(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047741
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】Δ15脂肪酸デサチュラーゼ発現カセットを含む酵母
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20220317BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220317BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220317BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220317BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220317BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220317BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20220317BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N1/19 ZNA
C12N15/31
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153681
(22)【出願日】2020-09-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢追 克郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】松沢 智彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 渉
(72)【発明者】
【氏名】志田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】荒木 通啓
(72)【発明者】
【氏名】高久 洋暁
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD85
4B064AD88
4B064CA06
4B064CA19
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA67Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA13
4B065CA28
4B065CA41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】α-リノレン酸、DHA、EPA等に代表されるω-3脂肪酸を含む油脂を、酵母等の細胞を利用してより効率的に製造できる技術の提供。
【解決手段】下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:(A)3種類の特定のアミノ酸配列のうち、いずれかに示されるアミノ酸配列を含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は(B)(A)の3種類の特定のアミノ酸配列のうちのいずれかのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、の発現カセットを含む酵母を培養することを含む油脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ
の発現カセットを含む、酵母。
【請求項2】
前記同一性が90%以上である、請求項1に記載の酵母。
【請求項3】
前記アミノ酸配列Aが配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列である、請求項1又は2に記載の酵母。
【請求項4】
前記アミノ酸配列Aが配列番号1に示されるアミノ酸配列である、請求項1~3のいずれかに記載の酵母。
【請求項5】
前記Δ15脂肪酸デサチュラーゼが、Spizellomyces属生物、Penicillium属生物、又はLobosporangium属生物に由来するΔ15脂肪酸デサチュラーゼである、請求項1~4のいずれかに記載の酵母。
【請求項6】
前記Spizellomyces属生物がSpizellomyces punctatusであり、前記Penicillium属生物がPenicillium italicumであり、且つ前記Lobosporangium属生物がLobosporangium transversaleである、請求項5に記載の酵母。
【請求項7】
さらに、酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットを含む、請求項1~6のいずれかに記載の酵母。
【請求項8】
油脂酵母である、請求項1~7のいずれかに記載の酵母。
【請求項9】
リポマイセス属酵母である、請求項1~8のいずれかに記載の酵母。
【請求項10】
下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ
のコード配列、及び酵母由来プロモーターを含む、ポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項12】
下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ。
【請求項13】
請求項12に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼを含有する、油脂改質用酵素剤。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の酵母を含有する、油脂産生用組成物。
【請求項15】
