IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 扶桑薬品工業株式会社の特許一覧 ▶ トクセン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-医療用補綴材 図1
  • 特開-医療用補綴材 図2
  • 特開-医療用補綴材 図3
  • 特開-医療用補綴材 図4
  • 特開-医療用補綴材 図5
  • 特開-医療用補綴材 図6
  • 特開-医療用補綴材 図7
  • 特開-医療用補綴材 図8
  • 特開-医療用補綴材 図9
  • 特開-医療用補綴材 図10
  • 特開-医療用補綴材 図11
  • 特開-医療用補綴材 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045175
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】医療用補綴材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/04 20060101AFI20220311BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220311BHJP
   A61L 27/30 20060101ALI20220311BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220311BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220311BHJP
   A61F 2/04 20130101ALI20220311BHJP
【FI】
A61L27/04
A61P11/00
A61L27/30
A61L27/40
A61L27/50
A61F2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150718
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 清一
(72)【発明者】
【氏名】土岐 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】島田 千明
(72)【発明者】
【氏名】西田 稔
(72)【発明者】
【氏名】南 広祐
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 紗季
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AB15
4C081BA16
4C081BB08
4C081CF21
4C081CF24
4C081CG08
4C081DA01
4C081DC03
4C097AA17
4C097BB01
4C097CC03
4C097DD09
4C097MM04
4C097MM05
(57)【要約】
【課題】気管などの組織への挿入が容易でかつ抜去が不要となることにより、気管などの組織へのダメージを抑制可能な医療用補綴材を提供する。
【解決手段】医療用補綴材100は、マグネシウムを主成分とする板状部材10を備える。板状部材10は、互いに対向する第1の端部11と第2の端部12とが互いに隔てられた状態を保つように曲げた後の延在方向に交差する断面がアーチ状である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを主成分とする板状部材を備え、
前記板状部材は、互いに対向する第1の端部と第2の端部とが互いに隔てられた状態を保つように曲げた後の延在方向に交差する断面がアーチ状である、医療用補綴材。
【請求項2】
前記アーチ状は、円形または楕円形の一部である、請求項1に記載の医療用補綴材。
【請求項3】
前記板状部材の平面形状は、円形、楕円形およびトラック形のいずれかである、請求項1または2に記載の医療用補綴材。
【請求項4】
前記板状部材には、第1の主表面から、前記第1の主表面と反対側の第2の主表面まで前記板状部材を貫通する孔部が形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項5】
前記板状部材の表面には、マグネシウム化合物の膜がコーティングされている、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項6】
前記板状部材においては、互いに隔てられた前記第1の端部と前記第2の端部との距離は、前記延在方向についての少なくとも一部において、前記延在方向に互いに対向する第3の端部から第4の端部に向けて変化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項7】
前記第1の端部および前記第2の端部は前記延在方向に対して傾斜する方向に延びる、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項8】
前記板状部材の引っ張り強さは200MPa以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用補綴材に関する。
【背景技術】
【0002】
