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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048074
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】炭素ナノ材料含有膜を加工する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20220317BHJP
【FI】
C01B32/194
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063926
(22)【出願日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020153872
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】張 民芳
(72)【発明者】
【氏名】楊 梅
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 俊也
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】沖川 侑揮
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴壽
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA07
4G146AA11
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD26
4G146AD29
4G146CA16
4G146CB10
4G146CB12
4G146CB14
4G146CB15
4G146CB16
4G146CB32
(57)【要約】
【課題】基板上に形成された炭素ナノ材料含有膜を容易にかつ速やかにエッチング加工するための方法を提供すること。
【解決手段】この加工方法は、基板上の炭素ナノ材料含有膜上にレジストマスクおよび/または金属マスクを形成すること、酸化剤を含むエッチャントの存在下、炭素ナノ材料含有膜に光照射すること、並びにレジストマスクおよび/または金属マスクを除去することを含む。炭素ナノ材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはフラーレンであってもよい。炭素ナノ材料含有膜は、単層のグラフェンまたはグラフェンの積層膜であってもよい。酸化剤としては、次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムから選択することができる。エッチャント中における酸化剤の濃度は、例えば1重量%以上25重量%の範囲内から調整すればよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の炭素ナノ材料含有膜上にレジストマスクおよび/または金属マスクを形成すること、
酸化剤を含むエッチャントの存在下、前記炭素ナノ材料含有膜に光照射すること、並びに
前記レジストマスクおよび/または前記金属マスクを除去することを含む、炭素ナノ材料含有膜を加工する方法。
【請求項2】
前記炭素ナノ材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはフラーレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素ナノ材料含有膜は、単層のグラフェンまたはグラフェンの積層膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤は、次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記光照射は、前記酸化剤を励起するように行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記光照射で用いられる光は、200nm以上400nm以下の範囲から選択される波長の光を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エッチャント中における前記酸化剤の濃度は、1重量%以上25重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記レジストマスクの前記形成は、ネガ型のフォトレジストを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属マスクは、金または白金を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記光照射は、前記炭素ナノ材料含有膜が前記エッチャント中に浸漬された状態で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記エッチャントは界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記界面活性剤は、イオン性界面活性剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記エッチャント中における前記界面活性剤の濃度は、0.01重量%以上10重量%以下である、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、炭素ナノ材料を含む膜の加工方法に関する。