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特開2022-35959評価方法、評価装置、評価システム、評価装置の制御プログラムおよび対象者端末の制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035959
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】評価方法、評価装置、評価システム、評価装置の制御プログラムおよび対象者端末の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/22 20180101AFI20220225BHJP
【FI】
G06Q50/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041868
(22)【出願日】2021-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2020140465
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中村 聖子
(72)【発明者】
【氏名】平井 啓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】川上 英良
(72)【発明者】
【氏名】華井 明子
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲朗
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】養育者の育児に係る要支援状態を客観的に評価する評価方法、評価装置、評価システムおよび制御プログラムを提供する。
【解決手段】評価方法を実行する評価装置において、取得部14は、少なくとも、評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する第1回答群と、評価対象者の育児を困難にする方向に働く、評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する第2回答群とを取得する。算出部15は、回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して要支援スコアを算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価方法であって、
前記評価対象者の少なくとも個人要因を問う複数の質問に対する、前記評価対象者による回答の群を取得するステップと、
取得された前記回答の群を統計的に処理して、前記評価対象者の前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出するステップとを含み、
前記取得するステップでは、少なくとも、
前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する前記評価対象者による第1回答群と、
前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する前記評価対象者による第2回答群とを取得し、
前記算出するステップでは、前記回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して前記要支援スコアを算出する、評価方法。
【請求項2】
前記複数の質問は、前記評価対象者の環境要因を問う質問をさらに含み、
前記取得するステップでは、さらに、
周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群と、
前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群とを取得する、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記取得するステップでは、さらに、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群を取得する、請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記質問群の各々は、抑うつ症状を評価するための所定の尺度と有意な相関が認められた質問を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記算出するステップでは、
前記評価対象者および前記評価対象者に養育される前記児の少なくともいずれかを観測対象とする測定システムが測定した、前記観測対象の状況を示す測定データ、および、
前記評価対象者が居住する地域の育児に関する特性を示す地域特性データ、
の少なくともいずれかのデータに基づいて、前記要支援スコアを調整する、請求項1から4のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記算出するステップでは、
前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群について前記回答群別スコアを算出し、
前記児の状況を示す前記測定データが、前記児の特徴に関して、要支援の程度を強める状況を示す場合に、前記第5回答群の前記回答群別スコアを上方に調整する、請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
前記算出するステップでは、
周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群について前記回答群別スコアを算出し、
前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群について前記回答群別スコアを算出し、
前記評価対象者が居住する地域の特性を示す前記地域特性データが、要支援の程度を強める特性を示す場合に、前記第3回答群および前記第4回答群の少なくともいずれか1つの回答群の前記回答群別スコアを上方に調整する、請求項5または6に記載の評価方法。
【請求項8】
前記評価対象者の前記地域特性データおよび前記回答群別スコアに基づいて、前記評価対象者が必要としている支援の種類を示す要支援タイプを決定するステップと、
決定された前記要支援タイプに応じて、前記評価対象者に提供する支援情報を特定するステップとをさらに含む、請求項7に記載の評価方法。
【請求項9】
児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価装置において、
前記評価対象者の個人要因または環境要因を問う複数の質問に対する、前記評価対象者による回答の群を取得する取得部と、
取得された前記回答の群を統計的に処理して、前記評価対象者の前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出する算出部とを備え、
前記取得部は、少なくとも、
前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する前記評価対象者による第1回答群と、
前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する前記評価対象者による第2回答群とを取得し、
前記算出部は、前記回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して前記要支援スコアを算出する、評価装置。
【請求項10】
前記取得部は、さらに、
周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群と、
前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群とを取得する、請求項9に記載の評価装置。
【請求項11】
前記取得部は、さらに、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群を取得する、請求項9または10に記載の評価装置。
【請求項12】
前記評価対象者および前記評価対象者に養育される前記児の少なくともいずれかを観測対象とする測定システムが測定した、前記観測対象の状況を示す測定データ、および、
前記評価対象者が居住する地域の育児に関する特性を示す地域特性データ、
の少なくともいずれかのデータに基づいて、前記要支援スコアを調整する調整部を備えている、請求項9から11のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項13】
前記算出部は、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群について前記回答群別スコアを算出し、
前記調整部は、前記児の状況を示す前記測定データが、前記児の特徴に関して、要支援の程度を強める状況を示す場合に、前記第5回答群の前記回答群別スコアを上方に調整する、請求項12に記載の評価装置。
【請求項14】
前記算出部は、周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群について前記回答群別スコアを算出し、
前記調整部は、前記評価対象者が居住する地域の特性を示す前記地域特性データが、要支援の程度を強める特性を示す場合に、前記第3回答群および前記第4回答群の少なくともいずれか1つの回答群の前記回答群別スコアを上方に調整する、請求項12または13に記載の評価装置。
【請求項15】
前記評価対象者の前記地域特性データおよび前記回答群別スコアに基づいて、前記評価対象者が必要としている支援の種類を示す要支援タイプを決定する分類部と、
決定された前記要支援タイプに応じて、前記評価対象者に提供する支援情報を特定する特定部とをさらに備えている、請求項14に記載の評価装置。
【請求項16】
請求項9から11のいずれか1項に記載の評価装置と、
前記評価装置と通信可能に接続された、前記評価対象者が操作する対象者端末とを含み、
前記対象者端末は、
前記評価対象者に前記複数の質問を提示する第1出力制御部と、
前記複数の質問に対する前記回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部と、
受け付けられた前記回答の群を前記評価装置に送信する送信部と、
送信された前記回答の群に対応する要支援スコアを前記評価装置から受信する受信部と、
受信された前記要支援スコアを前記評価対象者に提示する第2出力制御部とを備えている、評価システム。
【請求項17】
前記第1出力制御部は、前記評価対象者の妊娠に係る情報が前記対象者端末に入力されたことに応答して、前記質問群のいずれかに属する複数の質問を前記評価対象者に提示する、請求項16に記載の評価システム。
【請求項18】
前記評価装置は、さらに、算出された前記要支援スコアを、前記評価対象者を一意に識別する識別情報と関連付けて記憶部に記憶するスコア管理部を備え、
前記スコア管理部は、前記要支援スコアを、育児に係る心身の負担を低減するための支援を前記評価対象者に提供する支援者が利用する支援者端末によって読み取り可能に記憶する、請求項16または17に記載の評価システム。
【請求項19】
請求項12から14のいずれか1項に記載の評価装置と、
前記評価装置と通信可能に接続された、前記評価対象者が操作する対象者端末とを含み、
前記対象者端末は、
前記評価対象者に前記複数の質問を提示する第1出力制御部と、
前記複数の質問に対する前記回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部と、
受け付けられた前記回答の群を前記評価装置に送信する送信部と、
送信された前記回答の群に対応する要支援スコアを前記評価装置から受信する受信部と、
受信された前記要支援スコアを前記評価対象者に提示する第2出力制御部とを備えている、評価システム。
【請求項20】
請求項15に記載の評価装置と、
前記評価装置と通信可能に接続された、前記評価対象者が操作する対象者端末とを含み、
前記対象者端末は、
前記評価対象者に前記複数の質問を提示する第1出力制御部と、
前記複数の質問に対する前記回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部と、
受け付けられた前記回答の群を前記評価装置に送信する送信部と、
送信された前記回答の群に対応する要支援スコアと、前記地域特性データおよび前記回答群別スコアに基づいて決定された要支援タイプと、該要支援タイプに基づいて特定された支援情報とを前記評価装置から受信する受信部と、
受信された前記要支援スコア、前記要支援タイプおよび前記支援情報を前記評価対象者に提示する第2出力制御部とを備えている、評価システム。
【請求項21】
請求項9に記載の評価装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記取得部および前記算出部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項22】
児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価装置と通信する対象者端末としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、
前記対象者端末が備えている、
前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群とを、前記評価対象者に少なくとも提示する第1出力制御部、
前記質問群に対する回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部、および、
受け付けられた前記回答の群に対応して前記評価装置から受信された、前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを前記評価対象者に提示する第2出力制御部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養育者の子育てに関する要支援の程度を評価するための、評価方法、評価装置、評価システムおよび制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
母親を含む育児を担う養育者の心身の健康は、子育て行動に大きく影響を及ぼし、児の発育に大きな影響を与える。例えば、妊娠および出産は、養育者、とりわけ母親本人にとって身体的側面のみならず心理的側面にとっても大きな負担となり得る。そのため、周産期から養育者に支援の手を差し延べることは非常に重要である。
【0003】
従来、支援の対象者(例えば、母子)に合った形で適切な介入や支援を提供可能とするために様々な取り組みがなされてきた。例えば、育児に困窮する母親を早期に把握するための方法として、エジンバラ産後うつ病自己評価スケール(EPDS;Edinburgh Postnatal Depression Scale)が用いられている。また、抑うつ症状を把握する尺度の一つとして、簡易抑うつ症状尺度(QIDS;Quick Inventory of Depressive Symptomatology)が従来用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】椎野智子、「周産期のソーシャルサポートが母子関係に及ぼす影響」、ストレス科学研究 第31号、P74-75、2016年
【非特許文献2】藤澤大介、中川敦夫、田島美幸ほか、「日本語版自己記入式簡易抑うつ尺度(日本語版QIDS-SR)の開発」、ストレス科学 第25巻 第1号、P43-52、2010年7月
【非特許文献3】田中響、「妊婦のサポート希求力-フォーカス・グループ・インタビューからの因子分析-」、園田学園女子大学論文集第45号、P85-105、2011年1月
