(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036974
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ガラス成形モールドのためのコーティングおよびそれを含むモールド
(51)【国際特許分類】
C03B 11/00 20060101AFI20220301BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C03B11/00 M
C23C16/40
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021188253
(22)【出願日】2021-11-19
(62)【分割の表示】P 2020515903の分割
【原出願日】2018-09-21
(31)【優先権主張番号】62/561,493
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】スコギンズ, トロイ
(72)【発明者】
【氏名】シェパード, レックス ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ウォルドフリード, カルロ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】精密型成形されたガラス物品を形成する長い有用寿命の間、繰り返し使用することができる新しいガラス形成モールドおよびその製作方法を提供する。
【解決手段】黒鉛モールド本体と、原子層堆積により形成されたコーティングとで製作されたガラス形成モールドであり、コーティングは、アルミナまたはアルミナおよびイットリアの組合せで製作されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数のモールドフィーチャを有する微結晶粒状黒鉛モールド本体と、
前記1つまたは複数のモールドフィーチャ上のコーティングであって、原子層堆積により形成され、かつアルミナ層またはアルミナおよびイットリアの層を含む、コーティングと
を含むガラス形成モールド。
【請求項2】
コーティングが、黒鉛モールド本体の熱膨張係数の1ppm/℃以内である熱膨張係数を有する、請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
微結晶粒状黒鉛が、10ミクロン以下である結晶粒サイズを有する、請求項1に記載のモールド。
【請求項4】
コーティングの厚さが10ナノメートル~500,000ナノメートルの間である、請求項1に記載のモールド。
【請求項5】
コーティングがアルミナから本質的になる、請求項1に記載のモールド。
【請求項6】
コーティングが、アルミナおよびイットリアの交互層から本質的になる、請求項1に記載のモールド。
【請求項7】
モールドの平均平面から約25ミクロンを超えている表面の不連続部がない、請求項1に記載のモールド。
【請求項8】
微結晶粒状モールド本体を提供することと、
アルミナ層またはアルミナおよびイットリアの層を含むコーティングを原子層堆積により前記モールド本体上に堆積させることと
を含む、ガラス形成モールドを製作する方法。
【請求項9】
コーティングが、黒鉛モールド本体の熱膨張係数の1ppm/℃以内である熱膨張係数を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
微結晶粒状黒鉛が、10ミクロン以下である結晶粒サイズを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
コーティングの厚さが10ナノメートル~500,000ナノメートルの間である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
コーティングがアルミナから本質的になる、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
コーティングが、アルミナおよびイットリアの交互層から本質的になる、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
