(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036820
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】共重合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08F 220/34 20060101AFI20220301BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20220301BHJP
C09D 133/06 20060101ALI20220301BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20220301BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20220301BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20220301BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20220301BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08F220/34
C08F220/12
C09D133/06
C09D133/14
C09D133/04
A61L15/24 100
A61L27/16
A61L31/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141213
(22)【出願日】2020-08-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彦
(72)【発明者】
【氏名】深澤 今日子
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
(72)【発明者】
【氏名】小林 滉
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
【テーマコード(参考)】
4C081
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081AB11
4C081AB23
4C081AB31
4C081CA082
4C081CC01
4J038CG141
4J038CH191
4J038CH201
4J038CH221
4J038MA07
4J038MA08
4J038NA02
4J038PA17
4J038PB01
4J038PC08
4J100AL02R
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BA32P
4J100BA34Q
4J100BA44Q
4J100BA63P
4J100BC43Q
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA71
4J100FA03
4J100FA19
4J100GC35
4J100HA53
4J100HE22
4J100JA01
4J100JA50
(57)【要約】
【課題】新規な共重合体及び該共重合体より形成される架橋体を提供することである。
【解決手段】ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位、光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を特定比率で含有する共重合体により、本発明を完成するに至った。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)、(b)及び式(c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、b及びcが、
a/(a+b+c)=0.30~0.98、
b/(a+b+c)=0.01~0.25、
c/(a+b+c)=0.01~0.69
であり、重量平均分子量が5,000~1,000,000である共重合体。
【化1】
(式中R
1は、メチル基又は水素原子を示す。)
【化2】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、nは1~11の整数を示す。)
【化3】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、mは3~17の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体を含む表面処理剤。
【請求項3】
請求項1に記載の共重合体又は請求項2に記載の表面処理剤を、基材表面にコーティングした後、該コーティング後の基材表面に光照射して、基材表面に架橋体を形成することを特徴とする架橋体の形成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の架橋体の形成方法により得られた架橋体。
【請求項5】
請求項4に記載の架橋体を含む医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホリルコリン基含有重合体は、血液適合性に代表される優れた生体適合性を有する。そのため、ホスホリルコリン基含有重合体は、生体適合性に乏しい基材表面に当該重合体の被膜を形成させることで、該基材表面を生体適合性表面に改質することができ、人工心臓、人工肺、人工血管、コンタクトレンズ等の各種医療機器の表面処理剤として利用されている(非特許文献1)。
【0003】
ホスホリルコリン基含有重合体を使用する場合の多くは、生体適合性を付与すべき基材表面に対して物理吸着あるいは化学結合にて基材表面に処理することで、該基材表面にホスホリルコリン基含有重合体からなる含水被膜ゲルを形成させている。ホスホリルコリン基含有重合体を基材表面に物理吸着させるには、ホスホリルコリン基含有重合体に疎水基を有する単量体を導入して基材表面に物理吸着させる方法やイオン性基を導入してイオン結合させる方法が挙げられる。
【0004】
