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特開2022-45161研磨用組成物、半導体用濡れ剤、水溶性高分子、およびこれらの製造方法
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  • 特開-研磨用組成物、半導体用濡れ剤、水溶性高分子、およびこれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045161
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】研磨用組成物、半導体用濡れ剤、水溶性高分子、およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220311BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220311BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220311BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220311BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550J
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
C08L101/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150694
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丹所 久典
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】秋月 麗子
(72)【発明者】
【氏名】三輪 直也
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
【テーマコード(参考)】
3C158
4J002
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158CB04
3C158EB01
3C158ED10
3C158ED26
3C158ED28
4J002AB011
4J002AB031
4J002AB041
4J002BE021
4J002BG012
4J002BG022
4J002BG102
4J002BJ001
4J002CH031
4J002DA016
4J002DE076
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4J002DE136
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4J002DF016
4J002DJ016
4J002DK006
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4J002FD206
4J002GT00
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5F057EA28
5F057EA29
5F057EA33
5F057EA37
5F057EB03
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、基板の良好な表面状態を達成しうる、水溶性高分子を含む研磨用組成物が提供される。
【解決手段】本発明は、水溶性高分子を含む、研磨用組成物であって、前記水溶性高分子は、原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、を含む方法によって処理された水溶性高分子である、研磨用組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、水溶性高分子とを含む研磨用組成物であって、
前記水溶性高分子は、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む方法によって処理された水溶性高分子である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記溶液に圧力を加える工程は、ジェットミル処理を行う工程である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
砥粒と、水溶性高分子とを含む研磨用組成物の製造方法であって、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
圧力を加えた前記溶液に砥粒を混合する工程と、
を含む、研磨用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記溶液に圧力を加える工程は、ジェットミル処理を行う工程である、請求項3に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記溶液に圧力を加える工程の後、前記溶液に砥粒を混合する工程の前に、前記溶液をろ過する工程をさらに含む、請求項3または4に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記溶液に砥粒を混合する工程の後に、前記溶液をろ過する工程をさらに含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項7】
水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤であって、
前記水溶性高分子は、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む方法によって処理された水溶性高分子である、半導体用濡れ剤。
【請求項8】
前記溶液に圧力を加える工程は、ジェットミル処理を行う工程である、請求項7に記載の半導体用濡れ剤。
【請求項9】
水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤の製造方法であって、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
圧力を加えた前記溶液に他の成分を混合する工程と、
を含む、半導体用濡れ剤の製造方法。
【請求項10】
前記溶液に圧力を加える工程は、ジェットミル処理を行う工程である、請求項9に記載の半導体用濡れ剤の製造方法。
【請求項11】
請求項3~6、9、または10のいずれか1項に記載の製造方法に用いられる水溶性高分子の処理方法であって、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む、水溶性高分子の処理方法。
【請求項12】
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む方法によって処理された、研磨用組成物用途および/または半導体用濡れ剤用途の水溶性高分子。
【請求項13】
前記溶液に圧力を加える工程は、ジェットミル処理を行う工程である、請求項12に記載の水溶性高分子。
【請求項14】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて、基板を研磨する方法。
【請求項15】
請求項7または8に記載の半導体用濡れ剤を用いて、基板をリンスする方法。
【請求項16】
前記基板が単結晶シリコンウェーハである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記基板が単結晶シリコンウェーハである、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、半導体用濡れ剤、水溶性高分子、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子は、分散剤、増粘剤、乳化重合安定剤、保護コロイド、塗料、化粧品、保水剤、医薬製剤、研磨助剤などの種々の用途に利用されている。これらの中でも、半合成高分子化合物であるヒドロキシエチルセルロースは、特に、分散性、増粘性などの特性に優れる。ヒドロキシエチルセルロースは、特に、シリコンウェーハなどに代表される半導体基板など種々の基板のリンス工程や研磨工程において、基板表面の保護や濡れ性を向上させる研磨助剤として、砥粒および水に加えて利用されている。
【0003】
特許文献1には、砥粒と組み合わせて研磨速度を向上できる研磨助剤として有用な、乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1は、合成された未乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを乾燥させた後に粉砕して、乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを得ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-104781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、技術の発展とともに、半導体基板、半導体素子またはシリコンウェーハ等の研磨対象物に求められる表面状態は、より高い品質が望まれるようになってきている。
【0006】
そこで本発明は、基板の良好な表面状態を達成できる研磨用組成物、半導体用濡れ剤、水溶性高分子、およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決されうる:
砥粒と、水溶性高分子とを含む研磨用組成物であって、
前記水溶性高分子は、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、を含む方法によって処理された水溶性高分子である、研磨用組成物。
【0008】
砥粒と、水溶性高分子とを含む研磨用組成物の製造方法であって、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
圧力を加えた前記溶液に砥粒を混合する工程と、
を含む、研磨用組成物の製造方法。
【0009】
また、本発明の上記課題は、以下の手段によっても解決されうる:
水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤であって、
前記水溶性高分子は、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む方法によって処理された水溶性高分子である、半導体用濡れ剤。
【0010】
水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤の製造方法であって、
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む、半導体用濡れ剤の製造方法。
【0011】
さらに、本発明の上記課題は、以下の手段によっても解決されうる:
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む方法によって処理された、研磨用組成物用途および/または半導体濡れ剤用途の水溶性高分子。
【0012】
原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程と、
前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程と、
を含む、研磨用組成物用途および/または半導体濡れ剤用途の水溶性高分子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板の良好な表面状態を達成できる研磨用組成物、半導体用濡れ剤、水溶性高分子が提供される。より詳細には、本発明に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤によって研磨および/またはリンスすることで、基板上で観察される欠陥の個数をより減少させることができる。特に、LPD-N(Light Point Defect Non-cleanable)やLPD(Light Point Defect)といった欠陥の減少に効果的である。
【0014】
また、本発明によれば、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤の製造に用いられる水溶性高分子の高分子量体を選択的に除去することができる。そして、この高分子量体の選択的除去によって、水溶性高分子を含む溶液、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性を向上させることができる。さらに、水溶性高分子およびこれを含む溶液中に含まれる不純物量を増加させず、高分子量体を選択的に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例における、原料水溶性高分子としてHEC1を用いた場合の、原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子のGPC溶出曲線である。
図2図2は、実施例における、原料水溶性高分子としてHEC2を用いた場合の、原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子のGPC溶出曲線である。
図3図3は、実施例における、原料水溶性高分子としてHEC1を用いた場合の、原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子の微分分子量分布曲線である。
図4図4は、実施例における、原料水溶性高分子としてHEC2を用いた場合の、原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子の微分分子量分布曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0017】
本発明によって上記課題が解決されうるメカニズムは、完全には明らかになっていないが、本発明者らはその一部について以下のように推測している。
【0018】
