(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043696
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】調理済み麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220309BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149117
(22)【出願日】2020-09-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦行
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA05
4B046LB09
4B046LB10
4B046LC17
4B046LE06
4B046LG04
4B046LG29
4B046LP03
4B046LP10
4B046LP15
4B046LP41
4B046LP80
(57)【要約】
【課題】良好な風味と食感を有し、かつ該良好な風味と食感を冷蔵又は冷凍保存後にも保つことができる調理済み麺類の提供。
【解決手段】調理済み麺類の製造方法。該方法は、α化した麺類を炒める工程を含み、該α化した麺類は、多層構造を有する多層麺類をα化したものであり、該多層構造の両外層を構成する麺生地のpHが8.5~11.5であり、かつ該多層構造の内層を構成する麺生地のpHが4.5~7.0である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理済み麺類の製造方法であって、
該方法は、α化した麺類を炒める工程を含み、
該α化した麺類は、多層構造を有する多層麺類をα化したものであり、
該多層構造の両外層を構成する麺生地のpHが8.5~11.5であり、かつ該多層構造の内層を構成する麺生地のpHが4.5~7.0である、
方法。
【請求項2】
前記多層麺類が三層麺である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記両外層の麺生地が油脂を含有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記両外層の麺生地が、原料粉100質量部あたり水分25~33質量部を含有する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記両外層の厚みが、それぞれ、前記多層麺類の全厚に対して10~40%である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記内層を構成する麺生地が、原料粉とpH5.6~6.0の水溶液から調製されており、該水溶液は、有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記両外層及び内層を構成する麺生地の原料粉が小麦粉を80質量%以上含有する、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記調理済み麺類を冷蔵又は冷凍保存することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理済み麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麺生地のpHを調整することで茹で麺の品質を向上させる技術が開示されている。特許文献1には、pH4.0~5.5の弱酸性のA層とpH8.5~11.5の弱アルカリ性のB層とを含み、かつA層が最外層を構成する多層麺が記載されている。特許文献2には、pHが7.2~9.4となる量のかん水を含む内層とpHが4.0~7.0の外層とからなる多層麺が記載されている。特許文献3には、A層及びB層を含む多層構造を有し、最外層であるA層が、小麦粉を50質量以上含む原料粉と、pH5.6~6.0の水溶液から調製されており、該pH5.6~6.0の水溶液は、有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上を該原料粉100質量部あたりの合計量で0.0001~0.1質量部含有し、該B層用の麺生地はpH7.0以上である、多層麺の製造方法が記載されている。特許文献4には、炭酸ソーダ、食塩、アルギン酸を含む練水と小麦粉、澱粉とを混錬してpH7.4の外層用麺生地を調製し、一方、食塩、緩衝乳酸を含む練水と小麦粉、澱粉とを混錬してpH4.9の内層用麺生地を調製し、次いでそれらを用いて外層/内層/外層からなる麺線を製造した後、蒸煮してカットし、乳酸溶液中で15分茹でた後、パウチに封入し、加熱殺菌して即席麺を製造したことが記載されている。
【0003】