管状の組織が腫瘍により狭窄する場合がある。たとえば気管が腫瘍などにより狭窄した場合、一般的に管壁内の腫瘍が気管支鏡で切除される。その後、腫瘍が切除された管状の組織には、再狭窄を防止するために、金属製または複合材料製のステント、すなわち補綴材が挿入される。補綴材は、たとえば特開2019-058693号公報(特許文献1)に開示されている。当該補綴材は、円筒形状を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-058693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管状の組織に挿入するための補綴材は、特にその構成材料によっては、数年で交換のために体内から抜去する必要がある。しかし補綴材は抜去時には体内の周囲組織と癒着しており、気管などの管状の組織を傷つける可能性が高い。
【0005】
また特開2019-058693号公報に開示されるような補綴材は、そもそも血管などの脈管用のものであり、気管用のものとは異なる。当該補綴材は円柱状であり、挿管チューブの上から嵌めるように挿入できない形状である。このため当該補綴材の挿入時に管状の組織を傷つける可能性について十分に検討されていない。このような補綴材が仮に気管の手術後に用いられれば、所望の箇所への挿入が困難であり、挿入時にも気管などの管状の組織を傷つける可能性が高い。
【0006】
本開示は上記の課題に鑑みなされたものである。その目的は、気管などの組織への挿入が容易でかつ抜去が不要となることにより、気管などの組織へのダメージを抑制可能な医療用補綴材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る医療用補綴材は、マグネシウムを主成分とする板状部材を備える。板状部材は、互いに対向する第1の端部と第2の端部とが互いに隔てられた状態を保つように曲げた後の延在方向に交差する断面がアーチ状である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、気管などの組織への挿入が容易でかつ抜去が不要となることにより、気管などの組織へのダメージを抑制可能な医療用補綴材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係る医療用補綴材の概略斜視図である。
図2図1の医療用補綴材を形成するための板状部材の概略斜視図である。
図3図2の板状部材の表面にコーティングがされた例における概略断面図である。
図4図1の医療用補綴材の延在方向に交差する断面の第1例を示す概略断面図である。
図5図1の医療用補綴材の延在方向に交差する断面の第2例を示す概略断面図である。
図6】本実施の形態の医療用補綴材に用いられる板状部材の平面形状の例を複数示す概略斜視図である。
図7図6に示されるそれぞれの平面形状の板状部材が曲げられ形成された、本実施の形態の医療用補綴材の切欠き部の態様の例を複数示す概略図である。
図8】本実施の形態の医療用補綴材に用いられる板状部材の平面形状の他の例を複数示す概略斜視図である。
図9図8に示されるそれぞれの平面形状の板状部材が曲げられ形成された、本実施の形態の医療用補綴材の切欠き部の態様の例を複数示す概略図である。
図10】切欠き部の間隔を変更させることにより本実施の形態の医療用補綴材を収縮させる態様を示す概略図である。
図11】本実施の形態の医療用補綴材の使用方法を示す概略図である。
図12】本実施の形態の補綴材の、HBSS溶液中での腐食状況を示す画像データである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係る医療用補綴材の概略斜視図である。図2は、図1の医療用補綴材を形成するための板状部材の概略斜視図である。図3は、図2の板状部材の表面にコーティングがされた例における概略断面図である。図1および図2を参照して、本実施の形態の医療用補綴材100(以下、単に「補綴材100」と記す)は、たとえば図2に示すような板状部材10を備えている。
【0011】
図2の板状部材10は、マグネシウムを主成分としている。すなわち当該板状部材10は、マグネシウムの単体からなる純粋なマグネシウムの部材である。板状部材10のマグネシウムは合金ではなく、他の金属材料は含まれない。ただし当該純粋なマグネシウムにごくわずかな量のマグネシウム以外の材料を含んだとしても、ここでは純粋なマグネシウムと考える。ここでごくわずかな量のマグネシウム以外の材料とは、微量含まれ得る不可避的不純物の元素を意味する。図3を参照して、板状部材10は(A)のように内部にマグネシウムなどが充填されたいわゆる中実の部材であってもよい。あるいは板状部材10は(B)のように内部にマグネシウムなどが配置されない空間部分を含むいわゆる中空(パイプ状)の部材であってもよい。
【0012】
図3の(A),(B)を参照して、板状部材10はその延びる方向に交差する断面が、たとえば矩形状を有している。しかし当該板状部材10は4つの角部のうち少なくとも1つが円弧状の断面を有する曲面(球面の一部)状であってもよい。あるいは板状部材10は4つの角部のうち少なくとも1つに図3の上下方向および左右方向に対して傾斜する方向に拡がる斜面(C面)を有してもよい。コーティング膜10cを有さない板状部材10についても同様である。板状部材10は、純粋なマグネシウムの単体からなる部材の表面にコーティング膜10cが形成されたものであってもよい。この場合はコーティング膜10cを含めた全体を板状部材10と定義してもよい。下記のようにコーティング膜10cはマグネシウム化合物を含む膜であるため、これを含む全体を「マグネシウムを主成分とする」ということができるためである。あるいはコーティング膜10cを含めず純粋なマグネシウムの単体部分のみを板状部材10と定義してもよい。なお板状部材10にはこのようなコーティング膜10cが形成されなくてもよい。コーティング膜10cは、マグネシウムの単体からなる部材が陽極として設置され電気分解工程がなされることにより、マグネシウムの単体の表面に形成された薄膜である。コーティング膜10cは、マグネシウムの単体部材の陽極酸化などにより形成されたマグネシウム化合物の膜であることが好ましい。