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特開2022-45692気液反応装置、及び気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法
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  • 特開-気液反応装置、及び気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法 図1
  • 特開-気液反応装置、及び気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法 図2
  • 特開-気液反応装置、及び気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045692
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】気液反応装置、及び気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 10/00 20060101AFI20220314BHJP
   B01F 23/23 20220101ALI20220314BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20220314BHJP
【FI】
B01J10/00 104
B01F3/04 A
B01F7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151417
(22)【出願日】2020-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】本間 剛秀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【テーマコード(参考)】
4G035
4G075
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB10
4G035AE13
4G075AA03
4G075AA13
4G075BA10
4G075BB05
4G075BD13
4G075DA02
4G075EB01
4G075ED02
4G075ED08
4G078AA03
4G078AB11
4G078BA05
4G078BA09
4G078DA01
4G078DA19
4G078DA21
4G078EA10
(57)【要約】
【課題】撹拌動力の増大を抑制しながら、気泡を十分に小径化し、液体中での気体分散を十分に促進することができる気液反応装置を提供することを目的とする。
【解決手段】気液混合液Lを収容する反応槽11と、液体を導入する液体供給管13と、気体を導入する気体導入管14と、撹拌機12と、を備える気液反応装置1であって、撹拌機12は、鉛直方向に離間して上下2段に設置されている撹拌翼122、123を有し、上段側の前記撹拌翼123と下段側の撹拌翼122とに囲まれている中間領域Rにおける気液混合液Lの平均流速が、反応槽11内の全領域における気液混合液Lの最大流速の10%以上の流速となる位置に、各々の撹拌翼122、123が、設置されている、気液反応装置1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液混合液を収容する反応槽と、液体を導入する液体供給管と、気体を導入する気体導入管と、撹拌機と、を備える気液反応装置であって、
前記撹拌機は、鉛直方向に離間して上下2段に設置されている撹拌翼を有し、
上段側の前記撹拌翼と下段側の前記撹拌翼とに囲まれている中間領域における前記気液混合液の平均流速が、前記反応槽内の全領域における該気液混合液の最大流速の10%以上の流速となる位置に、各々の前記撹拌翼が、設置されている、
気液反応装置。
【請求項2】
前記気液反応装置においては、前記気体導入管の気体の出口となる気体吹き込み口が、下段側の前記撹拌翼よりも更に下方に配置されている、
請求項1に記載の気液反応装置。
【請求項3】
気液混合液を収容する反応槽と、液体を導入する液体供給管と、気体を導入する気体導入管と、鉛直方向に離間して設置されている複数の撹拌翼を有する撹拌機と、を備える気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法であって、
複数の前記撹拌翼は上下2段に設置するものとし、
上段側の前記撹拌翼と下段側の前記撹拌翼とに囲まれている中間領域における前記気液混合液の平均流速が、前記反応槽内の全領域における該気液混合液の最大流速の10%以上の流速となるように、上下2段の前記撹拌翼の設置位置を決定する、気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法。
