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特開2022-45925膜付き化学強化ガラス及び化学強化ガラスの表面応力測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045925
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】膜付き化学強化ガラス及び化学強化ガラスの表面応力測定方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20220314BHJP
   C03C 17/28 20060101ALI20220314BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20220314BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C17/28 A
C03C17/30 B
G01L1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146401
(22)【出願日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020151342
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 盛輝
(72)【発明者】
【氏名】和智 俊司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博信
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA08
4G059AB11
4G059AC16
4G059AC30
4G059FA01
4G059FA05
4G059FB01
4G059HB03
4G059HB08
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB16
4G059HB17
4G059HB22
4G059HB23
4G059HB24
4G059HB25
(57)【要約】
【課題】表面伝搬光を利用した干渉縞が不鮮明であり、表面の圧縮応力測定が非常に困難又は不可である化学強化ガラスに対する新たな表面応力測定が適用可能な、膜付き化学強化ガラスを提供する。
【解決手段】相互に対向する一対の主面を有する化学強化ガラスと、前記化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に形成された膜と、を備える膜付き化学強化ガラスであって、前記化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下であり、前記膜の屈折率が、前記化学強化ガラスの屈折率より低い、膜付き化学強化ガラス。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に対向する一対の主面を有する化学強化ガラスと、前記化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に形成された膜と、を備える膜付き化学強化ガラスであって、
前記化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下であり、
前記膜の屈折率が、前記化学強化ガラスの屈折率より低い、膜付き化学強化ガラス。
【請求項2】
前記膜の屈折率と前記化学強化ガラスの屈折率との差が0.02~0.30である、請求項1に記載の膜付き化学強化ガラス。
【請求項3】
前記化学強化ガラスの厚みをtとした際に、前記化学強化ガラスの深層の応力深さが0.1×t以上である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の膜付き化学強化ガラス。
【請求項4】
前記化学強化ガラスの母組成が酸化物基準のモル百分率表示で、LiOを5モル%以上含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜付き化学強化ガラス。
【請求項5】
前記膜の厚みが2~50nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜付き化学強化ガラス。
【請求項6】
前記膜がフッ素系有機化合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の膜付き化学強化ガラス。
【請求項7】
相互に対向する一対の主面を有する化学強化ガラスの表面応力測定方法であって、
前記化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下であり、
前記化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に、前記化学強化ガラスよりも屈折率が低い膜を形成して膜付き化学強化ガラスを得ること、及び
前記膜付き化学強化ガラスに対して表面伝搬光を利用した応力測定を行い、前記化学強化ガラスの表面圧縮応力を測定すること、を含む、化学強化ガラスの表面応力測定方法。
【請求項8】
前記膜付き化学強化ガラスに対する前記表面伝搬光が波長650nm以下である、請求項7に記載の化学強化ガラスの表面応力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き化学強化ガラス及び化学強化ガラスの表面応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の電子機器のカバーガラス等に、化学強化ガラスが用いられている。
化学強化ガラスは、例えばアルカリ金属イオンを含む溶融塩にガラスを接触させて、ガラス中のアルカリ金属イオンと、溶融塩中のアルカリ金属イオンとの間でイオン交換を生じさせ、ガラスの表層に圧縮応力層を形成したものである。得られた化学強化ガラスの強度は応力プロファイルに強く依存する。
【0003】
携帯端末等のカバーガラスは、端末が落下した際等の変形によって割れることがある。このような破壊、すなわち曲げモードによる破壊を防ぐためには、ガラス表面における圧縮応力を大きくすることが有効である。
【0004】
また、携帯端末等のカバーガラスは、端末がアスファルトや砂の上に落下した際に、突起物との衝突によって割れることがある。このような破壊、すなわち衝撃モードによる破壊を防ぐためには、圧縮応力層深さを深くして、ガラスのより深い部分にまで圧縮応力層を形成することが有効である。
【0005】
具体的には、ガラスの表面部分にはナトリウムイオン-カリウムイオン交換による大きな圧縮応力を生じさせることで、曲げモードによる破壊を抑制できる。同時に、ガラスのより深い部分には、リチウムイオン-ナトリウムイオン交換によるやや小さい圧縮応力を生じさせることで、衝撃モードによる破壊も抑制できる。
【0006】
しかし、ガラスの表面部分に圧縮応力層を形成すると、必然的に、ガラスの中心部には、表面の圧縮応力に応じた引張応力が発生する。この引張応力が大きくなりすぎると、ガラスが破壊する際に激しく割れて破片が飛散する傾向がある。
【0007】
曲げモードによる破壊と衝撃モードによる破壊の双方を抑制しながら、ガラスが破壊する際に激しく割れて破片が飛散するのを防ぐことが望まれる。そのために、ガラス表面の圧縮応力を大きくし、かつ、より深い部分にまで圧縮応力層を形成する一方で、ガラスの表面部分におけるナトリウムイオン-カリウムイオン交換による圧縮応力の深さを浅くすることが考えられる。
高強度でかつ破片の飛散が少ない化学強化ガラスとして、2段階のイオン交換処理を施した化学強化ガラスが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第9487434号明細書
【特許文献2】特公昭59-37451号公報
