(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038965
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 25/06 20060101AFI20220303BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20220303BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220303BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220303BHJP
【FI】
C08L25/06
C08L71/12
C08K3/04
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143708
(22)【出願日】2020-08-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩
(72)【発明者】
【氏名】郡 洋平
(72)【発明者】
【氏名】植松 英之
(72)【発明者】
【氏名】田上 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山根 正睦
(72)【発明者】
【氏名】山口 綾香
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC031
4J002BC03W
4J002CH072
4J002CH07X
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】機械的強度が高く、耐湿熱性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】シンジオタクチックポリスチレン(A)と、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)と、収束剤(C)と、炭素繊維(D)とを含み、前記収束剤(C)と前記炭素繊維(D)の合計に対する前記収束剤(C)の量が10質量%以上である炭素繊維集合体とを、溶融混練してなる、熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチックポリスチレン(A)と、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)と、
収束剤(C)と、炭素繊維(D)とを含み、前記収束剤(C)と前記炭素繊維(D)の合計に対する前記収束剤(C)の量が10質量%以上である炭素繊維集合体とを、溶融混練してなる、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記収束剤(C)の90質量%以上100質量%以下が水である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
窒素雰囲気下100℃で10分熱処理した後の前記収束剤(C)と前記炭素繊維(D)の合計に対する前記収束剤(C)の量が0.1質量%以上0.6質量%以下である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)が、ジカルボン酸変性ポリアリーレンエーテルである、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ジカルボン酸変性ポリアリーレンエーテルが、フマル酸変性ポリアリーレンエーテル又は無水マレイン酸変性ポリアリーレンエーテルである、請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記炭素繊維集合体の繊維長が1mm以上100mm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
【請求項8】
下記式(1)で示される120℃、500時間湿熱処理後の強度保持率が80%以上である、請求項7に記載の成形体。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年特に自動車分野においては、その重量を軽くすることによる燃費の改善が検討されている。例えば、従来の金属製の構造部材を繊維強化プラスチックにより代替えする動きが活発となっており、優れた強度を有する繊維強化プラスチックが求められている。なかでも、成形加工の容易さ、リサイクルのしやすさ等の点から、熱可塑性樹脂をマトリクスとする炭素繊維複合材料(炭素繊維強化熱可塑性樹脂。以下、CFRTPと略記することがある。)について、実用化に向けた検討が進められている。
【0003】
特許文献1には、ポリフェニレンエーテル、炭素繊維、及び、芳香族リン酸エステル系難燃剤の配合量を特定の範囲とすることで得られる、機械的強度に優れたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン系樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂との混合物を、異なる2種類の無機フィラーで強化して、剛性と異方性のバランスが良好な樹脂組成物を得る方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル及び熱可塑性樹脂を含む樹脂と、炭素繊維とを含む樹脂組成物が、成形性及び機械的強度に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-179343号公報
【特許文献2】特開2011-190358号公報
【特許文献3】特願2019-37036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CFRTPを様々な用途に用いるには、さらなる機械的強度が要求される。例えば、屋外で用いられる自動車、航空機等では、高温及び高湿な環境で長期にわたって利用されるため、長期において機械的強度を維持することが求められる。
本発明の目的は、機械的強度が高く、耐湿熱性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の熱可塑性樹脂組成物等が提供される。
1.シンジオタクチックポリスチレン(A)と、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)と、
収束剤(C)と、炭素繊維(D)とを含み、前記収束剤(C)と前記炭素繊維(D)の合計に対する前記収束剤(C)の量が10質量%以上である炭素繊維集合体とを、溶融混練してなる、熱可塑性樹脂組成物。
2.前記収束剤(C)の90質量%以上100質量%以下が水である、1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.窒素雰囲気下100℃で10分熱処理した後の前記収束剤(C)と前記炭素繊維(D)の合計に対する前記収束剤(C)の量が0.1質量%以上0.6質量%以下である、1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.前記官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)が、ジカルボン酸変性ポリアリーレンエーテルである、1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.前記ジカルボン酸変性ポリアリーレンエーテルが、フマル酸変性ポリアリーレンエーテル又は無水マレイン酸変性ポリアリーレンエーテルである、4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
