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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041587
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】複合酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20220304BHJP
【FI】
C01G41/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146877
(22)【出願日】2020-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】上田 渉
(72)【発明者】
【氏名】石川 理史
(72)【発明者】
【氏名】高光 泰之
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE07
(57)【要約】
【課題】 モリブデンを含む新規な複合酸化物を提供する。
【解決手段】
CuKα線を使用した粉末X線回折により得られる粉末X線回折パターンであって、下表に記載の回折角2θの範囲のそれぞれに下記表に記載の相対強度のピークが少なくとも1つ現れる粉末X線回折パターンを有し、骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれている複合酸化物。
【表1】

【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線を使用した粉末X線回折により得られる粉末X線回折パターンであって、下表に記載の回折角2θの範囲のそれぞれに下記表に記載の相対強度のピークが少なくとも1つ現れる粉末X線回折パターンを有し、
骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれている複合酸化物。
【表1】
【請求項2】
12(組成式中、Mは6配位のカチオン元素を表し、Mは少なくともモリブデンを含む。Aは前記Mに結合した酸素を表す。Tは5配位のカチオン元素を表す。Bは前記Tに結合した酸素を表す。Oは前記Mと前記Tを繋ぐ酸素を表す。)を繰り返し単位とする骨格構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物。
【請求項3】
前記組成式中のMが、モリブデンとタングステンからなることを特徴とする請求項2に記載の複合酸化物。
【請求項4】
前記組成式中の全ての6配位のカチオン元素Mに対するモリブデンのモル比が0.05以上0.25以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の複合酸化物。
【請求項5】
前記組成式中のMが、全てモリブデンであることを特徴とする請求項2に記載の複合酸化物。
【請求項6】
前記組成式中のTが、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上の元素とバナジウムからなることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一つに記載の複合酸化物。
【請求項7】
前記組成式中のTが、全てバナジウムであることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一つに記載の複合酸化物。
【請求項8】
少なくとも、6配位カチオン元素源、5配位カチオン元素源、及び水を含む原料組成物を、水熱合成により結晶化することを含み、
前記6配位カチオン元素源が、少なくともモリブデン源を含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の複合酸化物を含む触媒。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の複合酸化物を含む吸着剤。
【請求項11】
請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載の複合酸化物を含むイオン交換体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、吸着剤や触媒として期待されている多孔性物質として、ポリオキソメタレートを含む複合酸化物が報告されている。
【0003】
例えば特許文献1及び非特許文献1には、組成がW19であり、細孔を有するポリオキソメタレートが開示されている。
【0004】
例えば、非特許文献2には、MoO及びVOが架橋したMoVOで示されるポリ酸塩が報告されている。
【0005】
非特許文献3には、ε-VMo9.42.640で示される酸化物アニオンがBi(ビスマス)で架橋された構造を有する複合酸化物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-137600号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ネイチャー コミュニケーションズ(Nature Communications)」 ネイチャーパブリッシンググループ(Nature Publishing Group)(イギリス)、2018年、vol.9、Article number:3789
【非特許文献2】「アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(Angewandte Chemie International Edition)」 ワイリーVCH(Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.),(ドイツ),2008年,vol.47,p.2493-2496
【非特許文献3】「インオーガニックケミストリー(Inorganic Chemistry)」 アメリカ化学会(American Chemical Society),(アメリカ),2014年,vol.53,p.903-911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリオキソメタレートの中でもモリブデンを含む複合酸化物は酸化触媒としての応用が期待されている。本発明は、モリブデンを含有する、新規な複合酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は複合酸化物について検討し、モリブデンを含有する新規な複合酸化物を見出した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]CuKα線を使用した粉末X線回折により得られる粉末X線回折パターンであって、下表に記載の回折角2θの範囲のそれぞれに下記表に記載の相対強度のピークが少なくとも1つ現れる粉末X線回折パターンを有し、骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれている複合酸化物。