特許文献5には、外層に内層よりも多くの油脂類を含む、炒め調理又は焼き調理用の多層麺が記載されている。特許文献6には、外層が、内層よりも低加水量でかつ小麦ふすま及び/又は小麦胚芽を含む麺生地から製造されている多層麺が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-154725号公報
【特許文献2】特開平5-049425号公報
【特許文献3】特許第6600436号公報
【特許文献4】特開平6-217722号公報
【特許文献5】特許第6378596号公報
【特許文献6】特許第5809030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炒めた麺の香ばしい風味と、粘りのある良好な食感とを有し、かつそれらの風味と食感を冷蔵又は冷凍保存後にも保つことができる調理済み麺類、及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、調理済み麺類の製造方法であって、
該方法は、α化した麺類を炒める工程を含み、
該α化した麺類は、多層構造を有する多層麺類をα化したものであり、
該多層構造の両外層を構成する麺生地のpHが8.5~11.5であり、かつ該多層構造の内層を構成する麺生地のpHが4.5~7.0である、
方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炒めた麺の香ばしい風味を有し、かつ粘りのある良好な食感を有する調理済み麺類を製造することができる。本発明により製造された調理済み麺類は、冷蔵又は冷凍保存しても該良好な風味と食感を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で製造される調理済み麺類としては、パスタ類、うどん、中華麺、冷や麦、素麺、そばなどの麺類を炒め調理したものが挙げられ、例えば、焼きそば、焼うどん、焼パスタなどが挙げられる。該炒め調理される麺類は、麺線であっても麺皮であってもよい。例えば、該パスタ類は、ショートパスタ、ロングパスタ、平打ちパスタなどのいずれの形状であってもよい。
【0009】
本発明で用いられる麺類は、多層構造を有する多層麺類である。該多層麺類は、公知の方法によって製造され得る。好ましくは、該多層麺類は、内層麺帯と外層麺帯とを積層して多層麺帯を作製し、次いで該多層麺帯を圧延し、製麺することによって製造される。より詳細には、内層用生地から内層麺帯を作製し、別途、外層用生地から外層麺帯を作製する。該内層麺帯は、一層であってもよく、又は組成の異なる生地から調製された複数の層を有していてもよい。次いで、該内層麺帯を該外層麺帯で両側から挟み込んで、多層麺帯を作製する。該多層麺帯を圧延し、製麺することにより、二つの外層(最外層)とその間の内層とを含む多層構造を有する多層麺類を製造することができる。
【0010】
本発明で用いられる多層麺類の外層及び内層の原料粉は、好ましくは穀粉類を含有する。該穀粉類の例としては、小麦粉、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、そば粉、大豆粉、コーンフラワー、オーツ麦粉、ライ麦粉、ふすま粉などが挙げられ、好ましくは小麦粉、米粉、大麦粉、モチ大麦粉、及びそば粉が挙げられる。これらの穀粉類は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該外層及び内層の原料粉は、その全量中に、該穀粉類を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有する。
【0011】
好ましくは、該外層及び内層の原料粉は小麦粉を含む。好ましくは、該外層及び内層の原料粉は、その全量中に、小麦粉を50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有する。また好ましくは、該外層及び内層の原料粉に使用される穀粉類の80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%が小麦粉である。該小麦粉は、麺類の製造に一般に使用されるものであればよく、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、熱処理小麦粉(例えばα化小麦粉、部分α化小麦粉、焙焼小麦粉)などが挙げられる。これらの小麦粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。ただし、該外層及び内層の原料粉における熱処理小麦粉の量は20質量%以下であることが好ましい。該原料粉に用いる小麦粉の粒径は特に限定されない。
【0012】
