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特開2022-47330可塑性油脂組成物、O/W/O乳化組成物及び食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047330
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物、O/W/O乳化組成物及び食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220316BHJP
【FI】
A23D7/00 504
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153189
(22)【出願日】2020-09-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 直純
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正記
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DH05
4B026DH10
4B026DP10
4B026DX06
(57)【要約】
【課題】最外油相に乳化剤を使わずとも容易にO/W/O乳化組成物を製造することができ、かつ、当該O/W/O乳化組成物を、最外相が油相にもかかわらずO/W乳化物のみずみずしさが感じられるものとすることができる、O/W/O乳化組成物の最外油相用の可塑性油脂組成物を提供する。
【解決手段】最外油相に乳化剤を含有しないO/W/O乳化組成物を製造するための当該最外油相用の可塑性油脂組成物は、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを1~10質量%含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外油相に乳化剤を含有しないO/W/O乳化組成物を製造するための当該最外油相用の可塑性油脂組成物であって、
当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、
固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、
当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを1~10質量%含むことを特徴とする、可塑性油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の可塑性油脂組成物を最外油相として含み、
当該最外油相は乳化剤を含まないことを特徴とする、O/W/O乳化組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のO/W/O乳化組成物を含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可塑性油脂組成物、O/W/O乳化組成物及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、グリセリンジパルミテート及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として使用することにより、α-リノレン酸を油脂脂肪酸中5%以上含有する食用油脂組成物を得ることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、HLB2以下のショ糖脂肪酸エステルを乳化剤として使用することにより、油中水型乳化物中の水分含有量を高めて、低カロリーでしかも滑らか且つソフトな食感を有する乳化安定性に優れた高水分油中水型乳化食品組成物を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-141048号公報(1992年5月14日公開)
【特許文献2】特開平5-30904号公報(1993年2月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年の健康への意識の高まりから、乳化剤を含まない食品が消費者から求められている。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、最外油相に乳化剤を使わずとも容易にO/W/O(内油相/水相/外油相)乳化組成物を製造することができ、かつ、当該O/W/O乳化組成物を、最外相が油相にもかかわらずO/W乳化物のみずみずしさが感じられるものとすることができる、O/W/O乳化組成物の最外油相用の可塑性油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、可塑性油脂組成物が、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、特定量の液油及び総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを含み、固体脂含量が特定の範囲である場合に、最外相が油相にもかかわらずO/W乳化物のみずみずしさが感じられるO/W/O乳化組成物を、最外油相に乳化剤を使わずとも容易に製造可能な最外油相用の可塑性油脂組成物を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)最外油相に乳化剤を含有しないO/W/O乳化組成物を製造するための当該最外油相用の可塑性油脂組成物であって、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを1~10質量%含むことを特徴とする、可塑性油脂組成物、