請求項1~9のいずれかに記載の酵母の培養物及び請求項14に記載の油脂産生用組成物からなる群より選択される少なくとも1種から油脂を回収することを含む、油脂の製造方法。
【請求項16】
請求項1~9のいずれかに記載の酵母請求項1~9のいずれかに記載の酵母の培養物及び請求項14に記載の油脂産生用組成物からなる群より選択される少なくとも1種の油脂含有抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Δ15脂肪酸デサチュラーゼ発現カセットを含む酵母等に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活に油脂は密接に関わっており、その用途は主に食用用途と工業用用途とに分類される。食用用途では調理の際にサラダ油として、また油脂原料をマーガリンやドレッシング等に加工して使用される食品加工油脂がある。工業用用途では燃料や潤滑油としてそのまま使用される他、化学変換を経てシャンプーやリンス、化粧品等の油脂化成品として使用されている。
【0003】
主要油脂3品(大豆油、菜種油及びパーム油)の油脂の原料は主に菜種、大豆等の種子、パーム、オリーブ等の果肉を圧搾することで得られる植物油である。海外では、油脂の原料となる油糧植物を栽培することで油脂供給が可能である。一方、日本では食用油脂自給率を向上させる為に、日本に適した油脂生産システムの開発が必要である。
【0004】
現在、油脂生産方法は油糧植物からの油脂生産に替えて、微生物を用いた油脂の生産が注目されている。中でも、リポマイセス属酵母等の油脂酵母は高い油脂蓄積能力を有する(特許文献1)。しかし、蓄積される油脂の多くは飽和脂肪酸又は1価不飽和脂肪酸から構成されており、多価不飽和脂肪酸の含有率は極めて低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多価不飽和脂肪酸の中でも、α-リノレン酸、DHA、EPA等に代表されるω-3脂肪酸は脂質代謝を改善する等の有用性が見出されており、付加価値が高い。本発明者は、ω-3脂肪酸を酵母等の細胞を利用して製造することに着目した。
【0007】
そこで、本発明は、より効率的にω-3脂肪酸を製造できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットを含む、酵母、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0009】
項1. 下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ
の発現カセットを含む、酵母。
【0010】
項2. 前記同一性が90%以上である、項1に記載の酵母。
【0011】
項3. 前記アミノ酸配列Aが配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列である、項1又は2に記載の酵母。
【0012】
項4. 前記アミノ酸配列Aが配列番号1に示されるアミノ酸配列である、項1~3のいずれかに記載の酵母。
【0013】
項5. 前記Δ15脂肪酸デサチュラーゼが、Spizellomyces属生物、Penicillium属生物、又はLobosporangium属生物に由来するΔ15脂肪酸デサチュラーゼである、項1~4のいずれかに記載の酵母。
【0014】
項6. 前記Spizellomyces属生物がSpizellomyces punctatusであり、前記Penicillium属生物がPenicillium italicumであり、且つ前記Lobosporangium属生物がLobosporangium transversaleである、項5に記載の酵母。
【0015】
項7. さらに、酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットを含む、項1~6のいずれかに記載の酵母。
【0016】
項8. 油脂酵母である、項1~7のいずれかに記載の酵母。
【0017】
項9. リポマイセス属酵母である、項1~8のいずれかに記載の酵母。
【0018】
項10. 下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ
のコード配列、及び酵母由来プロモーターを含む、ポリヌクレオチド。
【0019】
項11. 項10に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0020】
項12. 下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:
(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は
(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ。
【0021】
項13. 項12に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼを含有する、油脂改質用酵素剤。
【0022】
項14. 項1~9のいずれかに記載の酵母を含有する、油脂産生用組成物。
【0023】
項15. 項1~9のいずれかに記載の酵母の培養物及び項14に記載の油脂産生用組成物からなる群より選択される少なくとも1種から油脂を回収することを含む、油脂の製造方法。
【0024】
項16. 項1~9のいずれかに記載の酵母項1~9のいずれかに記載の酵母の培養物及び項14に記載の油脂産生用組成物からなる群より選択される少なくとも1種の油脂含有抽出物。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、より効率的にω-3脂肪酸を製造できる技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0027】
1.酵母
