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特開2022-48615シリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、シリコン量子ドット前駆体の製造方法及びシリコン量子ドットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048615
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】シリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、シリコン量子ドット前駆体の製造方法及びシリコン量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/021 20060101AFI20220318BHJP
   C08G 77/12 20060101ALI20220318BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220318BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220318BHJP
   C09K 11/59 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
C01B33/021
C08G77/12
B82Y30/00
B82Y40/00
C09K11/59
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154517
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健一
【テーマコード(参考)】
4G072
4H001
4J246
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA03
4G072BB05
4G072BB11
4G072BB13
4G072DD07
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH09
4G072JJ11
4G072JJ38
4G072LL11
4G072LL15
4G072MM01
4G072MM31
4G072MM36
4G072QQ06
4G072RR02
4G072RR05
4G072RR12
4G072TT01
4G072UU30
4H001XA01
4H001XA06
4H001XA08
4H001XA14
4J246AA03
4J246AA19
4J246BA120
4J246BA12X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA010
4J246CA019
4J246CA01X
4J246CA050
4J246CA059
4J246CA05U
4J246CA05X
4J246CA130
4J246CA139
4J246CA13M
4J246CA13X
4J246FA061
4J246FA131
4J246FA151
4J246FA321
4J246FA421
4J246FA441
4J246FA461
4J246FA621
4J246FE02
4J246FE06
4J246FE40
4J246GB13
4J246GB32
4J246GD09
4J246HA56
(57)【要約】
【課題】HSQポリマーの構造を調整することにより、特性を制御可能なシリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、シリコン量子ドット前駆体の製造方法及びシリコン量子ドットの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るシリコン量子ドット前駆体は、CH1.5で表されるメトキシ基を有する水素シルセスキオキサンポリマーからなる。また、本発明に係るシリコン量子ドット前駆体の製造方法は、トリクロロシランとアルコールとを混合して混合物を生成するアルコール混合工程と、混合物と水とを反応させて水素シルセスキオキサンポリマーを生成する高分子合成工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CH0.5で表されるメトキシ基を有する水素シルセスキオキサンポリマーからなる、
ことを特徴とするシリコン量子ドット前駆体。
【請求項2】
前記水素シルセスキオキサンポリマーにおけるSi-H構造とSi-O-Si構造との比率は、1:8~1:23の範囲である、
ことを特徴とする請求項1に記載のシリコン量子ドット前駆体。
【請求項3】
前記水素シルセスキオキサンポリマーの構造は、
かご型構造とネットワーク構造との比率が57.6:42.4~65.9:34.1である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン量子ドット前駆体。
【請求項4】
結晶構造とアモルファス構造との比率が27:73~54:46である、
ことを特徴とするシリコン量子ドット。
【請求項5】
粒径が3.4~4.6nmである、
