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特開2022-44614フルオロスルホニル基又はスルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及び用途
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  • 特開-フルオロスルホニル基又はスルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及び用途 図1
  • 特開-フルオロスルホニル基又はスルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及び用途 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044614
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】フルオロスルホニル基又はスルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/24 20060101AFI20220310BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220310BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20220310BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20220310BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220310BHJP
【FI】
C08F16/24
C08J5/18
H01M8/1039
H01M8/1067
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213021
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2019539677の分割
【原出願日】2018-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2017168659
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018091756
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018091757
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】上牟田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】民辻 慎哉
(57)【要約】
【課題】イオン交換容量及び高温での機械的強度が高いスルホン酸基含有ポリマーが得られ、取扱性や保存安定性に優れ、かつ従来のものに比べ安価であるフルオロスルホニル基含有若しくはスルホン酸基含有ポリマー及びそのポリマーの製造方法、そのポリマーを含む液状組成物、そのポリマーを含む膜及び製造方法、そのポリマーを含む膜の各種の用途の提供。
【解決手段】下式u1で表される単位を有するフルオロスルホニル基含有ポリマー、フルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したスルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及び用途。
[化1]
ただし、RF1及びRF2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.9×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である、酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマー。
【請求項2】
イオン交換容量が0.9ミリ当量/g乾燥樹脂以上である、請求項1に記載の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーを含む、固体高分子電解質膜。
【請求項4】
膜厚が5~200μmである、請求項3に記載の固体高分子電解質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホニル基含有ポリマー、スルホン酸基含有ポリマー、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解に用いられる陽イオン交換膜等に含まれるポリマーには、イオン交換容量が高いことが望まれている。イオン交換容量が高いとイオン導電率が向上するため、例えば、固体高分子形燃料電池の発電性能の向上や、塩化アルカリ電解における膜抵抗等の過電圧の低下による電力原単位の減少といった実用上の利点が期待できる。
【0003】
イオン交換容量が高いポリマーとしては、1分子中に2個のフルオロスルホニル基を有するモノマーに基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位とを有するフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したスルホン酸基含有ポリマーが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/003062号
【特許文献2】国際公開第2007/013532号
【特許文献3】国際公開第2007/013533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量を充分に高くする場合、フルオロスルホニル基含有ポリマー中のフルオロスルホニル基含有モノマーに基づく単位の割合を増やす必要がある。そのため、下記の問題が発生する。
・フルオロスルホニル基含有ポリマー中のフルオロスルホニル基含有モノマーに基づく単位の割合を増やすと、フルオロスルホニル基含有ポリマーのガラス転移温度が低下し、フルオロスルホニル基含有ポリマーの取扱性や保存安定性が低下する。
・フルオロスルホニル基含有ポリマーのガラス転移温度が低下すると、スルホン酸基含有ポリマーの軟化温度も低下する。また、フルオロスルホニル基含有ポリマー中のフルオロスルホニル基含有モノマーに基づく単位の割合を増やすと、スルホン酸基含有ポリマー中のスルホン酸基含有単位の割合も増え、スルホン酸基含有ポリマーの含水率が増大する。その結果、スルホン酸基含有ポリマーを含む膜の高温での機械的強度が低下する。
・フルオロスルホニル基含有モノマーは高価であるため、フルオロスルホニル基含有ポリマー中のフルオロスルホニル基含有モノマーに基づく単位の割合を増やすと、フルオロスルホニル基含有ポリマー及びスルホン酸基含有ポリマーも高価になる。
【0006】
本発明の目的は、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高いスルホン酸基含有ポリマーが得られ、取扱性や保存安定性に優れ、かつ従来のものに比べ安価であるフルオロスルホニル基含有若しくはスルホン酸基含有ポリマー及びそのポリマーの製造方法、そのポリマーを含む液状組成物、そのポリマーを含む膜及び製造方法、そのポリマーを含む膜の各種の用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>下式u1で表される単位を有する、フルオロスルホニル基含有ポリマー。
【化1】
ただし、RF1及びRF2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。
<2>テトラフルオロエチレンに基づく単位をさらに有する、前記<1>のフルオロスルホニル基含有ポリマー。
<3>容量流速値(TQ値)が200~330℃である、前記<1>又は<2>のフルオロスルホニル基含有ポリマー。
<4>ガラス転移温度(Tg)が5~70℃である、前記<1>~<3>のフルオロスルホニル基含有ポリマー。
<5>下式u2で表される単位を有する、スルホン酸基含有ポリマー。
【化2】
ただし、RF1及びRF2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Zは、H、金属イオン、又はアンモニウムイオンである。
<6>テトラフルオロエチレンに基づく単位をさらに有する、前記<5>のスルホン酸基含有ポリマー。
<7>イオン交換容量が0.5~2.5ミリ当量/g乾燥樹脂である、前記<5>又は<6>のスルホン酸基含有ポリマー。
<8>軟化温度が100~180℃である、前記<5>~<7>のスルホン酸基含有ポリマー。
<9>含水率(質量基準)が30~300%である、前記<5>~<8>のスルホン酸基含有ポリマー。
<10>前記<1>~<4>のフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とする、又は前記<1>又は<2>のフルオロスルホニル基含有ポリマーのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とし、前記塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基とする、スルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
<11>加水分解又は酸型化の後に、スルホン酸基含有ポリマーを過酸化水素水に浸漬する、前記<10>のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法。
<12>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーと、液状媒体とを含む、液状組成物。
<13>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む、膜。
<14>補強材をさらに含む、前記<13>の膜。
<15>前記<12>の液状組成物を基材に塗布し、乾燥させる、膜の製造方法。
<16>前記<1>~<4>のフルオロスルホニル基含有ポリマーを膜状に押出成形した後、フルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する、膜の製造方法。
<17>前記<12>の液状組成物を補強材に含浸し、乾燥させる、膜の製造方法。
<18>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む固体高分子電解質膜。
<19>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーと触媒とを含む、触媒層。
<20>カソードの触媒層、アノードの触媒層及び固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む、膜電極接合体。
<21>前記<20>の膜電極接合体を備えた、固体高分子形燃料電池。
<22>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む、塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜。
<23>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む、水電解用イオン交換膜。
<24>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む、レドックスフロー二次電池用隔膜。
<25>前記<5>~<9>のスルホン酸基含有ポリマーを含む、電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜。
<26>温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.9×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)以下である、酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマー。
<27>イオン交換容量が0.9ミリ当量/g乾燥樹脂以上である、前記<26>の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマー。
<28>前記<26>又は<27>の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーを含む、固体高分子電解質膜。
