IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人大阪の特許一覧 ▶ 学校法人立命館の特許一覧 ▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特開2022-36715偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機
<>
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図1
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図2
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図3
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図4
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図5
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図6
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図7A
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図7B
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図7C
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図7D
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図7E
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図8
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図9
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図10A
  • 特開-偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機 図10B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036715
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220301BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20220301BHJP
【FI】
G02B5/30
B23K26/064 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141067
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊田 久雄
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 歴
(72)【発明者】
【氏名】江畑 惠司
(72)【発明者】
【氏名】仲前 一男
【テーマコード(参考)】
2H149
4E168
【Fターム(参考)】
2H149AA00
2H149AB01
2H149DA01
2H149DA05
2H149DA12
2H149DA13
2H149FA21Y
2H149FA42Y
2H149FA44Y
4E168AD11
4E168DA02
4E168DA27
4E168DA46
4E168JA02
(57)【要約】
【課題】レーザ光照射側の形状も四角形形状に近い穴を形成することができる偏光変換素子を提供する。
【解決手段】偏光変換素子は、偏光変換素子の中心回りに4回の回転対称となるように区分された4つの第1領域を備えている。4つの第1領域の各々は、周方向に沿って区分された複数の第2領域を有している。複数の第2領域の各々は、楔形形状を有している。複数の第2領域の各々は、1/2波長板になっている。4つの第1領域に含まれる複数の第2領域の各々の進相軸の方向は、周方向に沿って、180°を4つの第1領域に含まれる複数の第2領域の合計数で除した値ずつ回転している。4つの第1領域の各々において、楔形形状の頂角の各々は、互いに異なる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光変換素子であって、
前記偏光変換素子は、前記偏光変換素子の中心回りに4回の回転対称となるように区分されている4つの第1領域を備え、
前記4つの第1領域の各々は、周方向に沿って区分されている複数の第2領域を有しており、
前記複数の第2領域の各々は、楔形形状を有しており、
前記複数の第2領域の各々は、1/2波長板になっており、
前記4つの第1領域に含まれる前記複数の第2領域の各々の進相軸の方向は、前記周方向に沿って、180°を前記4つの第1領域に含まれる前記複数の第2領域の合計数で除した値ずつ回転しており、
前記4つの第1領域の各々において、前記楔形形状の頂角の各々は、互いに異なる、偏光変換素子。
【請求項2】
前記複数の第2領域の数は、2つであり、
