(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043365
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】検査装置、検査方法、欠陥検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20220309BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20220309BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
G01N21/956 A
G03F1/84
H01L21/66 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018216212
(22)【出願日】2018-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広井 高志
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 展明
(72)【発明者】
【氏名】浦野 貴裕
【テーマコード(参考)】
2G051
2H195
4M106
【Fターム(参考)】
2G051AA51
2G051AA56
2G051AB01
2G051AB02
2G051BA10
2G051BB05
2G051CA04
2G051CB05
2G051DA07
2G051EA08
2G051EB01
2G051EC03
2G051ED04
2G051ED11
2H195BD04
2H195BD13
2H195BD15
2H195BD23
4M106AA01
4M106AA09
4M106BA05
4M106CA39
4M106DB04
4M106DJ14
4M106DJ15
4M106DJ18
4M106DJ27
(57)【要約】
【課題】レチクルが有する欠陥を製造工程のより早い段階において効率的かつ精度よく検出することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る検査装置は、同一のレチクルを用いてパターンを転写した複数のパターン領域の観察画像を平均することにより欠陥候補を推定するとともに、同一のパターンを相互比較することにより欠陥候補を推定し、前者が欠陥である確率が後者よりも高ければ前者がレチクル欠陥に起因すると判定する。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じパターンを等間隔で転写するように構成されたレチクルでパターンを転写した対象物から前記レチクルが有する欠陥を検出する検査装置であって、
前記対象物に対して観察光を照射する光照射部と、
前記観察光を前記対象物に対して照射することにより生じる信号光を用いて前記対象物の観察画像を取得する画像取得部と、
前記観察画像を用いて前記レチクルが有する欠陥を抽出する演算部と、
を備え、
前記画像取得部は、前記対象物から少なくとも1つのスワス画像を取得し、
前記演算部は、前記少なくとも1つのスワス画像を所定のパターン領域ごとの画像に分け、前記パターン領域ごとの画像を平均化した平均パターン画像を生成し、前記平均パターン画像同士を比較することにより第1評価値を算出するとともに、
前記パターン領域ごとの画像同士を平均化せずに比較し抽出した信号を、
前記第1評価値と比較又は選別処理をすることで前記レチクルが有する欠陥であると判定することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の検査装置において、
前記パターン領域ごとの画像同士を比較し抽出した信号を第2評価値として、
前記第1評価値が前記第2評価値よりも高い場合に前記レチクルが有する欠陥であると判定することを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項2記載の検査装置において、
前記演算部は、前記第1評価値と前記第2評価値を用いて、前記レチクルが有するリピート欠陥のみを抽出するとともに、前記パターン領域ごとの画像同士を平均化せずに比較し抽出した信号が示すランダム欠陥信号を欠陥候補から除外することを特徴とする検査装置。
【請求項4】
請求項1記載の検査装置において、
前記所定のパターン領域はダイ単位又はレチクルのショット単位であることを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項2記載の検査装置において、
前記パターン領域には、配列の異なる第1及び第2のパターンが含まれ、
前記画像取得部は1つの前記スワス画像から第1及び第2のパターンの画像を取得し、