【表1】

[2]M12(組成式中、Mは6配位のカチオン元素を表し、Mは少なくともモリブデンを含む。Aは前記Mに結合した酸素を表す。Tは5配位のカチオン元素を表す。Bは前記Tに結合した酸素を表す。Oは前記Mと前記Tを繋ぐ酸素を表す。)を繰り返し単位とする骨格構造を有することを特徴とする、上記[1]に記載の複合酸化物。
[3] 前記組成式中のMが、モリブデンとタングステンからなることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の複合酸化物。
[4] 前記組成式中の全ての6配位カチオン元素Mに対するモリブデンのモル比が0.05以上0.25以下であることを特徴とする上記[2]又は[3]に記載の複合酸化物。
[5] 前記組成式中のMが、全てモリブデンであることを特徴とする上記[2]に記載の複合酸化物。
[6] 前記組成式中のTが、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上の元素とバナジウムからなることを特徴とする上記[2]乃至[5]のいずれか一つに記載の複合酸化物。
[7] 前記組成式中のTが、全てバナジウムであることを特徴とする上記[2]乃至[5]のいずれか一つに記載の複合酸化物。
[8] 少なくとも、6配位カチオン元素源、5配位カチオン元素源、及び水を含む原料組成物を、水熱合成により結晶化することを含み、前記6配位カチオン元素源が、少なくともモリブデン源を含むことを特徴とする、上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の複合酸化物の製造方法。
[9] 上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の複合酸化物を含む触媒。
[10] 上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の複合酸化物を含む吸着剤。
[11] 上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の複合酸化物を含むイオン交換体。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、モリブデンを含有する新規な複合酸化物を提供することができる。さらに、この様な複合酸化物の製造方法を提供することができる。
【0012】
当該モリブデンを含有する新規な複合酸化物は、分子ふるい、イオン交換材料、触媒、又は吸着剤としての利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の複合酸化物の骨格構造(結晶構造)を示す模式図である。
図2】本発明の複合酸化物の骨格構造(結晶構造)を示す模式図である。
図3】M12クラスターを説明するための図である。
図4】実施例1の複合酸化物のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複合酸化物について説明する。
【0015】
本発明の複合酸化物は、所定のXRDパターン(粉末X線回折パターン)を有し、骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれている。本発明の複合酸化物が有する所定のXRDパターンは、下表2に示すXRDパターンであり、好ましくは、下表3に示すXRDパターンである。
【0016】
ここで、本明細書において、XRDパターンは、CuKα線を使用した粉末X線回折(つまり、2θは、線源をCuKα線とする値)により得られるXRDパターンであり、表に示す相対強度は、2θ=27.1±0.2°のピーク強度を100としたときの相対強度である。また、本明細書において、XRDパターンを有するとは、表に記載の回折角2θの範囲のそれぞれに、対応する相対強度のピークが少なくとも1つ現れるXRDパターンを有していること指し、表に示す回折角2θの範囲のそれぞれに2つ以上のピークが現れてもよく、表に示す回折角2θの範囲以外に他のピークが現れてもよい。また、下記表2や下記表3に示す回折角2θの範囲には、一部重複する範囲が含まれるが(例えば、表2に示す30.9±0.3と31.3±0.3)、これは、それぞれの回折角2θの範囲に異なるピークが存在することを指す(言い換えれば、重複している回折角2θの範囲に一つのピークがあればよいというものではない)。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
上述した所定のXRDパターンからは、所定の骨格構造(つまり、結晶構造)を有していることを特定できる。所定のXRDパターンによって特定できる所定の骨格構造は、M12(組成式中、Mは6配位のカチオン元素を表す。AはMに結合した酸素を表す。Tは5配位のカチオン元素を表す。BはTに結合した酸素を表す。OはMとTを繋ぐ酸素を表す。)を繰り返し単位とする、図1図3に示す骨格構造である。なお、本明細書において、カチオン元素とは、電子を放出する性質を持つ元素を指す。
【0020】
上述した所定のXRDパターンを有する複合酸化物は、例えば、非特許文献1にも記載されており(Fig.1のa)、その骨格構造が、M12(組成式中、Mは6配位のカチオン元素を表す。AはMに結合した酸素を表す。Tは5配位のカチオン元素を表す。BはTに結合した酸素を表す。OはMとTを繋ぐ酸素を表す。)を繰り返し単位とする、図1図3に示す骨格構造であることが示されている。
【0021】
本発明の複合酸化物において、モリブデン(骨格構造を構成する元素としてのMo)は、繰り返し単位中のM元素として含有される。繰り返し単位中のM元素としてモリブデンが含有されることで、上述した所定のXRDパターンを有する複合酸化物となる。
【0022】
つまり、上述した所定のXRDパターン有するとともに、骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれている本発明の複合酸化物は、M12(組成式中、Mは6配位のカチオン元素を表し、Mは少なくともモリブデンを含む。AはMに結合した酸素を表す。Tは5配位のカチオン元素を表す。BはTに結合した酸素を表す。OはMとTを繋ぐ酸素を表す。)を繰り返し単位とする、図1図3に示す骨格構造となる。以下の説明では、繰り返し単位を表す組成式M12の各構成元素(M、A、T、B)は、特に断らない限り、前記と同じ定義である。
