(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046464
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】溶剤組成物、洗浄方法および塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C11D 7/30 20060101AFI20220315BHJP
B08B 3/12 20060101ALI20220315BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20220315BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20220315BHJP
C23G 5/028 20060101ALI20220315BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20220315BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220315BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C11D7/30
B08B3/12 A
B08B3/08
B08B3/04 Z
C23G5/028
C09D7/20
C09D7/63
C09D201/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191385
(22)【出願日】2021-11-25
(62)【分割の表示】P 2019228197の分割
【原出願日】2016-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2015174528
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 允彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】津崎 真彰
(72)【発明者】
【氏名】光岡 宏明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡子
(57)【要約】
【課題】各種有機物の溶解性に優れ、充分な乾燥性を有し、かつ地球環境に悪影響を及ぼさず、安定化されて分解せず、しかも金属共存下での金属腐食を抑制する安定な溶剤組成物であり、洗浄や希釈塗布用途等の広範囲の工業用途で、金属、プラスチック、エラストマー等の様々な材質の物品に対し、悪影響を与えることなく使用することができる溶剤組成物の提供。
【解決手段】(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む溶剤(A)と、常圧における沸点が30℃以上60℃以下のHCFCからなる安定剤(B)とを含む溶剤組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む溶剤と、常圧における沸点が30℃以上60℃以下の飽和のハイドロクロロフルオロカーボンからなる安定剤とを含む溶剤組成物。
【請求項2】
前記溶剤の含有量に対する、前記安定剤の含有量の割合が1質量ppm~1質量%である、請求項1に記載の溶剤組成物。
【請求項3】
前記(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの含有量に対する前記安定剤の含有量の割合が1質量ppm~1質量%である、請求項1または2に記載の溶剤組成物。
【請求項4】
前記溶剤全量に対する前記(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンの含有量の割合が、80~100質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶剤組成物。
【請求項5】
前記常圧における沸点が30℃以上60℃以下の飽和のハイドロクロロフルオロカーボンが、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパンおよび1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の溶剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする洗浄方法。
【請求項7】
前記被洗浄物品に付着した加工油を洗浄する、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記加工油が、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油および線引き油からなる群より選ばれる1種以上である、請求項7に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記被洗浄物品が衣類である、請求項6に記載の洗浄方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の溶剤組成物に不揮発性有機化合物を溶解させて塗膜形成用組成物を作製し、該塗膜形成用組成物を被塗布物上に塗布した後、前記溶剤組成物を蒸発させて、前記不揮発性有機化合物からなる塗膜を形成することを特徴とする、塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤組成物、該溶剤組成物を用いた洗浄方法および該溶剤組成物を希釈塗布溶剤として用いた不揮発性有機化合物からなる塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、電子部品、精密機械部品、光学部品等の製造では、製造工程、組立工程、最終仕上げ工程等において、部品を洗浄用溶剤組成物によって洗浄し、該部品に付着したフラックス、加工油、ワックス、離型剤、ほこり等を除去することが行われている。また潤滑剤等の各種不揮発性有機化合物を含有する塗膜を有する物品の製造方法としては、例えば、該不揮発性有機化合物を希釈用溶剤に溶解した溶液を調製し、該溶液を被塗布物表面上に塗布した後に希釈用溶剤を蒸発させて塗膜を形成する方法が知られている。希釈用溶剤には、不揮発性有機化合物を充分に溶解させることができ、また充分な乾燥性を有していることが求められる。
【0003】
このような用途に用いる溶剤としては、不燃性で毒性が低く、安定性に優れ、金属、プラスチック、エラストマー等の基材を侵さず、化学的および熱的安定性に優れる点から、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン等のクロロフルオロカーボン(以下「CFC」という。)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等のハイドロクロロフルオロカーボン(以下「HCFC」という。)等を含有するフッ素系溶剤等が使用されていた。
【0004】
しかし、CFCおよびHCFCは、化学的に極めて安定であることから、気化後の対流圏内での寿命が長く、拡散して成層圏にまで達する。そのため、成層圏に到達したCFCまたはHCFCが紫外線により分解され、塩素ラジカルを発生してオゾン層が破壊される問題がある。
