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特開2022-36066メトキシフラボノイド含有抽出物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036066
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】メトキシフラボノイド含有抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220225BHJP
   A61K 36/906 20060101ALI20220225BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220225BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20220225BHJP
   A61P 1/00 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 1/14 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 1/02 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20220225BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20220225BHJP
   A61K 31/352 20060101ALN20220225BHJP
   A61K 125/00 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/906
A61Q19/00
A61K8/9794
A61P1/00
A61P1/04
A61P3/02
A61P3/10
A61P1/14
A61P1/02
A61P19/02
A61P29/00
A61K31/352
A61K125:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134530
(22)【出願日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2020139910
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519028623
【氏名又は名称】オラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】禹 済泰
(72)【発明者】
【氏名】山野 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】照屋 俊明
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD61
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF10
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083CC02
4C083CC03
4C083DD21
4C083DD23
4C083FF01
4C086AA04
4C086BA08
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA34
4C086NA20
4C086ZA66
4C086ZA67
4C086ZA68
4C086ZA69
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZC21
4C086ZC35
4C088AB81
4C088AC13
4C088BA10
4C088BA11
4C088BA32
4C088CA06
4C088CA11
4C088CA12
4C088CA23
4C088MA16
4C088MA34
4C088NA20
4C088ZA66
4C088ZA67
4C088ZA68
4C088ZA69
4C088ZA96
4C088ZB11
4C088ZC21
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、従来技術と比較して、同程度又はそれ以上のメトキシフラボノイドを含有しつつも、固形状の黒ショウガ抽出物を得ることができる方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程と、前記黒ショウガ粗抽出物を、加水処理、アルカリ処理及び塩析に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程とを含む、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の製造方法などにより解決される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程と、
前記黒ショウガ粗抽出物を、加水処理及びアルカリ処理に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程と
を含む、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の製造方法。
【請求項2】
黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程と、
前記黒ショウガ粗抽出物を、加水処理、アルカリ処理及び塩析に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程と