【請求項4】
前記気液反応装置においては、前記気体導入管の気体の出口となる気体吹き込み口が、最も下方に設置されている前記撹拌翼よりも更に下方に配置されている、
請求項3に記載の気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相に気体を導入して反応させる気液反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等で用いられる反応装置として、撹拌しながら反応槽内の溶液やスラリー等の液相に気体を導入しながら反応させ、化学処理を行う気液反応装置が多く用いられている。この気液反応装置においては、導入した気体の界面、つまり気泡の表面で化学反応が進行するため、気泡の小径化(気体の表面積増大)と、液体中での気体分散の促進が求められる。撹拌翼を回転させる動力の能力の制約の下で、それらの要求を実現させるための方法として、撹拌翼の設置数を増やす方法、或いは、撹拌翼の回転数を高める方法等が行われている。
【0003】
撹拌翼の設置数を増やす方法の事例として、特許文献1には、反応槽の長手方向軸のまわりに回転可能なシャフトと、そのシャフトに取り付けられ、軸方向に離間して配置された径方向に延びる第1及び第2のインペラ(撹拌翼)とを備えた混合装置が開示されている。具体的に、この混合装置においては、第1のインペラは軸方向に第2のインペラに向けて流体を移動させるように動作可能な複数の湾曲したブレードを含み、第2のインペラは軸方向に第1のインペラに向けて流体を移動させるように動作可能な複数の湾曲したブレードを含み、又、容器底面にガス導入口が設けられている。このような構成とすることにより、混合装置の中央部において強い乱流領域を生成させて、反応槽内の液体の混合を容易に制御できるようにしている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の混合装置においては、底部近傍の中央付近に設けられた開口径の大きな気体導入管から大きな気泡が導入されると、反応槽内で気泡径が小さくならないうちに反応槽の上部の液面まで達してしまうという問題がある。そのため、このような混合装置を化学反応に用いる気液反応装置として適用したとしても、反応に寄与しない気体が多くなり、反応効率が低下してしまう。
【0005】
この課題に対して、特許文献2には、加圧反応槽において、撹拌翼の羽根の最大長さ及び設置位置に対して、気体導入管の位置及び方向を最適化することによって気泡径を効率よく小さくするという解決手段が示されている。しかしながら、同文献には、複数の撹拌翼が存在する場合に、その設置位置を如何にすべきか、即ち、複数の撹拌翼の具体的な最適配置については何ら言及されていない。又、上記の特許文献1においても、両撹拌翼の間隔は少なくとも撹拌翼の直径以上は離れている、とされているのみであり、最適な距離は混合装置の形状及び撹拌翼の直径に応じて異なるとも記載されていて、やはり、複数の撹拌翼の具体的な最適配置については開示されていない。
【0006】
複数の撹拌翼を有する反応槽において、「気泡の小径化(気体の表面積増大)と、液体中での気体分散の促進」という要求を満たすことを目的として撹拌翼の間隔を最適化するためには、所与の撹拌動力の制限の下で、撹拌翼同士の間隔を微調整しながら最適な結果に至るまで評価の繰り替えしが必要な、負担の大きい作業が必須となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009-536095号公報
【特許文献2】特開2018-130690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情を鑑みてなされたものであり、気液反応装置において、撹拌動力の増大を抑制しながら、気泡を十分に小径化し、液体中での気体分散を十分に促進することができる気液反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、上下2段の撹拌翼の間の中間領域における気液混合液の平均流速に着目し、この平均流速が相対的に早くなるほど、撹拌動力の増大を抑制しながら、気体分散性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
(1) 気液混合液を収容する反応槽と、液体を導入する液体供給管と、気体を導入する気体導入管と、撹拌機と、を備える気液反応装置であって、前記撹拌機は、鉛直方向に離間して上下2段に設置されている撹拌翼を有し、上段側の前記撹拌翼と下段側の前記撹拌翼とに囲まれている中間領域における前記気液混合液の平均流速が、前記反応槽内の全領域における該気液混合液の最大流速の10%以上の流速となる位置に、各々の前記撹拌翼が、設置されている、気液反応装置。