本発明では、原料水溶性高分子を含む溶液に圧力を加えることによって、原料水溶性高分子の高分子量体の絡み合いが解消され、原料水溶性高分子の高分子量体の分子鎖が断裂する。その結果、原料水溶性高分子の高分子量体が除去され、処理前の原料水溶性高分子よりも粘度が低下し、得られる水溶性高分子(本明細書では、単に「被処理水溶性高分子」とも称する)を含む溶液、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性が向上する。
【0019】
また、原料水溶性高分子を含む溶液に圧力を加える方法として、原料水溶性高分子を含む溶液同士を衝突させ、溶液に圧力を加えており、他の部材との衝突を採用していないことから、不純物の混入が生じ難い。
【0020】
これらの結果、原料水溶性高分子から、表面欠陥の原因となる高分子量体を除去することができ、また、原料水溶性高分子の処理による不純物の増加も防ぐことができる。これより、本発明に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を用いて研磨および/またはリンスした際に、基板の表面欠陥(例えば、LPD-NやLPD)の個数をより低減させることができるものと考えられる。
【0021】
ここで、高分子量体が選択的に除去されるという点のメカニズムも、完全には明らかにはなっていないが本発明者らはその一部について以下のように推察している。
【0022】
すなわち、衝突工程において、原料水溶性高分子内の高分子量体の方が、低分子量体に比べて衝突頻度が高く、また、高分子量体の方が、低分子量体よりも分子鎖の断裂する点が割合として多く含まれているため、高分子量体が選択的に除去されるものと考えられる。
【0023】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0024】
以下、本発明の詳細について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0025】
<研磨用組成物および半導体用濡れ剤ならびにこれらの製造方法>
本発明の一形態は、砥粒と、水溶性高分子とを含む研磨用組成物であって、前記水溶性高分子は、原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程(本明細書では、単に「溶解工程」とも称する)と、前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程(本明細書では、単に「衝突工程」とも称する)と、を含む方法によって処理された水溶性高分子である、研磨用組成物に関する。
【0026】
本発明の他の一形態は、水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤であって、前記水溶性高分子は、溶解工程と、衝突工程と、を含む方法によって処理された水溶性高分子である、半導体用濡れ剤に関する。
【0027】
以下、本願の研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤に用いられる水溶性高分子になされる処理について説明する。
【0028】
≪水溶性高分子の処理および処理された水溶性高分子≫
本発明の一形態は、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤に用いられる水溶性高分子の処理方法であって、原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程(溶解工程)と、前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程(衝突工程)と、を含む、水溶性高分子(すなわち、被処理水溶性高分子)の処理方法に関する。また、本発明の他の一形態は、溶解工程と、衝突工程と、を含む方法によって処理された、研磨用組成物用途および/または半導体用濡れ剤用途の水溶性高分子に関する。
【0029】
[溶解工程]
本発明の水溶性高分子は、原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を調製する工程(溶解工程)を含む方法によって処理された水溶性高分子である。
【0030】
本明細書において、「溶解する」とは、溶解することまたは分散することを表す。そして、「溶解する」ことは、少なくとも一部が溶解した状態とすることが好ましく、この際、他の残りの一部は溶媒に分散した状態であってもよいが、完全に溶解した状態とすることが特に好ましい。
【0031】
(原料水溶性高分子)
本発明の原料水溶性高分子の種類は、水溶性を有する高分子化合物であれば特に制限されない。例えば高分子化合物として、分子中に、水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、アミド構造、イミド構造、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造、エーテル結合などを含むものが挙げられる。
【0032】
なお、本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子化合物」とは、重量平均分子量(Mw)が2,000以上である化合物をいう。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0033】
原料水溶性高分子としては、天然高分子化合物、半合成高分子化合物、合成高分子化合物のいずれを用いてもよい。天然高分子化合物としては、特に制限されないが、好ましくは、多糖類等が挙げられる。また、半合成高分子化合物としては、特に制限されないが、好ましくは、セルロース誘導体、でんぷん誘導体等が挙げられる。そして、合成高分子化合物としては、特に制限されないが、好ましくは、オキシアルキレン単位を有する高分子、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子、窒素原子を有する高分子等が挙げられる。本発明の一実施形態において、原料水溶性高分子は、表面品位を改善するという観点から、水酸基またはエーテル基を含む。なかでも、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子およびセルロース誘導体の少なくとも一方を含むと好ましい。これらの高分子を含む研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、研磨および/またはリンス工程後の表面品位を向上させやすい。以下に、これらの化合物の具体例を挙げる。
【0034】
多糖類としては、特に制限されないが、例えば、カラギーナン、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0035】
セルロース誘導体としては、特に制限されないが、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(以下、単に「HEC」とも称する。)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体およびプルラン等が挙げられる。セルロース誘導体の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、セルロース誘導体とは、セルロースの持つ水酸基の一部が他の置換基に置換されたものをいう。
【0036】
でんぷん誘導体としては、特に制限されないが、例えば、カチオンでんぷん、リン酸でんぷん、カルボキシメチルでんぷん塩などが挙げられる。
【0037】
オキシアルキレン単位を有する高分子としては、特に制限されないが、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。なかでも、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。
【0038】
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比[EO/PO]は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。さらに好ましい一態様において、上記モル比[EO/PO]は、例えば5以上である。
【0039】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子としては、繰返し単位としてビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニルアルコール単位とは、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分である。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0040】
ここに開示される原料水溶性高分子に使用されるビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、変性されていないポリビニルアルコール(非変性PVA)であってもよく、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)であってもよい。ここで非変性PVAとは、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより生成し、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)およびVA単位以外の繰返し単位を実質的に含まないビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子をいう。上記非変性PVAのけん化度は、例えば60%以上であってよく、水溶性の観点から70%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上でもよい。いくつかの態様において、けん化度が95%以上である非変性PVA、または98%以上である非変性PVAを、原料水溶性高分子として好ましく採用し得る。
【0041】
変性PVAに含まれ得る非VA単位としては、例えば後述するN-ビニル型のモノマーやN-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位、エチレンに由来する繰返し単位、アルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルに由来する繰返し単位、等が挙げられるが、これらに限定されない。上記N-ビニル型のモノマーの一好適例として、N-ビニルピロリドンが挙げられる。上記N-(メタ)アクリロイル型のモノマーの一好適例として、N-(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。上記アルキルビニルエーテルは、例えばプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテルであり得る。上記炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルは、例えばプロパン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル等の、炭素原子数3以上7以下のモノカルボン酸のビニルエステルであり得る。
【0042】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位と、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する非VA単位とを含む変性PVAであってもよい。
【0043】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子に含まれるVA単位の一部がアルデヒド化合物またはケトン化合物でアセタール化された変性PVAであってもよい。ここに開示される技術における好ましい一態様において、アセタール化された変性PVAは、上述の非変性PVAとアルデヒド化合物とのアセタール化反応により得られる高分子である。
【0044】
本発明の一実施形態において、アセタール化された変性PVAを生成するのに用いられるアルデヒド化合物は特に限定されない。好ましい一態様において、上記アルデヒド化合物の炭素数は1~7であり、より好ましくは2~7である。
【0045】
上記アルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、t-ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド等の直鎖または分岐アルキルアルデヒド類;シクロヘキサンカルバルデヒド、ベンズアルデヒド等の脂環式または芳香族アルデヒド類;が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、ホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。なかでも、水に対する溶解性が高くアセタール化反応が容易である点から、直鎖または分岐アルキルアルデヒド類であることが好ましく、その中でもアセトアルデヒド、n-プロピルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、n-ペンチルアルデヒドであることがより好ましい。
【0046】
アルデヒド化合物としては、上記の他にも、2-エチルヘキシルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド等の炭素数8以上のアルデヒド化合物を用いてもよい。
【0047】
また、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子として、第四級アンモニウム構造等のカチオン性基が導入されたカチオン変性ポリビニルアルコールを使用してもよい。上記カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等のカチオン性基を有するモノマーに由来するカチオン性基が導入されたものが挙げられる。
【0048】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば、5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子に非VA単位を含有させないことをいい、典型的には全繰返し単位のモル数に占める非VA単位のモル数の割合が2%未満(例えば1%未満)であり、0%である場合を包含する。他のいくつかの態様において、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
