(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042861
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム調整方法、荷電粒子ビーム描画方法、および荷電粒子ビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20220308BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20220308BHJP
H01J 37/21 20060101ALI20220308BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01L21/30 541F
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
H01J37/21 Z
H01J37/147 C
H01J37/147 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148499
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】懸樋 亮一
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴仁
【テーマコード(参考)】
5C033
5C034
5F056
【Fターム(参考)】
5C033FF10
5C033GG07
5C033MM05
5C034BB05
5C034BB08
5F056AA07
5F056BA02
5F056BA08
5F056BB01
5F056BC05
5F056EA03
5F056EA04
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームの調整時に発生するアパーチャのダメージを低減することが可能な荷電粒子ビーム調整方法を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る荷電粒子ビーム調整方法は、エミッション電流を目標値より小さい第1調整値とした荷電粒子ビームで、荷電粒子ビームの焦点位置となるように配置された穴部を有するアパーチャ基板を、電子レンズにおける複数のレンズ値を用いてそれぞれスキャンし、第1分解能を求める工程と、複数のレンズ値と第1分解能との第1関数を求めてレンズ値範囲を求める工程と、エミッション電流を第2調整値とした荷電粒子ビームで、レンズ値範囲を回避するように設定された複数のレンズ値を用いてアパーチャ基板をそれぞれスキャンし、第2分解能を求める工程と、複数のレンズ値と第2分解能との第2関数を求めて正焦点におけるレンズ値を推定する工程と、電子レンズを正焦点におけるレンズ値に調整する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッション電流を描画に用いられる目標値より小さい第1調整値とした荷電粒子ビームで、前記荷電粒子ビームの焦点の位置となるように配置された穴部を有するアパーチャ基板を、前記アパーチャ基板の上流側に設けられた電子レンズにおける複数のレンズ値を用いてそれぞれスキャンし、前記複数のレンズ値のそれぞれにおける第1分解能を求める工程と、
前記複数のレンズ値と前記第1分解能との第1関数を求め、前記第1関数より前記荷電粒子ビームの実描画時に分解能が最小となる正焦点におけるレンズ値に所定のマージンを加えたレンズ値範囲を求める工程と、
前記エミッション電流を前記第1調整値よりも大きく前記目標値以下の第2調整値とした前記荷電粒子ビームで、前記レンズ値範囲を回避するように設定された複数のレンズ値を用いて前記アパーチャ基板をそれぞれスキャンし、前記複数のレンズ値のそれぞれにおける第2分解能を求める工程と、
前記複数のレンズ値と前記第2分解能との第2関数を求め、前記第2関数より、前記正焦点におけるレンズ値を推定する工程と、
前記電子レンズを推定された前記正焦点におけるレンズ値に調整する工程と、
を備える荷電粒子ビーム調整方法。
【請求項2】
前記スキャンにおいて、各前記複数のレンズ値において1Dスキャンを異なる2方向において行う、請求項1に記載の荷電粒子ビーム調整方法。
【請求項3】
前記所定のマージンは、予め求められるビーム径と前記アパーチャ基板の温度との関係と、前記レンズ値を変動させて前記荷電粒子ビームを照射することにより取得されるスキャン像から求められる前記アパーチャ基板上のビーム径と前記レンズ値との関係に基づき求められる、請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム調整方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム調整方法で調整された前記レンズ値を用い、前記エミッション電流を前記目標値とした前記荷電粒子ビームで照射対象物に描画する、荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