【0011】
(1)の気液反応装置によれば、撹拌動力の増大を抑制と、「気泡の小径化」及び「液体中での気体分散の促進」という要求の両立を実現することができる。
【0012】
(2) 前記気液反応装置においては、前記気体導入管の気体の出口となる気体吹き込み口が、下段側の前記撹拌翼よりも更に下方に配置されている、(1)に記載の気液反応装置。
【0013】
(2)の気液反応装置によれば、最下段の撹拌翼により発生する撹拌流によって(1)の気体反応装置内において「気泡の小径化」を、更に促進させることができる。
【0014】
(3) 気液混合液を収容する反応槽と、液体を導入する液体供給管と、気体を導入する気体導入管と、鉛直方向に離間して設置されている複数の撹拌翼を有する撹拌機と、を備える気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法であって、複数の前記撹拌翼は上下2段に設置するものとし、上段側の前記撹拌翼と下段側の前記撹拌翼とに囲まれている中間領域における前記気液混合液の平均流速が、前記反応槽内の全領域における該気液混合液の最大流速の10%以上の流速となるように、上下2段の前記撹拌翼の設置位置を決定する、気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法。
【0015】
(3)の気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法によれば、複数の撹拌翼を有する気液反応装置において、撹拌動力の増大を抑制しながら、「気泡の小径化(気体の表面積増大)と、液体中での気体分散の促進」という要求を満たすことができる気液反応装置を、従来よりも作業負担の少ない方法によって提供することができる。
【0016】
(4) 前記気液反応装置においては、前記気体導入管の気体の出口となる気体吹き込み口が、最も下方に設置されている前記撹拌翼よりも更に下方に配置されている、(3)に記載の気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法。
【0017】
(4)の撹拌翼の設置位置決定方法によれば、最下段の撹拌翼により発生する撹拌流によって(3)の発明によって得ることができる気体反応装置内において「気泡の小径化」を、更に促進させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撹拌動力の増大を抑制しながら、気泡を十分に小径化し、液体中での気体分散を十分に促進することができる気液反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】気液反応装置の構成を示す図であり、(a)は気液反応装置を水平に切断して内部構造を模式的に示した横断平面図であり、(b)は気液反応装置を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。
図2】実験例1~実験例3の気液反応装置の構成を示す図であり、(a)は気液反応装置の横断平面図であり、(b)は気液反応装置の縦断側面図である。
図3】実験例4及び実験例5の気液反応装置の構成を示す図であり、(a)は気液反応装置の横断平面図であり、(b)は気液反応装置の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態の一つである気液反応装置について、適宜図面を参照しながら、その詳細を説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
<気液反応装置>
本発明に係る気液反応装置は、気体と液体とを混合して気液混合液である反応液を得て、当該反応液中で化学反応を進行させる装置である。このような気液反応装置においては、液体供給管から液体(液相)を、気体導入管から気体(気相)を、それぞれ反応槽内に供給して気液混合液とする。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である気液反応装置1の構成を模式的に示す断面図である。同図に示す通り、気液反応装置1は、反応槽11、上下2段の撹拌翼122、123を有する撹拌機12、液体供給管13、及び、気体導入管14を備える。この気液反応装置1は、反応槽11に、液体やスラリー等の液相を収容し、撹拌機12により液流を発生させた状態において、気体導入管14から化学反応に寄与する気体を導入して、化学反応を生じさせる。反応生成物を含む気液混合液は、排出口(図示せず)から排出される。
【0023】
[反応槽]
