(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035954
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】N-Boc-ラクタム誘導体及びその製造方法、並びに、環状アミン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 209/46 20060101AFI20220225BHJP
C07D 209/44 20060101ALI20220225BHJP
C07C 271/16 20060101ALI20220225BHJP
C07C 269/06 20060101ALI20220225BHJP
C07C 271/14 20060101ALI20220225BHJP
C07C 309/66 20060101ALI20220225BHJP
C07C 303/28 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C07D209/46
C07D209/44
C07C271/16
C07C269/06
C07C271/14
C07C309/66
C07C303/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031546
(22)【出願日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020139763
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
【テーマコード(参考)】
4C204
4H006
【Fターム(参考)】
4C204AB01
4C204BB04
4C204CB04
4C204DB03
4C204DB30
4C204EB02
4C204EB03
4C204FB01
4C204FB27
4C204GB24
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC30
4H006AC41
4H006AC56
4H006AC61
4H006BB12
4H006BB14
4H006BE23
4H006RA06
4H006RB34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】N-Boc-ラクタム誘導体、N-Boc-アルコール誘導体、N-Boc-アミン誘導体、及び、環状アミン誘導体の効率的な製造方法、並びに、新規な化合物であるN-Boc-ラクタム誘導体、N-Boc-アルコール誘導体、及びN-Boc-アミン誘導体を提供する。
【解決手段】下記式(II)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体が提供される。
式(II)において、Bocは、t-ブトキシカルボニル基である。R
1及びR
2は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に特定の環を形成してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(II)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体:
【化1】
前記式(II)において、
Bocは、t-ブトキシカルボニル基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子であり、
前記R
1及びR
2は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、前記環は、置換基を有してもよい環員数6~20の芳香族環、置換基を有してもよい環員数3~20の脂環式炭化水素環、又は置換基を有してもよい環員数3~20の複素環であり、
R
3及びR
4は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子であり、
mは、0以上6以下であり、
nは、0以上6以下である。
【請求項2】
請求項1に記載のN-Boc-ラクタム誘導体の製造方法であって、
下記式(I)に表されるラクタム誘導体とt-ブトキシカルボニル化剤とを接触させて、前記式(II)に表されるN-Boc-ラクタム誘導体を得ることを含む、N-Boc-ラクタム誘導体の製造方法:
【化2】
前記式(I)において、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(II)のものと同義である。
【請求項3】
酸存在下、
請求項1に記載のN-Boc-ラクタム誘導体を還元して、下記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることを含む、環状アミン誘導体の製造方法:
【化3】
前記式(V)において、Boc、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(II)のものと同義である。
【請求項4】
前記酸存在下、
請求項1に記載のN-Boc-ラクタム誘導体と、水素化ホウ素アルカリ金属塩を含む還元剤と、を接触させることにより前記N-Boc-ラクタム誘導体を還元して、前記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることを含む、
請求項3に記載の環状アミン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記N-Boc-ラクタム誘導体1モルに対して、前記還元剤を、1モル以上5モル以下使用する、
請求項4に記載の環状アミン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記酸は、三フッ化ホウ素エーテル錯体を含む、
請求項3~5のいずれか1項に記載の環状アミン誘導体。
【請求項7】
前記還元剤1モルに対して、前記酸を、0.5モル以上1.5モル以下使用する、
請求項3~6のいずれか1項に記載の環状アミン誘導体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のN-Boc-ラクタム誘導体を還元して、下記式(III)で表されるN-Boc-アルコール誘導体を得ることを含む、N-Boc-アルコール誘導体の製造方法:
【化4】
前記式(III)において、Boc、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(II)のものと同義である。
【請求項9】
下記式(III)で表されるN-Boc-アルコール誘導体:
【化5】
前記式(III)において、
Bocは、t-ブトキシカルボニル基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子であり、
前記R
1及びR
2は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、前記環は、置換基を有してもよい環員数6~20の芳香族環、置換基を有してもよい環員数3~20の脂環式炭化水素環、又は置換基を有してもよい環員数3~20の複素環であり、
R
3及びR
4は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子であり、
mは、0以上6以下であり、
nは、0以上6以下である。
【請求項10】
請求項9に記載のN-Boc-アルコール誘導体と、脱離基含有化合物とを接触させて、下記式(IV)で表されるN-Boc-アミン誘導体を得ることを含む、N-Boc-アミン誘導体の製造方法:
【化6】
前記式(IV)において、
Boc、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(III)のものと同義であり、
Zは、前記脱離基含有化合物に由来する脱離基である。
【請求項11】
下記式(IV)で表されるN-Boc-アミン誘導体:
【化7】
前記式(IV)において、
Bocは、t-ブトキシカルボニル基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子であり、
前記R
1及びR
2は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、前記環は、置換基を有してもよい環員数6~20の芳香族環、置換基を有してもよい環員数3~20の脂環式炭化水素環、又は置換基を有してもよい環員数3~20の複素環であり、
R
3及びR
4は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子であり、
mは、0以上6以下であり、
nは、0以上6以下であり、
Zは、脱離基である。
【請求項12】
請求項11に記載のN-Boc-アミン誘導体と、塩基とを接触させて、下記式(V)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることを含む、N-Boc-環状アミン誘導体の製造方法:
【化8】
前記式(V)において、Boc、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(IV)のものと同義である。
【請求項13】
請求項3~7又は請求項12に記載の方法により、前記式(V)で示されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造した後、得られた前記N-Boc-環状アミン誘導体と塩基脱Boc剤とを接触させて、下記式(VI)で表される環状アミン誘導体を得ることを含む、環状アミン誘導体の製造方法:
【化9】
前記式(VI)において、Boc、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(IV)のものと同義である。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により、前記式(VI)で示される環状アミン誘導体を製造した後、得られた前記環状アミン誘導体とトリチル化剤とを反応させることにより、下記式(VII)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体を得ることを含む、環状アミン誘導体の製造方法:
【化10】
前記式(VI)において、Boc、R
1、R
2、R
3、R
4、m、及びnは、前記式(IV)のものと同義である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-Boc-ラクタム誘導体及びその製造方法、N-Boc-アルコール誘導体及びその製造方法、N-Boc-アミン誘導体及びその製造方法、並びに、環状アミン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(VI’)で表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンは、種々の医薬品の製造中間体として用いられる有用な化合物である(特許文献1及び2)。
【0003】
【0004】
特許文献2には、トリフルオロボランエーテル錯体及び反応溶媒存在下、下記式(I’)で表される(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンを、水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元することにより、上記(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンが得られることが記載されている。
【0005】
【0006】
また、特許文献2には、反応溶媒及びトリエチルアミン存在下、(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンと、二炭酸ジ-tert-ブチルとを接触させることにより、下記式(V’)で表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリン-2-カルボン酸tert-ブチルが得られることが記載されている。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6025370号明細書
【特許文献2】国際公開2014/146490号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、N-Boc-ラクタム誘導体、N-Boc-アルコール誘導体、N-Boc-アミン誘導体、及び、環状アミン誘導体の高収率な製造方法、並びに、新規な化合物であるN-Boc-ラクタム誘導体、N-Boc-アルコール誘導体、及びN-Boc-アミン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態によると、下記式(II)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体が提供される。
【0011】
【0012】