【0049】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子におけるVA単位の含有量(質量基準の含有量)は、例えば5質量%以上であってよく、10質量%以上でもよく、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50質量%以上(例えば50質量%超)であってよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上(例えば90質量%以上、または95質量%以上、または98質量%以上)でもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する繰返し単位の実質的に100質量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100質量%」とは、少なくとも意図的にはビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいい、典型的にはビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子における非VA単位の含有量が2質量%未満(例えば、1質量%未満)であることをいう。他のいくつかの態様において、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子におけるVA単位の含有量は、例えば95質量%以下であってよく、90質量%以下でもよく、80質量%以下でもよく、70質量%以下でもよい。
【0050】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位の含有量が50質量%より高いポリマー鎖Aと、VA単位の含有量が50質量%より低い(すなわち、非VA単位の含有量が50質量%より多い)ポリマー鎖Bとを、同一分子内に含んでいてもよい。
【0051】
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、95質量%以上でもよく、98質量%以上でもよい。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100質量%がVA単位であってもよい。
【0052】
ポリマー鎖Bは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、95質量%以上でもよく、98質量%以上でもよい。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に100質量%が非VA単位であってもよい。
【0053】
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを同一分子中に含むビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。一態様において、ポリマー鎖Aにポリマー鎖Bがグラフトした構造のビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を用いることができる。
【0054】
ポリマー鎖Bの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、オキシアルキレン単位を主繰返し単位とするポリマー鎖等が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50質量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
【0055】
ポリマー鎖Bの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50質量%超であり、70質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0056】
この明細書において、N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Bは、例えば、その繰返し単位の50質量%超(例えば、70質量%以上、または85質量%以上、または95質量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
【0057】
ポリマー鎖Bの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50質量%超であり、70質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0058】
この明細書において、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
【0059】
ポリマー鎖Bの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50質量%超であり、70質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
【0060】
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキサイドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位またはブチレンオキサイド単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。二種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキシドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。そのなかでも、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のブロック共重合体またはオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位のランダム共重合体が好ましい。オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とのブロック共重合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック共重合体、トリブロック共重合体等であり得る。上記トリブロック共重合体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック共重合体が含まれる。通常は、PEO-PPO-PEO型トリブロック共重合体がより好ましい。
【0061】
ポリマー鎖Bのさらに他の例として、アルキルビニルエーテル(例えば、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、モノカルボン酸ビニルエステル(例えば、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、VA単位の一部がアルデヒド(例えば、炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルキルアルデヒド)でアセタール化されたポリマー鎖、カチオン性基(例えば、第四級アンモニウム構造を有するカチオン性基)が導入されたポリマー鎖、等が挙げられる。
【0062】
ここに開示される原料水溶性高分子におけるビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子としては、非変性PVAを用いてもよく、変性PVAを用いてもよく、非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いる態様において、原料水溶性高分子に含まれるビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子全量に対する変性PVAの使用量は、例えば95質量%未満であってよく、90質量%以下でもよく、75質量%以下でもよく、50質量%以下でもよく、30質量%以下でもよく、10質量%以下でもよく、5質量%以下でもよく、1質量%以下でもよい。ここに開示される原料水溶性高分子は、例えば、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子として一種または二種以上の非変性PVAのみを用いる態様で好ましく実施され得る。
【0063】
窒素原子を有する高分子としては、特に制限されないが、N-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー、イミン誘導体、N-(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。例えば、ポリN-アクリロイルモルホリン(PACMO)、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)、ポリヒドロキシルエチルアクリルアミド(PHEAA)、ポリN-ビニルイミダゾール(PVI)、ポリN-ビニルカルバゾール、ポリN-ビニルカプロラクタム、ポリN-ビニルピペリジン等が挙げられる。なかでも、基板のヘイズを低減させるという観点から、ポリN-アクリロイルモルホリン(PACMO)を含むことが好ましい。窒素原子を有する高分子の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
これらの中でも、本発明のろ過性の向上効果がより顕著となる観点から、半合成高分子化合物または合成高分子化合物が好ましく、半合成高分子化合物がより好ましい。本発明の一実施形態において、原料水溶性高分子は、表面品位を改善するという観点から、水酸基またはエーテル基を含むことが好ましく、例えばセルロース誘導体であることがより好ましく、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)であることがさらに好ましい。
【0065】
原料水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、前述のように2,000以上であれば特に制限されない。本発明のろ過性の向上効果がより顕著となるとの観点から、10,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましい。また、原料水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ろ過性の観点から、4,000,000以下であることが好ましく、3,000,000以下であることがより好ましく、2,800,000以下であることがさらに好ましく、1,500,000以下であることが特に好ましい。また、原料水溶性高分子の分散度(本明細書では、「Mw/Mn」とも表す:ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を表す)は、特に制限されないが、その値が大きいほど本発明の効果が大きくなる傾向がある。この観点から、原料水溶性高分子のMw/Mnの下限は、例えば、5超であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましく、20以上であることがさらにより好ましい。原料水溶性高分子のMw/Mnの上限は、95以下であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましく、80以上であることがさらにより好ましい。原料水溶性高分子のMw/Mnの上限は、例えば75以下、40以下とすることができる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、前記原料水溶性高分子はビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子である。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、2,000以上であることが好ましく、2,500以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましく、10,000以上であることがさらにより好ましい。かかる実施形態によれば、研磨および/またはリンス工程後の表面品位が向上するという技術的効果がある。本発明の一実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、500,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることがさらに好ましく、150,000以下であることがさらにより好ましい。かかる実施形態によれば、ろ過性が向上する。
【0067】
本発明の一実施形態によれば、前記原料水溶性高分子はセルロース誘導体である。セルロース誘導体の重量平均分子量(Mw)は、2,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましく、例えば、150,000以上であってもよく、200,000以上であってもよい。また、幾つかの態様においては、350,000以上であることが好ましく、500,000以上であることがさらに好ましく、700,000以上であることがよりさらに好ましく、900,000以上であることが特に好ましく、例えば、1,250,000以上であってもよい。かかる実施形態によれば、研磨および/またはリンス工程後の表面品位が向上するという技術的効果がある。本発明の一実施形態によれば、前記セルロース誘導体の重量平均分子量(Mw)は、4,000,000以下であることが好ましく、3,000,000以下であることがより好ましく、2,800,000以下であることがさらに好ましく、1,500,000以下であることがよりさらに好ましく、1,000,000以下であることが特に好ましく、例えば、750,000以下であってもよく、450,000以下であってもよい。かかる実施形態によれば、ろ過性が向上する。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、前記原料水溶性高分子は窒素原子を有する高分子である。窒素原子を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、2,000以上であることが好ましく、4,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、20,000以上であることがさらにより好ましい。かかる実施形態によれば、研磨および/またはリンス工程後の表面品位が向上するという技術的効果がある。本発明の一実施形態によれば、前記窒素原子を有する原料水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、1,600,000以下であることが好ましく、1,250,000以下であることがより好ましく、750,000以下であることがさらに好ましく、400,000以下であることがさらにより好ましい。かかる実施形態によれば、ろ過性が向上する。
