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特開2022-49054導電体作製方法、金属ペースト及び導電体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049054
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】導電体作製方法、金属ペースト及び導電体
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/04 20060101AFI20220322BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20220322BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B22F7/04 D
B22F9/00 B
H01B1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155078
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】藤本 英幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】上山 俊彦
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA05
4K017BA06
4K017BB02
4K017BB05
4K017BB06
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA07
4K018AA10
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB04
4K018BB05
4K018BD04
4K018CA33
4K018CA44
4K018JA36
4K018KA33
5G301DA03
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
(57)【要約】
【課題】加熱時における粒子焼結を調整し、適切な導電構造を構築できるようにするとともに、物質間の接続に適用する際には、接着の強度を確保すること。
【解決手段】金属粒子を含む材料を、2~2000ppmの酸化性ガスを含む不活性ガス雰囲気下にて、150~300℃の温度で焼成する焼成工程を有する、導電体作製方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子を含む材料を、2~2000ppmの酸化性ガスを含む不活性ガス雰囲気下にて、150~300℃の温度で焼成する工程を有する、導電体作製方法。
【請求項2】
前記金属粒子は、透過型電子顕微鏡による粒子径測定において計測される平均一次粒子径(個数平均)が200nm以下である粒子を含む、請求項1に記載の導電体作製方法。
【請求項3】
前記金属粒子は、レーザー回折型粒度分布測定により計測される平均粒子径(体積換算50%累積径)が0.2~10μmである粒子を含む、請求項1~2のいずれか一つに記載の導電体作製方法。
【請求項4】
前記酸化性ガスは酸素を含む、請求項1~3のいずれか一つに記載の導電体作製方法。
【請求項5】
前記不活性ガスは窒素を含む、請求項1~4のいずれか一つに記載の導電体作製方法。
【請求項6】
前記金属粒子は銀を含む、請求項1~5のいずれか一つに記載の導電体作製方法。
【請求項7】
前記金属粒子の比表面積を1~12m/gとする、請求項1~6のいずれか一つに記載の導電体作製方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載の導電体作製方法で用いられる金属ペーストであって、(ペーストの焼成温度-50℃)~焼成温度における質量減少量が焼成温度までの質量減少累積値の50%以下である、金属ペースト。
【請求項9】
焼結体密度は構成する金属密度の50~90%である、導電体。
【請求項10】
焼結体の導電率は構成する金属の導電率の75~95%である、導電体。
【請求項11】
焼結体における炭素量は0.1~5質量%である、導電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体作製方法、金属ペースト及び導電体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置は半導体基板上に種々の半導体素子を実装し、また導電性材料を用いて回路を形成するなどの工程を経て製造されている。導電性材料としては、例えば金属粒子及び分散媒(溶媒やバインダー)を含む材料が使用される。これを基板上に塗布し、その上に半導体素子を載置したり、あるいは導電性材料を回路パターン形状に印刷したりする。そしてこれを焼成すると、融着接合現象により素子が基板に接着され(実装)、また金属粒子が焼結して(又はバインダーが硬化収縮して金属粒子同士が接触して)回路を形成する。
