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特開2022-35260多孔質吸音材の音響性能算出装置、方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035260
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】多孔質吸音材の音響性能算出装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
G01H17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139455
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇史
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
(57)【要約】
【課題】多孔質吸音材の音響性能を精度良く算出することができる。
【解決手段】音響性能算出装置10は、多孔質吸音材のユニットセルモデルデータを取得し、固体相の単位ひずみ、静水圧に関する境界値問題を表す式、流体相の流速、温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行し、ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、固体相の均質化弾性テンソル、均質化体積ひずみ、均質化連成係数、流体相の均質化体積ひずみ、等価密度、流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出し、均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行し、マクロスケールの解析結果に基づいて、多孔質吸音材の音響性能を算出し、マクロスケールの解析結果に基づいて、ミクロスケールにおける、固体相の変位、流体相における流速、音圧、温度変動を算出するローカル解析を実行する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体相及び流体相が混在した多孔質吸音材の微視構造を表すユニットセルモデルを表すユニットセルモデルデータを取得する取得部と、
前記固体相の変位、前記流体相の流速、前記流体相の音圧、前記流体相の温度、及び質量密度についての漸近展開形を前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、前記固体相における単位ひずみ、前記固体相の表面における静水圧、前記流体相における流速、及び前記流体相における単位温度を各々代入することにより得られた前記固体相の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、前記固体相の静水圧に関する境界値問題を表す式、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式、及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行するミクロスケール解析部と、
前記ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、前記固体相の均質化弾性テンソル、前記固体相の均質化体積ひずみ、前記固体相の均質化連成係数、前記流体相の均質化体積ひずみ、前記流体相の等価密度、及び前記流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出する均質化特性算出部と、
前記均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行するマクロスケール解析部と、
前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記多孔質吸音材の音響性能を算出する音響性能算出部と、
前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記ミクロスケールにおける、前記固体相の変位、前記流体相における流速、前記流体相における音圧、及び前記流体相における温度変動を算出するローカル解析を実行するローカル解析部と、
を備えた多孔質吸音材の音響性能算出装置。
【請求項2】
前記ローカル解析の解析結果を出力する解析結果出力部
を備えた請求項1記載の多孔質吸音材の音響性能算出装置。
【請求項3】
前記ミクロスケール解析部は、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式の各々を解く際に、予め定めた周波数範囲でスイープさせて解く
請求項1又は請求項2記載の多孔質吸音材の音響性能算出装置。
【請求項4】
コンピュータが、
固体相及び流体相が混在した多孔質吸音材の微視構造を表すユニットセルモデルを表すユニットセルモデルデータを取得し、
前記固体相の変位、前記流体相の流速、前記流体相の音圧、前記流体相の温度、及び質量密度についての漸近展開形を前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、前記固体相における単位ひずみ、前記固体相の表面における静水圧、前記流体相における流速、及び前記流体相における単位温度を各々代入することにより得られた前記固体相の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、前記固体相の静水圧に関する境界値問題を表す式、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式、及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行し、
前記ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、前記固体相の均質化弾性テンソル、前記固体相の均質化体積ひずみ、前記固体相の均質化連成係数、前記流体相の均質化体積ひずみ、前記流体相の等価密度、及び前記流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出し、
前記均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行し、
前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記多孔質吸音材の音響性能を算出し、
前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記ミクロスケールにおける、前記固体相の変位、前記流体相における流速、前記流体相における音圧、及び前記流体相における温度変動を算出するローカル解析を実行する
処理を実行する多孔質吸音材の音響性能算出方法。
【請求項5】
コンピュータに、
固体相及び流体相が混在した多孔質吸音材の微視構造を表すユニットセルモデルを表すユニットセルモデルデータを取得し、
前記固体相の変位、前記流体相の流速、前記流体相の音圧、前記流体相の温度、及び質量密度についての漸近展開形を前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、前記固体相における単位ひずみ、前記固体相の表面における静水圧、前記流体相における流速、及び前記流体相における単位温度を各々代入することにより得られた前記固体相の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、前記固体相の静水圧に関する境界値問題を表す式、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式、及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行し、
前記ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、前記固体相の均質化弾性テンソル、前記固体相の均質化体積ひずみ、前記固体相の均質化連成係数、前記流体相の均質化体積ひずみ、前記流体相の等価密度、及び前記流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出し、
