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特開2022-41999全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法
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  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図1
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図2A
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図2B
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図3
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図4
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図5
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図6A
  • 特開-全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法 図6B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022041999
(43)【公開日】2022-03-11
(54)【発明の名称】全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220304BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20220304BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220304BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220304BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/40
H01M10/0585
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141225
(22)【出願日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0110587
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】閔 明基
(72)【発明者】
【氏名】徐 光鍾
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ04
5H029EJ07
5H029EJ11
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB07
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050DA18
5H050EA09
5H050EA10
5H050EA15
5H050EA21
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA02
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極層であり、正極層が正極集電体及び正極集電体上に配置された正極活物質層を含み、正極活物質層が正極活物質、バインダ、硫化物系固体電解質及び分散媒を含み、分散媒が化学式1で表示される化合物及び化学式2で表示される化合物を含む全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法である。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、Rは、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極層であり、
前記正極層が正極集電体及び前記正極集電体上に配置された正極活物質層を含み、
前記正極活物質層が正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質及び分散媒を含有し、前記分散媒が化学式1で表示される化合物及び下記化学式2で表示される化合物を含む、全固体二次電池用正極層。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、Rは、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【請求項2】
前記分散媒が酢酸オクチルとオクタノールとを含有する混合物、酢酸ノニルとノニルアルコールとの混合物または、酢酸ヘプチルとヘプタノールとの混合物である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項3】
前記化学式1の化合物の含量は、500ppm以下である、請求項1または2に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項4】
前記化学式2の化合物の含量は、500ppm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項5】
前記化学式2の化合物は、化学式1の化合物100ppmを基準として5~500ppmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項6】
前記バインダがポリビニリデンフルオライド、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、及びポリメチルメタクリレートのうちから選択された1つ以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項7】
前記導電材が黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素ナノ纎維、カーボンナノチューブのうちから選択された1つ以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項8】
前記硫化物系固体電解質がLiS-P,LiS-P-LiX,(Xは、ハロゲン元素)、LiS-P-LiO,LiS-P-LiO-LiI,LiS-SiS,LiS-SiS-LiI,LiS-SiS-LiBr,LiS-SiS-LiCl,LiS-SiS-B-LiI,LiS-SiS-P-LiI,LiS-B,LiS-P-Z(m,nは、正の数、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち、1つ)、LiS-GeS,LiS-SiS-LiPO,LiS-SiS-LiMO(p,qは、正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち、1つ)、Li7-xPS6-xCl,0≦x≦2,Li7-xPS6-xBr,0≦x≦2,及びLi7-xPS6-x,0≦x≦2のうちから選択された1つ以上である、請求項1から7のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項9】
前記硫化物系固体電解質がLiPSCl,LiPSBr及びLiPSIのうちから選択された1つ以上を含むアルジロダイト型の固体電解質である、請求項1から8のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極層。
【請求項10】
正極層と、負極層と、前記正極層及び負極層の間に配置され、硫化物系固体電解質を含む固体電解質層と、を含む全固体二次電池であり、
前記正極層が請求項1~9のうち、いずれか1項の正極層である、全固体二次電池。
【請求項11】
前記負極層は、負極集電体と第1負極活物質層とを含むか、あるいは前記負極層は、負極集電体、第1負極活物質層及び第2負極活物質層を含み、
前記第1負極活物質層の上部及び前記負極集電体と第1負極活物質層との間の1つ以上に第2負極活物質層が配置され、
前記第2負極活物質層は、リチウムまたはリチウム合金を含む、請求項10に記載の全固体二次電池。
【請求項12】
前記負極層は、負極集電体と第1負極活物質層とを含み、
前記第1負極活物質層と固体電解質層との間にカーボン層がさらに含まれる、請求項10または11に記載の全固体二次電池。
【請求項13】
正極活物質、バインダ、導電剤、硫化物系固体電解質及び下記化学式1で表示される化合物を混合して正極活物質層形成用組成物を準備する段階と、
正極集電体上に前記正極活物質層形成用組成物をコーティング及び乾燥して正極活物質層を形成して正極層を提供する段階と、
負極集電体と第1負極活物質層とを含む負極層を提供する段階と、
前記負極層と正極層との間に硫化物系固体電解質を含む固体電解質層を提供して積層体を準備する段階と、
前記積層体を加圧(Press)する段階と、を含む、全固体二次電池の製造方法:
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基である。
【請求項14】
前記乾燥が25~100℃で1次熱処理する段階と、
真空、40~100℃で2次熱処理する段階と、を含む、請求項13に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項15】
