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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049994
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/364 20140101AFI20220323BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
B23K26/364
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156333
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】相川 力
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AD02
4E168AD18
4E168CA06
4E168CB03
4E168CB07
4E168CB23
4E168DA24
4E168DA43
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
4E168JA14
5F063AA07
5F063AA15
5F063CA01
5F063CA06
5F063DD26
5F063DF06
5F063DF19
5F063DF24
5F063EE21
(57)【要約】
【課題】 レーザアブレーション加工に起因する保護膜の剥離を防止することが可能なレーザ加工方法及び装置を提供する。
【解決手段】 レーザ加工方法は、ワーク(W)の表面に電子線(β)を照射して、ワークの表面にラジカル基を生成させる前処理工程と、ラジカル基が生成されたワークの表面に保護膜(PL)を塗布する保護膜塗布工程と、保護膜が塗布されたワークの表面の分割予定ライン(CL)に沿ってレーザ光(LB)を照射してレーザ加工溝(LG)を形成するレーザ加工工程とを含む。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面に電子線を照射して、前記ワークの表面にラジカル基を生成させる前処理工程と、
前記ラジカル基が生成された前記ワークの表面に保護膜を塗布する保護膜塗布工程と、
前記保護膜が塗布された前記ワークの表面の分割予定ラインに沿ってレーザ光を照射してレーザ加工溝を形成するレーザ加工工程と、
を含むレーザ加工方法。
【請求項2】
前記前処理工程では、前記電子線の加速電圧を50kV以下、又は前記電子線の照射時間を10秒以下とする、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記前処理工程では、前記電子線の照射範囲を前記分割予定ライン及びその近傍の領域に限定する、請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記保護膜の材料に対して可溶性を有する液体を前記ワークの表面に噴射して、前記ワークの表面を洗浄する洗浄工程を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
ワークの表面に電子線を照射して、前記ワークの表面にラジカル基を生成させる電子線照射部と、
前記ラジカル基が生成された前記ワークの表面に保護膜を塗布する保護膜塗布機構と、
前記保護膜が塗布された前記ワークの表面の分割予定ラインに沿ってレーザ光を照射してレーザ加工溝を形成するレーザ加工部と、
を備えるレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工方法及び装置に係り、半導体装置又は電子部品等が形成されたウェーハ等のワークを分割するためのレーザ加工方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの製造プロセスでは、半導体デバイス又は電子部品が形成されたウェーハを分割予定ラインに沿って切断することにより、ウェーハを個々のデバイスのチップに分割する。
【0003】
ウェーハを分割する方法としては、ウェーハの分割予定ラインに沿ってレーザ光を照射して、レーザアブレーション加工によりウェーハの表面に溝を形成していき、ウェーハを切断する方法がある。レーザアブレーション加工による方法では、レーザ光が照射された領域に熱エネルギーが集中して、ナノミリメートルからマイクロメートルオーダのデブリ(加工屑)が発生し、このデブリによってチップが汚染される場合がある。また、このデブリがデバイスの回路に接続されるボンディングパッド等に付着すると、チップの品質が低下するという問題がある。