該外層及び内層の原料粉は、必要に応じて澱粉類を含有していてもよい。該澱粉類の例としては、特に限定されず、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及びそれらを加工(例えば、架橋化、リン酸化、アセチル化、エーテル化、酸化、α化など)した加工澱粉が挙げられる。本発明において、これら未加工澱粉及び加工澱粉は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。好ましくは、該澱粉類はタピオカ澱粉である。また好ましくは、該澱粉類は加工澱粉である。より好ましくは、該澱粉類は加工タピオカ澱粉であり、さらに好ましくは、アセチル化、エーテル化及び架橋化からなる群より選択される1種以上の加工を行った加工タピオカ澱粉である。該外層及び内層の原料粉が澱粉類を含有する場合、該澱粉類の含有量は、該原料粉の全量中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0013】
該外層及び内層の原料粉は、穀粉類、澱粉類に加えて、麺類の製造に従来用いられる他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分としては、小麦蛋白質(グルテン)、大豆蛋白質、乳蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材、ならびに、油脂類、かんすい、焼成カルシウム、食物繊維、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン、ミネラル、栄養強化剤、色素、香料、デキストリン(難消化性含む)、膨張剤、増粘剤、乳化剤、保水剤、保存剤、酵素剤、pH調整剤、酸化還元剤などが挙げられる。該外層及び内層の原料粉における該他の成分の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは0~10質量%である。
【0014】
該外層及び内層の原料粉の組成は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、該外層及び内層の原料粉に含まれる穀粉類、澱粉類及び他の材料の種類や量は、同じであっても異なっていてもよい。
【0015】
該外層及び内層の原料粉のそれぞれに、常法に従って水分を添加し、混捏することにより外層用生地及び内層用生地を調製することができる。該外層用生地及び内層用生地の調製に用いられる水分としては、麺生地の製造に通常用いられる練水、例えば水、塩水、かん水、酸性溶液などを用いることができる。該外層用生地及び内層用生地から多層麺類が製造される。より詳細には、該多層麺類は、その最外層の両側が該外層用生地から構成され、該最外層の内側の層が該内層用生地から構成されている。
【0016】
本発明で用いられる外層用生地は、pH8.5~11.5、好ましくはpH9~11.5、より好ましくはpH9.5~11の麺生地である。外層用生地のpHが低すぎると、炒め調理した多層麺類の風味が低下する。他方、外層用生地のpHが高すぎると、炒め調理した多層麺類が麺荒れし食感が低減する恐れがある。該外層用生地のpHは、アルカリ剤を用いて調整することができる。該アルカリ剤としては、例えば、かんすい、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。該アルカリ剤は、粉体、水溶液等の任意の形態で該外層用生地の調製に使用されればよい。好ましくは、該外層用生地は、該アルカリ剤を含む水溶液を練水として該外層の原料粉に添加し、混捏することで調製される。得られた該外層用生地が所望のpHになるように、該アルカリ剤の使用量を適宜調整すればよい。該外層用生地の調製に用いられる練水の量は、練水の水分量として、原料粉100質量部あたり、好ましくは25~50質量部、より好ましくは25~35質量部、さらに好ましくは25~33質量部、なお好ましくは25~30質量部である。
【0017】
好ましくは、該外層用生地は油脂を含有する。外層用生地に油脂を添加することで、炒め調理した多層麺類の香ばしい風味が向上する。該油脂としては、通常使用される食用油脂であればよく、例えばバター、牛脂、豚脂等の動物性油脂;サラダ油、コーン油、菜種油、大豆油、紅花油、なたね油、パーム油、綿実油、ひまわり油、米ぬか油、ゴマ油、オリーブ油等の植物性油脂;これらの硬化油脂;これらの混合油脂;及び、香味油としてオリーブ油、焙煎ゴマ油、焙煎大豆油、焙煎菜種油、アーモンド油、クルミ油、ピーナッツ油、ヘーゼルナッツ油、マカダミアナッツ油、ネギ油、ガーリック油、ラー油、バターフレーバー油、などが挙げられる。これらの油脂は、いずれか単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。該外層用生地における該油脂の量は、原料粉100質量部あたり、好ましくは2~15質量部、より好ましくは3~10質量部である。油脂の量が少なすぎると、油脂による風味向上効果が充分に得られない。他方、油脂の量が多すぎると、炒め調理した多層麺類が麺荒れし食感が低減する恐れがある。
