(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036995
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】光学素子、導光素子および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220301BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220301BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20220301BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220301BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20220301BHJP
B32B 7/03 20190101ALI20220301BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/18
G02F1/1337 505
B32B9/00 Z
B32B7/023
B32B7/03
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190100
(22)【出願日】2021-11-24
(62)【分割の表示】P 2020511122の分割
【原出願日】2019-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2018064720
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(72)【発明者】
【氏名】村松 彩子
(72)【発明者】
【氏名】柏木 大助
(57)【要約】
【課題】 入射した光を所定の方向に角度を持たせて透過することができ、さらに、透過光が明るい光学素子の提供を課題とする。
【解決手段】液晶化合物を含む組成物を用いて形成された、液晶化合物由来の光軸の向きが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有し、さらに、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、かつ、回転のねじれ角が面内で異なる領域を有する光学素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
かつ、前記光学軸が前記光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、厚さ方向のねじれ角の大きさが異なる領域を有し、
前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前記液晶配向パターンにおける前記1周期の長さが異なる領域を有する透過光を回折する光学素子。
【請求項2】
前記1周期の長さが小さい領域ほど、厚さ方向のねじれ角が大きい、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記厚さ方向のねじれ角の大きさが10°~360°である領域を有する、請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記光学異方性層は、前記液晶配向パターンにおける前記液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前記一方向に向かって、前記液晶配向パターンの前記1周期が、漸次、短くなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記光学異方性層の前記液晶配向パターンが、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前記一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光学異方性層を、複数層、備えた光学素子であって、前記光学異方性層の厚さ方向でねじれ角の向きが互いに異なる光学異方性層を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記光学異方性層を、複数層、備えた光学素子であって、前記光学異方性層の厚さ方向でねじれ角の大きさが互いに異なる光学異方性層を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記光学異方性層を、複数層、備えた光学素子であって、前記光学異方性層は、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転する方向が互いに同一である液晶配向パターンを有する請求項6または7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記液晶配向パターンにおける前記1周期の長さが50μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
導光板と、
前記導光板の表面に配置される、請求項1~9のいずれか一項に記載の光学素子と、を有し、
前記光学素子は、前記導光板内における光の進行方向に向かって、前記光学異方性層の厚さ方向のねじれ角が漸次変化するように配置されている導光素子。
【請求項11】
導光板と、
前記導光板の表面に配置され、光を回折して導光板内に入射させる第一回折素子と、
前記導光板内を伝播した光を回折して前記導光板の外部に出射させる第三回折素子と、
前記導光板内で、前記第一回折素子の位置から伝播した光を、前記第三回折素子の方向に回折する第二回折素子と、を有し、
前記第二回折素子又は第三回折素子の少なくとも1つが請求項1~9のいずれか一項に記載の光学素子である導光素子。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の導光素子と、前記導光素子に画像を照射する表示素子とを有する画像表示装置。
【請求項13】
前記表示素子が円偏光を出射する請求項12に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を回折する光学素子、ならびに、これを用いた導光素子および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光の方向を制御する光学素子は多くの光学デバイスあるいはシステムで利用されている。
例えば、液晶表示装置のバックライト、実際に見ている光景に、仮想の映像および各種の情報等を重ねて表示する、AR(Augmented Reality(拡張現実))グラスなどのヘッドマウントディスプレイ(HMD(Head Mounted Display))、プロジェクター、ビームステアリング、物体の検出および物体との距離の測定等を行うためのセンサーなど、様々な光学デバイスで光の方向を制御する光学素子が用いられている。
【0003】
このような光学デバイスにおいては、装置の薄型、小型化が進んでいることから、使用される光学素子の薄型、小型化が望まれている。
【0004】
特許文献1には、光学的異方性を有する薄膜をパターニングすることによって形成される回折光学素子が開示されている。このような面内で液晶配向パターンを変化させる光学異方性層を利用することで、薄膜で、入射した光の透過方向を制御する光学素子が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】HsienHui Cheng et al., Analysis of a dual-twist Pancharatnam phase device with ultrahigh-efficiency large-angle optical beam steering, Applied Optics, Vol.54, No 34, pp.10035-10043 (2015)
【非特許文献2】Jihwan Kim et al., Fabrication of ideal geometric-phase holograms with arbitrary wavefronts, Optica, Vol.2, No.11, pp958-964(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、面内で液晶配向パターンを変化させて光を回折させる素子は、様々な光学デバイスの光学部材としての適用が期待される。しかしながら、非特許文献1にも記載されるように、面内で液晶配向パターンを変化させて光を回折させる素子は、回折角度が大きくなると回折効率が低下する、すなわち回折光の強度が弱くなるという問題がある。
【0008】
この問題を解決するために、非特許文献1に記載される面内で液晶配向パターンを変化させて光を回折させる素子では、回折角度が大きい場合に、厚さ方向で液晶の配向をねじれさせている。これにより、回折角度が大きい場合でも、回折効率の低下を抑制し、すなわち回折光の強度を強くすることで、透過した光を明るくしている。
【0009】
しかし、非特許文献2に記載されるような、面内で液晶配向パターンを変化させて光を回折させることでレンズ機能を発現させる素子は、光の入射位置によって回折角度が異なるため、素子面内の入射位置によって回折効率に差が生じる。すなわち、素子面内の入射位置によって、透過した光が暗くなる領域が生じる。
【0010】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、入射した光を所定の方向に角度を持たせて透過することができ、さらに、透過光が明るい光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明の光学素子は、以下の構成を有する。
[1] 液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、
前述の光学異方性層は、前述の液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
かつ、前述の光学軸が前述の光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、厚さ方向のねじれ角の大きさが面内で異なる領域を有する光学素子。
[2] 前述の液晶化合物由来の光学軸の向きが面内で180°回転する長さを1周期とした際に、前述の液晶配向パターンにおける前述の1周期の長さが異なる領域を有する、[1]に記載の光学素子。
[3] 光学異方性層は、前述の液晶配向パターンにおける前述の1周期の長さが異なる複数の領域が、1周期の長さの順に配列しており、
かつ、厚さ方向のねじれ角の大きさが異なる複数の領域が、厚さ方向のねじれ角の大きさの順に配列しており、
前述の1周期の長さの順列の方向と前述の厚さ方向のねじれ角の大きさの順列の方向が異なる領域を有する、[2]に記載の光学素子。
[4] 前述の厚さ方向のねじれ角の大きさが10°~360°である領域を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の光学素子。
[5] 光学異方性層は、前述の液晶配向パターンにおける前述の液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前述の一方向の一方の側から他方の側に向かって、前述の液晶配向パターンの前述の1周期が、漸次、短くなる、[1]~[4]のいずれかに記載の光学素子。
[6] 前述の光学異方性層の前記液晶配向パターンが、前述の液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前述の一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、[1]~[5]のいずれかに記載の光学素子。
[7] 前述の光学異方性層を、複数層、備えた光学素子であって、前述の光学異方性層の厚さ方向でねじれ角の向きが互いに異なる光学異方性層を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の光学素子。
[8] 光学異方性層を、複数層、備えた光学素子であって、光学異方性層の厚さ方向でねじれ角の大きさが互いに異なる光学異方性層を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の光学素子。
[9] 光学異方性層を、複数層、備えた光学素子であって、光学異方性層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転する方向が互いに同一である液晶配向パターンを有する[7]または[8]のいずれかに記載の光学素子。
[10] 前述の液晶配向パターンにおける前述の1周期の長さが50μm以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の光学素子。
[11] 導光板と、
導光板の表面に配置される、[1]~[10]のいずれかに記載の光学素子と、を有し、
光学素子は、導光板内における光の進行方向に向かって、光学異方性層の厚さ方向のねじれ角が漸次変化するように配置されている導光素子。
[12] 導光板と、
導光板の表面に配置され、光を回折して導光板内に入射させる第一回折素子と、
導光板内を伝播した光を回折して導光板の外部に出射させる第三回折素子と、
導光板内で、第一回折素子の位置から伝播した光を、第三回折素子の方向に回折する第二回折素子と、を有し、
第二回折素子又は第三回折素子の少なくとも1つが[1]~[10]のいずれかに記載の光学素子である導光素子。
[13] [11]または[12]に記載の導光素子と、導光素子に画像を照射する表示素子とを有する画像表示装置。
[14] 表示素子が円偏光を出射する[13]に記載の画像表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学素子は、面内における透過光量の屈折角度依存性が小さく、面内の異なる領域において入射した光を異なる角度に屈折した場合、透過光を明るくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の光学素子の一例を概念的に示す図である。