【0004】
このようなレーザアブレーション加工によって発生するデブリの影響を低減するため、ウェーハの表面に保護膜を塗布し、保護膜を通してウェーハの表面にレーザ加工を施すレーザ加工方法が提案されている。例えば、特許文献1には、スピンコータによってウェーハの表面に樹脂(水溶性のレジスト)を被覆して保護膜を形成し、レーザ加工を行った後、この保護膜を水で洗い流して除去する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法によれば、この保護膜により、レーザアブレーション加工によって発生したデブリからチップの表面が保護される。そして、レーザアブレーション加工によって発生したデブリが保護膜とともに除去される。したがって、特許文献1に記載の方法によれば、保護膜の形成及び除去により、レーザアブレーション加工によって発生するデブリの影響を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-188475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようなレーザ加工方法では、レーザアブレーション加工時に保護膜を透過したレーザ光によってウェーハが溶解又は蒸発して衝撃波が発生する。このため、保護膜には、この衝撃波により発生した強い圧力がかかることになる。そして、この圧力により保護膜が破裂して、レーザ光が照射される加工点の近傍で、ウェーハの表面から保護膜が剥離する場合がある。
【0007】
特に、ウェーハの表面のデバイスの構造の複雑化に伴い、デバイスの表面の凹凸が大きくなっている場合には、保護膜とデバイスとの間に気泡が残留しやすい。レーザアブレーション加工に起因する圧力が保護膜とデバイスの間の気泡の近傍で発生すると、気泡が起点となって保護膜が剥離しやすくなる。
【0008】
レーザアブレーション加工時に保護膜が剥離すると、レーザアブレーション加工によって発生したデブリによってチップの品質が低下するという問題がある。また、レーザ光が散乱したり、レーザアブレーション加工によって発生したプルームが保護膜とデバイスとの間に侵入して堆積したりすることにより、チップ及びデバイスにダメージが生じる。このダメージによりチップの見た目が悪化し、チップの品質が低下するという問題がある。
【0009】
図8は、ウェーハWの分割予定ラインCLに沿ってレーザアブレーション加工を行い、個別のデバイスDごとのチップを製造する場合を示している。この例では、図9に拡大して示すように、分割予定ラインC沿いの加工点近傍の領域A1で保護膜が剥離している。さらに、レーザ光の散乱によりデバイスに焼けA2が生じている。
【0010】
さらに、レーザアブレーション加工によって発生したデブリがカーフエッジに付着すると、ダイシング後のチップの強度が低下するという問題がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、レーザアブレーション加工に起因する保護膜の剥離を防止することが可能なレーザ加工方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るレーザ加工方法は、ワークの表面に電子線を照射して、ワークの表面にラジカル基を生成させる前処理工程と、ラジカル基が生成されたワークの表面に保護膜を塗布する保護膜塗布工程と、保護膜が塗布されたワークの表面の分割予定ラインに沿ってレーザ光を照射してレーザ加工溝を形成するレーザ加工工程とを含む。
【0013】
本発明の第2の態様に係るレーザ加工方法は、第1の態様に係る前処理工程において、電子線の加速電圧を50kV以下、又は電子線の照射時間を10秒以下とする。
【0014】
本発明の第3の態様に係るレーザ加工方法は、第1又は第2の態様に係る前処理工程において、電子線の照射範囲を分割予定ライン及びその近傍の領域に限定する。
【0015】
本発明の第4の態様に係るレーザ加工方法は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、保護膜の材料に対して可溶性を有する液体をワークの表面に噴射して、ワークの表面を洗浄する洗浄工程を含む。
