(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050798
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】抗ウイルス性不織布、及びこれを用いた抗ウイルス性マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220324BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220324BHJP
D06M 11/38 20060101ALI20220324BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
A41D13/11 M
A41D13/11 H
A62B18/02 C
D06M11/38
D06M15/333
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156922
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】澤野 勝丈
【テーマコード(参考)】
2E185
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CC73
4L031AA14
4L031AA18
4L031AB34
4L031BA11
4L031BA33
4L031DA12
4L033AA05
4L033AA07
4L033AB07
4L033AC10
4L033AC11
4L033CA29
(57)【要約】
【課題】所望の抗ウイルス性を長時間持続できる不織布、及びこれを用いたマスクを提供すること。
【解決手段】水酸化カルシウム粒子を担持し、(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が0.3~5.0g/m2、(b)通気度が30~150cc/cm2/sec、及び(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存率が30%以上、の要件を満足する抗ウイルス性不織布、及びこれを用いたマスクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウム粒子を担持した不織布であって、
下記(a)~(c)の要件を満足することを特徴とする抗ウイルス性不織布。
(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が0.3~5.0g/m2
(b)通気度が30~150cc/cm2/sec
(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存率が30%以上
【請求項2】
さらに下記(d)の要件を満足することを特徴とする請求項1記載の抗ウイルス性不織布。
(d)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存量が0.09g/m2以上
【請求項3】
マスク本体及び耳掛け部を備えたマスクであって、
前記マスク本体が、請求項1又は2記載の抗ウイルス性不織布を具備していることを特徴とする抗ウイルス性マスク。
【請求項4】
前記マスク本体は、不織布が2層以上重畳されて構成されており、
顔に接する側を第1層とした場合、第2層以降の層に、前記抗ウイルス性不織布が設けられていることを特徴とする請求項3記載の抗ウイルス性マスク。
【請求項5】
前記重畳された不織布が、その周囲を熱溶着又は超音波溶着されて一体化されていることを特徴とする請求項4記載の抗ウイルス性マスク。
【請求項6】
単繊維径が0.05~1.0μmのポリオレフィン又はポリエステルからなり、目付が10~50g/m2である不織布に対して、メジアン径が1.0~10.0μmの水酸化カルシウム粒子及びバインダー樹脂を含み、前記水酸化カルシウムの濃度が1.0~10.0質量%の分散液を塗布する塗布工程と、
前記分散液を塗布した不織布を乾燥する乾燥工程と、
を有することを特徴とする抗ウイルス性不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性不織布、及びこれを用いた抗ウイルス性マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マスクは、花粉の飛来を防ぐ目的や、細菌、ウイルス等の飛来や飛散を防ぐ目的等で広く使用されており、その多くは使い捨てのものである。最近では、新型ウイルスの流行もあり、マスクに対して抗ウイルス性や抗菌性を付与したものが求められている。
【0003】
このような抗ウイルス性や抗菌性が付与されたマスクとしては、例えば、銀ゼオライトや銀アパタイト等を担持させたマスクが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-167226号公報