(2)(1)の可塑性油脂組成物を最外油相として含み、当該最外油相は乳化剤を含まないことを特徴とする、O/W/O乳化組成物、
(3)(2)のO/W/O乳化組成物を含む食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、最外油相に乳化剤を使わずとも容易にO/W/O乳化組成物を製造することができ、かつ、当該O/W/O乳化組成物を、最外相が油相にもかかわらずO/W乳化物のみずみずしさが感じられるものとすることができる、O/W/O乳化組成物の最外油相用の可塑性油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、単に「%」と記載されている場合は「質量%」を意味する。
【0011】
<本発明の可塑性油脂組成物の特徴>
本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物は、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを1~10質量%含む。当該可塑性油脂組成物をO/W/O乳化組成物の最外油相として用いることで、最外油相に乳化剤を使わずとも容易にO/W/O乳化組成物を製造することができ、かつ、当該O/W/O乳化組成物を、最外相が油相にもかかわらずO/W乳化物のみずみずしさが感じられるものとすることができる。近年、健康志向の高まりから、乳化剤を含まない商品を求める消費者がいる。本発明によればこのような消費者のニーズに応えることができる。また、例えば、本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物を食用とすることで得られるO/W/O乳化組成物は、撥水性及び呈味性に優れているので、接触する食品素材への水分移行を抑制するための優れた撥水性と、O/W乳化物のみずみずしい風味及び食感を感じることができる優れた呈味性とを兼ね備えたO/W/O乳化組成物を提供することができる。さらに、可塑性油脂組成物を用いて、O/W/O乳化組成物を製造するとき、乳化剤を用いなくとも、O/W乳化物と混合するだけでよいので、その製造が容易である。なお、本発明において可塑性油脂組成物は、可塑性を有する油脂組成物が意図される。
【0012】
<可塑性油脂組成物の態様>
本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物の態様には、油脂のみの態様、油脂に加えて水系原料を含むW/O乳化物の態様のものが含まれる。本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物を食用とする場合、油脂のみの態様としては例えばショートニングが挙げられ、W/O乳化物の態様としては例えばマーガリンが挙げられる。また、本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物では、油脂を、可塑性油脂組成物の総量に対して、例えば65質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上含む。
【0013】
<液油の種類>
「液油」は、品温20℃で、液状でかつ油脂結晶が析出しない油脂が意図される。本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物に含まれる液油は、特定の液油に制限されない。例えば、菜種油、オリーブ油、ごま油、えごま油、大豆油、グレープシードオイル、コーン油、亜麻仁油、米油、綿実油、サフラワー油、落花生油、パーム分別油等の植物性油脂であって前記「液油」の定義に該当するもの;魚油、肝油等の動物性油脂であって前記「液油」の定義に該当するものが挙げられる。液油は、粗油、半精製油、精製油、又はサラダ油であってよい。所望の可塑性油脂組成物が得られるように、各液油の特性を考慮して適切な液油を選択すればよい。液油は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0014】
<液油の含有量>