6.前記炭素繊維集合体の繊維長が1mm以上100mm以下である、1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
7.1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
8.下記式(1)で示される120℃、500時間湿熱処理後の強度保持率が80%以上である、7に記載の成形体。
【数1】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度が高く、耐湿熱性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物は、シンジオタクチックポリスチレン(A)と、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)と;収束剤(C)と炭素繊維(D)とを含み、収束剤(C)及び炭素繊維(D)の合計に対する収束剤(C)の量が10質量%以上である炭素繊維集合体とを、溶融混練することで得られる。成分(A)~(D)を含む原料混合物を溶融混練することにより、機械的強度が向上し、かつ、耐湿熱性も高くなる。
以下、本態様の構成成分について説明する。
【0011】
<シンジオタクチックポリスチレン(A)>
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される、シンジオタクチックポリスチレンとは、高度なシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(以下、SPSと略記することがある)を意味する。本明細書において「シンジオタクチック」とは、隣り合うスチレン単位におけるフェニル環が、重合体ブロックの主鎖によって形成される平面に対して交互に配置されている割合(以下において、シンジオタクティシティと記載する)が高いことを意味する。
タクティシティは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)により定量同定できる。13C-NMR法により、連続する複数の構成単位、例えば連続した2つのモノマーユニットをダイアッド、3つのモノマーユニットをトリアッド、5つのモノマーユニットをペンタッドとしてその存在割合を定量することができる。
【0012】
「高度なシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂」とは、ラセミダイアッド(r)で通常75モル%以上、好ましくは85モル%以上、又はラセミペンタッド(rrrr)で通常30モル%以上、好ましくは50モル%以上のシンジオタクティシティを有するポリスチレン、ポリ(炭化水素置換スチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体もしくは混合物、又はこれらを主成分とする共重合体を意味する。
【0013】
ポリ(炭化水素置換スチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(tert-ブチルスチレン)、ポリ(フェニル)スチレン、ポリ(ビニルナフタレン)及びポリ(ビニルスチレン)等を挙げることができる。ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)及びポリ(フルオロスチレン)等が、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等を挙げることができる。ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)及びポリ(エトキシスチレン)等を挙げることができる。
【0014】
上記スチレン系重合体のうち特に好ましいものとして、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)、ポリ(p-tert-ブチルスチレン)、ポリ(p-クロロスチレン)、ポリ(m-クロロスチレン)、ポリ(p-フルオロスチレン)を挙げることができる。
さらにはスチレンとp-メチルスチレンとの共重合体、スチレンとp-tert-ブチルスチレンとの共重合体、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体等を挙げることができる。
【0015】
上記シンジオタクチックポリスチレンの分子量については特に制限はないが、成形時の樹脂の流動性及び得られる成形体の機械的性質の観点から、重量平均分子量が1×104以上1×106以下であることが好ましく、50,000以上500,000以下であることがより好ましく、50,000以上300,000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量が1×104以上であれば、十分な機械的性質を有する成形体を得ることができる。一方、重量平均分子量が1×106以下であれば成形時の樹脂の流動性にも問題がない。
温度300℃、荷重1.2kgfの条件下でシンジオタクチックポリスチレンのMFR測定を行った場合は、該MFRが2g/10分以上、好ましくは4g/10分以上であることが好ましく、この範囲であれば、成形時の樹脂の流動性にも問題がない。上記MFRが50g/10分以下、好ましくは40g/分以下、さらに好ましくは30g/分以下であれば十分な機械的性質を有する成形体を得ることができる。
【0016】
シンジオタクチックポリスチレンは、例えば不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下で、遷移金属化合物、及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物(アルミノキサン)を触媒として、スチレン単量体を重合することにより製造することができる。遷移金属化合物として、好ましくは周期律表第3族又は第4族金属、特に、スカンジウム、チタン、ジルコニウム等の遷移金属の化合物を用いることができる(例えば、特開2009-068022号公報)。
【0017】
シンジオタクチックポリスチレン(A)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分中、好ましくは80~97質量%、より好ましくは85~95質量%である。
シンジオタクチックポリスチレン(A)の含有量を上記範囲とすることで、耐熱性、低吸水性、及び成形加工性に優れるという効果が得られる。
なお、本明細書において熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分とは、シンジオタクチックポリスチレン(A)及び官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)を意味する。
【0018】
<官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)>
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される、官能基で変性されたポリアリーレンエーテルは、下記に記載のポリアリーレンエーテルを、下記に記載の変性剤と反応させることにより得ることができる。