例えば、本発明の実施形態の一つは、基板上に形成されたグラフェン含有膜をウェットエッチングによってパターニングするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブやグラフェン、フラーレンなどに例示される炭素ナノ材料はsp2炭素原子によって構成される材料であり、その特異的な二次元または三次元構造に起因して極めて高い電子移動度、導電性、熱伝導性、力学特性を示す。このため、炭素ナノ材料は種々の分野において既存材料にとって代わる新規材料として注目を集めている。炭素ナノ材料を含む膜を加工してパターニングすることにより、炭素ナノ材料の優れた電気的性質を活用した電子デバイスを作製することも可能である。例えば特許文献1と2および非特許文献1から3には、基板上に形成されたグラフェン薄膜に対してエッチング加工を施すことでパターニングを行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-172792号公報
【特許文献2】特開2013-225649号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ベル,D.C.(Bell,D.C.)、外3名、「ヘリウムイオンによるグラフェンの精密切断とパターニング(Precision Cutting and Patterning of Graphene with Helium Ions)」、ナノテクノロジー(Nanotechnology)、(英国)、2009年、第20巻、455301
【非特許文献2】コン,C.X.(Cong,C.X.),他5名、「ナノ球状リソグラフィーを用いるグラフェンナノディスクアレイの作製(Fabrication of Graphene Nanodisk Arrays Using Nanosphere Lithography)」、ジャーナルオブフィジカルケミストリー C(Journal of Physical Chemistry C)、(米国)、2009年、第113巻、p6529-6532
【非特許文献3】レム,M.C.(Lemme,M.C.)、外6名、「ヘリウムイオンビームによるグラフェンデバイスのエッチング(Etching of Graphene Devices with a Helium Ion Beam)」、エーシーエスナノ(ACS Nano)、(米国)、2009年、第9巻p2674-2676
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、炭素ナノ材料を含む膜をエッチング加工するための新規な方法を提供することを課題の一つとする。例えば、本発明の実施形態の一つは、基板上に形成されたグラフェン含有膜を容易にかつ速やかにエッチング加工するための方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、炭素ナノ材料含有膜を加工する方法である。この方法は、基板上の炭素ナノ材料含有膜上にレジストマスクおよび/または金属マスクを形成すること、酸化剤を含むエッチャントの存在下、炭素ナノ材料含有膜に光照射すること、並びにレジストマスクおよび/または金属マスクを除去することを含む。
【0007】
炭素ナノ材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、およびフラーレンから選択することができる。また、炭素ナノ材料含有膜は単層のグラフェンまたはグラフェンの積層膜であってもよい。
【0008】
酸化剤は次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムから選択することができる。エッチャント中における酸化剤の濃度は、例えば1重量%以上25重量%の範囲内から調整すればよい。エッチャントは界面活性剤をさらに含んでもよく、その濃度は例えば0.01重量%以上10重量%以下から選択される。界面活性剤はイオン性界面活性剤でも非イオン性界面活性剤でもよい。
【0009】
光照射は、酸化剤を励起するように行われる。例えば、光照射は、炭素ナノ材料含有膜がエッチャント中に浸漬された状態で行えばよい。光照射では、200nm以上400nm以下の範囲から選択される波長の光を含む光を使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態の一つにより、穏和な条件下、短時間で炭素ナノ材料含有膜をエッチング加工することができ、パターニングされた炭素ナノ材料含有膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の一つに係る炭素ナノ材料含有膜を加工する方法を示す模式的断面図である。
図2】実施例1のグラフェン含有膜の光学顕微鏡写真である。図2(A)はエッチング前、図2(B)と図2(C)はエッチャントに浸漬した状態で光照射をそれぞれ5分、20分行った後、図2(D)はエッチャントに浸漬した状態で光照射せずに120分静置した後の写真である。