本発明は、その一態様において、下記(A)又は(B)に記載のΔ15脂肪酸デサチュラーゼ:(A)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ、又は(B)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列Aと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列Bを含むΔ15脂肪酸デサチュラーゼ(本明細書において、「本発明のデサチュラーゼ」と示すこともある。)の発現カセットを含む、酵母(本明細書において、「本発明の酵母」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0028】
1-1.Δ15脂肪酸デサチュラーゼ
アミノ酸配列Aは、好ましくは配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列であり、特に好ましくは配列番号1に示されるアミノ酸配列である。
【0029】
本明細書において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の「同一性」も上記に準じて定義される。 上記(B)のΔ15脂肪酸デサチュラーゼについて、配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列に対する同一性の程度は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0030】
上記(B)のΔ15脂肪酸デサチュラーゼは、好ましくは下記(Ba)に記載のタンパク質:
(Ba)配列番号1及び3~4のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)したアミノ酸配列からなるΔ15脂肪酸デサチュラーゼである。
【0031】
上記(Ba)のタンパク質について、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0032】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0033】
本発明のデサチュラーゼは、好ましくは、それを、後述の酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットを含むリポマイセス属酵母に発現させることによって、該酵母の脂肪酸組成におけるリノール酸含有率を低下させる(例えば50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、よりさらに好ましくは15%以下にまで低下させる)ことができる活性を有する。また、本発明のデサチュラーゼは、好ましくは、それを、後述の酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットを含むリポマイセス属酵母に発現させることによって、該酵母の脂肪酸組成におけるα-リノレン酸含有率を増加させる(例えば15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上、よりさらに好ましくは40%以上にまで増加させる)ことができる活性を有する。ここでいうリポマイセス属酵母としては、脂肪酸変換経路(特に、オレイン酸を生成する経路、及びオレイン酸を他の脂肪酸(例えばリノール酸)に変換する経路)に変異が加えられていないことが好ましい。リポマイセス属酵母として、好ましくはリポマイセス・スタルキー(L. starkeyi)が挙げられる。
【0034】
本明細書において、酵母の脂肪酸組成は、公知の方法に従って、例えばクロマトグラフィーを利用して測定することができる。「低下(又は増加)させることができる」とは、発現の程度、培養条件等を調節することによって一定レベルまで低下(又は増加)させることが可能であることを示す。
【0035】
本発明のデサチュラーゼは、好ましくは、Spizellomyces属生物(より好ましくはSpizellomyces punctatus)、Penicillium属生物(より好ましくはPenicillium italicum)、又はLobosporangium属生物(より好ましくはLobosporangium transversale)に由来するΔ15脂肪酸デサチュラーゼである。本明細書において、ある生物「に由来する」とは、その生物が元来有する(すなわち、野生型のゲノムにコードされている)もの、或いはそれに基づいてアミノ酸配列が改変されたものである限り、特に制限されない。改変の程度は、本来の活性を大きく損ねない(例えば、元の活性の70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上の活性を保つ/有する)程度である限り特に制限されない。
【0036】
本発明のデサチュラーゼは、上記「活性」を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0037】
1-2.発現カセット
本発明のデサチュラーゼの発現カセットは、本発明のデサチュラーゼのコード配列を含む限り、特に制限されない。
【0038】
コード配列としては、本発明のデサチュラーゼをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0039】
本明細書において、DNA、RNAなどのポリヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。 本発明のデサチュラーゼのコード配列としては、例えば下記(C)又は(D)に記載の塩基配列:
(C)配列番号5及び7~8のいずれかに示される塩基配列、又は
(D)配列番号5及び7~8のいずれかに示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列
が挙げられる。
【0040】
上記(D)の塩基配列について、配列番号5及び7~8のいずれかに示される塩基配列に対する同一性の程度は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0041】
上記(D)の塩基配列は、好ましくは下記(Da)に記載の塩基配列:
(Da)配列番号5及び7~8のいずれかに示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等)した塩基配列である。
【0042】
上記(Da)の塩基配列について、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0043】
発現カセットは、通常、コード配列の上流に、該コード配列にコードされるタンパク質を発現させるためのプロモーターを含む。プロモーターとしては、特に制限されず、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばTDH3プロモーター、TEF1プロモーター、プロモーター、ADH1プロモーター、TPI1プロモーター、HXT7プロモーター、PGK1プロモーター、PYK1プロモーター、GAL10プロモーター、CMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。これらの中でも、TDH3プロモーター、TEF1プロモーター、プロモーター、ADH1プロモーター、TPI1プロモーター、HXT7プロモーター、PGK1プロモーター、PYK1プロモーター、GAL10プロモーター等の酵母由来プロモーター(すなわち、酵母の内在遺伝子のプロモーター)が好ましい。
【0044】
1-3.酵母
本発明の酵母は、上記した発現カセットを、ゲノム外及び/又はゲノム内に含む限りにおいて、特に制限されない。
【0045】
酵母としては、好ましくは油脂酵母が挙げられる。油脂酵母は、油脂蓄積性が高い酵母である限り特に制限されない。例えば、油脂酵母は、高い油脂含有率、例えば20%(w/w)以上、好ましくは30%(w/w)以上、より好ましくは40%(w/w)以上、さらに好ましくは50%(w/w)以上、よりさらに好ましくは60%(w/w)以上の油脂含有率を達成できる酵母である。油脂酵母として、具体的には、例えばRhodosporodium toruloides等のRhodosporodium属酵母、Lipomyces starkeyi等のLipomyces属酵母、Cryptococcus albidus等のCryptococcus属酵母、Rhizopus arrhizua等のRhizopus属酵母、Yarrowia lipolytica等のYarrowia属酵母等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはRhodosporodium属酵母、Lipomyces属酵母、Cryptococcus属酵母等が挙げられ、より好ましくはLipomyces属酵母等が挙げられ、さらに好ましくはLipomyces starkeyi等が挙げられる。
【0046】
酵母は、さらに、他の変異が加えられていてもよい。例えば、酵母は、脂肪酸変換経路において変異が加えられていてもよい。より具体的には、例えばC16/C18脂肪酸エロンゲース、Δ9デサチュラーゼ、Δ9エロンゲース、Δ8デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ等について、外来性遺伝子の導入、内在性遺伝子又はそのプロモーターの改変等の変異により、脂肪酸変換経路において変異が加えられていてもよい。これにより、例えば多価不飽和脂肪酸含有率、好ましくはDHAやEPA等の高付加価値を有するω-3脂肪酸の含有率をさらに高めることが可能である。
【0047】
本発明の好ましい一態様においては、本発明の酵母は、さらに、酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットを含む。
【0048】
上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、好ましくはは、下記(i)又は(ii)に記載のタンパク質:
(i)配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は
(ii)配列番号9に示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質である。
【0049】
上記(ii)のタンパク質について、配列番号9に示されるアミノ酸配列に対する同一性の程度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0050】
上記(ii)のタンパク質は、好ましくは下記(iia)に記載のタンパク質:
(iia)配列番号9に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換)したアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0051】
上記(iia)のタンパク質について、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0052】
上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、好ましくは、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中オレイン酸含有率を低下させる(例えば12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下、よりさらに好ましくは8%以下にまで低下させる)ことができる活性を有する。また、上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼは、好ましくは、それをリポマイセス属酵母に発現させることによって該酵母の脂肪酸中多価不飽和脂肪酸含有率を増加させる(例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上にまで増加させる)ことができる活性を有する。ここでいうリポマイセス属酵母としては、脂肪酸変換経路(特に、オレイン酸を生成する経路、及びオレイン酸を他の脂肪酸(例えばリノール酸)に変換する経路)に変異が加えられていないことが好ましい。リポマイセス属酵母として、好ましくはリポマイセス・スタルキー(L. starkeyi)が挙げられる。