【
図2】
図1に示す光学素子の光学異方性層を概念的に示す図である。
【
図3】
図1に示す光学素子の光学異方性層の平面図である。
【
図4】
図1に示す光学素子の光学異方性層の作用を示す概念図である。
【
図5】
図1に示す光学素子の光学異方性層の作用を示す概念図である。
【
図6】
図1に示す光学素子の作用を示す概念図である。
【
図7】
図1に示す光学素子の配向膜を露光する露光装置の一例を概念的に示す図である。
【
図8】本発明の光学素子の光学異方性層の別の例の平面図である。
【
図9】
図8に示す光学異方性層を形成する配向膜を露光する露光装置の一例を概念的に示す図である。
【
図10】本発明の光学素子の光学異方性層の別の例を概念的に示す図である。
【
図11】光強度の測定方法を説明するための概念図である。
【
図12】本発明の光学素子を有する画像表示装置の一例を模式的に示す図である。
【
図13】位置と出射光の光強度との関係を模式的に表すグラフである。
【
図14】位置と回折効率との関係を表す模式的なグラフである。
【
図15】本発明の光学素子を有する導光素子の他の一例を模式的に表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光学素子について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0015】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
本明細書において、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」および「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0016】
本明細書において、可視光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、380~780nmの波長域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長域および780nmを超える波長域の光である。
またこれに限定されるものではないが、可視光のうち、420~490nmの波長域の光は青色光であり、495~570nmの波長域の光は緑色光であり、620~750nmの波長域の光は赤色光である。
【0017】
本明細書において、Re(λ)は、波長λにおける面内のレタデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本明細書において、Re(λ)は、AxoScan(Axometrics社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScanで算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
【0018】
本発明の光学素子は、液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備え、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、かつ、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、厚さ方向のねじれ角の大きさが面内で異なる領域を有する。なお、厚さ方向とは、すなわち、主面(最大面)と直交する方向である。
後に詳述するが、本発明の光学素子は、このような構成を有することにより、面内における透過光量の屈折角度依存性が小さく、面内の異なる領域において入射した光を異なる角度に屈折した場合、透過光を明るくすることができる。
【0019】
[光学素子の第1の態様]
図1に、本発明の光学素子の一例を概念的に示す。
図示例の光学素子10は、第1光学異方性部材12を有する。
前述のように、本発明の光学素子は、液晶化合物を含む組成物を用いて形成された、液晶化合物由来の光軸が回転する所定の液晶配向パターンを有する光学異方性層を、厚さ方向に配列したものである。第1光学異方性部材12は、支持体20、配向膜24Aおよび第1光学異方性層26A、を有する。
【0020】
また、図示例の光学素子10は、光学異方性部材に支持体20を有しているが、本発明の光学素子は、光学異方性部材に支持体20を設けなくてもよい。
例えば、本発明の光学素子は、上記構成から、支持体20を剥離して、配向膜および光学異方性層のみで、または、配向膜も剥離して、光学異方性層のみで、本発明の光学素子を構成してもよい。
【0021】
すなわち、本発明の光学素子は、光学異方性層が、液晶化合物由来の光軸の向きが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有し、さらに、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、かつ、回転のねじれ角の大きさが面内で異なる領域を有するものであれば、各種の層構成が利用可能である。
以上の点に関しては、後述する本発明の各態様の光学素子も、全て、同様である。
【0022】
<光学異方性部材>
本発明の光学素子10は、第1光学異方性部材12を設けたものである。
前述のように、第1光学異方性部材12は、支持体20、配向膜24Aおよび第1光学異方性層26A、を有する。
【0023】
<<支持体>>
第1光学異方性部材12において、支持体20は、配向膜24A、ならびに、第1光学異方性層26Aを支持するものである。
以下の説明では、配向膜を他の配向膜と区別する必要がない場合には、単に『配向膜』とも言う。また、以下の説明では、光学異方性層を他の光学異方性層と区別する必要がない場合には、単に『光学異方性層』とも言う。
【0024】
支持体20は、配向膜および光学異方性層を支持できるものであれば、各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能である。
支持体20としては、透明支持体が好ましく、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル系樹脂フィルム、セルローストリアセテート等のセルロース系樹脂フィルム、シクロオレフィンポリマー系フィルム(例えば、商品名「アートン」、JSR社製、商品名「ゼオノア」、日本ゼオン社製)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、および、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。支持体は、可撓性のフィルムに限らず、ガラス基板等の非可撓性の基板であってもよい。
また、支持体20は、多層のものであってもよく、多層の支持体としては、上述した支持体のいずれかなどを基板として含み、この基板の表面に他の層を設けたもの等が例示される。
【0025】
支持体20の厚さには、制限はなく、光学素子10の用途および支持体20の形成材料等に応じて、配向膜および光学異方性層を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体20の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~250μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましい。
【0026】
<<配向膜>>
第1光学異方性部材12において、支持体20の表面には配向膜24Aが形成される。
配向膜24Aは、第1光学異方性部材12の第1光学異方性層26Aを形成する際に、液晶化合物30を所定の液晶配向パターンに配向するための配向膜である。
【0027】
後述するが、本発明の光学素子10において、光学異方性層は、液晶化合物30に由来する光軸30A(
図3参照)の向きが、面内の一方向(後述する矢印X方向)に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。従って、各光学異方性部材の配向膜は、光学異方性層が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
また、液晶配向パターンにおける、光学軸30Aの向きが連続的に回転しながら変化する一方向において、光学軸30Aの向きが180°回転する長さを1周期Λ(光学軸の回転周期)とする。
【0028】
以下の説明では、『光軸30Aの向きが回転』を単に『光軸30Aが回転』とも言う。
【0029】
配向膜は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマーなどの有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルなどの有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等が例示される。
【0030】
ラビング処理による配向膜は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に数回こすることにより形成できる。配向膜に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-97377号公報、特開2005-99228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜等の形成に用いられる材料が好ましく例示される。
【0031】
本発明の光学素子10においては、配向膜は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜が好適に利用される。すなわち、本発明の光学素子10においては、配向膜として、支持体20上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜が、好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0032】
本発明に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号および特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性エステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物等が、好ましい例として例示される。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性エステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0033】
配向膜の厚さには制限はなく、配向膜の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
配向膜の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0034】
配向膜の形成方法には、制限はなく、配向膜の形成材料に応じた公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、配向膜を支持体20の表面に塗布して乾燥させた後、配向膜をレーザ光によって露光して、配向パターンを形成する方法が例示される。
【0035】
図7に、配向膜を露光して配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。なお、
図7に示す例では、一例として、第1光学異方性部材12の配向膜24Aの露光を例示している。
【0036】
図7に示す露光装置60は、レーザ62を備えた光源64と、レーザ62が出射したレーザ光Mの偏光方向を変えるλ/2板65と、レーザ62から出射したレーザ光Mを光線MAおよびMBの2つに分離するビームスプリッター68と、分離された2つの光線MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、λ/4板72Aおよび72Bと、を備える。
なお、図示は省略するが、光源64は直線偏光P
0を出射する。λ/4板72Aは、直線偏光P
0(光線MA)を右円偏光P
Rに、λ/4板72Bは直線偏光P
0(光線MB)を左円偏光P
Lに、それぞれ変換する。
【0037】
配向パターンを形成される前の配向膜24Aを有する支持体20が露光部に配置され、2つの光線MAと光線MBとを配向膜24A上において交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜24Aに照射して露光する。
この際の干渉により、配向膜24Aに照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、配向膜24Aにおいて、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。すなわち、配向状態が周期的に変化する配向パターンを有する配向膜(以下、パターン配向膜ともいう)が得られる。
露光装置60においては、2つの光線MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置60においては、交差角αを調節することにより、液晶化合物30に由来する光軸30Aが一方向に沿って連続的に回転する配向パターンにおいて、光軸30Aが回転する1方向における、光軸30Aが180°回転する1周期の長さ(1周期Λ)を調節できる。
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有するパターン配向膜上に、光学異方性層を形成することにより、後述するように、液晶化合物30に由来する光軸30Aが一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有する、第1光学異方性層26Aを形成できる。
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を各々90°回転することにより、光軸30Aの回転方向を逆にすることができる。