<29>膜厚が5~200μmである前記<28>の固体高分子電解質膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマーによれば、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高いスルホン酸基含有ポリマーが得られ、取扱性や保存安定性に優れ、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明のスルホン酸基含有ポリマーは、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明のスルホン酸基含有ポリマーの製造方法によれば、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価であるスルホン酸基含有ポリマーを製造できる。
【0009】
本発明の液状組成物によれば、イオン交換容量が高いポリマーを含む、高温での機械的強度が高い膜を形成でき、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の膜は、イオン交換容量が高いポリマーを含み、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の膜の製造方法によれば、イオン交換容量が高いポリマーを含み、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である膜を製造できる。
本発明の固体高分子電解質膜によれば、発電性能に優れた膜電極接合体が得られ、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0010】
本発明の触媒層によれば、発電性能に優れた膜電極接合体が得られ、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の膜電極接合体は、発電性能に優れ、固体高分子電解質膜又は触媒層の高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の固体高分子形燃料電池は、発電性能に優れ、固体高分子電解質膜又は触媒層の高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜は、塩化アルカリ電解における膜抵抗等の過電圧を低下できることから電力原単位を減少でき、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0011】
本発明の水電解用イオン交換膜は、水電解における膜抵抗等の過電圧を低下できることから電力原単位を減少でき、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明のレドックスフロー二次電池用隔膜は、高いプロトン透過性を有し、イオン輸送抵抗が低く、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜は、プロトン輸送や水素の昇圧に要する電力原単位が低く、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーは、イオン交換容量が高く、水素ガスの透過性が低く、かつ従来のものに比べ安価である。
本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーを含む固体高分子電解質膜は、膜のイオン輸送抵抗が低く、水素ガスバリア性が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の膜電極接合体の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(用語の定義など)
以下の用語の定義および記載の仕方は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
式1で表される化合物を「化合物1」と記す。他の式で表される化合物もこれに準じて記す。
式u1で表される単位を「単位u1」と記す。他の式で表される構成単位もこれに準じて記す。
「モノマーに基づく単位」は、モノマー1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。
「スルホン酸基」とは、塩型のスルホン酸基(-SO 。ただし、Mは金属イオン又はアンモニウムイオンである。)及び酸型のスルホン酸基(-SO )の総称である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
(フルオロスルホニル基含有モノマー)
本発明におけるフルオロスルホニル基含有モノマーは、化合物7であり、本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマーの製造に用いられる。
【化3】
【0015】
ただし、RF1及びRF2は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基である。RF1及びRF2は同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
F1及びRF2としては、-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CFCF)-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-C(CF)(CF)-などが挙げられる。原料がより安価であり、化合物7の製造が容易であり、また、フルオロスルホニル基含有モノマーから製造されるスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量をより高くできる点から、RF1及びRF2は、炭素数1~2が好ましく、また直鎖が好ましい。具体的には、-CF-、-CFCF-、又は-CF(CF)-が好ましく、-CF-がより好ましい。
【0017】
化合物7としては、例えば、化合物7-1が挙げられる。
【化4】
【0018】
化合物7の中間体として有用なフルオロスルホニル基含有化合物としては、化合物4又は化合物5が挙げられる。化合物5は、フッ化水素(HF)の存在下では、O=C<部分にフッ化水素が付加してHO-CF<となったアルコール体と平衡状態にあるか、アルコール体となっている場合がある。本明細書においては、単に化合物5と記載した場合でも、化合物5及びアルコール体のいずれか一方又は両方を表していることがある。
【0019】
【化5】
【0020】
ただし、R及びRは、炭素数1~3のアルキレン基である。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
及びRとしては、-CH-、-CHCH-、-CH(CH)-、-CHCHCH-、-CH(CHCH)-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)-、-C(CH)(CH)-などが挙げられる。原料の化合物1がより安価であり、化合物5の製造が容易であり、また、中間体から製造されるスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量をより高くできる点から、R及びRは、炭素数1~2が好ましく、また直鎖が好ましい。具体的には、-CH-、-CHCH-、又は-CH(CH)-が好ましく、-CH-がより好ましい。
F1及びRF2は、化合物7で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0021】
化合物4及び化合物5は、以下のようにして製造できる。
化合物1とスルホン化剤とを反応させて化合物2を得て、化合物2と塩素化剤とを反応させて化合物3を得て、化合物3とフッ素化剤とを反応させて化合物4を得て、化合物4をフッ素化処理して化合物5を得る。
【0022】
【化6】
【0023】
及びRは、化合物4で説明したR及びRと同じであり、好ましい形態も同様である。RF1及びRF2は、化合物7で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0024】
化合物1としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、イソプロピルエチルケトン、イソプロピルプロピルケトンが挙げられる。化合物1がより安価であり、化合物7の製造が容易であり、また、単位分子量当たりのスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量をより高くできる点から、アセトンが好ましい。
【0025】
スルホン化剤としては、例えば、塩化スルホン酸、フルオロスルホン酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄の錯体、発煙硫酸、濃硫酸が挙げられる。
化合物1とスルホン化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応溶媒は、溶媒自身がスルホン化されにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、シクロヘキサン、ヘキサン、石油エーテル、ペンタン、ヘプタン、ジエチルエーテル、アセトニトリルが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いることもできる。
【0026】
塩素化剤としては、例えば、塩化チオニル、五塩化リン、三酸化リン、塩化ホスホリル、塩化スルホン酸、塩化スルフリル、塩化オキサリル、塩素が挙げられる。
化合物2と塩素化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、化合物3の分解を抑制できることから化合物3の収率が向上する。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、反応速度が上がり生産性が向上する。
【0027】
フッ素化剤としては、例えば、フッ化水素カリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド(テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド等)、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化水素錯体(HF-ピリジン錯体、HF-トリエチルアミン等)が挙げられる。
化合物3とフッ素化剤との反応温度は、-30~100℃が好ましい。反応溶媒は、フッ素化反応を受けにくい極性溶媒又は低極性溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、水が挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いることもできる。
【0028】
フッ素化処理は、化合物4とフッ素ガス又はフッ素化合物とを接触させて行う。
フッ素化合物としては、例えば、フッ化水素、フッ化ハロゲン(三フッ化塩素、五フッ化ヨウ素等)、ガス状フッ化物(三フッ化ホウ素、三フッ化窒素、五フッ化リン、四フッ化ケイ素、六フッ化硫黄等)、金属フッ化物(フッ化リチウム、フッ化ニッケル(II)等)、ハイポフルオライト化合物(トリフルオロメチルハイポフルオライト、トリフルオロアセチルハイポフルオライト等)、求電子的フッ素化反応試薬(セレクトフルオル(登録商標)、N-フルオロベンゼンスルホンイミド等)が挙げられる。
フッ素化処理としては、取り扱いが容易である点、及び化合物5に含まれる不純物を少なくする点から、化合物4とフッ素ガスとを接触させる処理が好ましい。フッ素ガスは、窒素ガス等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。フッ素化処理の温度は、-20~350℃が好ましい。反応溶媒は、化合物4又は化合物5の溶解性が高く、また溶媒自身がフッ素化処理を受けにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロフルオロメタン、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
【0029】
化合物7は、化合物5とペルフルオロアリル化剤とを反応させて製造できる。ペルフルオロアリル化剤としては、化合物6が挙げられる。
CF=CFCF-G 式6
ただし、Gは、-OSOF、-OSOf2、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、Rf2は炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
【0030】
化合物6としては、原料の入手性、ペルフルオロアリル化剤の反応性、合成の簡便さ、取扱いの容易さの点から、化合物6-1が好ましい。
CF=CFCFOSOF 式6-1
【0031】
化合物6-1は、例えば、三フッ化ホウ素の存在下にヘキサフルオロプロピレンと三酸化硫黄とを反応させて製造できる。三フッ化ホウ素の代わりに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体やトリメトキシボラン等のルイス酸を用いることもできる。
【0032】
【化7】
【0033】
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応は、フッ化物塩の存在下に行うことが好ましい。フッ化物塩としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド、フッ化ナトリウムが挙げられる。