モールドに、モールドの平均平面から約25ミクロンを超えている表面の不連続部がない、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
微結晶粒状モールド本体を提供することと、
アルミナ層またはアルミナおよびイットリアの層を含むコーティングを原子層堆積によりモールド本体上に堆積させることと、
モールドの表面を軟化ガラスと接触させることと
を含む、ガラス物品を形成する方法。
【請求項16】
軟化ガラスが軟化アルミノケイ酸ガラスである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の説明は、黒鉛で製作されたガラス成形モールド上に原子層堆積により堆積されたコーティング、このようなコーティングを含むガラス成形モールド、ならびにコーティングされたガラス成形モールドを製作および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製造装置において、ガラスの曲げ作業および他のガラス形成作業のために、例えば、「モールド」として黒鉛が使用される。黒鉛はこれらの使用に効果的であり得るが、その理由は、ガラスは黒鉛に付着しない傾向があり、かつ黒鉛は機械加工によりモールドの所望の形状への形成が比較的容易だからである。しかし、このような利点にも関わらず、ガラス成形モールドとしての黒鉛の使用における課題は、ガラスの曲げ作業または他のガラス形成作業が行われる温度で黒鉛が酸化されやすいことである。ガラスの形状を、例えば型成形により変更するためには、ガラスは、非常に高い温度まで、例えば400℃~900℃の範囲内の温度まで加熱されなければならず、この温度では、モールドの使用により軟化ガラスを再成形させる程度までガラスが軟化する(例えば、「溶融する」)。この範囲内の温度は、モールドの表面で黒鉛を酸化させる可能性もある。このような酸化は、モールド表面で穴または他の欠陥を生じさせ、これらが、モールドを使用して形成されるガラス上にくぼみまたは他の表面凹凸を生じさせる可能性がある。
【0003】
ガラス軟化温度での黒鉛モールドの表面での黒鉛の酸化を防止するために、国際PCT特許出願第2017/011315号(国際出願番号PCT/US2016/041554)には、精密ガラス成形黒鉛モールドの表面上に配置することができるコーティングが記載されている。コーティングはチタン材料またはイットリアを含んでもよい。ガラスモールドのための異なる手法として、米国特許出願公開第2014/0224958(A1)号には、酸化されない基材上の付着しない表面としてアルミニウム-チタン合金または対応する合金酸化物でコーティングされているステンレス鋼モールドが記載されている。しかし、コーティングは、下にあるモールドの金属から軟化ガラスを保護するために、例えば金属拡散バリア層を含む複数の層で製作されている。加えて、金属モールドは多くの機械加工および表面仕上げを必要とし、製造に費用がかかる。
【0004】
様々なタイプのモールドが、ガラス物品の形成に現在利用可能かつ有用であるが、例えば、精密型成形された物品を形成するために使用することができる;(例えば、機械加工により)調製が比較的容易かつ経済的である;かつ酸化されにくくなり、その結果、精密型成形されたガラス物品を形成する長い有用寿命の間、繰り返し使用することができる新しいガラス形成モールドを提供するために、モールド構造の改善は常に望ましい。
【発明の概要】
【0005】
以下の説明は、黒鉛で製作されたガラス成形モールドのためのコーティング、このようなコーティングを含むガラス成形モールド、ならびにこのようなモールドを製作および使用する方法に関する。
【0006】
記載のコーティングを含むモールドの例は、微結晶粒状黒鉛、特に、さらに精製されている微結晶粒状黒鉛を含む(例えば、これを含み、これからなり、またはこれから本質的になる)黒鉛で製作されたモールド本体を含む精密ガラス成形モールドである。モールドは、本明細書に記載の黒鉛で製作された本体とコーティングとを含む。
【0007】
モールド本体は、1つまたは複数のモールドフィーチャを含んでもよく、例えば、1つまたは複数のモールドフィーチャを含むモールド本体の表面を覆うまたはカプセル化するためにコーティングをモールド本体の表面上に配置することができる。コーティングは原子層堆積により調製される。例のコーティングは、原子層堆積により堆積されたアルミナを含み得、これからなり得、またはこれから本質的になり得る。他の例のコーティングは、原子層堆積により堆積されたアルミナおよびイットリアを含み得、これからなり得、またはこれから本質的になり得る。