【0003】
こうした手法の例として、例えば特許文献1には、酸素、オゾン、又は大気雰囲気下で銀粒子等を焼成する導電性材料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/90915号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、その構成成分として多量の酸化性物質を含むため、これらの物質が反応する雰囲気下での焼成は基板等の部材の劣化を招くため、こうした反応を起こすような条件では、開示された方法を選択することが出来ない。これは、特許文献1に記載の手法であれば、該手法に対応可能な部材が限定されることを意味する。こうした適用する材料に制限のある手法は、適用される用途が限定されてしまうため、汎用的には使用されづらい。また、必要以上な酸素などを含む状態、具体的には大気中において加熱処理すると、基板が酸化されてしまう場合や、ペースト中の金属粒子の焼結が進み過ぎる場合があることが分かってきた。
【0006】
その一方で、純粋なアルゴンガスといった不活性ガスのみからなる雰囲気下における焼成だと、ペースト中に含有される有機物を除去することは難しく、ペースト中の金属ナノ粒子が焼結の不十分なまま残ってしまう未焼結といった問題を生じ得る。そこで本発明は、加熱時における粒子焼結を調整し、適切な導電構造を構築できるようにするとともに、物質間の接続に適用する際には、接着の強度を確保することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、金属粒子粉末を含む導電性材料を不活性ガス雰囲気下で焼成するにあたって、2~2000ppmの範囲で酸化性ガスを雰囲気中に含ませれば、焼結時における結合構造が適切に調整できうることにより、課題として掲げた従来からの問題点が解決されうることが、本発明者らにより知見された。
【0008】
具体的に本発明を説明すれば、次の通りのものである。
[1]金属粒子を含む材料を、2~2000ppmの酸化性ガスを含む不活性ガス雰囲気下にて、150~300℃の温度で焼成する工程を有する、導電体作製方法。
【0009】
[2]前記金属粒子は、透過型電子顕微鏡による粒子径測定において計測される平均一次粒子径(個数平均)が200nm以下である粒子を含む、[1]に記載の導電体作製方法。
【0010】
[3]前記金属粒子は、レーザー回折型粒度分布測定により計測される平均粒子径(体積換算50%累積径)が0.2~10μmである粒子を含む、[1]または[2]記載の導電体作製方法。
【0011】
[4]前記酸化性ガスは酸素である、[1]ないし[3]のいずれかに記載の導電体作製方法。
【0012】
[5]前記不活性ガスは窒素である、[1]ないし[4]のいずれかに記載の導電体作製方法。
【0013】
[6]前記金属粒子は銀を含む、[1]ないし[5]のいずれかに記載の導電体作製方法。
【0014】
[7]前記金属粒子の比表面積を1~12m/gとする、[1]ないし[6]のいずれかに記載の導電体作製方法。
【0015】
[8][1]~[7]のいずれかに記載の導電体作製方法で用いられる金属ペーストであって、(ペーストの焼成温度-50℃)~焼成温度における質量減少量が焼成温度までの質量減少累積値の50%以下である、金属ペースト。
【0016】
[9]焼結体密度は構成する金属密度の50~90%である、導電体。
【0017】
[10]焼結体の導電率は構成する金属の導電率の75~95%である、導電体。
【0018】
[11]焼結体における炭素量は0.1~5質量%である、導電体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、本発明は、加熱時における粒子焼結を調整し、適切な導電構造を構築できるようにするとともに、物質間の接続に適用する際には、接着の強度を確保することができる方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、破断面の作製の様子を示す説明図である。
図2図2は、焼成膜表面のSEM観察写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。
図3図3は、破断面のSEM観察写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。