前記演算部は、前記1つのスワス画像から前記第1評価値及び第2評価値を算出することを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項2記載の検査装置において、
前記所定のパターン領域には配列の異なる第1及び第2のパターンが含まれ、
前記画像取得部は2つ以上のスワス画像から第1及び第2のパターンを取得し、
前記演算部は、前記2つ以上のスワス画像から前記第1評価値及び第2評価値を算出することを特徴とする検査装置。
【請求項7】
請求項2記載の検査装置において、
前記レチクルは1回の転写で単一パターンを転写するように構成されており、
前記演算部は、あらかじめ準備した比較パターン画像を比較することにより、前記第1評価値を算出することを特徴とする検査装置。
【請求項8】
請求項1記載の検査装置において、
前記画像取得部は、前記観察光を前記対象物に対して照射することにより前記対象物から生じる散乱光を用いて、前記対象物の観察画像として前記対象物の暗視野画像を取得することを特徴とする検査装置。
【請求項9】
請求項1記載の検査装置は、hot thresholdを使わないことを特徴とする検査装置。
【請求項10】
請求項1記載の検査装置において、
前記演算部は前記スワス画像に対し直接処理を行い、第1評価値及び第2評価値を算出することを特徴とする検査装置。
【請求項11】
同じパターンを等間隔で転写するように構成されたレチクルからパターンを転写した対象物から前記レチクルが有する欠陥を検出するプログラムであって、
あらかじめ対象物から取得した少なくとも1つのスワス画像に対し、前記少なくとも1つのスワス画像を所定のパターン領域ごとの画像に分け、該所定の領域ごとの画像を平均化した平均パターン画像を生成し、前記平均パターン画像同士を比較することにより第1評価値を算出するとともに、
前記所定のパターン領域ごとの画像同士を平均化せずに比較し抽出した信号を
前記第1評価値と比較又は選別処理をすることで前記レチクルが有する欠陥であると判定することを特徴とするレチクル欠陥検出プログラム。
【請求項12】
同じパターンを等間隔で転写するように構成されたレチクルでパターンを転写した対象物から前記レチクルが有する欠陥を検出する検査方法であって、
前記対象物に対して観察光を照射する照射ステップ、
前記観察光を前記対象物に対して照射することにより生じる信号光を用いて前記対象物の観察画像を取得する画像取得ステップ、
前記観察画像を用いて前記レチクルが有する欠陥を抽出する演算ステップ、
を有し、
前記画像取得ステップは、前記対象物から少なくとも1つのスワス画像を取得し、
前記演算ステップは、前記少なくとも1つのスワス画像を所定のパターン領域ごとの画像に分け、該所定の領域ごとの画像を平均化した平均パターン画像を生成し、前記平均パターン画像同士を比較することにより第1評価値を算出するとともに、
前記所定のパターン領域ごとの画像同士を平均化せずに比較し抽出した信号を、
前記第1評価値と比較又は選別処理をすることで前記レチクルが有する欠陥であると判定することを特徴とする検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチクルからパターンを転写した対象物を検査することにより、前記レチクルが有する欠陥を検査する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ上に回路パターンを形成する際には、例えばフォトマスク(レチクルと呼ばれる場合もある)を用いてフォトリソグラフィ工程によりパターンをウエハ上に転写した後、エッチングなどの工程を介して回路パターンを形成する。この際のレチクル起因の欠陥をレチクルそのものまたは転写後ウエハから抽出する検査装置は存在している。しかし、微細化に伴い露光装置の条件や位相シフトレチクルの登場などにより欠陥が複雑化し検出精度が低下している。
【0003】
レチクルに起因する欠陥を分別する際には、検査前段のなかで得られた欠陥候補に対して、検査後段において各欠陥がレチクル欠陥に起因するか否かを分別する。しかしこの手法は、検査前段においてレチクルに起因する欠陥であるか否かを分別することなく、いったん広範な欠陥候補を収集するので、欠陥候補の個数が膨大となり、多大な処理時間を必要とする傾向がある。
【0004】
