(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022040803
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】原料製造装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/01 20210101AFI20220304BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20220304BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220304BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220304BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C25B1/00 Z
C25B1/10
C25B9/00 A
C25B9/00 Z
C25B9/10
C01B3/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145687
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】熊 諳珂
(72)【発明者】
【氏名】田邉 真一
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC11
4K021DC13
(57)【要約】
【課題】SOEC形共電解による合成ガス製造と同等のエネルギー製造効率を保ちつつ、高い耐久性を有する原料製造装置を提供する。
【解決手段】少なくとも二酸化炭素を還元する触媒を有する第1のカソードと、第1のカソードと1対の電極を構成する第1のアノードと、第1のカソードと第1のアノードとの間に介設する第1の電解質と、を有する第1の電解装置と、少なくとも水素を生成する第2のカソードと、第2のカソードと1対の電極を構成する第2のアノードと、第2のカソードと第2のアノードとの間に介設される第2の電解質と、を有する第2の電解装置を有する原料製造装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二酸化炭素を還元する触媒を有する第1のカソードと、
前記第1のカソードと1対の電極を構成する第1のアノードと、
前記第1のカソードと前記第1のアノードとの間に介設する第1の電解質と、を有する第1の電解装置と、
少なくとも水素を生成する第2のカソードと、
前記第2のカソードと1対の電極を構成する第2のアノードと、
前記第2のカソードと前記第2のアノードとの間に介設される第2の電解質と、を有する第2の電解装置を有する原料製造装置。
【請求項2】
前記第1の電解装置は、少なくとも一酸化炭素を製造する装置である請求項1に記載の原料製造装置。
【請求項3】
前記第1の電解装置は、固体高分子形電解装置である請求項1又は2に記載の原料製造装置。
【請求項4】
前記第2の電解装置は、固体酸化物形電解装置である請求項1~3のいずれかに記載の原料製造装置。
【請求項5】
前記一酸化炭素の電流効率を90%以上、前記水素の電流効率を95%以上となるように、前記第1の電解装置と前記第2の電解装置を制御する制御装置を有する請求項2~4のいずれかに記載の原料製造装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の原料製造装置から得られた原料から、液体燃料又は気体燃料を製造する製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の原料製造装置から得られた原料から、化学品又は化学品原料を製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素と水素の混合ガスである合成ガスは、C1化学における基本的原料の一つであり、例えばフィッシャー・トロプシュ(FT)合成と組み合わせることで液体燃料が製造できる。合成ガスの製造方法としては、天然ガスの改質(スチームリフォーミングやドライリフォーミング)や石炭のガス化が挙げられる。近年、化石資源の枯渇や気候変動への懸念に伴い、バイオマスのガス化、逆シフト反応や二酸化炭素と水の電解による合成ガス製造プロセスが注目されている。
【0003】