【0038】
上述のとおり、パターン配向膜は、パターン配向膜の上に形成される光学異方性層中の液晶化合物の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンとなるように、液晶化合物を配向させる配向パターンを有する。パターン配向膜が、液晶化合物を配向させる向きに沿った軸を配向軸とすると、パターン配向膜は、配向軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している配向パターンを有するといえる。パターン配向膜の配向軸は、吸収異方性を測定することで検出することができる。例えば、パターン配向膜に直線偏光を回転させながら照射して、パターン配向膜を透過する光の光量を測定した際に、光量が最大または最小となる向きが、面内の一方向に沿って漸次変化して観測される。
【0039】
なお、本発明の光学素子において、配向膜は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体20をラビング処理する方法、支持体20をレーザ光等で加工する方法等によって、支持体20に配向パターンを形成することにより、第1光学異方性層26A等が、液晶化合物30に由来する光軸30Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する構成とすることも、可能である。
【0040】
<<光学異方性層>>
第1光学異方性部材12において、配向膜24Aの表面には、第1光学異方性層26Aが形成される。
なお、後述する
図4および
図5においては、図面を簡略化して光学素子10の構成を明確に示すために、第1光学異方性層26Aは、配向膜の表面の液晶化合物30(液晶化合物分子)のみを示している。しかしながら、第1光学異方性層26Aは、
図2に第1光学異方性層26Aを例示して概念的に示すように、通常の液晶化合物を含む組成物を用いて形成された光学異方性層と同様に、配向された液晶化合物30が積み重ねられた構造を有する。
【0041】
前述のように、本発明の光学素子10において、光学異方性層(第1光学異方性層26A)は、液晶化合物を含む組成物を用いて形成されたものである。
光学異方性層は、面内レタデーションの値をλ/2に設定した場合に、一般的なλ/2板としての機能、すなわち、光学異方性層に入射した光に含まれる互いに直交する2つの直線偏光成分に半波長すなわち180°の位相差を与える機能を有している。
ここで、光学異方性層は、面方向において液晶化合物が回転して配向されているため、入射した円偏光を光学軸の向きが連続的に回転している向きに屈折(回折)させて透過する。その際、入射する円偏光の旋回方向に応じて回折する方向が異なる。
すなわち、光学異方性層は、円偏光を透過し、かつ、この透過光を回折する。
また、光学異方性層は、透過した円偏光の旋回方向を逆方向に変化させる。
【0042】
光学異方性層は、光学異方性層の面内において、液晶化合物に由来する光軸の向きが、矢印Xで示す一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
なお、液晶化合物30に由来する光軸30Aとは、液晶化合物30において屈折率が最も高くなる軸、いわゆる遅相軸である。例えば、液晶化合物30が棒状液晶化合物である場合には、光軸30Aは、棒形状の長軸方向に沿っている。
以下の説明では、『矢印Xで示す一方向』を単に『矢印X方向』とも言う。また、以下の説明では、液晶化合物30に由来する光軸30Aを、『液晶化合物30の光軸30A』または『光軸30A』とも言う。
光学異方性層において、液晶化合物30は、それぞれ、光学異方性層において、矢印X方向と、この矢印X方向と直交するY方向とに平行な面内に二次元的に配向している。なお、
図1、
図2、後述する
図4~
図6では、Y方向は、紙面に垂直な方向となる。
【0043】
図3に、第1光学異方性層26Aの平面図を概念的に示す。
なお、平面図とは、
図1において、光学素子10を上方から見た図であり、すなわち、光学素子10を厚さ方向(=各層(膜)の積層方向)から見た図である。言い換えれば、第1光学異方性層26Aを主面と直交する方向から見た図である。
また、
図3では、本発明の光学素子10の構成を明確に示すために、液晶化合物30は配向膜24Aの表面の液晶化合物30のみを示している。しかしながら、第1光学異方性層26Aは、厚さ方向には、
図2に示されるように、この配向膜24Aの表面の液晶化合物30から、液晶化合物30が積み重ねられた構造を有するのは、前述のとおりである。
【0044】
なお、
図3では、第1光学異方性層26Aの面内の一部を代表例として説明するが、後述する光学異方性層も液晶配向パターンの1周期の長さ(1周期Λ)が異なる以外は、基本的に、同様の構成および作用効果を有する。
【0045】
第1光学異方性層26Aは、第1光学異方性層26Aの面内において、液晶化合物30に由来する光軸30Aの向きが、矢印X方向に沿って連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
液晶化合物30の光軸30Aの向きが矢印X方向(所定の一方向)に連続的に回転しながら変化しているとは、具体的には、矢印X方向に沿って配列されている液晶化合物30の光軸30Aと、矢印X方向とが成す角度が、矢印X方向の位置によって異なっており、矢印X方向に沿って、光軸30Aと矢印X方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、順次、変化していることを意味する。
なお、矢印X方向に互いに隣接する液晶化合物30の光軸30Aの角度の差は、45°以下であるのが好ましく、15°以下であるのがより好ましく、より小さい角度であるのがさらに好ましい。
【0046】
一方、第1光学異方性層26Aを形成する液晶化合物30は、矢印X方向と直交するY方向、すなわち光軸30Aが連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光軸30Aの向きが等しい液晶化合物30が等間隔で配列されている。
言い換えれば、第1光学異方性層26Aを形成する液晶化合物30において、Y方向に配列される液晶化合物30同士では、光軸30Aの向きと矢印X方向とが成す角度が等しい。
【0047】
本発明の光学素子10においては、このような液晶化合物30の液晶配向パターンにおいて、面内で光軸30Aの向きが連続的に回転して変化する矢印X方向において、液晶化合物30の光軸30Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。言い換えれば、液晶配向パターンにおける1周期の長さは、液晶化合物30の光軸30Aと矢印X方向とのなす角度がθからθ+180°となるまでの距離により定義される。
すなわち、矢印X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物30の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。具体的には、
図3に示すように、矢印X方向と光軸30Aの方向とが一致する2つの液晶化合物30の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを『1周期Λ』とも言う。
本発明の光学素子10において、光学異方性層の液晶配向パターンは、この1周期Λを、矢印X方向すなわち光軸30Aの向きが連続的に回転して変化する一方向に繰り返す。
【0048】
前述のように光学異方性層において、Y方向に配列される液晶化合物は、光軸30Aと矢印X方向(液晶化合物30の光軸の向きが回転する1方向)とが成す角度が等しい。この光軸30Aと矢印X方向とが成す角度が等しい液晶化合物30が、Y方向に配置された領域を、領域Rとする。
この場合に、それぞれの領域Rにおける面内レタデーション(Re)の値は、半波長すなわちλ/2であるのが好ましい。これらの面内レタデーションは、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnと光学異方性層の厚さとの積により算出される。ここで、光学異方性層における領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差とは、領域Rの面内における遅相軸の方向の屈折率と、遅相軸の方向に直交する方向の屈折率との差により定義される屈折率差である。すなわち、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnは、光軸30Aの方向の液晶化合物30の屈折率と、領域Rの面内において光軸30Aに垂直な方向の液晶化合物30の屈折率との差に等しい。つまり、上記屈折率差Δnは、液晶化合物の屈折率差に等しい。
【0049】
このような光学異方性層(第1光学異方性層26A)に円偏光が入射すると、光は、屈折され、かつ、円偏光の方向が変換される。
この作用を、
図4に第1光学異方性層26Aを例示して概念的に示す。なお、第1光学異方性層26Aは、液晶化合物の屈折率差と光学異方性層の厚さとの積の値がλ/2であるとする。
図4に示すように、第1光学異方性層26Aの液晶化合物の屈折率差と光学異方性層の厚さとの積の値がλ/2の場合に、第1光学異方性層26Aに左円偏光である入射光L
1が入射すると、入射光L
1は、第1光学異方性層26Aを通過することにより180°の位相差が与えられて、透過光L
2は、右円偏光に変換される。
また、入射光L
1は、第1光学異方性層26Aを通過する際に、それぞれの液晶化合物30の光軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光軸30Aの向きは、矢印X方向に沿って回転しながら変化しているため、光軸30Aの向きに応じて、入射光L
1の絶対位相の変化量が異なる。さらに、第1光学異方性層26Aに形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンであるため、第1光学異方性層26Aを通過した入射光L
1には、
図4に示すように、それぞれの光軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q1が与えられる。これにより、矢印X方向に対して逆の方向に傾いた等位相面E1が形成される。
そのため、透過光L
2は、等位相面E1に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
1の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、左円偏光の入射光L
1は、入射方向に対して矢印X方向に一定の角度だけ傾いた、右円偏光の透過光L
2に変換される。
【0050】
一方、
図5に概念的に示すように、第1光学異方性層26Aの液晶化合物の屈折率差と光学異方性層の厚さとの積の値がλ/2のとき、第1光学異方性層26Aに右円偏光の入射光L
4が入射すると、入射光L
4は、第1光学異方性層26Aを通過することにより、180°の位相差が与えられて、左円偏光の透過光L
5に変換される。
また、入射光L
4は、第1光学異方性層26Aを通過する際に、それぞれの液晶化合物30の光軸30Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光軸30Aの向きは、矢印X方向に沿って回転しながら変化しているため、光軸30Aの向きに応じて、入射光L
4の絶対位相の変化量が異なる。さらに、第1光学異方性層26Aに形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンであるため、第1光学異方性層26Aを通過した入射光L
4は、
図5に示すように、それぞれの光軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q2が与えられる。
ここで、入射光L
4は、右円偏光であるので、光軸30Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q2は、左円偏光である入射光L
1とは逆になる。その結果、入射光L
4では、入射光L
1とは逆に矢印X方向に傾斜した等位相面E2が形成される。
そのため、入射光L
4は、等位相面E2に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
4の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、入射光L
4は、入射方向に対して矢印X方向とは逆の方向に一定の角度だけ傾いた左円偏光の透過光L
5に変換される。
【0051】
第1光学異方性層26Aにおいて、複数の領域Rの面内レタデーションの値は、半波長であるのが好ましいが、波長が550nmである入射光に対する第1光学異方性層26Aの複数の領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dが下記式(1)に規定される範囲内であるのが好ましい。ここで、Δn550は、入射光の波長が550nmである場合の、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差であり、dは、第1光学異方性層26Aの厚さである。
200nm≦Δn550×d≦350nm・・・(1)
すなわち、第1光学異方性層26Aの複数の領域Rの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dが式(1)を満たしていれば、第1光学異方性層26Aに入射した光の十分な量の円偏光成分を、矢印X方向に対して順方向または逆方向に傾いた方向に進行する円偏光に変換することができる。面内レタデーションRe(550)=Δn550×dは、225nm≦Δn550×d≦340nmがより好ましく、250nm≦Δn550×d≦330nmがさらに好ましい。
なお、上記式(1)は波長550nmである入射光に対する範囲であるが、波長がλnmである入射光に対する光学異方性層の複数の領域Rの面内レタデーションRe(λ)=Δnλ×dは下記式(1-2)に規定される範囲内であるのが好ましく、適宜設定することができる。