しかしこれらの方法は、重合体の構造の一部を別の官能基で置き換える必要があり、ホスホリルコリン基の機能を十分に発揮できない。さらには基材との親和性が不十分であれば耐久性が不十分となりはがれてしまうこととなる。一方、化学結合性基を導入したホスホリルコリン基含有重合体は基材表面と化学結合するため、少ない官能基の導入で基材と結合し、比較的耐久性の高い被膜を形成することができる(特許文献1)。しかし、基材表面に官能基があることが必須要件となる。さらには、化学結合時の未反応官能基を後処理で不活性化する工程についても必要であり実用上の多くの課題を有している。
【0005】
そこで、光反応性基としてアジド系感光性基を有するホスホリルコリン基含有重合体が提案されている(特許文献2~6及び非特許文献2)。この重合体は、基材の選択において化学結合性官能基がなくても基材表面に結合することができ、且つ被膜形成性にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許6090901号明細書
【特許文献2】特許第5597814号公報
【特許文献3】特許第5598891号公報
【特許文献4】特許第6413492号公報
【特許文献5】国際公開第2017/047680号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2018/003821号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石原一彦,MMJ the Mainichi medicaljournal誌,「医療の森:明日への展望(2):医療用新素材『MPCポリマー』」,2010年,第6巻,第2号,p.68-70
【非特許文献2】J.-H. Seo, K. Ishihara, RSC Adv., 2017, 7, 40669-406672.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、医療材料用途に用いられるに十分な生体適合性を有する共重合体と該共重合体を用いて基材表面を生体適合性に改変する架橋体形成方法を提供することにあり、詳しくは、基材表面にホスホリルコリン基の特長である蛋白質吸着抑制効果と細胞接着抑制効果を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位、光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を特定比率で含有する共重合体が、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.下記式(a)、(b)及び式(c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、b及びcが、
a/(a+b+c)=0.30~0.98、
b/(a+b+c)=0.01~0.25、
c/(a+b+c)=0.01~0.69
であり、重量平均分子量が5,000~1,000,000である共重合体。
【化1】
(式中R
1は、メチル基又は水素原子を示す。)
【化2】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、nは1~11の整数を示す。)
【化3】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、mは3~17の整数を示す。)
2.前項1に記載の共重合体を含む表面処理剤。
3.前項1に記載の共重合体又は前項2に記載の表面処理剤を、基材表面にコーティングした後、該コーティング後の基材表面に光照射して、基材表面に架橋体を形成することを特徴とする架橋体の形成方法。
4.前項3に記載の架橋体の形成方法により得られた架橋体。
5.前項4に記載の架橋体を含む医療用具。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の共重合体を基材にコーティングし、さらに該基材に光照射を行うことで、該基材を生体適合性に改変することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
(本発明の共重合体)
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位{参照:式(a)}、光反応性基含有単量体に基づく構成単位{参照:式(b)}及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位{参照:式(c)}を共重合体構造中に含む。
詳しくは、下記式(a)~(c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、b及びcが、以下である。
すなわち対応する単量体のモル比率をそれぞれa、b及びcで表すと、a、b及びcの比は、任意に調整可能であるが、a/(a+b+c)=0.30~0.98、好ましくは0.30~0.80、b/(a+b+c)=0.01~0.25、好ましくは0.01~0.20、c/(a+b+c)=0.01~0.69、好ましくは0.01~0.65を満たすものである。
別の記載方法として、a:b:cが100:1~84:1~230を満たすものである。
本発明の共重合体の分子量は、通常、重量平均分子量5,000~1,000,000程度であるが特に限定されず、各用途に要求される性能が発揮しうるように重合条件等を調整して適宜決定することができる。
【化4】
(式中R
1は、メチル基又は水素原子を示す。)
【化5】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、nは1~11の整数を示す。)
【化6】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、mは3~17の整数を示す。)
【0013】
a、b及びcは、当該構成単位の比率を表しているのみであって、本発明の共重合体が式(a)で表されるブロックと、式(b)で表されるブロックと、式(c)で表されるブロックからなる、ブロック共重合体のみを意味するものではない。本発明の共重合体は、式(a)と式(b)と式(c)の単量体がランダムに共重合されたランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、あるいは、ランダム部とブロック部が混在する共重合体であってもよい。また、本発明の共重合体は、交互共重合体部が存在してもよい。