【0016】
本発明の第5の態様に係るレーザ加工装置は、ワークの表面に電子線を照射して、ワークの表面にラジカル基を生成させる電子線照射部と、ラジカル基が生成されたワークの表面に保護膜を塗布する保護膜塗布機構と、保護膜が塗布されたワークの表面の分割予定ラインに沿ってレーザ光を照射してレーザ加工溝を形成するレーザ加工部とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、保護膜を塗布する前に、電子線を照射してウェーハの表面にラジカル基を生成することにより、ウェーハの表面に対する保護膜の密着性を高めることができる。これにより、レーザアブレーション加工に起因する保護膜の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置を示すブロック図である。
図2図2は、保護膜の塗布のための前処理工程を示す斜視図である。
図3図3は、保護膜塗布工程を示す斜視図である。
図4図4は、保護膜塗布工程を示す斜視図である。
図5図5は、レーザ加工工程を示す斜視図である。
図6図6は、洗浄工程を示す斜視図である。
図7図7は、図6の一部領域VIIを拡大して示す平面図である。
図8図8は、レーザアブレーション加工を行ったウェーハを示す斜視図である。
図9図9は、図8の一部領域IXを拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明に係るレーザ加工方法及び装置の実施の形態について説明する。
【0020】
[レーザ加工装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置を示すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るレーザ加工装置10は、制御部12、レーザ加工ユニット100、保護膜塗布・洗浄ユニット200及び搬送ユニット300を含んでいる。
【0022】
レーザ加工ユニット100は、テーブルT1に吸着保持されたウェーハWに対してレーザ加工(レーザアブレーション加工)を行うための装置である。
【0023】
保護膜塗布・洗浄ユニット200は、テーブルT2に吸着保持されたウェーハWへの保護膜PL(図4参照)の塗布及びウェーハWの洗浄を行うための装置である。本実施形態では、保護膜塗布・洗浄ユニット200は、ウェーハWに保護膜PLを塗布する前に、ウェーハWに対する保護膜PLの吸着性を向上させるために後述の前処理を行う。これにより、レーザアブレーション加工に起因する保護膜PLの剥離を防止する。
【0024】
搬送ユニット300は、レーザ加工ユニット100のテーブルT1と、保護膜塗布・洗浄ユニット200のテーブルT2との間で、ウェーハWを搬送する装置である。搬送ユニット300は、例えば、ウェーハWを吸着して保持するためのアーム、アームを搬送方向(XY方向)に移動するための移動機構(例えば、ボールねじ機構及びモータ等)を含んでいる。搬送ユニット300は、デバイスが形成された表面の反対側の面にダイシングテープが貼着されてフレーム(不図示)に取り付けられた状態のウェーハWを格納するためのカセットを含んでいてもよい。
【0025】
制御部12は、レーザ加工装置10の各部を統括制御する装置である。制御部12は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ストレージデバイス(例えば、ハードディスク等)、ユーザからの操作入力を受け付けるための操作部材、レーザ加工装置10の操作のためのGUI(Graphical User Interface)等を表示するディスプレイ等を含んでいる。制御部12では、ROMに記憶されている制御プログラム等の各種プログラムがRAMに展開され、RAMに展開されたプログラムがCPUによって実行されることにより、レーザ加工装置10の各部の機能の制御が実現される。制御部12は、例えば、パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ等の汎用のコンピュータによって実現可能である。
【0026】
なお、本実施形態では、レーザ加工ユニット100、保護膜塗布・洗浄ユニット200及び搬送ユニット300は共通の制御部12によって制御されるようにしたが、ユニットごとに別の制御部を設けてもよい。
【0027】
(レーザ加工ユニット)