式(II)において、Bocは、t-ブトキシカルボニル基である。R1及びR2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子である。R1及びR2は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよい。環は、置換基を有してもよい環員数6~20の芳香族環、置換基を有してもよい環員数3~20の脂環式炭化水素環、又は置換基を有してもよい環員数3~20の複素環である。R3及びR4は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子である。mは、0以上6以下である。nは、0以上6以下である。
【0013】
他の実施形態によると、実施形態に係るN-Boc-ラクタム誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、下記式(I)に表されるラクタム誘導体とt-ブトキシカルボニル化剤とを接触させて、式(II)に表されるN-Boc-ラクタム誘導体を得ることを含む。
【0014】
【0015】
式(I)において、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(II)のものと同義である。
【0016】
他の実施形態によると、実施形態に係る環状アミン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、酸存在下、上記式(II)に記載のN-Boc-ラクタム誘導体を還元して、下記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることを含む。
【0017】
【0018】
式(V)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(II)のものと同義である。
【0019】
前記酸存在下、前記N-Boc-ラクタム誘導体と水素化ホウ素アルカリ金属塩を含む還元剤とを接触させることにより、前記N-Boc-ラクタム誘導体を還元することが好ましい。
【0020】
前記N-Boc-ラクタム誘導体1モルに対して、前記還元剤を、1モル以上5モル以下使用することが好ましい。
【0021】
前記酸は、三フッ化ホウ素エーテル錯体を含むことが好ましい。また、前記還元剤1モルに対して、前記酸を、0.5モル以上1.5モル以下使用することがより好ましい。
【0022】
他の実施形態によると、下記式(III)で表されるN-Boc-アルコール誘導体が提供される。
【0023】
【0024】
式(III)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(II)のものと同義である。
【0025】
他の実施形態によると、N-Boc-アルコール誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、実施形態に係るN-Boc-ラクタム誘導体を還元して、上記式(III)で表されるN-Boc-アルコール誘導体を得ることを含む。
【0026】
他の実施形態によると、下記式(IV)に表されるN-Boc-アミン誘導体が提供される。
【0027】
【0028】
式(IV)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(III)のものと同義である。Zは、脱離基である。
【0029】
他の実施形態によると、N-Boc-アミン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、実施形態に係るN-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物とを接触させて、上記式(IV)で表されるN-Boc-アミン誘導体を得ることを含む。
【0030】
他の実施形態によると、N-Boc-環状アミン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、実施形態に係るN-Boc-アミン誘導体と、塩基とを接触させて、下記式(V)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることを含む。
【0031】
【0032】
式(V)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(IV)のものと同義である。
【0033】
他の実施形態によると、前記実施形態により、前記式(V)で示されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造した後、得られた前記N-Boc-環状アミン誘導体と塩基脱Boc剤とを接触させて、下記式(VI)で表される環状アミン誘導体を得ることを含む。
【0034】
【0035】
式(VI)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(IV)のものと同義である。
【0036】
他の実施形態によると、前記の方法により、前記式(VI)で示される環状アミン誘導体を製造した後、得られた前記環状アミン誘導体とトリチル化剤とを反応させることにより、下記式(VII)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体を得ることを含む。
【0037】
【0038】
式(VI)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(IV)のものと同義である。
【発明の効果】
【0039】
実施形態によると、N-Boc-ラクタム誘導体、N-Boc-アルコール誘導体、N-Boc-アミン誘導体、及び、環状アミン誘導体の高収率な製造方法、並びに、新規な化合物であるN-Boc-ラクタム誘導体、N-Boc-アルコール誘導体、及びN-Boc-アミン誘導体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
上述した通り、特許文献2には、トリフルオロボランエーテル錯体(三フッ化ホウ素エーテル錯体)及び反応溶媒存在下、上記式(I’)で表す(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンを、水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元することにより、上記式(VI’)で表す(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンが得られることが記載されている。この際、3.5mmolの(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンに対する水素化ホウ素ナトリウム及びトリフルオロボランエーテル錯体の使用量は、それぞれ、31.8mmol及び42.4mmolである。すなわち、(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンは、還元しにくいため、その還元のためには、過剰な量のルイス酸及び還元剤が必要である。それゆえ、この方法は、安全性が低く、コストが高いという問題がある。また、収率が低いという問題があった。
【0041】
これらの問題について本発明者が鋭意研究したところ、上記式(I)に表されるラクタム誘導体において、ラクタム環の窒素をtert-ブトキシカルボニル基、すなわち、Boc基で保護することにより、得られた上記式(II)で表すN-Boc-ラクタム誘導体の還元反応が促進されることを見出した。すなわち、本発明者らは、ラクタム環の窒素をBoc基で保護することにより、このラクタム環のカルボニル基が活性化され、このカルボニル基部位の開環をともなう還元反応が促進されることを見出した。この理由は、Boc基が、保護基としての機能に加えて、電子求引基として機能し得えるためと考えられる。すなわち、ラクタム環においてBoc基で保護された窒素に隣接する炭素に結合するカルボニル基が、誘起効果により活性化され、還元・開環され易くなると推測される。したがって、この還元反応は、還元剤の種類を選ばず、また、比較的少量の還元剤で行うことができる。
【0042】
この還元反応により、上記式(III)で表されるN-Boc-アルコール誘導体を高収率で得られる。それゆえ、この式(III)で表されるN-Boc-アルコール誘導体から得られる上記式(IV)で表されるN-Boc-アミン誘導体、並びに、この式(IV)で表されるN-Boc-アミン誘導体から得られる上記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を高い収率で得ることができる。
【0043】
また、本発明者がさらに鋭意研究したところ、得られた上記式(II)で表すN-Boc-ラクタム誘導体を、特定の酸存在下で還元することにより、カルボニル基部位を開環する過程を経なくとも、式(II)で表すN-Boc-ラクタム誘導体から上記式(V)で表されるN-Boc-アミン誘導体を高い収率で得ることもできることをさらに見出した。以上のように、実施形態によると、ラクタム誘導体を出発物質とした環状アミン誘導体の新たな合成方法が提供され得る。
【0044】
以下、実施形態の詳細について説明する。
(N-Boc-ラクタム誘導体及びその製造方法)
N-Boc-ラクタム誘導体は、下記式(II)で表される化合物である。このN-Boc-ラクタム誘導体は、例えば、医薬品の製造中間体として使用される。
【0045】
【0046】
式(II)において、Bocは、t-ブトキシカルボニル基である。
【0047】
R1及びR2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子である。
【0048】
R1及びR2は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよい。環は、置換基を有してもよい環員数6~20の芳香族環、置換基を有してもよい環員数3~20の脂環式炭化水素環、又は置換基を有してもよい環員数3~20の複素環である。
【0049】
R1及びR2は、上記環を形成していることが好ましい。環は、芳香族環であることが好ましく、ベンゼン環であることがより好ましい。環は、置換基としてハロゲン原子を有していることが好ましい。ハロゲン原子は、フッ素、ヨウ素、塩素、及び臭素からなる群より選ばれる少なくとも1種である。環は、置換基として1以上のブロモ基を有していることが好ましく、1つのブロモ基を有していることがより好ましい。
【0050】
R3及びR4は、それぞれ、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素数1~6のハロアルキル基、置換基を有してもよい炭素数7~20のアラルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~20のアリール基、又はハロゲン原子である。
【0051】
R3は、アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。R4は、水素原子であることが好ましい。
【0052】
mは、0以上6以下である。mが2以上である場合、R3は、それぞれ、異なる官能基であってもよく、同一の官能基であってもよい。nは、0以上6以下である。nが2以上である場合、R4は、それぞれ、異なる官能基であってもよく、同一の官能基であってもよい。
【0053】
mは、1であることが好ましく、nは、0であることが好ましい。すなわち、ラクタム環は5員環であることが好ましい。
【0054】
このN-Boc-ラクタム誘導体は、下記式(I)に表されるラクタム誘導体とt-ブトキシカルボニル化剤とを接触させることにより得られる。以下、式(I)に表されるラクタム誘導体を、単にラクタム誘導体とも称する。また、t-ブトキシカルボニル化剤を、Boc化剤とも称する。ラクタム誘導体とBoc化剤とを接触させることによりラクタム環の窒素がBoc保護される。得られた化合物は、核磁気共鳴(NMR)分光分析により同定できる。
【0055】
【0056】
式(I)において、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(II)のものと同義である。
【0057】
ラクタム誘導体としては、市販のものを用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0058】
ラクタム誘導体の具体例としては、下記式(I’)で表される(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンが挙げられる。
【0059】
【0060】
この方法では、ラクタム誘導体として上記式(I’)で表される化合物を用いた場合、下記式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体が得られる。
【0061】
【0062】
ラクタム誘導体とBoc化剤との接触において、接触温度は、例えば、-10℃以上100℃以下とし、好ましくは、0℃以上40℃以下とする。接触時間は、例えば、30分以上120時間以下とし、好ましくは、1時間以上100時間以下とし、より好ましくは、30時間以上90時間以下とする。ラクタム誘導体とBoc化剤とは、接触時間の間、上記の接触温度に保たれた状態で攪拌されることが好ましい。
【0063】
1モルのラクタム誘導体に対するBoc化剤の量は、例えば、1モル以上5モル以下とし、好ましくは、1.5モル以上3モル以下とする。
【0064】
Boc化剤としては、市販されているものを用い得る。Boc化剤としては、二炭酸ジ-tert-ブチル((Boc)2O)を用いることが好ましい。
