(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041384
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】多芯ケーブルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20220304BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220304BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220304BHJP
H01B 13/02 20060101ALI20220304BHJP
H01B 13/14 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/18 B
H01B7/02 Z
H01B13/02 Z
H01B13/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146544
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】河村 知可子
(72)【発明者】
【氏名】大橋 守
【テーマコード(参考)】
5G309
5G311
5G313
5G325
【Fターム(参考)】
5G309RA04
5G309RA10
5G309RA11
5G309RA15
5G311AA04
5G311AC06
5G311AD02
5G313AB03
5G313AC03
5G313AD08
5G313AE07
5G325BC10
5G325JC01
(57)【要約】
【課題】多芯ケーブルの絶縁電線の摺動性を向上させる。
【解決手段】多芯ケーブル1は、撚り合わされた複数の絶縁電線4を備える。複数の絶縁電線4の各々は、導電体2と、導電体2の外周を覆う絶縁層3とを有する。絶縁層3は、導電体2側の内周面(3a)と、内周面(3a)と反対側の外周面3bとを有する。また、絶縁層3の外周面3b上に、複数の無機フィラーIFおよびシリコーンが分散し、複数の無機フィラーIFの各々は、球状粒子である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撚り合わされた複数の絶縁電線を備え、
前記複数の絶縁電線の各々は、導電体と、前記導電体の外周を覆う絶縁層とを有し、
前記絶縁層は、前記導電体側の内周面と、前記内周面と反対側の外周面とを有し、
少なくとも前記外周面上に、複数の無機フィラーおよびシリコーンが分散し、
前記複数の無機フィラーの各々は、球状粒子である、多芯ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記複数の無機フィラーの各々は、シリカまたはアルミナである、多芯ケーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記絶縁層は、熱可塑性樹脂を主な樹脂材料とする樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂と、前記複数の無機フィラーと、前記シリコーンを含むシリコーン樹脂とを有する、多芯ケーブル。
【請求項4】
請求項3に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記シリコーン樹脂は、シリコーンゴムまたはシリコーングラフトポリマーである、多芯ケーブル。
【請求項5】
請求項3に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフラレート、ポリブチレンテレフラレートのエラストマー、ポリアミド11、ポリアミド11のエラストマー、ポリアミド12、または、ポリアミド12のエラストマーである、多芯ケーブル。
【請求項6】
請求項5に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記外周面に対する前記複数の無機フィラーのBET比表面積は、5m2/g以上、25m2/g以下である、多芯ケーブル。
【請求項7】
請求項5に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記樹脂組成物中における前記複数の無機フィラーの添加量は、3wt%以上、25wt%以下である、多芯ケーブル。
【請求項8】
請求項1に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記複数の無機フィラーおよび前記シリコーンは、前記内周面上にも分散している、多芯ケーブル。
【請求項9】