前記乾燥後、正極層は、下記化学式1の化合物と化学式2の化合物を含む分散媒を含有し、
前記化学式1の化合物の含量は、500ppm以下であり、化学式2の化合物の含量は、500ppm以下である、請求項13または14に記載の全固体二次電池の製造方法:
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、Rは、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【請求項16】
前記分散媒が酢酸オクチルとオクタノールとを含有する混合物、酢酸ノニルとノニルアルコールとの混合物または、酢酸ヘプチルとヘプタノールとの混合物である、あるいはその組合わせである、請求項15に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項17】
正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質及び下記化学式1で表示される化合物を含む、全固体二次電池用正極活物質層形成用組成物。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基である。
【請求項18】
前記化学式1で表示される化合物は、正極活物質層固形分の総重量100重量部を基準として25~65重量部である、請求項17に記載の全固体二次電池用正極活物質層形成用組成物。
【請求項19】
前記化学式1で表示される化合物は、酢酸オクチル、酢酸ノニル、酢酸ヘプチルまたはその組合わせである、請求項17または18に記載の全固体二次電池用正極活物質層形成用組成物。
【請求項20】
前記組成物がヘプタン、キシレン、トルエン、ジエチルベンゼン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートのうちから選択された1つ以上の溶媒をさらに含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の全固体二次電池用正極活物質層形成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、産業上の要求によってエネルギー密度と安全性の高い電池の開発が活発になされている。例えば、リチウムイオン電池は、情報関連機器、通信機器分野だけではなく、自動車分野でも実用化されている。自動車分野においては、生命に係わっているので、特に安全が重要視されている。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性有機分散媒を含む電解液が用いられているので、短絡が発生した場合、過熱及び火災の可能性がある。これに対して、電解液の代わりに、固体電解質を用いた全固体電池が提案されている。
【0004】
全固体電池は、可燃性有機分散媒を使用しないことにより、短絡が発生しても、火災や爆発の発生可能性を大きく減らすことができる。したがって、そのような全固体電池は、電解液を使用するリチウムイオン電池に比べて、大きく安全性を高めることができる。
【0005】
全固体電池の正極層は、正極活物質以外にイオン伝導度に優れた硫化物系固体電解質を含む。硫化物系固体電解質を含む正極層を備えた全固体電池の商用化のためには、湿式コーティング工程を通じて正極層を形成することが可能でなければならない。ところで、硫化物系固体電解質は空気、水分及び極性溶媒によって容易に劣化され、これを用いた湿式コーティングを通じて正極層を製造する場合、全固体電池の性能が低下し、これについての改善が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極層を提供することである。
【0007】
他の側面は、上述した正極層を含んで性能が改善された全固体二次電池及びその製造方法を提供することである。
【0008】
さらに他の側面は、上述した正極層を形成するのに用いられる全固体二次電池用正極層形成用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一側面によると、硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極層であり、
前記正極層が正極集電体及び前記正極集電体上に配置された正極活物質層を含み、
前記正極活物質層が正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質及び分散媒を含有し、前記分散媒が化学式1で表示される化合物及び下記化学式2で表示される化合物を含む全固体二次電池用正極層が提供される。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【0010】
他の側面によると、正極層;負極層;前記正極層及び負極層の間に配置され、硫化物系固体電解質を含む固体電解質層を含む全固体二次電池であり、
前記正極層が上述した正極層である全固体二次電池が提供される。
【0011】
さらに他の側面によると、正極活物質、バインダ、導電剤、硫化物系固体電解質及び下記化学式1で表示される化合物を混合して正極活物質層形成用組成物を準備する段階と、
正極集電体上に前記正極活物質層形成用組成物をコーティング及び乾燥させて正極活物質層を形成して正極層を提供する段階と、
負極集電体と第1負極活物質層とを含む負極層を提供する段階と、
前記負極層と前記正極層との間に硫化物系固体電解質を含む固体電解質層を提供して積層体を準備する段階と、
前記積層体を加圧(Press)する段階と、を含む全固体二次電池の製造方法が提供される。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基である。
【0012】
前記乾燥後、正極層は、上記化学式1の化合物と化学式2の化合物とを含む分散媒を含有し、前記化学式1の化合物の含量は、500ppm以下であり、化学式2の化合物の含量は、500ppm以下である。
【0013】
前記分散媒は、例えば、酢酸オクチルとオクタノールとの混合物、酢酸ノニルとノニルアルコールとの混合物、酢酸ヘプチルとヘプタノールとの混合物、またはその組合わせである。
【0014】
さらに他の側面によって、正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質及び下記化学式1で表示される化合物を含む全固体二次電池用正極活物質層形成用組成物が提供される。
[化1]
-C(=O)O-R
は、C1-C2のアルキル基であり、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【発明の効果】
【0015】
一側面による全固体二次電池用正極層は、硫化物系固体電解質の劣化が最小化されながら、バインダに対する溶解度特性に優れた分散媒を含む正極活物質層形成用組成物を用いて製造される。そのような正極層を備えた全固体二次電池は、容量特性に優れ、かつ寿命が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1及び比較例4の全固体二次電池で比容量による電圧変化を示す図面である。
図2A】実施例1によって得た正極層で残留分散媒の成分を分析したヘッドスペースサンプラー(Headspace Sampler, HSS)ガスクロマトグラフィ/質量分光(Headspace Sampler Gas Chromatograph/Mass Spectrometry, HSS-GC/MS)分析結果を示す図面である。
図2B】実施例1によって得た正極層で残留分散媒の成分を分析したヘッドスペースサンプラー(Headspace Sampler, HSS)ガスクロマトグラフィ/質量分光(Headspace Sampler Gas Chromatograph/Mass Spectrometry, HSS-GC/MS)分析結果を示す図面である。
図3】例示的な一具現例による全固体二次電池の断面図である。
図4】例示的な一具現例による全固体二次電池の断面図である。
図5】例示的な一具現例による全固体二次電池の断面図である。
図6A】分散媒として酢酸オクチルの硫化物系固体電解質であるLiPSClに対する反応性を評価した結果を示す図面であり、(a)は、最初混合後を示し、(b)は、3日後、固体電解質が分散された状態を示す。
図6B】分散媒として酢酸ブチルの硫化物系固体電解質であるLiPSClに対する反応性を評価した結果を示す図面であり、(a)は、最初混合後を示し、(b)は、3日後、固体電解質が分散された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一具現例による全固体二次電池用正極層、それを含む全固体二次電池及びその製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0018】
硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極層であり、前記正極層が正極集電体及び前記正極集電体上に配置された正極活物質層を含み、前記正極活物質層が正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質、及び分散媒を含み、前記分散媒が化学式1で表示される化合物及び下記化学式2で表示される化合物を含む全固体二次電池用正極層が提供される。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、Rは、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C8-C9のアルキル基である。
【0019】
