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特開2022-50138パン類用中種の製造方法、パン類用生地、及びパン類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050138
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】パン類用中種の製造方法、パン類用生地、及びパン類
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20220323BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220323BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156566
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 修一
(72)【発明者】
【氏名】石本 伸
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DP16
(57)【要約】
【課題】ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ常温保存下における老化耐性を有するのはもちろんのこと、冷蔵条件下で保存される場合でも高い老化耐性を有するパン類を安定して製造するための中種の製造方法、それを用いるパン類用生地及びパン類の製造方法を提供する。
【解決手段】パン類を製造するための中種を製造する方法であって、小麦粉、生イースト又はインスタントドライイースト、並びに水分を含有する液体材料を含む材料を混捏し、中種生地を調製する混捏工程、及び前記中種生地を発酵させ、中種を調製する発酵工程を含み、前記水分の添加量が、小麦粉100質量部に対して45~54質量部であり、前記生イーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.2~4.3質量部であり、前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.07~1.5質量部であり、前記発酵工程前の中種生地の体積Aに対する発酵工程後の中種の体積Bの膨倍率(100×体積B/体積A)が、120~300%であることを特徴とする中種の製造方法、それを用いるパン類用生地及びパン類の製造方法、並びにパン類用生地及びパン類。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン類を製造するための中種を製造する方法であって、
小麦粉、生イースト又はインスタントドライイースト、並びに水分を含有する液体材料を含む材料を混捏し、中種生地を調製する混捏工程、及び
前記中種生地を発酵させ、中種を調製する発酵工程を含み、
前記水分の添加量が、小麦粉100質量部に対して45~54質量部であり、
前記生イーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.2~4.3質量部であり、
前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.07~1.5質量部であり、
前記発酵工程前の中種生地の体積Aに対する発酵工程後の中種の体積Bの膨倍率(100×体積B/体積A)が、120~300%であることを特徴とする中種の製造方法。
【請求項2】
前記生イーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.2質量部以上2.0質量部未満であり、
前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.07質量部以上0.7質量部未満である請求項1に記載の中種の製造方法。
【請求項3】
前記混捏工程の混捏時間が4分以下である請求項1又は2に記載の中種の製造方法。
【請求項4】
前記パン類が冷蔵条件下で保存されるパン類である請求項1~3のいずれか1項に記載の中種の製造方法。
【請求項5】
パン類用生地の製造方法であって、
前記パン類用生地に用いる小麦粉全体の内、50質量%以上の小麦粉を用いて、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法によって中種を作製する工程、及び
得られた中種全量を含む材料を混捏する本捏工程を含むパン類用生地の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法によって得られたパン類用生地。
【請求項7】
請求項5に記載の製造方法によって得られたパン類用生地を用いるパン類の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法によって得られたパン類。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中種法によるパン類を製造する方法に関し、特にもっちりした弾力のある食感を有し、且つ老化耐性が高いパン類を製造することが可能なパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類の製造方法は、ストレート法(直捏法)と中種法がよく知られている。ストレート法は、通常、全材料を混捏し、一次発酵後、分割・丸め・成形を行い、二次発酵後、焼成する方法である。ストレート法で得られたパン類は、もっちりとした弾力のある食感が特徴的であるが、老化耐性が低く、経時的に硬い食感になり易い。一方、中種法は、通常、小麦粉を含む材料の一部を混捏し中種生地を作成し、これを発酵して中種を調製した後、残りの材料を加え、本捏を行い、一次発酵後、分割・丸め・成形を行い、二次発酵後、焼成する方法である。中種法で得られたパン類は、ふんわりとしてやわらかい食感になり、老化耐性が高い傾向がある。また、通常、ストレート法は、生地の安定性が低く、職人的な製造条件の管理が必要になるため、主にリテールベーカリーにおいて実施され、中種法は、生地の安定性が高いため、大規模な製パン工場の製パンラインにおいて多く採用されている。