【0069】
水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法を採用する。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、溶解工程における原料水溶性高分子の含有量は、粉砕工程での粉砕効率の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であるとより好ましく、1.5質量%以上であるとさらに好ましい。本発明の一実施形態において、溶解工程における原料水溶性高分子の含有量は、溶解性の観点から、5質量%以下であると好ましく、4質量%以下であるとより好ましく、3質量%以下であるとさらに好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態に係る原料水溶性高分子としては、粉体を用いることが好ましい。
【0072】
原料水溶性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、一種を単独で用いることが好ましい。
【0073】
(溶媒)
本明細書において、「溶媒」とは、溶媒または分散媒を表す。溶媒としては、原料水溶性高分子を溶解させることができるものであれば特に制限されないが、水を含むことが好ましい。溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、溶媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%(水のみ)であることがさらに好ましい。水としては、基板の汚染や他の成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0074】
また、溶媒は、原料水溶性高分子の溶解性を向上させることができる場合、有機溶媒であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が好ましく用いられる。有機溶媒を用いる場合、水と有機溶媒とを混合し、得られた混合溶媒中に各成分を添加して溶解させてもよいし、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、原料水溶性高分子を溶解させた後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0075】
溶解工程における溶解方法は、原料水溶性高分子を溶媒に溶解させることができるものであれば、特に制限されないが、原料水溶性高分子を溶媒に添加し、攪拌する方法が好ましい。攪拌方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。また攪拌温度は特に制限されないが、一般的には10~40℃が好ましい。また、攪拌時間も特に制限されない。
【0076】
[衝突工程]
本発明の水溶性高分子は、上記の溶解工程を経て得られた溶液同士を衝突させて、当該溶液に圧力を加える工程(衝突工程)を含む方法によって処理された水溶性高分子である。衝突工程では、2以上の溶液同士が衝突する結果、これらの溶液に圧力が加えられることとなる。当該溶液に圧力を加えるための装置としては、特に制限されず、公知の装置を用いることができる。好ましい例としては、ジェットミルが挙げられる。
【0077】
ジェットミルとは、液相流内で被処理物質の粒子同士または粒子と流路壁との衝突によって粒子を微粒化するものである。より詳細には、任意の方法で高速流を発生させ、被処理液体同士または被処理液体と流路壁との衝突を起こさせると共に、高速流によって生じる乱流・剪断およびキャビテーション効果などを有効に活用し、被処理液体中の原料を微粒化して分散を促進する機能を備えた装置の総称である。代表的なものとしては、プランジャーポンプやロータリーポンプ等によって被処理液体をノズルから噴射させ、固定板に高速で衝突させる方式と、噴射される被処理液体同士を正面から衝突させる方式とがある。そして被処理液体が流路内のノズルを高速で通過し、または衝突しながら通過する際に、乱流・剪断を受けると共に、衝突直後に減圧解放されるときにキャビテーション効果が生じ、急激な放圧による衝撃を受けて、被処理液中の原料は著しく微粒化される。なお、本発明においては、噴射される被処理液体同士を正面から衝突させる方式が用いられる。これにより、不純物の混入を防ぐことができる。
【0078】
ジェットミルは、原料水溶性高分子の高分子量体の選択的除去効果に特に優れる。ここで、高分子量体の選択的除去効果とは、(1)高分子量体の量が減少すること、(2)低分子量体の量が維持されていること、および(3)後述する微分分子量分布曲線におけるピークトップの分子量(ピークトップ分子量:Mp)が維持されていることのすべてを満たしていることを意味する。これにより、被処理水溶性高分子を含む溶液や研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性がより高まり、当該研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤によって研磨および/またはリンスされた基板における欠陥(LPD-NやLPD等)の個数をより減少させることができる。
【0079】
ジェットミルとしては、特に制限されず、例えば特開2015-188853号公報等に記載の公知の技術を用いることができる。また、例えば、スターバーストラボ(スギノマシン社製)などの市販の装置を用いることができる。
【0080】
ジェットミルの処理条件は、使用する装置によっても変化することから、特に制限されず、衝突工程の対象物や目的とする衝突工程後の高分子量体の選択的除去効果等に応じて、適宜調整することができる。
【0081】
例えば、処理圧力としては、特に制限されないが、5MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましく、15MPa以上がさらに好ましく、20MPa以上がさらにより好ましく、例えば、30MPa以上、40MPa以上、50MPa以上、100MPa以上、200MPa以上であってもよい。この範囲であると、高分子量体の選択的除去効果がより高い。また、被処理水溶性高分子を含む溶液や研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性がより高まる。また、処理圧力としては、特に限定されないが、900MPa以下であることが好ましく、500MPa以下であることがより好ましく、250MPa以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、低分子量体の量が維持され、ピークトップ分子量(Mp)の変化がより小さい。
【0082】
また、処理時間としては、特に制限されないが、1分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、20分以上がさらに好ましく、30分以上がさらにより好ましく、例えば、40分以上、80分以上、100分以上であってもよい。この範囲であると、高分子量体の選択的除去効果がより高い。また、被処理水溶性高分子を含む溶液や研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性がより高まる。また、処理時間としては、特に限定されないが、600分以下であることが好ましく、500分以下であることがより好ましく、400分以下であることがさらに好ましく、例えば、300分以下、200分以下、150分以下であってもよい。この範囲であると、低分子量体の量が維持され、ピークトップ分子量(Mp)の変化がより小さい。
【0083】
さらに、処理液流量としては、特に制限されないが、10mL/min以上であることが好ましく、50mL/min以上であることがより好ましく、80mL/min以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、高分子量体の選択的除去効果がより高い。また、被処理水溶性高分子を含む溶液や研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性がより高まる。また、処理液流量としては、100000mL/min以下であることが好ましく、10000mL/min以下であることがより好ましく、1000mL/min以下であることがさらに好ましく、800mL/min以下であることがよりさらに好ましく、600mL/min以下であることが特に好ましい。この範囲であると、低分子量体の量が維持され、ピークトップ分子量(Mp)の変化がより小さい。
【0084】
そして、処理回数としては、特に制限されないが、例えば、1回以上であってもよく、3回以上であることが好ましく、5回以上であることがより好ましい。この範囲であると、高分子量体の選択的除去効果がより高い。また、被処理水溶性高分子を含む溶液や研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤のろ過性がより高まる。また、処理回数としては、20回以下であることが好ましく、10回以下であることがより好ましく、8回以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、低分子量体の量が維持され、ピークトップ分子量(Mp)の変化がより小さい。
【0085】
(被処理水溶性高分子)
被処理水溶性高分子は、前述のように、上記衝突工程により原料水溶性高分子の高分子量体が選択的に除去されたものであることが好ましい。また、低分子量体の量が維持され、ピークトップ分子量(Mp)の変化がより小さいものであることが好ましい。
【0086】
なお、本明細書において、高分子量体とは、ピークトップ分子量(Mp)よりも高分子量の成分を表す。より具体的には、水溶性高分子の微分分子量分布曲線において、dw/d(LogM)がピークとなるLogMよりも高分子量側のLogMに対応する成分を表す。
【0087】
また、本明細書において、低分子量体とは、ピークトップ分子量(Mp)よりも低分子量の成分を表す。より具体的には、水溶性高分子の微分分子量分布曲線において、dw/d(LogM)がピークとなるLogMよりも低分子量側のLogMに対応する成分を表す。
【0088】
本発明における被処理水溶性高分子は、特に限定されるものではないが、原料水溶性高分子の高分子量体が選択的に除去されているという観点で、少なくとも下記の〔1〕~〔3〕のいずれかの特性を有するものであることが好ましい。また、当該水溶性高分子は、下記の〔1〕~〔3〕のうちの2つ以上の特性を有するものであることが好ましく、全ての特性を有するものであることがより好ましい。
【0089】
〔1〕高分子量体の量の減少
被処理水溶性高分子の高分子量体の量の変化は以下のように確認することができる。すなわち、(1)原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子の微分分子量分布曲線をそれぞれ描く。(2)縦軸dw/d(LogM)の値が20であるときの、横軸LogMの2つの値のうち大きい方の値である、LogM(R)およびLogM(P)をそれぞれ抽出する。(3)被処理水溶性高分子のLogM(P)と原料水溶高分子のLogM(R)を比較する。ここで、LogM(P)がLogM(R)よりも小さい場合、高分子量体が減少したと言える。
【0090】
高分子量体の減少量は大きい程好ましいため、LogM(P)/LogM(R)の割合(LogM(R)に対するLogM(P)の割合)(%)は、小さいほど好ましい。当該割合は、例えば、98%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、80%以下であることがさらに好ましく、65%以下であることがよりさらに好ましく、60%以下であることが特に好ましく、45%以下であることがさらに特に好ましい。当該割合が上記範囲内であると、本発明に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤がウェーハへ密に吸着するため、表面欠陥をより低減させることができる。当該割合は、衝突工程において溶液に加える圧力を高くすることで、低くすることが可能である。ジェットミル処理においては、例えば、処理圧力を高くすることで、当該割合を低くすることができる。
【0091】
〔2〕低分子量体の量の維持
被処理水溶性高分子の低分子量体の量の変化は、以下のように確認することができる。すなわち、(1)原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子の微分分子量分布曲線をそれぞれ描く。(2)横軸LogMの値が4.5であるときの、原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子の縦軸dw/d(LogM)をそれぞれ抽出する。(3)被処理水溶性高分子のdw/d(LogM(p))と原料水溶性高分子のdw/d(LogM(r))を比較する。ここで、dw/d(LogM(p))とdw/d(LogM(r))との差異が小さい場合、低分子量体の量が維持されていると言える。
【0092】
低分子量体の量の変化は小さい程好ましいため、[dw/d(LogM(p))]/[dw/d(LogM(r))]の割合(dw/d(LogM(r))に対するdw/d(LogM(p))の割合)(%)は、100%に近いほど好ましい。その範囲は、例えば、100±5%であってもよく、100±3%であることが好ましく、100±2%であることがより好ましく、100±1%であることがさらに好ましく、100±0.8%がよりさらに好ましく、100±0.5%が特に好ましく、100±0.3%であることがさらに特に好ましく、100±0.1%であることが極めて好ましい。当該割合が上記範囲内であると、原料水溶性高分子の低分子量体により発揮される、ウェーハを密に保護する機能を維持することができると考えられる。そのため、本発明に係る上記被処理水溶性高分子を含む研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を用いて研磨した際の表面欠陥をより低減することができる。