【0008】
例の実施形態において、原子層堆積により形成された記載のコーティングを含む精密ガラスモールドは、モールドの平均平面に対して大きさが約25ミクロンを超えている表面の不連続部、例えば、くぼみ、空洞、突起および他の表面凹凸または欠陥が実質的にない、好ましくは、20ミクロンを超えている、例えば、10ミクロンを超えているこのような平均平面からのこのような逸脱がない精密モールドであり得る。
【0009】
これらおよび他の例の実施形態において、精密ガラスモールドは、原子層堆積を使用する方法により製作して、記載のコーティングをモールド本体の表面上に形成することができ、モールド本体および表面は、精製された微結晶粒黒鉛で製作されており、かつ1つまたは複数のモールドフィーチャを有する。
【0010】
記載されたコーティングされたモールド本体および方法の様々な実施形態において、コーティングは、モールド本体の熱膨張係数に近い、例えば、黒鉛モールド本体の熱膨張係数との摂氏1度あたり1ppmを超える差がない熱膨張係数を有する。
【0011】
以下の説明に提示の本発明は、記載のガラス形成モールド、例えば、原子層堆積により適用された表面上のコーティングを有する記載の黒鉛モールド本体を含むガラス形成モールドと軟化ガラスを接触させることを含む、ガラスを形成する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のガラス形成モールドの酸化減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下は、「ガラスモールド」、「精密ガラスモールド」、「ガラス形成モールド」、「精密ガラス形成モールド」などとしても知られる、ガラスで製作された物品の形成に有用であるモールドの説明である。説明のガラスモールドは、アルミナまたはアルミナおよびイットリアの組合せを含むコーティングなど、原子層堆積により適用された材料で製作されたコーティングで(例えば、「カプセル化され」ているように、全体的に)コーティングされている表面を有する黒鉛モールド本体を含む。コーティングは、軟化ガラスを形成または成形するモールドの使用中に本体の表面の黒鉛に起こる酸化の量を抑制するのに効果的である。使用中に起こる酸化の量を減らすことは、モールドの有用寿命を延ばす効果を有し、これは、使用期間中により多数の型成形されたガラス物品を生産するためにモールドを使用することができることを意味する。説明はまた、黒鉛モールド本体の表面上に原子層堆積により記載のコーティングを配置する方法、および軟化ガラスの片を形成または型成形する工程において、コーティングされた黒鉛モールド本体を使用する方法に関する。
【0014】
記載の好ましい黒鉛モールド本体は、微結晶粒状黒鉛で製作されたモールド本体である。モールド本体は、1つまたは複数のモールドフィーチャを含み、モールド本体に圧入された軟化ガラスから三次元物品を形成するために使用されるように成形および適合されている。好ましいモールド本体は、複数のガラス物品、例えば、何百個または何千個のガラス物品を形成するために繰り返し使用することができる。「モールドフィーチャ」は、空洞、凹み、突起またはこれらの組合せ、例えば、1つもしくは複数の突起を含む空洞、1つもしくは複数の開口または凹みを含む空洞、あるいは成形されたガラス物品を形成するために使用されるその他の任意のフィーチャであり得る。
【0015】
好ましいモールド本体は微結晶粒黒鉛で製作されている。黒鉛は一般に、効率的かつ費用効果の高い方法で容易に機械加工することができる材料であるが、結晶粒サイズの大きい黒鉛が使用されるとき、機械加工作業は、黒鉛モールド表面に穴を生じる可能性があり、この穴は、黒鉛モールドを使用して形成されたガラス表面上にくぼみまたは他の表面凹凸を生じさせる。したがって、好ましいモールド本体は、微結晶粒黒鉛で製作されていてもよく、例えば、微結晶粒黒鉛を含んでもよく、これから本質的になっていてもよく、またはこれからなっていてもよい。本明細書において概して使用されるとき、指定の材料または材料の組合せ「から本質的になる物品または組成物(例えば、モールド本体)は、材料または材料の組合せと、有意でない量を超えないその他の任意の材料、例えば、1重量パーセントを超えない、好ましくは0.5、0.1または0.01重量パーセントを超えない別の材料とを含む物品または組成物である。