図4図4は、接合体のC-SAM像写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の導電体作製方法の実施の形態について説明する。本明細書の「~」は所定の数値以上且つ所定の数値以下を指す。
【0022】
[導電性材料]
本発明の導電性材料は、以下の各材料が配合されてなる。
導電性材料としては、その構成中に金属粉末を含む。金属種は導電性物質として通常用いられる金、銀、銅、鉄、ニッケル、コバルト、白金等の貴金属等の単一金属種、それらの混合、若しくは合金を用いることができるが、好適に使用される金属は銀である。導電性材料中における金属の占める割合は、質量割合で75質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0023】
また、焼成操作後における固体物質は、焼成残渣(加熱後に揮発しきれずに焼成物の中に残存する成分であり、主としてペースト中に残存する有機物起因の炭素)と金属成分から構成されている。焼成後における金属以外の残存物質は可能な限り少ないことが、導電性、または接合に使用する際には物質間の接合強度の確保には好ましい。具体的には焼成前のペースト質量を100とした際、室温から300℃まで加熱昇温し、300℃で5分間維持した際の固体質量が80質量%以上、好ましくは85質量%以上、一層好ましくは90質量%以上となるよう構成することが適当である。
【0024】
金属粉末については、粉末の粒子径で見たときに単一若しくは複数種の粉末を使用することが出来る。加熱処理温度の観点からすれば、200nm以下の粒子径を有する金属ナノ粒子が導電性材料に含まれていることが適当ではあるが、それに限定されない。金属ナノ粒子と金属粉末(これらをまとめて金属粒子とも呼ぶ。)の構成要件について、次に詳細に説明する。
【0025】
<金属ナノ粒子>
本発明における金属ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡において計測される平均一次粒子径が5~200nm、好ましくは10~150nm、一層好ましくは15~100nmのものである。上記のような粒子径が微細なものを採用すれば、通常知られている融点よりも低い温度範囲にて粒子の融解が進み、焼結が進行するので好ましい。また、本ペーストを接合の用途で使用する場合においても、特段焼結を進めるために用いられる加圧(例えば焼成時に5MPa以上を印加して実施する)を行う必要がないため、基板や被接合物であるシリコンなどを用いて製造される半導体チップについても熱や機械的なダメージを与えにくくなるので適当である。また、金属ナノ粒子は必ずしも一種類とする必要はなく、その目的に応じて粒度分布の異なる複数種の金属粉末を併用して使用してもよい。
【0026】
なお、本明細書において、平均一次粒子径とは、粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)一次粒子径の平均値(個数基準の平均一次粒子径)をいう。更に具体的には、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製のJEM-1011)により粒子を所定の倍率で観察した画像(TEM像)上の100個以上、好ましくは250個の任意の粒子の一次粒子径(粒子と面積が同じ円(面積相当円)の直径)から平均一次粒子径を算出することができる。面積相当円の直径の算出は、例えば、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製のA像くん(登録商標))により行うことができる。
【0027】
金属ナノ粒子の表面には室温での焼結や一次粒子同士の凝集を抑制する目的で表面に有機物を被覆することも好ましい構成である。表面を被覆する物質は加熱焼成時に悪影響を及ぼしたり、加熱焼成後に必要以上に残存したりすることがなければ、従来公知の被覆物はいずれも採用することが出来る。具体的には、カルボン酸、アミン類、チオール類、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)といった高分子ポリマーなどが例示できる。特に取扱が容易で焼成時に環境に悪影響な物質を排出するおそれが少ないため、低炭素量(その構造中に含まれる炭素数12以下であって、飽和構造でも不飽和構造のいずれでもかまわない)のカルボン酸、もしくはアミン類を選択することが好ましい。これらの表面被覆物については、導電性配線や接合といった用途によって、適宜調整することが出来る。
【0028】