反応槽11は、筒状の液相収容槽であり、通常は、水平方向に切断した横断面が円形である円筒形状の液相収容槽である。反応槽11は、その上面が開放されているものであってもよく、或いは、閉鎖されているものであってもよい。反応槽11の上面が閉鎖されている場合における当該上面、及び、底面111は、それぞれが平面であってもよいし、或いは、垂直方向に切断した縦断面図において上面や底面に曲率部を有するもの、上面や底面と側面との間に曲率部を有するもの、又は、上面や底面111と側面112との間に曲率部を有するものであってもよい。
【0024】
上記形状からなる反応槽11に、液体供給管13を通じて導入された液体、及び、気体導入管14を通じて気体が導入され、これらが気液混合液Lとして槽内に収容される。
【0025】
又、反応槽11には、気液混合液L中で進行させる化学反応の性状に応じて、公知、非公知にかかわらず各種の温度調整手段や圧力調整手段を設けることもできる。
【0026】
[撹拌機]
撹拌機12は、反応槽11に収容された気液混合液Lを撹拌する機能を有する。この撹拌機12は、反応槽11の上部より垂下される態様で設置されている撹拌軸121と、撹拌軸121の軸方向に対して垂直に設けられた複数の撹拌翼122、123とを有する。
【0027】
撹拌軸121は、その中心軸が円形の反応槽11の中心線と一致するように配置されることが好ましい。これにより、液体供給管13を通じて導入された液体、及び、気体導入管14を通じて気体を、気液混合液L中により効率的に分散させることができる。
【0028】
そして、撹拌機12においては、複数の撹拌翼として、撹拌翼122、123が、撹拌軸121上において鉛直方向に離間して上下2段に設置されている。
【0029】
撹拌翼122、123を有する撹拌機12によって、反応槽11内の気液混合液Lには所定の方向への液流(以下、「撹拌流」とも言う)が発生する。撹拌機12により発生する撹拌流を撹拌軸121に対して平行な方向と、撹拌軸121に直交する方向とに分けたとき、撹拌流のうち、撹拌軸121に対して平行な方向の成分については、気体導入管14から供給された気体の気泡を、気液混合液L内に効率よく分散させるために、撹拌翼122、123の形状を調整すること等によって、反応槽11の底面に向かって下向きの方向に撹拌流が発生するようにする。尚、液流(撹拌流)に対して用いる上記の「成分」とは、特定方向の液流のことをいう。
【0030】
撹拌翼122、123の羽根の形状は、上記のような液流を発生させることができる形状であれば特定の形状等に限定はされない。上記のような液流を発生させることができる形状である限りにおいて、複数の羽根を持つプロペラ翼、パドル翼、タービン翼等を適宜選択して用いることができる。又、上下2段の各々の撹拌翼122、123の羽根の長さ(回転径)や形状は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
気液反応装置1においては、上述の通り、撹拌機12は、上下2段に設置されている撹拌翼122、123によって構成されているが、仮に撹拌翼を3段以上設置する構成とした場合には、それぞれの撹拌翼により発生する液流で気体分散性は向上するものの、撹拌翼の段数に応じて撹拌動力が増大してしまう。後段の実施例において実験例として開示している通り、撹拌翼を3段構成とした場合の気体分散性は、撹拌翼を2段構成として、その間隔を最適化した時と同等レベルであり、撹拌動力との両立の観点では、撹拌翼を上下2段とした構成が、より適切な構成であることが確認されている。
【0032】
上下2段の撹拌翼122、123の間の間隔は、定性的には、間隔が広すぎたり狭すぎたりした場合には、上下の撹拌翼により発生する液流の相乗効果が得られにくくなる。しかし、適度な間隔であっても、それぞれの撹拌翼により発生する液流(撹拌流)同士が干渉して、液流が相殺されたり分断されたりすることもある。これらは特許文献1にも記載されている通り、気液反応装置1の全体構成に依存して起こる複雑な現象である。又、液流をより乱流状態にするために公知のバッフル板(邪魔板)等を設置する場合は、更に複雑化する。従って、上下2段の撹拌翼122、123の適切な間隔を、一般化した数値範囲で一義的に既定することは極めて困難である。
【0033】
そこで、気液反応装置1では、上段側の撹拌翼123と下段側の撹拌翼122とに囲まれている中間領域R(図2参照)における気液混合液Lの平均流速が、反応槽11内の全領域における気液混合液Lの最大流速の10%以上の流速となる位置に、各々の撹拌翼123、122を配置することとした。
【0034】
ここで、上記の中間領域Rとは、図2に示す通り、上段側の撹拌翼123と下段側の撹拌翼122との羽根の長さ(回転径)が同一である場合には、撹拌軸121から撹拌翼の先端までの長さを底面半径とし、両撹拌翼123、122の間隔を高さとする円柱状の空間のことを言うものとする。又、両撹拌翼123、122の羽根の長さ(回転径)が異なる場合には、同長さが短い方の撹拌翼の先端までの長さを底面半径とする円柱状の空間のことを中間領域Rとする。