図3図3(A)と図3(B)は、それぞれ図2(A)と図2(B)に示された測定点1から4のラマンスペクトルである。
図4図4(A)と図4(B)は、それぞれ図2(C)と図2(D)に示された測定点1から4のラマンスペクトルである。
図5】実施例2のグラフェン含有膜の光学顕微鏡写真である。図5(A)はエッチング前、図5(B)はエッチャントに浸漬した状態で光照射を5分行った後の写真である。
図6図6(A)と図6(B)は、それぞれ図5(A)と図5(B)に示された測定点1から4のラマンスペクトルである。
図7図7(A)は実施例3におけるエッチング前のグラフェン含有膜の光学顕微鏡写真であり、図7(B)は図7(A)中の点線四角形領域のラマンスペクトルの2Dバンドピーク強度のマッピング図である。
図8図8(A)は実施例3におけるエッチング後のグラフェン含有膜の光学顕微鏡写真であり、図8(B)は図8(A)中の点線四角形領域のラマンスペクトルの2Dバンドピーク強度のマッピング図である。
図9図9(A)は実施例3におけるエッチング後のグラフェン含有膜の原子間力顕微鏡(AFM)によって取得された位相分布像であり、図9(B)は図9(A)中の直線A-A´に沿った高さ解析結果である。
図10】本発明の実施形態の一つに係る炭素ナノ材料含有膜を加工する方法を示す模式的断面図である。
図11】本発明の実施形態の一つに係る炭素ナノ材料含有膜を加工する方法を示す模式的断面図である。
図12図12(A)は実施例4におけるメタルマスク形成後の試料Aの光学顕微鏡写真であり、図12(B)左図はエッチング後の試料Aの光学顕微鏡写真であり、図12(B)右図は同左図の点線四角形領域のラマンスペクトルの2Dバンドピーク強度のマッピング図である。
図13図13(A)は実施例4におけるメタルマスク形成後の試料Aの光学顕微鏡写真であり、図13(B)はエッチング後の試料Aの光学顕微鏡写真であり、図13(C)左図は図13(B)の点線四角形の部分の拡大図であり、同右図は同左図の点線四角形領域のラマンスペクトルの2Dバンドピーク強度のマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本出願で開示される発明の実施形態について説明する。以下の実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【0013】
本発明の実施形態の一つは、炭素ナノ材料を含む膜をエッチングによって加工するための方法である。以下、本加工方法を模式的断面図である図1(A)から図1(D)を用いて説明する。
【0014】
1.加工方法のフロー
本加工方法では、まず、図1(A)に示すように、炭素ナノ材料含有膜110を基板100上に形成する。その後、フォトレジスト102を炭素ナノ材料含有膜110上に形成し、フォトマスク104を介してフォトレジスト102を露光する(図1(B))。露光されたフォトレジスト102は現像され、フォトマスク104のパターンに対応するレジストマスク106を得る(図1(C))。この後、炭素ナノ材料含有膜110がエッチャント108と接触するよう、炭素ナノ材料含有膜110とレジストマスク106が形成された基板100をエッチャント108に浸漬する(図1(C))。この状態において、レジストマスク106から露出した炭素ナノ材料含有膜110に対して光照射を行い、炭素ナノ材料含有膜110を部分的に酸化的分解する。引き続き、レジストマスク106を除去することで、レジストマスク106に覆われて酸化分解されなかった炭素ナノ材料含有膜110を基板100上に残存させ、パターニングされた炭素ナノ材料膜112が形成される(図1(D))。上記一連のプロセスにより、レジストマスク106の配置パターンに対応した形状を有する炭素ナノ材料含有膜110を基板100上に形成することができる。以下、この一連のプロセスについて詳細に説明する。
【0015】
2.基板
基板100に含まれる材料に特に制約は課されず、シリコンやゲルマニウムなどの半導体、窒化ガリウムやリン化インジウム、テルル化カドミウムなどの化合物半導体、アルミナやサファイア、酸化ジルコニウムなどのセラミック、ガラスや石英などのケイ素酸化物、ポリイミドやポリカルボナートなどの高分子でもよい。基板は可撓性を有していてもよい。典型的な例としては、単結晶シリコン基板やガラス基板、サファイア基板、石英基板などが挙げられる。
【0016】
3.炭素ナノ材料含有膜
炭素ナノ材料としては、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンが挙げられる。
【0017】
炭素ナノ材料としてカーボンナノチューブを用いる場合、その構造に制限はなく、単層カーボンナノチューブでも多層カーボンナノチューブでもよい。カーボンナノチューブは、その端部がキャップされていてもよく、一方、あるいは両方の端部が開いた構造を有していてもよい。したがって、所謂カーボンナノホーンと呼ばれる炭素ナノ材料も本加工方法に用いることができる。また、カーボンナノチューブ内部にフラーレンが内包したピーポットを用いてもよい。カーボンナノチューブの長さにも制約はない。
【0018】
炭素ナノ材料としてグラフェンを用いる場合には、炭素ナノ材料含有膜110は、グラフェンの単層膜でもよく、複数のグラフェンが積層したオリゴグラフェン、ナノグラフェン、酸化グラフェン、もしくはグラファイトを含む膜でもよい。また、グラフェンの基本骨格の一部が酸化されていてもよい。