0.7×(λ/2)nm≦Δnλ×d≦1.3×(λ/2)nm・・・(1-2)
【0052】
また、第1光学異方性層26Aにおける、複数の領域Rの面内レタデーションの値は、上記式(1)の範囲外で用いることもできる。具体的には、Δn550×d<200nmまたは350nm<Δn550×dとすることで、入射光の進行方向と同一の方向に進行する光と、入射光の進行方向とは異なる方向に進行する光に分けることができる。Δn550×dが0nmまたは550nmに近づくと入射光の進行方向と同一の方向に進行する光の成分は増加し、入射光の進行方向とは異なる方向に進行する光の成分は減少する。
【0053】
さらに、波長が450nmの入射光に対する第1光学異方性層26Aの領域Rのそれぞれの面内レタデーションRe(450)=Δn450×dと、波長が550nmの入射光に対する第1光学異方性層26Aの領域Rのそれぞれの面内レタデーションRe(550)=Δn550×dは、下記式(2)を満たすのが好ましい。ここで、Δn450は、入射光の波長が450nmである場合の、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差である。
(Δn450×d)/(Δn550×d)<1.0・・・(2)
式(2)は、第1光学異方性層26Aに含まれる液晶化合物30が逆分散性を有していることを表している。すなわち、式(2)が満たされることにより、第1光学異方性層26Aは、広帯域の波長の入射光に対応できる。
【0054】
ここで、第1光学異方性層26Aに形成された液晶配向パターンの1周期Λを変化させることにより、透過光L2およびL5の屈折の角度を調節できる。具体的には、液晶配向パターンの1周期Λが短いほど、互いに隣接した液晶化合物30を通過した光同士が強く干渉するため、透過光L2およびL5を大きく屈折させることができる。
さらに、矢印X方向に沿って回転する、液晶化合物30の光軸30Aの回転方向を逆方向にすることにより、透過光の屈折の方向を、逆方向にできる。
【0055】
さらに、第1光学異方性層26は、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、厚さ方向のねじれ角が異なる領域を有する。この点については後に詳述する。
【0056】
光学異方性層は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなり、棒状液晶化合物の光軸または円盤状液晶化合物の光軸が、上述のように配向された液晶配向パターンを有している。
支持体20上に配向膜を形成し、配向膜上に液晶組成物を塗布、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる光学異方性層を得ることができる。なお、いわゆるλ/2板として機能するのは光学異方性層であるが、本発明は、支持体20および配向膜を一体的に備えた積層体がλ/2板として機能する態様を含む。
また、光学異方性層を形成するための液晶組成物は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含有し、さらに、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。
【0057】
また、光学異方性層は、入射光の波長に対して広帯域であることが望ましく、複屈折率が逆分散となる液晶材料を用いて構成されていることが好ましい。また、液晶組成物に捩れ成分を付与することにより、また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して光学異方性層を実質的に広帯域にすることも好ましい。例えば、光学異方性層において、捩れ方向が異なる2層の液晶を積層することによって広帯域のパターン化されたλ/2板を実現する方法が特開2014-089476号公報等に示されており、本発明において好ましく使用することができる。
【0058】
―棒状液晶化合物―
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性分子だけではなく、高分子液晶性分子も用いることができる。
【0059】
棒状液晶化合物を重合によって配向を固定することがより好ましく、重合性棒状液晶化合物としては、Makromol. Chem., 190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開第95/22586号、同95/24455号、同97/00600号、同98/23580号、同98/52905号、特開平1-272551号公報、同6-16616号公報、同7-110469号公報、同11-80081号公報、および、特願2001-64627号公報などに記載の化合物を用いることができる。さらに棒状液晶化合物としては、例えば、特表平11-513019号公報および特開2007-279688号公報に記載のものも好ましく用いることができる。
【0060】
―円盤状液晶化合物―
円盤状液晶化合物としては、例えば、特開2007-108732号公報および特開2010-244038号公報に記載のものを好ましく用いることができる。
なお、光学異方性層に円盤状液晶化合物を用いた場合には、光学異方性層において、液晶化合物30は厚さ方向に立ち上がっており、液晶化合物に由来する光軸30Aは、円盤面に垂直な軸、いわゆる進相軸として定義される(
図10参照)。
【0061】
―光反応型カイラル剤―
本発明の光反応型カイラル剤は、例えば、下記一般式(I)で表される化合物からなり、液晶性化合物の配向構造を制御し得ると共に、光の照射により液晶化合物の螺旋ピッチ、即ち螺旋構造の捻れ力(HTP:ヘリカルツイスティングパワー)を変化させることができる特質を有する。即ち、液晶性化合物、好ましくはネマチック液晶化合物に誘起する螺旋構造の捻れ力の変化を光照射(紫外線~可視光線~赤外線)によって起こさせる化合物であり、必要な部位(分子構造単位)として、カイラル部位(キラル部位)と光の照射によって構造変化を生じる部位とを有する。しかも、下記一般式(I)で表される光反応型カイラル剤は、特に液晶分子のHTPを大きく変化させることができる。
【0062】
尚、前述のHTPは、液晶の螺旋構造の捻れ力、即ち、HTP=1/(ピッチ×キラル剤濃度〔質量分率〕)を表し、例えば、ある温度での液晶分子の螺旋ピッチ(螺旋構造の一周期;μm)を測定し、この値をカイラル剤(キラル剤)の濃度から換算〔μm-1〕して求めることができる。光反応型カイラル剤により光の照度により選択反射色を形成する場合、前述のHTPの変化率(=照射前のHTP/照射後のHTP)としては、照射後にHTPがより小さくなる場合には1.5以上が好ましく、更に2.5以上がより好ましく、照射後にHTPがより大きくなる場合には0.7以下が好ましく、更に0.4以下がより好ましい。
【0063】
次に、一般式(I)で表される化合物について説明する。
一般式(I)
【0064】
【0065】
前述の式中、Rは、水素原子、炭素数1~15のアルコキシ基、総炭素数3~15のアクリロイルオキシアルキルオキシ基、総炭素数4~15のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表す。
前述の炭素数1~15のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数1~12のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基が特に好ましい。
【0066】
前述の総炭素数3~15のアクリロイルオキシアルキルオキシ基としては、例えば、アクリロイルオキシエチルオキシ基、アクリロイルオキシブチルオキシ基、アクリロイルオキシデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数5~13のアクリロイルオキシアルキルオキシ基が好ましく、炭素数5~11のアクリロイルオキシアルキルオキシ基が特に好ましい。
【0067】
前述の総炭素数4~15のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基としては、例えば、メタクリロイルオキシエチルオキシ基、メタクリロイルオキシブチルオキシ基、メタクリロイルオキシデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数6~14のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基が好ましく、炭素数6~12のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基が特に好ましい。
【0068】
前述の一般式(I)で表される光反応型カイラル剤の分子量としては、300以上が好ましい。また、後述する液晶性化合物との溶解性の高いものが好ましく、その溶解度パラメータSP値が、液晶性化合物に近似するものがより好ましい。
【0069】
以下、前述の一般式(I)で表される化合物の具体例(例示化合物(1)~(15))を示すが、本発明においてはこれらに制限されるものではない。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
本発明において、光反応型カイラル剤としては、例えば、下記一般式(II)で表される光反応型光学活性化合物も用いられる。
【0074】
一般式(II)
【0075】
【0076】
前述の式中、Rは、水素原子、炭素数1~15のアルコキシ基、総炭素数3~15のアクリロイルオキシアルキルオキシ基、総炭素数4~15のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表す。
前述の炭素数1~15のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数1~10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基が特に好ましい。
【0077】
前述の総炭素数3~15のアクリロイルオキシアルキルオキシ基としては、例えば、アクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシエチルオキシ基、アクリロイルオキシプロピルオキシ基、アクリロイルオキシヘキシルオキシ基、アクリロイルオキシブチルオキシ基、アクリロイルオキシデシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数3~13のアクリロイルオキシアルキルオキシ基が好ましく、炭素数3~11のアクリロイルオキシアルキルオキシ基が特に好ましい。
【0078】
前述の総炭素数4~15のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基としては、例えば、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシエチルオキシ基、メタクリロイルオキシヘキシルオキシ基等が挙げられ、中でも、炭素数4~14のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基が好ましく、炭素数4~12のメタクリロイルオキシアルキルオキシ基が特に好ましい。
【0079】
前述の一般式(II)で表される光反応型光学活性化合物の分子量としては、300以上が好ましい。また、後述する液晶性化合物との溶解性の高いものが好ましく、その溶解度パラメータSP値が、液晶性化合物に近似するものがより好ましい。
【0080】
以下、前述の一般式(II)で表される光反応型光学活性化合物の具体例(例示化合物(21)~(32))を示すが、本発明においてはこれらに制限されるものではない。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
また、光反応型カイラル剤は、捻れ力の温度依存性が大きいカイラル化合物など、光反応性のないカイラル剤と併用することもできる。前述の光反応性のない公知のキラル剤としては、例えば、特開2000-44451号、特表平10-509726号、WO98/00428、特表2000-506873号、特表平9-506088号、Liquid Crystals(1996、21、327)、Liquid Crystals(1998、24、219)等に記載のキラル剤が挙げられる。
【0085】
<光学素子の作用>
前述のように、液晶化合物を含む組成物を用いて形成された、光軸30Aの方向が矢印X方向に沿って回転する液晶配向パターンを有する光学異方性層は、円偏光を屈折させるが、液晶配向パターンの1周期Λが小さいほど、屈折の角度が大きい。
そのため、例えば、面内の異なる領域で液晶配向パターンの1周期Λが異なるようにパターンを形成した場合には、面内の異なる領域において入射し、異なる角度に屈折した光は屈折した角度によって透過光の明るさが変わってしまう。特に、屈折した角度が大きい透過光が暗くなる。
【0086】
これに対し、本発明の光学素子は、光学異方性層が、液晶化合物由来の光軸の向きが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有し、さらに、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、かつ、回転のねじれ角が面内で異なる領域を有する。液晶化合物の光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する構造は、液晶組成物に上述のキラル剤を添加することによって形成することができる。また、面内の領域ごとに厚さ方向のねじれ角が異なる構成は、液晶組成物に上述の光反応性カイラル剤を添加して、領域ごとに異なる照射量の光を照射することで形成することができる。
このような本発明の光学素子によれば、面内における透過光量の屈折角度依存性が小さく、例えば、面内の異なる領域において入射した光を異なる角度に屈折した場合、透過光を明るくすることができる。
【0087】
以下、
図6の概念図を参照して、光学素子10の作用を詳細に説明する。