前記均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行し、
前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記多孔質吸音材の音響性能を算出し、
前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記ミクロスケールにおける、前記固体相の変位、前記流体相における流速、前記流体相における音圧、及び前記流体相における温度変動を算出するローカル解析を実行する
処理を実行させる多孔質吸音材の音響性能算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質吸音材の音響性能算出装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの空孔から構成されている多孔質吸音材の代表的な音響性能の指標である吸音率は、多孔質吸音材の微視構造に大きく依存することが経験的に知られている。
【0003】
非特許文献1~3には、漸近展開法に基づく均質化法(マルチスケール解析)を多孔質吸音材に拡張し、多孔質吸音材の微視構造から吸音率等を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「マルチスケール解析による多孔質吸音材モデル」、山本崇史、寺田賢二郎、西脇眞二、日本機械学会論文集76巻768号、2010年
【非特許文献2】「多孔質吸音材のマルチスケール解析による吸音率の予測」、山本崇史、丸山新一、泉井一浩、西脇眞二、寺田賢二郎、日本音響学会誌68巻9号、2012年
【非特許文献3】「均質化法による多孔質吸音材の等価特性の算出」、山本崇史、丸山新一、泉井一浩、西脇眞二、寺田賢二郎、日本音響学会誌68巻9号、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質吸音材の内部で音響エネルギーが減衰するという現象は、弾性体の振動、流体(この場合は空気)の流れ、流体の温度変動の3つのフィジクスから構成されており、また、それぞれのフィジクス間の連成も考慮する必要があり、非常に複雑である。
【0006】
しかしながら、非特許文献1~3に開示された方法では、多孔質吸音材の内部における複雑な現象を精度良くモデル化しているとはいえず、吸音率等の音響性能を精度良く算出できるとは限らない。
【0007】
本発明は、多孔質吸音材の音響性能を精度良く算出することができる多孔質吸音材の音響性能算出装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1態様に係る多孔質吸音材の音響性能算出装置の発明は、固体相及び流体相が混在した多孔質吸音材の微視構造を表すユニットセルモデルを表すユニットセルモデルデータを取得する取得部と、前記固体相の変位、前記流体相の流速、前記流体相の音圧、前記流体相の温度、及び質量密度についての漸近展開形を前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、前記固体相における単位ひずみ、前記固体相の表面における静水圧、前記流体相における流速、及び前記流体相における単位温度を各々代入することにより得られた前記固体相の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、前記固体相の静水圧に関する境界値問題を表す式、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式、及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行するミクロスケール解析部と、前記ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、前記固体相の均質化弾性テンソル、前記固体相の均質化体積ひずみ、前記固体相の均質化連成係数、前記流体相の均質化体積ひずみ、前記流体相の等価密度、及び前記流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出する均質化特性算出部と、前記均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行するマクロスケール解析部と、前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記多孔質吸音材の音響性能を算出する音響性能算出部と、前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記ミクロスケールにおける、前記固体相の変位、前記流体相における流速、前記流体相における音圧、及び前記流体相における温度変動を算出するローカル解析を実行するローカル解析部と、を備える。
【0009】
第1態様の多孔質吸音材の音響性能算出装置において、前記ローカル解析の解析結果を出力する解析結果出力部を備えた構成としてもよい。
【0010】
また、第1態様の多孔質吸音材の音響性能算出装置において、前記ミクロスケール解析部は、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式の各々を解く際に、予め定めた周波数範囲でスイープさせて解く構成としてもよい。
【0011】
第2態様に係る多孔質吸音材の音響性能算出方法の発明は、コンピュータが、固体相及び流体相が混在した多孔質吸音材の微視構造を表すユニットセルモデルを表すユニットセルモデルデータを取得し、前記固体相の変位、前記流体相の流速、前記流体相の音圧、前記流体相の温度、及び質量密度についての漸近展開形を前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、前記固体相における単位ひずみ、前記固体相の表面における静水圧、前記流体相における流速、及び前記流体相における単位温度を各々代入することにより得られた前記固体相の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、前記固体相の静水圧に関する境界値問題を表す式、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式、及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行し、前記ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、前記固体相の均質化弾性テンソル、前記固体相の均質化体積ひずみ、前記固体相の均質化連成係数、前記流体相の均質化体積ひずみ、前記流体相の等価密度、及び前記流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出し、前記均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行し、前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記多孔質吸音材の音響性能を算出し、前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記ミクロスケールにおける、前記固体相の変位、前記流体相における流速、前記流体相における音圧、及び前記流体相における温度変動を算出するローカル解析を実行する。
【0012】