所定のエミッション電流で荷電粒子ビームを放出する放出部と、
前記放出部の下流側に設けられ、レンズ値により前記荷電粒子ビームの焦点を調整する電子レンズと、
前記電子レンズの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームの焦点位置となるように配置された穴部を有するアパーチャ基板と、
描画に用いられる目標値より小さい前記エミッション電流である第1調整値で放出された前記荷電粒子ビームで複数の前記レンズ値を用いて前記アパーチャ基板をスキャンして得られた第1分解能と複数の前記レンズ値との第1関数を求め、前記第1関数より、前記電子レンズにおける前記荷電粒子ビームの実描画時に分解能が最小となる正焦点におけるレンズ値に所定のマージンを加えたレンズ値範囲を求め、前記第1調整値より大きく前記目標値以下の前記エミッション電流である第2調整値で放出された荷電粒子ビームで、前記レンズ値範囲を回避する複数の前記レンズ値を用いて前記アパーチャ基板をスキャンして得られた第2分解能と複数の前記レンズ値との第2関数を求め、前記第2関数より、前記正焦点におけるレンズ値を推定する演算部と、
前記電子レンズを推定された前記正焦点におけるレンズ値に調整する調整部と、
を備える荷電粒子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム調整方法、荷電粒子ビーム描画方法、および荷電粒子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム照射装置では、荷電粒子ビームを電子レンズの正焦点(Just focus)に合わせるフォーカス調整や、荷電粒子ビームをアパーチャの中心に通過させるセンタリング調整が行われている。このような荷電粒子ビームの調整時には、電子レンズで集束された荷電粒子ビームがアパーチャ基板上をスキャンする。このとき、アパーチャ基板が、荷電粒子ビームで加熱されて損傷する場合がある。
【0003】
そこで、従来は、荷電粒子ビームの調整中には、電子銃からの荷電粒子ビームのエミッション電流(放出強度)を目標値よりも小さい値に設定し、調整後に目標値に戻す。この場合、荷電粒子ビームのエミッション電流を目標値に戻した後は、荷電粒子ビームがアパーチャ基板上をスキャンするような調整は実施されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、エミッション電流を目標値にした後に発生する、カソード、高圧電源のドリフトや、電子レンズ(コンデンサーレンズ)のドリフト等によって、フォーカス調整およびセンタリング調整が必要になる場合がある。この場合、エミッション電流を目標値とした状態で、荷電粒子ビームによるアパーチャ基板のスキャンが、調整の度に繰り返され、アパーチャ基板が高温になるため、コンタミネーションによりチャージが発生し、ビーム電流が不安定になるという問題が生じる。また、アパーチャ基板のダメージが蓄積され溶損が生じ、アパーチャ基板の交換を要する場合がある。
【0006】
本発明は、荷電粒子ビームの調整時に発生するアパーチャ基板のコンタミネーションやダメージを低減し長寿命化することが可能な荷電粒子ビーム調整方法、荷電粒子ビーム描画方法、および荷電粒子ビーム照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム調整方法は、エミッション電流を描画に用いられる目標値より小さい第1調整値とした荷電粒子ビームで、荷電粒子ビームの焦点の位置となるように配置された穴部を有するアパーチャ基板を、アパーチャ基板の上流側に設けられた電子レンズにおける複数のレンズ値を用いてそれぞれスキャンし、複数のレンズ値のそれぞれにおける第1分解能を求める工程と、複数のレンズ値と第1分解能との第1関数を求め、前記第1関数より荷電粒子ビームの実描画時に分解能が最小となる正焦点におけるレンズ値に所定のマージンを加えたレンズ値範囲を求める工程と、エミッション電流を第1調整値よりも大きく目標値以下の第2調整値とした荷電粒子ビームで、レンズ値範囲を回避するように設定された複数のレンズ値を用いてアパーチャ基板をそれぞれスキャンし、複数のレンズ値のそれぞれにおける第2分解能を求める工程と、複数のレンズ値と第2分解能との第2関数を求め、前記第2関数より、正焦点におけるレンズ値を推定する工程と、電子レンズを推定された正焦点におけるレンズ値に調整する工程と、を備える。
【0008】
また、前記スキャンにおいて、各前記複数のレンズ値において1Dスキャンを異なる2方向において行ってもよい。
【0009】
