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特開2022-37415アニール処理方法、微細立体構造形成方法及び微細立体構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022037415
(43)【公開日】2022-03-09
(54)【発明の名称】アニール処理方法、微細立体構造形成方法及び微細立体構造
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/268 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
H01L21/268 J
H01L21/268 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141542
(22)【出願日】2020-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、中小企業庁、「戦略的基盤技術高度化支援事業 ミニマルレーザ水素アニール装置と原子レベルアンチエイリアス(AAA)技術の研究開発」支援事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】591023734
【氏名又は名称】坂口電熱株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】金森 義明
(72)【発明者】
【氏名】中山 吉之
(72)【発明者】
【氏名】千葉 貴史
(72)【発明者】
【氏名】寺田 昌男
(72)【発明者】
【氏名】濱田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】原 史朗
(72)【発明者】
【氏名】クンプアン ソマワン
(72)【発明者】
【氏名】石田 夕起
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和重
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 雅
(57)【要約】      (修正有)
【課題】サイクルタイムが短いアニール処理方法、アニール処理により表面が平滑化した微細立体構造及びその形成方法を提供する。
【解決手段】アニール処理装置1は、レーザ加熱によりウエハWを短時間で高温に、例えば、1秒以内で1000℃以上に加熱することができる。また、レーザ加熱によりウエハを集中的に加熱し、チャンバー11等の周辺部材の加熱が抑えられるため、昇温と降温、特に、降温にかかる時間が短く、アニール処理のサイクルタイムが短い。直径が4インチ以下のウエハは、体積が小さいため、昇温と降温、特に、降温にかかる時間を短くすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウエハに対し、水素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下で、内接円の直径が前記シリコンウエハの直径の1.0倍以上1.2倍以下であるレーザを照射してアニール処理を施すことを特徴とするアニール処理方法。
【請求項2】
前記シリコンウエハ上面の表面粗さ(RMS)を1.5nm以下とすることを特徴とする請求項1に記載のアニール処理方法。
【請求項3】
前記シリコンウエハを1000℃以上に加熱することを特徴とする請求項1または2に記載のアニール処理方法。
【請求項4】
水素ガス圧力が10kPa以上の条件下で行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアニール処理方法。
【請求項5】
前記シリコンウエハの直径が、4インチ以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のアニール処理方法。
【請求項6】
金属製のチャンバー内で行うことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のアニール処理方法。
【請求項7】
ガス流量が、チャンバーの体積(V)に対して0.1V/min以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のアニール処理方法。
【請求項8】
微細凹部が形成されたシリコンウエハに対し、請求項1~7のいずれかに記載のアニール処理方法を施し、