【0019】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される、官能基で変性されたポリアリーレンエーテルの原料として使用するポリアリーレンエーテルは特に限定されない。
ポリアリーレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,3-ジメチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-クロロメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ〔2-(4’-メチルフェニル)-1,4-フェニレンエーテル〕、ポリ(2-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-ブロモ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジブロモ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられる。あるいは、米国特許第3,306,874号,同第3,306,875号,同第3,257,357号及び同第3,257,358号の各明細書に記載のポリマー及び共重合体も適切である。さらに、例えば、ポリスチレン等のビニル芳香族化合物と前記のポリフェニレンエーテルとのグラフト共重合体及びブロック共重合体が挙げられる。これらのなかでは、特にポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)が好ましく用いられる。
【0020】
ポリアリーレンエーテルの重合度に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選定でき、通常は、60~400の範囲から選定することができる。重合度が60以上であれば、後に詳述するが、官能基で変性されたポリアリーレンエーテルを含む熱可塑性樹脂組成物の強度を向上させることができる。400以下であれば良好な成形性を維持することができる。
【0021】
上記ポリアリーレンエーテルを変性する変性剤としては、酸変性剤、アミノ基含有変性剤、リン化合物、水酸基含有変性剤、ハロゲン含有変性剤、エポキシ基含有変性剤、不飽和炭化水素基含有変性剤等を挙げることができる。酸変性剤としては、例えばジカルボン酸及びその誘導体が例示される。
【0022】
変性剤として用いられるジカルボン酸としては、無水マレイン酸及びその誘導体、フマル酸及びその誘導体が挙げられる。無水マレイン酸の誘導体は、エチレン性二重結合とカルボキシル基又は酸無水物基のような極性基とを同一分子内に持つ化合物である。具体的には、例えばマレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、マレイミド及びそのN置換体(例えばN-置換マレイミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド等)、マレイン酸のアンモニウム塩、マレイン酸の金属塩、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。フマル酸誘導体の具体例としては、フマル酸ジエステル、フマル酸金属塩、フマル酸アンモニウム塩、フマル酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でもフマル酸又は無水マレイン酸が特に好ましく用いられる。
【0023】
上記官能基で変性されたポリアリーレンエーテルは、上記したポリアリーレンエーテルと変性剤とを反応させることにより得ることができる。官能基で変性されたポリアリーレンエーテルとしては、ジカルボン酸変性ポリアリーレンエーテルが好ましく、フマル酸変性ポリアリーレンエーテル又はマレイン酸変性ポリアリーレンエーテルがより好ましい。具体的には、(スチレン-無水マレイン酸)-ポリフェニレンエーテル-グラフトポリマー、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル、フマル酸変性ポリフェニレンエーテル、グリシジルメタクリレート変性ポリフェニレンエーテル、アミン変性ポリフェニレンエーテル等の変性ポリフェニレンエーテル系ポリマー等が挙げられる。中でも変性ポリフェニレンエーテルが好ましく、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル又はフマル酸変性ポリフェニレンエーテルがより好ましく、フマル酸変性ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。
【0024】
官能基で変性されたポリアリーレンエーテルの変性度合(変性度又は変性量)は、赤外線(IR)吸収分光法や滴定法により求めることができる。
赤外線(IR)吸収分光法から変性度を求める場合には、変性剤として用いる化合物の吸収を示すピーク強度と、該当するポリアリーレンエーテルの吸収を示すピーク強度のスペクトルの強度比から求めることができる。例えばフマル酸変性ポリフェニレンエーテルの場合、フマル酸の吸収を示す1790cm-1のピーク強度(IA)とポリフェニレンエーテル(PPE)の吸収を示す1704cm-1のピーク強度の比(IB)から下記式:
変性度=(IA)/(IB)
を用いることで求める。官能基で変性されたポリアリーレンエーテルの変性度は、0.05~20であることが好ましい。
【0025】
滴定により変性量を求める場合は、JIS K 0070-1992に準拠して測定された中和滴定量から酸含有量として求めることができる。官能基で変性されたポリアリーレンエーテルの変性量は、ポリアリーレンエーテル質量に対して、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~15質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%の変性量のものを使用することができる。
【0026】
より詳述する。官能基で変性されたポリアリーレンエーテルは、任意に溶媒や他樹脂の存在下で、ポリアリーレンエーテルと、種々の変性剤とを、ラジカル発生剤の存在下又は不存在下で反応させることにより調製できる。変性方法としては、溶液変性あるいは溶融変性が知られる。
【0027】
上述したフマル酸又はその誘導体を変性剤として用いる場合には、任意に芳香族炭化水素溶媒及び他樹脂の存在下で、ポリアリーレンエーテルとフマル酸又はその誘導体を、ラジカル発生剤の存在下あるいは不存在下で反応させることにより、フマル酸変性ポリアリーレンエーテルを得ることができる。芳香族炭化水素溶媒としては、ポリアリーレンエーテル、フマル酸又はその誘導体、及び任意に用いられるラジカル発生剤を溶解し、かつ発生ラジカルに対して不活性なものであればよく、特に限定されない。具体的には、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、tert-ブチルベンゼン等を好適なものとして挙げることができる。中でも、連鎖移動定数の小さいベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、tert-ブチルベンゼンを用いることが好ましい。溶媒は単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。芳香族炭化水素溶媒の使用割合も、特に制限はなく、状況に応じて適宜選定すればよい。一般には、使用するポリアリーレンエーテルに対して1~20倍(質量比)の範囲で定めればよい。
