(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043357
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】リポソーム組成物および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20220308BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220308BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20220308BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220308BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20220308BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A61K9/127
A61P35/00
A61K31/4745
A61K31/704
A61K31/404
A61K47/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005193
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2020113828の分割
【原出願日】2018-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2017069836
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】笠置 典之
(72)【発明者】
【氏名】山田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森 幹永
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴之
(57)【要約】
【課題】高いAUCを示すリポソーム組成物および医薬組成物を提供することである。
【解決手段】本発明によれば、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であって、上記リポソーム組成物は薬物を内包し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である、リポソーム組成物、並びに上記リポソーム組成物を含む医薬組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(d)工程を含む、リポソーム組成物の製造方法。
(a)リポソームを構成する成分と、水溶性有機溶媒とを混合することで得られる、油相の調製工程;
(b)水相を調製する工程;
(c)(a)工程で得られた油相と、(b)工程で得られた水相とを乳化する工程;
(d)リモートローディング法によって薬物をリポソームに内包する工程:
ここで、リポソームを構成する成分が、ジヒドロスフィンゴミエリンを含み、水溶性有機溶媒が、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールおよびt-ブタノールから選択される少なくとも1種である。
【請求項2】
水溶性有機溶媒が、エタノールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
(c)乳化が、O/W型(水中油型)の乳化である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
(d)リモートローディング法が、硫酸アンモニウムを用いた方法である、請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
薬物が、トポテカンまたはその塩、ドキソルビシンまたはその塩、イリノテカンまたはその塩、スニチニブまたはその塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
(c)工程が、周速5m/s~32m/sで高せん断をかけ、水溶性有機溶媒を含んだまま微粒子化する工程である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い血中滞留性を示すリポソーム組成物および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソーム組成物によって、薬物を、がんなどの疾患部位に集積させ、長期間に渡って曝露させることが多く検討されている。医薬組成物としてのリポソーム組成物においては、脂質膜からなるリポソーム中に薬物が内包されている。
【0003】
特許文献1および非特許文献1には、スフィンゴミエリンとコレステロールを含むリポソームに、トポテカンを内包させたリポソームが記載されている。
特許文献2には、ジヒドロスフィンゴミエリンとコレステロールを含むリポソームに、トポテカンを内包させたリポソームが記載されている。
【0004】
特許文献3には、カンプトテシンの安定性を高めるように適合されたリポソームカンプトテシン製剤であって、(a)リポソームに封入されたカンプトテシン、(b)リポソームの外部にあり、pH4.5未満または4.5である第一の溶液、および(c)リポソーム内部にある第2の溶液を含む製剤が記載されている。また、リポソームがジヒドロスフィンゴミエリンおよびコレステロールを含むことが記載されている。
【0005】
特許文献4には、両親媒性薬剤をリポソームに有効に充填するシステムであって、アンモニウム化合物またはアンモニウム塩の存在下でリポソーム懸濁液を調整し、上記懸濁液を緩衝剤または塩で希釈して、内部水性相と外部水性相との間に、内側から外側に向かうアンモニウム勾配と、リポソームの内側のpHが外側のpHより酸性側であるようなpH勾配とを与えることを包含する、システムが記載されている。
【0006】
特許文献5には、精製水素添加大豆リン脂質またはスフィンゴミエリン、コレステロールおよび親水性ポリマー誘導体脂質を含むリポソームに、硫酸アンモニウムの存在下でトポテカンを内包させたリポソームが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7,060,828B2号公報
【特許文献2】米国特許第7,811,602B2号公報
【特許文献3】特表2008-519045号公報
【特許文献4】特開平2-196713号公報
【特許文献5】米国特許第6,355,268B2号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】AACR-EORTC International Conference, San Francisco, California, October 22-26, 2007, #C113 A Pharmacokinetics Study of a Novel Sphingomyelin/Cholesterol Liposomal Topotecan and Non-Liposomal Topotecan in Rats, William C.Zamboni et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した特許文献1、2および3並びに非特許文献1には、トポテカンを、スフィンゴミエリンまたはジヒドロスフィンゴミエリンを含むリポソームに内包することにより、血中でのトポテカンの流出を抑制し、AUC(Area Under the blood concentration-time Curve:血中濃度-時間曲線下面積)を向上させることにより薬効の向上を図ることが記載されている。しかし、リポソームを構成する脂質組成、およびトポテカンを沈殿させる塩の組成の最適化がなされていないため、AUCの向上は十分なものではなく、更なる改善が求められている。
【0010】
また、トポテカンが、リポソームの内水相から外水相に漏れ、中性条件に曝されると、トポテカンは類縁体へ変化する。具体的には、極めて溶解度の低いN-N bis付加物(トポテカンアミン二量体)などが結晶として析出し沈殿することがある。最終的には、米国のFood and Drug Administration (FDA)、日本のPharmaceutical and Medical Device Agency (PMDA)、およびEuropean Medicines Agency (EMEA)が規定する安全基準および品質基準を逸脱する多くの不溶性微粒子が生成して好ましくない。このような不溶性微粒子の生成を抑制するために、特許文献3においては、外水相のpHを酸性条件にしている。しかし、外水相が酸性条件では、リポソームを構成する脂質の分解が促進し、リポソームの安定化のためには不利であった。特許文献3のリポソームにおいては、外水相を酸性にすることが必要であることから、酸性で加水分解するメトキシポリエチレングリコールで修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンを血中滞留性の向上のために添加することは困難である。
【0011】
本発明は、高いAUCを示すリポソーム組成物および医薬組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を使用し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上とすることによって、上記の課題を解決したリポソーム組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記を提供する。
[1]
リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であって、上記リポソーム組成物は薬物を内包し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である、リポソーム組成物。
[2]
薬物がトポテカンまたはその塩、ドキソルビシンまたはその塩、イリノテカンまたはその塩、スニチニブまたはその塩である、[1]に記載のリポソーム組成物。
[3]
全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.6以上1.8以下である、[1]または[2]に記載のリポソーム組成物。
[4]
