(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043040
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】抗GPC-1抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220308BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220308BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220308BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220308BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220308BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220308BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220308BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20220308BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220308BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220308BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20220308BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220308BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A01K67/027
A61K47/68
A61K39/395 Y
A61P35/00
A61P1/00
A61K49/00
A61P35/04
A61K51/00 200
C12P21/08
C12N5/10
C12N5/071
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187987
(22)【出願日】2021-11-18
(62)【分割の表示】P 2019514676の分割
【原出願日】2018-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017090054
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「創薬基盤推進研究事業」「新規癌抗原Glypican-1に対する抗体医薬品の奏功性を予測するコンパニオン診断薬の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】仲 哲治
(72)【発明者】
【氏名】世良田 聡
(72)【発明者】
【氏名】藤本 穣
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規抗Glypican-1抗体およびその利用法を提供する。
【解決手段】本発明は、細胞内移行活性を有する抗Glypican-1抗体を提供する。本発明の抗体の細胞内移行活性を利用して、様々な治療用途に使用され得る。本発明はまた、Glypican-1に結合する物質(例えば、抗Glypican-1抗体)と細胞傷害活性を有する薬剤との複合体を含む、Glypican-1陽性がんを予防または治療するための組成物も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Glypican-1(GPC-1)に特異的に結合する抗体、ならび関連する技術、方法、および薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
Glypican-1分子は、正常細胞よりも食道がん細胞において有意に強く発現されており、腫瘍マーカーとして使用され得ることが見出された(特許文献1)。また、Glypican-1に対して特異的に結合する抗体も単離されている(特許文献1)。しかしながら、Glypican-1を標的とした効果的な治療薬は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの局面において、本発明は、細胞内移行活性を有する抗Glypican-1抗体を提供する。このような活性は従来の抗Glypican-1抗体では見られなかった。本発明の抗体の細胞内移行活性を利用して、本発明は、従来では想定されなかった様々な治療用途に使用され得る。
【0005】
したがって、別の局面では、本発明は、Glypican-1に結合する物質(例えば、抗Glypican-1抗体)と細胞傷害活性を有する薬剤との複合体を含む、Glypican-1陽性がんを予防または治療するための組成物も提供する。
【0006】
別の局面では、本発明は、従来の抗体より強い結合活性を有する抗Glypican-1抗体またはその断片を提供する。このような抗体またはその断片は、がんなどの診断剤として有用である。
【0007】
また、このような抗体またはその断片は、コンパニオン診断薬、コンパニオン治療薬などとして応用可能である。
【0008】
以上より、本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
<抗体>
(項目1A)
抗ヒトGlypican-1抗体またはその抗原結合フラグメントであって、該抗体は、以下:
(a)それぞれ配列番号53、54および55に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号56、57および58に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(b)それぞれ配列番号5、6および7に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号8、9および10に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(c)それぞれ配列番号11、12および13に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号14、15および16に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(d)それぞれ配列番号17、18および19に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号20、21および22に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(e)それぞれ配列番号23、24および25に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号26、27および28に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(f)それぞれ配列番号29、30および31に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号32、33および34に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(g)それぞれ配列番号35、36および37に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号38、39および40に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(h)それぞれ配列番号41、42および43に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号44、45および46に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(i)それぞれ配列番号47、48および49に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号50、51および52に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(j)それぞれ配列番号59、60および61に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号62、63および64に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(k)それぞれ配列番号65、66および67に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号68、69および70に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(l)それぞれ配列番号71、72および73に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号74、75および76に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(m)それぞれ配列番号77、78および79に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号80、81および82に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(n)それぞれ配列番号83、84および85に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号86、87および88に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(o)それぞれ配列番号89、90および91に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号92、93および94に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(p)それぞれ配列番号95、96および97に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号98、99および100に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(q)それぞれ配列番号101、102および103に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号104、105および106に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(r)それぞれ配列番号107、108および109に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号110、111および112に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、ならびに
(s)CDR部分に少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(r)から選択される抗体の変異体
からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目1A-1)
前記抗体が、(a)、(b)、(d)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)および(n)からなる群から選択される、項目1Aに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目2A)
前記抗体が、以下:
(a)配列番号158に示される重鎖、および配列番号160に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(b)配列番号126に示される重鎖、および配列番号128に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(c)配列番号130に示される重鎖、および配列番号132に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(d)配列番号134に示される重鎖、および配列番号136に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(e)配列番号138に示される重鎖、および配列番号140に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(f)配列番号142に示される重鎖、および配列番号144に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(g)配列番号146に示される重鎖、および配列番号148に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(h)配列番号150に示される重鎖、および配列番号152に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(i)配列番号154に示される重鎖、および配列番号156に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(j)配列番号162に示される重鎖、および配列番号164に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(k)配列番号166に示される重鎖、および配列番号168に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(l)配列番号170に示される重鎖、および配列番号172に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(m)配列番号174に示される重鎖、および配列番号176に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(n)配列番号178に示される重鎖、および配列番号180に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(o)配列番号182に示される重鎖、および配列番号184に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(p)配列番号186に示される重鎖、および配列番号188に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(q)配列番号190に示される重鎖、および配列番号192に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(r)配列番号194に示される重鎖、および配列番号196に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、ならびに
(s)少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(r)から選択される抗体の変異体
からなる群から選択される、項目1Aに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目2A-1)
前記抗体が、(a)、(b)、(d)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)および(n)からなる群から選択される、項目2Aに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目3A)
前記変異体が、該抗体のフレームワークに少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む、項目1Aまたは2Aに記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目4A)
約10nM以下の結合定数でヒトGlypican-1に結合する、項目1A~3Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目5A)
インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始6時間後にGlypican-1陽性細胞に対して約30%以上のインターナライズ活性を有する、項目1A~4Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目5A-1)
インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始2時間後にGlypican-1陽性細胞に対して約30%以上のインターナライズ活性を有する、項目1A~4Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目6A)
インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始6時間後にGlypican-1陽性細胞に対して約50%以上のインターナライズ活性を有する、項目1A~5Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目6A-1)
インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始2時間後にGlypican-1陽性細胞に対して約50%以上のインターナライズ活性を有する、項目1A~4A、5A-1のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目7A)
インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始6時間後にGlypican-1陽性細胞に対して約60%以上のインターナライズ活性を有する、項目1A~6Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目7A-1)
インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始2時間後にGlypican-1陽性細胞に対して約60%以上のインターナライズ活性を有する、項目1A~4A、5A-1、6A-1のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目8A)
前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv-Fcから選択される抗体である、項目1A~7Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
(項目9A)
項目1A~8Aのいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、医薬組成物。
(項目10A)
前記医薬組成物は、有効成分を細胞内移行させるためのものである、項目9Aに記載の医薬組成物。
<複合体>
(項目1B)
Glypican-1陽性細胞に対して細胞内移行する活性を有する抗Glypican-1抗体またはその抗原結合フラグメントと細胞傷害性活性を有する薬剤との複合体。(項目2B)
前記Glypican-1に結合する物質が、前記細胞傷害性活性を有する薬剤とリンカーを介して作動可能に連結されている、項目1Bに記載の複合体。
(項目3B)
前記抗体のエピトープが、以下:
(a)配列番号2の33~61位、
(b)配列番号2の339~358位および/もしくは388~421位、
(c)配列番号2の430~530位
(d)配列番号2の33~61位、339~358位、および/もしくは388~421位、
(e)配列番号2の339~358位、388~421位、および/もしくは430~530位、または
(f)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および/もしくは430~530位、
を含む、項目1Bまたは2Bに記載の複合体。
(項目4B)
前記抗体のエピトープが、以下:
(a)配列番号2の33~61位、
(b)配列番号2の339~358位および388~421位、
(c)配列番号2の33~61位、339~358位、および388~42、または
(d)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および430~530位、
を含む、項目3Bに記載の複合体。
(項目5B)
前記抗体が、以下:
(a)それぞれ配列番号53、54および55に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号56、57および58に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(b)それぞれ配列番号5、6および7に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号8、9および10に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(c)それぞれ配列番号11、12および13に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号14、15および16に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(d)それぞれ配列番号17、18および19に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号20、21および22に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(e)それぞれ配列番号23、24および25に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号26、27および28に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(f)それぞれ配列番号29、30および31に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号32、33および34に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(g)それぞれ配列番号35、36および37に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号38、39および40に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(h)それぞれ配列番号41、42および43に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号44、45および46に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(i)それぞれ配列番号47、48および49に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号50、51および52に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(j)それぞれ配列番号59、60および61に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号62、63および64に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(k)それぞれ配列番号65、66および67に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号68、69および70に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(l)それぞれ配列番号71、72および73に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号74、75および76に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(m)それぞれ配列番号77、78および79に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号80、81および82に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(n)それぞれ配列番号83、84および85に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号86、87および88に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(o)それぞれ配列番号89、90および91に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号92、93および94に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(p)それぞれ配列番号95、96および97に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号98、99および100に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(q)それぞれ配列番号101、102および103に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号104、105および106に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(r)それぞれ配列番号107、108および109に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号110、111および112に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、
(s)それぞれ配列番号113、114および115に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号116、117および118に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、ならびに
(t)それぞれ配列番号125、126および127に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号128、129および130に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体、ならびに
(u)少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(t)から選択される抗体の変異体
からなる群から選択される、項目1B~4Bのいずれか一項に記載の複合体。