【0023】
12を繰り返し単位とする骨格構造について、図1図3を用いてより具体的に説明する。なお、本明細書において、M12を繰り返し単位とする骨格構造とは、組成式M12で表されるユニット(以下、「M12ユニット」という)が、隣接する別のM12ユニットに互いに連結され、X軸、Y軸及びZ軸方向にM12ユニットが繰り返し配列している骨格構造である。
【0024】
図1図2に示す骨格構造において、M12ユニットは、M12クラスターと、当該M12クラスター中の異なる2個の酸素原子(O)にそれぞれ結合する3個のT原子と、T原子1つにそれぞれ1つ結合した合計3個のB原子、から構成される。3個のT原子は、それぞれ、隣接する別のM12クラスター中の異なる2個の酸素Oと結合し、最初に示したM12クラスターとそれに隣接する3つのM12クラスターがT原子を通じて連結される。3個のB原子はそれぞれ一つずつ、T原子と結合する。すなわち、T原子は5配位であり、2つのM12クラスターを連結するリンカーとして機能する。なお、図2では、1つのM12クラスターの周囲に2つのT原子及び2つのB原子しか示していないが、本発明の複合酸化物では、M12クラスターを囲むように6つのT原子及び6つのB原子が配置され、1つのM12クラスターに対し、隣接する6つのM12クラスターが連結される。
【0025】
12クラスターは、図3に示すように、組成式Mで表されるサイコロ状のキューブ構造と、M原子が占有する頂点からキューブ構造の各辺(対角線を除く)をさらに延ばした位置に配置される合計12個の酸素(一部不図示)と、から構成されている。なお、本発明の複合酸化物におけるキューブ構造の配置は、図1に示している。組成式Mで表されるキューブ構造は、各頂点に配置される4つのM原子と4つのA原子により構成されており、各頂点のM原子とA原子は、キューブ構造の各辺(対角線を除く)においてM原子とA原子が隣り合わないように配置(M原子とA原子が交互に配置されている)されている。なお、T原子は、キューブ構造の各面に配置される2つのM原子から、キューブ構造の各辺を同軸方向に伸ばした位置に配置される2つの酸素原子に結合している。T原子はまた1個のB原子とも結合している。
【0026】
繰り返し単位をM12とする骨格構造では、図1~3に示すように、複数のM12ユニットが連結している構造をしており、M12ユニットに囲まれる領域に細孔(隙間)が形成される。つまり、M12を繰り返し単位とする骨格構造には、複数の細孔が形成される。このような骨格構造を有する本発明の複合酸化物は、分子ふるい、イオン交換材料、触媒、又は吸着剤としての利用が期待される。
【0027】
本発明の複合酸化物において、組成式M12中のMは、6配位のカチオン元素を表し、Mは、上述した通り、少なくともモリブデン(Mo)を含む。組成式M12中のMについては、Mo(モリブデン)のみにより構成されている又はMo(モリブデン)とMo(モリブデン)以外の6配位のカチオン元素によって構成されているが、MoとMo以外の6配位のカチオン元素によって構成されていることが好ましい。Mo以外の6配位のカチオン元素としては、特に限定するものではないが、例えば、Cr(クロム)、W(タングステン)、Fe(鉄)、Ge(ゲルマニウム)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、及びZr(ジルコニウム)からなる群から選ばれる1種以上が挙げられ、とくにW(タングステン)が好ましい。すなわち、組成式M12中のMは、Mで表される6配位のカチオン元素として、Mo(モリブデン)のみにより構成されている又はMo(モリブデン)とW(タングステン)によって構成されていることが好ましく、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、Mo(モリブデン)とW(タングステン)によって構成されていることがより好ましい。
【0028】
組成式M12中の全てのM元素(M)に対するMo(モリブデン)元素のモル比(「以下、「Mo/M比」ともいう。)は、特に限定されるものではないが、その下限は0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.05以上、更により好ましくは0.1以上である。また、Mo/M比の上限は、1であるが、特に限定されるものではないが、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、0.45以下であることが好ましく、より好ましくは0.25以下であり、更により好ましくは0.15以下である。前記のMo/M比は、例えば、ICP法(誘導結合プラズマ発光分析法)による組成分析の結果から求めるができる。
【0029】
ここで、例えば本発明の複合酸化物がMoW12であった場合、Mo/M比は1/4=0.25となる。
【0030】
なお、前述したMo/M比の好ましい範囲は、繰り返し単位であるM12を、Mo(4-x)12(式中、A、T、及びBは、前記と同じ。xは、0よりも大きく4以下の値を表す。)で表すことで、xの好ましい範囲として表すこともできる。すなわち、本発明の複合酸化物を、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、xの下限は、0.04以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることがさらにより好ましい。xの上限は、4であるが、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、1.8以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらにより好ましい。
【0031】
Mo/M比はバルク(平均値)としての値であり、繰り返し単位M12各個が好ましい範囲を逸脱していても構わない。
【0032】
本発明の複合酸化物において、組成式M12中のTは、5配位のカチオン元素であればよく、特に限定するものではないが、例えば、V(バナジウム)、Ti(チタン)、及びZr(ジルコニウム)からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、組成式M12中のTは、V(バナジウム)を含むことが好ましく、その全てがV(バナジウム)であることがより好ましい。
【0033】