【0028】
変性剤として用いられるフマル酸又はその誘導体の使用割合については、ポリアリーレンエーテル100質量部に対して、好ましくは1~20質量部、より好ましくは3~15質量部である。1質量部以上であれば、十分な変性量(変性度)が得られる。20質量部以下であれば、変性後の精製等の後処理を適切に行うことができる。
【0029】
ポリアリーレンエーテルの溶液変性に任意に用いられるラジカル発生剤は特に限定されない。反応温度に適した分解温度を持ち、変性剤のポリアリーレンエーテルへのグラフトを効果的に行うため、水素引抜き能が大きなものが好ましい。具体的には、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド等を挙げることができる。ラジカル発生剤の使用割合は、ポリアリーレンエーテル100質量部に対して、15質量部以下とすることが好ましい。ラジカル発生剤が、15質量部以下であれば、不溶成分を生じにくく好ましい。ラジカル発生剤の不存在下で上記変性を行うと、変性量(変性度)が低い(例えば変性量が0.3~0.5質量%)ポリアリーレンエーテルが得られる。
【0030】
ポリアリーレンエーテルを溶液変性する場合は、具体的には、ポリアリーレンエーテル及び変性剤として例えばフマル酸又はその誘導体を芳香族炭化水素溶媒に溶解させ均一になった後、ラジカル発生剤を用いる場合には、ラジカル発生剤の半減期が1時間以下になる任意の温度でラジカル発生剤を加え、当該温度で反応を行う。使用するラジカル発生剤の半減期が1時間を超えるような温度は、長い反応時間が必要なため好ましくない。
反応時間は適宜選択できるが、ラジカル発生剤を有効に作用させるため、所定の反応温度でラジカル発生剤の半減期の3倍以上の時間変性反応を行うのが好ましい。
反応終了後、反応溶液をメタノール等のポリアリーレンエーテルの貧溶媒に加え、析出した変性ポリアリーレンエーテルを回収、乾燥して、目的とする、官能基で変性されたポリアリーレンエーテルを得ることができる。
【0031】
ポリアリーレンエーテルを溶融変性する場合には、ラジカル発生剤の存在下あるいは不存在下で、ポリアリーレンエーテルと、変性剤として例えばフマル酸又はその誘導体とを押出機を用いて溶融混練することにより、官能基で変性されたポリアリーレンエーテルを得ることができる。フマル酸又はその誘導体の使用割合は、ポリアリーレンエーテル100質量部に対して、好ましくは1~5質量部、より好ましくは2~4質量部である。1質量部以上であれば十分な変性量(変性度)となり、5質量部以下であれば、フマル酸やその誘導体の変性効率を良好に保ち、ペレット中に残留するフマル酸等の量を抑制することができる。
【0032】
ポリアリーレンエーテルの溶融変性に用いられるラジカル発生剤は、半減期1分間を示す温度が300℃以上のものが好ましい。半減期1分間を示す温度が300℃未満のもの、例えば過酸化物やアゾ化合物等では、ポリアリーレンエーテルの変性効果が充分でない。
ラジカル発生剤としては、具体的には、例えば2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルヘキサン、2,3-ジメチル-2,3-ジ(p-メチルフェニル)ブタン等がある。中でも、半減期1分間を示す温度が330℃である2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンが好適に用いられる。
ラジカル発生剤の使用割合は、ポリアリーレンエーテル100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.5~2質量部の範囲で選定される。0.1質量部以上であれば高い変性効果が得られ、3質量部以下であれば、効率よくポリアリーレンエーテルを変性することができ、不溶成分も生じにくい。
【0033】
ポリアリーレンエーテルを溶融変性する方法としては、例えば、ポリアリーレンエーテル、フマル酸又はその誘導体、及びラジカル発生剤を室温で均一にドライブレンドした後、実質的にポリアリーレンエーテルの混練温度である300~350℃の範囲で溶融反応を行う方法を挙げることができる。300℃以上であれば、溶融粘度を適切に維持することができ、350℃以下であれば、ポリアリーレンエーテルの分解を抑制することができる。
【0034】
以上詳述した方法により得られた、官能基で変性されたポリアリーレンエーテルのうち、特に好ましいフマル酸変性ポリアリーレンエーテルの場合、上記した滴定法により求められる変性量(変性剤含有量)は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~15質量%、さらに好ましくは1~10質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。変性量が0.1質量%以上であれば、充分な力学物性、耐熱性を有するポリアリーレンエーテルを得ることができる。該変性量は20質量%以下で十分である。
【0035】
樹脂成分と炭素繊維(D)との界面せん断強度を高める観点から官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分中、好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)の量が3質量%以上であれば、優れた界面せん断強度を得ることができる。ポリアリーレンエーテル(B)の量が20質量%以下であれば、得られる成形体の機械的強度や耐熱性を良好に保つことができる。
【0036】
<収束剤(C)>
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される収束剤は、水を主成分とする。収束剤は水の他に、ポリアルキレンエーテル、ポリアルキレングリコールなどの水溶性の化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物を含んでいてもよい。なお、水を主成分とするとは、収束剤全体に対する水の含有率が50質量%以上であることを意味する
【0037】
本発明の一態様に係る収束剤は、90質量%以上100質量%以下が水であることが好ましい。水を上記範囲で含むことで、炭素繊維を収束させながら、溶融混練時等に水が揮発するため、熱可塑性樹脂組成物となった際には、収束剤は熱可塑性樹脂組成物中にごく少量しか含まれないか、又は、収束剤は熱可塑性樹脂組成物中に含まれない。これにより、優れた機械的強度を有し、高温及び高湿な環境での強度保持率が高い成形体が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。収束剤における水の含有量は、95質量%以上、97質量%以上、又は98質量%以上であってもよい。
【0038】
本発明の一態様に係る収束剤は、窒素雰囲気下100℃で10分熱処理した後の収束剤(C)と後述する炭素繊維(D)の合計に対する収束剤(C)の量が、0.05質量%以上1質量%以下である。100℃で熱処理することで、収束剤(C)に含まれる水が蒸発し不揮発成分が主に残留する。従って、熱処理後の収束剤(C)の量が少ないことは、収束剤(C)が実質的に水からなることを意味する。熱処理した後の収束剤(C)の量は、0.1質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。
【0039】
収束剤(C)の含有量は、炭素繊維(D)と収束剤(C)との合計(炭素繊維集合体)に対し10質量%以上である。通常、水を主成分としない従来の収束剤を使用する場合、収束剤の使用量は5質量%以下である。本態様では水を主成分とする収束剤を使用するため、収束剤の使用量が多い。収束剤(C)の含有量は、好ましくは10~30質量%、より好ましくは10~20質量%である。