ことを特徴とする請求項4に記載のシリコン量子ドット。
【請求項6】
Williamson-Hall法によって求められる回折線の拡がりにおける結晶子サイズの寄与分と結晶欠陥の寄与分との比率が81:19~90:10である、
ことを特徴とするシリコン量子ドット。
【請求項7】
トリクロロシランとアルコールとを混合して混合物を生成するアルコール混合工程と、
前記混合物と水とを反応させて水素シルセスキオキサンポリマーを生成する高分子合成工程と、を含む
ことを特徴とするシリコン量子ドット前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記アルコールは、
メタノール、エタノール、2-プロパノール及びエチレングリコールのいずれかである、
ことを特徴とする請求項7に記載のシリコン量子ドット前駆体の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のシリコン量子ドット前駆体の製造方法によって生成された前記水素シルセスキオキサンポリマーを熱分解し、シリコン量子ドットを生成する熱分解工程を含む、
ことを特徴とするシリコン量子ドットの製造方法。
【請求項10】
前記熱分解工程で生成されたシリコン量子ドットを、フッ化水素及び塩酸の混合液でエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程でエッチングされたシリコン量子ドットを、炭化水素又はヘテロ原子を含む炭化水素で不動態化する表面修飾工程と、を含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のシリコン量子ドットの製造方法。
【請求項11】
前記表面修飾工程では、
シリコン量子ドットを1-ドデセンで不動態化する、
ことを特徴とする請求項10に記載のシリコン量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、シリコン量子ドット前駆体の製造方法及びシリコン量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、毒性がなく、豊富に存在する元素であるケイ素を用いたシリコン量子ドット(SiQD:Silicon Quantum Dot)が開発されている。シリコン量子ドットの製造方法としては、かご型水素シルセスキオキサン(HSQ:Hydrogen Silsesquioxane)を熱処理して、シリコン量子ドットを生成する方法が、一般的に用いられている。
【0003】
しかしながら、かご型HSQは、比較的高価な材料であることから、HSQポリマーを前駆体とし、HSQポリマーを熱処理してシリコン量子ドットを生成する方法が開発されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yunzi Xin, et al., “Synthesis of Size-controlled Luminescent Si Nanocrystals from (HSiO1.5)n Polymers”, Chemistry Letters volume 45, No5, p.699-702, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、トリクロロシラン(HSiCl)を、希釈溶媒であるヘキサン(Hexane)に溶解させた後、水と反応させてHSQポリマーを合成することとしている。そして、合成されたHSQポリマーを焼成して、シリコン量子ドットを生成している。
【0006】
HSQポリマーを焼成してシリコン量子ドットを生成する場合、HSQポリマーの特性によって、生成されるシリコン量子ドットの大きさ、結晶構造、アモルファス構造、発光特性等が決定される。非特許文献1の方法では、トリクロロシランと希釈溶媒であるヘキサンとは、反応しておらず、水を加えた直後から、トリクロロシランと水との反応が速やかに進行するので、HSQポリマーの特性を制御することは難しい。さらに、ヘキサンは水と混ざらないため、希釈による反応制御も難しい。したがって、HSQポリマーの焼成によって生成されるシリコン量子ドットを所望の特性に制御することは難しい。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、HSQポリマーの構造を調整することにより、特性を制御可能なシリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット、シリコン量子ドット前駆体の製造方法及びシリコン量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係るシリコン量子ドット前駆体は、
CH0.5で表されるメトキシ基を有する水素シルセスキオキサンポリマーからなる。
【0009】
また、前記水素シルセスキオキサンポリマーにおけるSi-H構造とSi-O-Si構造との比率は、1:8~1:23の範囲である、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記水素シルセスキオキサンポリマーの構造は、
かご型構造とネットワーク構造との比率が57.6:42.4~65.9:34.1である、
こととしてもよい。