請求項8に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記導電体は、撚り合わされた複数の導電線によって構成され、
前記絶縁層は、前記複数の導電線の外周を覆っている、多芯ケーブル。
【請求項10】
請求項1に記載の多芯ケーブルにおいて、
前記複数の絶縁電線の外周を覆うテープ層と、前記テープ層の外周を覆うシースとを更に備える、多芯ケーブル。
【請求項11】
(a)複数の導電体を用意する工程、
(b)熱可塑性樹脂と、複数の無機フィラーが添加され、且つ、シリコーンを含むシリコーン樹脂と混練することで、樹脂組成物を形成する工程、
(c)前記複数の導電体の各々の外周に、前記樹脂組成物からなる絶縁層を形成することで、複数の絶縁電線を形成する工程、
(d)前記複数の絶縁電線を撚り合わす工程、
を備え、
前記絶縁層は、前記導電体側の内周面と、前記内周面と反対側の外周面とを有し、
前記(c)工程において、少なくとも前記外周面上に、複数の無機フィラーおよびシリコーンが分散し、
前記複数の無機フィラーの各々は、球状粒子である、多芯ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多芯ケーブルおよびその製造方法に関し、特に、導電体の外周を絶縁層で覆われた絶縁電線を備えた多芯ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
導電体と、導電線の外周を覆う絶縁層とを有する絶縁電線を複数備え、複数の絶縁電線が撚り合わされて構成される多芯ケーブルが知られている。このような多芯ケーブルをロボットケーブルに適用する場合、複数の絶縁電線の間で発生する摩擦および摩耗が原因となり、ロボットケーブルの屈曲寿命が短くなるという問題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、2つの絶縁電線と、これらの絶縁電線の外周を覆うシースとの間に潤滑剤を設けることで、2つの絶縁電線とシースとの間における摩擦抵抗を低減させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリブチレンテレフラレート樹脂と、ポリエーテルエステル樹脂と、シリコーンオイルとを含有するPBT樹脂組成物が開示され、このPBT樹脂組成物を電線の被覆樹脂材料として使用できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、複数の絶縁電線が撚り合わされて構成される多芯ケーブルをロボットケーブルに用いることが開示され、絶縁電線の絶縁層の表面の滑性を向上させるために、絶縁層に、有機系高分子量シリコーンポリマを含有するポリエステルエラストマーを適用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-45731号公報
【特許文献2】特開平9-3307号公報
【特許文献3】特開2008-218061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロボットケーブルの屈曲寿命が短くなることを抑制するためには、絶縁電線の摺動性を向上させることで、複数の絶縁電線の間で発生する摩擦および摩耗を低減させることが有効である。そのため、絶縁電線の絶縁層に、ETFE(四フッ化エチレン-エチレン共重合樹脂)のようなフッ素樹脂を適用することも考えられる。しかし、そのようなフッ素樹脂は高価である。
【0008】
また、上述の特許文献3のように、ポリエステルエラストマーへのシリコーンの分散によって、摺動性の向上を図ることも考えられる。しかし、本願発明者らの検討によれば、シリコーンの添加量が増すことで吐出変動が発生し、ケーブルの外観に問題が生じることが分かった。従って、特許文献3に開示された技術では、十分な摺動性の向上を図ることが難しい。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、絶縁電線の摺動性を向上させることができる多芯ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態である多芯ケーブルは、撚り合わされた複数の絶縁電線を備える。ここで、前記複数の絶縁電線の各々は、導電体と、前記導電体の外周を覆う絶縁層とを有し、前記絶縁層は、前記導電体側の内周面と、前記内周面と反対側の外周面とを有する。また、前記絶縁層の前記外周面上に、複数の無機フィラーおよびシリコーンが分散し、前記複数の無機フィラーの各々は、球状粒子である。
【0010】