なお、熱可塑性樹脂組成物の出発原料の配合量の計算には、収束剤の質量は炭素繊維の質量に含まれる。すなわち、炭素繊維集合体を炭素繊維(D)の質量として計算する。
【0040】
<炭素繊維(D)>
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物の製造に使用される、炭素繊維は、特に限定されず、ポリアクリロニトリルを原料としたPAN系、石油や石炭中のコールタールピッチを原料としたピッチ系、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂を原料としたフェノール系等の各種の炭素繊維を用いることができる。炭素繊維は、気相成長法により得られるものであってもよく、リサイクル炭素繊維(RCF)であってもよい。このように炭素繊維は特に限定されないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、熱硬化系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長炭素繊維、リサイクル炭素繊維(RCF)からなる群から選択される少なくとも1種の炭素繊維であることが好ましい。
炭素繊維は製造時の原料品質や焼成温度により黒鉛化度を変えたものがあるが、黒鉛化度によらず使用可能である。炭素繊維の形状は特に限定されず、ミルドファイバー、集束切断状(チョップドストランド)、短繊維状、ロービング、フィラメント、トウ、ウイスカー、ナノチューブ等からなる群から選択される少なくとも1種の形状を有する炭素繊維を用いることができる。
炭素繊維の密度は特に限定されないが、1.75~1.95g/cm3のものが好ましい。
【0041】
炭素繊維の形態は、単繊維でも、繊維束でもよく、単繊維と繊維束の両者が混在していてもよい。
【0042】
炭素繊維は収束剤により炭素繊維集合体となる。炭素繊維集合体は、平均繊維長が1~100mmのものが好ましく、2~50mmのものがより好ましく、3~30mmのものがさらにより好ましい。
【0043】
炭素繊維集合体を構成する場合の単繊維の数は、各繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。炭素繊維の平均繊維径は形態により異なるが、例えば、平均繊維径が好ましくは0.0004~15μm、より好ましくは3~15μm、さらにより好ましくは5~10μmである炭素繊維を用いることができる。
【0044】
炭素繊維(D)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計100質量部に対して、好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~70質量部である。炭素繊維(D)の量が上記範囲であれば、本態様の熱可塑性樹脂組成物を含む成形体又は複合材が優れた機械的強度を有する。
【0045】
<その他成分>
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、一般に使用されるゴム状弾性体、酸化防止剤、上記炭素繊維又は炭素繊維以外の充填剤、架橋剤、架橋助剤、核剤、離型剤、可塑剤、相溶化剤、着色剤及び/又は帯電防止剤等のその他成分を添加することができる。その他成分のいくつかを以下に例示する。
【0046】
ゴム状弾性体としては、様々なものが使用可能である。例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、クロロプレンゴム、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、あるいはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS)、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレンコアシェルゴム(AABS)、ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートシロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプの粒子状弾性体、又はこれらを変性したゴム等が挙げられる。
これらの中で、特に、SBR、SBS、SEB、SEBS、SIR、SEP、SIS、SEPS、コアシェルゴム又はこれらを変性したゴム等が好ましく用いられる。
【0047】
変性されたゴム状弾性体としては、例えば、スチレン-ブチルアクリレート共重合体ゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等を、極性基を有する変性剤によって変性を行ったゴム等が挙げられる。
【0048】
充填剤として、炭素繊維あるいは炭素繊維の他に、有機フィラーも加えることができる。有機フィラーとして、有機合成繊維、天然植物繊維等が挙げられる。有機合成繊維の具体例としては、全芳香族ポリアミド繊維、ポリイミド繊維等が挙げられる。上記有機フィラーは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、その添加量は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計100質量部に対して1~350質量部であることが好ましく、5~200質量部であることがより好ましい。1質量部以上であれば、充填剤の効果が十分に得られ、350質量部以下であれば分散性に劣らず、成形性に悪影響を与えない。
【0049】
酸化防止剤としては様々なものがあるが、特にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ及びジ-ノニルフェニル)ホスファイト等のモノホスファイトやジホスファイト等のリン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤が好ましい。
ジホスファイトとしては、一般式
【化1】
(式中、R
30及びR
31は、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基あるいは炭素数6~20のアリール基を示す。)で表されるリン系化合物を用いることが好ましい。
【0050】
上記一般式で表されるリン系化合物の具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジオクチルペンタエリスリトールジホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0051】