【0003】
近年、ストレート法で得られる、もっちりとした弾力のある食感を有するパン類が市場で高い評価を得ている。しかしながら、ストレート法は、上述の通り、生地の安定性が低く、得られるパン類の老化耐性が低いことに加え、既存の大規模な製パンラインが中種法を前提に設計されていることが多いことから、大規模な製パン工場に採用することは困難であった。したがって、ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ中種法で得られるような老化耐性が高いパン類を安定して製造できる製パン方法が求められている。
【0004】
従来から、種々の製パン技術が開発されている。例えば、特許文献1では、直捏法(ストレート法)による製品の特徴と中種法による製品の特徴とを併せ持つパン類、即ち小麦粉由来の独特の香・風味が強く、引きが弱く歯切れの良い軽い食感等を極力維持しながら、生地が機械耐性及び機械製造上の安定性をも極力有するパン類の製造方法を提供することを目的とし、全小麦粉量のうち20質量%~50質量%の小麦粉、全イースト量のうち一部の0.5質量%~1.5質量%のイースト及び水を混捏して前種を作成する前種作成工程と、該前種を醗酵させる前種醗酵工程と、該醗酵後の前種と、少なくとも残量の小麦粉、残量のイースト及び水とを混捏してパン類生地を作成するパン類生地作成工程とを備えたことを特徴とするパン類の製造方法が開示されている。また、特許文献2では、香りと味が良好で、且つ食感(もちもち感、ふわふわ感、くちどけ感、サクサク感、しっとり感、喉ごし感)のバランスに優れた食パンの製造方法を提供することを目的とし、食パンの製造方法であって、小麦粉、イースト、脱脂粉乳及び水を含む原料をミキシングして中種生地を調製する第一工程、当該中種生地を20℃以下の発酵室で8~24時間発酵させる第二工程、砂糖、食塩、油脂及び水を含む本捏生地原料を中種生地に添加し、本捏することによりパン生地を調製する第三工程、当該パン生地を発酵させた後、パン生地をシート状に成形する第四工程、及び当該シート状生地を分割後、パンニング及び最終発酵を経て焼成する第五工程、を有することを特徴とする食パンの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-144041号公報
【特許文献2】特開2002-186409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ストレート法と中種法の長所を併せ持ったパン類を安定して製造するための技術については、さらなる改良が求められており、特にサンドウィッチ用等の冷蔵条件下で保存される場合でも老化し難いパン類を製造できる技術が望まれている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ常温保存下における老化耐性を有するのはもちろんのこと、冷蔵条件下で保存される場合でも高い老化耐性を有するパン類を安定して製造するための中種の製造方法、それを用いるパン類用生地、及びパン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、中種を調製する条件を種々検討することで、中種法の長所を残しながら、もっちりとした弾力のある食感を有するパン類を製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、上記目的は、パン類を製造するための中種を製造する方法であって、小麦粉、生イースト又はインスタントドライイースト、並びに水分を含有する液体材料を含む材料を混捏し、中種生地を調製する混捏工程、及び前記中種生地を発酵させ、中種を調製する発酵工程を含み、前記水分の添加量が、小麦粉100質量部に対して45~54質量部であり、前記生イーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.2~4.3質量部であり、前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.07~1.5質量部であり、前記発酵工程前の中種生地の体積Aに対する発酵工程後の中種の体積Bの膨倍率(100×体積B/体積A)(以下、「中種の膨倍率」と称する)が、120~300%であることを特徴とする中種の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ常温保存下における老化耐性を有するのはもちろんのこと、冷蔵条件下で保存される場合でも高い老化耐性を有するパン類を安定して製造するための中種、それを用いるパン類用生地、及びパン類を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[中種の製造方法]