レチクルからパターンを転写した検査対象物が有する欠陥としては、ランダムに発生するランダム欠陥と、同様の欠陥が複数の半導体チップにまたがって繰り返されるリピート欠陥がある。例えばレチクルが欠陥を有している場合、そのレチクル欠陥が加工対象物に対して転写されることにより、レチクル欠陥が繰り返し転写される場合がある。下記特許文献1は、レチクルが有する欠陥に起因して検査対象物上に発生したリピート欠陥を検出する手法について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公開US2018/0130199A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術は、「hot threshold」をセットすることにより、リピート欠陥である可能性がある候補をあらかじめ広範に収集しておき、その候補のなかからリピート欠陥を特定する手法を記載している(例えば同文献の0062、請求項1など参照)。この手法は、第1ステップと第2ステップを有している。第1ステップにおいては、スワス画像に対してhot threshold処理をして欠陥候補画像を抽出し、一時的に保持する。第2ステップにおいては、その画像に対し処理を加えリピート欠陥のみを抽出する。このような従来手法は、第1ステップで広範に収集した欠陥候補に対し処理を行うため、リピート欠陥を検出するまである程度の時間を要すると考えられる。
【0007】
また、特許文献1においては、リピート欠陥の検出漏れを防ぐため、第1ステップでの閾値は低く設定することが望ましい。しかし閾値を低くすればするほど、保持すべきデータ容量は増える。記憶媒体(検査装置内部・外部いずれに設けるかに関わりなく)の保持可能容量には限界があり、データ容量が増えるほど(たとえ処理方法を改善しても)処理時間が長くなるので、それに応じた閾値(感度)にならざるをえない。データ容量が大きくなるほど第2ステップでかかる処理時間が長くなる。すなわち同文献記載の技術は、リピート欠陥検出までの処理時間と感度において、依然として課題が残ると想定される。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、上記のような2段階処理ではなく、第1段階での取得画像量と処理時間または感度とのトレードオフ関係を気にすることなく、レチクルが有する欠陥を効率的かつ精度よく検出することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るレチクル欠陥検査装置は、レチクルを用いてパターンを転写した複数のパターン領域の観察画像を平均化し、パターンを相互比較する。平均化しない画像同士についても比較処理する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る検査装置は、レチクルによって転写されたパターン画像を用いてレチクル欠陥の有無をインラインで判定し、製造ラインにフィードバックすることができる。また平均パターン画像による判定結果と平均化していないパターン画像同士の相互比較による判定結果を併用することにより、ランダム欠陥とリピート欠陥を区別することができる。また、スワス画像から直接、平均パターン画像と、平均化しない画像を得て比較処理を行うため、膨大な欠陥候補情報を一時的に保存する必要がなく、データ容量による制限を気にせず、短い処理時間で微弱なリピート欠陥まで高感度に検出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係る検査装置100の構成図である。
【
図2】対象物200に対して光121を照射している様子を示す模式図である。
【
図4A】演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。
【
図4B】演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。
【
図5A】演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。
【
図5B】演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。
【
図6A】演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。
【
図6B】演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。
【
図7】半導体ウエハから半導体チップを製造する工程の概略を説明する図である。
【
図8】従来方式と本発明のレチクル欠陥検査における閾値判定の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る検査装置100の構成図である。検査装置100は、対象物200を加工する際に用いたレチクルが欠陥を有しているか否かを検査する装置である。対象物200は例えば半導体ウエハとその上に形成された半導体チップである。半導体チップにはレチクルを用いて転写された回路パターンが形成されている。
【0013】
