(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041132
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸着剤、二酸化炭素吸着剤の再生方法、および、層状金属水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/08 20060101AFI20220304BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220304BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20220304BHJP
C01F 7/00 20220101ALI20220304BHJP
【FI】
B01J20/08 C
B01J20/30
B01J20/34 H
C01F7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146175
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】犬丸 啓
(72)【発明者】
【氏名】片桐 清文
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 直紀
(72)【発明者】
【氏名】川下 実央
(72)【発明者】
【氏名】福▲崎▼ 亮太
【テーマコード(参考)】
4G066
4G076
【Fターム(参考)】
4G066AA16B
4G066AA20B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA31
4G066CA35
4G066DA02
4G066DA03
4G066FA05
4G066FA21
4G066FA37
4G066FA38
4G066GA01
4G066GA32
4G076AA10
4G076AA14
4G076AA18
4G076AA19
4G076AB04
4G076BA13
4G076BD02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA22
4G076CA25
4G076CA33
4G076DA25
(57)【要約】
【課題】低温条件にて層状金属水酸化物から二酸化炭素を効率良く脱離させる。
【解決手段】二酸化炭素吸着剤であって、炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物を有している、二酸化炭素吸着剤。
【請求項2】
前記層状金属水酸化物は、以下の式(1)にて示されるホスト層を含むものである、請求項1に記載の二酸化炭素吸着剤:
[M2+
1-xM3+
x(OH)2-cO(c/2)(AOm
n-)y]・bH2O ・・・(1)
(式(1)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、Aは酸素以外の原子を示し、bは0以上の数を示し、cは0≦c<2の数を示し、xは0<x<1の数を示し、yは0<y<0.4の数を示し、mは8以下の自然数を示し、nは6以下の自然数を示す)。
【請求項3】
前記層状金属水酸化物は、前記式(1)において、0.005≦y≦0.085のものである、請求項2に記載の二酸化炭素吸着剤。
【請求項4】
前記層状金属水酸化物は、平均粒子径が150nm以下である、請求項1から3の何れか1項に記載の二酸化炭素吸着剤。
【請求項5】
二酸化炭素を吸着している請求項1から4の何れか1項に記載の二酸化炭素吸着剤を、50℃以上400℃以下に加熱する工程を有する、二酸化炭素吸着剤の再生方法。
【請求項6】
炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物の製造方法であって、
複数種類の金属イオンと、炭酸イオンとを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を水熱合成した後、生成した不溶物を回収する回収工程と、を含み、
(i)前記混合工程で、前記混合物に対して、さらに炭酸イオン以外のオキソアニオンを混合するか、または、
(ii)前記回収工程で、回収した後の前記不溶物に炭酸イオン以外のオキソアニオンを添加する、層状金属水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着剤、二酸化炭素吸着剤の再生方法、および、層状金属水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状金属水酸化物は、金属水酸化物を含んでいるホスト層と、陰イオンおよび水を含んでいるゲスト層と、が交互に積層した、層状の化合物である。
【0003】
従来一般的な層状金属水酸化物を一般式で表すと、[M2+
1-xM3+
x(OH)2]x+・bH2O[Ana-
x/a]x-にて示され、このとき、ホスト層は、[M2+
1-xM3+
x(OH)2]x+・bH2Oにて示され、ゲスト層は、[Ana-
x/a]x-にて示される。
【0004】
ホスト層は、2価の金属イオン(M2+:Mg2+、Zn2+、Co2+、または、Ni2+等)と、3価の金属イオン(M3+:Al3+、Fe3+、Cr3+、または、Ga3+等)と、水とを含み、金属イオンを6つのヒドロキシル基が取り込んで形成される八面体が互いに稜を共有することにより形成される水酸化物シートであってよい。また、ホスト層は、上述の水酸化物シートが積層して層状結晶構造を形成したものであってもよい。ホスト層は、2価の金属イオンの一部が3価の金属イオンによって置換されているため、正電荷を有している。
【0005】
一方、ゲスト層は、陰イオン(Ana-:Cl-またはCO3
2-等)を含み、さらに、その他の分子も含み得る。層状金属水酸化物が電気的に中性となるように、ゲスト層は陰イオンを含んでいる。