一実施の形態である多芯ケーブルの製造方法は、(a)複数の導電体を用意する工程、(b)熱可塑性樹脂と、複数の無機フィラーが添加され、且つ、シリコーンを含むシリコーン樹脂と混練することで、樹脂組成物を形成する工程、(c)前記複数の導電体の各々の外周に、前記樹脂組成物からなる絶縁層を形成することで、複数の絶縁電線を形成する工程、(d)前記複数の絶縁電線を撚り合わす工程、を備える。ここで、前記絶縁層は、前記導電体側の内周面と、前記内周面と反対側の外周面とを有し、前記(c)工程において、少なくとも前記外周面上に、複数の無機フィラーおよびシリコーンが分散し、前記複数の無機フィラーの各々は、球状粒子である。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、多芯ケーブルの絶縁電線の摺動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1における多芯ケーブルを示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1における多芯ケーブルを示す断面図である。
【
図3】実施の形態1における絶縁電線を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1における絶縁電線を示す断面図である。
【
図5】実施の形態1における多芯ケーブルの製造方法を示すプロセスフローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0014】
また、実施の形態を説明する図面においては、各構成を分かり易くするために、ハッチングを省略する場合もある。
【0015】
(実施の形態1)
<多芯ケーブル1の構造>
以下に
図1~
図4を用いて、実施の形態1における多芯ケーブル1について説明する。多芯ケーブル1は、例えばロボットの各部位に接続されるロボットケーブルとして使用される。
【0016】
図1は、多芯ケーブル1を示す斜視図である。
図2は、多芯ケーブル1の延在方向に対して垂直な断面図である。
図3は、絶縁電線4を示す斜視図である。
図4は、絶縁電線4の延在方向に対して垂直な断面図である。
【0017】
図1および
図2に示されるように、多芯ケーブル1は、撚り合わされた複数の絶縁電線4と、複数の絶縁電線4の外周を覆うテープ層5と、テープ層5の外周を覆うシース6とを備える。
【0018】
なお、本明細書において、「複数の絶縁電線4の外周を覆うテープ層5」のような表現は、テープ層5が複数の絶縁電線4の周囲に位置していることを意味し、複数の絶縁電線4およびテープ層5が直接接している場合を含み、複数の絶縁電線4とテープ層5との間に空間または他の構造体が存在している状態で、複数の絶縁電線4およびテープ層5が上記空間または上記他の構造体を介して隣接している場合も含む。このような定義は、複数の絶縁電線4およびテープ層5の関係に限られず、例えばテープ層5およびシース6のような他の構造体同士の関係にも適用される。
【0019】
複数の絶縁電線4の各々は、導電体2と、導電体2の外周を覆う絶縁層3とを有する。
図3および
図4に示されるように、導電体2は、撚り合わされた複数の導電線20によって構成された集合撚線であり、絶縁層3は、撚り合わされた複数の導電線20の外周を覆っている。なお、テープ層5に覆われた各絶縁電線4の間の隙間に、綿糸、スフ糸または紙紐などの介在7が設けられていてもよい。
【0020】
導電線20は、例えば銅または銅合金のような金属材料からなる単線である。また、導電線20の表面には、錫またはニッケルのような金属材料からなるめっき層が形成されていてもよく、導電線20を構成する金属材料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であってもよい。
【0021】
絶縁層3は、導電体2側の内周面3aと、内周面3aと反対側であり、且つ、テープ層5側の外周面3bとを有する。言い換えれば、内周面3aの内側に導電体2が設けられ、外周面3bの外側にテープ層5およびシース6が設けられている。
【0022】
テープ層5は、多芯ケーブル1の製造時における型くずれを防止するために設けられており、テープ層5の材料としては、樹脂フィルム、不織布または紙などが用いられる。シース6は、樹脂材料からなり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、シリコーンゴムまたはフッ素樹脂からなる。
【0023】
実施の形態1では、少なくとも絶縁層3の外周面3b上に、複数の無機フィラーIFおよびシリコーンSIが分散している。
【0024】
