(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049632
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】水素含有日本酒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/022 20190101AFI20220322BHJP
C12H 1/12 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C12G3/022 119Z
C12H1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174676
(22)【出願日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2020155301
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】武末 正広
(72)【発明者】
【氏名】田頭 宜典
【テーマコード(参考)】
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B115AG17
4B115CN88
4B115LG03
4B115LH12
4B115LP01
4B128AC10
4B128AG06
4B128AP30
4B128AS01
4B128AT20
(57)【要約】
【課題】 処理前の日本酒固有の味や香りに与える影響を効果的に防止し、日本酒に十分な濃度の水素を安全に溶解させる方法及び装置を提供する。
【解決手段】 耐圧性密閉容器1内に、ヘッドスペース3の体積(V
H)が上記耐圧性密閉容器の体積(V
0)に対して5~40%となるように日本酒を充填し、前記ヘッドスペース3に0.1MPa・G以上の圧力で水素ガスを存在せしめ、1時間以上静置する。その際、前記日本酒の温度を0~15℃に調整すること、前記日本酒が吟醸酒であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧性密閉容器内に、ヘッドスペースの体積(VH)が上記耐圧性密閉容器の体積(V0)に対して5~40%となるように日本酒を充填し、前記ヘッドスペースに0.1MPa・G以上の圧力で水素ガスを存在せしめ、1時間以上静置することを特徴とする水素含有日本酒の製造方法。
【請求項2】
前記日本酒の温度を0~25℃に調整する、請求項1に記載の水素含有日本酒の製造方法。
【請求項3】
前記日本酒が吟醸酒である請求項1又は2に記載の水素含有日本酒の製造方法。
【請求項4】
容器内の上部に開口したガス供給配管を、日本酒を供給するための液給口を備えた耐圧性密閉容器を含み、上記耐圧性密閉容器は、ヘッドスペースの圧力を検出する圧力計を備え、前記ガス供給配管は水素ボンベと接続し得るように構成されたことを特徴とする水素含有日本酒の製造装置。
【請求項5】
前記耐圧性密閉容器が、容器内面の径(D)に対する高さ(L)の比(L/D)が1~6の範囲にある、請求項4に記載の水素含有日本酒の製造装置。
【請求項6】
前記耐圧性密閉容器の胴部に、冷却ジャケットを備えた、請求項4又は5に記載の水素含有日本酒の製造装置。
【請求項7】
前記ヘッドスペースを減圧するための真空ポンプを備えた請求項4~6のいずれか一項に記載の水素含有日本酒の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有日本酒の新規な製造方法に関する。詳しくは、日本酒の味わいを変えることなく、日本酒に水素を含有せしめる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来から、日本酒等の酒類に水素を吹き込んで溶解させ、酸化防止を図る試みは従来から提案されている。
【0003】
