(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041512
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】X線発生装置、X線装置及びX線発生方法
(51)【国際特許分類】
H01J 35/00 20060101AFI20220304BHJP
H01J 35/08 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
H01J35/00 Z
H01J35/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146745
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】矢野 和弘
(72)【発明者】
【氏名】梅本 高明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智哉
(72)【発明者】
【氏名】樋口 浩太
(57)【要約】
【課題】ターゲットに穴が開いた検出に基づいてX線発生装置の動作を中止する。
【解決手段】X線発生装置1は、電子銃2と、線形加速器3と、ターゲット7と、電流計10と、を有する。電子銃2は、電子線Bを発生する。線形加速器3は、電子線Bに含まれる電子を加速して出射する。ターゲット7は、線形加速器3から出射された電子が衝突することによりX線を発生する。電流計10は、ターゲット7に穴が開いたことを検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線に含まれる電子を加速して出射する加速器と、
前記加速器から出射された前記電子が衝突することによりX線を発生するターゲットと、
前記ターゲットに開口が形成されたことを検出する検出部と、
を有することを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記電子線発生部を制御する電子線制御部を有し、
前記電子線制御部は、前記ターゲットに前記開口が形成されたことを前記検出部が検出したときに、前記電子線発生部を停止することを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記加速器は、電子を出射する出射口を有し、
前記出射口と前記ターゲットとの間に設けられたゲートバルブと、
前記ターゲットに前記開口が形成されたことを前記検出部が検出したときに、前記ゲートバルブを閉じるゲートバルブ制御部と、
を有することを特徴とする請求項2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記ターゲットとは別体に設けられた真空隔壁を有し、
少なくとも一部に前記真空隔壁を有する区間を真空空間とし、前記真空空間に前記ターゲットを配置し、
前記真空隔壁は、前記ターゲットに対して前記電子線の出射方向の下流側に設けられていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記加速器は、電子を出射する出射口を有し、
前記真空隔壁の内壁面であって、該内壁面の少なくとも前記出射口から出射される前記電子の出射方向にて前記ターゲットと重畳する重畳部分は導電性材料で形成され、
前記真空隔壁の前記重畳部分を除く残りの部分は非導電性材料で形成されている請求項4に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記真空隔壁の前記重畳部分の電流値を検出する電流計であることを特徴とする請求項5に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記ターゲットが設けられている真空内の反射電子を検出する反射電子検出器であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項8】
前記加速器は、電子を出射する出射口を有し、
前記ターゲットに隣接し、前記ターゲットに対して前記電子線の流れるときの下流側の空間に不活性ガスを封入した封入空間を設け、
前記検出部は、前記ターゲットに対して前記電子線の流れるときの上流側に設けられ、前記ターゲットが配置された真空内の真空度を検出する真空計であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項9】
前記検出部は、前記ターゲットが発生するX線の線量を検出する線量計であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項10】
前記電子がターゲット上に衝突する衝突位置を変更する衝突位置変更部を有し、
前記衝突位置変更部は、前記ターゲットに前記開口が形成されたことを前記検出部が検出した場合に、前記ターゲットの前記開口が形成されていない位置に衝突位置を変更することを特徴とする請求項1から9までのいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項11】
前記衝突位置変更部は、前記ターゲットを移動するターゲット移動部であることを特徴とする請求項10に記載のX線発生装置。
【請求項12】
前記衝突位置変更部は、前記ターゲットに向けた前記電子の照射方向を偏向する電子線偏向部であることを特徴とする請求項10に記載のX線発生装置。
【請求項13】
前記衝突位置変更部は、前記電子線発生部を移動する電子線移動部を有することを特徴とする請求項10に記載のX線発生装置。
【請求項14】
前記加速器は、電子を出射する出射口を有し、
前記加速器とは別体であって、前記出射口と連結される基部を有し、
前記基部は、前記出射口とは反対側の先端部分に、前記ターゲットを有するターゲットユニットを有し、
前記ターゲットユニットを前記基部の一部に対して着脱可能に設ける
ことを特徴とする請求項1から13までのいずれか一項に記載のX線発生装置。
【請求項15】
前記請求項1~14のいずれか一項に記載のX線発生装置と、
被測定物を載置する載置台と、
前記X線発生装置の前記ターゲットから発生され、前記被測定物を透過したX線の強度を検出する検出部と、
を有することを特徴とするX線装置。
【請求項16】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線に含まれる電子を加速して出射口から出射する加速器と、
前記加速器の前記出射口から出射された前記電子が衝突することでX線を発生するターゲットと、
前記ターゲットに開口が形成されたことを検出する検出部と、
前記出射口と前記ターゲットとの間に設けられたゲートバルブと、
を有するX線発生装置におけるX線発生方法において、
前記ターゲットに前記開口が形成されたことを前記検出部が検出したときに、前記電子線発生部を停止する停止工程と、
前記電子線発生部を停止した後、前記ゲートバルブを閉じる閉じ工程と、
を有することを特徴とするX線発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線発生装置、X線装置及びX線発生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子銃から発射された電子を線形加速器により加速し、加速した電子をターゲットに衝突させてX線を発生させるX線発生装置が公知である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術では、ターゲットに穴が開いた場合に電子を放出してもX線を発生させることができない。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様によれば、X線発生装置は、電子線を発生する電子線発生部と、電子線に含まれる電子を加速して出射する加速器と、加速器から出射された電子が衝突することによりX線を発生するターゲットと、ターゲットに開口が形成されたことを検出する検出部と、を有する。
第2の態様によれば、X線発生方法は、電子線を発生する電子線発生部と、電子線に含まれる電子を加速して出射口から出射される加速器と、加速器の出射口から出射された電子が衝突することでX線を発生するターゲットと、ターゲットに開口が形成されたことを検出する検出部と、出射口とターゲットとの間に設けられたゲートバルブと、を有する。このX線発生装置におけるX線発生方法において、ターゲットに開口が形成されたことを検出部が検出したときに、電子線発生部を停止する工程と、電子線発生部を停止した後、ゲートバルブを閉じる工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態を示すX線発生装置の一部破断正面図である。
