(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036853
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】マイクロカプセルの製造方法
(51)【国際特許分類】
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【FI】
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A61K8/11
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A61K8/44
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A61P31/04
A23L5/00 C
B01J13/08
A61K8/34
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141277
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】三島 健司
(72)【発明者】
【氏名】徳永 真一
(72)【発明者】
【氏名】小野 堅登
【テーマコード(参考)】
4B035
4C076
4C083
4C084
4C086
4C206
4G005
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE07
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(57)【要約】
【課題】 人体に有害な有機溶媒や界面活性剤の使用を必須とすることなく、例えば常温かつ常圧下で簡便に製造することができるマイクロカプセルの製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のマイクロカプセルの製造方法は、アルコール可溶性高分子およびアルコールを含む第1の流動性混合物と、晶析促進剤およびアルコールを含む第2の流動性混合物とを混合して撹拌する工程を含む。この晶析促進剤は、タンパク質、アミノ酸、およびそれらの類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。本発明によれば、人体に有害な有機溶媒や界面活性剤を用いることなく、マイクロカプセルを効率的に製造することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロカプセルの製造方法であって、
アルコール可溶性高分子およびアルコールを含む第1の流動性混合物と、晶析促進剤および該アルコールを含む第2の流動性混合物とを混合して撹拌する工程を含み、
該晶析促進剤が、タンパク質、アミノ酸、およびそれらの類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、方法。
【請求項2】
前記アルコールが一価アルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一価アルコールがエタノールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルコール可溶性高分子が生分解性ポリマーである、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第1の流動性混合物が第1のコア化合物を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第2の流動性混合物が第2のコア化合物を含有する、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記撹拌工程がスタティックミキサーを用いて行われる、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内包する目的物質の保護や機能性の付与などを目的とした、マイクロカプセル化技術が注目されている。従来のマイクロカプセルの製造方法は、主に物理的手法、物理化学的手法、および化学的手法の3つに分類される。
【0003】
物理的手法は、温度、圧力、撹拌速度などの物理的条件を操作することにより、マイクロカプセルを製造する方法である。例えば、パンコーティング法、流動造粒法、セントリフューガル・エクストラクション(Centrifugal Extruction)法、振動ノズル法、スプレードライ法が知られている。物理的手法の多くは有機溶媒を使用せずにマイクロカプセルを製造できる点で有用である。しかし、操作条件によっては内包する目的物質が操作に適さないことがある。