【0018】
一方、本発明で用いられる内層用生地は、炒め調理した多層麺類の食感向上の観点から、pH4.5~7.0、好ましくはpH5.5~7.0、より好ましくはpH5.5~6.3の麺生地である。該内層用生地は、上述したように、原料粉と水、塩水、酸性溶液などの練水とを混捏することで調製することができる。あるいは、該内層用生地のpHは、有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩などのpH調整剤を用いて調整することができる。該pH調整剤は、粉体、水溶液等の任意の形態で該内層用生地の調製に使用されればよい。得られた該内層用生地が所望のpHになるように、該pH調整剤の使用量を適宜調整すればよい。該内層用生地の調製に用いられる練水の量は、練水の水分量として、原料粉100質量部あたり、好ましくは25~50質量部、より好ましくは30~45質量部である。
【0019】
好ましくは、該内層用生地は、上述した原料粉と弱酸性水溶液から調製される。該弱酸性水溶液を、該内層の原料粉に添加し、混捏することで該内層用生地が調製される。すなわち、該弱酸性水溶液は、該内層用生地の調製用の練水として使用される。該弱酸性水溶液は、好ましくはpH5.6~6.0、より好ましくはpH5.7~5.9、さらに好ましくはpH5.75~5.85である。該弱酸性水溶液のpHが上記の範囲であると、炒め調理した多層麺類の食感がより向上する。好ましくは、該弱酸性水溶液は、有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上を含有する。より好ましくは、該弱酸性水溶液は、有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上を用いて上述のpHに調整された、該有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上の水溶液である。該弱酸性水溶液中に含まれる該有機酸、有機酸塩、リン酸及びリン酸塩の合計量(乾物換算)は、該内層の原料粉100質量部あたり、好ましくは0.0001~0.1質量部である。
【0020】
該有機酸の例としては、一価~三価の有機酸、例えばクエン酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、コハク酸、アジピン酸、乳酸、酢酸、イタコン酸、フィチン酸及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、好ましい例としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、イタコン酸、フィチン酸及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、より好ましい例としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、さらに好ましい例は、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸又は酒石酸であり、さらに好ましい例は、クエン酸、リンゴ酸又はグルコン酸である。該有機酸塩の例としては、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、イタコン酸塩、フィチン酸塩及び酒石酸塩からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、好ましい例としては、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩及び酒石酸塩からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられ、さらに好ましい例は、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩又は酒石酸塩であり、さらに好ましい例は、クエン酸塩、リンゴ酸塩又はグルコン酸塩である。該塩の種類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられるが、ナトリウム塩及びカリウム塩が好ましい。該リン酸及びリン酸塩は、食用に用いられるものであればよく、該リン酸塩の例としては、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム等の単リン酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩等の重合又は縮合リン酸塩が挙げられる。