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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045176
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】医療用補綴材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/04 20060101AFI20220311BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220311BHJP
   A61L 27/30 20060101ALI20220311BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220311BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220311BHJP
   A61F 2/04 20130101ALI20220311BHJP
【FI】
A61L27/04
A61P11/00
A61L27/30
A61L27/40
A61L27/50
A61F2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150719
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 清一
(72)【発明者】
【氏名】土岐 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】島田 千明
(72)【発明者】
【氏名】西田 稔
(72)【発明者】
【氏名】南 広祐
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 紗季
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081AB15
4C081BA16
4C081BB08
4C081CF21
4C081CF24
4C081CG08
4C081DA01
4C081DC03
4C097AA17
4C097BB01
4C097CC03
4C097DD09
4C097MM04
4C097MM05
(57)【要約】
【課題】気管などの組織への挿入が容易でかつ抜去が不要となることにより、気管などの組織へのダメージを抑制可能な医療用補綴材を提供する。
【解決手段】補綴材100は、マグネシウムを主成分とし、複数の山11aと複数の谷12aとを交互に有するミアンダ形状であるワイヤ1を備える。ワイヤ1は、ミアンダ形状の延在方向に交差する方向が周方向となるように曲げられた後において、複数の山11aの1つと、延在方向について複数の山11aの1つに隣り合う複数の谷12aの1つとが周方向について重ならず互いに隔てられた間隔部13を保つ構造体を形成している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを主成分とし、複数の第1の山と複数の第1の谷とを交互に有するミアンダ形状であるワイヤを備え、
前記ワイヤは、前記ミアンダ形状の延在方向に交差する方向が周方向となるように曲げられた後において、前記複数の第1の山の1つと、前記延在方向について前記複数の第1の山の1つに隣り合う前記複数の第1の谷の1つとが周方向について重ならず互いに隔てられた間隔部を保つ構造体を形成している、医療用補綴材。
【請求項2】
前記間隔部は前記延在方向に沿って直線状に延びるように形成され、
前記ミアンダ形状を構成する仮想の平面の、前記延在方向に交差する断面がアーチ状である、請求項1に記載の医療用補綴材。
【請求項3】
前記複数の第1の山および前記複数の第1の谷は、頂点側が前記頂点と反対側よりも前記延在方向の幅が大きくなっている領域を含んでいる、請求項1または2に記載の医療用補綴材。
【請求項4】
前記ワイヤは、前記延在方向において少なくとも1つの第2の山および少なくとも1つの第2の谷を有するように波状に加工され、
前記延在方向において隣り合う前記ワイヤの部分では前記少なくとも1つの第2の山の少なくとも一部と前記少なくとも1つの第2の谷の少なくとも一部とが接触している、請求項1~3のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項5】
マグネシウムを主成分とし、中心軸まわりにコイル状に複数巻回されたワイヤの構造体であり、
前記ワイヤは、前記中心軸に沿った方向において複数の山および複数の谷を有するように波状に加工され、
前記中心軸の方向において隣り合う前記ワイヤの部分では前記複数の山と前記複数の谷とが接触している、医療用補綴材。
【請求項6】
前記構造体が複数接続されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項7】
前記ワイヤの表面には、マグネシウム化合物の膜がコーティングされている、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【請求項8】
前記構造体の前記ワイヤの引っ張り強さは200MPa以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療用補綴材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用補綴材に関する。
【背景技術】
【0002】
管状の組織が腫瘍により狭窄する場合がある。たとえば気管が腫瘍などにより狭窄した場合、一般的に管壁内の腫瘍が気管支鏡で切除される。その後、腫瘍が切除された管状の組織には、再狭窄を防止するために、たとえば特開2009-508644号公報(特許文献1)に開示されるような金属などの再構築可能な材料を含む医療器具フレーム、すなわち補綴材が挿入される。当該補綴材は、金属などのワイヤが曲げられた形状を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-508644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管状の組織に挿入するための補綴材は、特にその構成材料によっては、数年で交換のために体内から抜去する必要がある。しかし補綴材は抜去時には体内の周囲組織と癒着しており、気管などの管状の組織を傷つける可能性が高い。
【0005】