検査装置100は、ステージ110、レーザ光源120、光学レンズ130、カメラ(センサ)140、画像取得部150、演算部160を備える。画像取得部150と演算部160は、例えばコンピュータ上に実装されたソフトウェアとして構成することもできるし、これらの機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできる。
【0014】
検査装置100は、対象物200をステージ110上に載置してその観察画像を取得することにより、対象物200にパターンを転写する際に用いるレチクルが欠陥を有しているか否かを検査する。ステージ110は、少なくとも平面方向(XY方向)において対象物200を移動させることができる。
【0015】
レーザ光源120は、対象物200に対して斜め上方から光121(観察光)を照射する。対象物200に対して光121が当たると、反射光122と散乱光123(いずれも信号光)が対象物200から生じる。散乱光123は、反射光122と比較して光強度が弱い一方で、散乱光123を用いることにより、対象物200の表面上に存在する凸欠陥(例えば異物)などに関する情報を得ることができる。
【0016】
光学レンズ130は、散乱光123をカメラ(センサ)140の撮像面へ向かわせる。カメラ(センサ)140は散乱光123を撮像する。後述する
図2に示すように、一定周期の繰り返しパターンがある場合には、繰り返しパターンの周期に相当する光をカットする、空間フィルタの前後に光学レンズ130を配置してもよい。
図1においては記載簡易化のため省略した。
【0017】
画像取得部150は、カメラ(センサ)140が取得した撮像信号を用いて対象物200の観察画像を取得する。対象物200に対して斜め上方から光121を照射することにより取得する観察画像は、暗視野画像と呼ばれる。尚、対象物からの正反射光を、対象物の上方で撮像し、明視野方式で観察画像を取得する方法でもよい。暗視野画像が、明視野画像よりも観察画像取得時間は速い。
【0018】
演算部160は、画像取得部150が取得した観察画像を用いて、対象物200にパターンを転写する際に用いるレチクルが欠陥を有しているか否かを判定する。具体的な判定手順については後述する。画像取得部150と演算部160は一体的に構成してもよい。以下では記載の便宜上、これらを区別して説明する。
【0019】
図2は、対象物200に対して光121を照射している様子を示す模式図である。レーザ光源120は、線状の光121を対象物200に対して照射する。ステージ110が移動することにより、対象物200の表面に対する光121の照射位置が走査される。線状の光121を走査することにより、複数の半導体チップにまたがる帯状の観察画像を取得することができる。
【0020】
図3は、対象物200を模式的に示す平面図である。対象物200が半導体ウエハである場合、対象物200の表面上には半導体チップ(ダイ)の回路パターンが形成されている。各半導体チップは同じ回路パターンを有する。レチクルは、1回の転写によって複数の半導体チップを形成することができるように構成されている場合がある。1回の転写単位のことをショットと呼ぶ。
図3においては1回のショットによって形成されるパターン領域210内に3つの半導体チップ211~213が形成されている例を示した。
【0021】
図4Aは、演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。ここでは
図3で説明したパターン領域210が4つ連続して並んでいる例を示した。各パターン領域210を区別するため、添え字A~Dを付与した。パターン領域210内の各半導体チップ211についても対応する添え字A~Dを付与した。
図4Aにおいて半導体チップ211は、レチクルが有する欠陥に起因するリピート欠陥220を有しているものとする。したがって半導体チップ211A~211Dは、同じ個所にリピート欠陥220を有している。
【0022】
画像取得部150は、各パターン領域210A~210Dのスワス画像を取得する。
図4Aにおいては、リピート欠陥220を含むスワス画像400を取得したものとする。
図4Aにおいて画像取得部150は、パターン領域210A~210Dにまたがって1つのスワス画像400を取得する。1つのスワス画像400はさらに、1つのパターン領域210内に形成されている半導体チップ211~213の観察画像を含む。すなわちレーザ光源120は、半導体チップ211~213を交差する方向(
図4Aの左右方向)に光121を走査し、画像取得部150は1つのスワス画像400内に半導体チップ211~213を含む観察画像を取得する。
【0023】