上述の表面被覆物は、金属ナノ粒子の質量を100としたとき、好ましくは15以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、より一層好ましくは3以下とするのが焼成時における、導電性や接合強度の低下の原因となる焼成操作後の金属層内に残存する成分が少なくなるので好ましい。表面被覆物量は、大気中において室温から700℃に昇温し、700℃で10分保持したときの質量減少量(I)から算出する。700℃での値としているのは、完全に有機物が飛びきった量を算出するためのものである。
【0029】
一方、大気中において室温から300℃に昇温し、300℃で10分保持したときの質量減少量(II)も算出したとき、(I)-(II)が10以下、好ましくは5以下であるのがよい。この値が多い場合には通常の焼成の条件下において、有機物が多く金属層中に残存することになることを示すので、導電性や接合強度確保の観点から見て適切ではない。
【0030】
<金属粉末>
本発明における導電性材料の構成成分として金属粉末を含有させる場合、その粒子径は金属ナノ粒子として定義したよりも大きい粒子を採用する。すなわちその粒子径が200nmよりも大きいものを使用する。ここで、粒子径はレーザー回折型粒度分布測定での体積換算50%粒子径を採用し、その値は0.2~10μm、好ましくは0.5~7.5μm、一層好ましくは1.0~5.0μmのものとすることが好ましい。粒子径は分布を持つことが通常であり、金属ナノ粒子と金属粉末を併用するときには、これらの粒試験分布の裾野部分は重複することは妨げない。粒子径としては、ある程度小さい粒子であれば、走査型電子顕微鏡の粒子径計測を行うことも可能であるものの、走査型電子顕微鏡の場合には立体的に粒子を観察してしまうので、粒子径の計測が実際の粒子よりもずれてしまう懸念があるので、可能であれば避けた方がよい。金属粉末は必ずしも一種類とする必要はなく、その目的に応じて粒度分布の異なる複数種の金属粉末を併用して使用してもよい。
【0031】
粒子の表面には、凝集を抑制する目的で例えば脂肪酸のような表面被覆物が吸着されていてもよい。吸着量が多すぎると、焼成時において残存するおそれがあるので適当ではない。付着量は金属粉全体に対し5質量%以下、好ましくは3質量%以下であるのがよい。
【0032】
本発明においては、金属ナノ粒子と金属粉末を混合して使用することも出来る。併用することによって、金属ナノ粒子が低温で焼結して、金属粉末同士であれば点での接触により導電性が得られるようになっていたものが面での導電構造とすることが出来るので、より適切な導電性の確保や、接合時における接合強度の確保が出来るようになるので適当である。また、これらを併用することによって、導電構造中の熱収縮が適切に調整することが出来るので、焼成時の熱収縮による構造破壊等が起こりにくくなるため好適である。
【0033】
ここで金属粉末は、導電構造における骨格になり得るものであり、一つ一つの粒子が大きいため、混合した際の質量割合は高くなる。導電性の確保と導電構造における熱収縮調整の観点から、金属ナノ粒子と金属粉末を混合した際の金属粉末の占める質量割合は60~90質量%(金属ナノ粒子は10~40質量%)、好ましくは65~85質量%(金属ナノ粒子は15~35質量%)、一層好ましくは65~85質量%(金属ナノ粒子は15~35質量%)とするのがよい。
【0034】
粒子の比表面積値(BET値)はBET一点法にて測定する。金属ナノ粒子、金属粉末を単独で使用する際には、単独でのBET値でかまわないが、混合して使用する際には、金属ナノ粒子と金属粉末を混合した状態で測定に付して得られた値をBET値として採用する。なお、比表面積の測定は、BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製 Macsorb(商標登録))を用いて行ってもよい。
【0035】
金属ナノ粒子と金属粉末を混合した状態でのBET値の範囲は、1~12m/g、好ましくは1.5~7.5m/g、一層好ましくは2~5m/gとするのがよい。
【0036】
<溶剤>
本発明の導電性材料の実施の形態は、溶剤を含む。この溶剤としては、金属ナノ粒子及び金属粉末を分散させることができ、導電性材料中の成分との反応性を実質的に有しないものを広く使用可能である。
【0037】
導電性材料中の溶剤の含有量は、2.0~18質量%であるのが好ましく、2.5~16質量%であるのがより好ましい。この溶剤として、極性溶剤や非極性溶剤を使用することができるが、導電性材料中の他の成分との相溶性や環境負荷の観点から、極性溶剤を使用するのが好ましい。
【0038】
