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特開2022-50797セラミックス-金属接合体及びその製造方法、絶縁回路基板、パワーモジュール
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  • 特開-セラミックス-金属接合体及びその製造方法、絶縁回路基板、パワーモジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050797
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】セラミックス-金属接合体及びその製造方法、絶縁回路基板、パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20220324BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20220324BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220324BHJP
   B23K 1/20 20060101ALI20220324BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220324BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
C04B37/00 B
B23K1/19 B
B23K1/00 330E
B23K1/20 E
H05K1/03 630H
H05K1/03 630J
H05K3/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156921
(22)【出願日】2020-09-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 令和2年9月9日~11日 集会名、開催場所 一般社団法人溶接学会 2020年度秋季全国大会 WEB開催(オンデマンド方式)
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】能川 玄也
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊
(72)【発明者】
【氏名】沖代 賢次
(72)【発明者】
【氏名】戸部 光
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 富生
【テーマコード(参考)】
4G026
5E343
【Fターム(参考)】
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB22
4G026BF16
4G026BF24
4G026BF44
4G026BG02
4G026BG23
5E343AA24
5E343BB24
5E343BB44
5E343BB67
5E343CC01
5E343DD52
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】
セラミックスとセラミックス表面に形成する界面反応層のひずみが低減される構造を提供する。
【解決手段】
セラミックス部材と、金属部材と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mg、Ca、Y、Ce、La、Sm、Yb、Nd、Gd、Erのいずれか1種以上を活性金属種として含む活性金属ろう材と、を有し、前記セラミックス部材と前記金属部材とが、前記活性金属ろう材を介して接合されており、前記活性金属ろう材と前記セラミックス部材との間に界面反応層が形成されており、前記界面反応層と前記セラミックス部材との接合界面の結晶面の最近接同種原子間距離が、前記セラミックス部材の結晶面の最近接同種原子間距離を基準として30%以内である。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス部材と、金属部材と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mg、Ca、Y、Ce、La、Sm、Yb、Nd、Gd、Erのいずれか1種以上を活性金属種として含む活性金属ろう材と、を有し、
前記セラミックス部材と前記金属部材とが、前記活性金属ろう材を介して接合されており、前記活性金属ろう材と前記セラミックス部材との間に界面反応層が形成されており、
前記界面反応層と前記セラミックス部材との接合界面の結晶面の最近接同種原子間距離が、前記セラミックス部材の結晶面の最近接同種原子間距離を基準として30%以内である
ことを特徴とするセラミックス-金属接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材が窒化物セラミックスもしくは酸化物セラミックスであり、請求項1に記載のセラミックス-金属接合体を用いることを特徴とした絶縁回路基板。
【請求項3】
前記セラミックス部材がAlNもしくはSi34であり、請求項1に記載のセラミックス-金属接合体を用いることを特徴とした絶縁回路基板。
【請求項4】
請求項2または3に記載の絶縁回路基板を用いることを特徴としたパワーモジュール。
【請求項5】
請求項1に記載のセラミックス-金属接合体の製造方法であって、
前記セラミックス部材の表面に前記活性金属ろう材を配置する工程と、
前記活性金属ろう材上に、前記セラミックス部材と対向して金属部材を配置し、接触した状態を形成する工程と、
接触した前記セラミックス部材、前記活性金属ろう材、前記金属部材を、真空、不活性雰囲気、もしくは還元雰囲気で同時に加熱し、前記活性金属ろう材のみを溶融し、前記セラミックス-金属接合体を形成する工程と、
を有することを特徴とするセラミックス-金属接合体の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスと金属との接合体及びその製造方法、それを用いた絶縁回路基板、パワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスと金属の接合にはMo-Mn法や活性金属ろう材による活性金属法などの接合法が知られており、特に半導体装置に用いられる回路基板に関しては、DCB(Direct Copper Bonding)と呼ばれる酸化物-Cu間を直接加熱圧着する接合法やAMB(Active Metal Brazing)と呼ばれる活性金属ろう材を用いた接合法が用いられている。