(項目5B-1)
前記抗体が、(a)、(b)、(d)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(s)および(t)からなる群から選択される、項目5Bのいずれか一項に記載の複合体。
(項目6B)
前記抗体が、以下:
(a)配列番号158に示される重鎖、および配列番号160に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(b)配列番号126に示される重鎖、および配列番号128に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(c)配列番号130に示される重鎖、および配列番号132に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(d)配列番号134に示される重鎖、および配列番号136に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(e)配列番号138に示される重鎖、および配列番号140に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(f)配列番号142に示される重鎖、および配列番号144に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(g)配列番号146に示される重鎖、および配列番号148に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(h)配列番号150に示される重鎖、および配列番号152に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(i)配列番号154に示される重鎖、および配列番号156に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(j)配列番号162に示される重鎖、および配列番号164に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(k)配列番号166に示される重鎖、および配列番号168に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(l)配列番号170に示される重鎖、および配列番号172に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(m)配列番号174に示される重鎖、および配列番号176に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(n)配列番号178に示される重鎖、および配列番号180に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(o)配列番号182に示される重鎖、および配列番号184に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(p)配列番号186に示される重鎖、および配列番号188に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(q)配列番号190に示される重鎖、および配列番号192に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(r)配列番号194に示される重鎖、および配列番号196に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、ならびに
(s)配列番号198に示される重鎖、および配列番号200に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、
(t)配列番号202に示される重鎖、および配列番号204に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体、ならびに
(u)少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(t)から選択される抗体の変異体
からなる群から選択される、項目5Bのいずれか一項に記載の複合体。
(項目6B-1)
前記抗体が、(a)、(b)、(d)、(e)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(s)および(t)からなる群から選択される、項目6Bのいずれか一項に記載の複合体。
(項目7B)
前記複合体が、Glypican-1陽性細胞において、約0.5nM以下のIC50を示す、請求項1B~6Bのいずれか一項に記載の複合体。
<組成物>
(項目1C)
項目1B~7Bのいずれか一項に記載の複合体を含む、Glypican-1陽性がんを予防または治療するための組成物。
(項目2C)
前記Glypican-1陽性がんのがん細胞は、高いレベルのGlypican-1を細胞表面に発現する、項目1Cに記載の組成物。
(項目3C)
前記Glypican-1陽性がんのがん細胞は、QIFIKIT(登録商標)を使用したア
ッセイにおいて、約15,000以上の抗Glypican-1抗体結合能を有する、項目2Cに記載の組成物。
(項目4C)
前記Glypican-1陽性がんは、食道がん、すい臓がん、子宮頸がん、肺がん、頭頸部がん、乳がん、子宮平滑筋肉腫、前立腺がんまたはこれらの任意の組合せから選択される、項目3Cに記載の組成物。
(項目5C)
Glypican-1陽性がんが食道がんであり、該食道がんはリンパ節転移部位のもの、扁平上皮がんおよび/または腺がんを含む、項目3Cまたは4Cに記載の組成物。
(項目6C)
前記食道がんは扁平上皮がんを含む、項目5Cのいずれか一項に記載の組成物。
<検出薬、診断法>
(項目1D)
項目1A~8Aのいずれか一項に記載の抗体またはそのフラグメントを含む、食道がんを識別するための検出剤。
(項目2D)
前記抗体またはそのフラグメントは標識されている、項目1Dに記載の検出剤。
(項目3D)
前記食道がんは、Glypican-1陽性である項目1Dまたは2Dに記載の検出剤。
(項目4D)
前記食道がんはリンパ節転移部位のもの、扁平上皮がんおよび/または腺がんを含む、項目1D~3Dのいずれか一項に記載の検出剤。
(項目5D)
前記食道がんは扁平上皮がんを含む、項目1D~4Dのいずれか一項に記載の検出剤。(項目6D)
Glypican-1陽性食道がんを発症していると判断された患者に対して投
与するための、項目1D~5Dのいずれか一項に記載の検出剤。
(項目7D)
対象検体のGlypican-1の発現を食道がんの指標とする方法であって、該方法は、以下:
項目1D~6Dのいずれか一項に記載の検出剤を該対象検体と接触させる工程、
該対象検体におけるGlypican-1の発現量を測定する工程、および
該対象検体および正常検体におけるGlypican-1の発現量を比較する工程
を含む、方法。
(項目8D)
項目1A~8Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、対象が食道がんの治療を必要とするかどうかを判断するための診断薬。
<コンパニオン試薬>
(項目1E)
項目1A~8Aのいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは項目1D~6Dのいずれか一項に記載の検出剤を含む、対象がGlypican-1の抑制剤によるがんの治療を必要とするかどうかを判断するためのコンパニオン試薬であって、該試薬が対象検体と接触させられて、該対象検体におけるGlypican-1の発現量が測定されることを特徴とし、該対象検体Glypican-1の発現量が、正常検体におけるGlypican-1の発現量を超える場合に、該対象がGlypican-1の抑制剤での治療を必要とすることを示す、コンパニオン試薬。
(項目2E)
項目1B~7Bのいずれか一項に記載の複合体を含む悪性腫瘍の予防または治療のための組成物であって、該悪性腫瘍を有する被検体はGlypican-1が正常個体よりも高く発現していることを特徴とする、組成物。
<シンジェニック非ヒト動物>
(項目1F)
がん抗原を発現する細胞が移植された非ヒト動物であって、該がん抗原が該非ヒト動物と同系である、非ヒト動物。
(項目2F)
前記がん抗原がGlypican-1である、項目1Fに記載の非ヒト動物。
(項目3F)
前記細胞が、Glypican-1を発現するように改変されたLLC細胞株、4T1細胞株、MH-1細胞株、CT26細胞株、MC38細胞株、およびB1610細胞株からなる群から選択される、項目1Fまたは2Fに記載の非ヒト動物。
(項目4F)
前記非ヒト動物がマウスであり、前記細胞が、マウスGlypican-1を発現するように改変されたLLC細胞株である、項目1F~3Fのいずれか一項に記載の非ヒト動物。
【0009】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の抗体よりも優れた特異性でGlypican-1に結合する抗体が提供される。このような抗体は、食道がんの診断・コンパニオン治療に使用される検出剤として利用することができ、さらに、当該抗体と薬物との複合体は、食道がんの治療に極めて有効であることが見出された。驚くべきことに、当該抗体と薬物との複合体は、食道がんだけでなく膵がんおよび子宮頸がんなどのGlipican-1陽性がんに有効であることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、抗がん剤結合2次抗体を用いたADCアッセイに使用するADCの概略図を示す。
【
図2】
図2は、TE14細胞の抗がん剤感受性の結果を示す。縦軸がコントロールに対する生存細胞数に割合を示し、横軸が抗がん剤の濃度を示している。
【
図3】
図3は、各クローンのADC IC50、Biacoreにより測定されたK
D、FACSにより測定されたK
D、mGPC1交差、およびエピトープをまとめた表を示す。
【
図4】
図4は、LK2、TE8およびTE14細胞におけるADCアッセイの結果を示す。
【
図6】
図6は、例示的な抗体薬物複合体(ADC)の構造の概略図を示す。
【
図7】
図7は、01a033および01a033 ADCのGlypican-1との結合親和性解析の結果を示す。縦軸は、OD(450nm~630nm)、横軸は、抗体の濃度を示している。
【
図8】
図8は、食道がん細胞株であるTE4、TE5、TE6、TE8、TE9、TE10、TE11、TE11、TE14およびTE15細胞のGPC1の抗体結合能を示す。
【
図9】
図9は、各種がん細胞株におけるGPC1の発現をFACS解析したデータを示す。アイソタイプコントロール抗体の反応性およびクローン01a033抗体の反応性が示されており、矢印がクローン01a033抗体の反応性を示す。
【
図10】
図10は、インターナライズアッセイの結果を示す。結果は0、1、2、3、4、6、12および24時間の時点で測定したものである。細胞株はTE8細胞を使用した。
【
図11】
図11は、01a033の0、1、2、3、4、6、12および24時間の時点における4℃または37℃での%インターナライズを示す。縦軸が%インターナライズを示し、横軸が時間を示している。
【
図12】
図12は、TE4、TE5、TE6、TE8、TE9、TE10、TE11、TE11、TE14、TE15およびLK2細胞に対するGPC1 ADCの細胞増殖抑制効果の結果を示す。各グラフの縦軸は、無処置と比較した増殖率(%)を示し、横軸は抗体の濃度を示している。
【
図13】
図13は、BxPC3、HeLa、T3M4およびME180細胞に対するGPC1 ADCの細胞増殖抑制効果の結果を示す。各グラフの縦軸は、無処置と比較した増殖率(%)を示し、横軸は抗体の濃度を示している。
【
図15】
図15は、単回投与毒性試験により得られた体重の変化率を示す。縦軸は体重の変化率を示し、横軸は処置後日数を示している。
【
図16】
図16は、単回投与における安全性試験の血液学的検査の結果を示す。白血球(WBC)、ヘモグロビン(Hb)、および血小板(Plt)を評価した。
【
図17】
図17は、単回投与における安全性試験の血液生化学的検査の結果を示す。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アミラーゼ(Amy)、およびクロム(Cr)を評価した。
【
図18】
図18は、膵がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験の概要を示す。エラーバーは平均±SEMを示す。
【
図19】
図19は、膵がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの抗腫瘍効果の結果を示す。縦軸が腫瘍体積(mm
3)を示し、横軸が処置後日数を示している。
【
図20】
図20は、膵がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験における処置後日数36日目の腫瘍重量(mg)を示す。p値は、one-way ANOVAに続くScheffe法により決定される。
【
図21】
図21は、膵がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験におけるマウスの体重の変化率を示す。縦軸は体重の変化率を示し、横軸は処置後日数を示している。エラーバーは平均±SEMを示す。
【
図22】
図22は、GPC1 ADCを投与した腫瘍組織の免疫組織化学染色の結果を示す。BxPC3の皮下腫瘍形成後に、(1)PBS、(2)コントロールADC 10mg/kg、(3)GPC1-ADC 1mg/kg、3mg/kgおよび10mg/kgを1回尾静脈内投与し、24時間後に腫瘍を摘出した。黒い点がG2/M期停止細胞を示す。
【
図23】
図23は、BxPC3およびPDX移植モデルにおける免疫組織化学染色法によるGPC1発現の解析の結果を示す。パラフィン包埋組織の薄切を脱パラフィン後、アルコールによる脱水を行った。GPC1に対する免疫組織化学染色法は抗GPC1抗体(Atlas Antibodies社:HPA030571)とChemMate Envision kit HRP 500T(Dako社:K5007)を用いて行った。
【
図24】
図24は、膵臓がんPDXを用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験の概要を示す。
【
図25】
図25は、膵臓がんPDXを用いたGPC1 ADCのin vivoでの抗腫瘍効果の結果を示す。縦軸が腫瘍体積(mm
3)を示し、横軸が処置後日数を示している。エラーバーは平均±SEMを示す。
【
図26】
図26は、膵臓がんPDXを用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験における処置後日数28日目の腫瘍重量(mg)を示す。p値は、one-way ANOVAに続くScheffe法により決定される。
【
図27】
図27は、膵臓がんPDXを用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験におけるマウスの体重の変化率を示す。縦軸は体重の変化率を示し、横軸は処置後日数を示している。エラーバーは平均±SEMを示す。
【
図28】
図28は、子宮頸がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験の概要を示す。
【
図29】
図29は、子宮頸がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの抗腫瘍効果の結果を示す。縦軸が腫瘍体積(mm
3)を示し、横軸が処置後日数を示している。エラーバーは平均±SEMを示す。
【
図30】
図30は、子宮頸がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験における処置後日数32日目の腫瘍重量(mg)を示す。p値は、one-way ANOVAに続くScheffe法により決定される。
【
図31】
図31は、子宮頸がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験におけるマウスの体重の変化率を示す。縦軸は体重の変化率を示し、横軸は処置後日数を示している。エラーバーは平均±SEMを示す。
【
図32】
図32は、GPC1 ADCを投与した腫瘍組織の免疫組織化学染色の結果を示す。ME180の皮下腫瘍形成後に、(1)PBS、(2)コントロールADC 10mg/kg、(3)GPC1-ADC10mg/kgを1回尾静脈内投与し、24時間後に腫瘍を摘出した。黒い点がG2/M期停止細胞を示す。
【
図33】
図33は、TE4に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図34】
図34は、TE5に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図35】
図35は、TE6に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図36】
図36は、TE8に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図37】
図37は、TE9に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図38】
図38は、TE10に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図39】
図39は、TE11に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図40】
図40は、TE14に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図41】
図41は、TE15に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図42】
図42は、HeLaに対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図43】
図43は、ME180に対するADCおよび未標識抗体による抗腫瘍効果の結果示す。縦軸が、無処置に対する増殖率(%)を示し、横軸が、ADCまたは抗体の濃度を示す。
【
図44】
図44は、実施例12(GPC1陽性細胞株に対する未標識抗GPC1抗体のin vivo抗腫瘍効果)の試験の概要を示す。
【
図45】
図45は、GPC1陽性細胞株に対する未標識抗GPC1抗体のin vivo抗腫瘍効果の結果を示す。左のグラフの縦軸が腫瘍体積(mm
3)を示し、横軸が処置後日数を示している。右のグラフは処置後日数31日目の腫瘍重量(mg)を示す。
【
図46】
図46は、雄性マウス(n=4)におけるコントロールIgG対抗GPC1抗体での安全性試験の血液分析の結果の対比を示す。表中の左列は評価項目が示されており、白血球(WBC)、リンパ球(Ly)、単球(Mo)、顆粒球(Gr)、赤血球(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット値(Hct)、血小板(Plt)を示す。p値はStudent’s t-testにより計算した。p値は、Student’s t-testにより決定される。
【
図47】
図47は、雌性マウス(n=4)におけるコントロールIgG対抗GPC1抗体での安全性試験の血液分析の結果の対比を示す。表中の左列は評価項目が示されており、白血球(WBC)、リンパ球(Ly)、単球(Mo)、顆粒球(Gr)、赤血球(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット値(Hct)、および血小板(Plt)を評価した。p値はStudent’s t-testにより決定される。
【
図48】
図48は、雄性マウス(n=4)におけるコントロールIgG対抗GPC1抗体での安全性試験の血液分析の結果の対比を示す。表中の左列は評価項目が示されており、アルブミン(ALb)、アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アミラーゼ(Amy)、総ビリルビン(T-Bil)、血液尿素窒素(BUN)、カルシウム(Ca)、リン(P)、クロム(Cr)、グルタミン(Glu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、総タンパク質(TP)、およびグロブリン(Glob)を評価した。
【
図49】
図49は、雌性マウス(n=4)におけるコントロールIgG対抗GPC1抗体での安全性試験の血液分析の結果の対比を示す。表中の左列は評価項目が示されており、アルブミン(ALb)、アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アミラーゼ(Amy)、総ビリルビン(T-Bil)、血液尿素窒素(BUN)、カルシウム(Ca)、リン(P)、クロム(Cr)、グルタミン(Glu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、総タンパク質(TP)、およびグロブリン(Glob)を評価した。
【
図50】
図50は、クローン01a033、01a002および02a010のDU145細胞およびMDA-MB231細胞に対する増殖抑制効果の結果を示す。各グラフの縦軸は、無処置と比較した増殖率(%)を示し、横軸は抗体の濃度を示している。
【
図51】
図51は、クローン01a033、01a002および02a010以外のクローンのADCのDU145細胞に対する増殖抑制効果の結果を示す。各グラフの縦軸は、無処置と比較した増殖率(%)を示し、横軸は抗体の濃度を示している。
【
図52】
図52は、クローン01a033、01a002および02a010以外のクローンのADCのDU145細胞に対する増殖抑制効果の結果を示す。各グラフの縦軸は、無処置と比較した増殖率(%)を示し、横軸は抗体の濃度を示している。
【
図53】
図53は、各クローンのADCによるTE14細胞に対するIC
50およびDU145細胞に対するEC
50の値の表を示す。
【
図54】
図54は、LLC-control-7およびLLC-mGPC1-16細胞に対する増殖抑制効果を示す。各グラフの縦軸は、無処置と比較した増殖率(%)を示し、横軸は抗体の濃度を示している。
【
図56】
図56は、LLC-mGPC1-16細胞を移植したマウスにおけるGPC1 ADCのin vivoでの抗腫瘍効果の結果を示す。縦軸が腫瘍体積(mm
3)を示し、横軸が処置後日数を示している。エラーバーは平均±SEMを示す(n=5)。
【
図57】
図57は、LLC-mGPC1-16細胞を移植したマウスにおけるGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験における処置後日数24日目の腫瘍重量(mg)を示す。
【
図58】
図58は、LLC-mGPC1-16細胞を移植したマウスにおけるGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験におけるマウスの体重変化を示す。エラーバーは平均±SEMを示す(n=5)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
(定義)
最初に本発明において使用される用語および一般的な技術を説明する。
【0014】
本明細書において、「Glypican-1」、「GPC-1」または「GPC1」は、交換可能に使用される用語であり、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型細胞表面プロテオグリカンであり、ヘパラン硫酸を有するものである。細胞接着、移動、リポタンパク質代謝、増殖因子活性調節および血液凝固抑止に関連するとされている。いくつかの線維芽細胞増殖因子(FGF)、例えば、FGF-1、FGF-2およびFGF-7に結合するといわれる。Glypican-1は、VEGF165の細胞外シャペロンとして機能し、酸化後のレセプター結合能を回復することを支援するとされる。Glypicanは現在のところGlypican-1~Glypican-6の6種類が知られているが、がんとの関係ではGlypican-ファミリーメンバーであるからといっても必ずがんマーカーであると認識されているものではなく、メンバー相互は無関係であるようである。Glypican-1は、UniProtにアクセッション番号P35052として登録されており(http://www.uniprot.org/uniprot/P35052を参照)、このほか、NCBIでは、NP_002072.2(前駆体アミノ酸配列)、NM_002081.2(mRNA)、EMBL、GenBankおよびDDBJでは、X54232.1(mRNA)、BC051279.1(mRNA)、AC110619.3(genomic)として登録されている。これらはいずれも、本明細書において利用することができる情報であり、その情報を本明細書において参考として援用する。Glypican-1については、David G et al., J Cell Biol. 1990 Dec;111(6 Pt 2):3165-76;Haecker U et al., Nat Rev Mol Cell Biol. 2005 Jul;6(7):530-41;Aikawa T et al., J Clin Invest. 2008Jan;118(1):89-99.;Matsuda K, et al., Cancer Res. 2001 Jul 15;61(14):5562-9.等を参照。ヒトGlypican-1の核酸配列(全長)は、配列番号1が代表例であり、アミノ酸配列は配列番号2が代表例である。また、マウスGlypican-1の核酸配列(全長)は、配列番号3が代表例であり、アミノ酸配列は配列番号4が代表例である。本明細書の目的で使用される場合は、「Glypican-1」、「GPC-1」または「GPC1」は、本発明の具体的な目的に合致する限り、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその類似体もしくは誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、本発明において用いることができることが理解される。
【0015】
本明細書で使用される「誘導体」、「類似体」または「変異体」は、好ましくは、限定を意図するものではないが、対象となるタンパク質(例えば、Glypican-1、抗体)に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、(高度に)ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、構成要素タンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、タンパク質を改変した産物であり、その誘導体がなお元のタンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示すタンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。本明細書で使用される「機能的に活性な」は、本明細書において、本発明のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。
【0016】