また、前記所定のマージンは、予め求められるビーム径と前記アパーチャ基板の温度との関係と、前記レンズ値を変動させて前記荷電粒子ビームを照射することにより取得されるスキャン像から求められる前記アパーチャ基板上のビーム径と前記レンズ値との関係に基づき求められてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム描画方法は、上記の荷電粒子ビーム調整方法で調整された前記レンズ値を用い、前記エミッション電流を前記目標値とした前記荷電粒子ビームで照射対象物に描画する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置は、
所定のエミッション電流で荷電粒子ビームを放出する放出部と、
前記放出部の下流側に設けられ、レンズ値により前記荷電粒子ビームの焦点を調整する電子レンズと、
前記電子レンズの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームの焦点位置となるように配置された穴部を有するアパーチャ基板と、
描画に用いられる目標値より小さい前記エミッション電流である第1調整値で放出された前記荷電粒子ビームで複数の前記レンズ値を用いて前記アパーチャ基板をスキャンして得られた第1分解能と複数の前記レンズ値との第1関数を求め、前記第1関数より、前記電子レンズにおける前記荷電粒子ビームの実描画時に分解能が最小となる正焦点におけるレンズ値に所定のマージンを加えたレンズ値範囲を求め、前記第1調整値より大きく前記目標値以下の前記エミッション電流である第2調整値で放出された荷電粒子ビームで、前記レンズ値範囲を回避する複数の前記レンズ値を用いて前記アパーチャ基板をスキャンして得られた第2分解能と複数の前記レンズ値との第2関数を求め、前記第2関数より、前記正焦点におけるレンズ値を推定する演算部と、
前記電子レンズを推定された前記正焦点におけるレンズ値に調整する調整部と、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略図である。
【
図2】第1実施形態に係る電子ビームの調整方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】電子ビームでアパーチャを一方向にスキャンしたときの電子のラインプロファイルを示すグラフである。
【
図4】レンズ値と分解能との関係を示すグラフである。
【
図5】第2実施形態に係る電子ビームの調整方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】第3実施形態に係る精調整工程を示す平面図である。
【
図7】電子ビームによるアパーチャの一般的な2Dスキャン方法を示す平面図である。
【
図8】第3実施形態の変形例に係る精調整工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略図である。本実施形態では、荷電粒子ビーム照射装置の一例として、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の構成について説明する。
【0015】
ただし、本発明に係る荷電粒子ビーム照射装置は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置に限定されず、例えば、シングル荷電粒子ビーム描画装置や荷電粒子ビーム検査装置であってもよい。また、荷電粒子ビームは、電子ビームに限定されず、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームであってもよい。
【0016】
図1に示す荷電粒子ビーム照射装置1は、描画対象の基板24に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部Wと、描画部Wの動作を制御する制御部Cと、を備える。
【0017】
描画部Wは、電子ビーム鏡筒2および描画室20を有する。電子ビーム鏡筒2内には、電子銃(放出部)4、照明レンズ系6、成形アパーチャアレイ基板8、ブランキングアパーチャアレイ基板10、縮小レンズ12、制限アパーチャ部材14、対物レンズ16、偏向器18、およびアライメント機構40が配置されている。
【0018】
照明レンズ系6は、電子レンズ6aおよび電子レンズ6bを有する。電子レンズ6bは、電子銃4から放出される電子ビーム30のビーム進行方向において、電子レンズ6aよりも後側(下流側)に配置される。
【0019】
アライメント機構40は、電子銃4と成形アパーチャアレイ基板8との間に設けられ、アライメントコイル42、44および46と、中央部に円形のアパーチャ48aが形成されたアパーチャ基板48とを有する。
【0020】