【0005】
一方、塩素原子を有さず、オゾン層に悪影響を及ぼさない溶剤としては、ペルフルオロカーボン(以下「PFC」という。)が知られている。またCFCおよびHCFCの代替溶剤として、ハイドロフルオロカーボン(以下「HFC」という。)、ハイドロフルオロエーテル(以下「HFE」という。)等も開発されている。しかし、HFCやPFCは、地球温暖化係数が大きいという問題がある。
【0006】
不燃性で毒性が低いというCFC、HCFC、HFC、HFEおよびPFCの特徴を持ちつつ、オゾン層に悪影響を及ぼさず、かつ、地球温暖化係数が小さい、地球環境に悪影響を及ぼさない新しい溶剤として、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(CF3CH=CClH、HCFO-1233zd(Z)、以下「1233zd(Z)」ともいう。)が提案されている。
【0007】
特許文献1には、1233zd(Z)を含む洗浄剤が開示されている。1233zd(Z)は、分解しやすいために大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さく、地球環境への影響が小さいという優れた性質を有している。
【0008】
しかし、1233zd(Z)は、分解しやすいために、安定性に劣る。そのため、1233zd(Z)を洗浄溶剤や希釈塗布溶剤として使用した場合に、使用中の1233zd(Z)の分解により溶剤が酸性化することや、1233zd(Z)の分解により発生する酸等によって、溶剤と接触する金属、例えば保存容器や配管、装置等の材料として用いられた金属が腐食するという問題があった。また、使用後の溶剤を揮発させた蒸気を回収し、これを冷却して凝集し、溶剤を繰り返し再利用する場合があるが、特に、その繰り返し使用の際の安定性の低下が大きな問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、各種有機物の溶解性に優れ、充分な乾燥性を有し、かつ地球環境に悪影響を及ぼすことのない1233zd(Z)を含有する溶剤を含む溶剤組成物であって、該溶剤が安定化されて分解が抑制された状態で保管が可能であり、接触する金属の腐食が抑制された溶剤組成物の提供を目的とする。
【0011】
本発明は、地球環境に悪影響を及ぼさず、金属の腐食が抑制され、かつ安定的、効率的な被洗浄物品の洗浄方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、不揮発性有機化合物からなる塗膜の形成方法において、地球環境に悪影響を及ぼさず、金属の腐食が抑制された方法であり、かつ均質な塗膜が安定して簡便に形成可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の構成を有する溶剤組成物、洗浄方法および塗膜の形成方法を提供する。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り飽和のハイドロクロロフルオロカーボンをHCFCといい、HCFOとは区別して用いる。また、HCFCを飽和のハイドロクロロフルオロカーボンのように明記する場合もある。また、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記し、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、幾何異性体を有する化合物の略称に付けられた(E)は、E体(トランス体)を示し、(Z)はZ体(シス体)を示す。該化合物の名称、略称において、E体、Z体の明記がない場合、該名称、略称は、E体、Z体、およびE体とZ体の混合物を含む総称を意味する。
【0014】
[1](Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233zd(Z))を含む溶剤と、常圧における沸点が30℃以上60℃以下の飽和のハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)からなる安定剤とを含む溶剤組成物。
[2]前記溶剤の含有量に対する、前記安定剤の含有量の割合が1質量ppm~1質量%である、[1]に記載の溶剤組成物。
[3]前記1233zd(Z)の含有量に対する前記安定剤の含有量の割合が1質量ppm~1質量%である、[1]または[2]に記載の溶剤組成物。
[4]前記溶剤全量に対する前記1233zd(Z)の含有量の割合が、80~100質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の溶剤組成物。
[5]前記常圧における沸点が30℃以上60℃以下の飽和のHCFCが、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(CF3-CHCl-CH3、HCFC-253db、以下「253db」ともいう。)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(CF3-CH2-CH2Cl、HCFC-253fb、以下「253fb」ともいう。)、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(CF3-CF2-CHCl2、HCFC-225ca、以下「225ca」ともいう。)および1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(CClF2-CF2-CClFHH、HCFC-225cb、以下「225cb」ともいう。)からなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の溶剤組成物。
【0015】
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする洗浄方法。
[7]前記被洗浄物品に付着した加工油を洗浄する、[6]に記載の洗浄方法。
[8]前記加工油が、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油および線引き油からなる群より選ばれる1種以上である、[7]に記載の洗浄方法。
[9]前記被洗浄物品が衣類である、[6]に記載の洗浄方法。
[10]前記[1]~[5]のいずれかに記載の溶剤組成物に不揮発性有機化合物を溶解させて塗膜形成用組成物を作製し、該塗膜形成用組成物を被塗布物上に塗布した後、前記溶剤組成物を蒸発させて、前記不揮発性有機化合物からなる塗膜を形成することを特徴とする、塗膜の形成方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、各種有機物の溶解性に優れ、充分な乾燥性を有し、かつ地球環境に悪影響を及ぼすことのない溶剤を含有する溶剤組成物であって、該溶剤が安定化されて分解が抑制された状態で保管が可能であり、接触する金属の腐食が抑制された溶剤組成物を提供できる。
【0017】
本発明の洗浄方法によれば、地球環境に悪影響を及ぼさず、金属の腐食が抑制され、かつ安定的、効率的な被洗浄物品の洗浄が可能である。
【0018】