好ましくは、該弱酸性水溶液は、有機酸及び有機酸塩の水溶液であるか、又は有機酸、有機酸塩及びリン酸塩の水溶液である。その際、該有機酸、有機酸塩及びリン酸塩の好ましい例は上述したとおりであり、またこれらの水溶液中における該有機酸及び有機酸塩の質量比は、それらの種類により異なり得るが、通常は有機酸:有機酸塩=1:0.5~20であればよく、好ましくは1:0.5~5、より好ましくは1:1~4である。また、該有機酸塩の有機酸は、併用される有機酸と同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよいが、好ましくは同じ種類のものである。
【0021】
該内層用生地の調製における該弱酸性水溶液の使用量は、上記で規定した、原料粉に対する有機酸、有機酸塩、リン酸及びリン酸塩の量、該水溶液のpHの範囲、所望される麺生地のpHや水分量などに従い適宜調整され得る。好ましくは、該弱酸性水溶液の使用量は、上述したとおり、該水溶液の水分量として、内層の原料粉100質量部あたり、好ましくは25~50質量部、より好ましくは30~45質量部である。
【0022】
本明細書において、水溶液のpHは、温度25℃でのpH値を表す。また本明細書において、麺生地のpHとは、麺生地(調製後、加熱調理又は乾燥していないもの)1gを水10mLに懸濁させた懸濁液のpH(25℃)をいう。また本明細書において、原料粉のpHとは、原料粉1gを水10mLに懸濁させた懸濁液のpH(25℃)をいう。
【0023】
次いで、得られた外層用生地及び内層用生地をそれぞれ圧延すれば、外層麺帯及び内層麺帯を得ることができる。該内層麺帯を該外層麺帯で両側から挟み込んで、多層麺帯を作製し、圧延し、製麺することにより、多層麺類を製造することができる。本発明で用いる多層麺類は、その最外層の両側を該外層用生地から作製し、該最外層の内側の層を該内層用生地から作製すること以外は、従来の多層麺類の製造方法と同様の手順で製造することができる。例えば、圧延と製麺の手段としては、押出し、ロールによる圧延と切出し、などが挙げられるが、特に限定されない。
【0024】
本発明で用いられる多層麺類は、二つの外層(最外層)の間に一層以上の内層を含む三層以上の層構造を有していればよい。例えば、該多層麺類は、二つの外層と一つの内層を含む三層麺であってもよいが、二つの外層と二層以上の内層とを有する四層以上の麺であってもよい。好ましくは、該多層麺類は三層麺である。該内層が二層以上である場合、各々の層は、上述した内層の原料粉の組成の範囲内において、組成の異なる生地から調製されていてもよい。
【0025】
該多層麺類における該二つの外層のそれぞれの厚みは、該多層麺類の全厚に対して、好ましくは16~40%、より好ましくは25~35%である。外層が薄すぎたり厚くなりすぎると、炒め調理した麺類の食感が十分向上しないことがある。
【0026】
得られた多層麺類は、炒め工程の前にα化することが好ましい。α化の手段としては、茹で、蒸しなどが挙げられる。該α化した麺類は、炒め工程の前に冷蔵又は冷凍保存されてもよい。好ましくは、該α化及び炒め工程に供される多層麺類は、乾麺又は半乾燥麺ではなく、該多層麺類は、生麺として製造された後、乾燥処理されることなく該α化及び炒め工程に供される。
【0027】
該多層麺類を炒めることで、調理済み麺類が製造される。麺類の炒め工程は、麺類の炒め調理の通常の手順に従って行うことができる。例えば、加熱した鉄板、フライパン、鍋などを用いて、麺類を油脂と共に炒めればよい。麺類を油脂と共に炒めることで、調理済み麺類において、炒めによる香ばしい風味がさらに際立つ。炒め用の油脂は、α化した麺100質量部あたり、好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~6質量部用いられる。該油脂は、炒め調理の際に麺に全量添加してもよいが、一部の量を炒め調理の前に予め麺と和えておき、残りを炒め調理の際に添加してもよい。
【0028】
好ましくは、該炒め工程では、麺類はソース等の調味料と共に炒め調理される。該調味料としては、いずれの種類を用いてもよく、また粉末等の固体でも液状でもよいが、焼きそば、焼うどん、焼きパスタなどの調理で使用されるスープやソースなどの液状調味料が好ましい。該液状調味料の好ましい例としては、焼きそば用ソース、ウスターソース、塩だれ、醤油だれ、味噌だれ、ナポリタンソースなどが挙げられるが、これらに限定されない。また好ましくは、該炒め工程では、麺類を具材と共に炒めてもよい。
【0029】