【0065】
ラクタム誘導体とBoc化剤との接触は、第1塩基存在下で行われることが好ましい。第1塩基が存在すると、ラクタム誘導体のBoc化が促進される。
【0066】
第1塩基としては、例えば、ピリジン、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、及びN,N-ジエチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第1塩基としては、DMAPを用いることが好ましい。
【0067】
1モルのラクタム誘導体に対する第1塩基の量は、例えば、0.0001モル以上5モル以下であり、好ましくは、0.001モル以上1モル以下であり、より好ましくは、0.05モル以上0.5モル以下である。
【0068】
また、1モルのBoc化剤に対する第1塩基の量は、例えば、0.0001モル以上5モル以下であり、好ましくは、0.001モル以上1モル以下であり、より好ましくは、0.01モル以上0.1モル以下である。
【0069】
ラクタム誘導体とBoc化剤との接触は、第1反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第1反応溶媒が存在すると、ラクタム誘導体のBoc化が促進される。第1反応溶媒を用いる場合、先ず、ラクタム誘導体を第1反応溶媒と混合して、混合液を調製し、これにBoc化剤等を加えることが好ましい。
【0070】
第1反応溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第1反応溶媒としては、塩化メチレン及びTHFからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0071】
1gのラクタム誘導体に対する第1反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、2mL以上20mL以下である。
【0072】
以上の方法で得られたN-Boc-ラクタム誘導体は、減圧濃縮した後、単離精製することなく、後述する式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造する製造方法の原料として用いてよい。また、N-Boc-ラクタム誘導体は、減圧濃縮した後、シリカゲルカラムを用いて精製されてもよい。なお、精製する場合は、シリカゲルカラムを用いる方法に限られず、再結晶等の公知の精製方法を採用してよい。
【0073】
次に、下記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造する方法を説明する。式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造する方法としては、[1]N-Boc-ラクタム誘導体中のラクタム環のカルボニル基部位を開環させる過程を経ることなくN-Boc-環状アミン誘導体を製造する方法(以下、「第1の製造方法」とも称する。)、又は[2]N-Boc-ラクタム誘導体中のラクタム環のカルボニル基部位を開環する過程を経てN-Boc-環状アミン誘導体を製造する方法(以下、「第2の製造方法」とも称する。)がある。以下、それぞれ詳細を説明する。
【0074】
[1]第1の製造方法
N-Boc-環状アミン誘導体は、下記式(V)で表される化合物である。N-Boc-環状アミン誘導体は、例えば、医薬品の製造中間体として使用される。
【0075】
【0076】
式(V)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(II)のものと同義である。
【0077】
このN-Boc-環状アミン誘導体は、酸存在下において、上記式(II)に表されるN-Boc-ラクタム誘導体を還元することにより得られる。得られた化合物は、NMR分光分析により同定できる。
【0078】
この方法では、N-Boc-ラクタム誘導体として上記式(II’)で表される化合物を用いた場合、下記式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体が得られる。
【0079】
【0080】
N-Boc-ラクタム誘導体の還元は、酸存在下において、N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤とを接触させることにより得られる。すなわち、酸存在下、N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤とを接触させることにより、N-Boc-ラクタム誘導体中のラクタム環のカルボニル基部位を開環させる過程を経ることなく、N-Boc-ラクタム誘導体中のカルボニル基を選択的かつ短時間で還元でき、N-Boc-ラクタム誘導体を得ることができる。ここで、第1還元剤は、本発明の「還元剤」の一例である。
【0081】
N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤との接触において、接触温度は、例えば、-20℃以上150℃以下とし、好ましくは、-15℃以上70℃以下とし、より好ましくは、-10℃以上50℃以下とする。接触時間は、例えば、30分以上24時間以下とし、好ましくは、1時間以上8時間以下とする。N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤とは、接触時間の間、上記の接触温度に保たれた状態で攪拌されることが好ましい。
【0082】
なお、接触温度は、段階的に分けて変化させてもよい。例えば、N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤とを、-20℃以上10℃以下の比較的低温で1分以上1時間以下にわたって反応させた後、この反応液を10℃より高く70℃以下まで加熱して1時間以上8時間以下にわたって更に反応させてもよい。
【0083】
1モルのラクタム誘導体に対する第1還元剤の量は、例えば、1モル以上7モル以下とし、好ましくは、1モル以上5モル以下とし、より好ましくは、2モル以上5モル以下とする。また、1モルのN-Boc-ラクタム誘導体に対する第1還元剤の量は、例えば、1モル以上7モル以下とし、好ましくは、1モル以上5モル以下とし、より好ましくは、2モル以上5モル以下とする。
【0084】
第1還元剤としては、水素化ホウ素アルカリ金属塩を用いる。水素化ホウ素アルカリ金属塩は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、及び水素化ホウ素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0085】
N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤との接触は、酸存在下で行われる。酸は、ルイス酸及びブレンステッド酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。ルイス酸は、三フッ化ホウ素エ-テル錯体、三塩化鉄、四塩化チタン、二塩化スズ、四塩化スズ、塩素、臭素、及びヨウ素を含む。ブレンステッド酸は、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、及びトリフルオロ酢酸を含む。酸としては、三フッ化ホウ素エ-テル錯体及び硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、三フッ化ホウ素エ-テル錯体を用いることがより好ましい。三フッ化ホウ素エ-テル錯体は、好ましくは、三フッ化ホウ素ジエチルエ-テル錯体(BF3・OEt2)である。
【0086】
1モルの第1還元剤に対する酸の量は、例えば、0.1モル以上2モル以下とし、好ましくは、0.5モル以上1.5モル以下とする。なお、この酸の使用量は、酸そのものの量(モル数)である。例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエ-テル錯体(BF3・OEt2)を使用した場合には、三フッ化ホウ素ジエチルエ-テル錯体そのものの使用量(モル数)であり、硫酸(H2SO4)を使用した場合には、硫酸そのものの使用量(モル数)である。
【0087】
この製造方法においては、比較的少量の酸で、ラクタム環のカルボニル基部位を開環させることなく、N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応を行うことができる。
【0088】
N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤との接触は、第2反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第2反応溶媒が存在すると、N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応が促進される。
【0089】
第2反応溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、THF(テトラヒドロフラン)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第2反応溶媒としては、THFを含む溶媒を用いることが好ましい。THFは、上述した第1還元剤と酸とから生じる、還元に用いられるボラン化合物(BH3)に配位することにより、BH3を適度に安定化させ還元をより促進することができると考えられるためである。
【0090】
1gのラクタム誘導体に対する第2反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、2mL以上30mL以下である。また、1gのN-Boc-ラクタム誘導体に対する第2反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、2mL以上20mL以下である。
【0091】
各成分を接触させる方法は、特に制限されるものではない。例えば、撹拌機構を備えた反応容器内に、各成分を投入して混合してよい。各成分を混合することにより、酸存在下、N-Boc-ラクタム誘導体と第1還元剤とを接触させることができる。各成分を反応容器内に投入する手順は、特に制限されない。
【0092】
例えば、第2反応溶媒に第1還元剤を溶解させて第1還元剤溶液を調整し、この第1還元剤溶液と酸とを混合し、得られた混合物とN-Boc-ラクタム誘導体とを混合することにより、各成分を接触させてもよい。この場合、第1還元剤溶液と酸との混合物は、該混合物とN-Boc-ラクタム誘導体とを混合する前に、第1還元剤溶液と酸とを十分に混合するために、例えば、10分以上1時間以内にわたって攪拌してもよい。
【0093】
また、例えば、第2反応溶媒にN-Boc-ラクタム誘導体を溶解させてN-Boc-ラクタム誘導体溶液を調整し、このN-Boc-ラクタム誘導体溶液と第1還元剤とを混合し、得られた混合物と酸とを混合することにより、各成分を接触させてもよい。この場合、N-Boc-ラクタム誘導体溶液と第1還元剤との混合物は、該混合物と酸とを混合する前に、N-Boc-ラクタム誘導体溶液と第1還元剤とを十分に混合するために、例えば、10分以上1時間以内にわたって攪拌してもよい。
【0094】
酸を混合する場合、必要に応じて酸を第2反応溶媒に溶解して調整した酸溶液を混合してもよい。この場合、酸溶液を滴下することにより混合してもよい。なお、酸は、一気に滴下する方法に限られず、例えば、1分以上30分以下の時間をかけて加えてもよい。この酸を加えるときの第1還元剤溶液、あるいはN-Boc-ラクタム誘導体溶液と第1還元剤との混合物の温度は、例えば、-20℃以上30℃以下としてよい。
【0095】
N-Boc-ラクタム誘導体を混合する場合、必要に応じてN-Boc-ラクタム誘導体を第2反応溶媒に溶解して調整したN-Boc-ラクタム誘導体溶液を混合してもよい。この場合、N-Boc-ラクタム誘導体溶液を滴下することにより混合してもよい。このN-Boc-ラクタム誘導体を加えるときの第1還元剤溶液と酸との混合物の温度は、例えば、-15℃以上0℃以下としてよい。
【0096】
N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応終了後、得られたN-Boc-環状アミン誘導体は、下記の方法で取り出されることが好ましい。
先ず、N-Boc-環状アミン誘導体を含む反応液に、水を加えた後、水酸化ナトリウム(NaOH)等のpH調整剤を加える。反応液に酢酸エチルをさらに加えて、有機層と水層とに分離させる。有機層を抽出した後、これを、水、飽和重曹水、食塩水等を用いて洗浄する。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウム等を加えて脱水した後、減圧濃縮することにより、N-Boc-環状アミン誘導体を含む生成物が得られる。この生成物を、シリカゲルカラムを用いて精製してもよい。
【0097】