【0014】
(ホスホリルコリン基含有単量体)
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位{参照:式(a)}を共重合体構造中に含む。ホスホリルコリン基は、共重合体構造中、生体膜の主成分であるリン脂質と同様の構造を有する極性基である。ホスホリルコリン基を共重合体中に導入することで、蛋白質吸着抑制、細胞接着抑制、抗血栓性、親水性などの生体適合性を共重合体に付与することができる。
ホスホリルコリン基含有単量体は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2'-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートである。
【化7】
(式中R
1は、メチル基又は水素原子を示す。)
【0015】
(光反応性基含有単量体)
本発明の共重合体は、光反応性基含有単量体に基づく構成単位{参照:式(b)}を共重合体構造中に含む。光反応性アジド基は、光照射により反応性に富むニトレンを生成し、基材あるいは共重合体から水素原子を引き抜くことで結合し得るものである。
光反応性基含有単量体としては、光反応性アジド基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。光反応性アジド基含有(メタ)アクリレートに基づく構成単位は下記式(b)で示される。
【化8】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、nは1~11の整数を示す。)
【0016】
(疎水性基含有単量体)
本発明の共重合体は、疎水性基含有単量体に基づく構成単位{参照:式(c)}を共重合体構造中に含む。疎水性基含有単量体は、疎水性基材表面への物理吸着により、共重合体の塗布性を向上させることができる。また、疎水性基は光反応性アジド基と反応することで、基材表面に三次元架橋体を形成し、共重合体被膜の耐久性を向上させることができる。
該疎水性基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の疎水性置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられるが、特に限定されない。
疎水性基含有単量体に基づく構成単位の有するアルキル基は、炭素数4~18であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであっても良いが、好ましくは炭素数4~18の直鎖飽和アルキル基である。直鎖飽和アルキル基としてはブチル基又はステアリル基が特に好ましい。
【化9】
(式中R
1はメチル基又は水素原子、mは3~17の整数を示す。)
【0017】
本発明の共重合体のホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位、光反応性基含有単量体に基づく構成単位、及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位の好ましい組合せは、以下の通りであるが、特に限定されない(左がホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位、中央が光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び右が疎水性基含有単量体に基づく構成単位を示す)。
MPC-AzMA-メタクリル酸ブチル
MPC-AzMA-メタクリル酸ステアリル
【0018】
上記重合体を生成するための重合反応は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスで反応系内を置換して、又は当該雰囲気において、ラジカル重合、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。精製等の観点からは、溶液重合が好ましい。この重合反応により、上記共重合体が得られる。
【0019】
上記重合反応に用いることができるラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機過酸化物、過硫酸化物が挙げられる。
【0020】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-アミノプロピル)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、1-((1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ)ホルムアミド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミヂン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス(2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル)等が挙げられる。
【0021】
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、コハク酸ペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)、グルタルペルオキシド、サクシニルペルオキシグルタレート、t-ブチルペルオキシマレート、t-ブチルペルオキシピバレート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシカーボネート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
【0022】
過硫酸化物としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
上記ラジカル重合開始剤は、単独で用いても混合物で用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量部に対して通常0.001~10質量部、好ましくは0.003~5.0質量部である。