たとえばコーティング膜10cはマグネシウムの水酸化物および酸化物のいずれかであってもよい。コーティング膜10cは水酸化マグネシウム(Mg(OH))であってもよい。あるいはコーティング膜10cは、上記と同工程により形成された酸化マグネシウム(MgO)であってもよい。コーティング膜10cは、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムと、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))とが混合されたものであってもよいし、ハイドロキシアパタイトのみからなってもよい。あるいはコーティング膜10cは、炭酸マグネシウム(MgCO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、クエン酸マグネシウム、およびステアリン酸マグネシウムのいずれかであってもよい。
【0013】
コーティング膜10cの厚みは、補綴材を体腔内に残存させるべき期間に応じて調整することができる。たとえば通常、手術での補綴材の体腔内への挿入時から気管が再建するまでの期間は1か月以上3か月以下程度である。たとえばコーティング膜10cを厚くすれば、補綴材を体腔内に残存すべき期間を長くすることができる。このように補綴材の体腔内の残存期間を長くするためにコーティング膜10cの厚み、板状部材10の寸法等を変更することをここでは調整と呼ぶこととする。なおコーティング膜10cの厚みは10nm以上100μm以下であることが好ましい。
【0014】
板状部材10は、たとえば矩形状または正方形状などの四角形の平面形状を有し、厚みを有する部材である。板状部材10は、主表面として第1の主表面10aと、それと反対側の第2の主表面10bとを有している。なお主表面とは、その部材の主要な表面を構成する面積の大きい面である。たとえば板状部材10の第1の主表面10aおよび第2の主表面10bが矩形状である場合、それらの縦の寸法(後述する第3の端部15および第4の端部16の寸法)は15mm以上90mm以下であることが好ましい。また第1の主表面10aおよび第2の主表面10bの横の寸法L(後述する第1の端部11および第2の端部12の寸法)は20mm以上50mm以下であることが好ましい。ただし当該寸法はこれに限られない。板状部材10は、互いに対向する第1の端部11と、第2の端部12とを有している。第1の端部11および第2の端部12は、板状部材10が曲げられた後の補綴材100の延びる方向である、図1の左上から右下に延びる方向に延びている。特に図2の板状部材10では、第1の端部11および第2の端部12は矩形状の第1の主表面10aなどの外縁の辺としての端面に相当する。後述する第3の端部15および第4の端部16についても同様である。板状部材10の第1の主表面10aと第2の主表面10bとの距離としての厚みtは、0.05mm以上0.3mm以下であることが好ましく、その中でも0.1mm以上0.25mm以下であることが好ましい。
【0015】
図1に示すように、補綴材100は、板状部材10を曲げることにより、筒形状に近い形状とされたものである。補綴材100は、たとえば図2の板状部材10の、互いに対向する第1の端部11と第2の端部12とが互いに隔てられた状態を保つように曲げた後の延在方向に交差する断面がアーチ状である。ここで延在方向とは、補綴材100の全体である筒形状が延びる長手方向である。延在方向は、特に図1においては、第1の端部11および第2の端部12が延びる、図1の左上から右下に向かう方向である。つまり板状部材10を曲げることで、第1の端部11と第2の端部12との延在方向に交差する方向が図1の曲げられた端部(端面)の一部となるように周方向(第1の端部11から第2の端部12に向かう方向)に延びることとなる。
【0016】
図4は、図1の医療用補綴材の延在方向に交差する断面の第1例を示す概略断面図である。図5は、図1の医療用補綴材の延在方向に交差する断面の第2例を示す概略断面図である。図4を参照して、図1の板状部材10の断面がアーチ状であるとは、板状部材10が図1および図4のように曲げられ、第1の端部11および第2の端部12に直交し第1の端部11および第2の端部12を結ぶ直線が描く曲線が円形の一部であることを意味する。あるいは図5を参照して、図1の板状部材10の断面がアーチ状であるとは、板状部材10が図1および図4のように曲げられ、第1の端部11および第2の端部12に直交し第1の端部11および第2の端部12を結ぶ直線が描く曲線が楕円形の一部であることを意味する。本実施の形態においては図4図5のいずれの態様であってもよい。
【0017】
なお図4および図5のアーチ形状はその全体が曲線状となっている。しかし図4および図5のアーチ形状は、第1の端部11および第2の端部12を結ぶ線の一部が直線であってもよい。このようにすれば板状部材10が持ちやすくなる。
【0018】
また図4および図5において、第1の端部11および第2の端部12(端面)は、第1の主表面10aおよび第2の主表面10bにほぼ直交するように交差している。しかしこのような態様に限られない。たとえば図4および図5の第1の端部11および第2の端部12の端面は、第1の主表面10aおよび第2の主表面10bに対し直交する方向に対して傾斜する方向に拡がってもよい。これにより図4および図5の断面図にて第1の端部11および第2の端部12の端面はたとえば第1の主表面10aとなす角度が45°など直角以外の角度を有する斜面(C面)となる。このようにすれば、板状部材10が曲げられた補綴材100は、気管などの内部に埋め込まれた状態において、第1の端部11および第2の端部12の少なくともいずれかが気管などの組織に突き刺さり組織を傷つける可能性を低減できる。あるいは第1の端部11および第2の端部12は、たとえば円弧状の断面を有する曲面(球面の一部:R面)状であってもよいし、楕円の一部のような断面形状を有する曲面状であってもよい。この場合、第1の端部11および第2の端部12は、鋭利な縁部を有さなくなる。このため曲面状の第1の端部11および第2の端部12を有する補綴材100は、気管などの内部に埋め込まれた状態において、第1の端部11および第2の端部12の少なくともいずれかが気管などの組織に突き刺さり組織を傷つける可能性を低減できる。