本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物は、液油を、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、50~95質量%含む。これにより、可塑性油脂組成物は柔らかい物性を有し、ひいては、得られるO/W/O乳化組成物の物性もより柔らかくなる。可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対する液油の含有量が50質量%未満であると、可塑性油脂組成物が硬くなり、得られるO/W/O乳化組成物も硬くなり、食用とする場合、得られるO/W/O乳化組成物の食感が悪くなる。また、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対する液油の含有量が95質量%を超えると油脂組成物の可塑性が損なわれ、О/W乳化物のみずみずしさが得られない。さらに、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対する液油の含有量が95質量%を超える場合、5℃での固体脂含量を5質量%以上にするためには、可塑性油脂組成物に含有させる後述の液油以外の油脂としてできるだけ硬い油脂を使用する必要が生じる。結果として5℃での固体脂含量と25℃での固体脂含量との差が小さくなる。その結果、食用とする場合、得られるO/W/O乳化組成物の呈味性が劣るおそれがある。複数種の液油を併用して含有する場合は、液油の総含有量が前述の範囲となるように液油を含有すればよい。
【0015】
<液油の好ましい含有量>
本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物に含まれる液油の含有量は、可塑性油脂組成物をより柔らかくし、滑らかにする観点から、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、好ましくは60質量%以上である。また、当該含有量は、撥水性及び食用とする場合の呈味性の観点から、好ましくは92質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下である。
【0016】
<固体脂含量>
本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物においては、固体脂含量(Solid Fat Content:SFC)が5℃で5~15質量%であり、25℃でのSFCが、当該5℃のときのSFCより0.5~8質量%少ない。
【0017】
本明細書において、可塑性油脂組成物のSFCは、後述する実施例に記載の方法によって測定した値をいう。また、「25℃でのSFCが、当該5℃のときのSFCより0.5~8質量%少ない」とは、5℃でのSFCから25℃でのSFCを減じた値が0.5~8質量%であることが意図される。
【0018】
可塑性油脂組成物のSFCが5℃で5質量%未満または5℃で15質量%を超えると、O/W乳化物のみずみずしさ、食用の場合はO/W乳化物のみずみずしい風味及び食感が感じられないというデメリットがある。
【0019】
また、5℃でのSFCから25℃でのSFCを減じた値が0.5質量%未満であると、当該可塑性油脂組成物を最外油相として得られたO/W/O乳化組成物は、O/W乳化物のみずみずしさを感じにくく、また、食用とする場合の呈味性に劣る。また、5℃でのSFCから25℃でのSFCを減じた値が8質量%を超えると、当該可塑性油脂組成物を最外油相として得られたO/W/O乳化組成物は食用とする場合の呈味性に優れるものの、乳化の安定性に欠ける。従って、5℃でのSFCから25℃でのSFCを減じた値が0.5質量%以上、8質量%以下の範囲であることにより、食用とする場合の呈味性と、乳化の安定性との双方のバランスに優れるO/W/O乳化組成物を製造することができるという効果を奏する。
【0020】
<好ましい固体脂含量>
本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物は、5℃でのSFCが、撥水性及び食用とする場合の呈味性の観点から、好ましくは5質量%以上である。また、食用とする場合の呈味性の観点から、好ましくは12質量%以下である。
【0021】
また、本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物は、5℃でのSFCから25℃でのSFCを減じた値が、食用とする場合の得られるO/W/O乳化組成物の呈味性の観点から、好ましくは2質量%以上である。また、得られるO/W/O乳化組成物の乳化の安定性の観点から、好ましくは7質量%以下である。
【0022】
本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物のSFCが前述の範囲となるように液油以外の油脂を混合すればよい。「液油以外の油脂」としては、品温20℃で固体のもの、及び、品温20℃で油脂結晶が析出しているものが意図される。このような液油以外の油脂としては、例えば、パーム油、パーム軟質油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂であって、前記「液油以外の油脂」の定義に該当するもの;ラード、牛脂、乳脂等の動物性油脂であって、前記「液油以外の油脂」の定義に該当するものが挙げられる。液油以外の油脂は、水素添加油、分別油、エステル交換油等の加工油脂であってよい。本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物に含まれる液油以外の油脂は、特定の種類の油脂に制限されない。所望の可塑性油脂組成物が得られるように、各油脂の特性を考慮して適切な液油以外の油脂を選択すればよい。液油以外の油脂は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
【0023】