【特許文献3】特許第6713651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、ガラス表層におけるナトリウムイオンをカリウムイオンに交換した領域の応力は、ガラス表層内を伝搬する光、すなわち表面伝搬光を利用した干渉縞から求められる(引用文献2)。しかし、ガラスの表面部分におけるカリウムイオンによる圧縮応力の深さを従来よりも極端に浅くすると、干渉縞が不鮮明となることが判明した。
【0010】
観測される干渉縞は、表面伝搬光の波長を短くすることでその本数を増やせる。それにも関わらず、波長365nmの光を用いた場合でも、観測される干渉縞が2本以下となる場合がある。干渉縞は、特に2本以下となる場合に、縞が不鮮明となりガラス表面の圧縮応力を求めるのが非常に困難となる。
【0011】
そこで本発明は、表面伝搬光を利用した干渉縞が不鮮明であり、表面の圧縮応力測定が非常に困難、又は、測定不可である化学強化ガラスに対する、新たな表面応力測定方法を提供すること、及び、かかる測定を可能とする膜付き化学強化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、化学強化ガラスよりも屈折率の低い膜を、化学強化ガラスの主面上に形成することにより、上記課題を解決できることを見出した。これは、表面伝搬光測定のためには、ガラス表面にガラスと同等の屈折率、もしくはガラスより高い屈折率の浸液を用いて測定するという従来の知見とは反対方向に向かうものであり、以下に具体的に説明する。
【0013】
化学強化ガラスを携帯電話やスマートフォン等の電子機器の表示部に使用する場合に、防眩効果や抗菌効果、防汚効果等を付与する目的で、化学強化ガラスの主面上に対して膜を形成することがある。これら膜の屈折率は化学強化ガラスの屈折率よりも低い。
しかし、これら目的のために防眩膜や抗菌膜、防汚膜等を形成すると、膜を形成していない化学強化ガラスに比べて、表面伝搬光による干渉縞が上手く観測できないと考えられていた(引用文献3)。
これに対し、本発明は、化学強化ガラスの表面におけるカリウムイオンによる圧縮応力の深さが非常に浅く、表面伝搬光を利用した干渉縞が不鮮明となる場合には、屈折率の低い膜を形成することで、上記干渉縞がかえって鮮明になることを見出したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] 相互に対向する一対の主面を有する化学強化ガラスと、前記化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に形成された膜と、を備える膜付き化学強化ガラスであって、
前記化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下であり、
前記膜の屈折率が、前記化学強化ガラスの屈折率より低い、膜付き化学強化ガラス。
[2] 前記膜の屈折率と前記化学強化ガラスの屈折率との差が0.02~0.30である、前記[1]に記載の膜付き化学強化ガラス。
[3] 前記化学強化ガラスの厚みをtとした際に、前記化学強化ガラスの深層の応力深さが0.1×t以上である、前記[1]又は[2]に記載の膜付き化学強化ガラス。
[4] 前記化学強化ガラスの母組成が酸化物基準のモル百分率表示で、LiOを5モル%以上含む、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の膜付き化学強化ガラス。
[5] 前記膜の厚みが2~50nmである、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の膜付き化学強化ガラス。
[6] 前記膜がフッ素系有機化合物を含む、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の膜付き化学強化ガラス。
【0015】
[7] 相互に対向する一対の主面を有する化学強化ガラスの表面応力測定方法であって、
前記化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下であり、
前記化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に、前記化学強化ガラスよりも屈折率が低い膜を形成して膜付き化学強化ガラスを得ること、及び
前記膜付き化学強化ガラスに対して表面伝搬光を利用した応力測定を行い、前記化学強化ガラスの表面圧縮応力を測定すること、を含む、化学強化ガラスの表面応力測定方法。[8] 前記膜付き化学強化ガラスに対する前記表面伝搬光が波長650nm以下である、前記[7]に記載の化学強化ガラスの表面応力測定方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表面におけるカリウムイオンによる圧縮応力の深さが非常に浅いにも関わらず、表面伝搬光を利用してガラス表面の圧縮応力を測定できる化学強化ガラスを提供できる。また、上記化学強化ガラスを対象とした新たな表面応力測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、例1の化学強化ガラスを表面応力計で測定した干渉縞の画像である。
図2図2は、例2の化学強化ガラスを表面応力計で測定した干渉縞の画像である。
図3図3は、例3の膜付き化学強化ガラスを表面応力計で測定した干渉縞の画像である。
図4図4は、例4の膜付き化学強化ガラスを表面応力計で測定した干渉縞の画像である。
図5図5は、例5の膜付き化学強化ガラスを表面応力計で測定した干渉縞の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<膜付き化学強化ガラス>
本実施形態に係る膜付き化学強化ガラスは、相互に対向する一対の主面を有する化学強化ガラスと、その少なくとも一方の主面上に形成された膜と、を備える。
化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下である。
化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に形成された膜の屈折率は、化学強化ガラスの屈折率よりも低い。
【0019】
化学強化ガラスは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下である。
本明細書において、干渉縞が2本以下とは、干渉縞が観測されない場合、又は、観測される干渉縞の本数が1本若しくは2本であることを意味する。
【0020】
観測される干渉縞の間隔から表面圧縮応力やその深さが算出されるが、干渉縞の本数が3本以上だとデータ情報が増え繋がり、算出される表面圧縮応力やその深さの精度が高まる。一方、干渉縞の本数が2本以下であると、縞が不鮮明となりやすく、表面圧縮応力やその深さの算出が難しい。応力測定に用いる表面伝搬光の波長は、例えば790nm、596nm、365nm等があり、波長が短いほど、観測される干渉縞は鮮明となり、かつ本数が増える。なお、本明細書において干渉縞が不鮮明とは、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定を行った際に、観測される縞の位置や縞の傾斜角を検出して表面圧縮応力を自動測定できないほどに干渉縞が鮮明でないことを意味する。
【0021】
しかしながら、化学強化ガラスの表面部分におけるカリウムイオンによる圧縮応力の深さが極端に浅い場合、波長365nmの表面伝搬光を利用しても、干渉縞が不鮮明となり、その本数は2本以下となる。そうすると、表面圧縮応力やその深さを適切に求められない。
【0022】
カリウムイオンによる圧縮応力の深さが極端に浅い場合に干渉縞が不鮮明となる理由は下記のように推察される。
表面伝搬光を利用した応力測定とは、ガラス表面のナトリウムイオンがカリウムイオンに置換されることによって、ガラス表面の屈折率が高い領域を伝搬する光の干渉縞を用いて応力を測定する方法である。そのため、光の伝搬できる領域が狭いと光の伝搬光が広がり、干渉縞が不鮮明になるものと考えられる。これは、同じく屈折率の高いコア内を光が伝搬する光ファイバー内の光伝搬現象を参考に説明できる。
【0023】
光ファイバーにおけるビーム径が大きくなる要因として、下記2点が挙げられる。
(i)光伝搬領域となるコア径が小さいこと、つまり屈折率の高い領域が小さいこと、