【0019】
第1の端部11および第2の端部12が互いに隔てられた状態を保つことにより、両者の間には、第1の端部11および第2の端部12に沿って延びる切欠き部13が形成される。切欠き部13においては板状部材10が配置されない。つまり切欠き部13は板状部材10の第1の端部11と第2の端部12との隙間であり、板状部材10が第1の端部11と第2の端部12との間で曲線の延びる方向について欠けた部分である。
【0020】
図4および図5において、補綴材100の切欠き部13における第1の端部11と第2の端部12との、板状部材10が曲げられた周方向(第1の端部11から第2の端部12に向かう方向)の間隔Cは1mm以上であることが好ましい。この中でも特に、当該間隔Cは、2mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0021】
図4に示すアーチ状の断面形状を形成する円形状(の一部)の直径Aの最大値は10mm以上30mm以下であることが好ましい。ただし当該寸法はこれに限られない。同様に、図5に示すアーチ状の断面形状を形成する楕円形状(の一部)の長軸の寸法Aの最大値は10mm以上30mm以下であることが好ましい。ただし当該寸法はこれに限られない。
【0022】
図2図4図5に示すように、板状部材10には孔部14が形成されている。孔部14は、第1の主表面10aから第2の主表面10bまで板状部材10を貫通する。孔部14の平面形状は、円形状であってもよいし、四角形状または楕円形状であってもよい。ただし孔部14の平面形状は円形状が好ましい。孔部14はその平面視における最大寸法d(図2参照)が0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、その中でも0.3mm程度であることが好ましい。ただし孔部14の最大寸法dはこれに限られない。ここで最大寸法dとは、孔部14を平面視したときの複数の孔部14のそれぞれの寸法が最大となる部分の寸法をいう。したがってたとえば孔部14が楕円形状である場合、最大寸法dは当該楕円の長軸の長さである。孔部14が長方形状である場合、最大寸法dは当該長方形の長辺の長さである。孔部14は、単一の板状部材10に少なくとも1つ形成される。ただし孔部14は9つ以上形成されることが好ましい。孔部14が複数形成される場合、当該孔部14は、第1の主表面10a上において互いに間隔をあけて形成されている。複数の孔部14の第1の主表面10a上での間隔は、2mm以上10mm以下であることが好ましい。ただし当該間隔はこれに限られない。
【0023】
図6は、本実施の形態の医療用補綴材に用いられる板状部材の平面形状の例を複数示す概略斜視図である。図7は、図6に示されるそれぞれの平面形状の板状部材が曲げられ形成された、本実施の形態の医療用補綴材の切欠き部の態様の例を複数示す概略図である。図6の(A)の板状部材10が曲げられたものが図7の(A)の補綴材100である。同様に、図6の(B)の板状部材10が曲げられたものが図7の(B)の補綴材100である。図6の(C)の板状部材10が曲げられたものが図7の(C)の補綴材100である。図6の(D)の板状部材10が曲げられたものが図7の(D)の補綴材100である。図6の(E)の板状部材10が曲げられたものが図7の(E)の補綴材100である。図6の(F)の板状部材10が曲げられたものが図7の(F)の補綴材100である。
【0024】
図6および図7を参照して、(A)のように板状部材10の第1の主表面10aおよび第2の主表面10bが長方形または正方形である場合は、図1および図2と同様の態様となる。すなわち図6および図7の(A)の場合は、板状部材10の延在方向について互いに対向する第3の端部15および第4の端部16に垂直な方向である補綴材100の延在方向に、第1の端部11および第2の端部12が延びている。このため切欠き部13は第3の端部15および第4の端部16に垂直な方向に延びている。
【0025】
これに対して、たとえば図6の(B)のように板状部材10の第1の主表面10aおよび第2の主表面10bが角度が直角でない平行四辺形である場合は、図7の(B)に示す補綴材100は以下のようになる。つまり板状部材10の延在方向について互いに対向する第3の端部15および第4の端部16に対して傾斜する方向に、すなわち補綴材100の延在方向に対して傾斜する方向に、第1の端部11および第2の端部12が延びている。このため切欠き部13は第3の端部15および第4の端部16に垂直な方向に対して傾斜する方向に延びている。このように切欠き部13を構成する第1の端部11および第2の端部12は、補綴材100の延びる方向に対して平行に延びてもよいが、傾斜する方向に延びてもよい。
【0026】