を含む、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記黒ショウガ粗抽出物が、前記抽出処理により得られた抽出液を固液分離処理及び濃縮処理に供して得られた黒ショウガ粗抽出物である、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記メトキシフラボノイド可溶性溶媒が、50vol%~70vol%の含水エタノールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記加水処理が、前記黒ショウガ粗抽出物におけるメトキシフラボノイドあたり5質量倍量~50質量倍量の水を用いた加水処理である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ処理は、最終濃度が2%(w/v)~5%(w/v)である水酸化ナトリウムを用いたアルカリ処理である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩析が、グルコース、スクロース及びマルトースからなる群から選ばれる少なくとも1種の糖類を用いた塩析である、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン及び3,5,7,4’-テトラメトキシフラボンの含有量の合計が60wt%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、固形状のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン及び3,5,7,4’-テトラメトキシフラボンの含有量の合計が60wt%以上であり、かつ、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン及び3,5,7,4’-テトラメトキシフラボンが原料である黒ショウガに由来する、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物。
【請求項11】
前記メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、固形状のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物である、請求項10に記載の黒ショウガ抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒ショウガを原料とするメトキシフラボノイド含有物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドは多くの植物に含まれる二次代謝産物であり、約8,000種が知られている。その中でもメトキシフラボノイドは、種類によっては、発癌抑制作用、血糖値低下作用、抗肥満作用などの種々の生理活性を有することが知られている。しかし、植物体におけるメトキシフラボノイドの含有量は小さく、さらに代謝されやすいことから、植物体からメトキシフラボノイドを大量に得ることが困難であり、その利用の大きな妨げになっている。
【0003】
メトキシフラボノイドを含有する植物は種々知られているところ、そのうちの1種に黒ショウガ(Kaempferia parviflora)がある。
【0004】
黒ショウガからメトキシフラボノイドを抽出する方法として、例えば、特許文献1には、黒ショウガをエタノールを用いて抽出処理に供して得られる抽出物を、中鎖脂肪酸トリグリセリドに溶解することにより、黒ショウガ油脂抽出物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015-170681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法によれば、一定量のメトキシフラボノイドを含有する油脂抽出物が得られる可能性がある。しかし、特許文献1に記載の方法によって得られる黒ショウガ油脂抽出物は、液状であることから、加工性及び保存性が悪いという問題がある。さらに、該黒ショウガ油脂抽出物は、油分を大量に含有することから、油分の取込みに制限のある者にとっては、摂取が困難である。
【0007】
そこで、本発明は、特許文献1に記載の方法によって得られる黒ショウガ油脂抽出物と同程度又はそれ以上のメトキシフラボノイドを含有しつつも、固形状の黒ショウガ抽出物を得ることができる方法を提供することを発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、黒ショウガに対して種々の工程を適用して、試行錯誤を繰り返すことにより鋭意検討した結果、驚くべきことに、黒ショウガを、溶媒抽出処理、加水処理及びアルカリ処理又は溶媒抽出処理、加水処理、アルカリ処理及び塩析に供することにより、メトキシフラボノイドを高濃度で含有する固形状の黒ショウガ抽出物が得られることを見出した。結果として、本発明者らは、黒ショウガから、高濃度のメトキシフラボノイドを含有する黒ショウガ抽出物を製造する方法を創作することに成功した。本発明はこのような知見や成功例に基づいて完成された発明である。
【0009】
したがって、本発明によれば、以下の各態様の方法及び黒ショウガ抽出物が提供される。
[1]黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程と、
前記黒ショウガ粗抽出物を、加水処理及びアルカリ処理に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程と
を含む、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の製造方法。
[2]黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程と、
前記黒ショウガ粗抽出物を、加水処理、アルカリ処理及び塩析に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程と
を含む、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の製造方法。
[3]前記黒ショウガ粗抽出物が、前記抽出処理により得られた抽出液を固液分離処理及び濃縮処理に供して得られた黒ショウガ粗抽出物である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の方法。