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応温度は、-70~40℃が好ましい。反応溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、非プロトン性極性溶媒のみがより好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ニトロエタンが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いることもできる。
【0034】
以上説明した化合物7の製造方法にあっては、化合物1等の原料が安価であり、かつ化合物1基準の収率が高いため、1分子中に2個のフルオロスルホニル基を有するモノマーを安価に製造できる。このような製造方法で得られた化合物7は、従来の1分子中に2個のフルオロスルホニル基を有するモノマーに比べ安価である。
また、以上説明した化合物4及び化合物5は、化合物7の中間体として有用である。また、化合物4及び化合物5の製造方法にあっては、化合物1等の原料が安価であり、かつ化合物1基準の収率が高いため、化合物4及び化合物5を安価に製造できる。また、短い合成ステップで製造できる。
【0035】
(フルオロスルホニル基含有ポリマー)
本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマー(以下、「ポリマーF」とも記す。)は、単位u1を有する。単位u1は、例えば、化合物7に基づく単位である。
【0036】
【化8】
【0037】
F1及びRF2は、化合物7で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0038】
ポリマーFは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位をさらに有することが好ましい。TFEはポリマーの結晶性を高める効果を有するため、後述するスルホン酸基含有ポリマーが含水した際の膨潤を抑える効果があり、スルホン酸基含有ポリマーの含水率を低減できる。含水率を低減することにより、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。また触媒層に用いられた際に固体高分子形燃料電池のフラッディングを抑制できる。
【0039】
ポリマーFは、化合物7及びTFE以外の他のモノマーに基づく単位をさらに有していてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロα-オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン等)、(ペルフルオロアルキル)エチレン((ペルフルオロブチル)エチレン等)、(ペルフルオロアルキル)プロペン(3-ペルフルオロオクチル-1-プロペン等)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、国際公開第2011/013578号に記載の5員環を有するペルフルオロモノマーが挙げられる。
【0040】
ポリマーFを構成する全単位のうちの単位u1、TFEに基づく単位、他のモノマーに基づく単位の割合は、スルホン酸基含有ポリマー、又は後述する液状組成物に要求される特性や物性(イオン交換容量、容量流速値(TQ値)、ガラス転移温度(Tg)、含水率、イオン導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度、自由体積、ガス透過性、水素ガス透過性、水蒸気透過性、水の拡散性、輸率、膨潤度、相分離構造の大きさ、液状組成物中の分散粒子径、液状組成物の粘度、液状組成物の貯蔵弾性率等)に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
ポリマーFの容量流速値(TQ値)は、200~330℃が好ましく、205~260℃がより好ましい。TQ値が前記範囲の下限値以上であれば、スルホン酸基含有ポリマーが充分な分子量を有し、機械的強度にも優れる。TQ値が前記範囲の上限値以下であれば、スルホン酸基含有ポリマーの溶解性又は分散性がよくなり、後述する液状組成物を調製しやすい。TQ値は、ポリマーFの分子量の指標である。
【0042】
ポリマーFのガラス転移温度(Tg)は、5~70℃が好ましく、15~55℃がより好ましい。Tgが前記範囲の下限値以上であれば、ポリマーFのタック性が抑制され、取扱性や保存安定性がよくなる。Tgが前記範囲の上限値以下であれば、ポリマーFのペレットや膜の脆さが抑制される。
【0043】
ポリマーFは、化合物7、必要に応じてTFE、他のモノマーを含むモノマー成分を重合して製造できる。
重合法としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が挙げられる。また、液体又は超臨界の二酸化炭素中にて重合してもよい。
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。ラジカルを生起させる方法としては、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法等が挙げられる。重合温度は、10~150℃が好ましい。
【0044】
ラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシエステル、アゾ化合物、過硫酸塩が挙げられ、不安定末端基が少ないポリマーFが得られる点から、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド等のペルフルオロ化合物が好ましい。
【0045】
溶液重合法にて用いる溶媒としては、20~350℃の沸点を有する溶媒が好ましく、40~150℃の沸点を有する溶媒がより好ましい。溶媒としては、例えば、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
【0046】
溶液重合法においては、溶媒中にモノマー、ラジカル開始剤等を添加し、溶媒中にてラジカルを生起させてモノマーを重合させる。モノマー及びラジカル開始剤の添加は、一括添加であってもよく、逐次添加であってもよく、連続添加であってもよい。
【0047】
懸濁重合法においては、水を分散媒として用い、分散媒中にモノマー、非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、分散媒中にてラジカルを生起させてモノマーを重合させることが好ましい。
非イオン性のラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ビス(フルオロアルキル)ペルオキシド、アゾ化合物が挙げられる。
分散媒には、例えば、助剤として有機溶媒、懸濁粒子の凝集を防ぐ分散安定剤として界面活性剤、分子量調整剤として炭化水素系化合物(ヘキサン、メタノール等)を添加してもよい。
【0048】
乳化重合法においては、乳化剤と重合開始剤の存在下モノマーを水中に乳化させてモノマーを重合させる。乳化剤及び重合開始剤としては、通常のペルフルオロポリマーの乳化重合で用いられる試剤を用いることができる。例えば乳化剤としては、CFCFCFCFOCFCOONH、CFCFOCFCFOCFCOONHといったペルフルオロカルボン酸アンモニウム塩を用いることができる。重合開始剤としては、ペルオキシド類、アゾ化合物、過硫酸塩等のラジカル開始剤を用いることができる。また、金属イオン等の酸化還元反応により、開始剤を活性化して用いてもよい。また、これらに加えて、通常のペルフルオロポリマーの乳化重合で用いられる緩衝剤、連鎖移動剤等を適宜用いてもよい。また、含フッ素モノマーの反応率を上げるために、重合開始前に水性溶媒及び含フッ素モノマーの混合液をホモジナイザー、加圧乳化器等を用いて強制的に乳化してもよい。
【0049】
以上説明したポリマーFにあっては、1分子中に2個のフルオロスルホニル基を有する単位u1を有するため、イオン交換容量が高いスルホン酸基含有ポリマーが得られる。
また、単位u1は分子量が比較的小さく、かつ2個のフルオロスルホニル基を有していることから、ポリマーF中のフルオロスルホニル基含有モノマーに基づく単位の割合を、従来の2個のフルオロスルホニル基を有する単位を有するポリマーに比べ下げても同程度のイオン交換容量のスルホン酸基含有ポリマーが得られる。これにより、ポリマーFのTgが高まり、ポリマーFの取扱性や保存安定性が向上する。同様の理由により、スルホン酸基含有ポリマーの軟化温度も高まる。加えてスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量に対する含水率も低下することから、高い温度まで機械的強度を保つスルホン酸基含有ポリマーが得られる。
また、安価な化合物7に基づく単位u1を有するため、従来の1分子中に2個のフルオロスルホニル基を有する化合物に基づく単位を有するポリマーに比べ安価である。
【0050】
(スルホン酸基含有ポリマー)
本発明のスルホン酸基含有ポリマー(以下、「ポリマーH」とも記す。)は、単位u2を有する。
ポリマーHは、例えば、ポリマーFのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換したポリマーである。この場合、単位u2は、単位u1に由来する単位である。
【0051】
【化9】
【0052】
ただし、Zは、H、金属イオン、又はアンモニウムイオンである。金属イオンとしてはアルカリ金属が好ましい。
F1及びRF2は、化合物7で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
ポリマーHとしては、TFEに基づく単位をさらに有するものが好ましい。ポリマーHは、化合物7及びTFE以外の他のモノマーに基づく単位をさらに有していてもよい。
【0053】
ポリマーHのイオン交換容量は、0.5~2.5ミリ当量/g乾燥樹脂(以下では、単位:ミリ当量/g乾燥樹脂を省略する場合がある。)が好ましく、1.3~2.3がより好ましい。イオン交換容量が前記範囲の下限値以上であれば、ポリマーHのイオン導電率が高くなるため、固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜や触媒層に用いた場合、充分な電池出力が得られる。また、塩化アルカリ電解用や水電解用のイオン交換膜に用いた場合、膜抵抗等の過電圧が低下する。イオン交換容量が前記範囲の上限値以下であれば、ポリマーHが含水した際の膨潤が抑えられ、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。又は触媒層に用いられた際に固体高分子形燃料電池のフラッディングを抑制できる。
【0054】
ポリマーHの軟化温度は、100~180℃が好ましく、120~170℃がより好ましく、140~160℃がさらに好ましい。軟化温度が前記範囲の下限値以上であれば、固体高分子電解質膜とした際に高温における機械的強度が高くなる。軟化温度が前記範囲の上限値以下であれば、固体高分子電解質膜のアニール処理、又は触媒層の転写や膜電極接合体の形成に必要な熱プレスの温度を低くすることができる。
【0055】
ポリマーHの含水率(質量基準)は、30~300%が好ましく40~200%がより好ましい。含水率が前記範囲の下限値以上であれば、ポリマーHのイオン導電率が高くなるため、発電性能がさらに優れる膜電極接合体が得られる。含水率が前記範囲の上限値以下であれば、ポリマーHが過度に水で膨潤しないため、固体高分子電解質膜の機械的強度を保持できる。
【0056】
ポリマーHは、例えば、ポリマーFのフルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換して得られる。
フルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法としては、ポリマーFのフルオロスルホニル基を加水分解して塩型のスルホン酸基とし、塩型のスルホン酸基を酸型化して酸型のスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。塩型のスルホン酸基が求められる場合には、酸型化は行わない。
【0057】
加水分解は、例えば、溶媒中にてポリマーFと塩基性化合物とを接触させて行う。塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミンが挙げられる。溶媒としては、例えば、水、水と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。極性溶媒としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
酸型化は、例えば、塩型のスルホン酸基を有するポリマーHを、塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液に接触させて行う。加水分解及び酸型化における温度は、0~120℃が好ましい。加水分解又は酸型化の後に、ポリマーHを水洗することが好ましい。