本発明では、Glypican-1についてヒトが主に論じられるが、チンパンジー(Pantroglodytes)(K7B6W5)、アカゲザル(Macaca mulatta)(F6VPW9)、マウス(Mus musculus)(Q9QZF2)、ラット(Rattus norvegicus)(P35053)、ニワトリ(Gallus gallus)(F1P150)等、ヒト以外の多くの動物がGlypican-1タンパク質を発現していることが知られているため、これらの動物、特に哺乳動物についても、本発明の範囲内に入ることが理解される。好ましくは、Glypican-1の機能的ドメイン、例えば、細胞外ドメイン(約500アミノ酸であり、12のシステイン残基を含む)やC末端の疎水性領域(GPI-アンカードメイン)は保存されていることが好ましい。
【0017】
本発明において、Glypican-1のフラグメントとは、Glypican-1の任意の領域を含むポリペプチドであり、本発明の目的(例えば、マーカーまたは治療標的)として機能する限り、必ずしも天然のGlypican-1の生物学的機能を有していなくてもよい。
【0018】
したがって、Glypican-1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および
欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグ
メントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、Glypican-1の有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ることをいう。
【0019】
Glypican-1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、Glypican-1の有する活性またはマーカーとして同じ生物内に存在する他のタンパク質から識別し得ること(例えば、抗原として用いられる場合特異的エピトープとして機能し得る領域を含むこと)をいう。
【0020】
本発明の関連において、「Glypican-1に結合する物質」、「Glypican-1(の)結合剤」または「Glypican-1相互作用分子」は、少なくとも一時的にGlypican-1に結合する分子または物質である。検出目的では好ましくは、結合したことを表示しうる(例えば標識されるか標識可能な状態である)ことが有利であり、治療目的では、さらに治療用薬剤が結合していることが有利である。Glypican-1に結合する物質は、例としては、抗体、結合性ペプチド、およびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができる。好ましくは、Glypican-1に結合する物質は、細胞内移行(インターナライゼーション)活性を有している。本明細書において、Glypican-1について「結合タンパク質」または「結合ペプチド」とは、Glypican-1に結合する任意のタンパク質またはペプチドを指し、そしてGlypican-1に対して指向される抗体(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)、抗体フラグメントおよび機能的等価物を含むがこれらに限定されない。
【0021】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。本明細書において、「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本発明の実施形態に係る抗体が「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、または溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、またはD型であってもよい。それらのような場合でも、本発明の実施形態に係る蛋白質は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。蛋白質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、または側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。アミノ酸は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0022】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’-O-メチル-リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC-5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine-modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’-O-プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’-メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260: 2605-2608(1985);Rossolini et al., Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0023】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0024】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは哺乳動物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。本発明の目的に合致する限り、このような相同体、相同遺伝子産物、オルソログ遺伝子産物等も用いることができることが理解される。
【0025】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.2.28(2013.4.2発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0026】
本発明の一実施形態において「数個」は、例えば、10、8、6、5、4、3、または2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、または他のアミノ酸による置換を受けたポリペプチドが、その生物学的活性を維持することは知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA.1984 Sep;81(18): 5662-5666.、Zoller et al.,Nucleic Acids Res. 1982 Oct 25;10(20):6487-6500.、Wang et al., Science. 1984 Jun 29;224(4656):1431-1433.)。欠失等がなされた抗体は、例えば、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、または抗体ファージライブラリを用いたバイオパニング等によって作製できる。部位特異的変異導入法としては、例えばKOD-Plus- Mutagenesis Kit (TOYOBO CO., LTD.)を使用できる。欠失等を導入した変異型抗体から、野生型と同様の活性のある抗体を選択することは、FACS解析やELISA等の各種キャラクタリゼーションを行うことで可能である。
【0027】
本発明の一実施形態において「90%以上」は、例えば、90、95、96、97、98、99、または100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0028】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC(saline-sodiumcitrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナ
トリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度および高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、および750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、または(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%またはそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、またはそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照することができる。「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、65~68℃、または0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、および50%ホルムアミド、42℃である。ハイブリダイゼーション、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1-38, DNA Cloning 1:Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することができ、Sambrookら、Molecular Cloning:ALaboratory Manual、第3番、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40-50°Cでの、約50%ホルムアミド、2×SSC-6×SSC(または約42°Cでの約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60°C、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。従って、本発明において使用されるポリペプチドには、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、高度または中程度でストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0029】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質または生物学的因子は、好ましくは「精製された」物質である。本明細書で使用される「単離された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものをいう。本明細書中で使用される用語「単離された」は、その目的に応じて変動するため、必ずしも純度で表示される必要はないが、必要な場合、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「単離された」物質または生物学的因子である。
【0030】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸あるいは部分とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子(例えば、Glypican-1)において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドあるいは部分と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいい、複合分子にあっては対応する部分(例えば、ヘパラン硫酸等)をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S-S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。このような対応する領域またはドメインは、本発明において複合分子を設計する場合に有用である。
【0031】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。従って、ヒトのGlypican-1は、それぞれ、他の動物(特に哺乳動物)において、対応するGlypican-1を見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。従って、例えば、ある動物(例えば、マウス)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、Glypican-1等)は、配列番号1または配列番号2等の配列をクエリ配列として用いてその動物の配列を含むデータベースを検索することによって見出すことができる。
【0032】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーまたは標的分子として機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーまたは標的分子としての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
【0033】
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。
【0034】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本発明においては、例えば、Glypican-1がGPC-1陽性腫瘍細胞(例えば、食道がん細胞)のアポトーシス、カスパーゼ-3の切断、AKTのリン酸化等に関与する機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子の間の結合およびそれによって生じる生物学的変化であり得、そして、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
【0035】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。したがって、本明細書において「発現産物」とは、このようなポリペプチドもしくはタンパク質、またはmRNAを含む。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。例えば、Glypican-1の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、Glypican-1のmRNAの量、Glypican-1タンパク質の量、そしてGlypican-1タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、Glypican-1の発現レベルを知ることができる。このような測定値はコンパニオン診断において使用し得る。Glypican-1のmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0036】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「Glypican-1」またはその抗体の機能的等価物は、Glypican-1またはその抗体自体ではないが、Glypican-1またはその抗体の変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、Glypican-1またはその抗体の持つ生物学的作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、Glypican-1またはその抗体自体またはこのGlypican-1またはその抗体の変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、Glypican-1またはその抗体自体またはGlypican-1またはその抗体の変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本発明において、Glypican-1またはその抗体の機能的等価物は、格別に言及していなくても、Glypican-1またはその抗体と同様に用いられうることが理解される。機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444-2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195-197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443-453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびinsituハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0037】
本発明の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。改変アミノ酸配列は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、Glypican-1のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0038】
本明細書において「抑制剤」とは、対象となる実体(例えば、レセプターまたは細胞)に対してそのレセプターまたは細胞の生物学的作用を阻害する物質または因子をいう。本発明のGlypican-1の抑制剤としては、対象となるGlypican-1またはGlypican-1を発現する細胞等の機能を一時的または永久に低下または消失させることができる因子である。このような因子には、抗体、その抗原結合フラグメント、それらの誘導体、機能的等価物、アンチセンス核酸、siRNA等のRNAi因子等の核酸の形態のもの等を挙げることができるがこれらに限定されない。 本発明の一実施形態において「抗Glypican-1抗体」は、Glypican-1に結合性を有する抗体を含む。この抗Glypican-1抗体の生産方法は特に限定されないが、例えば、Glypican-1を哺乳類または鳥類に免疫することによって生産してもよい。抗Glypican-1抗体の「抗原結合フラグメント」とは、Glypican-1に結合する能力を保持する抗体のフラグメントを指す。かかる抗原結合フラグメントとしては、以下に限定されないが、例えば、単鎖抗体、scFv、Fab断片、またはF(ab’)2断片などが挙げられる。
【0039】
また、「Glypican-1に対する抗体(抗Glypican-1抗体)、または、その抗原結合フラグメント」の「機能的等価物」は、例えば、抗体の場合、Glypican-1の結合活性を有する抗体自体およびそのフラグメント自体のほか、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFv、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、scFv-Fcなども包含されることが理解される。
【0040】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、悪性腫瘍の増殖が特に強く抑制される観点からは、Glypican-1の特定のエピトープに特異的に結合する抗Glypican-1抗体であることが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体であれば、ポリクローナル抗体に比べて、効率的にGlypican-1に対して作用させることができる。抗Glypican-1モノクローナル抗体を効率的に生産する観点からは、Glypican-1をニワトリに免疫することが好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体の抗体クラスは特に限定されないが、例えばIgM、IgD、IgG、IgA、IgE、またはIgYであってもよい。
【0043】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、抗原結合活性を有する抗体断片(以下、「抗原結合性断片」と称することもある)であっても良い。この場合、安定性または抗体の生産効率が上昇する等の効果がある。
【0044】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、融合蛋白質であってもよい。この融合蛋白質は、抗Glypican-1抗体のNまたはC末端に、ポリペプチドまたはオリゴペプチドが結合したものであってもよい。ここで、オリゴペプチドは、Hisタグであってもよい。また融合蛋白質は、マウス、ヒト、またはニワトリの抗体部分配列を融合したものであってもよい。それらのような融合蛋白質も、本実施形態に係る抗Glypican-1抗体の一形態に含まれる。
【0045】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、例えば、精製Glypican-1、Glypican-1発現細胞、またはGlypican-1含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体であってもよい。Glypican-1陽性がんに対する治療効果を高める観点からは、Glypican-1発現細胞を免疫に使用することが好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、精製Glypican-1、Glypican-1発現細胞またはGlypican-1含有脂質膜で生物を免疫する工程を経て得られる抗体の、CDRセットを有する抗体であってもよい。Glypican-1陽性がんに対する治療効果を高める観点からは、Glypican-1発現細胞を免疫に使用することが好ましい。CDRセットとは、重鎖CDR1、2、および3、並びに、軽鎖CDR1、2、および3のセットである。
【0047】
本発明の一実施形態において「Glypican-1発現細胞」は、例えば、Glypican-1をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入後、Glypican-1を発現させることによって得てもよい。ここでGlypican-1は、Glypican-1断片を含む。また本発明の一実施形態において「Glypican-1含有脂質膜」は、例えば、Glypican-1と脂質二重膜を混合することによって得てもよい。ここでGlypican-1は、Glypican-1断片を含む。また本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、Glypican-1陽性がんに対する治療効果を高める観点からは、抗原をニワトリに免疫する工程を経て得られる抗体、またはその抗体のCDRセットを有する抗体が好ましい。
【0048】
本発明の抗Glypican-1抗体は、目的を達成する限り、どのような結合力を有していてもよい。例えば、本発明の抗Glypican-1抗体は、Glypican-1に対して低い親和性を有していたとしても、インターナライゼーション活性および/またはADC活性を有していればよい。ただし診断やコンパニオン試薬目的では、強い結合力があるほうが好ましい。例えば、KD値(kd/ka)が、1.0×10-7(M)以下、1.0×10-8(M)以下、1.0×10-9(M)以下あるいは1.0×10-10(M)以下でありうる。好ましくは、診断やコンパニオン試薬目的における抗Glypican-1抗体の結合力は、KD値(kd/ka)で1.0×10-8(M)以下である。
【0049】
本発明の一実施形態に係る抗Glypican-1抗体は、Glypican-1の野生型または変異型に結合する抗体であってもよい。変異型とは、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。野生型または変異型のGlypican-1のアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有している。
【0050】
本明細書において「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる分子またはその集団を含む。また抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、様々な形態で存在することができ、例えば、全長抗体(Fab領域とFc領域を有する抗体)、Fv抗体、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、diabody、一本鎖(単鎖)抗体(例えば、scFv)、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、scFv-Fc、dsFv、多価特異的抗体(例えば、オリゴ特異的抗体、二価特異的抗体)、ダイアボディー、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒトキメラ抗体、ニワトリ-ヒトキメラ抗体等)、マウス抗体、ニワトリ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはそれらの同等物(または等価物)からなる群から選ばれる1種以上の形態であってもよい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。本発明で用いられる抗Glypican-1抗体は、Glypican-1のタンパク質に結合すればよく、その由来、種類、形状などは問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本発明においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルを抗体として利用することができるが好ましくはモノクローナル抗体である。抗体のGlypican-1タンパク質への結合は特異的な結合であることが好ましい。また抗体は、抗体修飾物または抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。
【0051】
本発明の一実施形態において「ポリクローナル抗体」は、例えば、抗原に特異的なポリクローナル抗体の産生を誘導するために、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)、鳥類等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、および所望の場合にはアジュバントの注入をしてもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全または不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、または界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコールは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):86-91.)。
【0052】