【0035】
気液混合液L中の気泡(気相)は、浮力により液面に到達する以外には液流(撹拌流)に乗って分散する。上段側の撹拌翼123と下段側の撹拌翼122間の液流は複雑ではあるが、これらの撹拌翼で囲まれる中間領域Rにおいて、ある一定以上の液流があれば、液流に乗って到達した気泡により気相濃度が高まり、化学反応が十分に促進される。又、上段側の撹拌翼123と下段側の撹拌翼122とに囲まれている中間領域Rにおける液流(撹拌流)の平均流速は、例えば、下記の実施例において開示している方法等による「流体計算シミュレーション」によって算出可能な計算結果によって評価することができる。
【0036】
[液体供給管]
液体供給管13は、気体と混合しようとする液体(液相)を反応槽11に供給する。特に反応槽11の上面が閉鎖され、反応槽11に収容された気液混合液Lが加圧される場合には、気液混合液Lの液面よりも上方にその出口を配置するのが好ましい。液体供給管13の出口が液面よりも上方に配置されることで、装置の停止時等に液体(液相)が逆流することを防止することができる。
【0037】
液体供給管13から反応槽11に供給する液体(液相)は、特に限定されない。溶液状のものを用いることも、溶媒に固形分が分散されたスラリー状のものを用いることもできる。
【0038】
[気体導入管]
気体導入管14は、化学反応に寄与する気体を反応槽11内に収容されている液体中に導入するものであり、下端部に気体の出口となる気体吹き込み口を有する中空の管状部材である。
【0039】
気体導入管14は、図1に示す通り、反応槽11の中心よりも外周壁寄りとなる位置であり、撹拌翼122、123の羽根の回転とは干渉しない水平位置において、気液混合液Lの液面に略垂直に挿入されている。この気体導入管14は、気体吹き込み口の位置が、下段側の撹拌翼122よりも更に下方となる位置に配置されることが好ましい。気体導入管14を、そのような下方位置に配置することにより、気体導入管14から導入される気泡を撹拌流により分断して小径化し、更には、浮力によって浮上しようとする気泡を、撹拌流に乗せて分散させる作用をより効率良く発現させることができる。
【0040】
尚、上記の気体吹き込み口の配置については、特許文献2に記載されている位置及び方向に配置されるようにすることが更に好ましい。同文献に記載されている気体吹き込み口の配置とは、具体的には以下の通りである。
「撹拌軸121から延長した線が反応槽11の内壁と交わる位置から最下段の撹拌翼122の高さ位置までをHとし、撹拌軸121の中心からの撹拌翼122の羽根の最大長さをRとしたとき、気体吹き込み管の出口中心が、撹拌軸121から延長した線が反応槽11の内壁と交わる位置からの高さをh、撹拌軸121の中心からの距離をrとし、気体導入管14の気体吹き込み口中心における、撹拌軸121の中心からの距離rにより形成される円の接線方向と、気体導入管14の出口中心線の延長方向とのなす角度をθとした場合に、以下の式を満足する位置に設ける。0.45H≦h≦0.50H、1.1R≦r≦1.4R、20°≦θ≦60°」
【0041】
又、気体導入管14は、気液混合液Lに供給された気体を気泡としてより効率良く分散させるために、気体吹き込み口にリングスパージャーを設置した構成としてもよい。
【0042】
尚、気体導入管14から反応槽11に供給する気体(気相)は、特に限定されない。例えば空気、窒素、酸素等の気体を、気液混合液L内で生じる化学反応に応じて適宜選択することができる。
【0043】
<気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法>
本発明の「気液反応装置における撹拌翼の設置位置決定方法(以下、「撹拌翼の設置位置決定方法」とも称する)」は、上記において、その詳細を説明した、本発明の「気液反応装置」を製造するために用いることができる方法であり、或いは、既存の気液反応装置において、その主たる構成要件である撹拌翼の設置態様を最適化する調整を行うことによって、本発明の「気液反応装置」と同一の装置に改造することができる方法である。
【0044】
「撹拌翼の設置位置決定方法」においては、撹拌翼の段数は、上下の2段とする。そして、その上で、上段側の撹拌翼と下段側の撹拌翼とに囲まれている中間領域における気液混合液の平均流速が、反応槽内の全領域における気液混合液の最大流速の10%以上の流速となるように、上下2段の撹拌翼の設置位置を決定する。
【0045】