極性溶剤の例としては、水;ターピネオール、テキサノール、フェノキシプロパノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、テルソルブMTPH(日本テルペン化学株式会社製)、ジヒドロターピニルオキシエタノール(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTOE-100(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブDTO-210(日本テルペン化学株式会社製)等のモノアルコール;3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(オクタンジオール)、ヘキシルジグリコール、2-エチルヘキシルグリコール、ジブチルジグリコール、グリセリン、ジヒドロキシターピネオール、3-メチルブタン-1,2,3-トリオール(イソプレントリオールA(IPTL-A)、日本テルペン化学株式会社製)、2-メチルブタン-1,2,4-トリオール(イソプレントリオールB(IPTL-B)、日本テルペン化学株式会社製)等のポリオール;ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ターピニルメチルエーテル(日本テルペン化学株式会社製)、ジヒドロターピニルメチルエーテル(日本テルペン化学株式会社製)等のエーテル化合物;ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート;1-メチルピロリジノン、ピリジン等の含窒素環状化合物;γ―ブチロラクトン、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、乳酸エチル、3-ヒドロキシ-3-メチルブチルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、テルソルブIPG-2Ac(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTHA-90(日本テルペン化学株式会社製)、テルソルブTHA-70(日本テルペン化学株式会社製)等のエステル化合物;などを使用することができる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
<その他の成分(添加剤)>
本発明の導電性材料の実施の形態は、その他の成分として公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤として具体的には、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基及びジスルフィド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する分散剤などの分散剤、ガラスフリットなどの焼結促進剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、緩衝剤、消泡剤、レベリング剤、揮発抑制剤が挙げられる。添加剤の導電性材料における含有量は、2質量%以下(複数種類の添加剤を含む場合は合計の含有量が2質量%以下)であることが好ましい。なお導電性材料が添加剤を含む場合、通常その含有量は0.005質量%以上(複数種類の添加剤を含む場合は各々の含有量が0.005質量%以上)とされる。
【0040】
本発明においては、バインダーとしての樹脂は必ずしも添加する必要はない。ただし、焼結性やペーストにおける粒子へのぬれ性の向上等の目的で、高分子を添加する場合もある。その際には、ペーストへの影響を小さくするためにペースト全体に対して質量で数%程度の添加量とすることが好ましい。
【0041】
[導電性材料の製造方法]
本発明の導電性材料の実施の形態は、以上説明した金属ナノ粒子、金属粉末、及び溶剤、更に他の任意成分(例えば添加剤)を公知の方法で混合することで、製造することができる。なお、各成分の使用量については、導電性材料中の各成分の含有量が、各成分の仕込み量から計算して上記で説明した量となる使用量とする(すなわち、例えば金属ナノ粒子の含有量が好ましくは5~35質量%、金属粉末の含有量が好ましくは65~85質量%となる使用量とする)。
【0042】
混合の方法は特に制限されるものではなく、例えば、各成分を個別に用意し、任意の順で、超音波分散機、ディスパー、三本ロールミル、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、プラネタリーミキサー、又は公転自転式攪拌機などで混合することによって、導電性材料(例えば金属ペースト)を製造できる。
【0043】