本発明の一実施形態において「モノクローナル抗体」は、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に単一のエピトープに対応する抗体である場合を含む。または、集団を構成する個々の抗体が、少量自然に生じることが可能な突然変異を有する抗体を除いて、実質的に同一である抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されていないハイブリドーマ培養から合成できる点で有用である。「モノクローナル」という形容は、実質的に均一な抗体集団から得られるという特徴を示していてもよいが、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、モノクローナル抗体は、"KohlerG, Milstein C.,Nature. 1975 Aug 7;256(5517):495-497."に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、モノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。または、モノクローナル抗体は、"Clacksonet al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628."、または"Marks et al., J MolBiol. 1991 Dec 5;222(3):581-597."に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。または、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):92-96."に掲載されている方法でよって作製してもよい。
【0053】
抗体の大量生産については、当該分野で公知の任意の手法を用いることができるが、例えば、代表的な抗体の大量生産系の構築および抗体製造としては、以下を例示することができる。すなわち、CHO細胞にH鎖抗体発現ベクターおよびL鎖抗体発現ベクターをトランスフェクションし、選択試薬であるG418およびZeocinを用いて培養を行い、限界希釈法によるクローニングを行う。クローニング後、安定的に抗体を発現しているクローンをELISA法により選択する。選択したCHO細胞を用いて拡大培養し、抗体を含む培養上清を回収する。回収した培養上清からProtein AもしくはProteinG精製により抗体を精製することができる。
【0054】
本発明の一実施形態において「Fv抗体」は、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
【0055】
本発明の一実施形態において「Fab抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。Fabは、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体を、蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0056】
本発明の一実施形態において「F(ab’)2抗体」は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。F(ab’)2は、例えば、Fab領域およびFc領域を含む本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体を、蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。また、例えば、下記のFab’をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させることで、作製することができる。
【0057】
本発明の一実施形態において「Fab’抗体」は、例えば、F(ab’)2のヒンジ領域のジス
ルフィド結合を切断して得られる抗体である。例えば、F(ab’)2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0058】
本発明の一実施形態において「scFv抗体」は、VHとVLとが適当なペプチドリンカーを介して連結した抗体である。scFv抗体は、例えば、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH-ペプチドリンカー-VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0059】
本発明の一実施形態において「ダイアボディー(diabody)」は、二価の抗原結合活性を有する抗体である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。diabodyは、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0060】
本発明の一実施形態において「dsFv」は、VHおよびVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、上記システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。システイン残基に導入する位置はReiterらにより示された方法(Reiter et al., Protein Eng. 1994 May;7(5):697-704.)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0061】
本発明の一実施形態において「抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド」は、抗体のVH、VL、またはそれらのCDR1、2、もしくは3を含んで構成される抗体である。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0062】
上記のFv抗体、Fab抗体、F(ab’)2抗体、Fab’抗体、scFv抗体、diabody、dsFv抗体、抗原結合性を有するペプチドまたはポリペプチド(以下、「Fv抗体等」と称することもある)の生産方法は特に限定しない。例えば、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体におけるFv抗体等の領域をコードするDNAを発現用ベクターに組み込み、発現用細胞を用いて生産できる。または、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t-ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって生産してもよい。なお本発明の一実施形態に係る抗原結合性断片は、上記Fv抗体等の1種以上であってもよい。
【0063】
本発明の一実施形態において「キメラ抗体」は、例えば、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって構築できる。マウス-ヒトキメラ抗体は、例えば、"Roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-973."に記載の方法で作製できる。マウス-ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。または、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列および可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体のH鎖定常領域およびヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3またはCγ4を、L鎖のものについてはCλまたはCκを各々挙げることができる。
【0064】
本発明の一実施形態において「ヒト化抗体」は、例えば、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、およびヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域(FR)、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化は、当該技術分野で既知の種々の手法を使用して実施可能である(Almagro et al., Front Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-1633.)。例えば、CDRグラフティング(Ozaki et al.,Blood.1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)、Re-surfacing (Roguska et al., Proc Natl Acad Sci US A.1994Feb 1;91(3):969-973.)、またはFRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変するために(好ましくは改善するために)、ヒトFR領域のアミノ酸残基は、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmann et al., Nature. 1988 Mar 24;332(6162):323-327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。または、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。
【0065】
本発明の一実施形態において「ヒト抗体」は、例えば、抗体を構成する重鎖の可変領域および定常領域、軽鎖の可変領域および定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。主な作製方法としてはヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法、ファージディスプレイ法などがある。ヒト抗体作製用トランスジェニックマウス法では、内因性Igをノックアウトしたマウスに機能的なヒトのIg遺伝子を導入すれば、マウス抗体の代わりに多様な抗原結合能を持つヒト抗体が産生される。さらにこのマウスを免疫すればヒトモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ法で得ることが可能である。例えば、"Lonberg et al., Int Rev Immunol.1995;13(1):65-93."に記載の方法で作製できる。ファージディスプレイ法は、典型的には大腸菌ウイルスの一つであるM13やT7などの繊維状ファージのコート蛋白質(g3p、g10p等)のN末端側にファージの感染性を失わないよう外来遺伝子を融合蛋白質として発現させるシステムである。例えば、"Vaughan et al., Nat Biotechnol. 1996 Mar;14(3):309-314."に記載の方法で作製できる。
【0066】
また抗体は、CDR-grafting(Ozaki et al., Blood. 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)によって任意の抗体に本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをグラフティングすることで作製してもよい。または、本発明の実施形態に係る抗Glypican-1抗体の重鎖CDRまたは軽鎖CDRをコードするDNAと、公知のヒトまたはヒト以外の生物由来の抗体の、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域をコードするDNAとを、当該技術分野で公知の方法に従ってベクターに連結後、公知の細胞を使用して発現させることによって得ることができる。このとき、抗Glypican-1抗体の標的抗原への作用効率を上げるために、当該分野で公知の方法(例えば、抗体のアミノ酸残基をランダムに変異させ、反応性の高いものをスクリーニングする方法、またはファージディスプレイ法等)を用いて、重鎖CDRまたは軽鎖CDRを除く領域を最適化してもよい。また、例えば、FRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol.2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)、またはバーニヤゾーンのアミノ酸残基またはパッケージング残基を置換する方法(特開2006-241026、またはFoote et al., J Mol Biol.1992 Mar 20;224(2):487-499.)を用いて、FR領域を最適化してもよい。
【0067】
本発明の一実施形態において「重鎖」は、典型的には、全長抗体の主な構成要素である。重鎖は、通常、軽鎖とジスルフィド結合および非共有結合によって結合している。重鎖のN末端側のドメインには、同種の同一クラスの抗体でもアミノ酸配列が一定しない可変領域(VH)と呼ばれる領域が存在し、一般的に、VHが抗原に対する特異性、親和性に大きく寄与していることが知られている。例えば、"Reiter et al., J Mol Biol. 1999 Jul 16;290(3):685-98."にはVHのみの分子を作製したところ、抗原と特異的に、高い親和性で結合したことが記載されている。さらに、"Wolfson W,Chem Biol. 2006 Dec;13(12):1243-1244."には、ラクダの抗体の中には、軽鎖を持たない重鎖のみの抗体が存在していることが記載されている。
【0068】
本発明の一実施形態において「CDR(相補性決定領域)」は、抗体において、実際に抗原に接触して結合部位を形成している領域である。一般的にCDRは、抗体のFv(可変領域:重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む)上に位置している。また一般的にCDRは、5~30アミノ酸残基程度からなるCDR1、CDR2、CDR3が存在する。そして、特に重鎖のCDRが抗体の抗原への結合に寄与していることが知られている。またCDRの中でも、CDR3が抗体の抗原への結合における寄与が最も高いことが知られている。例えば、"Willyet al., Biochemical and Biophysical Research Communications Volume 356, Issue 1, 27 April 2007, Pages 124-128"には、重鎖CDR3を改変させることで抗体の結合能を上昇させたことが記載されている。CDR以外のFv領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれ、FR1、FR2、FR3およびFR4からなり、抗体間で比較的よく保存されている(Kabat et al.,「Sequence of Proteins of Immunological Interest」US Dept. Health and Human Services, 1983.)。即ち、抗体の反応性を特徴付ける要因はCDRにあり、特に重鎖CDRにあるといえる。
【0069】
CDRの定義およびその位置を決定する方法は複数報告されている。例えば、Kabatの定義(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))、またはChothiaの定義(Chothia et al., J. Mol.Biol.,1987;196:901-917)を採用してもよい。本発明の一実施形態においては、Kabatの定義を好適な例として採用するが、必ずしもこれに限定されない。また、場合によっては、Kabatの定義とChothiaの定義の両方を考慮して決定しても良く、例えば、各々の定義によるCDRの重複部分を、または各々の定義によるCDRの両方を含んだ部分をCDRとすることもできる。そのような方法の具体例としては、Kabatの定義とChothiaの定義の折衷案である、Oxford Molecular'sAbM antibody modeling softwareを用いたMartinらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989;86:9268-9272)がある。このようなCDRの情報を用いて、本発明に使用されうる変異体を生産することができる。このような抗体の変異体では、もとの抗体のフレームワークに1または数個(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個)の置換、付加もしくは欠失を含むが、該CDRには変異を含まないように生産することができる。
【0070】
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。本明細書において「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。本発明の抗体は、エピトープが同じであれば、他の配列を有する抗体であっても同様に利用することができることが理解される。
【0071】
本明細書において使用される抗体は、擬陽性が減じられる限り、どのような特異性の抗体を用いても良いことが理解される。従って、本発明において用いられる抗体は、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。
【0072】
本明細書において「手段」とは、ある目的(例えば、検出、診断、治療)を達成する任意の道具となり得るものをいい、特に、本明細書では、「選択的に認識する手段」とは、ある対象を他のものとは異なって認識することができる手段をいう。
【0073】
本明細書において「マーカー(物質または遺伝子)」とは、ある状態(例えば、疾患状態、障害状態、あるいは悪性状態のレベル、有無等)にあるかまたはその危険性があるかどうかを追跡する示標となる物質をいう。このようなマーカーとしては、遺伝子、遺伝子産物、代謝物質、酵素などを挙げることができる。本発明において、ある状態(例えば、がん等の疾患の状態)についての検出、診断、予備的検出、予測または事前診断は、その状態に関連するマーカーに特異的な薬剤、剤、因子または手段、あるいはそれらを含む組成物、キットまたはシステム等を用いて実現することができる。本明細書において、「発現産物」(遺伝子産物ともいう)とは、遺伝子によってコードされるタンパク質またはmRNAをいう。本明細書では、食道がん等のGPC-1陽性がんの治療が証明されていない遺伝子産物(Glypican-1)が食道がん等のGPC-1陽性がんの治療の標的として使用可能であることが見出された。
【0074】
本発明が対象とする「がん」は、肺がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、副腎がん、胆道がん、乳がん、大腸がん、小腸がん、卵巣がん、子宮がん、膀胱がん、前立腺がん、尿管がん、腎盂がん、尿管がん、陰茎がん、精巣がん、脳腫瘍、中枢神経系のがん、末梢神経系のがん、頭頸部がん、グリオーマ、多形性膠芽腫、皮膚がん、メラノーマ、甲状腺がん、唾液腺がん、悪性リンパ腫、がん腫、肉腫、白血病および血液悪性腫瘍からなる群から選ばれる1種以上を含む。ここで、卵巣がんは、例えば、卵巣漿液性腺がん、または卵巣明細胞線がんを含む。子宮がんは、例えば、子宮内膜がん、または子宮頸がんを含む。頭頸部がんは、例えば、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、唾液腺がん、または甲状腺がんを含む。肺がんは、例えば、非小細胞肺がん、または小細胞肺がんを含む。また悪性腫瘍は、PD-L1陽性であってもよい。
【0075】
本明細書において「食道がん」とは、通常の意味で使用され、食道におけるがんを含む広義の意味で使用される。食道がんとしては、扁平上皮がんのほか、腺がん、リンパ節転移部位のもの等も包含されるがこれに限定されない。日本人の食道がんは、約半数が胸の中の食道中央付近から発生し、次いで1/4が食道の下部に発生するとされており、本発明はいずれも対象とすることが理解される。理論に束縛されることを望まないが、本発明では、扁平上皮がんのほか、腺がん、リンパ節転移部位のものを含め食道がん全体の指標として使用されうることが期待される。
【0076】
本明細書において「すい臓がん」は、膵臓から発生した悪性の腫瘍のことをいうが、一般には膵管がんをいい、このほかの膵臓の部分の腫瘍も包含される。
【0077】
本明細書において「子宮頸がん」は、子宮がんの一種で、子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんとがあり、子宮頸がんは、子宮の入り口の子宮頸部とよばれる部分から発生するものである。
【0078】
本明細書において「肺がん」は、肺に発生する上皮細胞由来の悪性腫瘍であり、小細胞肺がん、非小細胞肺がんなどがあり、非小細胞肺がんには、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんがある。
【0079】
本明細書において「頭頸部がん」は、頭頸部の腫瘍であり、顔面から頸部までの部分、例えば、鼻、口、のど、上あご、下あご、耳などの部分にできる腫瘍をいう。
【0080】
本明細書において「乳がん」は、乳房に生じる腫瘍であり、乳管がん、小葉がんなどがある。
【0081】
本明細書において「被験体(者)」とは、本発明の診断または検出、あるいは治療等の対象となる対象(例えば、ヒト等の生物または生物から取り出した細胞、血液、血清等)をいう。
【0082】
本明細書において「試料」とは、被験体等から得られた任意の物質をいい、例えば、血清等が含まれる。当業者は本明細書の記載をもとに適宜好ましい試料を選択することができる。
【0083】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。Glypican-1に結合する物質もまた、このような薬剤でありうる。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0084】
本明細書において「診断」とは、被験体における疾患、障害、状態(例えば、食道がん)などに関連する種々のパラメータを同定し、そのような疾患、障害、状態の現状または未来を判定することをいう。本発明の方法、装置、システムを用いることによって、体内の状態を調べることができ、そのような情報を用いて、被験体における疾患、障害、状態、投与すべき処置または予防のための処方物または方法などの種々のパラメータを選定することができる。本明細書において、狭義には、「診断」は、現状を診断することをいうが、広義には「早期診断」、「予測診断」、「事前診断」等を含む。本発明の診断方法は、原則として、身体から出たものを利用することができ、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることから、産業上有用である。本明細書において、医師などの医療従事者の手を離れて実施することができることを明確にするために、特に「予測診断、事前診断もしくは診断」を「支援」すると称することがある。
【0085】
本明細書において「検出薬(剤)」または「検査薬(剤)」とは、広義には、目的の対象を検出または検査することができるあらゆる薬剤をいう。
【0086】
本明細書において「診断薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、食道がん等の疾患など)を診断できるあらゆる薬剤をいう。
【0087】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害(例えば、食道がん)について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消退させることをいい、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることを含む。事前に診断を行って適切な治療を行うことは「コンパニオン治療」といい、そのための診断薬を「コンパニオン診断薬」ということがある。
【0088】
本明細書において「治療薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、食道がん等の疾患など)を治療できるあらゆる薬剤をいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体または液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお食道がんの治療薬は、食道がんの予防のために用いられる薬物(予防薬)、または食道がん細胞の増殖抑制剤を含む。
【0089】
本明細書において「予防」とは、ある疾患または障害(例えば、食道がん)について、そのような状態になる前に、そのような状態にならないようにすることをいう。本発明の薬剤を用いて、診断を行い、必要に応じて本発明の薬剤を用いて例えば、食道がん等の予防をするか、あるいは予防のための対策を講じることができる。
【0090】
本明細書において「予防薬(剤)」とは、広義には、目的の状態(例えば、食道がん等の疾患など)を予防できるあらゆる薬剤をいう。
【0091】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼしあうこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。本発明の検出、検査および診断は、このような相互作用を利用して実現することができる。
【0092】
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つの物質の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
【0093】
従って、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に」相互作用する(または結合する)「因子」(または、薬剤、検出剤等)とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
【0094】
本明細書において第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)とは、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して、第二の物質または因子以外の物質または因子(特に、第二の物質または因子を含む試料中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用する(または結合する)ことをいう。物質または因子について特異的な相互作用(または結合)としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、酵素-基質反応など、核酸およびタンパク質の反応、タンパク質-脂質相互作用、核酸-脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第一の物質または因子が、第二の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター-リガンド反応による相互作用、酵素-基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第一の物質または因子が第二の物質または因子に「特異的に」相互作用する(または結合する)ことには、抗体と、その抗原との間の相互作用(または結合)が包含される。このような特異的な相互作用または結合の反応を利用することにより、試料中の対象物の検出または定量を行うことができる。
【0095】
