(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046078
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】液晶流動発生素子
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20220315BHJP
C09K 19/02 20060101ALI20220315BHJP
C09K 19/30 20060101ALI20220315BHJP
C09K 19/32 20060101ALI20220315BHJP
C09K 19/20 20060101ALI20220315BHJP
C09K 19/12 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
C09K19/02
C09K19/30
C09K19/32
C09K19/20
C09K19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151940
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 浩史
【テーマコード(参考)】
4H027
【Fターム(参考)】
4H027BA01
4H027BB13
4H027BD02
4H027BD03
4H027BD07
4H027BD09
4H027BD24
4H027BE02
4H027CD01
4H027CD03
4H027CD05
4H027CE04
4H027CE05
4H027CG05
4H027CH04
4H027CK05
4H027CM05
4H027CN01
4H027CN03
4H027CN04
4H027CQ03
4H027CQ05
4H027CR04
4H027CR05
4H027CT01
4H027CT03
4H027CT04
4H027CT05
4H027CU01
4H027CU04
4H027CU05
4H027CW01
4H027CW02
4H027CW03
4H027DH04
4H027DK04
(57)【要約】
【課題】 本発明が解決しようとする課題は、長期の信頼性が確保可能で、かつ複雑な機構や複雑な電圧印加手段を必要としない流動発生装置を提供することである。
【解決手段】 本発明者は、電気泳動力および液晶の配向時の流動や重心周りの回転運動に拠らない機構を検討し、特定の電極構造と液晶材料の組み合わせが有効であることを見出した。すなわち、対向する基板の内面に設けられた少なくとも1対の電極は平行ではなく、角度を持って配置された電極構造を用い当該電極構造と液晶材料の組み合わせによって課題を解決できることを見出した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不均一電界を印加する手段を備えた液晶材料を用いた液晶流動発生素子。
【請求項2】
不均一電界を印加する手段が、くさび状に一定の角度を持って対向している電極対である請求項1記載の液晶流動発生素子。
【請求項3】
液晶材料の比抵抗が1×1012Ωcm以上である請求項1または2記載の液晶流動発生素子。
【請求項4】
液晶材料の誘電率異方性の絶対値が、2以上である請求項1から3のいずれか一項に記載の液晶流動発生素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の液晶流動発生素子を用いたアクチュエーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電界印加によって液晶の流動を発生させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体に高電圧を印加することによって流体運動が発生する現象が知られており、Electro Hydro Dynamics現象と呼ばれている。電気を直接「流れ」に変換でき、コンプレッサーやポンプ等の金属製の複雑な機構部品を用いずに小型・軽量で流体運動が得られるという利点があるため、ソフトアクチュエータの動力源として将来が期待される。このような流動発生装置としては、流体の導電率と粘度をある特定の範囲に設定したものが知られている(特許文献1)。導電率としては4×10-12~5×10-8S/m(比抵抗で表すと、2×107~2.5×1011Ωcm)が適切な範囲であると記載されている。これは流体運動の力の起源が、電気泳動力と呼ばれる流体中の電荷密度と印加電圧の積で表される力が支配的であることに起因していると推測される。換言すれば、流体運動を引き起こすためには電気伝導に関与する、ある程度のイオン性不純物等が必要であることを示唆している。このような開示された範囲の導電率の材料に高電圧を印加した場合、絶縁劣化が進みやすく、長期の信頼性の確保が困難という課題がある。
【0003】
一方、電気泳動力に拠らずに、流体として液晶を用い、液晶の配向時の流動や重心周りの回転運動を用いることによる液晶流動形成機構が開示されている(特許文献2)。このような機構は、継続的な流動形成を行うために常に液晶の配向初期状態と配向変化状態との間を配向変化させることが必要であり、そのための電極やコイルを配置しなければならず、機構が複雑になりがちであり、かつ電圧も時間とともに変化させなければならないという問題があった。