このように作製された導電性材料の一具体例が金属ペーストである。金属ペーストにおいては、(ペーストの焼成温度-50℃)~焼成温度の範囲における質量減少量が、焼成温度までの質量減少累積値の50%以下であるのが好ましい。焼成温度付近での重量減少量が適度に抑えられれば、急激な脱媒によるボイド発生などの構造ムラが生じにくくなり、好ましい。
【0044】
[導電体の作製方法]
本発明の導電性材料を利用して、導電膜を形成し、ひいては導電体を作製できる。具体的には、導電性材料を基板上に塗布し、非酸化性雰囲気下に焼成することで、導電性材料中の少なくとも金属ナノ粒子が焼結して金属粉末を連結し、連続した導電膜を形成する。「連続した」とは、形成された膜が導電性を示す程度(好ましくは、後述する実施例における条件で導電性材料から形成した焼成膜について体積抵抗率を求めた時に、それが100μΩ・cm以下であること)に膜の連続性を有していることをいう。
【0045】
基板としては、シリコン基板、ガラス基板やアルミナ基板などの硬質の基板や、PET基板などのフレキシブル基板を使用することができる。フレキシブル基板を使用した場合には、これは耐熱性が低いため、本発明の導電性材料が低温焼結性に優れている利点が活き、また、半導体装置の三次元的なデザインの自由度が高まる。更に基板には、予め回路が形成されていたり、各種の半導体素子が実装されたりしてもよい。
【0046】
導電性材料を基板上に塗布する方法に特に制限はなく、例えばメタルマスク印刷法、スクリーン印刷法及びインクジェット印刷法が挙げられる。
【0047】
焼成工程は、不活性ガス中に酸化性ガス(酸素、水蒸気など)が2ppm以上を含ませた雰囲気で行うのがよく、上限は2000ppm、好ましくは1500ppm以下の範囲とするのがよい。より好ましくは1000~2ppmであり、400~5ppmが更に好ましい。2000ppmを超える酸化性ガスを導入すると、結晶が成長しにくい比較的低い温度から表面被覆物が除去されることにより、結晶成長が十分に生じる前に表面が安定化されることにより焼結構造にムラを生じる、これによって導電性や接合強度に影響を及ぼすため適当ではない。酸化性ガスが2ppmよりも少ない場合には、表面被覆物の除去されにくく、結果、金属の焼結速度が遅くなりすぎるので、生産性に著しい影響を及ぼすので適当ではない。また、酸化性ガスとしては、上述の酸素や水蒸気は簡便に入手できるので好ましく、又調整もしやすいので適当である。とりわけ装置への影響を考慮すれば、酸素を使用するのが適切である。
【0048】
不活性ガスは、基板や部材の劣化を生じさせないものであれば特に制限されないが、広く用いられるものとして、窒素ガスやアルゴンのような希ガスが上げられる。入手や酸化性ガス導入の簡便さを考慮すれば、窒素ガスとするのがよい。
【0049】
焼成の前に予め真空乾燥や低温での予備乾燥を行って、溶媒を除去してもよい。ただし、予備乾燥を進めすぎると、金属層中に細かい空隙が多数存在しやすくなるので適切ではない場合がある。
【0050】
焼成は、150~300℃の温度範囲で行うのが好ましく、200~280℃の温度範囲で行うのがより好ましい。これは強固な焼結構造を得る為、ある程度の温度が必要な点と、高温における焼成では過焼結によるクラック発生や大きな残留応力を生じやすい点からによる。また、高温における焼成は部材の劣化や経済的な観点からも好ましくないからである。
【0051】
このように作製された導電体の焼結体密度は構成する金属密度の50~90%であるのが好ましい。下限以上であれば、導電性、膜強度及び接合強度を維持できる。上限以下であれば、脱溶媒時に発生するガスの逃げ道を確保でき、焼結性を良好に保てる。
【0052】
このように作製された導電体の導電率は構成する金属の導電率の75~95%であるのが好ましい。
【0053】
このように作製された導電体における炭素量は0.1~5質量%であるのが好ましい。上限以下であれば、導電性、膜強度及び接合強度を維持できる。下限に関しては、炭素の残渣の観点からの規定であり、数値に限定は無い。
【0054】
<回路基板>
導電性材料を、所定の回路パターン形状になるように基板上に塗布し、上記の通り焼成することで、基板上に回路を有する回路基板が得られる。このような回路基板は、基板と、該基板上に所定の回路パターン形状に配置された、本発明の導電性材料の焼成物からなる導電膜とを有している。なお、基板上への導電性材料の塗布方法には、上記で挙げた印刷法をはじめ、フォトリソグラフィーのような、基板全面など一定範囲に塗布し、レジストを利用するなどして不要な部分を除去する方法が含まれるものとする。
【0055】
<半導体装置>
