(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036411
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】積層フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/06 20060101AFI20220301BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20220301BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20220301BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B05D3/06 102Z
B32B27/16 101
B05D3/00 C
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140605
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸本 壮悟
【テーマコード(参考)】
2H149
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB26
2H149DB00
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2H149DB04
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2H149DB13
2H149FA05Z
2H149FA24Y
2H149FD35
4D075AC72
4D075AC80
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4D075BB42Z
4D075BB46Z
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4D075EA21
4D075EB22
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK02A
4F100AK25B
4F100AS00B
4F100BA02
4F100CA18B
4F100EH46B
4F100EJ54
4F100GB41
4F100JB14B
4F100JB16A
4F100JK07A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】光硬化性組成物が塗工される基材の表面における傷の発生を抑制し、かつ搬送方向における積層フィルムの厚みの変動を抑制する、積層フィルムの製造方法。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムの製造方法であって、前記基材を、搬送経路に沿って塗工装置に搬送する工程1、及び前記塗工装置により、前記表面S1に光硬化性組成物を塗工して、光硬化性組成物層を形成する工程2を含み、前記工程1における前記基材の搬送が、前記表面S1を非接触状態で支持する第一の搬送部材により、前記表面S1と前記第一の搬送部材との非接触状態を維持して行われ、かつ、微細構造を表面に有する第二の搬送部材により、前記表面S2を支持して行われる、積層フィルムの製造方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムの製造方法であって、
前記基材を、搬送経路に沿って塗工装置に搬送する工程1、及び
前記塗工装置により、前記表面S1に光硬化性組成物を塗工して、光硬化性組成物層を形成する工程2を含み、
前記工程1における前記基材の搬送が、前記表面S1を非接触状態で支持する第一の搬送部材により、前記表面S1と前記第一の搬送部材との非接触状態を維持して行われ、かつ、微細構造を表面に有する第二の搬送部材により、前記表面S2を支持して行われる、積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第二の搬送部材が、外周部に微細構造を有する支持ロールであり、
前記外周部が、前記微細構造として、周方向にそった複数の溝部と、前記溝部の間に存在し、円筒側面状である複数の外周面とを有し、
前記外周面の算術平均粗さRa、前記支持ロールの軸方向における前記外周面の長さX1、前記支持ロールの軸方向における前記溝部の長さX2、及び前記溝部の深さYが、下記式を満たす、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
Ra<0.1nm (1a)
400μm<X1<1200μm (2a)
100μm<X2<300μm (3a)
50μm<Y<400μm (4a)
【請求項3】
前記第二の搬送部材が、外周部に微細構造を有する支持ロールであり、
前記外周部が、前記微細構造として、下記式を満たす外周面を有する、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法:
0.3nm<Ra<0.7nm (1b)
Rsk<0nm (2b)
ここで、Raは、前記外周面の算術平均粗さを表し、Rskは、前記外周面のスキューネスを表す。
【請求項4】
前記工程1の前に、前記基材の前記表面S1に配向規制力を与える処理を行う工程Aを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程Aにおける配向規制力を与える処理が、ラビング処理、光配向処理、及び延伸処理から選ばれる処理である、請求項4に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記光硬化性組成物が、液晶化合物を含む液晶組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記基材の押込弾性率が、5GPa未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記基材に含まれる前記熱可塑性樹脂が、脂環式構造含有重合体を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記工程1における前記基材の搬送が、前記第一の搬送部材と前記基材の前記表面S1との間隔を0mmより大きく1mm以下に維持して行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記塗工装置よりも前記搬送経路の上流における前記基材の搬送張力T1が、30N/m以上500N/m以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記第一の搬送部材が、前記基材を非接触状態に保持する気体を噴出する孔を有する部材であり、
前記気体は、圧力が0.05MPa以上0.7MPa以下の高圧空気である、請求項1~10のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記第一の搬送部材が、搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部を有する部材である、請求項1~11のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記第一の搬送部材が、平均孔径が10μm以下である多孔質材料からなる部材である、請求項1~12のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記工程2における、前記基材の搬送張力T2が200N/m以上であり、
前記塗工装置よりも前記搬送経路の上流における前記基材の搬送張力T1が、前記搬送張力T2よりも低く、かつ、前記基材の繰り出しから前記工程2を行うまでの間に段階的に高くなるように設定されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項15】
熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された硬化層と、含む光学フィルムの製造方法であって、
請求項1~14のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法により、前記基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムを製造する工程、及び
前記光硬化性組成物層を硬化させて、前記硬化層を形成する工程3
を含む、光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に、重合性液晶性化合物を含む液晶組成物を塗工して液晶組成物の層を得て、液晶組成物の層を硬化させることにより、光学フィルムを製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材上に光硬化性組成物を塗工して、基材及び光硬化性組成物層を含む積層フィルムを得る際に、基材の表面に傷が存在すると、かかる傷に起因して光硬化性組成物の層に欠陥が生じることがある。例えば、液晶組成物を基材に塗工する場合には、基材に存在する傷により、液晶組成物に含まれる液晶化合物の配向が乱れて、製造されるフィルムに配向欠陥が生じることがある。
配向欠陥などの欠陥の生じた積層フィルムに含まれる光硬化性組成物層を硬化させて、光学フィルムを製造し、例えば表示装置の部材としてこれを用いると、表示装置の表示性能を低下させる場合がある。
特許文献1の技術では、液晶組成物が塗工される基材の表面に傷が発生することを抑制するために、液晶組成物が塗工される前における基材を、搬送部材により、液晶組成物が塗工される基材の表面と搬送部材とが非接触状態を維持するように搬送している。
【0005】
一方、光硬化性組成物が塗工される基材の表面と搬送部材とが、非接触状態を維持するように基材を搬送すると、塗工位置における基材の搬送速度の変動が大きくなったり、基材がばたついて塗工装置のダイと基材との間隔が変動する場合がある。その結果、搬送方向において、光硬化性組成物層の厚みが変動して、得られるフィルムにおいて、横段といわれる面状不良の程度が大きくなる場合がある。
【0006】
したがって、光硬化性組成物が塗工される基材の表面における傷の発生を抑制でき、かつ搬送方向における積層フィルムの厚みの変動を抑制しうる、積層フィルムの製造方法;及び、光硬化性組成物が塗工される基材の表面における傷の発生を抑制でき、かつ搬送方向における光学フィルムの厚みの変動を抑制しうる、光学フィルムの製造方法;が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、基材を、搬送経路に沿って塗工装置に搬送する工程において、基材の搬送を第一の搬送部材及び第二の搬送部材を用いて特定の方法で行うことにより前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0008】
[1] 熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムの製造方法であって、
前記基材を、搬送経路に沿って塗工装置に搬送する工程1、及び
前記塗工装置により、前記表面S1に光硬化性組成物を塗工して、光硬化性組成物層を形成する工程2を含み、
前記工程1における前記基材の搬送が、前記表面S1を非接触状態で支持する第一の搬送部材により、前記表面S1と前記第一の搬送部材との非接触状態を維持して行われ、かつ、微細構造を表面に有する第二の搬送部材により、前記表面S2を支持して行われる、積層フィルムの製造方法。