本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、検出剤、検査剤または診断剤(コンパニオン試薬としての適用を含む)への結合または相互作用を含む、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、発光イムノアッセイ(LIA)、免疫沈降法(IP)、免疫拡散法(SRID)、免疫比濁法(TIA)、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526-532に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT-PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two-hybridシステム、invitro翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0096】
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞、組織などにおいて、ポリペプチドまたはmRNA等が発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。あるマーカーの発現量を測定することによって、マーカーに基づく種々の検出または診断を行うことができる。
【0097】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「減少」または「抑制」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における減少、または減少させる活性をいう。減少のうち「消失」した場合は、活性、発現産物等が検出限界未満になることをいい、特に「消失」ということがある。本明細書では、「消失」は「減少」または「抑制」に包含される。
【0098】
本明細書において、活性、発現産物(例えば、タンパク質、転写物(RNAなど))の「増加」または「活性化」あるいはその類義語は、特定の活性、転写物またはタンパク質の量、質または効果における増加または増加させる活性をいう。
【0099】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。本発明のマーカーまたはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。リガンドを標識する場合、機能に影響を与えないものならば何れも用いることができるが、蛍光物質としては、AlexaTM Fluorが望ましい。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555の組み合わせ等を挙げることができる。核酸を標識する場合は、その塩基部分と結合できるものであれば何れも用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等を使用することが好ましい。蛍光発光極大波長の差が10nm以上である蛍光物質としては、例えば、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせ等を挙げることができる。本発明では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0100】
本明細書において使用される場合、「タグ」とは、受容体-リガンドのような特異的認識機構により分子を選別するための物質、より具体的には、特定の物質を結合するための結合パートナーの役割を果たす物質(例えば、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジンのような関係を有する)をいい、「標識」の範疇に含まれうる。よって、例えば、タグが結合した特定の物質は、タグ配列の結合パートナーを結合させた基材を接触させることで、この特定の物質を選別することができる。このようなタグまたは標識は、当該分野で周知である。代表的なタグ配列としては、mycタグ、Hisタグ、HA、Aviタグなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の検出剤、検査剤、診断剤にはこのようなタグを結合させてもよい。
【0101】
本明細書において「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする物質が配置されるべき位置をいう。
【0102】
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0103】
本明細書において「エキソビボ」(ex vivo)とは、ある処置について、体外で行われるがその後体内に戻されることが意図される場合、一連の動作をエキソビボという。本発明においても、生体内にある細胞を本発明の薬剤で処置して再度患者に戻すような実施形態を想定することができる。
【0104】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、検査薬、診断薬、治療薬、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0105】
本明細書において「指示書」は、本発明を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本発明の検出方法、診断薬の使い方、または医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、経口、食道への投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0106】
本明細書で使用される「細胞内移行(インターナライズ/インターナライゼーション)」とは、細胞表面上の抗原に結合した物質を媒介してエンドサイトーシスまたは食作用によって細胞が抗原に結合した物質を取り込むことを指す。このような活性を有するGlypian-1に結合する物質(例えば、抗Glypican-1抗体)は、Glypian-1を細胞表面に発現する細胞に対して目的の有効成分を細胞内移行させ、目的の有効成分による所望の効果をGlypian-1発現細胞において生じさせることができる。目的の有効成分としては、細胞傷害性活性を有する薬剤、抗がん剤、造影剤、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
本明細書において「抗体薬物複合体(ADC)」とは、1つまたは複数の目的の有効成分と化学的に連結された抗体これらの抗原結合フラグメントを指す。好ましい実施形態において、ADCは、リンカーを介して作動可能に連結されている。本明細書において「作動可能に連結されている」とは、連結される物質が予測された様式で作動することが可能な関係にあることを指す。ADCに含まれ得る目的の有効成分としては、以下に限定されないが、細胞傷害性活性を有する薬剤、抗がん剤、造影剤、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムなどが挙げられる。リンカーとして使用され得るものは、開裂型リンカーであっても、非開裂型のリンカーであってもよい。開裂型リンカーとしては、タンパク質分解酵素による切断配列を有するリンカー、酸不安定性のリンカー、ジスルフィドリンカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。非開裂型リンカーとしては、MCCリンカーなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0108】
本明細書において「細胞傷害活性」とは、例えば、細胞に病理的な変化をもたらすこと、直接的な外傷にとどまらず、DNAの切断や塩基の二量体の形成、染色体の切断、細胞分裂システムの損傷、各種酵素活性の低下などあらゆる細胞の構造や機能上の損傷により、細胞の機能を直接または間接的に遮断することによって細胞死をもたらすことをいう。したがって、「細胞傷害活性を有する薬剤」としては、例えば、以下に限定されないが、アルキル化剤、腫瘍壊死因子阻害剤、インターカレーター、微小管阻害剤、キナーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、及びトポイソメラーゼ阻害剤などが挙げられる。
【0109】
本明細書において「50%阻害濃度(IC50)」とは、50%の細胞が死滅させるために必要な化合物の濃度をいう。本明細書では、実施例7に記載の方法を使用してIC50が測定される。
【0110】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0111】
(抗体)
本発明者らは、実施例1に示されるように、ヒトGlypican-1に特異的に結合する抗体の新規クローンを見出した。したがって、1つの局面において、本発明は、抗ヒトGlypican-1抗体またはその抗原結合フラグメントであって、該抗体は、以下:
(a)それぞれ配列番号53、54および55に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号56、57および58に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a033)、
(b)それぞれ配列番号5、6および7に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号8、9および10に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a002)、
(c)それぞれ配列番号11、12および13に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号14、15および16に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a007)、
(d)それぞれ配列番号17、18および19に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号20、21および22に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a016)、
(e)それぞれ配列番号23、24および25に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号26、27および28に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a017)、
(f)それぞれ配列番号29、30および31に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号32、33および34に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a021)、
(g)それぞれ配列番号35、36および37に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号38、39および40に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a026)、
(h)それぞれ配列番号41、42および43に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号44、45および46に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a009)、
(i)それぞれ配列番号47、48および49に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号50、51および52に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a030)、
(j)それぞれ配列番号59、60および61に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号62、63および64に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a042)、
(k)それぞれ配列番号65、66および67に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号68、69および70に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a002)、
(l)それぞれ配列番号71、72および73に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号74、75および76に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a006)、
(m)それぞれ配列番号77、78および79に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号80、81および82に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a010)、
(n)それぞれ配列番号83、84および85に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号86、87および88に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a014)、
(o)それぞれ配列番号89、90および91に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号92、93および94に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a022)、
(p)それぞれ配列番号95、96および97に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号98、99および100に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a034)、
(q)それぞれ配列番号101、102および103に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号104、105および106に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a035)、
(r)それぞれ配列番号107、108および109に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号110、111および112に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02b006)、ならびに
(s)CDR部分に少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(r)から選択される抗体の変異体からなる群から選択される、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0112】
好ましい実施形態において、本発明において使用され得る抗体またはその抗原結合断片は、以下のクローン:01a033、01a002、02a010、02a002、02a014、02b006、01a042、01a017、01a026、01a016、01a030、または01a009の重鎖CDRおよび軽鎖CDRの配列を有する。これらのクローンは、TE14細胞の他、DU145細胞に対して優れたEC50値を示した。
【0113】
ある実施形態では、本発明の抗体は、以下:
(a)配列番号158に示される重鎖、および配列番号160に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a033)、
(b)配列番号126に示される重鎖、および配列番号128に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a002)、
(c)配列番号130に示される重鎖、および配列番号132に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a007)、
(d)配列番号134に示される重鎖、および配列番号136に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a016)、
(e)配列番号138に示される重鎖、および配列番号140に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a017)、
(f)配列番号142に示される重鎖、および配列番号144に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a021)、
(g)配列番号146に示される重鎖、および配列番号148に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a026)、
(h)配列番号150に示される重鎖、および配列番号152に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a009)、
(i)配列番号154に示される重鎖、および配列番号156に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a030)、
(j)配列番号162に示される重鎖、および配列番号164に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a042)、
(k)配列番号166に示される重鎖、および配列番号168に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a002)、
(l)配列番号170に示される重鎖、および配列番号172に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a006)、
(m)配列番号174に示される重鎖、および配列番号176に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a010)、
(n)配列番号178に示される重鎖、および配列番号180に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a014)、
(o)配列番号182に示される重鎖、および配列番号184に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a022)、
(p)配列番号186に示される重鎖、および配列番号188に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a034)、
(q)配列番号190に示される重鎖、および配列番号192に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a035)、
(r)配列番号194に示される重鎖、および配列番号196に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02b006)、ならびに
(s)少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(r)から選択される抗体の変異体からなる群から選択される。
【0114】
好ましい実施形態において、本発明において使用され得る抗体またはその抗原結合断片は、以下のクローン:01a033、01a002、02a010、02a002、02a014、02b006、01a042、01a017、01a026、01a016、01a030、または01a009の重鎖および軽鎖の配列を有する。これらのクローンは、TE14細胞の他、DU145細胞に対して優れたEC50値を示した。
【0115】
別の実施形態では、上記抗体の変異体は、元の抗体のアミノ酸配列に対して、少なくとも、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、または約99%同一であるアミノ酸配列を有し得る。上記抗体の変異体は、フレームワークに少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含んでもよい。
【0116】
本発明で使用され得る抗体は、約10nM以下の結合定数の結合親和性でヒトGlypican-1に結合するものが好ましいが、インターナライズ活性を有しており、所望のADC活性を有していれば、上記の結合親和性よりも弱くてもよいことが理解される。
【0117】
当業者は、抗体が、GPC-1陽性細胞(例えば、TE8細胞)に対して少なくとも約30%のインターナライズ活性を有していれば、ADCに使用される抗体または診断・検出用抗体として有用であることを理解する。少なくとも30%のインターナライズ活性を有している抗体であれば、ADCに使用した場合、薬効が認められ得るからである。したがって、具体的な実施形態では、本発明の抗体は、インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始6時間後にGPC-1陽性細胞(例えば、TE8細胞)に対して、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上のインターナライズ活性を有する。別の実施形態では、本発明の抗体は、インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始2時間後にGPC-1陽性細胞(例えば、TE8細胞)に対して、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上のインターナライズ活性を有する。別の実施形態では、本発明の抗体は、インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始6時間後にGPC-1陽性細胞(例えば、TE8細胞)において、好ましくは約50%以上、より好ましくは約60%以上のインターナライズ活性を有する。別の実施形態では、本発明の抗体は、インターナライゼーションアッセイにおいて、前記抗体またはその抗原フラグメントとのインキュベート開始2時間後にGPC-1陽性細胞(例えば、TE8細胞)において、好ましくは約50%以上、より好ましくは約60%以上のインターナライズ活性を有する。例えば、実施例に記載されるような、TE8細胞を用いたアッセイにより、インターナライズ活性を測定することができる。本明細書では、細胞表面の残存Glypican-1の割合を100%から引いた値をインターナライズ%とした。
【0118】
さらなる実施形態では、本発明の抗体は、Glypican-1を細胞表面に高いレベルで発現するGlypican-1陽性細胞に対して、少なくとも約60%以上のインターナライズ活性を有する。Glypican-1の高いレベルでの発現とは、QIFIKIT(登録商標)を使用したアッセイにおいて、クローン01a033を使用して約15,000以上の抗Glypican-1抗体結合能を有することを意味する。抗体結合能の測定方法は、実施例5において詳細に記述されている。
【0119】
さらなる別の実施形態では、本発明の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多機能抗体、二重特異性またはオリゴ特異性(oligospecific)抗体、単鎖抗体、scFV、ダイアボディー、sc(Fv)2(single chain(Fv)2)、およびscFv-Fcから選択される抗体であり得る。
【0120】
本発明の抗体は、Glipican-1陽性細胞に対する高い細胞内移行(インターナライゼーション)活性を有しており、このような活性は従来の抗Glypican-1抗体では見られなかった活性である。したがって、本発明の抗体の高いインターナライゼーション活性を利用して、本発明は、従来では想定されなかった様々な治療用途に使用され得る。したがって、特定の実施形態において、本発明は、上記抗Glipican-1抗体を含む医薬組成物を提供する。さらなる実施形態では、本発明の医薬組成物は、有効成分を細胞内移行させるためのものであり得る。有効成分としては、細胞傷害性活性を有する薬剤、抗がん剤、造影剤、siRNA、アンチセンス核酸、リボザイムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
siRNAは、約15~約40塩基からなる二本鎖RNA部分を有するRNA分子であり、前記siRNAのアンチセンス鎖と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。例えば、本発明において使用されるsiRNAは、Glypican-1陽性細胞におけるGlypican-1をコードするmRNAまたは細胞生存に影響を与える遺伝子をコードするmRNA中の連続したRNA配列と相同な配列からなるセンスRNA鎖と、該センスRNA配列に相補的な配列からなるアンチセンスRNA鎖とからなる二本鎖RNA部分を含むRNAである。
【0122】
かかるsiRNAおよび後述の変異体siRNAの設計および製造は当業者の技量の範囲内である。標的細胞における転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。
【0123】
siRNAを調製する場合には、例えば、(1)GまたはCが連続して4つ以上存在しない、(2)AまたはTが連続して4つ以上存在しない、(3)GあるいはCが9塩基以上存在しない、などの条件を加えてもよい。二本鎖RNA部分の長さは、塩基として、15~40塩基、好ましくは15~30塩基、より好ましくは15~25塩基、更に好ましくは18~23塩基、最も好ましくは19~21塩基である。これらの上限および下限は、これら特定のものに限定されず、これら列挙されているものの任意の組み合わせであってもよいことが理解される。siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の末端構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよく、3’端が突き出したタイプが好ましい。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の3’末端に数個の塩基、好ましくは1~3個の塩基、さらに好ましくは2個の塩基からなるオーバーハングを有するsiRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果が大きい場合が多く、好ましいものである。オーバーハングの塩基の種類は特に制限はなく、RNAを構成する塩基あるいはDNAを構成する塩基のいずれであってもよい。好ましいオーバーハング配列としては、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)等を挙げることができる。例えば、好ましいsiRNAとしては、全てのsiRNAのセンス・アンチセンス鎖の、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)をつけているものが挙げられるがそれに限定されない。
【0124】