【非特許文献4】秋元美加、斉藤功、▲崎▼山貴代、「産後1か月までの母親の疲労感に影響する要因の検討」、日本公衛誌 第65巻 第12号、P769-776、2018年12月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、EPDSは、抑うつ症に罹患している罹患者をスクリーニングするために用いられる尺度であり、抑うつ症状、育児ノイローゼ、産後うつ、などの明確な精神疾患の罹患状態が判定されるにすぎない。
【0006】
しかし、子育てに係る支援は、そうした精神疾患の明らかな罹患者だけでなく、そうなる前の精神疾患の予備群にも提供されるべきである。さらには、予備群とまではいかなくとも、なんとなく不安、孤独、しんどい、話をきいてもらうだけでいい、などといった、育児中ならでは漠然とした疲弊感を抱いている育児経験者の誰しもに提供されるべきである。
【0007】
このため、精神疾患の明確な罹患状態だけでなく、精神疾患の予備群の状態および漠然とした疲弊感を抱いている状態も、「育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする状態」として包括して考えられるべきである。そして、そのような養育者が何となく感じている主観的で漠然とした“しんどさ”すなわち、精神的な要支援状態の程度を客観的かつ定量的に評価することが求められる。延いては、そのように評価された養育者に合った適切な支援を適切なタイミングで該養育者に提供することを可能にするシステムを構築することが望まれる。ここで、養育者とは、児の実母および実父だけでなく、その児の養育義務を負っている人を含む。
【0008】
本発明の一態様は、養育者の育児に係る要支援状態を客観的に評価する方法、装置およびシステム等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る評価方法は、児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価方法であって、前記評価対象者の少なくとも個人要因を問う複数の質問に対する、前記評価対象者による回答の群を取得するステップと、取得された前記回答の群を統計的に処理して、前記評価対象者の前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出するステップとを含み、前記取得するステップでは、少なくとも、前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する前記評価対象者による第1回答群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する前記評価対象者による第2回答群とを取得し、前記算出するステップでは、前記回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して前記要支援スコアを算出する。
【0010】
本開示の一態様に係る評価装置は、児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価装置において、前記評価対象者の個人要因または環境要因を問う複数の質問に対する、前記評価対象者による回答の群を取得する取得部と、取得された前記回答の群を統計的に処理して、前記評価対象者の前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出する算出部とを備え、前記取得部は、少なくとも、前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する前記評価対象者による第1回答群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する前記評価対象者による第2回答群とを取得し、前記算出部は、前記回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して前記要支援スコアを算出する。
【0011】
本開示の一態様に係る対象者端末の制御プログラムは、児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価装置と通信する対象者端末としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記対象者端末が備えている、前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群とを、前記評価対象者に少なくとも提示する第1出力制御部、前記質問群に対する回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部、および、受け付けられた前記回答の群に対応して前記評価装置から受信された、前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを前記評価対象者に提示する第2出力制御部としてコンピュータを機能させる。
【0012】
本発明の各態様に係る評価装置および対象者端末は、コンピュータによって実現してもよい。この場合には、評価装置が備えるソフトウェア要素の各部としてコンピュータを動作させることにより評価装置をコンピュータにて実現させる評価装置の制御プログラム、対象者端末が備えるソフトウェア要素の各部としてコンピュータを動作させることにより対象者端末をコンピュータにて実現させる対象者端末の制御プログラム、およびそれらのいずれかを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、養育者の育児に係る要支援状態を客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】評価装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】養育者の要支援状態を評価するための評価システムの概略構成を示す図である。
図3】質問データベースのデータ構造の一例を示す図である。
図4】質問データベースのデータ構造の一例を示す図である。
図5】回答データのデータ構造の一例を示す図である。
図6】評価結果データベースのデータ構造の一例を示す図である。
図7】評価システムの各装置が実行する処理の流れを示すシーケンス図である。
図8】対象者端末に表示される結果画面の一例を示す図である。
図9】支援者端末に表示される結果画面の一例を示す図である。
図10】調査対象者に提示された118の質問項目の一部を示す表である。
図11】調査対象者に提示された118の質問項目の一部を示す表である。
図12】調査対象者に提示された118の質問項目の一部を示す表である。
図13】21の因子とQIDSとの間のPearson積率相関係数を部分的に示す表である。
図14】21の因子とQIDSとの間のPearson積率相関係数を部分的に示す表である。
図15】21の因子とQIDSとの間のPearson積率相関係数を部分的に示す表である。
図16】21の因子とQIDSとの間のPearson積率相関係数を部分的に示す表である。
図17】実施形態2に係る評価システムの概略構成を示す図である。
図18】観測対象者を観測する測定システムの概略構成を示す図である。
図19】測定データのデータ構造の一例を示す図である。
図20】実施形態2に係る評価装置の要部構成を示す図である。
図21】状況データのデータ構造の一例を示す図である。
図22】地域特性データベースのデータ構造の一例を示す図である。
図23】支援情報データベースのデータ構造の一例を示す図である。
図24】対象者端末に表示される結果画面の他の例を示す図である。
図25】実施形態2に係る評価装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
本発明者らは、上述の課題を解決するため鋭意検討した結果、育児を行う養育者自身の特性(例えば、発達特性、人格特性、育児のつらさをどう捉える傾向にあるかなど)が、要支援状態の程度に大きく関与していることを新たに見出した。つまり、本発明者らは、少なくとも養育者の個人要因を、要支援状態の程度に関わる因子として、採用できることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明者らは、さらに、養育者を取り巻く周囲の環境も、要支援状態の程度に大きく関与していることを新たに見出した。つまり、本発明者らは、養育者の個人要因に加えて環境要因を、要支援状態の程度に関わる因子として採用することにより、さらに精度よく養育者の要支援状態を評価できることに想到し、本発明を完成するに至った。さらには、本発明者らは、個人要因と環境要因とのそれぞれを別々に評価するのみならず、養育者が、自身を取り巻く環境からの影響を、自身の特性に基づいてどのように受容するのかが、要支援状態の程度に大きく関与していることを新たに見出した。すなわち、本発明者らは、個人要因と環境要因との包括的な評価が、養育者の要支援状態の程度の評価に非常に有意であることを新たに見出した。
【0017】
養育者が抱く疲弊感について、養育者の発達特性などの個人要因に着目し、環境要因と組み合わせて包括的かつ定量的に扱う技術は、従来なかった。養育者の個人要因または環境要因を、産前から前後も含めて継続的に観察して、養育者の要支援状態を評価する。これにより、養育者本人のセルフケアを促進し、また、支援者らが適切な介入および支援を適切なタイミングで実施できるように準備することが可能となる。こうした適切なタイミングでの介入および支援は、養育者らが、実際に精神疾患に罹患してしまうことの予防にもつながる。
【0018】
以下、本発明者らが開発した要支援評価包括尺度およびそれを用いて養育者らの要支援状態を定量的に評価する手順に関し、その一実施形態について、詳細に説明する。要支援評価包括尺度は、一例として、養育者の個人要因および環境要因のうち少なくとも個人要因に着目した自己記述式の質問群を有する。質問群が構築された経緯および根拠について、本実施形態の末尾にて詳述する。
【0019】
<システム概要>
図2は、養育者の要支援状態を評価するための評価システムの概略構成を示す図である。評価システム100は、少なくとも、評価装置1、対象者端末2、質問データベース12(以下、質問DB12)、および、評価結果データベース13(以下、評価結果DB13)を含む。さらに、評価システム100は、必要に応じて、支援者端末3およびサービス提供サーバ4を含んでいてもよい。
【0020】
評価装置1は、評価対象者である養育者の要支援状態を評価する情報処理装置である。対象者端末2は、評価対象者が使用する情報処理装置である。支援者端末3は、評価対象者を支援する支援者が使用する情報処理装置である。支援者としては、例えば、評価対象者の居住地域の自治体、評価対象者が通院する医療機関、評価対象者を支援できる立場にある家族、または、家事・育児代行サービス業者などが想定されている。
【0021】
本実施形態では、一例として、養育者の要支援状態を評価する評価サービスを、評価対象者および支援者に提供する団体をサービスプロバイダと称する。本実施形態では、サービスプロバイダは、評価サービスを提供する手段の一例として、育児支援アプリケーションを評価対象者および支援者に配布する。育児支援アプリケーションの配布は、無償で実施されてもよいし、有償で実施されてもよい。
【0022】
育児支援アプリケーションが、対象者端末2および支援者端末3にインストールされることにより、評価対象者および支援者は、上述の評価サービスを受けることができるようになる。
【0023】
サービス提供サーバ4は、育児支援アプリケーションを、対象者端末2および支援者端末3に供給する。サービス提供サーバ4は、評価対象者と、支援者とでそれぞれ仕様の異なるアプリケーションを供給してもよい。なお、育児支援アプリケーションを配信する機能を有するサービス提供サーバ4は、育児支援アプリケーションの開発元であるサービスプロバイダに帰属していてもよいし、サービスプロバイダから配信を委託された配信受託業者に帰属していてもよい。
【0024】
あるいは、評価装置1は、サービス提供サーバ4の機能を備えていてもよい。また、評価装置1は、自装置が内蔵する記憶装置において、質問DB12および評価結果DB13を保持していてもよい。
【0025】
評価装置1、対象者端末2、支援者端末3およびサービス提供サーバ4は、それぞれ、通信可能に接続されている。例えば、評価装置1およびサービス提供サーバ4と、対象者端末2および支援者端末3との間は、インターネットなどの広域通信網を介して互いに接続されている。
【0026】
サービス提供サーバ4から提供された育児支援アプリケーションをインストールした対象者端末2は、質問DB12から読み出された質問データを取得し、評価対象者が回答可能なように自端末に提示することができる。対象者端末2は、評価対象者が入力した回答に基づいて回答データを生成し、評価装置1に送信する。
【0027】
評価装置1は、受信した回答データに含まれる、回答群に統計的な処理を施し、評価対象者の要支援状態を評価する。評価装置1は、評価結果を示す結果データを評価結果DB13に格納する。評価結果DB13に格納された結果データは、回答者である評価対象者の対象者端末2にフィードバックされる。なお、結果データは、必要に応じて、評価対象者に紐付けられた支援者の支援者端末3に送信されてもよい。
【0028】
サービス提供サーバ4から提供された育児支援アプリケーションをインストールした支援者端末3は、評価結果DB13に格納された結果データを取得することが可能である。
【0029】
<装置構成>
(評価装置1)
図1は、評価装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。なお、図1には、対象者端末2の要部構成の一例も示される。評価装置1は、一例として、制御部10および通信部11を備えている。制御部10は、例えば、CPU(central processing unit)または専用プロセッサなどの制御装置により構成されてもよい。制御部10の後述する各部は、CPUなどの制御装置が、ROM(read only memory)などで実現された記憶装置に記憶されているプログラムをRAM(random access memory)などに読み出して実行することで実現できる。通信部11は、ネットワークを介して外部の装置との間でデータの送受信を行う。
【0030】
制御部10は、一例として、取得部14、算出部15および管理部16を有している。取得部14は、評価対象者の個人要因または環境要因を問う複数の質問に対する、該評価対象者による回答の群を取得する。回答の群は、例えば、対象者端末2から送信される回答データに含まれる。
【0031】
具体的には、取得部14は、回答データに含まれる、第1回答群と第2回答群とを少なくとも取得する。第1回答群は、評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する該評価対象者による回答群である。第2回答群は、評価対象者の育児を困難にする方向に働く、該評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する該評価対象者による回答群である。
【0032】
さらに、取得部14は、回答データに第3回答群と第4回答群とが含まれている場合には、必要に応じて、これらの回答群についても取得してもよい。第3回答群は、周囲からの支援につき評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する該評価対象者による回答群である。第4回答群は、評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する評価対象者による回答群である。