【
図2】実施形態を示すX線発生装置の線形加速器の一部破断斜視図である。
【
図3】実施形態を示すX線発生装置の動作を説明するための図である。
【
図4】実施形態を示すX線発生装置のターゲットユニットを示す図である。
【
図5】実施形態を示すX線発生装置のブロック構成図である。
【
図6】実施形態のX線発生装置が適用されたX線装置を示す概略構成図である。
【
図7】実施形態を示すX線発生装置のターゲットユニットを示す図であって、真空隔壁の変形例を示すである。
【
図8】X線発生装置のターゲットユニットを示す図であって、検出部とターゲットユニットの変形例を示すである。
【
図9】衝突位置変更部の第1変形例を示す図であって、Oリングとターゲットを示す図である。
【
図10】X線発生装置の一部破断正面図であって、衝突位置変更部の第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1~
図4を参照して、実施形態であるX線発生装置1について説明する。
【0008】
X線発生装置1は、
図1に示すように、電子線発生部である電子銃2と、加速器である線形加速器3と、図略のマイクロ波発生源と、衝突位置変更部の一部であり且つ電子線偏向部の一部であるアライナー4と、ゲートバルブ5と、基部6と、ターゲット7と、磁気レンズ8と、ヒーター9と、を有する。
【0009】
電子銃2は、一例としてカソード(陰極)とウェネルト電極を有し、ウェネルト電極の下流側(線形加速器3側)に陽極を有する。陽極にグランドの電位、陰極にマイナスの電位を与えることで、陰極と陽極との間に高電圧を付加すると、陰極から電子が放出される。ウェネルト電極に陰極よりもさらに低い電位を与えることで、電子線が空間的に広がることを抑制できる。放出された電子は陽極側に放射され、電子銃2の外方に向けて所定の速度で打ち出される。これにより電子銃2は電子線を発生する。なお、電子銃2の位置は移動せず固定されているものとする。
【0010】
本実施形態では、線形加速器3には、サイドカップル型定在波型線形加速器が用いられている。線形加速器3の電子銃2側の端部(
図1において左端部)には入射口3aが形成されている。電子銃2から打ち出される電子線Bはこの入射口3aを介して線形加速器3内に導入される。線形加速器3の電子銃2と反対側の端部(
図1において右端部)には出射口3bが形成されている。入射口3aから入射された電子線Bは線形加速器3内で加速されて、出射口3bから出射される。線形加速器3は、
図1と
図2に示すように、加速空洞30と、結合空洞31と、を有する。
【0011】
加速空洞30は、電子銃2からの電子線Bが通過する方向(
図1において左右方向)に沿って、線形加速器3内に複数直列に設けられている。それぞれの加速空洞30は連結孔32により連結されている。これら連結孔32を電子銃2からの電子線Bが通過する。結合空洞31は、隣接する加速空洞30を連通するように設けられている。
【0012】
図略のマイクロ波発生源からのマイクロ波は、導波管33を通じて加速空洞30内に供給される。供給されたマイクロ波により、
図3に示すように加速空洞30内に定在波のマイクロ波電場Eが形成される。この電場Eにより、入射口3aから入射された電子が加速されて、出射口3bから出射される。線形加速器3には、
図1に示すように、真空ポンプ34aとバルブ34bを少なくとも有する真空排気系34が備えられている。
【0013】
アライナー4は、
図1に示すように、電子銃2と線形加速器3の間に設けられている。アライナー4は、電流の供給を受けて、磁場を発生して、電子線Bを移動させる。アライナー4は、電子銃2から発生された電子線Bをその進行方向に直交する面内で移動させる。
【0014】
ゲートバルブ5は、線形加速器3の出射口3bとターゲット7との間に設けられている。ゲートバルブ5は、ゲートバルブ連結管51と、ゲートバルブ本体52(ゲートバルブ)と、を有する。ゲートバルブ連結管51は、線形加速器3の出射口3b側に連結され、出射口3bから出射される電子線Bを通過させる。ゲートバルブ本体52は、ゲートバルブ連結管51と連通しており、バルブの開閉により電子線Bを通過又は遮断する。ゲートバルブ本体52が閉じることにより、電子銃2から線形加速器3までの内部空間の真空を確保する。ゲートバルブ本体52の開閉は、ゲートバルブアクチュエータ53により行われる。ゲートバルブアクチュエータ53は、後述するゲートバルブ制御部13からの入力信号により駆動される。
【0015】
基部6は、線形加速器3とは別体であって、ゲートバルブ5の磁気レンズ8側に設けられている。基部6は、ゲートバルブ5を介して、線形加速器3の出射口3bと連結され、出射口3bから出射される電子線Bを通過させる。基部6は、
図1と
図4に示すように、基部本体61と、ターゲットユニット62と、を有する。基部6は、出射口3bとは反対側の先端部分にターゲットユニット62を有する。
【0016】
基部本体61は、円筒形状であり、両端が開放されている。基部本体61の一端は、ゲートバルブ本体52に連結され、他端は、ターゲットユニット62に連結されている。基部本体61とターゲットユニット62は、互いの外周に設けられたフランジ61a、62a(
図4参照)により連結されている。基部本体61は、ゲートバルブ本体52から出射される電子線Bを通過させる。基部本体61は、真空ポンプ63と接続されている。真空ポンプ63は、ゲートバルブ本体52が閉じられた状態で、基部6内を真空にする真空引きが行われる。
【0017】
ターゲットユニット62は、円筒形状であり、一端が開放され、他端が閉じられている。ターゲットユニット62の一端は、基部本体61に連結され、他端は真空隔壁62bで仕切られている。ターゲットユニット62の一端は、基部本体61の他端とユニット側フランジ62aで連結されている。このため、ターゲットユニット62は、基部6の一部分である基部本体61に対して着脱可能に設けられている。ターゲットユニット62は、内部にターゲット7を有している。ターゲットユニット62は、基部本体61から電子線Bが入射され、電子線Bはターゲット7に衝突する。
【0018】
真空隔壁62bは、X線発生装置1の内部空間の真空を確保する。言い換えると、真空空間となる内部空間は、一部に真空隔壁62bを有する区間である。真空隔壁62bは、
図1と
図4に示すように、ターゲットユニット62内に配置されるターゲット7に対して電子線Bの出射方向の下流側に設けられている。真空隔壁62bは、導電部62cおよび絶縁部62eを有する。導電部62cは導電性材料からなり、絶縁部62eは非導電性材料からなる。真空隔壁62bのうち絶縁部62eに対して電子線Bの出射方向の下流側に導電部62cが配置されている。
【0019】
導電部62cは、出射口3bから出射される電子線Bの出射方向にてターゲット7と重畳している。導電部62cの内壁面62dは、絶縁部62eを介して残りのターゲットユニット62の内壁面と一体に構成されている。なお、導電部62cには、後述する電流計10が接続されている。
【0020】
絶縁部62eは、ターゲット7と真空隔壁62bの導電部62cとの間の位置に配置されている。絶縁部62eは、出射口3bから出射される電子が当たらない構造である。例えば、出射方向にてターゲット7と重畳しない環状形状に形成されている。なお、絶縁部62eは、真空隔壁62bとは別体に絶縁体として設けられても良い。
【0021】
ターゲット7は、線形加速器3の出射口3bから出射される電子線Bを遮るように配置されている。このターゲット7は外形板状に形成されている。ターゲット7には、線形加速器3の出射口3bから出射される電子が衝突され、この電子によりターゲット7からX線が発生される。ターゲット7は、例えばタングステン等の金属(導体)から形成されている。
【0022】
ターゲット7の線形加速器3に面する側に位置する平面7aは、
図1と
図4に示すように、電子が衝突される衝突面とされる。出射口3bから出射される電子線Bは、平面7aに対して所定の角度をもってターゲット7に入射され、これにより電子がターゲット7に衝突される。ターゲット7の裏面7b(真空隔壁62b側の面)には、ターゲット7を冷却するために、X線を通すと共に熱伝導率が比較的高い材料(例えば銅やCVDダイヤモンド等)が取り付けられている。ターゲット7は、アース線7cにより接地されている。なお、ターゲット7の位置は移動せず固定されているものとする。
【0023】
磁気レンズ8は、