【0053】
上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットは、上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列を含む限り、特に制限されない。
【0054】
コード配列としては、上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない
上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼのコード配列としては、例えば下記(X)又は(Y)に記載の塩基配列:
(X)配列番号10に示される塩基配列、又は
(Y)配列番号10に示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列
が挙げられる。
【0055】
上記(Y)の塩基配列について、配列番号10に示される塩基配列に対する同一性の程度は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0056】
上記(Y)の塩基配列は、好ましくは下記(Ya)に記載の塩基配列:
(Ya)配列番号10に示される塩基配列に対して1若しくは複数個の塩基が変異(例えば置換、欠失、付加、挿入等)した塩基配列である。
【0057】
上記(Ya)の塩基配列について、複数個とは、例えば2~8個、好ましくは2~4個、より好ましくは2個である。
【0058】
その他、上記Δ12脂肪酸デサチュラーゼの発現カセットについては、上記した本発明のデサチュラーゼの発現カセットと同様である。
【0059】
本発明の酵母は、公知の方法に従って又は準じて、例えばPCR、制限酵素切断、DNA連結技術等の遺伝子工学的手法に従って作製した上記発現カセットを細胞に導入する操作、形質転換法等によって、作製することができる。
【0060】
2.ポリヌクレオチド、細胞
本発明は、その一態様において、本発明のデサチュラーゼのコード配列、及び酵母由来プロモーターを含む、ポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)に関する。また、本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含む、細胞(本発明の細胞)に関する。以下に、これらについて説明する。なお、本項において記載の無い事項については、上記項の記載が援用される。
【0061】
本発明のポリヌクレオチドは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点など)を含んでいてもよい。例えば、プロモーターと本発明のデサチュラーゼのコード配列の間に(好ましくはいずれか一方或いは両方に隣接して)、本発明のデサチュラーゼのコード配列の3´側に(好ましくは隣接して)、MCSが配置されている態様が挙げられる。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドは、ベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えばpUC系ベクター等が挙げられる。
【0063】
本発明の細胞は、本発明のポリヌクレオチドを、ゲノム外及び/又はゲノム内に含む限りにおいて、特に制限されない。
【0064】
細胞としては、好ましくは酵母が挙げられる。酵母については、上記「1.酵母」における説明と同様である。
【0065】
本発明のポリヌクレオチドは、公知の方法に従って又は準じて、例えばPCR、制限酵素切断、DNA連結技術等の遺伝子工学的手法に従って作製することができる。また、本発明の細胞は、公知の方法に従って又は準じて、例えば本発明のポリヌクレオチドを細胞に導入する操作、形質転換法等によって、作製することができる。
【0066】
3.Δ15脂肪酸デサチュラーゼ、その用途
本発明は、その一態様において、本発明のデサチュラーゼ、及びそれを含有する油脂改質用酵素剤に関する。以下に、これについて説明する。なお、本項において記載の無い事項については、上記項の記載が援用される。
【0067】
本発明のデサチュラーゼは、上記した「活性」を有する限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0068】
本発明のデサチュラーゼは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0069】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0070】
本発明のデサチュラーゼは、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0071】
さらに、本発明のデサチュラーゼには、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
【0072】
本発明のデサチュラーゼは、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0073】
本発明のデサチュラーゼは、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0074】
油脂改質用酵素剤は、必要に応じて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水、油脂等が挙げられる。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D-グルコース、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0075】
油脂改質用酵素剤中の本発明のデサチュラーゼの含有量は、特に制限されず、例えば0.01~100mg/mLである。