【0033】
さらに、取得部14は、回答データに第5回答群が含まれている場合には、必要に応じてこの回答群を取得してもよい。第5回答群は、評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する該評価対象者による回答群である。
【0034】
質問および回答の群を、内容に応じて上述のように分けた第1~第5の5つの分類の各々をドメインと称する。
【0035】
取得部14は、通信部11を介して対象者端末2から受信された回答データを処理して、該回答データから取得した回答群を、ドメインごとにグルーピングして、算出部15に出力する。
【0036】
算出部15は、取得された回答の群を統計的に処理して、評価対象者の要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出する。具体的には、算出部15は、ドメインごとに統計的処理を実施してドメイン別スコアを算出し、各ドメイン別スコアを統合して、要支援状態の程度を示す要支援スコアを算出する。
【0037】
一例として、算出部15は、質問に対する回答をスコア化して、同一ドメインの各質問の平均点を、ドメイン別スコアとして算出してもよい。算出部15は、ドメイン別スコアを合算したものを要支援スコアとして算出してもよい。本実施形態では、一例として、要支援スコアの数値が高いほど、支援を必要とする程度が高い、すなわち、評価対象者が育児につらさを感じていることを意味することとする。他の例では、算出部15は、数値が高いほど好ましい状態と評価し得る別のスコア(例えば、育児幸福度など)を算出してもよい。
【0038】
管理部16は、算出された要支援スコアを、評価対象者を一意に識別する識別情報と関連付けて評価結果DB13に記憶する。
【0039】
(対象者端末2)
対象者端末2は、一例として、制御部20、通信部21、表示部22および操作部23を備えている。対象者端末2は、具体的には、評価対象者が所持するスマートフォン、タブレット、または、ノートPC(Personal Computer)などによって実現されてもよい。
【0040】
制御部20は、例えば、CPUまたは専用プロセッサなどの制御装置により構成されてもよい。制御部20の後述する各部は、CPUなどの制御装置が、ROMなどで実現された記憶装置に記憶されているプログラムをRAMなどに読み出して実行することで実現できる。通信部21(送信部、受信部)は、ネットワークを介して外部の装置との間でデータの送受信を行う。
【0041】
表示部22は、制御部20が処理した情報を評価対象者に視認可能に提示する出力装置である。例えば、表示部22は、液晶表示装置(LCD;Liquid Crystal Display)または有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどによって構成される。
【0042】
操作部23は、評価対象者の操作を受け付けるための入力装置である。操作部23は、受け付けた操作に対応する指示信号を制御部20に入力する。一例として、操作部23は、表示部22とともにタッチパネルを構成してもよい。操作部23は、表示部22の表示面でもある操作部23の入力面に、評価対象者の指またはタッチペンなどの指示体が接触(接近も含む)を検知することが可能なデバイスを含んで構成される。他の例では、操作部23は、キーボードおよびマウスなどによって構成されてもよい。
【0043】
制御部20は、一例として、質問提示部24、回答処理部25および結果提示部26を有している。質問提示部24(第1出力制御部)は、評価対象者に複数の質問を提示する。質問提示部24は、通信部21を介して、質問DB12から各ドメインの質問群を読み出し、回答欄と併せて表示部22に表示させてもよい。例えば、回答欄には、質問の内容がどの程度あてはまるのかの段階に対応する選択肢が選択可能に配置されている。本実施形態では、一例として、5件法に則り、「1:全くあてはまらない」、「2:あまりあてはまらない」、「3:中くらい」、「4:ややあてはまる」、「5:非常にあてはまる」の5つの選択肢が、1~5の選択肢番号を割り当てられて、選択可能に表示されるものとする。
【0044】
質問提示部24は、質問の一覧を、該質問が属するドメインの意味内容と共に提示してもよいし、ドメインを示すことなく提示してもよい。前者の場合、評価対象者に、回答時、質問が属するドメインを意識させることができる。後者の場合、反対に、質問が属するドメインを意識させずに評価対象者に回答させることができる。ドメインの意味内容を質問とともに提示するかどうかは、質問の意図を回答者に意識させることが必要であるか否かに応じて、質問者(ここでは、サービスプロバイダ)によって適宜決定されてもよい。
【0045】
回答処理部25(入力制御部)は、複数の質問に対する回答の群の入力を評価対象者から受け付ける。例えば、回答処理部25は、1つの質問につき、評価対象者によって指定された1つの選択肢に対応する選択肢番号を、該質問に関連付けて、不図示の自端末内蔵の記憶部に記憶する。
【0046】
回答処理部25は、評価対象者がすべての質問について回答を終えると、質問ごとに選択肢番号が紐付けられた回答の群を含む回答データを生成して、通信部21を介して、評価装置1に送信する。
【0047】
結果提示部26(第2出力制御部)は、通信部21によって受信された、評価装置1から提供された要支援スコアを評価対象者に提示する。例えば、結果提示部26は、要支援スコアを表示部22に表示させる。
【0048】
以上のとおり、評価対象者が日ごろ感覚的に抱いている疲弊感が、数値によって定量化され、表示される。これにより、評価対象者は、自身の要支援状態の程度を客観的に把握することができる。また、自分の過去の要支援スコアを比較の対象とすることができる。そのため、過去の自分と比較して、自分の現状が、改善しているのか悪化しているのかを把握してセルフケアに役立てることも可能である。
【0049】
<データ構造>
(質問データベース)
図3および図4は、質問DB12のデータ構造の一例を示す図である。質問DB12は、一例として、第1~第5までの5つのドメインに分類された質問群を保持する。図3は、第1ドメインに属する第1質問群121の一例および第2ドメインに属する第2質問群122の一例を示す。図4は、第3ドメインに属する第3質問群123の一例、第4ドメインに属する第4質問群124の一例、および、第5ドメインに属する第5質問群125の一例を示す。紙面の制約で、2図に分けて示したが、これは、複数の質問群を複数の記憶装置に分けて記憶させることを意図したものではなく、また、複数の質問群を単一の記憶装置に記憶させることに限定する意図もない。
【0050】
第1質問群が属する第1ドメインは、評価対象者の発達特性または人格特性に関する。そこで、図3に示すとおり、第1ドメインD1のドメイン名は、一例として、「発達特性・人格特性」と設定されている。第2質問群が属する第2ドメインは、評価対象者の育児を困難にする方向に働く、該評価対象者の思考の傾向に関し、より具体的には、第2質問群には、評価対象者が感じている育児の困難性に関する質問項目が含まれ得る。そこで、図3に示すとおり、第2ドメインD2のドメイン名は、一例として、「困難感」と設定されている。第3質問群が属する第3ドメインは、周囲からの支援につき評価対象者の受容可能性に関し、より具体的には、第3質問群には、評価対象者が周囲からのサポートをどのように認識したり感じたりしているかを問う質問項目が含まれ得る。そこで、図4に示すとおり、第3ドメインD3のドメイン名は、一例として、「サポート認識」と設定されている。第4質問群が属する第4ドメインは、評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態に関する。そこで、図4に示すとおり、第4ドメインD4のドメイン名は、一例として、「環境リソース」と設定されている。第5質問群が属する第5ドメインは、評価対象者が育児の対象としている児の特徴に関する。児の特徴とは、児の状態、性格、および、気質などを含み、とりわけ、養育者の育児の疲労度や困難性を高める方向に作用する、児自身が持つ状態、性格、および、気質などを指す。そこで、図4に示すとおり、第5ドメインD5のドメイン名は、一例として、「児の特徴」と設定されている。
【0051】
各質問群のデータ構造について、第1質問群121を例に挙げて説明する。その他の質問群も、第1質問群121と同様のデータ構造を有しているため、説明は繰り返さない。第1質問群121は、一例として、ドメイン、因子、質問および反転フラグの各カラムで構成されている。各カラムには以下の情報が格納される。
【0052】
ドメインのカラムには、ドメインIDおよびドメイン名が格納される。第1質問群121は、一例として、評価対象者の発達特性または人格特性を分析するためのドメインであるので、ドメイン名は、「発達特性・人格特性」として設定されている。ドメインIDは、評価装置1が第1ドメインと他のドメインとを区別できる識別情報であれば何でもよく、例えば、「D1」である。
【0053】
本実施形態では、一例として、1つのドメインに属する質問群は、さらに、複数の因子グループにグルーピングされていてもよい。因子のカラムには、質問群をグルーピングするための因子IDおよび因子名が格納される。第1質問群121は、一例として、「不注意傾向」、「感情コントロール」、「システム化衝動」、「同時・全体処理」、「同調困難」および「愛着の問題」の6つの因子グループにグルーピングされる。なお、1つのドメインは、1つ以上のいくつの因子グループで構成されていてもよいし、1つの因子グループは、1つの以上のいくつの質問を含んでいてもよい。
【0054】
質問のカラムには、質問IDと、実際に評価対象者に提示される質問文章とが格納される。反転フラグのカラムには、算出部15が該当する質問の回答をスコア化するときの手順を指定する情報が格納される。本実施形態では、質問には、2つのタイプがあり、質問のタイプごとにスコア化の手順が決定される。反転フラグのカラムにおいて、第1の手順で回答をスコア化すべき質問には「0」の値が、第2の手順で回答をスコア化すべき質問には「1」の値が格納される。
【0055】
質問には、その内容があてはまるほど、育児がつらくなる(要支援の程度が高くなる)と評価され得るネガティブ質問と、その内容があてはまるほど、育児負担が緩和される(要支援の程度が低くなる)と評価され得るポジティブ質問との2つのタイプがある。
【0056】
そこで、ネガティブ質問の内容がよくあてはまるほど、高いスコアが導き出されるように、ネガティブ質問に対しては、第1の手順「0」が関連付けられる。第1の手順は、一例として、「評価対象者によって選択された選択肢番号をそのまま該質問の質問スコアとする」といった手順であってもよい。反対に、ポジティブ質問の内容があてはまらないほど、高いスコアが導き出されるように、ポジティブ質問に対しては、第2の手順「1」が関連付けられる。第2の手順は、一例として、「『6-選択肢番号』を該質問の質問スコアとする」と言った手順であってもよい。算出部15は、質問に対する回答に基づいて質問スコアを決めるとき、該質問の反転フラグを参照し、反転フラグにて指定された手順にしたがって、該質問スコアを決定する。例えば、ポジティブ質問において、「4:ややあてはまる」が選択された場合には、算出部15は、該質問の質問スコアを、そのまま4点とせず、6-4=2点と決定する。
【0057】
図3および図4に示される第1質問群121~第5質問群125のうち、評価対象者の対象者端末2には、質問のカラムに格納されている質問IDおよび質問文章のセットが提供される。これにより、対象者端末2は、質問文章と1~5の選択肢とを表示部22に表示させることができる。
【0058】
(回答データ)
図5は、対象者端末2の回答処理部25によって生成され、評価装置1に送信される回答データのデータ構造の一例を示す図である。回答データは、図示のとおり、複数の質問に対する回答の群51に加えて、回答基本情報50を含んでいてもよい。
【0059】
回答基本情報50は、一例として、質問に回答した評価対象者を一意に識別するための評価対象者IDと、質問に回答した評価対象者のステータスと、該評価対象者が質問に回答した年月日を示す回答日とを含んでいてもよい。ステータスは、例えば、評価対象者の回答日現在の状態を示す。より具体的には、ステータスは、評価対象者が産前、つまり、妊婦であるか、産後であるかを示す。ステータスは、評価対象者が妊婦である場合にさらに妊娠週数の情報を含んでいてもよいし、評価対象者が産後である場合にさらに児の月齢の情報を含んでいてもよい。
【0060】
なお、本実施形態では、一例として、評価対象者として、児の養育者の代表的な存在である実母を想定しているが、上述したとおり、養育者は、実母に限られない。養育者、すなわち、評価対象者は、実母以外であってもよく、この場合には、ステータスとして、例えば、「児の出生前」、「児の出生後」などの項目名が採用されてもよい。
【0061】
回答の群51は、質問を一意に識別する質問IDと、該質問に対して評価対象者が選択した選択肢番号との組を含む。回答の群51は、ドメインごとに回答群を有していてもよい。例えば、評価対象者が、第1~第5ドメインのすべての質問に回答した場合、回答の群51には、第1回答群52、第2~第4回答群(不図示)、および、第5回答群53が含まれる。
【0062】
評価対象者が妊婦である場合には、児の特徴を問う第5質問群125は、該妊婦に提示されないか、提示されても回答できない。そのため、妊婦の対象者端末2から送信される回答データにおいて、回答の群51には、回答のカラムが空値の第5回答群53が含まれていてもよいし、第5回答群53自体が回答の群51に含まれていなくてもよい。算出部15は、対象者端末2から送信された回答の群51に基づいて統計的処理を実施し、回答者である評価対象者の要支援スコアを算出することができる。
【0063】
(評価結果データベース)
図6は、評価結果DB13のデータ構造の一例を示す図である。評価結果DB13は、一例として、評価対象者ID、ステータス、回答日および要支援スコアの各カラムで構成されている。評価結果DB13は、さらに、妊娠期平均スコアのカラムを有していてもよい。各カラムには以下の情報が格納される。
【0064】
評価対象者IDのカラムには、評価システム100上で、評価対象者を一意に識別するための識別情報が格納される。ステータスのカラムには、評価対象者の回答時の産前か産後かの情報および妊娠週数または児の月齢の情報が格納される。回答日のカラムには、評価対象が回答した年月日が格納される。要支援スコアのカラムには、評価対象者の対象者端末2から送信された回答データに基づいて算出部15が算出した要支援スコアが格納される。妊娠期平均スコアのカラムには、評価対象者のステータスが産後の場合に、産前に1回以上行った回答に基づいて算出された要支援スコアの平均点が格納される。
【0065】
管理部16は、取得部14によって取得された回答データに含まれている回答基本情報50と、算出部15によって算出された要支援スコアとを関連付けて評価結果DB13に格納する。
【0066】
算出部15は、同一の評価対象者について過去に複数回実施された評価で得られた要支援スコアについて、平均点を算出してもよい。例えば、算出部15が、同一の評価対象者につき、産前に1回以上行われた評価における要支援スコアの平均点を算出する。管理部16は、算出された妊娠期における要支援スコアの平均点を、妊娠期平均スコアのカラムに格納してもよい。
【0067】
以上のとおり、管理部16によって構築された評価結果DB13は、条件を満たす権限を有する者によって適宜閲覧され得る。例えば、評価対象者および該評価対象者を支援する立場にある支援者は、対象者端末2または支援者端末3から評価結果DB13にアクセスし、該評価対象者に関連付けられている評価結果のみを結果データとして読み出し閲覧することが可能である。