図1に示すように、レーザ加工ユニット100は、レーザ加工部102、撮像部104及びテーブル駆動部106を含んでいる。
【0028】
レーザ加工部102は、レーザ光をパルス発振するレーザ発振器と、レーザ発振器から出力されたレーザ光をウェーハWの表面等に集光させるためのレーザ光学系を含んでいる。レーザ発振器としては、例えば、半導体レーザ励起Nd:YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、又はNd:YVOレーザ等を用いることができる。レーザ発振器は、ウェーハW(例えば、シリコンウェーハ)に対して吸収性を有する波長のレーザ光を出力可能となっている。レーザ光学系は、ウェーハWの表面の加工点におけるレーザ光のスポット径を調整可能となっている。
【0029】
撮像部104は、ウェーハWの表面の画像を撮像する装置であり、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ又はIR(Infrared:赤外線)カメラを含んでいる。撮像部104は、例えば、レーザ加工部102の加工ヘッド102A(図5参照)の近傍に設けられており、ウェーハWの表面の画像を撮像する。なお、撮像部104は、レーザ加工部102の光学系の一部を兼用する構成としてもよい。
【0030】
テーブル駆動部106は、テーブルT1を加工送り方向(XY方向)及び回転方向(θ方向)に移動させる装置である。テーブル駆動部106は、テーブルT1をXY方向に移動させるためのボールねじ機構及びモータと、テーブルT1をθ方向に回転させるための機構(モータ等)を含んでいる。
【0031】
制御部12は、撮像部104により撮像されたウェーハWの表面の画像に対してパターンマッチング等の画像処理を行って分割予定ラインCL(図2等参照)の位置を検出する。そして、制御部12は、分割予定ラインCLの検出位置に応じて、レーザ加工部102の加工ヘッド102Aに対するウェーハWの位置を調整してレーザ光LBの位置を調整するアライメントを行う。
【0032】
なお、本実施形態では、テーブルT1をXYθ方向に移動可能としたが、加工ヘッド102AをXYθ方向に移動可能としてもよいし、両者を移動可能としてもよい。
【0033】
(保護膜塗布・洗浄ユニット)
図1に示すように、保護膜塗布・洗浄ユニット200は、電子線照射部202、保護膜塗布機構204、洗浄機構206及びテーブル駆動部208を含んでいる。
【0034】
電子線照射部202は、ウェーハWの表面に保護膜PLを塗布する前に、電子線β(図2参照)を照射する装置であり、例えば、直流高電圧を発生するための電源装置、及び電子を発生し、加速するための加速装置等を含んでいる。電子線照射部202は、保護膜PLの塗布の前処理を行う。
【0035】
保護膜塗布機構204は、ウェーハWの表面に保護膜PLの材料(液状の樹脂。例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、プラスチック等)を滴下するための吐出口204A(図3参照)、保護膜PLの材料の樹脂を溶融するための加熱機構(ヒータ等)、及び溶融した液状の樹脂を一時貯留するためのタンク(不図示)等を含んでいる。
【0036】
なお、保護膜塗布機構204の構成は、保護膜PLの材料によって異なっていてもよい。例えば、保護膜PLの材料として環境温度(常温15℃~25℃)で液体の材料を用いる場合には、材料を溶融するための加熱機構及びタンクは不要である。この場合、保護膜PLを乾燥させるための乾燥機構(ヒータ等)を設けてもよい。
【0037】
テーブル駆動部208は、ウェーハWが吸着保持されたテーブルT2をθ方向に回転するための機構(モータ等)を含んでいる。
【0038】
洗浄機構206は、ウェーハWの洗浄を行うための装置であり、例えば、ウェーハWの表面に洗浄液(例えば、水、又は保護膜PLに対して可溶性を有する液体)を噴射するためのノズル206A、及び洗浄液を供給するための機構(例えば、タンク又は配管等)を含んでいる。洗浄機構206は、エア(例えば、圧縮空気)を噴射する機構を備えていてもよい。
【0039】
電子線照射部202により電子線βが照射されると、ウェーハWの表面における結晶構造(分子構造)の一部が破壊されてラジカル基が生成される。ここで、ラジカル基とは、ウェーハWの表面を構成する結晶構造の一部が破壊されることにより生成される原子、分子又はイオンであり、不対電子をもち、反応性が高いという性質を有する。このラジカル基により、ウェーハWの表面の保護膜PLの材料に対する濡れ性が改善し、ウェーハWの表面と保護膜PLとの密着性が向上する。