図1に示すように、出射口3bから出射される電子線Bを収束させる。磁気レンズ8は、線形加速器3の出射口3bとターゲット7との間(基部本体61の周囲)に配置されている。磁気レンズ8は、磁気レンズ本体81と、磁気レンズ筐体82と、を有する。
【0024】
磁気レンズ本体81は、円筒状のコイル81aを有する。磁気レンズ本体81のコイル81aに所定の直流電圧を付与する直流電源(図略)が設けられている。電子線Bがターゲット7の平面7a近傍に収束されるように、磁気レンズ本体81の形状や、及び磁気レンズ本体81のコイル81aに付加される電流値が選定されている。
【0025】
磁気レンズ筐体82は、磁気レンズ本体81を囲んでいる。磁気レンズ筐体82を鉄などの透磁率の高い材質から形成し、磁気レンズ筐体82の開口部82a側(電子線Bに近い側)を電子線Bに向けて延ばしてヨーク82bを形成する。このヨーク82bを設けることで、磁気レンズ本体81により発生される磁場をこの開口部82aで収束させることができる。つまり、この開口部82aに磁極を形成することができる。ヨーク82bにより形成される磁極は、線形加速器3の出射口3bとターゲット7との間に配置されている。出射口3bから出射される電子線Bは、ヨーク82bの中空部82cを通ってターゲット7に至る。
【0026】
このように、線形加速器3の出射口3bから出射される電子線Bを磁気レンズ8により収束させている。そして、電子線Bはターゲット7の平面7aに収束されて衝突される。これにより、ターゲット7に発生するX線を用いたX線イメージングにおいてX線像を高分解能化できる。言い換えると、ターゲット7の狭小域に大電流により電子線Bを照射することができ、X線量を稼ぐことができる。
【0027】
ヒーター9は、磁気レンズ8とターゲット7との間(基部本体61の周囲)に配置されている。ヒーター9は、磁気レンズ8を避けた位置に配置される。ヒーター9は、基部6内に吸着した水蒸気等のガスを蒸発させる。このため、真空ポンプ63により基部6を真空にする際、真空度を上げることができる。
【0028】
次に、
図5を参照して、X線発生装置1のブロック構成について説明する。
【0029】
X線発生装置1は、電流計10と、コントローラ11と、ユーザ報知部20と、ユーザ入力部21と、を有する。更に、コントローラ11は、電子線制御部12と、ゲートバルブ制御部13と、記憶部14と、衝突位置変更部の一部であり且つ電子線偏向部の一部である電子線偏向制御部15と、を有する。なお、以下において、「開口」を「穴」と記載し、「穴が形成された」ことを「穴が開いた」等と記載し、「穴が形成されていない」ことを「穴が開いていない」等と記載する。
【0030】
電流計10(検出部)は、真空隔壁62bの導電部62cの隔壁電流値を検出し、検出した隔壁電流値を検出信号としてコントローラ11へ出力する(
図4参照)。ここで、隔壁電流値は、X線発生装置1が正常に動作していればゼロが検出される。隔壁電流値は、ターゲット7に穴が開いた場合に上昇する。つまり、ターゲット7に穴が開くと、その穴を通過した電子線Bが真空隔壁62bの導電部62cに衝突する。そうすると、導電部62cに電流が流れ、隔壁電流値が上昇する。電流計10の検出誤差を考慮して、隔壁電流値が所定値以上の電流値の場合、出力される検出信号がターゲット7に穴が開いたことを示す穴検出信号となる。なお、電流計10は、アース線10aにより接地されている。
【0031】
ここで、ターゲット7に穴が開く理由は、ターゲット7にかかる電子の熱負荷(運動エネルギー)と経過時間によるものである。例えば、小スポットでX線量を増大させる場合、磁気レンズ8により電子線Bを収束させて電流密度を高くする。そうすると、ターゲット7に電子の熱負荷(運動エネルギー)が大きくかかり、時間経過と共にターゲット7に穴が開くことがある。
【0032】
コントローラ11は、CPU等の演算素子を有し、メモリに格納されている図略の制御プログラムが起動時に読み出されてこのコントローラ11において実行される。コントローラ11は、入力される電流計10等からの信号や情報から、X線発生装置1全体の制御を行う。コントローラ11は、磁気レンズ8を制御して、ターゲット7上に衝突させる電子線Bのスポット径を制御する。コントローラ11は、ターゲット7であるタングステンにおける電子線Bの電流密度や照射電流や照射時間等を管理する。電子線Bの照射電流の積算等も行う。コントローラ11は、その他の真空排気系34や真空ポンプ63やバルブ64やヒーター9等の動作を制御する。
【0033】
電子線制御部12は、電子銃2の駆動又は停止を制御する。電子線制御部12は、電子銃2の駆動中、電子銃2の電流値を制御する。電子線制御部12は、穴検出信号の入力により電子銃2を停止させる際、カソードの加熱を停止させ、電子の放出を停止させる。なお、電子銃2の停止には、グリッド電圧の制御を加えても良い。電子線制御部12は、後述する電子線偏向制御部15からの衝突位置の変更完了信号とゲートバルブ制御部13からのゲートバルブ開き信号の入力により、電子銃2を駆動させる。つまり、ゲートバルブ本体52が開いた後に、電子銃2を駆動させる。電子線制御部12は、電子銃2を停止させた場合、電子銃停止信号をゲートバルブ制御部13及びユーザ報知部20へ出力する。電子線制御部12は、電子銃2を停止させた後に再駆動させる場合には、電子銃再駆動信号をユーザ報知部20へ出力する。
【0034】
ゲートバルブ制御部13は、ゲートバルブアクチュエータ53を動作させ、ゲートバルブ本体52の開閉を制御する。ゲートバルブ制御部13は、穴検出信号及び電子銃停止信号の入力により、ゲートバルブ本体52を閉じる。つまり、電子銃2を停止させた後、ゲートバルブ本体52を閉じる。ゲートバルブ制御部13は、電子線偏向制御部15からの変更完了信号の入力により、ゲートバルブ本体52を開ける。ゲートバルブ制御部13は、ゲートバルブ本体52を閉じた場合、ゲートバルブ閉じ信号を電子線偏向制御部15へ出力する。ゲートバルブ制御部13は、ゲートバルブ本体52を開けた場合、ゲートバルブ開き信号を電子線制御部12へ出力する。
【0035】
記憶部14は、ターゲット7にて穴が開いた位置を記憶し、電子線偏向制御部15等からの要求により穴情報を出力する。穴情報には使用済位置情報が含まれる。記憶部14は、未使用のターゲット7において、事前にアライナー4に供給されるアライナー電流と偏向量を見積もり、衝突可能範囲を記憶する。衝突可能範囲は、電子をターゲット7上に衝突させることが可能な範囲である。記憶部14は、電子銃2やアライナー4や磁気レンズ8や電子線Bの偏向量(シフト量)等の制御値や隔壁電流値等から、穴の位置(使用した位置すなわち電子をターゲット7上に衝突させた位置)や大きさや穴周囲のダメージ領域を求める(推定する)。なお「穴周囲のダメージ領域」とは、穴は開いていないが、電子の熱負荷によって穴の周囲は熱が比較的高くなるため、その熱によってターゲット7を形成するタングステンが一部蒸発している領域である。これらの求まった結果を日時と衝突可能範囲と共に穴情報として記憶する。例えば、穴の位置は、ターゲット7上に照射されていた電子線Bの位置等から求めることができる。穴の大きさや穴周囲のダメージ領域は、電流計10の隔壁電流値やスポット径等から求めることができる。なお、隔壁電流値が大きいほど、穴が大きいことになる。穴が複数ある場合には、穴周囲のダメージ領域や偏向量等から穴の間隔を求める。
【0036】
電子線偏向制御部15は、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置をターゲット7にて穴が開いていない位置に変更する。より詳細には、電子線偏向制御部15は、アライナー電流によりアライナー4を制御して、電子の照射方向を偏向させ、電子のターゲット7上での衝突位置を変更する。電子線偏向制御部15は、穴検出信号及びゲートバルブ閉じ信号の入力により、記憶部14へ穴情報を要求して、穴情報を取得する。その後、電子線偏向制御部15は、取得した情報から、衝突位置を変更可能か否か判定する。変更可能か否の判定は、事前にアライナー電流と偏向量を見積もり、穴情報から変更可能範囲の有無を判定する。変更可能範囲は、衝突可能範囲であって、事前に見積もったアライナー電流と偏向量から、電子をターゲット7上に衝突させる場合、既に開いている穴やこの穴周囲のダメージ領域に電子が衝突しない範囲である。
【0037】