[4]前記メトキシフラボノイド可溶性溶媒が、50vol%~70vol%の含水エタノールである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]前記加水処理が、前記黒ショウガ粗抽出物におけるメトキシフラボノイドあたり5質量倍量~50質量倍量の水を用いた加水処理である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記アルカリ処理は、最終濃度が2%(w/v)~5%(w/v)である水酸化ナトリウムを用いたアルカリ処理である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7]前記塩析が、グルコース、スクロース及びマルトースからなる群から選ばれる少なくとも1種の糖類を用いた塩析である、[2]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8]前記メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン及び3,5,7,4’-テトラメトキシフラボンの含有量の合計が60wt%以上である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9]前記メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、固形状のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10]3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン及び3,5,7,4’-テトラメトキシフラボンの含有量の合計が60wt%以上であり、かつ、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン及び3,5,7,4’-テトラメトキシフラボンが原料である黒ショウガに由来する、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物。
[11]前記メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、固形状のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物である、[10]に記載の黒ショウガ抽出物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様の方法によれば、黒ショウガを原料として、メトキシフラボノイドを高濃度で含有する黒ショウガ抽出物を製造することができる。また、本発明の方法で採用する処理操作は簡便かつ安全であることから、本発明の一態様の方法によれば、メトキシフラボノイド含有物を工業的規模で大量に製造することが可能である。したがって、本発明の一態様の方法は、工業的実用性、迅速性、安全性かつ経済性に優れた、黒ショウガから高濃度メトキシフラボノイド含有物を製造する方法である。
【0011】
本発明の一態様の方法によって得られる黒ショウガ抽出物及び本発明の一態様の黒ショウガ抽出物は、固形状であり得ることから、多様な剤形に加工することができ、種々の飲食品及び化粧品に添加することができ、さらに広く流通することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、後述する実施例に記載されているとおりの、フラボノイドの基本骨格及び黒ショウガ抽出物から単離したメトキシフラボノイドの名称を示す図である。
図2図2は、後述する実施例に記載されているとおりの、例3の製造スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様である方法及び黒ショウガ抽出物の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0014】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている憶測や推論は、本発明者らのこれまでの知見や経験によってなされたものであることから、本発明の技術的範囲はこのような憶測や推論のみによって拘泥されるものではない。
【0015】
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0016】
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
【0017】
「含有量」は、濃度と同義であり、黒ショウガ抽出物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。
【0018】
数値範囲の「~」は、本明細書において、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0wt%~100wt%」は、0wt%以上であり、かつ、100wt%以下である範囲を意味する。
【0019】
単位の「vol%」は「%(v/v)」及び「体積%」と同義である。単位の「wt%」は「%(w/w)」及び「質量%」と同義である。単位の「%(w/v)」は「質量体積%」と同義である。
【0020】
「メトキシフラボノイド」とは、少なくとも1個のメトキシ基(CHO-)を有するフラボノイドの総称である。フラボノイドの基本骨格は、図1で示されるとおりの、ベンゼン環2個(図1におけるA環及びB環)を3個の炭素原子でつないだC-C-C構造を有する化合物群の総称である。メトキシフラボノイドのうち、例えば、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンは、図1に示されている一般式において、3位(R)、5位(R)、7位(R)、3’位(R)及び4’位(R)にある置換基がメトキシ基であり、その他の置換基が水素原子である化合物をいう。
【0021】