上記の図7(A)、図7(B)においては、切欠き部13を構成する第1の端部11と第2の端部12とはほぼ平行になっている。これらのように補綴材100においては第1の端部11と第2の端部12とがほぼ平行であることが好ましい。ただし以下のような変形例も考えられる。たとえば図6の(C)のように板状部材10の第1の主表面10aおよび第2の主表面10bが直角を有さない台形である場合は、図7の(C)に示す補綴材100は以下のようになる。つまり補綴材100を構成する板状部材10においては、互いに隔てられた第1の端部11と第2の端部12との距離(第3の端部15および第4の端部16に沿う方向についての最短距離)が、延在方向についての少なくとも一部(図6(C),図7(C)においてはほぼ全体)において、延在方向に互いに対向する第3の端部15から第4の端部16に向けて「漸次」変化する。図7(C)においては第3の端部15から第4の端部16に向けて、第1の端部11と第2の端部12との距離が漸次増加しているが、これが漸次減少してもよい。
【0027】
また図6の(C)の第1の主表面10aおよび第2の主表面10bの台形は、第1の端部11と第2の端部12との双方が、第3の端部15および第4の端部16に対して直角ではない、直角以外の傾斜角度を有している。これに対したとえば図6の(D)のように、第1の端部11および第2の端部12の少なくともいずれか(図6の(D)では第1の端部11)が、第3の端部15および第4の端部16に対してほぼ直角の方向に延びてもよい。この場合も、図7の(D)に示す補綴材100は、第3の端部15から第4の端部16に向けて、第1の端部11と第2の端部12との距離が漸次増加している。ただし当該距離は漸次減少してもよい。
【0028】
さらに図6の(E)および図7の(E)に示すように、補綴材100の第1の端部11および第2の端部12の少なくともいずれか(図6の(E)、図7の(E)ではこれら双方)は、第3の端部15から第4の端部16に向かう補綴材100の延在方向に延びる領域と、これに交差する方向に延びる領域との双方を備えてもよい。つまり第1の端部11および第2の端部12(の少なくともいずれか)は、第3の端部15および第4の端部16の延びる方向(に沿う方向)に延びる領域を有するいわゆるジグザグ形状であってもよい。図6の(E)においては、互いに隔てられた第1の端部11と第2の端部12との距離が、延在方向についての一部(一カ所)において、隣り合う2つの領域の間で階段状に、まったく異なるものとなるように急激に変化する。これは第1の端部11および第2の端部12がジグザグ形状を形成するために一部の領域にて延在方向に交差する方向に延びるためである。
【0029】
図6の(E)および図7の(E)においては、第1の端部11および第2の端部12は延在方向およびそれに交差する方向の2方向に延びる直線がジグザグ形状となるように組み合わせられている。これに対し、図6の(F)および図7の(F)においては、図6の(E)および図7の(E)に対し、第1の端部11および第2の端部12が曲線の波形を描いている点において異なっている。図6の(F)および図7の(F)においても図6の(E)および図7の(E)と同様に、第1の端部11および第2の端部12は、第3の端部15および第4の端部16の延びる方向に沿うように行き来するジグザグ形状を描いている。しかし当該ジグザグ形状が、いわゆるミアンダ形状などの波形を描いている。図6の(F)および図7の(F)においても、第1の端部11および第2の端部12は補綴材100の延在方向(左右方向)に対して傾斜する方向に延びている。図6の(F)および図7の(F)においても第1の端部11と第2の端部12との距離が、部分的に他の領域での距離に対し変化してもよいし、変化せず全領域にてほぼ同一であってもよい。
【0030】
図8は、本実施の形態の医療用補綴材に用いられる板状部材の平面形状の他の例を複数示す概略斜視図である。図9は、図8に示されるそれぞれの平面形状の板状部材が曲げられ形成された、本実施の形態の医療用補綴材の切欠き部の態様の例を複数示す概略図である。図8の(A)の板状部材10が曲げられたものが図9の(A)の補綴材100である。同様に、図8の(B)の板状部材10が曲げられたものが図9の(B)の補綴材100である。図8の(C)の板状部材10が曲げられたものが図9の(C)の補綴材100である。図8の(D)の板状部材10が曲げられたものが図9の(D)の補綴材100である。
【0031】
図8および図9を参照して、(A)は図6の(A)のような第1の主表面10aなどの平面形状が矩形状の板状部材10の各角部が曲線状に丸くなった場合を示している。当該各角部の曲線形状は半径Rの円弧状であってもよいが、円弧状以外の曲線であってもよい。板状部材10を矩形状と見たときに、4つの角部のうち一部のみが半径Rの円弧状であり、他の一部は円弧状以外の曲線であってもよい。半径Rは1mm以上であることが好ましいが、10mm以上であってもよい。半径Rは4つの角部の間で同一でもよいし異なっていてもよい。また図6の(B)~(F)のそれぞれの板状部材10の第1の主表面10aの角部が上記の曲線状に丸くなったものがアーチ状にされた補綴材とされてもよい。
【0032】
図8および図9の(B)は、たとえば(A)での各角部の半径Rが大きくなり、第1の主表面10aおよび第2の主表面10bが円形、または円形に近い形状となっている。特に第1の主表面10aなどが円形である場合、他の各例と同様に、第1の端部11と第2の端部12とが互いに中心に対して点対称の位置関係になり、第3の端部15と第4の端部16とが互いに中心に対して点対称の位置関係になる。第1の端部11、第3の端部15、第2の端部12、第4の端部16とは互いに中心に対する位相が90°となる位置に存在する。このように特に円形である場合、第1の端部11などの各端部は、少なくとも第1の主表面10aなどの周方向については面(端面)ではなく点となる。図8および図9の(B)はこの点が、上記の図6図7などのように第1の端部11などが端面として定義できる各例と異なっている。
【0033】