また特開2009-508644号公報に開示されるような補綴材は、管状の組織への挿入時に挿管チューブの上から嵌めるように挿入することが困難な形状である。これはワイヤがミアンダ形状と呼ばれる波形に加工された後、波形の複数の山の1つと、これに隣り合う複数の谷の1つとが、周方向について重ならず互いに隔てられた間隔部を有さないように(両者を合わせれば周方向の1周の全体を周回するように)巻回されるためである。つまり周方向について1周の全体をワイヤが周回するため、補綴材を嵌めるように挿入可能な間隔部を有さない。このため当該補綴材は挿管チューブの上から嵌めるように挿入できない。したがって当該補綴材の挿入時に管状の組織を傷つける可能性について十分に検討されていない。間隔部を有さないことが、たとえば気管の上から嵌めるように挿入することを難しくする。このような補綴材が仮に気管の手術後に用いられれば、所望の箇所への挿入が困難であり、挿入時にも気管などの管状の組織を傷つける可能性が高い。
【0006】
本開示は上記の課題に鑑みなされたものである。その目的は、気管などの組織への挿入が容易でかつ抜去が不要となることにより、気管などの組織へのダメージを抑制可能な医療用補綴材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る医療用補綴材は、マグネシウムを主成分とし、複数の山と複数の谷とを交互に有するミアンダ形状であるワイヤを備える。ワイヤは、ミアンダ形状の延在方向に交差する方向が周方向となるように曲げられた後において、複数の山の1つと、延在方向について複数の山の1つに隣り合う複数の谷の1つとが周方向について重ならず互いに隔てられた間隔部を保つ構造体を形成している。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、気管などの組織への挿入が容易でかつ抜去が不要となることにより、気管などの組織へのダメージを抑制可能な医療用補綴材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1の第1例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。
図2】実施の形態1における医療用補綴材の全体の形状を仮想の平面で擬似化した形状を示す概略図である。
図3図2の仮想の平面の、III-III線に沿う部分の第1例の概略断面図である。
図4図2の仮想の平面の、III-III線に沿う部分の第2例の概略断面図である。
図5図2図4の仮想の平面で擬似化される、実施の形態1に係る医療用補綴材の概略斜視図である。
図6図5のVI-VI線に沿う部分の第1例の概略断面図である。
図7図5のVI-VI線に沿う部分の第2例の概略断面図である。
図8】実施の形態1の補綴材が複数接続された態様を示す模式図である。
図9】実施の形態1の補綴材が延在方向の途中で切断された態様を示す模式図である。
図10】実施の形態1の第2例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。
図11】実施の形態1の第2例における医療用補綴材の全体の形状を仮想の平面で擬似化した形状を示す概略図である。
図12図11の仮想の平面で擬似化される、実施の形態1の第2例に係る医療用補綴材の概略斜視図である。
図13】実施の形態1の第3例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。
図14】実施の形態1の第3例に係る医療用補綴材の概略斜視図である。
図15】本実施の形態の医療用補綴材の使用方法を示す概略図である。
図16】実施の形態2に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。
図17】実施の形態2に係る医療用補綴材の概略斜視図である。
図18】実施の形態3の第1例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。
図19】実施の形態3の第2例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。
図20】実施の形態4に係る医療用補綴材の概略斜視図である。
図21】実施の形態5に係る医療用補綴材の概略正面図である。
図22図21の医療用補綴材の一部を中心軸に沿う方向に切り開いた展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の第1例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。図2は、実施の形態1の第1例における医療用補綴材の全体の形状を仮想の平面で擬似化した形状を示す概略図である。図3は、図2の仮想の平面の、III-III線に沿う部分の第1例の概略断面図である。図4は、図2の仮想の平面の、III-III線に沿う部分の第2例の概略断面図である。図5は、図2図4の仮想の平面で擬似化される、実施の形態1の第1例に係る医療用補綴材の概略斜視図である。図6は、図5のVI-VI線に沿う部分の第1例の概略断面図である。図7は、図5のVI-VI線に沿う部分の第2例の概略断面図である。以下、図1図7を用いて本実施の形態の第1例の医療用補綴材100(以下、単に「補綴材100」と記す)の構成について説明する。
【0011】
図1を参照して、本実施の形態の第1例の補綴材は、1本のワイヤ1を備えている。ワイヤ1は、線状に延びる細長い部材である。ワイヤ1は、マグネシウムを主成分としている。すなわち当該ワイヤ1は、マグネシウムの単体からなる純粋なマグネシウムの部材である。ワイヤ1のマグネシウムは合金ではなく、他の金属材料は含まれない。ただし当該純粋なマグネシウムにごくわずかな量のマグネシウム以外の材料を含んだとしても、ここでは純粋なマグネシウムと考える。ここでごくわずかな量のマグネシウム以外の材料とは、微量含まれ得る不可避的不純物の元素を意味する。図1のワイヤ1は内部にマグネシウムなどが充填されたいわゆる中実の部材であってもよいが、内部にマグネシウムなどが配置されない空間部分を含むいわゆる中空(パイプ状)の部材であってもよい。
【0012】
ワイヤ1は、図1中に点線で示すたとえば矩形の仮想の平面10上に波形が乗るように、線状部材が曲げられている。仮想の平面10はワイヤ1のミアンダ形状を構成する部分がすべてその上に乗るように仮に形成される平面である。このことをここでは仮想の平面10がワイヤ1のミアンダ形状を構成すると表現する。仮想の平面10は、ここでは図1の紙面上側の面としての仮想表面10aと、図1の紙面下側の面としての仮想裏面10bとを有するものとする。仮想の平面10は、図1の上側の端面である第1の端面11と、図1の下側の端面である第2の端面12とを有するものとする。
【0013】
仮想の平面10上のワイヤ1の波形状は、図1の上側の頂点である山11a(第1の山)と、図1の下側の頂点である谷12a(第1の谷)とが複数ずつ、図1の左右方向に交互に有するように形成されている。これによりワイヤ1はいわゆるミアンダ形状を描いている。