【0040】
次に、スピンコーティングにより保護膜PLの塗布を行う。テーブル駆動部208によりテーブルT2をθ方向に回転させながら、吐出口204AからウェーハWの中心付近に液状の樹脂を滴下する。すると、遠心力により液状の樹脂がウェーハWの表面の外周方向に移動し、ウェーハWの表面に略均一な厚さで液状の樹脂が濡れ広がる。そして、液状の樹脂の温度が環境温度(常温)に下がると、樹脂が固化して保護膜PLが形成される。
【0041】
本実施形態では、保護膜PLを塗布する前に、ウェーハWの表面にあらかじめラジカル基を生成しておくことにより、ウェーハWの表面に対する保護膜PLの密着性を高める。これにより、保護膜PLの剥離を防止することが可能となる。
【0042】
なお、本実施形態では、スピンコーティングにより保護膜PLを塗布したが、本発明はこれに限定されない。例えば、スプレーコーティングにより保護膜PLを塗布してもよい。
【0043】
また、本実施形態では、保護膜塗布・洗浄ユニット200において前処理を行うようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、レーザ加工ユニット100に電子線照射部202を設けてもよい。
【0044】
[レーザ加工の手順]
以下、本実施形態に係るレーザ加工の手順について、図2から図7を参照して説明する。
【0045】
まず、保護膜塗布工程について説明する。図2は、保護膜の塗布のための前処理工程を示す斜視図である。図3及び図4は、保護膜塗布工程を示す斜視図である。
【0046】
図2に示すように、ウェーハWの表面は、分割予定ラインCLによって格子状に区画されており、各区画の中には、複数のデバイスDが形成されている。ウェーハWは、搬送ユニット300によって搬送され、保護膜塗布・洗浄ユニット200のテーブルT2に載置される。ウェーハWは、デバイスが形成された表面を上側(+Z側)にしてテーブルT2に載置された後、裏面側を不図示の吸引源(真空発生器。例えば、エジェクタ、ポンプ等)により吸引することによりテーブルT2の表面に吸着保持される。
【0047】
図2に示すように、前処理工程では、電子線照射部202によりウェーハWの表面に電子線βが照射され、ウェーハWの表面にラジカル基が生成される。ここで、電子線βは、デバイスのパターンへの影響を抑制するため、出力を低く設定すること(一例で加速電圧50kV~30kV以下、照射時間10秒以下)が好ましい。また、電子線βを収束させる機構を設けて、電子線βの照射範囲を分割予定ラインCL及びその近傍の領域に限定してもよい。
【0048】
保護膜塗布工程では、スピンコーティングにより保護膜PLの塗布を行う。すなわち、図3に示すように、テーブル駆動部208によりテーブルT2をθ方向に回転させながら、吐出口204AからウェーハWの中心付近に液状の樹脂Rを滴下する。そして、樹脂Rの温度が低下して固化することにより、図4に示すように、ウェーハWの表面に保護膜PLが形成される。
【0049】
次に、レーザ加工工程について説明する。レーザ加工を行う場合には、搬送ユニット300によって、保護膜塗布・洗浄ユニット200のテーブルT2からウェーハWをピックアップされて搬送され、レーザ加工ユニット100のテーブルT1に載置される。ウェーハWは、デバイスが形成された表面を上側(+Z側)にしてテーブルT1に載置された後、裏面側を不図示の吸引源(真空発生器。例えば、エジェクタ、ポンプ等)により吸引することによりテーブルT1の表面に吸着保持される。
【0050】
図5に示すように、レーザ加工工程では、分割予定ラインCLがX方向に平行になるようにテーブルT1の姿勢を調整する。そして、ウェーハWの表面の分割予定ラインCLにレーザ光LBを集光させて、テーブルT1をX方向に移動させる。これを繰り返すことにより、X方向に沿う分割予定ラインCLに沿ってレーザアブレーション加工が施される。これにより、ウェーハWの表面に分割予定ラインCLに沿ってレーザ加工溝が形成される。ここで、レーザ加工溝の深さは、デバイスDの層を切断可能な深さであればよい。
【0051】
次に、テーブル駆動部106によりテーブルT1をθ方向に90°回転させて、レーザアブレーション加工を繰り返す。これにより、すべての分割予定ラインCLに沿ってレーザ加工溝LG(図7参照)が形成される。ウェーハWは、後のダイシング工程により、このレーザ加工溝LGを起点として、個々のデバイスのチップに分割される。