前記微細凹部壁面の表面粗さ(RMS)を、1.5nm以下とすることを特徴とする微細立体構造形成方法。
【請求項9】
前記微細凹部の上縁角の曲率半径を、0.9μm以上とすることを特徴とする請求項8に記載の微細立体構造形成方法。
【請求項10】
前記微細凹部の底縁角の曲率半径を、1.4μm以上とすることを特徴とする請求項8または9に記載の微細立体構造形成方法。
【請求項11】
前記微細凹部が、前記シリコンウエハを貫通していることを特徴とする請求項8または9に記載の微細立体構造形成方法。
【請求項12】
シリコンウエハ上に微細凹部が形成されており、
前記微細凹部壁面の表面粗さ(RMS)が、1.5nm以下であることを特徴とする微細立体構造。
【請求項13】
前記微細凹部の上縁角が、曲率半径0.9μm以上であることを特徴とする請求項12に記載の微細立体構造。
【請求項14】
前記微細凹部の底縁角が、曲率半径1.4μm以上であることを特徴とする請求項12または13に記載の微細立体構造。
【請求項15】
前記微細凹部が、前記シリコンウエハを貫通していることを特徴とする請求項12または13に記載の微細立体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加熱によるアニール処理方法と、アニール処理による微細立体構造形成方法と微細立体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高温状態におけるSi結晶表面では、原子の表面自己拡散が活発になる。特に、水素雰囲気下、またはアルゴン(不活性ガス)雰囲気下で高温加熱(水素アニール処理、またはアルゴンアニール処理。以下、アニール処理ともいう)することにより、Siの融点(1414℃)以下の温度でも、Si原子は表面エネルギーの高い状態から低い状態へ移動することが知られている。すなわち、アニール処理により、Si原子は、表面積を小さくする方向へ移動し、結晶表面は平滑化(smoothing)して、面が平坦化(flattening)するとともに、角が丸くなる(rounding)。
【0003】
アニール処理を施すことにより、表面に無欠陥層を生成したアニールシリコンウエハが知られている。アニール処理は、石英製のチャンバー内に被処理物を載置し、チャンバーの外部に設置したヒータを用いてチャンバーごと加熱することにより行われている。ヒータを利用してチャンバーごと加熱するアニール処理は、昇温、降温に時間がかかるため、チャンバー内にシリコンウエハを載置し、アニール処理を行い、チャンバーからシリコンウエハを取り出すまでのサイクルタイムが長いという問題がある。
さらに、水素ガスは、高温になるほど速い速度で石英をエッチングする作用を有しているため、水素アニール中に石英(チャンバー)がエッチングされ、石英中に含まれる微量の金属不純物が、ウエハを汚染してしまう場合がある。この汚染を防ぐために、例えば、特許文献1には、石英ガラス質熱処理用治具を、使用する前にフッ化水素酸溶液でエッチングする方法、特許文献2には、ウエハ載置部とチャンバーの間に隔壁を設け、水素ガスに運ばれる不純物とウエハとの接触を抑える方法、特許文献3には、1100~1300℃で熱処理を行なった後、水素ガス濃度が25%未満のエッチングが生じない雰囲気下で1000℃以下の温度まで降温する方法、が提案されている。
しかし、半導体デバイスの微細化が進むにつれて、これらの方法では不純物濃度低減の要求に対応することが困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-114532号公報
【特許文献2】特開2001-007036号公報
【特許文献3】特開2003-332343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイクルタイムが短いアニール処理方法と、表面が平滑化した微細立体構造とその形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.シリコンウエハに対し、水素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下で、内接円の直径が前記シリコンウエハの直径の1.0倍以上1.2倍以下であるレーザを照射してアニール処理を施すことを特徴とするアニール処理方法。
2.前記シリコンウエハ上面の表面粗さ(RMS)を1.5nm以下とすることを特徴とする1.に記載のアニール処理方法。