【0019】
炭素ナノ材料としてフラーレンを用いる場合、C60やC70のみならず、C74、C76、C78などを用いてもよい。また、スカンジウムやランタン、セリウムなどの金属イオンを内包したフラーレンを用いてもよく、あるいは一部の炭素が修飾され、エステル基などの官能基を有するフラーレンを用いてもよい。
【0020】
炭素ナノ材料含有膜110の形成は、公知の方法を適宜選択して行うことができる。例えば炭素ナノ材料を含む分散液を調製し、この懸濁液をスピンコート法、ディップコーティング法、印刷法などの湿式成膜法を適用して基板100上に塗布し、その後溶媒を蒸発させることで炭素ナノ材料含有膜110を形成することができる。分散液の溶媒は水でもよく、あるいはカーボナート類、エーテル類、ケトン類、アルコール類、炭化水素類、ハロゲン含有炭化水素類、エステル類、カルボン酸類、アミン類、アミド類、ニトロアルカン類、硫黄化合物類などから選択される有機溶媒を用いてもよい。また、分散液には、界面活性剤などの分散剤を添加してもい。ただし、パターニング後の炭素ナノ材料含有膜110の電気的特性に影響が及ばないよう、分散剤を用いない、またはその濃度が低くなるように分散液を調整することが好ましい。
【0021】
あるいは、基板100上にカーボンナノチューブまたはグラフェンを生成するための触媒を固定し、基板100の表面からカーボンナノチューブまたはグラフェンを成長させてもよい。具体的には、真空蒸着法や有機金属CVD(MOCVD)法、スパッタリング法などを用いて鉄、コバルト、ニッケル、または銅などの金属を含む触媒層を基板100上に形成する。必要に応じ、触媒層を水素などの還元性ガスの存在下で加熱処理してもよい。あるいは、金属の微粒子を含む分散液を基板100上に塗布して触媒層を形成してもよい。その後、熱CVD法を利用してカーボンナノチューブまたはグラフェンを成長させる。例えば、ベンゼンやアセチレン、一酸化炭素、メタン、エタノールなどの原料ガスの存在下、基板100を600℃から1200℃の温度で加熱する。熱CVD法に替わってプラズマCVD法を用いる場合には、400℃から600℃の温度で加熱を行ってもよい。これにより、触媒を基点としてカーボンナノチューブまたはグラフェンが成長し、基板100上に炭素ナノ材料含有膜110を形成することができる。
【0022】
グラフェンを用いる場合には、基板100上での酸化グラフェンの還元によって炭素ナノ材料含有膜110を形成してもよい。具体的には、グラファイト粉末を過マンガン酸カリウムや二クロム酸カリウム、過酸化水素などの酸化剤を用いて酸化し、その後、酸化によって生成する酸化グラフェンを水などの溶媒に分散させて分散液を得る。この分散液を基板100上に塗布し、酸化グラフェンを含む膜を形成する。引き続き、大気下において水銀ランプなどの光源からの光を酸化グラフェンを含む膜に照射する。光照射によって酸化グラフェン中の酸素が脱離し、グラフェン含む炭素ナノ材料含有膜110が基板100上に形成される。
【0023】
あるいは、他の支持基板上に形成された炭素ナノ材料含有膜110上に基板100を貼り合わせ、炭素ナノ材料含有膜110を支持基板から基板100へ転写してもよい。例えば、表面に鉄、コバルト、ニッケル、または銅などの金属を含む薄膜が形成された支持基板を用い、CVD法を適用し、金属を触媒としてカーボンナノチューブまたはグラフェンを成長させる。その後、ポリメタクリル酸メチル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリイミドなどの高分子を含む膜でカーボンナノチューブまたはグラフェンを含む膜をコーティングする。この後、基板100を高分子膜を介して貼り合わせ、さらに金属を含む薄膜を塩化鉄溶液などによって化学的に除去することで、カーボンナノチューブまたはグラフェンを含む炭素ナノ材料含有膜110が支持基板から基板100へ転写される。
【0024】
4.レジストマスクの作製
レジストマスク106の作製も公知の方法や材料を適用することで行うことができる。具体的には、炭素ナノ材料含有膜110が形成された基板100上にフォトレジスト102を湿式成膜法を利用して塗布し、溶媒を蒸発させる。あるいは、固体のレジストフィルムを炭素ナノ材料含有膜110が形成された基板100上に配置してフォトレジスト102を形成してもよい。後述するように、本加工方法ではエッチングの際に炭素ナノ材料含有膜110に対して光照射を行う。したがって、エッチング時の光照射によってレジストマスク106が可溶化しないよう、ネガ型のフォトレジストを用いることが好ましい。
【0025】
その後、所望のパターンで透光部104aと遮光部104bが形成されたフォトマスク104をフォトレジスト102上に配置し、フォトレジスト102に対してフォトマスク104を介して露光する(図1(B))。引き続き、フォトレジスト102をアルカリ性水溶液などのエッチャントを用いて現像し、パターニングされたフォトレジスト102、すなわちレジストマスク106を得る(図1(C))。なお、図1(C)は、ネガ型のフォトレジスト102を使用した例が示されており、透光部104aに対応する領域にレジストマスク106が形成される。図示しないが、露光装置としてステッパー(縮小投影型露光装置)や直接描画装置を用いてもよい。前者では、フォトマスク104を透過した光源からの光が投影レンズによって集光され、集光された光がフォトレジスト102に照射される。後者では、フォトマスク104を用いず、レーザ光がフォトレジスト102に直接照射される。