従来、酒類への水素溶解方法は、より多くの水素を溶解させるため、酒類に水素を吹き込んで溶解させる方法が一般的であり、水素をマイクロバブル化して日本酒に吹き込む方法(特許文献1)、水素を加圧して日本酒に吹き込む方法、更には、循環タンクを設け、日本酒を循環させながら水素を吹き込む方法などが提案されている。
【0004】
ところが、これらの方法は日本酒に吹き込まれた水素ガスによる激しい攪拌や振動により、その味に変化が起こり、処理前の日本酒固有の味や香りに影響することが本発明者らの実験により判明した。
【0005】
そのため、製造した日本酒固有の味わいが水素を溶解したがために変化すること、また、その変化は水素による処理条件により変化し、安定した日本酒の製造が困難となることが懸念される。
【0006】
また、バブリングに際しては、処理容器への水素の供給量に見合うパージが必要となり、排出される水素ガスの安全対策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、処理前の日本酒固有の味や香りに与える影響を効果的に防止し、日本酒に十分な濃度の水素を安全に溶解させる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく研究を重ねた結果、静置状態で、日本酒の液面が接する気相部に水素を存在させることにより、日本酒の味わい、特に香りを大きく変えることなく、十分な量の水素を溶解可能であること、更には、溶解した水素は比較的安定であり、瓶詰め後6ヶ月以上存在が確認できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、密閉容器内に、ヘッドスペースの体積(VH)が上記耐圧性密閉容器の体積(V0)に対して5~40%となるように日本酒を充填し、前記ヘッドスペースに0.1MPa・G以上の圧力で水素ガスを存在せしめ、1時間以上静置することを特徴とする水素含有日本酒の製造方法が提供される。
【0011】
上記処理は、低温で行うことが好ましく、0~25℃の温度で行うことが好ましい。
【0012】
また、対象とする日本酒は、吟醸香として有効成分、例えば、酢酸イソアミルを多く含む吟醸酒において効果が顕著である。
【0013】
また、本発明は、上記方法を実施するために好適な製造装置をも提供する。
【0014】
即ち、本発明によれば、容器内の上部に開口した水素ガス供給配管を、日本酒を供給するための液給口を備えた耐圧性密閉容器を含み、上記耐圧性密閉容器は、ヘッドスペースの圧力を検出する圧力計を備えたことを特徴とする水素含有日本酒の製造装置が提供される。
【0015】
上記装置において、耐圧性密閉容器は、容器内面の径(D)に対する高さ(L)の比(L/D)が1~6の範囲にあることが好ましい。
【0016】
また、耐圧性密閉容器の胴部には、冷却ジャケットを備え、充填された日本酒を所定の温度に冷却できるようにすることが好ましい。
【0017】
更に、ヘッドスペースを減圧するための真空ポンプを備えることが、静置下に、ヘッドスペースにおいて供給された水素を日本酒と確実に接触させるために好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、水素ガスによるバブリングや強制的な流動が無いため、日本酒の撹拌や振動等による味わい、特に香りの変化を効果的に防止でき、酒蔵が目指す味わいを変えることなく水素含有日本酒を製造することが可能となる。また、溶解した水素は、水素濃度計による測定で、長期間、具体的には6カ月程度残存することも確認できた。
【0019】
さらに、本発明の方法によれば、パージする水素が極めて少ないので、水素の使用量を極めて少なく抑えることができ、経済的であると共に、安全性の面においても有利であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の水素含有日本酒の製造装置の一態様を示す概略図
【