「MF-2」は、3,5,7,3’,4’-pentamethoxy flavone(3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン)を意味し;「MF-3」は5,7-dimethoxy flavone(5,7-ジメトキシフラボン)を意味し;「MF-4」は5,7,4’-trimethoxy flavone(5,7,4’-トリメトキシフラボン)を意味し;「MF-6」は3,5,7,4’-tetramethoxy flavone(3,5,7,4’-テトラメトキシフラボン)を意味する。
【0022】
本発明の一態様の方法は、メトキシフラボノイドを含有する黒ショウガ抽出物を製造する方法である。本発明の一態様の方法は、原料である黒ショウガを、溶媒抽出処理、加水処理及びアルカリ処理又は溶媒抽出処理、加水処理、アルカリ処理及び塩析に供することにより、黒ショウガ抽出物として、メトキシフラボノイド含有物を得ることを特徴とする。
【0023】
本発明の方法の第1の態様は、以下の工程(1)及び(2)を少なくとも含む。
(1)黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程
(2)黒ショウガ粗抽出物を、加水処理及びアルカリ処理に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程
【0024】
本発明の方法の第2の態様は、以下の工程(1)及び(2)’を少なくとも含む。
(1)黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る工程
(2)’黒ショウガ粗抽出物を、加水処理、アルカリ処理及び塩析に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る工程
【0025】
黒ショウガ(Kaempferia parviflora)は、黒ウコンともよばれており、東南アジアなどに自生することで知られているショウガ科バンウコン属の植物である。黒ショウガは、精力増進、滋養強壮、血糖値の低下、体力回復、消化器系の改善、膣帯下、痔核、痔疾、むかつき、口内炎、関節痛、胃痛の改善などの作用があることが知られている。黒ショウガは、長期にわたりヒトに摂取されてきた実績のある天然植物であって安全性が高い。
【0026】
黒ショウガの使用部位は、メトキシフラボノイドを含む部位であれば特に限定されず、例えば、根、茎、葉、花、枝などが挙げられるが、好ましくはメトキシフラボノイドを多く含む根及び/又は茎(以下、根茎とよぶ。)である。黒ショウガは、根茎に加えて、葉、花などの他の部位が混入したものであってもよい。
【0027】
黒ショウガは、採取したままの状態のものでもよく、採取した後に乾燥などの加工処理に供した状態のものでもよい。また、黒ショウガを採取した後、加工処理までに時間を要する場合、黒ショウガの変質を防ぐために低温貯蔵などの当業者が通常用いる貯蔵手段により貯蔵することが好ましい。
【0028】
黒ショウガは、用いる黒ショウガの部位によっては水分を多く含み、抽出処理の効率が低下するおそれがあることから、乾燥処理に供したものであることが好ましい。乾燥処理は特に限定されず、例えば、黒ショウガの乾燥後の質量(乾燥質量)が、乾燥前の質量(湿質量)に対して9/10~1/10程度になるように乾燥する処理などが挙げられる。乾燥処理は、例えば、熱風乾燥、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥、風乾などの当業者に公知の任意の方法により行われ得る。加熱による乾燥は、例えば、30℃~100℃、24時間~72時間にて加温により黒ショウガやメトキシフラボノイドが変質しない温度及び時間で行われ得る。
【0029】
黒ショウガは、溶媒との接触面積を上げて抽出処理を効率的に行うという観点からは、細断、破砕、粉砕又はすり潰した状態のものであることが好ましい。黒ショウガの細断、破砕、粉砕又はすり潰しの方法は特に限定されないが、例えば、カッター、スライサー、裁断機、クラッシャー、ブレンダー、ミキサー、ミル、グラインダー、ニーダー、乳鉢、石臼などを用いる方法などを挙げることができる。
【0030】
工程(1)で用いる黒ショウガは、抽出処理の効率をより良くするために、黒ショウガの乾燥チップ及び乾燥粉末であることが好ましい。黒ショウガの乾燥チップ及び乾燥粉末を得るに際して、乾燥処理と細断処理及び/又は粉砕処理とは同時に行ってもよく、又はいずれか一方の処理を先に行ってから、他方の処理を行ってもよいが、作業の簡便性から乾燥処理を先に行った後に細断処理及び/又は粉砕処理を行うことが好ましい。
【0031】
工程(1)では、黒ショウガを、メトキシフラボノイド可溶性溶媒を用いた抽出処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物を得る。
【0032】
メトキシフラボノイド可溶性溶媒は、メトキシフラボノイドを溶解することができる溶媒であれば特に限定されず、例えば、メトキシフラボノイドに易溶性の溶媒、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどの低級アルコール;酢酸エチル、酢酸メチルなどの低級エステル;ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコールなどの有機溶媒やこれらの有機溶媒と水との混合溶媒などが挙げられる。
【0033】
有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、20vol%~100vol%が好ましく、抽出効率に加えて、安全性及び工業化の観点から、30vol%~90vol%がより好ましく、40vol%~80vol%がさらに好ましく、50vol%~70vol%がなおさらに好ましい。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が20vol%未満の場合、メトキシフラボノイドを効率的に抽出することが困難になるおそれがある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノール及びメタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。したがって、メトキシフラボノイド可溶性溶媒の好ましい具体的態様は、50vol%~70vol%の含水エタノールである。