前記4つの第1領域の各々において、前記頂角の1つは、50°を超えて80°未満である、請求項1に記載の偏光変換素子。
【請求項3】
前記複数の第2領域の各々は、複屈折結晶により構成されている、請求項1又は請求項2に記載の偏光変換素子。
【請求項4】
前記複数の第2領域の各々は、液晶素子又は構造複屈折素子により構成されている、請求項1又は請求項2に記載の偏光変換素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前記偏光変換素子を備える、光学系。
【請求項6】
直線偏光のレーザ光を発生させるレーザ光源と、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前記偏光変換素子と、
前記レーザ光をワーク上に集光させる集光レンズとを備える、レーザ加工機。
【請求項7】
前記偏光変換素子と前記集光レンズとの間の距離は、前記集光レンズの焦点距離よりも小さい、請求項6に記載のレーザ加工機。
【請求項8】
前記レーザ光源は、パルス幅が10ピコ秒未満の前記レーザ光を発生させる、請求項6又は請求項7に記載のレーザ加工機。
【請求項9】
前記レーザ光源は、TEM00モードのガウシアンビーム又は平面波ビームの前記レーザ光を発生させる、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、偏光変換素子、光学系及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1(Hiroshi Kikuchiほか2名、Fourfold rotationally symmetrycally polarized laser beam for drilling a square hole、Japanese Journal of Applied Physics、Vol.55、No.4、2016年、042701)には、偏光変換素子が記載されている。
【0003】
非特許文献1に記載の偏光変換素子は、当該偏光変換素子の中心回りに、4回回転対称の4つの第1領域に分割されている。4つの第1領域の各々は、周方向に沿って、2つの第2領域に分割されている。第2領域の各々は、楔形形状を有しており、当該楔形形状の頂角が等しい。
【0004】
4つの第1領域に含まれる第2領域の各々は、1/2波長板である。4つの第1領域に含まれる第2領域の各々の進相軸は、周方向に沿って、22.5°(180°を4つの第1領域に含まれる第2領域の合計数で除した値)ずつ回転している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiroshi Kikuchiほか2名、Fourfold rotationally symmetrycally polarized laser beam for drilling a square hole、Japanese Journal of Applied Physics、Vol.55、No.4、2016年、042701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の偏光変換素子を通過したレーザ光を集光レンズを用いてワーク上に集光することにより、四角形形状の穴を形成することができる。これは、非特許文献1に記載の偏光変換素子を通過したレーザ光が、四角形の角部においてP偏光のレーザ光となり、四角形の辺に沿う部分においてS偏光のレーザ光となるためである。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の偏光変換素子を通過したレーザ光の強度分布は円形であるため、形成された穴の形状は、レーザ光が照射される側において、円形になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、レーザ光が照射される側の形状も四角形形状に近い穴を形成することができる偏光変換素子を提供するものである。
【0009】
本開示の偏光変換素子は、偏光変換素子の中心回りに4回の回転対称となるように区分された4つの第1領域を備えている。4つの第1領域の各々は、周方向に沿って区分された複数の第2領域を有している。複数の第2領域の各々は、楔形形状を有している。複数の第2領域の各々は、1/2波長板になっている。4つの第1領域に含まれる複数の第2領域の各々の進相軸の方向は、周方向に沿って、180°を4つの第1領域に含まれる複数の第2領域の合計数で除した値ずつ回転している。4つの第1領域の各々において、楔形形状の頂角の各々は、互いに異なる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の偏光変換素子によると、レーザ光が照射される側の形状も四角形形状に近い穴を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】偏光変換素子10の斜視図である。
図2】第1面10a側から見た偏光変換素子10の平面図である。
図3】第1面10a側から見た変形例に係る偏光変換素子10の平面図である。
図4】レーザ加工機100の模式図である。
図5】第1面10a側から見た偏光変換素子10Aの平面図である。
図6】X軸方向に沿う直線偏光のレーザ光Lが偏光変換素子10を通過した後の偏光方向の分布を示す模式図である。