【0003】
これらの接合技術を用いたセラミックス-金属複合体は、広く気密封止や摺動部材、加工工具にも使われており、いずれも構造的に応力のかかりやすいセラミックスと金属の接合界面を高強度化することが必要である。
【0004】
また、セラミックスを絶縁回路基板として用いる装置は、インバーターやコンバーターに代表されるパワーエレクトロニクス向け半導体装置があって、高電流密度化、小型化が進められており、より高い熱応力となるため、長寿命、高強度の回路基板、ひいては高強度なセラミックス―金属接合体が必要とされている。
【0005】
この高強度化が可能な接合法として活性金属ろう材を用いた接合法が注目されており、代表的な接合材としてAg-Cu-Ti系ろう材が用いられている。Ag-Cu-Ti系ろう材は、In、Bi、Sn、Znなどの添加物により融点を700~800℃に調整し、700~900℃の接合温度で用いられている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-112677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
活性金属ろう材を用いたセラミックスと金属との界面では活性金属とセラミックスが反応し、界面反応層を作ることで接合を形成する。しかしながら、接合界面で、同時に複数の反応が発生するため、界面反応層においてひずみ、欠陥が増大し、強度低下や寿命低下につながる場合がある。
【0008】
そこで、本発明ではセラミックスとセラミックス表面に形成する界面反応層のひずみが低減される構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセラミックス-金属接合体は、セラミックス部材と、金属部材と、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mg、Ca、Y、Ce、La、Sm、Yb、Nd、Gd、Erのいずれか1種以上を活性金属種として含む活性金属ろう材と、を有し、前記セラミックス部材と前記金属部材とが、前記活性金属ろう材を介して接合されており、前記活性金属ろう材と前記セラミックス部材との間に界面反応層が形成されており、前記界面反応層と前記セラミックス部材との接合界面の結晶面の最近接同種原子間距離が、前記セラミックス部材の結晶面の最近接同種原子間距離を基準として30%以内である
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記セラミックス部材が窒化物セラミックスもしくは酸化物セラミックスであり、前記セラミックス-金属接合体を用いる絶縁回路基板とすることができる。
【0011】
また、前記セラミックス部材がAlNもしくはSi34であり、前記セラミックス-金属接合体を用いる絶縁回路基板とすることができる。
【0012】
また、前記絶縁回路基板を用いるパワーモジュールとすることができる。
【0013】
また、前記セラミックス-金属接合体の製造方法は、セラミックス部材の表面に活性金属ろう材を配置する工程と、前記活性金属ろう材上に、前記セラミックス基板と対向して金属部材を配置し、接触した状態を形成する工程と、接触した前記セラミックス部材、前記活性金属ろう材、前記金属部材を、真空、不活性雰囲気、もしくは還元雰囲気で同時に加熱し、前記活性金属ろう材のみを溶融し、セラミックス-金属接合体を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ひずみを低減し、接合強度の高いセラミックス-金属接合体を提供することができ、高強度、長寿命の絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ひずみの発生している結晶構造の一例を表した模式図
図2】ひずみの発生していない結晶構造の一例を表した模式図
図3】本実施例のSi34-Cu接合体の接合界面の断面写真
図4】本実施例で結晶面を観察したIPFマップの一例
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する
【0017】
まず、本実施形態における構成部材である、セラミックス部材、活性金属ろう材、金属部材について説明する。
セラミックス部材としては、窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物等を用いることができ、例えば、AlN、Si34,、SiC、B4C、Al23、ダイヤモンド等を用いることができる。絶縁回路基板の用途としては、AlN、Si34、ダイヤモンドが特に望ましい。
活性金属ろう材は、活性金属種として、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mg、Ca、Y、Ce、La、Sm、Yb、Nd、Gd、Erのいずれか1種以上を含んでいればよい。絶縁回路基板にAlNやSi34を用いる場合、特にTi、V、Nb、Cr、Mo、Ta、Caが望ましい。活性金属ろう材の主相としては、金属部材より融点が低い材料系であればよく、Ag-Cu、Cu-Pd、Cu-Sn、Cu-Zn等に代表される合金やTi-Zr-Cuのような金属ガラスを用いてもよい。
金属部材は、純金属や合金等に限定されるものではないが、絶縁回路基板の用途としては、Cu、Niが望ましい。
【0018】
セラミックと金属の接合において、一方は共有結合またはイオン結合を有し、もう一方は金属結合を有している。加えて異なる元素によって構成される結晶構造を有するため、セラミック、金属の中間的な性質もしくは結晶構造となる界面反応層が、セラミック部材と活性金属ろう材との間に形成される。たとえば活性金属であるTiと窒化物セラミックスもしくは炭化物セラミックスの反応においてはTiNやTiCのような自由電子をもつ中間的な物性を持つセラミックスが界面反応層として形成されることで接合する機構を持つ。
【0019】
次に、セラミックス-金属接合体の製造方法について説明する。
まず、セラミックス部材として、例えば平面を持つセラミックス基板としたとき、セラミックス基板の表面に活性金属ろう材ペーストをスクリーン印刷により配置する。この活性金属ろう材を配置する工程は、ディスペンスないし転写、スプレーコートでもよく、また活性金属ろう材の形態はペーストに限定されるものではなく、たとえば箔材または線材であってもよい。