図2】本発明の水素含有日本酒の製造装置の他の一態様を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、原料の日本酒は特に制限されるものではなく、精米度、アルコール濃度等によらず自由に選択して使用することができる。そのうち、本発明の方法が特に効果的な日本酒は、揮散し易い有効成分、例えば、酢酸イソアミルを多く含む吟醸酒であり、本発明のおいて好適に使用される。尚、吟醸酒は、一般に精米度により分類されており、精米歩合が60%以下のものを吟醸酒とされ、更に、50%以下のものを吟醸酒の中でも大吟醸酒と呼称されており、本発明においても、かかる定義に準ずる。
【0022】
本発明において、耐圧性密閉容器の形状、材質等は後述するが、基本的には、日本酒との接触により変質せず、ヘッドスペースに存在させる水素の圧力に耐え得る強度を有する容器が好適に使用される。
【0023】
耐圧性密閉容器への日本酒の充填は、可及的に日本酒を撹拌しない充填が好ましい。例えば、大型の耐圧性密閉容器の場合は、容器下部に供給口を設けて水位を上げていく充填方法が好ましい。これにより、耐圧性密閉容器底部への落下による衝撃が防止できると共に、落下時に空気を巻き込むことによる危険をも確実に防止することができる。
【0024】
耐圧性密閉容器への日本酒の充填量は、後に水素を導入する際のヘッドスペースが確保できる範囲であれば、特に制限されるものではないが、ヘッドスペースの体積(VH)が上記耐圧性密閉容器の体積(V0)に対して5~40%、好ましくは、10~30%となるように行うことが好ましい。即ち、ヘッドスペースが少ない場合、水素を十分な量で存在させるために多大な圧力が必要となることがあり、また、ヘッドスペースを大きくし過ぎると、ガス置換時の安全性が低下するばかりでなく、生産効率が低下する虞がある。
【0025】
本発明において、日本酒を充填後、ヘッドスペースに水素を導入するが、水素の導入に先立ち、ヘッドスペースの空気を窒素等の不活性ガスによりガス置換するか、ヘッドスペースのガス、例えば空気を排出して真空にしておくことが安全性の面で好ましい。
【0026】
上記ヘッドスペースを真空にする態様は、窒素ガスによる置換に比べてヘッドスペースにおいて、日本酒との界面に確実に水素ガスを存在させることができ好ましい。即ち、ヘッドスペースに存在するガスを水素ガスの供給により置換する場合、置換が不十分で置換後に窒素ガスが少量残存すると、上記水素ガスの供給の仕方によっては、ガスの比重差により、水素ガスと窒素ガスが層を作り、窒素ガスが液面に滞留して日本酒と水素との接触が不十分となることが懸念されるが、ヘッドスペースを真空とした後、水素ガスを供給することによりした水素ガスを日本酒との界面にも確実に存在させることができる。
【0027】
尚、前記真空は、完全な真空を意味するものではなく、-0.1MPa・G以下、好ましくは、-0.2MPa・G以下に減圧すれば十分である。
【0028】
本発明において、前記ヘッドスペースへの水素の導入は、ヘッドスペースに0.1MPa・G以上、好ましくは、0.2MPa・G以上、1MPa・G未満の圧力で水素がガス状で存在するように行うことが必要である。水素による圧力を上記圧力以上とすることにより、静置状態で十分な水素を日本酒に含有させることができる。尚、上記圧力があまり大きい場合は、高度な耐圧構造を必要とし、製造装置が高価になる。また、ヘッドスペースが小さい場合は、水素が日本酒に溶解することにより、前記圧力が大幅に減少することもあるが、その場合は、水素をさらに導入して前記圧力を維持すれば足りる。
【0029】
上記のように、日本酒にバブリングを行うことなく、ヘッドスペースに直接水素を導入することにより、日本酒の味わいを変化させることなく、水素ガスと日本酒とを接触させて水素を日本酒に溶解することが可能となる。
【0030】
本発明において、水素ガスの導入後、1時間以上、好ましくは、2~24時間、特に、5~15時間、静置することが必要である。かかる静置により、水素が日本酒に十分な量で溶解する。
【0031】
上記静置において、耐圧性密閉容器内の日本酒の温度は、低温に維持することが、水素の溶解量を増加させると共に、日本酒の劣化を防止するために好ましく、0~25℃、好ましくは、0~15℃の温度で静置することが好ましい。
【0032】