本発明の不揮発性有機化合物からなる塗膜の形成方法は、地球環境に悪影響を及ぼさず、金属の腐食が抑制された方法であり、該形成方法によれば、不揮発性有機化合物の均質な塗膜が安定して簡便に形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本実施形態の溶剤組成物が使用される洗浄装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[溶剤組成物]
本発明の溶剤組成物は、以下の溶剤(A)および安定剤(B)を含有する。
溶剤(A):1233zd(Z)を含む溶剤
安定剤(B):常圧における沸点が30~60℃のHCFCからなる安定剤
なお、本明細書において「常圧」とは760mmHgである。また、特に断りのない限り本明細書における「沸点」は、常圧における沸点である。
【0021】
本発明の溶剤組成物に用いる1233zd(Z)は、炭素原子-炭素原子間に二重結合を持つHCFOの1種であり、大気中での寿命が短く、オゾン破壊係数や地球温暖化係数が小さい。また、1233zd(Z)の沸点は約40℃(常圧)で乾燥性に優れている。また、沸騰させて蒸気となっても約40℃であるので、樹脂部品等の熱による影響を受けやすい部品に対しても悪影響を及ぼし難い。また、1233zd(Z)は引火点を持たず、表面張力や粘度も低く、室温でも容易に蒸発する等、優れた性能を有している。
【0022】
一方、1233zd(Z)は、安定性が充分でなく、室温に保管されても徐々に分解して酸性化する。本発明は、1233zd(Z)を含む溶剤(A)に、常圧における沸点が30~60℃のHCFCからなる安定剤(B)を組合せることで、1233zd(Z)の分解が抑制され、1233zd(Z)を長期間安定して使用できることを見出してなされたものである。
【0023】
以下、本発明の溶剤組成物が含有する溶剤(A)および安定剤(B)について説明する。
【0024】
<1233zd(Z)を含む溶剤(A)>
本発明の溶剤組成物は、1233zd(Z)を含有する溶剤(A)を含有する。溶剤(A)は1233zd(Z)のみで構成されてもよく、1233zd(Z)の有する上記特徴を害しない範囲で、溶質となる各種の物質の溶解性を高める、揮発速度を調節する等の目的に応じて、1233zd(Z)以外の溶剤(以下「溶剤(a1)」という。)を含有していてもよい。
【0025】
溶剤(a1)は1233zd(Z)に可溶な溶剤であれば特に制限されない。なお、1233zd(Z)に可溶な溶剤とは、1233zd(Z)と該溶剤とを任意の混合割合で混合した際に、常温(25℃)で撹拌することにより相分離や濁りを起こさずに1233zd(Z)に均一に溶解する溶剤を意味する。また、溶剤とは常温(25℃)で液状の物質をいう。ただし、本発明における安定剤(B)を除く。
【0026】
本発明の溶剤組成物における溶剤(A)の含有割合は、溶剤組成物の全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。溶剤組成物における溶剤(A)の含有割合は多いほど好ましい。したがって、溶剤組成物における溶剤(A)の含有割合の上限値は、特に好ましくは用いる安定剤(B)の含有割合の下限値を引いた値となる。
【0027】
溶剤(A)全量に対する1233zd(Z)の含有量の割合、すなわち1233zd(Z)と溶剤(a1)の合計量100質量%に対する1233zd(Z)の含有量の割合としては、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。溶剤(A)全量に対する1233zd(Z)の含有量の割合が前記下限値以上であれば、1233zd(Z)が持つ優れた乾燥性が阻害されることがない。1233zd(Z)の含有割合の上限値は、100質量%である。
【0028】
1233zd(Z)は、例えば、特表2012-509324号公報の段落[0011]~[0012]に記載の方法や、特表2015-505302号公報に記載の方法、国際公開2014/175403号に記載の方法で得られた反応生成物を蒸留精製する方法等で製造できる。
【0029】
具体的には、1,1,3,3-テトラクロロロプロペン(HCO-1230za)および/または1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)を、触媒の存在下または不存在下で気相フッ素化させる方法、またはHCO-1230zaを液相フッ素化させる方法、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-233da)を脱塩素化剤で処理する方法、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa、以下「243fa」ともいう。)および1,1-ジクロロ-1,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fb、以下「243fb」ともいう。)の合計量に対して、243fbが5モル%以下の組成物を脱塩化水素反応させる方法等で1233zd(Z)を含む反応生成物を得る。得られた1233zd(Z)を含む反応生成物を蒸留精製して1233zd(Z)を製造することができる。
【0030】
溶剤(A)が、溶剤(a1)を含有する場合には、溶剤(A)全量に対する溶剤(a1)の含有量の割合、すなわち1233zd(Z)と溶剤(a1)の合計量100質量%に対する溶剤(a1)の含有量の割合としては、0.1~50質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0031】
溶剤(A)全量に対する溶剤(a1)の含有量の割合が上記下限値以上であれば、溶剤(a1)による効果が充分に得られる。溶剤(A)全量に対する溶剤(a1)の含有量の割合が上記上限値以下であれば、溶剤組成物は乾燥性に優れる。
【0032】
また、1233zd(Z)と溶剤(a1)が共沸組成を形成する場合は、共沸組成での使用も可能である。
【0033】
溶剤(a1)としては、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、クロロカーボン、HFCおよびHFEからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0034】
炭化水素としては、炭素数が5以上の炭化水素が好ましい。炭素数が5以上の炭化水素であれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和炭化水素であっても、不飽和炭化水素であってもよい。
【0035】
炭化水素としては、n-ペンタン、2-メチルブタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、2,4-ジメチルペンタン、n-オクタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、2-メチル-3-エチルペンタン、3-メチル-3-エチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2-メチルヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、n-ノナン、2,2,5-トリメチルヘキサン、n-デカン、n-ドデカン、2-メチル-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキサン、シクロヘキセン、α-ピネン、ジペンテン、デカリン、テトラリン、アミルナフタレンが好ましく、n-ペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタンが特に好ましい。