3.前記シリコンウエハを1000℃以上に加熱することを特徴とする1.または2.に記載のアニール処理方法。
4.水素ガス圧力が10kPa以上の条件下で行うことを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のアニール処理方法。
5.前記シリコンウエハの直径が、4インチ以下であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のアニール処理方法。
6.金属製のチャンバー内で行うことを特徴とする1.~5.のいずれかに記載のアニール処理方法。
7.ガス流量が、チャンバーの体積(V)に対して0.1V/min以下であることを特徴とする1.~6.のいずれかに記載のアニール処理方法。
8.微細凹部が形成されたシリコンウエハに対し、1.~7.のいずれかに記載のアニール処理方法を施し、
前記微細凹部壁面の表面粗さ(RMS)を、1.5nm以下とすることを特徴とする微細立体構造形成方法。
9.前記微細凹部の上縁角の曲率半径を、0.9μm以上とすることを特徴とする8.に記載の微細立体構造形成方法。
10.前記微細凹部の底縁角の曲率半径を、1.4μm以上とすることを特徴とする8.または9.に記載の微細立体構造形成方法。
11.前記微細凹部が、前記シリコンウエハを貫通していることを特徴とする8.または9.に記載の微細立体構造形成方法。
12.シリコンウエハ上に微細凹部が形成されており、
前記微細凹部壁面の表面粗さ(RMS)が、1.5nm以下であることを特徴とする微細立体構造。
13.前記微細凹部の上縁角が、曲率半径0.9μm以上であることを特徴とする12.に記載の微細立体構造。
14.前記微細凹部の底縁角が、曲率半径1.4μm以上であることを特徴とする12.または13.に記載の微細立体構造。
15.前記微細凹部が、前記シリコンウエハを貫通していることを特徴とする12.または13.に記載の微細立体構造。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアニール処理方法は、レーザ加熱によりウエハを短時間で高温に、例えば、1秒以内で1000℃以上に加熱することができる。また、本発明のアニール処理方法は、レーザ加熱によりウエハを集中的に加熱し、チャンバー等の周辺部材の加熱が抑えられるため、昇温と降温、特に、降温にかかる時間が短く、アニール処理のサイクルタイムが短い。直径が4インチ以下のウエハは、体積が小さいため、昇温と降温、特に、降温にかかる時間を短くすることができる。
本発明のアニール処理方法は、チャンバー等の加熱が抑えられているため、汚染物質の放出が少なく、ウエハの汚染を抑えることができる。また、本発明のアニール処理方法は、汚染物質の放出が抑えられているため、金属製のチャンバー内でも行うことができる。
本発明のアニール処理方法により、表面が平滑化した、面が平坦で、角が丸みを帯びている微細立体構造を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】アニール処理装置の一例の概略図。
図2】アニール処理装置によるウエハ下面への赤外線レーザ照射時の状態を(A)下方から(B)側方から見た一例の模式図。
図3】水素アニール処理前の微細凹部の上縁角の電子顕微鏡画像。
図4】標準条件での水素アニール処理後の微細凹部の上縁角の電子顕微鏡画像。
図5】水素アニール処理の温度に対する、表面粗さ(RMS)と上縁角の曲率半径の値を示す図。
図6】水素アニール処理の水素圧力に対する、表面粗さ(RMS)と上縁角の曲率半径の値を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
・アニール処理方法
本発明のアニール処理方法は、シリコンウエハに対し、水素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下で、内接円の直径がシリコンウエハの直径の1.0倍以上1.2倍以下であるレーザを照射してアニール処理を施すことを特徴とする。
本発明のアニール処理方法は、レーザを、シリコンウエハ(以下、ウエハともいう)に照射することにより、ウエハを短時間で高温に、例えば、1秒以内で1000℃以上に加熱することができるため、昇温にかかる時間を大幅に短くすることができ、サイクルタイムを短縮することができる。また、本発明のアニール処理方法は、ウエハを集中的に加熱し、チャンバー等の周辺部材が高温となることを抑えられるため、特に、降温にかかる時間が短く、サイクルタイムを短縮することができる。