全固体二次電池の固体電解質としては、硫化物系固体電解質が用いられ、正極層は、硫化物系固体電解質を含む。そのような全固体二次電池の商用化のためには、正極層を湿式コーティング工程を用いて製造しなければならない。
【0020】
湿式コーティング工程を用いた正極層の製造時、湿式コーティング工程で用いられる溶媒が硫化物系固体電解質に対して高い反応性を有しており、ヘプタンのような非極性溶媒が使用される。そのような非極性溶媒は、バインダを溶解することができず、これに対する改善が必要である。そのような問題点を改善するためにバインダに対する溶解度特性に優れた極性溶媒を使用する場合には、極性溶媒が硫化物系固体電解質を溶解して正極層及び全固体二次電池を製造し難い。
【0021】
それにより、本発明者らは、硫化物系固体電解質に対する反応性が小さく、バインダに対する溶解度特性に優れる分散媒を含む正極活物質層形成用組成物を用いた湿式コーティング工程を通じて改善した性能を有する硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極層に係わる本願発明を完成した。
【0022】
一具現例による全固体二次電池用正極活物質層形成用組成物は、正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質、及び分散媒である下記化学式1で表示される化合物を含む。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【0023】
化学式1の化合物はRとしてバルキーな炭素数7ないし9のアルキル基を有しており、立体障害によって硫化物系固体電解質に対する反応性が低く、硫化物系固体電解質を含む正極層及び全固体二次電池で分散媒として有用である。そして、Rとして炭素数1ないし2のアルキル基を有することで、バインダに対する優秀な溶解度特性を示す。
【0024】
分散媒として、化学式1の化合物を利用すれば、セル抵抗を高めず、正極層製造時の乾燥過程を経た後、正極層に少量残留する。化学式1の化合物の含量は、500ppm以下で小さい。
【0025】
化学式1の化合物の沸点は、190~230℃、例えば、193~228℃である。化学式1の化合物の沸点が前記範囲であるとき、真空乾燥過程を経た後、最終的に得た正極層での分散媒の含量が最小化されて容量及び平均電圧特性が優秀で寿命が改善された全固体二次電池を製造することができる。
【0026】
分散媒として、化学式1の化合物を用いた正極活物質層形成用組成物を用いた湿式コーティング工程を通じて正極層を製造すれば、乾式工程によって正極層を製造する場合と比較して、同等な性能を有する正極層を製造することができる。
【0027】
前記組成物には、化学式1の化合物だけが使用され、それを用いて正極層を製造すれば、最終的な正極層には、化学式1の化合物以外に化学式2の化合物が残留する。正極層において、化学式1の化合物は、正極活物質層を製造する段階で乾燥過程を経た後、残留するものであり、化学式2の化合物は、化学式1の化合物から派生されたものである。
【0028】
前記組成物において、分散媒の含量は、正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量100重量部を基準として25~65重量部である。分散媒の含量は、化学式1の化合物の含量を意味し、正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量は、正極活物質、バインダ、導電材及び硫化物系固体電解質の総重量である。
【0029】
一具現例による正極層に含有される分散媒は、酢酸オクチルとオクタノールとを含有する混合物、酢酸ノニルとノニルアルコールとの混合物または酢酸ヘプチルとヘプタノールとの混合物である。
【0030】
前記組成物は、ヘプタン、キシレン、トルエン、ジエチルベンゼンなどの非極性溶媒をさらに含んでもよい。そのような非極性溶媒の含量は、分散媒と非極性溶媒の総重量100重量部を基準として、0.1重量部以上、5重量部以上、または10重量部以上である。例えば、非極性溶媒の含量は、分散媒と非極性溶媒の総重量100重量部を基準として0.1~10重量部である。
【0031】
前記組成物は、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネートなどの有機溶媒をさらに含んでもよい。有機溶媒の含量は、分散媒の総重量100重量部を基準として、60重量部以下、例えば、0.5~60重量部、1~50重量部、3~30重量部、または5~20重量部である。そして、有機溶媒の含量は、正極活物質層固形分の総重量100重量部を基準として、5~40重量部、または5~15重量部である。
【0032】
正極活物質層形成用組成物で硫化物系固体電解質の含量は、正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量100重量部を基準に5~30重量部、または8~15重量部である。
上述した組成物を用いて得た正極層は、正極集電体及び前記正極集電体上に配置された正極活物質層を含み、正極活物質層が正極活物質、バインダ、導電材、硫化物系固体電解質及び下記化学式1で表示される化合物及び下記化学式2で表示される化合物を含む。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C7-C9のアルキル基である。
【0033】
他の側面によると、正極層;負極層;前記正極層及び負極層の間に配置され、硫化物系固体電解質を含む固体電解質層を含む全固体二次電池であり、前記正極層が一具現例による正極層である全固体二次電池が提供される。
【0034】
一具現例による全固体二次電池は、正極層;負極層;及び前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層を含み、前記正極層が正極集電体、及び前記正極集電体上に配置された正極活物質層を含み、前記負極層が金属-カーボン複合体を含む。
【0035】
[全固体二次電池]
図3を参照すれば、全固体二次電池1は、正極層10;負極層20;及び正極層10と前記負極層20との間に配置された硫化物系固体電解質を含む固体電解質層30を含む。
【0036】
正極10が正極集電体11及び正極集電体11上に配置された正極活物質層12を含み、正極活物質層は、正極活物質、バインダ、硫化物系固体電解質、及び下記化学式1の化合物及び化学式2の化合物を含む。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基であり、
[化2]
-OH
化学式2で、Rは、C7-C9のアルキル基である。
化学式1のRは、化学式2のRと同一である。
【0037】
化学式1の化合物は、例えば、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、酢酸ノニルまたはその組合わせである。そして、化学式2の化合物は、例えば、ヘプタノール、オクタノール、ノニルアルコールまたはその組合わせである。
【0038】
前記化学式1の化合物及び化学式2の化合物の含量は、それぞれ500ppm以下、400ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、10ppm以下である。他の一具現例によれば、化学式1の化合物及び化学式2の化合物の含量は、それぞれ50~500ppm、100~500ppm、200~500ppm、300~500ppm、または400~500ppmである。
【0039】
さらに他の一具現例によれば、化学式1の化合物及び化学式2の化合物の含量は、それぞれ1~50ppm、5~30ppm、または5~10ppmである。
【0040】
化学式2の化合物は、化学式1の化合物100ppmを基準として、5~500ppm、5~300ppm、5~200ppm、5~150ppm、または5~100ppmである。化学式1の化合物と化学式2の化合物との混合比が、前記範囲であるとき、イオン伝導度及び寿命特性に優れる全固体二次電池を製造することができる。
【0041】
化学式1の化合物と化学式2の化合物は、例えば、酢酸オクチルとオクタノールである。一具現例によれば、オクタノールの含量は、酢酸オクチル100ppmを基準として5~100ppmである。
【0042】
化学式1の化合物と化学式2の化合物は、正極層製造時に使用されるバインダを溶解することができる能力を有し、硫化物系固体電解質については反応性がほとんどない。
【0043】
[正極層:正極集電体]
正極集電体11は、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、またはこれらの合金からなる板状体(plate)またはホイル(foil)などを使用する。正極集電体11は、省略可能である。また、正極集電体と正極層との結着力を高めるために、正極集電体上部に厚さ0.1~4μmのカーボン層が配置されうる。
【0044】
[正極層:正極活物質]
正極活物質層12は、例えば、正極活物質、硫化物系固体電解質、バインダ、前記化学式1の化合物及び化学式2の化合物を含む。
【0045】
正極活物質層12は、導電材を含んでもよい。導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素ナノ纎維、カーボンナノチューブのうちから選択された1つ以上である。
【0046】
正極層10に含まれた硫化物系固体電解質は、固体電解質層30に含まれる硫化物系固体電解質と同一であるか、異なる。