【0004】
以上のような背景から、長期の信頼性が確保可能で、かつ複雑な機構や電圧印加手段を必要としない流動発生装置が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3245386号
【特許文献2】特許第3586734号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、長期の信頼性が確保可能で、かつ複雑な機構や複雑な電圧印加手段を必要としない流動発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、電気泳動力および液晶の配向時の流動や重心周りの回転運動に拠らない機構を検討し、特定の電極構造と液晶材料の組み合わせによって課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、対向する基板の内面に設けられた少なくとも1対の電極は平行ではなく、角度を持って配置された電極構造を用い当該電極構造と液晶材料の組み合わせによって課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶流動発生素子は、信頼性が高く、複雑な機構を必要としないので、人間の運動を助けるアシストスーツ、「スマートな」義手・義足用のアクチュエータの動力源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る液晶流動発生素子の電極構造の断面図の一例である。
【
図2】本発明に係る液晶流動発生素子の電極構造の断面図の一例である。
【
図3】本発明に係る液晶流動発生素子の概要図の一例である。
【
図4】本発明に係る液晶流動発生素子中の液晶の流動を示す図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液晶流動発生素子は、不均一電界を印加する手段を備えている。一般にディスプレイなどに使用される液晶表示素子は対向する平行な基板の内面に少なくとも1対の電極を備え、その間に液晶を挟持した構成となっている。実質、平行平板電極間に液晶が挟持されていると見なすことができる。一方、本発明の液晶流動発生素子は、対向する基板の内面に設けられた少なくとも1対の電極は平行ではなく、角度を持って配置されている必要がある。
図1にその一例を示す。
【0011】
これは一般にくさび型セルと呼ばれる形状を有している。
図1のセル左端の電極間の距離は、右端の電極間の距離と比較して短いことがわかる。このような構成の電極間に電圧を印加すると、セル左端は、セル右端と比較して電界強度が高くなることがわかる。このような電極間に液晶を挟持して電圧を印加すると、セル右端からセル左端方向に向かって液晶が流動する。これは、不均一電界によって液晶の配向方向が一定ではなくなり、結果として誘電率の不均一性が誘起されることにより生じる力、誘電泳動力に基づくものと考えらえる。
【0012】
不均一電界を印加するための手段としては上述したように電極間の距離が変化するくさび型セルが代表的なものである。このようなくさび型構造は単独であっても複数組み合わせたものであっても良い。複数組み合わせた構造の例を
図2に示す。
【0013】
図2に示したように、くさび構造は2つ以上あっても良いが、単位くさび構造によって誘起される液晶の流動方向は同一方向に揃えておく必要がある。単位くさび構造によって誘起される液晶の流動方向を同一方向に揃えておけば、単位くさび構造を直列に増やすことによって流動圧力を増やすことができる。
【0014】
単位くさび構造をなす対向する2つの電極がなす角度は15~55°が好ましく、20~40°が更に好ましく、25~35°が特に好ましい。
【0015】
図1や
図2では電極形状は直線としたが、対向する電極の電極のなす角度が上述の範囲の中において曲面となっていても良い。
【0016】
電極間において最も狭い間隔は5μm以上が好ましく、10μm以上が好ましい。10μm以下にすると液晶流動の速度が遅くなってしまう傾向がある。電極間において最も広い間隔は10000μm以下が好ましく、7500μm以下が好ましく、5000μm以下が好ましいい。10000μm以上にすると、液晶流動に必要な印加電圧が過大になってしまう可能性がある。
【0017】
図1や
図2は液晶流動発生素子の断面図となっている。図における奥行方向の長さは特に制限が無いが、1mm以上が好ましく、2mm以上が特に好ましい。使用上必要な流量を確保できるように設計すれば良い。
【0018】
電極表面に配向膜と呼ばれる液晶の配向規制をする高分子薄膜を設けても良い。その場合には、電圧印加によってセル全体の誘電率の高低が最大になるように配向膜の配向種類を変えることが好ましい。例えば、誘電率の異方性が正の液晶を用いる場合、電極表面に形成する配向膜は水平配向膜(電極面に対して水平方向に液晶長軸を配向させる膜)を使用するのが好ましい。誘電率の異方性が負の液晶を用いる場合、電極表面に形成する配向膜は垂直配向膜(電極面に対して垂直方向に液晶長軸を配列させる膜)を使用するのが好ましい。
【0019】
図1や