【0010】
以下、本発明のアニール処理方法を、ミニマルファブ装置を用いて説明する。なお、ミニマルファブ装置とは、直径0.5インチ(12.5mm)のウエハを用いる局所クリーン化した超小型デバイス生産システム(ミニマルファブ:特許第5361002号公報、特許第5780531号公報等参照)を構成する装置である。
ミニマルファブ装置は、直径が0.5インチ(12.5mm)のウエハを取り扱うものであるが、本発明のアニール処理方法が処理するウエハの直径は0.5インチに限定されず、直径が10mmのものから450mm、もしくはそれ以上のものまでを対象とすることができる。ただし、ウエハの直径は10mm以上4インチ以下であることが好ましく、3インチ以下であることがより好ましく、2インチ以下であることが更に好ましい。ウエハの直径が小さいと、ウエハの体積が小さくなるため、昇温と降温、特に降温にかかる時間が短くなり、サイクルタイムを短くすることができる。なお、ウエハの直径が4インチを超えても、アニール処理後にクリーン化した窒素ガスを大量に流す等により、降温にかかる時間を短くすることができる。
【0011】
図1に、ミニマルファブ装置であるアニール処理装置1の一例の概略図を示す。
アニール処理装置1は、レーザ加熱処理を行うチャンバー11を有し、このチャンバー11内にホルダ12が固定されている。ホルダ12は、等間隔に設けられた6本のアーム13を備え、このアーム13がハーフインチサイズのシリコンウエハWを支持している。
チャンバー11には、給気ライン14、排気ライン15が接続されている。給気ライン14は、その上流に図示せぬ流量計を備え、水素とアルゴンとを、任意の量、任意の比率で給気することができる。チャンバー11には、圧力測定センサ(図示せず)が接続されている。また、チャンバー11には、窒素ガス供給ライン、ウエハWの表面状態を視認または撮影するための窓、ウエハ表面の温度を測定するための放射温度計の熱線透過窓等を設けることができる。
【0012】
チャンバー11は、ステンレス製であり、ウエハWを出し入れするためのゲート(図示せず)と、石英製の透過窓111を有する。透過窓の材質としては、使用するレーザの波長に対する透過率が90%以上の材質であれば特に限定されず、石英のほかに、BaF、MgF、CaF、サファイア、ZnSe、ガラス等を用いることができる。
【0013】
本発明のアニール処理方法は、レーザでウエハを集中的、効率的に加熱するものであり、チャンバー等の周辺部材の加熱が抑えられる。例えば、図1に示すアニール処理装置を用いて、レーザを照射し続け、ウエハを1時間1000℃以上に加熱した後であっても、チャンバーの温度は100℃程度である。本発明のアニール処理方法は、チャンバーの加熱が抑えられているため、ステンレス製チャンバーからの金属原子等の汚染物質の放出が抑制される。また、石英製チャンバーを利用した場合も、石英のエッチングによる汚染物質の放出を抑えることができる。そのため、本発明のアニール処理方法において、チャンバーの材質は特に制限されず、ステンレス、アルミニウム等の金属、石英、ガラス等を用いることができ、これらの中で安価で加工が容易であり、大型のチャンバーも作製することができるため、ステンレス、アルミニウム等の金属が好ましい。また、本発明のアニール処理方法は、チャンバーの加熱が抑えられるため、必要に応じてチャンバーに放熱板を設ける程度で十分であり、水冷や空冷等の冷却装置を設ける必要性は小さい。
【0014】
ここで、従来、アニール処理は、加熱されたチャンバー等から放出された汚染物質をチャンバー内から取り除くために、大量のガスを流しながら行われていた。本発明のアニール処理方法は、チャンバー等の周辺部材から放出される汚染物質の量が非常に少ないため、ガス流量を少なくすることができる。本発明のアニール処理において、ガス流量は、チャンバーの体積をVとして、0.1V/min以下であることが好ましく、0.05V/min以下であることがより好ましく、0.03V/min以下であることが更に好ましく、0.01V/min以下であることが最も好ましい。なお、ウエハWを支持するアーム13は、アニール処理時にウエハWから熱が伝わり高温となってしまう場合がある。アーム13から放出されるおそれのある汚染物質が、ウエハWに到達することを防ぐために、ウエハWは、ガスの給気箇所と排気箇所の間に位置することが好ましい。
【0015】