該第1の製造方法によれば、N-Boc-環状アミン誘導体とともに、該N-Boc-環状アミン誘導体からBocが外れた環状アミン誘導体が副生成物として生成される場合がある。また、この副生成物は、該環状アミン誘導体にホウ素原子が結合しているものも含まれると考えられる。ただし、これら副生成物は、その後の脱Boc化、およびN-トリチル化反応に寄与するものもあれば、反応を阻害するものもある。本発明者等の検討によれば、該副生成物は反応を阻害する場合が多いため、その生成量をなるべく低減することが好ましい。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の面積比ではあるが、N-Boc-環状アミン誘導体のピーク面積を100とした場合、該副生成物のピーク面積は80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。なお、副生成物の生成量の下限値は、前記ピーク面積が0となることが最も好ましい。ただし、工業的な生産を考えた場合、副生成物の生成量の下限値は、前記ピーク面積5%である。
【0098】
[2]第2の製造方法
次に、N-Boc-環状アミン誘導体を製造する第2の製造方法について説明する。この第2の製造方法は、N-Boc-ラクタム誘導体中のラクタム環のカルボニル基部位を開環させる過程を経てN-Boc-環状アミン誘導体を製造する。具体的には、上記式(II)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体から、後述する式(III)で表され、ラクタム環のカルボニル基部位が開環されたN-Boc-アルコール誘導体を製造し、このN-Boc-アルコール誘導体から、後述する式(IV)で表されるN-Boc-アミン誘導体を製造し、このN-Boc-アミン誘導体から、式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を順に製造する。以下、順に説明する。
【0099】
(N-Boc-アルコール誘導体及びその製造方法)
N-Boc-アルコール誘導体は、下記式(III)で表される化合物である。このN-Boc-アルコール誘導体は、例えば、医薬品の製造中間体として使用される。
【0100】
【0101】
式(III)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(II)のものと同義である。
【0102】
このN-Boc-アルコール誘導体は、上記式(II)に表されるN-Boc-ラクタム誘導体を還元することにより得られる。すなわち、N-Boc-ラクタム誘導体を還元することにより、ラクタム環のカルボニル基部位が開環される。得られた化合物は、NMR分光分析により同定できる。
【0103】
この方法では、N-Boc-ラクタム誘導体として上記式(II’)で表される化合物を用いた場合、下記式(III’)で表されるN-Boc-アルコール誘導体が得られる。
【0104】
【0105】
N-Boc-ラクタム誘導体の還元は、例えば、N-Boc-ラクタム誘導体と第2還元剤とを接触させることにより行われる。
【0106】
N-Boc-ラクタム誘導体と第2還元剤との接触において、接触温度は、例えば、-70℃以上80℃以下とし、好ましくは、-20℃以上60℃以下とし、より好ましくは、0℃以上40℃以下とする。接触時間は、例えば、30分以上48時間以下とし、好ましくは、1時間以上30時間以下とし、より好ましくは、10時間以上24時間以下とする。N-Boc-ラクタム誘導体と第2還元剤とは、接触時間の間、上記の接触温度に保たれた状態で攪拌されることが好ましい。
【0107】
1モルのN-Boc-ラクタム誘導体に対する第2還元剤の量は、例えば、0.1モル以上10モル以下とし、好ましくは、0.1モル以上5モル以下とし、より好ましくは、0.5モル以上2モル以下とする。この製造方法においては、ラクタム環の窒素がBoc保護されているため、比較的少量の還元剤で、N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応を行うことができる。
【0108】
第2還元剤としては、例えば、水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素アルカリ土類金属塩、ジイソブチルアルミニウムヒドリド(DIBAL-H)、リチウムアルミニウムヒドリド(LAH)、及び水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(Vitride)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。
【0109】
水素化ホウ素アルカリ金属塩は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、及び水素化ホウ素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。水素化ホウ素アルカリ土類金属塩は、水素化ホウ素カルシウムを含む。
【0110】
この製造方法においては、ラクタム環の窒素がBoc保護されているため、上記のような比較的安全性の高い還元剤で、N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応を行うことができる。
【0111】
第2還元剤としては、水素化ホウ素カルシウムを用いることが好ましい。水素化ホウ素カルシウムは、安全性が高く、かつ、コストが低い物質である。水素化ホウ素カルシウムは、カルシウムのハロゲン化物と、水素化ホウ素の1価の金属塩とを反応溶媒中で反応させることにより調製できる。水素化ホウ素の1価の金属塩としては、上述した水素化ホウ素アルカリ金属塩を用い得る。カルシウムのハロゲン化物としては、例えば、塩化カルシウム(CaCl2)を用い得る。反応溶媒としては、例えば、エタノール等の炭素数1以上4以下のアルコール類を用い得る。1モルのカルシウムのハロゲン化物に対する、水素化ホウ素の1価の金属塩の量は、例えば、2モルとする。得られた水素化ホウ素カルシウムは、上記方法で製造した後、単離することなく、そのまま使用することが好ましい。水素化ホウ素カルシウムは、不安定な物質であるためである。なお、水素化ホウ素カルシウムは、精製して使用してもよい。
【0112】
N-Boc-ラクタム誘導体と第2還元剤との接触は、第3反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第3反応溶媒が存在すると、N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応が促進される。
【0113】
第3反応溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第3反応溶媒としては、エタノール、塩化メチレン及びTHFからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0114】
1gのN-Boc-ラクタム誘導体に対する第3反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、2mL以上20mL以下である。
【0115】
なお、上記の方法で調製された水素化ホウ素カルシウムを、単離することなく用いる場合、水素化ホウ素カルシウムの調製のために用いた反応溶媒は、第3反応溶媒として機能し得る。
【0116】
N-Boc-ラクタム誘導体の還元反応終了後、得られたN-Boc-アルコール誘導体は、下記の方法で取り出されることが好ましい。
先ず、N-Boc-アルコール誘導体を含む反応液に、水及び第3反応溶媒の混合溶媒を加えた後、酢酸等のpH調整剤を加えて、反応液を有機層と水層とに分離させる。有機層を抽出した後、これを、水、飽和重曹水、食塩水等を用いて洗浄する。洗浄後の有機層に、硫酸マグネシウム等を加えて脱水した後、減圧濃縮することにより、N-Boc-アルコール誘導体の生成物が得られる。
【0117】
(N-Boc-アミン誘導体及びその製造)
N-Boc-アミン誘導体は、下記式(IV)で表される化合物である。N-Boc-アミン誘導体は、例えば、医薬品の製造中間体として使用される。
【0118】
【0119】
式(IV)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(III)のものと同義である。
【0120】
Zは、脱離基である。脱離基としては、例えば、メシロキシ基、トシロキシ基、又はハロゲン原子を用いる。ハロゲン原子としては、ヨウ素、臭素、又は塩素を用いることが好ましい。
【0121】
このN-Boc-アミン誘導体は、上記式(III)に表されるN-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物とを接触させることにより得られる。すなわち、N-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物とを接触させることにより、N-Boc-アルコール誘導体の水酸基部位に脱離基が導入される。得られた化合物は、NMR分光分析により同定できる。
【0122】
この方法では、N-Boc-アミン誘導体として上記式(III’)で表される化合物を用いた場合、下記式(IV’)で表されるN-Boc-アミン誘導体が得られる。下記式(IV’)において、Zは脱離基である。
【0123】
【0124】
N-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物との接触において、接触温度は、例えば、-10℃以上100℃以下とし、好ましくは、0℃以上80℃以下とし、より好ましくは、0℃以上20℃以下とする。接触時間は、例えば、6分以上24時間以下とし、好ましくは、30分以上17時間以下とし、より好ましくは、1時間以上10時間以下とする。N-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物とは、接触時間の間、上記の接触温度に保たれた状態で攪拌されることが好ましい。
【0125】
1モルのN-Boc-アルコール誘導体に対する脱離基含有化合物の量は、例えば、1モル以上10モル以下とし、好ましくは、1モル以上5モル以下とする。
【0126】
脱離基含有化合物としては、脱離基として、メシロキシ基、トシロキシ基、又はハロゲノ基を導入できるものを用いることが好ましい。メシロキシ基を導入できる脱離基含有化合物としては、例えば、メタンスルホニルクロリドが挙げられる。トシロキシ基を導入できる脱離基含有化合物としては、例えば、p-トルエンスルホニルクロリドが挙げられる。クロロ基を導入できる脱離基含有化合物としては、例えば、メタンスルホニルクロリド、p-トルエンスルホニルクロリド及び塩化チオニルが挙げられる、ブロモ基を導入できる脱離基含有化合物としては、例えば、臭化チオニルが挙げられる。
【0127】
脱離基含有化合物としては、上記のものを単独で用いてもよく、複数種類を用いてもよい。脱離基含有化合物としては、メタンスルホニルクロリド及び塩化チオニルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0128】
N-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物との接触は、第2塩基存在下で行われることが好ましい。第2塩基が存在すると、N-Boc-アルコール誘導体への脱離基の導入が促進される。第2塩基を用いる場合、先ず、第2塩基とN-Boc-アルコール誘導体とを混合して混合物を得た後、この混合物に脱離基含有化合物を加えることが好ましい。
【0129】
第2塩基としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、キノリン、及びN,N-ジエチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第2塩基としては、トリエチルアミンを用いることが好ましい。
【0130】
1モルのN-Boc-アルコール誘導体に対する第2塩基の量は、例えば、0.1モル以上10モル以下であり、好ましくは、0.5モル以上5モル以下であり、より好ましくは、1.5モル以上4モル以下である。
【0131】
また、1モルの脱離基含有化合物に対する第2塩基の量は、例えば、0.1モル以上5モル以下であり、好ましくは、0.1モル以上5モル以下であり、より好ましくは、0.5モル以上2モル以下である。
【0132】
N-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物との接触は、第4反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第4反応溶媒が存在すると、N-Boc-アルコール誘導体への脱離基の導入が促進される。第4反応溶媒を用いる場合、先ず、N-Boc-アルコール誘導体を第4反応溶媒と混合して、混合液を調製し、これに脱離基含有化合物等を加えることが好ましい。
【0133】
第4反応溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、ジメトキシエタン、及びジエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第4反応溶媒としては、塩化メチレン、THF、及びジエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0134】
1gのN-Boc-アルコール誘導体に対する第4反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、2mL以上20mL以下である。
【0135】