電解による合成ガス製造の手段の1つとして、二酸化炭素と水を同時に電解して合成ガスを製造する共電解の研究開発が進んでいる。電解時に用いる電解質の種類により、固体酸化物(SOEC)形、固体高分子(PEEC)形、液体電解質形に分類される。各技術について、FT合成と組み合わせて液体燃料製造を行う場合のエネルギー効率及び耐久性について、SOEC形共電解による合成ガス製造はエネルギー効率が55~61%であり、他の方法(PEEC形=34%以下、液体電解質形=12%以下)と比べて高いが、電極表面における炭素析出や再酸化による電極劣化等の理由によって、商業利用が可能な程度に耐久性を備えることが難しいことが指摘されている(非特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sunfire社公表資料Electric synthetic fuels on their way to industrialization, 2018.02.21
【非特許文献2】Sunfire社公表資料CARBON RECYCLING VIA P2L WITH CO-ELECTROLYSIS”, 2019. 09
【非特許文献3】S. Wang et al., “Ni-Fe bimetallic cathodes for intermediate temperature CO2 electrolyzers using a La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.2O3”, J. Mater. Chem. A, 2013, 1, 12455.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、SOEC形共電解による合成ガス製造と同等のエネルギー製造効率を保ちつつ、高い耐久性を有する原料製造装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
少なくとも二酸化炭素を還元する触媒を有する第1のカソードと、
前記第1のカソードと1対の電極を構成する第1のアノードと、
前記第1のカソードと前記第1のアノードとの間に介設する第1の電解質と、を有する第1の電解装置と、
少なくとも水素を生成する第2のカソードと、
前記第2のカソードと1対の電極を構成する第2のアノードと、
前記第2のカソードと前記第2のアノードとの間に介設される第2の電解質と、を有する第2の電解装置を有する原料製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、SOEC形共電解による合成ガス製造と同等のエネルギー製造効率を保ちつつ、高い耐久性を有する原料製造装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る原料製造装置の概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係る第1の電解装置の概略構成図である。
【
図3】一実施形態に係る第2の電解装置の概略構成図である。
【
図4】一実施形態に係る原料製造装置をFT合成に適用した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明の一実施形態に係る原料製造装置の概略構成図である。
本実施形態に係る原料製造装置1は、少なくとも二酸化炭素を還元する触媒を有する装置として、少なくとも一酸化炭素(CO)を生成する第1の電解装置10と、少なくとも水素(H
2)を生成する第2の電解装置20と、を有する。第1の電解装置10には図示しない供給源及び供給装置によって二酸化炭素(CO
2)を含む原料が供給される。同様に、第2の電解装置20には図示しない供給源及び供給装置によって水(H
2O)を含む原料が供給される。
【0010】
第1の電解装置10は、CO2からCOを生成する。第2の電解装置20はH2OからH2を生成する。生成したCO及びH2を混合することにより合成ガスを製造する。第1の電解装置10は、供給されたCO2からCOを生成することが可能であれば、特に限定されない。例えば、固体高分子(PEEC)形電解装置を使用できる。第2の電解装置20は、供給されたH2OからH2を生成することが可能であれば、特に限定されない。例えば、固体酸化物形電解装置(SOEC)を使用できる。以下、各構成要素を詳述する。
【0011】
[第1の電解装置]
図2は一実施形態に係る第1の電解装置の概略構成図である。
第1の電解装置10は、第1のカソード(陰極)101と、第1のカソード101と1対の電極を構成する第1のアノード(陽極)102と、第1のカソード101と第1のアノード102との間に少なくとも一部が接触している状態にて介在する第1の電解質103と、第1のカソード101の第1の電解質103との接触面とは反対側の面で接触している集電板104と、第1のアノード102の第1の電解質103との接触面とは反対側の面で接触している支持板105と、電圧を印加する電圧印加部106と、を主な構成要素として有する。また、図示しない供給源及び供給装置によって、気相状態でのCO