電子線偏向制御部15は、衝突位置を変更可能と判定した場合、変更可能範囲を確定してから衝突位置を決定する。つまり、電子線偏向制御部15は、衝突位置の変更可能範囲を確保して、ターゲット7上に照射する電子線Bのスポット径に基づいて偏向量を算出する。偏向量は、少なくともスポット径よりも大きくする。電子線偏向制御部15は、求まった偏向量から、電子の照射方向を偏向させ、衝突位置を変更する。衝突位置は、変更可能範囲から自動で又はユーザにより決定される。ユーザにより決定される場合、変更可能範囲や現在の衝突位置等の情報をユーザ報知部20へ出力する。現在の衝突位置は、アライナー4に供給される電流値から算出される。電子線偏向制御部15は、電子線Bの照射を条件にアライナー4により衝突位置を変更できる場合、変更完了信号を電子線制御部12とゲートバルブ制御部13とユーザ報知部20へ出力する。一方、電子線偏向制御部15は、衝突位置を変更不可と判定した場合、衝突位置を変更せずに変更不可信号をユーザ報知部20へ出力する。
【0038】
ユーザ報知部20は、表示部やスピーカーやランプ等のうち少なくとも一つ以上から構成され、ユーザに各種信号に対応した情報を報知する。本実施形態では、ユーザ報知部20は、文字や画像等の表示によりユーザに報知する表示部とする。なお、スピーカーの場合には警告音や音声等の発生によりユーザに報知され、ランプの場合にはランプの動き(点灯や点滅)や色を変えることによりユーザに報知される。また、ユーザ入力部21は、ユーザにより数字などを入力することが可能な入力部である。
【0039】
ユーザ報知部20は、電子線制御部12からの電子銃停止信号の入力により、電子銃停止表示を行う。例えば、電子銃停止表示は「隔壁電流が検出されたため、電子線の照射を停止しました。」である。ユーザ報知部20は、衝突位置を自動で又はユーザにより決定される場合、入力される変更可能範囲や現在の衝突位置等の情報を表示する。例えば、ターゲット7のイラスト等の画像を画面に表示して、ユーザに変更可能範囲から新たな衝突位置を入力させる。例えば、ユーザ入力部21を用いて座標等によりユーザに入力させる。なお、変更可能範囲を変更可能候補として表示し、該候補からユーザに選択させても良い。また、ユーザの入力や選択によって、衝突位置が変更される場合には、後述する変更完了表示を行わなくても良い。なお、自動で決定される場合、例えば、変更可能範囲の中で、現在の衝突位置に隣接する位置を衝突位置として決定する。
【0040】
ユーザ報知部20は、電子線偏向制御部15からの変更完了信号の入力により、変更完了表示を行う。例えば、変更完了表示は「衝突位置の変更が完了しました。」である。ユーザ報知部20は、電子線制御部12からの電子銃再駆動信号の入力により、電子銃再駆動表示を行う。例えば、電子銃再駆動表示は「電子銃を再駆動しました。」である。なお、電子銃2を再駆動させる場合には、ユーザに再駆動させるか否かを決定させても良い。ユーザ報知部20は、電子線偏向制御部15からの変更不可信号の入力により、ターゲット交換表示を行う。例えば、ターゲット交換表示は「ターゲット上に電子線を照射できる位置がありませんので、ターゲットを交換して下さい。」である。
【0041】
ここで、ターゲット7を交換する場合について説明する。まず、ユーザは、ターゲット交換表示を確認後、ターゲットユニット62を基部本体61から外し、基部本体61を大気に開放する。真空隔壁62bの導電部62cから電流計10を外し、ターゲットユニット62を丸ごと交換する。そして、新たなターゲットユニット62の導電部62cに電流計10を取り付けると共に、新たなターゲットユニット62を基部本体61に取り付ける。そして、真空ポンプ63により基部6内を真空にする。その際、ヒーター9に通電することで、基部本体61の内面に吸着したガスの脱離を促進する。吸着ガスが脱離し真空度が安定したところでヒーター9の通電を停止する。その後、基部本体61の温度が下がり、所望の真空度に到達したことを確認した後、バルブ64を閉じ、ゲートバルブ52を開く。真空ポンプ63は、停止させる。なお、ターゲットユニット62が有するターゲット7のみを交換しても良い。
【0042】
次に、実施形態のX線発生装置1の作用効果について説明する。
【0043】
まず、X線発生装置1の制御作用を説明する。X線発生装置1において、電流計10から穴検出信号が入力されると、電子線制御部12により電子銃2が停止される(停止工程)。このとき、ユーザ報知部20により電子銃停止表示が行われる。その後、ゲートバルブ制御部13によりゲートバルブ本体52が閉じられる(閉じ工程)。次いで、電子線偏向制御部15により穴情報が取得され、衝突位置を変更可能か否かが判定される。電子線偏向制御部15により衝突位置を変更可能と判定されると、衝突位置が決定される。これにより、アライナー4が制御されて、衝突位置が変更される。そして、ゲートバルブ制御部13によりゲートバルブ本体52が開けられ、電子線制御部12により電子銃2が再駆動される。このとき、ユーザ報知部20により電子銃再駆動表示が行われる。このように、ターゲット7に穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置1の動作を中止することができる。そして、電子線Bの衝突位置の変更により改めてX線を発生させることができる。
【0044】
電子線偏向制御部15により衝突位置を変更不可と判定された場合、ユーザ報知部20によりターゲット交換表示が行われる。そして、ユーザによってターゲットユニット62が交換される。このように、ターゲット7に穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置1の動作を中止することができる。そして、変更不可と判定された場合でも、ターゲットユニット62の交換により改めてX線を発生させることができる。
【0045】
続いて、X線発生装置1の作用効果について説明する。
【0046】
本実施形態では、上述したように、電子銃2と線形加速器3とターゲット7に加え、ターゲット7に穴が開いたことを検出する電流計10を有している。即ち、電流計10が検出する隔壁電流値により、ターゲット7に穴が開いたことが検出される。従って、ターゲット7に穴が開いた検出に基づいてX線発生装置1の動作を中止できる。
【0047】
本実施形態では、穴検出信号が入力されると、電子線制御部12により電子銃2が停止されるので、電子銃2のカソードが大気に触れて損傷することを抑制できる。
【0048】
本実施形態では、穴検出信号が入力されると、ゲートバルブ制御部13によりゲートバルブ本体52が閉じられるので、電子銃2から線形加速器3までの内部空間の真空破壊を阻止できる。更に、電子銃2のカソードが大気に触れて損傷することを抑制できる。更にまた、電子銃2を停止させた後、ゲートバルブ本体52を閉じることにより、電子の熱負荷によりゲートバルブ本体52に穴が開くことを抑制できる。
【0049】
本実施形態において、ターゲット7とは別体に設けられた真空隔壁62bを有し、少なくとも一部に真空隔壁62bを有する区間を真空空間とし、該真空空間にターゲット7を配置している。そして、真空隔壁62bは、ターゲット7に対して電子線Bの出射方向の下流側に設けられているので、ターゲット7に穴が開いても真空隔壁62bに穴が開かなければ、X線発生装置1の内部空間の真空破壊を阻止できる。このため、真空破壊によるX線発生装置1のダメージを考慮することなく、ターゲット7に衝突する電子を増大(大電流を照射)することができるので、ターゲット7から発生するX線量を稼ぐことが可能となる。
【0050】
本実施形態において、導電部62cと絶縁部62eにより形成された真空隔壁62bを設け、電流計10により導電部62cの隔壁電流値が検出されるので、容易にターゲット7に穴が開いたことを検出できる。
【0051】
本実施形態では、穴検出信号が入力されると、ターゲット7にて穴が開いていない位置に、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する衝突位置変更部(電子線偏向部)としてアライナー4と電子線偏向制御部15を有している。即ち、電子線偏向制御部15によりアライナー4を制御して電子のターゲット7上での衝突位置が変更される。このため、アライナー4の制御により、衝突位置を容易に変更することができる。
【0052】
本実施形態において、ターゲットユニット62は基部本体61に対して着脱可能に設けられているので、ターゲットユニット62又はターゲット7を容易に交換することができる。更に、交換時、線形加速器3はゲートバルブ本体52により閉じられているので、交換後において、真空ポンプ63とバルブ64により基部6内のみを真空にするため、交換作業の時間を短縮できる。
【0053】
ここで、
図6を参照して、本実施形態のX線発生装置1が適用されるX線装置100について説明する。