【0036】
アルコールとしては、炭素数1~16のアルコールが好ましい。炭素数1~16のアルコールであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和アルコールであっても、不飽和アルコールであってもよい。
【0037】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、α-テルピネオール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0038】
ケトンとしては、炭素数3~9のケトンが好ましい。炭素数3~9のケトンであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和ケトンであっても、不飽和ケトンであってもよい。
【0039】
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、ジイソブチルケトン、メシチルオキシド、ホロン、2-オクタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、2,4-ペンタンジオン、2,5-ヘキサンジオン、ジアセトンアルコール、アセトフェノンが好ましく、アセトン、メチルエチルケトンが特に好ましい。
【0040】
エステルとしては、炭素数2~19のエステルが好ましい。炭素数2~19のエステルであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和エステルであっても、不飽和エステルであってもよい。
【0041】
エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メトキシブチル、酢酸sec-ヘキシル、酢酸2-エチルブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、マロン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が好ましく、酢酸メチル、酢酸エチルが特に好ましい。
【0042】
クロロカーボンとしては、炭素数1~3のクロロカーボンが好ましい。炭素数1~3のクロロカーボンであれば、鎖状であっても環状であってもよく、また飽和クロロカーボンであっても、不飽和クロロカーボンであってもよい。
【0043】
クロロカーボンとしては、塩化メチレン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、(Z)-1,2-ジクロロエチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等が好ましく、塩化メチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレンが特に好ましい。
【0044】
HFCとしては、炭素数4~8の鎖状または環状のHFCが好ましく、1分子中のフッ素原子数が水素原子数以上であるHFCがより好ましい。
【0045】
HFCとしては、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタンが好ましく、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサンが特に好ましい。
【0046】
HFEとしては、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタンが好ましく、(ペルフルオロブトキシ)メタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタンが特に好ましい。
【0047】
本発明の溶剤組成物に含まれる溶剤(a1)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0048】
溶剤(a1)は引火点を持たない溶剤であることが好ましい。引火点を持たない溶剤(a1)としては、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン等のHFCや、(ペルフルオロブトキシ)メタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン等のHFEが挙げられる。溶剤(a1)として引火点を有する溶剤を用いる場合には、本発明の溶剤組成物とした際に引火点を持たない範囲で、1223zd(Z)と混合して用いることが好ましい。
【0049】
なお、本発明の溶剤組成物においては、溶剤(a1)として、1233zd(Z)の幾何異性体である(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd(E)、以下「1233zd(E)」ともいう。)を、溶剤(A)全量に対して0.1質量%以下の含有割合で含有してもよい。1233zd(E)は、上記1233zd(Z)を製造する際に1233zd(Z)とともに生成される副生物である。1233zd(Z)と1233zd(E)を含む反応生成物から1233zd(E)を除去するのには高度な精製が要求される。よって、本発明の溶剤組成物が1233zd(E)を上記割合で含有する場合、1233zd(Z)の高度な精製を省略することができ、生産性の向上につながる。
【0050】
<安定剤(B)>
本発明の溶剤組成物は、安定剤(B)として、常圧における沸点が30~60℃のHCFCからなる安定剤を含む。本発明における安定剤とは、1233zd(Z)の酸素による分解を抑制する能力を有する化合物をいう。
【0051】
ここで、ある化合物が1233zd(Z)の酸素による分解を抑制する能力は、酸素により1233zd(Z)が分解し生じた酸を測定することで評価できる。例えば、1233zd(Z)に所定の割合で検体を溶解させた試験溶液における初期pH値と、該試験溶液を一定期間保存した後のpH値との差を指標として評価することができる。
【0052】
なお、本発明における溶剤組成物のpHとは、溶剤組成物とpH7の純水を混合して所定時間振盪し、その後静置して2層分離させたときの上層の水層のpHをいう。具体的なpHの測定条件は後述の実施例に記載したpH測定の項に記載した条件を採用することができる。
【0053】
溶剤(A)の含有量に対する安定剤(B)の含有量の割合は、安定剤の効果の観点、1233zd(Z)の能力を充分に発揮させる観点およびオゾン層への影響を抑える観点から、1質量ppm~1質量%が好ましい。安定剤の効果の観点から、3質量ppm以上であることがより好ましく、5質量ppm以上であることがさらに好ましい。また、1233zd(Z)の能力を充分に発揮させる観点、オゾン層への影響を抑える観点から、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0054】