[2] 前記第二の搬送部材が、外周部に微細構造を有する支持ロールであり、
前記外周部が、前記微細構造として、周方向にそった複数の溝部と、前記溝部の間に存在し、円筒側面状である複数の外周面とを有し、
前記外周面の算術平均粗さRa、前記支持ロールの軸方向における前記外周面の長さX1、前記支持ロールの軸方向における前記溝部の長さX2、及び前記溝部の深さYが、下記式を満たす、[1]に記載の積層フィルムの製造方法。
Ra<0.1nm (1a)
400μm<X1<1200μm (2a)
100μm<X2<300μm (3a)
50μm<Y<400μm (4a)
[3] 前記第二の搬送部材が、外周部に微細構造を有する支持ロールであり、
前記外周部が、前記微細構造として、下記式を満たす外周面を有する、[1]に記載の積層フィルムの製造方法:
0.3nm<Ra<0.7nm (1b)
Rsk<0nm (2b)
ここで、Raは、前記外周面の算術平均粗さを表し、Rskは、前記外周面のスキューネスを表す。
[4] 前記工程1の前に、前記基材の前記表面S1に配向規制力を与える処理を行う工程Aを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[5] 前記工程Aにおける配向規制力を与える処理が、ラビング処理、光配向処理、及び延伸処理から選ばれる処理である、[4]に記載の積層フィルムの製造方法。
[6] 前記光硬化性組成物が、液晶化合物を含む液晶組成物である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[7] 前記基材の押込弾性率が、5GPa未満である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[8] 前記基材に含まれる前記熱可塑性樹脂が、脂環式構造含有重合体を含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[9] 前記工程1における前記基材の搬送が、前記第一の搬送部材と前記基材の前記表面S1との間隔を0mmより大きく1mm以下に維持して行われる、[1]~[8]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[10] 前記塗工装置よりも前記搬送経路の上流における前記基材の搬送張力T1が、30N/m以上500N/m以下である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[11] 前記第一の搬送部材が、前記基材を非接触状態に保持する気体を噴出する孔を有する部材であり、
前記気体は、圧力が0.05MPa以上0.7MPa以下の高圧空気である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[12] 前記第一の搬送部材が、搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部を有する部材である、[1]~[11]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[13] 前記第一の搬送部材が、平均孔径が10μm以下である多孔質材料からなる部材である、[1]~[12]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[14] 前記工程2における、前記基材の搬送張力T2が200N/m以上であり、
前記塗工装置よりも前記搬送経路の上流における前記基材の搬送張力T1が、前記搬送張力T2よりも低く、かつ、前記基材の繰り出しから前記工程2を行うまでの間に段階的に高くなるように設定されている、[1]~[13]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
[15] 熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された硬化層と、含む光学フィルムの製造方法であって、
[1]~[14]のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法により、前記基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムを製造する工程、及び
前記光硬化性組成物層を硬化させて、前記硬化層を形成する工程3
を含む、光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光硬化性組成物が塗工される基材の表面における傷の発生を抑制でき、かつ搬送方向における積層フィルムの厚みの変動を抑制しうる、積層フィルムの製造方法;及び、光硬化性組成物が塗工される基材の表面における傷の発生を抑制でき、かつ搬送方向における光学フィルムの厚みの変動を抑制しうる、光学フィルムの製造方法;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、積層フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、第一の搬送部材の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る製造方法における、支持ロールAの一例を概略的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る製造方法における、支持ロールAの一例を概略的に示す部分断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る、積層フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法を実施しうる、製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、層の面内方向のレターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルム(当該フィルムには以下で説明する「基材」も含む)とは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
以下の説明において、ある層の遅相軸とは、別に断らない限り、面内方向の遅相軸をいう。
【0015】
以下の説明において、要素の方向が「平行」及び「垂直」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±4°、好ましくは±3°、より好ましくは±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0016】
以下の説明において、置換基を有する基の炭素原子数には、別に断らない限り、前記置換基の炭素原子数を含めない。よって、例えば「置換基を有していてもよい炭素原子数1~20のアルキル基」との記載は、置換基の炭素原子数を含まないアルキル基自体の炭素原子数が1~20であることを表す。
【0017】
以下の説明において、「(メタ)アクリレート」の文言は、「アクリレート」、「メタクリレート」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0018】
[1.積層フィルムの製造方法の概要]
本発明の一実施形態に係る積層フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムの製造方法である。
図1は、積層フィルムの一例を模式的に示す断面図である。積層フィルム10は、表面S1と、表面S2とを有する基材1Aと、表面S1の上に、他の層を介することなく直接して設けられた光硬化性組成物層2とを備える。
本実施形態に係る製造方法は、前記基材を、搬送経路に沿って塗工装置に搬送する工程1、及び前記塗工装置により、前記表面S1に光硬化性組成物を塗工して、光硬化性組成物層を形成する工程2を含む。
【0019】
本実施形態の積層フィルムの製造方法により、基材の表面S1に傷が発生することを抑制できる。また、塗工装置に搬送される基材の搬送速度が変動することを抑制できる。その結果、搬送方向における光硬化性組成物層及びその硬化層の厚み変動(横段)を抑制でき、ひいては搬送方向における積層フィルムの厚み変動を抑制できる。
【0020】
[1.1.工程1]
工程1では、基材を搬送経路に沿って塗工装置に搬送する。工程1において、基材の搬送は、第一の搬送部材及び第二の搬送部材により基材を支持することにより行われる。
【0021】
(基材)
基材としては、通常、熱可塑性樹脂を含む基材を用いる。基材は、熱可塑性樹脂により形成されていることが好ましい。
基材に含まれうる熱可塑性樹脂は、通常、重合体を含みうる。
当該重合体の例としては、脂環式構造含有重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル重合体、メタクリル重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、アラミド、及びこれらの組み合わせが挙げられる。延伸処理により配向規制力を制御可能な材料であるという観点から、脂環式構造含有重合体が好ましい。
重合体は、非晶性であることが好ましい。
【0022】
脂環式構造含有重合体は、繰り返し単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖中に脂環式構造を含有する重合体及び側鎖に脂環式構造を含有する重合体のいずれも用いることができる。
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造等が挙げられるが、熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。
1つの脂環式構造の繰り返し単位を構成する炭素原子数に特に制限はないが、通常4個~30個、好ましくは5個~20個、より好ましくは6個~15個である。
【0023】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は使用目的に応じて適宜選択されるが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、通常100重量%以下である。脂環式構造を有する繰り返し単位をこのように多くすることで、基材の耐熱性を高めることができる。
【0024】
脂環式構造含有重合体は、具体的には、(1)ノルボルネン重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、透明性及び成形性の観点から、ノルボルネン重合体及びこれらの水素添加物がより好ましい。
【0025】
ノルボルネン重合体としては、例えば、ノルボルネンモノマーの開環重合体、ノルボルネンモノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物;ノルボルネンモノマーの付加重合体、ノルボルネンモノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネンモノマーの開環重合体水素添加物が特に好ましい。
前記の脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002-321302号公報に開示されている重合体から選ばれる。
【0026】
脂環式構造含有重合体は、そのガラス転移温度が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃~250℃である。ガラス転移温度がこのような範囲にある脂環式構造含有重合体は、高温下での使用における変形及び応力が生じ難く、耐久性に優れる。