演算部160は、パターン領域210A~210Dそれぞれから同一の半導体チップの観察画像を取得し、それらを平均化した平均パターン画像を生成する。例えば半導体チップ211については、半導体チップ211A~211Dそれぞれの観察画像を平均化することにより、平均パターン画像411を生成する。半導体チップ212と213についても同様に、それぞれ平均パターン画像412と413を生成する。画像取得部が取得した観察画像に直接平均化処理をする。
【0024】
演算部160は、平均パターン画像411~413を相互に比較することにより、リピート欠陥が存在するか否かを判定する。レチクルが欠陥を有している場合、その欠陥は、レチクル1ショットの転写と同じ間隔で、210A~210Dに現れるので、平均化したパターン画像同士411~413の比較から信号の差分を算出すると、リピート欠陥の場合は大きく、リピート欠陥以外の部位については小さいと考えられる。したがって平均パターン画像411~413を相互比較することにより、リピート欠陥をより精度よく検出することができる。すなわちS/N比を高める効果を発揮することができる。本実施形態1における平均パターン画像411~413は、互いに「比較パターン画像」に相当する。
【0025】
図4Bは、演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。演算部160は、
図4Aで説明した手順に加えて
図4Bで説明する手順を実施する。具体的には、隣接する半導体チップの観察画像を順次比較することにより、観察画像内に欠陥が含まれるか否かを判定する。例えば両画像の差分を算出し、閾値以上の輝度値を有する部位は欠陥であると判定することができる。
図4Bに示す例において、演算部160は(1)半導体チップ211Aと212Aを比較する、(2)半導体チップ212Aと213Aを比較する、(3)半導体チップ213Aと211Bを比較する、といった手順をスワス画像400全体に対して繰り返す。
【0026】
演算部160は、
図4Aで説明した手順により特定した欠陥の欠陥らしさ、すなわち、例えば、差信号を差画像のノイズ成分で除した評価値(第1評価値)と、
図4Bで説明した手順により特定した欠陥の欠陥らしさを示す評価値(第2評価値)を、それぞれ算出する。これらの評価値は任意の手法により求めることができる。例えば画像同士を比較したときの差分の画像ノイズに対する比率が大きいほど、欠陥らしさを高く算出することができる。また、画像のノイズ量をあらかじめ計測、平均化した場合には理論的なノイズ量を算出、それぞれに適切な閾値を算出しておき、差信号の閾値に対するマージンを評価値とすることもできる。また、差信号の固定閾値に対するマージンを評価値とすることもできる。演算部160は、第1評価値のほうが第2評価値よりも高い場合、
図4Aにしたがって特定した欠陥はレチクルが有する欠陥に起因していると判定する。この理由は以下の通りである。
【0027】
リピート欠陥の場合、
図4Aで説明した手順によれば、
図4Bで説明した手順よりS/N比が高まるので、第1評価値のほうが第2評価値よりも高くなり、リピート欠陥と判定できる。一方、ランダム欠陥の場合、平均画像では欠陥信号が小さくなる。すなわち、例えば平均が9回の場合、欠陥は1か所にしか現れないので、欠陥信号は1/9になる。したがって、第1評価値のほうが第2評価値よりも小さくなり、リピート欠陥ではなく、ランダム欠陥と判定できる。以上の原理によれば、第1評価値と第2評価値を比較することにより、ランダム欠陥を排除してリピート欠陥のみを抽出することができる。
【0028】
前記リピート欠陥抽出方法では、平均パターン画像同士の比較から取得する第1評価値と平均化しない、通常のダイ同士またはレチクルのショット単位同士の画像比較から取得する第2評価値を比較し抽出したが、第2評価値を使わない方法でもよい。ダイ同士またはショット同士の比較から得られる差信号に基づきランダム欠陥候補の信号値を取得し、当該信号を平均パターン画像同士の比較において除外することもできる。
【0029】
演算部160は、検出したリピート欠陥についての情報を出力する。例えばリピート欠陥の画像、座標、半導体チップの番号、ショット番号などを出力することができる。出力先としては例えば、演算部160を搭載しているコンピュータのディスプレイ上に画面表示する、または検査装置を管理している上位のシステムに各情報を記述したデータを出力する、などが考えられる。
【0030】
<実施の形態1:まとめ>
図9に本実施形態1に係るフローを示す。検査装置100は、まず、照明光を照射しながらステージ110の移動によりウエハを走査し、ウエハからの散乱光または正反射光をカメラ(センサ)で撮像し、画像取得部でスワス画像を取得する。演算部でスワス画像を所定の領域に分け、スワス画像から平均パターン画像を生成する。レチクルからの転写によって同じ個所に形成された半導体チップ(211A~211D、212A~212D、など)の観察画像を平均化した平均パターン画像411~413同士の比較と、平均化しないパターン画像同士の比較とから、第1評価値及び第2評価値を取得する。平均化しないパターン画像同士の差信号に基づきランダム欠陥候補の信号を抽出し、それを第1評価値から除外してもよい。第1評価値と第2評価値の大小又は前記ランダム欠陥候補信号を選別することによってリピート欠陥220を抽出する。