1233zd(Z)の含有量に対する安定剤(B)の含有量の割合は、安定剤の効果の観点、1233zd(Z)の能力を充分に発揮させる観点およびオゾン層への影響を抑える観点から、1質量ppm~1質量%が好ましく、3質量ppm~0.5質量%がより好ましく、5質量ppm~0.1質量%が最も好ましい。
【0055】
1233zd(Z)の含有量に対する安定剤(B)の含有量の割合は、安定剤の効果の観点から、3質量ppm以上であることがより好ましく、5質量ppm以上であることがさらに好ましい。また、1233zd(Z)の能力を充分に発揮させる観点、オゾン層への影響を抑える観点から、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
本発明に用いる安定剤(B)は、常圧における沸点が30~60℃のHCFCからなる。安定剤(B)としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、安定剤(B)が2種以上の化合物からなる場合、前記安定剤(B)の含有量の割合は、2種以上の化合物の合計含有量の割合を意味する。
【0057】
(常圧における沸点が30~60℃のHCFC)
HCFCとは、分子内に塩素原子、フッ素原子、水素原子および炭素原子をそれぞれ少なくとも一つ以上有する飽和化合物であり、下記一般式(1)で表わすことができる。
CwHxClyFz ……(1)
(但し、上記式中、x、y、z、wはいずれも整数であり、w≧1、x≧1、y≧1、z≧1、x+y+z=2w+2を満たす数である。)
【0058】
安定剤(B)として用いるHCFCは上記一般式(1)で示される化合物のうち、常圧での沸点が30~60℃、好ましくは35~55℃のものである。
【0059】
沸点が上記範囲にあるHCFCとしては、1-クロロ-2-フルオロエタン(HCFC-151)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエタン(HCFC-142a)、1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b)、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC-132b)、1-クロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-244fa)、2-クロロ-1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-235da)、253fb、225ca、225cbが安定剤の効果の観点、1233zd(Z)の能力を充分に発揮させる観点およびオゾン層への影響を抑える観点から好ましい。253db(沸点:30.1℃)、253fb(沸点:45.1℃)、225ca(沸点:51.1℃)、225cb(沸点:56.1℃)が特に好ましい。
【0060】
さらに、本発明の溶剤組成物は、溶剤(A)、安定剤(B)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常溶剤組成物が含有するその他の安定剤等を含有していてもよい。
【0061】
本発明の溶剤組成物は、上記溶剤(A)、安定剤(B)、任意に添加するその他の安定剤等の各成分を秤量し混合することで作製できる。
【0062】
以上、説明した本発明の溶剤組成物は、各種有機物の溶解性に優れ、充分な乾燥性を有し、かつ大気中の寿命が短く地球環境に悪影響を及ぼさず、安定化されて分解しない、接触する金属の腐食が抑制された、安定な溶剤組成物である。
【0063】
本発明の溶剤組成物は、金属、プラスチック、エラストマー、ガラス、セラミックス、布帛等の広範囲の材質の被洗浄物品に対して、悪影響を与えることのない、洗浄や塗膜形成、ドライクリーニングのための溶剤組成物として使用できる。
【0064】
[洗浄方法]
本発明の洗浄方法は、上記本発明の溶剤組成物によって被洗浄物品に付着された付着物を洗浄する方法であり、本発明の溶剤組成物と被洗浄物品とを接触させることを特徴とする。
【0065】
本発明の溶剤組成物を用いた被洗浄物品の洗浄方法は、本発明の溶剤組成物と被洗浄物品を接触させる以外は特に限定されない。例えば、手拭き洗浄、浸漬洗浄、スプレー洗浄、浸漬揺動洗浄、浸漬超音波洗浄、蒸気洗浄、およびこれらを組み合わせた方法等を採用すればよい。前記接触の時間、回数、その際の本発明の溶剤組成物の温度などの洗浄条件や、洗浄装置は適宜選定することができる。
【0066】
本発明の洗浄方法における被洗浄物品としては例えば精密機械工業、金属加工工業、光学機械工業、電子工業、プラスチック工業等における金属、セラミックス、ガラス、プラスチック、エラストマー等の加工部品等が挙げられる。具体的には、バンパー、ギア、ミッション部品、ラジエーター部品等の自動車部品、プリント基板、IC部品、リードフレーム、モーター部品、コンデンサー等の電子電気部品、ベアリング、ギア、エンプラ製歯車、時計部品、カメラ部品、光学レンズ等の精密機械部品、印刷機械、印刷機ブレード、印刷ロール、圧延製品、建設機械、ガラス基板、大型重機部品等の大型機械部品、食器類等の生活製品や繊維製品等が挙げられる。
【0067】
本発明の洗浄方法において、洗浄除去される付着物は、上記各種の被洗浄物品に付着したフラックス、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油、線引き油等の加工油、離型剤、ほこり等が挙げられる。本溶剤組成物は従来の溶剤組成物であるHFCやHFEなどと比較して加工油の溶解性に優れることから、加工油の洗浄に用いることが好ましい。
【0068】
また、本発明の溶剤組成物は、金属、プラスチック、エラストマー、ガラス、セラミックスおよびそれらの複合材料等、様々な材質の被洗浄物品の洗浄に適用できる。
【0069】
さらに、本発明の溶剤組成物は、天然繊維製や合成繊維製の布帛などからなる各種衣類の汚れを除去するための洗浄に使用できる。
【0070】
次に、本発明の洗浄方法に用いられる洗浄装置の一例について説明する。
図1は本発明の洗浄方法に使用可能な洗浄装置10の構造を概略的に示す図である。
【0071】
図1に示す洗浄装置10は、主として、電子電気部品、精密機械部品、光学機器部品等を洗浄するための、3槽式超音波洗浄装置である。洗浄装置10は、主な構造として溶剤組成物Lを入れる洗浄槽1、リンス槽2および蒸気発生槽3、溶剤組成物Lの蒸気に満たされる蒸気ゾーン4、蒸発した溶剤組成物Lを冷却する冷却管9、冷却管9によって凝縮された溶剤組成物Lと冷却管に付着した水とを静置分離するための水分離槽5を備えている。実際の洗浄においては被洗浄物品Dを専用のジグやカゴ等に入れて、洗浄装置10内を洗浄槽1、リンス槽2、蒸気発生槽3直上の蒸気ゾーン4の順に移動しながら洗浄を完了させる。
【0072】