【0024】
上記単量体組成物の重合反応は、溶媒の存在下で行うことができる。該溶媒としては、単量体組成物を溶解し、単量体組成物と重合開始剤添加前に反応しないものが使用できる。例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、含窒素系溶媒が挙げられる。アルコール系溶媒としてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等、ケトン系溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等、エステル系溶媒としては酢酸エチル等、エーテル系溶媒としてはエチルセロソルブ、テトラヒドロフラン等、含窒素系溶媒としてはアセトニトリル、ニトロメタン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。好ましくは、水、アルコール又はそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0025】
上記重合反応において、反応時の溶液濃度は、1質量%~50質量%とすることができる。当該溶液濃度は、反応物である単量体組成物の濃度と、生成物である重合体の濃度との両方を含む。当該溶液濃度を1質量%以上とすることにより、製造効率を向上させることができる。また、当該溶液濃度を50質量%以下とすることにより、反応液の高粘度化を防ぐことができる。
重合反応時の温度は、使用する重合開始剤や溶媒の種類によって、また所望の分子量によって適宜適した温度を選択すればよいが、40~100℃の範囲が好ましい。
【0026】
上記重合反応により得られる重合体の精製には、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の一般的な精製方法を用いることができる。
【0027】
(本発明の表面処理剤)
本発明の表面処理剤に含有する本発明の共重合体の配合量は、当該共重合体を表面処理剤全体に対して、0.001wt%~5wt%、好ましくは0.01wt%~5wt%、より好ましくは0.1wt%~5.0wt%である。配合量が0.001wt%未満であると、生体適合性付与効果が得られない恐れがあり、配合量が5.0wt%以上であっても、添加量に見合った効果が得られない。
本発明の表面処理剤は、本発明の共重合体を含有し、本発明の共重合体が溶解可能な適当な溶媒、例えば、水、生理食塩水、各種緩衝液(リン酸緩衝液や炭酸緩衝液など)、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、若しくはこれらを混合したものを含んでいてもよい。
【0028】
(架橋体の形成方法)
本発明の架橋体の形成方法としては、本発明の表面処理剤を基材表面にコーティングした後、該コーティングした後の基材表面に光照射して、基材表面に架橋体を形成させる。
本発明の表面処理剤のコーティングは、本発明の共重合体を溶解した溶媒(本発明の表面処理剤)を、目的の基材上に塗布すればよい。好ましくは共重合体を0.01mg/cm2(基板表面当り)以上存在させるのがよい。架橋体を基材表面上に形成させるため、共重合体が塗布された基材に200nmから360nmの紫外光を照射すればよい。さらに好ましくは、約254nmの光を照射するのがよい。
【0029】
(本発明の架橋体)
本発明の対象の架橋体は、本発明の架橋体の形成方法により得られる、又は、本発明の共重合体若しくは本発明の表面処理剤に光照射して得られる。
本発明の共重合体から形成された架橋体は、高分子鎖間が架橋された三次元網目構造を有し、生体適合性、親水性、含水性、構造柔軟性、物質吸収性等に優れており、特に生体適合性に優れる。したがって、本発明の架橋体を基材表面に形成させることにより、生体適合性を該基材に付与することができる。一般的に、ホスホリルコリン基が示す生体適合性は血液適合性であり、これは基材表面に蛋白質や細胞が吸着・接着しないことを特長としている。そして、これらの性質を利用することで、架橋体の薬物の徐放担体や細胞の足場、表面修飾材料や、止血剤等の創傷治癒促進剤などの医療用具に好適に用いることができる。
【0030】
(本発明の基材)
本発明の基材は、医療用具又は医療用具の材料とすることができる。本発明で用いられる基材としては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、ポリエステル、ポリウレタンなどの各種プラスチック素材を例示できる。
【0031】
(本発明の医療用具)
本発明の医療用具は、本発明の架橋体を含む医療用具とすることができる。本発明の架橋体を含む医療用具は、例えば本発明の架橋体を医療用具の表面上に形成させることにより得られる。
本発明の医療用具の形状は、その使用目的に応じた形状を有する。例えば、板状、チューブ状、シャーレ形状、多数の穴を持つ形状、精密な流路が形成された形状といった形状を持つ。
本発明の医療用具の具体例としては、例えば、コンタクトレンズ、人工臓器、移植細胞の足場として機能する基材、創傷部被覆剤、創傷治癒促進剤、止血剤、薬物除放材、表面修飾材料、止血剤等、イムノクロマト、ELISAなどの診断薬用基材、シャーレ、マイクロプレート、フラスコ、バッグなどの細胞培養用基材、マイクロ流路、セル等を例示することができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、合成例中の各種測定は以下に示す方法に従って実施した。
【0033】
<NMR分析>
測定装置:ECS-400(日本電子(株)製)
溶媒:重メタノール
試料濃度:30(mg/mL)
測定温度:50℃
積算回数:32回(1H NMR)
緩和時間:15秒
【0034】
<重量平均分子量の測定>
得られた共重合体5mgを、イオン交換水1gに溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により重量平均分子量を測定した。測定条件は以下のとおりである。
装置:HLC-8320 GPC(東ソー(株)製)
カラム:Shodex OHpak SB-802.5HQ、OHPak SB-806M HQ、直列2本つなぎ(昭和電工(株)製)
移動相:20mM リン酸緩衝液
