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特開2022-42042IL-17の産生を抑制するビフィズス菌
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  • 特開-IL-17の産生を抑制するビフィズス菌 図1
  • 特開-IL-17の産生を抑制するビフィズス菌 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042042
(43)【公開日】2022-03-14
(54)【発明の名称】IL-17の産生を抑制するビフィズス菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220307BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20220307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220307BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20220307BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220307BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220307BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20220307BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61K35/745
A61P43/00 111
A61K35/74 A
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/06
A61P25/00
A61P29/00
A61P1/00
A61Q19/00
A61K8/99
A61Q11/00
A23L33/135
A23K10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020147208
(22)【出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷井 勇介
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】伊木 明美
(72)【発明者】
【氏名】森 綾香
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B065
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AC08
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018MD87
4B018ME07
4B018MF06
4B018MF13
4B065AA21X
4B065AC20
4B065BA21
4B065CA41
4B065CA42
4B065CA60
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC04
4C083CC41
4C083DD17
4C083DD39
4C083EE11
4C083EE31
4C087BC60
4C087MA23
4C087MA44
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA66
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB11
4C087ZB15
4C087ZC01
4C087ZC19
(57)【要約】
【課題】本発明は、IL-17の産生を抑制し、飲食品に好適に利用できる乳児腸内由来のビフィズス菌及び当該ビフィズス菌を含有する飲食品を提供することを目的とする。
【解決手段】IL-17の産生を抑制するビフィドバクテリウム属ロンガム種のビフィズス菌を提供する。また、当該ビフィズス菌はビフィドバクテリウム・ロンガムN714株(NITE BP-03004)である。また、当該ビフィズス菌を含有する飲食品を提供する。これにより、IL-17の亢進によって引き起こされる慢性炎症性疾患を軽減できる可能性がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-17の産生を抑制するビフィドバクテリウム属ロンガム種のビフィズス菌。
【請求項2】
前記ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガムN714株(NITE BP-03004)である、請求項1記載のビフィズス菌。
【請求項3】
請求項1または2に記載のビフィズス菌を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-17の産生を抑制する乳児腸内由来のビフィズス菌の菌株及びその菌体を含有する飲食品に関するものである。特に、ビフィドバクテリウム・ロンガムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免疫に関与する細胞として、細胞性免疫に関与する1型ヘルパーT(Th1)細胞と、液性免疫に関与するTh2細胞が知られている。そして、近年の研究で、Th1細胞、Th2細胞以外にTh17細胞と呼ばれる新たなT細胞サブセットが発見された。このTh17細胞は、アレルギー応答や自己免疫、一部の感染防御などで中心的な役割を果たしていることがわかっている。また、Th17細胞は特徴的なインターロイキン17(Interleukin-17:IL-17)を産生することから名づけられた。
【0003】
ここで、インターロイキン(interleukin:IL)とは、リンパ球や単球、マクロファージなど免疫担当細胞が産生する生理活性物質の総称であり、免疫反応に関連する細胞間相互作用を媒介する蛋白性物質である。このうち、IL-17は、主にTh17細胞より産生され、繊維芽細胞や上皮細胞、血管内皮細胞、マクロファージなどの細胞に作用して、炎症性サイトカインやケモカイン、細胞接着因子など、種々の因子を誘導して炎症を引き起こすことが知られている(非特許文献1,2参照)。
【0004】
IL-17には複数のサブセットがあり、Th17細胞からはIL-17AとIL-17Fが産生される。IL-17AとIL-17Fはアミノ酸レベルで50%の相同性を持ち、対応するレセプターも同じであることから、多くの機能が重複していると考えられている。また、ヒトTh17細胞ではIL-17Aに比べ、IL-17Fの産生量が多いことも知られている。
【0005】
一方、IL-17の亢進は、関節リウマチ、乾癬および多発性硬化症を含むいくつかの慢性炎症性疾患と関連することも明らかとなっている(非特許部文献3,4参照)。そのため、慢性炎症性疾患の治療として、IL-17をターゲットとした治療法が模索されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Aggarwal S, Gurney AL. IL-17: prototype member of an emerging cytokine family. J Leukoc Biol 2002 ; 71 : 1-8.
【非特許文献2】Kolls JK, Linden A. Interleukin-17 family members and inflammation. Immunity 2004 ; 21 : 467-76.
【非特許文献3】Nakae S, Nambu A, Sudo K, et al. Suppression of immune induction of collagen-induced arthritis in IL-17-deficient mice. J Immunol 2003 ; 171 : 6173-7.
