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特開2022-47018静電チャック、基板固定装置及び基板固定装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047018
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】静電チャック、基板固定装置及び基板固定装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20220316BHJP
   B23Q 3/15 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
H01L21/68 R
B23Q3/15 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152713
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白岩 則雄
(72)【発明者】
【氏名】高田 和弥
【テーマコード(参考)】
3C016
5F131
【Fターム(参考)】
3C016GA10
5F131AA02
5F131BA19
5F131CA03
5F131CA12
5F131EB11
5F131EB15
5F131EB28
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB81
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】均熱性能を損なうことなく、吸着物の汚損を防止すること。
【解決手段】基板固定装置は、ベースプレートと、それぞれ一方の面の周縁部に段差を有する複数のセラミック基板であって、前記段差が対向するように前記ベースプレート上に互いに隣接して配置され、接着剤を用いて前記ベースプレートに接着される複数のセラミック基板と、前記複数のセラミック基板それぞれに埋設される電極と、隣接するセラミック基板の段差が対向することによって形成される溝部を充填する充填部とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ一方の面の周縁部に段差を有する複数のセラミック基板であって、前記段差が対向するように互いに隣接して配置される複数のセラミック基板と、
前記複数のセラミック基板それぞれに埋設される電極と、
隣接するセラミック基板の段差が対向することによって形成される溝部を充填する充填部と
を有することを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記充填部は、
前記溝部に酸化物又は窒化物を溶射することにより形成される
ことを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
前記充填部は、
前記電極と平面視及び側面視で重ならない位置に形成される
ことを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項4】
前記複数のセラミック基板は、
酸化アルミニウムを材料として作成されたセラミック基板であり、
前記充填部は、
酸化アルミニウムを溶射することにより形成される
ことを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項5】
前記充填部は、
酸化イットリウムを溶射することにより形成される
ことを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項6】
ベースプレートと、
それぞれ一方の面の周縁部に段差を有する複数のセラミック基板であって、前記段差が対向するように前記ベースプレート上に互いに隣接して配置され、接着剤を用いて前記ベースプレートに接着される複数のセラミック基板と、
前記複数のセラミック基板それぞれに埋設される電極と、
隣接するセラミック基板の段差が対向することによって形成される溝部を充填する充填部と
を有することを特徴とする基板固定装置。
【請求項7】
それぞれ一方の面の周縁部に段差を有し電極が埋設された複数のセラミック基板を、前記段差が対向するように互いに隣接させてベースプレート上に接着し、
隣接するセラミック基板の段差が対向することによって形成される溝部を充填する
工程を有することを特徴とする基板固定装置の製造方法。
【請求項8】
前記充填する工程は、
前記溝部に酸化物又は窒化物を溶射する
ことを特徴とする請求項7記載の基板固定装置の製造方法。
【請求項9】
溶射により形成される溶射部の表面と、前記複数のセラミック基板それぞれの一方の面とを研磨する工程
をさらに有することを特徴とする請求項8記載の基板固定装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック、基板固定装置及び基板固定装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばエッチング処理のプロセスにおいてウェハを固定するために、静電チャックを備える基板固定装置が使用されている。このような基板固定装置は、電極が埋設されたセラミック基板からなる静電チャックを金属製のベースプレートに接着して構成されている。一般に、ベースプレートに静電チャックを接着する接着剤としては、熱伝導性を良好に保ち、ベースプレートと静電チャックの熱膨張の差を吸収するために、柔軟性があるシリコーン樹脂系の接着剤が用いられる。