親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンが、ポリエチレングリコールまたはメトキシポリエチレングリコールで修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンである、[1]から[3]の何れかに記載のリポソーム組成物。
[5]
リポソーム膜の構成成分における親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンの比率が2~10モル%である、[1]から[4]の何れかに記載のリポソーム組成物。
[6]
リポソーム膜の構成成分におけるコレステロール類の比率が35~43モル%である、[1]から5の何れかに記載のリポソーム組成物。
[7]
粒子径が150nm以下である、[1]から[6]の何れかに記載のリポソーム組成物。
[8]
外水相のpHが5.5~8.5である、[1]から[7]の何れかに記載のリポソーム組成物。
[9]
ジヒドロスフィンゴミエリンが炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を含むジヒドロスフィンゴミエリンで、内包薬剤がトポテカンまたはその塩である[1]から[8]の何れかに記載のリポソーム組成物。
[10]
リポソームの内水相に含まれる硫酸イオンのリポソーム組成物全体の硫酸イオンに対する比率が、少なくとも80%であり、リポソームの内水相に含まれる薬物のリポソーム組成物全体の薬物に対する比率が、少なくとも80%である、[1]から[9]何れかに記載のリポソーム組成物。
[11]
アンモニウム濃度が1mmoL/L以下の血漿におけるリポソームからの薬物のリリース速度が、37℃において20%/24時間以下であり、アンモニウム濃度が4~6mmoL/Lの血漿におけるリポソームからの薬物のリリース速度が、37℃において60%/24時間以上である、[9]に記載のリポソーム組成物。
[12]
5℃で1か月の保管後におけるリポソーム組成物の脂質1μmol当たりに含まれる10μm超の粒子が150個以下、前記リポソーム組成物の脂質1μmol当たりに含まれる25μmを超える粒子の個数が15個以下である、[1]から[11]の何れかに記載のリポソーム組成物。
[13]
[1]から[12]の何れかに記載のリポソーム組成物を含む、医薬組成物。
[14]
抗がん剤である、[13]に記載の医薬組成物。
[15]
リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であって、前記リポソーム組成物は薬物を内包し、内水相がアンモニウム塩を含み、ジヒドロスフィンゴミエリンが炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を有するジヒドロスフィンゴミエリンである、リポソーム組成物。
【0014】
[A] リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であって、上記リポソーム組成物は薬物を内包し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である、リポソーム組成物を、対象に投与することを含む、疾患の治療方法。
[B] 疾患(好ましくは、がん)の治療において使用するための、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であって、上記リポソーム組成物は薬物を内包し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である、リポソーム組成物。
[C] 医薬組成物の製造のための、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であって、上記リポソーム組成物は薬物を内包し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である、リポソーム組成物の使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリポソーム組成物および医薬組成物は、高いAUCを示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、A549皮下移植マウスモデルを用いた薬効試験における体重の測定結果を示す。
【
図2】
図2は、A549皮下移植マウスモデルを用いた薬効試験における体重の測定結果を示す。
【
図3】
図3は、A549皮下移植マウスモデルを用いた薬効試験における腫瘍体積の測定結果を示す。
【
図4】
図4は、A549皮下移植マウスモデルを用いた薬効試験における腫瘍体積の測定結果を示す。
【
図5】
図5は、各コレステロール量に対するAUCの値を示す。
【
図6】
図6は、リリース率へ与えるアンモニウムイオン依存性を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
「血中滞留性」とは、リポソーム組成物を投与した対象において、リポソームに封入された状態の薬物が血液中に存在する性質を意味する。
【0019】
「リポソームの平均粒子径」とは、特に指定しない限り動的光散乱法を用いて測定されるキュムラント平均粒子径を意味する。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、濃厚系粒子アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)、ナノトラックUPA(日機装社製)およびナノサイザー(マルバーン社製)等が挙げられる。各メーカーの測定装置固有の変換式により、リポソームの体積平均粒子径や数平均粒子径を算出することも可能である。
100nm付近の粒子を測定するには、静的光散乱法などでは、正確に粒子の分布を捉えることができず、動的光散乱法による測定が好ましい。
【0020】
「不溶性微粒子」とは、静脈注射製剤など全身投与用の医薬品組成物における、PMDA、FDA、EMEA等の規制当局が安全性および品質基準として設定する項目であり、例えば日本における日本薬局方<6.07>注射剤の不溶性微粒子試験法において、第一法(光遮蔽粒子計数法)にて評価する場合、表示量が100mL未満の製品の薬物バイアル1個に含まれる粒径が10μm以上の不溶性微粒子は6000個以下、粒径が25μm以上の不溶性微粒子は600個以下であることを求めている。また、第二法(顕微鏡粒子計数法)にて評価する場合、粒径が10μm以上の不溶性微粒子は6000個以下、粒径が25μm以上の不溶性微粒子は600個以下であることを求めている。
【0021】
不溶性微粒子は、その粒子の成分によらず、粒子のサイズだけによって定義されるもので、例えば、リポソーム組成物において、リポソームそのものの凝集物であっても良いし、リポソーム内部から漏出した薬物成分の凝集および析出物であっても良いし、リポソーム外水相の成分の凝集および析出物であっても良い。特に本発明におけるトポテカンを内包したリポソームは、内包されたトポテカンがリポソーム外に漏出し、溶解度の低い分解物への分解を経て生成される析出物であることが、特許文献3などの記載により知られている。
【0022】
不溶性微粒子を測定する方法として、光学的に検出する光遮蔽粒子計数法(パーティクルカウンター、例えば、ベックマン・コールター社のHIAC 9703+、パーティクルサイジングシステム社のアキュサイザーA2000USPが使用される)の他、顕微鏡での拡大像を目視で観察しカウントする顕微鏡粒子計数法が挙げられる。
リポソーム医薬組成物、特に注射製剤の場合は、日本薬局方<6.07>注射剤の不溶性微粒子試験法に定める通り、使用時において医薬組成物に含まれる粒径が10μmを超える粒子が6000個以下、粒径が25μmを超える粒子が600個以下であることが好ましいとされる。
リポソーム医薬組成物の注射製剤においては、不溶性微粒子が生じる原因は、大部分が保管中に生じるリポソーム粒子成分の凝集・合一・分解に起因すると考えられるが、これに限定されるものではない。リポソームを構成する主な素材である脂質の量に応じて、不溶性微粒子が発生する傾向がある。例えば、脂質濃度20mmol/Lのリポソーム組成物2mLを含む医薬組成物を考えた場合、脂質1μmol当たり粒径が10μmを超える粒子が150個以下、粒径が25μmを超の粒子が15個以下であると、日本薬局方<6.07>注射剤の不溶性微粒子試験法に定める基準である、医薬組成物に含まれる粒径が10μmを超える粒子が6000個以下、粒径が25μmを超える粒子が600個以下を満たすことができる。
本発明のリポソーム組成物においても、5℃で1か月の保管後において脂質1μmol当たり粒径が10μmを超える粒子が150個以下、粒径が25μmを超える粒子が15個以下であることが好ましい。5℃で1か月の保管後において脂質1μmol当たり粒径が10μmを超える粒子が75個以下、粒径が25μmを超える粒子が7.5個以下であることがより好ましい。5℃で1か月の保管後において脂質1μmol当たり粒径が10μmを超える粒子が25個以下、粒径が25μmを超える粒子が2.5個以下であることがさらに好ましい。
また、粒径が10μmを超える粗大粒子は、保管時の経時劣化により増大する場合が多く、3カ月貯蔵後の状態でも上記個数を満たすことが好ましく、1年貯蔵後の状態でも上記個数を満たすことがより好ましい。
【0023】
「対象」とは、疾病等の予防若しくは治療を必要とするヒト、マウス、サル、家畜等の哺乳動物であり、好ましくは、疾病等の予防若しくは治療を必要とするヒトである。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の形態であるリポソーム組成物は、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であり、薬物を内包し、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である。
また、本発明の第二の形態であるリポソーム組成物は、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含むリポソーム組成物であり、薬物を内包し、内水相がアンモニウム塩を含み、ジヒドロスフィンゴミエリンが炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を有するジヒドロスフィンゴミエリンである。
【0025】