<総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールの含有量>
本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物は、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロール(以下、「C54以上の飽和TAG」という。)を可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、1~10質量%含む。換言すれば、本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物の全油脂中のC54以上の飽和TAG量が前述の範囲となるように液油と液油以外の油脂とを含有すればよい。
【0024】
本明細書において、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対するC54以上の飽和TAG量は、後述する実施例に記載の方法によって測定した値をいう。「総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロール」は、トリアシルグリセロール1分子を構成する脂肪酸が全て飽和脂肪酸であり、且つ当該脂肪酸の炭素数の合計が54以上であることが意図される。
【0025】
全油脂中のC54以上の飽和TAG量が1質量%未満であると、撥水性に劣るというデメリットがある。また、全油脂中のC54以上の飽和TAG量が10質量%を超えると、体温付近で融解しづらいため、食用とする場合は呈味性に劣るというデメリットがある。
【0026】
<総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールの好ましい含有量>
本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物に含まれるC54以上の飽和TAG含有量は、撥水性の観点から、可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、好ましくは2.5質量%以上、10質量%以下である。
【0027】
<可塑性油脂組成物のその他の成分>
本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物は、O/W/O乳化組成物の最外油相として使用した際の乳化安定性、撥水性及び、食用とする場合の呈味性を損なわない範囲で前述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は目的に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物を食用とする場合は、水、増粘安定剤、乳製品、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類、甘味料、着色料、酸化防止剤、植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、及び香辛料等を含有することができる。
【0028】
<可塑性油脂組成物の製造方法>
本発明の一態様にかかる可塑性油脂組成物の製造方法は、前述の範囲となるように液油と液油以外の油脂とを含有すればよく、特に限定されない。例えば、液油及と液油以外の油脂とを混合した後に、急冷可塑化すればよい。
【0029】
<液油と液油以外の油脂との混合>
液油と液油以外の油脂とを混合する工程(以下、「混合工程」ともいう。)では、液油と液油以外の油脂とを混合することができればよく、混合方法は特に限定されない。例えば、従来公知の撹拌機を用いて撹拌混合すればよい。油脂は加温され、融解されて撹拌混合されることが好ましい。
【0030】
<急冷可塑化工程>
混合工程後に必要により油脂結晶が析出しない程度に混合物を予備冷却した後、急冷可塑化を行なう。急冷可塑化は、従来公知の冷却機を用いて行うことができる。従来公知の冷却機としては、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、及びケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等を用いて行ってもよく、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせにより行ってもよい。急冷可塑化を行なうことにより、可塑性を有する油脂組成物が得られる。また、急冷可塑化の際には、冷却機に加えて、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)、レスティングチューブ、又はホールディングチューブ等を使用してもよい。
【0031】
<本発明のO/W/O乳化組成物の特徴>
本発明の一態様に係るO/W/O乳化組成物は、前述の本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物を最外油相として含み、当該最外油相は乳化剤を含まない構成である。ここで、「O/W/O乳化組成物」は、水中油(O/W)型の乳化物を分散相として、連続相となる最外油相に分散相を均一に分散させた油中水中油(O/W/O)型の乳化組成物である。