上述した通り、従来、気液反応装置の反応槽内に配置する上下2段の撹拌翼の適切な間隔は、それが、複雑な気液反応装置の全体構成に依存することから、一般化した数値範囲で規定することは困難であった。これに対して、本発明の「撹拌翼の設置位置決定方法」によれば、周知の計算方法である「流体計算シミュレーション」によって得ることができる客観的な数値を基準として、撹拌翼の配置を最適化することができる。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明する。勿論、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
気液反応装置内の気液混合液Lおける気液混合について、以下の条件に従って、「流体計算シミュレーション」を行った。
【0048】
気液反応装置を構成する反応槽は、全ての実験例において、底面が平面であって、その直径が3.6mであり、高さが5.8mである円筒形状の槽とした。撹拌機は、反応槽の中心部に上方から垂下した撹拌軸に複数の撹拌翼が鉛直方向に離間して設置されたものとした。液体供給管は反応槽に貯留された気液混合液Lの液面より上方に設置した。気体導入管は、気液混合液Lの液面上方より垂下して、最下段の撹拌翼により発生する撹拌流で気泡の分断が効果的に行われるように、先端の気体吹き込み口近傍部を折り曲げて、最下段の撹拌翼の下方に気体吹き込み口が位置することとなるように配置した。
【0049】
撹拌機については、実験例1~実験例3においては、図2に示すように撹拌機を上下2段の撹拌翼によって構成した。一方、実験例4及び実験例5においては、図3に示すように、撹拌機を上中下3段の撹拌翼によって構成した。尚、以下において、各実験例の撹拌機を構成する複数の撹拌翼について、最下段の撹拌翼を第1の撹拌翼と称し、以下、反応槽の底面から液面に向かって順に、第2の撹拌翼、第3の撹拌翼と称する。尚、反応槽の底面からの液面迄の平均高さは、何れの試験例においても4915mmとした。
【0050】
各実験例における、気液反応装置の反応槽の底面から第1の撹拌翼までの高さH1、第2の撹拌翼までの高さH2、第3の撹拌翼までの高さH3、第1の撹拌翼の羽根の最大長さR1、第2の撹拌翼の羽根の最大長さR2、第3の撹拌翼の羽根の最大長さR3(第3の撹拌翼は実験例4及び実験例5のみ)については、下記表1に示す通りとした。
【0051】
【表1】
【0052】
上述した通りの気液反応装置内の気液混合液について、ANSYS社製の汎用流体計算ソフト「Fluent」を用い、気体導入管から空気(気相)と液体供給管から水を媒体とする懸濁液(液相)とを供給する気液2相流計算を行い、気液混合液の流速と気相濃度、及び撹拌機の撹拌動力を計算した。尚、気液混合液の液相は、常に初期の形態を保持するものとして計算した。
【0053】
流体計算の境界条件としては、連続相である懸濁液の密度:1200kg/m、分散相である空気の密度:1.2kg/m、液体供給管13から供給する液体の密度:1200kg/m、液体供給量及び排出口からの気液混合液排出量:120m/h、気体導入管14からの空気供給量:7.2kg/h、気体導入管から放出された直後の気泡径:2mm、撹拌回転数:173rpmとした。
【0054】
流体計算により、反応槽内の全領域における気液混合液の最大流速に対する、撹拌翼に囲まれる円柱状の中間領域(図2、3における中間領域R)における平均流速の比率(以降、「撹拌翼間の平均流速の比率」とも称する。)と、気液混合液全体の平均気体濃度以上となる気液混合液の容積比率、及び、全ての撹拌翼に係る動力を合計した撹拌機の撹拌動力を評価した。尚、実験例4、5においては、図3に示す通り、最下段の第1の撹拌翼122と最上段の第3の撹拌翼124の間隔を当該中間領域の高さと定義した。そして、以上に基づき、「流体計算シミュレーション」を行った。計算結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
撹拌翼を上下2段構成とした実験例1~実験例3においては、「撹拌翼間の平均流速の比率」が高くなるほど、気液混合液全体の平均気体濃度以上となる気液混合液の容積比率は増加し、且つ、撹拌機の撹拌動力が低下した。
【0057】
一方、撹拌翼を上中下の3段構成とした実験例4及び実験例5においては、「撹拌翼間の平均流速の比率」は高いものの、気液混合液全体の平均気体濃度以上となる気液混合液の容積比率は実験例1に及ばず、又、撹拌機の撹拌動力も高い。以上より、気液混合装置において、高い気体分散性と低い撹拌動力を両立させるには、撹拌機を構成する撹拌翼を上下2段構成とし、「撹拌翼間の平均流速」が、気液混合液全体の最大流速に対して10%以上になるように配置すればよいことが分かる。
【符号の説明】
【0058】
1 気液反応装置
11 反応槽
111 底面
112 側面
12 撹拌機
121 撹拌軸
122、123、124 撹拌翼
13 液体供給管
14 気体導入管
L 気液混合液
R 中間領域
図1
図2
図3