【0058】
ポリマーHに不純物として含まれる有機物を除去するために、加水分解後の塩型のまま又は酸型化の後に、ポリマーHを過酸化水素水に浸漬するなどの処理により、有機物を分解してもよい。
【0059】
過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、0.1~30質量%が好ましく、1質量%以上10質量%未満がより好ましい。かかる濃度が前記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。かかる濃度が前記範囲の上限値以下であれば、ポリマーHが分解しにくい。
過酸化水素水の温度は、15~90℃が好ましく、40℃以上80℃未満がより好ましい。かかる温度が前記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。かかる温度が前記範囲の上限値以下であれば、過酸化水素が分解しにくい。
ポリマーHを過酸化水素水に浸漬する時間は、ポリマーHの厚さと、含まれる有機物の量にもよるが、例えば、ポリマーHが厚さ50μmの膜の場合、0.5~100時間が好ましい。浸漬する時間が0.5時間未満では、膜内部の有機物まで分解するのが難しい。100時間を超えて浸漬しても、有機物をそれ以上分解する効果は期待できない。
過酸化水素水に浸漬した後に、ポリマーHを水洗することが好ましい。水洗に用いる水としては、超純水が好ましい。また、水洗前に酸型化処理を行ってもよい。
前記の処理を終えた最終的なポリマーHのスルホン酸基は、塩型であってもよく、酸型であってもよい。また、ポリマーHの形状は、粉末状であってもよく、ペレット状であってもよく、膜状であってもよい。
【0060】
ポリマーHの用途としては、ポリマーを含む膜を形成するための液状組成物に含まれるポリマー、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜に含まれるポリマー、固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜に含まれるポリマー、塩化アルカリ電解や電気透析に用いられる陽イオン交換膜に含まれるポリマー、レドックスフロー二次電池用の隔膜に含まれるポリマー、アルカリ水電解や固体高分子形水電解に用いられるイオン交換膜に含まれるポリマー、電気化学的水素ポンプ用のイオン交換膜に含まれるポリマー、イオン導電性高分子アクチュエータやガスセンサーに用いられる陽イオン交換樹脂に含まれるポリマー、固体酸触媒に用いられるポリマー、除湿装置や加湿装置等の膜式湿度制御装置に用いられるポリマー、ガス分離膜に用いられるポリマー等が挙げられる。
【0061】
以上説明したポリマーHにあっては、1分子中に2個のスルホン酸基を有する単位u2を有するため、イオン交換容量が高い。
また、単位u2は分子量が比較的小さく、かつ2個のスルホン酸基を有していることから、ポリマーH中のスルホン酸基を有する単位の割合を、従来の2個のスルホン酸基を有する単位を有するポリマーに比べ下げても同程度のイオン交換容量にできる。これにより、ポリマーHの軟化温度が高まる。加えてポリマーHのイオン交換容量に対する含水率も低下することから、高い温度まで機械的強度を保つポリマーHが得られる。
また、安価な化合物7に基づく単位u1に由来する単位u2を有するため、従来の2個のスルホン酸基を有する単位を有するポリマーに比べ安価である。
【0062】
(液状組成物)
本発明の液状組成物は、ポリマーHと、液状媒体とを含む。液状組成物は、液状媒体中にポリマーHが分散したものであってもよく、液状媒体中にポリマーHが溶解したものであってもよい。
【0063】
液状媒体としては、水のみであってもよく、有機溶媒のみであってもよく、水と有機溶媒とを含むものであってもよいが、水と有機溶媒とを含むものが好ましい。
水は、液状媒体に対するポリマーHの分散性又は溶解性を向上させる。
有機溶媒は、割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすくする。
【0064】
有機溶媒としては、割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすい点から、炭素数が1~4のアルコールの1種以上が好ましい。
炭素数が1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノールが挙げられる。
【0065】
水の割合は、水と有機溶媒との合計のうち、10~99質量%が好ましく、20~99質量%がより好ましい。
有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との合計のうち、1~90質量%が好ましく、1~80質量%がより好ましい。
水及び有機溶媒の割合が前記範囲内であれば、分散媒に対するポリマーHの分散性に優れ、かつ割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすい。
【0066】
液状組成物中のポリマーHの濃度は、1~50質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましい。ポリマーHの濃度が前記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得ることができる。また、触媒層を作製する際の触媒層形成用塗工液の調節が容易になる。ポリマーHの濃度が前記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が過度に高くなるのを抑制できる。
液状組成物は、液状組成物から作製される固体高分子電解質膜や触媒層の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0067】
液状組成物は、ポリマーHと液状媒体とを混合して得られる。
混合方法としては、例えば、大気圧下、又はオートクレーブ等で密閉した状態下において、液状媒体中のポリマーHに撹拌等のせん断を加える方法が挙げられる。
撹拌時の温度は、0~250℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。必要に応じて、超音波等のせん断を付与してもよい。
【0068】
ポリマーHと液状媒体との混合液に撹拌等のせん断を加える際は、ポリマーHに液状媒体を一度に全部加えた混合液に撹拌等のせん断を加えてもよいし、ポリマーHに液状媒体を複数回に分けて混合し、その合間に撹拌等のせん断を加えてもよい。例えば、ポリマーHに液状媒体の一部を加えた混合液に撹拌等のせん断を加え、その後に、その混合液に残りの液状媒体を加えて再度撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。また、液状媒体に有機溶媒のみを加えて撹拌等のせん断を加え、その後に水のみを加えて再度、撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。
【0069】
本発明の液状組成物にあっては、イオン交換容量及び高温での機械的強度を高くでき、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、イオン交換容量が高いポリマーを含む、高温での機械的強度が高い膜を形成でき、かつ従来のものに比べ安価である。
【0070】
(膜)
本発明の膜は、ポリマーHを含み、さらに補強材を含んでもよい。本発明の膜は、ポリマーH及び補強材以外の成分をさらに含んでもよい。
補強材としては、例えば、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。補強材の材料としては、各種ポリマーが挙げられ、膜の用途に応じて適宜選択される。膜が固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における固体高分子電解質膜である場合、補強材の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)コポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0071】
本発明の膜の製造方法としては、例えば、本発明の液状組成物を基材に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)、ポリマーFを膜状に押出成形した後、フルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。補強材をさらに含む場合は、本発明の液状組成物を補強材に含浸し、乾燥させる方法、加熱溶融させたポリマーFを補強体に含浸させた後、フルオロスルホニル基をスルホン酸基に変換する方法が挙げられる。
膜が固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における固体高分子電解質膜である場合、固体高分子電解質膜は、例えば、液状組成物を基材フィルム又は触媒層上に塗布し、乾燥させる方法によって形成できる。
膜が固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層である場合、触媒層は、触媒層形成用塗工液を、固体高分子電解質膜、ガス拡散層等に塗布し、乾燥させる方法、又は、触媒層形成用塗工液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させて触媒層を形成し、触媒層を固体高分子電解質膜上に転写する方法によって形成できる。触媒層形成用塗工液は、例えば、本発明における液状組成物と触媒の分散液とを混合して調製できる。
【0072】
本発明の膜の用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解や電気透析に用いられる陽イオン交換膜、水電解に用いられるイオン交換膜、レドックスフロー二次電池用の隔膜、電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜が挙げられる。
【0073】
以上説明した本発明の膜にあっては、イオン交換容量及び高温での機械的強度を高くでき、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、イオン交換容量が高いポリマーを含み、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0074】
(膜電極接合体)
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11及びガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11及びガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを具備する。
【0075】
膜電極接合体10においては、カソード14の触媒層11、アノード13の触媒層11及び固体高分子電解質膜15からなる群から選ばれる少なくとも1つが、ポリマーHを含む。触媒層11がポリマーHを含む場合は、少なくともカソード14の触媒層11がポリマーHを含むことが好ましい。
【0076】
触媒層は、触媒と、イオン交換基を有するポリマーとを含む層である。
触媒としては、例えば、カーボン担体に白金又は白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、例えば、カーボンブラック粉末が挙げられる。
イオン交換基を有するポリマーとしては、例えば、ポリマーH、ポリマーH以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーが挙げられる。触媒層に含まれるポリマーのイオン交換基は、酸型が好ましく、酸型のスルホン酸基が好ましい。
【0077】
ガス拡散層は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能及び集電体としての機能を有する。ガス拡散層としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトが挙げられる。ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0078】
図2に示すように、膜電極接合体10は、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有してもよい。
カーボン層を配置することによって、触媒層の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
カーボン層は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、カーボン粒子、カーボンファイバーが挙げられ、繊維径1~1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。非イオン性含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0079】