【0068】
<処理フロー>
図7は、評価システム100の各装置が実行する処理の流れを示すシーケンス図である。図7に示す一連の処理は、評価対象者に質問を実施するトリガとなる任意のトリガイベントが発生したときに開始される。トリガイベントとしては、評価対象者が、対象者端末2に育児支援アプリケーションをインストールしたときなどが想定される。トリガイベントは、対象者端末2が、医療機関または自治体などの支援者端末3から何らかの通知または要求を受信したときであってもよい。あるいは、トリガイベントは、あらかじめ評価装置1またはサービス提供サーバ4に登録されていた、質問実施予定日が到来したときであってもよい。
【0069】
ステップS101では、質問提示部24は、質問を実施するトリガイベントの発生を検知する。質問提示部24が、トリガイベントの発生を検知すると、処理は、S101のYESからS102に進む。
【0070】
ステップS102では、質問提示部24は、評価対象者に提示する質問群を取得する。具体的には、質問提示部24は、評価対象者に提示する質問文章を含んだ質問データを取得する。質問提示部24が質問データをどこから取得するのかは特に限定されない。例えば、質問提示部24は、対象者端末2が内蔵する不図示の記憶部からあらかじめ記憶されている質問データを読み出してもよい。あるいは、質問提示部24は、通信部21が支援者端末3、サービス提供サーバ4または評価装置1などの外部の装置から受信した質問データを取得してもよい。あるいは、質問提示部24は、質問DB12にアクセスして、質問DB12から質問データをダウンロードしてもよい。
【0071】
ステップS103では、質問提示部24は、質問群を評価対象者に提示する。具体的には、質問提示部24は、質問データに含まれる各質問の質問文章を表示部22に表示させるとともに、質問ごとに、選択可能な5つの選択肢を併せて表示させる。
【0072】
ステップS104では、回答処理部25は、評価対象者からの回答を受け付ける。具体的には、回答処理部25は、操作部23を介して評価対象者が選択した選択肢を特定し、該選択肢に対応する選択肢番号を、質問の質問IDと紐付けて、不図示の記憶部に一時的に格納する。回答処理部25が、すべての質問について回答を受け付けると、処理は、S104のYESからS105に進む。
【0073】
ステップS105では、回答処理部25は、回答データを生成し、評価装置1に送信する。具体的には、回答処理部25は、図5に示す回答基本情報50を生成し、質問IDと選択肢番号との対を質問の数だけ含む回答の群51を生成し、回答基本情報50および回答の群51を含む回答データを評価装置1に送信する。
【0074】
ステップS106(取得するステップ)では、評価装置1の取得部14は、評価対象者の個人要因または環境要因を問う複数の質問に対する、該評価対象者による回答の群を取得する。具体的には、取得部14は、通信部11が対象者端末2から受信した回答データを取得する。本実施形態では、回答データに含まれる回答の群51は、少なくとも、評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する該評価対象者による第1回答群52と、評価対象者の育児を困難にする方向に働く、該評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する評価対象者による第2回答群とを含む。
【0075】
ステップS107(算出するステップ)では、算出部15は、回答の群51について統計的処理を実施することにより、要支援スコアを算出する。要支援スコアの算出手順の一例については、後に詳述する。
【0076】
ステップS108では、管理部16(スコア管理部)は、算出された要支援スコアを、評価対象者を一意に識別する識別情報と関連付けて記憶部に記憶する。具体的には、管理部16は、S106で取得された回答データに含まれる回答基本情報50と、上述の要支援スコアとを関連付けて評価結果DB13に保存する。評価結果DB13に保存された、評価対象者の要支援スコアは、育児に係る心身の負担を低減するための支援を該評価対象者に提供する支援者が利用する支援者端末3によって読み取り可能に記憶される。
【0077】
ステップS109では、管理部16またはサービス提供サーバ4は、結果データを、評価対象者の対象者端末2に送信する。対象者端末2に送信される結果データは、少なくとも、S107で算出された要支援スコアを含む。上述の結果データは、さらに、妊娠期平均スコアを含んでいてもよいし、該評価対象者につき過去に実施された評価で得られた要支援スコアを時系列に示すグラフを含んでいてもよい。さらには、結果データは、評価対象者に宛てた助言文を含んでいてもよい。助言文は、例えば、回答群の分析結果に応じて、予め用意されている定型文の中から適切なものが選択されてもよい。
【0078】
ここで、評価対象者と支援者との対応関係をあらかじめ管理している場合には、管理部16またはサービス提供サーバ4は、上述の評価対象者に紐付けられている支援者の支援者端末3に、同じ結果データを送信してもよい。あるいは、支援者向けに送られる結果データには、上述の評価対象者に対して必要になると予測される支援の内容が示された警告文が含まれていてもよい。あるいは、支援者の支援者端末3宛てには、該支援者が監督する複数の評価対象者についての結果データが、まとめて送信されてもよい。
【0079】
ステップS110では、対象者端末2の結果提示部26は、通信部21によって評価装置1から受信された結果データを取得する。最後に、ステップS111では、結果提示部26は、取得した結果データを、評価対象者が視認可能に表示部22に表示させる。
【0080】
<画面例>
図8は、対象者端末2の表示部22に表示される、評価対象者向けの結果画面の一例を示す図である。結果画面200は、結果提示部26によって生成される。結果提示部26は、結果画面200に、一例として、要支援スコアを評価対象者に提示するためのユーザインタフェース(UI)部品として、要支援スコア201を配置する。
【0081】
要支援スコアは、評価対象者が支援を必要としている程度を表す指標であり、本実施形態では、一例として、数値が高いほど支援を必要としていると評価される。換言すれば、要支援スコアは、評価対象者が育児を負担に感じている度合いを示す。そこで、結果提示部26は、図示のゲージなどのように、負担に感じている度合いを視覚的に示すUI部品を結果画面200に配置してもよい。これにより、評価対象者は、自身の現状を直感的に把握することができる。さらに、結果提示部26は、要支援スコアに応じた助言文を結果画面200に配置してもよい。評価対象者は、自分の要支援スコアに対応する助言文を確認し、セルフケアに役立てることができる。
【0082】
図9は、支援者端末3の表示部(不図示)に表示される、支援者向けの結果画面の一例を示す図である。結果画面300には、一例として、結果データ一覧301が配置される。結果データ一覧301は、支援者が監督する複数の評価対象者についての結果データを一覧するためのUI部品である。結果データ一覧301において、要支援スコアが所定の閾値を超える結果データは、他の結果データとは異なる表示態様にて表示されてもよい。これにより、支援者は、支援を必要とする状態の程度が高い評価対象者を確認しやすくなる。さらに、結果画面300には、要支援スコアに応じた警告文が配置されてもよい。支援者は、警告文を確認し、それぞれの評価対象者に対してどのような支援または準備を行っていけばよいのかを、要支援スコアに基づいて把握することができる。
【0083】
<要支援スコアの算出手順>
算出部15は、図5に示す回答データが取得されると、回答データに含まれている回答の群51について、例えば、以下の統計的処理を実行する。
【0084】
まず、算出部15は、質問ごとの回答された選択肢番号に基づいて、質問スコアを決定する。質問には、図3および図4に示されているように、反転フラグが設定されている。算出部15は、設定されている反転フラグにしたがった手順にて、各質問の質問スコアを決定する。算出部15は、反転フラグが「0」の質問について、回答された選択肢番号をそのまま該質問の質問スコアとして決定する。算出部15は、反転フラグが「1」の質問について、回答された選択肢番号を6から差し引いた数を、該質問の質問スコアとして決定する。
【0085】
算出部15は、ドメインごとに、ドメイン別スコアを算出する。一例として、算出部15は、同一ドメインに属する各質問の質問スコアの平均点を算出し、これをドメイン別スコアとする。
【0086】
本実施形態では、同一ドメインに属する質問群は、さらに、因子グループごとにグルーピングされている。そこで、算出部15は、因子グループごとに質問スコアの平均点を算出し、これを因子別スコアとしてもよい。算出部15は、同一ドメイン内の因子別スコアの平均点からドメイン別スコアを算出してもよい。
【0087】
最後に、算出部15は、第1ドメインから第5ドメイン(あるいは、第4ドメイン)までの5つ(または4つ)のドメインのドメイン別スコアを合算して、要支援スコアを算出する。
【0088】
(算出手順の変形例)
算出部15は、因子グループごとに求めた評価対象者の因子別スコアについて、さらに、偏差値を導出してもよい。偏差値の導出に際して参照される平均点を求めるための評価対象者の集団は、適宜決定され得る。
【0089】
<質問群を構築するための調査について>
要支援評価包括尺度においてドメインごとの質問群を構築する各々の質問項目が採用された経緯について以下に説明する。本発明者らは、文献(例えば、非特許文献3、非特許文献4など)の検討や臨床家へのインタビューを通じて、子育てに係る要支援状態を予測するための要因に関する質問項目の抽出を行った。
【0090】
具体的には、実際に産婦人科や子育て支援センター等で、子育て支援に携わる経験豊かな専門職4名(リエゾン看護師1名、臨床心理士1名、ソーシャルワーカー2名)を対象としたインタビュー調査を行い、探索的に要因の内容分析をおこなった。インタビューでは、それぞれに、実際の臨床場面で支援が必要であると考える事例の特徴をできるだけ詳しく説明してもらうように求めた。得られたインタビューデータは内容分析を行い、構成概念を広くカバーできる質問項目を可能な限り多数作成した。これらについて、本発明者らを含む研究者3名により質問項目候補を検討し、質問文としての適切性を吟味した上で、質問項目を回答可能な数に絞り込み、文章表現、回答のしやすさなどを複数の研究者で複数回確認した。母親が質問を理解しやすいよう平易な表現として質問紙を独自に作成した。
【0091】
本発明者らは、抽出した質問項目を吟味し、本人の性格、環境、子どもなどが主要なドメインとなることを新たに見出した。こうして抽出された項目を用いて現在育児を行っている母親を対象とした量的調査を行った。具体的には、調査に用いられた質問群は、(1)母親の発達特性・人格特性、(2)困難感、(3)サポート認識、(4)環境リソース、および、(5)児の特徴という5ドメインに分類される、計118個の質問項目で構成される。
【0092】
(調査協力者)
調査対象者の条件は、末子年齢が0歳から3歳である日本国内の子育て中の母親とした。調査は、調査会社の保有するサンプルの中から上述の条件に該当する4,800名に依頼し、このうち参加同意を得たもののうち有効回答対象者である1,031名が解析の対象となった。
【0093】
(調査時期)
2019年10月であった。
【0094】
(調査内容)
調査はweb調査として実施した。まず、調査協力者の個人属性として年齢、これまでの妊娠・出産歴、子どもの年齢、育児以外の状況(仕事や介護など)を尋ねた。次に、子育てに係る要支援状態に関係する要因を測定するため、独自に抽出した質問項目118項目に5件法(1.全くあてはまらない~5.非常にあてはまる)で回答を求めた。質問項目118項目は、図10図12に示すとおりである。最後に、対象者の精神的不適応の指標として簡易抑うつ症状尺度(QIDS;Quick Inventory of Depressive Symptomatology)を用いた。
【0095】
(解析方法)
記述統計により調査協力者の属性や背景を要約した。118項目については、ドメインごとに因子分析と相関分析による項目分析を行った。因子分析により因子を抽出し、得られた因子を構成するのに妥当な項目を相関分析や回答分布の結果から選択し、それぞれのドメインで最小限の項目数となるようにした。得られた因子ごとに因子得点を算出した。最後に、QIDSの重度を結果変数として、ロジスティック回帰分析をおこなった。
【0096】
(結果)
(1)第1ドメイン・・・母親の発達特性・人格特性
発達・人格特性に関わる質問41項目に対して最尤法による因子分析を行った。因子数を4、5、6、7、8と指定し、解釈可能性から最終的に6因子解が適当であると判断し、6因子解を指定して再度同様の因子分析を行い、プロマックス回転を施した。いずれの因子に対しても因子負荷量が0.30に満たない項目、内容が類似した項目、二重負荷を示す項目を削除し、因子分析を繰り返し、最終的に、下記の22の質問項目を採用した。
【0097】
第1因子において、「忘れ物をよくする(0.754)」、「ケアレスミスをすることが多い(0.714)」、「聞きもらしが度々ある(0.616)」、「何度も説明されるがよくわからないことが多い(0.435)」の質問項目の負荷量が高かった。このことから、これらの4つの質問項目が属する第1因子を、「不注意傾向」因子と名付けた。
【0098】
第2因子において、「子どもが自分の思い通りにならないことは仕方ないと割り切れる(-0.685)」、「イライラする時、自分で気持ちを落ち着かせることができる(-0.66)」、「自分の思い通りにならないことは仕方ないと割り切れる(-0.60)」の質問項目に負の負荷量、「子どもの顔を見たくないというような拒否的な気持ちになることがしばしばある(0.433)」の質問項目に正の負荷量が示された。これらの質問項目は、自身の感情への対処能力を問う質問である。そのため、これらの4つの質問項目が属する第2因子を、「感情コントロール」因子と命名した。
【0099】
第3因子において、「自分の理想とする形があり、そこに何とかあてはめたい(0.832)」、「『こうあるべき』イメージを持ち、そこに向かおうとする(0.774)」、「自分の中での段取りが乱されると混乱する(0.478)」、「ほどほどと言われても、自分の中で納得できるまでやりきりたい(0.453)」の質問項目に高い負荷量が示された。これらの質問項目は、自分が設定する枠組みに物事を組み込みたいという衝動に関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第3因子を「システム化衝動」因子とした。
【0100】
第4因子において、「同時に2つ以上のことをするのが得意(0.767)」、「用事をしながら雑談や世間話をするのは得意(0.716)」、「少し話すと相手が何を意図しているか大体想像できる(0.433)」、「人の表情を読むのが苦手(-0.304)」の質問項目において、負荷量が高かった。これらの質問項目は、同時・並行作業と全体像や文脈を掴むことに関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第4因子を、「同時・全体処理」因子とした。
【0101】
第5因子において、「診察や健診等で、医師などスタッフの説明が難しく分からなくなることがある(0.628)」、「健診や診察待合などザワザワした場所で待つのが苦痛である(0.566)」、「誰かがそばにいてくれないと気持ちが落ち着かない(0.501)」、「子育てのアドバイスをされても、できるだけ自分のやり方でやりたいと思う(0.375)」の質問項目の負荷量が高かった。これらの4つの質問項目が属する第5因子を、「同調困難」因子とした。
【0102】
