(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049039
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】分泌ホルモン簡易測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220322BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
G01N33/53 B
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155051
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 恭久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 元弘
(72)【発明者】
【氏名】大木 篤史
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ94
4B063QR77
4B063QS28
4B063QS33
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】短時間で効率よく、しかも低コストで培養細胞の分泌促進能を評価できる試験方法を提供することを目的とする。また、培養時に特殊な形態をとる培養細胞であっても用いることができる分泌促進能評価試験方法を提供することを目的とする。
【解決手段】培養細胞の分泌促進能評価試験方法であって、培養細胞に被験試料を添加する工程と、被験試料添加後、37℃、5% CO
2存在下で2時間以上培養する工程と、培養後、培養上清を用いて分泌促進能を評価する工程と、を備えた、培養細胞の分泌促進能評価試験方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞の分泌ホルモン簡易測定方法であって、
培養細胞に被験試料添加後、37℃、5% CO2存在下で2時間以上培養する工程と、
培養後、培養上清に含まれる分泌ホルモンをELISA法によって検出する検出工程と、
を備えた、培養細胞の分泌ホルモン簡易測定方法。
【請求項2】
分泌ホルモンがPYYまたはNesfatin-1である請求項第1項記載の培養細胞の分泌評価試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分泌ホルモンの簡易測定方法に関する。より詳しくは、ヒト培養細胞における分泌ホルモンの簡易測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活、運動習慣、喫煙、飲酒などの生活習慣により引き起こされる生活習慣病が問題となっている。特に、運動不足と食べすぎにより、肥満症と診断される人の割合が増加している。肥満にはお腹に脂肪がたまる内臓脂肪型肥満(内臓脂肪蓄積)があるが、内臓脂肪蓄積があると、糖尿病や高脂血症・高血圧などがおこりやすくなることがわかっている。しかも、これらが重複し、さらにその数が多くなるほど、動脈硬化を進行させるリスクが高まることもわかっている。
【0003】
肥満を抑制するためには、適度な運動を持続的に行うことが重要であるが、仮に持続的な運動ができない場合には、摂取エネルギーを減らすためにも食欲を抑制することが好ましい。
【0004】
ところで、人は食事をとると、満腹感を感じるが、満腹感を感じるまでには食後約30分かるといわれている。この満腹感には、求心性迷走神経や食関連ホルモンが深くかかわっている。中でも食欲抑制ホルモンは食事による刺激で主に胃より分泌され、過食を防ぐために食欲を抑制する。
【0005】
これらのホルモンは、脳の摂食中枢に作用することで満腹感を創出し食欲を制御するが、その伝達経路は2つ挙げられる。1つ目は脳へ直接作用する液性経路、2つ目は求心性迷走神経を経由する神経経路である。食欲の調節は液性経路と神経経路のいずれか若しくは両方を介して行われているものと考えられている
【0006】
さらに、最新の基礎研究の結果から、摂取された食物は消化管で消化されて、消化管を刺激し食関連ホルモンの分泌を誘導することが明らかとなっている。例えば、腸管L細胞より分泌されるGLP-1とPYYはそれぞれGLP-1受容体とY2受容体に作用し、食欲を抑制する(非特許文献1~2参照)。一方、胃X/A様細胞より分泌されるNesfatin-1は受容体に関しては未同定であるが、食欲を抑制することが分かっている(非特許文献3~4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kakei M, et al : Auton Neurosci,102:39-44,2002.
【非特許文献2】Iwasaki Y, et al : Neuropeptides, 47:19-23,2013
【非特許文献3】Iwasaki Y, et al : Biochem Biophys Res Commun,390:958-962,2009.