アライメントコイル42は、電子ビーム30の電子レンズ6aへの入射位置を調整する。アライメントコイル44は、電子ビーム30のアパーチャ48aへの入射角を調整する。アライメントコイル46は、電子ビーム30のアパーチャ48aへの入射位置を調整する。
【0021】
アパーチャ基板48には、中央部の穴部を通過せずにアパーチャ基板48で遮蔽される電子(ビーム電流)を検出する検出器が設けられている。
【0022】
描画室20内には、ステージ22が配置される。ステージ22上には、描画対象の基板24が載置されている。描画対象の基板24は、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置(EUV)を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。
【0023】
電子銃4(放出部)から放出された電子ビーム30は、アライメント機構40により光軸が調整され、アパーチャ48aを通過し、ほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板8を照明する。成形アパーチャアレイ基板8には、複数の穴部(開口部)が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。各穴部は、例えば共に同じ寸法形状の矩形又は円形で形成される。
【0024】
電子ビーム30は、成形アパーチャアレイ基板8を照明し、複数の穴部を電子ビーム30の一部がそれぞれ通過することで、
図1に示すようなマルチビーム30a~30eが形成される。
【0025】
ブランキングアパーチャアレイ基板10には、成形アパーチャアレイ基板8の各穴部の配置位置に合わせて貫通孔が形成され、各貫通孔には、一対の2つの電極からなるブランカが、それぞれ配置される。各貫通孔を通過するマルチビーム30a~30eは、それぞれ独立に、ブランカが印加する電圧によって偏向される。この偏向によって、各ビームがブランキング制御される。
【0026】
ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカにより偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材14によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材14の穴部を通過する。
【0027】
そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ部材14を通過したビームが、1回分のショットのビームとなる。
【0028】
制限アパーチャ部材14を通過したマルチビーム30a~30eは、対物レンズ16により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となる。制限アパーチャ部材14を通過した各ビーム(マルチビーム全体)は、偏向器18によって同方向にまとめて偏向され、基板24に照射される。
【0029】
一度に照射されるマルチビームは、理想的には成形アパーチャアレイ基板8の複数の穴部の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。この描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。ステージ22が連続移動している時、ビームの照射位置がステージ22の移動に追従するように偏向器18によって制御される。
【0030】
制御部Cは、制御計算機50、記憶装置52、演算部53、コイル制御回路54、レンズ制御回路55、描画制御回路56、および信号取得回路58を有する。制御計算機50の各機能は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御計算機50の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0031】
制御計算機50は、例えば、記憶装置52から描画データを取得し、描画データに対し複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成し、描画制御回路56に出力する。ショットデータには、各ショットの照射量および照射位置座標等が定義される。
【0032】
描画制御回路56は、描画部Wの各部を制御して描画処理を行う。例えば、描画制御回路56は、各ショットの照射量を電流密度で割って照射時間tを求め、対応するショットが行われる際、照射時間tだけビームONするように、ブランキングアパーチャアレイ基板10の対応するブランカに偏向電圧を印加する。
【0033】
また、描画制御回路56は、ショットデータが示す位置(座標)に各ビームが偏向されるように偏向量を演算し、偏向器18に偏向電圧を印加する。これにより、その回にショットされるマルチビームがまとめて偏向される。
【0034】