【0032】
<O/W乳化物の種類>
本発明の一態様に係るO/W/O乳化組成物に含まれるO/W乳化物は、油相を分散相とし、水相を連続相として油相を均一に分散させた乳化物であれば、種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。O/W乳化物は、乳化剤を含んでいてもよい。O/W乳化物としては、例えば、マヨネーズ、生クリーム、カスタードクリーム、アイスクリーム等が挙げられる。O/W乳化物は、必要に応じて、水相成分として、水の他に、例えば、酸味料、食塩、調味料、糖類、香辛料、着色料、着香料、増粘剤、有機酸、酸化防止剤、保存料、静菌剤等を単独で又は2種以上を組み合わせて含むことができる。油相成分としては、植物油脂、動物油脂、鉱物油、合成油等が挙げられる。
【0033】
<可塑性油脂組成物の含有量>
本発明の一態様に係るO/W/O乳化組成物において、最外油相における本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物が占める割合が50~100質量%であり、さらに、O/W乳化物と最外油相との質量比が5:5~8:2である。最外油相における本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物が占める割合が50質量%以上であることにより、最外油相に乳化剤を使わずともO/W/O乳化組成物を製造することができる。さらに、O/W乳化物と最外油相との質量比が前述の範囲であることにより、O/W乳化物のみずみずしさに優れるO/W/O乳化組成物を製造することができる。
【0034】
<本発明のO/W/O乳化組成物の用途>
本発明の一態様に係るO/W/O乳化組成物の用途は、食品、化学品、医薬品、化粧品等、特に限定されないが、本発明の一態様に係るO/W/O乳化組成物は、呈味性に優れていることから、食品の調理に使用することが好ましい。食品の調理に使用する場合の具体的な用途としては例えば、例えば、練り込み用、スプレッド用、フィリング用、トッピング用及び調味料等が挙げられる。
【0035】
<本発明のO/W/O乳化組成物の製造方法>
本発明の一態様にかかるO/W/O乳化組成物の製造方法は、水中油(O/W)型の乳化物を分散相とし、本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物を連続相としてエマルションを形成すればよく、エマルションの形成方法は特に限定されない。例えば、本発明の一態様に係る可塑性油脂組成物とO/W乳化物とを、従来公知の撹拌機を用いて撹拌混合すればよい。
【0036】
<本発明の食品の特徴>
本発明の一態様に係るO/W/O乳化組成物を含む食品もまた、本発明の範疇に含まれる。当該食品としては、例えば、野菜サラダ、製菓製品等が挙げられる。その効果等は本発明のO/W/O乳化組成物について説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。
【0037】
<本発明の食品中のO/W/O乳化組成物の含有量>
食品中に含まれているO/W/O乳化組成物の含有量は特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができる。O/W/O乳化組成物そのものを食品として食してもよい。
【0038】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例0039】
<原料油脂>
(液油)
菜種油:市販品を用いた。
【0040】
(液油以外の油脂)
パーム油:市販品を用いた。
【0041】
パームステアリン:ヨウ素価33のものを用いた。
【0042】
エステル交換油1:以下の方法で調製したものを用いた。
【0043】
パーム分別軟質部(ヨウ素価56)を110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行って、エステル交換油1を得た。
【0044】
エステル交換油2:以下の方法で調製したものを用いた。
【0045】
原料油脂としてパーム油を60質量部、ヤシ油を20質量部、及び菜種油を20質量部混合したものを用いた以外は、エステル交換油1と同様の方法でエステル交換することで、エステル交換油2を得た。
【0046】
エステル交換油3:以下の方法で調製したものを用いた。
【0047】
原料油脂としてパーム油を20質量部、パーム核油を40質量部、及びパーム極度硬化油(ヨウ素価0.1以下)を40質量部混合したものを用いた以外は、エステル交換油1と同様の方法でエステル交換することで、エステル交換油3を得た。
【0048】
菜種極度硬化油:ヨウ素価0.1以下のものを用いた。
【0049】
パーム極度硬化油:ヨウ素価0.1以下のものを用いた。
【0050】
ハイエルシンナタネ極度硬化油:ヨウ素価0.1以下のものを用いた。
【0051】
<固体脂含量の定量方法>
可塑性油脂の固体脂含量は、基準油脂分析試験法2.2.9-2013に記載の方法で定量した。
【0052】
<トリアシルグリセロール(TAG)の定量方法>
(ガスクロマトグラフィーの条件)
カラム:Ultra ALLOY-1(MS/HT)(FRONTIER LAB製)
移動相:ヘリウムガス
注入温度:380℃