第3態様に係る多孔質吸音材の音響性能算出プログラムの発明は、コンピュータに、固体相及び流体相が混在した多孔質吸音材の微視構造を表すユニットセルモデルを表すユニットセルモデルデータを取得し、前記固体相の変位、前記流体相の流速、前記流体相の音圧、前記流体相の温度、及び質量密度についての漸近展開形を前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、前記固体相における単位ひずみ、前記固体相の表面における静水圧、前記流体相における流速、及び前記流体相における単位温度を各々代入することにより得られた前記固体相の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、前記固体相の静水圧に関する境界値問題を表す式、前記流体相の流速に関する境界値問題を表す式、及び前記流体相の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行し、前記ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、前記固体相の均質化弾性テンソル、前記固体相の均質化体積ひずみ、前記固体相の均質化連成係数、前記流体相の均質化体積ひずみ、前記流体相の等価密度、及び前記流体相の等価体積弾性率を均質化特性として算出し、前記均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行し、前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記多孔質吸音材の音響性能を算出し、前記マクロスケールの解析結果に基づいて、前記ミクロスケールにおける、前記固体相の変位、前記流体相における流速、前記流体相における音圧、及び前記流体相における温度変動を算出するローカル解析を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多孔質吸音材の音響性能を精度良く算出することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】多孔質吸音材の音響性能算出装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
図2】多孔質吸音材の一例を示す図である。
図3】(A)は多孔質吸音材20の材料が繊維材の場合におけるユニットセルモデルの一例を示す図、(B)はユニットセルモデルの固体相のみを示す図、(C)はユニットセルモデルの流体相のみを示す図である。
図4】(A)は多孔質吸音材20の材料が発泡材の場合におけるユニットセルモデルの一例を示す図、(B)はユニットセルモデルの固体相のみを示す図、(C)はユニットセルモデルの流体相のみを示す図である。
図5】多孔質吸音材の音響性能算出装置の機能構成を示すブロック図である。
図6】音響性能算出プログラムのフローチャートである。
図7】代表変形モードを可視化した図である。
図8】代表流速モードを可視化した図である。
図9】マクロモデルの一例を示す図である。
図10】マクロモデルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1には、本実施の形態に係る多孔質吸音材の音響性能算出装置10の構成を示した。
【0017】
図1に示すように、音響性能算出装置10は、コントローラ11を備える。コントローラ11は、CPU(Central Processing Unit)11A、ROM(Read Only Memory)11B、RAM(Random Access Memory)11C、及び入出力インターフェース(I/O)11Dを備える。そして、CPU11A、ROM11B、RAM11C、及びI/O11Dがシステムバス11Eを介して各々接続されている。システムバス11Eは、コントロールバス、アドレスバス、及びデータバスを含む。
【0018】
また、I/O11Dには、操作部12、表示部13、通信部14、及び記憶部15が接続されている。
【0019】
操作部12は、例えばマウス及びキーボードを含んで構成される。
【0020】
表示部13は、例えば液晶ディスプレイ等で構成される。
【0021】
通信部14は、外部装置とデータ通信を行うためのインターフェースである。
【0022】
記憶部15は、ハードディスク等の不揮発性の外部記憶装置で構成され、後述する音響性能算出プログラム15A、ユニットセルモデルデータ15B等を記憶する。CPU11Aは、記憶部15に記憶された音響性能算出プログラム15AをRAM11Cに読み込んで実行する。
【0023】
図2には、音響性能の算出対象である多孔質吸音材20の一例を示した。図2の例では、多孔質吸音材20は円柱状であるが、形状は円柱状に限られるものではない。
【0024】
図3(A)には、多孔質吸音材20の材料が繊維材の場合におけるユニットセルモデル30を示した。ユニットセルモデル30は、多孔質吸音材20の微視構造、すなわち肉眼では見えないミクロスケールの構造を表したモデルである。
【0025】
図3(A)に示すように、ユニットセルモデル30は、複数の六面体(直方体)のボクセル32で構成され、各ボクセルは、固体相34又は流体相36に属する。図3(B)には、固体相34のみのモデルを示し、図3(C)には、流体相36のみのモデルを示した。
【0026】
また、図4(A)には、多孔質吸音材20の材料が発泡材の場合におけるユニットセルモデル30を示した。図4(B)には、固体相34のみのモデルを示し、図4(C)には、流体相36のみのモデルを示した。
【0027】
図3、4に示すように、本実施形態では、固体相34及び流体相36が混在した1つのモデルで表されたユニットセルモデル30を用いて解析を行う。
【0028】
なお、ユニットセルモデル30は、例えばX線CT(X線顕微鏡)により多孔質吸音材20を撮影したX線画像をそのまま用いることも可能である。
【0029】
次に、音響性能算出装置10が音響性能算出プログラム15Aを実行する場合におけるCPU11Aの機能構成について説明する。
【0030】
図5に示すように、CPU11Aは、機能的には、取得部41、ミクロスケール解析部42、均質化特性算出部43、マクロスケール解析部44、音響性能算出部45、ローカル解析部46、及び解析結果出力部47を備える。
【0031】
取得部41は、固体相34及び流体相36が混在した多孔質吸音材20の微視構造を表すユニットセルモデル30を表すユニットセルモデルデータ15Bを記憶部15から読み出すことにより取得する。
【0032】
ミクロスケール解析部42は、固体相34の変位、流体相36の流速、流体相36の音圧、流体相36の温度、及び質量密度についての漸近展開形を多孔質吸音材20のミクロスケールにおける支配方程式に代入することにより得られた式に、固体相34における単位ひずみ、固体相34の表面における静水圧、流体相36における流速、及び流体相36における単位温度を各々代入することにより得られた固体相34の単位ひずみに関する境界値問題を表す式、固体相34の静水圧に関する境界値問題を表す式、流体相36の流速に関する境界値問題を表す式、及び流体相36の温度に関する境界値問題を表す式、の各々を解くことによりミクロスケール解析を実行する。
【0033】
均質化特性算出部43は、ミクロスケール解析の解析結果に基づいて、等価質量密度、固体相34の均質化弾性テンソル、固体相34の均質化体積ひずみ、固体相34の均質化連成係数、流体相36の均質化体積ひずみ、流体相36の等価密度、及び流体相36の等価体積弾性率を均質化特性として算出する。
【0034】
マクロスケール解析部44は、均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてのマクロスケールの解析を実行する。
【0035】
音響性能算出部45は、マクロスケールの解析結果に基づいて、多孔質吸音材20の音響性能を算出する。
【0036】
ローカル解析部46は、マクロスケールの解析結果に基づいて、ミクロスケールにおける、固体相34の変位、流体相36における流速、流体相36における音圧、及び流体相36における温度変動を算出するローカル解析を実行する。
【0037】
解析結果出力部47は、ローカル解析の解析結果を出力する。
【0038】
次に、本実施形態の作用として、CPU11Aで実行される音響性能算出処理について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0039】
ステップS100では、ユニットセルモデル30を表すユニットセルモデルデータ15Bを記憶部15から読み出すことにより取得する。
【0040】
ステップS102では、ミクロスケール解析を行う。ミクロスケール解析の手法としては、本実施形態では一例として上記非特許文献3に記載された手法を用いる。
【0041】
まず、多孔質吸音材20のミクロスケールにおける支配方程式について説明する。固体相34の支配方程式は、弾性テンソルを

