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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036044
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】食肉用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/70 20160101AFI20220225BHJP
【FI】
A23L13/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133073
(22)【出願日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020139752
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酒井 遥
(72)【発明者】
【氏名】新保 友子
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG03
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK06
4B042AK09
4B042AP02
4B042AP03
4B042AP07
(57)【要約】
【課題】本発明は、加熱調理により柔らかくジューシーな食肉加工品が簡便に得られる食肉用組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の重量比が1:1~1:2で、水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計が食肉用組成物の4~17重量%である食肉用組成物を調製する。得られた食肉用組成物を食肉に揉みこむか食肉を該食肉用組成物に浸漬してから加熱調理すると柔らかくジューシーな食肉加工品が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉を含有する食肉用組成物。
【請求項2】
食肉用組成物に含有する水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の重量比が1:1~1:2である請求項1に記載の食肉用組成物。
【請求項3】
水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計が食肉用組成物の4~17重量%である請求項1又は2に記載の食肉用組成物。
【請求項4】
水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の合計量が食肉に対して0.4~3.4重量%になるように、請求項1から3のいずれか1項に記載の食肉用組成物を含有する食肉加工品。
【請求項5】
請求項4に記載の食肉加工品を加熱調理して得られる食肉加工品。
【請求項6】
水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉を混合した混合物を、さらに、食肉用組成物の他の原料と混合することを特徴とする食肉用組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の食肉用組成物を、食肉に揉み込むか又は食肉を該食肉用組成物に浸漬して加熱調理することを特徴とする食肉加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉調理に用いる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、豚、鶏などの畜肉や魚肉などの食肉の薄切り肉やブロック肉を加熱調理する料理では、食肉素材が柔らかくジューシーになるように簡便に加熱調理できることが求められている。
【0003】
柔らかくジューシーに調理するための食肉用組成物として、乳化剤で乳化させた油脂と澱粉を含有する食肉加工用の乳化油脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の発明では油中水型の乳化油脂組成物を使用しており、澱粉を糊化させて粘度を高めて、ハンバーグや肉団子等の食肉原料素材に混ぜて使用している。
【0004】
水中油型の乳化油脂組成物も食肉加工に利用されている(例えば、特許文献2、3、4、5及び6参照)。特許文献2は、挽き肉食品用の乳化組成物に関する発明であり、挽き肉、成型肉及び接着した食肉類において、ジューシーでソフトな食感が得られる。特許文献3は、畜肉加工品用の水中油型乳化脂に関する発明であり、ハンバーグやメンチカツなどのミンチ状の牛肉や豚肉、魚肉等の畜肉類に、必要に応じ野菜や豆類、その他食品素材を混合して畜肉加工生地を調製した後で成形する畜肉加工品について、ジューシー感やコク味を向上させることができる。特許文献4は、畜肉加工食品にジューシー感を付与する畜肉加工食品用水中油型乳化組成物の発明であり、ミンチ肉と他食材を混合する際に同時に添加して練込んで使用する。しかし、これらの発明は、挽き肉や形成肉に使用される乳化油脂組成物であり、薄切り肉やブロック肉を浸漬だけで柔らかくジューシーにするには不十分である。