アニール処理装置1は、その頂点位置がアーム13の下面に位置する正六角形のレーザ光Laを照射するレーザ光照射装置16aと、ウエハWの外周縁部のみを照射する円環状(リング状)のレーザ光Lbを照射するレーザ光照射装置16bを有する。
レーザ光照射装置16a、bは、少なくとも半導体レーザ発振器と、レーザ光の形状を調整する光学系を備える。半導体レーザ発振器は、連続発振高出力半導体レーザ発振器やパルス発振する公知の半導体レーザ発振器等を採用することができる。レーザ光の波長は、ウエハを加熱できる波長であれば特に限定されず、例えば、400nm~1600nm(可視光~赤外線)が好ましく、780nm~1200nm(赤外線)であることがより好ましく、800nm~1000nmがさらに好ましい。
半導体レーザ発振器にて発生したレーザ光は、非球面レンズやロッドレンズ等の各種レンズ、ホモジナイザ、エキスパンダ等の複数の光学素子を備える光学系により、所定の形状に整形された均一なレーザ光La、Lbに調整される。また、カメラでウエハWの位置を確認し、ウエハWの位置に合わせてレーザの照射位置を、光学系または駆動系(図示せず)により調整することもできる。
【0016】
レーザ光照射装置16a、bのそれぞれから出射した2つのレーザ光LaとLbは、バンドパスフィルター17により1つのレーザ光として重ね合わせられて、透過窓111を通してウエハWの下面に照射される。この1つのレーザ光は、ウエハWの下面に対して垂直に照射することが好ましいが、均一に照射可能な範囲において、ウエハWの下面に対して斜めに照射することもできる。
バンドパスフィルター17によって2つのレーザ光を1つのレーザ光とする場合、一方のレーザ光の波長と他方のレーザ光の波長とは30nm以上異なることが好ましい。なお、バンドパスフィルターと同様の作用を示す材料として、ダイクロイックミラー、ショートパスフィルター等を使用することもできる。また、1つのレーザ光源からのレーザ光を、ビームスプリッター等で分割した後、別々の光学系で形状を整えた後に、1つのレーザ光に重ね合わせることもできる。
【0017】
チャンバー11の外部には、ウエハWの下面に対して斜方から向けられた、ウエハの中央部の温度を測定する放射温度計18aと、ウエハの外周縁部の温度を測定する放射温度計18bが設けられている。放射温度計18a、bは、透過窓111を通してウエハW下面の温度を測定しているが、透過窓111とは別の熱線透過窓を設けることもできる。放射温度計18a、bは、公知のものを用いることができる。なお、放射温度計は、ウエハWの上面の温度を測定するように設けることもでき、ウエハWの下面と上面の両方の温度を測定するように設けることもできる。
アニール処理装置1は、この放射温度計18aと18bにより、ウエハW下面の中央部と外周縁部の温度を同時に測定しながら、放射温度計18aと18bのいずれか、または両方における測定値と目標とする温度を基にして、ウエハW下面の温度が均一、かつ目標とする温度になるように、PID制御等のフィードバック制御を行い、赤外線レーザ光La、Lbのいずれか、または両方の強度を調整することができる。アニール処理装置1は、2本のレーザ光の強度を調整することにより、より厳密な温度制御が可能である。
【0018】
アニール処理装置1による、アーム13に支持されたウエハW下面へレーザ光LaとLb照射時の状態を、図2を用いて説明する。図2(A)は下方から、図2(B)は側方から見た一例の模式図である。
【0019】
アーム13は、先端にウエハWを支持する平坦部と、平坦部から連続して外方に向かって上方に傾斜した傾斜部を備える。アーム13が傾斜部を備えることにより、ウエハWが多少ずれた位置に載置されても、ウエハWは傾斜部を滑り落ちてアームの所定位置(平坦部)に正確に支持される。
ホルダ12は、石英製であり、アーム13と一体に形成されている。なお、ホルダとアームは、別体で形成した後、溶接等でホルダに固定することもできる。別体で形成する場合、アームとホルダは同一の材質であることが好ましい。ホルダとアームの材質は、熱膨張しにくく、耐熱性、耐熱衝撃性に優れることが好ましい。このような材質としては、例えば、石英、サファイア、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、シリコン、SiCコートグラファイト等を用いることができ、石英が好ましい。
【0020】
レーザ光Laは、その照射域にわたり強度が均一な正六角形であり、その内接円の直径がウエハの直径と等しい。レーザ光LbはウエハWの外周縁部に相当する範囲に対応した円環状である。