【0027】
脂環式構造含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは25,000~80,000、更に好ましくは25,000~50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、基材の機械的強度及び成形加工性が高度にバランスされる。重量平均分子量及び後述する数平均分子量(Mn)は、溶媒としてシクロヘキサンを用いたポリイソプレン換算のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)により測定されうる。樹脂がシクロヘキサンに溶解しない場合は、溶媒としてトルエンを用い、ポリスチレン換算のGPCにより測定されうる。
【0028】
脂環式構造含有重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、通常1~10、好ましくは1~4、より好ましくは1.2~3.5である。
【0029】
脂環式構造含有重合体を含む熱可塑性樹脂は、その分子量2,000以下の樹脂成分(すなわち、オリゴマー成分)の含有量が、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは2重量%以下である。オリゴマー成分の量が前記範囲内にあると、基材の表面における微細な凸部の発生が減少し、厚みのバラツキが小さくなり面精度が向上する。オリゴマー成分の量の低減は、重合触媒及び水素化触媒の選択;重合、水素化等の反応条件;樹脂を成形用材料としてペレット化する工程における温度条件;などの条件を適切に設定することにより、行いうる。
オリゴマーの成分量は、前記のGPCによって測定することができる。
【0030】
熱可塑性樹脂は、重合体に加えて、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の成分を含んでもよい。熱可塑性樹脂中の重合体の割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上であり、通常100重量%以下であり、100重量%であってもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂が重合体の他に含みうる成分の例としては、酸化防止剤;光安定剤;ワックス;核剤;蛍光増白剤;紫外線吸収剤;無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラーなどが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0032】
脂環式構造含有重合体を含む熱可塑性樹脂の好適な具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア」を挙げうる。
【0033】
基材は、フィルム状であり、表面S1及び表面S2を有する。基材の表面S1は、工程2において、光硬化性組成物が塗工される面である。基材は、連続的な搬送を可能とする観点から、好ましくは長尺である。
【0034】
基材は、押込弾性率が、好ましくは5GPa未満、より好ましくは4GPa未満、更に好ましくは4.5GPa以下、特に好ましくは3.5GPa以下、最も好ましくは3GPa以下であり、通常0GPa以上であり、1GPa以上であってもよい。
本実施形態の製造方法によれば、押込弾性率が低い基材を用いた場合でも、基材の傷の発生を抑制し、光硬化性組成物が液晶組成物である場合には、光抜け欠陥を少なくできる。押込弾性率は、押込弾性率試験機により、実施例記載の条件にて測定しうる。
【0035】
基材の厚みは、任意の厚みとしてよい。基材の厚みは、例えば、1μm~500μm、好ましくは10μm~100μmとしてよい。
【0036】
(第一の搬送部材)
第一の搬送部材は、基材の表面S1を非接触状態で支持する。本願において、ある表面と、ある部材との「非接触状態」とは、当該部材が、当該表面と「直接」接触しない状態を意味し、当該部材が、対象となる面と間接的に接触することは含まれる。「間接的」な接触とは、当該部材と対象となる面とが、それらの間に位置する更に別の部材を介して接触することをいう。例えば対象となる面に保護フィルム等が貼合された状態である場合に、対象となる面に貼合された保護フィルムと第一の搬送部材とが直接接触することは、対象となる面と第一の搬送部材との「非接触状態」に含まれる。
【0037】
第一の搬送部材が、基材の表面S1を非接触状態で支持することにより、基材の搬送において、基材の表面S1と第一の搬送部材との非接触状態が維持される。
基材の表面S1と第一の搬送部材とが非接触状態を維持するようにして基材を搬送することで、基材の表面S1に傷が発生することを抑制する。その結果、基材の表面S1に光硬化性組成物として液晶組成物を塗工した場合には、得られる光学フィルムにおける光抜け欠陥の数を低減できる。
【0038】
第一の搬送部材は、基材を非接触状態に保持する気体を噴出する孔を有する部材としうる。第一の搬送部材としては、気体を噴出する孔を有する材料からなるものが好ましく、多孔質材料からなる部材がより好ましい。このような多孔質材料としては、ポーラスカーボン;ポーラスアルミナなどの多孔質セラミック;等が挙げられる。このような多孔質材料からなる第一の搬送部材を用いると、第一の搬送部材から噴出する気体の圧力により基材を浮上させることができるので、基材の表面S1と第一の搬送部材とを非接触状態に維持し、積層フィルムの製造工程において、傷の発生をより有効に抑制することができる。
【0039】
第一の搬送部材が多孔質材料からなる部材である場合、第一の搬送部材は、その表面に複数の孔を有することになる。その平均孔径は好ましくは10μm以下、より好ましくは2μm以下である。孔径が大きすぎる場合、一部の孔がふさがれて、他の孔から気体の漏れが生じることがあるが、孔径を上限値以下とすると、一部の孔がふさがれたとしても、気体の漏れを抑制することができ、基材が第一の搬送部材に均一な力で支持されうる。
これは、以下のメカニズムによるものと推測されるが本発明を限定するものではない。孔径が大きすぎる場合、一部の孔が基材で覆われて浮上しているときに、圧力の変動が第一の搬送部材の内部構造を伝わって、基材が覆われていない部分から多量の空気が漏れ出てしまい、充分に基材を浮上させられなくなることがある。孔径を上限値以下とすると、一部の孔が基材で覆われて浮上しているときにも、圧力の変動が第一の搬送部材の内部構造に伝わりにくく、基材が覆われていない部分への大量の空気の漏れが抑制され、基材が第一の搬送部材に均一な力で支持されうる。多孔質材料の平均孔径の下限は、例えば10nm以上としうる。
【0040】
第一の搬送部材が気体を噴出する孔を有する部材である場合、当該気体は、高圧空気であるのが好ましい。気体が高圧空気である場合、その圧力は好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上であり、好ましくは0.7MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下である。かかる圧力は、第一の搬送部材の孔の内部であって、第一の搬送部材の外部へ気体が噴出する直前の時点における圧力である。第一の搬送部材がこのような態様であると、基材との非接触状態を保った状態で、基材の搬送を行いうる。
【0041】
第一の搬送部材の形状は、基材の表面S1を非接触状態で支持しうる形状である限り、特に限定されない。第一の搬送部材の例として、搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部を有する部材が挙げられる。本明細書において、「搬送方向に平行な方向の断面」とは基材を搬送する方向に対して平行な面で切断したときの断面を意味する。
【0042】
搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部を有する部材の具体例としては、搬送方向に平行な方向の断面がアーチ状の部材、搬送方向に平行な方向の断面が円形状の部材、搬送方向に平行な方向における断面形状が扇形状の搬送部材、搬送方向に平行な方向における断面形状が楕円形の搬送部材が挙げられる。
【0043】
以下、図を用いて第一の搬送部材の一例を説明する。
図2は、第一の搬送部材の一例を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、第一の搬送部材300は、搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部300Rを有する。断面弧状部300Rは、
図2に示す300Aから300Bまでの部分である。
第一の搬送部材300と基材1Aの表面S1とは、断面弧状部300Rにおいて非接触であり、基材1Aは、断面弧状部300Rに沿って、間隔Xを空けて第一の搬送部材300により支持される。
【0044】
工程1における基材の搬送は、第一の搬送部材と、基材の表面S1との間隔Xを1mm以下に維持して行うことが好ましく、0.5mm以下がより好ましい。第一の搬送部材と基材との間隔を上限値以下とすることにより、基材を、より安定的に搬送することができる。間隔Xの下限は、通常0mmより大きく、例えば10μm以上としうる。
【0045】
(第二の搬送部材)
第二の搬送部材は、基材の表面S2を支持する。第二の搬送部材は、微細構造を表面に有する。微細構造の例としては、複数の溝、及び、マット加工などにより形成された微細な凹凸が挙げられる。第二の搬送部材は、その表面のうち、少なくとも基材の表面S1を支持する部分に、微細構造を有する。
第二の搬送部材は、例えば、円筒状のロールとしうる。第二の搬送部材が、表面に複数の溝を有するロールである場合、溝の延びる方向の例としては、ロールの回転軸と平行な方向;ロールの周方向に沿った方向(溝を含む平面に対して、ロールの回転軸が垂直となるような溝の方向);及び、溝を含む平面に対して、ロールの回転軸が0°より大きく90°より小さい角度をなすような溝の方向が挙げられる。複数の溝は、第二の搬送部材の表面で交差してもよく、交差しなくてもよい。
【0046】
微細構造を有する搬送部材により基材を搬送することで、基材が第二の搬送部材上で、過度に滑ることを抑制し、基材の搬送速度が変動することを抑制できる。また、かかる構造を有する第二の搬送部材により、基材の表面S1ではなく表面S2を支持させて基材を搬送することにより、第二の搬送部材により基材の表面S1に傷を生じさせる可能性が著しく低くなる。その結果、基材の表面S1に傷が発生することを抑制し、かつ搬送方向における光硬化性組成物層又は硬化層の厚み変動を抑制できる。
【0047】
第二の搬送部材の例として、下記支持ロールA及び支持ロールBが挙げられる。
【0048】
支持ロールA:
外周部に微細構造を有する支持ロールであり、前記外周部が、前記微細構造として、周方向にそった複数の溝部と、前記溝部の間に存在し、円筒側面状である複数の外周面とを有し、前記外周面の算術平均粗さRa、前記支持ロールの軸方向における前記外周面の長さX1、前記支持ロールの軸方向における前記溝部の長さX2、及び前記溝部の深さYが、下記式(1a)~(4a)を満たす。
Ra<0.1nm (1a)
400μm<X1<1200μm (2a)
100μm<X2<300μm (3a)
50μm<Y<400μm (4a)
【0049】
支持ロールB:
外周部に微細構造を有する支持ロールであり、前記外周部が、前記微細構造として、下記式(1b)及び(2b)を満たす外周面を有する。
0.3nm<Ra<0.7nm (1b)
Rsk<0nm (2b)