図7A】偏光変換素子10Aを通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。
図7B】角度θ1及び角度θ2がそれぞれ50°及び40°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。
図7C】角度θ1及び角度θ2がそれぞれ60°及び30°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。
図7D】角度θ1及び角度θ2がそれぞれ70°及び20°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。
図7E】角度θ1及び角度θ2がそれぞれ80°及び10°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。
図8】第1穴開け加工後におけるワークWの電子顕微鏡像である。
図9】第2穴開け加工後におけるワークWの電子顕微鏡像である。
図10A】第1シミュレーションにおけるレーザ光Lが貫通する側から見たワークWの平面図である。
図10B】第2シミュレーションにおけるレーザ光Lが貫通する側から見たワークWの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)実施形態に係る偏光変換素子は、偏光変換素子の中心回りに4回の回転対称となるように区分された4つの第1領域を備えている。4つの第1領域の各々は、周方向に沿って区分された複数の第2領域を有している。複数の第2領域の各々は、楔形形状を有している。複数の第2領域の各々は、1/2波長板になっている。4つの第1領域に含まれる複数の第2領域の各々の進相軸の方向は、周方向に沿って、180°を4つの第1領域に含まれる複数の第2領域の合計数で除した値ずつ回転している。4つの第1領域の各々において、楔形形状の頂角の各々は、互いに異なる。
【0014】
上記(1)の偏光変換素子では、偏光変換素子を通過したレーザ光の強度分布が、四角形形状に近くなる。そのため、上記(1)の偏光変換素子によると、レーザ光照射側の形状も四角形形状に近い穴を形成することができる。
【0015】
(2)上記(1)の偏光変換素子において、複数の第2領域の数は、2つであってもよい。4つの第1領域の各々において、頂角の1つは、50°を超えて80°未満であってもよい。
【0016】
上記(2)の偏光変換素子によると、偏光変換素子を通過したレーザ光の強度分布が四角形形状にさらに近くなるため、レーザ光照射側の形状が四角形形状にさらに近くなる。
【0017】
(3)上記(1)又は上記(2)の偏光変換素子において、複数の第2領域の各々は、複屈折結晶により構成されていてもよい。
【0018】
(4)上記(1)又は上記(2)の偏光変換素子において、複数の第2領域の各々は、液晶素子又は構造複屈折素子により構成されていてもよい。
【0019】
(5)実施形態に係る光学系は、上記(1)から上記(4)のいずれかの偏光変換素子を備えている。
【0020】
(6)実施形態に係るレーザ加工機は、直線偏光のレーザ光を発生させるレーザ光源と、上記(1)から上記(4)のいずれかの偏光変換素子と、レーザ光をワーク上に集光させる集光レンズとを備えている。
【0021】
(7)上記(6)のレーザ加工機において、偏光変換素子と集光レンズとの間の距離は、集光レンズの焦点距離よりも小さくてもよい。
【0022】
上記(7)のレーザ加工機によると、隣り合う2つの第2領域の間の境界がワーク上の集光面に表れることを抑制できる。
【0023】
(8)上記(6)又は上記(7)のレーザ加工機において、レーザ光源は、パルス幅が10ピコ秒未満のレーザ光を発生させてもよい。
【0024】
(9)上記(6)から上記(9)のレーザ加工機において、レーザ光源は、TEM00モードのガウシアンビーム又は平面波ビームのレーザ光を発生させてもよい。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。ここでは、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0026】
(実施形態に係る偏光変換素子の構成)
以下に、実施形態に係る偏光変換素子(以下「偏光変換素子10」とする)の構成を説明する。
【0027】
図1は、偏光変換素子10の斜視図である。図1に示されるように、偏光変換素子10は、第1面10aと、第2面10bとを有している。第1面10aは、レーザ光が入射する側の面である。第2面10bは、第1面10aの反対面である。すなわち、第2面10bは、レーザ光が出射する側の面である。
【0028】
図2は、第1面10a側から見た偏光変換素子10の平面図である。図2に示されるように、偏光変換素子10は、平面視において、中心Cを有している。偏光変換素子10は、中心C回りに4回の回転対称となるように、領域11aと、領域11bと、領域11cと、領域11dとに区分されている。領域11a、領域11b、領域11c及び領域11dは、反時計回り方向に沿って、この順で並んでいる。
【0029】
領域11a、領域11b、領域11c及び領域11dの各々は、周方向(中心Cを中心とする円周に沿う方向)に沿って、領域12aと、領域12bとに区分されている。領域12a及び領域12bは、楔形形状を有している。領域12a及び領域12bは、反時計回り方向に沿って、この順で並んでいる。