なお、本発明の光学素子において、光学的な作用を発現するのは、基本的に、光学異方性層のみである。そのため、図面を簡略化して、構成および作用効果を明確に示すために、
図6では、第1光学異方性部材12は、第1光学異方性層26Aのみを示す。
【0088】
前述のように、光学素子10は、第1光学異方性層26Aを有する第1光学異方性部材12を設けたものである。
光学素子10は、一例として、円偏光を対象として、入射光を所定の方向に屈折して透過させる。なお、
図6では、入射光を左円偏光としている。
【0089】
図6に示す部分において、光学異方性層26Aは、
図6中左側から3つの領域A0、A1、A2を有し、各領域で1周期の長さΛが異なっている。具体的には、1周期の長さΛは、領域A0、A1、A2の順に短くなっている。また、領域A1およびA2は、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転した構造(以下、ねじれ構造ともいう)を有している。領域A1の厚さ方向のねじれ角は、領域A2の厚さ方向のねじれ角よりも小さい。なお、領域A0はねじれ構造を有していない領域である(すなわち、ねじれ角が0°である)。
なお、ねじれ角は、厚さ方向全体でのねじれ角とする。
【0090】
光学素子10において、左円偏光LC1が第1光学異方性層26Aの面内の領域A1に入射すると、前述のように、入射方向に対して、矢印X方向に、すなわち、液晶化合物の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化している一方向に所定角度、屈折されて透過する。同様に左円偏光LC2が第1光学異方性層26Aの面内の領域A2に入射すると、入射方向に対して、矢印X方向に所定角度、屈折されて透過する。同様に左円偏光LC0が第1光学異方性層26Aの面内の領域A0に入射すると、入射方向に対して、矢印X方向に所定角度、屈折されて透過する。
ここで、第1光学異方性層26Aによる屈折の角度は、領域A1の液晶配向パターンの1周期Λ
A1よりも、領域A2の液晶配向パターンの1周期Λ
A2が短いため、
図6に示すように、入射光に対する屈折の角度は、領域A2の透過光の角度θ
A2の方が領域A1の透過光の角度θ
A1よりも大きくなる。また、領域A1の液晶配向パターンの1周期Λ
A1よりも、領域A0の液晶配向パターンの1周期Λ
A0が長いため、
図6に示すように、入射光に対する屈折の角度は、領域A0の透過光の角度θ
A0の方が領域A1の透過光の角度θ
A1よりも小さくなる。
【0091】
ここで、面内で液晶化合物の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する光学異方性層による光の回折では、回折角度が大きくなると回折効率が低下する、すなわち回折光の強度が弱くなるという問題がある。
そのため、光学異方性層を、液晶化合物の光学軸の向きが面内で180°回転する1周期の長さが異なる領域を有する構成とした場合には、光の入射位置によって回折角度が異なるため、面内の入射位置によって回折光の光量に差が生じる。すなわち、面内の入射位置によって、透過、回折した光が暗くなる領域が生じるという問題があることがわかった。
【0092】
これに対して、本発明の光学素子は、光学異方性層が厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、厚さ方向のねじれ角の大きさが異なる領域を有する。
図6に示す例では、第1光学異方性層26Aの領域A2の厚さ方向のねじれ角φ
A2は領域A1の厚さ方向のねじれ角φ
A1よりも大きい。また、領域A0は厚さ方向のねじれ構造を有していない。
これにより、屈折された光の回折効率の低下を抑制することができる。
図6に示す例では、回折角度が領域A0よりも大きい領域A1およびA2にねじれ構造を付与することで、領域A1、A2で屈折された光の光量の低下を抑制することができる。また、領域A1よりも回折角度が大きい領域A2のねじれ構造のねじれ角を、領域A1よりも大きくすることで、領域A2で屈折された光の光量の低下を抑制することができる。これによって、面内の入射位置によって、透過した光の光量が均一になるようにすることができる。
【0093】
このように、本発明の光学素子10では、光学異方性層による屈折が大きい面内の領域では、入射光は厚さ方向のねじれ角が大きい層内を透過し、屈折される。これに対して、光学異方性層による屈折が小さい面内の領域は、入射光は厚さ方向のねじれ角が小さい層内を透過して屈折される。
すなわち、光学素子10では、光学異方性層による屈折の大きさに応じて、面内における厚さ方向のねじれ角を設定することで、入射光に対する透過光を明るくすることができる。
そのため、本発明の光学素子10によれば、面内における透過光量の屈折角度依存性を小さくすることができる。
【0094】
前述のように、第1光学異方性層26Aの面内における屈折の光の角度は、液晶配向パターンの1周期Λが短いほど大きい。
また、第1光学異方性層26Aの面内における厚さ方向のねじれ角は、液晶配向パターンにおいて矢印X方向に沿って光軸30Aの向きが180°回転する1周期Λの短い領域の方が1周期Λの大きい領域よりも、大きい領域を有する。光学素子10では、一例として、
図6にも示すように、第1光学異方性層26Aの領域A2における液晶配向パターンの1周期Λ
A2が、領域A1における液晶配向パターンの1周期Λ
A1よりも短く、厚さ方向にねじれ角φ
A2は大きい。すなわち、光入射側の第1光学異方性層26Aの領域A2方が、大きく光を屈折させる。
従って、対象とする液晶配向パターンの1周期Λに対して、面内における厚さ方向のねじれ角φを設定することで、好適に、面内の異なる領域において異なる角度に屈折した透過光を明るくすることができる。
【0095】
本発明の光学素子においては、前述のように、液晶配向パターンの1周期Λが短いほど屈折の角度が大きいため、液晶配向パターンの1周期Λが短い領域ほど厚さ方向のねじれ角を大きくすることで透過光を明るくすることを可能にしている。
そのため、本発明の光学素子においては、液晶配向パターンの1周期の長さが異なる領域において、1周期の長さの順列と厚さ方向のねじれ角の大きさの順列が異なる領域を有することが好ましい。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、本発明の光学素子において、液晶配向パターンの1周期の長さが異なる領域において、1周期の長さの順列と厚さ方向のねじれ角の大きさの順列が一致する領域を有していてもよい。本発明の光学素子において、厚さ方向のねじれ角は、面内の液晶配向パターンの1周期Λに応じて、好ましい範囲を有しており、適宜、設定すればよい。
【0096】
また、本発明の光学素子では、厚さ方向のねじれ角の大きさが10°~360°である領域を有することが好ましい。
本発明の光学素子において、厚さ方向のねじれ角は、面内の液晶配向パターンの1周期Λに応じて、適宜、設定すればよい。
【0097】
ここで、
図1に示す例では、光学素子10は、光学異方性層を1層有する構成としたが、これに限定はされず、2層以上の光学異方性層を有していてもよい。
また、本発明の光学素子では、光学異方性層を2層以上有する場合には、厚さ方向でねじれて回転する方向(ねじれ角の向き)が互いに異なる光学異方性層をさらに有していてもよい。
例えば、液晶化合物由来の光軸の向きが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有し、さらに、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、かつ、回転のねじれ角が面内で異なる領域を有する光学異方性層であって、厚さ方向でねじれて回転する方向が互いに異なる光学異方性層を積層して用いてもよい。
このように、厚さ方向でねじれて回転する方向が異なる光学異方性層をさらに有することにより、厚さ方向でねじれ角を有する領域において、様々な偏光状態の入射光に対し、効率的に透過光を屈折することができる。
【0098】
ここで、厚さ方向でねじれて回転する方向が互いに異なる光学異方性層を有する場合には、厚さ方向のねじれ角が面内の領域ごとに同一であることが好ましい。
【0099】
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、本発明の光学素子において、厚さ方向のねじれ角にも制限はなく、光学素子の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0100】
また、厚さ方向でねじれて回転する方向が互いに異なる光学異方性層は、波長がλnmである入射光に対する光学異方性層の複数の領域Rの面内レタデーションRe(λ)=Δnλ×dが同一であることが好ましい。
【0101】
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、本発明の光学素子において、波長がλnmである入射光に対する光学異方性層の複数の領域Rの面内レタデーションRe(λ)=Δnλ×dにも制限はなく、光学素子の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0102】
本発明の光学素子において、光学異方性層の配向パターンにおける1周期Λにも、制限はなく、光学素子の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0103】
ここで、後述するとおり、本発明の光学素子は、一例として、ARグラスにおいて、ディスプレイが表示した光を屈折して導光板に導入する回折素子、および、導光板を伝播した光を屈折して導光板から使用者による観察位置に出射させる回折素子に、好適に利用される。特に、フルカラー画像に対応可能な光学素子は、ARグラスにおける回折素子として好適に利用可能である。
この際においては、導光板で光を全反射させるためには、入射光に対して、ある程度の大きな角度で光を屈折させて導光板に導入する必要がある。また、導光板を伝播してきた光を確実に出射させるためにも、入射光に対して、ある程度の大きな角度で光を屈折させる必要がある。
また、前述のように、光学異方性層による光の透過角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λを短くすることで、入射光に対する透過光の角度を大きくできる。
【0104】
この点を考慮すると、光学異方性層の液晶配向パターンにおける1周期Λは、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
なお、液晶配向パターンの精度等を考慮すると、光学異方性層の液晶配向パターンにおける1周期Λは、0.1μm以上とするのが好ましい。
【0105】
また、本発明の光学素子では、光学異方性層を2層以上有する場合には、厚さ方向でねじれて回転する方向が同一である光学異方性層をさらに有していてもよい。
例えば、液晶化合物由来の光軸の向きが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有し、さらに、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、かつ、厚さ方向でねじれて回転する方向が互いに同一である光学異方性層を積層して用いてもよい。
【0106】
ここで、厚さ方向でねじれて回転する方向が互いに同一である光学異方性層を積層して用いる場合、光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転するねじれ角は互いに異なることが好ましい。
このように、厚さ方向でねじれて回転する方向が同一であり、ねじれ角が互いに異なる光学異方性層をさらに有することにより、厚さ方向でねじれ角を有する領域において、様々な角度で入射した光の透過光を効率的に屈折(回折)することができる。よって、ARグラス等のAR表示デバイスなどに用いられる導光素子の回折素子に用いた場合に、広い視野角範囲で効率的に透過光を屈折(回折)することができる。
【0107】
また、本発明の光学素子では、光学異方性層を2層以上有する場合には、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転する方向が互いに同一である液晶配向パターンを有する光学異方性を2層以上有していてもよい。
【0108】
(ねじれ構造のねじれ角が異なる領域の形成方法)
光学異方性層において、ねじれ構造のねじれ角が異なる領域を有する構成は、光の照射によって、戻り異性化、二量化、ならびに、異性化および二量化等を生じて、螺旋誘起力(HTP:Helical Twisting Power)が変化するカイラル剤を用い、光学異方性層を形成する液晶組成物の硬化前、または、液晶組成物の硬化時、カイラル剤のHTPを変化させる波長の光を、領域ごとに照射量を変えて照射することで、形成できる。
例えば、光の照射によってHTPが小さくなるカイラル剤を用いることにより、光の照射によってカイラル剤のHTPが低下する。ここで、領域ごとに光の照射量を変えることで、例えば、照射量が多い領域では、HTPが大きく低下し、螺旋の誘起が小さくなるのでねじれ構造のねじれ角が小さくなる。一方、照射量が少ない領域では、HTPの低下が小さいため、ねじれ構造のねじれ角は大きくなる。
【0109】
領域ごとに光の照射量を変える方法には特に限定はなく、グラデーションマスクを介して光を照射する方法、領域ごとに照射時間を変える方法、あるいは、領域ごとに照射強度を変える方法等が利用可能である。
なお、グラデーションマスクとは、照射する光に対する透過率が面内で変化しているマスクである。
【0110】
図1~
図6に示す光学素子は、光学異方性層の液晶配向パターンにおける液晶化合物30の光軸30Aは、矢印X方向のみに沿って、連続して回転している。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、光学異方性層において、液晶化合物30の光軸30Aが一方向に沿って連続して回転するものであれば、各種の構成が利用可能である。
【0111】
一例として、