すなわち、本発明の複合酸化物では、触媒、吸着剤、イオン交換体に適用しやすくなる観点から、繰り返し単位の組成式M12が、組成式Mo(4-x)TiZr(3-y-z)19、(xは、0よりも大きく4以下の値を表し、yは、0以上3以下の値を表し、zは0以上3以下の値を表す。ただし、yとzの合計は、0以上3以下の値である。)であることが好ましく、組成式Mo(4-x)TiZr(3-y-z)19、(xは、0よりも大きく4以下の値を表し、yは1.5以上3以下の値を表し、zは0以上1.5以下の値を表す。ただし、yとzの合計は、1.5以上3以下の値である。)であることがより好ましく、組成式Mo(4-x)19、(xは、0よりも大きく4以下の値を表す。)であることがさらにより好ましい。なお、前記のxについては、0よりも大きく4以下の値としているが、0.04以上1.8以下であることが好ましく、0.2以上1.0以下であることがより好ましく、0.4以上0.6以下であることがさらにより好ましい。
【0034】
言い換えれば、本発明の複合酸化物では、組成式M12中、MがMoのみ、又はMo及びWで構成され、A、Bが全てOであり、TがV、Ti、及びZrからなる群から選択される1種以上の元素で構成されていることが好ましく、組成式M12中、MがMoのみ、又はMo及びWで構成され、A、Bが全てOであり、TがV及び必要に応じて含有されるTi及び/又はZrで構成されていることがより好ましく、組成式M12中、MがMo及びWで構成され、A、Bが全てOであり、Tが全てVで構成されていることがさらにより好ましい。
【0035】
本発明の複合酸化物において、繰り返し単位を表す組成式M12は、対カチオンや細孔内に含有される物質(水や有機物)を含まない組成(つまり、骨格構造の組成)を表したものであるが、本発明の複合酸化物は、前記の対カチオンや細孔内に含有される物質を含んでいてもよい。本発明の複合酸化物の電荷のバランスを取る目的で、適宜、任意の対カチオンを共存させることが可能である。
【0036】
本発明の複合酸化物において、繰り返し単位を表す組成式M12は、多孔性骨格構造を形成しやすくなるという点で、当該組成物として、いずれの場合も、-1.5~-2.5の負電荷を有することが好ましく、-1.8~-2.2の負電荷を有することがより好ましく、-1.9~-2.1の負電荷を有することがより好ましい。なお、繰り返し単位の電荷(負電荷)は、骨格金属の価数を測定し、酸素の価数を-2として計算することで求めることができる。骨格金属の価数は、例えば、X線光電分光法(XPS法)により測定することができる。
【0037】
本発明の複合酸化物に含有させることができる上記の対カチオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、銅イオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、及びアンモニウムイオンからなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0038】
本発明の複合酸化物に形成される細孔は、ミクロ細孔であることが好ましい。ミクロ細孔とは、IUPACが定義するミクロ孔を指し、直径2nm未満の細孔である。本発明の複合酸化物に形成される細孔は、更に直径0.7nm未満のウルトラミクロ孔であることが好ましい。このような細孔を有することによって、本発明の複合酸化物は、分子選択的な触媒反応、吸着挙動を示しやすくなる。なお、細孔の直径は、-186℃におけるアルゴン吸着等温線から、Saito・Foley法(以下、「SF法」ともいう。)により求めることができ、SF法を用いて取得した細孔径分布曲線における最大ピークの細孔直径である。SF法については、例えば、AIChE JOURNAL.第37巻、429~436ページ(1991)に記載されている。
【0039】
本発明の複合酸化物は、液体窒素温度における窒素吸着において、180m/g以上のBET比表面積を有することが好ましく、更には230m/g以上のBET比表面積を有することがより好ましく、更には250m/g以上のBET比表面積を有することがより好ましく、更には270m/g以上のBET比表面積を有することがより好ましく、更には310m/g以上のBET比表面積を有することがより好ましい。なお、本明細書において、BET比表面積は、-196℃における窒素吸着等温線からBET法により求められる比表面積である。
【0040】
本発明の複合酸化物は、特に限定されるものではないが、細孔容積が0.01~0.2cm/gであることが好ましく、0.05~0.15cm/gであることがより好ましく、0.07~0.15cm/gであることがさらにより好ましく、0.08~0.15cm/gであることが最も好ましい。なお、本明細書において、細孔容積は、-196℃における窒素吸着等温線に基づくt-plot法により求められる細孔容積である。
【0041】
次に、本発明の複合酸化物の製造方法について説明する。
【0042】
本発明の複合酸化物は、水熱合成を用いて原料組成物を結晶化する結晶化工程によって製造することができる。結晶化工程で用いられる原料組成物としては、例えば、上記の元素Mを含む6配位カチオン元素源、元素Tを含む5配位カチオン元素源、及び水、を含む組成物を用いることができる。
【0043】
元素Mを含む6配位カチオン元素源は、モリブデン元素を含むモリブデン源を必須とし、その他に、前述した元素Mを含有する物質を用いることができる。モリブデン源以外の6配位カチオン元素源としては、タングステン元素を含むタングステン源、クロム元素を含むクロム源、鉄元素を含む鉄源、ゲルマニウム元素を含むゲルマニウム源、アルミニウム元素を含むアルミニウム源、チタン元素を含むチタン源、及びジルコニウム元素を含むジルコニウム源からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができ、骨格構造に含有させる元素Mの種類に応じてこれら原料を選択することができる。
【0044】
ここで、元素Mを含む6配位カチオン元素源には、モリブデン源のみを用いることもできるし、これに加えてモリブデン源以外の6配位カチオン元素源を併用することもできる。モリブデン源としては、例えば、金属モリブデン、酸化モリブデン、水酸化モリブデン、モリブデン酸、及び硫化モリブデンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。タングステン源としては、例えば、金属タングステン、酸化タングステン、水酸化タングステン、タングステン酸、及び硫化タングステンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。クロム源としては、例えば、金属クロム、酸化クロム、水酸化クロム、クロム酸、及び硫化クロムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。鉄源としては、例えば、金属鉄、酸化鉄、水酸化鉄、鉄酸、及び硫化鉄からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。