【0006】
ホスト層に含まれる金属イオンの組成を変化させることにより、ホスト層の電荷密度を制御することができる。ホスト層の電荷密度を特定の値に制御すれば、特定の陰イオンを、当該ホスト層に吸着させることができる。つまり、ホスト層に含まれる金属イオンの組成を変化させることにより、当該ホスト層に、特定の陰イオンに対する吸着特性を付与することができる。
【0007】
ホスト層に吸着した特定の陰イオンを脱離させることができれば、当該ホスト層を再生可能な機能性材料として利用することができる。それ故に、近年、ホスト層に特定の陰イオンを吸着させる技術のみならず、ホスト層に吸着した特定の陰イオンを脱離させる技術の開発も、盛んに行われている。
【0008】
例えば、特許文献1には、ゲスト層に含まれる陰イオンとしてCO3
2-(換言すれば、二酸化炭素)を用いた層状金属水酸化物が開示されている。また、当該特許文献は、層状金属水酸化物への二酸化炭素の吸着および脱離について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の層状金属水酸化物は、層状金属水酸化物から二酸化炭素を効率良く脱離させるためには高温条件(例えば、400℃を超える高温条件)が必要である。また、このような高温条件では、層状金属水酸化物から二酸化炭素を脱離させるときに層状金属水酸化物の層構造が破壊されるという問題点を有している。特許文献1に記載の層状金属水酸化物によれば、層状金属水酸化物の層構造の破壊が起こりにくい温度条件にて二酸化炭素を脱離させることができる。しかしながら、エネルギー効率の観点からは、層状金属水酸化物から二酸化炭素を脱離させる温度条件について、依然として改善の余地がある。
【0011】
本発明の一態様は、低温条件にて層状金属水酸化物から二酸化炭素を効率良く脱離させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物によれば、低温条件にて層状金属水酸化物から二酸化炭素を効率良く脱離できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の構成を含む。
【0013】
〔1〕炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物を有している、二酸化炭素吸着剤。
【0014】
〔2〕前記層状金属水酸化物は、以下の式(1)にて示されるホスト層を含むものである、〔1〕に記載の二酸化炭素吸着剤:
[M2+
1-xM3+
x(OH)2-cO(c/2)(AOm
n-)y]・bH2O ・・・(1)
(式(1)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、Aは酸素以外の原子を示し、bは0以上の数を示し、cは0≦c<2の数を示し、xは0<x<1の数を示し、yは0<y<0.4の数を示し、mは8以下の自然数を示し、nは6以下の自然数を示す)。
【0015】
〔3〕前記層状金属水酸化物は、前記式(1)において、0.005≦y≦0.085のものである、〔2〕に記載の二酸化炭素吸着剤。
【0016】
〔4〕前記層状金属水酸化物は、平均粒子径が150nm以下である、〔1〕から〔3〕の何れかに記載の二酸化炭素吸着剤。
【0017】
〔5〕二酸化炭素を吸着している〔1〕から〔4〕の何れかに記載の二酸化炭素吸着剤を、50℃以上400℃以下に加熱する工程を有する、二酸化炭素吸着剤の再生方法。
【0018】
〔6〕炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物の製造方法であって、複数種類の金属イオンと、炭酸イオンとを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を水熱合成した後、生成した不溶物を回収する回収工程と、を含み、(i)前記混合工程で、前記混合物に対して、さらに炭酸イオン以外のオキソアニオンを混合するか、または、(ii)前記回収工程で、回収した後の前記不溶物に炭酸イオン以外のオキソアニオンを添加する、層状金属水酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、低温条件にて層状金属水酸化物から二酸化炭素を効率良く脱離させることができる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る層状金属水酸化物を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る層状金属水酸化物の、粉末X線回析測定(XRD)による測定結果を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る層状金属水酸化物の、走査型電子顕微鏡観察(SEM)による観察像を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る層状金属水酸化物の、水および二酸化炭素の脱離スペクトルを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。加えて、本明細書において「層状金属水酸化物」とは、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide:LDH)と同様の結晶構造を有する層状金属水酸化物を意図する。
【0022】
〔1.二酸化炭素吸着剤〕
本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤は、炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物を有している。
【0023】
本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤が有する層状金属水酸化物は、以下の式(1)にて示されるホスト層を含むものであってよい:
[M2+
1-xM3+
x(OH)2-cO(c/2)(AOm
n-)y]・bH2O ・・・(1)
(式(1)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、Aは酸素以外の原子を示し、bは0以上の数を示し、cは0≦c<2の数を示し、xは0<x<1の数を示し、yは0<y<0.4の数を示し、mは8以下の自然数を示し、nは6以下の自然数を示す)。
【0024】
また、本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤が有する層状金属水酸化物は、以下の式(2)にて示される、ホスト層およびゲスト層の複合体を含むものであってもよい:
[M2+
1-xM3+
x(OH)2-cO(c/2)(AOm
n-)y(CO3)(x-ny)/2・bH2O] ・・・(2)
(式(2)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、Aは酸素以外の原子を示し、bは0以上の数を示し、cは0≦c<2の数を示し、xは0<x<1の数を示し、yは0<y<0.4の数を示し、mは8以下の自然数を示し、nは6以下の自然数を示す)。
【0025】
前記式(1)および前記式(2)において、「M2+」としては、特に限定されないが、例えば、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Cu2+、および、Sr2+を挙げることができる。一方、「M3+」としては、特に限定されないが、例えば、Al3+、Fe3+、Cr3+、Mn3+、Ga3+、および、Co3+を挙げることができる。前記式(1)における「M2+」と「M3+」との組み合わせは、特に限定されず、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Cu2+、および、Sr2+からなる群より選択される任意の「M2+」と、Al3+、Fe3+、Cr3+、Mn3+、Ga3+、および、Co3+からなる群より選択される任意の「M3+」と、の組み合わせであり得る。「M2+」および「M3+」の各々は、単一種類のイオンによって構成されていてもよいが、複数種類のイオンによって構成されていてもよい。つまり、「M2+」および「M3+」の各々は、それぞれの群より選択される複数種類のイオンが混在して構成されるものであってもよい。なお、複数種類のイオンによって構成されている場合には、2種類のイオン、3種類のイオン、4種類のイオン、または、5種類以上のイオンによって構成され得る。
【0026】
二酸化炭素吸着剤に吸着した二酸化炭素をより低温条件にて脱離でき、かつ、二酸化炭素吸着剤から二酸化炭素を脱離させるときに二酸化炭素吸着剤の層構造をより安定に維持できるという観点からは、上述した「M2+」の中では、Mg2+、Zn2+、または、Ni2+がより好ましく、上述した「M3+」の中では、Al3+、または、Ga3+がより好ましく、上述した「M2+」と「M3+」との組み合わせの中では、Mg2+とAl3+との組み合わせ、Zn2+とAl3+との組み合わせ、または、Ni2+とAl3+との組み合わせがより好ましいといえる。
【0027】
前記式(1)および前記式(2)において、「O(c/2)」は、ホスト層から一時的に水(H2O)が分離した場合に残存する酸素を示す。高温条件下では、ホスト層に含まれる「(OH)2」の一部のOHが、水(H2O)としてホスト層から分離し得る。前記式(1)および前記式(2)において、「c」は0≦c<2の数を示し、高温ではない条件下(例えば、室温)では、通常0または0に近い値である。
【0028】
前記式(1)および前記式(2)において、「x」は、0<x<1の数であればよいが、0.1≦x≦0.33の数であることが好ましく、0.2≦x≦0.33の数であることがさらに好ましい。当該構成によれば、二酸化炭素吸着剤に吸着した二酸化炭素を低温条件にて脱離することが容易であるため、二酸化炭素吸着剤から二酸化炭素を脱離させるときに二酸化炭素吸着剤の層構造を良好に維持できる。それ故に、当該構成によれば、二酸化炭素を繰り返して吸着および脱離することができる二酸化炭素吸着剤を実現することができる。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態の二酸化炭素吸着剤では、層状金属水酸化物は、炭酸イオン以外のオキソアニオンを含んでいる。
図1では、ホスト層の間に、炭酸イオンを含むゲスト層が吸着した状態における層状金属水酸化物の模式的な化学構造であって、オキソアニオンを含まない場合と、オキソアニオンを含む場合とをそれぞれ示す。なお、
図1では、4つの酸素原子を有するオキソアニオンを例示しているが、オキソアニオンの種類はこれに限定されるものではない。
【0030】
層状金属水酸化物がオキソアニオンを含まない場合の、2つのホスト層の間の距離を層間距離D1とし、オキソアニオンを含む場合の、2つのホスト層の間の距離を層間距離D2とする。このとき、層間距離D2は層間距離D1よりも大きくなる。これは、層状金属水酸化物に含まれるオキソアニオンが2つのホスト層の間に配置され、これにより2つのホスト層の間の距離が物理的に広がるためと考えられる。
【0031】
このように、オキソアニオンの存在によってホスト層の間の距離が広がることで、ホスト層の間に吸着した炭酸イオン(換言すれば、二酸化炭素)は、オキソアニオンを含まない場合よりも、極めて低い温度条件により層状金属水酸化物から脱離できる。したがって、二酸化炭素吸着剤に吸着した二酸化炭素を、低温条件にて効率的に脱離することができる。
【0032】
なお、このようなオキソアニオンは、ゲスト層のホスト層への吸着と比較して、ホスト層に強固に結合する。それ故に、層状金属水酸化物から二酸化炭素が脱離する温度条件下でも、オキソアニオンは脱離しない。したがって、層状金属水酸化物に含まれるオキソアニオンは、ホスト層の一部とみなしてよい。