ここで、Raは、前記外周面の算術平均粗さを表し、Rskは、前記外周面のスキューネスを表す。
【0050】
支持ロールAは、外周部を含み、外周部が、周方向に沿った複数の溝部と、前記溝部の間に存在し、円筒側面状である複数の外周面とを有する。以下、図を用いて支持ロールAの一例について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る製造方法における、支持ロールAの一例を概略的に示す側面図である。
支持ロール100は、円柱状の部材であり、軸100Rを中心として回転可能にフィルム製造装置に取り付けられる。支持ロール100の外周部110は、例えば、金属(例えば、ステンレス鋼材、アルミニウム、チタン、ニッケル)、樹脂、石英ガラスなどで形成されている。外周部110の全部又は一部は、例えばハードクロムめっきなどのめっき加工がされていてもよい。
外周部110は、支持ロール100の周方向に沿った溝部111と、隣り合う溝部111の間に存在し、円筒側面状である外周面112を有する。
【0051】
図4は、本発明の一実施形態に係る製造方法における、支持ロールAの一例を概略的に示す部分断面図である。
図4においては、支持ロール100の軸100Rを含む平面で支持ロール100を切断した際の、支持ロール100の外周面112付近の断面を拡大して示している。
【0052】
溝部111は、外周面112よりも凹んだ部分であり、外周面112よりも軸100Rに近い部分である。
溝部111の深さYは、外周面112からの深さを意味し、外周面112から最も深い位置における溝部111の深さとする。溝部111の底は、平坦であっても、平坦でなくてもよい。
溝部111の長さX2は、境界112E1と境界112E2との、軸100Rの方向における距離である。ここで、境界112E1は、ある外周面112と溝部111との境界であり、境界112E2は、境界112E1と向かい合う、別の外周面112と溝部111との境界である。
【0053】
外周面112の長さX1は、隣り合う溝部111と溝部111との間にある外周面112の、軸100Rの方向における長さである。すなわち、支持ロール100を、軸100Rを含む平面で切断した際の断面において、溝部111と溝部111との間にある外周面112の長さである。
【0054】
外周面112の算術平均粗さRaは、通常前記式(1a)を満たし、通常0.1nm未満であり、好ましくは0.09nm以下、より好ましくは0.08nm以下であり、通常0nm以上であり、0.05nm以上であってもよい。
【0055】
外周面112の長さX1は、通常前記式(2a)を満たし、通常400μmより大きく、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上であり、通常1200μm未満であり、好ましくは1100μm以下、より好ましくは1000μm以下である。
【0056】
溝部111の長さX2は、通常前記式(3a)を満たし、通常100μmより大きく、好ましくは125μm以上、より好ましくは150μm以上であり、通常300μm未満であり、好ましくは275μm以下、より好ましくは250μm以下である。
【0057】
溝部111の深さYは、通常前記式(4a)を満たし、通常50μmより大きく、好ましくは75μm以上、より好ましくは100μm以上であり、通常400μm未満であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0058】
外周面112の算術平均粗さRaは、JIS B0601に基づき測定しうる。測定は、Mitutoyo社製「Surftest SJ-310」を用い、走査方向を支持ロール100の軸100Rの方向と平行な方向とし、カットオフ値λc=0.8mm、評価長さを5mmとして行いうる。また、外周面112の任意の5箇所について測定された値の平均値を、支持ロール100についての、外周面112の算術平均粗さRaの値としうる。
【0059】
外周面112の長さX1、溝部111の長さX2、及び溝部111の深さYは、Mitutoyo社製「Surftest SJ-310」を用いて、測定しうる。測定は、走査方向を支持ロール100の軸100Rの方向と平行な方向とし、評価長さを5mmとして行いうる。また、外周部110の任意の5箇所について測定された値の平均値を、支持ロール100についての、外周面112の長さX1、溝部111の長さX2、及び溝部111の深さYの値としうる。
【0060】
支持ロールAは、任意の方法で製造できる。例えば、滑らかな外周面を有する素材ロールを用意し、素材ロールの外周面に対して必要に応じてサンドブラスト処理などの粗面処理を行った後、必要に応じて研磨処理、ハードクロムめっきなどのめっきを施して、外周面の算術平均粗さRaが前記式(1a)を満たすロールを製造する。得られたロールに対して、切削装置を用いて、ロールの周方向に沿った微細な溝を複数彫ることにより、支持ロールAを製造できる。
【0061】
外周面112の算術平均粗さRaは、例えば、サンドブラスト処理において、サンド粒子径を小さくすることで、小さくしうる。また、外周面112を研磨処理することにより、小さくしうる。
外周面112の長さX1、溝部111の長さX2、及び溝部の深さYは、切削装置の切削条件を調整することにより、調整できる。
【0062】
支持ロールBは、その外周面における、算術平均粗さRa及びスキューネスRskが、下記式を満たす。
0.3nm<Ra<0.7nm (1b)
Rsk<0nm (2b)
【0063】
支持ロールBは、円柱状の部材であり、軸を中心として回転可能にフィルム製造装置に取り付けられる。支持ロールの外周面は、例えば、支持ロール100の外周部110と同様の材料により形成されうる。
【0064】
外周面は、算術平均粗さRaが、通常前記式(1b)を満たし、通常0.3nmより大きく、好ましくは0.35nm以上、より好ましくは0.4nm以上であり、通常0.7nm未満であり、好ましくは0.65nm以下、より好ましくは0.6nm以下である。
【0065】
外周面は、スキューネスRskが、通常前記式(2b)を満たし、通常0nm未満であり、好ましくは-0.25nm以下、より好ましくは-0.5nm以下であり、好ましくは-2nm以上、より好ましくは-1.5nm以上である。
【0066】
外周面の算術平均粗さRa及びスキューネスRskは、JIS B0601に基づき測定しうる。測定方向は、ロールの軸方向と平行な方向とし、カットオフ値λc=0.8mm、評価長さは5mmとしうる。外周面の任意の5箇所について算術平均粗さRa及びスキューネスRskを測定し、平均値を支持ロールの外周面についての値としうる。
【0067】
支持ロールBは、例えば、滑らかな外周面を有する素材ロールを用意し、素材ロールに対してサンドブラスト処理などの粗面処理を行った後、研磨処理を施すことにより、製造できる。
外周面の算術平均粗さRaは、例えば、サンドブラスト処理において、サンド粒子径を大きくすることで、大きくしうる。また、外周面のスキューネスRskは、例えば、研磨処理において球状の粒子を使用することによって、小さくしうる。
【0068】
外周面に研磨処理を施した後、ハードクロムめっきなどのめっき処理を施してもよい。
【0069】
(搬送張力)
塗工装置よりも搬送経路の上流における基材の搬送張力T1は、好ましくは30N/m以上、より好ましくは50N/m以上であり、好ましくは500N/m以下、より好ましくは300N/m以下である。塗工装置よりも搬送経路の上流、つまり工程1における基材の搬送張力T1を前記上限値以下とすることにより、搬送張力に起因する基材の変形を抑制することができる。搬送張力T1を前記下限値以上とすることにより、工程2における搬送張力との差を小さくし、張力差に起因する基材の寸法変化を抑制することができる。
【0070】
[1.2.工程2]
工程2では、塗工装置により、基材の表面S1に光硬化性組成物を塗工して、光硬化性組成物層を形成する。工程2を行うことにより、基材と、基材の表面S1に形成された光硬化性組成物層とを含む積層フィルムを製造しうる。
【0071】
(塗工装置)
塗工装置としては、光硬化性組成物を基材上に塗工しうる、任意の塗工装置を用いうる。光硬化性組成物を塗工する方法の例としては、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法が挙げられる。
【0072】
(光硬化性組成物)
光硬化性組成物は、光の照射により、硬化しうる組成物である。
照射する光としては、可視光線、紫外線、及び赤外線が挙げられる。
【0073】
光硬化性組成物は、例えば、重合性を有する化合物と、光重合開始剤とを含む。光重合開始剤は、光により、重合性を有する化合物の重合を開始させうる活性種を発生する。重合性を有する化合物が重合することにより、光硬化性組成物が硬化しうる。
【0074】
重合性を有する化合物の例としては、その分子が、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びエポキシ基等の重合性基を含む化合物が挙げられる。
重合性を有する化合物は、重合性基を、一分子当たり1個有する化合物でもよいが、重合性基を一分子当たり2個以上有する化合物であることが好ましい。
【0075】
光重合開始剤の例としては、光により、活性ラジカルを発生しうる、光ラジカル発生剤が挙げられる。光ラジカル発生剤の例としては、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、O-アシルオキシム系化合物、オニウム塩系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、α-ジケトン系化合物、多核キノン系化合物、キサントン系化合物、ジアゾ系化合物、イミドスルホナート系化合物が挙げられる。
【0076】
光硬化性組成物は、前記重合性を有する化合物及び光重合開始剤の他に、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、界面活性剤;酸化防止剤;溶媒;金属;金属錯体;酸化チタン等の金属酸化物;染料、顔料等の着色剤;蛍光材料、燐光材料等の発光材料;レベリング剤;チキソ剤;ゲル化剤;多糖類;紫外線吸収剤;赤外線吸収剤;イオン交換樹脂;等が挙げられる。
【0077】
光硬化性組成物は、好ましくは液晶化合物を含む液晶組成物である。液晶組成物は、2種類以上の成分を含む材料だけでなく、1種類の液晶化合物のみを含む材料を包含する。液晶化合物は、液晶性を有するので、通常、当該液晶化合物を配向させた場合に、液晶相を呈することができる。
【0078】
液晶化合物は、重合性を有することが好ましい。よって、液晶化合物は、その分子が、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びエポキシ基等の重合性基を含む、重合性液晶化合物であることが好ましい。液晶化合物の分子1つ当たりの重合性基の数は、1個でもよいが、2個以上が好ましい。重合性液晶化合物は、液晶相を呈した状態で重合し、液晶相における分子の屈折率楕円体において最大の屈折率を示す方向を変化させないように重合体となることができる。よって、液晶組成物が硬化した硬化層において液晶化合物の配向状態を固定したり、液晶化合物の重合度を高めて硬化層の機械的強度を高めたりすることが可能である。
【0079】
重合性液晶化合物としては、例えば、特表平11-513360号公報、特開2002-030042号公報、特開2004-204190号公報、特開2005-263789号公報、特開2007-119415号公報、特開2007-186430号公報等の文献に記載された重合性基を有する棒状液晶化合物;特開2015-111257号公報、国際公開第2018/173954号等の文献に記載された逆波長分散重合性液晶化合物;特開2003-177242号公報等の文献に記載の側鎖型液晶ポリマー化合物;などが挙げられる。