【非特許文献4】Komiyama Y, Nakae S, Matsuki T, et al. IL-17 plays an important role in the development of experimental autoimmune encephalomyelitis. J Immunol 2006 ; 177 : 566-73.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今回、本発明者らは、IL-17の産生を食事によって抑制することができないか検討を行った。そして、乳児糞便を分離源としたビフィズス菌の中にIL-17の産生を抑制するビフィズス菌が存在することを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、IL-17の産生を抑制するビフィドバクテリウム属に属するビフィズス菌であることを特徴とする。
【0009】
また、上記課題解決のため、本発明は、上記ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムN714株(NITE BP-03004)であることを特徴とするビフィズス菌である。
【0010】
さらに、上記課題解決のため、本発明は上記ビフィズス菌を含有する飲食品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビフィズス菌は、IL-17の産生を抑制する。これにより、IL-17の亢進によって引き起こされる慢性炎症性疾患を軽減できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の菌株と比較菌株のIL-17F産生抑制効果を比較した図である。
図2図2は本発明の菌株と基準株のIL-17F産生抑制効果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ビフィドバクテリウム・ロンガムN714株(NITE BP-03004)
本発明のビフィズス菌はビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)である。本発明におけるN714の記号は、日清食品ホールディングス株式会社で独自に菌株に付与した番号である。本発明の菌株は、乳児糞便より本発明者によって初めて分離されたものである。
【0014】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN714株は、下記の条件で寄託されている。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
(3)受託番号:NITE BP-03004
(4)識別のための表示:N714
(5)寄託日:2019年7月10日
【0015】
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN714株の菌学的性質は、以下の表1及び表2に示す通りである。本菌学的性質は、Bergey’s manual of systematic bacteriology Vol.2(1986)に記載の方法による。表1は本菌株に関する形状などを、表2はアピ50CH及びアピCHL(ビオメリュー)による生理・生化学的性状試験の結果を示す。表1及び2において、「+」が陽性、「-」は陰性を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
2.IL-17の産生抑制試験
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN714株は、後述する実験例に示すように、高いIL-17産生抑制能を有する 。IL-17産生抑制能の確認については以下の試験方法によって行った。
【0019】
<IL-17産生抑制試験に用いた試料の調製>
IL-17産生抑制試験に用いた試料は、ビフィズス菌を表3に示すGAM培地(ニッスイ)で37℃ 、24時間培養することにより得た。次いで、遠心分離機を用いて増殖させた菌体を集菌した。集菌した菌体を滅菌水で洗浄し、遠心分離機で集菌を行った。洗浄と集菌を繰り返し3回行った。その後、加熱殺菌を施し、凍結乾燥機を用いて加熱殺菌体を凍結乾燥し、乾燥菌体粉末を得た。
【0020】
【表3】

【0021】
<IL-17産生抑制試験>
IL-17産生抑制試験では、細胞としてヒト末梢血単核球(hPBMC、CTL)を使用した。10%ウシ胎児血清、4 mM GlutaMAX(Gibco)を加えたIMDM培地(Sigma)を用いて、細胞を1.0×106 cells/well、上記で得た試料を10 ng/wellとなるように96wellプレートに播種した。ここへ、Th17細胞分化刺激剤として25 ng/mL rhIL-6(BioLegend)、12.5 ng/mL rhIL-23(BioLegend)、25 ng/mL rhIL-21(BioLegend)、2 ng/mL rhTGF-β1(BioLegend)、25 ng/mL rhIL-1β(BioLegend)を加え、37℃、5%CO2条件下で96時間培養した。培養後、hPBMCの培養上清を回収し、上清中のIL-17Fを市販のイムノアッセイキット(R&D)で測定した。
3.飲食品