図8および図9の(C)は、板状部材10の第1の主表面10aおよび第2の主表面10bが楕円形、または楕円形に近い形状となっている。この場合、第1の端部11および第2の端部12は、平面視における当該楕円形の短軸上の頂点である。第3の端部15および第4の端部16は、平面視における当該楕円形の長軸上の頂点である。
【0034】
図8および図9の(D)は、同(B)または(C)がその延在方向に延ばされ、第1の端部11および第2の端部12が直線状とされている。このため第1の主表面10aなどは、いわゆるトラック形である。なお図6の(A)などの矩形状の板状部材10の第11の端部11の一方端および第2の端部12の一方端を繋ぐ半円または曲線が2つ設けられ、図8の(D)の態様とされてもよい。図8の(D)では、第1の端部11および第2の端部12は直線状の部分であり、第3の端部15および第4の端部16は曲線部分の中央の点である。
【0035】
なお図8および図9の(B),(C),(D)においても、他の各例と同様に、補綴材100(板状部材10)延在方向は第3の端部15と第4の端部16とを結ぶ、各図の左右方向(に沿う方向)である。このため板状部材10が曲げられた後の補綴材100は、その延在方向に交差する断面がアーチ状であり、第1の端部11と第2の端部12とが互いに隔てられている。
【0036】
以上のように、本実施の形態においては、切欠き部13の延びる方向および延びる幅が適宜変化してもよい。
【0037】
図10は、切欠き部の間隔を変更させることにより本実施の形態の医療用補綴材を収縮させる態様を示す概略図である。具体的には、図10の(A)は、収縮させる力を加える前の補綴材100の初期状態を示している。図10の(B)は、収縮させる力を加えた際の補綴材100の状態を示している。図10の(A)に対して、たとえば手術者の手で周方向に力が加わって収縮し、たとえば図4または図5に示す寸法Aが縮小した補綴材100が、図10の(B)のような態様となる。寸法Aは、収縮していない状態における寸法Aに対して0.8倍以上1倍未満の任意の寸法となるように収縮可能であることが好ましい。補綴材100は、手術時に寸法Aが収縮された状態で、管状の組織、たとえば気管の腫瘍が切除された箇所に挿入される。なお補綴材100は、延在方向に交差する断面が収縮するように板状部材10が変形されれば、それが元の断面形状、寸法に戻るように、復元力が加わる。
【0038】
本実施の形態の補綴材100は、その構造体を構成する板状部材10の引っ張り強さが200MPa以上であることが好ましい。この引っ張り強さは、板状部材10を、図1のようにアーチ形状に曲げる(変形する)前に測定された、その延在方向に引っ張るときの強度である。曲げる前の平面状の板状部材10を、その延在方向に引っ張り、荷重を断面積で除した値が引っ張り強さである。引っ張り強さは、通常のJISで定められた試験片を用いた引張試験により測定可能である。なおこの引っ張り強さは、250MPa以上であることがより好ましい。引っ張り強さは、曲げる前の平面状の板状部材10と、アーチ形状となるよう曲げられた板状部材10との間に特段の差異は生じない。このようにすれば、補綴材100の延在方向における補綴材100の高い復元力(反発力)を確保できる。
【0039】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の補綴材100は、マグネシウムを主成分とする板状部材10を備える。板状部材10は、互いに対向する第1の端部11と第2の端部12とが互いに隔てられた状態を保つように曲げた後の延在方向に交差する断面がアーチ状である。
【0040】
マグネシウムを主成分とする、つまりマグネシウムのみからなる板状部材10、あるいはマグネシウムのみからなる部材の表面にたとえばマグネシウム化合物の膜(マグネシウムの酸化物またはマグネシウムの水酸化物など)がコーティングされた板状部材10から、補綴材100が形成される。マグネシウムを主成分とする(たとえば純粋なマグネシウムからなる)補綴材100は、体腔内に挿入されれば、体腔内で分解され、吸収される性質を有する。純粋なマグネシウムは生体適合性を有するためである。補綴材100の表面に存在するマグネシウムは、体腔内で体液と接触すると、以下の化学式のような分解反応が開始する。
【0041】
【化1】
【0042】
【化2】
【0043】
【化3】
【0044】
このとき体液中の塩であるNaCl、および炭酸水素ナトリウム(NaHCO)などとの反応により、以下の化学式のように、補綴材100の表面にはハイドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))が形成される。
【0045】
【化4】
【0046】
【化5】
【0047】
【化6】
【0048】
この化学反応により、本実施の形態の補綴材100を構成する板状部材10は、体内に挿入された後、体内組織が再建するまでの間は補綴材として機能し、体内組織の再建後は分解されるよう、調整することができる。この調整は、板状部材10の厚みt、補綴材100の直径A(または長軸の寸法A)、板状部材10の縦および横の寸法などを制御することによりなされる。この調整は、マグネシウムのみからなる部材の表面にマグネシウム化合物としてのマグネシウムの水酸化物の膜(コーティング膜10c)をコーティングする量(厚み)を制御することによってもなされる。たとえばこれらの各寸法を上記のようにすることにより、補綴材100の挿入後、気管などの体内組織が再建するまでの期間(たとえば1か月以上3か月以下程度)の間は補綴材100が体内に残存することにより補綴材として機能し、気管などが再建した後には補綴材100が分解されることでこれを体内から消滅させることができる。
【0049】