【0034】
抽出条件としては、黒ショウガ中のメトキシフラボノイドが溶媒に溶解するのに適した条件であれば特に限定されず、黒ショウガの状態や使用量に応じて、メトキシフラボノイド可溶性溶媒の種類や使用量は適宜設定できるが、例えば、黒ショウガに対して1倍容量~20倍容量、好ましくは2倍容量~10倍容量のメトキシフラボノイド可溶性溶媒中に原料である黒ショウガを所定時間浸漬させることなどが挙げられる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて撹拌操作、加温などを行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。メトキシフラボノイドは、水に対して不溶の成分であるため、黒ショウガを熱湯で煮沸することなどで、不必要な夾雑物を抽出操作に先立って除去し得る可能性がある。
【0035】
抽出処理の具体的条件としては、黒ショウガに対して2倍容量~10倍容量の50vol%~70vol%の含水エタノールを用いて、10℃~80℃、好ましくは室温~60℃で、数時間~数日間、好ましくは10時間~10日間の条件で実施できるが、これに限定されない。
【0036】
抽出処理の後に固液分離処理を行うことで、抽出液と原料の黒ショウガ残渣とを分離することができる。固液分離手段は特に限定されないが、例えば、ろ過、遠心分離などの公知の固液分離手段を利用することができる。
【0037】
抽出液又は抽出液を固液分離処理に供して得られる固液分離液は、必要に応じて濃縮処理に供してもよい。抽出液又は固液分離液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、粘度を有する油状や固体状の黒ショウガ粗抽出物を得ることができる。濃縮操作は、液体を減容化する通常知られる操作であれば特に限定されず、例えば、減圧下で常温に置くこと、加熱すること、凍結乾燥することなどが挙げられる。濃縮の程度は特に限定されないが、例えば、1/2~1/10程度にまで減容化すればよく、乾固状態になるまで液体成分を揮散させてもよいし、溶液状態になるように液体成分が残存してもよい。
【0038】
抽出処理は1回であってもよいが、2回以上であってもよい。例えば、黒ショウガを1回目の抽出処理に供して、第1の黒ショウガ残渣及び第1の黒ショウガ粗抽出物を得て、次いで得られた第1の黒ショウガ残渣を2回目の抽出処理に供して、第2の黒ショウガ残渣及び第2の黒ショウガ粗抽出物を得ることを、工程(1)として実施してもよい。この際、得られた第1の黒ショウガ粗抽出物及び第2の黒ショウガ粗抽出物をまとめて、黒ショウガ粗抽出物として用いることができる。
【0039】
黒ショウガ粗抽出物におけるメトキシフラボノイドの回収量は特に限定されないが、例えば、使用した黒ショウガあたり、10mg/g以上であり、好ましくは15mg/g以上であり、より好ましくは20mg/g以上であり、さらに好ましくは30mg/g以上である。
【0040】
工程(2)では、工程(1)によって得られた黒ショウガ粗抽出物を、加水処理及びアルカリ処理に供することにより、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物を得る。黒ショウガ粗抽出物を加水処理及びアルカリ処理に供することにより、黒ショウガ粗抽出物中の水溶性成分や脂肪酸などの夾雑物成分を除去し、不溶解物(沈殿物)としてメトキシフラボノイドを高濃度で含有する黒ショウガ抽出物を得ることができる。
【0041】
加水処理は、黒ショウガ粗抽出物に水を加える条件であれば特に限定されず、例えば、黒ショウガ粗抽出物に対して1倍容量~20倍容量、好ましくは2倍容量~10倍容量、より好ましくは4倍容量~6倍容量の水、又は黒ショウガ粗抽出物におけるメトキシフラボノイドあたり5質量倍量~50質量倍量の水、好ましくは5質量倍量~35質量倍量の水、より好ましくは6質量培量~15質量倍量の水と黒ショウガ粗抽出物とを接触させて、10℃~30℃、好ましくは室温で、数時間~数日間、撹拌及び/又は静置すること、好ましくは1時間~10時間撹拌し、及び10時間~10日間静置すること、より好ましくは2時間~8時間撹拌し、及び15時間~5日間静置することにより実施できる。
【0042】
アルカリ処理は、黒ショウガ粗抽出物中の夾雑物を分解し、さらにメトキシフラボノイドを不溶性成分として析出し得る条件で実施すれば特に限定されず、例えば、黒ショウガ粗抽出物とアルカリ成分とを含む水溶液を、10℃~30℃、好ましくは室温で、数時間~数日間、撹拌及び/又は静置すること、好ましくは1時間~10時間撹拌し、及び10時間~10日間静置すること、より好ましくは3時間~8時間撹拌し、及び15時間~5日間静置することにより実施できる。
【0043】
アルカリ処理で使用するアルカリ成分は、黒ショウガ粗抽出物中の夾雑物を分解し、かつ、メトキシフラボノイドを溶解しないものであれば特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられるが、強アルカリであることから水酸化ナトリウムが好ましい。
【0044】
アルカリ処理によるアルカリ成分の使用量は、メトキシフラボノイドを析出し得る量であれば特に限定されないが、例えば、アルカリ成分が水酸化ナトリウムであれば、最終濃度が0.1%(w/v)~10%(w/v)、好ましくは1%(w/v)~8%(w/v)、より好ましくは2%(w/v)~5%(w/v)になるような量である。
【0045】
工程(2)は、加水処理とアルカリ処理とを同時的に実施することができ、具体的には、黒ショウガ粗抽出物に加水した後、アルカリ成分を加えて、撹拌及び/又は静置することにより実施できる。また、工程(2)では、加水処理及びアルカリ処理を、アルカリ水溶液を使用することにより、同時的に実施してもよい。例えば、黒ショウガ粗抽出物に、最終濃度が2%(w/v)~5%(w/v)の水酸化ナトリウム水溶液を、黒ショウガ粗抽出物におけるメトキシフラボノイドあたり5質量倍量~50質量倍量を加えて、室温で、3時間~8時間撹拌した後、10時間~5日間静置するように実施してもよい。