固体高分子電解質膜は、イオン交換基を有するポリマーを含む膜である。
イオン交換基を有するポリマーとしては、例えば、ポリマーH、ポリマーH以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーが挙げられる。固体高分子電解質膜に含まれるポリマーのイオン交換基は、酸型が好ましく、酸型のスルホン酸基が好ましい。
【0080】
固体高分子電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材の材料については前記したとおりである。
【0081】
固体高分子電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物又は金属イオンを含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、固体高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素又はヒドロキシルラジカルやヒドロペルオキシルラジカルを分解する。セリウム、マンガンは、イオンとして固体高分子電解質膜中に存在することが好ましく、イオンとして存在すれば固体高分子電解質膜中でどのような状態で存在してもかまわない。固体高分子電解質膜にセリウム、マンガンを含ませる方法としては、固体高分子電解質膜をセリウム、マンガンを含む水溶液中に浸漬する方法、又はセリウム、マンガンを含む液状組成物から固体高分子電解質膜を得る方法、が挙げられる。
【0082】
膜電極接合体がカーボン層を有しない場合、膜電極接合体は、例えば、下記の方法にて製造される。
・固体高分子電解質膜上に触媒層を形成して膜触媒層接合体とし、膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み込む方法。
・ガス拡散層上に触媒層を形成して電極(アノード、カソード)とし、固体高分子電解質膜を電極で挟み込む方法。
【0083】
膜電極接合体がカーボン層を有する場合、膜電極接合体は、例えば、下記の方法にて製造される。
・基材フィルム上に、カーボン及び非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、カーボン層上に触媒層を形成し、触媒層と固体高分子電解質膜とを貼り合わせ、基材フィルムを剥離して、カーボン層を有する膜触媒層接合体とし、膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み込む方法。
・ガス拡散層上に、カーボン及び非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、固体高分子電解質膜上に触媒層を形成した膜触媒層接合体を、カーボン層を有するガス拡散層で挟み込む方法。
【0084】
触媒層の形成方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
・触媒層形成用塗工液を、固体高分子電解質膜、ガス拡散層、又はカーボン層上に塗布し、乾燥させる方法。
・触媒層形成用塗工液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させて触媒層を形成し、触媒層を固体高分子電解質膜上に転写する方法。
【0085】
触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマー及び触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用塗工液は、例えば、本発明の液状組成物と触媒の分散液とを混合して調製できる。触媒層形成用塗工液は、触媒層の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0086】
固体高分子電解質膜は、例えば、液状組成物を基材フィルム又は触媒層上に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)によって形成できる。
液状組成物は、水及び有機溶媒を含む分散媒に、イオン交換基を有するポリマーを分散させた分散液である。液状組成物として、本発明の液状組成物を用いてもよい。
【0087】
固体高分子電解質膜を安定化させるために、アニール処理することが好ましい。アニール処理の温度は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーの種類にもよるが、130~200℃が好ましい。アニール処理の温度が130℃以上であれば、イオン交換基を有するポリマーが過度に含水しなくなる。アニール処理の温度が200℃以下であれば、イオン交換基の熱分解が抑えられる。
【0088】
本発明の膜電極接合体にあっては、カソードの触媒層、アノードの触媒層及び固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、イオン交換容量及び高温での機械的強度を高くでき、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、発電性能に優れ、固体高分子電解質膜又は触媒層の高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0089】
(固体高分子形燃料電池)
本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の膜電極接合体を備える。
本発明の固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを配置したものであってもよい。セパレータとしては、例えば、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給して発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電を行うメタノール燃料電池にも、膜電極接合体を適用できる。
【0090】
本発明の固体高分子形燃料電池にあっては、カソードの触媒層、アノードの触媒層及び固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、イオン交換容量及び高温での機械的強度を高くでき、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含む本発明の膜電極接合体を備えるため、発電性能に優れ、固体高分子電解質膜又は触媒層の高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0091】
(塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜)
本発明の塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜は、ポリマーHを含むか、又はポリマーHを含む層と、カルボン酸基を有するポリマーを含む層との積層体であってもよい。陽イオン交換基(スルホン酸基、カルボン酸基)は、塩型が好ましい。
【0092】
本発明の塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜にあっては、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、塩化アルカリ電解における膜抵抗等の過電圧を低下できることから電力原単位を減少でき、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0093】
(水電解用イオン交換膜)
本発明の水電解用イオン交換膜は、ポリマーHを含むか、又はポリマーHを含む層を有し、アルカリ水電解用イオン交換膜、固体高分子形水電解用イオン交換膜のいずれにも使用できる。ポリマーHにおけるスルホン酸基は、アルカリ水電解用の場合は塩型が好ましく、固体高分子形水電解用の場合は酸型が好ましい。
【0094】
本発明の水電解用イオン交換膜にあっては、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、水電解における膜抵抗等の過電圧を低下できることから電力原単位を減少でき、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0095】
(レドックスフロー二次電池用隔膜)
本発明のレドックスフロー二次電池用隔膜は、ポリマーHを含むか、又はポリマーHを含む層を有する。ポリマーHにおけるスルホン酸基は酸型が好ましい。
【0096】
本発明のレドックスフロー二次電池用隔膜にあっては、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、高いプロトン透過性を有し、イオン輸送抵抗が低く、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0097】
(電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜)
本発明の電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜は、ポリマーHを含むか、又はポリマーHを含む層を有する。ポリマーHにおけるスルホン酸基は酸型が好ましい。
【0098】
本発明の電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜にあっては、イオン交換容量及び高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価であるポリマーHを含むため、プロトン輸送や水素の昇圧に要する電力原単位が低く、高温での機械的強度が高く、かつ従来のものに比べ安価である。
【0099】
(酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマー)
本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーは、温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数が2.9×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)(以下では、単位を書略する場合がある。)以下である。このポリマーを固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜に用いた場合、水素ガスのリーク量が減少することにより燃料消費率が低くなる、セル電圧の向上につながるという利点を有する。また、このポリマーを水電解用イオン交換膜に用いた場合、生成する水素に混入する酸素の量又は生成する酸素に混入する水素の量が減少することから安全性が向上する。さらに、従来の膜に比べ薄い膜厚で、従来の膜と同等に水素を遮蔽できるため、電解電圧の低下による電力原単位の削減又は出力密度を向上できる。また、このポリマーを電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜に用いた場合、圧縮水素の逆浸透を抑制できることから、圧縮に要する電力原単位の削減が可能となる。
【0100】
本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーの温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数は、2.9×10-9以下が好ましく、2.5×10-9以下がより好ましく、2.3×10-9以下がさらに好ましく、1.8×10-9以下が最も好ましい。一方、イオン伝導度との両立の観点から、水素ガス透過係数は、1.0×10-12以上が好ましく、1.0×10-11以上がより好ましい。
【0101】
本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーのイオン交換容量は、充分なイオン伝導度を確保する観点から、好ましい範囲からより好ましい範囲の順に0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.2以上であり、1.3以上が最も好ましい。一方、ポリマーの膨潤を抑制し、機械的強度を確保する観点から、2.5以下が好ましく、2.4以下がより好ましく、2.3以下がさらに好ましい。
【0102】
本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーは、例えば、ポリマーHの組成、分子量、イオン交換容量等を制御することにより製造できる。本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーは、ペルフルオロポリマーであることが好ましい。「ペルフルオロポリマー」とは、ポリマーを構成するすべてのモノマー単位がペルフルオロモノマーからなることを意味する。なお、「ペルフルオロモノマー」とは、炭素原子に結合する水素原子の全部がフッ素原子に置換されたモノマーを意味する。