ゲルマニウム源としては、例えば、金属ゲルマニウム、酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、及び硫化ゲルマニウムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。アルミニウム源としては、例えば、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、及び硫化アルミニウムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。チタン源としては、例えば、金属チタン、酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸、硫酸チタン、塩化チタン、及び硫化チタンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。ジルコニウム源としては、例えば、金属ジルコニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、及び硫化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0045】
元素Tを含む5配位カチオン元素源は、前述した元素Tを含有する物質を挙げることができる。元素Tを含む5配位カチオン元素源については、例えば、バナジウム元素を含むバナジウム源、チタン元素を含むチタン源、及びジルコニウム元素を含むジルコニウム源からなる群より選ばれる1種以上を表すことができ、骨格構造に含有させる元素Tの種類に応じてこれら原料を選択することができる。5配位カチオン元素源は、これらのうち一種を単独で用いることもできるし、2種を混合して用いることもできる。バナジウム源としては、例えば、硫酸バナジル、塩化バナジウム、酸化バナジウム、バナジン酸、及びオキシ二塩化バナジウムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。チタン源としては、例えば、金属チタン、酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸、硫酸チタン、塩化チタン、及び硫化チタンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。ジルコニウム源としては、例えば、金属ジルコニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、及び硫化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0046】
例えば、組成式Mo(4-x)19(xは、0よりも大きく4未満の値を表す)を繰り返し単位とする骨格構造を有する複合酸化物については、水熱合成を用いて、少なくともモリブデン源、タングステン源、バナジウム源、及び水を含む原料組成物を結晶化することで製造することができる。また、組成式Mo(4-x)19(xは4を表す)を繰り返し単位とする骨格構造を有する複合酸化物については、水熱合成を用いて、少なくともモリブデン源、バナジウム源、及び水を含む原料組成物を結晶化することで製造することができる。
【0047】
本発明の複合酸化物の製造において、モリブデン源は、M12を繰り返し単位とする上述した骨格構造の複合酸化物が得られやすくなる観点から、少なくともその一部として、モリブデン酸を含むことが好ましく、モリブデン酸アンモニウム((NHO724)を含むことがより好ましく、その全てがモリブデン酸アンモニウム((NHO724)であることがより好ましい。
【0048】
本発明の複合酸化物の製造において、タングステン源は、M12を繰り返し単位とする上述した骨格構造の複合酸化物が得られやすくなる観点から、少なくともその一部として、タングステン酸を含むことが好ましく、タングステン酸アンモニウム((NH10(H1242)を含むことがより好ましく、その全てがタングステン酸アンモニウム((NH10(H1242)であることがより好ましい。
【0049】
本発明の複合酸化物の製造において、バナジウム源は、M12を繰り返し単位とする上述した骨格構造の複合酸化物が得られやすくなる観点から、少なくともその一部として、硫酸バナジルを含むことが好ましく、その全てが硫酸バナジルであることがより好ましい。
【0050】
原料組成物に含有される水は、6配位カチオン元素源(モリブデン源、タングステン源など)、及び5配位カチオン元素源(バナジウム源など)に水が含まれる場合には当該水を有効利用することが可能である。このため、本発明の複合酸化物の製造において、6配位カチオン元素源(モリブデン源、タングステン源など)、及び5配位カチオン元素源(バナジウム源など)とは別に水を追加しなくてもよい場合もあるが、別途水を追加することも可能である。
【0051】
原料組成物は、6配位カチオン元素源(モリブデン源、タングステン源など)、5配位カチオン元素源(バナジウム源など)、及び水の他に、これら以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、及び硫酸からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0052】
原料組成物は、少なくとも、元素Mを構成する6配位カチオン元素源(少なくとも、モリブデン源を含む)、元素Tを構成する5配位カチオン元素源、及び水を含んでいればよい。M12を繰り返し単位とする上述した骨格構造の複合酸化物が得られやすくなる観点からは、好ましい原料組成物のpHとして、3以上5以下、更には3.5以上4.5以下、更には3.8以上4.2以下が挙げられる。
【0053】
原料組成物を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、元素Mを構成する6配位カチオン元素源をKOH水溶液に溶解させた後、当該溶液に硫酸、続いて元素Tを構成する5配位カチオン元素源を加え、アンモニアでpHを調整する方法が挙げられる。元素Mを構成する6配位カチオン元素源及び元素Tを構成する5配位カチオン元素源は固体でも構わないし、水溶液でも構わない。
【0054】
原料組成物は、特に限定するものではないが、原料組成物中のMo/M比が0.01以上1以下であることが好ましく、0.01以上0.5以下であることがより好ましく、0.05以上0.45以下であることがより好ましく、0.1以上0.2以下であることがより好ましく、0.15以上0.2以下であることがより好ましい。
【0055】
原料組成物は、特に限定するものではないが、T元素(T原子)のモル数に対するM原子のモル数の比(以下、「M/T」比ともいう。)が0.1以上10以下であることが好ましく、1以上1.5以下であることがより好ましく、1以上1.25以下であることがより好ましい。