さらに、上記siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の一方または両方において1~数個までのヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されているsiRNAも用いることができる。ここで、1~数塩基とは、特に限定されるものではないが、好ましくは1~4塩基、さらに好ましくは1~3塩基、最も好ましくは1~2塩基である。かかる変異の具体例としては、3’オーバーハング部分の塩基数を0~3個としたもの、3’オーバーハング部分の塩基配列を他の塩基配列に変更したもの、あるいは塩基の挿入、付加または欠失により上記センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖の長さが1~3塩基異なるもの、センス鎖および/またはアンチセンス鎖において塩基が別の塩基にて置換されているもの等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、これらの変異体siRNAにおいてセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイゼーションしうること、ならびにこれらの変異体siRNAが変異を有しないsiRNAと同等の遺伝子発現抑制能を有することが必要である。
【0125】
さらに、siRNAは、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(Short Hairpin RNA;shRNA)であってもよい。shRNAは、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含むRNAであり、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分がハイブリダイズし、二本鎖RNA部分を形成する。
【0126】
本発明のsiRNAを作製するには、化学合成による方法および遺伝子組換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法では、配列情報に基づき、常法により二本鎖RNAを合成することができる。また、遺伝子組換え技術を用いる方法では、センス鎖配列やアンチセンス鎖配列をコードする発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入後、転写により生成されたセンス鎖RNAやアンチセンス鎖RNAをそれぞれ取得することによって作製することもできる。また、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含み、ヘアピン構造を形成するshRNAを発現させることにより、所望の二本鎖RNAを作製することもできる。
【0127】
siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の全体またはその一部は、天然の核酸であってもよいし、修飾された核酸であってもよい。修飾された核酸とは、ヌクレオシド(塩基部位、糖部位)および/またはヌクレオシド間結合部位に修飾が施されていて、天然の核酸と異なった構造を有するものを意味する。
【0128】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物により細胞内移行させる有効成分はアンチセンス核酸であり得る。アンチセンス核酸を利用する方法は、当業者によく知られている技術を使用することで行うことができる。アンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害することができる(平島および井上、 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現、 日本生化学会編、 東京化学同人、 1993, 319-347.)。
【0129】
一つの実施形態としては、標的細胞における遺伝子をコードするmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで細胞に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される細胞が有する遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも12塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば、11塩基以下、100塩基以上、または500塩基以上であってもよい。アンチセンス核酸は、DNAのみから構成されていてもよいが、DNA以外の核酸、例えば、ロックド核酸(LNA)を含んでいてもよい。1つの実施形態としては、本発明で用いられるアンチセンス核酸は、5’末端にLNA、3’末端にLNAを含むLNA含有アンチセンス核酸であってもよい。また、本発明において、アンチセンス核酸を用いる実施形態では、例えば平島および井上、新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現、日本生化学会編,東京化学同人、1993、319-347.に記載される方法を用いて、アンチセンス配列を設計することができる。
【0130】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物により細胞内移行させる有効成分は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAであり得る。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.)。
【0131】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えば、タバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan,JM.,Nature,1986,323,349)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi,Y.&Sasaki,N.,Nucl.Acids Res,1991,19,6751.、菊池洋,化学と生物,1992,30,112.)。
【0132】
(複合体)
別の局面において、本発明は、Glypican-1に結合する物質と細胞傷害性活性などの薬効を有する薬剤との複合体を提供する。実施例において示されるように、Glypican-1は特定の細胞でのみ高発現される。したがって本発明の複合体は、Glypican-1陽性細胞に対して特異的に作用することができる。より具体的には、本発明の複合体は、Glypican-1を細胞表面に高いレベルで発現するGlypican-1陽性細胞を対象としている。したがって、本発明の複合体は、Glypican-1を低いレベルで発現する肺がん由来のLK2細胞株に対しては細胞増殖抑制効果を示さない(
図12)。Glypican-1の高いレベルでの発現とは、QIFIKIT(登録商標)を使用したアッセイにおいて、クローン01a033を使用して約15,000以上の抗Glypican-1抗体結合能を有することを意味する。抗体結合能の測定方法は、実施例5において詳細に記述されている。
【0133】
一部の実施形態では、Glypican-1に結合する物質は、任意の結合態様で傷害性活性を有する薬剤と結合し得る。例えば、Glypican-1に結合する物質は、共有結合的または非共有結合的に傷害性活性を有する薬剤と連結し得る。好ましい実施形態では、Glypican-1に結合する物質は、リンカーを介して細胞傷害性活性を有する薬剤と連結し得るが、この場合において、Glypican-1に結合する物質と細胞傷害性活性を有する薬剤とは作動可能に連結される。したがって、本発明の複合体において使用されるリンカーは、Glypican-1に結合する物質と細胞傷害性活性を有する薬剤とが作動可能に連結されるものであれば任意のリンカーを使用してよい。
【0134】
特定の実施形態では、リンカーは血中では安定だが、細胞内移行後に切断されるのが好ましい。例えば、リンカーは、血中に存在する酵素では分解されないが、細胞内にのみ存在する酵素によって切断される切断サイトを有するように設計され得る。このようなリンカーとしては、例えば、リソソーム内酵素切断配列を有するリンカー(バリン-シトルリン(Val-Citr))のようなものが挙げられる。当業者であれば、周知の方法を使用して適切な酵素切断部位を有する適切なリンカーを設計することができる。
【0135】
さらなる、特定の実施形態では、本発明の複合体で使用されるリンカーはカテプシン切断配列を含み得る。このようなリンカーとしては、例えば、構造(MC-Val-Citr-PAB-薬剤)
【0136】
【0137】
のうち、MC-Val-Citr-PAB-の部分を有する。
【0138】
別の実施形態では、本発明の複合体で使用されるリンカーは、酸不安定性リンカーであってもよい。細胞内移行後のエンドソーム内の酸性pHを利用し、酸性で不安定なpHに応答性のリンカーを使用することができる。このようなリンカーとしては、例えば、ヒドラゾンなどが挙げられる。
【0139】
さらなる別の実施形態では、本発明の複合体で使用されるリンカーは、ジスルフィドリンカーであってもよく、このようなリンカーとしては、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ペンタノエート(SPP)などが挙げられる。
【0140】
本発明の複合体で使用されるリンカーは、非開裂型リンカーであってもよい。非開裂型リンカーとしてはマレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸(MCCリンカー)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
薬剤は、細胞傷害性を有することが知られる任意の薬剤を挙げることができる。そのような例としては、アウリスタチン(モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)など)、メイタンシノイド(DM1、DM4)、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、トポイソメラーゼ阻害剤を挙げることができる。当業者であれば、対象とするがんの薬剤に対する感受性に応じて、複合体で使用される薬剤を適切に選択することが可能である。がんに対する薬剤の感受性は当該分野で周知である。また、特定の薬剤に対する特定のがんの感受性が明らかでなかったとしても、当業者は、例えば実施例2のように、対象とするがんの細胞株を使用して、薬剤のがん細胞株に対する感受性を容易に調べることができる。
【0142】
また、本発明の複合体は、細胞内に移行することによって細胞傷害性活性が発揮され得る。したがって、ある実施形態では、Glypican-1に結合する物質は、標的細胞に対して細胞内移行する活性を有し得る。他の実施形態では、細胞傷害性活性を有する薬剤自体が細胞透過性を有することで、細胞傷害性活性が発揮され得る。
【0143】
一部の実施形態では、本発明の複合体は、Glypican-1陽性細胞において、約0.5nM(5.0×10-10M)以下のIC50を示す。別の実施形態では、本発明の複合体は、Glypican-1陽性細胞において、約0.1nM(1.0×10-10M)以下のIC50を示す。さらに別の実施形態では、本発明の複合体は、Glypican-1陽性細胞において、約0.05nM(5.0×10-11M)以下のIC50を示す。特定の実施形態では、本発明の複合体は、Glypican-1陽性細胞において、約0.03nM(3.0×10-11M)以下のIC50を示す。より具体的な実施形態では、本発明の複合体は、Glypican-1陽性細胞において、約0.02nM(2.0×10-11M)以下のIC50を示す。
【0144】
特定の実施形態では、Glypican-1に結合する物質は、抗体またはその抗原結合フラグメントであってもよい。
【0145】
具体的な実施形態では、Glypican-1に結合する物質は抗体またはその抗原結合フラグメントであり、該抗体のエピトープが、以下:
(a)配列番号2の33~61位、
(b)配列番号2の339~358位および/もしくは388~421位、
(c)配列番号2の430~530位
(d)配列番号2の33~61位、339~358位、および/もしくは388~421位、
(e)配列番号2の339~358位、388~421位、および/もしくは430~530位、または
(f)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および/もしくは430~530位、
であり得る。より好ましくは、該抗体のエピトープは、以下:
(a)配列番号2の33~61位、
(b)配列番号2の339~358位および388~421位、
(c)配列番号2の33~61位、339~358位、および388~42、または
(d)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および430~530位
であるか、これを含み得る。
【0146】
別の具体的な実施形態では、本発明の複合体で使用される抗体は、以下:
(a)それぞれ配列番号53、54および55に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号56、57および58に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a033)、
(b)それぞれ配列番号5、6および7に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号8、9および10に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a002)、
(c)それぞれ配列番号11、12および13に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号14、15および16に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a007)、
(d)それぞれ配列番号17、18および19に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号20、21および22に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a016)、
(e)それぞれ配列番号23、24および25に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号26、27および28に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a017)、
(f)それぞれ配列番号29、30および31に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号32、33および34に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a021)、
(g)それぞれ配列番号35、36および37に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号38、39および40に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a026)、
(h)それぞれ配列番号41、42および43に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号44、45および46に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a009)、
(i)それぞれ配列番号47、48および49に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号50、51および52に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a030)、
(j)それぞれ配列番号59、60および61に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号62、63および64に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a042)、
(k)それぞれ配列番号65、66および67に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号68、69および70に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a002)、
(l)それぞれ配列番号71、72および73に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号74、75および76に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a006)、
(m)それぞれ配列番号77、78および79に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号80、81および82に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a010)、
(n)それぞれ配列番号83、84および85に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号86、87および88に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a014)、
(o)それぞれ配列番号89、90および91に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号92、93および94に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a022)、
(p)それぞれ配列番号95、96および97に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号98、99および100に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a034)、
(q)それぞれ配列番号101、102および103に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号104、105および106に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a035)、
(r)それぞれ配列番号107、108および109に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号110、111および112に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02b006)、
(s)それぞれ配列番号113、114および115に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号116、117および118に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローン4)、ならびに
(t)それぞれ配列番号125、126および127に示される重鎖CDR1、重鎖CDR2および重鎖CDR3、ならびにそれぞれ配列番号128、129および130に示される軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列を含む抗体(クローン18)、ならびに
(u)少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(t)から選択される抗体の変異体からなる群から選択される。
【0147】
好ましい実施形態において、本発明において使用され得る抗体またはその抗原結合断片は、以下のクローン:01a033、01a002、02a010、02a002、clone18、02a014、02b006、01a042、01a017、01a026、01a016、01a030、clone4、または01a009の重鎖CDRおよび軽鎖CDRの配列を有する。これらのクローンは、TE14細胞の他、DU145細胞に対して優れたEC50値を示した。
【0148】
さらなる別の実施形態では、本発明の複合体に称される抗体は、以下:
(a)配列番号158に示される重鎖、および配列番号160に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a033)、
(b)配列番号126に示される重鎖、および配列番号128に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a002)、
(c)配列番号130に示される重鎖、および配列番号132に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a007)、
(d)配列番号134に示される重鎖、および配列番号136に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a016)、
(e)配列番号138に示される重鎖、および配列番号140に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a017)、
(f)配列番号142に示される重鎖、および配列番号144に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a021)、
(g)配列番号146に示される重鎖、および配列番号148に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a026)、
(h)配列番号150に示される重鎖、および配列番号152に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a009)、
(i)配列番号154に示される重鎖、および配列番号156に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a030)、
(j)配列番号162に示される重鎖、および配列番号164に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-01a042)、
(k)配列番号166に示される重鎖、および配列番号168に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a002)、
(l)配列番号170に示される重鎖、および配列番号172に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a006)、
(m)配列番号174に示される重鎖、および配列番号176に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a010)、
(n)配列番号178に示される重鎖、および配列番号180に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a014)、
(o)配列番号182に示される重鎖、および配列番号184に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a022)、
(p)配列番号186に示される重鎖、および配列番号188に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a034)、
(q)配列番号190に示される重鎖、および配列番号192に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02a035)、
(r)配列番号194に示される重鎖、および配列番号196に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローンK090-02b006)、ならびに
(s)配列番号198に示される重鎖、および配列番号200に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローン4)、
(t)配列番号202に示される重鎖、および配列番号204に示される軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体(クローン18)、ならびに
(u)少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含む(a)~(t)から選択される抗体の変異体
からなる群から選択される。
【0149】
好ましい実施形態において、本発明において使用され得る抗体またはその抗原結合断片は、以下のクローン:01a033、01a002、02a010、02a002、clone18、02a014、02b006、01a042、01a017、01a026、01a016、01a030、clone4、または01a009の重鎖および軽鎖の配列を有する。これらのクローンは、TE14細胞の他、DU145細胞に対して優れたEC50値を示した。
【0150】
別の実施形態では、上記抗体の変異体は、元の抗体のアミノ酸配列に対して、少なくとも、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、または約99%同一であるアミノ酸配列を有し得る。上記抗体の変異体は、フレームワークに少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含んでもよい。
【0151】
(治療薬)
別の局面において、本発明は、Glypican-1陽性がんを予防または治療するための組成物を提供する。本発明の組成物は、Glypican-1に結合する物質と細胞傷害性活性を有する薬剤との上記複合体を含む。より具体的には、本発明の組成物は、Glypican-1を細胞表面に高いレベルで発現するGlypican-1陽性細胞を予防または治療の対象としている。Glypican-1の高いレベルでの発現とは、QIFIKIT(登録商標)を使用したアッセイにおいて、クローン01a033を使用して約15,000以上の抗Glypican-1抗体結合能を有することを意味する。抗体結合能の測定方法は、実施例5において詳細に記述されている。
【0152】
一部の実施形態では、Glypican-1に結合する物質は、Glypican-1陽性細胞に対して細胞内移行する活性を有する抗Glypican-1抗体またはその抗原結合フラグメントであり得る。Glypican-1陽性細胞に対して細胞内移行する活性を有する抗Glypican-1抗体またはその抗原結合フラグメントのエピトープは、以下:
(a)配列番号2の33~61位、
(b)配列番号2の339~358位および/もしくは388~421位、
(c)配列番号2の430~530位
(d)配列番号2の33~61位、339~358位、および/もしくは388~421位、
(e)配列番号2の339~358位、388~421位、および/もしくは430~530位、または
(f)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および/もしくは430~530位、
であり得る。より好ましくは、Glypican-1陽性細胞に対して細胞内移行する活性を有する抗Glypican-1抗体またはその抗原結合フラグメントのエピトープは、以下:
(a)配列番号2の33~61位、
(b)配列番号2の339~358位および388~421位、