とすると、以下に示す式で表される。
【0042】
・・・(1)
・・・(2)
・・・(3)
【0043】
ここで、ρは固体相34の質量密度、ωは角振動数である。なお、上付きの「s」は固体相を表している。
【0044】

は固体相34の変位である。
【0045】

は固体相34の応力である。
【0046】

は固体相34のひずみである。
【0047】
次に、流体相36の速度を

とし、質量密度を

とし、温度を

とすると、流体相36に関する質量保存則および状態方程式はそれぞれ次式で表される。なお、上付きの「f」は流体相を表している。
【0048】
・・・(4)
・・・(5)
【0049】
ここで、

は流体相36の音圧である。
【0050】
また、

は流体相36の平衡状態の音圧である。
【0051】
また、

は流体相36の質量密度である。
【0052】
また、

は、流体相36の温度である。
【0053】
また、流体相36の流れ場に関する支配方程式は微小振幅であることを考慮すると、上記の式は、線形化されたNavier-Stokesの方程式で表される。すなわち、粘性係数を

とすると、以下のようになる。
【0054】
・・・(6)
・・・(7)
・・・(8)
【0055】
ここで、

は、流体相36の応力である。
【0056】
また、

は、流体相36のひずみである。
【0057】
そして、固体相34の比熱は流体相36の比熱に比して十分大きく、平衡状態での温度Tを維持すると仮定すると、温度場は流体相36のみを考慮すればよく、支配方程式は熱力学の第一法則より次式のように表せる。
【0058】
・・・(9)
・・・(10)
【0059】
ここで、

は定積比熱である。また、Rは気体定数である。また、

は熱流速である。また、

は熱伝導率である。
【0060】
なお、上記(9)式の右辺第1項は単位体積あたりの内部エネルギー変化、第2項及び第3項は状態方程式より外部仕事を表している。
【0061】
また、固体相34と流体相36の境界

における境界条件は、速度、境界垂直方向の応力、及び温度の連続性から、以下の式で与えられる。
【0062】
・・・(11)
・・・(12)
・・・(13)
【0063】
ここで、