【0103】
(固体高分子電解質膜)
本発明の固体高分子電解質膜の他の態様は、本発明の酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーを含む。
本発明の固体高分子電解質膜の厚さは、5~200μmが好ましく、10~130μmがより好ましい。厚さが前記範囲の上限値以下であれば、膜抵抗を十分に下げることができる。厚さが前記範囲の下限値以上であれば、充分な水素ガスバリア性を確保できる。
本発明の固体高分子電解質膜は、前述したポリマーHを含む本発明の膜と同様の製法で製造でき、必要に応じて同様の処理、補強を行ったり、同様の添加剤を含有させたりすることができる。
【実施例0104】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1は製造例であり、例2、3、6、8、10、11は実施例であり、例4、5、7、9、12は比較例である。各物性等の測定は、下記以外のポリマーについても同様に測定を行った。
【0105】
H-NMR)
H-NMRは、周波数:300.4MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、特に付記のない限りCDCNを用いた。生成物の定量は、H-NMRの分析結果及び内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0106】
19F-NMR)
19F-NMRは、周波数:282.7MHz、溶媒:CDCN、化学シフト基準:CFClの条件にて測定した。生成物の定量は、19F-NMRの分析結果及び内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0107】
13C-NMR)
13C-NMRは、周波数:75.5MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒は、特に付記のない限りCDCNを用いた。
【0108】
(収率)
収率とは、反応工程の収率×精製工程の収率を意味し、反応収率とは、目的物を精製する前の反応工程の収率のみの精製工程のロスが含まれない収率を意味する。
【0109】
(イオン交換容量)
ポリマーHのイオン交換容量(ミリ当量/g乾燥樹脂)を以下のようにして求めた。
ポリマーFの膜を120℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のポリマーの膜の質量を測定した後、ポリマーの膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に60℃で72時間以上浸漬して、イオン交換基を加水分解した。加水分解後の水酸化ナトリウム溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定することによりを求めた。
【0110】
(フルオロスルホニル基含有モノマーに基づく単位の割合)
ポリマーF中のフルオロスルホニル基含有モノマー(SOF基含有モノマー)に基づく単位の割合は、ポリマーFのイオン交換容量から算出した。
【0111】
(TQ値)
長さ1mm、内径1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製、CFT-500A)を用い、2.94MPa(ゲージ圧)の押出し圧力の条件で温度を変えながらポリマーFを溶融押出した。ポリマーFの押出し量が100mm/秒となる温度(TQ値)を求めた。TQ値が高いほどポリマーの分子量は大きい。
【0112】
(動的粘弾性)
ポリマーFの膜又はポリマーHの膜について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-225)を用いて試料幅:5.0mm、つかみ間長:15mm、測定周波数:1Hz、昇温速度:2℃/分、引張モードの条件にて、動的粘弾性測定を行った。損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)からtanδ(損失正接)を算出し、tanδ-温度曲線を作成した。tanδ-温度曲線から-100~200℃の間のピーク温度を読み取った値をポリマーFのTg又はポリマーHの軟化温度とした。また、貯蔵弾性率E’-温度曲線を作成し、120℃における貯蔵弾性率を読み取った値をポリマーHの120℃弾性率とした。
【0113】
(伝導度)
厚さ25μm、幅5mmのポリマーHの膜に、5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法によって、温度:80℃、相対温度:50%の恒温恒湿条件下にて交流:10kHz、電圧:1VでポリマーHの膜の抵抗を測定し、伝導度を算出した。
【0114】
(含水率)
ポリマーHの膜を80℃の温水に16時間浸漬した後、水温が25℃以下になるまで冷却した。ポリマーHの膜を取り出し、膜の表面に付着した水をろ紙でふき取り、ポリマーHの膜の質量W1を測定した。ポリマーHの膜を窒素雰囲気のグローブボックス内にて48時間以上乾燥した後、グローブボックス内でポリマーHの膜の質量W2を測定した。下式Iから含水率(質量基準)を求めた。
含水率=(W1-W2)/W2×100 式I
【0115】
(水素ガス透過係数1)
酸型スルホン酸基含有フルオロカーボンポリマーを含む固体高分子電解質膜について、JIS K 7126-2:2006に準拠して水素ガス透過係数を測定した。測定装置としてはガス透過率測定装置(GTRテック社製、GTR-100XFAG)を使用した。
有効透過面積が9.62cmの固体高分子電解質膜を80℃に保ち、第1の面に、相対湿度を10%に調湿した水素ガスを30mL/分で流し、第2の面に、相対湿度を10%に調湿したアルゴンガスを30mL/分で流し、アルゴンガスに透過してくる水素ガスをガスクロマトグラフィーで検出し、25℃、1気圧の体積に換算した水素ガス透過量を測定した。得られた水素ガス透過量を用いて、膜面積1cm、透過ガスの圧力差1cmHgあたり、1秒間に透過するガスの透過度を求め、厚さ1cmの膜に換算した値を水素ガス透過係数1とした。
【0116】
(水素ガス透過係数2)
第1の面に流す水素ガスの相対湿度を20%に調湿した以外は、水素ガス透過係数1と同様にして測定して求められる値を水素ガス透過係数2とした。
【0117】
(略号)
PSVE:CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、
P2SVE:CF=CFOCFCF(CFOCFCFSOF)OCFCFSOF、
sPSVE:CF=CFOCFCFSOF、
PFtBPO:(CFCOOC(CF
AIBN:(CHC(CN)N=NC(CH(CN)、
IPP:(CHCHOC(O)OOC(O)OCH(CH
V-601:CHOC(O)C(CH-N=N-C(CHC(O)OCH
HFC-52-13p:CF(CFH、
HFE-347pc-f:CFCHOCFCFH、
HCFC-225cb:CClFCFCHClF、
HCFC-141b:CHCClF。
【0118】
[例1]
(例1-1)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた2Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、塩化スルホン酸の560gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、内温を20℃以下に保ったまま化合物1-1の139.5gとジクロロメタンの478.7gの混合液を20分かけて滴下した。滴下時は発熱とガスの発生が見られた。滴下完了後、フラスコをオイルバスにセットし、内温を30~40℃に保ったまま7時間反応させた。反応はガスの発生を伴いながら進行し、白色の固体が析出した。反応後、フラスコ内を減圧にしてジクロロメタンを留去した。フラスコ内には黄色味を帯びた白色固体が残った。固体をH-NMRで分析したところ、化合物2-1が生成していることを確認した。
【0119】
【化10】
【0120】
化合物2-1のNMRスペクトル;
H-NMR(溶媒:DO):4.27ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR(溶媒:DO):62.6ppm(-CH-)、195.3ppm(C=O)。
【0121】
(例1-2)
例1-1で得た化合物2-1は単離せずに、次の反応にそのまま用いた。例1-1のフラスコ内に塩化チオニルの2049gを加えた。フラスコを80℃に加熱して15時間還流した。反応の進行に伴い、還流温度は52℃から72℃まで上昇した。反応中はガスの発生が確認された。化合物2-1がすべて溶解し、ガスの発生が収まった点を反応終点とした。反応液を2Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら9時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に黒褐色の固体が析出した。デカンテーションで未反応の塩化チオニルを除去した。トルエンを添加して析出固体を洗浄し、再びデカンテーションでトルエンを除去した。トルエン洗浄は合計3回実施し、トルエンの使用量は合計1207gだった。析出固体を窒素ガス気流下、25℃にて71時間乾燥した。乾燥後の固体を回収し、H-NMRで分析したところ、純度96.2%の化合物3-1の356.5gが得られたことを確認した。化合物1-1基準の収率は56.0%となった。
【0122】
【化11】
【0123】
化合物3-1のNMRスペクトル;
H-NMR:5.20ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR:72.3ppm(-CH-)、184.6ppm(C=O)。
【0124】
(例1-3)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、化合物3-1の90.0gとアセトニトリルの750mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌しながらフッ化水素カリウムの110.3gを加えた。添加に伴う発熱はわずかだった。氷浴を水浴に変え、内温を15~25℃に保ったまま62時間反応させた。反応に伴い、細かい白色の固体が生成した。反応液を加圧ろ過器へ移し、未反応のフッ化水素カリウムと生成物をろ別した。ろ過器にアセトニトリルを加え、ろ液が透明になるまでろ別した固体を洗浄し、洗浄液を回収した。ろ液と洗浄液をエバポレーターにかけてアセトニトリルを留去した。乾固して残った固体にトルエンの950mLを添加し、100℃に加熱して固体をトルエンに溶解させた。溶解液を自然ろ過して未溶解分を除去した。ろ液を1Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら14時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に薄茶色の針状結晶が析出した。トルエンで結晶を洗浄し、窒素ガス気流下、25℃にて30時間乾燥させた。乾燥後の固体を回収しH-NMR及び19F-NMRで分析したところ、純度97.6%の化合物4-1の58.1gが得られたことを確認した。化合物3-1基準の収率は72.3%となった。
【0125】
【化12】
【0126】
化合物4-1のNMRスペクトル;
H-NMR:4.97ppm(-CH-、4H、d、J=3.1Hz)。
19F-NMR:62.4ppm(-SOF、2F、t、J=3.1Hz)。
13C-NMR:60.7ppm(-CH-)、184.9ppm(C=O)。
【0127】
(例1-4)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の9.93gとアセトニトリルの89.7gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を6.7L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから反応液の103.2gを回収した。反応液を19F-NMRで定量分析したところ、化合物5-1が8.4質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は66%となった。
【0128】
【化13】
【0129】
化合物5-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-104.1ppm(-CF-、4F、s)、45.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0130】
(例1-5)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の19.9gとアセトニトリルの85.6gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を16.4L/hrの流量で6.5時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の109.6gを回収した。