本発明は、前記製造方法を好適に実施することが可能な製造装置をも提供する。即ち、本発明によれば、容器内の上部に開口したガス供給配管を、日本酒を供給するための液給口を備えた耐圧性密閉容器を含み、上記耐圧性密閉容器は、ヘッドスペースの圧力を検出する圧力計を備え、前記ガス供給配管は水素ボンベと接続し得るように構成されたことを特徴とする水素含有日本酒の製造装置が提供される。
【0033】
図1、2は、本発明の製造方法を実施するために好適な本発明の水素含有日本酒の製造装置の略図を示すものである。
【0034】
先ず、
図1に従って説明すれば、本発明の水素含有日本酒の製造装置は、容器内の上部に開口したガス供給配管4、必要により、ガス排出配管6を別途備え、日本酒を供給するための液供給配管5、必要により、容器内の下部に開口した液取出管11を別途備えた耐圧性密閉容器1を含み、上記耐圧性密閉容器1は、液面レベル計(図示せず)とヘッドスペースの圧力を検出する圧力計12を備え、上記ガス供給配管4は、水素ガスと窒素ガスとを、切り替え可能に、水素ボンベ7及び窒素(不活性ガス)ボンベ13に接続されて構成されている。
【0035】
上記装置において、耐圧性密閉容器1は、ヘッドスペースに印加される圧力に耐え得る材質、構造を有するものであれば、特に制限されない。材質としては、一般には、チタン、SUS等の金属が使用されるが、特にチタンが日本酒に与える影響が少ないため、好適に使用される。また、耐圧構造は、容器外周に補強材を設ける態様、容器の壁の厚みを調整する態様等、公知の構造が特に制限なく採用される。
【0036】
本発明において、耐圧性密閉容器1の形状は、断面形状が円状、楕円状であることが好ましい。また、容器内面の径(D)に対する高さ(L)の比(L/D)が1~6の範囲にある形状が、ヘッドスペースの確保と、液を取り出す際の制御が容易であり、特に好ましい。また、耐圧性密閉容器の容量は特に制限されず、製造設備の規模によって適宜決定すればよいが、日本酒の製造工場内での設置場所の確保のし易さの面から、3m3以下であることが好ましく、特に、5リットル~2m3とすることにより、日本酒の製造工場内で既存の日本酒の貯蔵タンクに移動して水素含有日本酒の製造を行うことができ好ましい。尚、上記耐圧性密閉容器1は、複数個を併設することも可能である。
【0037】
前記製造装置において、液面レベル計(図示せず)とヘッドスペースの圧力を検出する圧力計12は、前記条件下での使用に耐えることができる公知のものが特に制限なく使用される。
【0038】
また、水素ボンベ7及び窒素(不活性ガス)ボンベ13からの配管には、必要に応じて、それぞれ水素ガスレギュレーター9、窒素ガス(不活性ガス)レギュレーター14が設けられ、圧力を調整して耐圧性密閉容器1に供給されるように構成される。また、耐圧性密閉容器1に供給される水素ガスと窒素ガスとの切り替えは、接続配管に設けられた弁を手動で或いは自動で開閉して行われるように構成される。
【0039】
前記製造装置において、液供給配管5は、日本酒の貯蔵タンク(図示せず)と接続し、上記日本酒を耐圧密閉容器1に充填するものであれば、耐圧密閉容器1のいずれに開口していてもよいが、上記日本酒を耐圧密閉容器1の下部の開口より充填するように構成することが、耐圧密閉容器1に充填する際の日本酒の落下による衝撃を防止することができ好ましい。
【0040】
また、液取出管11耐圧性密閉容器内の下部に開口することにより、容器内の圧力を利用して、製造された水素含有日本酒の取り出しを効率よく行うことができる。
【0041】
前記製造装置において、耐圧性密閉容器1の胴部には、冷却ジャケット8を備え、充填された日本酒を所定の温度に冷却できるようにすることが好ましい。冷却方式は公知の方式が特に制限なく採用される。
【0042】
本発明の製造装置を使用した水素含有日本酒の製造は、前記製造条件を満足する範囲で適宜実施することができる。代表的な態様として以下の態様が挙げられる。
【0043】