【0003】
基板固定装置は、静電チャックのセラミック基板に埋設された電極に電圧を印加し、電圧に応じて発生する静電気力により、ウェハを静電チャックに吸着することができる。比較的大型のウェハなどを固定する場合には、複数のセラミック基板からなる静電チャックをベースプレートに接着して基板固定装置が構成されることがある。すなわち、例えば1枚が250mm×250mmのセラミック基板を4枚並べてベースプレートに接着することにより、500mm×500mmの静電チャックを備える基板固定装置を構成し、大型のウェハを吸着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-051433号公報
【特許文献2】特開2017-050468号公報
【特許文献3】特開平7-335731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数のセラミック基板からなる静電チャックをベースプレートに接着する場合には、隣接するセラミック基板の間に接着剤が付着し、この接着剤の成分がセラミック基板の表面に滲出するという問題がある。具体的には、複数のセラミック基板からなる静電チャックをシリコーン樹脂系の接着剤(以下「シリコーン接着剤」という)によってベースプレートに接着すると、隣接するセラミック基板の間にもシリコーン接着剤が進入する。そして、この状態で基板固定装置が使用されると、シリコーン接着剤に含まれるシリコーンオイルが吸着面であるセラミック基板の表面にまで滲出し、隣接するセラミック基板の境界付近に染みが発生する。結果として、静電チャックに吸着されるウェハなどの吸着物に染みが転写されてしまい、吸着物を汚損することがある。
【0006】
そこで、複数のセラミック基板を間隔を空けてベースプレートに接着し、隣り合うセラミック基板の間の接着剤を除去することも考えられる。しかし、複数のセラミック基板を間隔を空けて配置する場合には、静電チャックの吸着面の温度が一様でなくなり、吸着物全体の温度を均一に保つ均熱性能が損なわれてしまう。
【0007】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、均熱性能を損なうことなく、吸着物の汚損を防止することができる静電チャック、基板固定装置及び基板固定装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願が開示する静電チャックは、1つの態様において、それぞれ一方の面の周縁部に段差を有する複数のセラミック基板であって、前記段差が対向するように互いに隣接して配置される複数のセラミック基板と、前記複数のセラミック基板それぞれに埋設される電極と、隣接するセラミック基板の段差が対向することによって形成される溝部を充填する充填部とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本願が開示する静電チャック、基板固定装置及び基板固定装置の製造方法の1つの態様によれば、均熱性能を損なうことなく、吸着物の汚損を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施の形態に係る基板固定装置の構成を示す斜視図である。
図2図2は、一実施の形態に係る基板固定装置の断面を示す模式図である。
図3図3は、一実施の形態に係る基板固定装置の製造方法を示すフロー図である。
図4図4は、セラミック基板の具体例を示す図である。
図5図5は、段差形成工程の具体例を示す図である。
図6図6は、接着工程の具体例を示す図である。
図7図7は、アルミナ溶射工程の具体例を示す図である。
図8図8は、研磨工程の具体例を示す図である。
図9図9は、静電チャックの温度変化の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願が開示する静電チャック、基板固定装置及び基板固定装置の製造方法の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は、一実施の形態に係る基板固定装置100の構成を示す斜視図である。図1に示す基板固定装置100は、ベースプレート110に静電チャック120が接着された構造を有する。
【0013】
ベースプレート110は、例えばアルミニウムなどの金属製の方形部材である。ベースプレート110は、静電チャック120を固定する基材となる。ベースプレート110は、例えば半導体製造装置などに取り付けられ、基板固定装置100を、ウェハを保持する半導体保持装置として機能させる。
【0014】
静電チャック120は、複数(図1では4枚)のセラミック基板を並べて形成されており、静電力を利用してセラミック基板の表面に例えばウェハなどの吸着物を吸着する。静電チャック120は、例えばシリコーン接着剤によってベースプレート110に接着されている。静電チャック120を構成する複数のセラミック基板は、互いに隣接して配置され、隣接するセラミック基板の境界には、酸化アルミニウム(アルミナ)を溶射して溶射部が形成されている。