アライメント機構40では、電子ビーム30がアパーチャ48aに垂直に入射されるように、アライメントコイル44で調整を行う。アパーチャ48aへの電子ビーム30の入射角の調整が不十分であると、成形アパーチャアレイ基板8の所望の穴部を電子ビーム30で照明できず、基板24に照射されるマルチビーム(ビームアレイ)に欠けが生じることがある。
【0035】
そこで、本実施形態では、制御計算機50の調整部51が、定期的に電子ビーム30のフォーカス調整を行う。以下、本実施形態に係る電子ビーム30の調整方法を説明する。
【0036】
図2は、第1実施形態に係る電子ビーム30の調整方法の手順を示すフローチャートである。
【0037】
まず、調整部51が、電子銃4から放出される電子ビーム30のエミッション電流Eを第1調整値Ehに設定するコマンドを高圧電源60へ指示する(ステップS11)。高圧電源60は、調整部51からのコマンドに基づいて、第1調整値Ehに対応する電流を電子銃4へ供給する。第1調整値Ehは、例えば、描画時の目標値Etの40-60%とすることができる。
【0038】
次に、調整部51は、電子ビーム30の粗軸調整を行うコマンドをコイル制御回路54へ出力する(ステップS12)。コイル制御回路54は、調整部51からのコマンドに基づいて、電子銃4から放出された電子ビーム30が、アパーチャ48aを通過してステージ22まで到達するアライメントコイル44の電流値を粗く調整する。粗軸調整では、電子ビーム30が、ステージ22まで到達していればよい。このとき、電子レンズ6a、6bに供給する電流値(以下、レンズ値と記す)を変動させて分解能を測定し、大まかに焦点を合わせる。このとき、演算部53において実描画時に分解能が最小となると考えられるレンズ値に所定のマージンを加えた範囲(領域R)を求める。
【0039】
例えば、先ず、シミュレーションにより求めたアパーチャ基板48の位置における電子ビーム径とアパーチャ基板48の温度との関係に基づき、アパーチャ基板が所定の温度以下、例えば、アパーチャ基板48の融点以下となるような電子ビーム径の範囲を算出する。一方、レンズ値を変動させ、アパーチャ基板48における電子ビーム像(スキャン像)を取得し、スキャン像から電子ビーム径を求める。そして、レンズ値と電子ビーム径との関係に基づき、アパーチャ基板48が所定の温度以下となる電子ビーム径の範囲より領域Rを求める。
【0040】
次に、調整部51が、電子ビーム30のエミッション電流Eを上記第1調整値Ehから上記目標値Et(第2調整値)に変更するコマンドを高圧電源60へ指示する(ステップS13)。高圧電源60は、調整部51からのコマンドに基づいて、目標値Etに対応する電流を電子銃4へ供給する。
【0041】
次に、調整部51が、電子ビーム30の精調整を行うコマンドをレンズ制御回路55へ出力する(ステップS14)。レンズ制御回路55は、調整部51からのコマンドに基づいて、電子レンズ6a、6bのレンズ値を調整する精調整を行う。
【0042】
図3は、電子ビーム30でアパーチャ基板48を一方向にスキャンしたときの電子のラインプロファイルを示すグラフである。
図3では、横軸は、電子ビーム30によるアパーチャ基板48のスキャン位置を示す。一方、縦軸は、アパーチャ基板48に設けられた検出器で検出された電子の強度を示す。
【0043】
図3に示すラインプロファイルでは、電子ビーム30がアパーチャ48aに近づくにつれて電子の検出強度は小さくなる。調整部51は、信号取得回路58を介して電子の検出強度を取得すると、取得した電子の検出強度の分解能(Resolution)を算出する。調整部51は、例えば、予め設定されたカットオフ上限値VTHmaxおよびカットオフ下限値VTHminがプロファイルとそれぞれ交わる点から垂線を下した時の、2本の垂線の幅を分解能として算出する。
【0044】
分解能の算出後、調整部51は、レンズ制御回路55に対して電子レンズ6a、6bのレンズ値を変化させるコマンドを出力する。レンズ制御回路55によって、レンズ値が変化すると、調整部51は、再び、電子ビーム30でアパーチャ48aを一方向にスキャンさせ、分解能を算出する。
【0045】
図4は、レンズ値と分解能との関係を示すグラフである。
図4では、横軸はレンズ値を示し、縦軸は分解能を示す。
図4に示すように、調整部51は、正焦点となる分解能が最小となるレンズ値を含む領域Rを回避して、領域Rの周辺の複数のレンズ値の各々について新たに分解能を算出する(ステップS15)。換言すると、調整部51は、分解能が予め設定された値に下がるまで、レンズ値を変化させながら分解能を算出する。
【0046】
その後、調整部51は、例えば関数フィッティングを行ってレンズ値と分解能との関係を近似式で示す関数fを算出する(ステップS16)。そのため、より精度の高い関数フィッティングを行うためには、より多くのレンズ値において測定することが好ましい。続いて、調整部51は、関数fに基づいて、分解能が最小となるレンズ値である正焦点を求める(ステップS17)。なお、