図2において側面の蓋をするための側壁に配向処理をしても良い。この場合には、電圧印加によってセル全体の誘電率の高低が最大になるようにすると観点の他に液晶の流動を妨げないように設定しても良い。この点から、
図1や
図2において、水平方向にラビングした水平配向膜を利用することが好ましい。
【0020】
印加する適切な電圧は、電極間の距離によって変化するので、電界強度が目安となる。電極間隔が最も狭い場所において、電界強度が1~50V/μmになるように設定するのが好ましく、4~45V/μmになるように設定するのが更に好ましく、8~40V/μmに設定するのが好ましい。
【0021】
基板としては、液晶デバイス、ディスプレイ、光学部品や光学フィルムに通常使用する基材が好適に使用できる。そのような基材としては、ガラス基材、金属基材、セラミックス基材やプラスチック基材等の有機材料が挙げられる。特に基材が有機材料の場合、セルロース誘導体、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ナイロン又はポリスチレン等が挙げられる。中でもポリエステル、ポリスチレン、ポリオレフィン、セルロース誘導体、ポリアリレート、ポリカーボネート等のプラスチック基材が好ましい。基材の形状としては、平板の他、曲面を有するものであっても良い。また、基板は屈曲性を有していることが好ましい。屈曲性を有することで、ソフトアクチュエータの動力源として好適に組み合わせることができる。
【0022】
電極は、良伝導体であれば特に制限なく利用することができる。鉄、銅、アルミニウム等の金属の他に、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(In2O3―SnO2)、酸化インジウム亜鉛(In2O3―ZnO)、ニオブ添加二酸化チタン(Ti1-xNbxO2)、フッ素ドープ酸化スズ、グラフェンナノリボン又は金属ナノワイヤー等が使用することができる。
【0023】
使用する液晶は、単独化合物であっても良いが、液晶温度範囲、誘電率異方性や粘度を調節するために液晶組成物を使用することが好ましい。液晶組成物の誘電率異方性(Δε)の値が正のいわゆるp型液晶組成物であっても、Δεの値が負のいわゆるn型液晶組成物であっても良い。これら液晶組成物は、下記一般式(J)で表される化合物、一般式(N-1)で表される化合物及び一般式(L)で表される化合物から選ばれる化合物を適宜組み合わせて使用することが出来る。n型液晶を用いると、電極間隔が最も狭くなる隘路部において、流動方向と液晶の長軸方向が一致するので粘性抵抗を受けにくくなる。隘路における抵抗が流量に及ぼす影響で支配的(隘路が数10から数百μmレベルの大きさ)になる場合、n型液晶を用いることは有用である。
【0024】
p型液晶組成物は、一般式(J)で表される化合物を1種類又は2種類以上含有することが好ましい。これら化合物は誘電的に正の化合物(Δεが2より大きい。)に該当する。
【0025】
【0026】
(式中、RJ1は炭素原子数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH2-はそれぞれ独立して-CH=CH-、-C≡C-、-O-、-CO-、-COO-又は-OCO-によって置換されていてもよく、
nJ1は、0、1、2、3又は4を表し、
AJ1、AJ2及びAJ3はそれぞれ独立して、
(a) 1,4-シクロヘキシレン基(この基中に存在する1個の-CH2-又は隣接していない2個以上の-CH2-は-O-に置き換えられてもよい。)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の-CH=又は隣接していない2個以上の-CH=は-N=に置き換えられてもよい。)及び
(c) ナフタレン-2,6-ジイル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又はデカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基(ナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基中に存在する1個の-CH=又は隣接していない2個以上の-CH=は-N=に置き換えられても良い。)
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)及び基(c)はそれぞれ独立してシアノ基、フッ素原子、塩素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はトリフルオロメトキシ基で置換されていても良く、
ZJ1及びZJ2はそれぞれ独立して単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-OCH2-、-CH2O-、-OCF2-、-CF2O-、-COO-、-OCO-又は-C≡C-を表し、
nJ1が2、3又は4であってAJ2が複数存在する場合は、それらは同一であっても異なっていても良く、nJ1が2、3又は4であってZJ1が複数存在する場合は、それらは同一であっても異なっていても良く、
XJ1は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表す。)