【0005】
特許文献5の発明では、加熱調理時に食肉本来のジューシーさをもつ食肉加工製品を得るために、水中油型乳化液をピックル液として食肉に注入する。特許文献6は霜降状肉に改質された食用肉を得るために水中油滴型エマルジョンを食肉に注入する。これらの発明では注入する器具が必要であり家庭などで使用するには不向きである。
【0006】
特許文献7には、咀嚼・嚥下機能の低い者(高齢者や要介護者)にも喫食が容易となるかたさまで軟質化が可能な食肉加工技術として、プロテアーゼとともに食用油脂を使用する。この発明では食肉を柔らかくすることはできるが、適度な歯ごたえが失われてしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-83790号公報
【特許文献2】特開2005-168319号公報
【特許文献3】特開2017-51156号公報
【特許文献4】特開2005-46090号公報
【特許文献5】特開2000-157218号公報
【特許文献6】国際公開第2004/086884号
【特許文献7】特開2015-228859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、加熱調理により柔らかくジューシーな食肉加工品が簡便に得られる食肉用組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、水中油型乳化油脂と未糊化の澱粉を含有する食肉用組成物を調製し、食肉に揉み込むか又は食肉を該食肉用組成物に浸漬して加熱調理した食肉が柔らかくジューシーであることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示す食肉用組成物、食肉加工品及びその製造方法である。
(1)水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉を含有する食肉用組成物。
(2)食肉用組成物に含有する水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の重量比が1:1~1:2である上記(1)に記載の食肉用組成物。
(3)水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計が食肉用組成物の4~17重量%である上記(1)又は(2)に記載の食肉用組成物。
(4)水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の合計量が食肉に対して0.4~3.4重量%になるように、上記(1)から(3)のいずれかに記載の食肉用組成物を含有する食肉加工品。
(5)上記(4)に記載の食肉加工品を加熱調理して得られる食肉加工品。
(6)水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉を混合した混合物を、さらに、食肉用組成物の他の原料と混合することを特徴とする食肉用組成物の製造方法。
(7)上記(1)から(3)のいずれかに記載の食肉用組成物を、食肉に揉み込むか又は食肉を該食肉用組成物に浸漬して加熱調理することを特徴とする食肉加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食肉用組成物を使用することで、食肉を簡便に柔らかくジューシーに加熱調理することができる。また、柔らかくジューシーな食肉加工品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するには、水中油型乳化油脂と未糊化澱粉を含有する水溶液を調製する。得られた水溶液を食肉用組成物として食肉に揉み込むか又は食肉を該食肉用組成物に浸漬することで、簡便に柔らかくジューシーに加熱調理される食肉加工品を得られる
【0013】
本発明における水中油型乳化油脂は、食用油脂を水中油型に乳化させたものである。脂肪酸エステルなどの乳化剤を用いても良いが、乳化剤を使用せず、機械的に油脂を乳化して、高圧により1μm程度に油粒子を均質化して分散させたものが好ましい。なお、本発明において「水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の重量比」や「水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計」を計算するときの水中油型乳化油脂の含有量は、食肉用組成物の原料として使用する水中油型乳化油脂の含有量であり、後述の本発明に用いられる水中油型乳化油脂と未糊化澱粉以外の原料は含まない。
【0014】