【0011】
また、本発明の第2の観点に係るシリコン量子ドットは、
結晶構造とアモルファス構造との比率が27:73~54:46である。
【0012】
また、粒径が3.4~4.6nmである、
こととしてもよい。
【0013】
また、本発明の第3の観点に係るシリコン量子ドットは、
Williamson-Hall法によって求められる回折線の拡がりにおける結晶子サイズの寄与分と結晶欠陥の寄与分との比率が81:19~90:10である。
【0014】
また、本発明の第4の観点に係るシリコン量子ドット前駆体の製造方法は、
トリクロロシランとアルコールとを混合して混合物を生成するアルコール混合工程と、
前記混合物と水とを反応させて水素シルセスキオキサンポリマーを生成する高分子合成工程と、を含む。
【0015】
また、前記アルコールは、
メタノール、エタノール、2-プロパノール及びエチレングリコールのいずれかである、
こととしてもよい。
【0016】
また、本発明の第5の観点に係るシリコン量子ドットの製造方法は、
第4の観点に係るシリコン量子ドット前駆体の製造方法によって生成された前記水素シルセスキオキサンポリマーを熱分解し、シリコン量子ドットを生成する熱分解工程を含む。
【0017】
また、前記熱分解工程で生成されたシリコン量子ドットを、フッ化水素及び塩酸の混合液でエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程でエッチングされたシリコン量子ドットを、炭化水素又はヘテロ原子を含む炭化水素で不動態化する表面修飾工程と、を含む、
こととしてもよい。
【0018】
また、前記表面修飾工程では、
シリコン量子ドットを1-ドデセンで不動態化する、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシリコン量子ドット前駆体、シリコン量子ドット前駆体の製造方法及びシリコン量子ドットの製造方法によれば、トリクロロシランとアルコールとを混合してシリコン量子ドット前駆体である水素シルセスキオキサンポリマーを生成するので、安価で簡素な方法で水素シルセスキオキサンポリマーの構造を調整することにより、特性を制御可能なシリコン量子ドット前駆体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係るシリコン量子ドットの製造方法のフローチャートである。
図2】HSQポリマーの合成に係る化学反応を示す図であり、(A)は、初期反応であるアルコール分解及び加水分解反応の図、(B)は、(A)に続く脱水縮合反応の図である。
図3】HSQポリマーの外観図である。
図4】(A)は、HSQポリマーのFT-IR吸収スペクトルの例を示すグラフ、(B)は、(A)におけるSi-O-SiとSi-Hとの比率を示すグラフ、(C)は、HSQポリマーの官能基を示す概略図である。
図5】HSQポリマーのFT-IR吸収スペクトルのガウス関数による解析図である。
図6】Si/SiOマトリックスの外観図である。
図7】(A)は、Si/SiOマトリックスのXRDの例、(B)は、(A)からアモルファスSiO成分を除いた図、(C)は、Si/SiOマトリックスのラマンスペクトルの例である。
図8】Williamson-Hall法を用いたXRDプロファイル分析の例を示すグラフである。
図9】(A)~(C)は、シリーズ1~3のドデセン不動態化SiQD(do-SiQD)のTEM画像、(D)~(F)は、シリーズ1~3のH-SiQDのサイズ分布を示すグラフである。
図10】Si原子の凝集メカニズムを示す概略図である。
図11】(A)~(C)は、シリーズ1~3のドデセン不動態化シリコン量子ドット(do-SiQD)のPL及びPLEのスペクトルの2次元データを示す図、(D)~(F)は、シリーズ1~3のdo-SiQDの350nmの励起波長で測定されたPLスペクトル及び最大PL強度の波長で測定されたPLEスペクトルのグラフである。
図12】エタノール、2-プロパノール、エチレングリコールを用いて合成したHSQポリマーのFT-IR吸収スペクトルを示すグラフである。
図13】異なるアルコールを用いて合成したdo-SiQDのPLスペクトルを示すグラフであり、(A)は、エタノールを用いた場合のグラフ、(B)は、2-プロパノールを用いた場合のグラフ、(C)は、エチレングリコールを用いた場合のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係るシリコン量子ドット前駆体及びシリコン量子ドットの製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態では、トリクロロシラン(HSiCl)を用いたシリコン量子ドットの前駆体である水素シルセスキオキサンポリマー(HSQポリマー)の製造方法と、HSQポリマーを用いたシリコン量子ドット(SiQD:Silicon Quantum Dot)の製造方法について、図1のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0023】