フェノール系酸化防止剤としては既知のものを使用することができ、その具体例としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノール、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス-(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス〔4-メチル-6-(α-メチルシクロヘキシル)フェノール〕、1,1-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、1,1,3-トリス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン、2,2-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-4-n-ドデシルメルカプトブタン、エチレングリコール-ビス〔3,3-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブチレート〕、1,1-ビス(3,5-ジメチル-2-ヒドロキシフェニル)-3-(n-ドデシルチオ)-ブタン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロン酸ジオクタデシルエステル、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシハイドロシンナメート)〕メタン等が挙げられる。
上記リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤の他に、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等を単独で、あるいは複数種を混合して用いることができる。
【0052】
上記の酸化防止剤は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計100質量部に対し、通常、0.005質量部以上5質量部以下である。酸化防止剤の配合割合が0.005質量部以上であれば、シンジオタクチックポリスチレン(A)又は熱可塑性樹脂の分子量低下を抑制することができる。5質量部以下であれば、機械的強度を良好に維持することができる。酸化防止剤として複数種の酸化防止剤を組成物中に含む場合には、合計量が上記範囲となるように調整することが好ましい。酸化防止剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計100質量部に対し、より好ましくは0.01~4質量部、さらに好ましくは0.02~3質量部である。
【0053】
核剤としては、アルミニウムジ(p-tert-ブチルベンゾエート)をはじめとするカルボン酸の金属塩、メチレンビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)アシッドホスフェートナトリウムをはじめとするリン酸の金属塩、タルク、フタロシアニン誘導体等、公知のものから任意に選択して用いることができる。具体的な商品名としては、株式会社ADEKA製のアデカスタブNA-10、アデカスタブNA-11、アデカスタブNA-21、アデカスタブNA-30、アデカスタブNA-35、アデカスタブNA-70、大日本インキ化学工業株式会社製のPTBBA-AL等が挙げられる。これらの核剤は1種のみを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。核剤の配合量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計100質量部に対して好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.04~2質量部である。
【0054】
離型剤としては、ポリエチレンワックス、シリコーンオイル、長鎖カルボン酸、長鎖カルボン酸金属塩等公知のものから任意に選択して用いることができる。これらの離型剤は1種のみを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。離型剤の配合量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.2~1質量部である。
【0055】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物の原料は、実質的に、上述したシンジオタクチックポリスチレン(A)、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)、収束剤(C)及び炭素繊維(D)からなっていてもよい。実質的に(A)~(D)からなるとは、例えば、熱可塑性樹脂組成物全体に占める(A)~(D)の割合が80質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上であることを意味する。
【0056】
<熱可塑性樹脂組成物の調製及び成形>
本発明の一態様では、上述したシンジオタクチックポリスチレン(A)、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)、収束剤(C)及び炭素繊維(D)と、任意に上記その他の成分とを、溶融混練することで得られる。溶融混練により、収束剤(C)に含まれる水が蒸発し、目的物である熱可塑性樹脂組成物が得られる。
溶融混練に用いる装置は特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機、射出成型機等、公知の樹脂成形装置が使用できる。
溶融混練の条件は、使用装置や原料組成により適宜調整することができる。例えば、二軸押出機(二軸混練機)の場合、加熱温度は270~340℃である。
【0057】
各成分の投入順は特に限定されない。例えば、上述した成分(A)~(D)を予め混合した後に、樹脂成形装置に投入してもよく、また、上記(A)及び(B)をメインホッパーから投入し、成分(C)及び(D)の混合物である炭素繊維集合体を装置の途中から投入してもよい。また、二軸混練機を用いて炭素繊維集合体をサイドフィードする方法を用いると、炭素繊維の折損を抑制できるため好ましい。
【0058】
本態様では、上記成分(A)~(D)を含む原料混合物から、各種成形装置により直接製品の形状に成形してもよく、また、予め造粒してから各種成形装置で最終製品の形状に成形してもよい。
例えば、上記成分(A)~(D)と、必要に応じて上記その他の成分とを添加した原料混合物をシリンダ内で溶融混練し、射出成形をすることができる。射出成形では所定形状の金型を用い成形すればよい。押出成形では、フィルム及びシートをT-ダイ成形し、得られたフィルム及びシートを加熱溶融したものを押出して所定形状にすればよい。
本態様の熱可塑性樹脂組成物を含むシートをプレス成形することもできる。プレス成形には、コールドプレス法、ホットプレス法等の既知の方法を用いることができる。
【0059】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物は、シンジオタクチックポリスチレン(A)と、官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)と、収束剤(C)と、炭素繊維(D)とを含む原料を溶融混練してなる、熱可塑性樹脂をマトリクスとする炭素繊維複合材料(CFRTP)である。
【0060】
<成形体>
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の形状は特に限定されず、例えば、シート、フィルム、維維容器、射出成形体、ブロー成形体等を挙げることができる。
用いる炭素繊維の形態によっては、上記成形体は、一方向繊維強化材、又は織物状炭素繊維及び不織布状炭素繊維から選択される少なくとも1種の部材を含む成形体でもあり得る。例えば、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットや成形体を溶融したものに、一方向繊維強化材、又は織物状炭素繊維及び不織布状炭素繊維から選択される少なくとも1種の部材を含浸させ、再び成形することで製造できる。