(c)配列番号2の33~61位、339~358位、および388~42、または
(d)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および430~530位、
であるか、これを含み得る。
【0153】
一部の実施形態では、Glypican-1陽性細胞に対して細胞内移行する活性を有する抗Glypican-1抗体としては、クローンK090-01a002、K090-01a007、K090-01a016、K090-01a017、K090-01a021、K090-01a026、K090-01a009、K090-01a030、K090-01a033、K090-01a042、K090-02a002、K090-02a006、K090-02a010、K090-02a014、K090-02a022、K090-02a034、K090-02a035、K090-02b006、クローン4、およびクローン18、ならびに少なくとも1個の置換、付加もしくは欠失を含むこれらの抗体の変異体が挙げられる。これらの抗体については、上記で詳細に説明されている。
【0154】
一部の実施形態では、Glypican-1陽性がんは、食道がん、すい臓がん、子宮頸がん、肺がん、頭頸部がん、乳がん、子宮平滑筋肉腫、前立腺がんまたはこれらの任意の組合せから選択される。食道がんは、リンパ節転移部位のもの、扁平上皮がんおよび/または腺がんを含んでもよい。
【0155】
(検出薬)
さらなる局面において、抗Glypican-1抗体またはそのフラグメントを含む、食道がんを識別するための検出剤を提供する。本発明者らは、抗Glypican-1抗体の18種の新規クローンを生成し、これらのクローンは細胞内移行(インターナライゼーション)活性を有していることを見出した。このような特性を利用して、標識した抗Glypican-1抗体が細胞内移行した細胞を特異的に検出することで、Glypican-1陽性がん(例えば、食道がん)を特異的に検出することができる。
【0156】
本明細書で開示される新規クローンは、従来の抗体では見られなかった細胞内移行(インターナライゼーション)活性を有していることが見出された。したがって、ある実施形態では、抗Glypican-1抗体が標識され得る。好ましい実施形態では、該標識は、血中では不活性状態であり、Glypican-1陽性の細胞(例えば、食道がん細胞)内に移行した際に活性化され識別可能となり、その結果、高い特異性でGlypican-1陽性の細胞(例えば、食道がん細胞)を検出することができる。
【0157】
特定の実施形態では、標識は、RI(ラジオアイソトープ)、蛍光標識、ビオチン、化学発光標識等を挙げることができる。複数使用する場合は、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。抗体を標識するので、抗体の機能(特に結合能やインターナライズ活性)に影響を与えないものならば何れも用いることができるが、蛍光物質としては、AlexaTM Fluorが望ましい。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555の組み合わせ等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0158】
一部の実施形態では、食道がんはリンパ節転移部位のもの、扁平上皮がんおよび/または腺がんを含み得る。さらなる実施形態では、Glypican-1陽性食道がんを発症していると判断された患者に対して投与され得る。
【0159】
別の局面において、本発明は、対象検体のGlypican-1の発現を食道がんの指標とする方法であって、該方法は:上記検出剤を該対象検体と接触させる工程、該対象検体におけるGlypican-1の発現量を測定する工程、および該対象検体および正常検体におけるGlypican-1の発現量を比較する工程を含む、方法を提供する。
【0160】
本明細書に開示される抗Glypican-1抗体の新規クローンは、特異的に食道がん細胞を検出することができるため、対象が食道がんの治療を必要とするかどうかを判断するための診断剤としても提供され得る。
【0161】
本発明の検出剤、検査剤または診断剤は、検出キット、検査キットまたは診断キットとして利用することができる。
【0162】
(キット)
1つの局面において、本発明によれば、本発明による検出、検査および/または診断のための方法を実施するための検出、検査および/または診断のためのキットが提供される。このキットは、本発明の検出剤、検査剤および/または診断剤を含む。その実施形態としては、本明細書において記載された任意の実施形態を単独または組み合わせ用いることができる。
【0163】
(コンパニオン試薬)
別の局面において、本発明は、本明細書で開示される抗Glypican-1抗体の新規クローンまたは上記検出剤を含む、対象がGlypican-1の抑制剤によるがんの治療を必要とするかどうかを判断するためのコンパニオン試薬であって、該試薬が対象検体と接触させられて、該対象検体におけるGlypican-1の発現量が測定されることを特徴とし、該対象検体Glypican-1の発現量が、正常検体におけるGlypican-1の発現量を超える場合に、該対象がGlypican-1の抑制剤での治療を必要とすることを示す、コンパニオン試薬を提供する。コンパニオン診断薬を用いて事前に食道がんがGlypican-1陽性であるかどうかを検査しておけば、Glypican-1を標的とした食道がん治療の治療有効性を診断することができる。なおこの診断において、Glypican-1陽性の結果がでれば、Glypican-1を標的とした食道がん治療が有効だと判断できる。本発明の一実施形態において「コンパニオン診断」は、薬剤効果や副作用の患者個人差を検査により予測することで、最適な投薬を補助することを目的として実施される診断を含む。
【0164】
さらに別の局面において、本発明は、Glypican-1に結合する物質と細胞傷害性活性を有する薬剤との複合体を含む悪性腫瘍の予防または治療のための組成物であって、該悪性腫瘍を有する被検体はGlypican-1が正常個体よりも高く発現していることを特徴とする、組成物を提供する。一部の実施形態では、Glypican-1が正常個体よりも高く発現しているかどうかは、上記検出剤または診断剤を使用して決定することができる。
【0165】
(シンジェニック非ヒト動物)
さらに別の局面において、本発明は、がん抗原を発現する細胞が移植された非ヒト動物であって、該がん抗原が該非ヒト動物と同系である、非ヒト動物(シンジェニック非ヒト動物)を提供する。このような動物は、移植された細胞から発現される抗原と、正常細胞に発現されるタンパク質が、同じ動物を起源とするタンパク質となるため、抗がん剤の薬効と、正常細胞に対する毒性を等しく評価することができる。
【0166】
いくつかの実施形態では、がん抗原を発現する細胞が、がん細胞由来の細胞株である。特定の実施形態では、がん抗原を発現する細胞は、がん細胞に由来する細胞株である。特定の実施形態では、前記細胞株は、がん抗原が前記非ヒト動物と同系であることを条件に、がん抗原を発現するように改変された細胞株であってもよく、本来がん抗原を発現する細胞株であってもよい。好ましい実施形態では、がん抗原は、Glypican-1である。Glypican-1を発現する細胞を使用することで、Glypican-1陽性がん(例えば、食道がん、すい臓がん、子宮頸がん、肺がん、頭頸部がん、乳がん、子宮平滑筋肉腫、前立腺がん)に対する抗がん剤の薬効および/または毒性を評価することができる。使用され得る細胞株としては、LLC(マウス肺がん細胞株)、4T1(マウス乳がん細胞株)、MH-1(マウス卵巣癌細胞株)、CT26(マウス大腸癌細胞株)、MC38(マウス大腸癌細胞株)、B1610(マウスメラノーマ細胞株)等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、使用され得る細胞株は、LLC細胞株である。
【0167】
いくつかの実施形態では、非ヒト動物は、非ヒト哺乳動物であり、好ましくは、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター等)である。好ましい実施形態では、非ヒト動物はマウス(シンジェニックマウス)である。
【0168】
特定の実施形態では、本発明において、マウスGlypican-1を発現するように改変された細胞株(例えば、LLC細胞株)が使用され得る。好ましい実施形態では、前記非ヒト動物はマウスであり、前記細胞が、マウスGlypican-1を発現するように改変されたLLC細胞株である。
【0169】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0170】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0171】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0172】
以下に実施例を記載する。必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、必要な場合、医薬基盤研究所において規定される基準を遵守し、ヘルシンキ宣言に基づいて行った。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldric、和光純薬、ナカライ、R&DSystems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0173】
(実施例1:抗体生産)
(材料および方法)
ヒトGlypican 1(GPC1)に対するmAbを生成するために、MRLまたはC3Hバックグラウンドを有する4~6週齢のマウスを組み換えヒトGPC1タンパク質(R&D systems)で免疫化した。4~5回の腹腔内免疫化の後、リンパ球を免疫化マウスの脾臓および鼠径リンパ節から回収した。RNA抽出のための試薬(ISOGEN, NIPPN GENE CO., LTD.)を使用して、全RNAをリンパ球から単離した。第一鎖cDNAをSuperScript III Reverse Transcriptase (Thermo Fisher Scientific Inc.)により合成した。得られたcDNAから免疫グロブリンのVHおよびVL遺伝子をPCRで増幅し、pSCCA5-E8dベクター(MBL)に挿入した。PCRプライマーはIMGT(http://www.imgt.org/)に従って設計した。cDNAライブラリーを含むプラスミドDNAをE.coli. (DH12S, Thermo Fisher Scientific Inc.)に形質転換した。独立した形質転換体の数はおよそ1.5x108と推定された。次いで、形質転換体をヘルパーファージM13K07で感染させた。表面に抗体のscFv型を発現するファージが液体培地の培養上清から得られた。得られたファージを公知のパンニング法で選択した(Marks et al., 1991; Suzuki et al., 2007; Kurosawa et al., 2008)。簡潔に述べると、Dynabeads (VERITAS)にコンジュゲートしたヒトGlypican 1タンパク質を、1回目から3回目までのパンニングで抗原として使用した。次いで、GPC1を表面に発現する細胞株TE14を4回目から5回目のパンニングに使用した。選択されたファージを、ヒトGPC1固定化96ウェルプレートを使用したELISAによりスクリーニングし、次いで、ヒトGPC1が安定に形質転換された細胞株を使用したcell-ELISAによりさらにスクリーニングした。最後に、選択されたファージのヒトGPC1に対する反応性を、ヒトGPC1形質転換体およびTE14を使用してフローサイトメトリー(FC500, Beckman Coulter Inc.)で確認した。結果として、18種類のクローンが得られた。
【0174】
完全な免疫グロブリン(IgG)タンパク質を形成するために、得られたクローンのVHおよびVL遺伝子を遺伝的に単一マウスIgG2a発現ベクター(Mammalian PowerExpress System, TOYOBO)に組み込んだ。発現ベクターを酵素反応で直線化し、エレクトロポレーションによりCHO-K1細胞株に形質転換した。培養10日後、得られたクローンのIgG形態の抗体をCHO培養上清から回収し、nProteinA Sepharose 4 Fast Flow (GE healthcare)がパックされたアフィニティカラムで精製した。精製された抗体のヒトGPC1に対する反応性を、ヒトGPC1高度発現細胞株TE14を使用してフローサイトメトリーで再確認した。
【0175】
クローン#4、#17および#18については、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2015/098112号に記載された方法で得られた配列情報に基づいて、上記のとおり抗体を生成した。
【0176】
(実施例2:抗GPC-1抗体とMMAF結合2次抗体を組み合わせたADCアッセイ)
(材料および方法)
(TE14細胞の抗がん剤感受性の確認)
96ウェルプレートに2000個のTE14細胞を90μlで添加した。一晩、37度、5%CO2インキュベーターで培養し、翌日、最終濃度に対して10倍濃縮した抗がん剤を1ウェルあたり10μlずつ添加して合計100μlとした。37度、5%CO2インキュベーターで6日間培養しCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay試薬を用いてATP量を検出することで細胞の生存を測定した。培地は、RPMI1640+10%FBS+1%PSを使用した。抗がん剤は、MMAE(型番474645-27-7、ALB Technology)およびMMAF(型番745017-94-1、ALB Technology)を使用した。
【0177】
(アッセイに使用するADC)
アッセイに使用するADCの概略図を
図1に示す。本実施例では、抗がん剤(MMAF)がリンカーを介して結合した、実施例1で作製した抗GPC1抗体に対する二次抗体(MORADEC)を使用した。
【0178】
本実施例では、以下のクローンのセットを使用した。
【0179】
【0180】
96ウェルプレートに2000個のTE14細胞を80μlで添加した。一晩、37度、5%CO2インキュベーターで培養し、翌日、最終濃度に対して10倍濃縮した一次抗体および抗がん剤結合二次抗体を1ウェルあたり10μlずつ添加して合計100μlとした。37度、5%CO2インキュベーターで6日間培養してCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay試薬を用いてATP量を検出することで細胞の生存を測定した。培地は、RPMI1640+10%FBS+1%PSを使用した。一次抗体の最終濃度は、0、0.004、0.0156、0.0625、0.25および1.0nMとした。二次抗体は、2μg/mlのFab-aMFc-CL-MMAF(型番AM202AF-50、Moradec)を使用した。
【0181】
(結果)
結果を
図2に示す。各抗がん剤のIC
50は、MMAEが0.926nMを示し、MMAFが26.8nMを示した。TE14細胞は抗がん感受性であることを確認された。
【0182】
図3にIC50が0.5nM以下を示すクローンのADCアッセイの結果を示す。理論に束縛されるものではないが、この値はADCとして一定程度の活性を示すものとして評価するための基準として本明細書において採証したものである。クローン01a033によるADCが最も高いADC活性を示した。また、0.5nM以下という高いADCの活性を示すのは、高いインターナライズ活性を有しているためだと考えられる。したがって、インターナライズに重要なエピトープは、
図3に示されるように、(a)配列番号2の33~61位、(b)配列番号2の339~358位および388~421位、(c)配列番号2の33~61位、339~358位、および388~42、および(d)配列番号2の33~61位、339~358位、388~421位、および430~530位であることが示唆される。
【0183】
図4および
図5は、LK2、TE8およびTE14細胞株を使用してADCアッセイを行った結果を示している。Glypican-1の発現が低い肺がん由来細胞株であるLK2では抗GPC-1抗体のADCによる抗腫瘍効果がほとんど示されなかったのに対し、食道がん由来細胞株であるTE8およびTE14では、抗GPC-1抗体のADCによる強力な抗腫瘍効果が発揮された。クローン01a033のADCは、高い特異性を示しつつ、TE8およびTE14に対して特に強力な抗腫瘍効果を発揮した。
【0184】
(実施例3:ADCの作製)
本発明のADCは以下のとおり作製した。
・140mlの1mg/ml BioLegendマウスIgG2aκアイソタイプコントロールMOPC173(Part#92394、lot#B222287)および70mlの2mg/mlマウス抗GPC-1クローン01a033(lot#160316)を取得した。
・最初に、スモールスケールでのコンジュゲートを行った。2mlのαGPC1を約0.8ml(4.4mg/ml)に濃縮し、2mlのMOPC173を約0.4ml(4.4mg/ml)に濃縮した。1つの条件に対して50μlの各mAbを用いて異なる還元条件を設定し、約4の最終薬物-抗体比(DAR)を達成した。mAbを、マレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル-モノメチルアウリスタチンF(MC-vc-PAB-MMAF)とコンジュゲートさせた。コンジュゲートは、最初に37℃でTCEPによりmAbの鎖間ジスルフィド結合を還元し、次いで薬物のマレイミド部分を還元されたシステインに結合させるマレイミド-システインベースの方法で行った。複合体のプロフィールを疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)で分析した。
・次いで、スモールスケールにおいて決定されたラージスケールでのコンジュゲートに最適な条件を使用した。まず、138mlのMOPC173を28ml(4.88ml/ml)ストックに濃縮して、68mlのαGPC1を26.2ml(5.14mg/ml)ストックに濃縮した。mAbを37℃でTCEPにより還元し、次いで、薬物-リンカーMC-vc-PAB-MMAFと反応させた。
・ADCをSephadex G50カラムで脱塩し、未反応の毒素を取り除き、次いで、PBSにバッファーを交換した。その後、ADCをろ過滅菌して滅菌PBSバッファーで1mg/mlに希釈し、1mlチューブに分画した後、4℃で保存した。
・A
248nm:A
280nmの比で決定された薬物-抗体比(DAR)は、MOPC173-CL-MMAFについては3.8、αGPC1-CL-MMAFについては4.1であった。
・サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)および疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)を使用して、コンジュゲートしていないmAbおよび2つのADCを分析した。SECおよびHICによる濃縮前後でのコンジュゲートしていないmAbの分析によれば、mAbを約5mg/mlに濃縮してもmAbの特性は変わらなかった。MOPC173は、単量体で存在しており、αGPC1もほとんど単量体で存在しているようだったが、わずかな凝集ピークが観察された。両方のmAbは、MC-vc-PAB-MMAFとうまくコンジュゲートした。ADCのHICプロフィールは、両行なDAR=2、4、6,8のピークを示し、DARを決定するためのピーク積分法を可能にしている。例示的なADCの構造の概略図を
図6に示す。
【0185】
(実施例4:GPC1 ADCと未標識抗体の抗原親和性解析)
(材料および方法)
(バッファー調製)
本実施例で使用されるバッファーの調製は以下のとおり行った。
・コーティングバッファー:PBS(-)。
・希釈バッファー:希釈溶液は、10%ブロックエース(Block Ace)を用いており、10%ブロックエースはブロックエース粉末4gをMiliQ 100mLに溶解し、PBS(-)にて10倍希釈して調製した。
・ブロッキングバッファー:ブロックエース粉末4gをMiliQ 100mLで溶解した後、PBS(-)で4倍希釈して調製した。ブロックエース粉末4gをMiliQ 100mLにて溶解した溶液を原液(100%溶液)とした。
・洗浄バッファー:PBS-T(Sigma、P3563)1包を超純水1Lに溶解した(0.05% Tween20/PBS)。
【0186】
(1次抗体調製)
本実施例で使用される1次抗体を調製した。GPC1-CL-MMAFおよび抗GPC1モノクローナル抗体(01a033)を希釈バッファーで100、20、4、0.8、0.16、0.032、0.0064、0.00128、0.000256、0.0000512、および0.00001024nMに段階的に希釈した。抗原は、組み換えヒトGlypican-1タンパク質(CF、型番:4519-GP-050、容量:50μg)を使用した。
【0187】
(手法)
組み換えヒトGPC1をPBS(-)で2.5μg/mLに希釈し、50μL/wellでImmuno 96well MicroWell Solid Plate(Maxisorp, Nunc)に64ウェル添加し、プレートにシールをした。プレートを揺らして、液が全体に行き渡ることを確認した。次いで、以下の手順に従った。
・静置(4℃、一晩)
・洗浄(200 μL/well x3)
・ブロッキングバッファーを200μL/wellずつ96wellマイクロプレートに添加
・37度で1時間反応
・洗浄(200μL/well、3回)
・(1)GPC1-CL-MMAFおよび(2)抗GPC1モノクローナル抗体(01a033)を希釈バッファーで100nMから10倍希釈系列で希釈し、100μL/wellで96wellマイクロプレートに添加
・37度で1時間反応
・洗浄(200μL/well、3回)
・Anti-Mouse IgG (H+L) Antibody, Human Serum Adsorbed and Peroxidase labeled(KPL社、cat.No.:474-1806)を希釈バッファー(10% BlockAce)で0.2μg/mlに希釈し(5000倍希釈を用時調製)、100μL/wellずつ96wellマイクロプレートに添加
・37度で1時間反応
・洗浄(200μL/well、3回)
・TMB(SurModics、TMBW-1000-01)を使用前に常温に戻し、100μL/wellずつ96wellマイクロプレートに添加
・撹拌(遮光下、室温)
・1N-硫酸50μL/wellで停止
・450nmで吸光度測定
・GraphPad Prism 6.04でデータ解析。
【0188】
(結果)
結果を
図7に示す。コントロールであるmIgG2aおよびmIgG2a ADCは抗原に対して全く親和性を示さなかったのに対し、01a033および01a033 ADCは高い親和性を示した。また、01a033および01a033 ADCの親和性のレベルは同程度であり、薬物をコンジュゲートさせた場合に抗体自体の結合能を損なわないことが示される。
【0189】
(実施例5:抗体結合能の解析)
QIFIKIT(登録商標)を用いて、各種細胞株の細胞表面に発現しているGlypican-1の、細胞1個当たりの抗原量を抗体結合能(ABC:Antibody Binding Capacity)として数値化した。抗体は抗Glypican-1抗体クローン01a033を用いてQIFIKIT(登録商標)の説明書通りに測定を行った。1×105個の細胞と10μg/mlのクローン01a033とを使用した。
【0190】
(結果)
図8から明らかなように、食道がん細胞株であるTE4、TE5、TE6、TE8、TE9、TE10、TE11、TE14およびTE15細胞の細胞表面上にGPC1が高発現された。ヒト肺扁平上皮がん由来細胞株であるLK2細胞は、低い発現量を示した。また、ヒト膵臓がん細胞株であるBxPC3細胞およびT3M4細胞、ならびに子宮頸がん細胞株であるHeLa細胞およびME180細胞も食道がん細胞株と同程度の発現量を示した。
図9は、各種がん細胞株におけるGPC1とアイソタイプコントロール抗体またはクローン01a033抗体との反応性をFACS解析したデータを示す。LK2細胞では、クローン01a033抗体との反応性が低く、GPC1の発現量が低いことがわかる。
【0191】
(実施例6:GPC1 ADC(01a033)のインターナライゼーションアッセイ)
本実施例では、GPC1 ADC(01a033)MMAFについて、種々のGPC1陽性細胞株を用いてインターナライズ(細胞内移行)活性を調べた。
【0192】
(材料および方法)
GPC1 ADC(01a033)MMAFで処理した細胞に対してanti-GPC1 mAb(ビオチン標識02b006)とPE標識ストレプトアビジンで検出した。
【0193】
TE8、HeLa、ME180、BxPC3およびT3M4細胞株を10cmプレート1枚から0.02% EDTAを用いてはがし、回収した。細胞をRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンに懸濁し、1.5mlチューブに、1.0x106細胞/0.9mlとして2本作成した。インターナライゼーション活性を下げるため、氷上で1時間静置した。1mg/mlのGPC1 ADC(01a033)MMAFを氷冷RPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンで24μg/ml(160nM)に希釈した。細胞懸濁液に上記ADCを100μl加え懸濁し、氷上で30分間静置し、細胞表面の抗原を染色した。30分後に、細胞懸濁液を100μlずつ7本ずつに分注した。細胞懸濁液は4度インキュベート群と、37度インキュベート群に分け14本とした。インキュベート時間は0h、1h、2h、3h、4h、6h、12h、24hとした。インキュベート時間に達した後、細胞を1500rpm、4度で5分間遠心上清除いた。100μlの氷冷PBS+0.2%BSAで洗浄し、遠心を行い細胞を洗浄した。洗浄操作を合計3回行った。1μg/mlの濃度のビオチン標識抗GPC1抗体02b006を50μL加え、懸濁した。氷上で30分間、細胞表面の抗原を染色した(インターナライズされなかったGPC1が染まる)。インキュベート時間に達した後、細胞を1500rpm、4度で5分間遠心上清除いた。100μlの氷冷PBS+0.2%BSAで洗浄し、遠心を行い細胞を洗浄した。洗浄操作を合計3回行った。Streptavidin-PE(PharMingen、#554061)を氷冷PBS+0.2%BSAで200倍希釈し、細胞に50μL加え、懸濁した。氷上で30分間、遮光下で反応させた。インキュベート時間に達した後、細胞を1500rpm、4度で5分間遠心上清除いた。100μlの氷冷PBS+0.2%BSAで洗浄し、遠心を行い細胞を洗浄した。洗浄操作を合計3回行った。氷冷PBS+0.2%BSAを150μL加え、FACS CantoIIで測定し、FlowJo ver8.87で解析した。
【0194】
(結果)
結果を
図10および
図11に示す。
図10は、クローン01a033ADCを添加後の時間経過ごとのTE8細胞表面に残存しているGlypican-1の量をヒストグラム表示している。青線は01a033ADC非存在下で、クローン02b006による染色結果で、この状態が最大の反応性(100%のGlypican-1が細胞表面に残存している)を示すこととなる。4℃での処理は細胞の生理機能を停止させているため、エンドサイトーシスが抑制されており、インターナライズは起きない条件にたいして、37℃はインターナライズに最も適した温度である。抗体を添加して37℃でインキュベート時間が経過すると共に、細胞表面上のGlypican-1が低下することがオレンジ色からわかる。一方、4℃では、緑色で示すように、Glypican-1の細胞表面残存量の変化が起きにくかった。