【特許文献2】特開平2-88083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、抗ウイルス性を長時間持続できる不織布、及びこれを用いたマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の条件を満たす不織布が抗ウイルス性マスクの材料として好適であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]水酸化カルシウム粒子を担持した不織布であって、下記(a)~(c)の要件を満足することを特徴とする抗ウイルス性不織布。
(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が0.3~5.0g/m2
(b)通気度が30~150cc/cm2/sec
(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存率が30%以上
[2]さらに下記(d)の要件を満足することを特徴とする上記[1]記載の抗ウイルス性不織布。
(d)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存量が0.09g/m2以上
【0008】
[3]マスク本体及び耳掛け部を備えたマスクであって、前記マスク本体が、上記[1]又は[2]記載の抗ウイルス性不織布を具備していることを特徴とする抗ウイルス性マスク。
[4]前記マスク本体は、不織布が2層以上重畳されて構成されており、顔に接する側を第1層とした場合、第2層以降の層に、前記抗ウイルス性不織布が設けられていることを特徴とする上記[3]記載の抗ウイルス性マスク。
[5]前記重畳された不織布が、その周囲を熱溶着又は超音波溶着されて一体化されていることを特徴とする上記[4]記載の抗ウイルス性マスク。
【0009】
[6]単繊維径が0.05~1.0μmのポリオレフィン又はポリエステルからなり、目付が10~50g/m2である不織布に対して、メジアン径が1.0~10.0μmの水酸化カルシウム粒子及びバインダー樹脂を含み、前記水酸化カルシウムの濃度が1.0~10.0質量%の分散液を塗布する塗布工程と、前記分散液を塗布した不織布を乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする抗ウイルス性不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不織布は、抗ウイルス性を長時間持続できる。したがって、この不織布を用いた抗ウイルス性マスクは、使用期間中、優れた抗ウイルス性を保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗ウイルス性不織布は、水酸化カルシウム粒子を担持し、下記(a)~(c)の要件を満足することを特徴とする。
【0012】
(a)前記水酸化カルシウム粒子の担持量が0.3~5.0g/m2
(b)通気度が30~150cc/cm2/sec
(c)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存率(以下、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率という)が30%以上
【0013】
本発明の抗ウイルス性不織布は、水酸化カルシウムの炭酸化を抑制して、所望の抗ウイルス性を長時間持続できる。したがって、抗ウイルス性のマスクの材料として好適である。なお、本発明の不織布は、通常、抗ウイルス性と共に、細菌に対する抗菌性も備える。
【0014】
以下、各要件について説明する。
[要件(a)]
本発明の抗ウイルス性不織布における水酸化カルシウム粒子の担持量としては、上記のように、0.3~5.0g/m2であり、0.8~4.5g/m2が好ましく、1.0~4.0g/m2がより好ましい。担持量が0.3g/m2未満であると、所望の抗ウイルス性を長時間持続することができない。また、担持量が5.0g/m2を超えると、所望の通気性を得ることができない。
【0015】
水酸化カルシウムの担持量は、純水中に裁断した試験体を加えて十分撹拌した後、塩酸で滴定して、その滴定量より算出する。なお、ここで求められる水酸化カルシウムの担持量は、後述する炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を算出する上での基準量(CA0)でもある。
【0016】
[要件(b)]
本発明の抗ウイルス性不織布の通気度としては、上記のように、30~150cc/cm2/secであり、40~140cc/cm2/secが好ましい。通気度が30cc/cm2/sec未満であると、通気性が悪く、マスク等の通気性(空気の流動性)を必要とする用途に使用できない。また、通気度が150cc/cm2/secを超えると、所望のフィルター(ろ過、捕捉)効果を得ることができず、マスク等のフィルター効果を必要とする用途に使用できない。