(ii)コアとクラッドの屈折率差が小さいこと。
上記要因を表面伝搬光を利用した応力測定にそれぞれ当てはめて考えると、干渉縞が広がり、不鮮明となる要因として、下記2点が考えられる。
(i)’光伝搬領域となる応力層が浅いこと、
(ii)’表面圧縮応力が小さいこと。
このように、イオン交換されたカリウムイオンによる圧縮応力、すなわちガラスの表面圧縮応力が小さかったり、その応力深さが浅いと、光が伝搬する領域が狭くなり、伝搬光が広がることで、干渉縞が不鮮明になるものと考えられる。
【0024】
このような化学強化ガラスに対し、屈折率が化学強化ガラスよりも低い膜(以下、「低屈折率膜」と称することがある。)を少なくとも一方の主面上に形成すると、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定を行った際に干渉縞が2本である場合でも鮮明となり、表面圧縮応力を自動測定できるようになる。
【0025】
これは、化学強化ガラスよりも屈折率の低い膜である防眩膜や抗菌膜、防汚膜等をその主面上に形成すると、膜を形成していない化学強化ガラスに比べて、表面伝搬光による干渉縞が上手く観測できないと考えられていた従来の知見とは反対の現象である。
この理由として、化学強化ガラスの表面圧縮応力の深さが非常に浅い場合には、化学強化処理に伴う化学強化ガラス表面の屈折率の変化領域が小さいことに起因すると考えられる。
すなわち、表面応力の深さが非常に浅い場合、屈折率変化領域が小さく、伝搬光が広がるのに対し、低屈折率膜を形成することによって伝搬光の広がりを抑制できるものと推察される。
【0026】
低屈折率膜の存在により干渉縞が鮮明に観測されるようになる効果は、低屈折率膜の種類や膜数、その他の層の存在によらず得られる。
すなわち、低屈折率膜は1種が形成されていても、2種以上が形成されていてもよく、1種の低屈折率膜が複数層形成されていてもよい。また、化学強化ガラスの主面上に低屈折率膜が直接形成されていてもよく、化学強化ガラスと低屈折率膜との間に、さらに別の層が形成されていてもよい。なお、かかる別の層は、化学強化ガラスよりも屈折率が高い膜(以下、「高屈折率膜」と称することがある。)でもよい。
低屈折率膜は、化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に形成されていればよく、両方の主面上に形成されていてもよい。
【0027】
膜付き化学強化ガラスの干渉縞が鮮明になる効果は、屈折率分布による。そのため、膜付き化学強化ガラスは、例えば、化学強化ガラス-低屈折率膜、ガラス-低屈折率膜-高屈折率膜、ガラス-高屈折率膜-低屈折率膜、ガラス-高屈折率膜-低屈折率膜-高屈折率膜等の順に膜が形成されていることが好ましい。
【0028】
化学強化ガラスの屈折率nと低屈折率膜の屈折率nとの差(n-n)は、伝搬光の広がりを抑える観点から0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.07以上がよりさらに好ましい。一方、化学強化ガラスと低屈折率膜との間で全反射が生じて表面応力計で応力を測定しにくくなるのを防ぐ観点から、上記屈折率の差は0.30以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.15以下がよりさらに好ましい。
化学強化ガラスの屈折率n及び低屈折率膜の屈折率nは屈折率計により測定される。
【0029】
(化学強化ガラス)
化学強化処理前のガラスは化学強化処理をできれば特に限定されず、例えばリチウム、ナトリウム等のイオン半径の小さいアルカリ金属を含むことが好ましい。このようなガラスとして、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等が挙げられる。
なお、本明細書において、化学強化を施した後のガラスを「化学強化ガラス」と称するが、化学強化ガラスの母組成は、化学強化前のガラスと同じである。化学強化ガラスの母組成とは、化学強化処理によりイオン交換がなされた層を除いた、ガラス内部の組成である。
【0030】
観測される干渉縞が2本以下となる表面応力の深さは、化学強化ガラスの母組成や表面圧縮応力、拡散したカリウムイオン深さによって異なることから一義に定まらない。
しかしながら、観測される干渉縞が2本以下となる表面応力の深さは、例えば一般的なアルカリイオンを含むガラスを化学強化処理した場合、概ね4μm以下である。表面応力の深さの下限は特に限定されないが、例えば1.8μm以上である。
【0031】
観測される干渉縞が2本以下となる表面圧縮応力は、例えば一般的なアルカリイオンを含むガラスを化学強化処理した場合、概ね1200MPa以下である。表面圧縮応力の下限は特に限定されないが、カバーガラスという用途を鑑みると、400MPa以上が好ましく、550MPa以上がより好ましく、700MPa以上がさらに好ましい。
【0032】
上記表面圧縮応力及び表面応力の深さは、表面伝搬光を利用した表面応力計、すなわち光導波表面応力計により求められる。また、後述する化学強化ガラスの深層の応力深さは、散乱光光弾性応力計により求められる。
光導波表面応力計により、短時間で正確に応力を測定できるが、試料表面から内部に向かって屈折率が低くなる場合にしか応力が測定できない。そのため、ナトリウムイオンがカリウムイオンにイオン交換された、化学強化ガラスの表面圧縮応力の測定に適している。具体的には、例えば、折原製作所製のFSM-6000が挙げられる。
散乱光光弾性応力計により、屈折率分布に関係なく応力を測定できるが、表面散乱の影響を受けやすいため、表面付近の応力は正確に測定できない場合がある。そのため、リチウムイオンがナトリウムイオンにイオン交換された、化学強化ガラスの深層の応力測定に適している。具体的には、例えば、折原製作所製のSLP2000が挙げられる。
すなわち、光導波表面応力計と散乱光光弾性応力計を組み合わせて用いることで、正確な応力プロファイルが得られる。
【0033】
化学強化ガラスの屈折率nは、低屈折率膜よりも高ければ特に限定されない。屈折率は、化学強化ガラスと低屈折率膜との間で全反射が生じて表面応力計で応力を測定しにくくなるのを防ぐ観点から1.30以上が好ましく、1.35以上がより好ましく、1.40以上がさらに好ましい。また、伝搬光の広がりを抑える観点から、屈折率は1.54以下が好ましく、1.52以下がより好ましく、1.50以下がさらに好ましく、1.48以下がよりさらに好ましい。
【0034】
化学強化ガラスは、表面部分におけるナトリウムイオンとカリウムイオンのイオン交換による大きな圧縮応力が生じることから、その母組成はNaOを含むことが好ましい。NaOの含有量は2モル%以上がより好ましく、3モル%以上がさらに好ましく、4モル%以上がよりさらに好ましく、5モル%以上が特に好ましい。また、NaOの含有量の上限は特に限定されないが、ガラス深層部の応力を高める観点から12モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、8モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書における化学強化ガラスの母組成は、特に限定がない限り、酸化物基準のモル百分率表示である。
【0035】
カリウムイオンによるイオン交換によって、表面圧縮応力及び表面応力の深さが、上述した好ましい範囲となることが好ましい。
【0036】
化学強化ガラスのより深い部分には、リチウムイオンとナトリウムイオンのイオン交換によるやや小さい圧縮応力が生じることから、その母組成はLiOを含むことが好ましい。LiOの含有量は5モル%以上がより好ましく、6モル%以上がさらに好ましく、8モル%以上がよりさらに好ましい。また、LiOの含有量の上限は特に限定されないが、ガラス成形時における失透の観点から14モル%以下が好ましく、12モル%以下がより好ましく、11モル%以下がさらに好ましい。
【0037】
カリウムイオンにより圧縮応力が生じた表面部分よりも深い領域であって、ナトリウムイオンにより圧縮応力層が形成された領域を、化学強化ガラスの深層という。