【0046】
工程(2)’では、塩析を実施する。塩析をすることにより、効率的にメトキシフラボノイドを析出することができる。塩析は、メトキシフラボノイドを析出し得る条件で実施すれば特に限定されず、例えば、黒ショウガ粗抽出物(メトキシフラボノイド)と塩類とを含む水溶液を、10℃~30℃、好ましくは室温で、数時間~数日間、撹拌及び/又は静置すること、好ましくは1時間~10時間撹拌し、及び10時間~10日間静置すること、より好ましくは3時間~8時間撹拌し、及び15時間~5日間静置することにより実施できる。
【0047】
塩析で使用する塩類は、メトキシフラボノイドよりも水和力の高い水溶性の物質であれば特に限定されないが、例えば、有機塩及び無機塩などが挙げられ、腐食性や安全性の観点からグルコース、スクロース、マルトースなどの糖類であることが好ましく、グルコースであることがより好ましい。
【0048】
塩析で使用する塩類の使用量は、メトキシフラボノイドが固形分として析出し得る量であれば特に限定されないが、例えば、塩類がグルコースであれば、最終濃度が0.1%(w/v)~10%(w/v)、好ましくは0.5%(w/v)~5%(w/v)、より好ましくは0.5%(w/v)~2%(w/v)になるような量である。
【0049】
工程(2)’は、加水処理、アルカリ処理及び塩析を順次実施してもよく、これらの2種又は3種の処理を同時に実施してもよい。例えば、黒ショウガ粗抽出物に水、アルカリ成分及び塩類を加えて得られる水溶液を、又は黒ショウガ粗抽出物にアルカリ成分及び塩類を含む水溶液を加えて得られる水溶液を、10℃~30℃、好ましくは室温で、1時間~10時間撹拌し、次いで10時間~7日間静置することにより、工程(2)’を実施することができる。
【0050】
加水処理及びアルカリ処理、又は加水処理、アルカリ処理及び塩析は1回であってもよいが、2回以上であってもよい。例えば、黒ショウガ粗抽出物を1回目の加水処理及びアルカリ処理に供して、第1の黒ショウガ粗抽出物残渣及び第1の黒ショウガ抽出物を得て、次いで得られた第1の黒ショウガ粗抽出物残渣を2回目の加水処理及びアルカリ処理に供して、第2の黒ショウガ粗抽出物残渣及び第2の黒ショウガ抽出物を得ることを、工程(2)として実施してもよい。この際、得られた第1の黒ショウガ抽出物及び第2の黒ショウガ抽出物をまとめて、黒ショウガ抽出物として用いることができる。また、工程(2)の操作の後に工程(2)’の操作を、工程(2)’の操作の後に工程(2)又は工程(2)’の操作を実施してもよい。
【0051】
工程(2)及び工程(2)’において、黒ショウガ抽出物は、沈殿物として、固形状で、具体的には粉末状で得られ得る。得られた粉末状の黒ショウガ抽出物を含む水溶液を、固液分離処理及び/又は乾燥処理に供することにより、粉末状の黒ショウガ抽出物を回収することができる。黒ショウガ抽出物は、例えば、経口用組成物又は外用組成物の原料として使用する場合には、水などで洗浄することが好ましい。
【0052】
本発明の一態様の方法によって得られるメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物におけるメトキシフラボノイドの含有量は特に限定されないが、例えば、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり40wt%以上、好ましくは50wt%以上、より好ましくは60wt%以上、さらに好ましくは70wt%以上である。メトキシフラボノイドの含有量の上限は特に限定されないが、典型的には、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり、99.9wt%以下である。また、メトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物におけるメトキシフラボノイドの回収率は、例えば、黒ショウガ粗抽出物中のメトキシフラボノイドの含有量に対して60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0053】
黒ショウガ抽出物におけるMF-2の含有量は、例えば、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり、5.0wt%以上、好ましくは10.0wt%以上、より好ましくは15.0wt%以上である。黒ショウガ抽出物におけるMF-3の含有量は、例えば、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり、8.0wt%以上、好ましくは12.0wt%以上、より好ましくは18.0wt%以上である。黒ショウガ抽出物におけるMF-4の含有量は、例えば、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり、10.0wt%以上、好ましくは15.0wt%以上、より好ましくは20.0wt%以上である。黒ショウガ抽出物におけるMF-6の含有量は、例えば、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり、4.0wt%以上、好ましくは8.0wt%以上である。黒ショウガ抽出物におけるMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の含有量の上限は特に限定されず、典型的にはこれらの総量は、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり、99.9wt%以下である。
【0054】
黒ショウガ抽出物中に含まれるメトキシフラボノイドの確認及び定量は、後述する実施例に記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。
【0055】