容器下部に開口した液供給配管5のバルブを開いて、耐圧性密閉容器1に日本酒の貯蔵タンクより日本酒を供給し、液面レベル計により液面を管理しながら、所定のヘッドスペースとなるように日本酒を供給する。次いで、前記耐圧性密閉容器1の上部に開口したガス供給配管4より、ヘッドスペース3に窒素ボンベ13より窒素ガスレギュレーター14を介して窒素ガスを供給し、ガス排出配管6よりガスパージすることによりヘッドスペース3をガス置換した後、ガス供給配管4への接合を切り替えて、水素ボンベ7より水素ガスレギュレーター9を介して水素ガスを供給し、ガス排出配管6よりガスパージすることによりヘッドスペース3を水素ガスにより置換し、その後、圧力計12によりヘッドスペース3の圧力を確認しながら水素ガスを供給し、所定の圧力とする。その後、所定の時間静置して、容器下部に開口部を有する液取出管11より水素含有日本酒を取り出す。
【0044】
前記製造において、耐圧性密閉容器1内の窒素ガスによる置換は、日本酒の充填前に行ってもよく、また、水素ガスによる置換も日本酒の充填前に行ってもよい。また、水素ガスによる置換を日本酒の充填前に行う場合は、その後の日本酒の供給による充填量の増加によりヘッドスペースの圧力を所定の圧力にすることも可能である。充填後のヘッドスペースの圧力調整が必要な場合は、ガス供給配管4からの水素ガスの供給により加圧を、ガス排出配管6により減圧を行いかかる調整を行うことができる。
【0045】
また、前記製造において、得られた水素含有日本酒を取り出し後には、耐圧性密閉容器1内に存在する水素ガスをパージすることなく、液供給配管5より日本酒を所定のレベルまで供給(圧入)することにより、上記水素ガスを再度利用することができる。特に、ヘッドスペースの容量と水素の圧力を、得られる水素含有日本酒の全量が自圧で排出できるように設定することにより、製造ロット間における水素のパージ量をゼロとすることも可能であり、経済的に、且つ、安全に水素含有日本酒を製造することを可能とする
前記
図1に示す製造装置は、窒素ガスにより、ヘッドスペースを置換した後、水素置換する方法を実施する態様であり、これによって、目的とする水素含有日本酒を製造することは可能であるが、上記製造装置において、前記窒素ガスの供給設備に代えて、真空ポンプを取り付け、耐圧性密閉容器のヘッドスペースを真空にした後、水素を供給するように構成する態様も好適に採用することができる。
【0046】
図2は、本発明の製造装置の代表的な他の態様を示す概略図である。
図2の製造装置は、容器内の上部に開口し、ガスの供給、排出を行うガス給排管Aを、日本酒を供給、排出を行う液給排口Bを備えた耐圧性密閉容器1を含み、上記耐圧性密閉容器1は、ヘッドスペース3の圧力を検出する圧力計12を備え、上記ガス給排管Aが水素ボンベに接続可能に構成された構造を有する。上記ガス給排管Aは、上記耐圧性密閉容器の開口部に脱着可能に取り付けることができるアタッチメントに固定されている。また、ガス給排管Aは、容器の外部に延在し、開閉弁を介して、真空ポンプ16、水素ボンベ13と接続されるように構成されている。また、水素ボンベ13からの圧力を調整するためのレギュレーター14が必要に応じて設けられる。また、圧力計12は、アタッチメントに取り付けてもよいが、図に示すように、ガス給排管Aの延在部分に取り付けることもできる。
【0047】
上記製造装置において、耐圧性密閉容器1への日本酒の供給及び排出は、アタッチメント17を外して、液給排口Bより行うことができる。かくして、日本酒を耐圧性密閉容器1に所定量供給後、アタッチメント17を装着し、次いで、弁b、cを閉じ、弁a、dを開として、真空ポンプ16を作動させて耐圧性密閉容器1のヘッドスペース3を真空引きする。その後、弁dを閉じ、弁bを開として水素ボンベ13より、ヘッドスペース3が所定の圧となるように水素ガスを供給されたことを圧力計で確認後、弁a、bを閉じる。水素ガスを供給後の静置は、この状態で行ってもよいが、水素ボンベ13に繋がるラインと、真空ポンプ16に繋がるラインから、アタッチメント17を取り付けた状態の耐圧性密閉容器1を切り離して、取り扱うことも可能である。このように切り離すことにより、1セットの真空ポンプと水素ボンベに対して、複数の耐圧性密閉容器1を使用して、水素含有日本酒の製造を行うことも可能となる。また、切り離した耐圧性密閉容器1を冷蔵設備に移動して静置することで、前記冷却ジャケットに代えることも可能である。