図1に示すように、まず、アルコール混合工程として、トリクロロシランとアルコールとを混合し、反応させる(ステップS11)。本実施の形態では、アルコールとしてメタノールを用いる。具体的には、フラスコにメタノール(富士フイルム和光純薬株式会社)を投入して、氷/水浴に浸す。そして、フラスコにピペットでトリクロロシランを滴下しつつ、トリクロロシランとメタノールとの混合液を、マグネティックスターラーを用いて10分間撹拌する。これにより、反応中の混合液の温度を大凡0℃に保つ。
【0024】
トリクロロシランの滴下速度は、特に限定されず、トリクロロシランとメタノールとの混合比率を考慮して、トリクロロシランとメタノールとが均一に混合されるように設定すればよい。
【0025】
本実施の形態では、トリクロロシラン、メタノール及び水の混合比率の調整による特性制御の例として、シリーズ1~3の3種類の混合液を生成する。シリーズ1の混合液は、20ml(0.5mol)のメタノールに4.5mlのトリクロロシランを混合して生成される。シリーズ2の混合液は、40ml(1.0mol)のメタノールに4.5mlのトリクロロシランを混合して生成される。シリーズ3の混合液は、80ml(2.0mol)のメタノールに4.5mlのトリクロロシランを混合して生成される。なお、本混合液の量は実験に係る一例であり、上記の混合比率であれば、各液体の重さ、体積等は特に限定されない。
【0026】
続いて、高分子合成工程として、上記混合液と水とを混合して反応させることによりHSQポリマーを合成する(ステップS12)。本実施の形態では、シリーズ1~3の混合液の入ったフラスコに、それぞれ18mlの蒸留水を投入する。そして、混合液を2時間撹拌して脱水縮合反応させ、シリコン量子ドットの前駆体であるHSQポリマーを合成する。なお、投入される蒸留水の量は、上記混合液の量に基づいて決定されるものであり、混合液と水との混合比率が上記の例と同様であれば、各液体の重さ、体積等は特に限定されない。
【0027】
フラスコ中に沈殿物として生成されたHSQポリマーは、真空濾過で取り出され、水ですすがれた後、80℃の空気中で7時間乾燥される(ステップS13)。
【0028】
図2(A)は、HSQポリマーの合成のための初期反応、すなわちアルコール混合工程と高分子合成工程の初期段階における、トリクロロシラン、メタノール及び水に係るアルコール分解及び加水分解反応を示している。アルコール混合工程において、トリクロロシランは、メタノール及びメトキシ化合物と反応して、HSiCl(CHO)3-n(n=1-3)が生成される。
【0029】
続いて、高分子合成工程において、トリクロロシランとメタノールとの混合液に水を加えると、メトキシ基(Si-OCH)は水(HO)と反応する。すなわち、一部のSi-OCH基は、加水分解によってSi-OH基に変わる。また、Si-HグループもHOと反応して、一部のSi-Hグループは、Si-OHグループに変わる。
【0030】
図2(B)は、図2(A)の初期反応に後続する、HSQポリマーの形成のための脱水縮合反応を示している。Si-OH基が重縮合反応を誘発し、HSQポリマーが合成される。この脱水縮合反応では、Si-H、Si-OH及びSi-OCHの3つの官能基の量が縮合反応に影響し、HSQポリマーの架橋構造によって、シリーズ1~3のHSQポリマーに違いが生じる。各HSQポリマーの構造及び特性の詳細については、後述する。
【0031】
図1のフローチャートに戻り、熱分解工程として、ステップS13で乾燥されたHSQポリマーを熱分解させる(ステップS14)。具体的には、合成されたHSQポリマーを石英ボートに入れて管状炉にセットし、1100℃で1時間、流動ガス中で熱分解させる。流動ガスは、アルゴン(Ar)95%、水素(H)5%を用い、流量は200ml/minとした。これにより、SiOにSiナノ粒子が囲まれた状態のSi/SiOマトリックスが得られる。本実施の形態では、各シリーズのHSQポリマーを熱分解することで、シリーズ1~3のSi/SiOマトリックスが生成される。なお、流動ガスは、アルゴンに限られず、窒素(N)であってもよい。
【0032】
上記の熱分解に係る条件は好ましい例であり、例えば熱分解の温度範囲は、900℃~1300℃、好ましくは1000℃~1200℃、より好ましくは1100℃である。また、流動ガスの構成比率の範囲は、アルゴン(Ar):水素(H)=99:1~95:5、好ましくは99:2~95:5、より好ましくは95:5である。また、流動ガスの流量の範囲は、50~500ml/min、好ましくは100~300ml/min、より好ましくは200ml/minである。
【0033】
続いて、エッチング工程として、Si/SiOマトリックスを、少量のエタノールを入れた乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、化学エッチングを行う(ステップS15)。化学エッチングは、フッ化水素酸(HF:49%(w/w)、シグマアルドリッチ社)13mlと塩酸(HCl:25%(w/w)、シグマアルドリッチ社)2mlとを混合した酸混合物を、Si/SiOマトリックスとともに容器(遠心チューブ)に投入して、暗所で6時間静置することにより行われる。これにより、水素で不動態化されたシリコン量子ドット(SiQD)である水素化物SiQD(H-SiQD)が生成される。エッチング工程で使用するエッチング液は、フッ化水素の水溶液、フッ化水素を含む酸の混合液であってもよい。例えば、この酸の混合液にエタノール、アセトニトリル、純水、硝酸などを加えた混合液を用いることができる。なお、エッチング工程における光の照射条件は、暗所に限られず、室内照明、単色化した光等が照射されていてもよい。