本発明のビフィズス菌は飲食品に含有せしめて使用することができる。本発明のビフィズス菌は特に飲料に好適に用いることができるが、例えば、発酵乳及び乳酸菌飲料が考えられる。現行の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令では、成分規格として発酵乳(無脂乳固形分8.0%以上のもの)や乳製品乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上のもの)であれば1.0×107 cfu/mL以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%未満のもの)であれば1.0×106 cfu/mL以上必要とされるが、乳などの発酵液中で増殖させたり、最終製品の形態で増殖させたりすることによって上記の菌数を実現することができる。また、ビフィズス菌入りの発酵乳及び乳酸菌飲料以外にも、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等にも利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。上記の他、本発明の食品は、前記ビフィズス菌と共に、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0022】
本発明のビフィズス菌は、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、栄養補助食品等に含有させることも有用である。また、本発明のビフィズス菌は、食品以外にも化粧水等の化粧品分野、整腸剤等の医薬品分野、歯磨き粉等の日用品分野、サイレージ、動物用餌、植物液体肥料等の動物飼料・植物肥料分野においても応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・ロンガムN714株)は、IL-17の産生抑制について高い活性を有する。
【実施例0024】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<試験例1>IL-17産生抑制試験
本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN714株と、自社保有のビフィドバクテリウム・ロンガム比較株についてIL-17の産生抑制試験を実施した。
【0025】
まず、本発明の菌株、後述する基準株、及び比較菌株のそれぞれについて、表3に示すGAM培地(ニッスイ)で37℃ 、24時間培養した。培養にはアネロパック(三菱ガス化学)を用い、嫌気条件下で培養した。次に、増殖した菌体を遠心分離して集菌した。集菌した菌体を滅菌水にて3回洗浄し、加熱殺菌後、凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、乾燥菌体粉末を得た。得られた乾燥菌体粉末をPBS(-)に懸濁したものをビフィズス菌懸濁液とした。
【0026】
次に、96wellプレートに1.0×106 cells/wellずつhPBMCを播種した。次に、各試料群を最終濃度が10 ng/mLになるように添加した。また、Th17細胞分化刺激剤として、1 well当たり25 ng/mL rhIL-6(BioLegend)、12.5 ng/mL rhIL-23(BioLegend)、25 ng/mL rhIL-21(BioLegend)、2 ng/mL rhTGF-β1(BioLegend)、25 ng/mL rhIL-1β(BioLegend)を加え、37℃、5%CO2条件下で96時間培養した。培養後、hPBMCの培養上清を回収し、上清中のIL-17を市販のイムノアッセイキット(R&D)で測定した。なお、 ビフィズス菌懸濁液及びTh17細胞分化刺激剤のいずれも添加しなかったものを『無刺激』、Th17細胞分化刺激剤のみを添加したものを『刺激』とした。
【0027】
各試料群を添加した場合における培養上清中に含まれるIL-17F濃度(pg/mL)を図1に示す。
【0028】
図1に示すように、ビフィズス菌の中にはIL-17Fの産生を抑制するものもあれば、抑制していないものも存在していることがわかる。このうち、本発明に係るN714株は、無刺激よりはIL-17Fの産生が高いものの、その他のビフィズス菌と比較して最もIL-17Fの産生抑制について高い活性を示した。なお、無刺激のIL-17F濃度が低いのは、Th17細胞に分化しなかったためと考えられる。ここで、N714株でIL-17Fの産生が抑制された原因については不明であるが、次のように推察される。可能性の1つとして、N714株を添加したことによってTh17細胞への分化自体が抑制され、結果IL-17Fの産生が抑制されたものと推察される。別の可能性としては、Th17細胞には分化しているものの、何かしらの理由によりIL-17の産生が抑制されたものと推察される。これらのいずれかもしくは両方、さらにはこれ以外の理由によって、IL-17の産生が抑制されたものと推察される。
【0029】
ところで、本試験においてIL-17FをIL-17の評価指標として用いたのは、IL-17サブセットの中でIL-17Fの産生量が最も多く、検出しやすいためである。一方、IL-17F以外のサブセットについては、産生量が非常に少なく、検出が難しい。そのため、本試験においてはIL-17Fを評価指標とした。しかしながら、上述の推察に基づけば、IL-17F以外のサブセットについても本発明に係るビフィドバクテリウム・ロンガムN714によって産生が抑制されているものと推測される。
【0030】
<試験例2>ビフィドバクテリウム・ロンガムN714の優位性評価
次に、本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN714株の優位性を確認するため、基準株のビフィドバクテリウム・ロンガムJCM1217との比較で評価を行った。試験は試験例1と同様の方法で3回行い、その平均値を用いて刺激と比較を行った。結果を図2に示す。
【0031】
図2からも明らかなように、ビフィドバクテリウム・ロンガムN714株を添加した群では、刺激群と比較してIL-17の産生が有意に抑制された。
【0032】
以上説明したように、本発明のビフィドバクテリウム・ロンガムN714株はIL-17の産生を効果的に抑制する機能を持っていることが明らかとなった。
図1
図2