カラム温度:280℃で1分間、その後に400℃で10分間(昇温速度10℃/分)
検出器:FID
検出器温度:400℃
(定量方法)
トリウンデカノイン及びC54~C66の飽和トリアシルグリセロールをクロロホルムに溶解し、標準溶液を用意した。
【0053】
前記条件のガスクロマトグラフィーにおいて、トリウンデカノインの試料濃度当たりのクロマトグラム面積値に対する、C54~C66の飽和トリアシルグリセロールそれぞれの試料濃度当たりのクロマトグラム面積値の比(ファクター)を求めた。
【0054】
実施例及び比較例の可塑性油脂組成物を調製するのに用いた各原料油脂及び内部標準としてトリウンデカノインを溶解したクロロホルム溶液を試料溶液として、前記条件のガスクロマトグラフィー分析を行い、前記ファクターを基に、各原料油脂中のC54~C66の飽和トリアシルグリセロールの含有量を求めた。C54~C66の飽和トリアシルグリセロール量を合計することで、C54以上の飽和トリアシルグリセロール量を求めた。
【0055】
実施例および比較例に含まれるC54以上の飽和トリアシルグリセロール量は、各原料油脂の配合量および各原料油脂中のC54以上のトリアシルグリセロール量に基づいて算出した。
【0056】
[実施例1]
表1に示す配合で、液油及び液油以外の油脂を60℃に加熱、溶解して混合した後に、冷却しながら練りを加えることで、実施例1の可塑性油脂組成物を作製した。
【0057】
[実施例2~8、及び比較例1~7]
実施例2~8、及び比較例1~7において、表1及び表2に示す配合量にした以外は実施例1と同様にして可塑性油脂組成物を作製した。
【表1】
【表2】
[試験例1]
<O/W乳化物>
試験例1のO/W乳化物として、市販のマヨネーズ(キユーピー株式会社製)を使用した。
【0058】
<O/W/O乳化組成物の製造方法>
実施例1~4、8及び比較例1~7の各可塑性油脂組成物をホバートミキサーで600秒間撹拌し、可塑性油脂組成物を含気させた。次いで、O/W乳化物と可塑性油脂組成物との比(質量比)が7:3となる量で、試験例1のO/W乳化物を投入し、ホイッパーを用いて軽く撹拌することによって両者を混合して、実施例1~4、8及び比較例1~7の各可塑性油脂組成物を最外油相として含むO/W/O乳化組成物を作製した。
【0059】
[試験例2]
<O/W乳化物>
試験例2のO/W乳化物として、以下に示す配合で原料を混合して、生クリーム調製物を調製した。尚、生クリーム調製物とは、泡立てていない、液状の状態の生クリームをいう。
【0060】
(配合)
生クリーム(森永乳業株式会社製 大雪原45) 80質量%
上白糖 20質量%
<O/W/O乳化組成物の製造方法>
可塑性油脂組成物として、実施例1~4、8及び比較例4~7の可塑性油脂組成物を使用したこと、及びO/W乳化物として、試験例2のO/W乳化物を使用したこと以外は、試験例1と同様にしてO/W/O乳化組成物を作製した。
【0061】
[試験例3]
<O/W乳化物>
試験例3のO/W乳化物として、以下に示す配合で原料を混合して、アイスクリームミックスを調製した。得られたアイスクリームミックス全体に占める乳脂肪分は、約15質量%であった。
【0062】
(配合)
卵黄 12質量%
グラニュー糖 26質量%
生クリーム(森永乳業株式会社製 大雪原45) 31質量%
牛乳(森永乳業株式会社製) 31質量%
<O/W/O乳化組成物の製造方法>
可塑性油脂組成物として、実施例1~4、8及び比較例1~7の可塑性油脂組成物を使用したこと、及びO/W乳化物として、試験例3のO/W乳化物を使用したこと以外は、試験例1と同様にしてO/W/O乳化組成物を作製した。
【0063】
[試験例4]
<O/W乳化物>
試験例4のO/W乳化物として、以下に示す配合で原料を混合し、鍋で加熱撹拌(70℃達温まで)して、カスタードクリームを調製した。
【0064】
(配合)
卵黄 12質量%
上白糖 15質量%
薄力粉 5質量%
牛乳(森永乳業製) 68質量%
<O/W/O乳化組成物の製造方法>
可塑性油脂組成物として、実施例1~8、及び比較例4~7の可塑性油脂組成物を使用したこと、及びO/W乳化物として、試験例4のO/W乳化物を使用したこと以外は、試験例1と同様にしてO/W/O乳化組成物を作製した。
【0065】
<撥水性の評価>
試験例1~4の各O/W/O乳化組成物を平板上に薄く塗り広げ、その上にスポイト(Kartell S.p.A.製、パスツールピペット3ml非無菌)で水を1滴(0.03g)落とし、撥水性の有無を下記評価基準により目視で評価した。その水滴の形が丸く球状になっている場合、撥水性有りと判断した。撥水できていない場合は、水滴が球状にならず、滲む、又は水が白濁した。
【0066】
<撥水性の評価基準>
○:十分撥水した。具体的には、水滴の形状が、球状、又は、少し扁平して水平方向から見たときに楕円となる形状で維持された。
△:○よりは弱いが、撥水した。具体的には、水滴の形状が○より扁平したが、白濁したり、濁ったりはしなかった。
×:撥水しなかった。具体的には、水滴が球状を維持せずに広がり、白濁したり濁ったりした。
【0067】
<呈味性の評価>
パネラーが試験例1~4の各O/W/O乳化組成物を喫食して、下記評価基準により呈味性を評価した。
【0068】
<呈味性の評価基準>
◎:О/W乳化物のみずみずしい風味を最も強く感じた。