絶縁層3は、熱可塑性樹脂を主な樹脂材料とする樹脂組成物からなる。なお、ここで説明する「主な樹脂材料」とは、樹脂組成物全体のうち50%以上が、熱可塑性樹脂によって構成されることを意味する。樹脂組成物は、押出機を用いた押出成形によって、熱可塑性樹脂と、複数の無機フィラーIFが添加され、且つ、シリコーンSIを含むシリコーン樹脂とを混練することで形成されている。従って、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、複数の無機フィラーIFと、シリコーンSIを含むシリコーン樹脂とを有する。
【0025】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフラレート、ポリブチレンテレフラレートのエラストマー、ポリアミド11、ポリアミド11のエラストマー、ポリアミド12、または、ポリアミド12のエラストマーである。シリコーン樹脂は、熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、シリコーンゴムであることが好ましい。シリコーン樹脂を構成する材料として、具体的には、ジメチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサンまたはメチルフェニルポリシロキサンが挙げられる。
【0026】
また、複数の無機フィラーIFの各々は、球状粒子であり、例えばシリカまたはアルミナである。絶縁層3が上述のような熱可塑性樹脂を含んでいる場合、シリカまたはアルミナはこの熱可塑性樹脂との相互作用が弱いので、シリカまたはアルミナが、熱可塑性樹脂の表面(絶縁層3の内周面3aおよび外周面3b)に分布され易くなる。なお、内周面3aおよび外周面3bに対する複数の無機フィラーIFのBET比表面積は、5m2/g以上、25m2/g以下である。
【0027】
シリコーン樹脂に含まれるシリコーンSIは、極端に被覆表面に溶出するので、複数の無機フィラーIF(特に、シリコーンSIに対して分子間力が働くシリカ)は、シリコーンSIと共に被覆表面に分散できる。従って、被覆表面での複数の無機フィラーIFの屈曲寿命を向上させるという効果を、より発生させ易くなる。
【0028】
また、上述のような熱可塑性樹脂は、シリコーンSIとの相溶性が悪い。それ故、複数の無機フィラーIFが添加されたシリコーン樹脂と、熱可塑性樹脂とを混練することで樹脂組成物(絶縁層3)を形成すると、絶縁層3の内周面3a上および外周面3b上にシリコーンSIが分散する。
【0029】
なお、
図1~
図4では、シリコーンSIは、複数の無機フィラーIFの間における内周面3a上および外周面3b上に分散しているが、シリコーンSIが複数の無機フィラーIFの表面上にも形成されている場合もある。
【0030】
このように、球状粒子の複数の無機フィラーIFおよびシリコーンSIが、絶縁層3の外周面3b上に分散していることで、絶縁電線4の摺動性を向上させることができる。すなわち、シリコーンSIによる摺動性の向上と、球状粒子の複数の無機フィラーIFによる摺動性の向上との相乗効果を得ることができる。なお。球状粒子は、厳密に球状であるものだけではなく、代表的試料の少なくとも95%(数平均)の最大直径および最小直径が、10%以下だけ異なる粒子も含む。
【0031】
また、複数の無機フィラーIFの各々は球状粒子のシリカであることが、より好ましい。シリカはシリコーンSIに対して相互作用するので、シリカは、シリコーンSIと共に内周面3a上および外周面3b上に分散し易くなる。
【0032】
なお、内周面3aおよび外周面3bに対する複数の無機フィラーIFのBET比表面積は、5m2/g以上、25m2/g以下であるが、各図面では、無機フィラーIFを見易くするために、絶縁層3の厚さなどに対する無機フィラーIFの大きさが、比較的大きく図示されている。
【0033】
BET比表面積が5m2/g未満である場合、無機フィラーIFの凝集が発生するので、十分な摺動性を得ることが困難となる。一方で、BET比表面積が25m2/gよりも大きい場合、絶縁層3の外周面3b上に、複数の無機フィラーIFが大粒として発現するので、絶縁層3の外観が平滑になり難くなり、外周面3b上において上記大粒が突起物して作用する。そうすると、複数の絶縁電線4の間において、上記突起物が互いの絶縁層3を傷つけ合い、絶縁層3の絶縁破壊が発生する恐れがある。
【0034】
これに対して、実施の形態1では、内周面3aおよび外周面3bに対する複数の無機フィラーIFのBET比表面積が5m2/g以上、25m2/g以下であることで、それらの不具合を抑制できる。
【0035】
また、樹脂組成物中(絶縁層3中)における複数の無機フィラーIFの添加量は、3wt%以上、25wt%以下である。
【0036】