【0004】
物理化学的手法は、二液混合した際の凝固、析出などのように、化学反応以外の経路でカプセル壁を形成する方法である。例えば、イオンゲル化法、コアセルベーション法が知られている。物理化学的手法は、上記物理手法と比較して物理的な操作条件が穏やかである。しかし、その手法には有害な有機溶媒を必要とする場合がある。
【0005】
化学的手法は、重合、重縮合などの化学反応を利用してカプセル壁を形成し、マイクロカプセルを製造する方法である。例えば、界面重合法、界面重縮合法、インサイチュ(In situ)重合法、懸濁重合法が知られている。化学的手法はカプセル壁の膜厚の制御が容易であるなど、高品質なマイクロカプセルの製造が可能である。しかし、この手法もまた有害な界面活性剤や有機溶媒を必要とする場合がある。
【0006】
ここで、マイクロカプセルを、例えば医薬品、化粧品、または食品などの分野で使用する場合、その製造工程には、人体に有害な有機溶媒または材料の使用を含まない方法の確立が重要である。また、従来のマイクロカプセルの製造条件(例えば、温度、圧力、pHなど)によって、内包する目的物質(コア化合物)が変質する場合もあり、内包する目的物質の種類に依存することのないマイクロカプセル化技術の確立が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とし、その目的とするところは、人体に有害な有機溶媒や界面活性剤の使用を必須とすることなく、例えば常温かつ常圧下で簡便に製造することができるマイクロカプセルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マイクロカプセルの製造方法であって、
アルコール可溶性高分子およびアルコールを含む第1の流動性混合物と、晶析促進剤および該アルコールを含む第2の流動性混合物とを併せて撹拌する工程を含み、
該晶析促進剤が、タンパク質、アミノ酸、およびそれらの類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、方法である。
【0009】
1つの実施形態では、上記アルコールは一価アルコールである。
【0010】
さらなる実施形態では、上記一価アルコールはエタノールである。
【0011】
1つの実施形態では、上記アルコール可溶性高分子は生分解性ポリマーである。
【0012】
1つの実施形態では、上記第1の流動性混合物は第1のコア化合物を含有する。
【0013】
1つの実施形態では、上記第2の流動性混合物は第2のコア化合物を含有する。
【0014】
1つの実施形態では、上記撹拌工程はスタティックミキサーを用いて行われる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、人体に有害な有機溶媒や界面活性剤を用いることなく、マイクロカプセルを効率的に製造することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、製造条件を常温かつ常圧下で行うことができる。これにより、マイクロカプセルによって内包するコア化合物の種類が限定されず、広範な種類のコア化合物を内包することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のマイクロカプセルの製造方法を用いることができる当該マイクロカプセルの製造装置の一例を示す模式図である。
【
図2】(a)は、実施例1で使用したブロモ化銅フタロシアニン粒子(原末)を水に配置した際の状態を示す写真であり、(b)は実施例1で得られたマイクロカプセル(E1)を水に配置した際の状態を示す写真である。
【
図3】(a)は、実施例1で使用したブロモ化銅フタロシアニン粒子(原末)のレーザー顕微鏡写真であり、(b)は当該ブロモ化銅フタロシアニン粒子(原末)の粒度分布を示すグラフである。
【
図4】(a)は、実施例1で得られたマイクロカプセル(E1)のレーザー顕微鏡写真であり、(b)は当該マイクロカプセル(E1)の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(マイクロカプセルの製造方法)
本発明のマイクロカプセルの製造方法では、第1の流動性混合物と第2の流動性混合物とを併せて撹拌される。
【0018】