【0054】
X線装置100は、筐体101、X線発生装置1、載置部102及びX線検出部103を有する。X線発生装置1、載置部102及びX線検出部103は筐体101内に設置されている。筐体101はX線遮蔽材料を有する。これにより、筐体101内のX線が筐体101の外に漏洩しない。
【0055】
X線発生装置1は、上述した本実施形態のX線発生装置1であるので、ここでの説明は省略する。
【0056】
載置部102は、X線発生装置1とX線検出部103との間に配置される。載置部102は、被測定物Wが載置される載置台102aとマニピュレータ部102bとを有する。
【0057】
マニピュレータ部102bは、回転駆動部102cと、X軸駆動部102dと、Y軸駆動部102eと、Z軸駆動部102fと、を有する。回転駆動部102cは、載置台102aを図中垂直方向に延びる回転軸Rに沿って回転させる。X軸駆動部102d、Y軸駆動部102e及びZ軸駆動部102fは、それぞれ載置台102aを図に示すX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向にそれぞれ移動させる。
【0058】
X線検出部103は、載置台102a上に載置された被測定物Wを透過した透過X線を含む、X線発生装置1(詳細にはターゲット7)から発生したX線(X線の強度)を検出する。好ましくは、X線検出部103は2次元的に広がるX線検出画素を有する。これにより、X線による被測定物Wの一部または全部の投影像をX線検出部103により得ることができる。
【0059】
ここで、X線装置100により被測定物Wをスキャン中に、穴検出信号が入力される場合がある。この場合、アライナー4の制御により電子の衝突位置を変更する。そして、スキャンを続けるために、X線の照射位置を調整する。以下、この調整について説明する。
【0060】
衝突位置が変更されると、マーカ画像やサンプル画像に基づいて偏向量を検出する。次いで、サンプルシフトや画像処理によって、衝突位置の変更前後の位置合わせを行う。続いて、被測定物Wにおいて、X線が当たって欲しくない部分にX線が当たらないようX線検出部103をシフトさせる。そして、変更前後の画像の比較によって補正が行われる。この補正後に、変更前の位置から続けて被測定物Wをスキャンできる。このように調整することにより、被測定物Wをスキャン中に、穴検出信号が入力された場合でも、被測定物Wのスキャンを継続できる。
【0061】
そして、例えば、従来の装置(特開2008-300089号公報)において、ターゲットに穴が開いた場合に電子を放出してもX線を発生させることができないので、試料(被測定物W)を計測できなくなる、という問題が生じる。
【0062】
これに対し、X線装置100では、ターゲット7に穴が開いたことが検出されるので、X線装置100による被測定物Wの計測を中止できる。
【0063】
更に、上述したように、ターゲット7とは別体に設けられた真空隔壁62bを有しているのでX線量を稼ぐことが可能となり、スキャン時間(撮影時間)を短縮できる。このため、一つの被測定物Wの処理時間の高スループット(単位時間あたりの処理能力)に繋がる。
【0064】
次に、
図7を参照して、本実施形態の真空隔壁62bの変形例を示す。なお、上述した実施形態と同様の構成はその説明を省略する。また、上述した実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
真空隔壁62fは、ターゲット7とは別体に設けられている。真空隔壁62fは、ターゲット7に対して電子線Bの出射方向の上流側から下流側まで延びている。つまり、真空隔壁62fは、上述したターゲットユニット62の円筒形状であり、一端が開放され、他端が閉じられている。真空隔壁62fは、導電部62gおよび絶縁部62hを有する。導電部62gは導電性材料からなり、絶縁部62hは非導電性材料からなる。
【0066】
導電部62gは、ターゲット7に対して電子線Bの出射方向の下流側に形成されている。導電部62gは、真空隔壁62fのうち出射方向にてターゲット7と重畳している部分に形成され、ターゲット7と重畳しない部分には形成されていない。導電部62gは、金属膜であり、真空隔壁62fの絶縁部62hに蒸着されている。導電部62gには電流計10が接続されている。
【0067】
絶縁部62hは、ターゲットユニット62の壁を構成しているため、一部を除き出射方向にてターゲット7と重畳しない。絶縁部62hの一部は、出射方向にてターゲット7と重畳する部分であるが、当該部分は導電部62gが形成されている。このため、絶縁部62hは、出射口3bから出射される電子が当たらない構造である。なお、絶縁部62hは、真空隔壁62fの内壁面にロウ付けされることにより形成されても良い。
【0068】
このように、真空隔壁62fが形成された場合でも、X線発生装置1の真空破壊が起こることを抑制できると共に、ターゲット7に穴が開いたことを検出できる。
【0069】
上述した実施形態では、電子銃2を停止させた後に、ゲートバルブ本体52を閉じる例を示したが、これに限られない。例えば、電子銃2を停止するのと同時に、ゲートバルブ本体52を閉じても良い。このように制御しても、電子銃2の停止の方が、ゲートバルブ本体52を閉じるよりも、応答時間が早いので、先に電子銃2を停止させることができる。要するに、ゲートバルブ本体52を閉じる前に、電子銃2を停止すれば良い。
【0070】
更に、上述した実施形態では、穴検出信号が入力されると、電子銃2を停止させ、ゲートバルブ本体52を閉じる例を示したが、これに限られない。穴検出信号が入力され、自動制御により衝突位置の変更が行われる場合には、ターゲット7に対して電子線Bの出射方向の下流側に真空隔壁62b,62fが設けられているので、電子銃2を停止させず、ゲートバルブ本体52を閉じなくても良い。この場合、ゲートバルブ5を設けなくても良い。ただし、衝突位置の変更に時間を要する場合やX線発生装置1の真空破壊が起こることを抑制する場合には、上述した実施形態のように、電子銃2を停止させ、ゲートバルブ本体52を閉じた方が良い。なお、電子銃2を停止させない場合、電子銃2の電子線B強度は、現状を維持しても良いし、弱めても良い。
【0071】
更にまた、上述した実施形態では電子線偏向制御部15により変更可能範囲を確定する例を示したが、これに限られない。例えば、記憶部14又は電子線偏向制御部15は、事前にアライナー電流と偏向量を見積もって、ターゲット7への電子の衝突が可能となるアライナー電流と偏向量との組み合わせのパターンの数すなわちターゲット7上の衝突位置として使用できる部分の数を算出しても良い。そして、ユーザ報知部20は、算出結果の入力により、使用したパターンの位置や回数と、残りのパターンの位置(ターゲット7にて穴が開いていない位置)や回数と、を表示する。そして、新たな衝突位置がユーザにより決定される場合、ユーザはその残りのパターンの位置から衝突位置を決定する。なお、自動で決定される場合、例えば、現在の衝突位置であるパターンに隣接するパターンを衝突位置として決定する。
【0072】
以上、図面を参照して、実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施形態に限らず、その要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本開示に含まれる。
【0073】
上述した実施形態では、真空隔壁62b,62fを導電性材料と非導電性材料で形成し、導電性材料の部分に電流計10を接続して、ターゲット7に穴が開いたことを検出する例を示したが、これに限られない。例えば、以下のように、ターゲット7に穴が開いたことを検出しても良い。なお、以下のいずれの構成において、真空隔壁は導電性材料で形成されなくても良い。
【0074】
検出部を反射電子検出器としても良い。反射電子検出器は、ターゲット7が設けられている真空内の反射電子を検出する。反射電子検出器は、基部内に設けられ、ターゲット7の近傍に配置される。ここで、反射電子とは、電子線Bがターゲット7に衝突したとき、ターゲット7の表面(平面7a)から真空中に飛び出す電子のことである。このため、反射電子検出器は、ターゲット7の近傍に配置される。そして、ターゲット7に穴が開くと、反射電子の量が減るので、ターゲット7に穴が開いたことを検出できる。
【0075】
検出部を真空計200としても良い。
図8を参照して、検出部を真空計200とするときの構成について説明する。なお、上述した実施形態と同様の構成はその説明を省略する。また、上述した実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0076】