本発明においては、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を使用することによって、血中でのリポソームの滞留性を向上させている。さらに、内水相が硫酸アンモニウムを含むことにより、血中でのリポソームからの薬物の漏出を抑制し、AUCを向上させている。さらに、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上とすることにより、血中でのリポソームからの薬物の漏出をさらに抑制し、より高いAUCを達成している。
【0026】
上記の結果、冷蔵保管中においても、内水相から外水相への薬物の漏出を抑制することができ、中性条件においても不溶性微粒子の生成を抑制することができる。即ち、本発明のリポソーム組成物においては、外水相のpHを中性(pH7.4)付近に設定することができ、酸性条件下で加水分解する「親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン」を、血中滞留性向上のために使用することが可能になった。
【0027】
(リポソーム)
リポソームとは、脂質を用いた脂質二重膜で形成される閉鎖小胞体であり、その閉鎖小胞の空間内に水相(内水相)を有する。内水相には、水等が含まれる。リポソームは通常、閉鎖小胞外の水溶液(外水相)に分散した状態で存在する。リポソームはシングルラメラ(単層ラメラまたはユニラメラとも呼ばれ、二重層膜が一重の構造である。)であっても、多層ラメラ(マルチラメラとも呼ばれ、タマネギ状の形状の多数の二重層膜の構造である。個々の層は水様の層で仕切られている。)であってもよいが、本発明では、医薬用途での安全性および安定性の観点から、シングルラメラのリポソームであることが好ましい。
【0028】
リポソームは、薬物を内包することのできるリポソームであれば、その形態は特に限定されない。「内包」とは、リポソームに対して薬物が内水相および膜自体に含まれる形態をとることを意味する。例えば、膜で形成された閉鎖空間内に薬物を封入する形態、膜自体に内包する形態等が挙げられ、これらの組合せでもよい。
【0029】
リポソームの平均粒子径は、一般的には10nm~1000nmであり、20nm~500nmが好ましく、30~300nmがより好ましく、30nm~200nmがさらに好ましく、150nm以下、例えば、30nm~150nmが更に一層好ましく、70~150nmが特に好ましい。
リポソームは球状またはそれに近い形態をとることが好ましい。
【0030】
リポソームの脂質二重層を構成する成分は、脂質から選ばれる。脂質として、水溶性有機溶媒およびエステル系有機溶媒の混合溶媒に溶解するものを使用することができる。
本発明におけるリポソームは、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類を含む。
【0031】
リポソームとは、先述の通り脂質を用いた脂質二重膜で形成される閉鎖小胞体であり、一般的に脂質二重膜を形成する基材となる脂質としては二本のアシル鎖を有するリン脂質、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリピン等の天然もしくは合成のリン脂質、またはこれらに水素添加したもの(例えば、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC))等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、脂質二重膜を形成する基材となる脂質として、二本のアシル鎖を有するリン脂質、ジヒドロスフィンゴミエリンを用いる。ジヒドロスフィンゴミエリンを使用することにより、血中でのリポソームの滞留性を向上させることができる。
ジヒドロスフィンゴミエリンをリポソーム膜の基材として用いることで、そのリポソーム膜の隔壁性を向上させ、内包した薬物の漏出を防ぐことができる。これは、ジヒドロスフィンゴミエリンが有するアミド結合が、強い水素結合能を持ち、互いに強く相互作用することで強固で隔壁性の高い膜を形成できるためと推測する。また、本発明において同時に用いるコレステロールの水酸基とも強く相互作用し、さらに隔壁性の高い膜を作ることができる。これは、エステル結合を有するHSPCやレシチンなどの汎用されている脂質では達成し得ない機能になる。
また、アミド結合を有するが、アシル鎖に不飽和結合を有するスフィンゴミエリンに対して、全て飽和されたジヒドロスフィンゴミエリンはその融点が高く、形成される膜の運動性が低くなることから、スフィンゴミエリンに対しても、ジヒドロスフィンゴミエリンは、隔壁性の高い膜を作ることができると推測する。
ジヒドロスフィンゴミエリンは、一般的に分子内に2つの長鎖アルキル基を有しており、炭素数16の長鎖アルキル基を2つ有するもの、炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を有するもの、炭素数16と炭素数20~24の長鎖アルキル基を有するものが挙げられる。
ジヒドロスフィンゴミエリンとしては、薬物のリポソームからの漏出防止の観点で、炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を有する下記化合物を用いることが好ましい。これは、炭素数が多いほど、融点が高くなり隔壁性の高いリポソーム膜を作ることができるためである。
【0033】
【0034】
ジヒドロスフィンゴミエリンとしては、例えば、天然物由来のスフィンゴミエリンを一般的な手法で還元することにより得られるジヒドロスフィンゴミエリンを用いてもよく、合成することにより得られるジヒドロスフィンゴミエリンを用いても良い。鶏卵など天然物由来のジヒドロスフィンゴミエリンは、一般的に炭素数16の長鎖アルキル基を2つ有するものが大半を占めるため、炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を有するジヒドロスフィンゴミエリンが純度高く得られる点で、化学合成により得られるものを使用した方が好ましい。
【0035】
リポソーム膜の構成成分(リポソームを構成する全脂質)におけるジヒドロスフィンゴミエリンの比率は好ましくは30~80モル%であり、より好ましくは40~70モル%であり、さらに好ましくは50~60モル%である。
【0036】
親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンにおける親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール類、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、合成ポリアミノ酸等が挙げられる。上記の親水性高分子は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
これらの中でも、組成物の血中滞留性の観点から、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類およびポリプロピレングリコール類が好ましく、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)およびそれらの誘導体がより好ましい。
【0038】
汎用性および血中滞留性の観点から、ポリエチレングリコール(PEG)およびその誘導体がさらに好ましい。ポリエチレングリコール(PEG)の誘導体としては、メトキシポリエチレングリコールなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0039】
ポリエチレングリコール類の分子量は、特に限定されないが、500~10,000ダルトンであり、好ましくは1,000~7,000ダルトンであり、より好ましくは2,000~5,000ダルトンである。
【0040】
ジアシルホスファチジルエタノールアミンにおけるアシルの炭素数は16以上が好ましく、例えば炭素数16以上30以下が好ましく、炭素数16以上24以下がより好ましく、炭素数20がさらに好ましい。
【0041】
ポリエチレングリコール類で修飾されたジアシルホスファチジルエタノールアミンとしては、例えば、1、2-ジステアロイル-3-ホスファチジルエタノールアミン-PEG2000(日本油脂社製)、1,2-ジステアロイル-3-ホスファチジルエタノールアミン-PEG5000(日本油脂社製)およびジステアロイルグリセロール-PEG2000(日本油脂社製)等の1,2-ジステアロイル-3-ホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0042】
リポソーム膜の構成成分(リポソームを構成する全脂質)において、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンの比率は、好ましくは1~15モル%であり、より好ましくは2~10モル%である。
【0043】
コレステロール類として、シクロペンタヒドロフェナントレンを基本骨格とし、その一部あるいはすべての炭素が水素化されているコレステロールおよびその誘導体を挙げることができる。例えば、コレステロールが好ましい。リポソームの平均粒子径を100nm以下に微細化していくと、脂質膜の曲率が高くなることがある。リポソームにおいて配列した膜のひずみも大きくなる。脂質による膜のひずみを埋める(膜安定化効果)ために、コレステロール等を添加することが有効である。
【0044】
リポソームにおいて、コレステロールの添加は、リポソームの膜のすきまを埋めること等により、リポソームの膜の流動性を下げることが期待される。
【0045】
リポソーム膜の構成成分(リポソームを構成する脂質)におけるコレステロールの比率は、好ましくは20モル%~50モル%であり、より好ましくは30モル%~45モル%であり、さらに好ましくは35~43モル%である。
【0046】
リポソームには、上記の成分の他に、血中滞留性の改善のために親水性高分子等、膜構造の安定剤として脂肪酸またはジアセチルホスフェート等、抗酸化剤としてα-トコフェロール等を加えてもよい。本発明では、医薬用途において静脈注射用途での使用が認められていない分散助剤等の添加剤、例えば、界面活性剤等を用いないことが好ましい。
【0047】
(薬物)
本発明のリポソーム組成物は、薬物を内包する。
薬物の種類は特に限定されないが、以下に例示する抗がん剤を使用することができる。具体的には、ドキソルビシン、ダウノルビシンおよびエピルビシンなどのアントラサイクリン系抗がん剤;