【0014】
図2を参照して、補綴材は、ワイヤ1を、仮想の平面10が筒形状に近い形状となるように曲げられたものである。補綴材は、たとえば図2の仮想の平面10の、互いに対向する第1の端面11と第2の端面12とが互いに隔てられた状態を保つように曲げた後の延在方向に交差する断面がアーチ状である。ここで延在方向とは、補綴材の全体が延びる長手方向である。延在方向は、特に図1および図2においては、第1の端面11および第2の端面12が延びる左右方向である。言い換えれば延在方向は、複数の山11a同士が並ぶ方向、または複数の谷12a同士が並ぶ方向である。つまりワイヤ1を曲げることで、仮想の平面10の第1の端面11と第2の端面12との延在方向に交差する方向が図2の曲げられた端面の一部となるように周方向(第1の端面11から第2の端面12に向かう方向)に延びることとなる。
【0015】
ワイヤ1のミアンダ形状は、図1の上下方向についての山11aと谷12aとの距離の1/2を振幅Aとすれば、本実施の形態において、当該振幅Aは8mm以上46mm以下であることが好ましい。また本実施の形態において、山11aとそれに隣接する谷12aとの、延在方向についての波長λは2mm以上10mm以下であることが好ましく、その中でも5mm以上7mm以下であることが好ましい。ただし複数の波長λはワイヤ1の全体においてほぼ同一であってもよいが、これらは互いに異なっていてもよい。図1においては複数の山11aおよび複数の谷12aの上下方向の位置が互いにほぼ等しい。
【0016】
図2および図3を参照して、補綴材を形成するための図2の仮想の平面10の延在方向に断面がアーチ状であるとは、仮想の平面10が図2のように曲げられ、第1の端面11および第2の端面12に直交し第1の端面11および第2の端面12を結ぶ直線が描く曲線が円形の一部であることを意味する。あるいは図2および図4を参照して、図2の仮想の平面10の断面がアーチ状であるとは、仮想の平面10が図2のように曲げられ、第1の端面11および第2の端面12に直交し第1の端面11および第2の端面12を結ぶ直線が描く曲線が楕円形の一部であることを意味する。本実施の形態においては図3図4のいずれの態様であってもよい。
【0017】
第1の端面11および第2の端面12が互いに隔てられた状態を保つことにより、両者の間には、第1の端面11および第2の端面12に沿って延びる切欠き部13が形成される。切欠き部13においては仮想の平面10が配置されない。つまり切欠き部13は仮想の平面10の第1の端面11と第2の端面12との隙間であり、仮想の平面10が第1の端面11と第2の端面12との間で曲線の延びる方向について欠けた部分である。
【0018】
補綴材の切欠き部13における第1の端面11と第2の端面12との、仮想の平面10が曲げられた周方向(第1の端面11から第2の端面12に向かう方向)の間隔Cは1mm以上であることが好ましい。この中でも特に、当該間隔Cは、2mm以上30mm以下であることが好ましい。切欠き部13は、第1の端面11および第2の端面12にほぼ平行な方向に、すなわち中心軸Cにほぼ平行な方向に延びている。
【0019】
図3に示すアーチ状の断面形状を形成する円形状(の一部)の直径D1の最大値は10mm以上30mm以下であることが好ましい。ただし当該寸法はこれに限られない。同様に、図4に示すアーチ状の断面形状を形成する楕円形状(の一部)の長軸の寸法B1などの最大値は10mm以上30mm以下であることが好ましい。これらの各寸法D1,B1,Cの数値範囲を用いて計算すれば、上記のようにワイヤ1のミアンダ形状の振幅Aは8mm以上46mm以下との数値範囲が得られる。ただし当該形状はこれに限られない。なお図3および図4のアーチ形状はその全体が曲線状となっている。しかし図3および図4のアーチ形状は、第1の端面11および第2の端面12を結ぶ線の一部が直線であってもよい。このようにすれば後述の補綴材100が持ちやすくなる。
【0020】
図5を参照して、仮想の平面10が図3または図4のように曲げられることで形成された補綴材100は、図1のワイヤ1が、中心軸C周りに、ミアンダ形状の延在方向に交差する方向(図1の上下方向)が周方向となるように曲げられている。このように曲げられたワイヤ1は、複数の山11aの1つと、延在方向について上記複数の山11aの1つに隣り合う複数の谷12aの1つとが、周方向について重ならず互いに隔てられた間隔部を保つ構造体を形成している。この構造体が補綴材100として形成される。ワイヤ1のミアンダ形状は、ある山11aから、それに隣り合う谷12aまで延びる部分が、周方向に曲げられた態様となっているが、当該延びる部分は、周方向の丸1周分に満たない。このため周方向について、ある山11aとそれに隣り合う谷12aとの間には、図2図4での切欠き部13に相当する間隔部が形成される。このことをここでは、ワイヤ1の隣り合う山11aと谷12aとが周方向に重ならないと表現している。なお当該間隔部は、周方向について1周の1/10以上1/2以下の間隔であることが好ましい。ただしこれに限られない。
【0021】
図5の補綴材100においては、この間隔部は、延在方向に沿って直線状に延びるように形成されている。つまり補綴材100においては、間隔部は、図2の切欠き部13と同様に複数の山11a(複数の谷12a)の並ぶ方向である中心軸Cの延びる方向に沿って直線状に延びている。また図1のワイヤ1と同様に、これがアーチ状とされた補綴材100の延在方向についての巻回部の波長は2mm以上10mm以下であることが好ましい。また補綴材100の延在方向の寸法Lは20mm以上50mm以下であることが好ましい。ただし当該寸法Lはこれに限られない。なお上記寸法Lは手などで補綴材100に対して延在方向の力を加えていない状態における長さである。補綴材100は延在方向に力を加えることにより、上記寸法Lに対して伸縮させることができる。これにより上記Lは延在方向の力を加えていない状態に対してたとえば0.8倍以上1.2倍以下の任意の長さとなるように変更することができる。
【0022】