○:◎よりも弱いが、О/W乳化物のみずみずしい風味を強く感じた。
△:穏やかに感じた。
×:感じなかった。
【0069】
<評価の結果>
各評価の結果を表3~6に示す。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0070】
[実施例9]
実施例4の可塑性油脂組成物とサラダ油とを1:1(質量比)で混合し、ホバートミキサーで10分間撹拌して含気させ、比重0.50の油脂Aを得た。得られた油脂Aを最外相用油脂として用いた。油脂A30質量%と、試験例2と同じ方法で調製した生クリーム調製物(O/W乳化物)70質量%とを混合し、ホイッパーを用いて撹拌して、O/W/O乳化組成物を作製した。実施例9で得られたO/W/O乳化組成物では、O/W乳化物と最外油相との質量比は、7.0:3.0であった。
【0071】
O/W/O乳化組成物全量に対する可塑性油脂組成物の配合量が15質量%であっても、最外相用油脂の比重が低い場合は、最外油相に乳化剤を使わずともO/W/O乳化組成物を作製することができた。
【0072】
[実施例10]
実施例4の可塑性油脂組成物を最外相用油脂として用い、試験例2と同じ方法で調製した生クリーム調製物(O/W乳化物)と実施例4の可塑性油脂組成物とを7.5:2.5(質量比)で混合したこと以外は実施例9と同様にしてO/W/O乳化組成物を作製した。
【0073】
実施例10ではO/W/O乳化組成物における可塑性油脂組成物の配合量は25質量%であった。この場合も、最外油相に乳化剤を使わずともO/W/O乳化組成物を得ることが出来た。
【0074】
[実施例11]
実施例4の可塑性油脂組成物を最外相用油脂として用い、試験例2と同じ方法で調製した生クリーム調製物(O/W乳化物)と実施例4の可塑性油脂組成物とを5.2:4.8(質量比)で混合したこと以外は実施例9と同様にしてO/W/O乳化組成物を作製した。
【0075】
実施例11で得られたO/W/O乳化組成物における可塑性油脂組成物の配合量は48質量%であった。この場合も、最外油相に乳化剤を使わずともO/W/O乳化組成物を得ることが出来た。
【0076】
実施例9~11の各O/W/O乳化組成物の撥水性及び呈味性を、前述した方法により評価した。結果を表7に示す。
【表7】
【0077】
試験例1~4、実施例9~11及び表3~7に示したように、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを1~10質量%含む可塑性油脂組成物を用いることで、最外油相に乳化剤を使わずとも容易にO/W/O乳化組成物を製造することができ、かつ、当該O/W/O乳化組成物を、最外相が油相にもかかわらずO/W乳化物のみずみずしさが感じられるものとすることができることが示された。つまり、このような性質を有するO/W/O乳化組成物を食用とすることにより、接触する食品素材への水分移行を抑制し、且つみずみずしい風味及び食感を有するフィリングを提供することが可能であることが示された。
【手続補正書】
【提出日】2021-02-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外油相に乳化剤を含有しないO/W/O乳化組成物を製造するための当該最外油相用の可塑性油脂組成物であって、
当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、
固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、
当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを2.5~10質量%含むことを特徴とする、可塑性油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の可塑性油脂組成物を最外油相として含み、
当該最外油相は乳化剤を含まないことを特徴とする、O/W/O乳化組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のO/W/O乳化組成物を含む食品。
【手続補正書】
【提出日】2021-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外油相に乳化剤を含有しないO/W/O乳化組成物を製造するための当該最外油相用の可塑性油脂組成物であって、
当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、液油を50~95質量%含み、
固体脂含量が5℃で5~15質量%であり、25℃での固体脂含量が、当該5℃のときの固体脂含量より0.5~8質量%少なく、
当該可塑性油脂組成物に含まれる油脂の総量に対して、総炭素数54以上の飽和トリアシルグリセロールを2.6~8.6質量%含むことを特徴とする、可塑性油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の可塑性油脂組成物を最外油相として含み、
当該最外油相は乳化剤を含まないことを特徴とする、O/W/O乳化組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のO/W/O乳化組成物を含む食品。