シスプラチンおよびオキサリプラチンなどのシスプラチン系抗がん剤;
パクリタキセルおよびドセタキセルなどのタキサン系抗がん剤;
ビンクリスチンおよびビンブラスチンなどのビンカアルカロイド系抗がん剤;
ブレオマイシンなどのブレオマイシン系抗がん剤;
シロリムスなどのシロリムス系抗がん剤;
トポテカン(ノギテカンとも言う)、イリノテカン、カレニテシン(登録商標)(BNP1350とも言う)、エキサテカン 、ルートテカン、ギマテカン(ST1481とも言う)およびベロテカン(CKD602とも言う)などのカンプトテシン系抗がん剤;
ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド系抗がん剤;
メトトレキセート、フルオロウラシル、ゲムシタビン、シタラビンおよびペメトレキセドなどの代謝拮抗剤;ならびに
イマチニブ(グリベック(登録商標))、エベロリムス(アフィニトール(登録商標))、エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、ゲフィチニブ(イレッサ(登録商標))、スニチニブ(スーテント(登録商標))、ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))、ダサチニブ(スプリセル(登録商標))、タミバロテン(アムノレイク(登録商標))、トレチノイン(ベサノイド(登録商標))、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))およびラパチニブ(タイケルブ(登録商標))などの分子標的薬が挙げられる。
上記の中でもトポテカン(ノギテカンとも言う)、ドキソルビシン、イリノテカンまたはスニチニブが好ましく、トポテカンがより好ましい。
【0048】
薬物は、塩の形態として使用してもよい。
薬物の塩としては、通常知られているアミノ基などの塩基性基、ヒドロキシル基およびカルボキシル基などの酸性基における塩を挙げることができる。
【0049】
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸、硝酸および硫酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩が挙げられる。
【0050】
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N、N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミンおよびN、N'-ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などが挙げられる。
【0051】
リポソーム組成物における薬物の含有量は特に限定されないが、リポソーム組成物に対して0.025~20mg/mlであることが好ましく、0.25~10mg/mlであることがより好ましい。
【0052】
リポソーム膜を形成する脂質に対するリポソーム内包された薬物量は、リポソームからの放出速度、リポソーム内部の浸透圧や沈殿した薬物によるリポソーム形状の観点から、モル比で0.1~1.5が好ましく、0.2~0.3がより好ましい。
【0053】
脂質に対する薬物量のモル比が低すぎる場合、単位薬物量に対するリポソーム膜の面積が大きくなることで薬物のリポソームからの放出速度が大きくなり、血中滞留性を向上する機能が損なわれる。一方で、脂質に対する薬物量のモル比が高すぎる場合は、リポソーム内部の浸透圧が薬物の溶解量が増加することで上昇しリポソームが破壊される、または薬物がリポソーム内部で沈殿する場合は沈殿した固形物が大きく成長してリポソーム形状が変形することになる。
【0054】
(内水相における硫酸アンモニウム)
本発明におけるリポソームの内水相は、硫酸アンモニウムを含む。また、本発明の第一の形態であるリポソーム組成物においては、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比は0.36以上であり、好ましくは0.4以上である。全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比は、より好ましくは0.4以上1.8以下であり、さらに好ましくは0.6以上1.8以下である。全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比を上記の通りに設定することにより、血中でのリポソームからの薬物の漏出を抑制することができる。全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が低すぎると、薬物の硫酸塩による固形物の形成が不完全となり、リポソーム内でリポソーム膜の透過性が高くなる溶解状態の薬物の濃度が高まり、薬物がリポソームから漏出し易くなり、血中滞留性向上の効果を損なう。また、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が高すぎると、リポソーム内部の浸透圧が高くなり、リポソーム構造の破壊を招くため、薬物がリポソームから漏出し易くなり、血中滞留性向上の効果を損なう。
【0055】
また、本発明においてリポソームの内水相に含まれる硫酸イオンのリポソーム組成物全体の硫酸イオンに対する比率(硫酸イオンの内水相率)が、少なくとも80%であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、同時に、リポソームの内水相に含まれる薬物のリポソーム組成物全体の薬物に対する比率(薬物の内水相率)が、少なくとも80%であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0056】
リポソーム中の薬物濃度は、例えば、液体クロマトグラフィー/紫外可視吸光度検出法により測定することができる。また、リポソームの内水相の硫酸イオン濃度は、例えば、イオンクロマトグラフィにより測定することができる。
【0057】
(外水相のpH)
本発明のリポソーム組成物は、薬物を内包するリポソームと、上記リポソームを分散する水性溶媒(外水相)とを含むことができる。外水相のpHは、中性であることが好ましく、具体的にpH5.5~8.5程度であることが好ましい。
【0058】
薬物の漏出を極度に抑制し過ぎると、患部、特に腫瘍部での薬物の漏出をも抑制し、期待するほどの薬効が得られない場合がある。
本発明のリポソーム組成物は、血中での薬剤漏出を抑制し、十分な量の薬物を腫瘍部に送達させ、さらに腫瘍部では速やかに薬物を放出する驚くべき機構を兼ね備えている。
【0059】
腫瘍部においては、血中などその他臓器に比べてアンモニウム濃度が高いという性質があり(引用論文:Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and medicien, 11(2015) 1841-1850)、本発明のリポソーム組成物は、腫瘍のようにグルタミン分解が亢進しアンモウム濃度が高い(5mmol/L)環境で、薬物のリリースが非常に増大する。
【0060】
本発明のリポソーム組成物は、アンモニウム濃度が1mmol/L以下の血漿におけるリポソームからの薬物のリリース速度が、37℃において20%/24時間以下であり、アンモニウム濃度が4~6mmol/Lの血漿におけるリポソームからの薬物のリリース速度が60%以上であり、より好ましくは、アンモニウム濃度が1mmol/L以下の血漿におけるリポソームからの薬物のリリース速度が、37℃において15%/24時間以下であり、アンモニウム濃度が4~6mmol/Lの血漿におけるリポソームからの薬物のリリース速度が70%以上である。
【0061】
(リポソーム組成物の製造方法)
本発明のリポソーム組成物の製造方法は、特に限定されないが、一例として、
(a)油相の調製;
(b)水相の調製;
(c)乳化によるリポソーム粒子形成;
(d)エクストルーダーによる整粒;
(e)透析によるリポソーム外水相液の置換;
(f)リモートローディングによる薬物のリポソーム粒子への内包;および
(g)透析による外水相薬物の除去:
の工程により製造することができる。(d)エクストルーダーによる整粒は、行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0062】
<(a)油相の調製>
(a)油相の調製においては、リポソームを構成する各成分(親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロール類)と有機溶媒とを混合し、混合物を加温して上記成分を溶解することにより油相を製造することができる。
油相において使用する有機溶媒は特に限定されないが、例えば、水と任意に混じりあう水溶性有機溶媒を用いることができる。
【0063】
水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールおよびt-ブタノール等のアルコール類、グリセリン、エチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール類等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、エタノール、メタノール、2-プロパノールおよびt-ブタノールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エタノール、2-プロパノールおよびt-ブタノールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、エタノールであることがさらに好ましい。
【0064】
リポソームを構成する各成分の濃度は、特に限定されず、適宜調整することが可能である。
【0065】
<(b)水相の調製>
水相としては、水(蒸留水、注射用水等)、生理食塩水、各種緩衝液または糖類(スクロースなど)の水溶液およびこれらの混合物(水性溶媒)を使用することができる。本発明において、後述するリモートローディングによって薬物をリポソーム粒子へ内包させる場合には、水相として硫酸アンモニウム水溶液を使用することが好ましい。
【0066】