【0056】
原料組成物は、特に限定するものではないが、T元素(T原子)とM元素(M原子)のモル数の合計に対する水分子のモル数の比(以下、「HO/(M+T)比」ともいう。)が、10以上1000以下が好ましく、50以上100以下がより好ましい。
【0057】
上述した比率の範囲は、これらの範囲を満たすことで、原料組成物から本発明の複合酸化物が結晶化しやすくなる点で好ましい。
【0058】
前記の結晶化工程において、原料組成物を加熱して水熱合成を行うが、当該加熱温度は、特に限定するものではない。加熱温度は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがより好ましい。一方、加熱温度は200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。これらの範囲を満たすことで、原料組成物から本発明の複合酸化物が結晶化しやすくなる点で好ましい。
【0059】
加熱時間は加熱温度に依存し、加熱温度が高くなるほど加熱時間は短くなる傾向がある。結晶化工程における加熱時間としては、特に限定するものではないが、10時間以上が好ましく、20時間以上がより好ましい。生産性の観点から、加熱時間は、特に限定するものではないが、3日以下がより好ましく、30時間以下がより好ましい。
【0060】
結晶化工程において、原料組成物を加熱するとき(水熱合成するとき)の圧力は、特に限定されるものではないが、原料組成物を密封容器内で加熱して発生する自生圧以上とすることが好ましい。このような自生圧は、例えば、0.9MPaが挙げられ、特に限定するものではないが、0.1~5MPaであることが好ましく、0.2~2MPaであることがより好ましく、0.3~1.5MPaであることがより好ましい。
【0061】
本発明の複合酸化物の製造方法については、上記の水熱合成工程(結晶化工程ともいう)に加えて、後処理工程を含むことが好ましい。後処理工程は、分離工程を含んでいてもよく、分離工程及び乾燥工程を含んでいてもよく、分離工程、乾燥工程及び修飾工程を含んでいてもよい。
【0062】
分離工程は、結晶化工程を経て得られた反応生成物ついて、目的物である複合酸化物を、水等のその他の成分から分離する工程である。複合酸化物の分離方法は任意である。分離方法としては、例えば、ろ過又は遠心沈降の少なくともいずれかが挙げられ、これらを併用又は繰り返し行ってもよい。さらに、分離工程において、反応生成物を水に混合した後に、前述した分離方法に掛けることで、複合酸化物の分離と洗浄を同時に行うことができる。本発明の複合酸化物は、これらの分離方法による分離処理を行い、固相として得ることができる。
【0063】
乾燥工程は、複合酸化物に物理吸着した溶媒や有機物を除去することを目的とする。当該乾燥工程については、複合酸化物に物理吸着した溶媒や有機物を除去できる方法であれば、任意の乾燥方法を用いることができる。乾燥方法として、特に限定するものではないが、大気中、50℃以上200℃未満で処理することが例示できる。
【0064】
修飾工程は、本発明の複合酸化物に所望の特性を付与する工程である。例えば、修飾工程では、本発明の複合酸化物のイオン種を交換することができる。これにより、例えば、本発明の複合酸化物のイオン種をプロトン型にした場合には、複合酸化物の細孔を拡張することができ、吸着剤として用いる際に好ましい。本発明の複合酸化物のイオン種をプロトン型にする修飾工程では、例えば、アンモニウム型の複合酸化物を、大気圧の空気雰囲気、大気圧の窒素下、又は減圧下において50℃以上500℃以下で加熱する方法を用いることができる。この方法において、加熱温度は、50℃以上400℃以下であることが好ましく、50℃以上350℃以下であることがより好ましい。
【0065】
以上説明した製造方法により、本発明の複合酸化物を製造することができる。
【0066】
ここで、上述した製造方法において、繰り返し単位M12中のTとして、2種類以上の元素T(5配位のカチオン元素T)を含有する複合酸化物は、原料組成物に、元素Tの種類が異なる2種類以上の5配位カチオン元素源を含有させることで製造している。しかしながら、繰り返し単位M12のTとして、1種類の元素T(5配位のカチオン元素)を含有する複合酸化物を製造した後に、骨格構造中の元素Tの一部を、他の元素Tで置換することで、2種類以上の元素T(5配位のカチオン元素T)を含有する複合酸化物を製造してもよい。
【0067】
例えば、組成式Mo(4-x)TiZr(3-y-z)19(xは、0よりも大きく4以下の値を表し、yは、0よりも大きく3よりも小さい値を表し、zは、0以上3よりも小さい値を表す。ただし、yとzの合計は、0よりも大きく3以下の値である。)を繰返し単位として含む複合酸化物については、前述した結晶化工程により組成式Mo(4-x)19(xは、0よりも大きく4以下の値を表す。)を繰返し単位とする骨格構造の複合酸化物を製造した後、骨格構造中のVの一部を、TiやZrに置換することで製造してもよい。
【0068】
骨格構造中のVの一部をTiやZrに置換する方法としては、例えば、チタン源やジルコニウム源を溶解させた水溶液に、Mo(4-x)19を繰返し単位とする骨格構造の複合酸化物を浸漬する方法を用いることができる。浸漬時間は、特に限定されるものではないが、例えば、1~24時間とすることができる。浸漬する水溶液の温度は、特に限定されるものではないが、例えば、10~80℃とすることができる。
【0069】
置換に用いるチタン源については、硫酸チタンを含むことが好ましく、その全てが硫酸チタンであることがより好ましい。また、置換に用いるジルコニウム源としては、硫酸ジルコニウムを含むことが好ましく、その全てが硫酸ジルコニウムであることがより好ましい。
【0070】
チタン源を含む水溶液におけるチタンの質量モル濃度は、特に限定されるものでは無いが、例えば、複合酸化物を含むスラリー1gに対し、2~50μmol/gとすることができる。また、ジルコニウム源を含む水溶液におけるジルコニウムの質量モル濃度は、特に限定されるものでは無いが、例えば、複合酸化物を含むスラリー1gに対し、2~50μmol/gとすることができる。
【0071】
なお、組成式Mo(4-x)19(xは、0よりも大きく4以下の値を表す。)を繰返し単位として含む複合酸化物を、チタン源(例えば、硫酸チタン)を含む水溶液に浸漬することによって、組成式Mo(4-x)Ti19(xは、0よりも大きく4以下の値を表し、yは、0よりも大きく3よりも小さい値を表し、zは、0よりも大きく3よりも小さい値を表す。ただし、yとzの合計は、3である。)を繰返し単位として含む複合酸化物を得ることができる。