【0016】
本明細書において使用されるとき、「微結晶粒黒鉛」は、10ミクロンを超えないサイズを有する黒鉛粒子(結晶粒)を含み、これからなり、またはこれから本質的になる黒鉛ストックまたはインゴットを指す。いくつかの実施形態において、微結晶粒黒鉛の黒鉛粒子サイズ(結晶粒サイズ)は、大きさが1ミクロン程度であり得る。他の実施形態において、黒鉛粒子(結晶粒)サイズは、大きさが5ミクロン程度であり得、さらに他の実施形態において、黒鉛粒子(結晶粒)サイズは10ミクロン程度であり得る。様々な実施形態において、黒鉛の結晶粒サイズは、結晶粒サイズ分布の限られた範囲内に、例えば、1~10ミクロンの範囲内もしくは2~10ミクロン、2~8ミクロン、1.5~6.5ミクロンの範囲内に実質的に入り得、または別の適した範囲に実質的にかかり得ることが認識されるであろう。黒鉛から製作されたモールド本体の熱膨張係数(CTE)ならびに他の性能特性ができるだけ等方性かつ均質であるように、均一なまたは実質的に均一な結晶粒サイズを有する黒鉛ストックまたはインゴットを使用することが好ましいこともある。
【0017】
本明細書に記載の有用なもしくは好ましい結晶粒サイズまたは結晶粒サイズ分布を含む選択された結晶粒サイズを有する微結晶粒黒鉛粒子は、既知の方法により調製することができて、商業的供給源から入手もできる。結晶粒サイズは、所望の粒子サイズを得るために標準ふるいを使用して黒鉛粒子をふるい分けすることにより選択することができる。約10ミクロン以下の(微)結晶粒サイズを有する黒鉛の非限定的な例は、Glassmate-LT(登録商標)の商標でPoco Graphite(米国テキサス州ディケーター)から市販されている。
【0018】
好ましい例において、黒鉛本体の黒鉛は、例えば米国特許第3,848,739号に記載の通り精製して汚染物質を減らし、高純度の黒鉛本体を形成することができて、ここでは、黒鉛モールド本体または黒鉛ストック本体を精製炉内に置き、この中で、黒鉛本体内へのハロゲンの浸透を可能にするのに十分な時間および温度でハロゲン含有ガスと本体を接触させ、ハロゲンを無機不純物と反応させて揮発させ、このような不純物を黒鉛から追い出す。特に好ましい黒鉛は、標準的な灰分試験により測定される(重量で)5ppm未満の無機不純物を含むように精製することができる。
【0019】
本明細書のモールドは、本体の表面にわたってコーティングを有する記載のモールド本体を含み、コーティングは、モールド本体の表面を軟化ガラスと接触させる方法においてモールド本体の使用中に黒鉛モールド本体の表面で起こる黒鉛の酸化の量を抑制するまたは減らす材料で製作されている。様々な実施形態において、コーティングは、黒鉛モールド本体と、1つまたは複数のモールドフィーチャの全表面または実質的に全表面とを完全に覆い、例えば、カプセル化する。コーティングは、同じ黒鉛モールド本体がコーティングなしで使用された場合に起こるであろう酸化の量と比べて、ガラス型成形中に下にある黒鉛モールド本体表面の酸化の程度を実質的に減らすことができる。好ましくは、コーティングはまた、離型表面または付着しない表面を与えて、軟化ガラス(および得られた固化したガラス物品)がモールド本体表面に付着するのを少なくとも大いに防止することができて、それによって、例えば、同じ型成形されたガラス物品がコーティングなしで同じモールド本体表面を使用して形成された場合に起こるであろう付着の程度と比べて、ガラス型成形中および離型作業中にモールドにより生産された型成形されたガラス物品中の欠陥の発生の可能性を防止または低減する。
【0020】
好ましいモールド本体は、精密ガラス形成モールドのモールド本体として有用であり得、これは、モールド本体が、表面でのコーティングの配置により、精密型成形されたガラス物品を生産するのに効果的である滑らかな表面を含むことを意味し得る。1つの尺度では、精密ガラス形成モールドは、モールドの平均平面に対して約25ミクロンを超えている表面の不連続部、例えば、くぼみ、空洞、突起および他の表面凹凸もしくは欠陥がない、または実質的にない、好ましくは、20ミクロンを超えている、例えば、10ミクロンを超えているこのような平均平面からの逸脱を全く含まないコーティングされた表面を含むモールドであり得る。