洗浄槽1の下部にはヒーター7および超音波振動子8が備えられている。洗浄槽1内で、ヒーター7によって本発明の溶剤組成物Lを加熱昇温し、一定温度にコントロールしながら、超音波振動子8により発生したキャビテーションで被洗浄物品Dに物理的な力を付与し、被洗浄物品Dに付着した汚れを洗浄除去する。このときの、物理的な力としては超音波以外にも、揺動や溶剤組成物Lの液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されているいかなる方法を使用してもよい。なお、洗浄槽1における被洗浄物品Dの洗浄において、超音波振動は必須ではなく、必要に応じて超音波振動なしに洗浄を行ってもよい。洗浄装置10においては被洗浄物品Dを洗浄槽1からリンス槽2に移動する際、溶剤組成物L成分が被洗浄表面に付着している。そのため、被洗浄物品D表面での乾燥による汚れ成分の固着を防止しつつ、被洗浄物品Dをリンス槽2へ移動することが可能となる。
【0073】
リンス槽2では、被洗浄物品Dを溶剤組成物Lに浸漬することで、洗浄槽1から引き上げられる際に被洗浄物品Dに付着した溶剤組成物L中に溶解している汚れ成分を除去する。リンス槽2は、洗浄槽1と同様に被洗浄物品Dに物理的な力を付与する手段を有してもよい。洗浄装置10は、リンス槽2に収容される溶剤組成物Lのオーバーフローが洗浄槽1に流入する設計である。また、洗浄槽1は液面が所定の高さ以上になるのを防ぐ目的で溶剤組成物Lを蒸気発生槽3に送液する配管11を備えている。
【0074】
蒸気発生槽3の下部には、蒸気発生槽3内の溶剤組成物Lを加熱するヒーター6が備えられている。蒸気発生槽3内に送液された溶剤組成物Lは、ヒーター6で加熱沸騰され、その組成の一部または全部が蒸気となって矢印13の示す方向、すなわち蒸気発生槽3の上方へ上昇し、蒸気発生槽3の直上に溶剤組成物Lの蒸気で満たされた蒸気ゾーン4が形成される。リンス層2での洗浄を終えた被洗浄物品Dは蒸気発生槽3の直上の蒸気ゾーン4に移送され溶剤組成物Lの蒸気に曝されて蒸気洗浄される。蒸気洗浄においては、被洗浄物品Dの表面で溶剤組成物Lの蒸気が凝集し液化した成分が被洗浄物品Dを洗浄する。蒸気洗浄で使用される溶剤組成物Lの蒸気には汚れ成分が全く含まれないため、洗浄工程最後の仕上げ洗浄として有効である。
【0075】
なお、洗浄装置10では、各槽上部の空間を蒸気ゾーン4として共通に使用している。洗浄槽1、リンス槽2および蒸気発生槽3から発生した蒸気は、洗浄装置10の壁面上部に備えられた冷却管9で冷却され凝縮されることで、溶剤組成物Lとして蒸気ゾーン4から回収される。凝集された溶剤組成物Lは、その後、冷却管9と水分離槽5をつなぐ配管14を介して水分離槽5に収容される。水分離槽5内で、溶剤組成物Lに混入した水が分離される。水が分離された溶剤組成物Lは、水分離槽5とリンス槽2をつなぐ配管12を通ってリンス槽2に戻される。洗浄装置10では、このような機構により、溶剤組成物の蒸発ロスを抑制することが可能となる。
【0076】
さらに、洗浄効果を高めるためには、リンス槽2に冷却装置を設置し、これによってリンス槽2内の溶剤組成物Lの温度を低温に保ち、浸漬する被洗浄物品Dの温度を低くしておくことによって、蒸気温度との温度差を広げ、被洗浄物品Dにおける溶剤組成物Lの凝縮量を増やすことが効果的である。
【0077】
洗浄装置10においては、このように、各槽に収容した溶剤組成物Lを液体や気体に状態変化させながら循環することによって、リンス槽2に持ち込まれた汚れ成分を連続的に蒸気発生槽3に蓄積し、リンス槽2の清浄度の維持や蒸気ゾーン4における蒸気洗浄が可能となる。
【0078】
(ドライクリーニング用溶剤組成物)
次に、本発明の溶剤組成物を、各種衣類の汚れの除去洗浄に用いる場合について説明する。
【0079】
本発明の溶剤組成物は、衣類の洗浄用溶剤、すなわち、ドライクリーニング用溶剤として適している。本発明の溶剤組成物を用いるドライクリーニング用途としては、シャツ、セーター、ジャケット、スカート、ズボン、ジャンパー、手袋、マフラー、ストール等の衣類に付着した汚れの洗浄除去が挙げられる。
【0080】
特に、本発明の溶剤組成物は、綿、麻、ウール、レーヨン、ポリエステル、アクリル、ナイロン等といった繊維からなる衣類や、金具、ボタン、ファスナー等の部品やスパンコール等の修飾物が取り付けられた衣類のドライクリーニングに適用できる。
【0081】
さらに、本発明の溶剤組成物をドライクリーニング用溶剤として使用する際には、汗や泥等の水溶性汚れの除去性能を高めるために、本発明の溶剤組成物にソープを添加したドライクリーニング用溶剤組成物として用いることができる。ソープとはドライクリーニングに用いられる界面活性剤を示す。ソープとしては、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤または両イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。1233zd(Z)は、分子に塩素原子を有するため様々な有機化合物に幅広い溶解性を持つ。そのため、HFE、HFCのように、溶剤によってソープを最適化する必要がなく、種々のソープが使用できる。
【0082】
ソープの具体例としては、カチオン性界面活性剤ではドデシルジメチルアンモニウムクロライド、トリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。ノニオン性界面活性剤ではポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、リン酸と脂肪酸のエステル等の界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤では、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などのアルキル硫酸エステル塩、脂肪酸塩(せっけん)などのカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩等のスルホン酸塩が挙げられる。両イオン性界面活性剤では、アルキルベタイン等のベタイン化合物が挙げられる。
【0083】
ドライクリーニング用溶剤組成物中のソープの含有量の割合は、ドライクリーニング用溶剤組成物に含まれる溶剤組成物の全量に対して、0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.2~2質量%である。
【0084】
以上説明した本発明の洗浄方法によれば、上記本発明の溶剤組成物を用いることで、溶剤組成物の分解が抑制されて、長期間の繰り返し洗浄が可能となる。また、本発明の溶剤組成物を用いれば、蒸留再生、濾過再生などの再生操作や、飛散した溶剤組成物の蒸気を回収するガス回収等も、問題なく適宜組み合わせることができる。
【0085】
[塗膜の形成方法]
本発明の溶剤組成物は、不揮発性有機化合物の希釈塗付用の溶剤(希釈塗布溶剤)に使用できる。すなわち本発明の塗膜の形成方法は、上記本発明の溶剤組成物に不揮発性有機化合物を溶解させて塗膜形成用組成物を作製し、該塗膜形成用組成物を被塗布物上に塗布した後、前記溶剤組成物を蒸発させて、前記不揮発性有機化合物からなる塗膜を形成することを特徴とする。
【0086】
ここで、本発明における不揮発性有機化合物とは、沸点が本発明の溶剤組成物より高く、溶剤組成物が蒸発した後も有機化合物が表面に残留するものを示す。不揮発性有機化合物として、具体的には、物品に潤滑性を付与するための潤滑剤(例えば、パーフルオロポリエーテル、アルキルベンゼン、ポリオールエーテル、ポリオールエステル、鉱物油、シリコーンオイル等)、金属部品の防錆効果を付与するための防錆剤、物品に撥水性を付与するための防湿コート剤、物品への防汚性能を付与するための指紋除去付着防止剤等の防汚コート剤等が挙げられる。本発明の塗膜の形成方法においては、溶解性の観点から不揮発性有機化合物として潤滑剤を用いることが好ましい。