【0080】
液晶化合物の分子量は、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、特に好ましくは800以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1700以下、特に好ましくは1500以下である。このような範囲の分子量を有する液晶化合物を用いる場合に、液晶組成物の塗工性を特に良好にできる。
【0081】
測定波長590nmにおける液晶化合物の複屈折Δnは、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上であり、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下である。このような範囲の複屈折Δnを有する液晶化合物を用いる場合に、配向欠陥の少ない液晶組成物の硬化層を得やすい。
【0082】
液晶化合物の複屈折は、例えば、下記の方法により測定できる。
液晶化合物の層を作製し、その層に含まれる液晶化合物をホモジニアス配向させる。その後、その層の面内方向におけるレターデーションReを測定する。そして、「(層の面内方向におけるレターデーションRe)÷(層の厚みd)」から、液晶化合物の複屈折を求めることができる。この際、レターデーションRe及び厚みdの測定を容易にするために、ホモジニアス配向させた液晶化合物の層を、硬化させてもよい。
【0083】
液晶化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0084】
液晶化合物の例としては、下記式(I)で表される重合性液晶化合物が挙げられる。
【0085】
【0086】
式(I)において、Arは、芳香族複素環、複素環、及び芳香族炭化水素環の少なくとも1つを有し、置換されていてもよい、炭素原子数6~67の2価の有機基を表す。芳香族複素環としては、例えば、1H-イソインドール-1,3(2H)-ジオン環、1-ベンゾフラン環、2-ベンゾフラン環、アクリジン環、イソキノリン環、イミダゾール環、インドール環、オキサジアゾール環、オキサゾール環、オキサゾロピラジン環、オキサゾロピリジン環、オキサゾロピリダジル環、オキサゾロピリミジン環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、シンノリン環、チアジアゾール環、チアゾール環、チアゾロピラジン環、チアゾロピリジン環、チアゾロピリダジン環、チアゾロピリミジン環、チオフェン環、トリアジン環、トリアゾール環、ナフチリジン環、ピラジン環、ピラゾール環、ピラノン環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピロール環、フェナントリジン環、フタラジン環、フラン環、ベンゾ[c]チオフェン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾトリアジン環、ベンゾトリアゾール環、ベンゾピラゾール環、ペンゾピラノン環等が挙げられる。複素環としては、例えば、1,3-ジチオラン環、ピロリジン環、ピペラジン環等が挙げられる。芳香族炭化水素環としては、例えば、フェニル環、ナフタレン環等が挙げられる。
【0087】
式(I)において、Z1及びZ2は、それぞれ独立して、単結合、-O-、-O-CH2-、-CH2-O-、-O-CH2-CH2-、-CH2-CH2-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-NR21-C(=O)-、-C(=O)-NR21-、-CF2-O-、-O-CF2-、-CH2-CH2-、-CF2-CF2-、-O-CH2-CH2-O-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-、-CH2-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH2-、-CH2-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH2-、-CH2-CH2-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH2-CH2-、-CH2-CH2-O-C(=O)-、-C(=O)-O-CH2-CH2-、-CH=CH-、-N=CH-、-CH=N-、-N=C(CH3)-、-C(CH3)=N-、-N=N-、及び、-C≡C-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。R21は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。
【0088】
式(I)において、A1、A2、B1及びB2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい環状脂肪族基、及び、置換基を有していてもよい芳香族基、からなる群より選ばれる基を表す。A1、A2、B1及びB2が表す基の炭素原子数(置換基の炭素原子数を含む。)は、それぞれ独立して、通常、3~100である。中でも、A1、A2、B1及びB2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素原子数5~20の環状脂肪族基、又は、置換基を有していてもよい炭素原子数2~20の芳香族基が好ましい。
【0089】
A1、A2、B1及びB2における環状脂肪族基としては、例えば、シクロペンタン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジイル基、シクロヘプタン-1,4-ジイル基、シクロオクタン-1,5-ジイル基等の、炭素原子数5~20のシクロアルカンジイル基;デカヒドロナフタレン-1,5-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基等の、炭素原子数5~20のビシクロアルカンジイル基;等が挙げられる。中でも、置換されていてもよい炭素原子数5~20のシクロアルカンジイル基が好ましく、シクロヘキサンジイル基がより好ましく、シクロヘキサン-1,4-ジイル基が特に好ましい。環状脂肪族基は、トランス体であってもよく、シス体であってもよく、シス体とトランス体との混合物であってもよい。中でも、トランス体がより好ましい。
【0090】
A1、A2、B1及びB2における環状脂肪族基が有しうる置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。置換基の数は、一つでもよく、複数でもよい。また、複数の置換基は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0091】
A1、A2、B1及びB2における芳香族基としては、例えば、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基等の、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素環基;フラン-2,5-ジイル基、チオフェン-2,5-ジイル基、ピリジン-2,5-ジイル基、ピラジン-2,5-ジイル基等の、炭素原子数2~20の芳香族複素環基;等が挙げられる。中でも、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素環基が好ましく、フェニレン基が更に好ましく、1,4-フェニレン基が特に好ましい。
【0092】
A1、A2、B1及びB2における芳香族基が有しうる置換基としては、例えば、A1、A2、B1及びB2における環状脂肪族基が有しうる置換基と同じ例が挙げられる。置換基の数は、一つでもよく、複数でもよい。また、複数の置換基は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0093】
式(I)において、Y1~Y4は、それぞれ独立して、単結合、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-NR22-C(=O)-、-C(=O)-NR22-、-O-C(=O)-O-、-NR22-C(=O)-O-、-O-C(=O)-NR22-、及び、-NR22-C(=O)-NR23-、からなる群より選ばれるいずれかを表す。R22及びR23は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を表す。
【0094】
式(I)において、G1及びG2は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基;並びに、炭素原子数3~20の脂肪族炭化水素基に含まれるメチレン基(-CH2-)の1以上が-O-又は-C(=O)-に置換された基;からなる群より選ばれる有機基を表す。G1及びG2の前記有機基に含まれる水素原子は、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、又は、ハロゲン原子に置換されていてもよい。ただし、G1及びG2の両末端のメチレン基(-CH2-)が-O-又は-C(=O)-に置換されることはない。
【0095】
G1及びG2における炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基の具体例としては、炭素原子数1~20のアルキレン基が挙げられる。
【0096】
G1及びG2における炭素原子数3~20の脂肪族炭化水素基の具体例としては、炭素原子数3~20のアルキレン基が挙げられる。
【0097】
式(I)において、P1及びP2は、それぞれ独立して、重合性基を表す。P1及びP2における重合性基としては、例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の、CH2=CR31-C(=O)-O-で表される基;ビニル基;ビニルエーテル基;p-スチルベン基;アクリロイル基;メタクリロイル基;カルボキシル基;メチルカルボニル基;水酸基;アミド基;炭素原子数1~4のアルキルアミノ基;アミノ基;エポキシ基;オキセタニル基;アルデヒド基;イソシアネート基;チオイソシアネート基;等が挙げられる。R31は、水素原子、メチル基、又は塩素原子を表す。中でも、CH2=CR31-C(=O)-O-で表される基が好ましく、CH2=CH-C(=O)-O-(アクリロイルオキシ基)、CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(メタクリロイルオキシ基)がより好ましく、アクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0098】
式(I)において、p及びqは、それぞれ独立して、0又は1を表す。
【0099】
式(I)で表される液晶化合物は、例えば、国際公開第2012/147904号に記載される、ヒドラジン化合物とカルボニル化合物との反応により製造しうる。
【0100】
式(I)で表される液晶化合物としては、具体的には、例えば、下記の式で表される化合物が挙げられる。
【0101】
【0102】
液晶組成物は、必要に応じて、液晶化合物に組み合わせて、更に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組合わせて用いてもよい。
【0103】
液晶組成物は、光重合開始剤を含んでいてもよい。