2や、H
2Oを供給することとしている。
【0012】
集電板104、第1のカソード101、第1の電解質103、第1のアノード102、支持板105のそれぞれは所定の方法によって接着され、一体化して構成されている。なお、各部品が、着脱可能に構成されて1つの固体電解質形電解装置100を構成していてもよい。
【0013】
<第1のカソード>
第1のカソードでの還元反応は、第1の電解質の種類による。第1の電解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(1)の還元反応が起き、第1の電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(2)の還元反応が起きる。
CO2+2H++2e-→CO+H2O・・・(1)
H2O+CO2+2e-→CO+2OH-・・・(2)
【0014】
第1のカソードは、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、カーボン紙若しくは不織布、又は金属メッシュを含む。第1のカソードの電極材料には、例えば、グラファイトカーボン、ガラス状カーボン、チタン、SUSを挙げることができる。また、第1のカソードが有する、CO2をCOに還元可能なカソードの触媒は、例えば、銀、金、銅、亜鉛、スズ、インジウム、ニッケル、コバルト、鉄、パラジウム、マンガン又はそれらの組合せから選択される金属を含む。触媒は、より詳細には、例えば、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、スズ、スズ合金、インジウム、インジウム合金、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金、パラジウム、パラジウム合金、マンガン、マンガン合金又は、それらのいずれか1種以上を含む混合金属、又は、それらのいずれか1種以上と窒素、炭素とを含む触媒を含む。触媒の種類は、触媒としての機能を有するものであれば特に限定されず、耐腐食性等を考慮して決定することができる。例えば、触媒が、Al、Sn、Zn等の両性金属を含まないことで、耐腐食性を向上させることができる。蒸着、析出、吸着、堆積、接着、溶接、物理混合、噴霧等の公知の方法を実施することで、第1のカソード(乃至は電極材料)に対して、触媒を担持させることができる。
【0015】
<第1のアノード>
第1のアノードでの酸化反応は、第1の電解質の種類による。第1の電
解質として陽イオン交換膜を使用した場合には、下記式(3)の酸化反応が起き、第1の電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、下記式(4)の酸化反応が起きる。
2H2O→O2+4H++4e-・・・(3)
4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(4)
【0016】
第1のアノードは、ガス拡散層を含むガス拡散電極である。ガス拡散層は、例えば、金属メッシュを含む。第1のアノードの電極材料には、例えば、Ir、IrO2、IrOx、Ru、RuO2、Co、CoOx、Cu、CuOx、Fe、FeOx、FeOOH、FeMn、Ni、NiOx、NiOOH、NiCo、NiCe、NiC、NiFe、NiCeCoCe、NiLa、NiMoFe、NiSn、NiZn、SUS、Au、Ptを挙げることができる。
【0017】
<第1の電解質>
第1の電解質は、第1のカソードと第1のアノードとの間に接触状態にて介在する。第1の電解質としては、例えば、高分子膜が使用できる。具体的には、陽イオン交換膜又は陰イオン交換膜が好適であり、陰イオン交換膜がより好適である。
陽イオン交換膜としては、例えば、フッ素樹脂母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、Nafion117、Nafion115、Nafion212やNafion350(デュポン社製)、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体母体にスルホン基を導入した強酸性陽イオン交換膜、又はネオセプタCMX(徳山曹達社製)等を用いることができる。