【0034】
H-SiQDを含む溶液を、7500rpmで10分間遠心分離した後、酸混合物を除去する。容器中の沈殿物であるH-SiQDは、エタノール5mlで洗浄された後、さらに7500rpmで10分間遠心分離される。そして、エタノール除去し、トルエン5mlを加えて、さらに7500rpmで10分間遠心分離することにより、H-SiQDは洗浄される。
【0035】
続いて、表面修飾工程として、H-SiQDの表面不動態化を行う(ステップS16)。具体的には、炭化水素、又はヘテロ原子を含む炭化水素で、ステップS15で生成したH-SiQDを不動態化する。これにより、シリコン量子ドットの凝集を抑制することができるので、シリコン量子ドットが溶液中に安定して分散するSiQD溶液を作ることができる。また、不動態化の種類により、発光スペクトルが異なる。例えば、後述する図11の例では赤色発光が観測されているが、図13の例では緑色発光、青色発光が観測されている。
【0036】
本実施の形態では、ステップS15の溶液からトルエンを除去した後、1-ドデセン(富士フイルム和光純薬株式会社)を10ml加え、190℃の不活性ガス(窒素N又はアルゴンAr)雰囲気下で11時間環流する。これにより、H-SiQDと1-ドデセンとの間でヒドロシリル化が生じ、ドデセン不動態化シリコン量子ドット(do-SiQD)が生成される。不動態化の条件はこれに限られず、例えば、ドデセン、5塩化リン、AIBN等のラジカル開始剤、触媒等を、不活性ガス(窒素N又はアルゴンAr)雰囲気、常温(例えば27℃)条件下で混合させることにより、ヒドロシリル化を生じさせ、ドデセン不動態化シリコン量子ドット(do-SiQD)を合成することとしてもよい。
【0037】
環流反応後、エタノール(ナカライテスク株式会社)とメタノール(ナカライテスク株式会社)との混合液(3:1(v/v))35mlを1-ドデセン溶液に加えて、25000Gで20分間遠心分離し、do-SiQDを得る。
【0038】
以上、説明したように、本実施の形態に係る製造方法によれば、トリクロロシランとメタノールとを混合することにより、簡素な工程で、シリコン量子ドットの前駆体であるHSQポリマーと、HSQポリマーを用いたシリコン量子ドットとを生成することができる。
【0039】
以下、上記で生成したシリーズ1~3に係るHSQポリマー、Si/SiOマトリックス、H-SiQD、do-SiQDの構造及び特性について説明する。
【0040】
図3に、本実施の形態の方法で製造されたシリーズ1~3のHSQポリマーの外観図を示す。図3に示すように、シリーズ1~3のいずれのHSQポリマーも白い粉末であるが、メタノールと水とのモル比の違いによって、生成量と質感は、それぞれ異なる。具体的には、シリーズ1のHSQポリマーが最も体積が大きく、柔らかい粉末状の触感を有する。また、シリーズ3のHSQポリマーは、最も体積が小さく、硬い触感を有する。すなわち、メタノール/水のモル比は、HSQポリマーの巨視的物性を変化させることがわかる。
【0041】
図4(A)は、シリーズ1~3のHSQポリマーのFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)吸収スペクトルの例を示している。図4(A)、(B)に示すように、シリーズ1から3へとメタノールの量が増加すると、Si-O-SiとSi-Hとの比率(Si-O-Si/Si-H)は減少している。より具体的には、シリーズ1~3のHSQポリマーにおけるSi-H構造とSi-O-Si構造との比率は、1:8~1:23の範囲である。
【0042】
図5に示すように、FT-IRスペクトルを2つのガウス関数に分解して分析し、かご型構造のHSQを示すケージバンドと、ネットワーク構造のHSQを示すネットワークバンドとの相対面積の推定を行った。表1に示すように、最もメタノールの添加量が少ないシリーズ1において、ネットワーク構造の占める割合は最も大きく、メタノールの添加量が増えるにつれて、かご型構造の割合が大きくなった。具体的には、かご型構造とネットワーク構造との比率は57.6:42.4~65.9:34.1であった。
【表1】
【0043】
次に、HSQポリマーを構成する官能基を評価するために、3つのHSQポリマーのCHN元素分析を実施し、官能基の相対量を定量化した。表1には、図4(C)に概略的に示されているSiO、HSiO1.5及びCH0.5グループの相対量が示されている。
【0044】
SiO、HSiO1.5及びCH0.5グループの量は、それぞれ約9~24%、75~90%、及び0.6~1.3%であった。特に、SiO基の量は水の割合が増加するにつれて増加した。すなわち、水の比率が高くなると、HSiClの加水分解から多くのSi-OHグループが生成され、脱水縮合反応後にSi-O-Si結合の量が増加する。これにより、最も高い架橋を持つシリーズ1のHSQポリマーが合成される。
【0045】