【0021】
好ましいコーティングは、原子層堆積(ALD)により適用され、かつアルミナで製作された(例えば、これを含み、これからなり、またはこれから本質的になる)、またはアルミナおよびイットリアの複数の交互層で製作された(例えば、これを含み、これからなり、またはこれから本質的になる)コーティングである。出願人は、ALDにより適用されたアルミナで製作されたコーティング、またはアルミナおよびイットリアの複数の交互層で製作されたコーティング(例えば、二層コーティングまたは複合コーティング)を含む黒鉛モールド本体は、他の材料でコーティングされた、またはコーティングされていない同一の黒鉛モールド本体と比べて、より少ない酸化減量を示すことを実験的に明らかにした(約800~1100ppm酸素の雰囲気への曝露および約9/インチの体積に対する表面積と共に摂氏800度の温度を含む例のテスト条件を使用)。結果を
図1に示す。
【0022】
記載のコーティングの一例は、原子層堆積により適用されたアルミナ(AlOx)の単層で製作された(例えば、これを含み、これから本質的になり、またはこれからなる)単層コーティングであり得る。このようなコーティングの例は、黒鉛モールド本体の表面に直接適用されたアルミナのみを含み得る。アルミナから本質的になるアルミナ層、またはアルミナから本質的になるコーティングは、微量を超えないその他の任意の材料、例えば、アルミナ層またはコーティングの全重量に基づいて1、0.5、0.1または0.01重量パーセント未満のその他の任意の材料を含む層またはコーティングである。
【0023】
有用なコーティングの別の例は、1つの層がアルミナ(AlOx)であり、第2の層がイットリア(YOx)である、いずれも原子層堆積により堆積された2つの異なる材料の層で製作された(例えば、これを含み、これから本質的になり、またはこれからなる)多層コーティングであり得る。このようなコーティングの例は、黒鉛モールド本体の表面に直接適用されたこれらの2つの異なる堆積材料で製作された、例えば、これらの2つの異なる材料を含み、これらからなり、またはこれらから本質的になる層を含み得る。アルミナまたはイットリアから本質的になるコーティングの層は、微量を超えない異なる材料、例えば、層の全重量に基づいて1.0、0.5、0.1または0.01重量パーセント未満のその他の任意の材料を含む層である。アルミナおよびイットリアから本質的になるコーティングは、アルミナおよびイットリア以外の微量を超えない材料、例えば、層の全重量に基づいて1.0、0.5、0.1または0.01重量パーセント未満のその他の任意の材料を含む層である。
【0024】
本明細書において使用されるとき、「多層」コーティングという用語は、堆積材料の複数の異なる交互の「層」(例えば、アルミナおよびイットリアの交互層)を形成するために一連の原子層堆積工程により表面に適用されたコーティングを指す。堆積により不完全な個々の層が生成される場合、多層コーティングは複合コーティングと見なしてもよい。「二層」膜は、2つの異なる別個の堆積材料のみで製作されている(これらからなり、またはこれらから本質的になる)(例えば、アルミナおよびイットリアの交互層)。
【0025】
コーティングの厚さは、コーティングされたモールド本体の所望の性能、例えば、精密ガラス形成モールドとしてのコーティングされたモールド本体の使用のための所望の抗付着性能、下にある黒鉛表面の酸化に対する耐性、および有用寿命または長い寿命の形態の耐久性を提供するのに有用である厚さであり得る。いくつかの例のコーティングにおいて、厚さは、下にある黒鉛の酸化を減らすよう選ばれる。様々な実施形態において、コーティングの厚さは、10ナノメートル以上かつ500,000ナノメートル以下、すなわち、10nm<厚さ<500,000nmであり得、例えば、50~500ナノメートルまたは100~300ナノメートルの範囲内の厚さであり得る。所望のガラス形成モールドまたはガラス形成モールドの選択された部分もしくはセグメントに有用であり適していると見なされるその他の任意のコーティング厚さも使用することができる。
【0026】