化学強化ガラスの深層の応力深さは、落下した時の強度の観点から、化学強化ガラスの厚みtに対して、(0.01×t)以上が好ましく、(0.012×t)以上がより好ましく、(0.1×t)以上がさらに好ましく、(0.12×t)以上がよりさらに好ましく、(0.15×t)以上が特に好ましい。深層の応力深さの上限は、割れた時にガラスが粉々になるのを防ぐ観点から、(0.25×t)以下が好ましく、(0.23×t)以下がより好ましく、(0.21×t)以下がさらに好ましい。
化学強化ガラスの深層の応力深さは、散乱光光弾性応力計により測定できる。
【0038】
化学強化ガラスの厚みtは特に限定されないが、例えば、モバイル機器用カバーガラスに用いる場合には、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましく、また、2.5mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましい。ディスプレイ装置、カーナビゲーション、コンソールパネル、計器盤などの画像表示装置に用いる場合には、化学強化ガラスの厚みtは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましく、また、2.1mm以下が好ましく、1.8mm以下がより好ましく、1.5mm以下がさらに好ましい。
【0039】
化学強化ガラスの具体的な母組成は、例えば以下であると、化学強化処理によって好ましい応力プロファイルを形成しやすい。
酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを50~80%、Alを8~20%、Bを0~10%、LiOを5~14%、NaOを2~12%、KOを0~10%、を含有し、MgO、CaO、SrO、BaOの含有量の合計MgO+CaO+SrO+BaOが0~10%、ZrOとTiOの含有量の合計ZrO+TiOが0~5%であることが好ましい。
【0040】
以下、ガラス組成の各成分について詳細を説明する。
SiOはガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷がついた時のクラックの発生を低減させる成分である。SiOの含有量は50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、58%以上がさらに好ましい。
また、ガラスの溶融性を高くするために、SiOの含有量は80%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0041】
Alは化学強化の際のイオン交換性を向上させ、強化後の表面圧縮応力を大きくするために有効な成分であり、ガラス転移温度(Tg)を高くし、ヤング率を高くする成分でもある。Alの含有量は8%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましい。
また、溶融性を高くするために、Alの含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0042】
は、必須ではないが、ガラス製造時の溶融性を向上させる等のために加えてもよい。Bを含有させる場合の含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。
また、溶融時に脈理が発生し化学強化処理に供するガラスの品質が低下するのを防ぐために、Bの含有量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。耐酸性を高くするためには、Bを実質的に含有しないことが好ましい。
なお、本明細書において実質的に含有しないとは、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。具体的には、ガラスの母組成中の含有量が0.1モル%未満であることを意味する。
【0043】
LiOは、イオン交換によりガラスの深層まで圧縮応力を形成するために必要な成分であり、先述した範囲で含有することが好ましい。
【0044】
NaOは化学強化処理の際にカリウムイオンとのイオン交換により表面圧縮応力層を形成する成分であり、先述した範囲で含有することが好ましい。
【0045】
Oは必須ではないが、ガラスの溶融性を向上し、失透を抑制するために含有してもよい。KOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.2%以上がさらに好ましい。
また、イオン交換による圧縮応力を大きくするために、KOの含有量は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。
【0046】
LiO、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物は、いずれもガラスの溶解温度を低下させる成分である。LiO、NaO及びKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)は、7%以上が好ましく、9%以上がより好ましく、11%以上がさらに好ましく、13%以上がよりさらに好ましい。
また、ガラスの強度を維持するために、(LiO+NaO+KO)は24%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0047】
MgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物は、いずれもガラスの溶融性を高める成分であるが、一方で、イオン交換性能を低下させる傾向がある。
そのため、MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量の合計(MgO+CaO+SrO+BaO)は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0048】
MgO、CaO、SrO、BaOのいずれかを含有する場合は、化学強化ガラスの強度を高くするためにMgOを含有することが好ましい。
MgOを含有する場合、MgOの含有量は0.1%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。
また、イオン交換性能を高くするために、MgOの含有量は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0049】
CaOを含有する場合、CaOの含有量は0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。
また、イオン交換性能を高くする観点からは、CaOの含有量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0050】
SrOを含有する場合、SrOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。
また、イオン交換性能を高くするために、SrOの含有量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0051】
BaOを含有する場合、BaOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。
また、イオン交換性能を高くするために、BaOの含有量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0052】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有する場合、ZnOの含有量は0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましい。
また、ガラスの耐候性を高くするために、ZnOの含有量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0053】
TiOは、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。TiOを含有する場合、TiOの含有量は0.1%以上が好ましい。