【0026】
なお、レジストマスク106に替わり、またはレジストマスク106と共に、金属を含むメタルマスクを用いてもよい。例えば図10(A)に示すように、炭素ナノ材料含有膜110が形成された基板100上に開口122aを有する蒸着マスク122を配置する。その後、金属を高真空下で加熱・気化させる。これにより、金属蒸気が開口122aを介して炭素ナノ材料含有膜110上に付着・固化し、開口122aのパターンが反映されたメタルマスク124が得られる(図10(B))。ここで用いる金属としては、後述する炭素ナノ材料含有膜110のエッチングに用いられるエッチャントに含まれる酸化剤に対して耐性を有する金属であればよく、例えば金や白金が挙げられる。
【0027】
あるいは、上記の開口122aを有する蒸着マスク122を利用せず、上述したプロセスにより作成したレジストマスク106を利用してメタルマスク124を形成してもよい。すなわち、図11(A)に示すように、レジストマスク106が形成された炭素ナノ材料含有膜110上に蒸着によって金属膜126を形成する。その後、レジストマスク106を加熱または有機溶媒により除去し、金などの金属を含む、パターニングされたメタルマスク124を形成することができる(図11(B))。この場合には、フォトレジスト102は、ネガ型でもポジ型でもよい。
【0028】
5.炭素ナノ材料含有膜のエッチング
レジストマスク106の形成後、炭素ナノ材料含有膜110に対してエッチングが行われる。エッチングは、エッチャント存在下、炭素ナノ材料含有膜110に対して光を照射することによって行われる。より具体的には、炭素ナノ材料含有膜110とレジストマスク106が形成された基板100を酸化剤を含むエッチャント108が入れられた容器120内に配置し、炭素ナノ材料含有膜110をエッチャント108に浸漬させる。この状態で炭素ナノ材料含有膜110に対して光照射を行う(図1(C))。光は基板100の上面(炭素ナノ材料含有膜110が形成された面)から照射すればよいが、照射される光が基板100を透過する場合には、上面とは反対側の下面から照射してもよい。
【0029】
エッチャントに含まれる酸化剤としては、次亜塩素酸や亜塩素酸、塩素酸などの塩素系オキソ酸やその塩、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸金属塩、クロム酸カリウムや二クロム酸カリウムなどのクロム酸金属塩、塩素やヨウ素、臭素などのハロゲンなどが挙げられる。これらの中でも、酸化力が高く、廃棄処理が容易であり、かつ、光によって速やかに分解される塩素系オキソ酸またはその金属塩が好ましい。塩素系オキソ酸としては次亜塩素酸が典型的な例であり、その金属塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられる。
【0030】
エッチャントを構成する溶媒としては、酸化剤を十分に溶解する溶媒であれば良く、安価で毒性の無い水が典型的な例である。エッチャントには、水に加え、親水性が高く、かつ、レジストマスク106を膨潤させない有機溶媒が含まれていてもよい。例えば、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミドやN,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒が含まれていてもよい。エッチャント中の酸化剤の濃度は、炭素ナノ材料含有膜110に含まれる炭素ナノ材料の種類や厚さにも依存するが、例えば1重量%以上25重量%以下または1重量%以上20重量%以下の範囲から選択することができる。この範囲で酸化剤濃度を選択することにより、十分なエッチング速度が得られるとともに、エッチング後に残存する酸化剤を容易に除去することができる。
【0031】
エッチャント108には、さらに界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤の種類に制約はなく、イオン性界面活性剤でも非イオン性界面活性剤でもよい。前者の例としては、飽和もしくは不飽和の脂肪族カルボン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアミンオキシド、アンモニウムカチオンとカルボキシラートアニオンを有するベタインなどが挙げられる。後者の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテルなどが挙げられる。エッチャント108中の界面活性剤の濃度にも制約はなく、例えば0.1重量%以上10重量%以下の範囲から選択することができる。界面活性剤の濃度を上記濃度範囲から選択することで、エッチングの加速が可能であり、エッチング中における発泡が抑制でき、かつ、エッチング後の洗浄によって界面活性剤を容易に除去することができる。
【0032】