本明細書中に用いられる用語「流動性混合物」は、2つまたはそれ以上の成分から構成される液状または流動性を有する形態の混合物を指して言い、例えば、溶液、スラリー、およびそれらの組み合わせを包含する。
【0019】
本発明において、第1の流動性混合物はアルコール可溶性高分子およびアルコールを含有する。
【0020】
アルコール可溶性高分子は、後述するアルコールまたは当該アルコールの水溶液に対し、好ましくは常温(例えば25℃)で溶解し得る高分子である。アルコール可溶性高分子は、アルコールまたはアルコール水溶液の少なくとも一方に対して溶解するものであればよい。アルコール可溶性高分子は、マイクロカプセルの被膜を形成し得る材料であり、例えば生分解性ポリマーおよび合成樹脂、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
生分解性ポリマーは、生体内または微生物によって分解し得る高分子であり、具体的な例としては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、デンプン、コラーゲン、およびセルロース誘導体(例えば、セルロース、アセチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、寒天、ならびにそれらのカルボン酸エステル、ナトリウム塩およびカリウム塩)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
合成樹脂には、例えばアルコール可溶性の熱可塑性樹脂(有機系高分子)が挙げられる。合成樹脂の具体的な例としては、アクリル-スチレン共重合体、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、アクリルポリマーおよびポリ塩化ビニル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
第1の流動性混合物に含まれるアルコール可溶性高分子の含有量は、当該第1の流動性混合物を構成する溶媒(後述のアルコールまたはアルコール水溶液)の容量を基準として、好ましくは1w/v%~10w/v%、より好ましくは2w/v%~6w/v%である。アルコール可溶性高分子の含有量が1w/v%を下回ると、マイクロカプセルを構成する被膜として量が少なすぎるため、所望の被膜を有するマイクロカプセルを効率良く得ることができないことがある。アルコール可溶性高分子の含有量が10w/v%を上回ると、上記溶媒に対してアルコール可溶性高分子が十分に溶解できず、マイクロカプセルの生産性を低下させることがある。
【0024】
第1の流動性混合物に含まれるアルコールは、上記アルコール可溶性高分子を溶質とする溶媒として機能し得る。アルコールは、上記アルコール可溶性高分子を溶解し得るものであれば必ずしも限定されないが、好ましくは一価アルコールである。一価アルコールの例としては、メタノール、エタノール、および2-プロパノール、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。得られるマイクロカプセルを、医薬品、化粧品、または食品などのヒトに対して投与、付与、摂取等する製品に利用可能にすることを考慮すると、アルコールは、人体に対してより安全なエタノールであることが好ましい。また、アルコールはアルコール水溶液の形態を有していてもよい。アルコール水溶液の場合、当該水溶液に含まれる水としては、超純水、純水、蒸留水、イオン交換水、RO水、および水道水が挙げられる。アルコール水溶液を使用する場合のアルコール濃度は、上記アルコール可溶性高分子の溶解を損なわない範囲の濃度が当業者によって適宜選択され得る。
【0025】
第1の流動性混合物はまた、上記アルコール可溶性高分子およびアルコールまたはアルコール水溶液以外に、第1のコア化合物を含有していてもよい。第1のコア化合物は、本発明の方法によって製造されるマイクロカプセルの被膜によって包囲される化合物であり、マイクロカプセルに対して種々の性能、薬効等を付与し得るものである。第1のコア化合物は、上記アルコールまたはアルコール水溶液に可溶性または不溶性のいずれのものであってもよい。