【0131】
(例1-6)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の20.1gとアセトニトリルの80.1gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=20.0モル%/80.0モル%)を8.4L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の107.1gを回収した。
【0132】
(例1-7)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの1.65gとジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)の7.8mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-4で得た反応液の8.43gをプラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には15分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、15~20℃で1時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の6.56gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて20~25℃で3.5時間反応させた。吸引ろ過により反応液から副生固体を除去し、ろ液を回収した。ろ過残固体は適当量のアセトニトリルで洗浄し、洗浄液はろ液と混合した。ろ液の37.1gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が2.04質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は46.6%となった。
【0133】
【化14】
【0134】
化合物7-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-191.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、38、14Hz)、-133.8ppm(-O-CF-、1F、tt、J=21.3、6.1Hz)、-103.1ppm(-CF-SOF、4F、m)、-101.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、49、27Hz)、-87.6ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=49、38、7Hz)、-67.5ppm(-CF-O-、2F、m)、46.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0135】
(例1-8)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの36.6gとアセトニトリルの125.6gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-5で得た反応液の79.8gをプラスチック製滴下ロートを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には23分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で5.5時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の146.0gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で16時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の412.3gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が3.93質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は55.9%となった。ろ液を減圧蒸留することにより、沸点97.2℃/10kPa留分として化合物7-1を単離した。ガスクロマトグラフィー純度は98.0%であった。
【0136】
(例1-9)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの3.70gとアセトニトリルの10.9gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-6で得た反応液の10.2gをプラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には8分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で3時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の14.6gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で17時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の55.9gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が4.77質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は69.6%となった。また化合物1-1基準の反応収率(モノマー合成工程全体での反応収率)は、28.2%となった。
【0137】
[例2]
(例2-1)
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、化合物7-1の70.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。オートクレーブにTFEの2.53gを導入し、内温が100℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.29MPaG(ゲージ圧)であった。重合開始剤であるPFtBPOの36.3mgとHFC-52-13pの2.58gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.56MPaGまで増加した。圧力を0.56MPaGで維持したままTFEを連続添加し重合を行った。9.5時間でTFEの添加量が4.03gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEと化合物7-1とのコポリマーであるポリマーF-1を得た。結果を表1に示す。
【0138】
(例2-2~例2-5)
各条件を表1のように変更した。(ただし、例2-2ではHFC-52-13pの34.0gを化合物7-1とともに仕込み、重合開始剤との混合液の調製に2.9gを使用した。例2-3~例2-5ではTFEの初期仕込みを行わず、代わりに重合温度まで加温してから表1に記載の窒素ガス希釈前圧力までTFEを張りこんだ。それ以外は、例2-1と同様にしてポリマーF-2~ポリマーF-5を得た。結果を表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
[例3]
(例3-1~例3-5)
上記で得たポリマーF-1~ポリマーF-5を用い、下記の方法にてポリマーH-1~ポリマーH-5の膜を得た。
ポリマーFを、TQ値より10℃高い温度(ただし、例3-4と例3-5では、260℃及び4MPa(ゲージ圧)で加圧プレス成形し、ポリマーFの膜(厚さ100~250μm)を得た。表2に示すアルカリ水溶液中に、80℃にてポリマーFの膜を16時間浸漬させ、ポリマーFの-SOF基を加水分解し、-SOK基に変換した。さらにポリマーの膜を、3モル/Lの塩酸水溶液に50℃で30分間浸漬した後、80℃の超純水に30分間浸漬した。塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、ポリマーの-SOK基を-SOH基に変換した。ポリマーの膜を浸漬している水のpHが7となるまで超純水による洗浄を繰り返した。ポリマーの膜をろ紙に挟んで風乾し、ポリマーHの膜を得た。結果を表2に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
表2中、水溶液Aは、水酸化カリウム/水=20/80(質量比)であり、水溶液Bは、水酸化カリウム/ジメチルスルホキシド/水=15/30/55(質量比)であり、水溶液Cは、水酸化カリウム/メタノール/水=15/20/65(質量比)である。なお、この定義は、後記する表4においても同じである。
【0143】
[例4]
(例4-1)
内容積230mLのハステロイ製オートクレーブに、PSVEの123.8g、HCFC-225cbの35.2g、AIBNの63.6mgを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。70℃に昇温してTFEを系内に導入し、圧力を1.14MPaGに保持した。圧力が1.14MPaGで一定になるように、TFEを連続的に添加した。7.9時間経過後、TFEの添加量が12.4gとなったところでオートクレーブを冷却して、系内のガスをパージして反応を終了させた。ポリマー溶液をHCFC-225cbで希釈してから、HCFC-141bを添加して、凝集した。HCFC-225cb及びHCFC-141bを用いて洗浄を行った後、乾燥して、TFEとPSVEとのコポリマーであるポリマーF’-1の25.1gを得た。結果を表3に示す。
【0144】
(例4-2~例4-4)
各条件を表3のように変更した以外は、例4-1と同様にしてTFEと、PSVE又はP2SVEとを共重合し、ポリマーF’-2~F’-4を得た。結果を表3に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
(例4-5~例4-7)
例4-1と同様の方法により、下記のポリマーF’-5~F’-7を得た。
ポリマーF’-5:TFEに基づく単位/P2SVEに基づく単位=80.6/19.4(モル比)、イオン交換容量=1.93ミリ当量/g乾燥樹脂。
ポリマーF’-6:TFEに基づく単位/sPSVEに基づく単位=74.8/25.2(モル比)、イオン交換容量=1.74ミリ当量/g乾燥樹脂。
ポリマーF’-7:TFEに基づく単位/sPSVEに基づく単位=83.9/16.1(モル比)、イオン交換容量=1.25ミリ当量/g乾燥樹脂。
【0147】
[例5]
(例5-1~例5-4)
例3と同様にしてポリマーF’-1~F’-4を処理し、ポリマーH’-1~H’-4の膜を得た。結果を表4に示す。
【0148】
【表4】
【0149】
表1~表4より、化合物7-1は分子量が小さく2個のSOF基を有していることから、TFEと共重合して得られたポリマーF中のSOF基含有モノマーに基づく単位の割合を、従来のポリマーF’に比べ下げても同程度のイオン交換容量のポリマーHが得られることが分かる。これにより、ポリマーFのTgが高まり、ポリマーFの取扱性や保存安定性が向上する。同様の理由により、ポリマーHの軟化温度も高まる。加えてポリマーHのイオン交換容量に対する含水率も低下することから、高い温度まで機械的強度を保つポリマーHの膜となる。また、ポリマーFは、高価なSOF基含有モノマーの使用量を従来のポリマーF’に比べ少なくできるため、ポリマーHの膜をより安価に製造できる。一方、ポリマーF中のSOF基含有モノマーに基づく単位の割合を、従来のポリマーF’と同一にした場合には、ポリマーHのイオン交換容量を高めることができるため、従来のポリマーH’よりもイオン導電率の高いポリマーHの膜が得られる。
【0150】
(例5-5~例5-7)
例3と同様にしてポリマーF’-5~F’-7を処理し、ポリマーH’-5~H’-7の膜を得た。
【0151】
[例6]
(例6-1)
100mLのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の容器に、細かく切断したポリマーH-1の膜の4.3g、超純水の75gを加え、200℃で24時間加温した。内容物をPTFE製バットに移し、窒素雰囲気下30℃で64時間かけて風乾させた。乾固したポリマーH-1を200mLのガラス製オートクレーブに移し、超純水/エタノールの混合溶媒(50/50(質量比))の21.4gを加えた。110℃で25時間撹拌した後、超純水の3.87gを加えて希釈した。90℃で5時間撹拌した後、放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-1が混合溶媒に13.5質量%で分散した液状組成物S-1の31.9gを得た。E型粘度計を用いて、ずり速度76.6s-1における25℃の粘度を測定したところ、167mPa・sであった。
【0152】
(例6-2)