液晶組成物に含まれうる光重合開始剤としては、光ラジカル発生剤が好ましい。光ラジカル発生剤のなかでも、オキシム化合物が好ましく、O-アシルオキシム化合物がより好ましい。光重合開始剤として、オキシム化合物を用いることにより、液晶組成物の硬化物の耐溶解性を効果的に高めることができる。
【0104】
光重合開始剤の具体例としては、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン=2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン=1-(O-アセチルオキシム)、及び特開2001-233842号公報に記載されたオキシム化合物が挙げられる。また、光重合開始剤としてのオキシム化合物の例を商品名で挙げると、BASF社製のIrgacureOXE01、IrgacureOXE02、IrgacureOXE04;ADEKA社製のアデカアークルズN-1919T、アデカアークルズNCI730;などが挙げられる。
【0105】
光重合開始剤の量は、液晶化合物100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。光重合開始剤の量が前記範囲に収まる場合、重合を効率的に進行させることができる。
【0106】
例えば、液晶組成物は、任意の成分として、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤とは、重合性化合物に、橋かけ結合を形成しうる剤をいう。架橋剤には、前記重合性液晶化合物は含まれない。
【0107】
液晶組成物は、架橋剤を、1種単独で含んでいてもよく、2種以上の任意の比率の組み合わせとして含んでいてもよい。
【0108】
架橋剤は、好ましくは多官能性モノマーである。多官能性モノマーとは、重合性の基を一分子中に2個以上有する化合物を意味する。
【0109】
多官能性モノマーが有しうる重合性の基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル基が挙げられる。
【0110】
多官能性モノマーとしては、例えば、2官能性モノマー(例、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジアクリレート)、3官能性以上の、多官能性モノマー(例、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート)が挙げられる。
【0111】
架橋剤は、より好ましくは、2官能性モノマーである。2官能性モノマーとは、重合性の基を一分子中に2個有する化合物を意味する。
【0112】
架橋剤の量は、液晶化合物100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。
【0113】
例えば、液晶組成物は、任意の成分として、界面活性剤を含んでいてもよい。特に、配向性に優れた液晶組成物の硬化層層を安定して得る観点から、界面活性剤としては、分子中にフッ素原子を含む界面活性剤が好ましい。以下の説明において、分子中にフッ素原子を含む界面活性剤を、適宜「フッ素系界面活性剤」ということがある。
【0114】
界面活性剤はノニオン系界面活性剤であることが好ましい。界面活性剤がイオン性基を含まないノニオン系界面活性剤である場合に、液晶組成物の硬化層の面状態及び配向性を、特に良好にすることができる。
【0115】
界面活性剤としては、例えば、AGCセイミケミカル社製のサーフロンシリーズ(S242、S386、S420など)、DIC社製のメガファックシリーズ(F251、F554、F556、F562、RS-75、RS-76-Eなど)、ネオス社製のフタージェントシリーズ(FTX601AD、FTX602A、FTX601ADH2、FTX650A、209Fなど)等が挙げられる。また、界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0116】
界面活性剤の量は、液晶化合物100重量部に対して、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.010重量部以上であり、好ましくは1.00重量部以下、より好ましくは0.50重量部以下である。界面活性剤の量が前記の範囲にある場合、液晶組成物の硬化層の面状態を良好にしたり、液晶組成物の硬化層の配向欠陥の発生を抑制したりできる。
【0117】
例えば、液晶組成物は、任意の成分として、酸化防止剤を含んでいてもよい。酸化防止剤を用いることにより、液晶組成物のゲル化を抑制できるので、液晶組成物のポットライフを長くできる。酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類状を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0118】
酸化防止剤の量は、液晶化合物100重量部に対して、好ましくは0.001重量部以上、より好ましくは0.005重量部以上、特に好ましくは0.010重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、特に好ましくは1重量部以下である。酸化防止剤の量が、前記範囲にある場合に、液晶組成物のポットライフを効果的に長くできる。
【0119】
液晶組成物は、任意の成分として、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、液晶化合物を溶解できるものが好ましい。このような溶媒としては、通常、有機溶媒を用いる。有機溶媒の例としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒;1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル溶媒;及びトルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;が挙げられる。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0120】
溶媒の沸点は、取り扱い性に優れる観点から、好ましくは60℃~250℃、より好ましくは60℃~150℃である。
【0121】
溶媒の量は、液晶化合物100重量部に対して、好ましくは200重量部以上、より好ましくは250重量部以上、特に好ましくは300重量部以上であり、好ましくは650重量部以下、より好ましくは600重量部以下、特に好ましくは500重量部以下である。溶媒の量が前記範囲の下限値以上である場合に、異物発生の抑制ができる。また、溶媒の量が前記範囲の上限値以下である場合に、乾燥負荷の低減ができる。
【0122】
液晶組成物が含みうる任意のその他の成分の例としては、光硬化性組成物が含みうる任意成分として挙げた例と同様の成分が挙げられる。任意のその他の成分の量は、液晶化合物の合計100重量部に対して、一種の成分につき、0.1重量部~20重量部としうる。
【0123】
(搬送張力)
工程2における、基材の搬送張力T2は好ましくは200N/m以上、より好ましくは250N/m以上であり、好ましくは500N/m以下、より好ましくは400N/m以下である。工程2における搬送張力を前記下限値以上とすることにより、工程2における基材の平面性を高め、光硬化性組成物のコーティング厚を均一とすることができる。搬送張力T2を前記上限値以下とすることにより、光硬化性組成物を塗工した基材の変形を抑制しうる。
【0124】
搬送張力T1は、搬送張力T2よりも低く、かつ、基材の繰り出しから工程2を行うまでの間に段階的に高くなるように設定されているのが好ましい。搬送張力T1及び搬送張力T2をこのような態様とすることにより、搬送張力の急激な上昇を抑制することができ、これにより基材の寸法変化を抑制し、寸法変化に起因する傷の発生を抑制することができる。段階的な搬送張力の上昇は、工程1における搬送経路内に設けた第二の搬送部材の駆動速度を調整して、第二の搬送部材の上流より下流において搬送張力を高めることにより達成しうる。
【0125】
[1.3.任意の工程]
本実施形態の製造方法は、前記の工程1及び工程2の他に、任意の工程を含みうる。
任意の工程の例としては、工程A:工程1の前に、前記基材の前記表面S1に配向規制力を与える処理を行う工程が挙げられる。配向規制力とは、液晶組成物に含まれる液晶化合物を配向させることができる、面の性質をいう。工程Aを行うことにより、基材の表面S1に配向規制力を付与し、表面S1に液晶組成物を塗工した場合に、液晶組成物層における液晶化合物の配向を促進しうる。
【0126】
(工程A)
基材の表面S1に配向規制力を与える処理は、好ましくは、ラビング処理、光配向処理、及び延伸処理から選ばれる処理である。
ラビング処理は、基材の表面を擦ることにより配向規制力を付与する処理である。ラビング処理は、配向膜が設けられていない基材に対して行ってもよく、配向膜が設けられた基材に対しておこなってもよい。
光配向処理とは、基材に設けた配向膜に直線偏光の紫外線を照射し、異方性を付与することにより、配向規制力を付与する処理である。
延伸処理とは、基材を延伸することにより、基材に含まれる重合体を配向させて配向規制力を付与する処理である。
これらの処理方法のうち、製造効率に優れるという観点から、延伸処理が好ましい。
【0127】
延伸処理を行う場合、延伸する方向は、基材に求められる所望の配向方向に応じて適宜設定しうる。延伸処理は、基材を長手方向に延伸する縦延伸;基材を幅方向に延伸する横延伸;基材を基材の面内方向であって、幅方向に平行でもなく垂直でもない方向に延伸する斜め延伸;及び、これら延伸の組み合わせ;のいずれであってよい。延伸倍率は、基材の複屈折が所望の範囲となるように、適宜設定しうる。延伸処理は、テンター延伸機などの既知の延伸機を用いて行いうる。
【0128】
[2.光学フィルムの製造方法]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を含み、表面S1及び表面S2を有する基材と、前記基材の前記表面S1に形成された硬化層と、含む光学フィルムの製造方法である。基材の例及び好ましい例は、前記積層フィルムの製造方法の項目において説明した基材の例及び好ましい例と同様である。
【0129】
本実施形態に係る光学フィルムの製造方法では、工程1及び工程2を含む工程により、前記基材と、前記基材の前記表面S1に形成された光硬化性組成物層と、を含む積層フィルムを製造する。積層フィルムを製造する工程の例及び好ましい例は、前記積層フィルムの製造方法の項目において説明した工程1及び工程2を含む製造方法の例及び好ましい例と同様である。積層フィルムは、前記のとおり、工程1及び工程2の他に、任意の工程(例えば、前記工程A)を含む工程により製造されうる。
【0130】
積層フィルムを製造する工程の後に、工程3が行われる。工程3では、積層フィルムに含まれる光硬化性組成物層を硬化させて、硬化層を形成する。
光硬化性組成物層の硬化は、通常、光硬化性組成物に含まれる重合性を有する化合物の重合を開始させうる光を、光硬化性組成物層に照射することにより行いうる。
【0131】
積層フィルムを製造する工程において、基材に配向規制力を与える工程Aを行い、光硬化性組成物として液晶組成物を用いた場合、通常、液晶組成物層を硬化して得られる硬化層では、液晶化合物の配向状態は固定される。
【0132】
本実施形態の光学フィルムの製造方法は、前記積層フィルムを製造する工程及び工程3の他に、任意の工程を含みうる。
【0133】