【0031】
具体的には、
図8で示すように、例えばhot thresholdで欠陥候補画像を抽出してからリピート欠陥を抽出する従来の2段階方式では、欠陥候補数と感度の関係は曲線A-1で表される。感度が高い領域の欠陥候補には欠陥が含まれるが大多数はノイズ起因の虚報である。この場合、データ容量の制限から、閾値Aで欠陥候補を取得し、それに対する画像比較や平均化処理でリピート欠陥を抽出する。一方で、本発明では、画像取得部が取得した画像に直接平均化と比較処理を行うため、S/N比が高く、同一の感度設定であっても、欠陥候補数と感度の関係は曲線B-1で表され、A-1よりノイズに起因する欠陥候補数は非常に少なく、ほとんどが真の欠陥である。更に、データ容量制限を気にする必要がない為、Aより感度の高い感度Bでリピート欠陥検出を行うことができる。
【0032】
図10で更に詳細に説明する。検査装置100は、レチクル(例えば、領域A0と領域B0と領域C0で構成され、A0、B0、C0は同一の形状である)を用いてパターンを転写した複数のパターン領域(例えば、領域An、領域Bn、領域Cn(n=1、2、3))の観察画像を夫々平均化し、平均化したパターン(例えば領域A1と領域A2と領域A3を平均化した領域A、領域B1と領域B2と領域B3を平均化した領域B、領域C1と領域C2と領域C3を平均化した領域C)を相互比較する。これによりリピート欠陥は平均化の効果で高いS/Nで候補として判定でき、ランダム欠陥は平均化により欠陥信号が低下し低いS/Nで判定される。補助的に、平均化しない画像同士(例えば領域A1、領域B1、領域C1、領域A2、領域B2、領域C2、領域A3、領域B3、領域C3)についても比較処理する。こちらはリピート欠陥とランダム欠陥が候補として判定される。前者と後者を比較して平均化画像を用いて判定された候補のほうがより高いS/Nで判定された欠陥候補をレチクル欠陥に起因するリピート欠陥として判定する。
【0033】
図11で信号差について具体的に示す。平均化の過程において画像を9回加算した場合、欠陥信号Sは同一であるが、ノイズ成分Nは1/3に低下する。よって、S/Nは3倍となる。このことは、より微弱な欠陥(この場合には1/3の信号量しか無い微弱なリピート欠陥)を検出可能であることを示している。一方、ランダム欠陥であった場合は平均化した画像のうち1個にしか欠陥が含まれないので、欠陥の信号量は低下し、平均化しない画像を用いて検出した欠陥よりも欠陥らしさは損なわれる。このため、リピート欠陥とランダム欠陥を精度よく識別することができる。
【0034】
本実施形態1に係る検査装置100は、隣接する半導体チップ(211Aと212A、212Aと213A、など)の観察画像を順次相互比較することにより欠陥を特定する。この手順はリピート欠陥220を強調するものではないので、ランダム欠陥を検出するのにも適している。検査装置100はさらに、第1評価値が、第2評価値よりも大きい場合は、前者の欠陥がリピート欠陥(すなわちレチクルが有する欠陥に起因する欠陥)であると判定する。この手順により、レチクルが有する欠陥に起因する欠陥のみを抽出することができる。換言すると検査装置100は、ランダム欠陥候補とリピート欠陥候補をともにあらかじめ収集しておいて後の検査工程のなかで両者を弁別するのではなく、リピート欠陥候補がリピート欠陥であるか否かを逐次的に判定する。これにより、リピート欠陥のみを効率的に抽出することができる。
【0035】
本実施形態1に係る検査装置100は、スワス画像400として、複数回の転写に対応する複数のパターン領域210A~210Dにまたがる画像を取得する。スワス画像400はさらに、1つのパターン領域210のなかに配置されている複数のパターン画像(211A~213A、211B~213B、など)を含む。したがって、スワス画像400を1回取得することにより、複数のショットにまたがって観察画像を取得するとともに、1回の転写によって形成される複数の半導体チップにまたがって観察画像を取得することができる。すなわち、スワス画像400を1回取得することにより複数の半導体チップを効率的に検査することができる。
【0036】
本実施形態1に係る検査装置100は、対象物200の暗視野画像を用いて、レチクル欠陥の有無を検査する。これにより、検査工程を高速に実施することができる。さらに平均パターン画像411~413を用いることにより、検査品質を確保することができる。すなわち、検査工程の効率と品質を両立させつつ、レチクル欠陥をランダム欠陥から区別して検出することができる。