第6因子において、「子どもの頃、親(または主な養育者)にかまってもらえなかった(0.965)」、「子どもの頃、自分が親(または主な養育者)から暴力的に扱われた(0.59)」の質問項目が抽出された。これらの質問項目は、自身が親から健康的な養
育を受けてこなかったことと関連しており、これらの2つの質問項目が属する第6因子を、「愛着の問題」因子と解釈した。
【0103】
以上のとおり、評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群は、複数の因子グループを有していてもよい。具体的には、第1質問群は、評価対象者の不注意傾向を問う質問項目からなる第1因子グループを有していてもよい。第1質問群は、評価対象者の、自身の感情への対処能力を問う質問項目からなる第2因子グループを有していてもよい。第1質問群は、評価対象者の、自分が設定する枠組みに物事を組み込みたいとするシステム化衝動の強さを問う質問項目からなる第3因子グループを有していてもよい。第1質問群は、評価対象者の、マルチタスク処理能力を問う質問項目を含む第4因子グループを有していてもよい。第4因子グループは、さらに、評価対象者の、他人の気持ちを想像したり、状況を文脈から判断したり、場の全体像を把握したりする状況判断能力を問う質問項目を含んでいてもよい。第1質問群は、評価対象者が持つ、他への同調困難性を問う質問項目からなる第5因子グループ有していてもよい。第1質問群は、評価対象者自身が養育者から受けてきた養育の内容を問う第6因子グループを有していてもよい。
【0104】
(2)第2ドメイン・・・困難感
困難感に関する質問22項目に対して同様の手続きで5因子とし、いずれの因子に対しても因子負荷量が.240に満たない3項目を削除し、最終的に下記の19の質問項目を採用した。
【0105】
第1因子において、「子育てをしていてどうしようもなく心配なことが多い(0.882)」、「子育てをめぐり、どうしてよいのかわからなくなることがある(0.880)」、「子育てをしていて迷うことが多く、合っているのか不安になる(0.868)」、「自分に自信がない(0.318)」の質問項目について負荷量が高かった。これらの質問項目は、子育てにおける不安に関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第1因子を、「自信のなさ」因子と解釈した。
【0106】
第2因子において、「自分の思う通りに動ける時間は比較的あると思う(0.824)」、「自分がホッとする時間を短時間でも取れていると感じる(0.758)」、「適度にストレス発散ができていると思う(0.745)」、「時間をうまく管理出来ていると思う(0.571)」の質問項目について負荷量が高かった。これらの質問項目は、子育てをうまく切り回せるかに関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第2因子を、「対処可能性」因子と解釈した。
【0107】
第3因子は、「子どもが愛おしい(0.955)」、「何にかえても子どもを守りたいという思いになる(0.855)」、「子どもがいることで温かい気持ちになる(0.692)」という質問項目から構成される。これらの3つの質問項目が属する第3因子を、「子どもへの愛情」因子と解釈した。
【0108】
第4因子において、「ある程度の困難であれば乗り切ることが出来る(0.804)」、「子どもの健康に良いことが人並みにできている(0.629)」、「自分の感情や想いを自分で把握できている(0.597)」、「子育てをしている自分は頑張っていると思う(0.525)」の質問項目について負荷量が高かった。これらの質問項目は、自身や自身の子育てにポジティブな印象を持っていることと関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第4因子を、「自己肯定感」因子と解釈した。
【0109】
第5因子は、「子どもが泣き止まないと自分が悪いのではないかと思ってしまう(0.889)」、「子どもの泣き声が自分を責めているように感じる(0.868)」、「子育てをしていてむなしい気持ちになってくる(0.388)」、「自分が大切にされていないように感じる(0.246)」の質問項目から構成される。これらの質問事項は、子育てが上手くいかないことを自責的に捉える要素が含まれている。そのため、これらの4つの質問項目が属する第5因子を、「自責感」因子とした。
【0110】
以上のとおり、評価対象者の育児を困難にする方向に働く、該評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群は、複数の因子グループを有していてもよい。具体的には、第2質問群は、評価対象者が子育てに関して漠然と抱いている不安感を問う質問項目からなる第1因子グループを有していてもよい。第2質問群は、評価対象者が子育てに係る万事をうまくやりくりできていると本人が思っているかを問う質問項目からなる第2因子グループを有していてもよい。第2質問群は、評価対象者の児への愛情を問う質問項目からなる第3因子グループを有していてもよい。第2質問群は、評価対象者が自己を肯定的に捉えることができているかを問う質問項目からなる第4因子グループを有していてもよい。第2質問群は、評価対象者が子育てが上手くいかないことを自責的に捉える傾向があるかを問う質問項目からなる第5因子グループを有していてもよい。
【0111】
(3)第3ドメイン・・・サポート認識
周囲のサポートの受け取り方に関する質問15項目に対して最尤法による因子分析を行った。固有値の減衰状況と因子の解釈可能性から4因子解が適当であると判断し、4因子解を指定して再度同様の因子分析を行い、プロマックス回転を施した。
【0112】
第1因子において、「夫(パートナー)は子育てをしてくれる(0.933)」、「夫(パートナー)は家事をしてくれる(0.807)」、「夫(パートナー)があまり子育てに協力してくれず孤独である(-0.681)」、「夫(パートナー)に大切にされている(0.664)」の質問項目について負荷量が高かった。これらの質問項目は、夫(パートナー)による支援や協力に関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第1因子を、「夫のサポート」因子とした。
【0113】
第2因子において、「親は育児を手伝ってくれる(1.023)」、「親に育児や家事を気軽に頼ることができる(0.921)」、「親は子育ての相談によくのってくれる(0.571)」、「育児を手伝ってくれる家族以外の人がいる(0.210)」の質問項目について負荷量が高かった。これらの質問項目は、家族の育児に関する手助けに関連している。そのため、これらの4つの質問項目が属する第2因子を、「親のサポート」因子と解釈した。
【0114】
第3因子において、「夫(パートナー)は育児をしてくれるが、自分は孤独だと感じることがある(0.714)」、「夫(パートナー)に子育てしている自分を理解してもらえていないと感じる(0.657)」の質問項目について負荷量が高かった。これらの質問項目は、夫(パートナー)による育児への物理的支援よりも自身の心理的な理解や支えを主としたものに関連している。そのため、これらの2つの質問項目が属する第3因子を、「夫の心理的サポート」因子と命名した。
【0115】
第4因子は、「親との関係は良好である(0.691)」、「親と子育てについての考えややり方が異なり、ストレスである(-0.523)」、「子育ての相談をできる友人がいる(0.230)」、「子どもつながりの友人(ママ友達やネット上のつながりなど)がストレスである(-0.221)」、「子育てについてネットの情報を役立てることができている(0.213)」の質問項目から構成される。これらの質問項目は、周囲の人や情報からサポートを受けられる環境または関係にあるかに関わっている。そのため、これらの5つの質問項目が属する第4因子を、「サポート受容性」因子とした。
【0116】
以上のとおり、周囲からの支援につき評価対象者の受容可能性を問う第3質問群は、個人要因と環境要因との両方と関連性がある複数の因子グループを有していてもよい。具体的には、第3質問群は、評価対象者が夫などのパートナーからの支援を物理的にどのように受け取っているのかを問う質問項目からなる第1因子グループを有していてもよい。第3質問群は、評価対象者が親からの支援をどのように受け取っているのかを問う質問項目からなる第2因子グループを有していてもよい。第3質問群は、評価対象者が夫などのパートナーからの支援を精神的にどのように受け取っているのかを問う質問項目からなる第3因子グループを有していてもよい。第3質問群は、評価対象者が支援を受けられる人間関係または環境を構築できているかを問う質問項目からなる第4因子グループを有していてもよい。
【0117】
(4)環境リソース
環境に関わる質問33項目に対して最尤法による因子分析を行った。他のディメンションと同様の判断のもと5因子解を指定して、いずれの因子に対しても因子負荷量が.30に満たない項目を削除し、再度同様の手続きを繰り返し、最終的に20項目を採用した。
【0118】
第1因子は、「医療者は頼りになると思う(0.933)」、「医療者は信頼できると思う(0.906)」、「子どもの健診で医療者とコミュニケーションは良好である(0.55)」、「かかりつけの小児科が定まらない(-0.355)」の質問項目から構成される。これらの質問項目は、医療者への信頼感や関係構築ができているかを問う質問である。そのため、これらの4つの質問項目が属する第1因子を「医療者との関係」因子とした。
【0119】
第2因子は、「夫(パートナー)は気難しい(0.893)」、「夫(パートナー)はこだわりが強いと思う(0.702)」、「夫(パートナー)は自分のことを振り回すようなことが多い(0.536)」、「夫(パートナー)は感情のコントロールが上手だと思
う(-0.454)」の質問項目から構成される。これらの4つの質問項目が属する第2因子を、「パートナーの気質」因子とした。
【0120】
第3因子は、「親は時間管理が得意である(0.882)」、「親は整理整頓が得意である(0.726)」、「親は自分のことは自分でする人だと思う(0.483)」、「親は健康である(0.434)」の質問項目から構成される。これら4つの質問項目が属する第3因子を、「親の自律性」因子とした。
【0121】
第4因子は、「夫(パートナー)は時間管理が得意である(0.717)」、「夫(パートナー)は整理整頓が得意である(0.702)」、「夫(パートナー)は自分のことは自分でする人だと思う。(0.682)」、「夫(パートナー)は健康である(0.32
5)」の質問項目から構成される。これらの4つの質問項目が属する第4因子を、「パートナーの自律性」因子とした。
【0122】
第5因子は、「(上の子がいる場合)上の子に手がかかる(0.867)」、「(上の子がいる場合)上の子の赤ちゃん返りがある(0.780)」、「(上の子がいる場合)上の子が病気や障害を抱えている(0.434)」、「親や祖父母などの介護をしている(0.328)」の質問項目から構成される。これらの質問項目は、評価対象になる育児中の児(例えば、末子)の養育に加えて、担っている子育てや介護に関連する質問である。そのため、これらの4つの質問項目が属する第5因子を、「子育て・介護負担」因子とした。
【0123】
以上のとおり、評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群は、複数の因子グループを有していてもよい。具体的には、第4質問群は、評価対象者が医療関係者と信頼関係を構築できているかを問う質問項目からなる第1因子グループを有していてもよい。第4質問群は、パートナーの気質を問う質問項目からなる第2因子グループを有していてもよい。第4質問群は、親の自立性を問う質問項目からなる第3因子グループを有していてもよい。第4質問群は、パートナーの自立性を問う質問項目からなる第4因子グループを有していてもよい。第5質問群は、評価対象になる育児中の児以外に担っている養育または介護の負担を問う質問項目からなる第5因子グループを有していてもよい。
【0124】
(5)児の特徴
評価対象になる育児中の児の要因に関する質問7項目に対して、同様の判断から1因子を指定し、因子負荷量が.360に満たない項目を削除した。その上で、因子分析を再度おこない、最終的に5項目を採用した。
【0125】
第1因子において、「子どもを抱っこしても落ち着いてくれないことが多い(0.679)」、「子どもは機嫌のよい時間が多い(-0.616)」、「子どもがよく泣く(0.550)」、「子どもは病気になりやすい(0.438)」、「子どもがあまり食べない(哺乳・離乳食含む)(0.357)」の質問項目について、負荷量が高かった。これらの質問項目は、育児疲労感や困難感を引き起こしやすい子どもの特徴に関連している。そのため、これらの5つの質問項目が属する第1因子を、「子どもの気質と状態」因子とした。
【0126】
(QIDSとの相関)
上述の5つのドメインごとに行った因子分析によって得られた21の因子とQIDSとの間のPearson積率相関係数を求めたところ、以下の因子で有意な相関を認めた(p<0.01)。QIDSと以下の21個の因子グループ(F1~F21)との相関について、図13図16に示す。各セルの上段の数字は、Peasonの相関係数を示し、下段の数字は、有意確立(両側)を示す。なお、度数は、各セル共通で、上述した有効回答対象者数に対応する1031である。また、各セルの上段に示された相関係数のうち、 “**”が付与された相関係数は、1%水準で有意(両側)であり、“*”が付与された相関係数は、5%水準で有意(両側)である。
【0127】
第1ドメイン(母親の発達特性・人格特性)では、「同調困難(r=0.344)」、「感情コントロール(r=0.318)」、「不注意傾向(r=0.264)」、「愛着の問題(r=0.256)」因子に有意な相関を認めた。第2ドメイン(困難感)では、「自責感(r=0.521)」、「自信のなさ(r=0.439)」因子に強い相関がみられ、「対処可能性(r=0.352)」、「自己肯定感(r=0.254)」、「子どもへの愛情(r=0.200)」因子にも有意な相関を認め、全ての因子において相関がみられた。第3ドメイン(サポート認識)では、「夫からの心理的サポート(r=-0.402)」因子に強い相関がみられ、他にも「サポート受容性(r=-0.298)」、「夫からのサポート(r=-0.239)」因子に有意な相関を認めた。第4ドメイン(環境リソース)では、「パートナーの気質(r=0.262)」、「医療者との関係(r=0.207)」因子に有意な相関を認めた。第5ドメイン(子どもの気質と状態)では、「子どもの気質(r=0.256)」因子に有意な相関を認めた。
【0128】
(重回帰分析)
子育てにかかわるそれぞれの要因が抑うつ感にどれだけ影響を与えるかについて、従属変数をQIDS、各因子を独立変数として、第1~第5ドメインについて強制投入法を用いて重回帰分析を行った。「自信のなさ」、「対処可能性」、「自責感」、「心理的サポート」、「不注意傾向」、「同調困難」、「愛着の問題」、「パートナーの気質」および「子育て・介護負担」の各因子についてスコアが高い母親には精神的不安定さが見られ、母親の精神的不安定さを説明する上で、これらの要因が影響を持つことを示す結果が得られた。
【0129】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上述の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0130】
さらに、本発明者らは、養育者本人に回答させた育児に関する質問群等に基づいて、「大きな問題なく育児ができている」つまり「要支援の程度が低い」と判断され得るような養育者にも、睡眠不足または精神的負担などの問題が生じ得ることに着目した。すなわち、本発明者らは、養育者本人も自覚していないような隠れた個人要因を、要支援状態の程度に関わる因子として採用することにより、さらに精度よく養育者の要支援状態を評価できることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0131】