上記のように気管などの体内組織が再建するタイミングにおいてちょうど補綴材100が体内にて分解消滅し、それまでの間は体内に残存することを可能とするために、板状部材10はマグネシウムを主成分とするものであることが好ましい。すなわち板状部材10はマグネシウムのみからなる部材であってもよい。あるいは板状部材10はマグネシウムのみからなる部材の表面上にマグネシウム化合物のコーティング膜10cが形成されたものであってもよい。次にマグネシウム化合物のコーティング膜10cにより補綴材として使用可能な期間を調整可能である理由を説明する。
【0050】
上記の式(1)~(6)より、コーティング膜10cに用いられるマグネシウム化合物すなわちたとえば水酸化マグネシウム(Mg(OH))は、単体のマグネシウムMgに比べて、速やかに腐食してハイドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))が形成される。ハイドロキシアパタイトが生成されると、補綴材100の体腔内での分解(腐食)が遅くなる。このため水酸化マグネシウムは単体のマグネシウムに比べてHBSS(Hanks' Balanced Salt Solution)と呼ばれる体液に近い組成の生理的塩溶液中での分解(腐食)の速度が遅い。マグネシウム単体の部材の表面にその水酸化物のコーティング膜10cが形成された板状部材10は、マグネシウム単体のみからなる板状部材10に比べて、分解(腐食)の速度が遅くなる。このように、板状部材10の表面にマグネシウム化合物の膜がコーティングされることが好ましい。このようにすれば、そのコーティング量を変更することにより、補綴材100全体の体腔内での消滅までに要する時間を変更することができる。これにより、補綴材100の挿入後、気管などの体内組織が再建するまでの期間(たとえば3か月程度)の間は補綴材100が体内に残存することにより補綴材として機能し、気管などが再建した後には補綴材100が分解されることでこれを体内から消滅させるよう、補綴材100の体腔内での残存期間を精密に制御できる。
【0051】
以上より、マグネシウムを主成分とする本実施の形態の補綴材100を用いることで、気管の再建後における補綴材100の体腔内からの抜去手術が不要となる。このため当該補綴材100は、体腔内にダメージを与える可能性を排除できる。また患者に対する負担を低減できる。さらに当該補綴材100は切欠き部13を有するアーチ状である。つまり図4および図5の周方向の一部が欠損しており、補綴材100の延在方向に沿って、あるいは延在方向に対して傾斜する方向に延びるように切欠き部13が形成されている。このため補綴材100は、切欠き部13を用いることで、挿管チューブの上から嵌めるように、容易に挿入できる。これにより、挿管チューブに挿入できた補綴材100を、体腔内の管状組織、たとえば気管の腫瘍が切除された部分などに、容易に設置できる。このため補綴材100の設置工程を容易にすることができる。
【0052】
図11は、本実施の形態の医療用補綴材の使用方法を示す概略図である。図11を参照して、たとえば腫瘍21が気管22に発生している場合を考える(A)。腫瘍21の切除時には腫瘍21の発生した気管22の部分に加え、気管22の後ろに存在する食道23も部分的に切除される場合がある(B)。しかし食道23は切除されない場合もある。気管22および食道23が切除されたところに、本実施の形態の補綴材100が、埋められるように配置される(C)。つまり気管22内に補綴材100が挿入され、縫合により補綴材100は気管22などに固定される。その後、補綴材100の上に被覆材110が被せられる(D)。この被覆材110は、腫瘍21が切除され補綴材100が埋められた領域を外側から塞ぐために設けられる。被覆材110としては、人体の組織に近い材料が用いられる。より具体的には、生体由来組織またはその他の人工物が被覆材110として用いられる。被せられた被覆材110は、縫合により補綴材100に固定される。
【0053】
更に、マグネシウムからなる補綴材100は、骨と類似した機械的な物性を有している。このため補綴材100には、腫瘍21を切除した箇所などへの移植後に応力集中が発生しにくくなる。
【0054】
また補綴材100はアーチ状すなわち筒状に近い形状であり、被覆材110を受け止めることができる構造を有している。このため補綴材100は、患者の呼吸時の陰圧により被覆材110が気管22を閉塞させる不具合を抑制する役割を有する。言い換えれば補綴材100は、患者の気道を確保する役割を有する。
【0055】
さらに、たとえば気管22の壁内の腫瘍21を気管支鏡で切除した場合には、気管22の壁外には腫瘍21が残存しているため、腫瘍21の根治治療とはならない。腫瘍21の根治治療としては気管22の合併切除術がある。しかし当該気管22の合併切除術を行なった場合にも組織再生の際に、肉芽により、または呼吸時の陰圧により、当該組織再生をしようとする部分に狭窄が発生する可能性が高いことが懸念される。補綴材100は、筒状(アーチ状)を有することにより、たとえば気管の合併切除術後の組織再生の際にこれが除去部に挿入されることで、気管の形がつぶれたり(詰まったり)狭窄したりする可能性を低減できる。
【0056】
本実施の形態の補綴材100において、アーチ状は、円形または楕円形の一部であってもよい。このような形状を有することにより、補綴材100をたとえば挿管チューブの上に嵌めるように挿入する作業をより簡易化できる。
【0057】
本実施の形態の補綴材100においては、板状部材10の平面形状は、円形、楕円形およびトラック形のいずれかであってもよい。このようにすれば、板状部材10の平面形状の角部が直線(直角など)である場合に比べて、患者の気管などを傷つける可能性を低減できる。
【0058】