本発明の導電性材料を基板上に塗布し、該導電性材料を介して半導体素子を前記基板上に実装し、その他種々の工程を経ることで、所定の機能を有する半導体装置を製造することができる。実装は、導電膜の形成方法の場合と同様、基板上に塗布された導電性材料上に半導体素子を載置し、150~300℃程度の温度で加熱することによって行うことができる。この加熱により導電性材料が焼結して、基板と半導体素子との物理的接合及び電気的導通が確保される。半導体装置は、基板と、該基板上に配置された、本発明の導電性材料の焼成物と、該焼成物上に配置された半導体素子とを有している。
【0056】
なお、本発明の導電性材料を、各種半導体デバイスと基板等を接合するための接合材として使用しても構わない。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0058】
[実施例1、比較例1~2]
<銀ナノ粒子(金属ナノ粒子)の準備>
5Lの反応槽に水3400gを入れ、この反応槽の下部に設けたノズルから3000mL/分の流量で窒素を反応槽内の水中に600秒間流して溶存酸素を除去した後、反応槽の上部から3000mL/分の流量で窒素を反応槽中に供給して反応槽内を窒素雰囲気にするとともに、反応槽内に設けた撹拌羽根付き撹拌棒により撹拌しながら、反応槽内の水の温度が60℃になるように調整した。この反応槽内の水に28質量%のアンモニアを含むアンモニア水7gを添加した後、1分間撹拌して均一な溶液にした。この反応槽内の溶に有機化合物として飽和脂肪酸であるヘキサン酸(和光純薬工業株式会社製)45.5g(銀に対するモル比は1.98)を添加して4分間撹拌して溶解した後、還元剤として50質量%のヒドラジン水和物(大塚化学株式会社製)23.9g(銀に対して4.82当量)を添加して、還元剤溶液とした。
【0059】
また、硝酸銀の結晶(和光純薬工業株式会社製)33.8gを水180gに溶解した硝酸銀水溶液を銀塩水溶液として用意し、この銀塩水溶液の温度が60℃になるように調整し、この銀塩水溶液に硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社製)0.00008g(銀に対して銅換算で1ppm)を添加した。なお、硝酸銅三水和物の添加は、ある程度高濃度の硝酸銅三水和物の水溶液を希釈した水溶液を狙いの銅の添加量になるように添加することによって行った。
【0060】
次に、上記の銀塩水溶液を上記の還元剤溶液に一挙に添加して混合して、攪拌しながら還元反応を開始させた。この還元反応の開始から約10秒で反応液であるスラリーの色の変化が終了し、攪拌しながら10分間熟成させた後、攪拌を終了し、吸引濾過による固液分離を行い、得られた固形物を純水で洗浄し、40℃で12時間真空乾燥して、(ヘキサン酸で被覆された)銀ナノ粒子の乾燥粉末を得た。なお、この銀ナノ粒子中の銀の割合は、加熱によりヘキサン酸を除去した後の質量から、97質量%であることが算出された。また、この銀ナノ粒子の平均一次粒子径を透過型電子顕微鏡(TEM)により求めたところ、21nmであった。
【0061】
<銀粉末(金属粉末)の準備>
銀粉末として、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)(平均粒子径ともいう)が1.5μmであるAG-3-60(DOWAハイテック社製造、DOWAエレクトロニクス社販売)を用意した。
【0062】
<銀ペーストの調製>
後記表1に記載の金属成分(金属ナノ粒子、金属粉末を混合したものに対してBET一点法にて測定したときのBET値:3.6m/g)及び分散溶媒、並びにその他の成分を表1に記載の配合割合(質量%)で混練して、銀ペーストを調製した。なお、テルソルブTOE-100は、日本テルペン化学株式会社製の2-(1-メチル-1-(4-メチル-3-シクロヘキセニル)エトキシ)エタノールであり、IPTL-Aは、日本テルペン化学株式会社製の2-メチル-ブタン-2,3,4-トリオールであり、SOLPLUS D540は、Lubrizol社製の分散剤である。
【0063】
<導電体(膜)の作製>
上記で調製した銀ペーストを10mm×10mm(厚さ1mm)の銅基板にメタルマスク(開口部7mm×7mm、厚さ50μm)で塗布した。この銀ペーストが塗布された銅基板を室温から250℃まで3℃/分で昇温させ、250℃で60分間、無加圧で焼成して銀焼成膜を形成し、実施例の導電体を得た。
【0064】
なお、昇温も含めた焼成時のガス雰囲気は、実施例においては70ppmのOガスを含有するNガス雰囲気とした。比較例1においては1ppmのOガスを含有するNガス雰囲気とし、比較例2においては21体積%のOガスと79体積%のNガスとの混合ガス雰囲気とした。
【0065】
また、焼成時の雰囲気のO濃度は、東レエンジニアリング社製の酸素濃度計LC-750/PC-120により測定した。以降、焼成時の雰囲気のO濃度の測定方法は同様の手法を採用する。