このような第1のコア化合物の例としては、フタロシアニン、レボフロキサシン、シクロデキストリン、シクロスポリン、カルバマゼピン、フェニトイン、ヒアルロン酸、キサンタンガム、ゼラチン、アスパラギン酸、アルギニン、ポリエチレングリコール、イブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリン、無水カフェイン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフンヒドラミン、クロモグリク酸ナトリウム、ロラタジン、L-システイン、アスコルビン酸などの種々の薬効を有する薬学化合物;植物ホルモン、動物ホルモン、合成ホルモン類似体、酵素、ビタミン類、ミネラル類などの生理活性物質;顔料、染料などの色材;抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、大殿防止材、安定化剤、甘味料、保存料、漂白剤、香料、乳化剤、膨張剤、栄養強化剤、滑沢剤、還元剤、吸着剤、矯味剤、充填剤、清涼化剤、接着剤、増強剤、軟化剤、乳化剤、pH調整剤、賦形剤、防腐剤、防湿剤、保存料、崩壊剤、流動化剤などの機能性付与剤;銅粒子、亜鉛粒子、鉄粒子、銀粒子などの金属粒子;シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子などの無機粒子;サラダ油、大豆油、ゴマ油、カカオバター、ラードなどの油脂類;ポリスチレン粒子、ラテックス粒子、PLGAナノ粒子などの高分子粒子;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。第1の流動性混合物に含まれる第1のコア化合物の含有量は、使用する第1のコア化合物の種類、所望される性能や薬効の程度等によって変動するため特に限定されず、当業者によって適切な含有量が選択され得る。
【0026】
第1の流動性混合物はまた、得られるマイクロカプセルを医薬品、化粧品、または食品などの分野で使用するために、人体に有害な有機溶媒(上記アルコール以外の有機溶媒)や界面活性剤を含有しないことが望ましい。
【0027】
本発明において、第2の流動性混合物は晶析促進剤およびアルコールを含有する。
【0028】
第2の流動性混合物に含まれるアルコールは、後述の晶析促進剤を溶解、分散または懸濁するための媒体として機能し得るものであり、アルコールまたはアルコール水溶液のいずれの形態を有していてもよい。第2の流動性混合物に含まれるアルコールは、好ましくは上記第1の流動性混合物に含まれるアルコールと同一である。
【0029】
晶析促進剤は、第2の流動性混合物に含まれるアルコールまたは当該アルコールの水溶液に対し、好ましくは常温(例えば25℃)で溶解し得る化合物であって、第1の流動性混合物中に溶解したアルコール可溶性高分子を晶析することができる化合物である。このような晶析促進剤は、その構造中にカルボキシル基あるいはその塩(例えば-COONaまたは-COOK)と、塩基性基(例えばアミノ基またはイミノ基)とを有する化合物から構成されている。晶析促進剤を構成する化合物の例としては、タンパク質、アミノ酸、およびそれらの類縁体、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
晶析促進剤を構成するタンパク質の例としては、フィコシアニン、ラクトフェリン、インスリン、オステオカルシン、大豆、ゴマ等の植物タンパク質;およびゼラチン、畜肉、魚肉、乳等の動物タンパク質;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。
【0031】
晶析促進剤を構成するアミノ酸の例としては、グリシン、フェニルアラニン、アルギニン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、リシン、トリプトファン、システイン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン、およびプロリン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
晶析促進剤を構成するタンパク質またはアミノ酸の類縁体は、その構造中に、カルボキシル基あるいはその塩(例えば-COONaまたは-COOK)と、塩基性基(例えばアミノ基またはイミノ基)とを有する化合物であって、上記タンパク質およびアミノ酸のいずれにも該当しないものを包含し、例えば、メサラジン、アスパルテーム、ナイロン、およびオピオイドペプチド、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