他方、メタノールの比率が高くなると、HSiClのSi-Hグループへの影響が弱まり、Si-HグループからSi-OHグループへの変換が減少する。したがって、シリーズ3のHSQポリマーの架橋密度は低くなる。この結果は、図4(A)に示すFT-IRスペクトルともよく一致しており、メタノール/水のモル比が、HSQポリマーの構造とそのネットワーク構造を制御していることがわかる。
【0046】
ここで、Si-OCH基(CH0.5)の量の影響について説明する。表1に示すように、メトキシ基の量は水の量の増加に伴って増加する。言い換えれば、メタノールの量が増加すると、メトキシ基の量が減少する。これは、HSQポリマー合成の反応速度を大幅に変化させるメタノール/水のモル比によるものである。具体的には、シリーズ3のHSQポリマーは、少量のHSiCl(0.045mol)と大量のメタノール(2.0mol)及び水(1.0mol)を使用して合成され、HSQポリマーの合成には10分以上の時間がかかった。
【0047】
他方、シリーズ1のHSQポリマーは、少量のHSiCl(0.045mol)、中量のメタノール(0.49mol)及び大量の水(1.0mol)を使用して合成された。この合成にかかった時間は、約10秒であり、非常に短い時間であった。すなわち、高速合成(シリーズ1)では、Si-OCHと水との反応が完了する前に、HSQポリマーの内部領域にSi-OCHグループを導入することができる。そして、HSQポリマーのネットワーク構造は、Si-OCHグループと水との反応を妨げるので、シリーズ1では、Si-OCHグループの量が最も多くなった。他方、HSQポリマーの遅い合成(シリーズ3)では、Si-OCHグループは水と反応しやすいので、Si-OCHグループの量は減少した。なお、上記の合成にかかった時間は、ポリマー化を目視で観測した時間であり、HSQポリマーの全合成時間ではない。
【0048】
次に、HSQポリマーの熱分解後のマトリックス(Si/SiOマトリックス)について説明する。図6は、シリーズ1~3のHSQポリマーを熱分解したSi/SiOマトリックスの写真である。シリーズ1からシリーズ3へとメタノールの割合が多くなると、外観の色が黄色から濃い茶色へと変化する。図7(A)は、シリーズ1~3のSi/SiOマトリックスのX線回折(XRD:X-ray Diffraction)の測定結果である。
【0049】
図7(A)に示すように、シリーズ1~3の全てのサンプルで、アモルファスSiOに起因する約21°の広い回折ピークが観察される。さらに、他の小さな回折が、より高い角度で観察される。図7(B)は、アモルファスSiO成分なしのXRDパターン、すなわちコンピュータ処理により、図7(A)の結果から、アモルファスSiOの成分を差し引いたものである。図7(B)では、結晶Siの結晶面(111)、(220)及び(311)に起因する28°、47°及び56°の回折ピークが明確になっている。
【0050】
回折ピークは、シリーズ3のサンプルで最も強く、鋭いパターンとなっている。したがって、最も高い比率のメタノールを用いて調整された、シリーズ3のHSQポリマーから得られたSi/SiOマトリックスにおいて、Siの結晶化度が高くなっていることがわかる。図7(C)に示すラマンスペクトルにおいても、同様の傾向が確認できる。より具体的には、図7(C)における520cm-1のシャープなラマンバンドは結晶性Siに起因し、400~500cm-1の広いラマンバンドはアモルファスSiに起因している。よって、ラマンスペクトルの結果からも、シリーズ3のHSQポリマーから得られたSi/SiOマトリックスにおいて、Siの結晶化度が高くなっていることが確認できる。
【0051】
表2は、図7(C)に示すラマンスペクトルの成分を分析することにより得られた、結晶構造成分が占める割合とアモルファス構造成分が占める割合を示している。分析は、公知の方法(D.M.Zhigunov, et al., “On Raman scattering cross section ratio of crystalline and microcrystalline to amorphous silicon”)に基づいて行った。また、表2は、シリーズ1~3のHSQポリマーから得られたSiQDの収率を示している。
【表2】
【0052】
具体的には、図7(C)に実線で示されている結晶構造及びアモルファス構造のラマンのTOモード(Transverse Optical Mode)の強度比を使用して、HSQポリマーのシリーズ1~3の結晶性を評価した。表2に示すように、シリーズ3が最も高い結晶構造成分の比率(54%)を有し、シリーズ1が最も高いアモルファス構造成分の比率(73%)を有していた。すなわち、メタノールの比率の高いシリーズ3を熱分解することにより、結晶度の高いSiが合成されたことがわかる。本実施の形態に係るSi/SiOマトリックス内のSi結晶であるシリコン量子ドットにおける結晶構造とアモルファス構造との比率は、27:73~54:46であった。
【0053】
また、シェラー方程式を使用して、Si/SiOマトリックス内のSi結晶子のサイズを評価した。図7(B)の(111)、(220)及び(311)のミラー指数に対応する3つの回折ピークを用いた評価から、シリーズ1~3のSi/SiOマトリックスにおけるSiの結晶子の粒径(平均結晶粒径±1σ)は、表2に示すように、それぞれ3.5±0.2、5.0±0.4、5.5±0.5nmであった(表2のsizeb)。
【0054】