当該成形体を複数積層させて、積層体とすることもできる。この積層体も、本明細書においては、「成形体」に含まれるものとする。
【0061】
本発明の一態様に係る成形体は、高温及び高湿な環境で高い強度保持率を有する。
例えば、本態様の成形体は、成形後の引張強度と、120℃、500時間湿熱処理後の引張強度について、下記式(1)を用いて求めた強度保持率が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。湿熱処理は、実施例に記載の方法で行うことができる。
【数2】
【0062】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、電気・電子材料(コネクタ・プリント基板等)、産業構造材、自動車部品(車両搭載用コネクター、ホイールキャップ、シリンダーヘッドカバー等)、家電品、各種機械部品、パイプ、シート、トレイ、フィルム等の産業用資材として好適である。
【0063】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、具体的には、熱可塑性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)として、さらなる軽量化が求められている自動車/航空機/スポーツ用品等、幅広い用途に展開することができる。この用途の成形体には、高荷重・高温といった高負荷環境下での耐性が求められる、エンジニアリングプラスチックの改良にも応用することが可能である。本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、成形時間も短くリサイクル性に優れ、成形時の樹脂浸漬が容易であり、機械的強度が十分であるため、広い用途に実用可能である。
【0064】
具体的には、自動車用途、二輪車/自転車用途、給湯器及びエコキュート関連用途、家電用途/電子機器用途、建材用途、日用品用途を挙げることができる。
自動車用途としては、ギア等の摺動部品、自動車用パネル部材、ミリ波レドーム、IGBTハウジング、ラジエターグリル、メーターフード、フェンダーサポート、フロントエンジンカバー、フロントストラットタワーパネル、ミッションセンタートンネル、ラジコアサポート、フロントダッシュ、ドアインナー、リアラゲッジバックパネル、リアラゲッジサイドパネル、リアラゲッジフロア、リアラゲッジパーティション、ルーフ、ドアフレームピラー、シートバック、ヘッドレストサポート、エンジン部品、クラッシュボックス、フロントフロアトンネル、フロントフロアパネル、アンダーカバー、アンダーサポートロッド、インパクトビーム、フロントカウル、フロントストラットタワーバー等の自動車用部品が例示できる。
【0065】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、例えば、パワーエレクトロニックユニット、急速充電用プラグ、車載充電器、リチウムイオン電池、バッテリーコントロールユニット、パワーエレクトロニック・コントロールユニット、三相同期モーター、家庭充電用プラグ等を好適に構成し得る。
【0066】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、さらに例えば、ソーラートワイライトセンサー、オルタネーター、EDU(エレクトロニックインジェクタードライバーユニット)、電子スロットル、タンブルコントロールバルブ、スロットル開度センサー、ラジエーターファンコントローラー、スティックコイル、A/Cパイプジョイント、ディーゼル微粒子捕集フィルター、ヘッドライト反射板、チャージエアダクト、チャージエア冷却ヘッド、インテークエア温度センサー、ガソリン燃料プレッシャーセンサー、カム/クランクポジションセンサー、コンビネーションバルブ、エンジンオイル圧力センサー、トランスミッションギア角度センサー、無段変速機オイルプレッシャーセンサー、ELCM(エバポリークチェックモジュール)ポンプ、ウォーターポンプインペラー、ステアリングロールコネクター、ECU(エンジンコンピュータユニット)コネクター、ABS(アンチロックブレーキシステム)リザーバーピストン、アクチュエーターカバー等を好適に構成し得る。
【0067】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、さらに例えば、車載センサーモジュールが備えるセンサーを封止するための封止材としても好適に用いられる。当該センサーは特に限定されず、具体的には、(例えば高地補正用)大気圧センサー、(例えば燃料噴射制御用)ブースト圧センサー、(IC化)大気圧センサー、(例えばエアバッグ用)加速度センサー、(例えばシートコンディション制御用)ゲージ圧センサー、(例えば燃料タンク漏れ検出用)タンク内圧センサー、(例えばエアコン制御用)冷媒圧センサー、(例えば点火コイル制御用)コイルドライバー、EGR(排気再循環)バルブセンサー、(例えば燃料噴射制御用)エアフローセンサー、(例えば燃料噴射制御用)吸気管圧(MAP)センサー、オイルパン、ラジエーターキャップ、インテークマニホールド等を挙げることができる。
【0068】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、上記に例示した自動車部品に限定されず、例えば、高電圧(ハーネス)コネクター、ミリ波レドーム、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)ハウジング、バッテリーヒューズターミナル、ラジエターグリル、メーターフード、インバーター冷却用ウォーターポンプ、電池監視ユニット、構造部品、インテークマニホールド、高電圧コネクター、モーター制御ECU(エンジンコンピュータユニット)、インバーター、配管部品、キャニスターパージバルブ、パワーユニット、バスバー、モーター減速機、キャニスター等にも好適に用いられる。
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、二輪車部品、自転車部品にも好適に用いられ、より具体的には、自動二輪車用部材、二輪車用カウル、自転車用部材等が挙げられる。二輪車/自転車用途としては、自動二輪車用部材、二輪車用カウル、自転車用部材を挙げることができる。
【0069】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、耐薬品性にも優れることから各種電化製品にも用いることができる。例えば給湯器、具体的には、いわゆる「エコキュート(登録商標)」等として知られる自然冷媒ヒートポンプ給湯器の部品を構成することも好ましい。当該部品としては、例えば、シャワー部品、ポンプ部品、配管部品等が挙げられ、より具体的には、一口循環接続金具、逃し弁、混合弁ユニット、耐熱トラップ、ポンプケーシング、複合水弁、入水金具、樹脂継手、配管部品、樹脂減圧弁、給水栓用エルボ等が挙げられる。
【0070】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、家電用途、電子機器にも好適に用いられ、より具体的には、電話機、携帯電話、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機、OA機器、電動工具部品、電装部品用途、静電気防止用途、高周波電子部品、高放熱性電子部品、高電圧用部品、電磁波遮蔽用部品、通信機器製品、AV機器、パソコン、レジスター、扇風機、換気扇、ミシン、インク周辺部品、リボンカセット、エアークリーナー部品、温水洗浄便座部品、便座、便蓋、炊飯器部品、光ピックアップ機器、照明器具用部品、DVD、DVD-RAM、DVDピックアップ部品、DVD用ピックアップ基盤、スイッチ部品、ソケット、ディスプレイ、ビデオカメラ、フィラメント、プラグ、高速カラー複写機(レーザープリンター)、インバーター、エアコン、キーボード、コンバーター、テレビ、ファクシミリ、光コネクター、半導体チップ、LED部品、洗濯機・洗濯乾燥機部品、食器洗浄機・食器乾燥機用部品等の構成部材を挙げることができる。