図6を参照して、ワイヤ1は、(A)のようにその延びる方向に交差する断面が円形状であってもよい。あるいはワイヤ1は、(B)のように当該断面が楕円形状であってもよく、(C)のように当該断面が矩形状または正方形状であってもよい。いずれの場合においても、ワイヤ1は、純粋なマグネシウムの単体からなる部材の表面にコーティング膜1cが形成されたものであってもよい。この場合はコーティング膜1cを含めた全体をワイヤ1と定義してもよい。下記のようにコーティング膜1cはマグネシウム化合物を含む膜であるため、これを含む全体を「マグネシウムを主成分とする」ということができるためである。あるいはコーティング膜1cを含めず純粋なマグネシウムの単体部分のみをワイヤ1と定義してもよい。なおワイヤ1にはこのようなコーティング膜1cが形成されなくてもよい。コーティング膜1cは、マグネシウムの単体からなる部材が陽極として設置され電気分解工程がなされることにより、マグネシウムの単体の表面に形成された薄膜である。コーティング膜1cは、マグネシウムの単体部材の陽極酸化などにより形成されたマグネシウム化合物の膜であることが好ましい。たとえばコーティング膜1cはマグネシウムの水酸化物および酸化物のいずれかであってもよい。コーティング膜1cは水酸化マグネシウム(Mg(OH))であってもよい。あるいはコーティング膜1cは、上記と同工程により形成された酸化マグネシウム(MgO)であってもよい。コーティング膜1cは、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムと、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))とが混合されたものであってもよいし、ハイドロキシアパタイトのみからなってもよい。あるいはコーティング膜1cは、炭酸マグネシウム(MgCO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、クエン酸マグネシウム、およびステアリン酸マグネシウムのいずれかであってもよい。
【0023】
コーティング膜1cの厚みは、補綴材を体腔内に残存させるべき期間に応じて調整することができる。たとえば通常、手術での補綴材の体腔内への挿入時から気管が再建するまでの期間は1か月以上3か月以下程度である。たとえばコーティング膜1cを厚くすれば、補綴材を体腔内に残存すべき期間を長くすることができる。このように補綴材の体腔内の残存期間を長くするためにコーティング膜1cの厚み、ワイヤ1の寸法等を変更することをここでは調整と呼ぶこととする。なおコーティング膜1cの厚みは10nm以上100μm以下であることが好ましい。
【0024】
また図6においてワイヤ1は(A),(B),(C)のいずれにおいても内部にマグネシウムなどが充填されたいわゆる中実の部材である。このような構成であってもよい。あるいは図7を参照して、ワイヤ1は内部にマグネシウムなどが配置されない空間部分を含むいわゆる中空(パイプ状)の部材であってもよい。図7の(A),(B),(C)は中空であることを除き、図6の(A),(B),(C)のそれぞれと同一形状、同一サイズ、同一材質である。
【0025】
図6の(A)および図7の(A)に示す断面形状が円形のワイヤ1は、コーティング膜1cの有無にかかわらず、直径D2が0.4mm以上1.0mm以下であることが好ましい。なおその中でも直径D2は0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。図6の(B)および図7の(B)に示す断面形状が楕円形のワイヤ1は、コーティング膜1cの有無にかかわらず、厚みtが0.4mm以上1.0mm以下であることが好ましく、横の寸法B2が0.5mm以上1.1mm以下であることが好ましい。また図6の(C)および図7の(C)に示す断面形状が矩形状のワイヤ1は、コーティング膜1cの有無にかかわらず、厚みtが0.4mm以上1.0mm以下であることが好ましく、横の寸法B2が0.4mm以上1.1mm以下であることが好ましい。
【0026】
図8は、実施の形態1の補綴材が複数接続された態様を示す模式図である。図9は、実施の形態1の補綴材が延在方向の途中で切断された態様を示す模式図である。図8を参照して、補綴材101は、図5に示す補綴材100の構造体が複数接続されている。補綴材101のように、図5の補綴材100が、その延在方向に直列に複数接続されることで、構造体全体の延在方向の長さがより長くなってもよい。具体的には、補綴材100の延在方向の端部がジョイント部分として存在し、ジョイント部分において一の補綴材100と他の補綴材100とが接続されているためである。なお図8においては補綴材100の構造体が3つ接続されているが、これに限らず補綴材100の接続される数は任意である。なおジョイント部分において一の補綴材100と他の補綴材100とは延在方向に重なる部分がほとんどないように接続される。
【0027】
図9を参照して、補綴材102は、補綴材100がその延在方向について2つ以上の複数に分割するように切断されている。このように補綴材100は複数接続により長くなってもよいが、切断により短くなってもよい。補綴材100は、複数接続されたり切断されたりすることにより、治療部分の形状に合わせて、医師が延在方向の長さを調節して使用することができる。
【0028】
本実施の形態において、補綴材100の構造体を構成するワイヤ1の引っ張り強さは200MPa以上であることが好ましい。この引っ張り強さは、ワイヤ1を、図1のようにミアンダ形状に曲げる(変形する)前に測定された、その延在方向に引っ張るときの強度である。曲げる前の直線状のワイヤ1を、その延在方向に引っ張り、荷重を断面積で除した値が引っ張り強さである。引っ張り強さは、通常のJISで定められた試験片を用いた引張試験により測定可能である。なおこの引っ張り強さは、250MPa以上であることがより好ましい。引っ張り強さは、直線状のワイヤ1と、ミアンダ形状のワイヤ1との間に特段の差異は生じない。このようにすれば、手で補綴材100の延在方向の寸法を自在に伸縮させることができ、気管などへの挿入時の補綴材100の全長を容易に変更できる。
【0029】
図10は、実施の形態1の第2例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。図11は、実施の形態1の第2例における医療用補綴材の全体の形状を仮想の平面で擬似化した形状を示す概略図である。図12は、図11の仮想の平面で擬似化される、実施の形態1の第2例に係る医療用補綴材の概略斜視図である。図10図11図12はそれぞれ第1例の図1図2図5に対応する。図10図12を参照して、本実施の形態の第2例のワイヤ1および補綴材100は大筋で第1例のそれらと同様の構成を有する。このため上記の第1例と同様の構成等についてはその説明を繰り返さない。ただし第2例においては、補綴材100の切欠き部13に相当する間隔部が、延在方向に対して傾斜する方向に直線状に延びている。このためには図10のように、ワイヤ1のミアンダ形状の複数の山11aおよび複数の谷12aの図10の上下方向の位置が互いに異なっている。具体的には図10の左側から右側に向けて、山11aおよび谷12aの位置が漸次下側に配置されている。このため間隔部が延在方向に対して傾斜する。以上の点において本実施の形態の第2例は、切欠き部13に相当する間隔部が延在方向に沿って直線状に延びる本実施の形態の第1例と異なっている。間隔部(切欠き部13)の間隔Cなどの各部の寸法については第1例と同様であってもよい。補綴材100はこのような構成であってもよい。