アニール処理装置1は、等間隔に配置された6本のアーム13に支持されたウエハWの下面に、レーザ光Laとレーザ光Lbを合成して得られた1本のビームであるレーザ光を照射する。
【0021】
レーザは、その内接円の直径がウエハの直径の1.0倍以上1.2倍以下であればよく、その外形は円形、多角形等とすることができる。なお、レーザが円形のとき、レーザの直径が内接円の直径に等しい。これらの中で、円形、または、図2(A)に示すように、ウエハを支持するアームの下面に頂点が位置する多角形とすることが好ましい。円形のレーザは、ウエハに照射されない部分の面積を小さくすることができ、チャンバー等の周辺部材の加熱を抑えることができる。アームの下面に頂点が位置する多角形のレーザは、アームのウエハ近傍部も加熱されるため、ウエハとアームとの温度差が小さくなり、ウエハからアームへの熱逃げを少なくすることができ、ウエハ温度の面内均一性を高くすることができる。多角形の場合は、頂点の数は4以上8以下であることが好ましく、6であることがさらに好ましい。また、正多角形であることが好ましい。
【0022】
本発明のアニール処理方法は、レーザの内接円の直径がウエハの直径の1.0倍以上1.2倍以下であるため、レーザの大部分がウエハに照射される。本発明のアニール処理方法は、ウエハ以外の周辺部材に照射されるレーザが少ないため、チャンバー等の周辺部材が加熱されにくく、周辺部材から金属原子等の汚染物質の放出を抑えることができ、ウエハの汚染を防止することができる。また、本発明のアニール処理方法は、照射されるレーザのエネルギーの大部分がウエハの加熱に利用されるため、エネルギーの無駄が少ない。レーザは、その内接円の直径が、ウエハ直径の1.1倍以下であることが好ましく、1.05倍以下であることがより好ましく、1.01倍以下であることがさらに好ましく、1倍であることが最も好ましい。
【0023】
ここで、ウエハWは、中央部は上下面のみが露出しているが、外周縁部は上下面に加えて側面も露出している。そのため、ウエハWは、中央から外周縁部に向かうほど、温度が低くなりやすい。加熱温度が高温となるほど、また、ガス給気量(排気量)が多くなるほど、この傾向が顕著となる。そのため、ガス雰囲気下で高温に加熱するアニール処理時には、外周縁部は中央部よりも低温になりやすい。
【0024】
レーザ光Laは、その照射域にわたり強度が均一である。レーザ光Lbは、レーザ光Laと一体となって、ウエハWの中央部よりも外周縁部に照射されるレーザ光の強度を強くする。ウエハWの外周縁部のみを照射する円環状(リング状)のレーザ光Lbを照射することにより、ウエハWの外周縁部の温度が中央部の温度よりも低くなることを防止できる。すなわち、レーザ光Lbは、レーザ光Laのみを照射した際に、ウエハWの外周縁部が、ウエハの中央部よりも多く放熱する熱量に相当する熱量を供給するものであり、ウエハWの全面を均一に照射するレーザ光Laに、ウエハWの外周縁部のみを照射する円環状のレーザ光Lbを重ね合わせることにより、ウエハWの外周縁部から放熱される熱を補い、結果的に均一に加熱することができる。
【0025】
水素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下でのアニール処理により、Si原子は表面積を小さくする方向へ移動する。なお、この表面積を小さくするように働く張力が、表面張力である。表面張力は、シリコン1240mN/m、水銀476mN/mであり、シリコン結晶は、水素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下でのアニール処理時に、水銀液滴のよう振る舞う。そのため、本発明のアニール処理により、ウエハは、結晶表面が平滑化(smoothing)して滑らかになり、面が平坦化(flattening)して凹凸が小さくなり、角が丸みをおびる(rounding)。
【0026】
アニール処理の条件は、処理後に求めるウエハ表面の平滑さや、角の丸さ、無欠陥層の清純度等に応じて調整することができる。
ウエハの加熱温度は、1000℃以上であることが好ましく、1020℃以上であることがより好ましく、1050℃以上であることがさらに好ましい。1000℃以上に加熱することで、Si原子の移動が促進され、サイクルタイムを短くすることができる。また、短い処理時間で、面が平坦となるとともに、角が丸くなる。