例えば、光学フィルムの製造方法は、工程3の前に、工程2で形成された光硬化性組成物層を乾燥させる工程を含んでいてもよい。かかる乾燥は、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等の乾燥方法で達成しうる。かかる乾燥により、光硬化性組成物層から、溶媒を除去することができる。
【0134】
例えば、光学フィルムの製造方法は、工程3の前に、工程2で形成された光硬化性組成物層を加熱する工程を含んでいてもよい。かかる加熱により、光硬化性組成物層を乾燥しうる。また、光硬化性組成物層が、液晶組成物層である場合には、かかる加熱工程を含むことにより、液晶組成物層に含まれる液晶化合物の配向を促進しうる。
【0135】
例えば、光学フィルムの製造方法は、工程1~工程3を含む、積層フィルムを製造する工程により、基材の表面S1に第一の硬化層を形成した後に、第一の硬化層の上に更に重合性組成物層を形成し、当該重合性組成物層を硬化させて、第二の硬化層を形成する工程4を含んでいてもよい。光学フィルムの製造方法が、工程4を含むことにより、基材、第一の硬化層、及び第二の硬化層を、この順で含む光学フィルムを製造できる。
【0136】
工程4で形成される第二の硬化層の例としては、ハードコート層が挙げられる。
ハードコート層を形成するための重合性組成物の例としては、活性エネルギー線により硬化しうる、活性エネルギー線硬化型樹脂と微粒子とを含む組成物が挙げられる。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線などが挙げられる。
【0137】
ハードコート層を形成するための組成物は、活性エネルギー線硬化型樹脂を溶解又は分散させるための溶媒を含んでいてもよい。
【0138】
活性エネルギー線硬化型樹脂を紫外線により硬化させる場合、ハードコート層を形成するための組成物は、更に光重合開始剤を含んでいてもよい。
【0139】
ハードコート層を形成するための組成物は、上記微粒子及び活性エネルギー線硬化型樹脂以外に、各種添加剤(例、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、溶媒、消泡剤、レベリング剤)を含んでいてもよい。
【0140】
光学フィルムの製造方法は、第一の硬化層又は第二の硬化層の上に、任意の層を、更に形成する工程を含んでいてもよい。任意の層の例としては、位相差フィルム;他の部材と接着するための接着層;フィルムの滑り性を良くするマット層;反射防止層;及び、防汚層が挙げられる。
【0141】
本実施形態の光学フィルムの製造方法は、前記積層フィルムの製造方法により積層フィルムを製造する工程を含む。したがって、本実施形態の光学フィルムの製造方法は、前記積層フィルムの製造方法と同様の利点を有する。すなわち、本実施形態の光学フィルムの製造方法によれば、基材の表面S1に傷が発生することを抑制できる。また、搬送方向における光硬化性組成物層の厚み変動(横段)を抑制できる結果、光硬化性組成物層を硬化させた硬化層の厚み変動を抑制できる。すなわち、搬送方向における光学フィルムの厚み変動を抑制できる。
【0142】
[3.積層フィルムの製造装置及び光学フィルムの製造装置の一例]
積層フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法は、任意の製造装置により実施しうる。以下、図を用いて、製造装置の一例について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る、積層フィルムの製造方法及び光学フィルムの製造方法を実施しうる、製造装置を示す図である。
図5に示すように、フィルム製造装置1000は、基材1を繰り出す繰り出し機1010;基材1に配向規制力を付与して基材1Aとする装置としての、延伸装置1020;第二の搬送部材としての、支持ロール1030a、支持ロール1030b、支持ロール1030c;第一の搬送部材1040a、第一の搬送部材1040b;塗工装置1050;補助ロール1055;光硬化性組成物層を乾燥する乾燥炉1060;水銀ランプを備えた紫外線照射装置1070;及び、製造された光学フィルム20を巻き取る巻き取り機1080を備える。
塗工装置1050は、基材1Aの表面S1に光硬化性組成物を塗工するダイ1051、ダイ1051と基材1Aを介して対向するように配置されるバックアップロール1052を備える。
【0143】
支持ロール1030a、第一の搬送部材1040a、支持ロール1030b、第一の搬送部材1040b、及び支持ロール1030cは、この順で基材1Aを支持して塗工装置1050まで搬送するように、それぞれ配置されている。第一の搬送部材1040a及び第一の搬送部材1040bは、搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部を有する部材であり、平均孔径が10μm以下である、多孔質材料で形成されている。第一の搬送部材1040a及び第一の搬送部材1040bには、高圧空気を供給するコンプレッサー(図示せず)が接続されている。支持ロール1030a、支持ロール1030b、及び支持ロール1030cは、基材1Aの表面S2を支持する表面(外周部)に、微細構造を有する。
【0144】
次に、フィルム製造装置1000を用いた積層フィルム及び光学フィルムの製造方法について説明する。
繰り出し機1010は、長尺の基材1を繰り出し、繰り出された基材1は、延伸装置1020に搬送されて、延伸装置1020において、斜め延伸される。斜め延伸処理により、基材1は、少なくとも表面S1に、配向規制力が付与された基材1Aとされる。基材1Aは、搬送経路に沿って、支持ロール1030a、第一の搬送部材1040a、支持ロール1030b、第一の搬送部材1040b、及び支持ロール1030cに、この順で支持されて、塗工装置1050まで搬送される。第一の搬送部材1040a及び第一の搬送部材1040bは、多孔質材料で形成されるとともに、図示されないコンプレッサーから高圧空気が送りこまれているため、断面弧状部の表面から空気が噴出して、基材1Aを浮上させる。これにより、第一の搬送部材1040a及び第一の搬送部材1040bは、基材1Aの表面S1との非接触状態を維持しながら、基材1Aを支持して搬送する。支持ロール1030a、支持ロール1030b、支持ロール1030cは、微細構造を有する表面(外周部)により、基材1Aの表面S2を支持して搬送する。
【0145】
前記のとおり、基材1Aの表面S1を、第一の搬送部材1040a及び第一の搬送部材1040bにより非接触状態で支持して、基材1Aを搬送することで、搬送中に、基材1Aの表面S1に傷が発生することを抑制しうる。基材1Aの表面S2を、第二の搬送部材としての支持ロール1030a、支持ロール1030b、及び支持ロール1030cにより支持して基材1Aを搬送することで、基材1Aの表面S1に傷が発生することを抑制しつつ、搬送方向における光硬化性組成物の塗工厚みの変動(横段)を抑制しうる。
【0146】
塗工装置1050に搬送された基材1Aは、表面S2をバックアップロール1052に支持され、表面S1にダイ1051により光硬化性組成物が塗工されて、基材1Aの表面S1上に光硬化性組成物層が形成された積層フィルム10が製造される。
【0147】
積層フィルム10は、補助ロール1055により支持されて乾燥炉1060に搬送されて、積層フィルム10に含まれる光硬化性組成物層が乾燥される。積層フィルム10は、次いで紫外線照射装置1070に搬送され、紫外線照射装置1070に備えられた水銀ランプ(図示せず)により、積層フィルム10に紫外線が照射される。これにより、光硬化性組成物層が硬化して、硬化層が形成され、基材1Aと、基材1Aの表面S1に形成された硬化層とを備える光学フィルム20が製造される。製造された光学フィルム20は、巻き取り機1080に巻き取られて、長尺の光学フィルムのロールが得られる。
【0148】
前記のとおり、搬送方向における光硬化性組成物の塗工厚みが変動することが抑制されているので、光硬化性組成物層を硬化させて形成された硬化層の、厚みの変動も抑制されている。
【0149】
前記のフィルム製造装置1000により、光学欠陥が少なく、搬送方向における硬化層の厚み変動が抑制された光学フィルム;そのような光学フィルムを得ることができる、積層フィルム;を得ることができる。
【実施例0150】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0151】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0152】
[評価方法]
(横段強度)
光学フィルムが備える硬化層が有する、搬送方向における厚みの変動(横段)の程度を評価するため、下記の方法に従い横段強度を求めた。通常、搬送方向における基材の厚みの変動は、光硬化性組成物層の厚みの変動及びその硬化層の厚みの変動と比較して、非常に小さいと考えられる。光学フィルムが備える硬化層が有する、搬送方向における厚みの変動の程度は、積層フィルムにおける光硬化性組成物層の厚みの変動の程度を反映し、また光学フィルムの厚みの変動の程度に反映される。横段強度が小さいほど、厚みの変動の搬送方向における周期が長くまた厚みの振幅が小さい。
【0153】
光干渉式膜厚計(「Optical NanoGauge C13027-11」、浜松フォトニクス社製)を用いて、実施例及び比較例で製造した光学フィルムが備える、硬化層の厚みデータを取得した。厚みデータは、光学フィルムの幅方向における中央部分の、測定面積100mm×1680mm(幅方向×搬送方向)の範囲から取得した。厚みデータの取得間隔は、幅方向及び搬送方向それぞれ0.5mmとした。
【0154】
得られた厚みデータより、光学フィルムの幅方向に対して平均値を算出し、搬送方向について、幅方向の厚みが平均化された平均プロファイルを算出した。得られた平均プロファイルから高速フーリエ変換を行ってパワースペクトルを算出した。
【0155】
次いで、得られたパワースペクトルの1~200mm区間外の強度を0に変換するスムーザ処理を行い、次いで処理後のスペクトルに対して逆フーリエ変換を行ってフィルタリング曲線を算出した。
【0156】
続いて得られたフィルタリング曲線から平均ピッチ長の半値sm/2を求めた。平均ピッチ長の半値sm/2は測定長さをフィルタリング曲線が持つ極値の数で割った値として定義される。極値数は、フィルタリング曲線の距離5mm区間の傾きを曲線のプロットを1点毎にずらしながら求め、隣り合う区間の傾きを乗じて負の値になった数とした。
【0157】
また、フィルタリング曲線プロファイルにおける、厚みデータの標準偏差σを求めた。
【0158】
上記で求めた厚みデータの標準偏差σを平均ピッチ長の半値sm/2で徐算して、得られた数値を横段強度とした。横段強度が小さいほど、硬化層の搬送方向における厚みの変動(横段)が少なく、ひいては光学フィルムの搬送方向における厚みの変動が小さい。また、横段強度が小さいほど、積層フィルム及び光硬化性組成物層の搬送方向における厚みの変動が小さいことを意味する。得られた硬化層の横段強度の値から、下記基準により面状を評価した。
優:横段強度の値が0.00035以下である。
劣:横段強度の値が0.00035を超える。
【0159】
(光抜け欠陥の評価)
液晶組成物を塗工する基材の表面に存在する傷の数は、液晶組成物層における配向欠陥の数に反映されると考えられる。そのため、下記方法により、光学フィルムの光抜け欠陥の数を算出して、液晶組成物を塗工する基材の面に存在する傷の数の指標とした。
バックライトの上に偏光板2枚を配置し、2つの偏光板の間に、各例で作製した光学フィルム(液晶硬化フィルム)を配置した。2枚の偏光板はパラレルニコルに配した。光学フィルムは、基材1Aの遅相軸と2枚の偏光板の透過軸とが光学フィルムの厚み方向から見て、45°をなすように配置した。