【0017】
通気度は、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)の通気性の測定方法に準じて測定する。
【0018】
[要件(c)]
本発明の抗ウイルス性不織布の炭酸化後の水酸化カルシウム残存率としては、上記のように、30%以上であり、35%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。炭酸化後の水酸化カルシウム残存率が30%未満であると、所望のウイルス性を長時間持続することができない。なお、この炭酸化後の水酸化カルシウム残存率は、耐二酸化炭素性(耐炭酸ガス性)を示すものであり、二酸化炭素による水酸化カルシウムの炭酸化の抑制効果を示すものである。例えば、マスクは、人間の呼気に含まれる二酸化炭素に頻繁に接触するものであるが、本発明の不織布は、このような二酸化炭素の影響の大きい環境化でも水酸化カルシウムの炭酸化を抑制し、抗ウイルス性を長時間持続することができる。
【0019】
炭酸化後の水酸化カルシウム残存率は、以下のように算出する。
湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した試験体について、上記要件(a)と同様にして、水酸化カルシウムを定量して水酸化カルシウム量(CA1)を求める。続いて、以下の式より、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を算出する。
【0020】
炭酸化後の水酸化カルシウム残存率(%)=(CA1)/(CA0)×100
【0021】
また、本発明の抗ウイルス性不織布は、所望のウイルス性を長時間より確実に持続する点から、下記要件(d)を満たすことが好ましい。
【0022】
(d)湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した際の水酸化カルシウム残存量(以下、炭酸化後の水酸化カルシウム残存量という)が0.09g/m2以上、好ましくは0.3g/m2以上、より好ましくは0.8g/m2以上、さらに好ましくは1.0g/m2以上
【0023】
本発明の抗ウイルス性不織布に用いる不織布の素材としては、ポリオレフィン、ポリエステル等の通常のマスクに用いられる合成樹脂を挙げることができる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。
【0024】
不織布を構成する合成樹脂(繊維)の単繊維径は、0.05~1.0μmが好ましく、0.1~0.8μmがより好ましい。また、不織布の目付量としては、10~50g/m2が好ましく、15~40g/m2がより好ましい。さらに、不織布の厚さとしては、50~150μmが好ましく、70~120μmがより好ましい。このような不織布を用いることにより、通気性を確保できると共に、微粒子、細菌、ウイルス等の透過を効果的に防止することができる。
【0025】
不織布の目付量は、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)の単位面積当たりの質量の測定方法に準じて測定する。
【0026】
続いて、上記本発明の抗ウイルス性不織布を製造する方法について説明する。
本発明の抗ウイルス性不織布を製造する方法としては、例えば、不織布に対して、水酸化カルシウム粒子及びバインダー樹脂を含む分散液を塗布する塗布工程と、分散液を塗布した不織布を乾燥する乾燥工程とを有する方法を挙げることができ、マスク等の材料として使用する場合は、以下の方法により製造することが好ましい。
【0027】
すなわち、単繊維径が0.05~1.0μmのポリオレフィン又はポリエステルからなり、目付が10~50g/m2である不織布に対して、メジアン径が1.0~10.0μmの水酸化カルシウム粒子及びバインダー樹脂を含み、前記水酸化カルシウムの濃度が1.0~10.0質量%の分散液を塗布する塗布工程と、分散液を塗布した不織布を乾燥する乾燥工程とを有する方法が好ましい。なお、分散液としては、水を主体とする水系分散液を用いることが好ましい。
【0028】
このような不織布を用いることにより、マスクとしての高い機能を担保することができる。また、メジアン径1.0~10.0μmの水酸化カルシウム粒子を用い、水酸化カルシウムの濃度1.0~10.0質量%の分散液を用いることにより、水酸化カルシウムの炭酸化を抑制して抗ウイルス性を長時間持続できると共に、マスクとしての通気性を確保することができる。
【0029】
水酸化カルシウム粒子のメジアン径(D50)としては、上記のように、1.0~10.0μmであり、1.5~8.0μmが好ましく、2.0~6.0μmがより好ましい。メジアン径が1.0μm未満であると、炭酸化が進みやすく、所望の抗ウイルス性を長時間持続することができないおそれがある。また、メジアン径が10.0μmを超えると、水酸化カルシウム粒子が不織布から取れやすく、安定して不織布に担持することができないおそれがある。なお、不織布への担持前後で水酸化カルシウム粒子の粒径はほぼ変化しないことから、製造に用いる水酸化カルシウム粒子のメジアン径を、抗ウイルス性不織布におけるメジアン径と考えることができる。