標準物質:ポリエチレングリコール
検出:視差屈折率計
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
試料溶液注入量:100μL
測定時間:60分
【0035】
1.共重合体の合成
〔実施例1の共重合体の合成〕
2-メタクリロイルオキシエチル-2-トリメチルアンモニオエチルホスフェート(MPC) 18.11 g(0.061 mol)、2-(4-アジドベンズアミド)エチルメタクリレート(AzMA) 2.99 g(0.010 mol)、ブチルメタクリレート(BMA) 18.90 g(0.133 mol)をエタノール 158.54 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4ツ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、55℃で2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の10wt%EtOH溶液1.47 g(0.89 mmol)を加えて、7時間重合反応後、75℃に昇温し、さらに2.5時間反応させ共重合体を得た。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製を行った。得られた共重合体について、1H NMR、IR、重量平均分子量の測定を行った。重量平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0036】
<実施例1の共重合体の合成確認>
(1H NMR):0.70-1.60ppm(-CH2-C(CH
3
)、-C(O)-O-CH2-CH2-CH2-CH
3
)、1.60-2.70ppm(-CH
2
-C(CH3)、-C(O)-O-CH2-CH
2
-CH
2
-CH3)、3.30-3.80ppm(-N+
(CH
3
)
3
)、3.90-4.10ppm(-CH
2
-N+(CH3)3)、4.20-5.00ppm(-C(O)-O-CH
2
-CH2-、O-CH
2
-CH
2
-O-P-、-P-O-CH
2
)、7.00-7.90ppm(-C(O)-ArH)、8.00-8.60ppm(-C(O)-ArH)
(IR):2956cm-1(-CH)、2125cm-1(-N
3
)、1725cm-1(C=O)、1485cm-1(-CH)、1245cm-1(P=O)、1088cm-1(-OPOCH2)、967cm-1(-N+(CH3)3)
【0037】
〔実施例2~5の共重合体の合成〕
MPC、AzMA、BMAの仕込み組成を表1に示すように設定し、実施例1と同様の手順で合成した。重量平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0038】
〔実施例6の共重合体の合成〕
実施例1におけるBMAをメタクリル酸ステアリル(SMA)に変更した以外、実施例1と同様の手順で合成した。重量平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0039】
〔比較例1の共重合体の合成〕
MPC 40.00 g(0.136 mol)をEtOH 155.11 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液 4.90 g(2.98mmol)を加えて、6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなる共重合体が得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られた共重合体について、重量平均分子量の測定を行った。重量平均分子量の測定結果を表2に示す。
【0040】
〔比較例2の共重合体の合成〕
MPC 35.94 g(0.122mol)及びBMA 4.06 g(0.0286 mol)をEtOH155.11gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液 4.90 g(2.98 mmol)を加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなる共重合体が得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られた共重合体について、重量平均分子量の測定を行った。重量平均分子量の測定結果を表2に示す。
【0041】
〔比較例3の共重合体の合成〕
MPC 18.20 g(0.0616 mol)、アミノエチルメタクリレート(AEMA) 1.20 g(7.25 mmol)をイオン交換水80.00 gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、60℃で2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V-50) 0.15 g(0.550 mmol)を加えて8時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなる共重合体が得られた。反応終了後、透析精製した。得られた共重合体について、重量平均分子量の測定を行った。重量平均分子量の測定結果を表2に示す。
【0042】
2.共重合体の評価
上記の本発明の共重合体及び本発明以外の共重合体について、次の方法にて評価を行った。結果は、実施例は表1に、比較例は表2に示す。
【0043】
〔蛋白質吸着率の評価〕