本実施の形態の補綴材100において、板状部材10には、第1の主表面10aから、第1の主表面10aと反対側の第2の主表面10bまで板状部材10を貫通する孔部14が、互いに間隔をあけて複数形成されていてもよい。この孔部14には、上記化学式(1)(2)に示す、補綴材100のマグネシウム材料の酸化時に発生する電子と体腔内の水分との反応により形成される水素が通過できる。孔部14を通過した水素は、気管壁の内側に移動することにより、呼吸とともに体外に排出できる。このため気管の外壁に水素が溜まることでできる気腫を生じにくくすることができる。また孔部14は、気管などに挿入された補綴材100を気管などに縫合するための針を通す部分として用いることができる。このため補綴材100は気管内などの所望の位置に固定できる。
【0059】
本実施の形態の補綴材100において、板状部材10は、互いに隔てられた第1の端部11と第2の端部12との距離は、延在方向についての少なくとも一部において、延在方向に互いに対向する第3の端部15から第4の端部16に向けて変化する。つまり第1の端部11と第2の端部12との関係が、図6(C),(D),(E)のいずれかに示す構成であってもよい。このようにすれば、台形状またはジグザグ状を有する板状部材10が形成されることで、板状部材10を多様な形状にできる。たとえば正方形または矩形の平面形状を有する板状部材10を形成することが手間である場合に、このような任意形状の板状部材10を形成することで、その手間を省ける可能性がある。また当該補綴材100を用いる患者の気管の形状により適合した形状の板状部材10を提供できる。
【0060】
本実施の形態の補綴材100において、第1の端部11および第2の端部12は延在方向に対して傾斜する方向に延びてもよい。つまり第1の端部11と第2の端部12との関係が、図6(B),(C)のいずれかに示す構成であってもよい。このようにすれば、このようにすれば、平行四辺形状または台形状を有する板状部材10が形成されることで、板状部材10を多様な形状にできる。たとえば正方形または矩形の平面形状を有する板状部材10を形成することが手間である場合に、このような任意形状の板状部材10を形成することで、その手間を省ける可能性がある。また当該補綴材100を用いる患者の気管の形状により適合した形状の板状部材10を提供できる。
【0061】
本実施の形態の補綴材100において、延在方向に交差する断面が収縮するように板状部材10を変形させることができる。このようにすれば、第3の端面15および第4の端面16を押さえて補綴材100のアーチの径(図4図5の寸法A)を縮小させた状態で気管22内に挿入し、挿入が終わった後に気管22内にて補綴材100の復元力(弾性力)を利用してこれを気管22の内壁の大きさにフィットするように自然に拡張させることができる。
【実施例0062】
補綴材100のHBSS溶液中での腐食状況を調べる試験を行なった。当該試験においては、コーティング膜10cが形成されない純粋なマグネシウムの単体のみからなる板状部材10と、純粋なマグネシウムの単体の表面に水酸化マグネシウムMg(OH)のコーティング膜10cが形成された板状部材10との2種類の板状部材10が準備された。これら2種類の板状部材10が、HBSS溶液と呼ばれる細胞培養用の溶液中に浸され、その腐食状況が比較された。HBSS溶液は上記のように体腔内の体液に類似した組成を有する溶液であり、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)などを含んでいる。このためHBSS溶液中に板状部材10を浸すことにより、体腔内での板状部材10の分解状況を擬似的に再現できる。
【0063】
図12は、本実施の形態の補綴材の、HBSS溶液中での腐食状況を示す画像データである。図12を参照して、上段は単体マグネシウムの板状部材10からなる補綴材100、下段は水酸化マグネシウムMg(OH)の膜を有する単体マグネシウムの板状部材10からなる補綴材100を示している。図12には、両者の補綴材100をHBSS溶液中に浸し、6日経過した後の各補綴材100に含まれる各物質(酸素、マグネシウム、リン、カルシウム)の量が画像で示されている。
【0064】
酸素の量は両サンプル間に大きな差異はない。しかしリンおよびカルシウムは、水酸化マグネシウムMg(OH)を含むサンプルにおいて、これを含まないサンプルよりも量が多くなった。このことは、水酸化マグネシウムMg(OH)を含むサンプルは、これを含まないサンプルよりもハイドロキシアパタイトの生成が速いことを意味する。ハイドロキシアパタイトには、元々の補綴材100には含まれないカルシウムおよびリンが含まれるためである。ハイドロキシアパタイトが生成されると、補綴材100の体腔内での分解(腐食)が遅くなる。このため補綴材100(板状部材10)におけるマグネシウム単体の表面にマグネシウム化合物(水酸化マグネシウムMg(OH)など)が形成される量を調整すれば、補綴材100の腐食速度を調整できることがわかる。このため補綴材100を構成する板状部材10は、体内に挿入された後、体内組織が再建するまでの間は補綴材として機能し、体内組織の再建後は分解されるようにし、たとえば分解されるまでの期間を長くすることができる。
【0065】
以上に述べた各例に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
10 板状部材、10a 第1の主表面、10b 第2の主表面、10c コーティング膜、11 第1の端部、12 第2の端部、13 切欠き部、14 孔部、15 第3の端部、16 第4の端部、21 腫瘍、22 気管、23 食道、100 医療用補綴材(補綴材)、110 被覆材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12