【0076】
油脂改質用酵素剤の基質となる油脂としては、リノール酸及び/又はリノール酸エステルを含む種々の油脂(例えばグリセリン脂肪酸エステル)を用いることができるが、たとえば、大豆油、菜種油、米油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、やし油、カカオ脂、サル脂等の植物脂、および魚油、ラード、牛脂、乳脂等の動植物脂、並びにこれらの分別脂、硬化油、エステル交換油、更には脂肪酸とグリセリンから再合成したMCT、トリラウリン、トリオレイン、トリパルミチン、トリステアリン等の合成油脂を含む、トリアシルグリセリドが例示される。また、各種のジアシルグリセリンエステル、モノアシルグリセリンエステルも使用することができる。
【0077】
油脂改質用酵素剤は、好ましくは、リノール酸及び/又はリノール酸エステルを構成するリノール酸をα-リノレン酸に変換するために用いられる。
【0078】
5.油脂産生組成物、油脂の製造方法
本発明は、その一態様において、本発明の酵母を含有する、油脂産生用組成物(本明細書において、「本発明の油脂産生用組成物」と示すこともある。)、に関する。
【0079】
また、本発明は、その一態様において、本発明の酵母の培養物及び本発明の油脂産生用組成物からなる群より選択される少なくとも1種から油脂を回収することを含む、油脂の製造方法(本明細書において、「本発明の油脂製造方法」と示すこともある。)、に関する。
【0080】
以下に、これらについて説明する。なお、本項において記載の無い事項については、上記項の記載が援用される。
【0081】
本発明の油脂産生用組成物は、本発明の酵母を含有する限りにおいて特に制限されない。本発明の油脂産生用組成物は、例えば本発明の酵母の培養物、本発明の酵母の懸濁液であることができる。
【0082】
培養は、炭素源を含有する培養液を用いて従来公知の手法によって行うことができる。炭素源としては、糖類、糖アルコール及び酸性糖あるいはこれらを含むバイオマスを、特に限定されることなく用いることができる。ここで、本発明において「バイオマス」とは、上記炭素源を含む再生可能材料を意味するものとする。
【0083】
糖類としては単糖類、オリゴ糖類及び多糖類が挙げられる。オリゴ糖類は二~十糖類を指称するものとし、これらはホモオリゴ糖類であってもヘテロオリゴ糖類であってもよい。また、多糖類はオリゴ糖類よりも単糖単位数の大きな糖類を指称するものとし、これらはホモ多糖類であってもヘテロ多糖類であってもよい。具体的には、単糖類としてはL-アラビノース、D-キシロース、D-リボース等のペントース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-フラクトース、D-マンノース等のヘキソース、L-ラムノース等の6-デオキシヘキソース等が挙げられる。オリゴ糖類としてはスクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、メリビオース等の二糖類、ラフィノース等の三糖類等が挙げられる。多糖類としては澱粉、セルロース、グリコーゲン、デキストラン、マンナン、キシラン等が挙げられる。上記糖類は単独で用いても適宜組み合わせて用いてもよい。上記組み合わせ中には澱粉加水分解物等も含まれる。また糖類としては糖類を主成分として含有する原料、例えば廃糖蜜、おから等も用いることができる。
【0084】
糖アルコールとしては、D-ソルビトール、D-マンニトール、ガラクチトール、マルチトール等が挙げられる。酸性糖としては、グルクロン酸、ガラクチュロン酸等が挙げられる。
【0085】
培地中の炭素源の量は、特に限定されないが、通常3~15%(w/w)程度とされる。
【0086】
培地は、炭素源の他に、窒素源、無機物その他の栄養素を含んでいてもよい。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等の無機有機窒素化合物が使用できる。さらに窒素源としては、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーン・スティープ・リカー、カゼイン加水分解物、フィッシュミールもしくはその消化物、脱脂大豆粕もしくはその消化物などの窒素含有天然物も使用できる。無機物としては、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸マンガン、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、ホウ酸・モリブデン酸アンモニウム、ヨウ化カリウム等が使用できる。
【0087】
培養条件の一態様は次の通りである。培養は振盪培養あるいは深部攪拌培養など好気的条件下で行う。培養温度は一般には20~35℃が好ましいが、菌が生育する温度であれば他の温度条件でもよい。培養中の培地のpHは、通常、4.0~7.2とされる。培養期間は、特に制限されず、例えば2~10日間である。
【0088】
得られた培養物、及び該培養物中の細胞は、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミトレイン酸等の油脂を含有する。
【0089】
培養物からの油脂の回収は、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。例えば、圧搾、フレンチプレス、ボールミル等により回収することができる。
【0090】
細胞内に蓄積された油脂は、例えば必要に応じて培養物から液体画分を除去し、得られた細胞から公知の方法に従って又は準じて油脂含有抽出物を得ることによって、回収することができる。液体画分の除去は、遠心分離及び静置沈降等の操作や、セパレータ、デカンター及びフィルタレーション等の装置などによって行うことができる。
【0091】