以下では、実施形態1で説明した要支援評価包括尺度に加えて、評価対象者が無自覚の個人要因を加味することによりさらに精度よく養育者の要支援状態を評価する評価システムについて説明する。さらに、評価結果を踏まえて養育者ごとの要支援のタイプを判別し、個々の養育者に適した支援を提示可能な評価システムについて説明する。
【0132】
<評価システム概要>
図17は、本実施形態に係る評価システムの概略構成を示す図である。実施形態2の評価システム100は、実施形態1の評価システム100が備えている実施形態1の構成群に加えて、第1の追加構成群として、測定システム5および測定結果データベース17(以下、測定結果DB17)を含んでいてもよい。あるいは、実施形態2の評価システム100は、実施形態1の構成群に加えて、第1の追加構成群の代わりに、第2の追加構成として、地域特性データベース18(以下、地域特性DB18)を含んでいてもよい。実施形態2の評価システム100は、上述した第1の追加構成群と第2の追加構成との両方を含んでいてもよい。さらに、実施形態2の評価システム100は、必要に応じて、第1の追加構成群または第2の追加構成に加えて、第3の追加構成として、支援情報データベース19(以下、支援情報DB19)を含んでいてもよい。
【0133】
測定システム5は、評価対象者である養育者および該養育者に養育される児の少なくともいずれかを観測する。測定システム5における観測の対象である養育者および児について、養育者であるか児であるかを特に区別する必要が無い場合には、まとめて、観測対象者と称する。測定システム5は、1つ以上のセンシング装置を含んでおり、センシング装置によって観測対象者に関して測定された測定値を収集し、測定値群を含む測定データを、測定結果DB17にアップロードする。
【0134】
測定結果DB17は、評価対象者ごとに設けられた測定システム5のそれぞれからアップロードされた測定データを記憶している。
【0135】
地域特性DB18は、育児に係る心身の負担増減に関わる地域特性データを、地域ごとに記憶している。例えば、地域特性DB18を作成するために、既存の地域別統計資料などから抽出することができる、育児に係る心身の負担増減に関わる項目に関して、地域ごとに分析を行う。地域特性DB18においては、上述の分析の結果に基づいて判明した地域特性を、地域特性データとして地域ごとに定義する。
【0136】
支援情報DB19は、養育者の育児に係る心身の負担を減少させることに貢献する支援情報を記憶している。支援情報は、支援情報DB19において、例えば、地域ごと、要支援のタイプごと、および、要支援の程度ごとなどに分類されて記憶されている。これにより、評価された養育者に合った支援情報を出力することが可能となる。
【0137】
評価装置1は、例えば、クラウドサーバなどの外部記憶装置において、測定結果DB17、地域特性DB18および支援情報DB19を保持していてもよい。あるいは、評価装置1は、評価装置1が内蔵する記憶装置において測定結果DB17、地域特性DB18および支援情報DB19を保持していてもよい。
【0138】
本実施形態では、評価対象者である養育者の居住地域を特定する情報が、対象者端末2から評価装置1へ供給される。居住地域を特定する情報を、以下では、地域識別情報と称する。地域識別情報が提供されるタイミングは、特に限定されない。一例として、質問DB12から対象者端末2に対して提示される質問データに、居住地域を問う質問が含まれていてもよい。対象者端末2は、要支援状態を問う質問に対する回答を含む回答データと、居住地域を問う質問に対する回答としての地域識別情報とを、評価装置1に対して返信してもよい。地域識別情報としては、例えば、郵便番号、都道府県名、市区町村名などが想定されている。
【0139】
<測定システム概要>
図18は、観測対象者を観測する測定システムの概略構成を示す図である。測定システム5は、制御装置60と、通信装置61と、1つ以上のセンシング装置62とを含む。測定システム5は、必要に応じて、データ取得装置63を含んでいてもよい。
【0140】
制御装置60は、通信装置61およびセンシング装置62と通信可能に接続されており、これらの各装置を統括的に制御して、観測対象者に関して測定された測定値群を測定結果DB17にアップロードする。制御装置60は、例えば、CPUまたは専用プロセッサなどにより構成されてもよい。
【0141】
通信装置61は、インターネットなどの通信ネットワークを介して外部の装置、例えば、測定結果DB17を保持する記憶装置との間でデータの送受信を行う。制御装置60および通信装置61は、例えば、PC、タブレットなどとして1つの筐体に設けられていてもよい。
【0142】
センシング装置62は、観測対象者を観測し、観測対象者に関して定期的に測定値を取得する。測定値は、一定期間(例えば、24時間)、測定システム5に内蔵される不図示の記憶装置に蓄積されてもよい。記憶装置に蓄積された測定値群は、制御装置60の制御下で、測定データとして定期的に通信装置61から測定結果DB17にアップロードされる。
【0143】
複数のセンシング装置62が、一人の観測対象者を様々な観点から観測してよい。また、1つのセンシング装置62が、児Bおよび養育者Rの複数の観測対象者を観測してもよい。センシング装置62としては、具体的には、温度センサ621、マイク622、カメラ623、呼吸心拍センサ624、重量センサ625および測距センサ626、などが想定される。センシング装置62は、上述の具体例に限らず、観測対象者の状況を分析可能な測定値を取得できる、あらゆる種類のセンシング装置であり得る。
【0144】
本実施形態では、一例として、図示の6つのセンシング装置62が、観測対象者である児Bを観測するために採用されている。これらのセンシング装置62は、ベビーベッド、布団、まくら、マット、クーファン、バウンサー、ベビーチェア、ベビーカーなど、新生児または乳児が長く時間を過ごす場所に設置されてもよい。また、児Bの衣類、抱っこ紐、または、おもちゃなどに装着されていてもよい。
【0145】
温度センサ621は、観測対象者の体温を測定する。制御装置60は、例えば、温度センサ621によって測定された、所定時間ごとの児Bの体温を含むCSVファイルを測定データとして測定結果DB17に定期的にアップロードする。
【0146】
マイク622は、観測対象者が発する音声を取得する。制御装置60は、例えば、マイク622が所定期間に集音した音声データを測定データとして測定結果DB17に定期的にアップロードする。音声データは、例えば、WAVファイルであってもよい。音声データには、児Bの笑い声、泣き声、養育者Rの声などが含まれていると考えられ、児Bの状況、児Bと養育者Rとの関わり合いなどを分析するために利用される。
【0147】
カメラ623は、観測対象者の映像を取得する。制御装置60は、例えば、カメラ623が所定期間に撮影した映像データを測定データとして測定結果DB17に定期的にアップロードする。映像データは、例えば、mp4ファイルであってもよい。映像データには、児Bの表情、動き、養育者Rとの接触の様子などが含まれていると考えられ、児Bの状況、児Bと養育者Rとの関わり合いなどを分析するために利用される。
【0148】
呼吸心拍センサ624は、観測対象者の呼吸数、および、心拍数などを測定する。制御装置60は、例えば、呼吸心拍センサ624によって測定された、所定時間ごとの児Bの呼吸数および心拍数を含むCSVファイルを測定データとして測定結果DB17に定期的にアップロードする。
【0149】
重量センサ625は、観測対象者の動き、および、体重などを測定する。制御装置60は、例えば、重量センサ625によって測定された、所定時間ごとの児Bの重心位置、圧力検出位置および体重などを含むCSVファイルを測定データとして測定結果DB17に定期的にアップロードする。重心位置および圧力検出位置などは、例えば、寝返り、ハイハイ、足のばたつかせなど、児Bの動きを分析するために利用される。
【0150】
測距センサ626は、観測対象者の位置関係を測定する。制御装置60は、例えば、測距センサ626によって測定された、児Bと養育者Rとの距離を含むCSVファイルを測定データとして測定結果DB17に定期的にアップロードする。児Bと養育者Rとの距離の経時変化に基づいて、児Bと養育者Rとが接触している時間の長さ、児Bが泣き始めてから養育者Rが駆けつけるまでの所要時間などが分かる。こうして測定された距離は、児Bと養育者Rとの関わり合いなどを分析するために利用される。
【0151】
データ取得装置63は、観測対象者に関する測定データを不図示の外部装置から取得してもよい。例えば、データ取得装置63は、無線通信機能を備えた通信機器であり、養育者Rが使用している体重計、血圧計、歩数計などの外部装置から計測データを取得してもよい。あるいは、データ取得装置63は、養育者Rの個人生活記録(PLR;Personal Life Repository)データの入力受付および管理を実行する情報処理機器であってもよい。データ取得装置63は、養育者Rが日々入力している、体重、睡眠時間、食事量、運動量などのPLRデータを取得し、管理する。データ取得装置63は、それ自体が養育者Rを直接観測できるウェアラブル端末であってもよい。対象者端末2として機能するスマートフォンがデータ取得装置63としても機能してよい。データ取得装置63は、制御装置60と通信して、通信装置61を介して取得した測定データを測定結果DB17にアップロードしてもよいし、データ取得装置63自身が備える通信機能を用いて、測定データを測定結果DB17にアップロードしてもよい。
【0152】
<測定データ>
図19は、測定システム5から測定結果DB17にアップロードされる測定データのデータ構造の一例を示す図である。
【0153】
測定データ68は、児Bに関して測定システム5によって生成された測定データの一例を示す。測定データ68は、一例として、測定日または測定期間を示す情報と、評価対象者である養育者Rを一意に識別する評価対象者IDと、各センシング装置62によって測定された各種の測定値群とを含む。
【0154】
測定データ69は、養育者Rに関して測定システム5によって生成された測定データの一例を示す。測定データ69は、一例として、測定日または測定期間を示す情報と、評価対象者IDと、データ取得装置63によって取得された各種の測定値群とを含む。
【0155】
測定システム5は、児Bについての測定データ68だけを測定結果DB17に定期的に送信するように構成されていてもよいし、児Bの測定データ68および養育者Rの測定データ69の両方を測定結果DB17に送信するように構成されていてもよい。測定システム5は、測定データ68および測定データ69を、測定結果DB17に、別々に送信してもよいし、両者を1つのデータにまとめて送信してもよい。
【0156】
測定結果DB17では、測定データ68および測定データ69に含まれている計測値群は、評価対象者IDごとに、測定日または測定期間と関連付けて蓄積される。
【0157】
評価装置1は、評価対象者の要支援の程度を評価する際、測定結果DB17を参照することができる。そして、上述の評価対象者の所定期間における測定データに基づき分析された児Bおよび養育者Rの状況を考慮して、要支援スコアをより精度よく算出することができる。
【0158】
<評価装置の構成>
図20は、本実施形態に係る評価装置1の要部構成を示す図である。実施形態2の評価装置1における制御部10は、実施形態1の制御部10が備える要素群に加えて、さらに、調整部32を備えている。実施形態2の制御部10は、必要に応じて、分析部31および分類部33の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0159】
調整部32は、測定結果DB17および地域特性DB18の少なくともいずれか1つに記憶されているデータから判明した、評価対象者である養育者Rおよびその児Bの状況を考慮して、算出部15が算出した要支援スコアを調整する。
【0160】
例えば、測定結果DB17に記憶されている測定データによって示される評価対象者またはその児の状況が、要支援の程度を強める状況である場合に、調整部32は、算出された要支援スコアを上方修正してもよい。反対に、測定データによって示される評価対象者またはその児の状況が、要支援の程度を弱める状況である場合に、調整部32は、算出された要支援スコアを下方修正してもよい。
【0161】
あるいは、例えば、地域特性DB18に記憶されている地域特性データによって示される、評価対象者が居住する地域の地域特性が、要支援の程度を強める特性である場合に、調整部32は、算出された要支援スコアを上方修正してもよい。反対に、地域特性データによって示される、評価対象者が居住する地域の地域特性が、要支援の程度を弱める特性である場合に、調整部32は、算出された要支援スコアを下方修正してもよい。
【0162】
分析部31は、測定結果DB17に記憶されている測定データに基づいて、養育者Rおよび児Bの状況を分析する。例えば、分析部31は、児Bの呼吸心拍データに基づいて児Bの睡眠時間および夜間の睡眠間隔などを分析してもよい。また、分析部31は、児Bの睡眠時間および夜間の睡眠間隔を、同月齢の平均的な睡眠時間および夜間の睡眠間隔と比較してもよい。分析部31は、児Bの睡眠時間および夜間の睡眠間隔が平均よりも短い場合に、児Bの状況が要支援の程度を強める状況であると判断してもよい。
【0163】
あるいは、分析部31は、児Bの音声データに基づいて、啼泣回数を分析してもよい。さらに、分析部31は、児Bの音声データ、映像データおよび距離データに基づいて、児Bが泣き始めてから養育者Rが駆けつけるまでの時間、または、養育者Rが対処を始めてから児Bが泣き止むまでの時間を特定してもよい。分析部31は、特定した内容に基づいて、養育者Rは児Bが泣いても放置しがちである、養育者Rがかまっても児Bはなかなか泣き止まない、などの状況があると推定した場合に、児Bの状況が要支援の程度を強める状況であると判断してもよい。
【0164】
分析部31は、観測対象者の測定データを入力値とし、観測対象者の状況を出力値として出力する人工知能(AI;artificial intelligence)による分析器によって実現されてもよい。例えば、分析部31は、児Bの啼泣音声データを入力値とし、児Bの啼泣原因(眠気、空腹、おむつの不快感など)を出力値として出力する分析器であってもよい。分析器は、観測対象者の測定データ(啼泣音声データ)と、各観測対象者の状況を実際に調べた結果(養育者が実際に認識した啼泣理由)との組み合わせを複数含む訓練データを用いて学習された学習済の推定モデルであってもよい。さらに、分析部31は、養育者Rが児Bの啼泣原因に合致した対応を行っているか否かを判断してもよい。
【0165】
分析部31が測定データに基づいて分析した観測対象者の状況を示す状況データは、調整部32に出力される。調整部32は、状況データに基づいて、要支援スコアを調整する。
【0166】
分類部33は、要支援スコアが算出された評価対象者について、要支援のタイプを分類する。実施形態1で述べたとおり、育児に係る心身の負担の増減に関わる因子は、大きくは、5つのドメインに分類され、さらに、21の因子グループに分類される。養育者によっては、要支援の程度について、ドメインごとまたは因子グループごとに偏りが出ることも想定される。分類部33は、こうした偏り基づいて、要支援のタイプを分類してもよい。
【0167】