【0047】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵(absorb)及び放出(desorb)可能な正極活物質である。正極活物質は、例えば、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケル酸化物(Lithium nickel oxide)、リチウムニッケルコバルト酸化物(lithium nickel cobalt oxide)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムマンガン酸化物(lithium manganate)、リチウムリン酸鉄酸化物(lithium iron phosphate)などのリチウム遷移金属酸化物、硫化ニッケル、硫化銅、硫化リチウム、酸化鉄、または酸化バナジウム(vanadium oxide)などがあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野で正極活物質として使用可能なものであれば、いずれも使用可能である。正極活物質は、それぞれ単独また2種以上の混合物である。
【0048】
前記正極活物質は、例えば、Li1-b(前記式において、0.90≦a≦1、及び0≦b≦0.5である);Li1-b2-c(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiE2-b4-c(前記式において、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiNi1-b-cCoα(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cCo2-αα(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cCo2-α(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnα(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cMn2-αα(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMn2-α(前記式において、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi(前記式において、0.90≦a≦1,0≦b≦0.9,0≦c≦0.5,0.001≦d≦0.1である);LiNiCoMnGeO(前記式において、0.90≦a≦1,0≦b≦0.9,0≦c≦0.5,0≦d≦0.5,0.001≦e≦0.1である);LiNiG(前記式において、0.9≦a≦1,0.001≦b≦0.1である);LiCoG(前記式において、0.90≦a≦1,0.001≦b≦0.1である);LiMnG(前記式において、0.90≦a≦1,0.001≦b≦0.1である);LiMn(前記式において、0.90≦a≦1,0.001≦b≦0.1である);QO;QS;LiQS;V;LiV;LiIO;LiNiVO;Li(3-f)(PO(0≦f≦2);Li(3-f)Fe(PO(0≦f≦2);LiFePOの化学式のうち、いずれか1つで表現される化合物である。そのような化合物において、Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組合わせであり;Bは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素またはそれらの組合わせであり;Dは、O、F、S、P、またはそれらの組合わせであり;Eは、Co、Mn、またはそれらの組合わせであり;FはF、S、P、またはそれらの組合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組合わせであり;Qは、Ti、Mo、Mn、またはそれらの組合わせであり;Iは、Cr、V、Fe、Sc、Y、またはそれらの組合わせであり;Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、またはそれらの組合わせである。そのような化合物表面にコーティング層が付加された化合物の使用も可能であり、上述した化合物とコーティング層が付加された化合物の混合物の使用も可能である。そのような化合物の表面に付加されるコーティング層は、例えば、コーティング元素のオキシド、ヒドロキシド、コーティング元素のオキシヒドロキシド、コーティング元素のオキシカーボネート、またはコーティング元素のヒドロキシカーボネートのコーティング元素化合物を含む。そのようなコーティング層を成す化合物は、非晶質または結晶質である。コーティング層に含まれるコーティング元素としては、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zrまたはこれらの混合物がある。コーティング層形成方法は、正極活物質の物性に悪影響を与えない範囲内で選択される。コーティング方法は、例えば、スプレーコーティング、浸漬法などである。具体的なコーティング方法は、当業者によく理解されうる内容なので、詳細な説明は省略する。
【0049】
正極活物質は、例えば、上述したリチウム遷移金属酸化物のうち、層状岩塩型(layered rock salt type)構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含む。「層状岩塩型構造」は、例えば、立方晶岩塩型(cubic rock salt type)構造の<111>方向に酸素原子層と金属原子層が互に規則的に配され、これにより、それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。「立方晶岩塩型構造」は、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型(NaCl type)構造を示し、具体的には、陽イオン及び陰イオンのそれぞれを形成する面心立方格子(face centered cubic lattice, fcc)が互いに単位格子(unit lattice)のリッジ(ridge)の1/2だけずれて配置された構造を示す。そのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、例えば、LiNiCoAl(NCA)または、LiNiCoMn(NCM)(0<x<1,0<y<1,0<z<1,x+y+z=1)などの三元系リチウム遷移金属酸化物である。正極活物質が層状岩塩型構造を有する三元系リチウム遷移金属酸化物を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー(energy)密度及び熱安定性がさらに向上する。
【0050】
正極活物質は、上述したように被覆層によって覆われてもいる。被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知されたものであれば、いずれでもよい。被覆層は、例えば、LiO-ZrO(LZO)などである。
【0051】
正極活物質が、例えば、NCAまたはNCMなどの三元系リチウム遷移金属酸化物としてニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させて充電状態で正極活物質の金属溶出の減少が可能である。結果として、全固体二次電池1の充電状態でのサイクル(cycle)特性が向上する。
【0052】
正極活物質の形状は、例えば、真球、楕円球状などの粒子形状である。正極活物質の粒径は、特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲である。正極10の正極活物質の含量も、特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極に適用可能な範囲である。
【0053】
[正極層:固体電解質]
正極活物質層12は、例えば、固体電解質を含んでもよい。正極層10が含む固体電解質は、固体電解質層30が含む固体電解質と同一であるか、異なる。固体電解質に係わる詳細な内容は、固体電解質層30部分を参照する。
【0054】
正極活物質層12が含む固体電解質は、固体電解質層30が含む固体電解質に比べて、D50平均粒径が小さくもある。例えば、正極活物質層12が含む固体電解質のD50平均粒径は、固体電解質層30が含む固体電解質のD50平均粒径の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、または20%以下でもある。
【0055】
[正極層:バインダ]
正極活物質層12は、バインダを含んでもよい。バインダは、例えば、ポリビニリデンフルオライド、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、及びポリメチルメタクリレートなどである。
【0056】
[正極層:導電材]
正極活物質層12は、導電材を含んでもよい。導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェン(Ketjen)ブラック、炭素纎維、金属粉末などである。
【0057】
[正極層:その他添加剤]
正極層10は、上述した正極活物質、固体電解質、バインダ、導電材以外に、例えば、フィラー(filler)、コーティング剤、分散剤、イオン伝導助剤などの添加剤をさらに含んでもよい。
【0058】
正極層10が含んでもよいフィラー、コーティング剤、分散剤、イオン伝導助剤などとしては、一般的に全固体二次電池の電極に使用される公知の材料を使用することができる。
【0059】
[固体電解質層]
固体電解質層に含有された固体電解質は、リチウムイオン伝導度特性に優れる硫化物系固体電解質でもある。
【0060】