【0093】
〔3〕ピークトップ分子量(Mp)の維持
被処理水溶性高分子のピークトップ分子量(Mp)の変化は以下のように確認することができる。すなわち、(1)原料水溶性高分子および被処理水溶性高分子の微分分子量分布曲線をそれぞれ描く。(2)dw/d(LogM)がピークを持つLogMをそれぞれ抽出する。(3)被処理水溶性高分子のLogM(p_peak)と原料水溶性高分子のLogM(r_peak)を比較する。ここで、LogM(p_peak)とLogM(r_peak)との差異が小さい場合、ピークトップ分子量(Mp)の変化が小さいと言える。
【0094】
ピークトップ分子量(Mp)の変化が小さい程好ましいため、LogM(p_peak)/LogM(r_peak)の割合(LogM(r_peak)に対するLogM(p_peak)の割合)(%)は、100%に近いほど好ましい。その範囲は、例えば、100±5%であることが好ましく、100±4%であることがより好ましく、100±3%であることがさらに好ましく、100±2%がさらにより好ましく、100±1.5%が特に好ましく、100±1%であることがさらに特に好ましく、100±0.5%であることが極めて好ましく、100±0.1であることがさらに極めて好ましい。当該割合が上記範囲内であると、ウェーハをより均一に保護する機能を保持できると考えられる。そのため、本発明に係る上記被処理水溶性高分子を含む研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を用いて研磨した際の表面欠陥をより低減することができる。
【0095】
なお、高分子の微分分子量分布曲線の作成は、一般的な方法を用いて行うことができ、作成方法の詳細は実施例に記載する。また、GPC法による測定で得られたGPC溶解曲線や、微分分子量分布曲線における面積の算出は、GPC装置(東ソー株式会社製、商品名『HLC-8420 GPC』)に搭載されている解析ソフトを用いて行うことができる。
【0096】
被処理水溶性高分子は、上記〔1〕~〔3〕の特定に加えて、下記の特性を有する。
【0097】
被処理水溶性高分子のMw/Mnは、特に制限されないが、30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、15以下であることがさらにより好ましく、10以下であることが特に好ましく、8以下であることがさらに特に好ましく、例えば、7.5以下(典型的には、7以下)であってもよい。この範囲であると、当該被処理水溶性高分子を含む研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤によって研磨された基板における欠陥(例えば、LPD-NやLPD)の個数をより減少させることができる。また、当該被処理水溶性高分子を含む溶液や研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、より優れたろ過性を有する。また、被処理水溶性高分子のMw/Mnは、1以上であることが好ましい。
【0098】
原料水溶性高分子の分散度(Mw/Mn)に対する、被処理水溶性高分子の分散度(Mw/Mn)の割合(%)は低いことが好ましい。上記割合は、特に限定されないが、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることがさらに好ましく、70%以下であることがよりさらに好ましく、30%以下であることが特に好ましく、25%以下であることがさらに特に好ましく、20%以下であることが極めて好ましい。当該割合が小さいほど、分子量分布がより狭まり、より均一な重量分子量をもつ被処理水溶性高分子が得られていることを表す。また、当該割合は、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、15%以上であることが特に好ましい。当該割合が上記範囲であると、低分子量体の量が維持される傾向がある。また、当該割合が上記範囲内であると、原料水溶性高分子の粒子径がより均一な状態となり、ウェーハをより密に保護することができる。そのため、上記被処理水溶性高分子を含む研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を用いて研磨および/またはリンスした際の表面欠陥をより低減することができる。当該割合は、衝突工程において溶液に加える圧力を高くすることで、低くすることが可能である。ジェットミル処理においては、例えば処理圧力を高くすることで、当該割合を低くすることができる。
【0099】
衝突工程を経て得られた被処理水溶性高分子は、被処理水溶性高分子の不純物量と、原料水溶性高分子の不純物量との差異が小さいとの利点がある。特に、金属不純物量の差異が小さくなる。衝突工程では、溶液同士を衝突させて、溶液に圧力を加えており、他の部材との衝突を採用していないことから、不純物の混入が生じ難いからであると考えられる。なお、金属不純物量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により金属不純物濃度測定することで評価することができ、測定装置としては、例えば、株式会社島津製作所製の誘導結合高周波プラズマ分光分析装置『ICP-AES』を用いることができる。なお、金属不純物の種類によっては、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)又は原子吸光分析装置を用いて行われてもよい。
【0100】
≪研磨用組成物および半導体用濡れ剤の製造方法≫
本発明の一形態は、砥粒と、水溶性高分子(被処理水溶性高分子)を含む研磨用組成物の製造方法であって、原料水溶性高分子を溶媒に溶解して溶液を作る工程(溶解工程)と、前記溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程(衝突工程)と、圧力を加えた前記溶液に砥粒を混合する工程と、を含む、研磨用組成物の製造方法に関する。
【0101】
本発明の他の一形態は、水溶性高分子(被処理水溶性高分子)を含む半導体用濡れ剤の製造方法であって、溶解工程と、衝突工程と、圧力を加えた前記溶液に他の成分を混合する工程と、を含む、半導体用濡れ剤の製造方法に関する。
【0102】
これらの形態において、被処理水溶性高分子は、上記の水溶性高分子の処理および被処理水溶性高分子の説明で述べたものである。また、溶解工程および衝突工程は、上記の水溶性高分子の処理および被処理水溶性高分子で述べたものである。
【0103】
また、本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤の製造方法は、複数の混合工程を含んでいてもよく、この際、各混合工程の間に他の工程を含んでいてもよい。例えば、ある成分についての混合工程の後に、後述するろ過工程を設け、その後、さらに後述する他の成分についての混合工程を設けてもよい。
【0104】
[混合工程]
本発明の研磨用組成物は、上記衝突工程を経て得られた溶液に、少なくとも砥粒を含む他の成分を混合する工程(混合工程)を含む方法によって製造される。ここで、他の成分とは、上記溶解工程および衝突工程を経て、原料水溶性高分子より得られた被処理水溶性高分子、ならびに上記の溶解工程および衝突工程で使用される溶媒以外の成分である。他の成分としては、例えば、塩基性化合物、有機酸またはその塩、無機酸またはその塩、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、被処理水溶性高分子以外の水溶性高分子、分散剤等の、公知の研磨用組成物に用いられる各種成分が挙げられる。これらの他の成分を、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で混合することができる。少なくとも砥粒を含む他の成分の一例としては、例えば、砥粒のみであることが挙げられる。
【0105】
また、本発明の半導体用濡れ剤は、上記衝突工程を経て得られた溶液に、砥粒を混合せず、上記他の成分を混合する工程(混合工程)を含む方法によって製造される。
【0106】
混合工程における各種成分の混合方法、混合条件等は、特に制限されない。例えば、上記衝突工程を経て得られた溶液に対して各種成分を添加してもよいし、各種成分に対して上記衝突工程を経て得られた溶液を添加してもよい。また、各種成分の添加の順序も特に制限されず、これらを同時に添加しても、順次添加しても、いくつかの成分のみ同時に添加してもよい。また、混合温度は特に制限されないが、一般的には10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。混合装置についても、特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いることができる。
【0107】
以下、混合工程において添加される各種成分について説明する。
【0108】
(砥粒)
砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。このような砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、半導体用濡れ剤には、砥粒が含まれない。
【0109】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。後述するシリコンウェーハ等のようにシリコンからなる表面を有する基板の研磨、例えば仕上げ研磨に用いられ得る研磨用組成物では、砥粒としてシリカ粒子を採用することが特に有意義である。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施されうる。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95質量%以上がシリカ粒子であることをいう。砥粒を構成する粒子の98質量%以上、好ましくは99質量%以上、例えば、100質量%がシリカ粒子であってもよい。
【0110】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。ここでアルコキシド法コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカをいう。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
砥粒構成材料の真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上である。砥粒構成材料は、例えば、シリカ粒子を構成するシリカである。砥粒構成材料の真比重の増大により、物理的な研磨能力は高くなる傾向にある。砥粒の物理的な研磨能力が高くなると、一般に、該砥粒が基板表面に与える局所的なストレスは大きくなる傾向にある。かかる観点から、真比重が1.7以上の砥粒が特に好ましい。砥粒の真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。砥粒(例えばシリカ粒子)の真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用しうる。
【0112】
砥粒の平均一次粒子径(BET径)は、特に限定されないが、研磨効率等の観点から、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。より高い研磨効果、例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果を得る観点から、上記BET径は、15nm以上であることが好ましく、20nm以上、例えば、20nm超であることがより好ましい。砥粒の平均一次粒子径は、砥粒が基板表面に与える局所的なストレスを抑制する観点から、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましい。ここに開示される技術は、より高品位の表面が得られやすいこと等から、平均一次粒子径が50nm以下、典型的には40nm未満、より好ましくは35nm以下、さらに好ましくは32nm以下の砥粒を用いる態様でも好ましく実施されうる。
【0113】
砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法により測定される比表面積から算出される。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の「Flow SorbII 2300」を用いて行うことができる。本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。
【0114】
砥粒の平均二次粒子径は、特に限定されないが、研磨効率等の観点から、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらにより好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。より高い研磨効果、例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果を得る観点から、上記平均二次粒子径は、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。また、砥粒の平均二次粒子径は、砥粒が基板表面に与える局所的なストレスを抑制する観点から、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、125nm以下であることがさらにより好ましい。ここに開示される技術は、より高品位の表面が得られやすいこと等から、平均二次粒子径が100nm以下、例えば、80nm未満(典型的には、45nm以下)の砥粒を用いる態様でも好ましく、実施されうる砥粒の平均二次粒子径の減少によって、研磨用組成物の安定性が向上する。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA-UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0115】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状すなわち落花生の殻の形状、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状をした砥粒を好ましく採用しうる。