【0030】
メジアン径(D50)の算出は、分散媒体としてエタノールを使用し、レーザー回折式粒度分析計を用いて体積基準の粒度分布を測定し、その測定結果から算出する。
【0031】
また、本発明で用いる水酸化カルシウム粒子(メジアン径1.0~10.0μm)は、通常の工業用カルシウムと比較して粒径が小さいものであり、工業用水酸化カルシウムを粉砕して用いてもよい。
【0032】
また、分散液における水酸化カルシウム濃度としては、上記のように、1.0~10.0質量%であり、1.0~5.0質量%がより好ましい。水酸化カルシウム濃度が1.0質量%未満であると、十分な量の水酸化カルシウムを不織布に担持することが困難となる。また、水酸化カルシウム濃度が10.0質量%を超えると、水酸化カルシウムの担持量が過多となり、十分な通気性を確保できないおそれがある。
【0033】
バインダー樹脂としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂を挙げることができ、水溶性樹脂が好ましい。水溶性樹脂としては、具体的に、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリ(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)、ポリ(N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルホリン)、ポリアクリル酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩等を挙げることができる。なかでも、水酸化カルシウム粒子との反応性のない非イオン性の高分子からなる樹脂が好ましく、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが特に好ましい。
【0034】
バインダー樹脂の配合量(分散液中の濃度)としては、1.0~10.0質量%が好ましく、1.0~5.0質量%がより好ましい。この範囲とすることにより、水酸化カルシウム粒子を不織布に適切に担持して、抗ウイルス性をより効果的に発揮することができる。
【0035】
塗布工程における水酸化カルシウム分散液の塗布方法としては、不織布に均一に塗布できる方法であれば特に制限されるものではなく、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、カーテンコート法、グラビア印刷法等、各種塗布方法を挙げることができる。
【0036】
また、乾燥工程における乾燥は、例えば、自然乾燥、温風乾燥等、各種乾燥方法を用いることができる。
【0037】
次に、本発明の抗ウイルス性マスクについて説明する。本発明の抗ウイルス性マスクは、マスク本体及び耳掛け部を備え、マスク本体が、上記本発明の抗ウイルス性不織布を具備していることを特徴とする。
【0038】
本発明の抗ウイルス性不織布は、上記のように、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率(要件(c))が高い。したがって、呼気に含まれる二酸化炭素に接触するマスクにおいても抗ウイルス性を長時間持続することができる。
【0039】
本発明の抗ウイルス性マスクは、家庭用マスク、医療用マスク(サージカルマスク)、産業用マスク(防塵マスク)を挙げることができ、家庭用マスク、医療用マスク(サージカルマスク)が好ましい。その形状は、プリーツ型、立体型等、特に制限されない。また、本発明の抗ウイルス性マスクは、通常、使い捨てマスクである。
【0040】
具体的に本発明の抗ウイルス性マスクは、マスク本体が、不織布が2層以上重畳されて構成されており、顔に接する側を第1層とした場合、第2層以降の層に、本発明の抗ウイルス性不織布が設けられていることが好ましい。また、不織布が3層以上に重畳されていることが好ましく、この層の中間層に、本発明の抗ウイルス性不織布が用いられることが好ましい。さらに、水酸化カルシウム粒子が担持されている面が顔側と反対側となるよう不織布を配置することが好ましい。また、重畳された不織布は、その周囲を熱溶着又は超音波溶着されて一体化されていることが好ましい。このような構成であることにより、水酸化カルシウムの肌への影響を防止して、抗ウイルス性を担保することができる。
【実施例0041】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0042】
本発明の抗ウイルス性不織布を制作し、抗ウイルス性について評価した。
(1)原材料
1)コート液
以下のコート液A~Fを調製した。