陰イオン交換膜としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、更にこれらのイオン交換基が複数混在した陰イオン交換膜が挙げられる。具体例としては、例えば、ネオセプタ(登録商標)ASE、AHA、AMX、ACS、AFN、AFX(トクヤマ社製)、セレミオン(登録商標)AMV、AMT、DSV、AAV、ASV、AHO、AHT、APS4(旭硝子社製)等を用いることができる。
【0018】
<集電板>
集電板としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルメッキ鋼、真鍮等の金属材料が挙げられ、中でも加工し易さとコストの点から銅が好ましい。負極集電板の形状は、集電板が金属材料の場合は、例えば、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡メタル等が挙げられる。
なお、第1のカソードが電子を伝達する役割を持っている場合には、集電板は必ずしも必要無い。
【0019】
<支持板>
支持板は、アノードを支持する役割を果たす。したがって、アノードの厚み、剛性等により、求められる支持板の剛性も変わる。また、当該支持板は、アノードからの電子を受け取るべく、電気伝導性を有している必要がある。支持板の材料としては、例えば、Ti、SUS、Niを挙げることができる。
なお、本形態では第1のアノードと支持板を別体のものとして説明したが、第1のアノードと支持板とが一体構造であってもよい。即ち、支持機能を持った、一体型アノードとして構成してもよい。
【0020】
<電圧印加部>
電圧印加部は、集電板と支持板に電圧を印加することを通じ、第1のカソードと第1のアノードとの間に電圧を印加する役割を担う。ここで、上述のように、集電板は導電体であるため、第1のカソードに電子を供給する一方、支持板も導電体であるため、第1のアノードからの電子を受け取ることになる。なお、集電板が必要無い場合においては、第1のカソードと支持板との間に電圧は印加される。また、電圧印加部には、適切な電圧を印加するために、図示しない制御部が電気的に接続されていてもよい。
【0021】
<反応ガス供給部>
第1の電解装置には、図示しない反応ガス供給部が、第1の電解装置の外側に備えられていてもよい。第1のカソードに反応ガスであるCO2が供給されればよく、図示しない配管等を介して反応ガス供給部から第1のカソードに反応ガスが供給されてもよいし、集電板の、第1のカソードとの接触面とは反対側の面に反応ガスが吹付けられるように設けられていてもよい。
反応ガスは、工場から排出される工場排出ガスや火力発電所から排出されるガスを用いることが、環境面から好適である。
【0022】
<第1の電解装置によるCO生成>
図示しない反応ガス供給部によって、原料としての反応ガスであるCO2が気相状態にて第1の電解装置10へ供給される。このとき、CO2は集電板104に設けられたガス供給孔を介して第1のカソード101に供給される。
次に、第1のカソード101に供給されたCO2は、第1のカソード101表面において、還元反応により、第1の電解質103として陽イオン交換膜を使用した場合には、上述した式(1)の還元反応が起き、第1の電解質として陰イオン交換膜を使用した場合には、上述した式(2)の還元反応が起きることで、COを少なくとも含んだガスを生成する。
次に、生成されたCOを含んだガスは、集電板104に設けられたガス回収孔を介して図示しないガス回収装置に送られ、後述する第2の電解装置で生成されたH2と混合され合成ガスとなる。
【0023】
[第2の電解装置]
図3は一実施形態に係る第2の電解装置の概略構成図である。
第2の電解装置20は、第2のカソード(陰極)201と、第2のカソード201と1対の電極を構成する第2のアノード(陽極)202と、第2のカソード201と第2のアノード202との間に少なくとも一部が接触している状態にて介在する第2の電解質203と、電圧を印加する電圧印加部206と、を主な構成要素として有する。また、図示しない供給源及び供給装置によって、H
2Oを供給することとしている。
【0024】
<第2のカソード>
第2のカソードでの還元反応は、第2の電解質の種類による。第2の電解質として水素イオン(H+)伝導性を有する電解質を使用した場合には、下記式(11)の還元反応が起き、第2の電解質として酸化物イオン(O2-)伝導性を有する電解質を使用した場合には、下記式(12)の還元反応が起きる。
4H++4e-→2H2・・・(11)
2H2O+4e-→2H2+2O2-・・・(12)
【0025】
第2のカソードは、ガス拡散層を含むガス拡散電極であり、多孔性導電性電極が好ましい。具体的にはSOECのカソードが使用できる。例えば、NiとCeO2の混合物が挙げられる。
【0026】
<第2のアノード>