緩衝液としては、有機系、無機系に限定されることはないが、体液に近い水素イオン濃度付近に緩衝作用を有する緩衝液が好適に用いられ、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液およびグッドバッファー等が挙げられる。リポソームの内水相は、リポソームを製造する際に、リポソームを分散する水溶液であってもよいし、新たに添加される、水、生理食塩水、各種緩衝液または糖類の水溶液およびこれらの混合物であってもよい。外水相または内水相として用いる水は、不純物(埃、化学物質等)を含まないことが好ましい。
【0067】
生理食塩水とは、人体と等張になるように調整された無機塩溶液を意味し、さらに緩衝機能を持っていてもよい。生理食塩水としては、塩化ナトリウムを0.9w/v%(質量/体積パーセント)含有する食塩水、PBSおよびトリス緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0068】
本発明において、水相とは、外水相および内水相の両方を包含する。
本発明における外水相とは、リポソームを分散する水溶液を意味する。例えば注射剤の場合においては、バイアル瓶またはプレフィルドシリンジ包装されて保管されたリポソームの分散液のリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。また、添付された分散用液またはその他溶解液により投与時に用時分散した液についても同様に、リポソームの分散液のリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。
本発明における内水相とは、リポソームの脂質二重膜を隔てた閉鎖小胞内の水相を意味する。
【0069】
<(c)乳化によるリポソーム粒子形成>
乳化工程では、油相と水相とを混合して脂質を含む水溶液を攪拌して乳化することができる。脂質が有機溶媒に溶解している油相および水相を混合し撹拌し、乳化することで、油相および水相がO/W型(水中油型)に乳化した乳化液が調製される。混合後、油相由来の有機溶媒の一部または全部を蒸発によって除去することにより、リポソームが形成される。または、油相中の有機溶媒の一部または全部が撹拌・乳化の過程で蒸発して、リポソームが形成される。
【0070】
撹拌する方法としては、粒子微細化のために、超音波または機械的せん断力が用いられる。また、粒子径の均一化のためには、一定の孔径のフィルターを通すエクストルーダー処理またはマイクロフルイダイザー処理を行うことができる。エクストルーダー等を用いれば、副次的に形成された多胞リポソームをばらして単胞リポソームにすることができる。
【0071】
乳化工程は、乳化する工程であれば限定されることはないが、好ましくは高せん断をかけ、有機溶媒を含む乳化工程で微粒子化する工程である。高せん断は、乳化機の撹拌羽根の周速で定義され、5m/s~32m/sが好ましく、特に20m/s~30m/sが好ましい。必要に応じて、乳化工程で用いた有機溶媒を蒸発させる(脱溶媒する)ことでリポソームを形成することができる。
【0072】
リポソームを製造する際の乳化工程の液温は、適宜調整することが可能であるが、油相と水相との混合時の液温を使用する脂質の相転移温度以上とすることが好ましく、例えば、相転移温度が35~40℃の脂質を使用する場合、35℃~70℃とすることが好ましい。
【0073】
乳化工程においては、リポソームを含む水溶液から有機溶媒と水を蒸発させてもよい。ここで言う蒸発とは、油相由来の有機溶媒と水相由来の水の一部または全部を蒸発工程として強制的に除去してもよいし、油相由来の有機溶媒と水相由来の水の一部または全部が撹拌・乳化の過程で自然に蒸発するものでもよい。
【0074】
蒸発の方法は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒と水を加熱することにより蒸発させる工程、乳化後に静置または緩やかな撹拌を継続する工程、および真空脱気を行う工程の少なくとも一つを行えばよい。
【0075】
<(d)エクストルーダーによる整粒>
得られたリポソームは、透析法、ろ過法またはエクストルージョン処理等を用いて粒径を均一にすることができる。
エクストルージョン処理とは、細孔を有するフィルターにリポソームを通過させることで、物理的なせん断力を施し、微粒化する工程を意味する。リポソームを通過させる際、リポソーム分散液およびフィルターを、リポソームを構成する膜の相転移温度以上の温度に保温することで、速やかに微粒化することができる。
なお、エクストルーダーによる整粒は行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0076】
<(e)透析によるリポソーム外水相液の置換>
本発明において、リモートローディングによって薬物をリポソーム粒子へ内包させる場合には、透析によりリポソーム外水相液を置換してもよい。透析液として、0.05~5質量%のNaCl水溶液を使用することができるが、特に限定されない。上記した透析液を用いて、リポソーム液を透析することにより、外水相に存在する硫酸アンモニウムを除去し、透析液で外水相を置換したリポソームを得ることができる。
【0077】
<(f)リモートローディング法による薬物のリポソーム粒子への内包>
本発明においては、リモートローディング法によって薬物をリポソーム粒子へ内包させることが好ましい。
【0078】
本発明においてリモートローディング法とは、薬物が内包されていない空リポソームを製造し、リポソーム外液に薬物を加えることによりリポソームに薬物を導入する方法を意味する。リモートローディングの方法については、特に限定されないが、アンモニウム塩を用いた方法が好ましく、硫酸アンモニウムを用いた方法がより好ましい。
【0079】
リモートローディング法では、外液に加えられた薬物が、能動的にリポソームへと移行し、リポソームへと取り込まれる。このドライビングフォースとしては、溶解度勾配、イオン勾配、pH勾配等が用いられている。例えば、リポソーム膜を隔てて形成されるイオン勾配を用いて薬物をリポソーム内部に導入する方法がある。例えば、Na+/K+濃度勾配を利用してリモートローディング法により予め形成されているリポソーム中に薬物を添加する技術がある。
【0080】
イオン勾配の中でもプロトン濃度勾配が一般的に用いられ、例えば、リポソーム膜の内側(内水相)pHが、外側(外水相)pHよりも低いpH勾配をもつ態様が挙げられる。pH勾配は、具体的に、アンモニウムイオン勾配の濃度勾配等により形成することができる。
【0081】
<(g)透析による外水相薬物の除去>
薬物を内包したリポソーム液は、リポソームに含まれなかった薬物を除去するために、透析を行ってもよい。例えば、所定濃度のスクロース/ヒスチジンバッファーを透析液として用いて、薬物を内包したリポソーム液に対して、透析を行うことにより、外水相に存在する薬物を除去し、透析液で外水相を置換したリポソーム組成物を得ることができる。
【0082】
<無菌ろ過>
上記で得られたリポソーム組成物は、無菌ろ過を行うことが好ましい。ろ過の方法としては、中空糸膜、逆浸透膜またはメンブレンフィルター等を用いて、リポソームを含む水溶液から不要な物を除去することができる。本発明では、滅菌できる孔径をもつフィルター(好ましくは0.2μmのろ過滅菌フィルター)によってろ過することが好ましい。
【0083】
リポソームの変形による平均粒子径への影響を防ぐために、無菌ろ過工程および後述する無菌充填工程は、リポソームを構成する脂質の相転移温度以下で行うことが好ましい。例えば、脂質の相転移温度が50℃付近である場合、0~40℃程度が好ましく、より具体的には5~30℃程度で製造されることが好ましい。
【0084】
<無菌充填>
無菌ろ過の後に得られたリポソーム組成物は、医療用途として無菌充填することが好ましい。無菌充填の方法は公知のものが適用できる。容器に無菌的に充填することで医療用として好適なリポソーム組成物が調製できる。
【0085】
(医薬組成物)
本発明のリポソーム組成物は、投与経路に関連して、医薬的に許容される等張化剤、安定化剤、酸化防止剤、およびpH調整剤の少なくとも一種を含んでもよい。即ち、本発明のリポソーム組成物は、医薬組成物として提供することができる。
【0086】
等張化剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムのような無機塩類、グリセロール、マンニトール、ソルビトールのようなポリオール類、グルコース、フルクトース、ラクトース、またはスクロースのような糖類が挙げられる。
【0087】
安定化剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、またはスロースのような糖類が挙げられる。
【0088】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸、尿酸、トコフェロール同族体(例えば、ビタミンE、トコフェロールα、β、γ、δの4つの異性体)システイン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等が挙げられる。安定化剤および酸化防止剤は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0089】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、クエン酸、酢酸、トリエタノールアミン、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。
【0090】
本発明のリポソーム組成物は、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化ナトリウム、糖類、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される添加物を含有してもよい。
【0091】
本発明のリポソーム組成物を充填する容器は、特に限定されないが、酸素透過性が低い材質であることが好ましい。例えば、プラスチック容器、ガラス容器、アルミニウム箔、アルミ蒸着フィルム、酸化アルミ蒸着フィルム、酸化珪素蒸着フィルム、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、等をガスバリア層として有するラミネートフィルムによるバック等が挙げられ、必要に応じて、着色ガラス、アルミニウム箔やアルミ蒸着フィルム等を使用したバック等を採用することで遮光することもできる。
【0092】
リポソーム組成物を充填する容器において、容器内の空間部に存在する酸素による酸化を防ぐために、容器空間部および薬液中のガスを窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。例えば、注射液を窒素バブリングし、容器への充填を窒素雰囲気下で行うことが挙げられる。