第2の流動性混合物に含まれる晶析促進剤の含有量は、当該第2の流動性混合物を構成する媒体(すなわちアルコールまたはアルコール水溶液)の容量を基準として、好ましくは0.1w/v%~5w/v%、より好ましくは0.5w/v%~3w/v%である。晶析促進剤の含有量が0.1w/v%を下回ると、そのような第2の流動性混合物を上記第1の流動性混合物と併せた際にアルコール可溶性高分子の晶析が不十分となり、所望の被膜を有するマイクロカプセルを効率良く得ることができないことがある。晶析促進剤の含有量が5w/v%を上回ると、得られるマイクロカプセルの被膜にはそれ以上変動がなく、むしろ生産性を低下させることがある。
【0034】
第2の流動性混合物はまた、上記晶析促進剤およびアルコールまたはアルコール水溶液以外に、第2のコア化合物を含有していてもよい。第2のコア化合物は、本発明の方法によって製造されるマイクロカプセルの被膜によって包囲される化合物であり、マイクロカプセルに対して種々の性能、薬効等を付与し得るものである。第2のコア化合物は、上記アルコールまたはアルコール水溶液に可溶性または不溶性のいずれのものであってもよい。このような第2のコア化合物の例としては、フタロシアニン、レボフロキサシン、シクロデキストリン、シクロスポリン、カルバマゼピン、フェニトイン、ヒアルロン酸、キサンタンガム、ゼラチン、アスパラギン酸、アルギニン、ポリエチレングリコール、イブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリン、無水カフェイン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフンヒドラミン、クロモグリク酸ナトリウム、ロラタジン、L-システイン、アスコルビン酸などの種々の薬効を有する薬学化合物;大豆、ゴマ等の植物タンパク質;ゼラチン、畜肉、魚肉、乳等の動物タンパク質;ミルクペプチド、ゴマペプチド、豚ペプチド、魚ペプチド、大豆ペプチド、乳清タンパク質、ホエイパウダー、脱脂粉乳、全粉乳などのタンパク質の分解物;植物ホルモン、動物ホルモン、合成ホルモン類似体、酵素、ビタミン類、ミネラル類などの生理活性物質;顔料、染料などの色材;抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、大殿防止材、安定化剤、甘味料、保存料、漂白剤、香料、乳化剤、膨張剤、栄養強化剤、滑沢剤、還元剤、吸着剤、矯味剤、充填剤、清涼化剤、接着剤、増強剤、軟化剤、乳化剤、pH調整剤、賦形剤、防腐剤、防湿剤、保存料、崩壊剤、流動化剤などの機能性付与剤;銅粒子、亜鉛粒子、鉄粒子、銀粒子などの金属粒子;シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子などの無機粒子;サラダ油、大豆油、ゴマ油、カカオバター、ラードなどの油脂類;ポリスチレン粒子、ラテックス粒子、PLGAナノ粒子などの高分子粒子;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。第2の流動性混合物に含まれる第2のコア化合物の含有量は、使用する第2のコア化合物の種類、所望される性能や薬効の程度等によって変動するため特に限定されず、当業者によって適切な含有量が選択され得る。
【0035】
第2の流動性混合物はまた、得られるマイクロカプセルを医薬品、化粧品、または食品などの分野で使用するために、人体に有害な有機溶媒(上記アルコール以外の有機溶媒)や界面活性剤を含有しないことが望ましい。
【0036】
なお、本発明においては、(1)上記第1の流動性混合物および第2の流動性混合物中に、第1のコア化合物および第2のコア化合物のいずれもが含有されていなくてもよく;(2)上記第1の流動性混合物中に第1のコア化合物が含有されている一方で、第2の流動性混合物中には第2のコア化合物が含有されていなくてもよく;(3)上記第1の流動性混合物中には第1のコア化合物が含有されていない一方で、第2の流動性混合物中には第2のコア化合物が含有されていてもよく;あるいは(4)上記第1の流動性混合物および第2の流動性混合物のそれぞれに、第1のコア化合物および第2のコア化合物がそれぞれ含有されていてもよい。
【0037】
本発明において、上記第1の流動性混合物および第2の流動性混合物は撹拌下で一緒にされる。
【0038】
このような撹拌は、好ましくは常温かつ常圧下で行われる。言い換えれば、本発明では、当該撹拌の際に加熱または冷却などの温度調節や加圧または減圧などの圧力調節を特に必要とされない。
【0039】
本発明のおいては、当該撹拌はスタティックミキサーを用いて行われることが好ましい。
【0040】