また、溶融時の失透を抑制するために、TiOの含有量は5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0054】
ZrOは、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、含有させてもよい。ZrOを含有する場合、ZrOの含有量は0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、0.7%以上がさらに好ましく、1%以上がより好ましい。
また、溶融時の失透を抑制するために、ZrOの含有量は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0055】
TiOとZrOの含有量の合計(TiO+ZrO)は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0056】
、La、Nbは、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。上記観点よりこれらの成分を含有する場合のそれぞれの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上がよりさらに好ましく、2.5%以上が特に好ましい。
【0057】
、La及びNbの含有量の合計(Y+La+Nb)は、溶融時にガラスが失透しにくくなり化学強化ガラスの品質が低下するのを防ぐために、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
上記観点からは、Y、La、Nbのそれぞれの含有量は3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.3%以下が特に好ましい。
【0058】
Ta、Gdは、化学強化ガラスの破砕性を改善するために少量含有してもよい。屈折率や反射率が高くなりすぎるのを防ぐために、Ta、Gdのそれぞれの含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0059】
は、イオン交換性能を向上させるために含有してもよい。Pを含有する場合、Pの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。
また、化学的耐久性を高くするために、Pの含有量は2%以下が好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0060】
ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、TiO、CeO、Er、Ndが好適なものとして挙げられる。これらは単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0061】
着色成分の含有量は、ガラスの失透を抑制するために、合計で7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下がよりさらに好ましい。また、ガラスの可視光透過率を高くしたい場合は、これら着色成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0062】
ガラス溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。Asは実質的に含有しないことが好ましい。Sbを含有する場合、Sbの含有量は0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0063】
(低屈折率膜)
本実施形態における低屈折率膜は、化学強化ガラスの屈折率よりも低い。
低屈折率膜の屈折率nは、化学強化ガラスよりも低ければ特に限定されないが、干渉縞を鮮明にする観点から1.52以下が好ましく、1.50以下がより好ましく、1.48以下がさらに好ましく、1.45以下が最も好ましい。また、化学強化ガラスと低屈折率膜との間で全反射が生じて表面応力計で測定しにくくなるのを防ぐ観点から、屈折率は1.25以上が好ましく、1.30以上がより好ましく、1.35以上がさらに好ましい。
【0064】
低屈折率膜の厚みは、伝搬光の広がりを抑える観点から2nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、8nm以上がさらに好ましく、10nm以上がよりさらに好ましく、15nm以上が特に好ましい。また、化学強化ガラスと低屈折率膜との間で全反射が生じて表面応力計を用いて応力が測定しにくくなるのを防ぐ観点から、低屈折率膜の厚みは200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、30nm以下がよりさらに好ましい。
なお、低屈折率膜が2層以上からなる場合には、合計の膜厚が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0065】
低屈折率膜は、防汚性、撥水性、撥油性、親水性及び親油性からなる群より選ばれる1以上の特性を有していてもよい。前記の特性を持つ低屈折率膜を防汚層と呼ぶ。防汚層としては、フッ素系有機化合物を含むことが好ましい。
【0066】
フッ素系有機化合物としては、例えばパーフルオロアルキル基含有化合物、パーフルオロポリエーテル基含有化合物等が挙げられ、パーフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物が好ましい。
【0067】
パーフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物としては、例えば、下式Aで表される化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を含む材料が挙げられる。
Rf-Rf-Z 式A
式A中、Rfは、基:C2m+1(ここで、mは、1~6の整数である。)であり、
Rfは、基:-O-(C2aO)-(ここで、aは、1~6の整数であり、nは、1以上の整数であり、nが2以上である場合、各-C2aO-単位は、同一であっても、異なっていてもよい。)であり、
は、基:-Q-{CHCH(SiR 3-q)}-H(ここで、Qは、-(CH-(ここで、sは、0~12の整数である。)であるか、又はエステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合及びフェニレン基から選ばれる1種以上を含有する-(CH-であり、-CH-単位の一部又は全部は、-CF-単位及び/又は-CF(CF)-単位によって置き換えられていてもよく、Rは、水素原子、又は炭素原子数1~6の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は置換基を含有していてもよく、Xは、それぞれ独立して、水酸基又は加水分解性基であり、qは、0~2の整数であり、rは、1~20の整数である。)である。
における加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられる。これらの中では、安定性と加水分解のしやすさとのバランスの点から、アルコキシ基、イソシアネート基およびハロゲン原子(特に塩素原子)が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。
【0068】
例えば、市販されている「Afluid(登録商標) S-550」(商品名、AGC株式会社製)、「KP-801」(商品名、信越化学工業株式会社製)、「X-71」(商品名、信越化学工業株式会社製)、「KY-130」(商品名、信越化学工業株式会社製)、「KY-178」(商品名、信越化学工業株式会社製)、「KY-185」(商品名、信越化学工業株式会社製)、「KY-195」(商品名、信越化学工業株式会社製)、「オプツール(登録商標) DSX(商品名、ダイキン工業株式会社製)等を使用できる。さらに、市販品にオイル添加、帯電防止剤等を添加したものも使用できる。