ガス圧力は、10kPa以上であることが好ましく、12kPa以上であることがより好ましく、15kPa以上であることが更に好ましい。また、60kPa以下であることが好ましく、55kPa以下であることがより好ましい。このような圧力条件下でアニール処理を施すことにより、Si原子の移動が促進され、サイクルタイムを短くすることができる。また、短い処理時間で、面が平坦となるとともに、角が丸くなる。
アニール処理後のシリコンウエハ上面の表面粗さ(RMS)は、1.5nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがさらに好ましい。なお、アニール処理時にウエハが不純物で汚染されると、吸着した汚染物質が離脱する際にシリコン表面が荒れて、面が曇ってしまう。本発明のアニール処理は、汚染物質の放出が少ないため、アニール処理前の表面粗さ(RMS)が1.0nm以下程度と平滑であっても、アニール処理によりさらに表面粗さ(RMS)の小さい、極めて平滑で曇りのない鏡面状の表面を得ることができる。
【0027】
・微細立体構造
アニール処理により、面が平坦化し、角が丸くなった微細立体構造を形成することができる。面の平坦化は、上面のみならず、壁面でも発生する。例えば、ボッシュプロセスで深掘りエッチングを行うと、形成された微細凹部の壁面には、スキャロップと呼ばれる凹凸が形成される。この微細凹部が形成されたウエハにアニール処理を施すと、壁面は、凹凸(スキャロップ)が均されて平坦化する。なお、本発明の微細立体構造形成方法により、アニール処理を施す被処理物は、微細凹部が形成されているものであればよく、微細凹部の形成方法は限定されず、また、微細凹部は、ウエハを貫通していてもよい。
【0028】
微細凹部が形成されたシリコンウエハに、アニール処理を施す場合、処理後の微細凹部の壁面の表面粗さ(RMS)は、1.5nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがさらに好ましい。
微細立体構造の壁面の表面粗さが小さく、すなわち平坦になると、加工精度が高まるとともに、歩留まりが改善する。また、この微細立体構造をデバイスに用いると、MEMSでは機械特性、微小光学部品や微小光回路では光学特性、X線用光学素子では各種特性、ナノインプリントでは離型性が向上する。さらに、SON(Silicon On Nothing)のような新規微細加工技術の開発が期待できる。
【0029】
微細凹部が形成されたシリコンウエハに、アニール処理を施す場合、処理後の微細凹部の上縁角の曲率半径は、0.9μm以上であることが好ましく、1.2μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。また、微細凹部が貫通しておらず底面を備える場合は、その底縁角の曲率半径は、1.4μm以上であることが好ましく、1.7μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることがさらに好ましい。なお、上縁角の曲率半径とは、シリコンウエハの上面と微細凹部の上部壁面の間の丸みを帯びている部分の曲率半径であり、底縁角の曲率半径とは、微細凹部の底面と微細凹部の下部壁面との間の丸みを帯びている部分の曲率半径である。
微細立体構造において、角の曲率半径が大きくなると、電解集中による断線、短絡等の故障が起こりにくくなる。また、MEMSの場合は変形可能範囲が大きくなり、MOSFETの場合は耐圧や信頼性が向上し、光共振器の場合はQ値が向上する。
【実施例0030】
「実験1」
国際公開第2017/150628号を参考にして、ミニマルファブ装置を利用して、ハーフインチサイズ(12.5mm)のウエハに、レジストパターンを形成した後、下記条件でサイクルタイム10秒のボッシュプロセスを180サイクル行い、深さ50μmの微細凹部を形成した。
プラズマデポジション工程 :4.0秒
インターバル :1.0秒
除去工程 :2.0秒
等方性エッチング工程 :2.0秒
インターバル :1.0秒
サイクル数 :180回
圧力 :10Pa
高周波電力の周波数 :100Hz
高周波電力の大きさ :40W
バイアス電力 :2W(VPP400V、Duty比20%)
エッチング :SF、8ml/min
プラズマデポジション :C、8ml/min
その後、アッシャー装置を用いてレジストパターンを除去し、微細凹部を形成した。
【0031】