N-Boc-アルコール誘導体と脱離基含有化合物との接触は、複数回に分けて行われてもよい。例えば、先ず、半量のN-Boc-アルコール誘導体と、半量の脱離基含有化合物と、半量の第2塩基と、全量の第4反応溶媒とを混合し、一定温度で一定時間にわたって反応させて、混合物を得る。この混合物に、残部である半量のN-Boc-アルコール誘導体と、半量の脱離基含有化合物と、半量の第2塩基とを更に加え、一定温度で一定時間にわたって更に反応させて、脱離基が導入されたN-Boc-アミン誘導体を得る。この場合、上述した接触時間は、複数回に分けた接触時間の合計時間とする。各段階における接触時間は、それぞれ、同一時間であってもよく、異なっていてもよい。
【0136】
N-Boc-アルコール誘導体の脱離基導入反応終了後、得られたN-Boc-アミン誘導体は、下記の方法で取り出されることが好ましい。
先ず、N-Boc-アミン誘導体を含む反応液に、水及び第4反応溶媒の混合溶媒を加えて、反応液を有機層と水層とに分離させる。有機層を抽出した後、これを、水、飽和重曹水、食塩水等を用いて洗浄する。洗浄後の有機層に、硫酸マグネシウム等を加えて脱水した後、減圧濃縮することにより、N-Boc-アルコール誘導体の生成物が得られる。
【0137】
(N-Boc-環状アミン誘導体及びその製造方法)
N-Boc-環状アミン誘導体は、第1の製造方法説明したとおりである。具体的には、N-Boc-環状アミン誘導体は、下記式(V)で表される化合物である。N-Boc-環状アミン誘導体は、例えば、医薬品の製造中間体として使用される。
【0138】
【0139】
式(V)において、Boc、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(IV)のものと同義である。
【0140】
このN-Boc-環状アミン誘導体は、上記式(IV)に表されるN-Boc-アミン誘導体と第3塩基とを接触させることにより得られる。すなわち、N-Boc-アミン誘導体と第3塩基とを接触させることにより、N-Boc-アミン誘導体の脱離基が外れ、ラクタム環が形成される。得られた化合物は、NMR分光分析により同定できる。
【0141】
この方法では、N-Boc-アミン誘導体として上記式(IV’)で表される化合物を用いた場合、下記式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体が得られる。
【0142】
【0143】
N-Boc-アミン誘導体と第3塩基との接触において、接触温度は、例えば、-10℃以上100℃以下とし、好ましくは、0℃以上80℃以下とし、より好ましくは、0℃以上40℃以下とする。接触時間は、例えば、6分以上48時間以下とし、好ましくは、30分以上40時間以下とし、より好ましくは、10時間以上30時間以下とする。N-Boc-アミン誘導体と第3塩基とは、接触時間の間、上記の接触温度に保たれた状態で攪拌されることが好ましい。
【0144】
なお、接触温度は、段階的に分けて変化させてもよい。例えば、N-Boc-アミン誘導体と第3塩基とを、-10℃以上20℃以下の比較的低温で30分以上5時間以下にわたって反応させた後、この反応液を20℃より高く40℃以下まで加熱して10時間以上30時間以下にわたって更に反応させてもよい。
【0145】
また、第3塩基は、複数回に分けてN-Boc-アミン誘導体と接触させてもよい。例えば、全量のN-Boc-アミン誘導体に、5分の3の量の第3塩基を接触させて一定温度で1時間以上5時間以下にわたって反応させた後、これに10分の1の量の第3塩基を更に加えて、一定温度で30分以上2時間以下にわたって反応させ、これに10分の1の量の第3塩基を更に加えて、一定温度で30分以上2時間以下にわたって反応させ、これに残部である5分の1の量の第3塩基を更に加えて、一定温度で10時間以上20時間以下にわたって反応させてもよい。
【0146】
第3塩基としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、キノリン、N,N-ジエチルアニリン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、及びナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。金属アルコキシドは、ナトリウムt-ブトキシド及びカリウムt-ブトキシドを含む。第3塩基としては、水素化ナトリウム、トリエチルアミン、ナトリウムt-ブトキシド及びカリウムt-ブトキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0147】
1モルのN-Boc-アミン誘導体に対する第3塩基の量は、例えば、0.1モル以上10モル以下であり、好ましくは、0.5モル以上5モル以下であり、より好ましくは、1モル以上3モル以下である。
【0148】
N-Boc-アミン誘導体と第3塩基との接触は、第5反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第5反応溶媒が存在すると、N-Boc-アミン誘導体の環化反応が促進される。第5反応溶媒を用いる場合、先ず、N-Boc-アミン誘導体を第5反応溶媒と混合して、混合液を調製し、これに第3塩基等を加えることが好ましい。
【0149】
第5反応溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、THF(テトラヒドロフラン)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、ジメトキシエタン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第5反応溶媒としては、トルエン、DMF、塩化メチレン、THF、及びジエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0150】
1gのN-Boc-アミン誘導体に対する第5反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、2mL以上20mL以下である。
【0151】
N-Boc-アミン誘導体の環化反応終了後、得られたN-Boc-環状アミン誘導体は、下記の方法で取り出されることが好ましい。
先ず、N-Boc-環状アミン誘導体を含む反応液に、水及び第5反応溶媒の混合溶媒を加えて、反応液を有機層と水層とに分離させる。有機層を抽出した後、これを、水、飽和重曹水、食塩水等を用いて洗浄する。洗浄後の有機層に、硫酸マグネシウム等を加えて脱水した後、減圧濃縮することにより、N-Boc-環状アミン誘導体を含む生成物が得られる。この生成物を、シリカゲルカラムを用いて精製してもよい。
【0152】
以上、第1の製造方法、及び第2の製造方法において、上記式(II)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体から、上記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造する方法を説明した。ラクタム環のカルボニル基部位を開環する過程を経ずに工程を短くできる点や、該N-Boc-環状アミン誘導体の収率を高めることができる点で、第1の製造方法を用いることが好ましい。
【0153】
次に、この式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体から、後述する式(VII)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体を製造する方法を説明する。
【0154】
(N-トリチル-環状アミン誘導体の製造方法)
N-トリチル-環状アミン誘導体は、下記式(VII)で表される化合物である。N-トリチル-環状アミン誘導体は、例えば、医薬品の製造中間体として使用される。
【0155】
【0156】
式(VII)において、Phは、フェニル基であり、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(V)のものと同義である。
【0157】
N-トリチル-環状アミン誘導体は、(1)上記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体の窒素原子からBoc基を外す工程(以下、「脱保護」、特に「脱Boc」とも称する。)、及び(2)Boc基の外れた窒素原子にトリチル基を付加する工程(以下、「N-トリチル」とも称する。)を経て得ることができる。以下、(1)N-Boc-環状アミン誘導体の脱Boc化、及び(2)N-トリチル化について説明する。
【0158】
(1)N-Boc-環状アミン誘導体の脱Boc化
上記式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体において、窒素を保護するBoc基は、例えば、濃塩酸、トリフルオロ酢酸等の強酸を作用させる等の公知の方法で外すことができる。強酸は、「脱Boc剤」の一例である。N-Boc-環状アミン誘導体からBoc基が外されると、下記式(VI)で表される環状アミン誘導体を得ることができる。
【0159】
【0160】
式(VI)において、R1、R2、R3、R4、m、及びnは、式(V)のものと同義である。
【0161】
N-Boc-環状アミン誘導体として上記式(V’)に表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリン-2-カルボン酸tert-ブチルを脱保護(脱Boc)することにより、下記式(VI’)で表される環状アミン誘導体((R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリン)を得ることができる。
【0162】
【0163】
上記(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンは、医薬品の製造中間体として使用され得る。
【0164】
(2)環状アミン誘導体のN-トリチル化
式(VI)で表される環状アミン誘導体において、ラクタム環の窒素をトリチル基で保護することにより、上記式(VII)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体を得ることができる。
【0165】
環状アミン誘導体として上記式(VI’)に表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンの窒素をトリチル基で保護することにより、下記式(VII’)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体((R)-5-ブロモ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)イソインドリン)を得ることができる。
【0166】
【0167】
上記(R)-5-ブロモ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)イソインドリンは、医薬品の製造中間体として使用され得る。
【0168】
N-トリチル化は、公知の方法で行うことができる。例えば、第4塩基存在下、式(VI)で表される環状アミン誘導体とトリチル化剤とを接触させる方法により、該環状アミン誘導体をN-トリチル化してよい。
【0169】
第4塩基としては、有機塩基を用いることが好ましい。第4塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、キノリン、DMAP、及び2,6-ルチジンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0170】
第4塩基としては、DMAPと、DMAP以外の塩基とを併用することが好ましい。DMAPは、触媒効果が高い塩基である。DMAP以外の塩基は、DMAPの触媒効果をより高めることができる。DMAP以外の塩基としては、トリエチルアミンを用いることが好ましい。
【0171】
トリチル化剤としては、例えば、ハロゲン原子を含む化合物(以下、「ハロゲン化物」とも称する。)を用いてよい。ハロゲン化物の具体例には、トリチルクロリド(Tr-Cl)、及びトリチルブロミドが挙げられる。ハロゲン化物としては、トリチルクロリドを用いることが好ましい。
【0172】
式(VI)で表される環状アミン誘導体とハロゲン化物との接触は、第6反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第6反応溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルTHF、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第6反応溶媒としては、塩化メチレン及びトルエンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0173】
環状アミン誘導体のN-トリチル化後、得られたN-トリチル-環状アミン誘導体は、下記の方法で取り出されることが好ましい。
先ず、N-トリチル-環状アミン誘導体を含む反応液を、水を用いて洗浄した後、減圧濃縮することにより、N-トリチル-環状アミン誘導体を含む生成物が得られる。この生成物に炭素数1~5のアルコール(低級アルコール)を加える。この混合物の攪拌、濾過、及び乾燥を行うことにより、N-トリチル-環状アミン誘導体を取り出すことができる。