【0069】
上記防汚層となる低屈折率膜の化学強化ガラスに対する密着性を高める目的で、低屈折率膜としてさらに、二酸化ケイ素、アルミナ等を密着層として用いてもよく、二酸化ケイ素を主体する組成で構成されることが好ましい。この場合、密着層は防汚層と化学強化ガラスとの間に有することが好ましい。
ただし、密着層となる低屈折率膜は、防汚層となる低屈折率膜と併用せずに、密着層となる低屈折率膜のみを単独で用いてもよい。
【0070】
膜付き化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等に用いられるカバーガラスとして、特に有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等のディスプレイ装置のカバーガラスにも有用である。また、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面、すなわち、全面ディスプレイにも有用である。上記の他に、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等の用途にも有用である。
【0071】
<膜付き化学強化ガラスの製造方法>
本実施形態において、化学強化処理前のガラスは、従来公知の方法により製造できる。例えば、板状のガラスを得る場合には、下記方法により製造できる。
所望の組成のガラスが得られるようにガラス原料を調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。その後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等により溶融ガラスを均質化し、公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。溶融ガラスを均質化した後、ブロック状に成形して、徐冷した後に切断する方法により板状に成形してもよい。
【0072】
板状ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、たとえば、フュージョン法及びダウンドロー法も好ましい。
【0073】
得られるガラスのガラス組成は、例えば、上記<膜付き化学強化ガラス>の(化学強化ガラス)に記載したガラス母組成とでき、好ましい態様も同様である。
【0074】
次いで、得られたガラスに化学強化処理を行うことで化学強化ガラスが得られる。
化学強化処理は、大きなイオン半径の金属イオンを含む金属塩の融液にガラス浸漬する等の方法で金属塩に接触させ、ガラス中の小さなイオン半径の金属イオンを大きなイオン半径の金属イオンで置換する処理である。典型的には、リチウムイオンに対してはナトリウムイオン又はカリウムイオンで、ナトリウムイオンに対してはカリウムイオンで、それぞれ置換する。
【0075】
化学強化処理の速度を速くするため、また、ガラスの深層でもイオン交換を行い、応力を生じさせるためには、ガラス中のリチウムイオンをナトリウムイオンと交換する「Li-Na交換」を利用することが好ましい。またイオン交換により表面に大きな圧縮応力を形成するためには、ガラス中のナトリウムイオンをカリウムイオンと交換する「Na-K交換」を利用することが好ましい。
【0076】
化学強化処理を行うための溶融塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物等が挙げられる。このうち硝酸塩としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸銀等が挙げられる。硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸銀等が挙げられる。炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。塩化物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化銀等が挙げられる。
これらの溶融塩は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
化学強化処理の時間や温度等の処理条件は、ガラス組成や溶融塩の種類などを考慮して適切に選択する。これにより、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下の化学強化ガラスを得る。
【0078】
化学強化ガラスは、例えば以下の2段階の化学強化処理によって得てもよい。
1段目の化学強化処理として、ガラスをナトリウムイオンを含む金属塩、例えば硝酸ナトリウム溶融塩に浸漬する。金属塩の温度は、例えば350~500℃程度であり、浸漬時間は、例えば0.1~10時間程度とする。これによってガラス中のリチウムイオンと金属塩中のナトリウムイオンとのイオン交換が生じ、例えば表面圧縮応力が200MPa以上で圧縮応力層深さが80μm以上の圧縮応力層が形成される。
1段目の処理で導入される表面圧縮応力が1000MPaを超えると、最終的に得られる化学強化ガラスにおいて内部応力(CT)を低く保ちつつ、圧縮応力層深さ(DOL)を大きくすることが困難になる場合がある。したがって、1段目の処理で導入される表面圧縮応力は好ましくは900MPa以下であり、より好ましくは700MPa以下、さらに好ましくは600MPa以下である。
【0079】
2段目の化学強化処理として、1段目の処理を経た上記ガラスをカリウムイオンを含む金属塩、例えば硝酸カリウム溶融塩に浸漬する。金属塩の温度は、金属塩の融点以上であり、かつイオン交換を進める観点から350℃以上が好ましく、370℃以上がより好ましく、390℃以上がさらに好ましい。また、イオン交換を進める観点から、金属塩への浸漬時間は10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。
一方、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下とする観点から、金属塩の温度は440℃以下が好ましく、420℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましい。同様の観点から、金属塩への浸漬時間は90分以下が好ましく、70分以下がより好ましく、50分以下がさらに好ましい。
【0080】
上記に化学強化処理の一例を示したが、3段階の化学強化処理を行ってもよい。また、各化学強化処理はリチウムイオンとナトリウムイオン、ナトリウムイオンとカリウムイオン、又はリチウムイオンとナトリウムイオンとカリウムイオンのように、複数のアルカリ金属イオンを含んでもよい。
【0081】
このような2段階又は3段階の化学強化処理を行う場合には、生産効率の点から、処理時間は合計で10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましい。一方、所望の応力プロファイルを得るためには、処理時間は合計で0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1時間以上である。
【0082】
以上のようにして得られる本実施形態における化学強化ガラスは、適用される製品や用途等に応じて、板状以外の形状としてもよい。また化学強化ガラスは、外周の厚みが異なる縁取り形状などを有していてもよい。また、化学強化ガラスの形態はこれに限定されず、例えば2つの主面は互いに平行でなくともよく、また、2つの主面の一方又は両方の全部又は一部が曲面であってもよい。より具体的には、化学強化ガラスは、例えば、反りの無い平板状のガラス板であってもよく、また、湾曲した表面を有する曲面ガラス板であってもよい。
【0083】
得られた化学強化ガラスは、アルカリ溶液に浸漬することで、表面に付着した有機物を除去してもよい。また、化学強化ガラスの主面に大気中でプラズマを照射することにより、表面に付着した有機物を除去してもよい。
表面に付着した有機物を除去することで、主面上に形成される膜との密着性が高まり、耐久性が向上するため好ましい。
【0084】
化学強化ガラスの主面上に低屈折率膜を形成する。低屈折率膜の形成方法は、形成する膜によって異なる。