[固体電解質層:硫化物系固体電解質]
図3ないし図5を参照すれば、固体電解質層30は、正極10及び負極層20間に配置された硫化物系固体電解質を含む。
【0061】
硫化物系固体電解質は、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは、ハロゲン元素)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正の数、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち、1つ)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは、正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち、1つ)、Li7-xPS6-xCl、0≦x≦2、Li7-xPS6-xBr、0≦x≦2及びLi7-xPS6-x、0≦x≦2のうちから選択された1つ以上である。硫化物系固体電解質は、例えば、LiS、Pなどの出発原料を溶融急冷法や機械的ミリング(mechanical milling)法などによって処理して作製される。また、そのような処理後、熱処理を遂行することができる。固体電解質は、非晶質、結晶質、またはそれらが混合された状態でもある。また、固体電解質は、例えば、上述した硫化物系固体電解質材料において、少なくとも構成元素として、硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものでもある。例えば、固体電解質は、LiS-Pを含む材料でもある。固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料として、LiS-Pを含むものを利用する場合、LiSとPの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50~90:10程度の範囲である。
【0062】
硫化物系固体電解質は、例えば、Li7-xPS6-xCl,0≦x≦2,Li7-xPS6-xBr,0≦x≦2,及びLi7-xPS6-x,0≦x≦2のうちから選択された1つ以上を含むアルジロダイト型(Argyrodite-type)の化合物でもある。特に、硫化物系固体電解質は、LiPSCl,LiPSBr及びLiPSIのうちから選択された1つ以上を含むアルジロダイト型の化合物でもある。
【0063】
アルジロダイト型の固体電解質の密度が1.5~2.0g/ccでもある。アルジロダイト型の固体電解質が1.5g/cc以上の密度を有することにより、全固体二次電池の内部抵抗が減少し、Liによる固体電解質の貫通(penetration)を効果的に抑制することができる。
前記固体電解質の弾性係数は、例えば、15GPaないし35GPaである。
【0064】
[固体電解質層:バインダ]
固体電解質層30は、例えば、バインダを含んでもよい。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであるが、それらに限定されず、当該技術分野でバインダとして使用可能なものであれば、いずれも可能である。固体電解質層30のバインダは、正極活物質層12と負極活物質層22とが含むバインダと同一であるか、異なる。負極活物質層22は、例えば、第1負極活物質層22である。
【0065】
[負極層]
[負極層:負極活物質]
負極層20は、負極集電体21及び負極集電体上に配置された第1負極活物質層22を含む。第1負極活物質層22は、例えば、負極活物質及びバインダを含む。
【0066】
第1負極活物質層22が含む負極活物質は、例えば、粒子形態を有する。粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、4μm以下、2μm以下、1μm以下、または900nm以下である。粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、10nm~4μm、10nm~2μm、または10nm~900nmである。負極活物質が、そのような範囲の平均粒径を有することにより、充放電時にリチウムの可逆的な吸蔵(absorbing)及び/または放出(desorbing)がさらに容易である。負極活物質の平均粒径は、例えば、レーザ式粒度分布計を使用して測定したメジアン(median)粒子直径(D50)である。
【0067】
負極活物質は、例えば、炭素系負極活物質及び金属または準金属負極活物質のうち、選択された1つ以上を含む。
【0068】
炭素系負極活物質は、特に、非晶質炭素(amorphous carbon)である。非晶質炭素としては、例えば、カーボンブラック(carbon black;CB)、アセチレンブラック(acetylene black;AB)、ファーネスブラック(furnace black;FB)、ケッチェンブラック(ketjen black;KB)、グラフェン(graphene)などがあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野で非晶質炭素として分類されるものであれば、いずれも可能である。非晶質炭素は、結晶性を有していないか、結晶性が非常に低い炭素であって、結晶性炭素または黒鉛系炭素と区分される。
【0069】
金属または準金属負極活物質は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1つ以上を含むが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野でリチウムと合金または化合物を形成する金属負極活物質または準金属負極活物質として使用可能なものであれば、いずれも使用可能である。例えば、ニッケル(Ni)は、リチウムと合金を形成しないので、金属負極活物質ではない。
【0070】
第1負極活物質層22は、そのような負極活物質のうち、一種の負極活物質を含むか、複数の互いに異なる負極活物質の混合物を含む。例えば、第1負極活物質層22は、非晶質炭素のみを含むか、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1つ以上を含む。他に、第1負極活物質層22は、非晶質炭素と金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1つ以上との混合物を含む。非晶質炭素と金などの混合物の混合比は、重量比として、例えば、10:1~1:2、5:1~1:1、または4:1~2:1であるが、必ずしもそのような範囲に限定されず、要求される全固体二次電池1の特性によって選択される。負極活物質が、そのような組成を有することにより、全固体二次電池1のサイクル特性がさらに向上する。
【0071】
第1負極活物質層22が含む負極活物質は、例えば、非晶質炭素からなる第1粒子及び金属または準金属からなる第2粒子の混合物を含む。金属または準金属は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)及び亜鉛(Zn)などを含む。他の例として、準金属は、半導体である。第2粒子の含量は、混合物の総重量を基準に8~60重量%、10~50重量%、15~40重量%、または20~30重量%である。第2粒子が、そのような範囲の含量を有することにより、例えば、全固体二次電池1のサイクル特性がさらに向上する。
【0072】
[負極層:バインダ]
第1負極活物質層22の含むバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどがあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野でバインダとして使用可能なものであれば、いずれも可能である。バインダは、単独または複数の互いに異なるバインダで構成されうる。
【0073】
第1負極活物質層22がバインダを含むことにより、第1負極活物質層22が負極集電体21上に安定化される。また、充放電過程で第1負極活物質層22の体積変化及び/または相対的な位置変更にもかかわらず、第1負極活物質層22の亀裂が抑制される。例えば、第1負極活物質層22がバインダを含まない場合、第1負極活物質層22が負極集電体21から容易に分離されうる。負極集電体21から第1負極活物質層22が離脱することにより、負極集電体21が露出された部分で、負極集電体21が固体電解質層と接触することにより、短絡の発生可能性が増加する。第1負極活物質層22は、例えば、第1負極活物質層22を構成する材料が分散されたスラリーを負極集電体21上に塗布し、乾燥させて作製される。バインダを第1負極活物質層22に含めることにより、スラリー中に負極活物質の安定した分散が可能である。例えば、スクリーン印刷法でスラリーを負極集電体21上に塗布する場合、スクリーンの詰まり(例えば、負極活物質の凝集体による詰まり)を抑制することができる。
【0074】
[負極層:その他添加剤]
第1負極活物質層22は、従来の全固体二次電池1に使用される添加剤、例えば、フィラー、コーティング剤、分散剤、イオン伝導助剤などをさらに含んでもよい。
【0075】
[負極層構造]
第1負極活物質層22の厚さは、例えば、正極活物質層厚さの50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、または5%以下である。第1負極活物質層の厚さは、例えば、1μm~20μm、2μm~10μm、または3μm~7μmである。第1負極活物質層の厚さが過度に薄ければ、第1負極活物質層22と負極集電体21との間に形成されるリチウムデンドライトが第1負極活物質層を崩壊させて全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。負極活物質層の厚さが過度に厚くなれば、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下して第1負極活物質層による全固体二次電池1の内部抵抗が増加して全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。