【0015】
図2は、図1のI-I線断面を示す模式図である。図2に示すように、基板固定装置100は、接着剤層130によって静電チャック120がベースプレート110に接着されて構成される。
【0016】
ベースプレート110は、内部に冷却水の流路となる冷却水路111を有する、例えば厚さ20~50mm程度の金属製の部材である。ベースプレート110は、基板固定装置100の外部から冷却水路111へ流入する冷却水によって、静電チャック120を冷却する。静電チャック120が冷却される結果、静電チャック120に吸着される例えばウェハなどの吸着物が冷却される。
【0017】
なお、ベースプレート110は、冷却水路111の代わりに、冷却ガスの流路となる冷却ガス路を有していても良い。要するに、ベースプレート110は、例えば冷却水及び冷却ガスなどの冷媒を通過させる冷媒通路を有していれば良い。
【0018】
また、ベースプレート110は、発熱電極によって静電チャック120を加熱するヒータと一体化されていても良い。これにより、ベースプレート110は、ヒータからの加熱と冷媒通路からの冷却とにより静電チャック120の温度を制御し、静電チャック120に吸着される吸着物を所望の温度に加熱することができる。
【0019】
静電チャック120は、セラミック基板121a、121bを含む複数のセラミック基板と溶射部123とを有する。また、それぞれのセラミック基板121a、121bには、電極122a、122bが埋設されている。
【0020】
セラミック基板121a、121bは、例えば酸化アルミニウムを用いて作成されたグリーンシートを焼成することにより形成される。このとき、グリーンシートと電極122a、122bとを積層して焼成することにより、内部に電極122a、122bが埋設されたセラミック基板121a、121bが形成される。セラミック基板121a、121bの厚さは、例えば3~7mm程度であり、好ましくは4~5mmである。
【0021】
セラミック基板121a、121bは、互いに隣接した状態でベースプレート110に接着されている。すなわち、セラミック基板121a、121bの下面が接着剤層130によってベースプレート110の上面に接着されている。セラミック基板121a、121bの上面の周縁部にはそれぞれ段差が形成されており、セラミック基板121a、121bそれぞれの段差が対向してセラミック基板121a、121bの境界部分に溝部を形成する。そして、この溝部には、溶射部123が形成されている。
【0022】
電極122a、122bは、それぞれセラミック基板121a、121bに埋設されており、電圧が印加されると静電力を発生させてセラミック基板121a、121bの上面に吸着物を吸着させる。各セラミック基板121a、121bの電極122a、122bは、極性が同一の単極である。これにより、例えばガラス基板などの絶縁基板を吸着することが可能となる。ただし、隣接するセラミック基板121a、121bの電極122a、122bを異なる極性にして双極にしても良い。
【0023】
溶射部123は、セラミック基板121a、121bの上面の周縁部の段差が対向することにより形成される溝部に、例えば酸化アルミニウム(アルミナ)を溶射することにより形成される。溶射部123は、アルミナの代わりに例えば酸化イットリウム(イットリア)を溶射することにより形成されても良い。さらに、セラミック基板121a、121bの材料がアルミナ以外の酸化物又は窒化物である場合には、溶射部123は、セラミック基板121a、121bの材料と同一の酸化物又は窒化物を溶射することにより形成されても良い。
【0024】
溶射部123が形成される溝部は、セラミック基板121a、121bの上面からの深さが0.2~1mm、幅が1~2mmの断面形状を有するため、溶射部123も厚さが0.2~1mm、幅が1~2mmの断面形状を有する。そして、電極122a、122bの側端がセラミック基板121a、121bの側面から例えば1~2mm内側に位置するため、溶射部123と電極122a、122bとが平面視で重なることがない。また、電極122a、122bの上面がセラミック基板121a、121bの上面から例えば0.6~1.5mmの深さに位置するため、溶射部123と電極122a、122bとが側面視で重なることがない。
【0025】
溶射部123は、セラミック基板121a、121bの隣接する側面の上方を封止し、接着剤層130から接着剤の成分がセラミック基板121a、121bの上面へ滲出することを防止する。つまり、溶射部123は、接着剤の成分が静電チャック120の吸着面に滲出することを防止し、吸着面に吸着される吸着物の汚損を防止する。
【0026】
接着剤層130は、シリコーン樹脂系の接着剤(シリコーン接着剤)からなる層であり、ベースプレート110の上面に静電チャック120の下面を接着している。すなわち、接着剤層130は、セラミック基板121a、121bを含む複数のセラミック基板の下面をベースプレート110の上面に接着する。接着剤層130を形成するシリコーン接着剤は、隣接するセラミック基板121a、121bの対向する側面にも付着する。ただし、隣接するセラミック基板121a、121bの対向する側面上方には溶射部123が形成されているため、セラミック基板121a、121bの対向する側面に付着する接着剤から接着剤の成分がセラミック基板121a、121bの上面へ滲出することはない。