【0033】
前記式(1)および前記式(2)では、「AOm
n-」は、炭酸イオン以外のオキソアニオンを示す。前記式(1)および前記式(2)において、「A」は、酸素以外の原子を示すものであり、または、炭素以外の原子を示すものであってよい。「A」は、特に限定されないが、例えば、4族~10族の原子または13族~17族の原子であってよい。4族~10族の原子としては、例えば、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、および、ロジウム(Rh)が挙げられる。また、13族~17族の原子としては、例えば、硫黄(S)、リン(P)、塩素(Cl)、窒素(N)、ケイ素(Si)、ヨウ素(I)、ホウ素(B)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、およびテルル(Te)を挙げることができる。この中でも、「A」は、硫黄、リン、塩素、窒素、ケイ素、ヨウ素、ホウ素、フッ素、または、クロム、アルミニウム、または、コバルトであることがより好ましい。また、「A」は、これらの原子より選択される複数種類の原子が混在して構成されるものであってもよい。なお、「A」が複数種類の原子によって構成されている場合には、2種類の原子、3種類の原子、または、4種類以上の原子によって構成され得る。「A」が複数種類の原子によって構成されている場合でも、「n」は「AOm」全体の負電荷の平均値を示す。
【0034】
また、「m」は、8以下の自然数であってよく、7以下の自然数であってもよく、6以下の自然数であってもよく、5以下の自然数であってもよく、4以下の自然数であってもよく、3以下の自然数であってもよく、2以下の自然数であってもよく、1であってもよい。また、「n」は、6以下の自然数であってよく、5以下の自然数であってもよく、4以下の自然数であってもよく、3以下の自然数であってもよく、2以下の自然数であってもよく、1であってもよい。
【0035】
層状金属水酸化物に含まれるオキソアニオンは、特に限定されないが、酸素原子を4つ以上含むオキソアニオンであることが好ましい。すなわち、前記式(1)および前記式(2)における「m」は、4以上であることが好ましい。このようなオキソアニオンは、四面体形状の各頂点となる位置に酸素原子が配位した、立体的な分子構造をとる。したがって、ホスト層の間の距離を効果的に広げることができる。このようなオキソアニオンとしては、特に限定されないが、例えば、硫酸イオン(SO4
2-)、リン酸イオン(PO4
3-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、ケイ酸イオン(SiO4
4-)、クロム酸イオン(CrO4
2-)、および、モリブデン酸イオン(MoO4
2-)が挙げられる。また、層状金属水酸化物に含まれるオキソアニオンは、前掲のオキソアニオンより選択される複数種類のオキソアニオンが混在して構成されるものであってもよい。
【0036】
前記式(1)および前記式(2)において、「y」は、0<y<0.4の数であればよい。層状金属水酸化物は、オキソアニオンを除いた状態のホスト層の正電荷数と同じ数まで、負電荷を有する分子を結合または吸着できる。また、層状金属水酸化物に炭酸イオン(換言すれば、二酸化炭素)が吸着できる状態とするため、「y」の上限は0.2未満であることが好ましい。また、「y」は、0.005≦y≦0.334の数であることがより好ましく、0.005≦y≦0.085の数であることがより好ましく、0.01≦y≦0.085の数であることがより好ましく、0.01≦y≦0.042の数であることがより好ましく、0.015≦y≦0.042の数であることがより好ましい。当該構成によれば、層状金属水酸化物における二酸化炭素吸着能を良好に保ちつつ、低温条件によって二酸化炭素の効率的な脱離が可能となる。
【0037】
前記式(1)および前記式(2)において、「bH2O」は、層状金属水酸化物に吸着する水分子を示す。層状金属水酸化物には、後述する〔2.二酸化炭素吸着剤の再生方法〕等に記載の加熱温度によって、水分子が全く吸着していない状態であってもよいし、水分子が吸着している状態であってもよい。したがって、「b」は0以上の数であればよい。
【0038】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤では、層状金属水酸化物は、平均粒子径が、150nm以下であることが好ましい。
【0039】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤では、層状金属水酸化物は、平均粒子径が、150nm以下、好ましくは140nm以下、より好ましくは130nm以下、より好ましくは120nm以下、より好ましくは110nm以下、より好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下、より好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、最も好ましくは10nm以下である。平均粒子径の下限値は、限定されないが、例えば、0.5nm、1nm、または5nmであってもよい。
【0040】
当該構成によれば、二酸化炭素吸着剤に吸着した二酸化炭素を低温条件にて脱離することがさらに容易となるため、二酸化炭素吸着剤から二酸化炭素を脱離させるときに二酸化炭素吸着剤の少なくとも一部の層構造をより良好に維持できる。それ故に、当該構成によれば、二酸化炭素を繰り返して吸着および脱離することができる二酸化炭素吸着剤を実現することができる。
【0041】
平均粒子径は、動的光散乱測定(DLS)によって求めることができる。なお、動的光散乱測定は、市販の装置(例えば、大塚電子株式会社製 ELSZ-1000ZS)を用い、当該市販の装置に添付のプロトコルにしたがって行えばよい。