本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0056】
以下に、本発明の具体的態様として、黒ショウガの根茎を原料として、メトキシフラボノイドを含有する黒ショウガ抽出物を製造する方法を説明するが、本発明の一態様の方法は以下のものに限定されない。
【0057】
花茎が枯れる頃(7~9月)に掘り上げた黒ショウガの根茎から細根を取り除いて日干しにし、充分に乾燥させる。乾燥した黒ショウガの根茎を粉砕して、所定量を秤量したものに、黒ショウガに対して3倍容量~10倍容量の50vol%~70vol%の含水エタノールを加えて、室温で10時間~10日間静置して、抽出処理を実施し、得られた抽出液についてろ過して黒ショウガ残渣を取り除いた後、得られたろ液を減圧濃縮に供することによって、黒ショウガ粗抽出物を得る。
【0058】
次いで、得られた黒ショウガ粗抽出物に、黒ショウガ粗抽出物におけるメトキシフラボノイドあたり5質量倍量~50質量倍量の水を加え、さらに最終濃度が1%(w/v)~6%(w/v)になるように水酸化ナトリウムを加えて得られた水溶液又は最終濃度がそれぞれ1%(w/v)~6%(w/v)及び0.5%(w/v)~2%(w/v)になるように水酸化ナトリウム及びグルコースを加えて得られた水溶液を、室温で、1時間~10時間撹拌し、次いで10時間~5日間静置することにより、沈殿物として黒ショウガ抽出物を得る。得られた黒ショウガ抽出物をろ過及び凍結乾燥することにより、粉末状の黒ショウガ抽出物を得る。得られた黒ショウガ抽出物のメトキシフラボノイドの含有量は、黒ショウガ抽出物の乾燥質量あたり50wt%以上であり得る。
【0059】
本発明の一態様の方法で製造されるメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、別の態様として、本発明に包含され得る。本発明のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、MF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の含有量の合計が所定の量であり、かつ、含有するMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6が原料である黒ショウガに由来することに特徴がある。
【0060】
本発明の一態様のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、MF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の含有量の合計は、例えば、50wt%以上であり、好ましくは60wt%以上、より好ましくは70wt%以上である。
【0061】
本発明の一態様のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物が含有するMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6は、少なくともその一部において原料である黒ショウガに由来すればよいが、その全てが原料である黒ショウガに由来することが好ましい。
【0062】
本発明の一態様のメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物の用途は特に限定されず、例えば、メトキシフラボノイドが有する薬理作用を期待して、飲食品や医薬品といった経口用組成物、化粧品といった外用組成物などの各組成物の原料又は該組成物そのものとして利用され得る。
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0064】
[例1.黒ショウガ乾燥チップを原料とする高濃度メトキシフラボノイド含有抽出物の製造]
(1-1)メトキシフラボノイドの同定及び定量
黒ショウガから、有機溶媒による液液分配、逆相系樹脂(「ダイヤイオンHP20」;三菱ケミカル社製)を用いたクロマトグラフィー及び逆相系ODSカラム(「Wakopak Wakosil-II 5C18RS Prep 28×250mm」;富士フイルム和光純薬社製)を用いた分取HPLCにより、図1に示す11種類のメトキシフラボノイドを単離し、NMRを用いた構造解析により各化合物であることを同定した。これらのうち、黒ショウガ抽出物中に含まれるMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の4種類のメトキシフラボノイドの定量は、逆相系ODSカラム(「Wakopak Wakosil-II 5C18RS Prep 4.6×250mm」;富士フイルム和光純薬社製)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により常法に従って検量線法により測定した。
【0065】
以降では、メトキシフラボノイド(MF)の量はMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の4種類のメトキシフラボノイドの合計量をいうものとする。
【0066】
(1-2)黒ショウガ乾燥チップの溶媒抽出
黒ショウガの根茎の乾燥チップ 10.0gを20倍容量の60vol%含水エタノール又は75vol%含水エタノール 200mLを用いて、室温にて24時間抽出した。得られた抽出液をろ過し、次いで得られたろ液を減圧濃縮することにより黒ショウガの60%エタノール粗抽出物及び75%エタノール粗抽出物を得た。得られたエタノール粗抽出物について、MF量を測定した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すとおり、60vol%含水エタノールを用いることにより、含有率は小さいものの、総量として多くのMFを抽出できた。
【0069】
(1-3)黒ショウガ溶媒抽出物のアルカリ処理及び塩析