得られた微細凹部の壁面について、分子間力顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス、Nanocute)を用いて表面形状を測定した。測定条件は以下の通りである。
解析ソフトウエア:AFM5000
カンチレバー :センサー内蔵型PRC-DF40P
測定エリア :10μm×10μm
解像度 :256×256
画像処理 :フラット(X,Y 1次)等の傾き補正
微細凹部壁面のRMSは20.3nmであった。また、壁面に形成されたスキャロップの周期は300nm、深さは45nmであった。
【0032】
ウエハを破断し、露出した微細凹部の断面を電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、上縁角の曲率半径と底縁角の曲率半径とを算出した。上縁角の曲率半径は0.27μm、底縁角の曲率半径は1.0μmであった。上縁角の電子顕微鏡画像を、図3に示す。
【0033】
この微細凹部が形成されたシリコンウエハに対し、図1に示すミニマルファブ装置であるアニール処理装置を用いて、正六角形のレーザ(880nm、130W)と、円環状のレーザ(940nm、80W)をウエハの下面に照射し、水素アニール処理を行い、微細立体構造を形成した。なお、このアニール処理装置のチャンバーの体積は、467ccである。
【0034】
水素アニール処理は、1100℃、30分、水素圧力20kPa、水素流量30cc/minを標準条件として、各条件を変化させて行った。
ウエハを入れて20kPaに昇圧するのに4分程度を要した。次にウエハの所定温度(750℃~1100℃)への加熱は、1秒以内に終わり、水素アニール処理後の降温に1分程度、更に排気に1分程度を要した。図1に示すミニマルファブ装置であるアニール処理装置では、ウエハの出し入れにそれぞれ1分程度かかるため、ウエハを装置に入れ、アニール処理し、装置から取り出すまでのサイクルタイムを、アニール処理時間+8分程度(20kPaの場合)とすることができた。
【0035】
水素アニール処理後のウエハは、いずれも微細凹部の間に残存する上面は荒れておらず、鏡面状であった。水素アニール処理後に、上記と同様にして、微細凹部壁面の表面粗さ(RMS)と、上縁角の曲率半径を求めた。また、処理後のウエハの一部について、底縁角の曲率半径を求めた。結果を表1に示す。
また、標準条件の上縁角の電子顕微鏡画像を図4に、水素アニール処理の温度、または水素圧力に対する、表面粗さ(RMS)と上縁角の曲率半径の値を、それぞれ図5、6に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
水素アニール処理の温度が高くなるほど、微細凹部の壁面は平坦となり、上縁角も丸くなった。条件1-1~7と標準条件において、1000℃以上で加熱することで、壁面のRMSを1.5nm以下、上縁角の曲率半径が0.9μm以上とすることができた。
条件3-1~7と標準条件において、水素ガス圧力10kPa以上で水素アニール処理することで、壁面を平坦に、角を丸くすることができた。15kPa~50kPaでは、壁面のRMSは0.41nm以下、上縁角の曲率半径は1μm以上となった。水素ガス圧力の15kPa~50kPaの範囲では、圧力の値が変化しても、壁面のRMS、上縁角の曲率半径の値は、あまり変わらなかった。
【0038】
「実験2」
実験1と同様にして、未処理のウエハに対して水素アニール処理を行い、ウエハ上面について、分子間力顕微鏡(株式会社日立ハイテクサイエンス、Nanocute)を用いて表面形状を測定した。
また、ウエハの上面を目視で観察し、その状態を下記基準に従って評価した。
〇:鏡面状である。
×:曇っている。
結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
条件5-1~3、実験1における条件4-1~7と標準条件が示すとおり、本発明により、1分当たりの水素ガス流量が、チャンバーの体積(V=467cc)の10分の1(0.1V/min)以下、さらには、流量0であっても、処理後のウエハの上面は鏡面状であり、ウエハが汚染されることなくアニール処理ができた。
【符号の説明】
【0041】
W ウエハ

1 アニール処理装置
11 チャンバー
111 透過窓
12 ホルダ
13 アーム
14 給気ライン
15 排気ライン
16a、b 赤外線レーザ光照射装置
La 正六角形の赤外線レーザ光
Lb 円環状の赤外線レーザ光
17 バンドパスフィルター
18a、b 放射温度計
図1
図2
図3
図4
図5
図6