【非特許文献4】Shimizu H, et al : Endocrinology,150:662-671,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、分泌ホルモンの評価方法としては、生体内(in vivo)試験と、試験管内(in vitro)試験が一般的に知られている。試験施設や動物愛護法などの観点から、最近ではin vitro試験が主流となりつつある。in vitro系は安定した試験結果が得られるというメリットがあるが、結果が出るまでに時間がかかるという問題がある。
【0009】
また、in vitro系に用いられる培養細胞の中には、培養時に特殊な形態をとる培養細胞も存在する。そのため、取扱う培養細胞によっては、細胞本来の挙動を見ることができない場合がある。
【0010】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、短時間で効率よく、しかも低コストで培養細胞の分泌ホルモンを評価できる試験方法を提供することを目的とする。また、培養時に特殊な形態をとる培養細胞であっても用いることができる分泌ホルモン評価試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは培養細胞の上清を用いることで、簡便かつ短時間で、しかも高精度で分泌ホルモンを評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題解決のため、本発明は、培養細胞の分泌ホルモン簡易測定方法であって、培養細胞に被験試料添加後、37℃、5% CO2存在下で2時間以上培養する工程と、培養後、培養上清に含まれる分泌ホルモンをELISA法によって検出する検出工程と、を備える。また、前記した構成において、分泌ホルモンがPYYまたはNesfatin-1であることが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、短時間でも培養細胞の分泌ホルモンを測定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、短時間で効率よく、しかも低コストで培養細胞の分泌ホルモンを測定することができるため、研究開発の速度を飛躍的に上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明にかかる簡易測定方法で検出したPYYの定量結果を示すグラフである。
【
図2】本発明にかかる簡易測定方法で検出したNesfatin-1の定量結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下では培養細胞としてNCI-H716細胞を用いた場合を例に説明する。また、被験試料としては、食関連ホルモンの分泌促進が報告されているForskolin, OEA, Ginsenosideを用いた。
【0017】
<細胞培養>
本発明で用いる培養細胞としては、分泌ホルモン産生能を備える細胞であることが好ましい。具体的には、ヒト由来のNCI-H716細胞や、マウス由来のGlutag細胞を挙げることができる。このうち、取り扱いしやすいNCI-H716細胞を用いることが好ましい。なお、NCI-716H細胞は、培養時に底面に付着するものと、浮遊しながら凝集するものとが混在する。
【0018】
NCI-H716細胞の培養は次のようにして行った。まず、RPMI1640培地(gibco社製)に対して、10%ウシ胎児血清(Biological Industries社製)、100 U/mLペニシリン(Sigma社製)、100 μg/mLストレプトマイシン、25 μg/mlアムホテリシンB(Sigma社製)、0.2% NaHCO3(gibco社製)、1 mM L-Glutamine(gibco社製)、4.5 g/L D-Glucose(gibco社製)、2.383 g/L HEPES Buffer(gibco社製)、110 mg/L Sodium Pyruvate(gibco社製)を加え、培養培地とした。次に、CELLCOAT(登録商標)ポリ‐D‐リジン(greuner Bio-One社製;以下、単に「培養容器」という。)でNCI-H716細胞を37℃、5% CO2条件下で培養した。
【0019】
<被験試料の調整>
食欲抑制ホルモンの遺伝子発現評価に用いる被験試料(Folskolin, OEA, Ginsenoside)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)もしくは水に懸濁して調製した。各被験試料は10 mg/mlになるよう調製し、適宜希釈して試験に用いた。試験時における最終添加濃度が1%となるようにした。具体的にはFolskolinは終濃度100 μg/well, OEAは終濃度100 μg/well, 10 μg/well, Ginsenosideは終濃度100 μg/well, 10 μg/wellになるよう調製した。
【0020】
<PYY及びNesfatin-1の簡易測定方法>
先ず、培養容器から培養培地を50 mLコーニングチューブに移した。50 mLコーニングチューブを300×g、4℃で5分間遠心し、上清を除去した。次に、PBS(-)を13 mL加え、培養容器内を洗浄した。洗浄したPBS(-)を先ほどの50 mLコーニングチューブに移した。再び50 mLコーニングチューブを300×g、4℃で5分間遠心し、上清を除去した。最後に、培養容器にAccutase(Innova Cell Technologies社製)を3 mL加え、37℃で10分間静置し、培養容器の底面に付着したNCI-H716細胞を剥がした。PBS(-)を13 mL加え、剥がした細胞を先ほどの50 mLコーニングチューブに移した。再度50 mLコーニングチューブを300×g、4℃で5分間遠心し、上清を除去することで、NCI-H716細胞を回収した。
【0021】