ターゲットユニット201の中央部にターゲット7を有する。ターゲット7は、ターゲットユニット201内を第1室202と第2室203との二つに分ける隔壁として設けられている。ターゲットユニット201の第1室202は、ターゲット7に対して電子線Bが出射するときの上流側の空間であり、その内部には真空計200が設けられている。真空計200はターゲットユニット201の基部6内(真空内)の真空度を検出する。ターゲットユニット201の第2室203は、ターゲット7に隣接した空間であって、ターゲット7に対して電子線Bの出射方向の下流側の空間である。ターゲットユニット201の第2室203には、不活性ガスを封入する。つまり、ターゲットユニット201の第2室203は、封入空間となる。このため、
図8において、ターゲット7は、電子銃から第1室202までの内部空間の真空を確保する。つまり、ターゲット7は真空隔壁である。
【0077】
そして、ターゲット7に穴が開くと、不活性ガスが第1室202へ流入するので、第1室202の真空度の低下が検出される。これにより、ターゲット7に穴が開いたことを検出できる。
【0078】
検出部を線量計としても良い。線量計は、X線を検出する。線量計は、真空中ではなく、ターゲット7からX線が発生される近傍に配置される。例えば、線量計は、
図1の真空隔壁62bの近傍に配置される。そして、ターゲット7に穴が開くと、X線が発生されず線量計の数値が低下するので、ターゲット7に穴が開いたことを検出できる。
【0079】
検出部を、ターゲット7を形成するタングステン等の金属(導体)の蒸発を検出する検出器としても良い。この検出器は、ターゲット7の近傍に配置される。ターゲット7は、タングステン等の金属から形成されており、この金属は電子の衝突により蒸発する。このため、検出器は、ターゲット7の近傍に配置される。そして、ターゲット7に穴が開くと、金属の蒸発が止まるので、ターゲット7に穴が開いたことを検出できる。
【0080】
検出部をコントローラ11としても良い。詳述すると、コントローラ11は、電子線Bの照射電流の積算を行う。コントローラ11は、積算による値が所定値を超えたか否かを判定する。コントローラ11は、積算による値が所定値を超えたと判定した場合、ターゲット7に穴が開いたことを検出したこととしても良い。所定値は、予め実験等により求めた値である。
【0081】
検出部を、反射電子検出器、線量計、タングステン等の金属の蒸発を検出する検出器、又はコントローラ11とする場合、ターゲット7は電子線Bの出射方向の下流側の真空隔壁の壁面に接していても良い。これにより、ターゲット7に穴が開いても真空隔壁に穴が開かなければ、X線発生装置1の内部空間の真空破壊を阻止できる。
【0082】
上述した実施形態では、衝突位置変更部を電子線偏向部(アライナー4と電子線偏向制御部15)とする例を示したが、これに限られない。例えば、以下のように、衝突位置変更部をターゲット移動部や電子線移動部としても良い。ターゲット移動部は、ターゲットを移動させることにより、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置をターゲット7にて穴が開いていない位置に変更し、電子線移動部は、電子銃を移動させることにより、穴が開いていない位置に衝突位置を変更する。また、以下の説明において上述した実施形態と同様の構成はその説明を簡略化又は省略する。まず、衝突位置変更部をターゲット移動部とする場合について説明し、その次に、衝突位置変更部を電子線移動部とする場合について説明。なお、ターゲット移動部の場合、ターゲット7に向けた電子の照射方向は偏向されないものとする。
【0083】
ターゲット移動部は、
図9に示すように、リング300と、リング300を回転する図略のアクチュエータと、アクチュエータを制御する回転制御部と、から構成されている。アクチュエータは、例えばモータやシリンダ等を有する。
【0084】
リング300は、
図9に示すように、ターゲット7の周囲に取り付けられる。リング300には目盛りが付けられている。リング300を回転することにより、ターゲット7は回転移動される。
【0085】
リング300を用いる場合、記憶部は、未使用のターゲット7において、事前に目盛りの位置とその数(最大値)を記憶する。記憶部は、穴情報に目盛り情報を含める。目盛り情報は、現在の衝突位置の目盛りや使用した目盛りやその数と残りの目盛りやその数を記憶する。なお、目盛りの位置や数は、例えば、想定される穴の大きさやこの穴周囲のダメージ領域に基づいて決定される。このため、残りの目盛りは、衝突位置を変更可能な変更可能範囲に相当する。
【0086】
リング300を用いる場合、電子線偏向制御部15を回転制御部とする。回転制御部は、リング300の回転を制御して、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する。回転制御部は、穴検出信号及びゲートバルブ閉じ信号の入力により、記憶部へ穴情報を要求して、穴情報を取得する。その後、回転制御部は、取得した情報から、衝突位置を変更可能か否か判定する。変更可能か否の判定は、使用した目盛りの数が最大値に達したか否かで判定する。
【0087】
回転制御部は、衝突位置を変更可能と判定した場合、アクチュエータ等により使用していない目盛りの位置にリング300を回転させ、衝突位置を変更する。衝突位置は、自動で又はユーザにより決定される。ユーザにより決定される場合、目盛り情報をユーザ報知部へ出力する。現在の衝突位置は、目盛り情報に含まれている。回転制御部は、電子線の照射を条件にリング300の回転により衝突位置を変更できる場合、変更完了信号を電子線制御部とゲートバルブ制御部とユーザ報知部へ出力する。一方、回転制御部は、衝突位置を変更不可と判定した場合、衝突位置を変更せずに変更不可信号をユーザ報知部へ出力する。なお、ターゲット7に穴が開いた場合には、電子銃2を停止させる。理由は、リング300の回転により、残りの目盛りのターゲット7に電子が照射されることを防止するためである。
【0088】
ユーザ報知部は、衝突位置(目盛り)を自動で又はユーザにより決定される場合、目盛り情報を表示部に表示する。そして、ユーザは、残りの目盛りから変更による衝突位置を決定(選択)する。例えば、残りの目盛りのイラスト等の画像を画面に表示して、ユーザに変更可能である残りの目盛りから新たな衝突位置を入力させる。例えば、ユーザ入力部を用いて目盛りの数字等によりユーザに入力させる。なお、自動で決定される場合、例えば、現在の衝突位置である目盛りに隣接する目盛りを衝突位置として決定する。その他のユーザ報知部の説明は、上述した実施形態におけるユーザ報知部の説明のうち、電子線偏向制御部15を回転制御部と読み替えれば同様であるので説明を省略する。
【0089】
なお、リング300はユーザの手動により回転させても良い。
【0090】
そして、X線発生装置の制御作用を説明する。X線発生装置において、検出部から穴検出信号が入力されると、電子線制御部により電子銃が停止される(停止工程)。このとき、ユーザ報知部により電子銃停止表示が行われる。その後、ゲートバルブ制御部によりゲートバルブ本体が閉じられる(閉じ工程)。次いで、回転制御部により穴情報が取得され、衝突位置を変更可能か否かが判定される。回転制御部により衝突位置を変更可能と判定されると、衝突位置が決定される。これにより、アクチュエータが制御されて、リング300が回転することにより衝突位置が変更される。そして、ゲートバルブ制御部によりゲートバルブ本体が開けられ、電子線制御部により電子銃が再駆動される。このとき、ユーザ報知部により電子銃再駆動表示が行われる。このように、ターゲット7に穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置の動作を中止することができる。そして、電子線の衝突位置の変更により改めてX線を発生させることができる。
【0091】
回転制御部により衝突位置を変更不可と判定された場合、ユーザ報知部によりターゲット交換表示が行われる。そして、ユーザによってターゲットユニットが交換される。このように、ターゲット7に穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置の動作を中止することができる。そして、変更不可と判定された場合でも、ターゲットユニットの交換により改めてX線を発生させることができる。
【0092】