【0042】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤に含まれている層状金属水酸化物の量は、特に限定されず、例えば、二酸化炭素吸着剤を100重量%とした場合に、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
【0043】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤は、層状金属水酸化物以外の成分を含有し得る。これらの成分としては、例えば、層状金属水酸化物を担持する担体(例えば、多孔質の担体)を挙げることができる。
【0044】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤に含まれている層状金属水酸化物以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、二酸化炭素吸着剤を100重量%とした場合に、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
【0045】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤は、後述する〔2.二酸化炭素吸着剤の再生方法〕および/または〔3.層状金属水酸化物の製造方法〕にしたがって作製することができる。水熱合成法にしたがって層状金属水酸化物を作製すると、大気中等に存在する二酸化炭素がホスト層に吸着して、二酸化炭素を吸着するキャパシティが低下した層状金属水酸化物が形成され得る。この場合、例えば、当該層状金属水酸化物を加熱する工程における温度の下限値は、120℃以上、より好ましくは110℃以上、より好ましくは100℃以上、より好ましくは90℃以上、より好ましくは80℃以上、より好ましくは70℃以上、より好ましくは60℃以上、より好ましくは50℃以上とすることが好ましい。また、例えば、当該層状金属水酸化物を加熱する工程における温度の上限値は、400℃以下、より好ましくは350℃以下、より好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、より好ましくは270℃以下、より好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下、より好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下とすることが好ましい。層状金属水酸化物を、このような温度に加熱する工程を行うことによって、本実施の形態の二酸化炭素吸着剤を、加熱に必要なエネルギーを最小限にしながら、二酸化炭素の吸着に最適な、意図した性能を発揮できる状態にすることができる。なお、前記加熱する工程における温度は、前記層状金属水酸化物に含まれるオキソアニオンの種類に応じて、最適な温度が選択されてよい。
【0046】
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤は、固体吸着剤であるため、二酸化炭素を脱離するための加熱に必要となるエネルギーを、例えばアミン系等の液体の二酸化炭素吸着剤と比較して、大幅に小さくできる。また、本実施の形態の二酸化炭素吸着剤は、従来の固体の二酸化炭素吸着剤よりも低温条件により二酸化炭素を脱離できる。したがって、本実施の形態の二酸化炭素吸着剤は、従来の二酸化炭素吸着剤と比較して極めて良好なエネルギー効率により、低コストでの二酸化炭素の吸着および脱離を行うことができる。
【0047】
また、本実施の形態の二酸化炭素吸着剤は、大気中の二酸化炭素を直接吸着するDAC(Direct Air Capture)装置にも好適に利用できる。例えば、二酸化炭素を含む層状金属水酸化物の一種であるハイドロタルサイトは、天然に産出され、自然界に広く存在する物質である。このように、二酸化炭素を吸着する層状金属水酸化物は無害であり、製造も容易である。また、ハイドロタルサイトが二酸化炭素を含んでいるように、層状金属水酸化物は二酸化炭素を極めて吸着しやすい性質を有している。それ故に、層状金属水酸化物は二酸化炭素の吸着能にも優れているといえることから、二酸化炭素濃度が比較的低い大気中からの二酸化炭素の吸着にも、好適に利用できる。
【0048】
〔2.二酸化炭素吸着剤の再生方法〕
本実施の形態の二酸化炭素吸着剤の再生方法は、二酸化炭素を吸着している二酸化炭素吸着剤を加熱する工程を有している。換言すれば、本実施の形態の二酸化炭素吸着剤の再生方法は、層状金属水酸化物を含む二酸化炭素吸着剤に二酸化炭素が吸着することにより、二酸化炭素を吸着するキャパシティが低下した層状金属水酸化物を含む二酸化炭素吸着剤となった二酸化炭素吸着剤を加熱する工程を有している。二酸化炭素吸着剤を加熱する工程における温度の下限値は、120℃以上、より好ましくは110℃以上、より好ましくは100℃以上、より好ましくは90℃以上、より好ましくは80℃以上、より好ましくは70℃以上、より好ましくは60℃以上、より好ましくは50℃以上とすることが好ましい。また、例えば、当該層状金属水酸化物を加熱する工程における温度の上限値は、400℃以下、より好ましくは350℃以下、より好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、より好ましくは270℃以下、より好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下、より好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下とすることが好ましい。
【0049】