【0116】
特に限定するものではないが、砥粒の長径/短径比の平均値、すなわち平均アスペクト比は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨能率が実現されうる。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0117】
砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数のシリカ粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。所定個数は、例えば200個である。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0118】
(水溶性高分子)
本発明の研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、上記の被処理水溶性高分子を含む。被処理水溶性高分子の原料水溶性高分子は2種以上の水溶性高分子を含んでいてもよい。好ましくは、被処理水溶性高分子の原料水溶性高分子は1種の水溶性高分子である。
【0119】
研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤における、被処理水溶性高分子の含有量は特に制限されないが、研磨および/またはリンス工程後の表面品位という観点から、溶媒100質量部に対して、0.0001質量部以上であることが好ましく、0.0005質量部以上であることがより好ましく、0.001質量部以上であることがさらに好ましく、0.0015質量部以上であることがよりさらに好ましく、0.002質量部以上であることが特に好ましく、例えば、0.05質量部以上(典型的には、0.1質量部以上)であってもよい。また、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤における、被処理水溶性高分子の含有量としては、ろ過性の観点から、溶媒100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることがよりさらに好ましく、0.5質量部以下であることが特に好ましく、例えば、0.3質量部以下(典型的には、0.2質量部以下)であってもよい。
【0120】
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、上記被処理水溶性高分子以外の水溶性高分子(以下、「任意ポリマー」とも称する)を含んでもよい。任意ポリマーとしては、例えば、上記溶解工程において例示した種類の水溶性高分子が挙げられる。また、例示された種類以外の水溶性高分子としては、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。任意ポリマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤における、任意ポリマーの含有量は特に制限されないが、上記混合工程において記載した被処理水溶性高分子の含有量であってもよい。被処理水溶性高分子の含有量と任意ポリマーの含有量との割合は特に限定されないが、研磨工程後の表面品位という観点から、含有する水溶性高分子全体に対する任意ポリマーの割合は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることがよりさらに好ましく、20%以下であることが特に好ましく、例えば、10%以下であってもよく、5%以下であってもよい。
【0122】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が濃縮液の状態である場合、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤中の水溶性高分子の含有量は、安定性を向上させるという観点から、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であるとより好ましく、0.001質量%以上であるとさらに好ましく、0.01質量%以上であると特に好ましい。本発明の一実施形態において、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が濃縮液の状態である場合、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤中の水溶性高分子の含有量は、保管安定性や濾過性等の観点から、5質量%以下であると好ましく、3質量%以下であるとより好ましく、1質量%以下であるとさらに好ましい。
【0123】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が希釈液の状態である場合、水溶性高分子の含有量は、研磨および/またはリンス工程後の表面品位が向上するという観点から、0.00005質量%以上であることが好ましく、0.0001質量%以上であるとより好ましく、0.0005質量%以上であるとさらに好ましく、0.001質量%以上であると特に好ましい。また、本発明の一実施形態において、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が希釈液の状態である場合、水溶性高分子の含有量は、研磨レート維持の観点から、0.1質量%以下であると好ましく、0.05質量%以下であるとより好ましく、0.01質量%以下であるとさらに好ましい。なお、上記において、水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が水溶性高分子を2種以上含む場合には、その合計量を指す。
【0124】
(分散剤)
研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤に含まれる分散媒としては、特に制限されないが、例えば、上記溶解工程において例示した種類のものであることが好ましい。特に、上記溶解工程および/または上記衝突工程にて用いた溶媒をそのまま用いることが好ましい。なお、上記溶解工程および/または上記衝突工程にて用いた溶媒は、通常、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤において、特に砥粒に対して、分散媒として機能する。
【0125】
(塩基性化合物)
本明細書において、塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物、アンモニア、アミン等が挙げられる。アミンは、好ましくは水溶性アミンである。このような塩基性化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0126】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0127】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩を好ましく用いることができる。第四級アンモニウム塩は、典型的には強塩基である。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH、F、Cl、Br、I、ClO 、BH 等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOHである第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。
【0128】
これらの塩基性化合物のうち、例えば、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物を好ましく使用しうる。なかでも水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。
【0129】
ここに開示される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が塩基性化合物を含む場合、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤における塩基性化合物の含有量は特に制限されない。基板表面を好適に処理する観点から、通常は、濃縮液または希釈液において、上記含有量を研磨液の0.0001質量%以上とすることが好ましく、0.0005質量%以上、例えば、0.001質量%以上、典型的には、0.002質量%以上とすることがより好ましい。また、表面品位向上等の観点から、上記含有量は、15質量%未満とすることが適当であり、10質量%未満とすることが好ましく、5質量%未満とすることがより好ましく、1.0質量%未満とすることがさらに好ましく、0.5質量%未満とすることがさらにより好ましい。
【0130】
(有機酸またはその塩、無機酸またはその塩)
有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩等やアンモニウム塩が挙げられる。有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0131】
(酸化剤)
酸化剤の例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物および半導体用濡れ剤は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤に酸化剤が含まれていると、当該研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が研磨対象物に供給されることで、該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じる。これにより基板の表面品位が低下したり、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤の基板表面への作用性が低下してしまうことがあり得るためである。上記基板は、例えばシリコンウェーハである。なお、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。
【0132】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。通常は、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用しうる。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等が挙げられる。一態様において、一分子内にポリオキシアルキレン構造(例えば、ポリオキシエチレン構造、ポリオキシプロピレン構造等)を含む界面活性剤を好ましく採用し得る。界面活性剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0133】
(キレート剤)
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。キレート剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
[ろ過工程]
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、当該研磨用組成物および/または当該半導体用濡れ剤を製造するのに用いられる溶液をろ過する工程(本明細書では、単に「ろ過工程」とも称する)を含む方法によって製造されても良い。
【0135】
本発明の好ましい一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤の製造方法は、上記衝突工程の後、上記混合工程の前に、当該衝突工程を経て得られた溶液をろ過する工程をさらに含む方法である。また、本発明の好ましい一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤の製造方法は、上記混合工程の後に、当該混合工程を経て得られた溶液をろ過する工程をさらに含む方法である。なお、本発明の一実施形態に係る製造方法では、上記の両方のタイミングにおいて、溶液をろ過する工程をさらに含む方法であってもよい。
【0136】
ろ過工程で使用されるフィルターの材質としては、特に制限されず、例えば、セルロース混合エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、再生セルロース、ポリアミド、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン、ナイロン66、ポリスルホン、ポリエステル、ポリプロピレン/ポリエチレン、アクリル共重合体、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシブチレート、ポリブタジエン、ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
【0137】
フィルターの構造も、特に制限されず、デプス構造、プリーツ構造、メンブレン構造等が挙げられる。
【0138】
フィルターの孔径は、特に制限されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.04μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましく、0.1μm以上であることがよりさらに好ましく、0.2μm以上であることが特に好ましい。フィルターの孔径が、0.03μm以上、例えば、0.04μm以上であると、高いろ過速度が得られることから好ましい。また、フィルターの孔径は、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、15μm以下であることがよりさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましい(具体的には、例えば、0.5μm以下であることが好ましい)。フィルターの孔径が100μm以下であると、ろ過の精度がより向上する。
【0139】
ろ過方法としては、常圧で行う自然ろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過のいずれであってもよい。