【0174】
低級アルコールとしては、メタノール、エタノールが好ましい。メタノールは、生成物の結晶化力、及び不純物の溶解除去力で優れるため、特に好ましい。残渣と低級アルコールとの混合物を攪拌する時間は、特に限定されるものではないが、10分以上2時間以下とすることが好ましい。また、該混合物を攪拌するときの該混合物の温度は、0℃以上10℃以下とすることが好ましい。
【実施例0175】
以下に例を挙げて、本発明を詳細に説明する。実施例1~3は、第2の製造方法を用いて式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造した例を含む実施例を示し、実施例4~7は、第1の製造方法を用いて式(V)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体を製造した例を含む実施例を示す。
【0176】
<実施例1>
(N-Boc-ラクタム誘導体の製造)
以下の方法で、上記式(II’)に表されるN-Boc-ラクタム誘導体を得た。
先ず、0.50g(2.21mmol)の上記式(I’)に表されるラクタム誘導体を、5mLのテトラヒドロフランに溶解させて、ラクタム誘導体溶液を調製した。このラクタム誘導体溶液に、0.97g(4.44mmol)の二炭酸ジ-tert-ブチルと、0.03g(0.25mmol)の4-N,N-ジメチルアミノピリジンとを加え、室温で60時間にわたって攪拌して、反応液を得た。この反応液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムを用いて精製して、0.72gの生成物を得た。シリカゲルカラムの溶媒には、ヘキサンと酢酸エチルとを、10:1の体積比で混合した混合溶媒を用いた。
【0177】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(II’)に表されるN-Boc-ラクタム誘導体であることを確認した。NMR分光分析結果を下記に示す。
【0178】
1H-NMR(CDCl3)δ:8.00(d、J = 1.6 Hz, 1H)、7.75 (dd、J = 8.0、1.6 Hz、1H)、7.32 (d、J = 8.0 Hz、3H), 5.02 (q、J = 6.4 Hz、1H)、1.61 (d、J = 6.4 Hz、3H)。
【0179】
(N-Boc-アルコール誘導体の製造;第2の製造方法)
以下の方法で、上記式(III’)に表されるN-Boc-アルコール誘導体を得た。
先ず、36mg(0.32mmol)の塩化カルシウムを、1mLのエタノールに溶解させた後、これに26mg(0.69mmol)の水素化ホウ素ナトリウムを加え、25℃の温度で30分間にわたって攪拌して、水素化ホウ素カルシウム液を調製した。この水素化ホウ素カルシウム液に、100mg(0.31mmol)の上記の方法で得られたN-Boc-ラクタム誘導体を加えて、25℃で20時間にわたって攪拌して、反応液を得た。
【0180】
この反応液に、10mLの水及び10mLの酢酸エチルを加えた後、酢酸を更に加え、反応液のpHを4.5に調整して、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに10mLの水、10mLの飽和重曹水、及び10mLの食塩水をこの順で加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、濃縮乾燥させることにより、残渣を得た。残渣の量は86mgであり、収率は85%であった。
【0181】
残渣について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(III’)に表されるN-Boc-アルコール誘導体であることを確認した。NMR分光分析結果を下記に示す。
【0182】
1H-NMR(CDCl3)δ:7.49(d、J = 2.0 Hz、1H), 7.44 (dd、J = 8.4, 2.0 Hz、1H), 7.19(d、J= 8.4 Hz、1H)、4.91-5.00 (m、3H)、4.45 (brs、1H)、4.08 (brs、1H), 1.41-1.43 (m、3H)、1.37 (s、9H)。
【0183】
(N-Boc-アミン誘導体の製造;第2の製造方法)
以下の方法で、上記式(IV’)に表され、脱離基がメシロキシ基であるN-Boc-アミン誘導体を得た。
0.5g(1.51mmol)の上記の方法で得られた式(III’)に表されるN-Boc-アルコール誘導体を、5mLの塩化メチレンに溶解させて、N-Boc-アルコール誘導体溶液を得た。このN-Boc-アルコール誘導体溶液に、0.2g(1.97mmol)のトリエチルアミンを加えて、混合液を得た。この混合液を7℃にまで冷却した後、これに0.21g(1.81mmol)のメタンスルホニルクロリドを加え、7℃に保った状態で2.5時間にわたって攪拌した。攪拌後の混合液に、0.2g(1.97mmol)のトリエチルアミン及び0.21g(1.81mmol)のメタンスルホニルクロリドを更に加えて、7℃に保った状態で1.5時間にわたって攪拌して反応液を得た。
【0184】
この反応液に、20mLの水及び20mLの塩化メチレンを加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに5mLの水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、無色のオイル状の残渣を得た。残渣の量は0.7gであった。得られた残渣をシリカゲルカラムを用いて精製して、生成物を得た。シリカゲルカラムの溶媒には、ヘキサンと酢酸エチルとを、30:1~20:1の体積比で混合した混合溶媒を用いた。生成物の量は350mgであり、その収率は57%であった。
【0185】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(IV’)に表され、脱離基がメシロキシ基であるN-Boc-アミン誘導体であることを確認した。NMR分光分析結果を下記に示す。
【0186】
1H-NMR(CDCl3)δ: 7.51-7.54(m、2H)、7.26-7.28 (m、1H)、5.49-5.52(m、1H)、5.24-5.30(m、1H),4.86-4.92(m、2H)、3.03(s、3H)、1.31-1.44(m、12H)。
【0187】
(N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第2の製造方法)
以下の方法で、上記式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得た。
100mg(0.24mmol)の上記の方法で得られた式(IV’)に表され、脱離基がメシロキシ基であるN-Boc-アミン誘導体を、4mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、N-Boc-アミン誘導体溶液を得た。このN-Boc-アミン誘導体溶液を、10℃にまで冷却した後、これに20mg(0.5mmol)の60質量%水素化ナトリウムを加えて、混合液を得た。この混合液を10℃に保った状態で2時間にわたって攪拌した後、25℃にまで加熱し、この温度に保った状態で20時間にわたって更に攪拌して反応液を得た。
【0188】
この反応液に、15mLの水及び15mLの酢酸エチルを加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに15mLの水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、残渣を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムを用いて精製して、生成物を得た。シリカゲルカラムの溶媒には、ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を用いた。混合溶媒におけるヘキサンと酢酸エチルとの体積比は、精製の進行に合わせて100:1、30:1、10:1へと変化させた。生成物の量は51mgであり、その収率は67%であった。
【0189】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体であることを確認した。NMR分光分析結果を下記に示す。
【0190】
1H-NMR(CDCl3)δ: 7.30-7.46(m、2H)、7.00-7.09 (m, 1H)、4.74-4.96 (m、2H), 1.53 (s、9H)。
【0191】
<実施例2>
(N-Boc-アミン誘導体の製造;第2の製造方法)
以下の方法で、上記式(IV’)に表され、脱離基がクロロ基であるN-Boc-アミン誘導体を得た。
0.5g(1.51mmol)の実施例1で得られた式(III’)に表されるN-Boc-アルコール誘導体を、5mLの塩化メチレンに溶解させて、N-Boc-アルコール誘導体溶液を得た。このN-Boc-アルコール誘導体溶液に、0.20g(1.97mmol)のトリエチルアミンを加えて、混合液を得た。この混合液を7℃にまで冷却した後、これに0.21g(1.81mmol)のメタンスルホニルクロリドを加え、7℃に保った状態で30分間にわたって攪拌した。攪拌後の混合液に、0.40g(3.93mmol)のトリエチルアミン及び0.42g(3.62mmol)のメタンスルホニルクロリドを更に加えた後、25℃にまで加熱し、この温度で23時間にわたって攪拌して反応液を得た。
【0192】
この反応液に、20mLの水、20mLの酢酸エチル、及び20mLの酢酸エチルをこの順に加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに10mLの飽和重曹水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、残渣を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムを用いて精製して、生成物を得た。シリカゲルカラムの溶媒には、ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を用いた。混合溶媒におけるヘキサンと酢酸エチルとの体積比は、精製の進行に合わせて30:1から20:1へと変化させた。生成物の量は0.38gであり、その収率は69%であった。
【0193】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(IV’)に表され、脱離基がクロロ基であるN-Boc-アミン誘導体であることを確認した。NMR分光分析結果を下記に示す。
【0194】
1H-NMR(CDCl3)δ: 7.45-7.48(m、2H)、7.21-7.26 (m, 1H)、4.83-5.00(m、3H)、4.48-4.51(m、1H)、1.38-1.46(m、12H)。
【0195】
(N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第2の製造方法)
以下の方法で、上記式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得た。
0.10g(0.27mmol)の上記の方法で得られた式(IV’)に表され、脱離基がクロロ基であるN-Boc-アミン誘導体を、1mLのトルエンに溶解させて、N-Boc-アミン誘導体溶液を得た。このN-Boc-アミン誘導体溶液を、10℃にまで冷却した後、これに32mg(0.33mmol)のナトリウムtertブトキシドを加えて、混合液を得た。この混合液を10℃に保った状態で2.4時間にわたって攪拌した後、5mg(0.05mmol)のナトリウムtertブトキシドを更に加えて、10℃に保った状態で1時間にわたって攪拌した。攪拌後の混合液に、5mg(0.05mmol)のナトリウムtertブトキシドを更に加えて、10℃に保った状態で1時間にわたって攪拌した後、10mg(0.10mmol)のナトリウムtertブトキシドを更に加えて、10℃に保った状態で16時間にわたって攪拌して反応液を得た。
【0196】
この反応液に1mLの水を加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、残渣を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムを用いて精製して、生成物を得た。シリカゲルカラムの溶媒には、酢酸エチルを用いた。生成物の量は74mgであり、その収率は87%であった。
【0197】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体であることを確認した。
【0198】
<実施例3>
(N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第2の製造方法)
以下の方法で、上記式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得た。
0.10g(0.24mmol)の実施例1で得られた式(IV’)に表され、脱離基がメシロキシ基であるN-Boc-アミン誘導体を、1mLのトルエンに溶解させて、N-Boc-アミン誘導体溶液を得た。このN-Boc-アミン誘導体溶液を10℃にまで冷却した後、これに47mg(0.49mmol)のナトリウムtertブトキシドを加えて、混合液を得た。この混合液を10℃に保った状態で2.4時間にわたって攪拌して反応液を得た。