図4に示す関数fは、2次関数であるが、次数は限定されず、1次関数であってもよい。
【0047】
電子レンズ6a、6bの正焦点となるレンズ値が求まると、電子ビーム30のフォーカス調整は完了する。その後、描画制御回路56が、目標値Etで放出される電子ビーム30を用いて基板24に対して描画処理を実行する。
【0048】
上述した本実施形態では、電子ビーム30を電子レンズ6a、6bの正焦点に合わすと、
図3に示すラインプロファイルの傾きは急峻になる。そのため、正焦点に合わせられた電子ビーム30でアパーチャ基板48へのスキャンを繰り返すと、アパーチャ基板48には大きなダメージが加えられてしまう。
【0049】
そこで、本実施形態では、電子ビーム30の粗軸調整(ステップS12)を行う際、電子ビーム30の大まかなフォーカス調整を行う。その後、正焦点の近傍を避けて周辺領域のみでアパーチャ基板48のスキャンを行い、スキャンした結果に基づいて、正焦点を関数フィッティングにより求めている。これにより、目標値である実描画のエミッション電流を用いて正焦点を求めることができるとともに、アパーチャ基板48への大きなダメージが想定される条件でのスキャンが回避されるので、電子ビーム30の調整時に発生するアパーチャ基板48のダメージを低減することが可能となる。
【0050】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、装置構成は、上述した第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置1と同様であるため、説明を省略する。以下、
図5を参照して本実施形態に係る電子ビーム30のフォーカス調整方法を説明する。
【0051】
図5は、第2実施形態に係る電子ビーム30の調整方法の手順を示すフローチャートである。
【0052】
まず、第1実施形態と同様に、調整部51が電子銃4から放出される電子ビーム30のエミッション電流Eを第1調整値Ehに設定するコマンドを高圧電源60へ指示する(ステップS21)。次も、第1実施形態と同様に、調整部51は電子ビーム30の粗軸調整を行うコマンドをコイル制御回路54へ出力する(ステップS22)。
【0053】
次に、上述した第1実施形態では、電子ビーム30のエミッション電流Eを第1調整値Ehから目標値Etに上げて、精調整を行う。精調整では、電子レンズ6a、6bの正焦点となる条件近傍を避けて電子ビーム30でアパーチャ基板48をスキャンする。しかし、正焦点となる条件近傍を避けるだけでは、アパーチャ基板48のダメージが回避しきれない場合がある。
【0054】
そこで、本実施形態では、第1調整値Ehよりも大きくて目標値Etよりも小さい第2調整値Emで精調整を行う。このとき、自動でエミッション電流Eが高いことを検知して第2調整値Emまで下げてから、アパーチャ基板48上のスキャンを開始するプログラムを実装することができる。具体的には、調整部51は、高圧電源60に現在のエミッション電流Eを照会するコマンドを送る。調整部51は、高圧電源60からの応答に基づいて、エミッション電流Eが第2調整値Emであるか否かを判定する(ステップS23)。調整部51は、判定結果に応じて、高圧電源60に対してエミッション電流Eを第2調整値Emに変更するコマンドを出力する(ステップS24)。このとき、第2調整値Emは、例えば目標値Etの80-95%である。
【0055】
エミッション電流Eが第2調整値Emに変更されると、調整部51は、電子ビーム30の精調整を行うコマンドをレンズ制御回路55へ出力する(ステップS25)。精調整時には、第1実施形態と同様に調整部51は、電子レンズ6a、6bの正焦点となる条件を避けて電子ビーム30でアパーチャ基板48をスキャンし、スキャンした結果に基づいて、正焦点を関数フィッティングによって求める。
【0056】
電子ビーム30の精調整が終了すると、調整部51は、電子ビーム30のエミッション電流Eを第2調整値Emから目標値Etに変更するコマンドを高圧電源60へ指示する(ステップS26)。これで、電子ビーム30のフォーカス調整が完了する。その後、描画制御回路56が、目標値Etで放出される電子ビーム30を用いて基板24に対して描画処理を実行する。
【0057】
以上説明した本実施形態によれば、精調整で、目標値Etよりも小さい第2調整値Emで放出された電子ビーム30でアパーチャ基板48をスキャンする。そのため、アパーチャ基板48のダメージをさらに低減することが可能となる。
【0058】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態でも、装置構成は、上述した第1実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置1と同様であるため、詳細な説明を省略する。以下、本実施形態に係る電子ビーム30の調整方法について説明する。