本実施の形態に用いられる二酸化炭素吸着剤であれば、前記の二酸化炭素吸着剤の再生方法により、二酸化炭素吸着剤から、低温であっても効率よく二酸化炭素を脱離することができ、かつ、二酸化炭素吸着剤の構造を安定に維持することができる。低温にて効率よく二酸化炭素を脱離することができれば、(i)安価かつ簡便な加熱装置によって二酸化炭素吸着剤を所望の温度に加熱することができる、および、(ii)加熱に必要なエネルギー(燃料および/または電力)を節約することができる、等の利点がある。一方、二酸化炭素吸着剤の構造を安定に維持することができれば、(iii)二酸化炭素吸着剤を繰り返し用いることによって、二酸化炭素を回収するためのコストを低減することができる、および、(iv)二酸化炭素吸着剤を繰り返し用いることによって、二酸化炭素吸着剤の交換に要する煩雑な作業を省略することができる、等の利点がある。
【0050】
〔3.層状金属水酸化物の製造方法〕
本実施の形態の層状金属水酸化物の製造方法は、炭酸イオン以外のオキソアニオンを含む層状金属水酸化物の製造方法であって、複数種類の金属イオンと、炭酸イオンとを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を水熱合成した後、生成した不溶物を回収する回収工程と、を含み、
(i)前記混合工程で、前記混合物に対して、さらに炭酸イオン以外のオキソアニオンを混合するか、または、
(ii)前記回収工程で、回収した後の前記不溶物に炭酸イオン以外のオキソアニオンを添加する工程を有している。
【0051】
複数種類の金属イオンの組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、2価の金属イオンと、3価の金属イオンとの組み合わせであり得る。2価の金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Cu2+、および、Sr2+を挙げることができる。一方、3価の金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、Al3+、Fe3+、Cr3+、Mn3+、Ga3+、および、Co3+を挙げることができる。複数種類の金属イオンの組み合わせは、特に限定されず、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Mn2+、Ni2+、Co2+、Cu2+、および、Sr2+からなる群より選択される任意の2価の金属イオンと、Al3+、Fe3+、Cr3+、Mn3+、Ga3+、および、Co3+からなる群より選択される任意の3価の金属イオンと、の組み合わせであり得る。2価の金属イオンおよび3価の金属イオンの各々は、単一種類のイオンによって構成されていてもよいが、それぞれ複数種類のイオンによって構成されていてもよい。つまり、2価の金属イオンおよび3価の金属イオンの各々は、それぞれの群より選択される複数種類のイオンが混在して構成されるものであってもよい。なお、複数種類のイオンによって構成されている場合には、2価の金属イオンおよび3価の金属イオンのいずれか、または、各々が2種類のイオン、3種類のイオン、4種類のイオン、または、5種類以上のイオンによって構成され得る。
【0052】
二酸化炭素吸着剤に吸着した二酸化炭素をより低温条件にて脱離でき、かつ、二酸化炭素吸着剤から二酸化炭素を脱離させるときに二酸化炭素吸着剤の層構造をより安定に維持できるという観点からは、上述した2価の金属イオンの中では、Mg2+、Zn2+、または、Ni2+がより好ましく、上述した3価の金属イオンの中では、Al3+、または、Ga3+がより好ましく、上述した2価の金属イオンおよび3価の金属イオンの組み合わせの中では、Mg2+とAl3+との組み合わせ、Zn2+とAl3+との組み合わせ、または、Ni2+とAl3+との組み合わせがより好ましいといえる。
【0053】
混合工程にて、複数種類の金属イオンと炭酸イオンとを混合する方法については、特に限定されないが、例えば、複数種類の金属イオンの塩をそれぞれ含む複数の水溶液と、アルカリ金属等の炭酸塩を含む水溶液とを混合する方法であってよい。
【0054】
回収工程において、混合工程にて得られた混合物を水熱合成する方法としては、特に限定されないが、例えば、AU2005318862A1に記載の方法であってよい。水熱合成は、例えば、混合物を、オートクレーブ等による高圧下において、1時間以上144時間以下の時間、80℃以上150℃以下の温度に加熱する方法であってよい。当該混合物を水熱合成することで生成する不溶物を回収する方法としては、特に限定されないが、例えば、遠心分離法等の一般的な方法であってよい。
【0055】
炭酸イオン以外のオキソアニオンは、混合工程にて混合するか、または、回収工程にて添加するかの、いずれかの工程において混合または添加する。混合工程で、前記混合物に対して、さらに炭酸イオン以外のオキソアニオンを混合する場合、その方法は特に限定されないが、例えば、複数種類の金属イオンの塩をそれぞれ含む複数の水溶液と、アルカリ金属等の炭酸塩を含む水溶液と、炭酸イオン以外のオキソアニオンの塩を含む水溶液と、を混合する方法であってよく、または、複数種類の金属イオンの塩をそれぞれ含む複数の水溶液と、アルカリ金属等の炭酸塩を含む水溶液との混合物に、さらに、炭酸イオン以外のオキソアニオンの塩を含む水溶液を混合する方法であってもよい。
【0056】
当該構成によれば、一般的な層状金属水酸化物を製造する方法から特に工程を追加することなく、水溶液を混合する簡便な操作によって、本実施形態に係る二酸化炭素吸着剤に含まれる層状金属水酸化物を容易に製造できる。
【0057】
また、回収工程にてオキソアニオンを添加する場合、その方法は特に限定されないが、例えば、回収した後の不溶物に形成されるホスト層の層間に、炭酸イオン以外のオキソアニオンを一般的なインターカレーション法により挿入する方法であってよい。
【実施例0058】
<1.層状金属水酸化物のナノ粒子の製造>