各共重合体をエタノールに0.5wt%となるように溶解し、ポリスチレン製96ウェルプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にウェル底面に対して、所定の共重合体量c(単位:mg/cm2)となるように共重合体被膜を形成させた後に、DNA-FIX((株)アトー科学機器製)を用いて254nmの光を7分間照射した。光照射後、エタノールを200μL/well加え、室温にて4時間静置した。その後、エタノールを除去し、新たなエタノールを200μL/well加え、除去するという洗浄工程を3回行った。エタノールによる洗浄後、リン酸緩衝液で24000倍希釈した西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ標識IgG(BioRad社製)を100μL/well加え、室温にて1時間静置した。1時間後、ウェル内のHRP標識IgG溶液を除去し、0.05%Tween20の入ったリン酸緩衝液を200μL/well加え、除去する洗浄工程を4回繰り返した。洗浄後に、ペルオキシダーゼ用発色液(KPL社製)を100μL/well加え、室温にて10分間反応させた。10分後に2N硫酸を50μL/well加えることで反応を停止させ、マイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定することでウェル内に吸着したペルオキシダーゼ(蛋白質)を検出した。
蛋白質吸着率は、ウェル底面の共重合体量c=0.6、0.24、0.36mg/cm2の3水準にて評価を行った。共重合体皮膜のないウェル(比較例4)の吸光度を蛋白質吸着率100%として、各実施例及び比較例についての蛋白質吸着率を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0044】
〔細胞接着率の評価〕
各共重合体をエタノールに0.5wt%となるように溶解し、ポリスチレン製の24ウェルプレート(Nunc社製)のウェル底面に対して、所定の共重合体量c(単位:mg/cm2)となるように共重合体被膜を形成させた後に、DNA-FIX((株)アトー科学機器製)を用いて254nmの光を7分間照射した。光照射後、エタノールを400μL/well加え、室温にて15時間静置した。その後、エタノールを除去し、新しいエタノールを400μL/well加え、除去するという洗浄工程を3回行った。その後、クリーンベンチ内にて、滅菌済みのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(以下D-PBSとする)を400μL/wellを加え、除去するという洗浄工程を3回行った。
10%仔ウシ血清とペニシリン‐ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(以下3T3用培地とする)にて培養した繊維芽細胞(NIH3T3細胞)を10000cells/well(400μL/well)播種し、37℃のCO2インキュベーター内で3日間培養した。3日後、上清を除去し、D-PBSを400μL/well加え、除去するという洗浄工程を2回行った。洗浄後、WST-8(キシダ化学製)と3T3用培地を1対9で混合したものを400μL/well加え、37℃のCO2インキュベーター内で3時間培養した。3時間後に上清150μLをポリスチレン製の平底96ウェルプレート(Nunc社製)に回収し、マイクロプレートリーダーにて570nmの吸光度を測定することによりウェル底面に接着している細胞を検出した。
コントロールとして、共重合体のエタノール溶液の代わりに、水を用いて、上記と同様の操作を行った(比較例4)。
細胞接着率は、ウェル底面の共重合体量c=0.01、0.10、0.25、0.50mg/cm2の4水準にて評価を行った。共重合体被膜のないウェル(比較例4)の吸光度を細胞接着率100%として、各実施例及び比較例についての細胞接着率を算出した。
【0045】
【0046】
【0047】
表1、2の蛋白質吸着率の結果から明らかなように、実施例1~6の共重合体の被膜を基材表面に形成させ、光を照射することにより、蛋白質(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ標識IgG)の吸着を抑制する基材表面を形成できたことを確認した。
一方、比較例1(ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位のみを有し、光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位を有しない共重合体)、比較例2(ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位を有するが、光反応性基含有単量体に基づく構成単位を有しない共重合体)及び比較例3(ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位及びアミノ基のある構成単位を有するが、光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位を有しない共重合体)においては、基材表面に共重合体架橋体が形成されないために、ポリマー層が剥離し、結果として蛋白質が吸着してしまう結果となった。
以上の結果より、本発明の共重合体は、基材表面への塗布と光照射により、基材表面に生体適合性(蛋白質が吸着できない性能)を付与できることを確認した。
表1、2の細胞接着率の結果から明らかなように、実施例1~6の共重合体の被膜を基材表面に形成させ、光を照射することにより、繊維芽細胞の接着を抑制する基材表面を形成できたことを確認した。
一方、比較例1(ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位のみを有し、光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位を有しない共重合体)、比較例2(ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位を有するが、光反応性基含有単量体に基づく構成単位を有しない共重合体)及び比較例3(ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位及びアミノ基のある構成単位を有するが、光反応性基含有単量体に基づく構成単位及び疎水性基含有単量体に基づく構成単位を有しない共重合体)においては、基材表面に共重合体架橋体が形成されないために、ポリマー層が剥離し、結果として基材に繊維芽細胞が接着してしまう結果となった。
以上の結果より、本発明の共重合体は、基材表面への塗布と光照射により、基材表面に生体適合性(細胞が吸着できない性能)を付与できることを確認した。
【0048】
以上の結果より、本発明の架橋体は、蛋白質、細胞等が接着しないことを確認した。これにより本発明の共重合体を含む医療用具は、高い生体適合性を有する。