図8の平面図に概念的に示すような、液晶配向パターンが、液晶化合物30の光軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンである、光学異方性層34が例示される。言い換えれば、
図8に示す光学異方性層34の液晶配向パターンは、液晶化合物30の光軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向が、光学異方性層34の中心から放射状に設けられた液晶配向パターンである。
【0112】
なお、
図8においても、
図4と同様、配向膜の表面の液晶化合物30のみを示すが、光学異方性層34においては、
図2に示される例と同様に、この配向膜の表面の液晶化合物30から、液晶化合物30が積み重ねられた構造を有するのは、前述のとおりである。
【0113】
図8に示す光学異方性層34において、液晶化合物30の光軸(図示省略)は、液晶化合物30の長手方向である。
光学異方性層34では、液晶化合物30の光軸の向きは、光学異方性層34の中心から外側に向かう多数の方向、例えば、矢印A1で示す方向、矢印A2で示す方向、矢印A3で示す方向…に沿って、連続的に回転しながら変化している。
この液晶配向パターンを有する光学異方性層34に入射した円偏光は、液晶化合物30の光軸の向きが異なる個々の局所的な領域において、それぞれ、絶対位相が変化する。この際に、それぞれの絶対位相の変化量は、円偏光が入射した液晶化合物30の光軸の向きに応じて異なる。
【0114】
このような、同心円状の液晶配向パターン、すなわち、放射状に光軸が連続的に回転して変化する液晶配向パターンを有する光学異方性層34は、液晶化合物30の光軸の回転方向および入射する円偏光の方向に応じて、入射光を、発散光または集束光として透過できる。
すなわち、光学異方性層の液晶配向パターンを同心円状とすることにより、本発明の光学素子は、例えば、凸レンズまたは凹レンズとして機能を発現する。
【0115】
ここで、光学異方性層の液晶配向パターンを同心円状として、光学素子を凸レンズとして作用させる場合には、液晶配向パターンにおいて光軸が180°回転する1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くするのが好ましい。
前述のように、入射方向に対する光の屈折の角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、大きくなる。従って、液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くすることにより、光学異方性層34による光の集束力を、より向上でき、凸レンズとしての性能を、向上できる。
【0116】
なお、本発明においては、例えば凹レンズとする場合など、光学素子の用途によっては、液晶配向パターンにおいて光軸が180°回転する1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光軸が連続的に回転する方向を逆方向に回転させ、1方向の外方向に向かって、漸次、短くするのが好ましい。
前述のように、入射方向に対する光の屈折の角度は、液晶配向パターンにおける1周期Λが短いほど、大きくなる。従って、液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、短くすることにより、光学異方性層34による光の発散力を、より向上でき、凹レンズとしての性能を、向上できる。
【0117】
なお、本発明においては、例えば光学素子を凹レンズとする場合など、入射する円偏光の旋回方向を逆にするのも好ましい。
【0118】
本発明において、光学素子を凸レンズまたは凹レンズとして作用させる場合には、下記の式を満たすのが好ましい。
Φ(r)=(π/λ)[(r2+f2)1/2-f]
ここで、rは同心円の中心からの距離で式r=(x2+y2)1/2で表わされる。x、yは面内の位置を表し、(x、y)=(0、0)は同心円の中心を表す。Φ(r)は中心からの距離rにおける光軸の角度、λは波長、fは目的とする焦点距離を表わす。
【0119】
なお、本発明においては、逆に、同心円状の液晶配向パターンにおける1周期Λを、光学異方性層34の中心から、光軸が連続的に回転する1方向の外方向に向かって、漸次、長くしてもよい。
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合など、光学素子の用途によって、光軸が連続的に回転する1方向に向かって、1周期Λを、漸次、変更するのではなく、光軸が連続的に回転する1方向において、部分的に1周期Λが異なる領域を有する構成も利用可能である。
加えて、本発明の光学素子は、1周期Λが全面的に均一な光学異方性層と、1周期Λが異なる領域を有する光学異方性層とを有してもよい。この点に関しては、
図1に示すような、一方向のみに光軸が連続的に回転する構成でも、同様である。
【0120】
図9に、配向膜(例えば、配向膜24A、配向膜24Bおよび配向膜24C)に、このような同心円状の配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。
露光装置80は、レーザ82を備えた光源84と、レーザ82からのレーザ光MをS偏光MSとP偏光MPとに分割する偏光ビームスプリッター86と、P偏光MPの光路に配置されたミラー90AおよびS偏光MSの光路に配置されたミラー90Bと、S偏光MSの光路に配置されたレンズ92と、偏光ビームスプリッター94と、λ/4板96とを有する。
【0121】
偏光ビームスプリッター86で分割されたP偏光MPは、ミラー90Aによって反射されて、偏光ビームスプリッター94に入射する。他方、偏光ビームスプリッター86で分割されたS偏光MSは、ミラー90Bによって反射され、レンズ92によって集光されて偏光ビームスプリッター94に入射する。
P偏光MPおよびS偏光MSは、偏光ビームスプリッター94で合波されて、λ/4板96によって偏光方向に応じた右円偏光および左円偏光となって、支持体20の上の配向膜24に入射する。
ここで、右円偏光と左円偏光の干渉により、配向膜24に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。同心円の内側から外側に向かうにしたがい、左円偏光と右円偏光の交差角が変化するため、内側から外側に向かってピッチが変化する露光パターンが得られる。これにより、配向膜24において、配向状態が周期的に変化する同心円状の配向パターンが得られる。
【0122】
この露光装置80において、液晶化合物30の光軸が一方向に沿って連続的に180°回転する液晶配向パターンの1周期Λは、レンズ92の屈折力(レンズ92のFナンバー)レンズ92の焦点距離、および、レンズ92と配向膜24との距離等を変化させることで、制御できる。
また、レンズ92の屈折力(レンズ92のFナンバー)を調節することによって、光軸が連続的に回転する一方向において、液晶配向パターンの1周期の長さΛを変更できる。
具体的には、平行光と干渉させる、レンズ92で広げる光の広がり角によって、光軸が連続的に回転する一方向において、液晶配向パターンの1周期の長さΛを変えることができる。より具体的には、レンズ92の屈折力を弱くすると、平行光に近づくため、液晶配向パターンの1周期の長さΛは、内側から外側に向かって緩やかに短くなり、Fナンバーは大きくなる。逆に、レンズ92の屈折力を強めると、液晶配向パターンの1周期の長さΛは、内側から外側に向かって急に短くなり、Fナンバーは小さくなる。
【0123】
このように、光軸が連続的に回転する1方向において、光軸が180°回転する1周期Λを変更する構成は、
図1~6に示す、矢印X方向の一方向のみに液晶化合物30の光軸30Aが連続的に回転して変化する構成でも、利用可能である。
例えば、液晶配向パターンの1周期Λを、矢印X方向に向かって、漸次、短くすることにより、集光するように光を透過する光学素子を得ることができる。また、液晶配向パターンにおいて、光軸が180°回転する方向を逆にすることにより、矢印X方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。なお、入射する円偏光の旋回方向を逆にすることでも、矢印のX方向にのみ拡散するように光を透過する光学素子を得ることができる。
さらに、例えば透過光に光量分布を設けたい場合など、光学素子の用途によって、矢印X方向に向かって、1周期Λを漸次、変更するのではなく、矢印X方向において、部分的に1周期Λが異なる領域を有する構成も利用可能である。例えば、部分的に1周期Λを変更する方法として、集光したレーザー光の偏光方向を任意に変えながら、光配向膜をスキャン露光してパターニングする方法等を利用することができる。
【0124】
[導光素子および画像表示装置]
本発明の光学素子は、ARグラス等に用いられる導光素子の回折素子として用いられる。
【0125】
図12に、本発明の光学素子を用いる導光素子、および、画像表示装置(AR表示デバイス)の一例を概念的に示す。
図12に示すAR表示デバイス50は、ディスプレイ(表示素子)40と、導光素子45とを有する。
【0126】
導光素子45は、本発明の光学素子10と、導光板44と、回折素子42と、を有する。
導光板44は、一方向に長尺な直方体形状で内部で光を導光する。
図12に示すように、導光板44の長手方向の一方の端部側の表面(主面)には回折素子42が配置されている。また、導光板44の他方の端部側の表面には光学素子10が配置されている。回折素子42の配置位置は導光板44の光の入射位置に対応し、光学素子10の配置位置は、導光板44の光の出射位置に対応する。また、回折素子42および光学素子10は、導光板44の異なる表面に配置されている。
【0127】
導光板44としては特に限定はなく、画像表示装置等で用いられている従来公知の導光板を用いることができる。
【0128】
回折素子42はディスプレイ40から照射され、導光板44内に入射した光を導光板44内で全反射するように回折する回折素子である。
回折素子42としては限定はなく、レリーフ型の回折素子、液晶を用いた回折素子、体積ホログラム素子等のAR表示デバイスで用いられている回折素子が各種利用可能である。
また、回折素子42は反射型の回折素子に限定はされず、透過型の回折素子であってもよい。回折素子42が透過型の回折素子の場合、回折素子42は、導光板44の、ディスプレイ40に対向する面に配置される。
【0129】
図12に示すように、ディスプレイ40は、導光板44の一方の端部の、回折素子42が配置された表面とは反対側の表面に対面して配置される。また、導光板44の一方の端部の、光学素子10が配置された表面側が使用者Uの観察位置となる。
なお、以下の説明において、導光板44の長手方向をX方向、X方向に垂直な方向で、光学素子10の表面に垂直な方向をZ方向とする。Z方向は、光学素子10における各層の積層方向でもある(
図1参照)。
【0130】
ディスプレイ40には、制限はなく、例えば、ARグラス等のAR表示デバイスに用いられる公知のディスプレイが、各種、利用可能である。
ディスプレイ40としては、一例として、液晶ディスプレイ(LCOS:Liquid Crystal On Silicon等を含む)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、DLP(Digital Light Processing)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等を用いた方式が例示される。
なお、ディスプレイ40は、モノクロ画像を表示するものでも、二色画像を表示するものでも、カラー画像を表示するものでもよい。
また、ディスプレイ40が出射する光は無偏光であっても、偏光であってもよいが、円偏光であるのが好ましい。ディスプレイ40が円偏光を出射するものとすることで、導光素子45は、ディスプレイ40が出射した光を効率よく導光することができる。
【0131】
このような構成のAR表示デバイス50において、ディスプレイ40が表示した光は、矢印で示すように、導光板44の一方の端部の、回折素子42が配置された表面とは反対側の表面から導光板44内に入射する。導光板44内に入射した光は導光板44と回折素子42との界面にて反射される。その際、回折素子42による回折の効果によって鏡面反射(正反射)せずに、鏡面反射方向とは角度が異なる方向に反射される。
図12に示す例では、光は回折素子42に対して略垂直な方向(Z方向)から入射し、垂直方向から導光板44の長手方向(X方向)側に大きな角度傾斜した方向に反射される。
【0132】
回折素子42で反射された光は、入射光の角度に対して、大きな角度で反射されているため、光の進行方向の、導光板44の表面に対する角度が小さくなるため、導光板44の両表面(界面)で全反射されて導光板44内を長手方向(X方向)に導光される。
導光板44内を導光された光は、導光板44の長手方向の他方の端部において、光学素子10に入射し、透過する。その際、光学素子10による回折の効果によって入射方向とは角度が異なる方向に透過される。
図12に示す例では、光は光学素子10に対して斜め方向から入射し、光学素子10の表面に垂直方向へ透過する。
【0133】
光学素子10を透過した光は、導光板44の外に出射される。すなわち、光は使用者Uによる観察位置に出射される。
このように、AR表示ディスプレイ50は、ディスプレイ40が表示した映像を、導光素子44の一端に入射して伝播し、他端から出射することにより、使用者Uが実際に見ている光景に、仮想の映像を重ねて表示する。
【0134】
ここで、導光素子45では、光学素子10の光学異方性層の回折効率が調整されており、導光板44内を伝播する光を光学素子10で回折する際に、複数個所で光の一部を回折して導光板44の外に出射させる構成であり、これにより、視域を拡大(射出瞳拡大)を行っている。
具体的には、
図12において、導光板44を伝播する光I
0は、導光板44の両表面(界面)で反射を繰り返しつつ光学素子10の位置に到達する。光学素子10の位置に到達した光I
0は、入射側に近い領域(位置)P
1で一部が回折されて導光板44から出射される(出射光R
1)。また、回折されなかった光I
1はさらに導光板44内を伝播し、再度、光学素子10のP
2の位置で一部の光R
2が回折されて導光板44から出射される。回折されなかった光I
