)
実施例6では、電解質層113に充填する電解質103Aに、上記サレン系金属錯体水溶液電解質を用い、それ以外は実施例1と同様の手順で実施例6の金属空気電池を作製した。
【0068】
(放電試験)
実施例1と同様の条件で、実施例6の放電試験を実施した。
【0069】
(電池性能)
実施例6の金属空気電池は、表1に示す通り、実施例1に比べて平均電池電圧が高い。これは、電解質層113におけるサレン系金属錯体の存在比によるものと考えられ、正極101上にサレン系金属錯体が多く存在する方が望ましいことを示している。
【0070】
[実施例7]
(電解質)
1mol/lのNaCl水溶液に、電解質体積基準で0.05%の市販のCoサレン錯体(アルドリッチ社製)を混合し、48時間以上攪拌することによりサレン系金属錯体水溶液電解質を得た。
【0071】
(負極)
負極には、活物質として市販のMg板(ニラコ社製、厚さ0.25mm)を使用した。
【0072】
(電池作製)
実施例7では、電解質層113に充填する電解質103Aに上記サレン系金属錯体水溶液電解質を用い、負極層112に充填する電解質103Bに1mol/lのNaClを用い、負極102に上記Mg板を用い、それ以外は実施例1と同様の手順で金属空気電池を作製した。
【0073】
(放電試験)
実施例1と同様の条件で、実施例7の放電試験を実施した。
【0074】
[比較例2]
(電池作製)
比較例2では、電解質層113に充填する電解質103Aのみが実施例7と異なる。比較例2の電解質には、1mol/lのNaCl水溶液を用いた。その他は、実施例7と同様の手順で比較例2の金属空気電池を作製した。
【0075】
(放電試験)
実施例1と同様の条件で、比較例2の放電試験を実施した。
【0076】
(電池性能)
実施例7の金属空気電池は、表1に示す通り、比較例2に比べて平均電池電圧が高い。これは、電解質層113に含まれる液中のサレン系金属錯体が、正極上の三相界面に多く存在し、酸素還元反応を促進しているためと考えられる。
【0077】
以上説明した本実施形態の金属空気電池は、カーボンを含む正極101と、金属および金属化合物の少なくとも1つを含む負極102と、正極101と負極102との間に配置され、サレン系金属錯体を含む電解質103と、セパレータ104とを備え、サレン系金属錯体は、電解質103中を移動可能であり、セパレータ104で仕切られた正極側領域Aにおける電解質103中のサレン系金属錯体の濃度は、セパレータで仕切られた負極側領域Bにおける電解質103中のサレン系金属錯体の濃度よりも高い。
【0078】
これにより、本実施形態の金属空気電池は、金属空気電池の正極101において酸素還元反応を促進させ、高い電池電圧および高いレート特性を有する。
【0079】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、様々な変形および組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0080】
101:正極
102:負極
103:電解質
104:セパレータ
111:正極層
112:負極層
113;電解質層
115:集電体
116、117:Oリング
図1
図2
図3
図4
図5