次に、セラミックス基板上に配置された活性金属ろう材上に、セラミックス基板と対向して金属部材を配置し、接触した状態を形成する。この三部材を接触させたまま、活性金属ろう材の融点以上の温度で同時に加熱することで、セラミックス-金属接合体が形成される。加熱温度は絶対温度基準でろう材の融点以上、金属部材の融点以下であることが望ましい。さらには活性金属ろう材の融点の125%以下であることがより望ましく、さらにより好ましくは活性金属ろう材の融点の101%以上、110%以下で加熱接合することが望ましい。
加えて、接合界面での反応が極めて速い反応となる場合、目的の反応以外の副反応による接合が生じ、強度が向上しない場合がある。そのため昇温速度は一定の温度範囲が望ましく100℃/min以下が望ましい。さらに好ましくは50℃/min以下が望ましく、さらにより好ましくは10℃/min以下が望ましい。
ここで、加熱時の雰囲気は活性金属ろう材の組成が変化しないことが必要であり、真空、不活性雰囲気、還元雰囲気のいずれかであればよい。本接合方法において、配置される活性金属の融点以上であれば、溶融した金属中における活性金属種の拡散性もよく、セラミックス界面で界面反応層を形成することができる。
【0020】
界面反応層及びセラミックスの結晶構造を解析する手法としてTEM-PED(transmission electron microscopy precession electron diffraction)と呼ばれる解析手法がある。この手法は歳差運動する電子線を入射することで高次の電子線回折パターンを得ることが可能な手法であり、この手法を用いれば、10 nm以下の結晶構造を把握することが可能になる。
【0021】
本実施形態における界面反応層をTEM-PED、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:エネルギー分散型X線分光)、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy:電子エネルギー損失分光)を用いて観察し、界面反応層の組成及び結晶構造を同定する。その後、IPF(Inverse pole figure)マップより、接触する界面反応層の結晶面とセラミックスの結晶面を決定し、その面における同種原子の原子間距離を比較する。
【0022】
原子間距離は、ひずみ及び欠陥のない理想的な結晶状態における原子間距離、つまりセラミックス側の原子間距離を基準とし、セラミックス側の原子間距離に対する界面反応層の原子間距離を評価する。セラミックとの接合界面において共有結合もしくはイオン結合を有していることが重要であり、イオン結合もしくは共有結合をする原子同士のペアが面内でどれだけ多く作られるかが重要である。そのためペアを形成する原子において、それぞれの結晶面内で原子間距離が同等の系であるほど接合強度が高く、同種原子の最近接距離を評価することでその効果を想定することが可能である。
評価の指標としてセラミックスと界面反応層の原子間距離の差を抽出し、これをミスマッチと呼ぶ。ミスマッチを次式(1)のように定義する。
ミスマッチ=(界面反応層の最近接同種原子の原子間距離-セラミックスの最近接同種原子の原子間距離)/セラミックスの最近接同種原子の原子間距離・・・・(1)
ミスマッチが大きいほど、結晶界面でのひずみが大きくなり、界面の接合強度が下がる。そして、ミスマッチが小さいほど界面の接合強度は上がる。
【0023】
図1にひずみの発生している結晶構造の一例を模式的に表したものを示す。図2には、結晶面が整合し、ひずみの発生していない結晶構造の一例を模式的に表したものを示す。図1では、セラミックス部材1と界面反応層2の結晶格子の格子定数(原子間距離)が異なり、結晶面が整合していない様子を示している。このようにミスマッチが発生している場合、界面でひずみが発生し、ヤング率に対応した残留応力が負荷されるため接合強度が低下する。図2のように結晶面が整合し、ミスマッチが発生してない接合においてはひずみ、残留応力共に発生せず強固な接合体が得られる。このミスマッチが30%以下であれば望ましく、より好ましくは10%以下が望ましい。
【実施例0024】
本実施例では、セラミックス部材としてSi34、金属部材としてCuを使用した接合体について説明する。活性金属ろう材は、Ag71質量%、In3.0質量%、Ti2.0質量%、残部Cuとなる組成で、かつAg-Cu-In合金、Ag、TiH2、アクリル樹脂、テルピネオールで構成される活性金属ろう材ペーストを用いた。
まず、活性金属ろう材ペーストを印刷し、ペースト中に含まれる有機溶媒を100℃以上の加熱乾燥により揮発させた。乾燥させた活性金属ろう材ペースト上にCuの板を配置し、1.0x10-2Pa以下の真空中において、845℃で20分、加熱し、Si34-Cu接合体を得た。接合時の昇温速度は50℃/min以下で行った。
【0025】
Si34-Cu接合体のTEMによる接合界面の断面写真を図3に示す。図3よりSi34接合界面上にTiNの界面反応層を形成していることが確認された。この接合界面から視野をいくつか抽出し、TEM-PEDを用いて結晶面を観察した。観察したIPFマップの一例を図4示す。このIPFマップは接合面に対して垂直なRD方向を抽出している。(a)はTiNの結晶に着目したIPFマップを、(b)はSi34の結晶に着目したIPFマップを、(C)はAgの結晶に着目したIPFマップを示している。TiN、Agは立方晶系であり、(e)に示す立方晶系のステレオ投影図から結晶面を同定し、Si34は六方晶系であるため(f)に示す六方晶系のステレオ投影図から結晶面を同定した。加えて(d)に示す(a)、(b)、(c)の重ね合わせ像から各結晶に対してどの面が接合しているかを評価した。Si34においてRD方向では(11-20)及び(11-20)と等価な(2-1-10)が観察され、TiNにおいては(112)(110)(100)(111)の4種類の面が観察された。これらの面のミスマッチはTiNの(112)(100)(111)において2.5%であり、TiNの(110)において25.5%であり、これらの面が出ていることで高強度化することができる。
【0026】
以上、本発明について上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に示された技術範囲において、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1:セラミックス部材
2:界面反応層
3:最近接同種原子間距離


図1
図2
図3
図4