また、Williamson-Hall法に基づいて、Si結晶子のサイズと結晶化度とに起因する拡がりを分離することにより、XRDプロファイルを分析した。分析は、公知の方法(A.Khorsand Zak, et al., “X-ray analysis of ZnO nanoparticles by Williamson-Hall and size-strain plot methods”、Tapash Chandra Paul, et al., “Synthesis and characterization of Zn-incorporated TiO2 thin films: impact of crystallite size on X-ray line broadening and bandgap tuning”)を参考として行った。
【0055】
ここで、XRDプロファイル分析によるSi/SiOマトリックス内のSi結晶の評価方法について、より詳細に説明する。シェラー方程式は、以下の通りである。
【数1】
ここで、Dはシェラー法を使用して得られた結晶子サイズ、Kはシェラーの定数(K=0.9)、λはX線放射の波長(CuKα、0.154nm)、βは半値全幅(FWHM:Full-Width at Half Maximum)、2θはピーク位置での回折角である。
【0056】
標準サンプルとしてのSiウエハのFWHMを測定し、測定されたFWHM(0.1°)を以下の式の装置関数として用いる。
【数2】
ここで、βexpは測定値、βinstは装置関数である。
【0057】
続いて、シリーズ1~3の(111)、(220)及び(311)のミラー指数に対応する3つの回折ピークのプロファイルを使用して、Si結晶子サイズD及び標準偏差1σを推定した(表2)。
【0058】
また、XRDパターンのプロファイルを分析するために、Williamson-Hall法に基づいて、以下の式のように結晶子サイズと結晶化度とによって生じる拡がりを分離して、回折線の幅を評価した。
【数3】
ここで、βsizeは結晶子サイズによる回折線の拡がり、βstrainは結晶の歪みによる回折線の拡がり、εは微結晶の微小ひずみである。
【0059】
上記の式(1)、(4)を式(3)へ代入すると、以下の式(5)を得る。
【数4】
また、式(5)を変形することにより、以下の式(6)を得る。
【数5】
ここで、DWHはWilliamson-Hall法で取得される結晶子サイズである。
【0060】
式(6)におけるβcosθと4sinθとの関係を図8に示す。図8に示されるプロットの切片と勾配は、βsizeとβstrainとをそれぞれ決定する。以上の分析による結果を以下の表3に示す。
【0061】
【表3】
表3の分析結果に示すように、本実施の形態に係るSi結晶のXRDパターンにおけるピークの拡がりは、概ね80~90%が結晶子サイズの寄与分、20~10%が結晶欠陥(歪み)の寄与分からなる比率であると推定される。
【0062】
以上の結果から、より高いメタノール/水のモル比で調製されたHSQポリマーから、濃い茶色のSi結晶が豊富なSi/SiOマトリックスが生成され、より高い結晶化度と、より大きな粒径を有するSiナノ結晶を含むことがわかる。
【0063】
続いて、Si/SiOマトリックスのエッチングによって合成されたH-SiQDを表面修飾したdo-SiQDの特性について説明する。図9(A)~(C)は、それぞれ、シリーズ1~3のHSQポリマーから合成されたdo-SiQDの透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)画像である。また、図9(D)~(F)は、シリーズ1~3に係るH-SiQDのサイズ分布を示している。
【0064】
シリーズ1~3に係るdo-SiQDの平均粒径は、それぞれ、3.4、3.6、4.6nmであった(表2のsizec)。したがって、本実施の形態に係るdo-SiQDは、メタノール/水のモル比が増加すると大きくなることがわかる。この傾向は、XRD測定で得られたSi/SiOマトリックスに含まれる結晶性Siの大きさの傾向とよく一致している。
【0065】
ここで、メタノール/水のモル比とSiナノ結晶の大きさとの関係について、説明する。図4(A)のFT-IRスペクトル及び表1に示すように、メタノール/水のモル比が高い(シリーズ3)と、HSQポリマーのSi-Hグループの量が多くなる。大量のSi-Hグループは、1100℃での分解によりSi原子を多く供給する、SiH分子の合成のリザーバーとして機能する。これにより、より大きなSi結晶が生じる。図4(A)に示すように、メタノールの比率が高いシリーズ3のHSQポリマーのFT-IRスペクトルでは、Si-Hバンドにおいて、より強い信号が観察される。
【0066】
SiHの分解後の重要なプロセスは、マトリックス内での拡散によるSi原子の凝集であり、これによりSiQDが形成される。これらの連続した反応は、以下のように要約できる。
4HSiO1.5→SiH+3SiO→Si+3SiO+2H
【0067】