【0076】
第1負極活物質層の厚さが減少すれば、例えば、第1負極活物質層の充電容量も減少する。第1負極活物質層22の充電容量は、例えば、正極活物質層12の充電容量に比べて、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または2%以下である。第1負極活物質層22の充電容量は、例えば、正極活物質層12の充電容量に比べて、0.1%~50%、0.1%~40%、0.1%~30%、0.1%~20%、0.1%~10%、0.1%~5%、または0.1%~2%である。第1負極活物質層22の充電容量が過度に小さければ、第1負極活物質層22の厚さが非常に薄くなるので、繰り返される充放電過程で第1負極活物質層22と負極集電体21との間に形成されるリチウムデンドライトが第1負極活物質層22を崩壊させて全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。第1負極活物質層22の充電容量が過度に増加すれば、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下して第1負極活物質層22による全固体二次電池1の内部抵抗が増加して全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。
【0077】
正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、正極活物質層12のうち、正極活物質の質量を乗算して得られる。正極活物質が複数種使用される場合、正極活物質ごとに充電容量密度X質量値を計算し、その値の総和が正極活物質層12の充電容量である。第1負極活物質層22の充電容量も同じ方法で計算される。すなわち、第1負極活物質層22の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、第1負極活物質層22のうち、負極活物質の質量を乗算して得られる。負極活物質が複数種使用される場合、負極活物質ごとに充電容量密度X質量値を計算し、その値の総和が第1負極活物質層22の容量である。ここで、正極活物質及び負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を相対電極として使用した全固体半電池(half-cell)を用いて推定された容量である。全固体半電池(half-cell)を用いた充電容量測定によって正極活物質層12と第1負極活物質層22の充電容量が直接測定される。測定された充電容量をそれぞれ活物質の質量で除算すれば、充電容量密度が得られる。他に、正極活物質層12と第1負極活物質層22の充電容量は、1サイクル目の充電時に測定される初期充電容量でもある。
【0078】
第1負極活物質層22と固体電解質層30との間にカーボン層がさらに含まれてもよい。
【0079】
[負極層:負極集電体]
負極集電体21は、例えば、リチウムと反応しない、すなわち、合金及び化合物をいずれも形成しない材料で構成される。負極集電体21を構成する材料は、例えば銅(Cu)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)などがあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野で電極集電体として使用するものであれば、いずれも可能である。負極集電体の厚さは、1~20μm、例えば、5~15μm、例えば、7~10μmである。
【0080】
負極集電体21は、上述した金属のうち、1種で構成されるか、2種以上の金属の合金または被覆材料で構成されうる。負極集電体21は、例えば、板状またはホイル(foil)形態である。
【0081】
図4を参照すれば、全固体二次電池1は、例えば、負極集電体21上にリチウムと合金を形成する元素を含む薄膜24をさらに含む。薄膜24は、負極集電体21と前記第1負極活物質層22との間に配置される。薄膜24は、例えば、リチウムと合金を形成する元素を含む。リチウムと合金を形成することができる元素は、例えば、金、銀、亜鉛、錫、インジウム、ケイ素、アルミニウム、ビスマスなどがあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野でリチウムと合金を形成することができる元素であれば、いずれも可能である。薄膜24はこれら金属のうち、1つで構成されるか、様々な金属の合金で構成される。薄膜24が負極集電体21上に配置されることにより、例えば薄膜24と第1負極活物質層22との間に析出される第2負極活物質層(図示せず)の析出形態がさらに平坦化され、全固体二次電池1のサイクル特性がさらに向上しうる。
【0082】
薄膜24の厚さは、例えば、1nm~800nm、10nm~700nm、50nm~600nm、または100nm~500nmである。薄膜24の厚さが1nm未満になる場合、薄膜24による機能が発揮され難い。薄膜24の厚さが過度に厚ければ、薄膜24自体がリチウムを吸蔵して負極層でリチウムの析出量が減少して全固体電池のエネルギー密度が低下し、全固体二次電池1のサイクル特性が低下しうる。薄膜24は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、メッキ法などによって負極集電体21上に配置されうるが、必ずしもそのような方法に限定されず、当該技術分野で薄膜24を形成することができる方法であれば、いずれも可能である。
【0083】
[負極層:析出層]
図5を参照すれば、全固体二次電池1は、充電によって、例えば、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に配置される第2負極活物質層23をさらに含む。図示されていないが、全固体二次電池1は、充電によって固体電解質層30と第1負極活物質層22との間に配置される第2負極活物質層23をさらに含むか、単独で含む構成も可能である。第2負極活物質層23は、リチウムまたはリチウム合金を含む金属層である。金属層は、リチウムまたはリチウム合金を含む。したがって、第2負極活物質層23は、リチウムを含む金属層であって、例えば、リチウム貯蔵庫(reservoir)として作用する。リチウム合金は、例えば、Li-Al合金、Li-Sn合金、Li-In合金、Li-Ag合金、Li-Au合金、Li-Zn合金、Li-Ge合金、Li-Si合金などであるが、それらに限定されず、当該技術分野でリチウム合金として使用可能なものであれば、いずれも可能である。第2負極活物質層23は、そのような合金のうち1つ、またはリチウムからなるか、複数種の合金からもなる。
【0084】
第2負極活物質層23の厚さは、特に制限されないが、例えば、1μm~1000μm、1μm~500μm、1μm~200μm、1μm~150μm、1μm~100μm、または1μm~50μmである。第2負極活物質層23の厚さが過度に薄ければ、第2負極活物質層23によるリチウム貯蔵庫(reservoir)役割を遂行することが困難である。第2負極活物質層23の厚さが過度に厚ければ、全固体二次電池1の質量及び体積が増加し、サイクル特性がむしろ低下する可能性がある。第2負極活物質層23は、例えば、そのような範囲の厚さを有する金属ホイルでもある。
【0085】
全固体二次電池1において、第2負極活物質層23は、例えば、全固体二次電池1の組立前に負極集電体21と第1負極活物質層22との間に配置されるか、全固体二次電池1の組立後、充電によって負極集電体21と第1負極活物質層22との間に析出される。
【0086】
全固体二次電池1の組立前に負極集電体21と第1負極活物質層22との間に第2負極活物質層23が配置される場合、第2負極活物質層23がリチウムを含む金属層なので、リチウム貯蔵庫(reservoir)として作用する。第2負極活物質層23を含む全固体二次電池1のサイクル特性がさらに向上する。例えば、全固体二次電池1の組立前に負極集電体21と第1負極活物質層22との間にリチウムホイルが配置される。
【0087】
全固体二次電池1の組立後、充電によって第2負極活物質層23が配置される場合、全固体二次電池1の組立時に第2負極活物質層23を含まないので、全固体二次電池1のエネルギー密度が増加する。例えば、全固体二次電池1の充電時、第1負極活物質層22の充電容量を超過して充電する。すなわち、第1負極活物質層22を過充電する。充電初期には、第1負極活物質層22にリチウムが吸蔵される。すなわち、第1負極活物質層22が含む負極活物質は、正極層10から移動してきたリチウムイオンと合金または化合物を形成する。第1負極活物質層22の容量を超えて充電すれば、例えば、第1負極活物質層22の後面、すなわち、負極集電体21と第1負極活物質層22との間にリチウムが析出され、析出されたリチウムによって第2負極活物質層23に該当する金属層が形成される。第2負極活物質層23は、主にリチウム(すなわち、金属リチウム)で構成される金属層である。そのような結果は、例えば、第1負極活物質層22に含まれる負極活物質がリチウムと合金または化合物を形成する物質で構成されることにより得られる。放電時には、第1負極活物質層22及び第2負極活物質層23、すなわち、金属層のリチウムがイオン化されて正極層10方向に移動する。したがって、全固体二次電池1において、リチウムを負極活物質として使用することができる。また、第1負極活物質層22は、第2負極活物質層23を被覆するので、第2負極活物質層23、すなわち、金属層の保護層役割を行うと共に、リチウムデンドライト(dendrite)の析出成長を抑制する役割を遂行する。したがって、全固体二次電池1の短絡及び容量低下を抑制し、結果として、全固体二次電池1のサイクル特性を向上させる。また、全固体二次電池1の組立後、充電によって第2負極活物質層23が配置される場合、負極集電体21と前記第1負極活物質層22及びそれらの間の領域は、例えば、全固体二次電池の初期状態または放電後状態でリチウム(Li)を含まないLiフリー(free)領域である。