【0066】
<破断面評価用試験片の作製>
上記で調製した銀ペーストを10mm×10mm(厚さ1mm)の銅基板にメタルマスク(開口部3.5mm×3.5mm、厚さ150μm)で塗布した。銅基板上に塗布された各銀ペースト上に3mm×3mm(厚さ2mm)のCu素子を搭載して、塗膜の厚さを100μmとした。この銀ペーストが塗布され、Cu素子が搭載された銅基板を室温から250℃まで3℃/分で昇温させ、250℃で60分間、無加圧で焼成して銀焼結層を形成し、各例の試験片を得た。本試験での焼成の各条件は、上記<導電体膜の作製>と同様とした。
【0067】
<破断面の作製>
SERIES4000(DAGE社製)を用い、図1に示すようにして、上記で得られた各例の試験片にせん断力をかけて試験片を破断させ、破断面を作製した。具体的には、試験片は、銅基板3と、その上に形成された銀接合層2と、その上に形成され銀接合層2により銅基板3と接合しているCu素子1とからなる。銅基板3から高さ250μmの位置に、シアツール4の下端が当たるように、Cu素子1の側面から、シアツール4で5mm/minに設定して銅基板3の水平方向に力をかけ、破断させた。
【0068】
なお、破断したときの力をCu素子の底面の面積で割って、実施例の試験片のシア強度を求めたところ、シア強度は63MPaであった。比較例1~2にて作製した試験片について同様にシア強度を求めたところ、比較例1では35MPa、比較例2では34MPaであった。
【0069】
<焼成膜表面及び破断面のSEM観察>
以上の導電体膜表面及び破断面を走査型電子顕微鏡により観察した。
【0070】
図2は、焼成膜表面のSEM観察写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。
【0071】
図3は、破断面のSEM観察写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。
【0072】
実施例1では粒子同士が焼結により連結・成長した焼結構造となっており、破断面においてはディンプル構造が見られるという観察結果であった。
【0073】
比較例1では焼結構造のなかに、成長した焼結構造に取り込まれず粒子状態を保ったままの部分が残存しているのが確認された。比較例2でも焼結構造のなかに、成長せずに粒子に近い状態を保ったまま取り残された部分が見られた。
【0074】
比較例2だと、比較例1とは違い、周辺の粒子同士においてネッキングで連結している状態が見られた。これは結晶が成長しにくい比較的低い温度で被覆剤が除去されることにより、構造の成長が十分に生じる前に表面が安定化されることにより生じたと考えられる。
【0075】
その一方、実施例1においては、これらの粒子状態や粒子に近い状態を保ったまま周囲の焼結構造に取り込まれず残存した構造が観察されなかった。以上から、実施例1では比較例1~2に比べ、焼結構造の成長に適していることが判る。
【0076】
<接合部の超音波探傷評価>
以下の条件で、接合を行った場合の接合部の超音波探傷評価を実施した。
【0077】
基板としては10mm角の銅基板(厚さ1mm)を用いた。この銅基板に対してメタルマスク(開口部5.5mm×5.5mm、厚さ150μm)で銀ペーストを塗布し、その上に、5mm角の金めっきが施されたSi素子を搭載した。この銀ペーストが塗布され、Si素子が搭載された銅基板を室温から250℃まで3℃/分で昇温させ、250℃で60分間、70ppmのOガスを含むNガス雰囲気中において無加圧で焼成して銀接合層を形成し、試験片(接合体)を得た(実施例1)。
【0078】
こうして得られた接合体について、超音波探傷検査装置(C-SAM:SONOSCAN社製のD9500)により得られた画像(C-SAM像)から、銀接合層(の内部と銀接合層と基板及びSiチップとのそれぞれの界面)のボイドの有無を観察した。
【0079】
図4は、接合体のC-SAM像写真であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。
【0080】
C-SAM像の全面が黒い場合は、ボイドがなく、良好に接合されていると判断し、C-SAM像に白い部分がある場合は、ボイドやクラック、剥離などの接合ムラがあり、接合状態が良好でないと判断した。
【0081】
接合性評価の結果、実施例1の焼成条件で焼成した場合においては、クラックやボイドは確認されず良好に接合が行われていた。その一方、比較例1~2の条件で焼成を行った場合には、接合ムラが発生しており、接合は良好でなかった。
【0082】
以上の結果を下記表1にまとめる。
【表1】
図1
図2
図3
図4