2はさらに導光板44内を伝播し、再度、光学素子10のP
3の位置で一部の光R
3が回折されて導光板44から出射される。回折されなかった光I
3はさらに導光板44内を伝播し、再度、光学素子10のP
4の位置で一部の光R
4が回折されて導光板44から出射される。
【0135】
このように、導光板44内を伝播する光を光学素子10によって複数個所で回折して導光板44の外に出射させる構成とすることで、視域を拡大(射出瞳拡大)することができる。
【0136】
ここで、光学素子10の回折効率が面内で一定であった場合を考える。回折効率が一定の場合には、入射側に近い領域(位置)P
1では、入射する光I
0の光強度(光量)が大きいため、出射される光R
1の強度も大きくなる。次に、回折されなかった光I
1が導光板44内を伝播して再度、光学素子10の位置P
2で回折されて一部の光R
2が出射されるが、光I
1は光I
0よりも光強度が小さいため、同じ回折効率で回折されても光R
2の光強度は、入射側に近い領域で反射された光R
1の光強度よりも小さくなる。同様に、回折されなかった光I
2が導光板44内を伝播して再度、光学素子10の位置P
3で回折されて一部の光R
3が出射されるが、光I
2は光I
1よりも光強度が小さいため、同じ回折効率で回折されても光R
3の光強度は、P
2の位置で反射された光R
2の光強度よりも小さくなる。さらに、入射側からより遠い領域P
4で反射された光R
4の光強度は光R
3の光強度よりも小さくなる。
このように、光学素子10の回折効率が面内で一定であった場合には、入射側に近い領域では光強度の高い光が出射され、入射側から離れた領域では光強度が弱い光が出射される。そのため、
図13の破線で示すように、出射される光強度が、位置によって不均一になるという問題が生じる。
【0137】
これに対して、本発明の光学素子10は、光学異方性層における厚さ方向のねじれ角が面内で異なる領域を有し、光学軸が回転する一方向において、一方の側から他方の側に向かうにしたがって厚さ方向のねじれ角が漸次変化する構成とすることができる。
これにより、光学素子10は、光学異方性層の回折効率を、光学軸が回転する一方向において、一方の側から他方の側に向かうにしたがって高くなる構成とすることができ(
図14参照)、導光素子45において、光学素子10は、導光板44内における光の進行方向に向かって光学異方性層18の回折効率が高くなるように配置することができる。すなわち、
図12に示す例では、光学素子10の光学異方性層は、
図12中、左から右に向かって回折効率が高くなる構成とすることができる。
【0138】
この場合には、入射側に近い位置P
1では、入射する光I
0の光強度(光量)が大きいが、回折効率が低いため、出射される光R
1の強度はある程度の光強度となる。次に、回折されなかった光I
1が導光板44内を伝播して再度、光学素子10の位置P
2で回折されて一部の光R
2が出射される。このとき、光I
1は光I
0よりも光強度が小さいが、位置P
2での回折効率は位置P
1での回折効率よりも高いため、光R
2の光強度は、位置P
1で回折された光R
1の光強度と同等とすることができる。同様に、回折されなかった光I
2が導光板44内を伝播して再度、光学素子10の位置P
3で回折されて一部の光R
3が出射されるが、I
2はI
1よりも光強度が小さいが、位置P
3での回折効率は位置P
2での回折効率よりも高いため、光R
3の光強度は、位置P
2で回折された光R
2の光強度と同等とすることができる。さらに、入射側からより遠い領域P
4での回折効率は位置P
3での回折効率よりも高いため、光R
4の光強度は、位置P
3で反射された光R
3の光強度と同等とすることができる。
このように、光学素子10の回折効率が、光学軸が回転する一方向において、一方の側から他方の側に向かうにしたがって高くなる構成とすることで、光学素子10のどの位置でも一定の光強度の光を出射させることができる。そのため、
図13に実線で示すように、出射される光強度を位置によらず均一にすることができる。
【0139】
なお、
図12において、光を矢印で示したが、ディスプレイ40から出射される光は面状であってもよく、面状の光は位置関係を保ったまま、導光板44内を伝播され、光学素子10によって回折される。
【0140】
なお、光学異方性層の回折効率の分布は、光学異方性層の長さ、導光板の厚み、光の波長、等から、出射光の光強度を均一にできる分布を適宜設定すればよい。
また、光学異方性層の回折効率は低い領域で0.5%~20%が好ましく、1%~10%がより好ましく、高い領域で20%~100%が好ましく、30%~95%がより好ましい。
【0141】
また、光学異方性層の厚さ方向のねじれ角は上記回折効率の分布に合わせて設定すればよい。
【0142】
また、
図12において、光学素子10は、1層の光学異方性層を有するものとして説明を行ったが、光学素子10が複数層の光学異方性層を有する構成であってもよい。あるいは、導光素子45において、単層の光学異方性層を有する光学素子10を複数積層する構成としてもよい。
【0143】
また、
図12に示す例では、導光素子45は、入射側および出射側にそれぞれ回折素子を有する構成としたが、これに限定はされず、中間の回折素子を有する構成としてもよい。
図15は、本発明の導光素子の他の一例を模式的に表す正面図であり、
図16は、
図15の上面図である。
【0144】
図15および
図16に示す導光素子110は、導光板112と、第一回折素子114と、第二回折素子116と、第三回折素子118とを有する。
【0145】
第一回折素子114は、外部から入射する光を、導光板112内で全反射可能な角度に回折する回折素子である。
【0146】
第二回折素子116は、第一回折素子114の位置で導光板112内に入射して導光板112内を伝播する光を回折して、導光板112内における光の進行方向を曲げるための回折素子である。
【0147】
第三回折素子118は、第二回折素子116で回折され導光板112内を伝播する光を、導光板112から外部に出射可能な角度に回折する回折素子である。
【0148】
すなわち、
図15および
図16に示す導光素子110は、入射用の第一回折素子114により回折されて導光板112内に入射した光を中間の第二回折素子116で回折して導光板112内における光の進行方向を曲げて、その後、出射側の第三回折素子118によって回折して導光板112の外に光を出射する構成である。
【0149】
このような構成の場合に、第二回折素子116および/または第三回折素子において射出瞳拡張をおこなうことができる。その際、第二回折素子116および/または第三回折素子118として、本発明の光学素子を用いることで、拡張された光の光量を均一にすることができる。光量をより均一にすることができることができる点で、第二回折素子116および第三回折素子118として、本発明の光学素子を用いることが好ましい。
【0150】
なお、このような構成の場合に、第二回折素子116および/または第三回折素子として、本発明の光学素子を有していればよく、他の回折素子としては、レリーフ型の回折素子、液晶を用いた回折素子、体積ホログラム素子等の従来公知の回折素子が各種利用可能である。
【0151】
なお、第二回折素子116として本発明の光学素子を用いる場合は、第二回折素子116の作用によって回折された光が、第二回折素子116と外部(空気)との界面で反射されて導光板112内を導光されるようにする。これにより、第二回折素子116は、導光板112内を導光する光を回折して導光板112内における光の進行方向を曲げて、第三回折素子118の方向に進行させる。
【0152】
また、第一回折素子114、第二回折素子116、および、第三回折素子118がいずれも液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する光学素子であることが好ましい。
【0153】
その際、第一回折素子、第二回折素子および第三回折素子それぞれにおける液晶配向パターンの1周期の長さをそれぞれΛ1、Λ2およびΛ3とすると、Λ2<Λ1、および、Λ2<Λ3を満たすことが好ましい。
第一回折素子、第二回折素子および第三回折素子それぞれの液晶配向パターンの1周期の長さが、Λ2<Λ1、および、Λ2<Λ3を満たすことで、好適に第一回折素子から第三回折素子まで光を伝搬でき、導光板から使用者Uへ適切に光を出射することができる。
【0154】
本発明の光学素子は、光学装置における光路変更部材、光集光素子、所定方向への光拡散素子、および、回折素子等、入射方向とは異なる方向に光を透過する、各種の用途に利用可能である。
【0155】
以上の例は、本発明の光学素子を、可視光を透過して屈折する光学素子に利用したものであるが、本発明は、これに限定はされず、各種の構成は利用可能である。
例えば、本発明の光学素子は、赤外線または/および紫外線を屈折して透過する構成でもよい。
【0156】
以上、本発明の光学素子、導光素子および画像表示装置について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例0157】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0158】
[比較例1]
<第1光学異方性部材の作製>
(支持体、および、支持体の鹸化処理)
支持体として、市販されているトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製、Z-TAC)を用意した。
支持体を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させて、支持体の表面温度を40℃に昇温した。
その後、支持体の片面に、バーコーターを用いて下記に示すアルカリ溶液を塗布量14mL(リットル)/m2で塗布し、支持体を110℃に加熱し、さらに、スチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下を、10秒間搬送した。
続いて、同じくバーコーターを用いて、支持体のアルカリ溶液塗布面に、純水を3mL/m2塗布した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗およびエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンを10秒間搬送して乾燥させ、支持体の表面をアルカリ鹸化処理した。
【0159】
アルカリ溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――
水酸化カリウム 4.70質量部
水 15.80質量部
イソプロパノール 63.70質量部
界面活性剤
SF-1:C14H29O(CH2CH2O)2OH 1.0 質量部
プロピレングリコール 14.8 質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0160】
(下塗り層の形成)
支持体のアルカリけん化処理面に、下記の下塗り層形成用塗布液を#8のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間、さらに100℃の温風で120秒間乾燥し、下塗り層を形成した。
【0161】
下塗り層形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――
下記変性ポリビニルアルコール 2.40質量部
イソプロピルアルコール 1.60質量部
メタノール 36.00質量部
水 60.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0162】
【0163】
(配向膜の形成)
下塗り層を形成した支持体上に、下記の配向膜形成用塗布液を#2のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し、配向膜を形成した。
【0164】
配向膜形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材A 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0165】
【0166】
(配向膜の露光)
図9に示す露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜P-1を形成した。
露光装置において、レーザとして波長(325nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を100mJ/cm
2とした。なお、
図9に示す露光装置を用いることによって、配向パターンの1周期が、外方向に向かって、漸次、短くなるようにした。
【0167】
(第1光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する液晶組成物として、下記の組成物A-1を調製した。
組成物A-1
――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 936.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0168】
液晶化合物L-1
【0169】
【0170】
レベリング剤T-1
【0171】
【0172】
第1光学異方性層は、組成物A-1を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の組成物A-1を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、第1光学異方性層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が第1光学異方性層の下面から上面にわたって反映される。
【0173】
先ず1層目は、配向膜P-1上に下記の組成物A-1を塗布して、塗膜をホットプレート上で70℃に加熱し、その後、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を100mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化した。この時の1層目の液晶層の膜厚は0.2μmであった。