本発明の中種の製造方法は、パン類を製造するための中種を製造する方法であって、小麦粉、生イースト又はインスタントドライイースト、並びに水分を含有する液体材料を含む材料を混捏し、中種生地を調製する混捏工程、及び前記中種生地を発酵させ、中種を調製する発酵工程を含み、 前記水分の添加量(すなわち、加水量)が、小麦粉100質量部に対して45~54質量部であり、前記生イーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.2~4.3質量部であり、前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.07~1.5質量部であり、中種の膨倍率が、120~300%であることを特徴とする。通常の中種法では、中種を調製する場合、加水量は、小麦粉100質量部に対して55~60質量部であり、生イーストを配合する場合の添加量は、小麦粉100質量部に対して2~3質量部(インスタントドライイーストを配合する場合の添加量は、小麦粉100質量部に対して0.7~1.0質量部)であり、中種の膨倍率は、300~400%である。このような通常の条件では、中種の発酵中にグルテンが大きく引き伸ばされ、グルテンネットワークが十分に形成され、気泡膜が薄く、気泡数が多いふんわりして軟らかい食感のパン類が製造される。本発明においては、加水量を上記の範囲のように通常より少なくすること等によって、発酵工程後の中種の膨倍率を小さくすることで、中種の発酵中のグルテンネットワークの形成が抑えられ、ストレート法で得られるような気泡膜の厚いもっちりとした弾力のある食感を有するとともに、中種製法の長所である高い老化耐性をも有するパン類を製造することができる。本発明において、前記加水量は、小麦粉100質量部に対して、好ましくは47~53質量部、より好ましくは49~51質量部であり、前記生イーストを配合する場合の添加量は、前記小麦粉100質量部に対して、好ましくは0.2~2.9質量部、より好ましくは0.2~2.5質量部、さらに好ましくは0.2質量部以上2.0質量部未満、さらに好ましくは0.2~1.5質量部、さらに好ましくは0.2~1.0質量部であり、前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量は、前記小麦粉100質量部に対して、好ましくは0.07~1.0質量部、より好ましくは0.07~0.8質量部、さらに好ましくは0.07質量部以上0.7質量部未満、さらに好ましくは0.07~0.5質量部、さらに好ましくは0.07~0.3質量部であり、中種の膨倍率は、好ましくは140~270%、より好ましくは160~250質量部である。
【0012】
本発明の中種の製造方法において、中種生地を調製する混捏工程の条件、及び中種を調製する発酵工程の条件は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はないが、上述の通り、グルテンネットワークの形成を抑制するような条件で行うことが好ましい。例えば、混捏時間は短い方が好ましく、4分以下であることが好ましく、3分以下であることがより好ましく、2.5分以下であることがさらに好ましい。これにより、さらに気泡膜の厚いもっちりとした弾力のある食感を有するとともに、高い老化耐性を有するパン類を製造することができる。
【0013】
本発明において、中種生地の材料の小麦粉は、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等どのようなものでもよく、種々の小麦粉を混合して用いてもよい。また生イースト又はインスタントドライイーストは、製パン用に使用できる市販品を適宜使用することができる。水分を含有する液体材料は、水の他に牛乳や果汁、卵等を用いることができる。本発明において「水分の添加量(すなわち、加水量)」は、液体材料中の「水分」の添加量を意味する。中種生地の材料は、本発明の効果を損なわない限り、小麦粉、生イースト又はインスタントドライイースト、及び水分を含有する液体材料以外に、製パン用の生地に一般的に使用される他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、米粉、大豆粉(きな粉)、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉等のその他の穀粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン等の澱粉以外の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;脱脂粉乳、カゼイン、チーズ、ヨーグルト、牛乳等の乳製品;乾燥卵(全卵、卵白、卵黄)、液卵(全卵、卵白、卵黄)等の卵加工品;カカオ加工品、海藻由来素材、食塩、調味料、発酵液、ビタミンC、乳化剤、イーストフード、膨張剤、α-アミラーゼ等の酵素製剤、生地改良剤、香料、着色料等が挙げられる。本発明においては、中種生地の材料に食塩を含有させることが好ましい。食塩を含むことで、中種中のグルテンネットワークの形成をさらに抑制することができるので、より気泡膜の厚いもっちりとした弾力のある食感を有するパン類を製造することができる。また、本発明において、中種生地の材料に、α-アミラーゼを含有させることが好ましい。α-アミラーゼを含むことで、澱粉の再結晶化を抑制でき、より高い老化耐性を有するパン類を製造することができる。α-アミラーゼは、小麦粉100質量部に対して、0.5~10単位含有させることが好ましい。
【0014】