上記一般式(J)中、AJ1、AJ2及びAJ3はそれぞれ独立してΔnを大きくすることが求められる場合には芳香族であることが好ましく、応答速度を改善するためには脂肪族であることが好ましく、トランス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-フェニレン基、1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基を表すことが好ましく、それらはフッ素原子により置換されていてもよく、下記の構造を表すことがより好ましく、
【0027】
【0028】
下記の構造を表すことがより好ましい。
【0029】
【0030】
上記一般式(J)中、AJ3は下記の構造を表すことがより好ましい。
【0031】
【0032】
上記一般式(J)中、XJ1はフッ素原子又はトリフルオロメトキシ基が好ましく、フッ素原子が好ましい。
【0033】
上記一般式(J)中、XJ1は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表すことが好ましく、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表すことがより好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を表すことがさらに好ましく、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表すことが特に好ましい。
【0034】
n型液晶組成物は、一般式(N-1)で表される化合物から選ばれる化合物を1種類又は2種類以上含有することが好ましい。これら化合物は誘電的に負の化合物(Δεの符号が負で、その絶対値が2より大きい。)に該当する。
【0035】
【0036】
(式中、RN11、RN12、はそれぞれ独立して炭素原子数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH2-はそれぞれ独立して-CH=CH-、-C≡C-、-O-、-CO-、-COO-又は-OCO-によって置換されていてもよく、
AN11、AN12、はそれぞれ独立して、
(a) 1,4-シクロヘキシレン基(この基中に存在する1個の-CH2-又は隣接していない2個以上の-CH2-は-O-に置き換えられてもよい。)及び
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の-CH=又は隣接していない2個以上の-CH=は-N=に置き換えられてもよい。)
(c) ナフタレン-2,6-ジイル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又はデカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基(ナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基中に存在する1個の-CH=又は隣接していない2個以上の-CH=は-N=に置き換えられても良い。)
(d) 1,4-シクロヘキセニレン基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)、基(c)及び基(d)はそれぞれ独立してシアノ基、フッ素原子又は塩素原子で置換されていても良く、
ZN11、ZN12、はそれぞれ独立して単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-OCF2-、-CF2O-、-CH=N-N=CH-、-CH=CH-、-CF=CF-又は-C≡C-を表し、
nN11、nN12、はそれぞれ独立して0~3の整数を表すが、nN11+nN12は1、2又は3であり、AN11~AN12、ZN11~ZN12が複数存在する場合は、それぞれ、それらは同一であっても異なっていても良い。)
本発明の液晶組成物は、一般式(L)で表される化合物を1種類又は2種類以上含有することが好ましい。一般式(L)で表される化合物は誘電的にほぼ中性の化合物(Δεの値が-2~2)に該当する。
【0037】
【0038】
(式中、RL1及びRL2はそれぞれ独立して炭素原子数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH2-はそれぞれ独立して-CH=CH-、-C≡C-、-O-、-CO-、-COO-又は-OCO-によって置換されていてもよく、
nL1は0、1、2又は3を表し、
AL1、AL2及びAL3はそれぞれ独立して
(a) 1,4-シクロヘキシレン基(この基中に存在する1個の-CH2-又は隣接していない2個以上の-CH2-は-O-に置き換えられてもよい。)及び
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個の-CH=又は隣接していない2個以上の-CH=は-N=に置き換えられてもよい。)