【0174】
2層目以降は、この液晶層に重ね塗りして、上と同じ条件で加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した。このようにして、総厚が所望の膜厚になるまで重ね塗りを繰り返し、第1光学異方性層を形成して、第1光学異方性部材を作製した。
【0175】
なお、液晶組成物A1の硬化層の複素屈折率Δnは、液晶組成物A1を別途に用意したリターデーション測定用の配向膜付き支持体上に塗布し、液晶化合物のダイレクタが基材に水平となるよう配向させた後に紫外線照射して固定化して得た液晶固定化層(硬化層)のリタ―デーション値および膜厚を測定して求めた。リタ―デーション値を膜厚で除算することによりΔnを算出できる。リタ―デーション値はAxometrix 社のAxoscanを用いて目的の波長で測定し、膜厚は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて測定した。
【0176】
第1光学異方性層は、最終的に液晶のΔn
630×厚さ(Re(630))が315nmになり、かつ、
図8に示すような同心円状(放射状)の周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物の光軸が180°回転する1周期は、中心部の1周期が181μmで、中心から5mmの距離での1周期が1.8μm、中心から10mmの距離での1周期が1.0μmであり、外方向に向かって周期が短くなる液晶配向パターンであった。また、第1光学異方性層の厚さ方向のねじれ角は面内の全域で、0°であった。以下、特に記載が無い場合には、『Δn
630×d』等の測定は、同様に行った。
【0177】
[実施例1]
【0178】
(第1光学異方性層の形成)
光学異方性層を形成する液晶組成物として、下記の組成物A-2を調製した。
組成物A-2
――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
下記構造のキラル剤A 0.11質量部
重合開始剤(BASF製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 936.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0179】
キラル剤A
【0180】
【0181】
第1光学異方性層は、組成物A-2を配向膜P-1上に多層塗布することにより形成した。多層塗布とは、先ず配向膜の上に1層目の組成物A-2を塗布、加熱、冷却後に紫外線硬化を行って液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことを指す。多層塗布により形成することにより、第1光学異方性層の総厚が厚くなった時でも配向膜の配向方向が第1光学異方性層の下面から上面にわたって反映される。
【0182】
先ず1層目は、配向膜P-1上に下記の組成物A-2を塗布して、塗膜をホットプレート上で70℃に加熱し、その後、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下でLED光源を用いて波長365nmの紫外線(i線)のみを塗膜に照射した。このとき、面内で紫外線の照射量を変化させて塗膜に照射した。具体的には200mJ/cm2(中心部)、50mJ/cm2(中心から5mmの距離)、30mJ/cm2(中心から10mmの距離)と面内で照射量を変化させて塗膜への照射を行った。その後、再び塗膜をホットプレート上で70℃に加熱、25℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて、350nm以下の波長を有する混合紫外線の照射を行い、液晶化合物の配向を固定化した。この時の1層目の液晶層の膜厚は0.2μmであった。
【0183】
2層目以降は、この液晶層に重ね塗りして、上と同じ条件で液晶固定化層を作製した。このようにして、総厚が所望の膜厚になるまで重ね塗りを繰り返し、第1光学異方性層を形成して、第1光学異方性部材を作製した。
第1光学異方性層は、最終的に液晶のΔn
630×厚さ(Re(630))が315nmになり、かつ、
図8に示すような同心円状(放射状)の周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物の光軸が180°回転する1周期は、中心部の1周期が181μmで、中心から5mmの距離での1周期が1.8μm、中心から10mmの距離での1周期が1.0μmであり、外方向に向かって周期が短くなる液晶配向パターンであった。また、第1光学異方性層の厚さ方向のねじれ角は、中心部のねじれ角が2°で、中心から5mmの距離でのねじれ角が56°、中心から10mmの距離での1周期が74°であり、外方向に向かってねじれ角が大きくなっていた。
【0184】
[実施例2]
実施例1においてキラル剤Aを下記構造のキラル剤Bに変更し、0.12質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして第1光学異方性層を形成して、第1光学異方性部材を作製した。
【0185】
キラル剤B
【0186】
【0187】
第1光学異方性層は、最終的に液晶のΔn
630×厚さ(Re(630))が315nmになり、かつ、
図8に示すような同心円状(放射状)の周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。なお、この第1光学異方性層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物の光軸が180°回転する1周期は、中心部の1周期が181μmで、中心から5mmの距離での1周期が1.8μm、中心から10mmの距離での1周期が1.0μmであり、外方向に向かって周期が短くなる液晶配向パターンであった。また、第1光学異方性層の厚さ方向のねじれ角は、中心部のねじれ角が2°で、中心から5mmの距離でのねじれ角が55°、中心から10mmの距離での1周期が73°であり、外方向に向かってねじれ角が大きくなっていた。
【0188】
[円偏光板の作製]
後述する『光強度の測定』を行うために、下記のようにして、円偏光板を作製した。
まず、実施例1と同様にして下塗り層を形成した支持体を用意した。
【0189】
(配向膜P-10の形成)
下塗り層を形成した支持体上に、下記の配向膜P-10形成用塗布液を#2.4のワイヤーバーで連続的に塗布した。この配向膜P-10形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を80℃のホットプレート上で5分間乾燥し、配向膜P-10を形成した。
【0190】
<配向膜P-10形成用塗布液>
――――――――――――――――――――――――――――――――
光配向用素材 重合体A2 4.35質量部
低分子化合物B2 0.80質量部
架橋剤C1 2.20質量部
化合物D1 0.48質量部
化合物D2 1.15質量部
酢酸ブチル 100.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――
【0191】
<<重合体A2の合成>>
撹拌機、温度計、滴下漏斗および還流冷却管を備えた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100質量部、メチルイソブチルケトン500質量部、および、トリエチルアミン10質量部を仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100質量部を滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機相を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒および水を留去することにより、エポキシ含有ポリオルガノシロキサンを粘調な透明液体として得た。
このエポキシ含有ポリオルガノシロキサンについて、1H-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)分析を行ったところ、化学シフト(δ)=3.2ppm付近にオキシラニル基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。このエポキシ含有ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは2,200、エポキシ当量は186g/モルであった。
次に、100mLの三口フラスコに、上記で得たエポキシ含有ポリオルガノシロキサン10.1質量部、アクリル基含有カルボン酸(東亜合成社製、アロニックスM-5300、アクリル酸ω-カルボキシポリカプロラクトン(重合度n≒2))0.5質量部、酢酸ブチル20質量部、特開2015-26050号公報の合成例1の方法で得られた桂皮酸誘導体1.5質量部、および、テトラブチルアンモニウムブロミド0.3質量部を仕込み、90℃で12時間撹拌した。反応終了後、反応溶液と等量(質量)の酢酸ブチルで希釈し、3回水洗した。
この溶液を濃縮し、酢酸ブチルで希釈する操作を2回繰り返し、最終的に、光配向性基を有するポリオルガノシロキサン(下記重合体A2)を含む溶液を得た。この重合体A2の重量平均分子量Mwは9,000であった。また、1H-NMR分析の結果、重合体A
2中のシンナメート基を有する成分は23.7質量%であった。
【0192】
-重合体A2-
【0193】
【0194】
-低分子化合物B2-
下記式で表される低分子化合物B2(日清オリイオ社、ノムコートTAB)を用いた。
【0195】
【0196】
-架橋剤C1-
下記式で表わされる架橋剤C1(ナガセケムテックス社製、デナコールEX411)を用いた。
【0197】
【0198】
-化合物D1-
下記式で表わされる化合物D1(川研ファインケミカル社製、アルミキレートA(W))を用いた。
【0199】
【0200】
-化合物D2-
下記式で表わされる化合物D2(東洋サイエンス社製、トリフェニルシラノール)を用いた。
【0201】
【0202】
(配向膜P-10の露光)
得られた配向膜P-10に偏光紫外線を照射(20mJ/cm2、超高圧水銀ランプ使用)することで、配向膜P-10の露光を行った。
【0203】
[λ/4板の作製]
λ/4板は、組成物C-1を配向膜P-10上に塗布することにより形成した。塗布した塗膜をホットプレート上で110℃に加熱し、その後、60℃に冷却した後、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を500mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶化合物の配向を固定化して、光学異方性層を作製した。
得られたλ/4板のΔn630×d(Re(630))は157.5nmであった。
【0204】
組成物C-1
―――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-3 42.00質量部
液晶化合物L-4 42.00質量部
液晶化合物L-5 16.00質量部
重合開始剤PI-1 0.50質量部
レベリング剤G-1 0.20質量部
メチルエチルケトン 176.00質量部
シクロペンタノン 44.00質量部
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【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
[円偏光板の作製]
作製したλ/4板のトリアセチルセルロースフィルム側に、粘着剤を介して偏光板を貼り合わせて円偏光板を得た。
【0211】
[光強度の測定]
図11に示す方法で、相対光強度を測定した。
作製した光学素子に正面(法線に対する角度0°の方向)から光を入射した際における、透過光の、入射光に対する相対光強度を測定した。
具体的には、630nmに出力中心波長を持つレーザ光Lを、光源100から、作製した光学素子Sに垂直入射させた。透過光を100cmの距離に配置したスクリーンで捉えて、透過角度を算出した。透過角θで透過された透過光L
tの光強度を光検出器102で測定した。そして、透過光L
tの光強度と光Lの光強度との比をとり、透過光L
tの入射光(レーザ光L)に対する相対光強度値を求めた(透過光L
t/レーザ光L)。透過角θは、先に測定した透過角度とした。
なお、レーザー光の波長に対応する円偏光板に垂直入射させて、円偏光にした後、作製した光学素子に光を入射し、評価を行った。
【0212】
比較例1と実施例1及び2において、作製した光学素子における液晶配向パターンの同心円の中心部および同心円の中心から10mmの離れた点にレーザー光を垂直に入射して、透過光の、入射光に対する相対光強度を測定した結果を比較した。比較例1は同心円の中心部に入射した光の透過角θは0°であり、同心円の中心から10mmの離れた点に入射した光の透過角θは39°であった。比較例1は同心円の中心部に入射した光の透過光に対し、同心円の中心から10mmの離れた点に入射した光の透過光の相対光強度は30%以上低下していた。実施例1及び2は同心円の中心部に入射した光の透過角θは0°であり、同心円の中心から10mmの離れた点に入射した光の透過角θは39°であった。実施例1及び2は、同心円の中心部に入射した光の透過光に対し、同心円の中心から10mmの離れた点に入射した光の透過光の相対光強度の低下が15%以内に抑制されており、比較例1に対し、面内における透過光量の屈折角度依存性を小さくすることができる。
【0213】
上記表に示されるように、液晶化合物由来の光軸の向きが一方向に向かって回転する液晶配向パターンを有し、さらに、光学軸が光学異方性層の厚さ方向でねじれて回転する領域を有しており、かつ、回転のねじれ角が面内で異なる領域を有する本発明の光学素子は、面内における透過光量の屈折角度依存性が小さく、例えば、面内の異なる領域において入射した光を異なる角度に屈折した場合、透過光を明るくすることができる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。