光照射に用いられる光源は、酸化剤の吸収波長に対応する光を照射可能な光源であればよい。このように光源を選択することにより、エッチャント中の酸化剤が光励起される。例えば次亜塩素酸または次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として用いる場合には、これらの酸化剤の吸収波長は200nmから400nmに存在するため、この波長範囲から選択される波長の光を発する光源を用いればよい。好ましくは、上記吸収波長領域をカバー可能な光源が用いられる。具体的には、キセノンランプ(キセノンショートアークランプ)、ハロゲンランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、UVランプ(Xe/Hg遠紫外ランプ)などが光源として挙げられる。
【0033】
エッチングは、室温(20℃から25℃)で行ってもよく、冷却下(0℃以上室温以下)で行ってもよく、あるいは加熱下(室温以上100℃以下)で行ってもよい。光源によるエッチャント108の温度上昇を防止するため、容器120に図示しない冷却装置を接続し、エッチャント108の温度を一定に維持しながらエッチングを行ってもよい。また、図示しないが、容器120に攪拌機構を設け、エッチャント108を攪拌しながらエッチングを行ってもよい。エッチング時間は、炭素ナノ材料含有膜110に含まれる炭素ナノ材料の種類や厚さを適宜考慮して決定すればよく、例えば5秒以上30分以内、1分以上30分以内、または5分以上20分以内の範囲から選択される。
【0034】
エッチングが終了した後、基板100を水、アルコール、ケトンなどの溶媒を用いて洗浄する。その後、残存するレジストマスク106が除去される(図1(D))。レジストマスク106の除去では公知の剥離液を用いて基板100を処理すればよい。剥離液としては、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドやアミンなどを含むアルカリ性溶液、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やアセトンなどの有機溶剤が例示される。なお、メタルマスク124を用いる場合には、ヨウ化カリウムとヨウ素を含む水溶液をエッチャントとして用いてメタルマスク124を除去すればよい。
【0035】
以上のプロセスにより、基板100上にパターニングされた炭素ナノ材料含有膜110を作製することができる。本加工方法では、エッチャント108を用いる、いわゆるウェットエッチングによって炭素ナノ材料含有膜110が加工される。したがって、ドライエッチングによる加工方法と比較し、一度に大量の基板が処理できるというメリットを有する。また、実施例でも示すように、エッチャント単独では実用的なエッチング速度が得られないのに対し、光照射を行うことによって炭素ナノ材料含有膜110のエッチング速度が飛躍的に増大する。さらに本加工方法では、エッチングに先立って炭素ナノ材料含有膜110に対して予備的な処理(例えばエッチングを促進するための膜形成など)を行う必要は無い。このことは、本発明の実施形態を適用することにより、カーボンナノチューブのみならずグラフェンやフラーレンを含む様々な炭素ナノ材料を含む機能性薄膜の実用的なウェットエッチング技術を提供することが可能になることを意味する。
【実施例0036】
1.実施例1
本実施例1では、光照射条件下において、次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として含むエッチャントで炭素ナノ材料含有膜110を処理した結果について述べる。なお、以下の実施例1から4では、いずれも炭素ナノ材料としてグラフェンを用いた。
【0037】
1-1.実験
試料として、酸化ケイ素薄膜を介して単層グラフェンが形成された1cm×1cmの単結晶シリコン基板(シグマ-アルドリッチ社製、以下同じ)を用いた。この試料をガラス瓶内に配置し、ガラス瓶に0.05g/mLの次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)の水溶液10mLを加えた。室温において、単結晶シリコン基板のグラフェンが形成された面に対してキセノンランプ(浜松ホトニクス社製、型番LC5、100W、照射波長範囲200から2000nm、以下同じ)を用いて光照射を行った。
【0038】
1-2.結果
次亜塩素酸ナトリウム水溶液による処理を行う前の試料の光学顕微鏡(株式会社島津アクセス社製、ナノサーチ顕微鏡SFT-4500、以下同じ)写真を図2(A)に示す。また、図2(A)中の測定点1から4において測定したラマン分光スペクトルを図3(A)に示す。ラマン分光スペクトルは、レニショー社製inViaラマン分光光度計を用いて取得した。図2(A)に示すように、処理前のグラフェン含有膜はほぼ均一な膜として観察された。また、図3(A)に示すように、いずれの測定点においてもグラフェン単層膜に特有なDバンド(1345cm-1)、Gバンド(1595cm-1)、2Dバンド(2685cm-1)が観測され、これらのピーク強度も測定点1から4の間で差が見られなかった。これらの結果は、単結晶シリコン基板上においてグラフェン含有膜はほぼ均一に単層構造を形成していることを示している。
【0039】
一方、光照射下におけるエッチング処理を開始してから5分後の試料の光学顕微鏡写真(図2(B))から、単結晶シリコン基板上のグラフェン含有膜に多くの欠陥部が形成されていることが確認された。図2(B)に示される測定点1から4のラマン分光スペクトル(図3(B))から理解されるように、測定点4を除き、いずれのスペクトルにおいてもグラフェン特有のバンドがほとんど観測されなかった。