第2のアノードでの酸化反応は、第2の電解質の種類による。第2の電解質として水素イオン(H+)伝導性を有する電解質を使用した場合には、下記式(13)の酸化反応が起き、第2の電解質として酸化物イオン(O2-)伝導性を有する電解質を使用した場合には、下記式(14)の酸化反応が起きる。
2H2O→O2+4H++4e-・・・(13)
2O2-→O2+4e-・・・(14)
【0027】
第2のアノードは、ガス拡散層を含むガス拡散電極であり、多孔性導電性電極が好ましい。具体的にはSOECのアノードが使用できる。例えば、LaCoO3やランタン・ストロンチウム・マンガン複合酸化物(LSM)が挙げられる。
【0028】
<第2の電解質>
第2の電解質は、第2のカソードと第2のアノードとの間に接触状態にて介在する。第2の電解質としては固体酸化物が好ましく、例えば、酸化物イオン伝導性を有するイットリア安定化ジルコニア(YSL)、水素イオン伝導性を有するイットリウム添加ジルコン酸バリウム(BaZr0.8Y0.2O3-δ:BZY)が挙げられる。
【0029】
<第2の電解装置のその他の構成>
第2の電解装置は、上述した第2のカソード、第2のアノード及び第2の電解質の他に、第1の電解装置で説明した集電板、支持板、電圧印加部、反応ガス供給部等を有することができる。
また、本実施形態の第2の電解装置は、第2のカソード/第2の電解質/第2のアノードを含む積層構造(セル)を1つ有するが、これに限定されず、上記セルを2以上積層したスタック構造を有することもできる。この場合、セルは金属等のセパレータ(バイポーラプレート又は相互接続部ともいう。)を介して積層される。セパレータの機能は、電流の通過と、各セルの近傍における気体の循環を保証し、それぞれのセルの第2のアノード及び第2のカソードの側における気体の循環のための区画であるアノード区画とカソード区画とを分離することである。
【0030】
<第2の電解装置によるH2生成>
第2の電解装置20は、H2Oを電気分解することによりH2を生成する。第2の電解質203に固体酸化物を使用する場合、第2の電解質203を600~950℃に加熱する。固体酸化物は高温において、イオン伝導性を発揮するからである。
なお、第2の電解質のみを加熱する必要はなく、セル全体を加熱してもよい。加熱方法は特に制限はなく、SOECの方法を利用できる。
セルを上記温度に加熱し、H2Oと空気(O2を含む)をセルに導入し、第2のカソード201と第2のアノード202との間に電流を注入することによって、第2のカソード201上のH2Oが還元され、第2のカソード201でH2が生成されるか(上記式(12))、又は第2のアノード202でH2Oが酸化されて生じたH+イオンが、第2の電解質203を通り第2のカソード201に移動し、還元されてH2が生成される(上記式(11))。
次に、生成されたH2を含んだガスは、図示しないガス回収装置に送られ、第1の電解装置で生成されたCOを含むガスと混合され、合成ガスとなる。
【0031】
本実施形態の原料製造装置では、共電解ではなく、第1の電解装置によるCOの製造、第2の電解装置によるH2の製造を組み合わせて合成ガスを製造する。炭素析出や再酸化による劣化を避けるため、第2の電解装置を水電解による水素製造に特化することで、高効率かつ安定な水素製造を実現できる。合成ガス製造のための組み合わせとして、第1の電解装置によるCO2電解による一酸化炭素製造を採用することで、高い耐久性及び信頼性が期待できる。
【0032】
また、共電解による合成ガスと比べて、本実施形態の原料製造装置により製造される合成ガスは、COとH2の比率を容易に調整できる。具体的に、第1の電解装置及び第2の電解装置へ原料として供給されるCO2及びH2O量を調整したり、電解後に各電解装置から生成したガスを、個別にガス回収装置で回収し、該装置から所定量のCO及びH2を流通及び混合し合成ガスとすることにより、COとH2の比率を調整できる。これにより、各反応の原料として好適な合成ガス組成に容易に調整できる。
製造した合成ガスは、例えば、FT合成により軽油、ジェット燃料、ガソリン等の液体燃料へ変換することができ、メタネーションによりメタン等の気体燃料に変換できる。また、種々の反応条件や触媒により、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、エチレングリコール、芳香族化合物等にも変換でき、これらは燃料、化学品、化学品原料、その他の用途として使用される。
【0033】
例えば、FT合成による生成物中に飽和炭化水素を多く得たい場合は、通常のモル比(CO:H2=1:2~1:2.2)より水素の割合を多めにすることで達成できる。また、芳香族化合物やオレフィン等の不飽和炭化水素を多く得たい場合は、通常のモル比よりも水素の割合を少なくすることで達成できる。