【0093】
本発明の医薬組成物の投与経路としては、非経口的投与が好ましい。例えば、点滴等の静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、眼内注射および髄腔内注射を挙げることができる。投与方法としては、シリンジまたは点滴による投与が挙げられる。
【0094】
本発明の医薬組成物の投与量および投与回数は、薬物の種類、患者の状態などに応じて適宜設定すればよく、有効成分である薬物質量として、1日あたり、一般的には0.01mg/kg~100mg/kgの範囲で設定することができる。有効成分である薬物質量として、1回あたり、2mg~10mgの範囲で設定することができる。ただし、これらの投与量に限定されるものではない。
【0095】
本発明の医薬組成物は、好ましくは抗がん剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物の適用対象であるがんの種類は、特に限定されないが、例えば、肺がん(特に、小細胞肺がん)、卵巣がん、小児固形腫瘍、子宮頸がん、乳がん、前立腺がん、子宮体がん、胃(胃腺)がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、頚部扁平上皮がん、食道がん、膀胱がん、メラノーマ、大腸がん、腎細胞がん、非ホジキンリンパ腫、尿路上皮がん、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、成人T細胞白血病、骨髄転移がん、肉腫、軟部組織腫、瘍慢性骨髄単球性白血病、ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ等が挙げられる。
【実施例0096】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかし、本発明は実施例に限定されるものではない。
SMは、スフィンゴミエリン(Sphingomyelin)(COATSOME NM-10、日油製)を示す。
鶏卵由来DHSMは、鶏卵由来のSMを水素添加することで得たジヒドロスフィンゴミエリン(Dihydrosphingomyelin)(COATSOME NM-10(日油製)に対し水素添加した合成品)を示す。この鶏卵由来DHSMは、炭素数16のアルキル鎖の2つ有したものが、全体の70~80%であり、残りはアルキル鎖長の異なるDHSMを含む混合物である。
全合成DHSMは、炭素数16と炭素数18の長鎖アルキル基を有する下記化合物が98%以上含むように化学合成により作製されたジヒドロスフィンゴミエリン(Dihydrosphingomyelin)を示す。
【0097】
【0098】
PEGリン脂質(表中ではPEGと表記)としては、SUNBRIGHT DSPE-020CN、日油製(以下、DSPE-PEGとする)を使用した。
コレステロール(表中ではCholと表記)としては、Cholesterol HP(日本精化社製)を使用した。
【0099】
<比較例1~10>
(a)油相の調製
比較例1については、SM、PEGリン脂質、コレステロールをそれぞれ11.52g、4.32g、4.32g秤量した。比較例2~10については、表1に記載の比率になるように、SMまたは鶏卵由来DHSM、PEGリン脂質、コレステロールの量を変更した。この脂質を381mLのエタノールと混合し、65℃で溶解し油相とした。
【0100】
(b1)水相1の調製
硫酸アンモニウム25.2gを水1118.5gに溶解し、水相1を調製した。
(b2)水相2の調製
硫酸アンモニウム5.04gを水223.7gに溶解し、水相2を調製した。
【0101】
(c)乳化によるリポソーム粒子形成
(b1)で調製した水相1を65℃に加温し、(a)で調製した油相全量を添加した後、精密乳化分散機にて、周速26m/sにて60分間混合した。つづいて、室温の水相2を添加した後、65℃で加温しながら周速0.1m/sで攪拌を続けることで有機溶媒と水を蒸発させ、液が600mLまで濃縮された時点で加温と攪拌を止め、蒸発を停止した。
【0102】
(e)透析によるリポソーム外水相液の置換
透析液として3.15質量%のNaCl水溶液を用いた。この透析液を用いて、(c)で得た液に対して、室温にてクロスフローフィルトレーションを用い、外水相に存在する硫酸アンモニウムを除去し、透析液で外水相を置換したリポソームを得た。
【0103】
(f)リモートローディングによるトポテカンのリポソーム粒子への内包
トポテカン塩酸塩(Biocompounds社製)に注射用水を加え、5 mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してトポテカンを溶解させた。このトポテカン溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、60℃で60分間加温した。
【0104】
(g)透析による外水相トポテカンの除去
透析液として9.4質量%スクロース、10mmol/Lヒスチジンからなるスクロース/ヒスチジンバッファーを調製した。この透析液を用いて、(f)で得た液に対して、室温にてクロスフローフィルトレーションを用い、外水相に存在するトポテカンを除去し、透析液で外水相を置換したトポテカン含有リポソームを得た。
【0105】
<比較例11および12>
(a)油相の調製
比較例11については、鶏卵由来DHSM、およびコレステロールをそれぞれ、0.517gおよび0.233g秤量した。比較例12については、表1に記載の比率になるように、SM、およびコレステロールの量を変更した。リポソームをDiI(1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindocarbocyanine Perchlorate)で標識するため、全脂質に対して0.2mol%となる分量のDiIを秤量し、エタノールに溶解させた。このDiIエタノール溶液にエタノールを加え、全量で1.5mLとし、秤量した脂質とこの有機溶媒を混合し、65℃に加温して脂質を溶解し油相とした。
【0106】
(b)水相の調製
硫酸アンモニウム0.9gおよびスクロース2.16gを水13.5gに溶解し、水相を調製した。
【0107】
(c)油相と水相混合によるリポソーム粒子形成
(b)で調製した水相を65℃に加温し、マグネチックスターラーで攪拌する(3000rpm)。(a)で調製した油相全量をホットプレートで65℃に加温し、油相全量をシリンジで吸って5分間ホットプレートで加温する。加温してある水相に、油相を30秒かけて滴下する。
【0108】
(d)エクストルーダーによる整粒
70℃の加温下でエクストルーダー(Mini Extruder、Avanti Polar Lipids社製)を用い、(c)で得た液をフィルターに順次通過させることで整粒した。
【0109】
(e)透析によるリポソーム外水相液の置換
透析液として0.09質量%のNaCl水溶液を用いた。この透析液を用いて、(c)または(d)で得た液に対して、室温にて透析を行い、外水相に存在する硫酸アンモニウムを除去し、透析液で外水相を置換したリポソームを得た。
【0110】
(f)リモートローディングによるトポテカンのリポソーム粒子への内包
トポテカン塩酸塩(Biocompounds社製)に注射用水を加え、5mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してトポテカンを溶解させた。このトポテカン溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、60℃で120分間加温した。
【0111】
(g)透析による外水相トポテカンの除去
透析液として9.4質量%スクロースおよび10mmol/Lヒスチジンからなるスクロース/ヒスチジンバッファーを調製した。この透析液を用いて、(f)で得た液に対して、室温にて透析を行い、外水相に存在するトポテカンを除去し、透析液で外水相を置換したトポテカン含有リポソームを得た。
【0112】
<実施例1~8>
(a)油相の調製
実施例1については、鶏卵由来DHSM、PEGリン脂質(SUNBRIGHT DSPE-020CN、日油製、以下、DSPE-PEGとする)、およびコレステロールをそれぞれ11.52g、4.32g、および4.32g秤量した。実施例2~8については、表2に記載の比率になるように、DHSM、DSPE-PEG、およびコレステロールの量を変更した。この脂質を381mLのエタノールと混合し、65℃で溶解し油相とした。
【0113】
(b1)水相1の調製
硫酸アンモニウム25.2gを水1118.5gに溶解し、水相1を調製した。
(b2)水相2の調製
硫酸アンモニウム5.04gを水223.7gに溶解し、水相2を調製した。
【0114】
(c)乳化によるリポソーム粒子形成
(b1)で調製した水相1を65℃に加温し、(a)で調製した油相全量を添加した後、精密乳化分散機にて、周速26m/sにて60分間混合した。つづいて、室温の水相2を添加した後、65℃で加温しながら周速0.1m/sで攪拌を続けることで有機溶媒と水を蒸発させ、液が600mLまで濃縮された時点で加温と攪拌を止め、蒸発を停止した。
【0115】
(e)透析によるリポソーム外水相液の置換
透析液として3.15質量%のNaCl水溶液を用いた。この透析液を用いて、(c)で得た液に対して、室温にてクロスフローフィルトレーションを用い、外水相に存在する硫酸アンモニウムを除去し、透析液で外水相を置換したリポソームを得た。
【0116】
(f)リモートローディングによるトポテカンのリポソーム粒子への内包
トポテカン塩酸塩(Biocompounds社製)に注射用水を加え、5mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してトポテカンを溶解させた。このトポテカン溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、60℃で60分間加温した。
【0117】
(g)透析による外水相トポテカンの除去
透析液として9.4質量%スクロース、10mmol/Lヒスチジンからなるスクロース/ヒスチジンバッファーを調製した。この透析液を用いて、(f)で得た液に対して、室温にてクロスフローフィルトレーションを用い、外水相に存在するトポテカンを除去し、透析液で外水相を置換したトポテカン含有リポソームを得た。
【0118】
<実施例9および10>