スタティックミキサーは、ラインミキサーとも呼ばれ、撹拌のための駆動部を有しない静止型の混合器である。スタティックミキサーは、好ましくは円筒の筒体内で長方形の板体を軸周りに180°捻じった2種類のエレメント(これらは区別のために右エレメントおよび左エレメントとも呼ばれている)で構成されており、対象物(上記第1の流動性混合物と第2の流動性混合物)が筒体内を通過する際に当該対象物がこれらのエレメントと衝突を繰り返すことによって自動的に撹拌を促すことができる。このようなスタティックミキサーを用いることにより、本発明の方法では、バッチ条件下に代えてフロー条件下での連続撹拌が可能となり、マイクロカプセルの連続的な製造を可能にする。
【0041】
本発明において、スタティックミキサーのエレメントのサイズおよび/または数;第1の流動性混合物と第2の流動性混合物との混合比;アルコール可溶性高分子と晶析促進剤との混合比;スタティックミキサー内を通過する第1の流動性混合物および第2の流動性混合物の流量および/または流速;などの各種条件を適宜調整することが好ましい。
【0042】
本発明において採用され得るスタティックミキサーとしては、例えば3mm~8mmの直径かつ5mm~15mmの長さを有するエレメントで構成され、そして当該エレメントが右エレメントおよび左エレメントの合計として円筒内に10個~30個を備えたものが挙げられる。スタティックミキサーは、例えばステンレス鋼で構成されていることが好ましい。
【0043】
本発明において採用され得る第1の流動性混合物と第2の流動性混合物との混合比(第1の流動性混合物/第2の流動性混合物の容量比)は、好ましくは0.25~1.0である。
【0044】
本発明において採用され得るアルコール可溶性高分子と晶析促進剤との混合比(アルコール可溶性高分子/晶析促進剤の容量比)は、好ましくは1.0~6.0である。
【0045】
本発明において採用され得るスタティックミキサー内を通過する第1の流動性混合物および第2の流動性混合物の流量は、好ましくは10mL/分~1000mL/分である。本発明において採用され得るスタティックミキサー内を通過する第1の流動性混合物および第2の流動性混合物の流速は、好ましくは0.01m/秒~1m/秒である。
【0046】
本発明の製造方法は、例えば、各種条件を上記範囲内に調整することにより、マイクロカプセルの生産性を一層向上させることができる。
【0047】
この撹拌(例えばスタティックミキサーを備える管内を通過することによる撹拌)により、第1の流動性混合物と第2の流動性混合物との混合液内には、アルコール可溶性高分子を被膜とするマイクロカプセルが形成される。また、例えば第1の流動性混合物や第2の流動性混合物中に上記第1のコア化合物および/または第2のコア化合物を含有している場合には、被膜の内部に当該第1のコア化合物および/または第2のコア化合物が芯材(コア)となって包囲されたマイクロカプセルを得ることができる。さらに、得られるマイクロカプセルには、上記第1の流動性混合物および第2の流動性混合物のそれぞれにおいて溶媒として使用されたアルコールまたは当該アルコールの水溶液も含有され得る。
【0048】
このようにして所望のマイクロカプセルを得ることができる。
【0049】
(マイクロカプセルの製造装置)
上記マイクロカプセルは、例えば、以下のような製造装置を用いて製造され得る。
図1は、本発明のマイクロカプセルの製造方法を用いることができる当該マイクロカプセルの製造装置の一例を示す模式図である。
【0050】
図1に示すように、マイクロカプセル製造装置100は、第1の流動性混合物102を収容する第1原料槽112と、第2の流動性混合物104を収容する第2原料槽114と、第1の流動性混合物102と第2の流動性混合物104とを接触させるT字型ジョイント116と、上流端部122が当該T字型ジョイント116の下流に接続されかつ下流端部124が開放されたスタティックミキサー120を備える。ここで、スタティックミキサー120は、撹拌の対象物(T字型ジョイント116で併せられた第1の流動性混合物102と第2の流動性混合物104)が、上流端部122から下流端部124にかけて自重による移動が可能となるように、鉛直方向に配置されていることが好ましい。
【0051】
さらに、マイクロカプセル製造装置100では、第1原料槽112とT字型ジョイント116との間、および第2原料槽114とT字型ジョイント116との間には、それぞれ管132,133,134,135が設けられており、管132と管133との間、および管134と管135との間には、第1原料槽112および第2原料槽114からそれぞれ第1の流動性混合物102および第2の流動性混合物104をT字型ジョイント116に供給するためのポンプ136,138が設けられている。