【0030】
領域12aを構成している楔形形状の頂角を角度θ1とし、領域12bを構成している楔形形状の頂角を角度θ2とする。領域11a、領域11b、領域11c及び領域11dは中心C回りの4回の回転対称になっているため、角度θ1と角度θ2との和は、90°になっている。角度θ2は、角度θ1と異なっている(図2の例においては、角度θ2は、角度θ1よりも小さい)。角度θ2は、50°を超えて80°未満であることが好ましい。
【0031】
領域11aに含まれている領域12a及び領域12b、領域11bに含まれている領域12a及び領域12b、領域11cに含まれている領域12a及び領域12b並びに領域11dに含まれている領域12a及び領域12bは、1/2波長板により構成されている。この1/2波長板は、複屈折結晶(例えば、水晶)により形成されている。なお、「1/2波長板」には、1枚の1/2波長板を用いる場合のみならず、2枚の1/4波長板を重ねて用いる場合も含まれる。
【0032】
領域12aを構成している1/2波長板の進相軸及び領域12bを構成している1/2波長板の進相軸は、図2中において斜線で示されている。
【0033】
領域11aに含まれている領域12aの進相軸とX軸とがなす角度は、90°である。領域11aに含まれている領域12bの進相軸とX軸とがなす角度は、67.5°である。領域11bに含まれている領域12aの進相軸とX軸とがなす角度は、45°である。領域11bに含まれている領域12bの進相軸とX軸とがなす角度は、22.5°である。
【0034】
領域11cに含まれている領域12aの進相軸とX軸とがなす角度は、0°である。領域11cに含まれている領域12bの進相軸とX軸とがなす角度は、-22.5°である。領域11dに含まれている領域12aの進相軸とX軸とがなす角度は、-45°である。領域11dに含まれている領域12bの進相軸とX軸とがなす角度は、-67.5°である。
【0035】
すなわち、領域11a~領域11dに含まれている領域12a及び領域12bを構成している1/2波長板の進相軸の方向は、周方向に沿って、180°を領域11a~領域11dに含まれている領域12a及び領域12bの合計数で除した値(図2の例では、180°÷8=22.5°)ずつ回転している。
【0036】
<変形例>
上記においては、領域11a、領域11b、領域11c及び領域11dを2つの領域に区分する例を示したが、領域11a、領域11b、領域11c及び領域11dは、3つ以上の楔形形状を有する領域に区分されてもよい。この場合も、領域11a、領域11b、領域11c及び領域11dの各々に含まれる楔形形状の頂角の各々は、互いに異なっている。
【0037】
図3は、第1面10a側から見た変形例に係る偏光変換素子10の平面図である。図3に示されるように、領域12a及び領域12bを構成している1/2波長板は、構造複屈折素子であってもよい。この複屈折素子には、進相軸の方向に沿って複数の溝13が形成されている。隣り合う2つの溝13の間のピッチは、偏光変換素子10に入射するレーザ光Lの波長未満とされる。
【0038】
この構造複屈折素子は、例えば、石英ガラスにより形成される。また、溝13は、例えば、石英ガラス上に形成されたマスクを用いて当該石英ガラスをドライエッチングすることにより形成される。領域12a及び領域12bを構成している1/2波長板は、液晶素子であってもよい。
【0039】
(実施形態に係るレーザ加工機)
以下に、実施形態に係るレーザ加工機(以下「レーザ加工機100」とする)の構成を説明する。
【0040】
図4は、レーザ加工機100の模式図である。図4に示されるように、レーザ加工機100は、レーザ光源40と、光学系50とを有している。
【0041】
レーザ光源40は、直線偏光のレーザ光(以下「レーザ光L」とする)を発生させる。レーザ光源40は、例えば、半導体レーザである。より具体的には、レーザ光源40は、チタンサファイアレーザである。但し、レーザ光源40は、これに限られるものではない。
【0042】
レーザ光源40は、レーザ光Lをパルス発振させるように構成されている。レーザ光源40は、例えば、10ピコ秒未満のパルス幅のレーザ光Lを発生させるように構成されている。レーザ光源40は、例えば、TEM00モードのガウシアンビーム又は平面波ビームのレーザ光Lを発生させるように構成されている。
【0043】
光学系50は、偏光変換素子10と、アパーチャ板20と、集光レンズ30とを有している。アパーチャ板20には、アパーチャ板20を厚さ方向に貫通しているアパーチャ21が形成されている。
【0044】
偏光変換素子10、アパーチャ板20及び集光レンズ30は、レーザ光源40とワークWとの間に配置されている。アパーチャ板20は、偏光変換素子10よりもレーザ光源40の近くに配置されており、集光レンズ30は、偏光変換素子10よりもワークWの近くに配置されている。
【0045】
レーザ光源40において発生されたレーザ光Lは、アパーチャ21を通過することにより、所定のビーム径に絞られる。アパーチャ21を通過したレーザ光Lは、偏光変換素子10を通過することにより、偏光変換される。偏光変換素子10を通過したレーザ光Lは、ワークWにおいて集光され、ワークWに穴が形成される。なお、偏光変換素子10は、集光レンズ30とワークWとの間に配置されていてもよい。
【0046】