細胞外に分泌された油脂は、例えば培養物、或いは必要に応じて培養物から細胞を除去して得られた液体画分に溶媒を添加して、油脂を該溶媒中に溶解させることによって、回収することができる。溶媒としては、油脂を溶解し、水との混和性がないか乏しい常温で液状の有機溶媒、例えばハロゲン化低級アルカン(クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン)、n-ヘキサン、エチルエーテル、酢酸エチル、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)等が好適に用いられる。抽出溶媒の添加量は培養物中またはその液体分画中に生成蓄積した油脂を十分に回収できる量であればよく特に限定されない。
【0092】
回収された油脂(油脂含有抽出物)は、脂肪酸変換処理を経ずとも、脂肪酸組成におけるω-3脂肪酸含有率が高い。該含有率は、例えば15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上、よりさらに好ましくは40%以上である。
【実施例0093】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0094】
参考例1.PaΔ12dの発現ベクターの作製
pKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-LsD12d1-Ttdh3-18Sプラスミド(ノースレオリシン耐性遺伝子をLsACT1遺伝子のプロモーター及びターミネーターの制御下で、またL. starkeyi由来LsD12d1遺伝子をLsTDH3遺伝子のプロモーター及びターネーターで発現させるためのコンストラクト。本コンストラクトはL. starkeyiのゲノムDNA中の18S rDNA領域に挿入される)を元に、PaΔ12d(酵母Psudozyma antarctica由来のΔ12脂肪酸デサチュラーゼ)(アミノ酸配列は配列番号9で示され、そのコード配列は配列番号10で示される)の発現プラスミドを作製した。
【0095】
pKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-LsD12d1-Ttdh3-18SはpKS-18S-hph(Oguro Y, Yamazaki H, Shida Y, Ogasawara W, Takagi M, Takaku H (2015) Multicopy integration and expression of heterologous genes in the oleaginous yeast, Lipomyces starkeyi. Biosci Biotechnol Biochem 79, 512-515)を基礎とし、人工合成したPtdh3-LsD12d1-Ttdh3配列(配列番号11)をpKS-18S-hphに制限酵素(PmeI及びAvrII)及びDNAリガーゼを用いて挿入した。また、pKS-18S-hphの選抜マーカーをハイグロマイシン耐性遺伝子hphからノースレオリシン耐性遺伝子に置換した。
【0096】
まず鋳型DNAにpKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-LsD12d1-Ttdh3-18Sを用い、プライマーセット3(THD3_terF:5’-GTGTGCGGTTGATGGTCTTCTATCTTCC-3’(配列番号12)、及びTDH_proR:5’-TGCGAATGTGGATTAGAGTAAGATAGATAACTTTTATCTG-3’(配列番号13))によるPCRを行った。得られたPCR溶液にDpnIを添加し、37℃, 3時間処理することにより鋳型DNAを消化した後、ゲル抽出によってDNAを精製した。
【0097】
次にPsudozyma antarctica をYPD(1% yeast extract, 2% polypeptone, 2% glucose)で30℃、 2 日間培養後、total RNAを回収し、cDNAを合成した。total RNAの抽出及びcDNAの合成はタカラバイオ株式会社のNucleoSpin RNAとPrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kitを使用して行った。本cDNAを鋳型に、プライマーセット4(Tdh3p_PaD12d_F:5’-TAATCCACATTCGCAATGTCGTCTGCAGTGGCTGCCAACG-3’(配列番号14)、及びPaD12d_ Tdh3t_R:5’-CCATCAACCGCACACTCACTCGGACATGGCGATGCCAG-3’(配列番号15))プライマーを用いてPCR増幅を行い、ゲル抽出によって目的の遺伝子を取得した。
【0098】
これら精製したDNA断片を、Clontech社のIn-Fusionクローニングシステムを用いて融合し、Escherichia coli DH5αへ導入した。LB + ampicillin 100μg/ml培地上に得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素処理及びシーケンス解析によって、目的のプラスミドpKS-18S-Pact1-nat1-Tact1-Ptdh3-PaD12d-Ttdh3-18Sが作製されたことを確認した。
【0099】
参考例2.PaΔ12dを発現するリポマイセス属酵母の作製
作製した発現プラスミドを鋳型にプライマーセット5(Li18S_F:5’-GCTTCTTCGGAAGCTCTTTGGTGATTCATG-3’(配列番号16)、及びLi18S_R:5’-CGACTATATCTTAAGCCGCACAACGGCCC-3’(配列番号17))を用いてPCRを行った。得られたDNA溶液をL. starkeyiΔlig4+LsElo1の形質転換に使用した。
【0100】
実施例1.Δ15dの発現ベクターの作製
Spizellomyces punctatus由来Δ15脂肪酸デサチュラーゼ(SpD15d)(アミノ酸配列:配列番号1)、Fusarium verticillioides由来Δ15脂肪酸デサチュラーゼ(FvD15d)(アミノ酸配列:配列番号2)、Penicillium italicum由来Δ15脂肪酸デサチュラーゼ(PiD15d)(アミノ酸配列:配列番号3)、及びLobosporangium transversale由来Δ15脂肪酸デサチュラーゼ(LtD15d)(アミノ酸配列:配列番号4)それぞれの発現ベクターを作製した。具体的には、以下のようにして行った。