は、それぞれ

に立てた固体相34、流体相36の領域外向きの単位法線ベクトルである。
【0064】
次に、スケーリングについて説明する。
【0065】
ミクロスケールの代表長さ、すなわちユニットセルの代表長さをlとする。また、マクロスケールの代表長さ、すなわち多孔質吸音材20の代表長さをLとする。そして、ミクロスケールの代表長さlとマクロスケールの代表長さLとの比εを次式で表す。
【0066】
ε=l/L ・・・(14)
【0067】
また、マクロスケールにおける空間変数をxとし、ミクロスケールにおける空間変数yを次式で表す。
【0068】
・・・(15)
【0069】
そして、微視構造は周期的であると仮定し、その単位領域(ユニットセル)をYとする。ここでは、lはユニットセルの大きさ、Lは多孔質吸音材20の波長の長さとする。
【0070】
一般的な多孔質吸音材では、空孔の大きさは数mm~数百mmであり、ユニットセルの大きさはその数倍程度でほぼ同じオーダーと考えられる。また、対象とする周波数の上限を6.4kHzとすると、その上限周波数において音の波長は空気中では約50mmであり、多孔質吸音材の内部では、一般にそれより波長は若干短くなるもののオーダーは同じである。従って、εとしては1.0×10-2又はそれ以下のオーダーとなり、スケールの分離ができる。
【0071】
多孔質吸音材20による吸音は、主として流体相36において、固体相34との境界付近で生じる粘性減衰と熱散逸に起因する。これらの効果が卓越する領域の大きさは、それぞれ粘性境界層厚さ

と、温度境界層厚さ

で表され、それぞれ以下のように定義される。
【0072】
・・・(16)
・・・(17)
【0073】
ここで、

は、流体相36の定圧比熱である。
【0074】
また、

は流体の媒質の特性としての熱伝導率である。これらの大きさは、多孔質吸音材20に吸音効果がある場合、空孔の大きさのスケールにほぼ等しい。実際、周波数範囲を50Hz から6.4kHzとすると、

は18μm~205μm、

は21μm~243μmとなり、おおよそ空孔サイズと同じO(l)となる。このことを考慮すると、上記(16)、(17)式から以下の関係式が得られる。
【0075】
・・・(18)
【0076】
これより、上記(7)式及び上記(10)式はそれぞれ次のように書き直すことができる。
【0077】
・・・(19)
・・・(20)
【0078】
これは、粘性による減衰や熱の拡散はミクロレベルで生じるため、マクロレベルの視点では視認できないことを意味している。すなわち,粘性による速度への影響又は熱の拡散による温度への影響は短時間(εのオーダー) で現れるため、マクロレベルで見ればその領域の速度や温度は均一と見なせるということである。
【0079】
次に、漸近展開について説明する。
【0080】
状態量

に対して、次式のような漸近展開形の解を仮定する。
【0081】
・・・(21)
【0082】
ここで、右辺における全ての項はyについて周期的(Y-periodic)である。
【0083】
漸近展開に基づく均質化法の一般的な手順に従い、

の漸近展開形を上記(1)式~(13)式に代入し、εのオーダー(次数)ごとに恒等式を立てる。
【0084】
まず、上記(1)式のεのオーダーから次式が得られる。
【0085】
・・・(22)
【0086】
また、上記(1)式、(6)式、(4)式のε-1のオーダーから次式が成り立つ。
【0087】
・・・(23)
・・・(24)
・・・(25)
【0088】
さらに、上記(6)式、(7)式、(9)式、(4)式、(5)式、(11)式、(13)式のεのオーダーから次式が得られる。
【0089】
・・・(26)
・・・(27)
・・・(28)
・・・(29)
・・・(30)
・・・(31)
・・・(32)
【0090】
次に、固体相34の境界値問題について説明する。
【0091】
上記(22)式より、

がxのみの関数であることが分かる。同様に、上記(24)式及び上記(27)式より

がxのみの関数であることが分かる。
【0092】
また,固体相34の変位

は、線形性を考慮すると、

を変位に関するY-periodicな特性関数として次のように表すことができる。
【0093】
・・・(33)
【0094】
なお、

は次式で表される。
【0095】
・・・(34)
【0096】
これを上記(24)式に代入しGalerkin法を適用すると、以下に示す式が導出される。
【0097】

・・・(35)
【0098】
特性関数

は、上記(35)式において、
【0099】

として得られる次式により求めることができる。
【0100】
・・・(36)
【0101】
ただし、剛体変位を除くために、下記式の条件を付加する。
【0102】
・・・(37)
【0103】
なお、本実施形態では、上記(36)式において、kl=11、22、33、23、31、12であり、Voigt表記を示している。また、i、j=1、2、3で総和規約にしたがう。
【0104】
同様にして、特性関数