コーティングは、モールド表面の黒鉛の酸化を抑制するために、モールド本体の全表面にわたって、例えば、モールド本体を全体的に覆う(例えば、カプセル化する)ように好ましくは配置され得る。これにより、安い費用で機械加工された黒鉛からガラスモールドを製作することが可能となる。しかし、例えば、固化し、続いて黒鉛表面との接触が解かれる軟化ガラスと接触したとき、コーティングが使用中に黒鉛表面から除去されないことが重要であり得る。軟化ガラスと接触し、続いて固化したガラスが取り出されたときにコーティングが除去されるのを防止するために、コーティングは、下にある黒鉛モールド本体のCTEにほぼ匹敵する熱膨張係数(CTE)を有することができる。下にあるモールド本体およびコーティングのそれぞれの熱膨張係数は、軟化ガラスとの接触時および固化時および固化したガラスの取出し時のモールド本体に対するコーティングの熱膨張の差を防止し、したがって、コーティングは、黒鉛モールド本体表面との良好な接着を示す。
【0027】
好ましくは、コーティングは、黒鉛のCTEの1ppm/℃を超えない量だけモールド本体の黒鉛の熱膨張係数と異なる熱膨張係数を有することができて、コーティングのCTEおよびモールド本体の黒鉛のCTEのいずれも、同じ技法により、同じ単位で測定される。1ppm/℃以下のCTEの差によって、すなわちコーティングとモールド本体の黒鉛との間のCTEの差がさらに大きければモールド本体の黒鉛表面からコーティングを剥離させやすくするであろう熱膨張差および熱収縮差の影響をコーティングが受けにくくなる。例えば、記載のガラス形成モールド本体を調製するために使用される微結晶粒状黒鉛本体は、7~9ppm/℃の範囲内である熱膨張係数(CTE)を有利に有し得、コーティングおよび黒鉛本体のそれぞれのCTE値の間の差は、1ppm/℃を超えず、好ましくは0.75ppm/℃未満、より好ましくは0.5ppm/℃未満である。
【0028】
好ましい型成形用途において、コーティングされたモールド表面は十分に滑らかであり得、コーティングされた表面と軟化ガラスを接触させる間と、軟化ガラスを固化させる間と、固化したガラスを表面から取り去る間とを含む使用中、軟化ガラスはモールド表面に付着しない。好ましいコーティングされた表面は、モールドの平均平面からの逸脱が約25ミクロンを超えない表面粗さ、例えば、平均平面からの逸脱が約20、15または10ミクロンを超えない表面粗さを有し得、精密ガラスモールドであり得る。モールド表面のこのレベルの滑らかさは、様々な民生用電子機器、例えば携帯電話、医療機器、光学装置などのためのカバーガラスの製作に使用することができる型成形されたガラス物品の生産にモールドが有用であるようにすることができる。モールド本体の表面は、他の点から、例えば、望ましく滑らかな型成形表面を有するモールド本体の表面を明示する二乗平均平方根粗さまたは他のパラメータ化特性を参照して同様にまたは代わりに特徴付けることができることを理解されたい。
【0029】
モールドのコーティングされた表面の表面仕上げまたは滑らかさは、市販の表面粗さ計またはレーザ装置を使用して機械的に測定することができる。コーティングされたモールド表面は、モールドにより生産されたプレスされたガラス要素の表面の光散乱特性を調べることにより間接的に評価することもできる。
【0030】
本明細書のガラスモールドは、モールドのコーティングされた表面を軟化ガラスと接触させる工程と、軟化ガラスをモールド内で固化させる工程と、固化したガラスをコーティングされた表面およびモールドから取り去る工程とを含む工程により、ガラス物品を型成形するために、例えば、ガラス物品を精密型成形するために使用することができる。コーティングされたモールド表面との接触により型成形されるガラスのタイプは一般に、三次元形成に適した任意のガラスでよい。いくつかの実施例の実施形態において、ガラスはイオン交換性アルミノケイ酸ガラスでよい。好ましくは、本方法は、モールドの構成要素ではないしわ、くぼみ、空洞、突起ならびに他の表面の不連続部および凹凸が実質的にない固化した精密ガラス物体または物品を形成するために使用することができる。本明細書に記載の実施形態において、ガラスモールドにより形成された物品は、民生用電子機器(例えば、商業用または民生用ハンドヘルド電子機器)、医療機器、光学装置、および精密型成形されたガラス物品を必要とする他の用途において使用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【外国語明細書】