【0040】
さらに、光照射下におけるエッチング処理を開始してから20分後では、光学顕微鏡写真(図2(C))においてグラフェン含有膜を確認することができなかった。また、図2(C)に示される測定点1から4のラマン分光スペクトルを測定した結果、測定点1ではグラフェン特有のバンドがわずかに検出できたものの、他の測定点ではグラフェンの存在は確認できなかった(図4(A))。
【0041】
これに対し、光照射を行わず、40℃において次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に試料を120分静置した場合、図2(D)に示すように、単結晶シリコン基板上にグラフェン含有膜が残存していることが光学顕微鏡観察結果から確認された。また、図2(D)の測定点1から4のラマン分光スペクトルを測定した結果、測定点3と4ではグラフェンが明確に残存していることが確認された(図4(B))。
【0042】
以上の結果は、グラフェンを含む炭素ナノ材料含有膜のエッチングにおいて、光照射がエッチングの加速に極めて有効であることを明確に示している。詳細なメカニズムはまだ明らかになっていないが、光によって励起された酸化剤が分解し、酸素ラジカルを生成するものと考えられる。この酸素ラジカルが炭素ナノ材料のsp2炭素を攻撃することで炭素ナノ材料が酸化され、その結果、親水性が増大し、エッチャントに対する溶解性が向上するものと考えられる。このようなメカニズムとともに、またはこのメカニズムに替わり、酸素ラジカルによって炭素-炭素結合の一部が開裂し、炭素ナノ材料が酸化的に分解されるメカニズムも寄与していると考えられる。
【0043】
2.実施例2
本実施例2では、グラフェン含有膜のエッチングにおける界面活性剤の効果を検討した結果について述べる。
【0044】
2-1.実験
アルキルアミンオキシド系界面活性剤を含む6重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ライオンハイジーン株式会社製、キッチンパワーブリーチ、以下同じ)をエッチャントとして用いた。酸化ケイ素薄膜を介して単層グラフェンが形成された1cm×1cmの単結晶シリコン基板をガラス瓶内に配置し、試料が上記エッチャントに完全に浸漬するよう、エッチャントをガラス瓶へ加えた。その後、キセノンランプを用い、単結晶シリコン基板のグラフェンが形成された面に対して室温で光照射を5分行った。
【0045】
2-2.結果
エッチャントによる処理前後の試料の光学顕微鏡写真をそれぞれ図5(A)、図5(B)に示す。図5(A)と図5(B)における測定点1から4において測定したラマン分光スペクトルをそれぞれ図6(A)と図6(B)に示す。図5(A)と図5(B)の比較から、エッチャントによる処理前では確認されていたグラフェンは、処理後にはほとんど観測されないことが分かる。また、図6(A)と図6(B)を比較すると、処理前にはいずれの測定点においてもグラフェンに由来する各バンドのピークが明確に検出されるが、処理後にはいずれの測定点においてもこれらのピークが認められなかった。
【0046】
本実施例に対する比較例に相当するのが実施例1におけるエッチング時間5分の試料である(図2(B)、図3(B))。図5(B)と図2(B)の比較から、界面活性剤を添加することにより、より速やかにグラフェン含有膜が除去されることが確認できる。また、図3(B)に示す結果から、界面活性剤非存在下では一部の測定点ではグラフェンが残存しているが、図6(B)に示す結果から、界面活性剤を用いる場合にはいずれの測定点にもグラフェンが残存していないと言える。これらの結果は、界面活性の添加によってエッチング速度が更に向上することを示している。
【0047】
3.実施例3
本実施例では、レジストマスクを用いて単層グラフェンを含むグラフェン含有膜に対してエッチングによるパターニングを行った結果について述べる。
【0048】
3-1.実験
本実施例は、図1に示されたスキームに準じて行った。具体的には、酸化ケイ素薄膜を介して単層グラフェンが形成された1cm×1cmの単結晶シリコン基板を試料として用い、グラフェン含有膜上にアクリル系樹脂を含む株式会社パジコ製UVレジン(ハードタイプ)を部分的に塗布した。このUVレジンに対してUVランプ(アズワン株式会社製、型番SLUV-8)を約5分照射して硬化し、レジストマスクを形成した。
【0049】
引き続き、レジストマスクが形成された試料をガラス瓶内に配置し、試料が完全に浸漬するよう、エッチャントをガラス瓶へ加えた。エッチャントとしては、アルキルアミンオキシド系界面活性剤を含む6重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた。その後、キセノンランプを用い、単結晶シリコン基板のグラフェンが形成された面に対して室温で光照射を5分行った。引き続き、試料をエッチャントから取り出し、水で洗浄し、レジストマスクを物理的に剥離した。
【0050】
3-2.結果