本発明における澱粉は未糊化であることが重要である。糊化した澱粉を使用すると食肉用組成物の粘度が高くなるため、食肉用組成物を充分に浸透させるためには好ましくない。澱粉原料としては、馬鈴薯、タピオカ、コーン、米、小麦など食品用途として使用される澱粉原料であればよい。また、これらを架橋処理や酸処理した加工澱粉を用いてもよい。
【0015】
本発明の乳化油脂と澱粉の割合は重要である。食肉用組成物に含有する水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の重量比が1:1~1:2の範囲で本発明の効果が得られる。
【0016】
また、本発明の食肉用組成物に含まれる水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計は、食肉用組成物中の濃度として4~17重量%が好ましく、6~12重量%がより好ましい。
【0017】
本発明の食肉用組成物を食肉に添加する場合、食肉用組成物を食肉にムラなく無駄なく添加するという点で、食肉100gあたりの食肉用組成物の添加量は、10~20gが好ましく、15~20gがより好ましい。そのため、本発明の食肉用組成物に含まれる水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計は、食肉100gあたり0.4~3.4gが好ましく、0.6~2.4gがより好ましい。
【0018】
本発明に用いられる水中油型乳化油脂と未糊化澱粉以外の原料としては、醤油、砂糖や果糖ぶどう糖液糖などの糖類、みりんや酒精含有調味料などの酒類調味料、たん白加水分解物、酵母エキス、昆布エキス、魚介エキス、野菜エキス、畜肉エキスなどのうまみ原料、キサンタンガムなどの増粘剤、香辛料、食塩などが挙げられる。また、ネギ、ショウガやニンニクなどの具材を加えてもよい。
【0019】
以下、実施例を示して本発明の効果をより具体的に説明する。
【実施例0020】
(水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の比率の検討1)
水中油型乳化油脂に合わせて使用する未糊化澱粉の比率について検討した。表1に示す配合で、水中油型乳化油脂(角光化成社製 カッコーエースDE)、未糊化澱粉(松谷化学社製 リン酸架橋澱粉 松谷ダリア)、キサンタンガム(カーギル社製 SATIAXANE CX930QD)および水を混合して試料1~5を調製した。
【0021】
【表1】
【0022】
(豚ヒレ肉の前処理)
豚ヒレ肉は、厚さ約5mmで一枚の重さが約15gの豚ヒレ肉を使用した。ビニール袋に豚ヒレ肉約130gを入れ、次に前記試料を豚ヒレ肉130gあたり20g加え、ムラが無いように揉みこんで、4時間常温で静置した後、加熱調理した。
【0023】
(豚ヒレ肉の加熱調理)
上記試料を揉みこんだ豚ヒレ肉を加湿100%、120℃に設定したスチームコンベクションオーブンで4分間加熱して豚ヒレ肉を加熱調理した。試料1~5を揉みこんで加熱調理した豚ヒレ肉をそれぞれヒレ肉1~5とした。
【0024】
(歩留まりの測定)
表1の配合で調製した試料1~5を揉みこんで加熱調理したヒレ肉1~5について、それぞれ加熱調理前と加熱調理後の重量を測定し、加熱調理後の重量を加熱調理前の重量で除して加熱調理による歩留まりを計算した。結果は百分率で表2に示した。
【0025】
(官能評価)
表1の配合で調整した試料1~5を揉みこんで調理したヒレ肉1~5について、柔らかさとジューシーさの2項目について、15名のパネルで順位をつけた平均値を表2に示した。数字が小さいほど柔らかい、ジューシーであるとの評価である。
【0026】
【表2】
【0027】
表2に示したように、未糊化澱粉を多く配合するほど歩留まりが良くなる傾向があった。しかし、未糊化澱粉のみで水中油型乳化油脂を使用しない場合に比べて、水中油型乳化油脂を使用した試料では、柔らかさとジューシーさの官能評価が高くなった。一方、水中油型乳化油脂の比率を高めると肉汁が流出しパサパサした食感になった。以上のことから、本発明の効果を得るためには、水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の比率を調整することが必要であることがわかる。
【実施例0028】
(水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の比率の検討2)
上記水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の比率の検討1では、水中油型乳化油脂:未糊化澱粉が1:2のとき最も柔らかく、1:1のとき最もジューシーであった。そこで、1:2と1:1の間についてさらに検討を行った。実施例1と同様に表3に示す配合で試料a~cを調製し、それぞれ豚ヒレ肉に揉みこんで加熱調理したヒレ肉a~cについて歩留まりを測定し、柔らかさ、ジューシーさについて官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