【0037】
実施形態1の第1変形例を説明する。
図4Aで抽出した欠陥部のみにおいて、
図4Bの欠陥判定方法で欠陥判定を実施し、両者の評価値の違いに基づき、リピート欠陥のみを抽出する。本変形例によれば、
図4Bの処理において検出した画像のすべてを処理する必要はなく、処理時間を短縮できる。一方、ランダム欠陥は、平均画像上では信号が小さくなり抽出することはできないが、本検査装置の目的は、リピート欠陥を抽出することであるので、問題ない。あるいは、
図4Bの欠陥判定の代わりに、平均に用いた画像の分散を演算し、分散の大きいものはランダム欠陥と判定するなど、統計処理によってリピート欠陥を抽出してもよい。
【0038】
実施形態1の第2変形例を説明する。
図4Bの欠陥判定方法において、隣接するダイとの比較ではなく、隣接するショット画像と比較して欠陥判定を実施し、両者の評価値の違いに基づき、リピート欠陥のみを抽出する。本変形例によれば、
図4Bの処理ではリピート欠陥同士の比較となり、欠陥らしさを表す評価値は極めて小さな値となり、リピート欠陥の判定はより安定する。
【0039】
<実施の形態2>
実施形態1においては、1つのスワス画像400がパターン領域210A~210Dにまたがるとともに、半導体チップ211A~213Aにまたがるように、光121を走査する例を説明した。本発明の実施形態2においては、光121の走査方向が実施形態1とは異なる例を説明する。
【0040】
図5Aは、演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。スワス画像421は、実施形態1と同様にパターン領域210A~210Dにまたがるように構成されている。ただし
図4Aとは異なり、スワス画像421は半導体チップ211(211A~211D)のみを包含するように構成されており、半導体チップ212と213はスワス画像421のなかに含まれていない。同様にスワス画像422は半導体チップ212のみを含み、スワス画像423は半導体チップ213のみを含む。半導体チップ211がリピート欠陥220を有するのは実施形態1と同様である。
【0041】
画像取得部150は、スワス画像421から半導体チップ211A~211Dの観察画像を取得する。演算部160はそれらを平均化した平均パターン画像431を生成する。画像取得部150と演算部160は、同様に半導体チップ212A~212Dを平均化した平均パターン画像432を生成し、半導体チップ213A~213Dを平均化した平均パターン画像433を生成する。
【0042】
演算部160は、平均パターン画像431~433を相互に比較することにより、リピート欠陥220が存在するか否かを判定する。実施形態1と比較すると、3つのスワス画像421~423から観察画像を取得しているので、欠陥部位のS/N比がさらに向上する利点がある。
【0043】
図5Bは、演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。記載の便宜上、一部の符号とスワス画像を示す点線枠を省略した。演算部160は、
図5Aで説明した手順に加えて
図5Bで説明する手順を実施する。
図5Bの手順は
図4Bと同様である。ただし
図5Bにおいては、半導体チップ211~213の並びが
図4Bとは異なる。説明の便宜上、本実施形態2においても、半導体チップ213Aと211Bは隣接しているものとみなす。演算処理上において、半導体チップ213Aと211Bは隣接しているものとして取り扱うのが便宜だからである。
【0044】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る検査装置100は、半導体チップごとにスワス画像421~423を取得し、それぞれの平均パターン画像431~433を生成する。これにより、実施形態1と比較してリピート欠陥220の観察画像のS/N比をさらに向上させることができる。
【0045】
<実施の形態3>
実施形態1~2においては、レチクルを用いた1回の転写によって複数の半導体チップの回路パターンが転写される例を説明した。本発明の実施形態3においては、レチクルを用いた1回の転写によって1つの半導体チップの回路パターンが転写される場合における例を説明する。
【0046】
図6Aは、演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。スワス画像440は、実施形態1と同様にパターン領域210A~210Dにまたがるように構成されている。演算部160は、パターン領域210A~210Dそれぞれから観察画像を取得し、それらを平均化した平均パターン画像441を生成する。
【0047】