【0088】
次いで、一具現例による全固体二次電池の製造方法を説明する。
まず、正極活物質、バインダ、硫化物系固体電解質、導電材及び分散媒である化学式1で表示される化合物を混合して正極活物質層形成用組成物を準備する。
[化1]
-C(=O)O-R
化学式1で、Rは、C1-C2のアルキル基であり、
は、C7-C9のアルキル基である。
【0089】
前記組成物において分散媒の含量は、正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量100重量部を基準として、25~65重量部、例えば、35~45重量部である。硫化物系固体電解質の含量は、正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量100重量部を基準として5~40重量部または8~30重量部である。
【0090】
本明細書で正極活物質層形成用組成物の固形分は、正極活物質、バインダ、硫化物系固体電解質及び導電材を合わせたものを言う。
【0091】
正極活物質層形成用組成物は、キシレン、ジエチルベンゼンなどの非極性溶媒を含んでもよい。該組成物は、溶媒として、ジエチレンカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネートなどの有機溶媒をさらに含んでもよい。
【0092】
正極集電体上に前記正極活物質層形成用組成物をコーティングし乾燥させて正極活物質層を形成して正極層を提供する。
【0093】
前記乾燥は、1次熱処理を含む。1次熱処理は、25~100℃、30~95℃、35~85℃、40~70℃または40℃で実施する。1次熱処理は、例えば、ホットプレート(hot plate)やコンベクションオーブンで実施する。
【0094】
乾燥は、2次熱処理をさらに実施することができる。1次熱処理を実施した後、真空条件で40~100℃、50~95℃、55~90℃、または60~80℃で2次熱処理を実施する。ここで、真空条件は、例えば、380~760torrで実施する。
【0095】
一具現例によれば、乾燥のための1次熱処理で分散媒の含量が所望通りにその含量が制御されれば、2次熱処理を省略することができる。
【0096】
1次熱処理は、1次熱処理温度範囲によって異なり、1時間以上、2時間以上、例えば2時間~4時間実施する。そして、2次熱処理は、1次熱処理温度範囲によって異なり、2時間以上、4時間、例えば、4時間~8時間実施する。
【0097】
前記乾燥後正極層が化学式1の化合物と化学式2の化合物とを含み、前記化学式1の化合物の含量は、500ppm以下であり、化学式2の化合物の含量は、500ppm以下である。
【0098】
これと別途に、負極集電体と第1負極活物質層とを含む負極層を提供する段階と、前記負極層と正極層との間に固体電解質層を提供して積層体を準備する段階と、前記積層体を加圧(Press)する段階と、を含む。
【0099】
前記加圧は、25~90℃の範囲で実施し、圧力は、550MPa以下、例えば、500MPa以下、例えば、400~500MPa範囲で加圧して全固体二次電池を完成する。加圧時間は、温度及び圧力などによって異なり、例えば、30分未満である。そして、加圧は、例えば、静水圧(isostatic press)、ロール加圧(roll press)、または平板加圧(plate press)でもある。
【0100】
一具現例による全固体二次電池は、中大型電池または電力保存装置(energy storage system:ESS)に適用可能である。
【0101】
以下の実施例及び比較例を通じて本創意的思想がさらに具体的に説明する。但し、実施例は、本創意的思想を例示するためのものであって、それらだけで本創意的思想の範囲が限定されるものではない。
【0102】
製造例1:正極活物質層形成用組成物の製造
正極活物質として、LiNi0.8Co0.15Mn0.05(NCM)を準備した。固体電解質として結晶性である(crystalline)アルジロダイト系固体電解質(LiPSCl)を使用した。そして、バインダとしてポリビニリデンフルオライド(PVDF)(Arekema社のPVDF)を準備しており、導電材として、炭素ナノ纎維(CNF)を準備した。そのような材料を正極活物質:固体電解質:炭素ナノ纎維:バインダ=86.91:11.85:0.25:0.99の重量比で分散媒である酢酸オクチルとジエチルカーボネートとを、下記表1の含量で混合して正極活物質層形成用組成物を製造した。
【0103】
正極活物質層形成用組成物において酢酸オクチルの含量は、正極活物質層形成用組成物の固形分総重量100重量部を基準として25重量部であり、ジエチルカーボネートの含量は、15重量部である。ここで、正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量は、正極活物質、固体電解質、炭素ナノ纎維及びバインダの総重量を示す。
【0104】
製造例2-6
分散媒である酢酸オクチルの含量を下記表1に示されたように変化させたことを除いては、製造例1と同様に実施して正極活物質層形成用組成物を準備した。
【0105】
製造例7-8
分散媒として酢酸ヘプチルまたは酢酸ノニルをそれぞれ使用したことを除いては、製造例1と同様に実施して正極活物質層形成用組成物を準備した。
【0106】
下記表1で各分散媒の含量は、正極活物質層形成用組成物の固形分総重量100重量部を基準としたものである。正極活物質層形成用組成物の固形分総重量は、正極活物質、導電剤、バインダ及び硫化物系固体電解質の総重量を示す。
【0107】
【表1】
【0108】
製造例9
酢酸オクチルの含量が正極活物質層形成用組成物の固形分の総重量100重量部を基準として65重量部に変化されたことを除いては、製造例2と同じ方法によって実施して正極活物質層形成用組成物を準備した。
【0109】
<比較製造例1-7>
表1の分散媒の代わりに、表2の分散媒を使用したことを除いては、製造例1と同じ方法によって実施して正極活物質層形成用組成物を製造した。
【0110】
【表2】
【0111】
表2において、分散媒の含量は、正極活物質層固形分の総重量100重量部を基準にしたものである。
【0112】
実施例1
(正極層製造)
製造例1の正極活物質層形成用組成物をシンキーミキサー(Thinky mixer)を用いて、2000rpmで30secずつ5回分散させてコーティング用スラリーとして製造した。該スラリーをバーコータを用いてカーボン層が1μmコーティングされた正極基材上にコーティングして正極を形成した。以後、40℃のコンベクションオーブン(convection oven)で2時間1次熱処理を実施して乾燥した。次いで、80℃、真空オーブンで8時間2次熱処理を実施して乾燥して正極シートを製造した。
【0113】
(負極層製造)
負極集電体として、厚さ10μmのNi箔を準備した。また、負極活物質として一次粒径が約30nmであるカーボンブラック(CB)及び平均粒径は、約60nmである銀(Ag)粒子を準備した。
【0114】
カーボンブラック(CB)と銀(Ag)粒子とを3:1の重量比で混合した混合粉末0.25gを容器に入れ、そこにPVDFバインダ(クレハ社の#9300)が7重量%を含まれたNMP溶液2gを追加して混合溶液を準備した。次いで、その混合溶液にNMPを少しずつ添加しながら混合溶液を撹拌してスラリーを製造した。製造されたスラリーをNi箔(foil)にバーコータ(bar coater)を用いて塗布し、80℃のコンベクションオーブンで10分間乾燥させて積層体を得た。得られた積層体を100℃で8時間以上、すなわち、10時間真空乾燥した。以上の工程によって負極集電体上に第1負極活物質層が形成された負極層を製造した。
【0115】
(固体電解質層の製造)
アクリル系バインダ(SX-A334, Zeon Co., Ltd.)を酢酸オクチル(octyl acetate)に添加して4wt%バインダ溶液を準備した。アルジロダイト(Argyrodite)型結晶体であるLiPSCl固体電解質(D50=3μm、結晶質)に準備されたアクリル系バインダ溶液を添加し、シンキーミキサー(Thinky mixer)で混合してスラリーを準備した。スラリーは、固体電解質の98.5重量部に対して1.5重量部のアクリル系バインダを含む。製造されたスラリーを不織布上にバーコータ(bar coater)を用いて塗布し、50℃のコンベクションオーブンで5分間乾燥させて積層体を得た。得られた積層体を真空オーブン、40℃で10時間以上乾燥した。以上の工程によって固体電解質層を製造した。
【0116】
(全固体二次電池の製造)
正極層と負極層との間に固体電解質層を配置して積層体を準備した。準備された積層体を80℃で500MPaの圧力で30min間、平板加圧(hot plate press)処理して全固体二次電池を製造した。そのような加圧処理によって固体電解質層が焼結されて電池特性が向上する。加圧された正極活物質層の厚さは、約100μmであり、負極活物質層の厚さは、7μmであり、固体電解質層の厚さは、60μmである。