【0085】
低屈折率膜が密着性を高める密着層の場合、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法により膜を形成できる。物理蒸着法としては、真空蒸着法やイオンアシストスパッタ法(IAD法)、スパッタ法、後酸化スパッタ法、イオンアシストスパッタ法、イオンビームスパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法が挙げられる。なかでもイオンアシストスパッタ法、後酸化スパッタ法、イオンビームアシスト蒸着法が、密着層の硬度を比較的容易に上げられる点で好ましい。
【0086】
真空蒸着時のチャンバー内の圧力は、密着層の硬度を上げる観点から0.15Pa以下が好ましく、0.1Pa以下がより好ましく、0.08Pa以下である。また、プラズマの放電を安定的に維持する観点から、圧力は0.03Pa以上が好ましい。
【0087】
密着層となる真空蒸着の試料は、二酸化ケイ素(SiO)が好ましい。試料は加熱容器に入れられ、低真空下で加熱されることにより蒸発し、加熱容器に対向して設置されたガラスの主面上に成膜される。
【0088】
スパッタ法を用いる場合、膜の硬度を上げる観点から、成膜時の放電電力は5000W以上が好ましく、7000W以上がより好ましい。また、ターゲットの割れや異常放電を防止する観点から、放電電力は20000W以下が好ましい。
【0089】
密着層の成膜中は、プラズマ源、イオン源、ラジカル源などの高エネルギー粒子に暴露されること、すなわちプラズマアシストが好ましい。プラズマアシストの実施は、100nm以下成膜されるごとが好ましく、1nm以下ごとがより好ましく、0.5nm以下ごとがさらに好ましい。
高エネルギー粒子源は特に方式を問わないが、プラズマビーム、イオンビーム、リニア型イオンビーム、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマ源、ラジカル源、低インピーダンスアンテナプラズマ源などのイオンビーム、ラジカル源、ECRプラズマ源等が好ましい。
【0090】
以上の工程は、例えば、後酸化スパッタ法を実施できるスパッタリング装置(例えば、RAS1100B II、シンクロン社製)にて行うことが好ましい。
密着層としてSiO膜を成膜する場合、Siターゲットを用い、成膜室の放電ガスとしてアルゴンガスおよび酸素ガスを用い、反応室の放電ガスとしてアルゴンおよび酸素を用いることが好ましい。同装置は成膜室と反応室に分割された真空チャンバー内に、基板を保持するドラムが配置され基材を保持するドラムが成膜室と反応室を交互に高速に通過しながら例えば100rpmで回転する。これにより成膜室でごく薄い数nm以下の薄膜が成膜される。その後、反応室に送られた膜に、プラズマ源により反応した活性ガスによりエネルギーを付加してもよく、未反応の部分を反応させてもよい。
【0091】
密着層の硬度を増加させるためには、このような後酸化プロセス法の装置を用いることが好ましく、更に、成膜室で十分に酸化反応させたSiO膜を成膜した後、反応室のプラズマ源を用いてSiO膜にエネルギーを付与することが好ましい。
【0092】
低屈折率膜が防汚性、撥水性、撥油性、親水性及び親油性からなる群より選ばれる1以上の特性を有する防汚層の場合、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等の湿式法や、真空蒸着法に代表される乾式法が挙げられる。
密着性が高く耐摩耗性が高い防汚層を形成するためには、真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法としては、例えば、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着法、分子線エピタキシ一法、ホットウオール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等が挙げられる。好ましくは抵抗加熱法であると装置が簡便であり、低コストである。
防汚層は化学強化ガラスの主面上に直接形成されてもよく、密着層等の他の層を介して形成されてもよい。
【0093】
真空蒸着時のチャンバー内の圧力は、真空蒸着を問題なく実施する観点から、5×10-3Pa以下が好ましい。また、防汚層の蒸着速度を一定以上に維持する観点から、真空蒸着時のチャンバー内の圧力は、1×10-4Pa以上が好ましい。
【0094】
蒸着出力は、防汚層への水の吸着を防ぎ、安定して成膜する観点から、電流密度換算で200kA/m以上が好ましく、300kA/m以上がより好ましく、350kA/m以上がさらに好ましい。また、防汚層の原料を含浸させているスチールウールやルツボの成分が蒸発することを防ぐ観点から、蒸着出力は1000kA/m以下が好ましい。
【0095】
蒸着試料は、防汚層を構成するフッ素系有機化合物をペレット状の銅容器に含浸させる形で保持されることが好ましい。含浸作業は窒素雰囲気下で行われるとよい。このようにすることで、フッ素系有機化合物が単原子分子として蒸着される層が増え、防汚層の耐摩耗性が向上する。
【0096】
低屈折率膜が反射防止層の場合、例えば、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法により形成できる。物理蒸着法としては、真空蒸着法やスパッタ法が挙げられる。
【0097】
<表面応力測定方法>
本実施形態に係る表面応力測定方法の測定対象は、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下である化学強化ガラスである。化学強化ガラスは、相互に対向する一対の主面を有する。
【0098】
化学強化ガラス単独では、波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下であり、応力深さが浅いことから干渉縞が不鮮明となり表面圧縮応力の測定が困難である、または、測定できない。
しかしながら、化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に、化学強化ガラスよりも屈折率が低い膜を形成した膜付き化学強化ガラスとすることにより、干渉縞が鮮明となり、表面圧縮応力を容易に測定できるようになる。
【0099】
すなわち、本実施形態に係る表面応力測定方法は、下記工程(1)及び(2)を含むものである。
(1)波長365nmの表面伝搬光を利用した応力測定において観測される干渉縞が2本以下である化学強化ガラスの少なくとも一方の主面上に、化学強化ガラスよりも屈折率が低い膜(低屈折率膜)を形成して膜付き化学強化ガラスを得る工程、及び
(2)得られた膜付き化学強化ガラスに対して表面伝搬光を利用した応力測定を行い、化学強化ガラスの表面圧縮応力を測定する工程。
【0100】
化学強化ガラスの主面上に低屈折率膜を形成することで、表面伝搬光を利用した応力測定において干渉縞が鮮明に観測されるようになる。
表面伝搬光の波長が短いほど、観測される干渉縞は鮮明となり、かつ本数が増える。応力測定の波長は365nmに限られず、例えば596nmや790nm等の他の波長であってもよい。鮮明な干渉縞を観測しやすい観点から、表面伝搬光の波長は650nm以下が好ましく、550nm以下がより好ましい。また、折原製作所製のガラス表面応力計として折原製作所製のFSM-6000LEUVを用いる場合、波長の下限は365nmであるが、それ以下の波長領域での測定が可能なのであれば、365nm未満の表面伝搬光を用いても差支えない。また、複数の波長を用いて測定してもよい。
【実施例0101】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれによって限定されない。
例1及び例6~例19が参考例、例2は比較例であり、例3~例5は実施例である。
【0102】
(測定方法)
化学強化ガラスの表面圧縮応力及び表面応力深さは、ガラス表面応力計(折原製作所製、FSM-6000LEUV)で測定した。表面伝搬光の光源の波長は365nmを用いた。
