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特開2022-35395カルボキシメチルセルロースを含有する揚げ物用油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035395
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】カルボキシメチルセルロースを含有する揚げ物用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220225BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139692
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】山中 瑞貴
(72)【発明者】
【氏名】柿本 健一
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 永生
(72)【発明者】
【氏名】井上 賀美
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 涼平
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC04
4B026DG04
4B026DL03
4B026DP01
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】揚げ物用油脂組成物の、種物を油ちょうする際の熱酸化による極性物質の生成を抑制する方法を提供する。
【解決手段】種物を油ちょうする際の熱酸化による極性物質の生成を抑制する揚げ物用油脂組成物である。前記揚げ物用油脂組成物はカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする、油脂組成物である。前記揚げ物用油脂組成物に含まれるカルボキシメチルセルロースの濃度は、1質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましい。前記揚げ物用油脂組成物を用いて油ちょうした揚げ物では、熱酸化による極性物質の生成が抑制されているため、食品として好適に利用される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースを含有する揚げ物用油脂組成物。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースの濃度が、1質量ppm以上100質量ppm以下である請求項1に記載の前記揚げ物用油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記揚げ物油脂組成物を用いた揚げ物。
【請求項4】
揚げ物用油脂組成物を用いて種物を油ちょうする際に、前記油脂組成物がカルボキシメチルセルロースを含有していることを特徴とする前記油脂組成物中の極性物質の生成を抑制する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロースを含有する揚げ物用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物用油脂組成物を用いて種物を油ちょうする際に、揚げ物の品質を好適にすること、および使用する揚げ物用油脂組成物の熱酸化による劣化を抑制し、揚げ物の栄養価値を高めることは重要である。
【0003】
揚げ物用油脂組成物の加熱時の変化は、高温で反応が進むため、その反応速度が高く、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、遊離脂肪酸、過酸化物が瞬間的に生成する。また、過酸化物が分解して各種ラジカルが生成し、当該ラジカル同士が結合して重合物などが生成する。これらを総称して、極性物質という。このうち、前記重合物は、常温で進行する酸化反応である自動酸化反応により生成する重合物のように酸素を含んだものでなく、炭素-炭素結合によるグリセリド二量体やグリセリド三量体が主として生ずる。特にグリセリド二量体は、消化管内での加水分解によるグリセリド間の結合の切断が難しく、そのままの状態で体内に吸収されると健康に悪影響を及ぼすと考えられている。よって、健康の観点から、なんらかの手段で極性物質を減らすことが望ましい。
【0004】
前記重合物は、ヘキサン・ジエチルエーテルを移動相としたシリカゲルカラムクロマログラフィーにより、高極性分画として分離することができる。また、オイルテスター等でも簡易に測定できる。前記重合物を含む極性物質の量は、たとえばヨーロッパ諸国においては公的な揚げ物用油脂組成物の劣化指標として、よく使用されている。
【0005】
たとえば、特許文献1では、合成抗酸化剤のButyyl hydroxyl anisolや天然抗酸化剤のトコフェロール等に極性物質の生成を抑制する効果があると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】和田俊、マテリアルライフ、5[3]、52-6(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の揚げ物用油脂組成物では、種物を油ちょうする際の熱酸化による極性物質の生成抑制において、十分に満足できるものとは言えなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、種物を油ちょうする際に、熱酸化による極性物質の生成が抑制される揚げ物用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱酸化による極性物質の生成が抑制される揚げ物用油脂組成物を見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
カルボキシメチルセルロースを含有する揚げ物用油脂組成物。
[2]
前記カルボキシメチルセルロースの濃度が、1質量ppm以上100質量ppm以下である[1]に記載の前記揚げ物用油脂組成物。