次に、回収した細胞を、セルカウンター(商品名Countess;invitrogen社製)を用いて2×105 cells/mLとなるように培養培地で懸濁した。次に、調製した被験試料を最終添加濃度が1%となるように、CELLCOAT(登録商標)ポリ‐D‐リジンの24wellプレート(greiner Bio-One社製)にあらかじめ添加した。なお、controlとして、被験試料を添加していないwellを設けた。そして、各試験試料が添加されたwellに対して、細胞数を調製したNCI-H716細胞を500 μLずつ播種した。播種後、37℃、5% CO2で2時間インキュベーションを行った。なお、インキュベーション時間については、最大12時間以内であることが好ましい。本発明にかかる試験方法では、初期段階における立ち上がりが早く、その後頭打ちとなる。そのため、長時間インキュベーションしても効果に差が認められなくなるためである。
【0022】
インキュベーション後、wellごとに培養上清を回収した。回収した培養上清を300×g、4℃で4分間遠心し、上清を得た。得られた上清を試験試料ごとの測定サンプルとした。
【0023】
<EIA法によるPYY分泌量の測定>
次に、EIA法を用いて、各サンプルに含まれるPYY分泌量の測定を行った。測定にはPeptide YY ELISA Kit(ENZO)を用いた。
まず、各サンプルをMicro ELISA Plateのwellに、100 μLずつ加え、37℃、遮光条件下で90分間インキュベーションした。インキュベーション後、各wellの溶液を抜き去り、ビオチン化された検出用抗体溶液を至適濃度に調製したのち、各wellに100 μLずつ加えて、37℃、遮光条件下で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、付属のwash bufferを用いて、各wellを350 μL/wellで4回洗浄した。その後、HRP Conjugateを至適濃度に調製して各wellに100 μLずつ加えて、37℃、遮光条件下で30分間インキュベーションした。インキュベーション後、付属のwash bufferを用いて、各wellを350 μL/wellで4回洗浄した。洗浄後、Substrate Reagentを90 μLずつ各wellに加え、37℃、遮光条件下で15分間インキュベーションした。Stop Solutionを各wellに50 μLずつ加えて反応を停止させ、450 nmの波長で吸光度を測定した。
なお、検量線用の測定試料は付属のPYY Standardを100 pg/mL, 50 pg/mL, 25 pg/mL, 12.5 pg/mL, 6.25 pg/mL, 3.125 pg/mL, 1.563 pg/mL, 0 pg/mLに調製して用いた。
【0024】
結果を
図1に示す。
図1からも明らかなように、本発明にかかる評価方法を用いた場合であっても、従来から食関連ホルモンの分泌を促進することが知られていた被験試料において、PYYの分泌量が増加していることが確認できた。特にForskolinを添加した場合、上清中に含まれるPYYが全被験試料中最も多い結果となった。一方、Ginsenosideについて見ると、100 μg添加した場合が全被験試料中最も少なく、10 μg添加したものの方が100 μg添加したものと比べて分泌されるPYYの量が多いという結果になった。しかしながら、いずれの被験試料もcontrolに比べてPYYの量は増加していることは明らかであった。
【0025】
<EIA法によるNesfatin-1分泌量の測定>
次に、EIA法を用いて、各サンプルに含まれるNesfatin-1分泌量の測定を行った。測定にはHuman Nesfatin-1 ELISA Kit(MyBioSource)を用いた。
まず、各サンプルをAssay plateのwellに、100 μLずつ加え、37℃、遮光条件下で2時間インキュベーションした。インキュベーション後、各wellの溶液を抜き去り、ビオチン化された検出用抗体溶液を至適濃度に調製したのち、各wellに100 μLずつ加えて、37℃、遮光条件下で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、付属のwash bufferを用いて、各wellを200 μL/wellで3回洗浄した。その後、HRP-avidinを至適濃度に調製して各wellに100 μLずつ加えて、37℃、遮光条件下で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、付属のwash bufferを用いて、各wellを200 μL/wellで5回洗浄した。洗浄後、TMB Substrateを90 μLずつ各wellに加え、37℃、遮光条件下で15分間インキュベーションした。Stop Solutionを各wellに50 μLずつ加えて反応を停止させ、450 nmの波長で吸光度を測定した。
なお、検量線用の測定試料は付属のNesfatin-1 Standardを2000 pg/mL, 1000 pg/mL, 500 pg/mL, 250 pg/mL, 125 pg/mL, 62.5 pg/mL, 31.25 pg/mL, 0 pg/mLに調製して用いた。
【0026】
結果を
図2に示す。
図2からも明らかなように、本発明にかかる評価方法を用いた場合であっても、従来から食関連ホルモンの分泌を促進することが知られていた被験試料において、Nesfatin-1の分泌量が増加していることが確認できた。また、PYY同様、Forskolinを添加した場合に、全被験試料中、上清中に含まれるNesfatin-1が最も多い結果となった。一方、OEAについて見ると、PYYとは異なり、添加量が少ないほうが分泌量は多かった。これに対して、Ginsenosideでは、添加量が多いほうが分泌量は多いという結果となり、PYYの結果とは逆の挙動を示していることがわかる。しかしながら、いずれの被験試料もcontrolに比べてNesfatin-1の量は増加していることは明らかであった。
【0027】
以上の結果から、従来のin vitro試験におけるPYYおよびNesfatin-1の分泌能評価試験方法よりも簡便かつ短期間で結果が得られることが確認された。
【0028】
以上説明したように、本願発明は短時間で効率よく、しかも低コストで分泌ホルモンを簡易測定することができる。