集光レンズ30の焦点距離を、焦点距離fとする。偏光変換素子10と集光レンズ30との間の距離を、距離DISとする。距離DISは、焦点距離fよりも小さいことが好ましい。
【0047】
(実施形態に係る偏光変換素子の効果)
以下に、偏光変換素子10の効果を、比較例に係る偏光変換素子(以下「偏光変換素子10A」とする)と対比しながら説明する。
【0048】
図5は、第1面10a側から見た偏光変換素子10Aの平面図である。図5に示されるように、偏光変換素子10Aは、角度θ1と角度θ2とが等しくなっている点を除き、偏光変換素子10の構成と共通している。
【0049】
図6は、X軸方向に沿う直線偏光のレーザ光Lが偏光変換素子10を通過した後の偏光方向の分布を示す模式図である。図6中の四角形は、加工しようとする穴の形状を示している。図6に示されるように、偏光変換素子10を通過したレーザ光は、加工しようとする穴の四角形形状の角部においてP偏光となり、加工しようとする穴の四角形形状の辺に沿う部分においてS偏光となる。
【0050】
これは、1/2波長板を通過したレーザ光Lにおいて、進相軸に直交する偏光成分と進相軸に平行な偏光成分との間に180°の位相差が生じるためである。すなわち、直線偏光のレーザ光Lの偏光方向と1/2波長板とが角度Φをなしている場合、レーザ光Lの偏光方向が、1/2波長板を通過することにより2Φだけ回転することになるからである。
【0051】
同様の直線偏光のレーザ光Lが偏光変換素子10Aを通過した後の偏光方向の分布も、図6と同様になる。P偏光は、S偏光よりもワークWにおける吸収率が高い。そのため、P偏光となっている部分においてワークWの加工が進みやすくなる一方でS変更となっている部分においてワークWの加工が進みにくくなる結果、偏光変換素子10を用いた場合のみならず、偏光変換素子10Aを用いた場合も、四角形形状の穴をワークWに形成することが可能である。
【0052】
図7Aは、偏光変換素子10Aを通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。図7A中における矢印は、偏光変換素子10Aを通過したレーザ光Lの偏光方向を示している。図7Aに示されるように、偏光変換素子10Aを通過したレーザ光Lの強度分布は、円形である。レーザ光LによるワークWの加工初期においては、ワークWの表面がレーザ光Lの照射方向と直交しているため、レーザ光Lの偏光がワークWの加工されやすさに影響しにくい。その結果、レーザ光Lが照射される側における穴の形状は、レーザ光Lの強度分布の影響を受け、円形になりやすい。
【0053】
図7Bは、角度θ1及び角度θ2がそれぞれ50°及び40°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。図7Cは、角度θ1及び角度θ2がそれぞれ60°及び30°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。図7B及び図7C中における矢印は、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの偏光方向を示している。
【0054】
図7B及び図7Cに示されるように、角度θ1が大きくなるにしたがって、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布は、四角形に近づいていく。このように、偏光変換素子10においては、角度θ1と角度θ2とを異ならせることにより、レーザ光Lの強度分布を四角形に近づく。その結果、偏光変換素子10を用いる場合、レーザ光Lが照射される側における穴の形状は、レーザ光Lの強度分布の影響を受け、四角形になりやすい。
【0055】
図7Dは、角度θ1及び角度θ2がそれぞれ70°及び20°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。図7Eは、角度θ1及び角度θ2がそれぞれ80°及び10°である場合の偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を示すシミュレーション結果である。図7D及び図7E中における矢印は、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの偏光方向を示している。
【0056】
図7Dに示されるように、角度θ1が70°である場合、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布は、四角形に近い形状を保っている。しかしながら、図7Eに示されるように、角度θ1が80°である場合、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布は、四角形の各辺が当該四角形の中心に向かって括れている。そのため、角度θ1が50°を超えて80°未満とすることにより、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布を四角形により近づけることができる。
【0057】
レーザ光Lの1パルスあたりのエネルギが大きくなると、レーザ光Lの偏光の違いによる影響が相対的に小さくなる。その結果、偏光変換素子10Aを用いる場合、レーザ光Lが貫通する側においても、穴の形状が、円形に近くなる。他方で、偏光変換素子10を用いる場合、強度分布が四角形形状に近くなるため、レーザ光Lの1パルスあたりのエネルギが大きくなっても、穴の形状を四角形に保ちやすくなる。