本発明の中種の製造方法によって、製造するパン類の種類には特に制限はない。本発明の中種の製造方法によって、常温保存下における老化耐性を有するのはもちろんのこと、冷蔵条件下で保存される場合でも高い老化耐性を有するパン類を製造することができるので、製造するパン類としては、比較的消費期限が長い食パン、食事パン類や、特に冷蔵保存条件下で保存されるパン類であることが好ましい。そのようなパン類としては、サンドイッチ用の食パンや総菜パン用のコッペパン等が挙げられる。
【0015】
[パン類用生地の製造方法及びパン類用生地]
本発明のパン類用生地の製造方法は、パン類用生地の製造方法であって、パン類用生地に用いる小麦粉全体の内、50質量%以上の小麦粉を用いて、本発明の製造方法によって中種を作製する工程、及び得られた中種全量を含む材料を混捏する本捏工程を含む。これにより、上述の中種の効果を発揮することができ、ストレート法で得られるような気泡膜の厚いもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ高い老化耐性を有するパン類を製造できるパン類用生地を、既存の大規模な製パンラインを用いても容易に製造することができる。本捏工程では、中種に本捏用の材料(残りの小麦粉、残りの生イースト又はインスタントドライイースト、残りの水分を含有する液体材料等)を加えて混捏する。本捏用の材料の配合としては特に制限はなく、所望の比率で、本発明の製造方法によって得られた中種と混合することができる。例えば、残りの小麦粉としては、本発明の中種の製造方法に用いた小麦粉との比として、好ましくは(中種:本捏=)100:0~50:50の範囲の質量比で配合することができ、残りの生イースト又はインスタントドライイーストとしては、本発明の中種の製造方法に用いた生イースト又はインスタントドライイーストとの比として、好ましくは(中種:本捏=)100:0~5:95の範囲の質量比で配合することができ、残りの水分の添加量としては、本発明の中種の製造方法に用いた水分の添加量との比として(中種:本捏=)92:8~33:67の範囲の質量比で配合することができる。その他、本捏用の材料は、必要に応じて、上述の製パン用の材料を配合することができる。本捏工程の混捏条件は、一般的な中種法における本捏工程と同様な条件で行うことができる。なお、本発明は、本発明の製造方法によって製造されたパン類用生地にもある。
【0016】
[パン類の製造方法及びパン類]
本発明のパン類の製造方法は、本発明の製造方法によって得られたパン類用生地を用いる。これにより、上述の中種の効果を発揮することができ、ストレート法で得られるような気泡膜の厚いもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ高い老化耐性を有するパン類を、既存の大規模な製パンラインを用いても容易に製造することができる。本発明のパン類の製造方法において、パン類用生地を用いてパン類を製造する工程は、一般的な中種法を用いる製パン法と同様な条件で行うことができる。例えば、本発明の製造方法によって得られたパン類用生地を、一次発酵し、分割・丸め・成形を行い、二次発酵した後、焼成することができる。なお、本発明は、本発明の製造方法によって得られたパン類にもある。
【実施例0017】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.参考例のパンの製造
表1に示した配合(粉2kg仕込み)に従って、以下の方法で参考例(ストレート法)の食パンを製造した。具体的には、まず、表1に示した材料のうちショートニング以外の材料を低速3分中速6分混捏した。次いでショートニングを加え、さらに低速2分中速4分高速2分混捏し、パン生地を得た(捏上温度28℃)。こうして得られたパン生地を、27℃湿度75%条件で60分間フロアタイムをとり、260gに分割し、室温で30分間のベンチタイムをとった。パン生地を棒状に成形し、食パン用型に詰め、38℃湿度85%条件で50分間ホイロ内で最終発酵を行い、型に蓋をして220℃のオーブンで38分間焼成し、食パンを作製した。
2.実施例、及び比較例のパン(食パン)の製造
表1及び表2に示した配合(粉2kg仕込み)、及び中種製造条件で、各実施例、及び比較例の中種、並びに食パンを製造した。具体的には、まず、表に示した中種の材料を、表に示した各ミキシング条件(表中、例えば「L4M1」は、低速4分中速1分混捏することを意味する)、及び捏上温度条件で混捏し、中種生地を得、さらにこの中種生地を表に示した各発酵条件で発酵させ、中種を作製した。次に作製した中種全量と、表に示した本捏の材料のうちショートニング以外の材料とを低速3分中速4分混捏した。ショートニングを加え、さらに低速2分中速4分混捏し、パン生地を得た(捏上温度27℃)。こうして得られたパン生地を、27℃湿度75%条件で20分間フロアタイムをとり、260gに分割し、室温で20分間のベンチタイムをとった。パン生地を棒状に成形し、食パン用型に詰め、38℃湿度85%条件で50分間ホイロ内で最終発酵を行い、型に蓋をして220℃のオーブンで38分間焼成し、食パンを作製した。なお、中種の膨倍率は、中種生地を80g切出し、円筒状に成形し、メスシリンダーに入れて体積を測定し、発酵前後の体積から算出した。
【0018】
3.評価
(1)パンの内相の均一性(パン生地の均一性)
上記の方法で得られた各パンを焼成1日後(D+1)にスライスし、パンの内相の均一性を以下の基準に従って、目視で評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。なお、パンの内相の均一性は、パン生地の均一性の指標となる。