【0140】
[その他の工程]
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、上記溶解工程、上記衝突工程、上記混合工程、および上記ろ過工程以外の他の工程をさらに経て製造されていてもよい。
【0141】
≪研磨用組成物、半導体用濡れ剤≫
本発明の研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、以下に記載の特性を有する。
【0142】
(D90)
本発明の研磨用組成物中の粒子のD90(P)は、本発明の処理がなされていない原料水溶性高分子を含む研磨用組成物中の粒子のD90(R)よりも小さい。ここで、D90とは、体積基準における積算粒子径分布の小粒子径側からの積算質量が90%となる粒子径のことである。D90(R)に対するD90(P)の割合(%)は、特に制限されないが、好ましくは99.5%以下であり、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは90%以下である。当該割合がこの範囲であると、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤によって研磨および/またはリンスされた基板における欠陥(例えば、LPD-NやLPD)の個数をより減少させることができる。また、研磨用組成物中の砥粒の分散性が向上し、より優れたろ過性を有する。当該割合は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。当該割合がこの範囲であると、粒子径が小さくなりすぎ物理的な加工力(例えば研磨レート)が低下することを抑制させることができる。なお、研磨用組成物のD90は、日機装株式会社製のUPA-UT151を用いた動的光散乱法にて求めることができ、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0143】
(pH)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物のpHは、8.0以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、9.0以上であることがさらに好ましく、9.5以上であることがさらにより好ましく、10.0以上であることが特に好ましい。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨能率が向上する傾向にある。一方、砥粒の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨用組成物のpHは、13.0以下であることが好ましく、12.5以下であることがより好ましく、12.0以下であることがさらに好ましく、11.5以下であることがさらにより好ましく、11.0以下であることが特に好ましく、10.8以下であることがさらに特に好ましく、例えば、10.5以下としてもよく、10.0以下としてもよい。
【0144】
本発明の一実施形態に係る半導体用濡れ剤のpHは、8.0以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、9.0以上であることがさらに好ましく、9.5以上であることがさらにより好ましく、10.0以上であることが特に好ましい。また、半導体用濡れ剤のpHは、13.0以下であることが好ましく、12.5以下であることがより好ましく、12.0以下であることがさらに好ましく、11.5以下であることがさらにより好ましく、11.0以下であることが特に好ましく、10.8以下であることがさらに特に好ましく、例えば、10.5以下としてもよく、10.0以下としてもよい。半導体用濡れ剤のpHが上記範囲内であると、基板の表面を好適に処理することができる。
【0145】
pHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。pHメーターとしては、例えば、堀場製作所製のLAQUA(登録商標)またはその相当品を用いることができる。標準緩衝液としては、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃)を用いることができる。
【0146】
<研磨およびリンスの方法>
本発明の一形態は、砥粒と、被処理水溶性高分子を含む研磨用組成物を用いて、基板を研磨する方法である。また、本発明の他の一形態は、被処理水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤を用いて、基板をリンスする方法である。
【0147】
これらの形態において、砥粒は、上記の研磨用組成物および半導体用濡れ剤の製造方法の説明で述べたものと同様である。また、被処理水溶性高分子は、上記の水溶性高分子の処理および被処理水溶性高分子の説明で述べたものと同様である。
【0148】
以下、本発明に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を用いて基板を研磨および/またはリンスする方法の好適な一態様につき説明する。
【0149】
まず、本発明に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を含む研磨液および/またはリンス液を用意する。上記研磨液および/またはリンス液を用意することには、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤に濃度調整、pH調整等の操作を加えて研磨液およびリンス液を調製することが含まれる。濃度調整としては、例えば希釈が挙げられる。あるいは、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤をそのまま研磨液および/またはリンス液として使用してもよい。
【0150】
次いで、その研磨液および/またはリンス液を基板に供給し、常法により研磨および/またはリンスする。例えば、シリコンウェーハの仕上げ研磨および/またはリンスを行う場合、典型的には、ラッピング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面に研磨液および/またはリンス液を供給する。典型的には、上記研磨液および/またはリンス液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動、例えば回転移動させる。かかる研磨工程を経て基板の研磨および/またはリンスが完了する。
【0151】
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、例えばシリコンウェーハ等の基板のポリシング工程やリンス工程に好ましく適用することができる。基板には、本発明に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤によるポリシング工程および/またはリンス工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程やリンス工程より上流の工程において基板に適用されうる一般的な処理が施されていてもよい。
【0152】
ここに開示される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.01nm~100nmの表面状態に調製された基板(例えばシリコンウェーハ)のポリシングやリンスにおいて好ましく用いられ得る。上記基板の表面粗さRaは、例えば、SchmittMeasurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ここに開示される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、ファイナルポリシング(仕上げ研磨)やその直前のポリシング、またはリンスでの使用が効果的であり、ファイナルポリシングにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程、すなわちその工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程を指す。ここに開示される研磨用組成物は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。ここに開示される半導体用濡れ剤は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程の後に行われるリンス工程に用いられてもよい。
【0153】
(濃縮液)
ここに開示される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、基板に供給される前には濃縮された形態であってもよい。すなわち、研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、研磨液および/またはリンス液の濃縮液の形態であり、研磨液および/またはリンス液の原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば、10倍~40倍程度)が適当である。
【0154】
(希釈液)
ここに開示される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、典型的には該研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を含む研磨液およびリンス液の形態で基板に供給されて、その基板の研磨および/またはリンスに用いられる。上記研磨液および/またはリンス液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を希釈して調製されたものであり得る。上記希釈は、典型的には、水による希釈である。あるいは、該研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤をそのまま研磨液および/またはリンス液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤の概念には、基板に供給されて該基板の研磨および/またはリンスに用いられる研磨液(ワーキングスラリー)および/またはリンス液と、希釈して研磨液および/またはリンス液として用いられる濃縮液、すなわち研磨液および/またはリンス液の原液との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を含む研磨液および/またはリンス液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液および/またはリンス液が挙げられる。
【0155】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、特に制限されないが、例えば、50質量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性、例えば砥粒の分散安定性や濾過性等の観点から、通常、上記濃縮液における砥粒の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば、0.5質量%以上とすることができ、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、例えば、3質量%以上である。好ましい一態様において、砥粒の含有量は、4質量%以上としてもよく、5質量%以上としてもよい。
【0156】
上記希釈液における砥粒の含有量は、特に制限されないが、例えば、25質量%以下とすることができる。上記希釈液の取扱い性(例えば砥粒の分散安定性)や研磨後の表面品位等の観点から、通常、上記希釈液における砥粒の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、0.5質量%以下が特に好ましい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば、0.01質量%以上とすることができ、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、例えば、0.5質量%以上である。好ましい一態様において、砥粒の含有量は、1質量%以上としてもよく、3質量%以上としてもよい。
【0157】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨液(ワーキングスラリー)および/またはリンス液を調製し、該研磨液および/またはリンス液を基板に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0158】
ここに開示される技術において使用される研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。また、半導体用濡れ剤の構成成分の一部を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することによりリンス液が調製されるように構成されていてもよい。
【0159】
(研磨パッド)
上記研磨および/またはリンス工程に使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まない研磨パッドが好ましく用いられる。
【0160】
(洗浄)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤を用いて研磨および/またはリンスされた基板は、典型的には洗浄される。洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液、SC-2洗浄液等を用いることができる。SC-1洗浄液としては、水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液が挙げられる。SC-2洗浄液としては、HClとHとHOとの混合液が挙げられる。洗浄液の温度は、例えば室温以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。室温は、典型的には約15℃~25℃である。洗浄効果を向上させる観点から、40℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用しうる。
【0161】