続いて、X線発生装置の作用効果について説明する。穴検出信号が入力されると、ターゲット7にて穴が開いていない位置に、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する衝突位置変更部(ターゲット移動部)として、リング300とアクチュエータと回転制御部を有している。即ち、回転制御部によりアクチュエータを介してリング300を回転制御して電子のターゲット7上での衝突位置が変更される。言い換えると、電子線偏向部により電子のターゲット7上での衝突位置を変更せず、ターゲット7の移動により電子がターゲット上に衝突する衝突位置を変更できる。このため、ターゲット7を移動させるだけで、衝突位置を容易に変更できる。従って、リング300を用いるX線発生装置がX線装置100に適用される場合、アライナー4の制御により衝突位置を変更させないので、ターゲット7の回転移動により衝突位置を変更してもX線の照射位置の調整が不要である。
【0093】
更に、ターゲット移動部は、
図10に示すように、ベローズ400と、ベローズ400を伸縮する図略のアクチュエータと、アクチュエータを制御する伸縮制御部と、から構成されていても良い。アクチュエータは、例えばモータやシリンダ等を有する。
【0094】
ベローズ400は、
図10に示すように、
図1の基部本体61を置き換えたものである。ベローズ400は、基部本体61と同様に、ゲートバルブ本体52とターゲットユニット62に連結されている。ベローズ400は、伸縮によりターゲット7を有するターゲットユニット62を移動する。詳述すると、ベローズ400は、伸縮により電子線Bの進行方向に直交する面内でターゲットユニット62を移動する。このため、ベローズ400の伸縮により、ターゲット7は移動される。なお、ベローズ400の伸縮と共に、X線のコリメーターが一緒に動かない構成とする。
【0095】
ベローズ400を用いる場合、記憶部は、未使用のターゲット7において、事前にベローズ400の可動範囲を調べておき、衝突可能範囲を記憶する。記憶部は、穴情報に、ベローズ400の伸縮量(移動量)と伸縮量による可動範囲と衝突可能範囲を含めて記憶する。
【0096】
ベローズ400を用いる場合、電子線偏向制御部15を伸縮制御部とする。伸縮制御部は、ベローズ400の伸縮を制御して、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する。伸縮制御部は、穴検出信号及びゲートバルブ閉じ信号の入力により、記憶部へ穴情報を要求して、穴情報を取得する。その後、伸縮制御部は、取得した情報から、衝突位置を変更可能か否か判定する。変更可能か否の判定は、事前にベローズ400の伸縮量と伸縮量による可動範囲を見積もり、穴情報から変更可能範囲の有無を判定する。変更可能範囲は、衝突可能範囲であって、事前に見積もったベローズ400の伸縮量と伸縮量による可動範囲から、電子をターゲット7上に衝突させる場合、既に開いている穴やこの穴周囲のダメージ領域に電子が衝突しない範囲である。
【0097】
伸縮制御部は、衝突位置を変更可能と判定した場合、変更可能範囲を確定してから衝突位置を決定する。つまり、伸縮制御部は、衝突位置の変更可能範囲を確保して、ターゲット7上に照射する電子線のスポット径に基づいてベローズ400の伸縮量と伸縮量による可動量を算出する。少なくともスポット径よりも伸縮量による可動量を大きくする。伸縮制御部は、求まった伸縮量と可動量から、ベローズ400を伸縮させ、衝突位置を変更する。衝突位置は、変更可能範囲から自動で又はユーザにより決定される。ユーザにより決定される場合、変更可能範囲や現在の衝突位置等の情報をユーザ報知部へ出力する。現在の衝突位置は、ベローズ400の伸縮量から算出される。伸縮制御部は、電子線の照射を条件にベローズ400の伸縮により衝突位置を変更できる場合、変更完了信号を電子線制御部とゲートバルブ制御部とユーザ報知部へ出力する。一方、伸縮制御部は、衝突位置を変更不可と判定した場合、衝突位置を変更せずに変更不可信号をユーザ報知部へ出力する。なお、ベローズ400を用いる場合、電子銃2を停止させることが望ましい。理由は、ベローズ400の伸縮により、ベローズ400の内壁等に電子が照射されることを防止するためである。
【0098】
ユーザ報知部は、衝突位置を自動で又はユーザにより決定される場合、入力される変更可能範囲や現在の衝突位置等の情報を表示部に表示する。例えば、ターゲット7のイラスト等の画像を画面に表示して、ユーザに変更可能範囲から新たな衝突位置を入力させる。例えば、ユーザ入力部を用いて座標等によりユーザに入力させる。なお、変更可能範囲を変更可能候補として表示し、該候補からユーザに選択させても良い。変更可能候補は、ベローズ400の伸縮量が少ない順番等に並べても良い。なお、自動で決定される場合、例えば、変更可能範囲の中で、現在の衝突位置からベローズ400の伸縮量が最少となる位置を衝突位置として決定する。その他のユーザ報知部の説明は、上述した実施形態におけるユーザ報知部の説明のうち、電子線偏向制御部15を伸縮制御部と読み替えれば同様であるので説明を省略する。
【0099】
そして、X線発生装置1の制御作用を説明する。X線発生装置1において、電流計10から穴検出信号が入力されると、電子線制御部により電子銃2が停止される(停止工程)。このとき、ユーザ報知部により電子銃停止表示が行われる。その後、ゲートバルブ制御部によりゲートバルブ本体52が閉じられる(閉じ工程)。次いで、伸縮制御部により穴情報が取得され、衝突位置を変更可能か否かが判定される。伸縮制御部により衝突位置を変更可能と判定されると、衝突位置が決定される。これにより、アクチュエータが制御されて、ベローズ400が伸縮することにより衝突位置が変更される。そして、ゲートバルブ制御部によりゲートバルブ本体52が開けられ、電子線制御部により電子銃2が再駆動される。このとき、ユーザ報知部により電子銃再駆動表示が行われる。このように、ターゲット7に穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置1の動作を中止することができる。そして、電子線Bの衝突位置の変更により改めてX線を発生させることができる。
【0100】
伸縮制御部により衝突位置を変更不可と判定された場合、ユーザ報知部によりターゲット交換表示が行われる。そして、ユーザによってターゲットユニット62が交換される。このように、ターゲット7に穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置1の動作を中止することができる。そして、変更不可と判定された場合でも、ターゲットユニット62の交換により改めてX線を発生させることができる。
【0101】
続いて、X線発生装置1の作用効果について説明する。穴検出信号が入力されると、ターゲット7にて穴が開いていない位置に、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する衝突位置変更部(ターゲット移動部)として、ベローズ400とアクチュエータと伸縮制御部を有している。即ち、伸縮制御部によりアクチュエータを介してベローズ400を伸縮制御して電子のターゲット7上での衝突位置が変更される。言い換えると、電子線偏向部により電子のターゲット7上での衝突位置を変更せず、ターゲット7の移動により電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更できる。従って、ターゲット7を移動させるだけで、衝突位置を容易に変更できる。
【0102】
このように、衝突位置変更部をターゲット移動部とすることにより、電子線偏向部により電子のターゲット7上での衝突位置を変更せず、ターゲット7の移動により電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更できる。上記では、リング300の回転によるターゲット7の移動と、ベローズ400の伸縮によるターゲット7の移動と、の例を示したが、これに限られない。要するに、ターゲット移動部は、ターゲット7の移動により電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更できる構成であれば良い。
【0103】
次に、衝突位置変更部を電子線移動部とする場合について説明する。電子線移動部は、電子銃を移動することにより、電子線の照射方向を変更する。電子線移動部は、電子銃を移動する図略のアクチュエータと、アクチュエータを制御する電子銃移動制御部と、から構成されている。アクチュエータは、例えばモータやシリンダ等を有する。電子線移動部は、電子銃を移動することにより、上述した実施形態と同様に電子のターゲット上での衝突位置を変更する。