【0199】
この反応液に1mLの水を加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、残渣を得た。得られた残渣をシリカゲルカラムを用いて精製して、生成物を得た。シリカゲルカラムの溶媒には、酢酸エチルを用いた。生成物の量は67mgであり、その収率は88.2%であった。
【0200】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体であることを確認した。
【0201】
<比較例1>
((R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンの製造)
以下の方法で、上記式(VI’)で表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンを製造した。
【0202】
先ず、0.80g(3.54mmol)の上記式(I’)に表されるラクタム誘導体を、40mLのテトラヒドロフランに溶解させて、ラクタム誘導体溶液を調製した。このラクタム誘導体溶液に、1.21g(31.99mmol)の水素化ホウ素ナトリウムを加え、室温で30分間にわたって攪拌して混合液を得た。この混合液に、6.02g(42.42mmol)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を加え、61℃で還流しながら16時間にわたって攪拌して、反応液を得た。
【0203】
この反応液に80mLの水を加えて希釈した後、水酸化ナトリウム水溶液を更に加えてpHを10に調整した。pH調整後の反応液に、180mLのジクロロメタンを3回に分けて加え、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、残渣を得た。得られた残渣に60mLの6N塩酸及び30mLのトルエンを加えた後、90℃で1時間にわたって攪拌して混合液を得た。この混合液を室温まで冷却して、有機層と水層とに分離させた。水層を抽出し、これに24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを10に調整した。pH調整後の混合液に、120mLのジクロロメタンを3回に分けて加えて、混合液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより、生成物を用いた。生成物の量は0.22gであり、その収率は30%であった。
【0204】
生成物について、重水素化クロロホルムを溶媒に用いた1H-NMR分光分析を行い、上記式(VI’)で表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンであることを確認した。
【0205】
実施例1~3と比較例1との対比から明らかなように、実施例1~3の方法で得られた式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体の収率は、比較例1の方法で得られた式(VI’)で表される(R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリンの収率と比較して高かった。
【0206】
また、実施例1及び2から明らかなように、脱離基含有化合物としてメタンスルホニルクロリドを用いた場合、反応条件を異ならしめることにより、N-Boc-アルコール誘導体に脱離基としてメシロキシ基又はクロロ基を導入することができた。また、実施例1及び2から明らかなように、脱離基がメシロキシ基であっても、クロロ基であっても、塩基と反応させることにより式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることができた。また、実施例1及び2から明らかなように、第3塩基として水素化ナトリウムを用いた場合にあっても、ナトリウムtertブトキシドを用いた場合にあっても、N-Boc-アミン誘導体を環化できた。
【0207】
また、実施例2及び実施例3から明らかなように、塩基としてナトリウムtertブトキシドを用いた場合、脱離基がメシロキシ基であっても、クロロ基であっても、式(V’)に表されるN-Boc-環状アミン誘導体を得ることができた。
【0208】
<実施例4>
(N-トリチル-環状アミン誘導体の製造)
以下の方法で、前記式(I)で表されるラクタム誘導体として下記反応式(I’)で表されるラクトン誘導体を使用して、下記反応式(VII’)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体を合成した。途中、下記反応式の示すとおり、式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体、及び式(VI’)で表される環状アミン誘導体を経由する。以下、それぞれの反応を順に説明する。
【0209】
【0210】
(a)N-Boc-ラクタム誘導体の製造
以下の方法で、上記式(I’)で表されるラクタム誘導体((R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オン)から、式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体((R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オン-2-カルボン酸tert-ブチル)を得た。
【0211】
先ず、1.00g(4.42mmol)の上記式(I’)に表されるラクタム誘導体を、5mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて、ラクタム誘導体溶液を調整した。このラクタム誘導体溶液に、0.11g(0.90mmol、0.2eq)の4-N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を20℃で加えた後、1.16g(5.32mmol、1.2eq)の二炭酸ジ-tert-ブチル((Boc)2O)を3分かけて20℃で加えた。その後、20℃で3時間にわたって攪拌して、反応液を得た。この反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果、式(I’)で表されるラクタム誘導体から、上記式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体への転化率は、100%だった。
【0212】
上記反応液を15mLの水で希釈した後、反応液に酢酸エチル(15mL×2)をさらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させ、有機層を抽出した。この有機層を混合し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮することにより、残渣を得た。得られた残渣にトルエンを加えてさらに置換濃縮する処理を3回繰り返した。得られた1.5gの残渣(理論量:1.44g、4.41mmol、1.0eq)を精製することなく次の反応に用いた。
【0213】
上記式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体の1H-NMR分光分析の分析結果を下記に示す。
【0214】
1H-NMR(CDCl3)δ:8.00(d、J = 1.6 Hz, 1H)、7.75 (dd、J = 8.0、1.6 Hz、1H)、7.32 (d、J = 8.0 Hz、3H), 5.02 (q、J = 6.4 Hz、1H)、1.61 (d、J = 6.4 Hz、3H)。
【0215】
(b)N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第1の製造方法
以下の方法で、上記式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体((R)-5-ブロモ-1-メチルイソインドリン-2-カルボン酸tert-ブチル)を得た。
【0216】
0.67g(17.7mmol、4.0eq)の水素化ホウ素ナトリウムを、20mLのテトラヒドロフランに溶解させて、水酸化ホウ素ナトリウム溶液を調整した。この水酸化ホウ素ナトリウム溶液に、20~25℃で、3.00g(21.14mmol、4.8eq)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3・Et2O)を2分かけて滴下した後、同温(20~25℃)で30分攪拌した。
【0217】
この水酸化ホウ素ナトリウム溶液とBF3・Et2Oとの混合物に、前記(a)の反応で得られた濃縮残渣(式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体)を添加した後、63℃で3時間にわたって攪拌した。
【0218】
反応液をHPLC分析した結果、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体、及びBocが外れた環状アミン誘導体(保持時間:5.317分)がそれぞれ23.00%、66.58%検出された。原料の式(II’)で表されるN-Bocラクタム誘導体の残存量は、1.66%だった。すなわち、転化率は、98.34%であった。
【0219】
上記式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体の1H-NMR分光分析の分析結果を下記に示す。
【0220】
1H-NMR(CDCl3)δ:7.35-7.42(m、2H),7.02-7.10(m、1H),4.95-5.05(m、1H),4.50-4.75(m、2H)、1.40-1.59(m、12H)。
【0221】
上記反応液に100mLの水を加えた後、質量濃度が24%の水酸化ナトリウム水溶液(以下、「24%NaOHaq.」とも称する。)でpH調整した(pH3.7→10.5)。その後、反応液に酢酸エチル(50mL×2)をさらに加えて、有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮することにより残渣を得た。
【0222】
(c)N-トリチル-環状アミン誘導体の製造
以下の方法で、上記式(VII’)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体((R)-5-ブロモ-1-メチル-2-(トリフェニルメチル)イソインドリン)を得た。
【0223】
前記(b)の反応で得られた残渣に5mLの濃塩酸を加えた後、20℃で1時間にわたって攪拌した。反応液に10mLの水を加えた後、24%NaOHaq.でpHを11に調整した。反応液に酢酸エチル(10mL×2)を加えて、反応液を有機層と水層とに分離させ、有機層を抽出した。この有機層を混合し、減圧濃縮することにより残渣を得た。
【0224】
得られた残渣を16mLの塩化メチレンに溶解し、この溶液に40mg(0.33mmol、0.1eq)の4-N,N-ジメチルアミノピリジン、及び0.87g(8.60mmol、3.0eq)のトリエチルアミンを25℃で順次加えた。その後、0.88g(3.16mmol、1.1eq)のトリチルクロリドを同温(25℃)でさらに加えた後、3時間にわたって攪拌した。
【0225】
反応液をHPLC分析した結果、944mgのN-トリチル-環状アミン誘導体が含まれていた。式(I’)で表されるラクタム誘導体からのアッセイ収率は、47%であった。
【0226】
上記式(VII’)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体の1H-NMR分光分析の分析結果を下記に示す。
【0227】
1H-NMR(DMSO-d6)δ:7456~7.472(m、6H),6.758~7.200(m、12H)、4.463(d、J=16.8Hz、1H)、4.395~4.428(m、1H)、3.962(d、J=16.8Hz、1H)、1.339(d、J=6.6Hz、3H)。
【0228】
(HPLC分析)
HPLCの測定条件は、下記のとおりとした。
HPLC分析条件:
サンプル濃度:0.5%THF
注入量:5μL
検出波長:210nm
流速:1.0mL/min
カラム温度:30℃
移動相:10~100~100%アセトニトリル(0~15~20min)
充填剤:X Bridge C18 5μm (4.6x150mm)
保持時間:ラクタム誘導体(式(I’)):7.67分、N-Boc-ラクタム誘導体(式(II’)):12.4分、N-Boc-環状アミン誘導体(式(V’)):14.851分、環状アミン誘導体(式(VI’)):5.343分、N-トリチル-環状アミン体(式(VII’)):17.998分
【0229】
<実施例5>
実施例4と同様に、式(I’)で表されるラクトン誘導体を使用し、式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体、及び式(VI’)で表される環状アミン誘導体を経由して、下記反応式(VII’)で表されるN-トリチル-環状アミン誘導体を合成した。以下、詳細を説明する。
【0230】
(a)N-Boc-ラクタム誘導体の製造