【0087】
本発明の塗膜の形成方法を、被塗布物上に潤滑剤の塗膜を形成する場合を例にして以下に説明する。
【0088】
本発明の溶剤組成物を、潤滑剤の希釈塗布用の溶剤として使用する場合には、潤滑剤を本発明の溶剤組成物に溶解して潤滑剤組成物(塗膜形成用組成物)とし、その潤滑剤組成物を被塗布物上に塗布し、溶剤組成物を蒸発させ、前記被塗布物上に潤滑剤塗膜を形成させる。
【0089】
潤滑剤は、2つの部材が互いの面を接触させた状態で運動するときに、接触面における摩擦を軽減し、熱の発生や摩耗損傷を防ぐために用いるものを意味する。潤滑剤は、液体(オイル)、半固体(グリース)、固体のいずれの形態であってもよい。
【0090】
潤滑剤としては、1233zd(Z)への溶解性が優れる点から、フッ素系潤滑剤またはシリコーン系潤滑剤が好ましい。なお、フッ素系潤滑剤とは、分子内にフッ素原子を有する潤滑剤を意味する。また、シリコーン系潤滑剤とは、シリコーンを含む潤滑剤を意味する。
【0091】
上記潤滑剤組成物に含まれる潤滑剤は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。フッ素系潤滑剤とシリコーン系潤滑剤は、それぞれを単独で使用してもよく、それらを併用してもよい。
【0092】
上記潤滑剤組成物(100質量%)中の潤滑剤の含有量の割合は、0.01~50質量%が好ましく、0.05~30質量%がより好ましく、0.1~20質量%がさらに好ましい。潤滑剤組成物の潤滑剤を除く残部が溶剤組成物である。潤滑剤の含有量の割合が前記範囲内であれば、潤滑剤組成物を被塗布物上に塗布したときの塗布膜の膜厚、および乾燥後の潤滑剤塗膜の厚さを適正範囲に調整しやすい。
【0093】
本発明の塗膜の形成方法によれば、潤滑剤塗膜の形成に用いた際に、潤滑剤を溶解する前の本発明の溶剤組成物の状態でも、上記潤滑剤組成物の状態でも、これらが保管中や使用中に分解することなく、また金属共存下であっても金属腐食の発生を抑制できる。それにより、本発明においては、地球環境に悪影響を及ぼさずに生産性が高い塗膜形成が可能である。
【0094】
この潤滑剤の希釈塗布用途と同様に、防錆剤を本発明方法の溶剤組成物に溶かして、被塗布物上に塗布し、本発明の溶剤組成物を蒸発させ、前記被塗布物上に防錆剤塗膜を形成させることもできる。防湿コート剤や防汚コート剤等のその他の不揮発性有機化合物の塗膜を形成させる場合も同様である。
【0095】
被塗布物としては、金属、プラスチック、エラストマー、ガラス、セラミックス等、様々な材質の被塗布物を採用できる。
【実施例0096】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。例1~35が本発明の溶剤組成物の実施例、例36が比較例である。
【0097】
[例1~36]
(1233zd(Z)の合成)
国際公開2014/175403号の実施例3の方法により得られた蒸留後釜残分をさらに蒸留精製することで、純度99.9質量%の1233zd(Z)を含む組成物(以下「1233zd(Z)組成物」という。)を得る。すなわち、テトラn-ブチルアンモニウムクロリド(TBAC)の存在下、243faと243fbを含み、243faと243fbの合計に対して243fbが5モル%以下である原料組成物に水酸化ナトリウムを加えて反応生成物を得、これを蒸留精製して1233zd(Z)組成物を得る。1233zd(Z)組成物中の、1233zd(Z)以外の0.1質量%の成分は(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233zd(E))である。
【0098】
(253fbの合成)
US公開2015-0045590のExample5 StepA、StepB記載の方法で253fbを含む粗液を得、さらに蒸留精製することで、純度100.0質量%の253fbを得る。すなわち、2質量%のパラジウム(Pd)を担持させたカーボン(C)触媒の存在下、3,3,3-トリフルオロプロペンと水素を反応させて3,3,3-トリフルオロプロパンを得る。該3,3,3-トリフルオロプロパンと塩素を加熱下で反応させて、253fbを含む粗液を得、これを蒸留精製することで、純度100.0質量%の253fbを得る。
【0099】
(253dbの合成)
非特許文献Journal of OrganicChemistry 1989, Vol54, No6, p1433に記載の方法で純度100.0質量%の253dbを得る。すなわち、トリエチルアミン存在下ジクロロメタン中で希釈した1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールとノナフルオロブタンスルホン酸フロリドを反応させて、1,1,1-トリフルオロイソプロピルノナフレートを得る。該1,1,1-トリフルオロイソプロピルノナフレートをアセトルアセトン中リチウムクロライドと反応させて、253dbを含む粗液を得、これを蒸留精製することで、純度100.0質量%の253dbを得る。
【0100】
(225ca、225cbの調製)
旭硝子社製、アサヒクリンAK-225(商品名、225caおよび225cbの混合物)を蒸留精製することで純度100.0%の225caおよび225cbをそれぞれ得る。
【0101】
(225ca/cb混合品の調製)
上記それぞれの純度が100.0%である225caと225cbを同質量混合することで、225caの50.0質量%と225cbの50.0質量%からなる225ca/cb混合品を得る。
【0102】
(溶剤組成物の調製)
1233zd(Z)組成物に、溶剤組成物とした際に表1に示す質量割合となるように安定剤(B)を添加して、例1~35の溶剤組成物を51kgずつ調製する。また、表1に示す、HCFO-1233zd(Z)組成物は含有するが安定剤(B)を含有しない例36の溶剤組成物を51kg調製する。なお、表1に示す安定剤(B)の質量割合(質量ppm)は、溶剤組成物中の1233zd(Z)の含有量に対する安定剤(B)の含有量の質量割合である。
【0103】
[評価]
1.安定性試験・金属耐食試験
上記例1~36の溶剤組成物の100gを、一般用冷間圧延鋼板(SPCC)の試験片を入れた耐熱ガラス瓶に入れ、HCFO-1233zd(Z)の沸点(40℃)で7日間保存する。調製直後と7日間保存後のpHを測定し、また7日間保存後(試験後)のSPCC表面の外観観察を行う。評価結果を表1に示す。
【0104】
(pH測定)
各例の溶剤組成物40gとpH7に調製した40gの純水とを、200ml容分液漏斗に入れ、1分間振盪する。その後、静置して2層分離した上層の水層を分取し、その水層のpHをpHメーター(型番:HM-30R、東亜ディーケーケー株式会社製)で測定する。
【0105】
試験前後の金属表面の変化は、各金属の未試験品を比較対象として目視にて評価する。評価基準は次の通りである。
【0106】
S:試験前後で変化なし。
A:光沢が失われる。
B:表面がわずかに錆びている。
×:表面の全面に錆びが認められる。
【0107】
【0108】