【0101】
pKS-18S-PACT1-KanR-TACT1-PTDH3-D15d-TTDH3-18Sを作製した。各略語の意味は次の通りである:18S:Lipomyces starkeyi由来18S rRNA領域、PACT1:L. starkeyi由来ACT1遺伝子のプロモーター配列、KanR:カナマイシン耐性遺伝子、TACT1:L. starkeyi由来ACT1遺伝子のターミネーター配列、PTDH3:L. starkeyi由来TDH3遺伝子のプロモーター配列、D15d:Δ15脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子、TTDH3:L. starkeyi由来TDH3遺伝子のターミネーター配列。なお、D15dは、Δ15脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子のコード配列(SpD15d:配列番号5、FvD15d:配列番号6、PiD15d:配列番号7、LtD15d:配列番号8)の5’末端及び3’末端にInFusion PCR用相同配列を付加してなる配列(SpD15d:配列番号18、FvD15d:配列番号19、PiD15d:配列番号20、LtD15d:配列番号21)である。
【0102】
pKS-18S-sNAT1-LsFAD2プラスミド(Matsuzawa et al. Applied Microbiol BIotechnol 2020 doi: 10.1007/s00253-020-10401-9)のsNAT遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子に置換したプラスミドを作成した。本プラスミドを鋳型に、プライマーセット(Primer 1 : 5'-TGCGAATGTGGATTAGAGTA-3'(配列番号22)、Primer 2 : 5'-GTGTGCGGTTGATGGTCTTC-3'(配列番号23) )とKOD -Plus- (TOYOBO社)を用いてPCRを行なった。NucleoSpin Gel and PCR Clean-up kit(タカラバイオ社)を用いてPCR産物の精製を行なった。人工合成したD15d遺伝子と上記PCR産物をIn-Fusion HD Cloning Kit (タカラバイオ社)を用いて連結させた。上記In-Fusion HD Cloning Kit反応物を用いて大腸菌ECOS DH5α(ニッポンジーン社)を形質転換し、アンピシリンを加えたLB(LB+Amp)寒天培地に大腸菌を塗布した。
【0103】
LB+Amp寒天培地に生育してきたコロニーを各合成遺伝子につき8コロニーずつピックアップし、Emerald Amp PCR Master Mix(タカラバイオ社) とプライマーセット(Primer 3 : 5'-GTGTGCGGTTGATGGTCTTC-3'(配列番号24)、Primer 4 : 5'-TCGGTATTATAGAATACGGC-3'(配列番号25))を用いたコロニーPCR(cPCR)によってD15d遺伝子がクローニングされているか確認を行なった。・cPCRによってD15d遺伝子のクローニングが確認された大腸菌クローンをLB+Amp培地で液体培養し、NucleoSpin Plasmid EasyPureキット(タカラバイオ社)を用いて目的のプラスミドDNAを調製した。
【0104】
実施例2.外来性Δ15dを発現するリポマイセス属酵母の作製
各D15d遺伝子をクローニングしたpKS-18S-PACT1-KanR-TACT1-PTDH3-D15d-TTDH3-18Sプラスミド(実施例1)を鋳型に、プライマーセット(Primer 5 : 5'-GCTTCTTCGGAAGCTCTTTGGTGATTCATG-3'(配列番号26)、Primer 6 : 5'-CGACTATATCTTAAGCCGCACAACGGCCCA-3'(配列番号27))とKOD -Plus- (TOYOBO社)を用いてPCRを行い、DNA断片を調製した。調製したDNA溶液をlslig4Δ+PaD12d+LsElo1株(Psudozyma antarctica由来D12d及びLipomyces starkeyi由来Elo1の過剰発現株、参考例2)へ導入した。形質転換はOguro らの論文(Biosci Biotechnol Biochem 2015 79:512-515)に従って行なった。形質転換後、菌体をYPD (2% pepton, 1% yeast extract, 2% glucose) + 50 μg/mL Zeocin + 50 μg/mL Nourseothricin + 50 μg/mL G418寒天培地に植え、30℃で約1週間培養した。各D15d遺伝子について、3つのコロニーをピックアップした。
【0105】
実施例3.油脂製造特性の解析
実施例3得られたコロニーをGY(5% glucose, 0.5% yeast extract)液体培地において140 rpm, 20℃で4日間培養後、論文(Matsuzawa et al. 2020 Appl Microbiol Biotechnol 104:2537-2544)の手法で脂肪酸のメチル化して、ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメーター(GC-MS、島津社 QP2010 SE)による脂肪酸組成解析を行なった。本解析ではキャリアーガスとしてヘリウムガスを、また、アジレントテクノロジー社 DB-225MSキャピラリーカラム(30 m×0.25 mm i.d.)によって各脂肪酸を分離した。
【0106】
結果を表1に示す。上記実施例の外来性Δ15dを酵母において発現させることによって、脂肪酸組成におけるα-リノレン酸のようなω-3脂肪酸の含有率を向上することが分かった。
【0107】