【0030】
図13は、実施の形態1の第3例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。図14は、実施の形態1の第3例に係る医療用補綴材の概略斜視図である。図13図14はそれぞれ第1例の図1図5に対応する。図13図14を参照して、本実施の形態の第3例のワイヤ1および補綴材100は大筋で第1例、第2例のそれらと同様の構成を有する。このため上記の第1例、第2例と同様の構成等についてはその説明を繰り返さない。ただし第3例においては、補綴材100の切欠き部13に相当する間隔部が、延在方向に対して傾斜し折れ曲がるように延びている。このためには図13のように、ワイヤ1のミアンダ形状の複数の山11aおよび複数の谷12aの図10の上下方向の位置が互いに異なっている。具体的には図10の左側から右側に向けて、山11aおよび谷12aの位置が規則性なくランダムに配置されている。このため形成される間隔部の位置も無秩序となり、それらを結んでなる間隔部は折れ線形状となる。ただし間隔部はそもそも直線または折れ線を形成せず、延在方向について不連続なものが互いに間隔をあけて複数形成される態様であってもよい。以上の点において本実施の形態の第3例は、切欠き部13に相当する間隔部が直線状に延びる本実施の形態の第1例および第2例と異なっている。間隔部(切欠き部13)の間隔Cなどの各部の寸法は第1例と同様であってもよい。図13および図14のような構成の補綴材100は、延在方向に隣り合う山11aおよび谷12aを精密に直線状に並べなくてよいため、生産性を向上できる。
【0031】
また図示されないが、間隔部が上記第1例または第2例のように直線状に延びる場合において、以下の変形例が考えられる。仮想の平面10の切欠き部13は図2および図11では第1の端面11と第2の端面12とがほぼ平行になっている。このため図2および図11では第1の端面11と第2の端面12との距離は、延在方向(左右方向)についての全体においてほぼ一定になっている。第1の端面11と第2の端面12との距離とは、延在方向に交差(たとえば直交)する方向についての最短距離である。ただし変形例として、図2および図11において、仮想の平面10の切欠き部13を形成する互いに隔てられた第1の端面11と第2の端面12との距離が、延在方向についての少なくとも一部において漸次変化してもよい。つまりたとえば図2および図11の左側から右側に向けて、上記距離が漸次増加しても減少してもよい。あるいは延在方向での一部の領域においては当該距離は一定であるが、他の一部の領域において上記距離が漸次増加しても減少してもよい。第1の端面11および第2の端面12のいずれか一方のみ図2図11の延在方向に沿って延び、他の一方は当該延在方向に対して傾斜する方向に延びることにより、上記距離が変化してもよい。
【0032】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の補綴材100は、マグネシウムを主成分とし、複数の第1の山としての山11aと複数の第1の谷としての谷12aとを交互に有するミアンダ形状であるワイヤ1を備える。ワイヤ1は、ミアンダ形状の延在方向に交差する方向が周方向となるように曲げられた後において、複数の山11aの1つと、延在方向について複数の山11aの1つに隣り合う複数の谷12aの1つとが周方向について重ならず互いに隔てられた間隔部(図2の切欠き部13に対応)を保つ構造体を形成している。
【0033】
マグネシウムを主成分とする、つまりマグネシウムのみからなるワイヤ1、あるいはマグネシウムのみからなる部材の表面にたとえばマグネシウムの化合物の膜(マグネシウムの酸化物またはマグネシウムの水酸化物など)がコーティングされたワイヤ1から、補綴材100が形成される。マグネシウムを主成分とする(たとえば純粋なマグネシウムからなる)補綴材100は、体腔内に挿入されれば、体腔内で分解され、吸収される性質を有する。純粋なマグネシウムは生体適合性を有するためである。補綴材100の表面に存在するマグネシウムは、体腔内で体液と接触すると、以下の化学式のような分解反応が開始する。
【0034】
【化1】
【0035】
【化2】
【0036】
【化3】
【0037】
このとき体液中の塩であるNaCl、および炭酸水素ナトリウム(NaHCO)などとの反応により、以下の化学式のように、補綴材100の表面にはハイドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))が形成される。
【0038】
【化4】
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
この化学反応により、本実施の形態の補綴材100を構成するワイヤ1は、体内に挿入された後、体内組織が再建するまでの間は補綴材として機能し、体内組織の再建後は分解されるよう、調整することができる。この調整は、ワイヤ1の厚みt、直径D2などの太さ、補綴材100の直径D1(または長軸の寸法B1)などを制御することによりなされる。この調整は、マグネシウムのみからなる部材の表面にマグネシウム化合物としてのマグネシウムの水酸化物の膜(コーティング膜1c)をコーティングする量(厚み)を制御することによってもなされる。たとえばこれらの各寸法を上記のようにすることにより、補綴材100の挿入後、気管などの体内組織が再建するまでの期間(たとえば1か月以上3か月以下程度)の間は補綴材100が体内に残存することにより補綴材として機能し、気管などが再建した後には補綴材100が分解されることでこれを体内から消滅させることができる。
【0042】
上記のように気管などの体内組織が再建するタイミングにおいてちょうど補綴材100が体内にて分解消滅し、それまでの間は体内に残存することを可能とするために、ワイヤ1はマグネシウムを主成分とするものであることが好ましい。すなわちワイヤ1はマグネシウムのみからなる部材であってもよい。あるいはワイヤ1はマグネシウムのみからなる部材の表面上にマグネシウム化合物のコーティング膜1cが形成されたものであってもよい。次にマグネシウム化合物のコーティング膜1cにより補綴材として使用可能な期間を調整可能である理由を説明する。
【0043】