は、上記(35)式において、

として得られる次式により求めることができる。
【0105】
・・・(38)
【0106】
ここでも、剛体変位を除くために、下記式の条件を付加する。
・・・(39)
【0107】
次に、流体相36の流れ場の境界値問題について説明する。
【0108】
εのオーダーにおける流体相36の固体相34に対する相対速度

は次式で表される。
【0109】
・・・(40)
【0110】
この相対速度を上記(26)式、(25)式、(31)式に代入すると、流体相36の流れ場に関して、次式に示すミクロスケールにおける境界値問題を得ることができる。
【0111】

・・・(41)
【0112】
・・・(42)
・・・(43)
【0113】
上記(41)式は平衡式を、上記(42)式は質量保存則を、上記(43)式は固体相34との境界における固着条件をそれぞれ表している。平衡式は線形化されたNavier-Stokesの方程式であり、右辺はyには依存しないことからミクロスケールにおいては一定の大きさの外力として作用することを示している。なお、流体は圧縮性と仮定しているが、上記(42)式からも分かるようにミクロスケールにおいては質量保存則から非圧縮の条件が導かれる。
【0114】
ここで、

は、上記(41)式の右辺に示した外力に対する線形性を考慮すると、
【0115】

をそれぞれ相対速度、圧力に関するY-periodicな特性関数として、以下のように表すことができる。
【0116】
・・・(44)
・・・(45)
【0117】
ただし、
・・・(46)
である。
【0118】
上記(44)~(46)式を上記(41)~(43)式に代入し、Galerkin法を適用すると以下に示す弱形式に帰着することができる。
【0119】


・・・(47)
【0120】
・・・(48)
【0121】
よって、特性関数

は、上記(47)、(48)式において

として得られる以下の式の解として求めることができる。
【0122】

・・・(49)
【0123】
ここで、本実施形態ではk=1、2、3であり、で総和規約にしたがうものではない。
【0124】
なお、前節で述べた固体相の境界値問題と同様に、一定圧力の成分を除くため下記式の条件を付加する。
【0125】
・・・(49)
【0126】
次に、流体相36の温度場の境界値問題について説明する。
【0127】
εのオーダーにおける流体相36の温度

は、圧力

に対する線形性を考慮すると、

を温度に関するY-periodicな特性関数として次式のように表すことができる。
【0128】
・・・(50)
【0129】
これを上記(28)式の熱平衡式に代入してGalerkin法を適用すると、以下に示す弱形式を導くことができる。
【0130】

・・・(51)
【0131】

における温度の連続条件の式である上記(32)式も考慮すると、

は、上記(51)式において

として得られる次式の解として求めることができる。
【0132】

・・・(52)
・・・(53)
【0133】
ステップS102では、まず固体相34における6つの単位ひずみを上記(35)式に代入し、それぞれの単位ひずみについて得られた上記(36)式を解く。すなわち、kl=11、22、33、23、31、12の各々について、

を上記(35)式に代入して得られた6つの上記(36)式をそれぞれ解く。
【0134】
次に、固体相34の表面における静水圧を上記(35)式に代入して得られた上記(38)式を解く。すなわち、

を上記(35)式に代入して得られた上記(38)式を解く。
【0135】
次に、流体相36の各方向における流速を上記(47)式に代入して得られた上記(49)式を解く。すなわち、k=1、2、3の各々について、

を上記(47)式に代入して得られた3つの上記(49)式をそれぞれ解く。
【0136】
なお、上記(49)式の左辺第6項は安定化項であり、これを用いることで流体の速度場を1次要素で離散化でき、計算資源及び計算時間の大幅な抑制が可能となる。本実施形態では、前述したようにユニットセルモデル30は六面体のボクセル要素を用いており、1次要素で離散化している。
【0137】
次に、流体相36における単位温度を上記(51)式に代入して得られた上記(52)式を解く。すなわち、