バックライトの上に配置した、偏光板/光学フィルム/偏光板の積層体の正面側から、光抜け欠陥の有無を肉眼視により観察し、光抜け欠陥の数(輝点の数)を測定し、光学フィルムの単位面積当たりの輝点の数を算出した。
光抜け欠陥の数が少ないほど、液晶組成物を塗工する基材の表面に存在する傷の数は少ないといえる。
【0160】
(押込弾性率の測定)
基材1Aにつき、下記方法により押込弾性率を測定した。
押込弾性率試験機(フィッシャーインスツルメンツ社製、商品名「ピコメーター Hm-500」)を用いて押込弾性率(単位:GPa)を測定した。測定に際して、圧子は対面角136°正四角錐ダイヤモンド圧子を用いた。荷重速度は2.5mF/secで一定とし、dF/dtは一定の条件で実施した。最大荷重は50mN、荷重時間は20sec、クリープ時間は60secとした。
【0161】
(外周面の長さX1、溝部の長さX2、及び溝部の深さY)
製造例a-1で製造された、溝部と外周面とを備える支持ロールa-1の外周部について、Mitutoyo社製「Surftest SJ-310」を用い、外周面の長さX1、溝部の長さX2、及び溝部の深さYを測定した。
走査方向は、支持ロールの軸方向と平行な方向とし、評価長さは5mmとした。外周部の任意の5箇所について外周面の長さX1、溝部の長さX2、及び溝部の深さYを測定し、平均値を支持ロールについての値とした。
【0162】
(算術平均粗さRa及びスキューネスRsk)
製造例a-1及びb-1で製造された支持ロールa-1及びb-1の外周面について、算術平均粗さRa及び粗さ曲線のスキューネスRskを、Mitutoyo社製「Surftest SJ-310」を用い、JIS B0601に基づき測定した。走査方向は、ロールの軸方向と平行な方向とし、カットオフ値λc=0.8、評価長さは5mmとした。外周面の任意の5箇所について算術平均粗さRa及びスキューネスRskを測定し、平均値を支持ロールについての値とした。
【0163】
(レターデーションの測定)
フィルムの面内方向におけるレターデーションReを、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、測定波長590nmで測定した。
【0164】
(フィルムの厚み)
フィルムの厚みを、フィルメトリクス社製「F20 膜厚測定システム」により測定した。
【0165】
[支持ロールの製造例]
[製造例c-1]
ステンレス鋼材(SUS304)で形成された滑らかな外周面を有する素材ロールを用意した。この素材ロールの外周面に、ハードクロムめっきを施し、支持ロールc-1を得た。この支持ロールc-1の外周面に対しては、微細な溝の形成及びサンドブラスト処理を行わなかった。したがって、支持ロールc-1は、外周面に微細な構造が形成されなかった。
【0166】
[製造例a-1]
製造例c-1で製造された支持ロールc-1と同様のロールを用意した。このロールの外周面に、切削装置を用いて、めっきロールの周方向に沿った微細な溝を複数彫った。溝により、外周面は、円筒側面状の複数の外周面に分割された。装置の調整により、ロールの軸方向における外周面の長さX1、ロールの軸方向における溝部の長さX2、及び溝の深さYが、表1に示す値となるようにして、支持ロールa-1を得た。支持ロールa-1について、前記の方法により外周面の算術平均粗さRa、支持ロールa-1の軸方向における外周面の長さX1、支持ロールの軸方向における溝部の長さX2、及び溝部の深さYを測定した。支持ロールa-1は、表面(外周部)に微細な溝構造を有する。
【0167】
[製造例b-1]
製造例c-1で用意した素材ロールと同様の、ステンレス鋼材(SUS304)で形成された滑らかな外周面を有する素材ロールを用意した。この素材ロールの外周面に、サンドブラスト処理を施した後、当該外周面に研磨処理を施して、更にハードクロムめっきを施し、支持ロールb-1を得た。サンドブラスト処理及び研磨処理の条件は、外周面の算術平均粗さRa及びスキューネスRskが表2に示す値を有するように、調整した。具体的には、サンドブラスト処理において、サンド粒子径を大きくすることで、算術平均粗さRaを大きくし、研磨処理において球状のサンド粒子を使用することによって、スキューネスRskを小さくした。
支持ロールb-1の外周面について、前記の方法により算術平均粗さRa及びスキューネスRskを測定した。
支持ロールb-1は、表面に微細な凹凸構造を有する。
【0168】
[塗工液の調製]
重合性液晶化合物として、下記式(A-1)で表される化合物を19.18部、架橋剤としてのトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(商品名「NKエステルA-DCP」、新中村化学工業社製)1.92部(重合性液晶化合物100部に対して10部)、界面活性剤(商品名「メガファックF-562」、DIC社製)0.06部(重合性液晶化合物100部に対して0.31部)、光重合開始剤(商品名「IrgacureOXE04」、BASF社製)0.84部(重合性液晶化合物100部に対して4部)、及びシクロペンタノン及び1,3-ジオキソランの混合溶媒78部(重合性液晶化合物100部に対して407部)を混合し、重合性液晶化合物を含む塗工液(液晶組成物)を調製した。
【0169】
【0170】
[実施例A1]
図5に示すように、繰り出し機1010;延伸装置1020;支持ロール1030a、支持ロール1030b、支持ロール1030c;第一の搬送部材1040a、第一の搬送部材1040b;塗工装置1050;補助ロール1055;乾燥炉1060;水銀ランプを備えた紫外線照射装置1070;及び、巻き取り機1080を備えるフィルム製造装置1000を用意した。
支持ロール1030a、1030b、1030cとして、それぞれ製造例a-1で製造された支持ロールa-1を取り付けた。
第一の搬送部材1040a、1040bとしては、
図2に示すように、搬送方向に平行な方向の断面が弧状である断面弧状部300Rを有する第一の搬送部材300を取り付けた。この第一の搬送部材300は、平均孔径2μmのセラミック材(ナノテム社製)により形成されており、基材と対向する面から、空気を噴出できるような構造を有している。
【0171】
(配向規制力を付与する工程A)
繰り出し機1010からシクロオレフィンポリマーからなる厚み115μmの長尺の基材1(ゼオノアフィルム(登録商標)1215、日本ゼオン社製)を繰り出し、延伸装置1020に搬送し、延伸倍率1.5で、基材の幅方向に対して45°方向に斜め延伸した。斜め延伸処理により、基材1に配向規制力を付与して基材1Aとした。
配向規制力が付与された基材1Aは、面内方向のレターデーションReが140nmであり、厚み77μmであった。また、基材1Aの押込弾性率は、3.0GPaであった。
【0172】
(工程1:搬送工程)
基材1Aを、支持ロール1030a、第一の搬送部材1040a、支持ロール1030b、第一の搬送部材1040b、支持ロール1030cにより順に支持して、塗工装置1050まで搬送した。
塗工装置1050までの搬送張力T1を250N/mとした。また、第一の搬送部材1040a、1040bの断面弧状部300Rから空気を噴出させて、基材1Aの、光重合性組成物が塗工される面(表面S1)を、第一の搬送部材1040a、1040bによって非接触状態で支持させた。第一の搬送部材1040a、1040bから噴出させる空気の圧力は0.3MPaであり、基材1Aの表面S1と第一の搬送部材1040a、1040bとの間隔Xは500μmであった。一方で基材1Aの、光重合性組成物が塗工される面とは反対側の面(表面S2)を、支持ロール1030a、1030b、及び1030cによって接触状態で支持させた。
【0173】
(工程2:塗工工程)
塗工装置1050から巻き取り機1080までの搬送張力T2を300N/mに設定して、基材1Aの表面S1に、前記のとおり調製された液晶組成物の塗工液を塗工して、(光硬化性組成物層としての液晶組成物の層)/(基材1A)の層構成を有する、長尺の積層フィルムを得た。
【0174】
(工程3:硬化工程)
積層フィルムを、110℃に設定した乾燥炉1060の中で4分間乾燥させた。
次いで、窒素雰囲気下にて、乾燥後の積層フィルムに、水銀ランプ(アイグラフィック社製)を備えた紫外線照射装置1070を用いて紫外線を照射(照射強度250mW/cm2、照射時間2秒)した。これにより、塗工層(光硬化性組成物層、液晶組成物層)中の重合性液晶化合物を重合させた。光硬化性組成物層は硬化し、硬化層が形成された。
以上の手順により、基材1Aと、基材1Aの表面S1に形成された硬化層とを備える長尺の光学フィルムが製造された。光学フィルムを巻き取り機1080を使って巻き取り、長尺の光学フィルムのロールを得た。
得られた光学フィルムについて、前記の方法により横段強度及び光抜け欠陥の程度を評価した。
【0175】
[実施例B1]
フィルム製造装置1000に、支持ロール1030a、1030b、1030cとして、それぞれ製造例b-1で製造された支持ロールb-1を取り付けた。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得て、積層フィルムから光学フィルムを得た。得られた光学フィルムについて、前記の方法により横段強度及び光抜け欠陥の程度を評価した。
【0176】
[比較例1]
フィルム製造装置1000に、支持ロール1030a、1030b、1030cとして、それぞれ製造例c-1で製造された支持ロールc-1を取り付けた。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得て、積層フィルムから光学フィルムを得た。得られた光学フィルムについて、前記の方法により横段強度及び光抜け欠陥の程度を評価した。
【0177】
[比較例2]
フィルム製造装置1000に、支持ロール1030a、1030b、1030cとして、それぞれ製造例c-1で製造された支持ロールc-1を取り付けた。また、第一の搬送部材1040a、1040bの代わりに、それぞれ製造例c-1で製造された支持ロールc-1を取り付けた。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得て、積層フィルムから光学フィルムを得た。得られた光学フィルムについて、前記の方法により横段強度及び光抜け欠陥の程度を評価した。
【0178】
[結果]
下記にフィルム製造装置の構成の概要及び得られた光学フィルムについての評価を示す。
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
以上の結果より、以下の事項が分かる。
実施例A1及び実施例B1に係る製造方法では、工程1における基材の搬送が、基材の表面S1を非接触状態で支持する第一の搬送部材300を用いて、基材の表面S1と第一の搬送部材との非接触状態を維持して行われ、かつ第二の搬送部材として、微細構造を表面に有する支持ロールa-1又は支持ロールb-1を用いて、基材の表面S2を支持して行われる。実施例A1及び実施例B1に係る製造方法によって得られる光学フィルムは、横段強度が小さく優れており、光抜け欠陥が顕著に少ない。
一方、第二の搬送部材として、微細構造を表面に備えない支持ロールc-1(クロムメッキロール)を用いる比較例1に係る製造方法では、得られる光学フィルムの横段強度が大きく劣る。
また、第一の搬送部材及び第二の搬送部材として、支持ロールc-1を用いる比較例2に係る製造方法では、得られる光学フィルムの光抜け欠陥が顕著に多い。
これらの結果は、本発明に係る製造方法により、光硬化性組成物が塗工される基材の表面における傷の発生を抑制し、かつ、搬送方向における積層フィルム又は光学フィルムの厚みの変動を抑制することができることを示す。