複数の無機フィラーIFの添加量が3wt%未満である場合、外周面3b上に十分に複数の無機フィラーIFが分布しないので、絶縁電線4の摺動性を向上させるという効果が、小さくなってしまう。一方で、複数の無機フィラーIFの添加量が25wt%よりも大きい場合、絶縁層3の外周面3b上に、複数の無機フィラーIFが大粒として発現し、この大粒が突起物して作用する。そうすると、複数の絶縁電線4の間において、上記突起物が互いの絶縁層3を傷つけ合い、絶縁層3の絶縁破壊が発生する恐れがある。
【0037】
また、樹脂組成物中(絶縁層3中)におけるシリコーン樹脂の含有量は、0.5wt%以上、5wt%以下である。シリコーン樹脂の含有量が0.5wt%未満である場合、外周面3b上に十分にシリコーンSIが分布しないので、絶縁電線4の摺動性を向上させるという効果が、小さくなってしまう。シリコーン樹脂の含有量が5wt%より大きい場合、押出機を用いた押出成形によって樹脂組成物の押し出しを行う際に、樹脂組成物が押出機の内部でスリップし、吐出が不安定となり、樹脂組成物の外観が安定しなくなる。
【0038】
以上のように、実施の形態1における多芯ケーブル1によれば、外周面3b上に分散された球状粒子の無機フィラーIFおよびシリコーンSIによって、絶縁電線4の摺動性を向上させることができる。このため、複数の絶縁電線4の間で発生する摩擦および摩耗を低減させることができるので、例えば多芯ケーブル1をロボットケーブルのような屈曲頻度の多いケーブルに適用した場合でも、多芯ケーブル1の屈曲寿命が短くなることを抑制できる。また、絶縁層3にフッ素樹脂のような高価な材料を適用する必要が無く、安価な方法で多芯ケーブル1を製造できる。
【0039】
すなわち、実施の形態1によれば、多芯ケーブル1の信頼性を向上でき、多芯ケーブル1の製造コストの増加を抑制できる。
【0040】
また、多芯ケーブル1を屈曲させた際には、屈曲点において導電体2に応力が集中する。特に、多芯ケーブル1を±90度で屈曲させた場合には、大きな応力が発生する。ここで、導電体2は、撚り合わされた複数の導電線20からなる。従って、応力が複数の導電線20に対して分散されるので、多芯ケーブル1の屈曲寿命を向上させることができる。
【0041】
そして、球状粒子の無機フィラーIFおよびシリコーンSIは、絶縁層3の外周面3b上だけでなく、絶縁層3の内周面3a上にも分散している。従って、内周面3a上に滑性が付与されるので、屈曲時に複数の導電線20と絶縁層3とが接触した際に、複数の導電線20が滑り易くなる。そのため、屈曲点において複数の導電線20が僅かにずれ、応力の集中が緩和されるので、多芯ケーブル1の屈曲寿命を更に向上させることができる。
【0042】
<多芯ケーブル1の製造方法>
以下に
図5を用いて、実施の形態1における多芯ケーブル1の製造方法について説明する。
【0043】
ステップS1では、複数の導電体2が用意される。複数の導電体2の各々は、複数の導電線20を用意し、複数の導電線20を撚り合わせることで形成できる。
【0044】
ステップS2では、樹脂組成物の形成が行われる。まず、予め、熱可塑性樹脂と、複数の無機フィラーIFが添加され、且つ、シリコーンSIを含むシリコーン樹脂とを準備する。次に、押出機の内部において、熱可塑性樹脂とシリコーン樹脂と混練することで、樹脂組成物が形成される。
【0045】
ステップS3では、絶縁層3の形成が行われる。混練された樹脂組成物を押出機から押し出す押出成形によって、1つの導電体2の外周に、樹脂組成物からなる絶縁層3を形成する。これにより、1つの絶縁電線4が形成される。また、複数の導電体2に対してステップS2およびステップS3を繰り返すことで、複数の絶縁電線4が得られる。なお、ステップS3において、シリコーンSIが被覆表面に溶出することで、球状粒子の無機フィラーIFおよびシリコーンSIは、絶縁層3の外周面3b上および内周面3a上に分散している。
【0046】
ステップS4では、複数の絶縁電線4が撚り合わされる。次に、ステップS5では、撚り合わされた複数の絶縁電線4の外周に、テープ層5が巻き付けられる。次に、ステップS6では、押出機を用いた押出成形によって、テープ層5の外周に、シース6が形成される。
【0047】
以上で、多芯ケーブル1の製造が完了する。
【0048】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0049】
例えば、実施の形態1では、多芯ケーブル1がロボットケーブルとして使用される場合を例示したが、多芯ケーブル1は、電気信号を伝達するために使用され、様々な電気機器に使用されるケーブルに適用できる。例えば、多芯ケーブル1は、キャブタイヤケーブルにも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 多芯ケーブル
2 導電体
3 絶縁層
3a 絶縁層3の内周面
3b 絶縁層3の外周面
4 絶縁電線
5 テープ層
6 シース
7 介在
20 導電線
IF 無機フィラー
SI シリコーン