を上記(51)式に代入して得られた上記(52)式を解く。
【0138】
ここで、固体相34の単位ひずみに関する境界値問題を表す上記(35)式、固体相34の静水圧に関する境界値問題を表す上記(38)式を解くのは静的な計算である。
【0139】
また、流体相36の流速に関する境界値問題を表す上記(49)式を解くこと、及び、流体相36の温度に関する境界値問題を表す上記(52)式を解くことは、上記(49)式及び上記(52)式が角振動数ωを含むことから分かるように動的な計算である。従って、上記(49)式及び上記(52)式を解く際には、周波数スイープする。
【0140】
周波数スイープは任意の設定が可能であるが、本実施形態では、均質化特性の周波数特性を考慮し、一例として50Hzから6400Hzまでの周波数範囲を50Hz毎に128回計算する。
【0141】
ステップS104では、ステップS102で固体相34及び流体相36の境界値問題を表す式を解いた値に基づいて、7種類の均質化特性を算出する。ここで、7種類の均質化特性は、等価質量密度、固体相34の均質化弾性テンソル、固体相34の均質化体積ひずみ、固体相34の均質化連成係数、流体相36の均質化体積ひずみ、流体相36の等価密度、及び流体相36の等価体積弾性率である。
【0142】
ここで、等価質量密度

は、下記式で表される。
【0143】
・・・(54)
【0144】
また、固体相34の均質化弾性テンソル

は、下記式で表される。
【0145】
・・・(55)
【0146】
ここで、|Y|は、ユニットセルの体積である。
【0147】
また、固体相34の均質化体積ひずみ

は、下記式で表される。
【0148】
・・・(56)
【0149】
また、固体相の均質化連成係数

は、下記式で表される。
【0150】
・・・(57)
【0151】
また、流体相36の均質化体積ひずみ

は、下記式で表される。
【0152】
・・・(58)
【0153】
また、流体相36の等価密度

は、下記式で表される。
【0154】
・・・(59)
また、流体相36の等価体積弾性率

は、下記式で表される。
【0155】
・・・(60)
【0156】
ここで、

は、流体相36の比熱比である。
【0157】
ステップS104では、第1の計算として、固体相34の単位ひずみに関する境界値問題を表す上記(35)式を解くことにより得られた値を上記(54)~(56)式に代入することにより、等価質量密度、固体相34の均質化弾性テンソル、及び固体相34の均質化体積ひずみを算出する。
【0158】
次に、第2の計算として、固体相34の静水圧に関する境界値問題を表す上記(38)式を解くことにより得られた値を上記(57)、(58)式に代入することにより、固体相34の均質化連成係数及び流体相36の均質化体積ひずみを算出する。
【0159】
次に、第3の計算として、流体相36の流速に関する境界値問題を表す上記(49)式を解くことにより得られた値を上記(59)式に代入することにより、流体相36の等価密度を算出する。
【0160】
次に、第4の計算として、流体相36の温度に関する境界値問題を表す上記(52)式を解くことにより得られた値を、上記(60)式に代入することにより、流体相36の等価体積弾性率を算出する。
【0161】
ステップS102と同様に、第1の計算及び第2の計算は静的な計算であるため1つの値が算出される。また、第3の計算及び第4の計算は動的な計算であるため、周波数毎に値が算出される。なお、第3の計算は、テンソルで求められる。
【0162】
ステップS106では、ステップS102におけるミクロスケール解析の結果に基づいて、固体相34の代表変形モード及び流体相36の代表流速モードを算出し、記憶部15に記憶する。
【0163】
固体相34の代表変形モードは6つあり、X方向、Y方向、Z方向、XY方向、YZ方向、ZX方向の各方向のせん断に関する代表変形モードである。図7には、6つの代表変形モードのうちの2つの代表変形モードを表した図を示した。
【0164】
また、流体相36の代表流速モードは3つあり、X方向、Y方向、Z方向の各方向の代表流速モードである。図8には、3つの代表流速モードのうちの2つの代表流速モードを表した図を示した。
【0165】
なお、代表モードの線形結合により、実際のミクロ変形モードを表すことができる。また、代表モードを線形結合するときの重みがマクロスケールにおけるひずみや相対速度となる。
【0166】
ステップS108では、ステップS104で算出した7種類の均質化特性に基づいて、評価対象のマクロモデルについてマクロスケール解析を行う。評価対象のマクロモデルは、評価すべき音響特性に合わせたマクロモデルを組み合わせたものを用いる。
【0167】
図9には、評価すべき音響特性が垂直入射吸音率の場合におけるマクロモデルの一例を示した。図9に示すマクロモデル50は、1次元の管モデルであり、多孔質吸音材モデル51、空気モデル52、及びスピーカーモデル53を含む。
【0168】
多孔質吸音材モデル51の材料特性にステップS104で求めた均質化特性を適用する。
【0169】
空気モデル52は、媒質が空気の音響空間を表している。
【0170】
スピーカーモデル53は、音響により加振するスピーカーの弾性振動板を表している。
【0171】
また、図10には、評価すべき音響特性が垂直入射音響透過損失の場合におけるマクロモデルの一例を示した、図10に示すマクロモデル60も図9に示したマクロモデル50と同様に1次元の管モデルであり、多孔質吸音材モデル61、空気モデル62、及びスピーカーモデル63を含む。
【0172】
ステップS108では、まず次数毎のミクロスケールにおける支配方程式を導出する。すなわち、固体相34の支配方程式である上記(1)式、流体相36の流れ場の支配方程式である上記(6)式、流体相36の温度場の支配方程式である上記(9)式の各々について、次数毎の支配方程式を各々導出する。
【0173】
そして、各々導出した支配方程式を平均化することによりマクロスケールにおける支配方程式を導出し、導出したマクロスケールにおける支配方程式に対してGalerkin法を適用し、下記式に示す支配方程式の弱形式を導出する。
【0174】