[3]
[1]又は[2]に記載の前記揚げ物油脂組成物を用いた揚げ物。
[4]
揚げ物用油脂組成物を用いて種物を油ちょうする際に、前記油脂組成物がカルボキシメチルセルロースを含有していることを特徴とする前記油脂組成物中の極性物質の生成を抑制する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、熱酸化による極性物質の生成が抑制される揚げ物用油脂組成物を提供する。当該揚げ物用油脂組成物はカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明は、前記揚げ物用油脂組成物で油ちょうすることで、極性物質の生成が抑制された揚げ物を提供する。
【0012】
このような極性物質の抑制効果は、たとえば、オイルテスター等、定量性の担保された極性物質の分析試験法などによって、客観的に判定し得る。実務的にはフライ油テスターにより簡便に極性物質の濃度を測定し、極性物質の抑制効果を客観的に判定し得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、熱酸化による極性物質の生成が抑制される油脂組成物であって、前記油脂組成物はカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする、揚げ物用油脂組成物である。
【0014】
前記油脂組成物は、食用油脂を主成分とするが、前記食用油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、落花生油、パーム核油、ヤシ油、米胚芽油等の植物油脂、牛脂、豚脂、鶏脂、魚油、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド、あるいはこれら油脂に分別、硬化、エステル交換等の加工工程を1また2以上施した加工油脂などが挙げられる。これらの食用油脂は、1種類を単品で用いてもよく、あるいは2種類以上が混合されたものを用いてもよい。
【0015】
前記油脂組成物に含まれるカルボキシメチルセルロースは、セルロースの誘導体であり、セルロースの骨格を構成するグルコピラノースモノマーのヒドロキシ基の一部にカルボキシメチル基を結合させたものである。
【0016】
前記油脂組成物に含まれるカルボキシメチルセルロースの濃度は、特に制限はないが、たとえば1質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましく、2質量ppm以上50質量ppm以下であることがより好ましく、5質量ppm以上10質量ppm以下であることがさらにより好ましい。
【0017】
本発明は、前記油脂組成物で油ちょうした揚げ物を提供する。揚げ物としては、たとえば、フライドチキン、から揚げ、コロッケ、天ぷら、とんかつ、ポテトフライ、スナック菓子などが挙げられる。そのうち、フライドチキン、から揚げ、とんかつが好ましく、フライドチキン、から揚げがより好ましい。
【0018】
本発明は、揚げ物用油脂組成物を用いて種物を油ちょうする際に、前記油脂組成物にカルボキシメチルセルロースを含有させることを特徴とする前記油脂組成物中の極性物質の生成を抑制する方法である。
【0019】
前記油脂組成物による油ちょう時の加熱温度は、特に制限はなく、種物に合わせて調整すればよいが、たとえば150℃以上210℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましく、170℃以上190℃以下がさらにより好ましい。
【0020】
前記油脂組成物による油ちょう時の加熱時間は、特に制限はなく、種物に合わせて調整すればよいが、たとえば10秒以上10時間以下であることが好ましく、10秒以上5時間以下であることがより好ましく、10秒以上1時間以下であることがさらにより好ましい。
【実施例0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0022】
〔油脂組成物に含まれる食用油脂〕
以下に、本実施例において用いた食用油脂を挙げる。
・キャノーラ油:さらさらキャノーラ、株式会社J-オイルミルズ製
【0023】
〔カルボキシメチルセルロース〕
以下に、本実施例において用いたカルボキシメチルセルロースを挙げる。
・カルボキシメチルセルロースナトリウム:CMCダイセル1140、ダイセルミライズ株式会社製
【0024】
<試験例1>
〔加熱試験〕
2Lの丸底三口フラスコ(以下、三口フラスコという)に、キャノーラ油に対するカルボキシメチルセルロースの濃度が10質量ppmになるよう、キャノーラ油1000g、カルボキシメチルセルロース10mgを投入した。三口フラスコの主管に撹拌棒、側管に温度計と通気用チューブをそれぞれ取り付けた。通気用チューブはサンプル油の油面から1cm上方になるよう設定し、空気を500mL/minの通気量の設定で吹き込んだ。加熱前にサンプル油を300rpmで1分間撹拌し、カルボキシメチルセルロースを分散させた。その後、80rpmで攪拌しながら180℃に加熱し、保温しながら5時間加熱攪拌し、実施例1のサンプル油とした。三口フラスコの加熱にはマントルヒーター(大科電器株式会社製)を用いた。なお、カルボキシメチルセルロースを含まないキャノーラ油1000gを上記の条件で加熱したサンプル油を比較例1とした。
【0025】
〔極性物質の測定〕
加熱して24時間以上放置した実施例1、比較例1、未加熱のサンプル油をステンレスジョッキに移し、100℃まで加熱した。達温後、フライ油テスターtesto270(株式会社テストー製)を用いて極性物質(以下、PCという)を測定した。なお、未加熱のサンプル油と加熱したサンプル油のPCの差を、PCの増加量とした。その結果、表1のようにカルボキシメチルセルロースを含まない比較例1のサンプル油と比較して、カルボキシメチルセルロースを添加した実施例1のサンプル油ではPCの生成が1.5%抑制された。以上の結果より、カルボキシメチルセルロースを含む試験油では熱酸化によるPCの生成が抑制されることが明らかとなった。
【0026】
【表1】