ポリマーH-3の2.0g、エタノールの9.0g、水の9.0gを用いた以外は例6-1と同様にして、ポリマーH-3が混合溶媒に10質量%で分散した液状組成物S-3の20.0gを得た。
【0153】
(例6-3)
ポリマーH-5の膜の6.5gを10質量%過酸化水素水に浸漬し、80℃で20時間処理した。過酸化水素水を除いた後、さらに80℃の3Nの塩酸水溶液に30分間浸漬し、次いで80℃の超純水に15分間浸漬した。塩酸水溶液への浸漬と超純水への浸漬のサイクルを合計5回実施し、その後、ポリマーの膜を浸漬している超純水のpHが7となるまで超純水洗浄を繰り返した。
【0154】
200mLのガラス製オートクレーブに、過酸化水素処理したポリマーH-5の6.5g、エタノール/水の混合溶媒(41/59(質量比))の48.4gを加え、撹拌しながら加熱した。110℃で24時間撹拌した後、エタノールの1.5gと水の8.2gを加えた。4時間撹拌した後、放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH-5が混合溶媒に10.9質量%で分散した液状組成物S-5の31.9gを得た。E型粘度計を用いて、ずり速度76.6s-1における25℃の粘度を測定したところ、63.8mPa・sであった。
【0155】
(例6-4)
ポリマーH-4の2.1g、エタノールの80.1g、水の19.8gを用いた以外は例6-1と同様にして、ポリマーH-4が混合溶媒に2.1質量%で分散した液状組成物S-4の100gを得た。
【0156】
[例7]
(例7-1)
オートクレーブ(内容積200mL、ガラス製)に、細かく切断したポリマーH’-1の膜の20g、エタノール/水の混合溶媒(60/40(質量比))の56.9gを加え、撹拌しながらオートクレーブを加熱した。115℃で16時間撹拌した後に放冷し、加圧ろ過機(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーH’-1が混合溶媒に26.0質量%で分散した液状組成物S’-1の76.5gを得た。E型粘度計を用いて、ずり速度76.6s-1における25℃の粘度を測定したところ、357mPa・sであった。
【0157】
(例7-2~例7-4)
例7-1と同様にしてポリマーH’-5~H’-7の膜から液状組成物S’-5~S’-7を得た。
【0158】
[例8]
(例8-1、例8-2、例8-3)
液状組成物S-1、液状組成物S-3、S-4を用い、下記の方法にて固体高分子電解質膜を得た。
液状組成物を100μmのエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー製シート上に、ダイコータ-にて塗工して製膜し、これを80℃で15分乾燥し、さらに185℃で30分の熱処理を施し、ポリマーHの膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表5に示す。
【0159】
[例9]
(例9-1)
液状組成物S’-1を用い、熱処理温度を160℃で30分とした以外は、例8-1と同様にしてポリマーH’-1の膜(厚さ25μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表5に示す。
【0160】
(例9-2)
液状組成物S’-5を用いた以外は、例9-1と同様の方法により、ポリマーH’-5の膜(厚さ100μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表5に示す。
【0161】
(例9-3)
液状組成物S’-6を用いた以外は、例9-1と同様の方法により、ポリマーH’-6の膜(厚さ100μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表5に示す。
【0162】
(例9-4)
液状組成物S’-7を用いた以外は、例9-1と同様の方法により、ポリマーH’-7の膜(厚さ100μm)からなる固体高分子電解質膜を得た。結果を表5に示す。
【0163】
【表5】
【0164】
[例10]
液状組成物S-5を、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー製シート上にダイコータ法で塗工した。その後、直ちに延伸多孔質PTFEフィルム(厚さ20μm、空孔率80%)をその塗工層に重ねることにより延伸多孔質PTFEフィルム中に液を含浸させ、80℃のオーブン中で15分間乾燥後、さらに185℃オーブン中で30分間熱処理を行い、厚さ50μmの電解質膜を得た。
【0165】
[例11]
(例11-1)
例2と同様にして、TFEと化合物7-1とを共重合してポリマーF-6(イオン交換容量:2.37ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:158℃)を得た。
また、TFEと化合物11とを共重合してポリマーC-1(イオン交換容量:1.06ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:225℃)を得た。
CF=CFOCFCFCFC(O)OCH 式11
【0166】
ポリマーC-1とポリマーF-6とを共押出法により成形し、ポリマーC-1からなる前駆体層C’(厚さ:12μm)及びポリマーF-6からなる前駆体層S’の下層(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムAを得た。
また、ポリマーF-6を溶融押出法により成形し、前駆体層S’の上層となるフィルムB(厚さ:30μm)を得た。
【0167】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに450回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。5デニールのポリエチレンテレフタレート(PET)フィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を犠牲糸とした。補強糸1本と犠牲糸2本とが交互に配列されるように平織りし、補強布(補強糸の密度:27本/インチ、犠牲糸の密度:54本/インチ)を得た。
【0168】
フィルムB、補強布、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつフィルムAの前駆体層C’が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%及び水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層S’の上層側にロールプレスにより転写し、ガス開放性被覆層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/mとした。
【0169】
片面にガス開放性被覆層を形成した強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシド及び30質量%の水酸化カリウムの混合水溶液に95℃で8分間浸漬した。これにより、ポリマーC-1の-C(O)OCH及びポリマーF-6の-SOFを加水分解してイオン交換基に転換し、前駆体層C’を層Cに、前駆体層S’を層Sとした膜を得た。
ポリマーF’-1を加水分解し、酸型化して得られたポリマーを2.5質量%含むエタノール水溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。分散液を前記膜の層C側に噴霧し、ガス開放性被覆層を形成し、両面にガス開放性被覆層が形成された陽イオン交換膜を得た。酸化ジルコニウムの付着量は3g/mとした。
【0170】
有効通電面積1.5dm(高さ15cm、幅10cm)の電解槽を用い、陰極室の供給水入り口を陰極室下部、生成する水酸化ナトリウム水溶液出口を陰極室上部に配し、陽極室の供給塩水入り口を陽極室下部、淡塩水出口を陽極室上部に配した。陽極としては、チタンのパンチドメタル(短径4mm、長径8mm)に、酸化ルテニウム、酸化イリジウム及び酸化チタンの固溶体を被覆したものを用いた。陰極としては、SUS304製パンチドメタル(短径5mm、長径10mm)に、ルテニウム入りラネーニッケルを電着したものを用いた。
陽イオン交換膜を、電解槽内において、層Cが陰極に面するように配置した。陽極とイオン交換膜とが接触するように、陰極側を加圧状態にし、290g/Lの塩化ナトリウム水溶液及び水をそれぞれ陽極室及び陰極室に供給しながら、陽極室から排出される塩化ナトリウム濃度を200g/L、陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度を32質量%に保ちつつ、温度90℃、電流密度8kA/mの条件で1週間電解を行い、電極に接続した端子からセル電圧を読み取った。その後、塩化ナトリウム水溶液に不純物としてマグネシウム0.1ppmを加え、14日間電解を行った。添加14日目と添加直前の電圧の差を読み取った。結果を表6に示す。
【0171】
(例11-2)
例2と同様にして、TFEと化合物7-1とを共重合してポリマーF-7(イオン交換容量:2.00ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:238℃)を得た。
ポリマーF-6の代わりにポリマーF-7を用いた以外は例11-1と同様にして陽イオン交換膜を得た。結果を表6に示す。
【0172】
(例11-3)
例2と同様にして、TFEと化合物7-1とを共重合してポリマーF-8(イオン交換容量:1.78ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:298℃)を得た。
ポリマーF-6の代わりにポリマーF-8を用いた以外は例11-1と同様にして陽イオン交換膜を得た。結果を表6に示す。
【0173】
(例11-4)
例2と同様にしてTFEと化合物7-1とを共重合してポリマーF-9(イオン交換容量:1.49ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:268℃)を得た。
ポリマーF-6の代わりにポリマーF-9を用いた以外は例11-1と同様にして陽イオン交換膜を得た。結果を表6に示す。
【0174】
[例12]
(例12-1)
TFEと化合物12とを公知の方法により共重合してポリマーF’-8(イオン交換容量:1.38ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:230℃)を得た。
CF=CFCFОCFCFSOF 式12
ポリマーF-6の代わりにポリマーF’-8を用いた以外は例11-1と同様にして陽イオン交換膜を得た。結果を表6に示す。
【0175】
(例12-2)
TFEとPSVEとを公知の方法により共重合してポリマーF’-9(イオン交換容量:1.19ミリ当量/g乾燥樹脂、TQ値:230℃)を得た。
ポリマーF-6の代わりにポリマーF’-9を用いた以外は例11-1と同様にして陽イオン交換膜を得た。結果を表6に示す。
なお、表6における「スルホン酸基を有する単位[モル%]」とは、ポリマーを構成する全単位中のスルホン酸基を有するモノマーに基づく単位の割合(モル%)である。また、「官能基率[モル%]」とは、ポリマー分子中に含まれるスルホン酸基の量を表す指標であり、下式で求められる。
官能基率[モル%]=スルホン酸基を有するモノマーに基づく単位(モル)×モノマー中のスルホン酸基の数/ポリマー中に含まれる全モノマーに基づく単位の合計(モル)×100
例えば、化合物7-1においては、モノマー中に2つのスルホニル基があるためスルホン酸基を有するモノマー単位の割合に2を掛けた値となる。
【0176】
【表6】
【0177】
官能基率が同一である例11-4、例12-1、例12-2を比較すると、化合物7-1をポリマーの原料に用いた例11-4がマグネシウムによる電圧上昇をより抑制できることがわかる。また、化合物7-1をポリマーの原料に用いた例11-1、例11-2、例11-3、例11-4を比較すると、イオン交換容量が大きい方がよりマグネシウムに対する電圧上昇値が小さく、かつ初期電解電圧も低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明のフルオロスルホニル基含有ポリマーは、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解や電気透析に用いられる陽イオン交換膜、水電解に用いられるイオン交換膜、レドックスフロー二次電池用の隔膜、電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜等に含まれるポリマーの前駆体等として有用である。
【0179】
なお、2017年9月1日に出願された日本特許出願2017-168659号、2018年5月10日に出願された日本特許出願2018-091756号及び日本特許出願2018-091757号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0180】
10:膜電極接合体、 11:触媒層、 12:ガス拡散層、 13:アノード、 14:カソード、 15:固体高分子電解質膜、 16:カーボン層。
図1
図2