【0048】
上記
図2に示す製造装置は、小容量、具体的には、30リットル以下の耐圧性密閉容器を使用する場合に好適である。
【実施例0049】
実施例1
前記
図1に示す製造装置を使用して本発明の製造方法を実施した。先ず、直径Dが50cm、(L/D)が3のチタン製の耐圧性密閉容器1を使用し、液供給配管5のバルブを開いて、日本酒の貯蔵タンクより日本酒(精米歩合が50%の吟醸酒)を耐圧性密閉容器1の下部開口より充填した。日本酒の供給と共に液面が静かに上昇し、液面レベル計により、ヘッドスペースが25%となる位置で日本酒の供給を止めた。
【0050】
前記耐圧性密閉容器1の上部に開口したガス供給配管4より、ヘッドスペース3に窒素ボンベ13より窒素ガスレギュレーター14を介して窒素ガスを供給してヘッドスペース3をガス置換した。次いで、ガス供給配管4への接合を切り替えて、水素ボンベ7より水素ガスレギュレーター9を介して水素ガスを供給してヘッドスペース3をガス置換した後、圧力計12で測定を行いながら、ヘッドスペース3の圧力を0.3MPa・Gに調整した。
【0051】
前記耐圧性密閉容器1の胴部を冷却ジャケットで冷却して、5℃に維持した状態で12時間静置した。
【0052】
その後、耐圧性密閉容器1の下部に開口した液取出管11より日本酒を取り出し、市販の簡易水素濃度系で水素濃度を測定した結果、0.33ppmであった。また、水素を溶解する前後において、香りについては、ガスクロマトグラフにより、味については、味覚センサにより分析を行ったところ、香りについての変化率は3%であり、味については、主な検査項目において大きな差はみられなかった。
【0053】
また、前記日本酒の取り出しにおいて、耐圧性密閉容器1内の内圧によりほぼ全量排出させることができた。その後、耐圧性密閉容器1内に水素ガスを残したまま、前記と同様の条件となるよう、液供給配管5より日本酒を供給すると共に、ガス供給配管4より水素ガスを供給(消費された分の補充量程度)してヘッドスペースの圧力を調整し、同様な条件で静置し、水素含有日本酒を製造した。
【0054】
また、前記実施例で得られた水素含有日本酒を6か月間、冷蔵保存後に水素濃度を測定した結果、0.24ppmの水素が確認された。
【0055】
尚、同じ日本酒を本実施例で使用した容器とは別容器にて、水素を5時間バブリングして得られた日本酒の水素濃度は前記本発明で得られた日本酒とほぼ同等であったが、前記分析において、香り成分については、バブリングの仕方により差はあるが、前記結果を大きく超える低下がみられた。
【0056】
実施例2
前記
図2に示す製造装置を使用して水素含有日本酒の製造を行った。
【0057】
アタッチメント17を外し、実施例1と同じ日本酒を10リットルの容量を有するチタン製の耐圧性密閉容器1にヘッドスペース3が30%となるように供給後、アタッチメント17を装着し、次いで、弁b、cを閉じ、弁a、dを開として、真空ポンプ16を作動させて耐圧性密閉容器1のヘッドスペース3を-0.1MPa・Gとなるように真空引きした後、弁dを閉じ、弁bを開として水素ボンベ13より、ヘッドスペース3が0.2MPa・Gとなるように、圧力計で確認しながら水素ガスを供給した。次いで、弁a、bを閉じ、水素ボンベ13に繋がるラインと、真空ポンプ16に繋がるラインから、アタッチメント17を取り付けた状態の耐圧性密閉容器1を切り離して、5℃に調整された冷蔵庫に入れ、5時間静置した。
【0058】
その後、耐圧性密閉容器1のアタッチメントを外して液給排口Bより日本酒を取り出し、市販の簡易水素濃度系で水素濃度を測定した結果、0.28ppmであった。また、前記水素を溶解する前後において、香りについては、ガスクロマトグラフにより、味については、味覚センサにより分析を行ったところ、実施例1と同様、香りについての変化率は4%であり、味については、主な検査項目において大きな差はみられなかった。