図11では、細胞表面の残存Glypican-1の割合を100%から引いた値をインターナライズ%としている。
図11に示されるように、本発明の抗Glypican-1抗体は、食道がん、膵臓がんおよび子宮頸がん由来の細胞株を含む種々の細胞株に対して高いインターナライズ活性を有していることが明らかになった。
【0195】
(実施例7:抗GPC1抗体を用いたin vitro ADCアッセイ)
(材料および方法)
マウス抗ヒトGlypican-1 mAb(01a033)およびコントロールとして、マウスIgG2a(biolegend #400224)とmc-vc-PAB-MMAFとのコンジュゲートは、MORADEC社に依頼した。システイン残基に抗がん剤を切断リンカーを介してコンジュゲートした。DAR(薬物対抗体比)は以下のとおりであった:GPC1-CL-MMAF DAR=3.8、マウスIgG2a-CL-MMAF DAR=4.1。
【0196】
具体的には、以下のとおりアッセイを行った。
(1)細胞をThermo Fisher Scientific社の96ウェルホワイトプレート(型番136101)にまいた(細胞懸濁液90μL)。培地はRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを使用した。細胞を60ウェルにまき、培地100μLを36ウェルに添加した。37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
(2)翌日、細胞にADC10μLを加えた(総量100μL)
(3)144時間培養後、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescence Cell Viability Assay試薬(Promega社)を100μL/ウェル加え混合した。
(4)プレートリーダーで測定した。
(5)GraphPad Prism6で解析した。
【0197】
IC50値は以下の式から計算した(Hossain MM, Hosono-Fukao T, Tang R, Sugaya N, van Kuppevelt TH, Jenniskens GJ, Kimata K, Rosen SD, Uchimura K (2010) Direct detection of HSulf-1 and HSulf-2 activities on extracellular heparan sulphate and their inhibition by PI-88. Glycobiology 20(2): 175-186.)。
IC50=10^(Log[A][B]×(50-C)/(D-C)+Log[B])
A:50%を挟む高い濃度
B:50%を挟む低い濃度
C:Bでの阻害率
D:Aでの阻害率。
【0198】
(結果)
各細胞株に対する抗腫瘍効果の結果を
図12および
図13に示す。示される通り、GPC1 ADCはGPC1陽性食道がん細胞株に対し細胞増殖抑制効果を示す。興味深いことに、GPC1をほとんど発現しないLK2細胞(ヒト肺扁平上皮がん由来細胞株)に対しては、抗腫瘍効果をほとんど示さなかった(
図12)。これは、GPC1 ADCが、GPC1陽性細胞に対して特異的に抗腫瘍効果を発揮することを示している。驚くべきことに、GPC1 ADCが、膵がん由来細胞株であるBxPC3細胞およびT3M4細胞ならびに子宮頸がん由来細胞株であるHeLa細胞およびME180細胞に対しても細胞増殖抑制効果を示すことが明らかになった(
図13)。以上のことから、本発明のADCは、食道がんと同様にGPC1を高発現するGPC1陽性がん(例えば、膵がん、子宮頸がんなど)にも同等の細胞増殖抑制効果を発揮することを示している。他方で、本発明のADCは、GPC1を低レベルで発現するLK2細胞株に対しては細胞増殖抑制効果を示さなかった。
図14は、
図12および
図13から得られた結果から導き出されたIC
50をまとめた表である。
【0199】
(実施例8:GPC1 ADCの安全性試験)
(材料および方法)
雄性および雌性C57BL/6Jマウス(8W)各4匹の群に対して、コントロールとしてPBS、コントロールADC(50mg/kg)、抗GPC1 ADC(3mg/kg)、抗GPC1 ADC(15mg/kg)、および抗GPC1 ADC(50mg/kg)を腹腔内に1日目に単回投与(1ml)した。投与7日後のマウスを解剖した。
【0200】
検査項目
・採血(血算、生化学)
(結果)
結果を
図15に示す。50mg/kgのADCのように極端に多い投与量で投与されたマウス群以外は、著しく体重が変化することはなかった。以下の実施例で詳述するように、本願発明のGPC1 ADCを1mg/kgで投与した場合でも、十分な抗腫瘍効果を示していることから、通常の投与量の範囲内であれば、毒性を示すことなく抗腫瘍効果を達成することが理解できる。
図16に血液学的検査の結果を示す。高用量投与群では白血球の増多が認められたが、GPC1-ADC特異的ではなかった。50mg/kgのADC投与群のみ軽度の貧血が認められた。血小板数は各群に特異的な異常は認めなかった。
図17に血液生化学的検査の結果を示す。肝機能は高用量投与群で異常を認めたが、GPC1-ADC特異的ではなかった。アミラーゼには特異的な異常を認めなかった。血液学的検査の結果から、ADC投与により顕著な毒性は観察されなかった。
【0201】
(実施例9:膵臓がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験)
本実施例における試験の概要を
図18に示す。具体的には、SCID雌性マウスにBxPC3細胞株を5.0×10
6個皮下移植し、移植後腫瘍サイズが約130mm
3となったところで、コントロールとしてPBS、コントロールADC(10mg/kg)、抗GPC1 ADC(1mg/kg)、抗GPC1 ADC(3mg/kg)、および抗GPC1 ADC(10mg/kg)の投与を開始した。投与を開始した日を0日目として、0日目、4日目、8日目および12日目に静脈内投与した。腫瘍体積および体重を0日目、4日目、8日目、12日目、16日目、20日目、24日目、28日目、32日目および36日目に計測した。
【0202】
BxPC3の皮下腫瘍形成後に、(1)PBS、(2)コントロールADC 10mg/kg、(3)GPC1-ADC 1mg/kg、3mg/kgおよび10mg/kgを1回尾静脈内投与し、24時間後に腫瘍を摘出した。パラフィン包埋組織の薄切を脱パラフィン後、アルコールによる脱水を行った。Phospho-Histon H3(Ser10)に対する免疫組織化学染色法を抗Phospho-Histon H3(Ser10)抗体(Cell Signaling Technology:#9701)とChemMate Envision kit HRP 500T(Dako社:K5007)を用いて行った。
【0203】
(結果)
結果を
図19~21に示す。膵がんの細胞株であるBxPC3細胞株を移植したマウスにおいて、PBS投与群およびコントロールADC投与群では、抗腫瘍効果を示さなかったのに対し、抗GPC1 ADCを投与したすべて群で顕著に優れた抗腫瘍効果を示した(
図19および
図20)。驚くべきことに、3mg/kgおよび10mg/kgで抗GPC1 ADCを投与した群では、腫瘍の成長を抑制するだけにとどまらず、顕著に腫瘍体積が減少した(
図19)。以上のことから、本願発明のADCは、極めて優れた抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。また、抗GPC1 ADC投与群において、試験したどの投与量を用いても著しい体重の変化は観察されず、抗GPC1 ADC投与による毒性も少ないと考えられる(
図21)。
【0204】
また、
図22に示されるように、GPC1 ADCを投与すると、膵臓がん細胞株移植モデルの腫瘍組織においてG2/M期停止が引き起こされた。これは、本発明のGPC1 ADCが膵臓がん胞内に取り込まれた後にリンカー部分が切断されてMMAFが細胞質内に遊離し、チューブリンの重合阻害を介して細胞周期がG2/M期にて停止することで膵臓癌の細胞分裂が抑制されていることを示している。
図22の結果から、本発明のGPC1 ADCは、腫瘍組織における細胞の増殖を抑制または停止させることができることが示された。
【0205】
(実施例10:膵臓がんPDXを用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験)
膵臓がんPDX(Patient-derived tumor xenograft)」は、膵臓がん患者由来の膵臓がん手術時のがん組織の病理解析の残余組織をいう。本実施例では、NOGマウスなど超免疫不全マウスの皮下に移植して作成した膵臓がんモデルを使用した。SCIDマウスではヒト腫瘍を移植しても生着しにくいが、NOGマウスはSCIDマウスよりも更に重度な免疫不全マウスのため、ヒト腫瘍が生着しやすい。そのため、細胞株を移植したマウスモデルよりも、PDXモデルはヒトの腫瘍に近い環境があるため、PDXモデルで得られた情報は薬効評価に役立つ。
【0206】
(膵臓がんPDXのGPC1発現の確認)
パラフィン包埋組織の薄切を脱パラフィン後、アルコールによる脱水を行った。GPC1に対する免疫組織化学染色法は抗GPC1抗体(Atlas Antibodies社:HPA030571)とChemMate Envision kit HRP 500T(Dako社:K5007)を用いて行った。
【0207】
本実施例における試験の概要を
図24に示す。具体的には、6週齢のNOG雌性マウスに膵臓がんPDXを皮下移植し、移植後腫瘍サイズが約130mm
3となったところで、コントロールとしてPBS、コントロールADC(10mg/kg)、抗GPC1 ADC(1mg/kg)、抗GPC1 ADC(3mg/kg)、および抗GPC1 ADC(10mg/kg)の投与を開始した。投与を開始した日を0日目として、0日目、4日目、8日目および12日目に静脈内投与した。腫瘍体積および体重を0日目、4日目、8日目、12日目、16日目、20日目、24日目および28日目に計測した。
【0208】
(結果)
本実施例で使用した膵臓がんPDXの腫瘍組織でのGPC1の発現は、BxPC3移植モデルでの腫瘍組織と近い発現量を示した(
図23)。抗GPC1 ADCによる膵臓がんPDXの抗腫瘍効果の結果を
図25および
図26に示す。抗GPC1 ADCは膵がんPDXを使用したモデルにおいてもin vivoで抗腫瘍効果を示したが、膵臓がんPDXの方がBxPC3移植モデルよりもわずかに薬効が低かった。膵がんPDXではADCの薬剤であるMMAFそのものの感受性がBxPC3より弱かったことが考えられる。MMAF以外の薬剤を使用した場合、薬効がさらに高まることが示唆される。また、抗GPC1 ADC投与群において、抗GPC1 ADC(10mg/kg)を投与した群において、16日目にかけて体重がわずかに減少したが、その後体重が測定開始時までに回復し、体重変化に対する抗GPC1 ADCの影響は可逆的であることが示された。したがって、抗GPC1 ADC投与による毒性も少ないと考えられる(
図27)。
【0209】
(実施例11:子宮頸がん細胞株を用いたGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験)
本実施例における試験の概要を
図28に示す。具体的には、SCID雌性マウスにME180細胞株を1.0×10
6個皮下移植し、移植後腫瘍サイズが約120mm
3となったところで、コントロールとしてPBS、コントロールADC(10mg/kg)、抗GPC1 ADC(1mg/kg)、抗GPC1 ADC(3mg/kg)、および抗GPC1 ADC(10mg/kg)の投与を開始した。投与を開始した日を0日目として、0日目、4日目、8日目および12日目に静脈内投与した。腫瘍体積および体重を0日目、4日目、8日目、12日目、16日目、20日目、24日目、28日目および32日目に計測した。
【0210】
また、ME180の皮下腫瘍形成後に、(1)PBS、(2)コントロールADC10mg/kg、(3)GPC1-ADC10mg/kgを1回尾静脈内投与し、24時間後に腫瘍を摘出した。パラフィン包埋組織の薄切を脱パラフィン後、アルコールによる脱水を行った。Phospho-Histon H3(Ser10)に対する免疫組織化学染色法を抗Phospho-Histon H3(Ser10)抗体(Cell Signaling Technology:#9701)とChemMate Envision kit HRP 500T(Dako社:K5007)を用いて行った。
【0211】
(結果)
結果を
図29~31に示す。子宮頸がんの細胞株であるME180細胞株を移植したマウスにおいて、PBS投与群およびコントロールADC投与群では、抗腫瘍効果を示さなかったのに対し、1mg/kgおよび3mg/kgで抗GPC1 ADCを投与した群でわずかに抗腫瘍効果を示し、10mg/kgで抗GPC1 ADCを投与した群では、顕著な抗腫瘍効果を示した(
図29および
図30)。驚くべきことに、10mg/kgで抗GPC1 ADCを投与した群では、腫瘍の成長を抑制するだけにとどまらず、顕著に腫瘍体積が減少した(
図29)。以上のことから、本願発明のADCは、極めて優れた抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。また、抗GPC1 ADC投与群において、試験したどの投与量を用いても著しい体重の変化は観察されず、抗GPC1 ADC投与による毒性も少ないと考えられる(
図31)。
【0212】
また、
図32に示されるように、GPC1 ADCを投与すると、子宮頸がん細胞株移植モデルの腫瘍組織においてG2/M期停止が引き起こされた。これは、本発明のGPC1 ADCが膵臓がん胞内に取り込まれた後にリンカー部分が切断されてMMAFが細胞質内に遊離し、チューブリンの重合阻害を介して細胞周期がG2/M期にて停止することで子宮頸がんの細胞分裂が抑制されていることを示している。
図32の結果から、本発明のGPC1 ADCは、腫瘍組織における細胞の増殖を抑制または停止させることができることが示された。
【0213】
(実施例12:未標識抗体の抗腫瘍効果の確認)
本実施例では、未標識抗体(細胞傷害性活性を有する薬剤をコンジュゲートさせていない抗体)の抗腫瘍効果を確認した。
【0214】
(材料および方法)
96ウェルプレートに2000個の細胞を90μlで添加した。一晩、37度、5%CO2インキュベーターで培養し、翌日、最終濃度に対して10倍濃縮した未標識一次抗体を1ウェルあたり10μlずつ添加して合計100μlとした。37度、5%CO2インキュベーターで6日間培養しCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay試薬を用いてATP量を検出することで細胞の生存を測定した。
【0215】
(結果)
結果を
図33~43に結果を示す。いずれの細胞株に対しても01a033未標識抗体によるin vitroでの抗腫瘍効果は認められず、抗体を高濃度にしても同様に抗腫瘍効果は認められなかった。したがって、01a033抗体自体には抗腫瘍効果はなく、ADCとすることによって初めて抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。
【0216】
(実施例13:GPC1陽性細胞株に対する未標識抗GPC1抗体のin vivo抗腫瘍効果)
図44に本実施例における試験の概要を示す。具体的には、SCID雌性マウス(6週齢、n=9)にTE14細胞株を2.0×10
6個皮下移植し、移植後およそ10から14日目に腫瘍サイズが約100mm
3となったところで、コントロールとしてマウスIgG2a(sigma、M7769)、および抗GPC1抗体01a033それぞれ10mg/kgの投与を開始した。投与を開始した日を0日目として、0日目、3日目、7日目、10日目、14日目および17日目に抗体を腹腔内投与した。腫瘍体積を0日目、3日目、7日目、10日目、14日目、17日目、21日目および24日目、28日目、31日目に計測した。
【0217】
(結果)
結果を
図45に示す。示されるように、細胞傷害性活性を有する薬剤がコンジュゲートされていない未標識の抗GPC1抗体01a033は、コントロールIgGとほぼ同程度の腫瘍成長を示し、抗腫瘍効果は示さないことが明らかになった。この結果は、抗GPC1抗体01a033は、ADCC活性を有していないことを示すものである。実施例5において、抗GPC1抗体01a033は高いインターナライズ活性を有していることが示されたが、抗GPC1抗体01a033がADCC活性を示さないのは、インターナライズ活性が高いことに起因している可能性がある。
【0218】
(実施例14:マウスを用いた抗GPC1抗体01a033の安全性試験)
雄性および雌性C57BL/6Jマウス(8w)各4匹の群に対して、コントロールとしてマウスIgG2a(Sigma、M7769)または抗GPC1抗体01a033をそれぞれ1mg/body腹腔内投与し、7日目に以下の項目を評価した。
【0219】
採血項目:
WBC、RBC、Hb、Plt、T-Bil、ALT、ALP、Amy、BUN、Cr、Ca、P、TP、Alb、Na、K、Glob、Glu自動血球計測装置:VetScan HMII動物用生化学血液分析器:VetScanVS2
(結果)
結果を
図46~49に示す。ADCに使用したクローン01a033の未標識抗体そのものをマウスに投与しても毒性は見られなかった。
【0220】
(実施例15:DU145細胞における抗GPC-1抗体とMMAF結合2次抗体を組み合わせたADCアッセイ)
【0221】
(材料および方法)
96ウェルプレートに2000個のDU145細胞を80μlで添加した。一晩、37度、5%CO2インキュベーターで培養し、翌日、最終濃度に対して10倍濃縮した一次抗体および抗がん剤結合二次抗体(2μg/ml)を1ウェルあたり10μlずつ添加して合計100μlとした。37度、5%CO2インキュベーターで3日間培養してCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay試薬を用いてATP量を検出することで細胞の生存を測定した。培地は、RPMI1640+10%FBS+1%PSを使用した。一次抗体の最終濃度は、0、0.004、0.0156、0.0625、0.25、1.0および4.0nMとした。二次抗体は、2μg/mlのFab-aMFc-CL-MMAF(型番AM202AF-50、Moradec)を使用した。EC50値はGraphPad Prism6で解析した。対照として、4000個のMDA-MB231細胞を使用して、同様の実験を行った。
【0222】
(結果)
結果を
図50に示す。クローン01a033、01a002および02a010は、前立腺がん細胞株であるDU145細胞に対して、高い薬効、すなわち、高い増殖抑制効果を示した。対照として使用したMDA-MB231に対しては、いずれのクローンも増殖抑制効果は示さなかった。驚くべきことに、いずれのクローンを使用した場合でも、国際公開第2016/168885号に記載される抗体薬物複合体(MIL-38、EC
50:0.8572nM)よりも高いEC
50の値を示した(
図50)。特に、クローン01a033は、MIL-38と比べて37倍活性が高かった。いずれのクローンも高い濃度では、わずかな作用減弱が観察された。理論に束縛されることを望まないが、高濃度(4.0nM)における作用減弱は、過剰な1次抗体が抗癌剤コンジュゲート2次抗体と競合反応を起こすことで引き起こしたと推定される。本実施例の結果は、本願発明の抗体薬物複合体が、既存の抗体薬物複合体(例えば、MIL-38)よりも優れたDU145細胞に対する増殖抑制効果を示す。
【0223】
クローン01a033、01a002および02a010以外のクローンについても、同様の試験を行い、DU145細胞に対するEC
50の値を算出した(
図51~
図53)。比較として、国際公開第2016/168885号に記載される抗体薬物複合体(MIL-38)のDU145細胞に対するEC
50値を使用した。クローン02a034、02a022、01a021、02a006、02a035および01a007以外の全てのクローンにおいて、MIL-38よりも優れたEC
50値を示した。これらのクローンは、TE14に対しても0.5nM以下という優れたIC
50値を示されており、異なる細胞株に対しても有効であることが示された。
【0224】
(実施例16:マウスGPC1(mGPC1)発現LLC(マウス肺癌細胞株)の樹立および抗GPC1抗体を用いたin vitro ADCアッセイ)
【0225】
(材料および方法)
LLC細胞株(マウス肺癌細胞株)に、mGPC1発現ベクター(pcDNA3.1-mGPC1)およびコントロールベクター(pcDNA3.1V5/His)をLipofectamine(登録商標)2000を用いてトランスフェクションした。培地にG418を添加することで遺伝子導入された細胞をセレクションし、形成されたコロニーをピックアップした。mGPC1の発現は抗GPC1抗体クローン01a033を用いて、FACSにて解析した。mGPC1安定発現株として、LLC-mGPC1-16細胞、コントロールとしてLLC-control-7を樹立した。
【0226】
マウス抗ヒトGlypican-1 mAb(01a033)およびコントロールとして、マウスIgG2a(biolegend #400224)と、mc-vc-PAB-MMAFとのコンジュゲートを、MORADEC社に依頼した。システイン残基に抗がん剤を切断リンカーを介してコンジュゲートした。DAR(薬物対抗体比)は以下のとおりであった:GPC1-CL-MMAF DAR=3.8、マウスIgG2a-CL-MMAF DAR=4.1。
【0227】
具体的には、以下のとおりアッセイを行った。
(1)mGPC1を発現しないLLC-control-7およびLLC-mGPC1-16細胞を1000個ずつThermo Fisher Scientific社の96ウェルホワイトプレート(型番136101)にまいた(細胞懸濁液90μL)。培地はRPMI1640+10%FBS+100U/mlペニシリン+100μg/mlストレプトマイシンを使用した。細胞を60ウェルにまき、培地100μLを36ウェルに添加した。37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
(2)翌日、細胞にADC10μLを加えた(総量100μL)
(3)72時間培養後、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescence Cell Viability Assay試薬(Promega社)を100μL/ウェル加え混合した。
(4)プレートリーダーで測定した。
(5)GraphPad Prism6で解析した。
【0228】
IC50値は以下の式から計算した(Hossain MM, Hosono-Fukao T, Tang R, Sugaya N, van Kuppevelt TH, Jenniskens GJ, Kimata K, Rosen SD, Uchimura K (2010) Direct detection of HSulf-1 and HSulf-2 activities on extracellular heparan sulphate and their inhibition by PI-88. Glycobiology 20(2): 175-186.)。
IC50=10^(Log[A][B]×(50-C)/(D-C)+Log[B])
A:50%を挟む高い濃度
B:50%を挟む低い濃度
C:Bでの阻害率
D:Aでの阻害率。
【0229】
(結果)
結果を
図54に示す。クローン01a033は、マウスGPC-1を発現させていないLLC-control-7に対して、低い増殖抑制効果を示す一方で、マウスGPC-1を発現させたLLC-mGPC1-16に対しては、LLC-control-7と比べて17倍も高い増殖抑制効果を示した。マウスGPC1を安定に発現する細胞株を樹立できたことが確認された。
【0230】
(実施例17:mGPC1発現LLC細胞株を用いたマウスシンジェニックモデルでのGPC1 ADCのin vivoでの薬効試験)
実施例16で樹立したマウスGPC1を発現する細胞株を、マウスに移植することで、正常細胞で発現されるGPC1と癌細胞から発現されるGPC1とが統一された(すなわち、いずれもマウスGPC1)マウスモデル(シンジェニックマウス)を作製することができ、このようなモデルマウスでの実験では、有効性および安全性をより正確に評価することができる。
【0231】
(材料および方法)
本実施例における試験の概要を
図55に示す。具体的には、C57BL/6雌性マウスにLLC-mGPC1-16を5.0×10
6個皮下移植し、移植後腫瘍サイズが約70mm
3となったところで、コントロールとしてPBS、コントロールADC(10mg/kg)、抗GPC1 ADC(1mg/kg)、抗GPC1 ADC(3mg/kg)、および抗GPC1 ADC(10mg/kg)の投与を開始した。投与を開始した日を0日目として、0日目、4日目、8日目および12日目に静脈内投与した。腫瘍体積および体重を0日目、4日目、8日目、12日目、16日目、20日目および24日目に計測した。
【0232】
(結果)
結果を
図56および57に示す。抗GPC1 ADC(1mg/kg)を投与した群では、腫瘍成長をコントロール群と比べて顕著に遅らせることができた。抗GPC1 ADC(3mg/kg)および抗GPC1 ADC(10mg/kg)を投与した群では、ほとんど腫瘍成長が生じなかった。このように、クローン01a033は、マウスGPC-1を発現する腫瘍に対しても高い抗腫瘍効果をもたらした。
【0233】
図58は、シンジェニックマウスにおける体重の変化の結果を示す。高濃度の抗GPC1 ADC(10mg/kg)を投与した群では、一過性の体重減少が観察されたが、投与開始15日以降は、回復傾向にあり、大きな毒性は観察されなかった。
【0234】
(実施例18:検出、診断およびコンパニオンの応用例)
(1)がんの検出・診断
抗Glypican-1抗体をラジオアイソトープ(RI)などで標識して、標識された抗Glypican-1抗体を患者に投与することでがん部位における集積を確認することでがんを検出することができ、また、がんの早期診断、転移部位の判断、抗がん剤治療効果判定を行うことができる。本願発明の抗Glypican-1抗体は、Glypican-1を発現している細胞に対して高いインターナライズ活性を示すため、Glypican-1陽性がん細胞を特異的に検出・診断することが可能である。
【0235】
(2)コンパニオン試薬
新たなクローンを用いてサンドイッチELISAを構築し、がん患者血清中Glypican-1を定量する事でGlypican-1を標的とする抗体医薬品のコンパニオン診断薬とする。
【0236】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0237】
本願は、日本国特願2017-90054号(2017年4月28日出願)に対して優先権主張をするものであり、当該出願の明細書の内容は本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。