本発明により製造された調理済み麺類は、直ちに喫食されてもよいが、冷蔵又は冷凍保存されてもよい。該調理済み麺類は、冷蔵又は冷凍保存後にも、炒めた麺の香ばしい風味と、粘りのある良好な食感とを保持することができる。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0031】
1.焼きそば
1)単層麺(対照例)の製造
表1に示す組成で原料粉に練水を加え、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。得られた生地を製麺ロールで圧延及び複合して麺帯を作製し、切り刃(♯18角)で切り出して中華麺の麺線を製造した(麺厚1.5mm)。
【0032】
2)多層麺の製造
外層:表1に示す組成で原料粉に練水を加え、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。生地のpHが表1に示す値となるように、練水に適量のかんすいを添加した。得られた生地を圧延して厚さ7mmの外層用麺帯を得た。
内層:表1に示す組成で原料粉に練水を加え、減圧(-0.093MPa)下で混捏して生地を調製した。得られた生地を圧延して厚さ7mmの内層用麺帯を得た。
2枚の外層用麺帯の間に内層用麺帯を配置して積層し、圧延して、外層と内層の厚比が1/1/1の三層麺帯を作製した。得られた麺帯を切り刃(♯18角)で切り出して中華麺(三層麺)の麺線を製造した(麺厚1.5mm)。
【0033】
3)焼きそばの製造
1)又は2)で得られた中華麺から焼きそばを製造した。麺線を茹で歩留175%となるように茹で、水洗、水切りし、得られた茹で麺を24時間5℃で保存した。フライパンにサラダ油10gを投入し、1分間加熱した後、該冷蔵保存した茹で麺500gを投入して2分間炒め、ソース140gを投入してさらに2分間炒めて、焼きそばを製造した。
【0034】
4)評価
得られた焼きそばを24時間冷蔵保存した後、電子レンジで再加熱し、官能評価した。官能評価では、訓練されたパネラー10人が、再加熱した焼きそばの風味(麺を炒めたときに得られる香ばしさ、「炒め感」と称する)、及び食感(粘り)を下記評価基準で官能評価し、その平均点を求めた。結果を表1に示す。
<評価基準>
(風味)
5点:対照例よりも炒め感に優れる
4点:対照例と同等の炒め感である
3点:対照例よりもわずかに劣る炒め感である(及第点)
2点:対照例よりも炒め感がやや劣る
1点:対照例よりも炒め感が劣る
(食感)
5点:対照例よりも粘りに優れる
4点:対照例よりも粘りにやや優れる
3点:対照例と同等の粘りを有する
2点:対照例よりもやや粘りに劣る
1点:対照例よりも粘りに劣る
【0035】
【0036】
2.焼きそば
表2に示す組成の原料粉を用いて、1.2)と同様の手順で三層麺を製造し、それを用いて1.3)と同様の手順で焼きそばを製造した。得られた焼きそばを1.4)と同様の手順で官能評価した。対照例には1.1)の単層麺を用いた。結果を表2に示す。表2には製造例1-1の結果を再掲する。
【0037】
【0038】
3.焼きそば
1.2)で示した製造例1-1と同様の手順で、ただし外層と内層の厚比を表3のとおりに変えて三層麺を製造し、それを用いて1.3)と同様の手順で焼きそばを製造した。得られた焼きそばを1.4)と同様の手順で官能評価した。対照例には1.1)の単層麺を用いた。結果を表3に示す。表3には製造例1-1の結果を再掲する。
【0039】
【0040】
4.焼きそば
1)リンゴ酸/リンゴ酸塩水溶液の調製
DL-リンゴ酸とDL-リンゴ酸ナトリウムとを1:3の質量比で混合した。この混合物を濃度1質量%になるよう水に溶解させ、pH約4.3のDL-リンゴ酸/DL-リンゴ酸ナトリウム1質量%水溶液(リンゴ酸/リンゴ酸塩水溶液)を調製した。該水溶液と水とを混合して、表4に示すpHを有する弱酸性水溶液を調製した。
【0041】
2)多層麺の製造
外層:上記1.2)と同様の手順で外層用麺帯を得た。
内層:1)で調製した弱酸性水溶液を練水に用いた以外は、上記1.2)と同様の手順で内層用麺帯を得た。
2枚の外層用麺帯の間に内層用麺帯を配置して積層し、圧延して、外層と内層の厚比が1/1/1の三層麺帯を作製した。得られた麺帯を切り刃(♯18角)で切り出して中華麺(三層麺)の麺線を製造した(麺厚1.5mm)。
【0042】
得られた中華麺から1.3)と同様の手順で焼きそばを製造した。得られた焼きそばを1.4)と同様の手順で官能評価した。対照例には1.1)の単層麺を用いた。結果を表4に示す。表4には製造例1-1の結果を再掲する。
【0043】
前記内層を構成する麺生地が、原料粉とpH5.6~6.0の水溶液から調製されており、該水溶液は、有機酸、有機酸塩、リン酸、及びリン酸塩からなる群より選択される1種以上を含有する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。