化学強化ガラスの深層の応力深さとガラス中央部の引張応力は、散乱光光弾性応力計(折原製作所製、SLP2000)で測定した。
化学強化ガラスの屈折率は、株式会社 島津製作所社製、カルニュー精密屈折率計KPR-2000により測定した。低屈折率膜の屈折率は、従前の知見に基づき計算により求めた値を用いた。
【0103】
(例1)
酸化物基準のモル百分率表示で表1に記載の組成となるようにガラス原料を調合し、加熱溶融を行った。その後均質化した後、徐冷を行った。得られたガラスを50mm×50mm、厚さtが0.70mmのガラス板に成形加工した。なお、表1における空欄は、原材料等に含まれる不可避の不純物を除いて含有しない、すなわち、意図的に含有させたものではないことを意味する。
【0104】
得られたガラス板を、380℃のNaNO溶融塩中に150分浸漬し、1段目の化学強化処理を行った。次いで450℃のKNO溶融塩中に60分浸漬し、2段目の化学強化処理を行うことで、化学強化ガラスを得た。
【0105】
得られた化学強化ガラスに対し、表面圧縮応力、表面応力深さ、深層の応力深さ、及び引張応力の測定を行った。
表面応力計の測定で得られた画像を図1に示す。図1の上部分はP偏光で測定した画像であり、鮮明な干渉縞が6本観測された。また、図1の下部分はS偏光で測定した画像であり、鮮明な干渉縞が5本観測された。
この化学強化ガラスの表面圧縮応力は990MPa、表面応力深さは7.5μm、深層応力深さは127μm、引張応力は84MPaであった。
【0106】
【表1】
【0107】
(例2)
ガラス厚みtを0.75mmとした以外は例1と同様にしてガラス板を得た。
得られたガラス板を380℃のNaNO溶融塩中に140分浸漬し、1段目の化学強化処理を行った。次いで390℃のKNO溶融塩中に50分浸漬し、2段目の化学強化処理を行うことで、化学強化ガラスを得た。
得られた化学強化ガラスに対し、表面圧縮応力、表面応力深さ、深層の応力深さ、及び引張応力の測定を行った。
【0108】
表面応力計の測定で得られた画像を図2に示す。図2の上部分はP偏光で測定した画像であり、不鮮明な干渉縞が2本観測された。また、図2の下部分はS偏光で測定した画像であり、不鮮明な干渉縞が2本観測された。いずれも、表面応力計を用いた自動測定によって表面圧縮応力及び表面応力深さを求めることはできなかった。そのため、図2の目視により干渉縞の位置を決めて表面圧縮応力及び表面応力深さを求めた。
この化学強化ガラスの表面圧縮応力は1220MPa、表面応力深さは2.9μm、深層応力深さは106μm、引張応力は65MPaであった。
【0109】
(例3)
例2と同様にして化学強化ガラスを得た。化学強化ガラスを純水およびアルカリ性洗剤に浸漬することで洗浄した。その後、化学強化ガラスの膜を形成する側の主面に対してプラズマを照射し、プラズマ洗浄を行った。
次に、試料としてフッ素系有機化合物(Daikin社製、UD-509)を使用し、抵抗加熱による真空蒸着法により、化学強化ガラスの主面上に低屈折率膜Aを成膜し、膜付き化学強化ガラスを得た。この際、窒素雰囲気中でペレット状銅容器内のスチールウールに試料液を含浸させ、真空引きすることで担持させた状態の試料を使用した。低屈折率膜A成膜時の真空チャンバー内の圧力は3.0×10-3Paとし、蒸着出力318.5kA/mで300秒間蒸着した。形成された低屈折率膜Aの厚さは15nmであった。
化学強化ガラスの屈折率は波長365nmで1.54、波長589nmで1.52であるのに対し、低屈折率膜Aの屈折率は波長589nmで1.40~1.42であった。すなわち、低屈折率膜Aの屈折率と化学強化ガラスの屈折率との差は0.10~0.12であった。
【0110】
表面応力計の測定で得られた画像を図3に示す。図3の上部分はP偏光で測定した画像であり、下部分はS偏光で測定した画像である。いずれにおいても、低屈折率膜Aが形成されていない例2と比べ、干渉縞が鮮明に観察され、表面応力計による自動測定が可能であった。
化学強化ガラスの表面圧縮応力は1220MPa、表面応力深さは2.9μm、深層応力深さは106μm、引張応力は65MPaであった。
【0111】
(例4)
例2と同様にして化学強化ガラスを得た。化学強化ガラスを純水およびアルカリ性洗剤に浸漬することで洗浄した。その後、化学強化ガラスの膜を形成する側の主面に対してプラズマを照射し、プラズマ洗浄を行った。
次に、化学強化ガラスの主面上に、スパッタ法により低屈折率膜Bを形成した。スパッタリング装置にはシンクロン社製のRAS1100B IIを用いた。低屈折率膜BはSiO膜とし、スパッタターゲットには、多結晶Si(ケミストン社製、純度5N)を用いた。成膜室の圧力が5×10-5Pa以下になったことを確認して、成膜室の放電ガスとしてアルゴンを80sccm導入し、スパッタターゲットに7500Wの電力を印加した。続いて、反応室に酸素を110sccm導入し、RFプラズマ源の電力を3000Wとして放電を行った。上記条件の下、低屈折率膜Bの厚さが5nmになるように成膜した。
続いて、例3と同様にして、低屈折率膜B上に低屈折率膜Aを成膜し、膜付き化学強化ガラスを得た。低屈折率膜Aの厚さは15nmであった。
化学強化ガラスの屈折率は波長365nmで1.54、波長589nmで1.52であるのに対し、低屈折率膜Aの屈折率は波長589nmで1.40~1.42であった。すなわち、低屈折率膜Aの屈折率と化学強化ガラスの屈折率との差は0.10~0.12であった。また、低屈折率膜Bの屈折率は波長365nmで1.49、波長589nmで1.47であった。すなわち、低屈折率膜Bの屈折率と化学強化ガラスの屈折率との差は0.05であった。
【0112】
表面応力計の測定で得られた画像を図4に示す。図4の上部分はP偏光で測定した画像であり、下部分はS偏光で測定した画像である。いずれにおいても、低屈折率膜A及び低屈折率膜Bのいずれも形成されていない例2と比べ、干渉縞が鮮明に観察され、表面応力計による自動測定が可能であった。
化学強化ガラスの表面圧縮応力は1240MPa、表面応力深さは2.9μm、深層応力深さは106μm、引張応力は65MPaであった。
【0113】
(例5)
低屈折率膜Bの厚みを10nmとしたこと以外は例4と同様にして、膜付き化学強化ガラスを得た。低屈折率膜Bの成膜条件は下記とした。
成膜室の放電ガスとしてアルゴンを80sccm導入し、スパッタターゲットに7500Wの電力を印加した。続いて、反応室に酸素を110sccm導入し、RFプラズマ源の電力を3000Wとして放電を行った。上記条件の下、低屈折率膜の厚さが10nmになるように成膜した。
化学強化ガラスの屈折率は波長365nmで1.54、波長589nmで1.52であるのに対し、低屈折率膜Aの屈折率は波長589nmで1.40~1.42であった。すなわち、低屈折率膜Aの屈折率と化学強化ガラスの屈折率との差は0.10~0.12であった。また、低屈折率膜Bの屈折率は波長365nmで1.49、波長589nmで1.47であった。すなわち、低屈折率膜Bの屈折率と化学強化ガラスの屈折率との差は0.05であった。
【0114】
表面応力計の測定で得られた画像を図5に示す。図5の上部分はP偏光で測定した画像であり、下部分はS偏光で測定した画像である。いずれにおいても、低屈折率膜A及び低屈折率膜Bのいずれも形成されていない例2と比べ、干渉縞が鮮明に観察され、表面応力計による自動測定が可能であった。
化学強化ガラスの表面圧縮応力は1240MPa、表面応力深さは2.9μm、深層応力深さは106μm、引張応力は65MPaであった。
【0115】
(例6~例19)
酸化物基準のモル百分率表示で表1に記載の組成となるようにガラス原料を調合した以外は例1と同様にして、例6~例19の化学強化ガラスを得た。
【0116】
上記結果より、カリウムイオンとナトリウムイオンとのイオン交換による表面応力深さを浅くすると、表面応力測定において、干渉縞が不鮮明になったり、本数が減り、表面応力計による自動測定で表面圧縮応力や表面応力深さを測定できないことが分かった。
これに対し、低屈折率膜を化学強化ガラスの主面上に形成することにより、干渉縞が鮮明となり、自動測定で表面圧縮応力や表面応力深さを測定できるようになった。
図1
図2
図3
図4
図5