【0052】
図1に示すマイクロカプセル製造装置100において、アルコール可溶性高分子が所定濃度となるように調製された第1の流動性混合物102が第1原料槽112に収容され、かつ晶析促進剤が所定濃度となるように調製された第2の流動性混合物104が第2原料槽114に収容される。次いで、ポンプ136,138をそれぞれ駆動させると、管132,133,134,135を通じて、第1の流動性混合物102および第2の流動性混合物104がそれぞれT字型ジョイント116に供給される。
【0053】
第1の流動性混合物102および第2の流動性混合物104が溶液T字型ジョイント106で併せられると、それらはそのままスタティックミキサー120の上流端部122にまで移動し、その後、スタティックミキサー120内を通過することにより当該第1の流動性混合物102および第2の流動性混合物104の撹拌が促され、それにより、第1の流動性混合物102中に含まれるアルコール可溶性高分子が第2の流動性混合物104中に含まれる晶析促進剤によって晶析かつ被膜化が促され、マイクロカプセル140が製造される。
【0054】
得られたマイクロカプセル140は、スタティックミキサー120の下流端部124から、例えば所定の容器150内に配置されたステージ152(例えばテフロン(登録商標)シートや任意の濾材で構成されている)上に吐出される。最終的に、ステージ152上のマイクロカプセル140は、例えば溶媒の乾燥前に素早く回収され、必要に応じて当業者に公知の手段を用いて水洗、乾燥等が行われる。
【0055】
本発明によれば、加熱または冷却などの温度調節や加圧または減圧などの圧力調節を特に必要とすることなく、例えば常温かつ常圧下で所望のマイクロカプセルを製造することができる。さらに、このようなマイクロカプセルの製造にあたり、上記アルコール以外の人体に有害な有機溶媒の使用を必須としない。このため、得られるマイクロカプセルは、医薬品、化粧品、または食品などのヒトに投与、付与または摂取する種々の製品に加え、様々な工業製品に応用することができる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0057】
(参考例1~3および比較参考例1:アルコール可溶性高分子を含むエタノール溶液の晶析試験)
エタノールに対して可溶性を示す4つの高分子(アルコール可溶性高分子)として、ポリ乳酸(富士フイルム和光純薬株式会社製PLA-0005;重量平均分子量5000)、ポリ-D-乳酸(株式会社ビーエムジー製PDLA;重量平均分子量15000)、ヒプロメロースフタル酸エステル(信越化学工業株式会社製HPMCP(登録商標)HP55;セルロース誘導体)、およびアクリル-スチレンランダムコポリマー(東亞合成株式会社製ARUFON(登録商標)UH-2170)を選択し、ポリ乳酸、ポリ-D-乳酸、およびアクリル-スチレンランダムコポリマーについては、30mLのサンプル瓶中の10mLのエタノールに各高分子0.4gを添加して完全に溶解させた。ヒプロメロースフタル酸エステルについては、30mLのサンプル瓶中の10mLのエタノール水溶液(エタノールおよび水を重量比8:2の割合で含有する)に各高分子0.4gを添加して完全に溶解させた。そして、これらの高分子が溶解したものを取り分けて、1つの高分子について4つのサンプル瓶を用意した。
【0058】
次いで、各サンプル瓶に、添加化合物として0.1gのフィコシアニン(色素タンパク質;参考例1)、メサラジン(抗炎症薬。分子構造中にカルボキシル基とアミノ基とを有する;参考例2)、グリシン(アミノ酸:参考例3)、またはレボフロキサシン(点眼薬。本明細書に記載する晶析促進剤に該当しないもの;比較参考例1)を添加して十分に撹拌し、サンプル瓶中の溶液から高分子が晶析するか否かについて目視で確認した。得られた結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1に示すように、4つのアルコール可溶性高分子に対して、タンパク質、アミノ酸、またはそれらの類縁体に対応する薬剤(フィコシアニン、グリシンおよびメサラジン)を添加した場合(参考例1~3)では、溶液中で当該高分子の晶析を確認することができた。これに対し、タンパク質、アミノ酸、またはそれらの類縁体のいずれにも該当しない(すなわち、アミノ酸のような、カルボキシル基と塩基性基(例えばアミノ基)の両方を有していない)薬剤(レボフロキサシン)を添加した場合(比較参考例1)では、溶液中でいずれの高分子についても晶析が生じなかった。このことから、分子構造中に、カルボキシル基と塩基性基との両方を有する化合物(参考例1~3)は、これらの基の両方を有していない化合物(比較参考例1)と比べて晶析促進剤として有効に機能し得ることがわかる。