例えば、分類部33は、算出部15が算出したドメイン別スコアに基づいて、要支援のタイプを分類してもよい。要支援のタイプは、評価対象者が、どのような種類の支援を必要としているのか、または、どのような種類の困り事を抱えているのかを示す情報である。以下、要支援のタイプを要支援タイプと称する。すなわち、要支援タイプは、評価対象者が求める支援の種類または抱える困り事の種類に応じて、評価対象者を分類するための情報である。一例として、分類部33は、第3ドメインD3「サポート認識」のドメイン別スコアが高く算出された評価対象者の要支援タイプを、「サポート認識必要タイプ」などと分類してもよい。あるいは、分類部33は、第4ドメインD4「環境リソース」のドメイン別スコアが高く算出された評価対象者の要支援タイプを、「環境リソース必要タイプ」などと分類してもよい。あるいは、分類部33は、第5ドメインD5「児の特徴」のドメイン別スコアが高く算出された評価対象者の要支援タイプを、「児の世話のヘルプ必要タイプ」などと分類してもよい。
【0168】
他の例では、分類部33は、地域特性DB18に記憶されている地域特性データに基づいて、評価対象者の要支援タイプを決定してもよい。例えば、分類部33は、人口当たりの保育施設数が極端に少ない地域特性を持つ地域に居住する評価対象者の要支援タイプを、「環境リソース必要タイプ」などと分類してもよい。あるいは、分類部33は、核家族が多い地域特性または要介護高齢者が多い地域特性を持つ地域に居住する評価対象者の要支援タイプを、「サポート認識必要タイプ」などと分類してもよい。
【0169】
さらに、分類部33は、行政サービスの充実度、公園の数、保健師の数などを示す地域特性データに基づいて、評価対象者の要支援タイプを分類してもよい。
【0170】
分類部33に分類させる要支援タイプは、実施形態1で説明した要支援評価包括尺度のドメインまたは因子グループに限らない。
【0171】
例えば、複数の評価対象者における回答パターンの類似性から、要支援評価包括尺度の118の質問を、(1)対他者信頼感、(2)対処能力、(3)管理能力、(4)親協力体制、(5)パートナー協力体制、(6)不安感、(7)注意力欠如などのように、実施形態1のドメインおよび因子グループとは異なる質問クラスタに分類してもよい。
【0172】
そして、「この地域の評価対象者は、この質問クラスタで高スコアが出やすい」などのように、地域との有意な相関が得られた質問クラスタを要支援タイプとして採用してもよい。例えば、(4)親協力体制に関する質問クラスタで高スコアが出た特定の地域に居住する評価対象者の要支援タイプを「親協力必要タイプ」などと分類してもよい。
【0173】
あるいは、分類部33は、評価対象者が居住する地域の地域識別情報および評価対象者のドメイン別スコアを入力値とし、要支援タイプを出力値として出力する分類器によって実現されてもよい。例えば、分類器は、評価対象者のドメイン別スコアおよび地域識別情報と、評価対象者について専門家などが実際に決定した要支援タイプとの組を複数含む訓練データを用いて機械学習させることにより構築されてもよい。
【0174】
本実施形態では、管理部16は、調整部32によって調整された最終的な要支援スコアを、評価対象者の評価対象者IDに関連付けて評価結果DB13に記憶する。さらに、管理部16は、評価対象者IDに関連付けて、調整されたドメイン別スコアを評価結果DB13に記憶してもよい。さらに、管理部16は、分類部33によって分類された要支援タイプを、評価対象者IDに関連付けて評価結果DB13に記憶してもよい。さらに、管理部16(特定部)は、評価対象者の要支援スコア、要支援タイプ、および、居住地域の少なくともいずれかに基づいて、評価対象者に合った支援情報を支援情報DB19から特定し、評価対象者IDに関連付けて評価結果DB13に記憶してもよい。
【0175】
<測定データに基づくスコア調整>
図21は、分析部31が、ある評価対象者について測定データを分析した結果出力した状況データのデータ構造の一例を示す図である。
【0176】
状況データは、一例として、「考慮項目」および「判定結果」の2つのカラムを有する。「考慮項目」は、要支援スコアの調整のために考慮すべき、児Bまたは養育者Rの観測項目を示す。判定結果は、該当する観測項目について、児Bまたは養育者Rの状況が、要支援の程度を強める状況であるか、弱める状況であるか、また、その程度を示す。
【0177】
考慮項目は、分析部31を構築する技術者などによってあらかじめ選定されていてもよい。例えば、養育者Rの育児の疲労度または困難感を高める方向に作用する児の特徴に関係が深い項目が「考慮項目」として抽出されていてもよい。
【0178】
図示の例では、「+」の記号が多いほど、児の特徴が養育者の育児の疲労度や困難性を高める方向に作用することを意味する。「-」の記号は、その反対を意味する。分析部31は、例えば、児Bの睡眠時間が同じ月齢の乳児の睡眠時間と比較して短いほど、「+」が多いと判定してもよい。
【0179】
調整部32は、図示のように出力された状況データにしたがって、5つのドメインのうち、所定のドメイン別スコアを調整する。一例として、図示の例では、考慮項目は、第5ドメインD5「児の特徴」に関係する項目として抽出されている。したがって、調整部32は、状況データの判定結果に基づいて、第5ドメインD5「児の特徴」のドメイン別スコアを調整する。具体的には、調整部32は、判定結果に「+」が多いほど、第5ドメインのドメイン別スコアを上方に調整し、「-」が多いほど、第5ドメインのドメイン別スコアを下方に調整する。
【0180】
観測対象者の測定データから分析できる考慮項目が「児の特徴」に限らず、第1ドメインの「発達特性・人格特性」、第2ドメインの「困難感」など他のドメインに関する考慮項目も含んでいる場合、調整部32は、他のドメインのドメイン別スコアを調整したり、その総合値である要支援スコアを直接調整したりしてもよい。また、状況データに、「調整対象ドメイン」のカラムを設けて、判定結果に基づきスコアを調整する対象のドメインを予め指定しておいてもよい。
【0181】
以上のとおり、測定データに基づいて、評価対象者も自覚していない因子を加味することにより、要支援スコアをより精度よく算出することが可能となる。
【0182】
<地域特性データに基づくスコア調整>
図22は、地域特性DB18のデータ構造の一例を示す図である。地域特性DB18は、一例として、地域ごとに地域特性を決定するための規則テーブル181と、地域ごとに決定された地域特性を参照するための参照テーブル182とを含んで構成されていてもよい。
【0183】
規則テーブル181は、一例として、「考慮項目」、「サポート認識」および「環境リソース」の3つのカラムを有する。
【0184】
「考慮項目」は、要支援スコアの調整のために考慮すべき、地域の特性の評価項目を示す。考慮項目は、調整部32を構築する技術者などによってあらかじめ選定されていてもよい。例えば、養育者Rの育児に係る心身の負担増減に作用する「サポート認識」および「環境リソース」に関係が深い項目が「考慮項目」として抽出されていてもよい。「サポート認識」および「環境リソース」に関係が深い考慮項目は、例えば、既存の地域別統計資料などから収集できる項目であってもよい。
【0185】
「サポート認識」は、第3ドメイン「サポート認識」に関連する地域特性の評価規則を考慮項目ごとに示す。具体的には、考慮項目に記載されている条件に当てはまる特性を持つ地域に対して、第3ドメインのドメイン別スコアを高める特性を持つと評価するか否かが当該カラムにて指定されている。「+」の記号は、第3ドメインのドメイン別スコアを高める特性を持つと評価することを指定している。したがって、例えば、ある地域について「一人親家庭が多い」という条件が当てはまる場合、その地域は、規則テーブル181にしたがって、第3ドメインのドメイン別スコアを高める地域特性を持つと評価されることになる。
【0186】
「環境リソース」は、第4ドメイン「環境リソース」に関連する地域特性の評価規則を考慮項目ごとに示す。具体的には、考慮項目に記載されている条件に当てはまる特性を持つ地域に対して、第4ドメインのドメイン別スコアを高める特性を持つと評価するか否かが当該カラムにて指定されている。「+」の記号は、第4ドメインのドメイン別スコアを高める特性を持つと評価することを指定している。したがって、例えば、ある地域について「保育所が少ない」という条件が当てはまる場合、その地域は、規則テーブル181にしたがって、第4ドメインのドメイン別スコアを高める地域特性を持つと評価されることになる。
【0187】
なお、地域ごとの地域特性の評価は、不図示の評価部が、規則テーブル181と上述の既存の地域別統計資料とに基づいて、あらかじめ実行しておいてもよい。参照テーブル182は、上述の評価部によって、評価結果として定義される。
【0188】
規則テーブル181を参照することにより、地域別統計資料に基づいて、地域ごとに地域特性を決定し、後述する、参照テーブル182を得ることができる。
【0189】
参照テーブル182は、一例として、「地域識別情報」および「地域特性」の2つのカラムを有する。「地域特性」のカラムは、さらに、「サポート認識に関する地域特性」および「環境リソースに関する地域特性」の2つのカラムに分かれていてもよい。
【0190】
「地域識別情報」は、評価対象者が居住する地域を特定する識別情報を示す。地域識別情報は、一例として、郵便番号、市区町村名などであってもよい。
【0191】
「地域特性」は、地域識別情報によって特定される地域の地域特性を示す。「+」の記号が多いほど、その地域の地域特性が、要支援の程度を強める方向に作用することを意味する。「-」の記号は、その反対を意味する。不図示の評価部は、規則テーブル181において、地域に当てはまる考慮項目が多いほど、当該地域に対して、多くの「+」の記号を関連付けてもよい。
【0192】
「地域特性」のうち「サポート認識に関する地域特性」のカラムにおいて、「+」の記号が多いほど、その地域の地域特性が、第3ドメインのドメイン別スコアを高める地域特性を有していることを意味する。「地域特性」のうち「環境リソースに関する地域特性」のカラムにおいて、「+」の記号が多いほど、その地域の地域特性が、第4ドメインのドメイン別スコアを高める地域特性を有していることを意味する。
【0193】
調整部32は、評価対象者の居住地域を示す地域識別情報に関連付けられた地域特性を参照テーブル182から読み出し、読み出した地域特性にしたがって、要支援スコアを調整する。例えば、調整部32は、評価対象者の居住地域の「サポート認識に関する地域特性」に「+」の記号が多いほど、第3ドメインのドメイン別スコアを上方に調整する。また、調整部32は、評価対象者の居住地域の「環境リソースに関する地域特性」に「+」の記号が多いほど、第4ドメインのドメイン別スコアを上方に調整する。
【0194】
規則テーブル181の考慮項目は、「サポート認識」および「環境リソース」に関するものに限らず、第1ドメインの「発達特性・人格特性」、第2ドメインの「困難感」、第5ドメインの「児の特徴」など他のドメインに関する考慮項目を含んでいてもよい。この場合、調整部32は、規則テーブル181にしたがって、他のドメインのドメイン別スコアを調整したり、その総合値である要支援スコアを直接調整したりしてもよい。
【0195】
あるいは、規則テーブル181の考慮項目は、5つのドメインに関する項目とは別の項目(例えば、地域特性1~地域特性5など)を含んでいてもよい。地域特性1~地域特性5としては、例えば、地域の産業など、一見育児との関連がわかりにくい項目も含め多数の項目が採用され得る。これらの、一見育児との関連が分かりにくい項目は、例えば、地域ごとの評価対象者の回答パターンを機械学習により集約し、クラスタリングすることにより導出されてもよい。
【0196】
<支援情報>
図23は、支援情報DB19のデータ構造の一例を示す図である。支援情報DB19は、一例として、「支援情報」、「URL(Uniform Resource Locator)」、「対象タイプ」、および、「対象地域」の4つのカラムを有していてもよい。
【0197】
「支援情報」は、評価対象者である養育者Rに対して提供される、育児を支援するための支援情報の名称を示す。本カラムには、支援情報の名称に代えて、該支援情報を提供する施設名または団体名などが格納されていてもよい。
【0198】
「URL」は、該当する支援情報にアクセスするためのURLを示す。
【0199】
「対象タイプ」は、該当する支援情報を提供するのに適している、評価対象者の要支援タイプを示す。
【0200】
「対象地域」は、該当する支援情報を提供するのに適している、評価対象者の居住地域を示す。
【0201】
支援情報DB19は、さらに、不図示の「要支援スコア」のカラムを有していてもよい。「要支援スコア」は、該当する支援情報を提供するのに適している、評価対象者の要支援スコアの範囲を示す。
【0202】
管理部16は、評価対象者について付与された要支援タイプと、評価対象者の居住地域に基づいて、評価対象者に提供するのに適した支援情報を、支援情報DB19から抽出する。管理部16は、抽出した1つ以上の支援情報を、算出された要支援スコアとともに評価結果DB13に登録する。
【0203】
これにより、評価対象者には、居住地域および要支援タイプに適合した支援情報が提供される。支援情報は、評価対象者の支援者が所有する支援者端末3に送信されてもよい。
【0204】
<画面例>
図24は、対象者端末2の表示部22に表示される結果画面の他の例を示す図である。本実施形態に係る結果画面200は、要支援スコア201に加えて、さらに、分類部33によって分類された要支援タイプ202、および、管理部16によって抽出された支援情報203を含んでいてもよい。支援情報203は、例えば、養育者Rに対して支援サービスを提供する施設または団体が運営するウェブサイトのリンク情報であってもよい。
【0205】
このような結果画面200を介して、評価対象者は、自分の要支援スコアを把握するとともに、自分がどのような要支援タイプに属しているのかを把握することができる。さらに、自分が必要とする支援情報203を取得することが可能となる。
【0206】
<処理フロー>
図25は、本実施形態に係る評価装置1が実行する処理の流れを示すフローチャートである。図25に示す一連の処理は、図7に示す評価システム100のシーケンスにおいて、ステップS107に対応している。
【0207】
ステップS201では、算出部15は、実施形態1において説明したとおり、回答データに対する統計的処理に基づき、5つドメインごとに、ドメイン別スコアを算出する。
【0208】
ステップS202では、分析部31は、測定結果DB17に蓄積されている評価対象者の測定データに基づいて、観測対象者の状況を分析する。例えば、分析部31は、評価対象者の児の状況を分析してもよい。
【0209】
ステップS203では、調整部32は、分析部31が生成した状況データに基づいて、ドメイン別スコアを調整する。例えば、調整部32は、第5ドメイン「児の特徴」のドメイン別スコアを調整する。
【0210】
ステップS204では、調整部32は、地域特性DB18を参照し、評価対象者の居住地域における地域特性に基づいて、ドメイン別スコアを調整する。例えば、調整部32は、参照テーブル182を参照し、第3ドメイン「サポート認識」および第4ドメイン「環境リソース」のドメイン別スコアを調整する。
【0211】
ステップS205では、算出部15は、調整後の各ドメイン別スコアを合算して、要支援スコアを算出する。
【0212】
ステップS206では、分類部33は、地域特性に基づいて、評価対象者の要支援タイプを分類する。
【0213】
ステップS207では、管理部16は、支援情報DB19から、分類された要支援タイプおよび評価対象者の居住地域に基づいて、支援情報を抽出する。
【0214】
本実施形態では、管理部16は、S207の後、図8に示すS108において、要支援スコア、要支援タイプ、および、支援情報を、評価対象者IDに関連付けて、評価結果DB13に保存する。こうして、S111において、対象者端末2の結果提示部26は、図24に示す結果画面200を対象者端末2の表示部22に表示させることができる。