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、建材にも好適に用いられ、より具体的には、外壁パネル、バックパネル、間仕切壁パネル、信号灯、非常灯、壁材等の構成部材が挙げられる。
【0071】
本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、雑貨、日用品等にも好適に用いられ、より具体的には、箸、弁当箱、食器容器、食品トレイ、食品包装用材料、水槽、タンク、玩具、スポーツ用品、サーフボード、ドアキャップ、ドアステップ、パチンコ台部品、リモコンカー、リモコンケース、文房具、楽器、タンブラー、ダンベル、ヘルメットボックス製品、カメラ等に用いられるシャッター用羽根部材、卓球用やテニス用等のラケット部材、スキー用やスノーボード用等の板部材等の構成部材が挙げられる。
以上に説明した各種部品のそれぞれは、一部又は全部が本発明の一態様に係る熱可塑性樹脂組成物からなる成形体によって構成され得る。
【実施例0072】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0073】
実施例及び比較例で用いた各成分は以下の通りである。
[シンジオタクチックポリスチレン(A)]
SPS(シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ラセミペンタッド:98モル%、MFR:13g/10分、融点:270℃)
【0074】
[官能基で変性されたポリアリーレンエーテル(B)]
フマル酸変性PPE(溶融変性により製造、変性量1.7質量%、ガラス転移点220℃)
【0075】
[収束剤(C)、炭素繊維(D)]
炭素繊維集合体1(三菱ケミカル株式会社製:TR03CM、チョップド炭素繊維、収束剤量12質量%、繊維長3mm)
炭素繊維集合体2(三菱ケミカル株式会社製:TR06U、チョップド炭素繊維、収束剤量2.5質量%、繊維長6mm)
炭素繊維集合体3(三菱ケミカル株式会社製:TR066A、チョップド炭素繊維、収束剤量3.0質量%、繊維長6mm)
【0076】
[その他成分]
酸化防止剤1(BASFジャパン社製:Irganox1076)
酸化防止剤2(株式会社ADEKA社製:PEP36)
結晶核剤(株式会社ADEKA社製:NA-70)
【0077】
実施例1
<成形体の製造>
熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分(SPS:95質量%、フマル酸変性PPE:5質量%)の合計100質量部に対して、炭素繊維集合体1:32質量部(うち炭素繊維28質量部)、酸化防止剤1:0.2質量部、酸化防止剤2:0.2質量部、結晶核剤:0.4質量部を、シリンダ径が32mmである二軸混練機(Coperion社製:ZSK32MC)を用いて炭素繊維をサイドフィードして混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られたペレットを、射出成形機(株式会社ニイガタマシンテクノ製:MD100)にて、シリンダ温度300℃、金型温度150℃の条件で射出成形して試験片を得た。金型はISO金型を用いた。
【0078】
<機械的強度の評価>
この試験片を用いて、ISO 527-1:2012(第2版)に準拠して、引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフAG5000B)にて、初期チャック間距離100mm、引張速度5mm/分の室温条件で、引張試験を行って成形後の引張強度(MPa)を測定した。結果を表2に示す。
<湿熱処理後の強度保持率の評価>
試験片を120℃で500時間水中に浸漬することで処理した(湿熱処理)。処理後の試験片について、上述した引張強度(MPa)を測定した。
成形後の引張強度と湿熱処理後の引張強度について、下記式(1)を用いて強度保持率を求めた。
【数3】
【0079】
比較例1
炭素繊維集合体1:32質量部の代わりに、炭素繊維集合体2:29質量部(うち炭素繊維28質量部)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて成形体を得た。得られた成形体の機械的強度及び湿熱処理後の強度保持率を実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0080】
比較例2
炭素繊維集合体1:32質量部の代わりに、炭素繊維集合体3:29質量部(うち炭素繊維28質量部)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて成形体を得た。得られた成形体の機械的強度及び湿熱処理後の強度保持率を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
実施例2
熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分をSPS:85質量%、フマル酸変性PPE:15質量%に変更した以外は実施例1と同様の方法にて成形体を得た。得られた成形体の機械的強度及び湿熱処理後の強度保持率を実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0083】
比較例3
炭素繊維集合体1:32質量部の代わりに、炭素繊維集合体2:29質量部(うち炭素繊維28質量部)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて成形体を得た。得られた成形体の機械的強度及び湿熱処理後の強度保持率を実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0084】
比較例4
炭素繊維集合体1:32質量部の代わりに、炭素繊維集合体3:29質量部(うち炭素繊維28質量部)を用いた以外は実施例1と同様の方法にて成形体を得た。得られた成形体の機械的強度及び湿熱処理後の強度保持率を実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
実施例から、収束剤(C)と炭素繊維(D)の合計に対する収束剤(C)の量が10質量%以上である炭素繊維集合体を使用した熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、機械的強度に優れ、特に湿熱処理後の強度保持率が80%以上と優れることがわかる。
【0087】
実験例
炭素繊維集合体1~3を、窒素雰囲気下100℃で10分熱処理し、熱処理前後の質量変化から、熱処理後の収束剤量を計算した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
炭素繊維集合体1では、熱処理により収束剤の大部分(95.8質量%)が蒸発したことが確認できる。蒸発した成分は水である。一方、炭素繊維集合体2及び3では、ウレタン系又はエポキシ系の収束剤を使用しているため、熱処理による収束剤の含有量が変化しないこと、すなわち収束剤が水を含まないことが確認できる。