(c) ナフタレン-2,6-ジイル基、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基又はデカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基(ナフタレン-2,6-ジイル基又は1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基中に存在する1個の-CH=又は隣接していない2個以上の-CH=は-N=に置き換えられても良い。)
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)及び基(c)はそれぞれ独立してシアノ基、フッ素原子又は塩素原子で置換されていても良く、
ZL1及びZL2はそれぞれ独立して単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-OCF2-、-CF2O-、-CH=N-N=CH-、-CH=CH-、-CF=CF-又は-C≡C-を表し、
nL1が2又は3であってAL2が複数存在する場合は、それらは同一であっても異なっていても良く、nL1が2又は3であってZL2が複数存在する場合は、それらは同一であっても異なっていても良いが、一般式(N-1)及び一般式(J)で表される化合物を除く。)
組成物は、室温(25℃)において液晶相を呈することが好ましく、ネマチック相を呈することが更に好ましい。また、液晶上限温度は50℃以上が好ましく、75℃以上が更に好ましい。更に、液晶下限温度は-10℃以下が好ましく、-20℃以下が更に好ましい。
【0039】
組み合わせることができる化合物の種類に特に制限は無いが、低温での溶解性、転移温度、電気的な信頼性、複屈折率などの所望の性能に応じて組み合わせて使用する。使用する化合物の種類は、例えば本発明の一つの実施形態としては1種類であり、2種類であり、3種類である。またさらに、本発明の別の実施形態では4種類であり、5種類であり、6種類であり、7種類以上である。
【0040】
液晶の流動発生性能を向上させるためには、液晶組成物の誘電率異方性Δεの絶対値を大きくすることが好ましい。Δεの絶対値を大きくするためには一般式(N-1)又は一般式(J)で表される化合物の含有量を多くすることが好ましい。誘電率異方性の絶対値は、2以上が好ましく、4以上が更に好ましく、6以上が更にまた好ましく、8以上がより好ましく、11以上が特に好ましい。また液晶の流動発生性能を向上させるためには、液晶組成物の粘度(η)を低下させることも好ましい。
【0041】
液晶の絶縁劣化を抑制するためには、液晶の比抵抗を1×1012以上に調整すること好ましく、1×1013以上に調整することが更に好ましい。このようにすると、高電圧を印加した際に、電気泳動力による力の発生は無く、誘電泳動力による力の発生が支配的になる。液晶の比抵抗を上述のように一定値以上に保つためには、上記一般式(J)や一般式(N-1)中の基(a)(b)(c)の極性置換基としてフッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基又は2,2,2-トリフルオロエチル基を使用することが好ましく、フッ素原子を使用することが更に好ましい。
【0042】
また、比抵抗の他に、液晶ディスプレイの技術分野で用いられている電圧保持率の管理によっても絶縁劣化を抑制することができる。電圧保持率の具体的な値としては、セルギャップ5μmの液晶セルに注入し、室温(25℃)にて駆動電圧5V、フレーム時間16.6ms、電圧印加時間64μsで測定したとき、95%以上であることが好ましく、97%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0043】
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
【0044】
Tni :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)
Δn :298Kにおける屈折率異方性
Δε :298Kにおける誘電率異方性
η :293Kにおける粘度(mPa・s)
γ1 :298Kにおける回転粘度(mPa・s)
VHR :周波数60Hz,印加電圧5Vの条件下で特に断りがない限り60℃における電圧保持率(%)
尚、実施例において化合物の記載について以下の略号を用いる。
(環構造)
【0045】
【0046】
(側鎖構造及び連結構造)
(側鎖)
-n -CnH2n+1 炭素数nの直鎖状のアルキル基
n- CnH2n+1- 炭素数nの直鎖状のアルキル基
-On -OCnH2n+1 炭素数nの直鎖状のアルコキシ基
nO- CnH2n+1O- 炭素数nの直鎖状のアルコキシ基
-V -CH=CH2
V- CH2=CH-
-V1 -CH=CH-CH3
1V- CH3-CH=CH-
-2V -CH2-CH2-CH=CH2
V2- CH2=CH-CH2-CH2-
-2V1 -CH2-CH2-CH=CH-CH3
1V2- CH3-CH=CH-CH2-CH2-
-OCF3 -O-CF3
-F -F フッ素原子
F- F- フッ素原子
(連結基)
-CFFO- -CF2-O-
-OCFF- -O-CF2-
-1O- -CH2-O-
-O1- -O-CH2-
-COO- -COO-
-OCO- -OCO-
(参考例1)
下表の組成物P1を調製した。
【0047】
【0048】