反応のメカニズムの概略を図10に示す。具体的には、高架橋密度のHSQポリマーでは、低架橋密度のHSQポリマーと比較して、熱分解中にマトリックス内のSi原子の拡散が、より妨げられる。したがって、HSQポリマー及びマトリックスのネットワーク構造が、Si原子の拡散を制御する。図4(A)のIRスペクトル及び表1に示すように、水の比率が多いシリーズ1には、より多くのSi-O-Si官能基が含まれていることがわかる。また、XRD測定とTEMの結果から、高い架橋密度を有するシリーズ1のHSQポリマーからは、より小さなサイズのシリコン量子ドットが生成され、低い架橋密度を有するシリーズ3のHSQポリマーからは、より大きなサイズのシリコン量子ドットが生成される。
【0068】
したがって、HSQポリマーの合成に使用されるメタノールの量は、シリコン量子ドットのサイズと結晶化度とを制御する、HSQポリマーの構造と架橋密度を決定する重要な要素であることがわかる。
【0069】
続いて、do-SiQDの光学特性について説明する。図11(A)、(B)、(C)に、シリーズ1~3のPL(Photo Luminescence)とPLE(Photo Luminescence Excitation)スペクトルの2次元データを示す。x軸は発光波長、y軸は励起波長を表している。また、図11(D)~(F)に、シリーズ1~3のdo-SiQDの350nmの励起波長で測定されたPLスペクトル及び最大PL強度の波長で測定されたPLEスペクトルを示す。
【0070】
図11(A)~(C)に示すように、PLスペクトルのピーク位置は、do-SiQDのサイズの拡大に伴い、より長い波長へシフトする。上述したdo-SiQDのTEM分析では、シリーズ1~3の平均サイズは、それぞれ、3.4、3.6、4.6nmであった。シリーズ1~3に係るdo-SiQDのPLQY(量子収率)は、350nmの励起波長で、それぞれ、15、25、10%であった。シリーズ1~3のうち、シリコン量子ドットのサイズが最も大きいシリーズ3では、量子ドットの大きさとともに、電子と正孔との再結合の効率が低下するので、最も低い収率と、最も長い波長のPLスペクトルを示す。
【0071】
他方、シリーズ1に係るシリコン量子ドットのサイズは最も小さいが、発光の量子収率は最も高くならなかった。これは、シリーズ1の結晶性が最も低く、電子及び正孔のトラップとして機能する欠陥サイトの密度が高くなったためと考えられる。
【0072】
以上、説明したように、本発明に係るシリコン量子ドット前駆体及びシリコン量子ドットの製造方法によれば、トリクロロシランとメタノールとを混合して、シリコン量子ドットの前駆体であるHSQポリマーを生成するので、簡易かつ安価な方法で、シリコン量子ドットの前駆体及びシリコン量子ドットを製造することが可能である。
【0073】
また、トリクロロシランとメタノールとを混合した後に、水を加えて反応させることにより、CH0.5で表されるメトキシ基を有するHSQポリマーを生成することができる。さらに、メタノールと水との比率を調整することにより、HSQポリマーの構造、官能基の比率を制御することができる。これにより、HSQポリマーを材料とするシリコン量子ドットの粒径及び結晶性を制御することができる。また、シリコンの結晶性が高くなると発光効率が高くなるので、シリコン量子ドットの発光効率を制御することが可能となる。
【0074】
本実施の形態に係るメタノールと水とのモル比は、0.49:1~2:1であることとしたが、これに限られず、所望のシリコン量子ドットの大きさを考慮して適宜調整することができる。メタノールと水とのモル比は、好ましくは、0.2:1~4:1、より好ましくは、0.4:1~2:1である。
【0075】
本実施の形態では、アルコールとしてメタノールを使用したが、これに限られない。例えば、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール等を用いることとしてもよい。この場合も、アルコールの添加量によってHSQポリマーを材料とするシリコン量子ドットの粒径及び結晶性を制御することができ、シリコン量子ドットの発光特性を制御することが可能となる。
【0076】
図12は、アルコールとして、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール等を用いて合成したHSQポリマーのFT-IR吸収スペクトルを示している。また、図13(A)~(C)は、それぞれ、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコールを用いて合成し、ドデセンにより修飾されたシリコン量子ドットのPLスペクトルを示すグラフである。図13(A)~(C)に示すように、アルコールの種類によって、励起波長に対する発光強度等の特性が異なることがわかる。具体的にはアルコールの種類により、赤、緑、青と発光色が変化する。すなわち、アルコール混合工程で用いるアルコールの種類を適宜選択することにより、シリコン量子ドットの発光特性を制御することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、ディスプレイ、照明、太陽電池、医薬バイオマーカー等に用いるシリコン量子ドットの製造に好適である。
図1
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図10
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