前記実施例1の表2と上記表4に示す通り、水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の比率は水中油型乳化油脂:未糊化澱粉が1:2~1:1で本発明の効果が得られ、5:7で最も良い効果を得られることがわかる。
【実施例0032】
(水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の濃度の検討)
食肉用組成物中の水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の濃度について検討した。水中油型乳化油脂と未糊化澱粉の比率は5:7とした。実施例1と同様に表5に示す配合で試料6~10を調製し、豚ヒレ肉130gあたり前記試料を20g加え、実施例1と同様に、それぞれ豚ヒレ肉に揉みこんで加熱調理したヒレ肉6~10について歩留まりを測定し、柔らかさ、ジューシーさについて官能評価を行った。結果を表6に示す。
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
表6に示した結果から、水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の試料中の濃度を高くするほど歩留まりが向上し、柔らかく、ジューシーになる傾向が認められたが、濃度を高くしすぎるとぬめりが出ることがわかる。そのため、本発明の効果を得るには、食肉用組成物中の水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の含有量の合計は4~17重量%が好ましく、6~12重量%がより好ましいことがわかる。
【実施例0036】
(油中水型乳化油脂及び糊化澱粉との比較)
本発明は水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉の組み合わせである。先行技術の油中水型乳化油脂及び糊化澱粉との比較を行った。実施例3の試料9を本発明の実施例とし、澱粉を糊化させた比較例として、試料9を90℃に加熱して澱粉を糊化させた試料12を調製した。また、油中水型乳化油脂及び糊化澱粉の比較例としてパーム油、澱粉、乳化剤および水を混合して試料13を調製した。
【0037】
(油中水型乳化油脂及び糊化澱粉 比較例 試料13の調製)
上記比較例の試料13は、60℃に加熱したパーム油77gに乳化剤としてコハク酸モノグリセリド(太陽化学社製 サンソフトNo.681NU)3g及びレシチン(太陽化学社製 サンレシチンA-1)0.2gを溶解し油相とした。ヒドロキシプロピル化リン酸架橋ワキシーコーン澱粉(王子コーンスターチ社製 ひこぼし300)2gを水17.8gに加えて撹拌しながら90℃に加熱して澱粉を糊化させて水相を調製した。60℃に加熱した前記油相に前記水相を加えて乳化させて比較例の試料13を調製した。
【0038】
実施例1と同様にして、上記の実施例の試料9並びに比較例の試料12及び13をそれぞれ豚ヒレ肉に揉みこんで加熱調理したヒレ肉9-2、12及び13について、歩留まりを測定し、柔らかさ、ジューシーさについて官能評価を行った。結果を表7に示す。
【0039】
【表7】
【0040】
水中油型の乳化油脂と未糊化澱粉を使用した試料9の食肉用組成物で調理した実施例のヒレ肉9-2は、油中水型の乳化油脂と糊化した澱粉を使用した試料13で調理した比較例のヒレ肉13よりも柔らかくジューシーであり、歩留まりも良かった。水中油型の乳化油脂と糊化した澱粉を使用した試料12で調理したヒレ肉12は、試料を使用せずに調理したヒレ肉と同じ程度の柔らかさとジューシーさであった。以上のことから、水中油型乳化油脂及び未糊化澱粉を食肉用組成物に使用することにより、柔らかく、ジューシーで歩留まりも良くなることがわかる。
【実施例0041】
(豚こま切れ肉及び鶏むね肉での効果)
食肉の形状と種類による影響を確認するため、豚こま切れ肉及び鶏むね肉を使用した場合について、本発明の食肉用組成物による添加効果を検討した。食肉用組成物として、実施例3の試料9を使用した。実施例1と同様に豚こま切れ肉及び鶏むね肉それぞれ130gあたり食肉組成物20gを添加し、ムラが無いように揉みこんで、4時間常温で静置した後、実施例1と同様にスチームコンベクションオーブンで加熱調理した。豚こま切れ肉は、加湿100%、100℃で3分間加熱調理した。鶏むね肉は、加湿100%、100℃で5分間加熱調理した。
【0042】
実施例1と同様に柔らかさとジューシーさについて、食肉用組成物を使用せずに加熱調理した豚こま切れ肉及び鶏むね肉をそれぞれ対照として評価したところ、豚こま切れ肉及び鶏むね肉のいずれにおいても、本発明の食肉組成物を使用したほうが、柔らかく、かつジューシーであった。以上のことから、本発明の食肉用組成物は、食肉の形状や種類が違っても効果がみられることがわかる。