【0072】
また、組成式Mo(4-x)19(xは、0よりも大きく4よりも小さい値を表す。)を繰返し単位として含む複合酸化物を、ジルコニウム源(例えば、硫酸ジルコニウム)を含む水溶液に浸漬することによって組成式Mo(4-x)Zr(3-y)19(xは、0よりも大きく4以下の値を表し、yは、0よりも大きく3よりも小さい値を表す。)を繰返し単位とする骨格構造の複合酸化物を得ることができる。
【0073】
以上説明した本発明の複合酸化物は、モリブデンを含有する新規な複合酸化物である。この複合酸化物は、触媒や吸着剤やイオン交換体等として利用することができ、特に、炭化水素の酸化触媒、二酸化炭素などの小分子の吸着剤、有害な金属イオンを除去するイオン交換体としての利用が期待できる。
【実施例0074】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、「比」は特に断らない限り、「モル比」である。
【0075】
(骨格構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:RINT Ultima+、リガク社製)を使用し、以下の条件で試料の粉末X線回折を測定した。
線源 :CuKα線
管電圧 :40kV
管電流 :40mA
測定範囲 :2θ=4°~80°
【0076】
得られた回折パターンをRietveld解析することによって骨格構造を同定した。Rietveld解析にはMaterials Studio v7.1.0(アクセリルス社製)のReflexツールを用いた。
【0077】
(組成分析)
フッ酸及び硝酸の混合溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:ICPE-9820、島津製作所製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定することにより、試料のタングステン量、バナジウム量、カリウム量を分析した。質量バランスから、試料中に含まれる酸素量を計算した。
【0078】
(昇温試験)
試料中に含まれるNH 量は、試料を室温から600℃まで昇温した際に脱離するNHを質量分析計で定量することによって測定した。
【0079】
(窒素吸着)
試料のBET比表面積は、窒素吸着測定により算出した。窒素吸着測定には一般的な窒素吸着装置(装置名:BELSORP MAX、マイクロトラック・ベル社製)を用いた。試料を真空下150℃で2時間前処理し、液体窒素温度(-196℃)で窒素ガスを吸着させた。比表面積の算出には窒素吸着等温線に基づくBET法を用いた。また、細孔容積は窒素吸着等温線に基づくt-plot法を用いて求めた。
【0080】
実施例1
タングステン酸アンモニウム 2.43g(タングステン含有量 9.5mmol)及びモリブデン酸アンモニウム 0.088g(モリブデン含有量 0.5mmol)を、KOH 2.18g(33mmol)を含む水溶液 15mlに溶解させ、10分間撹拌した。そこに6mlの2M硫酸を加えて更に10分撹拌した。そこに、硫酸バナジル(VOSO) 2.05g(バナジウム含有量 8mmol)を含む水溶液 10mlを加えて10分撹拌し、28%アンモニア水をpHが4になるまで添加して原料組成物を得た。
【0081】
上記の原料組成物において、Mo/M比は0.05、M/T比は1.25、HO/(M+T)比は80であった。
【0082】
得られた原料組成物を圧力容器に移して密封し、175℃で24時間、自生圧下で加熱した後、容器を開放し、遠心沈降(5000rpm、4分)により混合物から固体を得た。得られた固体を20mlの水(イオン交換水)に懸濁させ、遠心沈降(2000rpm、2分)させて液体部分を回収した。液体部分を遠心沈降(8000rpm,15分)することによって固体を得た。80℃で終夜乾燥させて本実施例の複合酸化物を得た。
【0083】
本実施例の複合酸化物のXRDパターンを図4、表4に示す。なお表4では、強度10未満のピーク、2θ>55°のピークは省略した。表4から理解できるように、本実施例の複合酸化物は、表2(表1)及び表3のXRDパターンを有していた。
【0084】
窒素吸着におけるBET比表面積は、252m/gであった。t-plot法から求める細孔容積は0.082cm/gであり、本実施例の複合酸化物は、細孔を有することが確認された。
【0085】
組成分析と構造解析(Rietveld解析)の結果、本実施例の複合酸化物は、繰り返し単位M12中、MがMo及びWからなり、A及びBが全てOであり、Tが全てVである、図1~3に示す骨格構造を有していることが確認できた。本実施例の複合酸化物について、より具体的な骨格構造の組成(繰り返し単位)を下記表5に示す。
【0086】
本実施例の複合酸化物について昇温試験を行ったところ、NHの脱離が観察された。この結果から、本実施例の複合酸化物には、骨格構造に対する対カチオンとして、NH が存在することが示された。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例2~6
実施例1の複合酸化物の製造方法において、モリブデン、タングステンの量が表6のようになるようにモリブデン源及びタングステン源の含有量のみを変化させて、それぞれ実施例1と同様の方法で複合酸化物を製造した。
【0089】
実施例2~6で得られた複合酸化物のXRDパターンを表7及び8に示す。なお表7及び8では、強度10未満のピーク、2θ>55°のピークは省略した。表7及び8から理解できるように、実施例2~6で得られた複合酸化物は、いずれも表2(表1)及び表3のXRDパターンを有することが確認された。
【0090】
また、実施例2~6の複合酸化物について、実施例1と同じ昇温試験を行ったところ、NHの脱離が観察された。この結果から、実施例2~6の複合酸化物の細孔内にはNH が存在することが示された。また、得られた複合酸化物は、いずれも細孔を有することが窒素吸着試験から確認された。
【0091】
組成分析と構造解析の結果、実施例2~6の複合酸化物は、繰り返し単位M12中、MがMo及びWからなり、A及びBが全てOであり、Tが全てVである、図1~3に示す骨格構造を有していることが確認できた。実施例2~6の複合酸化物について、より具体的な骨格構造の組成(繰り返し単位)を下記表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
また、参考として、実施例1~6の複合酸化物の組成分析結果を表9に示す。なお、表9に示す組成分析結果は、製造した複合酸化物全体の組成を分析した結果であり、その結果には、骨格構造を構成する元素(Mo、W、V、O)と、骨格構造を構成しない元素(K)の両方の組成が反映されている。そして、実施例1~6の複合酸化物の組成分析結果において、骨格構造を構成しない元素(カリウム(K))については、骨格構造に対する対カチオンであることが理解できた。