(用途)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、シリコンからなる表面の研磨および/またはリンス、典型的にはシリコンウェーハの研磨および/またはリンスに特に好ましく使用されうる。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハ(単結晶シリコンウェーハ)であり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、シリコンからなる表面を有する基板の研磨および/またはリンスに好適に使用されうる。
【0162】
(基板)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物および/または半導体用濡れ剤は、種々の材質および形状を有する基板の研磨および/またはリンスに適用されうる。基板の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された基板であってもよい。
【実施例0163】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0164】
<ヒドロキシエチルセルロースの製造>
[溶解工程]
下記表1に示される組成となるように、以下の各原料ヒドロキシエチルセルロース(原料HEC)2質量部を溶媒である脱イオン水(DIW)98質量部中に添加し、混合して溶解させることにより、各原料ヒドロキシエチルセルロース水溶液(原料HEC水溶液)を調製した。
【0165】
(原料ヒドロキシエチルセルロース)
HEC1:重量平均分子量(Mw):3.65×10^5、粉体、
HEC2:重量平均分子量(Mw):1.18×10^6、粉体、
ここで、「10^X」(Xは任意の整数)は、10を表す。以下、同様である。
【0166】
なお、HEC1およびHEC2の重量平均分子量(Mw)は、後述するヒドロキシエチルセルロースの重量平均分子量(Mw)の評価方法に従って得られた値を示す。
【0167】
[衝突工程]
溶解工程にて得られた原料HEC水溶液を、ジェットミル(株式会社スギノマシン製、商品名:スターバーストラボ)に設置した。続いて、当該ジェットミルを、下記表1に示す出力(圧力)で稼働し、当該原料HEC水溶液同士を衝突させて、当該原料HEC水溶液に圧力を加えた。なお、処理回数は1回とした。処理した原料HEC水溶液の量は、約5000mLであり、処理液流量、処理時間は、下記表1の通りである。処理時間は、処理した原料HEC水溶液量を処理液流量で除することで求めた。
【0168】
【表1】
【0169】
衝突工程を経た原料HEC水溶液(被処理HEC水溶液)を回収し、続いて以下の評価を行った。
【0170】
<ヒドロキシエチルセルロースの評価>
≪重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布≫
上記の各原料HEC水溶液および各被処理HEC水溶液中のヒドロキシエチルセルロースについて、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布を、下記装置および条件にて、GPC法により測定した。原料水溶性高分子としてHEC1を用いた結果を下記表2に、原料水溶性高分子としてHEC2を用いた結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0171】
〔GPC測定条件〕
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8420 GPC
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel GMPWXL
分子量マーカー:アジレント・テクノロジー社製 ポリエチレンオキシド-ポリエチレングリコール
溶離液:0.1M NaNO
流速:1.0ml/min。
【0172】
上記の各原料HEC水溶液および各被処理HEC水溶液中のヒドロキシエチルセルロースについて、それぞれ、上記GPC法による測定で得られたGPC溶出曲線(RI(mV)-溶出時間(min)曲線)を確認した。原料水溶性高分子としてHEC1を用いた場合のGPC溶出曲線を図1に示し、原料水溶性高分子としてHEC2を用いた場合のGPC溶出曲線を図2に示す。
【0173】
これらの各GPC溶出曲線から、微分分子量分布曲線を確認した。原料水溶性高分子としてHEC1を用いた場合の微分分子量分布曲線を図3に示し、原料水溶性高分子としてHEC2を用いた場合の微分分子量分布曲線を図4に示す。なお、微分分子量分布曲線は、上記GPC測定装置で使用されている制御・分析ソフト『Eco SEC-WS』を用いた一般的な方法により作成した。
【0174】
≪被処理HECにおける高分子量体の選択的除去≫
上記各被処理HECを含む水溶液において、高分子量体が選択的に除去されていることを、〔1〕衝突工程前後の高分子量体の量、〔2〕衝突工程前後の低分子量体の量、〔3〕ピークトップ分子量(Mp)の変化を測定することで確認した。その結果を下記表2および下記表3に示す。
【0175】
≪衝突工程前後の分子量分布の変化≫
上記の各原料HEC水溶液および各被処理HEC水溶液中のヒドロキシエチルセルロースについて、上記GPC法による測定で得られた分子量分布(Mw/Mn)の値を下記表2および下記表3に示す。また、各原料HEC水溶液中のヒドロキシエチルセルロースのMw/Mnに対する、各被処理HEC水溶液中のヒドロキシエチルセルロースのMw/Mnの割合(%)も下記表2および下記表3に示す。
【0176】
≪金属不純物量≫
原料水溶性高分子としてHEC1を用いた原料HEC水溶液およびその被処理HEC水溶液について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により金属不純物濃度測定をすることで、金属元素不純物量を確認した。なお、使用した装置は株式会社島津製作所製の『ICP-AES(型番:ICPS-8100)』である。
【0177】
≪ろ過性≫
各原料HEC水溶液および各被処理HEC水溶液をそれぞれ100g測りとり、脱イオン水(DIW)により希釈し1質量%の水溶液に調製した。調製した水溶液を、ろ過フィルター(濾材の材質:ポリエーテルスルフォン膜、孔径:0.2μm)を用いて吸引ろ過した。この際の通液時間(min)を測定した。また、脱イオン水(DIW)100gについても同様に吸引ろ過を行い、通液時間(sec)を測定した。ここで通液時間とは、ろ過開始から、全ての液がろ過フィルターを通り抜けるまでの時間としている。なお、吸引ろ過は、ろ過装置は株式会社アルバック製、アスピレーター(製品名)、MDA-015(型式)を用い、ろ過試験時の最大真空圧力を0.5kPa程度で行った。そして、DIWの通液時間に対する、原料HEC水溶液または被処理HEC水溶液の通液時間の比(原料HEC水溶液または被処理HEC水溶液の通液時間(min)/DIWの通液時間(sec))をろ過指数として評価した。なお、ろ過指数は、値が小さいほど、ろ過性が良好であることを示す。原料としてHEC1を用いた結果を下記表2に、原料としてHEC2を用いた結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0178】
【表2】
【0179】
【表3】
【0180】
上記表2の結果から、前述の溶解工程と衝突工程とを経て得られた実施例1~3に係るヒドロキシエチルセルロースは、前述の衝突工程を経ていない比較例1に係るヒドロキシエチルセルロースと比較すると、低分子量体の量は良好に維持されつつ、高分子量体が選択的に除去され、溶液のろ過性も顕著に優れることが確認された。
【0181】
上記表3の結果から、前述の溶解工程と衝突工程とを経て得られた実施例4~6に係るヒドロキシエチルセルロースは、前述の衝突工程を経ていない比較例2に係るヒドロキシエチルセルロースと比較すると、低分子量体の量は良好に維持されつつ、高分子量体が選択的に除去され、溶液のろ過性も顕著に優れることが確認された。
【0182】
より詳細には、これら実施例に係るヒドロキシエチルセルロースでは、Mw/Mnが、17%~87%に減少したことが確認された。ヒドロキシエチルセルロースの分子量分布が狭まり、均一な重量分子量をもつヒドロキシエチルセルロースが得られたことがわかる。また、高分子量体の量が、36%~93%に減少したことが確認された。そして、低分子量体の量の変化は、±1%の範囲内であることが確認された。さらに、ピークトップ分子量(Mp)の変化は、±5%の範囲内であることが確認された。
【0183】
また、金属不純物量の測定結果から、被処理水溶性高分子中の金属不純物量は増加していないことが確認された。この結果は、実施例で行ったような、溶液同士を衝突させて、前記溶液に圧力を加える工程によっては、金属不純物の混入を避けることができたためと考えられる。
【0184】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1~4、比較例1、2)
上記の被処理HEC水溶液、砥粒、塩基性化合物、任意ポリマー、界面活性剤、脱イオン水(DIW)を混合して研磨用組成物の濃縮液を調製した。砥粒としては平均一次粒子径27nmのコロイダルシリカを使用し、塩基性化合物としては29%アンモニア水を使用し、任意ポリマーとしては重量平均分子量が70,000の本発明に係る処理をしていないポリビニルアルコールを使用し、界面活性剤としてはEOとPOとのブロック共重合体(PEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体)を使用した。得られた研磨用組成物の濃縮液を脱イオン水(DIW)で体積比20倍に希釈することにより、各研磨用組成物を得た。研磨用組成物の濃縮液中の各成分の濃度は、HEC0.17質量部、砥粒3.5質量部、塩基性化合物0.1質量部、任意ポリマー0.001質量部、界面活性剤0.025質量部、である。なお、研磨用組成物の希釈液中の砥粒の濃度は、0.175質量%であり、HECの濃度は、0.0085質量%である。
【0185】
<研磨用組成物の評価>
≪D90の測定≫
本例に係る研磨用組成物中に存在する粒子について、D90を測定した。測定には日機装株式会社製のUPA-UT151を用いた。原料水溶性高分子としてHEC1を用いた結果を下記表4に、原料水溶性高分子としてHEC2を用いた結果を下記表5にそれぞれ示す。
【0186】
≪研磨試験≫
直径12インチの単結晶シリコンウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を用意し、下記予備研磨条件により予備研磨を行ったのちに、本研磨を行った。
【0187】
[予備研磨]
予備研磨に使用した研磨液は、砥粒、塩基性化合物および脱イオン水(DIW)を混合して調製した組成物の濃縮液を、脱イオン水(DIW)で体積比20倍に希釈することにより得た。砥粒としては平均一次粒子径42nmのコロイダルシリカを使用し、塩基性化合物としては水酸化カリウムを使用した。希釈した研磨液の砥粒の濃度は1.0質量%、塩基性化合物の濃度は0.068質量%とした。
【0188】
〔予備研磨条件〕
研磨装置:岡本工作機械製作所社製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤回転数:20rpm
ヘッド回転数:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP55」
研磨時間:100秒
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)。
【0189】
[本研磨]
上記で調製した各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用し、上記予備研磨を経て得られたシリコンウェーハを下記研磨条件で研磨した。
【0190】
〔本研磨条件〕
研磨装置:岡本工作機械製作所社製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「POLYPAS27NX」
研磨時間:4分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)。
【0191】
≪LPD-N数測定≫
上記の研磨で得られたシリコンウェーハの表面(研磨面)に存在するLPD-Nの個数を、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「SURFSCAN SP2」を使用して、同装置のDCOモードで計測した。
【0192】
≪LPD数測定≫
上記の研磨で得られたシリコンウェーハの表面(研磨面)に存在するLPDの個数を、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「SURFSCAN SP2」を使用して、同装置のDCOモードで計測した。
【0193】
LPD-NおよびLPDの評価結果を下記表4および下記表5にそれぞれに示す。なお、下記表4および表5中のLPD-NおよびLPDの数値は、それぞれ比較例1、2のLPD-NおよびLPDの数値を100%とした場合の相対値である。
【0194】
【表4】
【0195】
【表5】
【0196】
上記表4および上記表5の結果から、実施例に係る研磨用組成物は、D90の値が減少することが確認された。これは、研磨用組成物に含まれる原料水溶性高分子の高分子量体の量が減少したこと、および/または高分子量体の分子鎖の径が小さくなったためと考えられる。一般に、ポリマーは重量分子量が大きい程、砥粒に吸着し易く、その吸着した水溶性高分子に更に砥粒が吸着し、粗大粒子となる。実施例に係る研磨用組成物では、上記のような粗大粒子を生む原因でありえる原料水溶性高分子の高分子量体が除去されていたため、水溶性高分子を含む研磨用組成物のD90が減少したものと考えられる。
【0197】
また、上記表4および上記表5の結果から、衝突工程を経て得られた水溶性高分子を含む研磨用組成物を用いた場合は、衝突工程を経ていない水溶性高分子を含む研磨用組成物と比較して、LPD-NおよびLPDの量が顕著に少ないことが確認された。
【0198】
また、前述のように、実施例に係るヒドロキシエチルセルロースは、金属不純物の増加が抑制されることが確認されている。したがって、かような実施例に係るヒドロキシエチルセルロースやこれを含む水溶液を用いて調製した研磨用組成物においても、粗大粒子の数や大きさ、金属不純物の量の増加を防ぐことができ、これに起因して生じる表面欠陥の量も減少したと考えられる。
図1
図2
図3
図4