【0215】
〔ソフトウェアによる実現例〕
評価装置1の制御ブロック(特に、取得部14、算出部15および管理部16)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0216】
対象者端末2の制御ブロック(特に、質問提示部24、回答処理部25および結果提示部26)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0217】
ソフトウェアによって実現する場合、評価装置1および対象者端末2は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体
メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0218】
〔付記事項〕
本開示に係る評価方法は、児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価方法であって、前記評価対象者の少なくとも個人要因を問う複数の質問に対する、前記評価対象者による回答の群を取得するステップ(S106)と、取得された前記回答の群を統計的に処理して、前記評価対象者の前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出するステップ(S107)とを含み、前記取得するステップでは、少なくとも、前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群(第1ドメイン)に対する前記評価対象者による第1回答群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群(第2ドメイン)に対する前記評価対象者による第2回答群とを取得し、前記算出するステップでは、前記回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して前記要支援スコアを算出する。
【0219】
上述の方法によれば、評価対象者について、少なくとも、育児に起因する要支援状態の程度について評価することが可能である。例えば、本開示に係る評価方法を、養育者の精神疾患罹患傾向の評価(一例として、抑うつ症状になるリスクの予測など)に利用することができる。本評価方法は、評価対象者が実際に児を持つ前から(例えば、妊娠期から)、用いることができる。
【0220】
前記複数の質問は、前記評価対象者の環境要因を問う質問をさらに含み、前記取得するステップでは、さらに、周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群(第3ドメイン)に対する前記評価対象者による第3回答群と、前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群(第4ドメイン)に対する前記評価対象者による第4回答群とを取得してもよい。
【0221】
上述の方法によれば、評価対象者について、精神疾患の罹患状態や予備軍にかぎらず、育児に係る要支援状態の程度を、広く包括的に、かつ、定量的に評価することができる。本評価方法は、評価対象者が実際に児を持つ前から(例えば、妊娠期から)、用いることができる。
【0222】
前記取得するステップでは、さらに、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群(第5ドメイン)に対する前記評価対象者による第5回答群を取得してもよい。
【0223】
上述の方法によれば、評価対象者が児を持った後(例えば、産後)、評価対象者の評価に際し、その児の特徴(状態・気質なども含む)を加味することができる。そのため、評価対象者の育児に係る要支援状態の程度を一層精度よく評価することが可能となる。
【0224】
前記質問群の各々は、抑うつ症状を評価するための所定の尺度と有意な相関が認められた質問を含んでいてもよい。育児に起因する精神疾患の罹患リスクについて、予測精度を向上させることができる。
【0225】
ここで、抑うつ症状を評価するための所定の尺度としては、QIDS等の任意の既知の尺度が適用され得る。すなわち、抑うつ症状を評価するための所定の尺度は、例えば、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、ベックうつ病質問票(BDI)、ベック絶望感尺度、米国疫学研究センターうつ病尺度(CES-D)、患者健診質問票、臨床的に有用なうつ病転帰尺度、うつ病診断検査、エジンバラ産後うつ病調査票(EPDS)、抑うつ病症状尺度、病院不安およびうつ病尺度(HADS)、カッチャー青年期うつ病評価尺度(KADS)、大うつ病調査表(MDI)、Montgomery-Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、気分感情質問票(MFQ)、ツァン自己評価式抑うつ病尺度等であってもよい。
【0226】
前記算出するステップでは、前記評価対象者および前記評価対象者に養育される前記児の少なくともいずれかを観測対象とする測定システムが測定した、前記観測対象の状況を示す測定データ、および、前記評価対象者が居住する地域の育児に関する特性を示す地域特性データ、の少なくともいずれかのデータに基づいて、前記要支援スコアを調整してもよい。
【0227】
上述の方法によれば、質問に回答する評価対象者自身が自覚していない個人要因も加味してさらに精度よく養育者の要支援状態を評価することができる。
【0228】
前記算出するステップでは、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記児の状況を示す前記測定データが、前記児の特徴に関して、要支援の程度を強める状況を示す場合に、前記第5回答群の前記回答群別スコアを上方に調整してもよい。
【0229】
上述の方法によれば、質問に回答する評価対象者自身が自覚していない児の特徴も加味してさらに精度よく養育者の要支援状態を評価することができる。
【0230】
前記算出するステップでは、周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記評価対象者が居住する地域の特性を示す前記地域特性データが、要支援の程度を強める特性を示す場合に、前記第3回答群および前記第4回答群の少なくともいずれか1つの回答群の前記回答群別スコアを上方に調整してもよい。
【0231】
上述の方法によれば、質問に回答する評価対象者自身が自覚していない地域の特性も加味してさらに精度よく養育者の要支援状態を評価することができる。
【0232】
前記評価方法は、前記評価対象者の前記地域特性データおよび前記回答群別スコアに基づいて、前記評価対象者が必要としている支援の種類を示す要支援タイプを決定するステップと、決定された前記要支援タイプに応じて、前記評価対象者に提供する支援情報を特定するステップとをさらに含んでいてもよい。
【0233】
上述の方法によれば、評価対象者を、必要としている支援の種類に応じて分類することができ、その分類に応じて評価対象者に適した支援情報を提供することができる。
【0234】
本開示に係る評価装置(評価装置1)は、児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価装置において、前記評価対象者の個人要因または環境要因を問う複数の質問に対する、前記評価対象者による回答の群を取得する取得部(取得部14)と、取得された前記回答の群を統計的に処理して、前記評価対象者の前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを算出する算出部(算出部15)とを備え、前記取得部は、少なくとも、前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群に対する前記評価対象者による第1回答群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群に対する前記評価対象者による第2回答群とを取得し、前記算出部は、前記回答群ごとに統計的処理を実施して回答群別スコアを算出し、各回答群別スコアを統合して前記要支援スコアを算出する。上述の構成によれば、上述の評価方法と同様の効果を奏する。
【0235】
前記取得部は、さらに、周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群と、前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群とを取得してもよい。
【0236】
前記取得部は、さらに、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群を取得してもよい。
【0237】
前記評価装置は、前記評価対象者および前記評価対象者に養育される前記児の少なくともいずれかを観測対象とする測定システム(測定システム5)が測定した、前記観測対象の状況を示す測定データ、および、前記評価対象者が居住する地域の育児に関する特性を示す地域特性データ、の少なくともいずれかのデータに基づいて、前記要支援スコアを調整する調整部(調整部32)を備えていてもよい。
【0238】
前記算出部は、前記評価対象者が育児の対象としている児の特徴を問う第5質問群に対する前記評価対象者による第5回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記調整部は、前記児の状況を示す前記測定データが、前記児の特徴に関して、要支援の程度を強める状況を示す場合に、前記第5回答群の前記回答群別スコアを上方に調整してもよい。
【0239】
前記算出部は、周囲からの支援につき前記評価対象者の受容可能性を問う第3質問群に対する前記評価対象者による第3回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記評価対象者の心身の負担増減に関与する環境資源の状態を問う第4質問群に対する前記評価対象者による第4回答群について前記回答群別スコアを算出し、前記調整部は、前記評価対象者が居住する地域の特性を示す前記地域特性データが、要支援の程度を強める特性を示す場合に、前記第3回答群および前記第4回答群の少なくともいずれか1つの回答群の前記回答群別スコアを上方に調整してもよい。
【0240】
前記評価装置は、前記評価対象者の前記地域特性データおよび前記回答群別スコアに基づいて、前記評価対象者が必要としている支援の種類を示す要支援タイプを決定する分類部33と、決定された前記要支援タイプに応じて、前記評価対象者に提供する支援情報を特定する特性部(管理部16)とをさらに備えていてもよい。
【0241】
本開示に係る評価システム(評価システム100)は、上述のいずれかの評価装置(評価装置1)と、前記評価装置と通信可能に接続された、前記評価対象者が操作する対象者端末(対象者端末2)とを含み、前記対象者端末は、前記評価対象者に前記複数の質問を提示する第1出力制御部(質問提示部24)と、前記複数の質問に対する前記回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部(回答処理部25)と、受け付けられた前記回答の群を前記評価装置に送信する送信部(通信部21)と、送信された前記回答の群に対応する要支援スコアを前記評価装置から受信する受信部(通信部21)と、受信された前記要支援スコアを前記評価対象者に提示する第2出力制御部(結果提示部26)とを備えている。
【0242】
上述の構成によれば、情報通信技術を利用して、本開示に係る評価方法を活用し、養育者の育児に起因する要支援状態の程度について評価することが可能なシステムを構築することができる。
【0243】
前記第1出力制御部は、前記評価対象者の妊娠に係る情報が前記対象者端末に入力されたことに応答して、前記質問群のいずれかに属する複数の質問を前記評価対象者に提示してもよい。
【0244】
上述の構成によれば、評価対象者が児を持つ予定であることを捉えることができるとともに、それをトリガとして、評価対象者に対して機会を逸することなく、質問を投げかけることができる。これにより、評価対象者に対して、妊娠期から評価対象者の要支援状態またはそのようになりそうな傾向を、遅滞なく評価することができる。
【0245】
前記評価装置は、さらに、算出された前記要支援スコアを、前記評価対象者を一意に識別する識別情報と関連付けて記憶部に記憶するスコア管理部を備え、前記スコア管理部は、前記要支援スコアを、育児に係る心身の負担を低減するための支援を前記評価対象者に提供する支援者が利用する支援者端末によって読み取り可能に記憶してもよい。
【0246】
上述の構成によれば、支援者は、評価対象者の要支援状態またはそのようになりそうな傾向を、遅滞なく把握し、適切なタイミングで支援ができるように体勢を整えることが可能になる。また、評価対象者も、心身の疲弊によって育児が困難になる前に、適切なタイミングで支援を受けられるようになる。
【0247】
本開示に係る評価システム(評価システム100)は、上述の評価装置と、前記評価装置と通信可能に接続された、前記評価対象者が操作する対象者端末とを含み、前記対象者端末は、前記評価対象者に前記複数の質問を提示する第1出力制御部と、前記複数の質問に対する前記回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部と、受け付けられた前記回答の群を前記評価装置に送信する送信部と、送信された前記回答の群に対応する要支援スコアと、前記地域特性データおよび前記回答群別スコアに基づいて決定された要支援タイプと、該要支援タイプに基づいて特定された支援情報とを前記評価装置から受信する受信部と、受信された前記要支援スコア、前記要支援タイプおよび前記支援情報を前記評価対象者に提示する第2出力制御部とを備えている。
【0248】
本開示に係る対象者端末の制御プログラムは、児を持つまたは持つ予定の評価対象者について、育児に係る心身の負担を低減するための支援を必要とする要支援状態の程度を評価する評価装置と通信する対象者端末としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記対象者端末が備えている、前記評価対象者の発達特性または人格特性を問う第1質問群と、前記評価対象者の育児を困難にする方向に働く、前記評価対象者の思考の傾向を問う第2質問群とを、前記評価対象者に少なくとも提示する第1出力制御部、前記質問群に対する回答の群の入力を前記評価対象者から受け付ける入力制御部、および、受け付けられた前記回答の群に対応して、前記評価装置から受信された、前記要支援状態の程度を表す要支援スコアを前記評価対象者に提示する第2出力制御部としてコンピュータを機能させる。
【0249】
上述の構成によれば、情報通信技術を利用して、本開示に係る評価方法を活用し、養育者の育児に起因する要支援状態の程度について評価することが可能なシステムを構築することができる。
【0250】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0251】
1 評価装置、2 対象者端末、3 支援者端末、4 サービス提供サーバ、5 測定システム、10 制御部、11 通信部、12 質問データベース、13 評価結果データベース、14 取得部、15 算出部、16 管理部(スコア管理部、特定部)、17 測定結果データベース、18 地域特性データベース、19 支援情報データベース、20 制御部、21 通信部(送信部、受信部)、22 表示部、23 操作部、24 質問提示部(第1出力制御部)、25 回答処理部(入力制御部)、26 結果提示部(第2出力制御部)、31 分析部、32 調整部、33 分類部、100 評価システム
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