【0052】
次に、洗浄工程について説明する。図6は、洗浄工程を示す斜視図であり、図7は、図6の一部領域VIIを拡大して示す平面図である。
【0053】
図6に示すように、洗浄工程では、洗浄機構206のノズル206Aから洗浄液を噴射することにより、レーザアブレーション加工により発生したデブリ及び保護膜PL等を洗い流す(図7参照)。洗浄工程では、保護膜PLの材料に対して可溶性を有する洗浄液を噴射して保護膜PLを除去するようにしてもよい。保護膜PLがPVCの場合には、例えば、洗浄液として、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、エチルメチルケトン、ジオキサン等を用いることができる。洗浄工程では、保護膜PLの塗布工程と同様に、テーブルT2を回転させることにより、洗浄液がウェーハWの表面にまんべんなく濡れ広がるようにしてもよい。
【0054】
なお、本実施形態では、レーザ加工溝LGを起点として後の工程でチップを分割するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、レーザ加工溝を貫通溝として、洗浄工程の後に、ダイシングテープからチップをピックアップすることにより、デバイスのチップの製造が終了するようにしてもよい。
【0055】
本実施形態によれば、保護膜PLを塗布する前に、前処理として、電子線βを照射してウェーハWの表面にラジカル基を生成することにより、ウェーハWの表面に対する保護膜PLの密着性を高めることができる。これにより、レーザアブレーション加工に起因する保護膜の剥離を防止することができる。
【0056】
また、本実施形態では、前処理により、デバイスDの表面の凹凸部の濡れ性が改善するので、保護膜塗布工程において、保護膜PLとデバイスDとの間に気泡が生じにくくなる。また、気泡が生じたとしても気泡のサイズが比較的小さくなる。これにより、保護膜PLがデバイスDの表面の凹凸構造に追従して密着するので、剥離の起点となる気泡の数を減少させることができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、保護膜PLの密着性を高めて剥離を防止することができるので、保護膜PLとなる材料の塗布量を減らすことができる。これにより、保護膜の固化又は乾燥に要する時間を短縮することができる。さらに、洗浄工程に要する時間を短縮することができる。したがって、本実施形態によれば、レーザ加工のスループットが改善する。
【0058】
また、濡れ性が改善すると、保護膜PLの材料が濡れ広がりやすくなるので、低速回転でのスピンコートが可能となる。高速回転ではウェーハWの表面において濡れ性の悪い領域上の塗膜が飛散し、その後、ウェーハWの外周部に再付着することにより、保護膜の形成不良が生じることがあるが、低速回転とすることにより、そのような保護膜の形成不良を防止することができる。
【0059】
なお、本実施形態では、ウェーハWとしてシリコン単結晶からなるシリコンウェーハを用いた場合について説明したが、ウェーハWの種類はこれに限定されない。例えば、ガラス、サファイア又はシリコンカーバイド(SiC)等を含むウェーハに対しても、本実施形態に係る前処理工程を実施することにより、ウェーハに対する保護膜の密着性を高めることができる。また、本発明は、ウェーハWに限らず、レーザアブレーション加工によりワークを切断又は分割する場合に適用可能である。
【0060】
また、保護膜PLの材料は、PVCに限定されない。例えば、レーザ光LBを透過可能な樹脂であって、特定の溶液(例えば、有機溶剤又はアルカリ溶液)に可溶な樹脂もしくは水溶性の樹脂を用いてもよい。洗浄工程で用いる洗浄液の種類は、保護膜PLの材料を可溶なものを選択すればよい。
【符号の説明】
【0061】
10…レーザ加工装置、12…制御部、100…レーザ加工ユニット、102…レーザ加工部、102A…加工ヘッド、104…撮像部、106…テーブル駆動部、200…保護膜塗布・洗浄ユニット、202…電子線照射部、204…保護膜塗布機構、204A…吐出口、206…洗浄機構、206A…ノズル、208…テーブル駆動部、300…搬送ユニット、T1、T2…テーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9