【0094】
また、実施例1~6の複合酸化物について、BET比表面積の測定結果及び細孔容積の測定結果を表10に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
【表9】
【0099】
【表10】
【0100】
以上の結果から、本実施例1~6によれば、表2(表1)のXRDパターン有するとともに、骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれる複合酸化物が得られることが明らかになった。また、本実施例1~6の複合酸化物が、BET比表面積が高いことも明らかになった。
【0101】
実施例7
実施例4で製造された複合酸化物 0.1gを、5mlの水に懸濁させ、そこに、硫酸チタン(Ti(SO)0.025mmolを含む30%水溶液を滴下して硫酸チタンの濃度を4.9μmol/gとした。3時間室温で撹拌した後、遠心沈降(8000rpm、15分)により混合物から固体を得た。80℃で終夜乾燥させて本実施例の複合酸化物を得た。
【0102】
本実施例の複合酸化物のXRDパターンを表13に示す。表13に示すように、本実施例の複合酸化物は、表2(表1)及び表3のXRDパターンを有していた。なお、表13では、強度10未満のピーク、2θ>55°のピークは省略した。
【0103】
組成分析と構造解析(Rietveld解析)の結果、本実施例の複合酸化物は、繰り返し単位M12中、MがMo及びWからなり、A及びBが全てOであり、TがV及びTiからなる、図1~3に示す骨格構造を有していることが確認できた。本実施例の複合酸化物について、より具体的な骨格構造の組成(繰り返し単位)を下記表11に示す。
【0104】
実施例8
硫酸チタンの滴下量を0.05mmolにして硫酸チタンの濃度を9.7μmol/gとした以外は、実施例7と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表13に示す。
【0105】
実施例9
硫酸チタンの滴下量を0.1mmolにして硫酸チタンの濃度を19μmol/gとした以外は、実施例7と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表13に示す。
【0106】
実施例10
硫酸チタンの滴下量を0.2mmolにして硫酸チタンの濃度を38μmol/gとした以外は、実施例7と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表14に示す。
【0107】
実施例11
硫酸チタン水溶液の代わりに、硫酸ジルコニウム(Zr(SO)0.025mmolの固体を1mlの水に溶解させた水溶液を用い、複合酸化物を懸濁させた水溶液の硫酸ジルコニウムの濃度を4.1μmol/gとした。この他は実施例7と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表14に示す。
【0108】
実施例12
硫酸ジルコニウムの滴下量を0.05mmolにして硫酸ジルコニウムの濃度を8.2μmol/gとした以外は、実施例11と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表14に示す。
【0109】
実施例13
硫酸ジルコニウムの滴下量を0.1mmolにして硫酸ジルコニウムの濃度を16μmol/gとした以外は、実施例11と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表15に示す。
【0110】
実施例14
硫酸ジルコニウムの滴下量を0.2mmolにして硫酸ジルコニウムの濃度を32μmol/gとした以外は、実施例11と同じ方法で、本実施例の複合酸化物を得た。XRDパターンを表15に示す。
【0111】
組成分析と構造解析の結果、実施例8~10の複合酸化物は、繰り返し単位M12中、MがMo及びWからなり、A及びBが全てOであり、TがV及びTiからなる、図1~3に示す骨格構造を有していることが確認できた。また、組成分析と構造解析の結果、実施例11~14の複合酸化物は、繰り返し単位M12中、MがMo及びWからなり、A及びBが全てOであり、TがV及びZrからなる、図1~3に示す骨格構造を有していることが確認できた。
【0112】
実施例8~14の複合酸化物について、より具体的な骨格構造の組成(繰り返し単位)を下記表11及び12に示す。なお、実施例7~10の複合酸化物については、組成分析と構造解析の結果から、T元素であるVとTiの合計比率が3.0であることは特定できたが、それぞれの元素の比率までは特定することができなかった。また、実施例11~14の複合酸化物については、組成分析と構造解析の結果から、T元素であるVとZrの合計比率が3.0であることは特定できたが、それぞれの元素の比率までは特定することができなかった。
【0113】
【表11】
【0114】
【表12】
【0115】
また、参考として、実施例7~14の複合酸化物の組成分析結果を表16及び17に示す。なお、表16及び17に示す組成分析結果は、製造した複合酸化物全体の組成を分析した結果であり、その結果には、骨格構造を構成する元素(Mo、W、V、Ti、Zr、O)と、骨格構造を構成しない元素(K)の両方の組成が反映されている。そして、実施例7~14の複合酸化物の組成分析結果において、骨格構造を構成しない元素(つまり、カリウム(K))については、骨格構造に対する対カチオンであることが理解できた。
【0116】
また、実施例7~10の組成分析結果については、繰り返し単位M12中のT元素であるVとTiの比率の合計値が、T元素の比率(3)と一致しないが、これらの値の差分の元素については、骨格構造外(例えば、細孔内)に存在する元素であると推定された。同様に、実施例11~14の組成分析結果については、繰り返し単位M12中のT元素であるVとZrの比率の合計値が、T元素の比率(3)と一致しないが、これらの値の差分の元素については、骨格構造外(例えば、細孔内)に存在する元素であると推定された。
【0117】
【表13】
【0118】
【表14】
【0119】
【表15】
【0120】
【表16】
【0121】
【表17】
【0122】
以上の結果から、本実施例7~14によれば、表2(表1)のXRDパターン有するとともに、骨格構造を構成する元素としてモリブデンが含まれる複合酸化物が得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の複合酸化物は吸着剤や触媒、イオン交換体として利用することができる。

図1
図2
図3
図4