5:パンの内相にムラやシマが全くない(生地が均一に混捏されている)
4:パンの内相にムラやシマが殆どない(生地がほぼ均一に混捏されている)
3:パンの内相にごくわずかにムラやシマが見られる(生地にごくわずかなムラがある)
2:パンの内相にムラやシマが見られる(生地がやや不均一である)
1:パンの内相にムラやシマが多くみられる(生地が不均一である)
(2)食感の評価
上記の方法で得られた各パンを焼成1日後(D+1)に15mm厚にスライスし、食感評価を行った。D+1でスライスしたパンは、袋に入れ、2日間常温保存後(D+3)にも食感評価を行った。またD+1のパンを15mm厚にスライスしてサンドイッチに加工し、5℃で2日間冷蔵保存後(冷蔵D+3)に食感評価を行った。食感評価として、もっちり感、軟らかさ、しっとり感、を以下の基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。
(i)もっちり感
5:もっちりとした弾力が強い食感である
4:もっちりとした弾力がある食感である
3:ややもっちりとした弾力がある食感である
2:もっちりとした弾力がある食感がほとんど感じられない
1:もっちりとした弾力がある食感が全く感じられない
(ii)軟らかさ
5:非常に軟らかい食感である
4:軟らかい食感である
3:やや軟らかい食感である
2:軟らかい食感がほとんど感じられない
1:軟らかい食感が全く感じられない
(iii)しっとり感
5:非常にしっとりとした食感である
4:しっとりとした食感である
3:ややしっとりとした食感である
2:しっとりとした食感がほとんど感じられず、ややパサついた食感である
1:しっとりとした食感が全く感じられず、パサついた食感である
評価結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
表1及び表2に示す通り、中種を作製する際の加水量が、小麦粉100質量部に対して45~54質量部で、生イーストを配合する場合の添加量が、小麦粉100質量部に対して0.3~4.3質量部で、インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、小麦粉100質量部に対して0.23質量部であり、中種膨倍率が、172~291%である実施例1~13の中種を用いて製造した食パンは、パンの内相の均一性が良好であり、パン生地が均一に混捏されており、D+1の食感の評価で、もっちり感の評価が高く、軟らかさ、しっとり感の評価は同等であった。もっちり感については、参考例のストレート法で得られた食パンに匹敵するものであった。また、これらの実施例の食パンは、D+3及び冷蔵D+3の食感の評価でも、もっちり感、軟らかさ、しっとり感が維持され、常温保存であっても、冷蔵保存であっても老化し難いことが示された。一方、加水量が小麦粉100質量部に対して60質量部の比較例1及び比較例2では、中種膨倍率が、それぞれ330%、及び339%、生イーストの添加量が、小麦粉100質量部に対して5.0質量部の比較例4では、中種膨倍率が323%、加水量が小麦粉100質量部に対して57.1質量部の比較例5では、中種膨倍率が340%、加水量が小麦粉100質量部に対して55.7質量部で長時間の中種発酵を行った比較例6では、中種膨倍率が311%になり、食感の評価で、もっちり感の評価が低かった。また、加水量が小麦粉100質量部に対して40質量部の比較例3では、中種膨倍率は190%であったが、パンの内相の均一性が低く、中種が硬すぎでパン生地が均一に混捏されていなかった。したがって、中種を作製する際、加水量が、小麦粉100質量部に対して45~54質量部であり、生イーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.2~4.3質量部であり、前記インスタントドライイーストを配合する場合の添加量が、前記小麦粉100質量部に対して0.07~1.5質量部であり、中種膨倍率が、120~300%となるような条件で行うことで、ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ常温保存下、及び冷蔵保存下における老化耐性を有するパン類を安定して製造することができることが示唆された。
【0022】
酵素製剤の影響をみるため、比較例1と比較例2、及び実施例1と実施例7の食感の評価の違いを比較すると、特に冷蔵保存時の老化抑制の効果が、実施例の方が高かった。したがって、酵素製剤の添加は、本発明の中種の製造条件において、より効果的であることが示唆された。また、食パンの製造における中種の割合(すなわち、パン生地に用いる小麦粉全体の内、中種に用いる小麦粉の割合)は、実施例1、実施例9及び実施例10で得られた食パンの食感の評価で同等の評価が得られていることから、50質量%以上であれば、良いことが示唆された。
【0023】
以上の結果から、本発明の中種の製造方法によって得られた中種を用いることで、ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、高い老化耐性を有するパン類を容易に製造することができることが示唆された。
【0024】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、ストレート法で得られるようなもっちりとした弾力のある食感を有し、且つ常温保存下における老化耐性を有するのはもちろんのこと、冷蔵条件下で保存される場合でも高い老化耐性を有するパン類を安定して製造するための中種、それを用いるパン類用生地、及びパン類を容易に製造することができる。