【0058】
なお、四角形形状の穴は、例えば、レーザ光を四角形形状に走査することにより(トレパニングにより)形成することができる。しかしながら、トレパニングにより集光回折限界に近い寸法の四角形形状の穴を形成することが困難である。他方で、偏光変換素子10を用いる場合、四角形形状に近いレーザ光Lの強度分布及びP偏光・S偏光の吸収率の違いにより四角形形状の穴を形成するため、集光回折限界に近い寸法の四角形形状の穴を形成することが可能である。
【0059】
<実験例>
偏光変換素子10の効果を確認するために、穴開け加工試験を行った。穴開け加工試験においては、条件の異なる第1穴開け加工及び第2穴開け加工が行われた。第1穴開け加工には偏光変換素子10Aが用いられ、第2穴開け加工には偏光変換素子10が用いられた。第1穴開け加工及び第2穴開け加工において、ワークWには、厚さが0.8mmのステンレス鋼板が用いられた。また、第1穴開け加工及び第2穴開け加工においては、波長が800nm、パルス幅が100nm、1パルスあたりのエネルギが65μJのレーザ光Lが、ワークWに対して16000パルス照射された。
【0060】
図8は、第1穴開け加工後におけるワークWの電子顕微鏡像である。図8に示されるように、第1穴開け加工が行われることにより、ワークWに形成される穴は、レーザ光Lが貫通する側において、四角形形状に近い形状を有している。しかしながら、第1穴開け加工によりワークWに形成される穴は、レーザ光Lが照射される側において、円形に近い形状を有している。
【0061】
図9は、第2穴開け加工後におけるワークWの電子顕微鏡像である。図9に示されるように、第2穴開け加工によりワークWに形成される穴は、レーザ光Lが貫通する側のみならず、レーザ光Lが照射される側においても、四角形に近い形状を保っていた。この比較から、偏光変換素子10を用いることにより、レーザ光Lが貫通する側のみならずレーザ光Lが照射される側においても、四角形に近い穴をワークWに形成可能であることが、実験的に明らかにされた。
【0062】
<シミュレーション例>
偏光変換素子10の効果を確認するために、穴開け加工のシミュレーションを行った。穴開け加工のシミュレーションにおいては、条件の異なる第1シミュレーション及び第2シミュレーションが行われた。第1シミュレーションには偏光変換素子10Aが用いられ、第2シミュレーションには偏光変換素子10が用いられた。第2シミュレーションに用いられた偏光変換素子10においては、角度θ1は60°とされた。第1シミュレーション及び第2シミュレーションにおいては、1パルスあたりのエネルギが15mJのレーザ光Lが用いられた。
【0063】
図10Aは、第1シミュレーションにおけるレーザ光Lが貫通する側から見たワークWの平面図である。図10Aに示されるように、第1シミュレーションにおいては、レーザ光Lが貫通する側及びレーザ光Lが照射される側の双方において、ワークWに形成される穴の形状は、円形に近くなっていた。
【0064】
図10Bは、第2シミュレーションにおけるレーザ光Lが貫通する側から見たワークWの平面図である。図10Bに示されるように、第2シミュレーションにおいては、レーザ光Lが貫通する側及びレーザ光Lが照射される側の双方において、ワークWに形成される穴は、四角形に近い形状を保っていた。
【0065】
この比較から、偏光変換素子10を用いることにより、レーザ光Lの1パルスあたりのエネルギが大きくなっても穴の形状を四角形に保ちやすくなることが、シミュレーション上においても示された。
【0066】
(実施形態に係るレーザ加工機の効果)
以下に、レーザ加工機100の効果を説明する。
【0067】
レーザ加工機100の光学系は、偏光変換素子10を有している。そのため、レーザ加工機100によると、レーザ光Lが貫通する側のみならずレーザ光Lが照射される側においても、四角形に近い穴をワークWに形成することが可能であるとともに、レーザ光Lの1パルスあたりのエネルギが大きくなっても、穴の形状を四角形に保ちやすい。
【0068】
レーザ加工機100において、距離DISが焦点距離fよりも小さい場合、隣り合う領域12a及び領域12bの間の境界がワークW上の集光面に表れることを抑制できる。パルス幅が10ピコ秒未満のレーザ光Lをレーザ光源40が発生させる場合、プラズマによる加工又は熱溶融による加工ではなくアブレーション加工が支配的となるため、ワークWに四角形形状に近い穴を形成しやすくなる。レーザ光源40がTEM00モードのガウシアンビーム又は平面波ビームのレーザ光Lを発生させる場合、偏光変換素子10を通過したレーザ光Lの強度分布をより四角形に近づけることができるため、ワークWに四角形形状に近い穴を形成しやすくなる。
【0069】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
10,10A 偏光変換素子
10a 第1面
10b 第2面
11a,11b,11c,11d 領域
12a,12b 領域
13 溝
20 アパーチャ板
21 アパーチャ
30 集光レンズ
40 レーザ光源
50 光学系
100 レーザ加工機
C 中心
DIS 距離
L レーザ光
W ワーク
f 焦点距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10A
図10B