【0027】
次いで、上記のように構成された基板固定装置100の製造方法について、図3に示すフロー図を参照しながら説明する。
【0028】
まず、静電チャック120を構成する複数のセラミック基板121が作成される(ステップS101)。具体的には、例えば酸化アルミニウムを主材料とする複数のグリーンシートが作成され、適宜、グリーンシートの一面に電極122が形成される。電極122は、例えばグリーンシートの表面に金属ペーストをスクリーン印刷することにより形成することができる。そして、複数のグリーンシートが積層され焼結されることにより、セラミック基板121が作成される。
【0029】
セラミック基板121は、例えば図4に示すように、内部に電極122の層を有する。セラミック基板121の厚さは、例えば3~7mm程度であり、好ましくは4~5mmである。そして、電極122は、セラミック基板121の上面から例えば0.8~1.7mmの深さに形成される。後述する研磨工程において、セラミック基板121の上面が溶射部123とともに研磨されるため、図4に示す電極122は、基板固定装置100の完成時の電極122よりも、セラミック基板121の上面から深い位置に形成される。また、電極122の側端は、セラミック基板121の側面から例えば1~2mm内側に位置する。
【0030】
このようなセラミック基板121が複数枚(例えば4枚)作成されると、それぞれのセラミック基板121の一方の面の周縁部に段差が形成される(ステップS102)。具体的には、例えば図5に示すように、セラミック基板121の上面の一辺に、電極122と平面視及び側面視で重ならない寸法の段差125が形成される。すなわち、段差125の深さは、例えば0.4~1.2mmであり、段差125の底面の幅は、例えば0.5~1mmである。段差125は、セラミック基板121がベースプレート110に接着される際に、他のセラミック基板121と隣接する側面の上方に形成される。したがって、例えばセラミック基板121の2つの側面が他のセラミック基板121と隣接する場合には、これらの2つの側面の上方に段差125が形成される。
【0031】
そして、段差125が形成された複数のセラミック基板121は、シリコーン接着剤によってベースプレート110に接着される(ステップS103)。具体的には、例えば図6に示すように、セラミック基板121a、121bがシリコーン接着剤によってベースプレート110の上面に並べて接着される。接着に用いられるシリコーン接着剤は、ベースプレート110とセラミック基板121a、121bとの間に接着剤層130を形成する。
【0032】
隣接するセラミック基板121a、121bは、それぞれの上面の周縁部に形成された段差125が対向するように配置されてベースプレート110に接着され、セラミック基板121a、121bの対向する段差125によって溝部126が形成される。つまり、ベースプレート110に複数のセラミック基板121が接着された状態では、隣接するセラミック基板121の境界部分に溝部126が形成される。溝部126は、対向する段差125によって形成されるものであるため、深さは段差125と同じく例えば0.4~1.2mmであり、底面の幅は段差125の2倍の例えば1~2mmである。
【0033】
複数のセラミック基板121がベースプレート110に接着されると、接着剤層130から溝部126の底面に漏出するシリコーン接着剤が除去される(ステップS104)。すなわち、セラミック基板121がベースプレート110に接着される際に、一部のシリコーン接着剤がセラミック基板121の側面にも付着し、隣接するセラミック基板121の側面によって押圧されることにより、溝部126の底面に漏出する。そこで、溝部126の底面に漏出するシリコーン接着剤が除去される。同時に、セラミック基板121の下面からベースプレート110の上面の外周部分に漏出するシリコーン接着剤が除去される。
【0034】
そして、溶融されたアルミナの粒子を溝部126に吹き付けるアルミナ溶射が行われる(ステップS105)。すなわち、溶融されて軟化したアルミナの粒子が溝部126に吹き付けられることにより冷却されて固化し、例えば図7に示すように、溶射部123が形成される。溶射部123は、隣接するセラミック基板121a、121bの境界部分をセラミック基板121a、121bの上面付近で封止する。このため、セラミック基板121a、121bの側面に付着するシリコーン接着剤の成分がセラミック基板121a、121bの上面へ滲出することを防止する。
【0035】
なお、溶射される材料は、アルミナに限定されない。例えばイットリアを溶射して溶射部123を形成することにより、溶射部123のプラズマ耐性を向上することができる。すなわち、基板固定装置100が例えばウェハのプラズマエッチングに使用される場合には、セラミック基板121及び溶射部123がプラズマに暴露されるが、イットリア溶射によって溶射部123を形成することにより、プラズマによる溶射部123の腐食を抑制することができる。さらに、セラミック基板121の材料がアルミナ以外の酸化物又は窒化物である場合には、溶射部123は、セラミック基板121の材料と同一の酸化物又は窒化物を溶射することにより形成されても良い。こうすることにより、セラミック基板121と溶射部123の温度差を小さくすることができ、セラミック基板121及び溶射部123を有する静電チャック120の均熱性能の低下を抑制することができる。