【0059】
本実施形態でも、第1実施形態と同様に、電子ビーム30のエミッション電流Eを第1調整値Ehに設定して(ステップS11)、粗軸調整を行う(ステップS12)。
【0060】
続いて、第1実施形態と同様にエミッション電流Eを目標値Etに上げて(ステップS13)、精調整を行う。本実施形態では、精調整の内容が第1実施形態と異なる。
【0061】
図6は、第3実施形態に係る精調整工程を示す平面図である。本実施形態では、
図6に示すように、調整部51が、アパーチャ基板48上で、互いに直交するX方向およびY方向に電子ビーム30をスキャンさせる。
【0062】
具体的には、調整部51は、X方向およびY方向の各々について、電子レンズ6a、6bのレンズ値を変化させるたびに、アパーチャ基板48の検出器で検出された電子のラインプロファイルを取得する。続いて、調整部51は、各ラインプロファイルに基づいて、分解能を算出する。このとき、第1実施形態と同様に、分解能が最小となるレンズ値の条件を避けて、複数のレンズ値の各々について分解能を算出する。最後に、調整部51は、算出した複数の分解能を関数フィッティングすることによって、正焦点を求める。
【0063】
図7は、電子ビーム30によるアパーチャ基板48の一般的な2Dスキャン方法を示す平面図である。
図7に示す2Dスキャン方法では、アパーチャ基板48周辺の複数個所で電子ビーム30をX方向にスキャンしている。2Dスキャン方法によれば、1つのレンズ値に対して電子ビーム30を何回も同じ方向にスキャンさせて、アパーチャ基板48で検出される電子のラインプロファイルを取得している。
【0064】
一方、本実施形態では、1つのレンズ値に対して例えばX方向およびY方向の異なる2方向にそれぞれ1回ずつスキャンする1Dスキャンによって、上記ラインプロファイルを取得している。そのため、本実施形態によれば、スキャン回数が低減されるため、アパーチャ基板48へのダメージをより一層低減することが可能となる。さらに、スキャン時間も短縮されるため、精調整に要する時間を削減できる。その結果、電子ビーム30の調整を短時間で終了させることが可能となる。
【0065】
(変形例)
図8は、第3実施形態の変形例に係る精調整工程を示す平面図である。上述した第3実施形態において、フォーカス調整の度に、毎回同じ2方向をスキャンしていると、アパーチャ基板48のスキャン部分にのみ、ダメージが蓄積される。
【0066】
そこで、本変形例では、調整部51は、調整毎、或いは電子ビーム30のフォーカス調整の回数をカウントし、調整回数が所定数に達するたびに、
図8に示すようにスキャン方向を回転させスキャン方向の位相を変化させる。これにより、アパーチャ基板48のスキャン部分が周期的に変わるため、ダメージの蓄積が分散される。よって、アパーチャ基板48の寿命が長くなって、長期間の使用が可能となる。
【0067】
なお、上述した実施形態および変形例では、電子ビーム30のフォーカス調整方法について説明したが、電子ビーム30をアパーチャ48aの中心に通過させるセンタリング調整に適用してもよい。このセンタリング調整においても、電子レンズ6a、6bの正焦点となるレンズ値の条件を避けて、アパーチャ基板48をスキャンすることによって、アパーチャ基板48のダメージを低減することができる。
【0068】
また、アパーチャ基板48のダメージをさらに低減させるために、電子ビーム30のエミッション電流Eを第2実施形態で説明した第2調整値Emに下げてアパーチャ基板48をスキャンしてもよい。
【0069】
このとき、スキャン時間を短縮するために、第3実施形態で説明した1Dスキャン(
図8参照)を行ってもよい。ただし、アパーチャ48aの位置が大きくずれている場合には、1Dスキャンでは、アパーチャ48aの中心位置を捉えることができない可能性がある。そのため、
図7に示す2Dスキャンと
図8に示す1Dスキャンとを組み合わせることが望ましい。例えば、アパーチャ48aの位置を捉えるため粗く2Dスキャンを行い、アパーチャ48aの位置を調整し、最後に、1Dスキャンでセンタリング調整を確認するといった手順にすると、2回とも2Dスキャンを行う場合に比べて、スキャン時間を短縮することが可能となる。
【0070】
なお、これら実施形態において、成形アパーチャアレイ基板8の上流側のアパーチャアレイにおけるクロスオーバ位置の焦点調整を行ったが、下流側の制限アパーチャ部材14等におけるクロスオーバ位置における焦点調整時にも適用可能である。
【0071】
本発明の実施形態をいくつか説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
4:電子銃(放出部)、6a、6b:電子レンズ、22:ステージ、42、44、46:アライメントコイル、48:アパーチャ基板、C:制御部