(a)油相の調製
実施例9については、鶏卵由来DHSM、DSPE-PEG、コレステロールをそれぞれ0.412g、0.153g、および0.153g秤量した。実施例10については、表2に記載の比率になるように、鶏卵由来DHSM、DSPE-PEG、およびコレステロールの量を変更した。リポソームをDiIで標識するため、全脂質に対して0.2mol%となる分量のDiIを秤量し、エタノールに溶解させた。このDiIエタノール溶液にエタノールを加え、全量で11.25mLとし、さらに酢酸エチル3.75mLを加えた。秤量した脂質とこの有機溶媒を混合し、60℃に加温して脂質を溶解し油相とした。
【0119】
(b)水相の調製
硫酸アンモニウム0.9gを水40gに溶解し、水相を調製した。
【0120】
(c)乳化によるリポソーム粒子形成
(b)で調製した水相を70℃に加温し、(a)で調製した油相全量を添加した後(容積比:水相/油相=8/3)、乳化機(エクセルオートホモジナイザーED-3、日本精機製作所製)にて、3000rpm(rotation per minute:1/60s-1)にて30分間混合した。つづいて、65℃で加温しながら300rpmで攪拌を続けることで有機溶媒と水を蒸発させ、液が15gまで濃縮された時点で加温と攪拌を止め、蒸発を停止した。
【0121】
(d)エクストルーダーによる整粒
70℃の加温下でエクストルーダー(Mini Extruder、Avanti Polar Lipids社製)を用い、(c)で得た液をフィルターに順次通過させることで整粒した。
【0122】
(e)透析によるリポソーム外水相液の置換
透析液として0.09質量%のNaCl水溶液を用いた。この透析液を用いて、(c)または(d)で得た液に対して、室温にて透析を行い、外水相に存在する硫酸アンモニウムを除去し、透析液で外水相を置換したリポソームを得た。
【0123】
(f)リモートローディングによるトポテカンのリポソーム粒子への内包
トポテカン塩酸塩(Biocompounds社製)に注射用水を加え、5 mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してトポテカンを溶解させた。このトポテカン溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、60℃で120分間加温した。
【0124】
(g)透析による外水相トポテカンの除去
透析液として9.4質量%スクロース、10mmol/Lヒスチジンからなるスクロース/ヒスチジンバッファーを調製した。この透析液を用いて、(f)で得た液に対して、室温にて透析を行い、外水相に存在するトポテカンを除去し、透析液で外水相を置換したトポテカン含有リポソームを得た。
【0125】
[物性測定および評価]
<平均粒子径>
本発明において、平均粒子径とは、動的光散乱法により測定されるキュムラント平均粒子径を意味する。表に記載の各実施例および比較例の平均粒子径は、オートサンプラー付き濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000AS(大塚電子社製)により動的光散乱法で測定したキュムラント平均粒子径である。測定結果を表1および表2に示す。
【0126】
<トポテカン濃度測定>
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)装置 Nexera-i LC-2040C(島津社製)にて、サンプルを測定し、トポテカン濃度を定量した結果を表1および表2に示す。具体的な測定方法は、次のとおりである。
表1及び2のリポソームにおいては、リポソームの内水相に含まれる薬物のリポソーム組成物全体の薬物に対する比率は、比較例10を除くと少なくとも95%であった。比較例10は59%であった。
【0127】
リポソーム製剤中のトポテカン量の測定
調製したリポソーム液をメタノールに溶かしフィルターろ過した試料溶液、およびトポテカン塩酸塩を希釈調製した検量線標準溶液を用いて、液体クロマトグラフィー/紫外可視吸光度検出法により測定した。
内水相トポテカン濃度は、全水相トポテカン濃度から外水相トポテカン濃度を引いて算出した。
各水相のトポテカン濃度は以下のように測定した。
(全水相トポテカン濃度)
リポソーム分散液を50μL測り取り、メタノール950μLを加え、ボルテックスで1分間攪拌した。その液を100μLを測り取り、ミリQ水を900μLを加え、ボルテックスを1分間攪拌し、HPLC分析用サンプルとした。
(外水相トポテカン濃度)
リポソーム分散液を50μL測り取り、9.4wt%スクロース/10mMヒスチジン水溶液450μLを加え希釈する。その希釈液100μLにPBS 200μL添加し、転倒混和した。この分散液を超遠心分離(200,000 g, 20℃, 60分間)し、上清をHPLC分析サンプルとした。超遠心分離機は、日立製himac CP80WXを使用した。
a)検量線標準液の調製
トポテカン塩酸塩約20mgを量り、20mLの10質量%メタノール水溶液に溶かした。この液にミリQ水を加えて、トポテカン塩酸濃度0.1、1.0、5.0、10.0、20.0、50.0、または100.0ppmの溶液を調製し、検量線標準液とした。
b)試料溶液の調製
(1)試料(リポソーム製剤溶液)約50μLをマイクロマン(MICROMAN(登録商標))で量りとり、これにマイクロマンで量りとった約950μLのメタノールを加えた。このとき、約1分間振とうし、溶液が透明になることを目視で確認した。
(2)上記(1)の溶液100μLをマイクロマンで量りとり、マイクロピペットで量りとった約900μLのミリQ水を加えた。この液を約1分間振とうした後、約1分間超音波処理をし、さらに約10秒間振とうした。
(3)上記(2)の溶液をDISMIC(登録商標)フィルター(穴径0.45μm)でろ過した溶液を試料溶液とした。
c)測定
液体クロマトグラフィー/紫外可視吸光度検出法により以下の条件で測定した。
測定波長:382nm、カラム:資生堂CAPCELLPAK C18 ACR 3μm_3.0mm*75mm
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A、Bはいずれも水/メタノール/トリフルオロ酢酸混液で、移動相の送液は移動相AおよびBの混合比を変えて濃度勾配を制御した。
流量:毎分1.0mL、注入量:10μL、オートサンプラー温度:25℃付近の一定温度で測定を行った。
【0128】
<硫酸イオン濃度測定>
イオンクロマト装置 883 Basic IC plus(Metrohm社製)にて、サンプルを測定し、硫酸イオン濃度を定量した。トポテカンに対する硫酸イオンのモル比を測定した結果を表1および表2に示す。表1及び2のリポソームにおいては、リポソームの内水相に含まれる硫酸イオンのリポソーム組成物全体の硫酸イオンに対する比率が、少なくとも90%であった。
内水相硫酸イオン濃度は、全水相硫酸イオン濃度から外水相硫酸イオン濃度を引き算して、算出した。各水相の硫酸イオン濃度は以下のように測定した。
(全水相硫酸イオン濃度)
リポソーム分散液を50μL測り取り、メタノール950μLを加え、超音波処理を15秒実施し、混和した。その液を90μLを測り取り、注射用水(光製薬製)を810μLを加え、超音波処理を30秒実施し、混和した。この溶液に酢酸エチル900μL添加し、よく振って酢酸エチル相へ脂質類を抽出した。水相の液を適量は測り取り、イオンクロマト分析に使用した。
(外水相硫酸イオン濃度)
リポソーム分散液を100μL測り取り、5%ブドウ糖液(大塚製薬製)900μLを加え希釈した。その液450μLを限外ろ過にて処理し、ろ液をイオンクロマト分析サンプルとした。
遠心条件は、7400g, 5℃, 30分。遠心分離機は、日立製himac CF15RXIIを使用した。
【0129】
<AUCの測定>
調製したトポテカン含有リポソームを投与したマウス(投与量は薬物量として1mg/kg)については、投与後0.25、2、6、24時間で採血した。血液は800×g、10分間遠心し、血漿を回収した。採取した血漿について、液体クロマトグラフィー/質量分析/質量分析(LC/MS/MS)を用いて、トポテカン濃度の定量を行った。得られたトポテカン濃度推移より薬物動態解析ソフトWinNonlin(登録商標)(Certara)を用いて単回投与後の無限時間までの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)を算出した。AUCの単位は、時間×ng/mL(表中では、hr*ng/mLと表記)である。なお、非特許文献1に記載のリポソームのAUCは、68152時間×ng/mLと計算される。
【0130】
【0131】
【0132】
表1および表2の結果から分かるように、リポソーム膜の構成成分として、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジヒドロスフィンゴミエリン、およびコレステロールを含むリポソーム組成物において、内水相が硫酸アンモニウムを含み、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36以上である実施例1~10において、AUCの測定値が200000以上となり、高い血中滞留性を達成できることが示された。一方、ジヒドロスフィンゴミエリンを使用しない比較例1から8、全水相薬物に対する内水相硫酸イオンのモル比が0.36未満である比較例9および10、親水性高分子で修飾したジアシルホスファチジルエタノールアミンを使用しない比較例11および12においては、AUCの測定値が200000未満であり、実施例1から10よりも劣ることが示された。
【0133】
<A549皮下移植マウスモデルを用いた薬効試験>
Balb/c/nu/nuマウス(雌、6週齢)にヒト肺癌細胞株であるA549細胞1×10
7個を右腹側部皮下に移植した。移植後15日目から実施例10で調製したトポテカン含有リポソーム(薬物量として4mg/kgおよび2mg/kg、週1回投与を2回)、比較例12で調製したトポテカン含有リポソーム(薬物量として4mg/kgおよび2mg/kg、週1回投与を2回)を投与した。また、陰性対照としては生理食塩液を投与した。また、比較対照としては、トポテカン水溶液(薬物量として2mg/kg)を投与した。投与開始から週2回、体重および腫瘍体積を測定した。体重の測定結果を
図1および
図2に示し、腫瘍体積の測定結果を
図3および
図4に示す。
【0134】
図3および