以下に、本発明の一実施例における層状金属水酸化物のナノ粒子の製造方法を説明する。なお、以下に示す実施例では、水熱合成法にしたがって、様々な量のオキソアニオン(SO4
2-)を含む層状金属水酸化物のナノ粒子を製造した。
【0059】
まず、200mL容量の三角フラスコに、0.026M Na2SO4水溶液(x mL、x=20、15、10、5、2、または、0)と、0.026M Na2CO3水溶液(20-x mL)と、を加え、これらの混合溶液を調整した。当該混合溶液を激しく攪拌しながら、0.6M MgCl2水溶液(5mL)と、0.3M AlCl3水溶液(5mL)とをマイクロピペットにより素早く当該混合溶液に加えて10分間攪拌し、白色の生成物を形成させた。
【0060】
得られた混合物を遠心分離し、白色の沈殿物を回収した。当該沈殿物をイオン交換水によって2回洗浄した。
【0061】
洗浄後の沈殿物を40mLのイオン交換水に懸濁し、水熱合成法にしたがって、層状金属水酸化物のナノ粒子を製造した。なお、反応条件は100℃とし、反応時間は4時間とした。なお、水熱合成法の詳細については、AU2005318862A1に記載の方法にしたがった。
【0062】
水熱合成の時間が経過するにつれて、沈殿物を含むイオン交換水の白濁度が増すことが確認できた(図示せず)。
【0063】
以下の各試験では、上述の製造方法において、Na2SO4水溶液の量がそれぞれ0mL(S0)、2mL(S10)、5mL(S25)、10mL(S50)、15mL(S75)、20mL(S100)の条件で製造したナノ粒子をサンプルとして用いて評価を行った。
【0064】
なお、S0からS100までの各ナノ粒子のサンプルは、以下に示すホスト層の構造を有するものである;
S0:[Mg2+
0.667Al3+
0.333(OH)2]、
S10:[Mg2+
0.667Al3+
0.333(OH)2(SO4
2-)0.0167]、
S25:[Mg2+
0.667Al3+
0.333(OH)2(SO4
2-)0.0417]、
S50:[Mg2+
0.667Al3+
0.333(OH)2(SO4
2-)0.0833]、
S75:[Mg2+
0.667Al3+
0.333(OH)2(SO4
2-)0.125]、
S100:[Mg2+
0.667Al3+
0.333(OH)2(SO4
2-)0.167]。
【0065】
<2.粉末X線回折測定(XRD)>
以下に、粉末X線回折測定の試験方法、および、試験結果について説明する。まず、粉末X線回折測定の試験方法について説明する。
【0066】
(使用機材)
X線回折装置:D8-ADVANCE(Burker AXS株式会社製)、
ディテクター:Scintilation counter(Burker AXS株式会社製)、
測定線源:波長1.5418ÅのCu Kα、
フィルター:Ni。
【0067】
(測定条件)
X線管負荷:40mA、35kV、
測定角度:5.0-70.0deg、
サンプリング間隔:0.020deg、
発散スリット(入射):0.6mm、
受光スリットDetector Slit:12.09mm、
Antiscattering Slit:7.87mm、
ディテクター受光角:3.00°。
【0068】
図2に、各サンプルのXRDピークを示す。また、以下の表1に、
図2に記載の(003)、(006)、および、(110)の各ピークからそれぞれ算出した、d
003、d
006、および、d
110の値(単位:Å)を示す。dは、各ピークに応じた原子配列の網面の間隔(格子面間隔)を示す。
【0069】
【0070】
図2に記載の(003)および(006)は層状金属水酸化物特有のピークを示す。S0からS100のすべてに前記ピークが認められた。一方、(003)および(006)のピークは、Na
2SO
4水溶液の混合量、すなわち層状金属水酸化物中のSO
4
2-の含有量が多いほど、狭角側にシフトしていた。これに伴い、d
003およびd
006の値は、SO
4
2-の含有量が多いほど大きくなっていた。なお、S100における10°付近の(003)のピークは、広角側に向かって傾斜が観察された。これは、当該ピークには複数のピーク成分が含まれているためと考えられる。さらに、S100における20°付近の(006)のピークは、S75およびS50の同じ角度付近にも観察された。これらは、S100の層構造について、S100の主な層構造に、S75に特徴的な層構造が一部入り交ざった構造となっているためと考えられる。
【0071】
また、SO4
2-の含有量に関わらず、(110)のピーク位置は変わらなかった。
【0072】
<3.走査型電子顕微鏡観察(SEM)>
以下に、走査型電子顕微鏡観察の試験方法、および、試験結果について説明する。
【0073】
(使用機器)
真空蒸着装置:VE-2030(株式会社真空デバイス製)、
走査型電子顕微鏡:S4800(日立製)。
【0074】
(測定条件)
加速電圧:5~15kV。
【0075】
図3に各サンプルのSEMによる観察画像を示す。S0では、40~80nmの大きさの、六角形の板状結晶が観察された。S10では、60~80nmの大きさの、正六角形に近い板状結晶が多く存在していた。S25では、大きさがS10と同等かまたは少し大きい、正六角形に近い板状結晶が多く存在していた。S50では、60~100nmの大きさの粒子が見られたが、粒子の形状は不揃いであった。S75およびS100では、大きさが不揃いの粒子が見られた。これらの粒子の形状は、六角形の板状形状の角が削れた形状であった。
【0076】
<4.二酸化炭素および水の脱離挙動観察試験>
以下に、二酸化炭素および水の脱離挙動観察試験の試験方法、および、試験結果について説明する。
【0077】
(使用機器)
質量分析計:JMS-Q1050GC(日本電子株式会社製)
データロガー:TM-947SD(株式会社マザーツール製)
キャリアガス:Ar(100cc/min.)