【0036】
アルミナ溶射が行われた後、溶射部123の表面がセラミック基板121の上面とともに研磨される(ステップS106)。具体的には、例えば図8に示すように、セラミック基板121a、121bの上面から例えば0.2mmの厚さの部分Pが研削され、溶射部123の上面がセラミック基板121a、121bの上面と面一にされる。すなわち、複数のセラミック基板121の上面と溶射部123の上面とが面一にされ、静電チャック120の吸着面が連続した平面となる。溶射部123の上部がセラミック基板121の上部とともに研削されるため、研削後の溶射部123の厚さは、例えば0.2~1mmとなる。
【0037】
そして、必要に応じて、静電チャック120の吸着面(すなわち、セラミック基板121及び溶射部123の上面)にエンボス加工が施されたり、溝が形成されたりすることにより、静電チャック120を備える基板固定装置100が完成する。この基板固定装置100は、複数のセラミック基板121を並べて配置した静電チャック120を備えるため、比較的大型の吸着物を吸着して固定することが可能である。また、複数のセラミック基板121の境界には溶射部123が形成されており、セラミック基板121をベースプレート110に接着するシリコーン接着剤の成分が静電チャック120の吸着面に滲出することがない。結果として、静電チャック120の吸着面に染みなどが発生することを防止し、吸着物の汚損を防止することができる。
【0038】
さらに、静電チャック120を構成する複数のセラミック基板121の境界に溶射部123が形成されているため、静電チャック120の吸着面の温度を一様にすることができ、均熱性能の低下を抑制することができる。具体的に、溶射部123がアルミナ溶射によって形成された基板固定装置100を60℃のホットプレートに載置する場合のセラミック基板121及び溶射部123の温度変化の具体例を図9に示す。
【0039】
図9に示すように、基板固定装置100を60℃のホットプレートに載置してからの経過時間ごとのセラミック基板121と溶射部123の温度差は、0.1~0.4℃の範囲に収まっている。つまり、静電チャック120を構成するセラミック基板121と溶射部123の温度差が小さく、吸着面の温度が一様である。このため、吸着面に吸着される吸着物を均等に加熱することができ、均熱性能の低下を抑制することができる。
【0040】
以上のように、本実施の形態によれば、複数のセラミック基板を並べて形成される静電チャックにおいて、隣接するセラミック基板の境界にアルミナ溶射することにより溶射部を形成する。このため、静電チャックの吸着面において隣接するセラミック基板の境界が封止され、静電チャックがシリコーン接着剤によってベースプレートに接着される場合に、シリコーン接着剤の成分が静電チャックの吸着面にまで滲出することがなく、吸着物の汚損を防止することができる。また、セラミック基板と溶射部が静電チャックの吸着面を構成するため、吸着面の温度が一様となり、均熱性能の低下を抑制することができる。換言すれば、均熱性能を損なうことなく、吸着物の汚損を防止することができる。
【0041】
なお、上記一実施の形態においては、隣接するセラミック基板121の境界に溶射部123を形成するものとしたが、溶射の代わりにPVD(Physical Vapor Deposition)又は樹脂充填によってセラミック基板121の境界が充填されても良い。具体的には、隣接するセラミック基板121の境界にPVDによって例えば酸化イットリウムが充填されたり、例えばエポキシ樹脂が充填されたりしても良い。このように、溶射、PVD又は樹脂充填により、隣接するセラミック基板121の境界に充填部が形成されることにより、シリコーン接着剤の成分が静電チャック120の吸着面にまで滲出することがなく、吸着物の汚損を防止することができる。
【0042】
また、上記一実施の形態においては、方形のセラミック基板121を並べて配置することにより、吸着面が方形の静電チャック120が構成されるものとしたが、静電チャック120の形状はこれに限定されない。すなわち、例えば扇形のセラミック基板を並べて配置することにより、吸着面が円形の静電チャックが構成されるようにしても良い。この場合でも、各セラミック基板の扇形の半径に相当する周縁部に段差を形成し、隣接するセラミック基板の段差を対向させて形成される溝部に、例えばアルミナ溶射などにより溶射部を形成することができる。
【符号の説明】
【0043】
100 基板固定装置
110 ベースプレート
111 冷却水路
120 静電チャック
121、121a、121b セラミック基板
122、122a、122b 電極
123 溶射部
125 段差
126 溝部
130 接着剤層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9