式(I’)に表されるラクタム誘導体と4-N,N-ジメチルアミノピリジンと二炭酸ジ-tert-ブチルとを混合し攪拌する温度を20℃から25℃へと変更したこと以外は、実施例4に記載したのと同様の方法で、式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体を得た。
【0231】
具体的には、1.00g(4.42mmol)の上記式(I’)に表されるラクタム誘導体を、5mLのTHFに溶解させてラクタム誘導体溶液を調整し、このラクタム誘導体溶液に、0.11g(0.90mmol、0.2eq)のDMAPを25℃で加えた後、1.16g(5.32mmol、1.2eq)の(Boc)2Oを3分かけて室温で添加した。その後、25℃で3時間にわたって攪拌して、反応液を得た。
【0232】
この反応液に15mLの水を加えた後、酢酸エチル(15mL×2)をさらに加え、反応液を有機層と水層とに分離させ、有機層を抽出した。この有機層を混合し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮後、トルエンで3回置換濃縮し、1.55gの残渣(理論量:1.49g、4.56mmоl)を得た。この残渣を精製することなくそのまま次の反応に用いた。
【0233】
(b)N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第1の製造方法)
実施例4では、水酸化ホウ素ナトリウムとBF3・Et2Oとを先に混合し、この混合物に、式(II’)で表されるNーBoc-ラクタム誘導体を添加したのに対して、実施例5では、水酸化ホウ素ナトリウムと式(II’)で表されるNーBoc-ラクタム誘導体とを先に混合した後、この混合物にBF3・Et2Oを添加する点で、実施例5は、実施例4と相違する。
【0234】
具体的には、前記(a)の反応で得られた濃縮残渣(上記式(II’)で表されるN-Bocラクタム誘導体)を20mLのTHFに溶解させてN-Boc-ラクタム誘導体溶液を調整し、このN-Boc-ラクタム誘導体溶液に、(0.67g、17.7mmol、4.0eq)の水素化ホウ素ナトリウムを0℃以下で加えた後、3.00g(21.14mmol、4.8eq)のBF3・Et2Oを3mLのTHFに溶解させて調整したBF3・Et2O溶液を15分かけて滴下した後(温度は、-5℃→0℃に上昇)、同温(0℃)で30分にわたって攪拌した後、25℃で3時間にわたってさらに攪拌して反応液を得た。
【0235】
反応液をHPLC分析した結果、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン体、及びBocが外れた環状アミン体がそれぞれ55.57%、24.52%検出された。また、原料である式(II’)で表されるN-Bocラクタム誘導体の転化率は、100%だった。
【0236】
上記反応液に100mLの水を加えた(pHは、6.5)。その後、反応液に酢酸エチル(50mL×2)をさらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに50mLの飽和食塩水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより残渣を得た。得られた残渣の質量は、1.34gであった。
【0237】
(c)N-トリチル-環状アミン誘導体の製造
前記(b)の反応で得られた残渣に7mLの濃塩酸を加えた後、25℃で1時間にわたって攪拌して反応液を得た。得られた反応液に15mLの水を加えた後、24%NaOHaq.にてpHを11に調整した。反応液に酢酸エチル(15mL×2)をさらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに10mLの飽和食塩水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて脱水し、減圧濃縮することにより残渣を得た。得られた残渣の質量は、0.86gであり、式(I’)で表されるラクタム誘導体からの転化率は、92%であった。
【0238】
得られた残渣を15mLの塩化メチレンに溶解し、この溶液に50mg(0.41mmol、0.1eq)のDMAP、及び1.23g(12.15mmol、3.0eq)のトリエチルアミンを25℃で順次加えた。その後、1.25g(4.48mmol、1.1eq)トリチルクロリドを25℃でさらに加えた後、同温(25℃)で3時間にわたって攪拌した。
【0239】
反応液をHPLC分析した結果、1554mgのN-トリチル-環状アミン体が含まれていた。式(I’)で表されるラクタム誘導体からのアッセイ収率は、77.4%であった。
【0240】
上記反応液を減圧濃縮して残渣を得た後、得られた残渣に15mLのメタノールを加え、10℃以下で1時間にわたって攪拌し、その後、濾過、乾燥を行うことにより、1.25gのN-トリチル-環状アミン誘導体を得た。HPLC純度は、98%であり、式(I’)で表されるラクタム誘導体からの収率は、62.2%であった。
【0241】
<実施例6>
(a)N-Boc-ラクタム誘導体の製造
実施例5の(a)に記載したのと同様の方法で反応を行った。得られた反応液をHPLC分析した結果、転化率は、100%であった。また、得られた濃縮残渣の質量は、1.32g(理論量:1.27g、3.88mmоl)であり、式(I’)で表されるラクタム誘導体からの収率は、91.9%であった。
【0242】
(b)N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第1の製造方法
水素化ホウ素ナトリウムの使用量を、0.67gから0.37g(9.78mmol、2.2eq)へと変更したこと、BF3・Et2Oの使用量を、3.00gから1.19g(8.38mmol、1.9eq)へと変更したこと、THFの量を、20mLから23mLへと変更したこと、並びに、攪拌の温度及び時間を、63℃(3時間)から-6℃(5分)及び25℃(3時間)へと変更したこと以外は、実施例4の(b)に記載したのと同様の条件でN-Boc-環状アミン誘導体を製造した。
【0243】
すなわち、0.37g(9.78mmol、2.2eq)の水素化ホウ素ナトリウムを、15mLのTHFに溶解させて水素化ホウ素ナトリウム溶液を調整し、得られた水素化ホウ素ナトリウム溶液に、-10℃で、1.19g(8.38mmol、1.9eq)のBF3・Et2Oを3mLのTHFに溶解させたBF3・Et2O溶液を15分かけて滴下した後、-10℃で30分にわたって攪拌した。
【0244】
この水酸化ホウ素ナトリウム溶液とBF3・Et2Oとの混合物に、上記(a)の反応で得られた濃縮残渣(式(II’)で表されるN-Boc-ラクタム誘導体)を、5mLのTHFに溶解させたN-Boc-ラクタム誘導体溶液を10分かけて滴下した(温度は、-8℃→-6℃に上昇した)。同温(-6℃)で5分間にわたって攪拌した後、25℃で3時間にわたってさらに攪拌した。
【0245】
反応液をHPLC分析した結果、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン体、及びBocが外れた環状アミン体がそれぞれ67.81%、23.36%検出された。また、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン体の転化率は、100%だった。
【0246】
上記反応液に100mLの水を加えた後、酢酸エチル(50mL×2)をさらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに50mLの食塩水を加えて洗浄した、洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、減圧濃縮することにより残渣を得た。
【0247】
(c)N-トリチル-環状アミン誘導体の製造
前記(b)の反応で得られた残渣に5mLの濃塩酸を加えた後、25℃で1時間にわたって攪拌した。残渣が濃塩酸に溶解したことを確認した後、反応液に20mLの氷水を加えた後、24%NaOHaq.にてpHを11.2に調整した。反応液に酢酸エチル(20mL×2)をさらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出した後、これに20mLの飽和食塩水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、減圧濃縮して残渣を得た。得られた残渣の質量は、0.62gであり、式(I’)で表されるラクタム誘導体からの収率は、66%であった。
【0248】
得られた残渣を11mLの塩化メチレンに溶解し、この溶液に36mg(0.29mmol、0.1eq)のDMAP、及び0.59g(5.84mmol、2.0eq)のトリエチルアミンを25℃で順次加えた。その後、0.90g(3.21mmol、1.1eq)のトリチルクロリドを同温(25℃)で加えた後、3時間にわたって攪拌して反応液を得た。
【0249】
反応液をHPLC分析した結果、1161mgのN-トリチル-環状アミン誘導体が含まれていた。式(I’)で表されるラクタム誘導体からのアッセイ収率は、57.84%であった。
【0250】
<実施例7>
(a)N-Boc-ラクタム誘導体の製造
水の使用量を、15mLから20mLへと変更したこと、及び酢酸エチルの使用量を、15mL×2から20mL×2へと変更したこと以外は、実施例5に記載した方法と同様の方法で濃縮残基を得た。その結果、得られた濃縮残渣の質量は、1.44g(理論量:1.38g、4.23mmоl)であった。この残渣を精製することなくそのまま次の反応に用いた。
【0251】
(b)N-Boc-環状アミン誘導体の製造;第1の製造方法
水素化ホウ素ナトリウムの使用量を、0.67gから0.37g(9.78mmol、2.2eq)へと変更したこと、BF3・Et2Oの使用量を、3.00gから1.19g(8.38mmol、1.9eq)へと変更したこと、THFの量を、23mLから25mLへと変更したこと以外は、実施例5に記載したのと同様の条件でN-Boc-環状アミン誘導体を製造した。
【0252】
すなわち、前記(a)の反応で得られた濃縮残渣(上記式(II’)で表されるN-Bocラクタム誘導体)を、20mLのTHFに溶解させてN-Boc-ラクタム誘導体溶液を調整し、このN-Boc-ラクタム誘導体溶液に、0.37g(2.2eq、9.78mmol)の水素化ホウ素ナトリウムを10℃以下で加えた後、同温で30分にわたって攪拌した。その後、このN-Bocラクタム誘導体溶液と水素化ホウ素ナトリウムとの混合物に、1.19g(8.38mmol、1.9eq)のBF3・Et2Oを5mLのTHFに溶解させて調整したBF3・Et2O溶液を5分かけて滴下した後(温度は、-10→-8℃に上昇)、同温(-8℃)で30分にわたって攪拌した後、25℃で3時間にわたってさらに攪拌して反応液を得た。
【0253】
反応液をHPLC分析した結果、式(V’)で表されるN-Boc-環状アミン誘導体、及びBocが外れた環状アミン誘導体がそれぞれ56.50%、37.77%検出された。また、転化率は、100%だった。
【0254】
上記反応液に100mLの水を加えた後、24%NaOHaq.でpHを10.8に調整した。その後、反応液に酢酸エチル(30mL×2)をさらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに20mLの飽和食塩水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、減圧濃縮することにより残渣を得た。得られた残渣の質量は、1.18gであった。
【0255】
(c)N-トリチル-環状アミン誘導体の製造
前記(b)の反応で得られた1.18gの縮残渣に、5mLの濃塩酸を加えた後、25℃で1時間にわたって攪拌して反応液を得た。得られた反応液に30mLの水を加えた後、24%NaOHaq.でpHを11.9に調整した。反応液に酢酸エチル(20mL×2)さらに加えて、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出し、これに20mLの飽和食塩水を加えて洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、減圧濃縮することにより残渣を得た。得られた残渣の質量は、0.73gであった。また、式(I’)で表されるラクタム誘導体からの収率は、77.7%であった。
【0256】
得られた0.73g(3.44mmol)の残渣を11mLの塩化メチレンに溶解し、この溶液に、40mg(0.29mmol、0.1eq)のDMAP、及び0.70g(6.92mmol、2.0eq)のトリエチルアミンを25℃で順次加えた。その後、この溶液とDMAPとトリエチルアミンとの混合物に、1.06g(3.80mmol、1.1eq)のトリチルクロリドを25℃でさらに加えた後、同温(25℃)で3時間にわたって攪拌して反応液を得た。
【0257】
この反応液をHPLC分析した結果、1418mgのN-Tr環状アミン誘導体が含まれていた。式(I’)で表されるラクタム誘導体からのアッセイ収率は、70.65%であった。
【0258】
上記反応液を10mL×3の水で洗浄した後、減圧濃縮することにより残渣を得た。得られた残渣に10mLのメタノールを加え、10℃以下で1時間にわたって攪拌し、その後濾過及び乾燥を行うことにより、式(VII’)で表されるN-Tr環状アミン誘導体を得た。HPLC純度は、98%であり、式(I’)で表されるラクタム誘導体からの収率は、53%であった。