レジストマスク作製前の試料の光学顕微鏡写真を図7(A)に、図7(A)中の点線四角形で囲まれた領域のラマン分光スペクトルによって検出された2Dバンドの強度マッピングデータを図7(B)に示す。これらの図から、単結晶シリコン基板上のグラフェン含有膜はほぼ均一な厚さを有していることが確認された。
【0051】
図8(A)は、レジストマスクが形成されたグラフェン含有膜をエッチング処理し、さらにレジストマスクを剥離することで得られた試料の光学顕微鏡像である。図中、符号112が付された帯状の領域がレジストマスクが形成されていた領域である。図8(A)から理解されるように、レジストマスクが形成されていた領域に選択的にパターニングされた炭素ナノ材料膜112としてグラフェン含有膜が残存し、この領域以外ではグラフェン含有膜が除去されていることが分かる。このことは、図8(A)中の点線四角形で囲まれた領域のラマン分光スペクトルによって検出された2Dバンドの強度マッピングデータ(図8(B))からも確認される。
【0052】
図9(A)にAFM(株式会社島津アクセア社製、ナノサーチ顕微鏡、型番SFT-4500)を用いて得られた試料の位相分布像を、図9(A)中の直線A-Bに沿った試料の高さ解析結果を図9(B)に示す。図9(A)と図9(B)から理解されるように、レジストマスクが形成されていた領域(図9(A)中、符号112が付された帯状領域)は、レジストマスクが形成されていなかった他の領域と比較して高い。具体的には、図9(B)に示すように、レジストマスクが形成されていた領域中の測定点2はレジストマスクが形成されていなかった領域中の測定点1と比較して高い。同様に、レジストマスクが形成されていた領域中の測定点4はレジストマスクが形成されていなかった領域中の測定点3と比較して高い。測定点2、4の高さと測定点1、3の高さの差は0.5nmから0.8nmであった。これらの結果からも、レジストマスクが形成されていた領域にグラフェン含有膜が存在していることが証明される。
【0053】
4.実施例4
本実施例では、メタルマスクを用いて単層グラフェンを含むグラフェン含有膜に対してエッチングによるパターニングを行った例について述べる。
【0054】
4-1.実験
試料として酸化ケイ素薄膜を介して単層グラフェンが形成された1cm×1cmの単結晶シリコン基板を用いた。このグラフェン含有膜上に蒸着マスクまたはレジストマスクを介して金薄膜(厚さ100nm)を蒸着することでメタルマスクを形成した。ここではパターンの異なる二種類のメタルマスク(メタルマスクA、B)を用いた。以下、メタルマスクAとBが用いられた試料をそれぞれ試料A、Bと呼ぶ。メタルマスクが形成された試料AとBの光学顕微鏡写真をそれぞれ図12(A)と図13(A)に示す。これらの図から、符号106が付された領域にパターニングされた金の薄膜がメタルマスクとして形成されていることが確認できる。
【0055】
引き続き、メタルマスクが形成された試料A、Bをそれぞれガラス瓶内に配置し、試料が完全に浸漬するよう、エッチャントをガラス瓶へ加えた。エッチャントとしては、アルキルアミンオキシド系界面活性剤を含む6重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた。その後、キセノンランプを用い、単結晶シリコン基板のグラフェンが形成された面に対して室温で光照射を5分行った。引き続き、試料をエッチャントから取り出し、水で洗浄し、メタルマスクをヨウ化カリウム-ヨウ素の水溶液により剥離した。
【0056】
図12(B)の左図は、メタルマスク剥離後の試料Aの光学顕微鏡写真であり、同右図は同左図の点線四角形で囲まれた領域のラマン分光スペクトルによって検出された2Dバンドの強度マッピングデータである。図12(B)の光学顕微鏡写真から理解されるように、メタルマスクが形成されていた領域では単層グラフェンの存在が明確に確認できる。また、マッピングデータからも、上記領域に単層グラフェンが残存するのに対し、メタルマスクから露出した領域では単層グラフェンが消失していることが分かる。
【0057】
同様のことが試料Bにおいても確認された。具体的には、図13(B)とその一部(点線四角形で囲まれた部分)の拡大図(図13(C)の左図)に示すように、メタルマスクが形成されていた領域に単層グラフェンが残存していることが光学顕微鏡観察から確認された。また、図13(C)中の点線四角形で囲まれた領域のラマン分光スペクトルによって検出された2Dバンドの強度マッピングデータ(図13(C)の右図)から、上記領域に単層グラフェンが存在し、一方、メタルマスクから露出した領域では単層グラフェンが存在しないことが分かる。
【0058】
以上のことから、本発明の実施形態の一つである加工方法を適用することにより、基板上に形成されたグラフェン含有膜をウェットエッチング加工できることが確認された。この結果は、本加工方法が炭素ナノ材料を導電性部材として含む電子デバイスを提供するための新しい手段として寄与することを示している。
【符号の説明】
【0059】
100:基板、102:フォトレジスト、104:フォトマスク、104a:透光部、104b:遮光部、106:レジストマスク、108:エッチャント、110:炭素ナノ材料含有膜、112:パターニングされた炭素ナノ材料膜、120:容器、122:蒸着マスク、124:メタルマスク、126:金属膜
図1
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