上記の式(1)~(6)より、コーティング膜1cに用いられるマグネシウム化合物すなわちたとえば水酸化マグネシウム(Mg(OH))は、単体のマグネシウムMgに比べて、速やかに腐食してハイドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))が形成される。ハイドロキシアパタイトが生成されると、補綴材100の体腔内での分解(腐食)が遅くなる。このため水酸化マグネシウムは単体のマグネシウムに比べてHBSS(Hanks' Balanced Salt Solution)と呼ばれる体液に近い組成の生理的塩溶液中での分解(腐食)の速度が遅い。マグネシウム単体の部材の表面にその水酸化物のコーティング膜1cが形成されたワイヤ1は、マグネシウム単体のみからなるワイヤ1に比べて、分解(腐食)の速度が遅くなる。このように、ワイヤ1の表面にマグネシウム化合物の膜がコーティングされることが好ましい。このようにすれば、そのコーティング量を変更することにより、補綴材100全体の体腔内での消滅までに要する時間を変更することができる。これにより、補綴材100の挿入後、気管などの体内組織が再建するまでの期間(たとえば3か月程度)の間は補綴材100が体内に残存することにより補綴材として機能し、気管などが再建した後には補綴材100が分解されることでこれを体内から消滅させるよう、補綴材100の体腔内での残存期間を精密に制御できる。
【0044】
以上より、マグネシウムを主成分とする本実施の形態の補綴材100を用いることで、気管の再建後における補綴材100の体腔内からの抜去手術が不要となる。このため当該補綴材100は、体腔内にダメージを与える可能性を排除できる。また患者に対する負担を低減できる。
【0045】
さらに当該補綴材100は、ワイヤ1が形成する構造体が、周方向について重ねられず互いに隔てられた間隔部を保っている。より詳しくは、本実施の形態の補綴材100は、間隔部は延在方向に沿って直線状に延びるように形成され、ミアンダ形状を構成する仮想の平面10の、延在方向に交差する断面がアーチ状であってもよい。このようにすれば補綴材100は、当該間隔部を用いることで、挿管チューブの上から嵌めるように、容易に挿入できる。これにより、挿管チューブに挿入できた補綴材100を、体腔内の管状組織、たとえば気管の腫瘍が切除された部分などに、容易に設置できる。このため補綴材100の設置工程を容易にすることができる。
【0046】
補綴材100に確保される間隔部は、気管などに挿入された補綴材100を気管などに縫合するための針を通す部分として用いることができる。このため補綴材100は気管内などの所望の位置に固定できる。またそもそも補綴材100はワイヤ1からなり、ワイヤ1が配置される領域とこれに隣接する配置される領域との間に隙間を設けることが可能である。このため当該隙間部分を縫合用の針を通す部分として用いることができる。
【0047】
図15は、本実施の形態の医療用補綴材の使用方法を示す概略図である。図15を参照して、たとえば腫瘍21が気管22に発生している場合を考える(A)。腫瘍21の切除時には腫瘍21の発生した気管22の部分に加え、気管22の後ろに存在する食道23も部分的に切除される場合がある(B)。しかし食道23は切除されない場合もある。気管22および食道23が切除されたところに、本実施の形態の補綴材100が、埋められるように配置される(C)。つまり気管22内に補綴材100が挿入され、縫合により補綴材100は気管22などに固定される。その後、補綴材100の上に被覆材110が被せられる(D)。この被覆材110は、腫瘍21が切除され補綴材100が埋められた領域を外側から塞ぐために設けられる。被覆材110としては、人体の組織に近い材料が用いられる。より具体的には、生体由来組織またはその他の人工物が被覆材110として用いられる。被せられた被覆材110は、縫合により補綴材100に固定される。
【0048】
更に、マグネシウムからなる補綴材100は、骨と類似した機械的な物性を有している。このため補綴材100には、腫瘍21を切除した箇所などへの移植後に応力集中が発生しにくくなる。
【0049】
また補綴材100はアーチ状すなわち筒状に近い形状であり、被覆材110を受け止めることができる構造を有している。このため補綴材100は、患者の呼吸時の陰圧により被覆材110が気管22を閉塞させる不具合を抑制する役割を有する。言い換えれば補綴材100は、患者の気道を確保する役割を有する。
【0050】
さらに、たとえば気管22の壁内の腫瘍21を気管支鏡で切除した場合には、気管22の壁外には腫瘍21が残存しているため、腫瘍21の根治治療とはならない。腫瘍21の根治治療としては気管22の合併切除術がある。しかし当該気管22の合併切除術を行なった場合にも組織再生の際に、肉芽により、または呼吸時の陰圧により、当該組織再生をしようとする部分に狭窄が発生する可能性が高いことが懸念される。補綴材100は、筒状(アーチ状)を有することにより、たとえば気管の合併切除術後の組織再生の際にこれが除去部に挿入されることで、気管の形がつぶれたり狭窄したりする可能性を低減できる。
【0051】
その他、本実施の形態の補綴材100は、以下の特徴および作用効果を有してもよい。まず補綴材100においては、ミアンダ形状のワイヤ1が曲げられることで、ワイヤ1の配置部分以外の部分はすべて空隙部分として形成される。このため当該空隙部分には、上記化学式(1)(2)に示す、補綴材100のマグネシウム材料の酸化時に発生する電子と体腔内の水分との反応により形成される水素が通過できる。空隙部分を通過した水素は、気管壁の内側に移動することにより、呼吸とともに体外に排出できる。このため気管の外壁に水素が溜まることでできる気腫を生じにくくすることができる。
【0052】
次に、たとえば図5に示す補綴材100は、たとえば手術者の手で周方向に力を加えて収縮することができる。補綴材100は、たとえば図3図4に示す幅方向の寸法D1,B1が、収縮していない状態での寸法D1,B1に対して0.8倍以上1倍未満の任意の寸法となるように収縮可能であることが好ましい。補綴材100は、手術時に寸法D1,B1が収縮された状態で、管状の組織、たとえば気管の腫瘍が切除された箇所に挿入される。なお補綴材100は、延在方向に交差する断面が収縮するようにワイヤ1が変形されれば、それが元の断面形状、寸法に戻るように、復元力が加わる。マグネシウム線の引っ張り強さは200MPa以上であり、収縮した際に復元力が加わる。
【0053】
(実施の形態2)
図16は、実施の形態2に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。図17は、実施の形態2に係る医療用補綴材の概略斜視図である。図16および図17を参照して、本実施の形態の補綴材100は、基本的に実施の形態1の第1例の図1のワイヤ1と同様の構成を有する1本のワイヤ1を構成する仮想の平面10が実施の形態1の図1などと同様にアーチ状に曲げられることで形成される。このため基本的に図17の補綴材100は図5の補綴材100と同様の構成を有している。したがって以下においては実施の形態1と同様の構成および特徴についての説明を繰り返さない。ただし本実施の形態においては、複数の山11aおよび複数の谷12aは、その頂点側が頂点と反対側よりも、延在方向の幅が大きくなっている領域を含んでいる。具体的には、図16に示す延在方向の幅W1が幅W2よりも大きい。つまり山11aの頂点側である図16のより上側における幅W1が、山11aの頂点と反対側である図16の山11aでの比較的下側の領域における幅W2よりも大きい。また谷12aの頂点側である図16のより下側における幅が、谷12aの頂点と反対側である図16の谷12aでの比較的上側の領域における幅よりも大きい。このような構成であってもよく、基本的に実施の形態1と同様の作用効果を奏する。なお図16とは異なり、複数の山11aおよび谷12aは、その先端の頂点が周方向にほぼ直交するように幅方向(補綴材の延在方向)に延びるものの、当該頂点の角部のみ曲線状に丸くなった態様であってもよい。