【0117】
実施例2-8
正極層の製造時、乾燥を真空、80℃で2時間真空オーブンで熱処理する過程の代わりに、下記表3の条件で熱処理することを除いては、実施例1と同様に実施して正極層及び全固体二次電池を製造した。
【0118】
実施例9
正極層の製造時、製造例1の正極活物質層形成用組成物の代わりに、製造例9の正極活物質層形成用組成物を使用したことを除いては、実施例1と同様に実施して負極層及び全固体二次電池を製造した。
【0119】
比較例1-5
正極層の製造時、製造例1の正極活物質層形成用組成物の代わりに、比較製造例1ないし5の正極活物質層形成用組成物をそれぞれ使用することを除いては、実施例1と同様に実施して負極層及び全固体二次電池を製造した。
【0120】
【表3】
【0121】
上述した比較例において、比較例1及び比較例2によって実施する場合、使用した溶媒によって、固体電解質が反応してイオン伝導度特性を失ったので、電池が構成されていない。
【0122】
比較例6
正極層の製造時、製造例1の正極活物質層形成用組成物の代わりに、比較製造例6の正極活物質層形成用組成物を使用し、正極層を下記条件によって実施して製造したことを除いては、実施例1と同様に実施して負極層及び全固体二次電池を製造した。
【0123】
(正極層製造)
比較製造例6の正極活物質層形成用組成物をシンキーミキサー(Thinky mixer)を用いて2000rpmで30secずつ5回分散させてコーティング用スラリーとして製造した。該スラリーをバーコータ(bar coater)を用いてカーボン層が1μmの厚さにコーティングされた正極基材上にコーティングして正極を形成した。以後、40℃に調節されたコンベクションオーブン(convection oven)に2時間乾燥を実施した。次いで、80℃の真空オーブンで8時間乾燥を実施して正極シートを製造した。
【0124】
比較例6によれば、酢酸ドデシルは、硫化物系固体電解質との反応性は低いが、沸点が高く、正極層から酢酸ドデシルを除去するために、乾燥温度を100℃に高めなければならない。ところで、そのように乾燥温度を上げれば、硫化物系固体電解質の劣化が起きて電池の容量特性が低下した結果を示した。
【0125】
比較例7
正極層の製造時、製造例1の正極活物質層形成用組成物の代わりに、比較製造例7の正極活物質層形成用組成物を使用したことを除いては、実施例1と同一に実施した。
【0126】
しかし、比較例7によって実施する場合、オクタノールが硫化物系固体電解質であるLiPSClを溶解して正極層及び全固体二次電池を製造することが困難であった。
【0127】
評価例1:硫化物系固体電解質との反応性
製造例1-8及び比較製造例1-6で使用された分散媒の硫化物系固体電解質LiPSClに対する反応性を下記方法によって評価した。
【0128】
分散媒2gと硫化物系固体電解質である0.2gを混合し、それを撹拌した後、3日間放置した後、変色の有無を調査して分散媒と硫化物系固体電解質との反応性を評価した。
○:混合時、直ちに変色される(硫化物系固体電解質に対する反応性が大きい)
△:混合1~3日経過後、変色される(硫化物系固体電解質に対する反応性がある)
X:3日経過後、変色されない(硫化物系固体電解質に対する反応性がない)
【0129】
前記評価結果を、下記表4に示した。
分散媒として、酢酸オクチルまたは酢酸ブチルを使用し、硫化物系固体電解質であるLiPSClとの反応性を評価した結果ある。
【0130】
図6Aは、分散媒として、酢酸オクチルを使用した場合であって、図6Bは、分散媒として、酢酸ブチルを使用した場合に係わるものであり、図6A及び図6Bにおいて、(a)は、混合後の初期状態を示したものであり、(b)は、3日後、固体電解質が分散された状態を示す図面である。
【0131】
図6Aを参照して、分散媒として、酢酸オクチルを使用すれば、硫化物系固体電解質に対する反応性が少ないということが分かった。これに比べて、図6Bに示されているように、分散媒として、酢酸ブチルを使用すれば、硫化物系固体電解質と反応して変色されたことを確認することができた。
【0132】
評価例2:充放電テスト
実施例1ないし8及び比較例1ないし6で製造された全固体二次電池の充放電特性を次の充放電テストによって評価した。
【0133】
電池電圧が4.25Vになるまで、0.1Cの定電流で10時間充電した後、電池電圧が2.5Vになるまで、0.1Cの定電流で放電を10時間実施した(第1サイクル)。次いで、電池電圧が4.25Vになるまで0.1Cの定電流で10時間充電した後、電池電圧が2.5Vになるまで0.33Cの定電流で3時間放電を実施した(第2サイクル)。その後、電池電圧が4.25Vになるまで0.1Cの定電流で10時間充電した。次いで、電池電圧が2.5Vになるまで1Cの定電流で1時間放電を実施した(第3サイクル)。
【0134】
その後、電池電圧が4.25Vになるまで0.33Cの定電流で3時間充電した。次いで、電池電圧が2.5Vになるまで0.33Cの定電流で3時間放電を実施した(第4サイクル)。
【0135】
前記サイクルを合計100回繰り返した。寿命特性は、下記表4に示した。
寿命特性は、短絡発生なしに60%容量になるときのサイクルを示す。
下記表4において、平均電圧は、100サイクル後の平均電圧を示す。
【0136】
【表4】
【0137】
実施例1ないし8の全固体二次電池は、表3に示されたように比較例3ないし6の全固体二次電池と比較して、容量、平均電圧及び寿命特性が優秀であった。
【0138】
これに比べて、比較例1及び比較例2の全固体二次電池は、分散媒としてそれぞれ酢酸ブチル及び酢酸ペンチルを使用し、これら物質が硫化物系固体電解質に対する反応性が高く、セル性能自体を測定することが困難であった。
【0139】
比較例3の全固体二次電池は、比較例1の全固体二次電池と同様に分散媒である酢酸ヘキシルが硫化物系固体電解質に対する反応性が高く、セル性能が非常に良くない結果を示した。
【0140】
比較例4ないし比較例6の全固体二次電池は、正極層製造時に用いられた分散媒の沸点が高く、真空乾燥後にも残留する分散媒の含量が多く、その結果、セル性能が低下した結果を示した。特に、沸点の高い分散媒を用いて正極層を製造する場合には、沸点の高い分散媒を除去するために、100℃以上の温度で熱処理を実施すれば、硫化物系固体電解質の劣化が発生し、全固体二次電池の容量特性が低下する。
【0141】
また、実施例1及び比較例4の全固体二次電池において比容量による電圧変化を調査し、図1に示した。
【0142】
それを参照すれば、実施例1の全固体二次電池は、正極層製造時に分散媒として酢酸オクチルを使用し、正極層製造時に分散媒として、酢酸デシルを使用する比較例4の全固体二次電池と比較して、容量特性に優れるということが分かった。これにより、化学式1の化合物において、エステル作用基の酸素に結合された炭素数が8である場合が、炭素数10である場合に比べて、改善された容量特性を有する全固体二次電池を製造可能であるいことが分かった。
【0143】
また、実施例9の全固体二次電池の充放電特性を上述した実施例1の全固体二次電池の充放電特性テスト方法と同様に実施して評価した。
【0144】
評価結果、実施例9の全固体二次電池は、実施例1の全固体二次電池と比較して、同等な充放電特性を示すということが分かった。
【0145】
評価例3:ヘッドスペースサンプラー(Headspace Sampler, HSS)ガスクロマトグラフィ/質量分光分析(Headspace Sampler Gas Chromatograph/Mass Spectrometry, HSS-GC/MS)
実施例1ないし8及び比較例1ないし6によって製造された正極層において残留分散媒分析を、HSS-GC/MSを用いて実施した。HSS-GC/MS分析のとき、Agilent社のGC6890Nを用いた。カラム(Column)は、RTX-200を使用し、3mL/minの流量(flow rate)で分析を行い、入口(inlet)温度は、210℃であり、オーブン温度を50℃から260℃まで昇温しつつ、15℃/分間測定した。HSSオーブンは、180℃に決定し、測定時間は、5分に決定した。
残留分散媒の含量に対する分析結果は、下記表5及び図2A及び図2Bの通りである。
【0146】
【表5】
【0147】
図2A及び図2Bには、実施例1によって得た正極層において残留分散媒の成分を分析した結果である。
【0148】
図2Aを参照すれば、実施例1の正極層は、酢酸オクチル関連のメインピークが観察され、オクタノール関連のサブピークが観察された。その他、二酸化硫黄、1-オクタンチオール関連のピークが観察された。図2Bから、第2分散媒は、第1分散媒の分解産物として生成されるということが分かる。分解時、多様な周辺物質との結合が生じると判断する。
【0149】
以上、添付図面に基づいて例示的な一具現例について詳細に説明したが、本創意的思想は、そのような例に限定されない。本創意的思想が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で各種変更例または修正例が導出可能であるということは自明であり、それらも本創意的思想の技術的範囲に属するということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0150】
10 正極層
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 負極層
21 負極集電体
22 第1負極活物質層
23 第2負極活物質層
24 薄膜
30 固体電解質層
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B