上記1-1で得られた黒ショウガの60%エタノール粗抽出物(MF含有量:155.4mg)に対して5mLの水を加え、次いで最終濃度が2%(w/v)、3%(w/v)又は5%(w/v)になるように水酸化ナトリウムを加えるとともに、最終濃度が1%(w/v)になるようにグルコースを加えた。得られた水溶液を室温で5時間撹拌し、次いで19時間静置することにより、沈殿物として粉末状のMF高純度抽出物を得た。得られたMF高純度抽出物をろ過及び凍結乾燥したものについて質量及びMF量を測定した結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すとおり、黒ショウガのエタノール粗抽出物を、2%水酸化ナトリウムを用いたアルカリ処理及びグルコースを用いた塩析に供することにより、高純度かつ高回収率のMF含有抽出物の粉末が得られた。なお、黒ショウガの75%エタノール粗抽出物を同様にアルカリ処理及び塩析に供したところ、得られたものは油状物であり、粉末ではなかった。
【0072】
[例2.黒ショウガ乾燥粉末を原料とする高濃度メトキシフラボノイド含有抽出物の製造]
(2-1)黒ショウガ乾燥粉末の溶媒抽出
黒ショウガ乾燥チップに代えて黒ショウガ乾燥粉末を用いた以外は、上記1-2と同様にして黒ショウガの60%エタノール粗抽出物及び75%エタノール粗抽出物を得た。得られたエタノール粗抽出物について、MF量を測定した結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示すとおり、60vol%含水エタノールを用いることにより、含有率が高く、さらに総量としても多いMFを抽出できた。また、乾燥粉末を用いると、乾燥チップと比べて抽出効率が良いという結果が得られた。
【0075】
(2-2)黒ショウガ溶媒抽出物のアルカリ処理及び塩析
黒ショウガ乾燥粉末 495.1gを60vol%含水エタノール 1.5Lを用いて、室温にて18時間抽出した。得られた抽出液をろ過し、次いで得られたろ液を減圧濃縮することにより黒ショウガの60%エタノール粗抽出物を得た。
【0076】
得られたエタノール粗抽出物に水 150mLを加え、次いで最終濃度が2%(w/v)になるように水酸化ナトリウムを加えるとともに、最終濃度が1%(w/v)になるようにグルコースを加えた。得られた水溶液を室温で5時間撹拌し、3日間静置することにより、沈殿物として粉末状のMF高純度抽出物1を得た。得られたMF高純度抽出物1をろ過及び凍結乾燥したものについて質量及びMF量を測定した結果を表4に示す。
【0077】
一方、エタノール抽出後の残渣について、上記と同様にして、エタノール抽出、アルカリ処理及び塩析を実施することにより、沈殿物として粉末状のMF高純度抽出物2を得た。得られたMF高純度抽出物2をろ過及び凍結乾燥したものについて質量及びMF量を測定した結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
なお、MF高純度抽出物1中のMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の量の内訳を表5に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
黒ショウガの乾燥チップ及び乾燥粉末について、エタノール抽出処理、水酸化ナトリウムを用いたアルカリ処理及びグルコースを用いた塩析処理を実施することにより、高純度のMFを含有する粉末を大量に製造することができた。
【0082】
[例3.黒ショウガ乾燥チップを原料とする高濃度メトキシフラボノイド含有抽出物の大スケール製造]
黒ショウガの根茎の乾燥チップを用いて、大スケールで高濃度メトキシフラボノイド含有抽出物を製造した。製造スキームを図2に示す。
【0083】
(3-1)黒ショウガ乾燥チップの溶媒抽出
黒ショウガの根茎の乾燥チップ 40.0kgを5倍量の60vol%含水エタノール 200Lを用いて、室温にて7日間抽出した。得られた抽出液をろ過し、次いで得られたろ液(約160L)を液体量の1/10~1/5程度まで減圧濃縮することによりエタノールを除去し、黒ショウガ粗抽出物(水溶液;25L)を得た。
【0084】
得られた黒ショウガ粗抽出物(水溶液)の一部を採取し、濃縮乾固することにより、黒ショウガ粗抽出物水溶液における黒ショウガ粗抽出物(固形分)の量を推定した。また、黒ショウガ粗抽出物におけるMF含有量を測定し、乾燥チップあたりのMF回収量を算出した。さらに、黒ショウガ粗抽出物におけるMF-2、MF-3、MF-4及びMF-6の含有量を測定した。これらの結果を表6及び表7に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
(3-2)黒ショウガ溶媒抽出物のアルカリ処理
上記3-1で得られた黒ショウガ粗抽出物(水溶液;MF含有量:1,383g)に対して15Lの水を加え、次いで最終濃度が3%(w/v)になるように水酸化ナトリウムを加えた。得られたアルカリ処理液を室温にて撹拌機を用いて5時間撹拌し、次いで19時間静置することにより、第1の沈殿物を得た。
【0088】
得られた第1の沈殿物を、ブフナロートを用いたろ過処理に供し、次いで15vol%含水エタノールで洗浄し、撹拌機を用いて1時間撹拌し、次いでろ過することにより第2の沈殿物を得た。得られた第2の沈殿物を蒸留水 5Lで洗浄し、ろ過することにより、第3の沈殿物を得た。第3の沈殿物を凍結乾燥することにより、MF高純度抽出物 約1.5kgを得た。得られたMF高純度抽出物をろ過及び凍結乾燥したものについて質量及びMF量を測定した結果を表8及び表9に示す。
【0089】
【表8】
【0090】
【表9】
【0091】
大スケールであっても、黒ショウガの乾燥チップについて、エタノール抽出処理及び水酸化ナトリウムを用いたアルカリ処理を実施することにより、高純度のMFを含有する粉末を大量に製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の一態様の方法によって製造されるメトキシフラボノイド含有黒ショウガ抽出物は、飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品などの分野で有用であり、特に経口剤、外用剤、注射剤、化粧水などとして、及びこれらに配合できる点で有用である。
図1
図2