【0054】
なお本実施の形態においても、実施の形態1の第2例のように複数の山11aおよび複数の谷12aが延在方向に漸次下側に配置され間隔部が延在方向に傾斜するように延びてもよい。また間隔部の距離すなわち図2の切欠き部13の距離に対応する第1の端面11と第2の端面12との距離が、延在方向についての少なくとも一部、または全部において漸次変化(増加または減少)してもよいし、一カ所にて階段状に急激に変化(増加または減少)してもよい。また実施の形態1の第3例のように山11aおよび谷12aの上下方向の位置がランダムになり、間隔部が延在方向に対して折れ線状に(ジグザグに)延びてもよい。また間隔部は延在方向と無関係に点状に複数、互いに間隔をあけて形成されてもよい。
【0055】
(実施の形態3)
図18は、実施の形態3の第1例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。図18を参照して、本実施の形態の補綴材は、基本的に実施の形態1の第1例の図1のワイヤ1のような1本のワイヤ1を構成する仮想の平面10が、実施の形態1の図1などと同様にアーチ状に曲げられることで形成される。このため基本的に本実施の形態の補綴材は図5の補綴材100と同様の構成を有している。したがって以下においては実施の形態1と同様の構成および特徴についての説明を繰り返さない。ただし本実施の形態においては、ワイヤ1は、ミアンダ形状を構成するための第1の山としての複数の山11aおよび第1の谷としての複数の谷12aに加え、他の波形状をさらに有している。つまり当該ワイヤ1は、上記複数の山11aおよび複数の谷12aに加え、少なくとも1つの第2の山としての山11bおよび少なくとも1つの第2の谷としての谷12bを有している。ワイヤ1は、そのワイヤ1自体の延在方向(おおむね図18の上下方向)に交差する方向すなわちミアンダ形状の延在方向(補綴材の全体が延びる長手方向であり図18の左右方向)において、複数の山11bおよび複数の谷12bを有するように波状に加工されている。このようなワイヤ1もここではミアンダ形状を有するものと定義する。なお山11bおよび谷12bは、いずれも1本のワイヤ1に2つ以上有することが好ましい。
【0056】
図18のワイヤ1は、図1のワイヤ1と同様にアーチ状に曲げられるため、第1の端面11および第2の端面12が延びる左右方向が補綴材の延在方向である。その延在方向において隣り合うワイヤ1の部分では、当該延在方向である図18の左右方向に突起する少なくとも1つの山11bの1つと少なくとも1つの谷12bの1つとが接触している。
【0057】
図18においては、ワイヤ1のミアンダ形状の振幅および波長、ならびに山11bおよび谷12bからなる波状の振幅および波長は各領域にて同一である。ただし本実施の形態においてはこのような態様に限られない。図19は、実施の形態3の第2例に係る医療用補綴材を構成するワイヤの概略図である。図19を参照して、本実施の形態の第2例のワイヤ1および補綴材は大筋で第1例のそれらと同様の構成を有するため、当該同様の構成等については説明を繰り返さない。図19に示すように、ワイヤ1のミアンダ形状の延在方向に突起する複数の山11bおよび複数の谷12bからなる波形状の波長および振幅は同一の値ではなく、異なる複数の場所の間で互いに異なっていてもよい。また複数の山11bの1つと、その補綴材の延在方向に隣り合う複数の谷12bの1つとは、すべてが接触する必要はなく、少なくともその一部が互いに接触すればよい。つまり複数の山11bの1つと、その補綴材の延在方向に隣り合う複数の谷12bの1つとが互いに接触しない箇所を含んでいてもよい。なるべく多数の山11bとその補綴材の延在方向に隣り合う谷12bとが互いに接触することがより好ましい。たとえば全数のうち半数以上の山11bと、それに隣り合う谷12bとが互いに接触することがより好ましい。
【0058】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の補綴材においては、ワイヤ1は、補綴材(ミアンダ形状)の延在方向において少なくとも1つの第2の山としての山11bおよび少なくとも1つの第2の谷としての谷12bを有するように波状に加工される。補綴材の延在方向において隣り合うワイヤ1の部分では少なくとも1つの山11bの少なくとも一部(1つまたは複数)と少なくとも1つの谷12bの少なくとも一部(1つまたは複数)とが接触している。このように、延在方向にて補綴材の隣り合う山11bと谷12bとが突き合わせて隣り合うことにより、補綴材はその延在方向に加わる力に対する変形がしにくくなる。山11bと谷12bとが突き合わせられた領域におけるミアンダ形状の延在方向の剛性が高くなるためである。したがって、呼吸などにより気管内の補綴材100の延在方向に加わる圧縮力による補綴材100の意図しない変形を抑制できる。また本実施の形態の補綴材100は、他の補綴材100に比べて気管に接触する面積が大きくなるため、気管に固定しやすくなる。
【0059】
以上の本実施の形態の説明および図面は、仮想の平面10の切欠き部13が実施の形態1の第1例のように延在方向に沿って延びることを前提としている。しかし本実施の形態の態様はこれに限られない。本実施の形態のワイヤ1のミアンダ形状の山11aおよび谷12aは、たとえば図10のように形成され、仮想の平面10の切欠き部13が実施の形態1の第2例(図11)のように延びてもよい。あるいは互いに隣り合う山11bと谷12bとを接触させることができる限り、本実施の形態のワイヤ1のミアンダ形状の山11aおよび谷12aはたとえば図13と同様に形成されてもよい。
【0060】
(実施の形態4)
図20は、実施の形態4に係る医療用補綴材の概略斜視図である。図20を参照して、本実施の形態の補綴材100は、上記各実施の形態と同様に、マグネシウムを主成分とする1本のワイヤの構造体である。このため以下においては実施の形態1と同様の構成および特徴についての説明を繰り返さない。ただし本実施の形態においては、補綴材100の構造体は、1本のワイヤがコイル状に巻回されている。当該構造体の巻回態様は、通常のばねと同様である。この点において本実施の形態は、ミアンダ形状のワイヤ1がアーチ状に曲げられた構成を有する実施の形態1~3と構成上異なっている。ただし当該補綴材100においては、コイル状に巻回されるワイヤ1はその両端部が、巻回される補綴材100の構造体の内部側を向くように曲げられている。