(測定条件)
まず、CO2脱離量の定量のため、ガラス管をガスクロマトグラフ質量分析計に通じたガス流通系に設置し、当該ガラス管に1% CO2/Arガスを一定速度で流して、シグナル強度を確認した。
【0078】
次に、石英管セルに石英ウール、および、約30mgの各サンプルを入れ、電気炉で600℃まで10℃/minで昇温し、水および二酸化炭素の脱離挙動をそれぞれ、ガスクロマトグラフ質量分析計にて分析した。温度はデータロガーにより記録した。
【0079】
図4に、各サンプルにおける水および二酸化炭素の脱離挙動について示す。
【0080】
図4上部は水の離脱挙動について示したものである。S0からS50では、水の脱離挙動に大きな差は認められなかった。また、220℃、330℃、および400℃付近に脱離ピークが観察された。これらは、典型的なMgAl-LDH-CO
3粒子(金属イオンとしてMgイオンとAlイオンを用い、ゲスト層に炭酸ガスが挿入された層状金属水酸化物粒子)の熱分解時における、水の離脱挙動を示すと考えられる。具体的に、約220℃の水の脱離は、層間(ゲスト層)に含まれる水の脱離であると考えられる。約330℃の水の脱離は、Al-OHの縮合脱水に起因する水の脱離であると考えられる。約400℃の水の脱離は、Mg-OHの縮合脱水および炭酸イオンの分解に起因する水の脱離であると考えられる。
【0081】
また、S75では、S0からS50における水の脱離挙動とは異なり、S0からS50で見られた3つの脱離ピークに加えて、500℃付近にも脱離ピークが観察された。さらに、S100では、S0からS75とは異なる水の脱離挙動が観察されており、500℃付近において最大の脱離を示していた。
【0082】
図4下部は二酸化炭素の脱離挙動について示したものである。S0からS50では、いずれも3つの脱離ピークが観察されたが、これらの脱離ピークの温度はサンプル間でそれぞれ異なっていた。最大放出である430℃付近の脱離ピークはS0からS50まで同様であった。一方、300℃~350℃の脱離ピークは、S0では340℃付近に観察されたが、S10からS50では300℃付近に観察されており、40℃程度の低温化が起こっていた。さらに、50℃~250℃の脱離ピークでは、特にS10で全体の放出量の10%程度となる大きな脱離ピークが観察された。当該脱離ピークはS25およびS50でもある程度の大きさで観察された一方、S0では非常に小さかった。
【0083】
S75およびS100では、S0からS50とは概形が異なる二酸化炭素の脱離スペクトルが観察された。S75およびS100では、500℃付近に二酸化炭素の脱離ピークが観察された。なお、S75では、350℃以下にも、S0からS50における脱離ピークとは異なる位置に脱離ピークが観察された。
【0084】
これらの結果から、S0と、S10からS50とを比較すると、SO4
2-が加わることで二酸化炭素の脱離挙動が大きく変化していた。これは、層状金属水酸化物におけるホスト層の間にSO4
2-が配置されると、ホスト層の間の距離が広がり、ホスト層の水酸基とゲスト層の炭酸イオン(換言すれば、二酸化炭素)との相互作用が弱くなって、二酸化炭素が脱離しやすくなったためと考えられる。
【0085】
なお、
図4下部では、各サンプルを連続的に昇温した場合の二酸化炭素の脱離曲線を示した。しかしながら、連続的な昇温ではなく、所定の1点の温度で処理する場合には、当該温度まで一気に加熱することから、
図4下部に示す脱離曲線よりも二酸化炭素の脱離温度が低温側にシフトする。
図4下部に示す結果によれば、S10の条件では、120℃付近から脱離ピークが開始しているため、実際には100℃以下の温度(例えば、50℃)でも二酸化炭素を脱離できると考えられる。