【0061】
(実施例1:ブロモ化銅フタロシアニンのマイクロカプセル化)
図1に示すマイクロカプセルの製造装置100を用いて、ブロモ化銅フタロシアニンをポリ乳酸で包囲したマイクロカプセルを以下のようにして作製した。
【0062】
まず、第1原料槽112に所定容量のエタノールを仕込み、さらにこのエタノール1mL当たり0.04gの割合でポリ乳酸(富士フイルム和光純薬株式会社製PLA-0005;重量平均分子量5000)を添加かつ溶解させた。さらにこのエタノール溶液に、エタノール1mLあたり0.01gの割合でブロモ化銅フタロシアニン(緑色顔料)を添加して、第1原料槽112中で第1の流動性混合物102に相当するスラリー(A)を調製した。他方、第2原料槽114に所定量のエタノールを仕込み、さらにこのエタノール1mL足立0.01gの割合でグリシンを添加して、第2原料槽114中で第2の流動性混合物104に相当する分散体(B)を調製した。
【0063】
次いで、ポンプ136,138を駆動し、第1の流動性混合物102のスラリー(A)と第2の流動性混合物104の分散体(B)をそれぞれ流量20mL/分で、管132,133および管134,135を通じてT字型ジョイント116に供給し、当該T字型ジョイント116内でスラリー(A)と分散体(B)とを併せ、これを下流側に接続したスタティックミキサー120(マーキュリー・サプライ・システムス株式会社製スパイラルミキサー70シリーズ(070-421);チューブ外形:6.35mm、長さ177.8mm、エレメント:4.93mm×21(径×組数))に通して、当該スラリー(A)と分散体(B)との撹拌を行うことによりマイクロカプセルで構成される粒子を作製した。その後、得られた粒子を、その他の残渣とともに、スタティックミキサー120の下流側から容器150内に配置されたテフロン(登録商標)シート(ステージ152)上に吐出し、ステージ152を超純水で洗浄し、乾燥することにより、ブロモ化銅フタロシアニンを内包するマイクロカプセル(E1)を得た。
【0064】
このようにして得られたマイクロカプセル(E1)と、上記第1原料槽112に仕込む前のブロモ化銅フタロシアニンとの性質の差異を以下のようにして確認した。
【0065】
(水に対する浮遊性の有無)
まず、所定量の超純水を入れた2つのサンプル瓶を用意し、これらに本実施例で使用したブロモ化銅フタロシアニン粒子(原末)または本実施例で得られたブロモ化銅フタロシアニンを内包するマイクロカプセル(E1)の少量を添加し、撹拌することなくそのまま放置した。得られた結果を
図2に示す。
【0066】
図2の(a)に示すように、未処理のブロモ化銅フタロシアニンは超純水の液面で浮遊し、ブロモ化銅フタロシアニンに起因する青色は超純水の液面付近でのみ確認することができた。これに対し、本実施例で得られたマイクロカプセル(E1)は、超純水内で沈降し、ブロモ化銅フタロシアニンに起因する青色は超純水中(すなわち、サンプル瓶の底面近傍)で確認することができた。このことから、本実施例で得られたマイクロカプセル(E1)は、水に対する性質が、原末として使用したブロモ化銅フタロシアニンから変動していることがわかる。
【0067】
(表面形状と粒子径)
本実施例で使用したブロモ化銅フタロシアニン粒子(原末)および本実施例で得られたブロモ化銅フタロシアニンを内包するマイクロカプセル(E1)の表面状態を、レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製OLS4100)を用いて観察した。また、これらの粒度分布および平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-2000)を用いて測定した。得られた結果を
図3および4に示す。
【0068】
図3と
図4との対比から明らかなように、本実施例で得られたマイクロカプセル(E1)は、原末であるブロモ化銅フタロシアニン粒子と比較して、粒子表面の凹凸が大きくなっており、平均粒子径も増大していた。また、本実施例で得られたマイクロカプセル(E1)は、構成する粒子全体が青色を呈しており、内部にブロモ化銅フタロシアニン粒子が内包された状態にあることがわかる。