組成物P1のTniは81℃、Δnは0.098、Δεは2.4、γ1は35mPa・s、VHRは99.1%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例2) 組成物P2の調製
下表の組成物P2を調製した。
【0049】
【0050】
組成物P2のTniは100℃、Δnは0.100、Δεは8.1、γ1は72mPa・s、VHRは99.1%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例3) 組成物P3の調製
下表の組成物P3を調製した。
【0051】
【0052】
組成物P3のTniは78℃、Δnは0.102、Δεは2.3、γ1は38mPa・s、VHRは99.2%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例4) 組成物P4の調製
下表の組成物P4を調製した。
【0053】
【0054】
組成物P4のTniは73℃、Δnは0.107、Δεは11.7、γ1は78mPa・s、VHRは98.0%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例5) 組成物P5の調製
下表の組成物P5を調製した。
【0055】
【0056】
組成物P5のTniは87℃、Δnは0.117、Δεは6.3、γ1は54mPa・s、VHRは99.3%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例6) 組成物N1の調製
下表の組成物N1を調製した。
【0057】
【0058】
組成物N1のTniは76℃、Δnは0.098、Δεは-3.7、γ1は89mPa・s、VHRは99.0%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例7) 組成物N2の調製
下表の組成物N2を調製した。
【0059】
【0060】
組成物N2のTniは91℃、Δnは0.115、Δεは-4.0、γ1は121mPa・s、VHRは99.3%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例8) 組成物N3の調製
下表の組成物N3を調製した。
【0061】
【0062】
組成物N3のTniは76℃、Δnは0.114、Δεは-4.4、γ1は117mPa・s、VHRは99.5%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例9) 組成物N4の調製
下表の組成物N4を調製した。
【0063】
【0064】
組成物N4のTniは73℃、Δnは0.112、Δεは-4.4、γ1は103mPa・s、VHRは99.4%、比抵抗は1×1013Ωcm以上であった。
(参考例10) 組成物N5の調製
下表の組成物N5を調製した。
【0065】
【0066】
組成物N5のT
niは76℃、Δnは0.101、Δεは-2.8、γ
1は74mPa・s、VHRは99.5%であった。
(参考例11)4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル(P6)の物性測定
4-シアノ-4’-ペンチルビフェニルのΔnは0.185、Δεは11.0、γ
1は46mPa・s、VHRは52%(測定温度は25℃)、比抵抗は3×10
9Ωcmであった。
(実施例1)
図3に示す評価セルを準備した。
図3(a)は、2mm厚のアルミ製電極(A)と(B)の形状、及びその位置関係を示したものである。電極(A)と(BOE)の最も近い間隔は0.2mm(200μm)とした。2つの電極(A)と(B)は、2枚の2mm厚のアクリル板で挟んだ構造となっている。
図3(b)は電極とシール材の位置関係を示したものである。電極(A)とシール材によって、電極(B)を取り囲む形となっている。
図3(c)に液晶を封入した場合の状態を示す。電極(B)の周りを液晶が取り囲んでおり、閉経路を形成している。
【0067】
評価セルに参考例1で調製した液晶組成物P1を封入した。電極(A)と電極(B)の間に、5kVの直流電圧を印加したところ、
図4中の矢印に示す方向の液晶の流動が観察された。
【0068】
3時間通電を続けても、液晶流動は継続した。その後、評価セルを分解して液晶を取り出して比抵抗を測定したところ、1×1013Ωcm以上であった。また、VHRは89.0%であった。
(実施例2~11)
液晶組成物を変えて、実施例1と同様の実験を行った。液晶流動の速さを、速い順に◎、〇、△とし、流動しなかったものを×と評価した。用いた液晶材料の誘電率異方性、流動発生装置への電圧印加前の液晶の比抵抗、VHR、電圧印加3時間後の液晶の流動、液晶の比抵抗、VHRを表に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
これらの結果から、誘電率異方性の絶対値が大きいほど流動を速くできることがわかる。また、極性基としてシアノ基を用いる液晶は、高電圧を長時間印加すると比抵抗の減少が見られ、絶縁劣化していることがわかる。また、流動も遅くなる傾向がわかる。一方、極性基としてフッ素原子を用いた液晶は高電圧を長時間印加しても比抵抗が一定値以上に保たれ、絶縁劣化していない。また、流動も保たれており、信頼性の高い流動発生装置を実現できる。