コート液A:消石灰x2質量%+ポリビニルアルコール(PVA)4質量%+残部水
コート液B:消石灰x5質量%+PVA4質量%+残部水
コート液C:消石灰x8質量%+PVA4質量%+残部水
コート液D:消石灰x0.5質量%+PVA4質量%+残部水
コート液E:消石灰x15質量%+PVA4質量%+残部水
コート液F:消石灰y2質量%+PVA4質量%+残部水
【0043】
なお、消石灰xのメジアン径(D50)は5.0μmであり、消石灰yのメジアン径(D50)は0.5μmである。メジアン径(D50)の算出は、分散媒体としてエタノールを使用し、レーザー回折式粒度分析計を用いて体積基準の粒度分布を測定した結果から算出した。
【0044】
また、ポリビニルアルコールは、和光純薬工業製「ポリビニルアルコール500」(重合度約500)を使用した。
水は、イオン交換水を使用した。
【0045】
2)不織布
以下の不織布を用いた。なお、目付量については、JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)の単位面積当たりの質量の測定方法に準じて測定した。
【0046】
【0047】
(2)製造方法
不織布をガラス板(縦300×横250×厚さ10mm)にテープで固定し、バーコーターを用いて、コート液をコートした。その後、不織布をガラス板から取り外し、60℃の恒温送風乾燥機中で20分間乾燥させて、水酸化カルシウム担持不織布(試験体)を制作した。
【0048】
制作した試験体について、水酸化カルシウム量(要件a)、通気度(要件b)を求めた。具体的には、以下の方法にて行った。
【0049】
(水酸化カルシウム量の定量)
純水500ml中に裁断した試験体約2gを加え、12時間スターラーで撹拌した。フェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/Lの塩酸で滴定した。その滴定量より、有効アルカリとしての水酸化カルシウムの付着量を算出した。
【0050】
(通気度)
JIS L 1096(織物及び編物の生地試験方法)の通気性の測定方法に準じて測定した。
【0051】
また、制作した試験体について、湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置し、炭酸化後の水酸化カルシウム残存量及び残存率(要件c,d)を確認した。具体的には、以下の方法にて行った。
【0052】
(炭酸化後の水酸化カルシウム残存量及び残存率)
上記条件で炭酸ガス養生装置内に12時間放置した試験体について、上記要件(a)と同様の方法で水酸化カルシウム量(残存量)を定量した(CA1)。続いて、上記制作直後の試験体の水酸化カルシウム量をCA0として、以下の式により、炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を求めた。
【0053】
炭酸化後の水酸化カルシウム残存率(%)=(CA1)/(CA0)×100
【0054】
(3)抗ウイルス特性の評価
制作した試験体について、湿度60%RH、温度30℃、炭酸ガス濃度2%の炭酸ガス養生装置内に12時間放置した後の抗ウイルス性を確認した。繊維製品の抗ウイルス性試験(JIS L 1922)に準拠し、ウイルス感染価を「プラーク法」により測定した。使用ウイルスには、「A型インフルエンザウイルス」を用いた。具体的な方法を以下に示す。
【0055】
1)測定方法
1)試験体(質量0.4g)をバイアル瓶に入れた。
2)ウイルス液0.2mlを接種し、25℃で2時間放置した。
3)SCDLP培地20mlを加え、試験体からウイルスを洗い出した。
4)洗い出した液のウイルス感染価(感染性ウイルス量)を、プラーク法で測定した。
【0056】
2)抗ウイルス効果の確認
抗ウイルス活性値により、以下のように判断した。
抗ウイルス活性値<2.0・・・効果低い(×)
3.0>抗ウイルス活性値≧2.0・・・効果あり(○)
抗ウイルス活性値≧3.0・・・十分な効果あり(◎)
【0057】
以上の結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表2に示すように、実施例1~6は、通気性に優れると共に、炭酸ガス下に12時間放置後の水酸化カルシウムの残存量及び残存率も優れており、抗ウイルス性が長時間持続することがわかる。
【0060】
一方、比較例1及び2のように、水酸化カルシウムの初期担持量が少なすぎると、炭酸化の進みが早く、水酸化カルシウムの残存量及び残存率が低く、十分な抗ウイルス性を持続できない。また、比較例3及び4のように、水酸化カルシウムの初期担持量が多すぎると、通気性が悪く、マスクとしての基本的な性能を担保できない。さらに、比較例5及び6のように、担持する水酸化カルシウム粒子の径が小さすぎると、初期に十分な量の炭酸カルシウムを坦持していても、炭酸化の進みが早く、所望の炭酸化後の水酸化カルシウム残存率を担保できず、抗ウイルス性を持続できない。