【0061】
このようにすれば、補綴材100が気管などの内部に埋め込まれた状態において、ワイヤ1の先端部が気管などの組織に突き刺さり組織を傷つける可能性を低減できる。なお上記の実施の形態1~3の各例においても、本実施の形態と同様に、補綴材100を構成するワイヤ1の両端部が、巻回される補綴材100の構造体の内部側を向くように曲げられてもよい。
【0062】
(実施の形態5)
図21は、実施の形態5に係る医療用補綴材の概略正面図である。図21を参照して、本実施の形態の補綴材100は、上記各実施の形態と同様に、マグネシウムを主成分とする1本のワイヤの構造体である。このため以下においては実施の形態1と同様の構成および特徴についての説明を繰り返さない。また本実施の形態においては、1本のワイヤ1が図21中にて上下方向に延びる中心軸Cの周りにコイル状に複数巻回されている。つまりワイヤ1は図21の上下方向に螺旋に似た形状を有するように複数回巻回された態様を有している。この点において本実施の形態は、ワイヤ1がコイル状に巻かれる実施の形態4と同様であり、ミアンダ形状のワイヤ1がアーチ状に曲げられた構成を有する実施の形態1~3と異なっている。
【0063】
補綴材100において、ワイヤ1は、中心軸Cに沿った方向に突起する複数の山11cおよび複数の谷12cを有するように波状に加工されている。つまり図21のワイヤ1は、上下方向にコイル状となるように複数巻回されるために曲げられているのに加えて、上下方向の振幅がAであり中心軸Cに交差する面における周回方向について波長λである山11cおよび谷12cが交互に現れる波形を有している。なお本実施の形態においては図6または図7の(A)に示される断面が円形状のワイヤ1が用いられることが特に好ましいがこれに限られない。ワイヤ1はたとえば図6または図7の(B)に示される楕円形状の断面であってもよく、図6または図7の(C)に示されるような矩形状または正方形状の断面であってもよい。
【0064】
図21におけるワイヤ1の山11cおよび谷12cからなる波形の振幅Aは8mm以上46mm以下であることが好ましい。また本実施の形態において、山11cとそれに隣接する谷12cとの、ワイヤ1の延在方向(周回方向)についての波長λは2mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0065】
図21においては、中心軸Cの方向において隣り合うワイヤ1の部分では、山11cと谷12cとが接触している。つまりワイヤ1が中心軸Cをコイル状にまわる一の周回部分の山11cと、上下方向についてこれに隣り合う他の周回部分の谷12cとが接触する態様となっている。ワイヤ1が中心軸Cをコイル状にまわる一の周回部分の谷12cと、上下方向についてこれに隣り合う他の周回部分の山11cとが接触する態様となっている。このため上記の波長λは、図21のように補綴材100の全体においてほぼ同一であってもよい。振幅Aは図21のように、補綴材100の全体においてほぼ同一であってもよい。ただし本実施の形態においては、波長λおよび振幅Aが補綴材100の異なる領域間にて互いに同一ではなくてもよい。波長λは、上記の一の周回部分において、他の周回部分での1/2または2倍になっていてもよい。振幅Aは補綴材100の異なる複数の領域の間で異なっていてもよい。
【0066】
以上のように、本実施の形態の図21の補綴材100は、ワイヤ1がウェーブリング(ウェーブスプリング)と呼ばれる、波形とばね形とを組み合わせた形状を有している。図22は、図21の医療用補綴材の一部を中心軸に沿う方向に切り開いた展開図である。図22を参照して、仮に図21の医療用補綴材100の周方向の一部(ウェーブの2波長分)を取り出すように抜き取れば、その1つの谷であるB1は、山であるC1に繋がるようにコイル状に巻かれる。また図22中のB2はC2に繋がるようにコイル状に巻かれる。その結果、医療用補綴材100は図21に示すような筒状となる。補綴材100は、図21および図22の最上および最下の1周の巻回部も含め、すべての巻回が山11cおよび谷12cを有している(ワイヤ1の両端からウェーブを有する態様である)ことが好ましい。これによりワイヤ1の先端部が気管などの組織に突き刺さり組織を傷つける可能性を低減できる。また本実施の形態においても実施の形態4の図20と同様に、ワイヤ1はその両端部が、巻回される補綴材100の構造体の内部側を向くように曲げられていてもよい。
【0067】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の補綴材100は、マグネシウムを主成分とし、中心軸Cまわりにコイル状に複数巻回されたワイヤ1の構造体である。ワイヤ1は、中心軸Cに沿った方向において複数の山11cおよび複数の谷12cを有するように波状に加工される。中心軸Cの方向において隣り合うワイヤ1の部分では複数の山11cと複数の谷12cとが接触している。
【0068】
中心軸Cに沿う方向にて隣り合う山11cと谷12cとが突き合わせて隣り合うことにより、補綴材100はその延在方向(中心軸Cの方向)に加わる力に対する変形がしにくくなる。山11cと谷12cとが突き合わせられた領域における中心軸Cの方向の剛性が高くなるためである。したがって、呼吸などにより気管内の補綴材100の延在方向に加わる圧縮力による補綴材100の意図しない変形を抑制できる。また本実施の形態の補綴材100は、他の補綴材100に比べて気管に接触する面積が大きくなるため、気管に固定しやすくなる。
【0069】
以上の各実施の形態におけるワイヤ1はミアンダ形状のものが曲げられることによるアーチ形状、アーチ形状およびウェーブリング形状の組合せ、螺旋形状、螺旋形状およびウェーブリング形状の組合せのいずれかの形状を有している。しかしこれらに限らず、各実施の形態における補綴材100のワイヤ1は、たとえばメッシュ形状を有するように形成されてもよい。
【0070】
以上に述べた各実施の形態(に含まれる各例)に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 ワイヤ、1c コーティング膜、10 仮想の平面、10a 仮想表面、10b 仮想裏面、11 第1の端面、11a,11b,11c 山、12 第2の端面、12a,12b,12c 谷、13 切欠き部、100,101,102 医療用補綴材(補綴材)、110 被覆材。
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