演算部160はさらに、平均パターン画像441と基準パターン450を比較することにより、リピート欠陥が存在するか否かを判定する。基準パターン450は、例えば同じレチクルが転写された別のウエハから取得した平均パターン画像を取得することにより、あらかじめ準備しておくことができる。例えば平均パターン画像441と基準パターン450との間の差分が判定閾値以上である場合は、平均パターン画像441がリピート欠陥を有すると判定することができる。本実施形態3における基準パターン450は、「比較パターン画像」に相当する。
【0048】
基準パターン450は、別のレチクルでパターンを形成した半導体チップ211の観察画像を取得することにより、あらかじめ準備しておくことができる。この場合には、欠陥は、基準パターン、または検査対象のいずれにあるか特定することはできない。一般に散乱光を検出する検査装置の場合、欠陥部分は大きな信号量となる特徴があるので、信号量の大きいほうに欠陥があると判定することができる。また、2種類の基準パターン、または2種類の観察パターンを用いることにより、共通部分として欠陥を特定することができる。
【0049】
図6Bは、演算部160がレチクル欠陥の有無を判定する手順を説明する図である。演算部160は、
図6Aで説明した手順に加えて
図6Bで説明する手順を実施する。
図6Bの手順は
図4Bと同様である。
図6Bにおいては、1回の転写により1つの半導体チップ211が転写されるので、半導体チップ211A~211Dいずれもリピート欠陥220を有している。演算部160は、スワス画像440全体に対して、これらを順次相互比較する手順を繰り返すことにより、観察画像内に欠陥が含まれるか否かを判定する。
【0050】
図6Bにおいては、半導体チップ211A~211Dいずれもリピート欠陥220を有しているので、これらを相互比較することにより求めた第2評価値は、第1評価値よりも小さいと考えられる。したがって本実施形態3においても、実施形態1~2と同様の手順により、リピート欠陥220を抽出することができる。
【0051】
<実施の形態3:まとめ>
本実施形態3に係る検査装置100は、1回の転写により1つの半導体チップ211の回路パターンが転写される場合において、実施形態1~2と同様に平均パターン画像441を生成し、これを基準パターン450と比較することによりリピート欠陥220を検出する。したがって、1回の転写により1つの半導体チップ211の回路パターンが転写される場合においても、実施形態1~2と同様の手順によりリピート欠陥220を検出することができる。換言すると、実施形態1~2と同様の検査手順により、様々な回路パターンに対処することができる。
【0052】
<実施の形態4>
図7は、半導体ウエハから半導体チップを製造する工程の概略を説明する図である。半導体ウエハに対してフォトリソグラフィの露光工程により回路パターンを転写し、エッチング工程によってパターンを加工し、さらに成膜工程によって厚さ方向に各層の構造を積層する。完成した半導体チップはダイシング工程によって個々に分離される。
【0053】
検査装置100は、レチクルから転写されたパターンの観察画像を用いてリピート欠陥をインラインで検査できる。
【0054】
図7に示すように、製造工程の途中段階においてインライン検査装置でレチクル欠陥の有無を判定することにより、レチクルが有する欠陥を製造工程のより早い段階において検出でき、以後はそのレチクルを使用しないように製造工程を修正することができるので、その結果として半導体製造工程の品質と効率を向上させることができる。
【0055】
また、更なる半導体パターンの微細化やレチクルそのものの材質変化によりレチクル自体の検査ができない場合も想定される。その場合にも検査装置100は、レチクルを転写したウエハからレチクル欠陥を検出できる。
【0056】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0057】
以上の実施形態においては、検査装置100が検査する対象物200の例として半導体ウエハとその上に形成される半導体チップを例示したが、レチクルを用いてパターンを転写する限りにおいては、その他の対象物に対して本発明に係る検査装置100を用いることができる。
【0058】
以上の実施形態においては、ステージ110が移動することにより光121の照射位置を走査することを説明したが、適当な光学系を用いて光121を屈折させるなどによって照射位置を走査してもよい。さらにはこれらを組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0059】
100:検査装置
110:ステージ
120:レーザ光源
130:光学レンズ
140:カメラ(センサ)
150:画像取得部
160:演算部
200:対象物
210:パターン領域
211~213:半導体チップ