【0104】
電子銃を移動させる場合、記憶部は、未使用のターゲットにおいて、事前に電子銃の可動範囲を調べておき、衝突可能範囲を記憶する。記憶部は、穴情報に、電子銃の移動量と移動量による可動範囲と衝突可能範囲を含めて記憶する。
【0105】
電子銃を移動させる場合、電子線偏向制御部15を電子銃移動制御部とする。電子銃移動制御部は、電子銃の移動を制御して、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する。電子銃移動制御部は、穴検出信号及びゲートバルブ閉じ信号の入力により、記憶部へ穴情報を要求して、穴情報を取得する。その後、電子銃移動制御部は、取得した情報から、衝突位置を変更可能か否か判定する。変更可能か否の判定は、事前に電子銃の移動量と移動量による可動範囲を見積もり、穴情報から変更可能範囲の有無を判定する。変更可能範囲は、衝突可能範囲であって、事前に見積もった電子銃の移動量と移動量による可動範囲から、電子をターゲット7上に衝突させる場合、既に開いている穴やこの穴周囲のダメージ領域に電子が衝突しない範囲である。
【0106】
電子銃移動制御部は、衝突位置を変更可能と判定した場合、変更可能範囲を確定してから衝突位置を決定する。つまり、電子銃移動制御部は、衝突位置の変更可能範囲を確保して、ターゲット7上に照射する電子線のスポット径に基づいて電子銃の移動量と移動量による可動量を算出する。少なくともスポット径よりも伸縮量による可動量を大きくする。電子銃移動制御部は、求まった移動量と可動量から、電子銃を移動させ、衝突位置を変更する。衝突位置は、変更可能範囲から自動で又はユーザにより決定される。ユーザにより決定される場合、変更可能範囲や現在の衝突位置等の情報をユーザ報知部へ出力する。現在の衝突位置は、電子銃の移動量から算出される。電子銃移動制御部は、電子線の照射を条件に電子銃の移動により衝突位置を変更できる場合、変更完了信号を電子線制御部とゲートバルブ制御部とユーザ報知部へ出力する。一方、電子銃移動制御部は、衝突位置を変更不可と判定した場合、衝突位置を変更せずに変更不可信号をユーザ報知部へ出力する。なお、電子銃を移動する場合、電子銃2を停止させることが望ましい。理由は、電子銃の移動により、線形加速器の入射口の縁部等に電子が照射されることを防止するためである。
【0107】
ユーザ報知部は、衝突位置を自動で又はユーザにより決定される場合、入力される変更可能範囲や現在の衝突位置等の情報を表示部に表示する。例えば、ターゲット7のイラスト等の画像を画面に表示して、ユーザに変更可能範囲から新たな衝突位置を入力させる。例えば、ユーザ入力部を用いて座標等によりユーザに入力させる。なお、変更可能範囲を変更可能候補として表示し、該候補からユーザに選択させても良い。変更可能候補は、電子銃の移動量が少ない順番等に並べても良い。なお、自動で決定される場合、例えば、変更可能範囲の中で、現在の衝突位置から電子銃の移動量が最少となる位置を衝突位置として決定する。その他のユーザ報知部の説明は、上述した実施形態におけるユーザ報知部の説明のうち、電子線偏向制御部15を電子銃移動制御部と読み替えれば同様であるので説明を省略する。
【0108】
そして、X線発生装置の制御作用を説明する。X線発生装置において、検出部から穴検出信号が入力されると、電子線制御部により電子銃が停止される(停止工程)。このとき、ユーザ報知部により電子銃停止表示が行われる。その後、ゲートバルブ制御部によりゲートバルブ本体が閉じられる(閉じ工程)。次いで、電子銃移動制御部により穴情報が取得され、衝突位置を変更可能か否かが判定される。電子銃移動制御部により衝突位置を変更可能と判定されると、衝突位置が決定される。これにより、アクチュエータが制御されて、電子銃が移動することにより衝突位置が変更される。そして、ゲートバルブ制御部によりゲートバルブ本体が開けられ、電子線制御部により電子銃が再駆動される。このとき、ユーザ報知部により電子銃再駆動表示が行われる。このように、ターゲットに穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置の動作を中止することができる。そして、電子線の衝突位置の変更により改めてX線を発生させることができる。
【0109】
電子銃移動制御部により衝突位置を変更不可と判定された場合、ユーザ報知部によりターゲット交換表示が行われる。そして、ユーザによってターゲットユニットが交換される。このように、ターゲットに穴が開いたことが検出されることにより、X線発生装置の動作を中止することができる。そして、変更不可と判定された場合でも、ターゲットユニットの交換により改めてX線を発生させることができる。
【0110】
続いて、X線発生装置1の作用効果について説明する。穴検出信号が入力されると、ターゲット7にて穴が開いていない位置に、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する衝突位置変更部(電子線移動部)として、アクチュエータと電子銃移動制御部を有している。即ち、電子銃移動制御部によりアクチュエータを介して電子銃を移動制御して電子のターゲット7上での衝突位置が変更される。言い換えると、電子線偏向部により電子のターゲット7上での衝突位置を変更せず、ターゲット移動部によるターゲット7の移動により電子のターゲット上での衝突位置を変更せず、電子銃の移動により電子がターゲット上に衝突する衝突位置を変更できる。このため、電子銃を移動させるだけで、衝突位置を容易に変更できる。なお、電子線移動部を用いるX線発生装置がX線装置100に適用される場合、電子銃の位置に応じて、ターゲット7上への電子の衝突位置が変更されるので、ターゲット7からのX線の照射位置が電子銃の位置に応じて変化する。
【0111】
上述した実施形態や一例では、ターゲット7の穴が開いていない新たな衝突位置を自動で決定する場合、現在の衝突位置に隣接する位置やパターンや目盛りを新たな衝突位置として決定する例を示したが、これに限られない。例えば、電子を衝突させることができるターゲット上の衝突位置をm箇所用意し、ターゲットに穴が開くごとにn個分進める。mとnは互いに素数とする。なお、nがmの約半分に近い素数の組み合わせを選択する。説明を簡潔にするために、例えば、ターゲットを円形として、mを11とし、nを5とし、衝突位置を1~11の順に番号をつけ、最初の衝突位置を1とする場合について説明する。この場合、ターゲットに穴が開くたびに自動で新たな衝突位置を決定すると、1,6,11,5,10,4,9,3,8,2,7の順になる。例えば、ターゲットに穴が開いたとき、穴の周囲は熱が比較的高いことがある。このため、n個分だけ離れた位置を新たな衝突位置として変更することによって、より熱が低い位置を新たな衝突位置として変更することができる。
【0112】
上述した実施形態や一例では、ターゲット7とは別に真空隔壁を設ける例を示したが、これに限られない。例えば、ターゲット7とは別体に真空隔壁を設けず、ターゲット7を真空隔壁としても良い。
【0113】
上述した実施形態や一例では、ターゲット7に穴が開くと、ターゲット7にて穴が開いていない位置に、電子がターゲット7上に衝突する衝突位置を変更する例を示したが、これに限られない。例えば、穴が開いた部分に電子で融解する材料(粉など)を詰める。そして、電子線Bでその材料を融解させて、穴を塞いでも良い。
【0114】
上述した実施形態や一例では、電子銃2と線形加速器3の間にアライナー4を配置する例を示したが、アライナー4を線形加速器3とターゲット7との間に配置しても良い。
【0115】
上述した実施形態や一例では、開口を穴とする例を示したが、これに限られない。例えば、開口は切欠でも良い。
【0116】
上述した実施形態や一例では、X線発生装置が有する加速器を、線形加速器3とする例を示したが、これに限られない。例えば、加速器は静電加速器等であっても良い。要するに、X線発生装置が有する加速器は、電子線に含まれる電子を加速して出射することができれば良い。
【符号の説明】
【0117】
1 X線発生装置
2 電子銃(電子線発生部)
3 線形加速器
3a 入射口
3b 出射口
4 アライナー(衝突位置変更部の一部、電子線偏向部の一部)
5 ゲートバルブ
52 ゲートバルブ本体
6 基部
62 ターゲットユニット
62b 真空隔壁
62c 導電部(導電性材料、重畳部分)
62e 絶縁部(非導電性材料、絶縁体)
7 ターゲット
10 電流計(検出部)
12 電子線制御部
13 ゲートバルブ制御部
15 電子線偏向制御部(衝突位置変更部の一部、電子線偏向部の一部)
100 X線装置
B 電子線