表1より、本発明の実施例の溶剤組成物はいずれも比較例に比べて、酸性化が抑制されることが分かる。また、実施例では比較例よりも金属試験片の腐食が抑制されることが分かる。これにより、本発明の溶剤組成物は、優れた溶剤組成物の安定化効果を奏するだけでなく、金属腐食を抑制できることが明らかである。
【0109】
2.洗浄機での連続運転試験
上記例1~36を
図1に示すのと同様な洗浄装置10に適用して洗浄試験を行う。洗浄装置10の洗浄槽1、リンス槽2、蒸気発生槽3に例1~36の溶剤組成物の50kgを入れて、それぞれ300時間循環運転する。運転開始前(初期)、運転開始後10時間、100時間、300時間後に蒸気発生槽3、洗浄槽1、水分離槽5の溶剤を100g採取し、塩素イオン濃度とpHを下記方法で測定する。結果を表2、3に示す。表2、3において、槽3とは蒸気発生槽3を、槽1とは洗浄槽1を、槽5とは水分離槽5をそれぞれ意味する。
【0110】
(pH測定)
採取して得られる溶剤組成物40gとpH7に調製した40gの純水とを、200mL容分液漏斗に入れ、1分間振盪する。その後、静置して2層分離した上層の水層を分取し、その水層のpHを上記同様のpHメーターで測定する。
【0111】
(塩素イオン濃度測定)
採取して得られる溶剤組成物50gを100mLのサンプル瓶に入れた後、50gのイオン交換水を加えて、30秒間手で振り混ぜることにより、溶剤組成物中に含まれる塩素イオンをイオン交換水中に抽出する。静置してイオン交換水を分離後、イオン交換水中に含まれる塩素イオン濃度(ppm)をイオンクロマトグラフィー(ICS-1000、日本ダイオネクス社製)により測定する。
【0112】
【0113】
【0114】
表2、3より、本発明の実施例はいずれも比較例の溶剤組成物に比べて、長時間にわたり酸性化が抑制され、分解による塩素イオン発生が抑制されることが分かる。このことから、本発明の溶剤組成物は、実洗浄機での長期安定性に優れることが分かる。
【0115】
3.洗浄性能の評価
上記の例1~35(実施例)および例36(比較例)の溶剤組成物をさらに作製し、以下の各洗浄試験を行う。
【0116】
[洗浄試験A]
ステンレス鋼SUS304の試験片(25mm×30mm×2mm)を、切削油である製品名「ダフニーマーグプラスHT-10」(出光興産株式会社製)中に浸漬した後、各例の溶剤組成物50mL中に1分間浸漬し、引き上げて切削油が除去された度合を観察する。洗浄性の評価は以下の基準で行う。
「S(優良)」:切削油が完全に除去される。
「A(良好)」:切削油がほぼ除去される。
「B(やや不良)」:切削油が微量に残存する。
「×(不良)」:切削油がかなり残存する。
【0117】
[洗浄試験B]
切削油として製品名「ダフニーマーグプラスAM20」(出光興産株式会社製)を使用する以外は洗浄試験Aと同様に試験し、同じ基準で洗浄性を評価する。
【0118】
[洗浄試験C]
切削油として製品名「ダフニーマーグプラスHM25」(出光興産株式会社製)を使用する以外は洗浄試験Aと同様に試験し、同じ基準で洗浄性を評価する。
【0119】
[洗浄試験D]
切削油として製品名「G-6318FK」(日本工作油株式会社製)を使用する以外は洗浄試験Aと同様に試験し、同じ基準で洗浄性を評価する。
【0120】
洗浄試験A~Dについて、例1~36の溶剤組成物の評価はいずれもS(優良)である。
【0121】
上記の結果より、例1~35の本発明の実施例の溶剤組成物は、いずれの洗浄試験においても安定剤を添加していない例36と同様に切削油を充分に洗浄除去でき、優れた洗浄性があることが分かる。
【0122】
4.潤滑剤の希釈塗付溶剤としての評価
上記の例1~35(実施例)および例36(比較例)の溶剤組成物をさらに作製し、各溶剤組成物とフッ素系潤滑剤である製品名「クライトックス(登録商標)GPL102」(デュポン株式会社製、フッ素系オイル)を混合し、該フッ素系潤滑剤の含有量の割合が溶液全量に対して0.5質量%である潤滑剤溶液を調製する。
【0123】
次に、鉄製の板にアルミニウムを蒸着させたアルミニウム蒸着板の表面に、上記潤滑剤溶液を厚み0.4mmで塗布し、19~21℃の条件下で風乾することにより、アルミニウム蒸着板表面に潤滑剤塗膜を形成する。本発明の溶剤組成物の潤滑剤希釈塗付溶剤としての評価は以下のように行う。評価の結果、例1~36の溶剤組成物を用いた場合において、評価はいずれもS(優良)である。
【0124】
[評価方法]
(溶解状態)
各例の溶剤組成物を用いた潤滑剤溶液の溶解状態を目視で確認し、以下の基準で評価する。
「S(優良)」:直ちに均一に溶解し、透明になる。
「A(良好)」:振盪すれば均一に溶解し、透明になる。
「B(やや不良)」:若干白濁する。
「×(不良)」:白濁もしくは相分離する。
【0125】
(塗膜状態)
各例の溶剤組成物を用いた潤滑剤溶液による潤滑剤塗膜の状態を目視で確認して以下の基準で評価する。
「S(優良)」:均一な塗膜である。
「A(良好)」:ほぼ均一な塗膜である。
「B(やや不良)」:塗膜に部分的にムラが見られる。
「×(不良)」:塗膜にかなりムラが見られる。
【0126】
(乾燥性)
各例の溶剤組成物を用いた潤滑剤溶液による潤滑剤塗膜の形成時の潤滑剤溶液の乾燥性を以下の基準で乾燥性を評価する。
「S(優良)」:直ちに溶剤が蒸発する。
「A(良好)」:10分間以内に溶剤が蒸発する。
「B(可)」:10分超1時間以内で溶剤が蒸発する。
「×(不良)」:1時間経過しても溶剤が残存している。
【0127】
上記の例1~35(実施例)および例36(比較例)の溶剤組成物をさらに作製し、各溶剤組成物とシリコーン系潤滑剤である製品名「信越シリコーンKF-96-50CS」(信越化学工業株式会社製、シリコーンオイル)と混合して、該シリコーン系潤滑剤の含有量の割合が溶液全量に対して3質量%である潤滑剤溶液を調製する。
【0128】
その後、上記溶剤組成物とフッ素系オイルを含む潤滑剤溶液の塗布と同様の方法で潤滑剤塗膜を形成する。評価方法と評価基準は上記溶剤組成物とフッ素系オイルを含む潤滑剤溶液の塗布での評価と同様である。評価の結果、例1~36の溶剤組成物を用いた場合において、評価はいずれもS(優良)である。
【0129】
上記の結果より、例1~35の本発明の実施例の溶剤組成物は、いずれの塗付試験においても、安定剤を含まない例36の溶剤組成物と同様に潤滑剤の溶解性に優れ、かつ充分な乾燥性を有しており、均一な潤滑剤塗膜を簡便に形成できることが分かる。
本発明の溶剤組成物は、各種有機物の溶解性に優れ、充分な乾燥性を有し、かつ地球環境に悪影響を及ぼさず、安定化されて分解せず、しかも金属共存下での金属腐食を抑制する安定な溶剤組成物であり、洗浄溶剤や希釈塗布溶剤、噴射剤組成物等の広範囲の工業用途で、金属、プラスチック、エラストマー、布帛等の様々な材質の物品に対し、悪影響を与えることなく使用することができる。
1…洗浄槽、2…リンス槽、3…蒸気発生槽、4…蒸気ゾーン、5…水分離槽、6…ヒーター、7…ヒーター、8…超音波振動子、9…冷却管、10…洗浄装置、11,12,14…配管、13…矢印、D…被洗浄物品、L…溶剤組成物。
前記加工油が、切削油、焼き入れ油、圧延油、潤滑油、機械油、プレス加工油、打ち抜き油、引き抜き油、組立油および線引き油からなる群より選ばれる1種以上である、請求項6に記載の洗浄方法。