【0034】
一実施形態の原料製造装置は、COの電流効率を90%以上、H2の電流効率を95%以上となるように、第1の電解装置と第2の電解装置を制御する制御装置を有する。該制御装置は、第1の電解装置と第2の電解装置のそれぞれが有する電圧印加装置を制御することで、それぞれの装置に係る電圧を制御し、各装置で生成されるCO又はH2の量を好適な量となるように制御することにより、上述の電流効率を達成する。制御装置は公知の構成、例えば、処理装置(CPU)、プログラムを記憶させる記憶装置(HDD、メモリチップ等、記憶ストレージ)、プログラムを実行させる際に読み出すRAM等から構成され、第1の電解装置と第2の電解装置に電気的に有線又は無線で接続される。
【0035】
一実施形態において、本実施形態の原料製造装置はFT合成装置と組み合わせて使用されることが好ましい。
図4は本実施形態の原料製造装置をFT合成に適用した場合の概略構成図である。原料製造装置1により製造された合成ガス(CO+H
2)は、FT合成装置30の原料ガスとなり、最終生成物である燃料(C
nH
2n+2(nは1以上の整数)で表される炭化水素等)となる。なお、FT合成装置については、特に限定はなく公知の装置(プロセス)を採用できる。
【0036】
本実施形態の原料製造装置とFT合成を組み合わせることで、燃料製造において高いエネルギー効率、例えば、50%以上を達成でき、且つ、耐久性を両立することが可能となり得る。以下、計算例を示す。
第1の電解装置として、PEEC形電解装置(CO2を原料としてCOを生成)を、第2の電解装置として、SOEC形電解装置(H2Oを原料としてH2を生成)を使用し、モル比(CO:H2)が1:2となるように調整し、合成ガスを得たとする。該合成ガスをFT合成装置で反応させることで燃料を製造する場合について、エネルギー効率を計算する。
【0037】
下記文献4から、バランスオフプラント(BOP)値を88%とし、FT合成のエネルギー効率を81%とする。
液体燃料製造までのエネルギー効率を求めるため、下記文献5から、PEEC形CO2電解装置の電流効率(FE)を90%、単セル印加電圧を2.66V、電解効率を50%(理論分解電圧/単セル印加電圧=1.33/2.66=50%)とする。
下記文献6から、SOEC形電解装置の電流効率(FE)を95%と推定し、単セル印加電圧を1.3V、電解効率を95%(理論分解電圧/単セル印加電圧=1.23/1.3=95%)とする。
【0038】
・文献4:Sunfire社公表資料,“Electric synthetic fuels on their way to industrialization”, 2018.02.21
・文献5:平成30年度環境省委託事業,平成30年度二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業部委託業務多量CO2排出施設における人工光合成技術を用いた地域適合型に参加炭素資源化モデルの構築実証
・文献6:東芝レビュー Vol.71 No.5 (2016)
【0039】
以上の値から下記式より計算すると、燃料製造までのエネルギー効率は約54%となり、きわめて高いことが分かる。
計算式:
((CO製造のFE)×CO製造の電解効率×COのモル比+(H2製造のFE)×H2製造の電解効率×H2モル比)×FT合成のエネルギー効率×BOP値
=(0.90×0.5×0.33+0.95×0.95×0.67)×0.81×0.88
=54%
【0040】
なお、本実施形態の一態様として、PEECからCOを製造する場合について記載をしたが、PEECで製造する生成物はCOに限らない。例えば、ギ酸(HCOOH)でもよく、この場合、SOECで製造されたH2を燃料に、PEECで製造されたギ酸をH2のキャリアとして本装置を用いることでより、効率よく原料を製造することができる。
また、PEECではカソード触媒の種類により、メタン、エチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等も製造可能である。このように本開示による原料製造装置を用いることで、CO2還元生成物と水素の混合物を任意の組成比で製造することとしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 原料製造装置
10:第1の電解装置
101:第1のカソード
102:第1のアノード
103:第1の電解質
104:集電板
105:支持板
106:電圧印加部
20:第2の電解装置
201:第2のカソード
202:第2のアノード
203:第2の電解質
206:電圧印加部
30:FT合成装置