・・・(61)
【0175】
そして、上記(61)式を解くことによりマクロスケール解析を実行する。
【0176】
なお、上記(61)式は、マトリックスを用いて以下のように表すこともできる。
【0177】

・・・(62)
【0178】
ここで、上記マクロスケール解析は動的解析であり、所望の周波数範囲及び周波数分解能で計算する。均質化特性を計算していない周波数については、近接する周波数におけるデータから内挿または外挿して近似的に求める。
【0179】
上記のマクロスケール解析により、固体相34のマクロスケールにおける変位及びひずみ、流体相36のマクロスケールにおける音圧等が得られる。
【0180】
ステップS110では、ステップS108のマクロスケール解析結果に基づいて、多孔質吸音材20の音響性能をJIS規格に定められた方法により算出する。音響性能としては、例えば吸音率、音響透過損失、音響放射効率、散逸エネルギーの分布、及び散逸エネルギーの寄与度等が挙げられるが、これらに限られるものではない。これらの音響性能は、例えばJIS規格に定められた方法により算出する。
【0181】
ステップS112では、ミクロスケールとマクロスケールとの対応関係を表すミクロ-マクロ関係式を用いて、マクロスケールの応答からミクロスケールの応答を算出するローカル解析を実行する。
【0182】
具体に前述した漸近展開により得られた上記(33)式、(44)式、(45)式、(50)式に、ステップS108のマクロスケール解析により得られた固体相34のマクロスケールにおける変位

と、固体相34のマクロスケールにおけるひずみ

と、流体相36のマクロスケールにおける音圧

と、ステップS102のミクロスケール解析により得られた

を代入する。これにより、固体相34のミクロスケールにおける変位

と、流体相36のミクロスケールにおける流速

と、流体相36のミクロスケールにおける音圧

と、流体相36の温度変動

と、が算出される。
【0183】
なお、多孔質吸音材20の材料は変更せずに、形状及び厚さの少なくとも一方を変更する場合は、マクロモデルを変更してマクロスケール解析のみを再度実行すればよい。これにより、計算時間のかかるミクロスケール解析を再度実行しなくても済む。
【0184】
ステップS114では、ステップS110で算出した固体相34のミクロスケールにおける変位に基づいて、ユニットセルモデル30の固体相34の変形を可視化した図、例えば図7に示すような図を生成し、表示部13に表示させる。
【0185】
また、ステップS110で算出した流体相36のミクロスケールにおける流速に基づいて、ユニットセルモデル30の流体相36の粒子速度分布を可視化した図、例えば図8に示すような図を生成し、表示部13に表示させる。
【0186】
また、ステップS110で算出した流体相36のミクロスケールにおける音圧に基づいて、ユニットセルモデル30の流体相36の音圧分布を可視化した図を生成し、表示部13に表示させる。
【0187】
また、ステップS110で算出した流体相36の温度変動に基づいて、ユニットセルモデル30の流体相36の温度分布を可視化した図を生成し、表示部13に表示させる。
【0188】
このように、本実施形態では、多孔質吸音材20の内部における複雑な現象を精度良くモデル化して音響性能を算出するため、多孔質吸音材20の音響性能を精度良く算出することができる。
【0189】
なお、本実施形態では、音響性能算出プログラム15Aが記憶部15に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。音響性能算出プログラム15Aは、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、音響性能算出プログラム15Aは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0190】
10 音響性能算出装置
11 コントローラ
15A 音響性能算出プログラム
15B ユニットセルモデルデータ
20 多孔質吸音材
30 ユニットセルモデル
32 ボクセル
34 固体相
36 流体相
41 取得部
42 ミクロスケール解析部
43 均質化特性算出部
44 マクロスケール解析部
45 音響性能算出部
46 ローカル解析部
47 解析結果出力部
50 マクロモデル
51 多孔質吸音材モデル
52 空気モデル
53 スピーカーモデル
60 マクロモデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10