図4の結果から、比較例12で調製したトポテカン溶液と比較して、実施例10で調製したトポテカン含有リポソームは、高い薬効を示し、効果は用量に依存していることが分かった。
【0135】
<実施例11~16、比較例13~16>
実施例11~16について、油相の調整におけるコレステロールの添加量と鶏卵由来DHSMの添加量を、表3に記載の比率になるように、DHSM、DSPE-PEG、およびコレステロールの量を変更した以外については、実施例1同様に作製した。例えば、実施例11について、油相の調整におけるコレステロールの添加量と鶏卵由来DHSMの添加量を、コレステロールを3.6g、鶏卵由来DHSMを12.9gに変更した以外は、実施例1同様に作製した。比較例13~16について、表3に記載の比率になるよう、SM、DSPE-PEG、およびコレステロールの量を変更した。
同様に粒子径、全水相トポテカン濃度、内水相硫酸イオン濃度、AUCを測定した結果を表3に示す。また、各コレステロール量に対する、AUCの値を
図5に示す。
表3のリポソームにおいては、リポソームの内水相に含まれる薬物のリポソーム組成物全体の薬物に対する比率は、比較例13を除き少なくとも98%であった。比較例13は、68%であった。
表3のリポソームにおいては、リポソームの内水相に含まれる硫酸イオンのリポソーム組成物全体の硫酸イオンに対する比率が、比較例13を除き少なくとも90%であった。比較例13は、71%であった。
【0136】
【0137】
実施例11~16、比較例1、2、4、7、13~16の結果より、鶏卵由来DHSMを用いたリポソームが、SMリポソームより幅広いコレステロールの添加比率において、本発明は良好なAUCを達成することが分かる。また本発明の鶏卵由来DHSMリポソームにおいて、特にコレステロール比率が、35~43モル%の範囲でAUCがより良好であることが分かる。
【0138】
<実施例17~24、比較例17~24>
<リポソーム分散物の作製>
実施例17~24、比較例17~24について、油相の調整における各脂質の添加量を表4のように設定し、また、リモートローディングによりリポソーム粒子へ内包する薬物を表4のように設定し、トポテカン以外の薬剤は、下記の<リモートローディングによる各抗がん剤のリポソーム粒子への内包>に記載した方法で薬剤を内包したことを除き、実施例1と同様に作製した。また、実施例17~24、比較例17~24について、それぞれの脂質構成比を表5に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
<リモートローディングによる各抗がん剤のリポソーム粒子への内包>
ドキソルビシンの内包(実施例19、20、比較例19、20):ドキソルビシン塩酸塩(東京化成社製)に注射用水を加え、4 mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してドキソルビシン塩酸塩を溶解させた。このドキソルビシン溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、pH 7.0に調整した分散液を62℃で60分間加温した。
スニチニブの内包(実施例21、22、比較例21、22):リンゴ酸スニチニブ(トロントリサーチケミカルズ社製)に注射用水を加え、5 mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してリンゴ酸スニチニブを溶解させた。このスニチニブ溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、62℃で60分間加温した。
【0142】
イリノテカンの内包(実施例23、24、比較例23、24):イリノテカン塩酸塩(東京化成社製)に注射用水を加え、4 mg/mLとした。さらに、液をよく攪拌しながら8mol/LのHCl溶液を添加し、pHを約3に調整してイリノテカン塩酸塩を溶解させた。このイリノテカン溶液にリポソームを1/1の容積比で加えた後、62℃で60分間加温した。
実施例17~22、比較例17~22について、本実施例中において上記した方法と同様にAUCを測定した結果を表6に示す。
【0143】
【0144】
実施例17~22、比較例17~22の結果より、トポテカン及びスニチニブのどちらの薬剤を用いた場合においても、DHSMを用いたリポソーム方が、SMリポソームおよびHSPCリポソームより血中滞留性が向上する結果となった。また、DHSMとして炭素数16と18のアルキル鎖を持つDHSMが98%以上の純度を持つ全合成DHSMを用いたリポソームが、鶏卵由来DHSMに比べて血中滞留性が向上できることが分かった。
【0145】
実施例17~24、比較例17~18、21~24について、粒子径、トポテカン濃度、硫酸イオン濃度、リリース率を測定した結果を表7に示す。粒子径、トポテカン濃度、硫酸イオン濃度は、本実施例中において上記した方法と同様に測定した。
表7のリポソームにおいては、リポソームの内水相に含まれる薬物のリポソーム組成物全体の薬物に対する比率は、少なくとも95%であった。
表7のリポソームにおいては、リポソームの内水相に含まれる硫酸イオンのリポソーム組成物全体の硫酸イオンに対する比率が、少なくとも95%であった。
各濃度の塩化アンモニウム含有PBS緩衝液中にリポソーム製剤を20倍希釈し、4時間インキュベートした時点のリリース率を測定した。リリース率は、外水相へ漏れたAPI濃度を初期の全水相API濃度で割り算した値の百分率として定義される。
【0146】
各濃度の塩化アンモニウム含有PBS緩衝液としては、
実施例17、18、比較例17、18(トポテカン内包リポソームの評価)では、塩化アンモニウム4.8 mmol/L、
実施例19、20、比較例19、20(ドキソルビシン内包リポソームの評価)では、塩化アンモニウム200 mmol/L、
実施例21、22、比較例21、22(スニチニブ内包リポソームの評価)では、塩化アンモニウム100 mmol/L、
実施例23、24、比較例23、24(イリノテカン内包リポソームの評価)では、塩化アンモニウム4.8 mmol/L、を溶解したPBS緩衝液を用いた。
【0147】
【0148】
実施例17~24、比較例17~18、21~24の結果より、いずれの薬剤を用いた場合においても、DHSMを用いたリポソームの方が、SMリポソームおよびHSPCリポソームよりリリース率が低減し、血中滞留性の向上が期待できる結果となった。また、DHSMとして炭素数16と18のアルキル鎖を持つDHSMが98%以上の純度を持つ全合成DHSMを用いた場合、トポテカン内包リポソーム、ドキソルビシン内包リポソーム、イリノテカン内包リポソームで大きくリリース率が低減できており、血中での漏出を抑制するうえで、より好ましいことが分かった。
【0149】
<不溶性微粒子測定>
液中パーティクルカウンター(HACH ULTRA)にて、実施例2、3、4について、それぞれ5℃保管後1か月のサンプルを測定し、1バイアル製剤(2mL)当たりに含まれる10μm超の粒子および25μm超の粒子の個数を測定した(以下、特に説明がない限り、10μm超の粒子とは、粒径が10μmを超える粒子を意味する。25μm超の粒子とは、粒径が25μmを超える粒子を意味する。)。実施例2、3、4は脂質濃度23mmol/Lであり、脂質1μmol当たりの粒子の個数としてまとめると、10μm超の粒子について、実施例2は0.7個、実施例3は1.1個、実施例4は0.3個であった。また、25μm超の粒子について、実施例2は0.09個、実施例3は0.5個、実施例4は0個であった。トポテカンを内包したリポソームは、漏出し中性環境に晒されると難溶性の二量体へと分解し、不溶性微粒子になることが知られている。この結果は、本発明により漏出が極めてよく抑制できたため、不溶性微粒子の発生も低減できた驚くべき結果である。
比較例8について、5℃保管後1か月のサンプルにおいても1バイアル製剤(2mL)中の不溶性微粒子を測定した。脂質1μmol当たりの粒子の個数に換算すると、10μm超の粒子が251個であり150個を大きく超えており、また25μm超の粒子の個数が17個であり、15個を大きく超えていた。
<リリース率へ与えるアンモニウムイオン依存性>
リリース率は、全水相薬剤濃度に対する漏出した薬剤濃度(外水相濃度)の百分率で算出した。実施例17で作製したトポテカンを内包するDHSMリポソーム、ドキソルビシンを内包するHSPCリポソーム(ドキシル(登録商標)20MG、ヤンセンファーマ)を、塩化アンモニウムを添加しない血漿(LAMPIRE製、マウス血漿、品名:Control and Donor Mouse Plasma in Na Hep、カタログ番号7315511)と5mmol/Lの塩化アンモニウムを溶解した血漿中でのリリース率を測定した。その結果を
図6に示す。腫瘍環境においては、グルタミン分解が亢進しており、その結果アンモニウムが多く発生しており、おおよそ5mmol/Lの発生が報告されている(引用論文:Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and medicien, 11(2015) 1841-1850)。
【0150】
ドキシル(登録商標)20MGはHSPCからなるドキソルビシンを内包したリポソームである。ドキシル(登録商標)は、血中を模した環境では漏出が極めて少ないが、腫瘍環境を模した高アンモニウム環境でもほとんど放出されないことが分かった。これに対して、本発明の実施例17記載のトポテカンを含有するリポソームは、血中を模した環境では漏出が極めて少なく高い血中滞留性が得られる一方で、腫瘍環境を模した高アンモニウム環境で、86%と言う非常に高く、血中では漏出せず多くの薬物を腫瘍にリポソームによって送達され、リポソームによって運ばれた薬物が腫瘍で多く放出されることが期待できる結果となった。この結果を
図6に示した。
【0151】
また、実際にヒト卵巣がん細胞株ES-2をBALB/cヌードマウスの皮下に移植して得た腫瘍を採取し、孔径5 μmの遠心ろ過フィルターに載せ、400 gで10分間遠心することにより、腫瘍間質液を得た。腫瘍間質液30μLに、実施例17で作製した本発明のトポテカンリポソーム(薬物量として30ng)、ドキソルビシンを内包するHSPCリポソーム(ドキシル(登録商標)20MG、ヤンセンファーマ)(薬物量として30ng)をそれぞれ添加し、37℃24時間インキュベートした際のリリース率は、実施例17で85%、ドキソルビシンを内包するHSPCリポソームで6%となり、実際の腫瘍環境から採取された腫瘍間質液で、リリース性の差異が期待通り観察された。