(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022051308
(43)【公開日】2022-03-31
(54)【発明の名称】小麦粉焼成和風食品用ミックス、及びそれを用いた小麦粉焼成和風食品の製造
(51)【国際特許分類】
A23L 35/00 20160101AFI20220324BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
A23L35/00
A21D10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020157724
(22)【出願日】2020-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 龍太
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
【テーマコード(参考)】
4B032
4B036
【Fターム(参考)】
4B032DB33
4B032DB35
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK03
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4B032DK51
4B036LF14
4B036LH04
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4B036LH44
4B036LH49
4B036LK06
4B036LP02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バッターを調製後、時間が経過してもバッターの性状が安定しており、所望の形状を難なく製造することができる小麦粉焼成和風食品用ミックス、小麦粉焼成和風食品、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】小麦粉焼成和風食品用ミックスは、少なくとも小麦粉を含む穀粉、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも小麦粉を含む穀粉、
α化澱粉、並びに
マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を含有することを特徴とする、
小麦粉焼成和風食品用ミックス。
【請求項2】
前記小麦粉焼成和風食品が、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、及びこれらに類する小麦粉焼成和風食品からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載する小麦粉焼成和風食品用ミックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載する小麦粉焼成和風食品用ミックス及び水を含有するバッターの焼成物を一部に有する、小麦粉焼成和風食品。
【請求項4】
前記小麦粉焼成和風食品が冷凍食品である、請求項3に記載する小麦粉焼成和風食品。
【請求項5】
下記(a)及び(b)の工程を有する小麦粉焼成和風食品の製造方法:
(a)少なくとも小麦粉を含む穀粉;α化澱粉;マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素;並びに水を混合してバッターを調製する工程、及び
(b)前記(a)工程で調製したバッターを具材とともに焼成する工程。
【請求項6】
前記小麦粉焼成和風食品が、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、及びこれらに類する小麦粉焼成和風食品からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5に記載する製造方法。
【請求項7】
小麦粉焼成和風食品の生地原料として、小麦粉に加えて、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を用いることを特徴とする、小麦粉焼成和風食品の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たこ焼やお好み焼に代表される小麦粉焼成和風食品の製造に使用されるミックス、及び小麦粉焼成和風食品に関する。また本発明は、当該小麦粉焼成和風食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たこ焼やお好み焼は、小麦粉を主原料とした粉ものに水を加えて生地(バッター)とし、これに所望の具材(例えば、たこなどの魚介類、野菜、畜肉類、卵等)を入れて、所定の形状になるように焼成し、ソースやタレ等の調味料で適宜味付けをして食する、日本で古くから食べられてきた小麦粉焼成食品である。こうした小麦粉焼成和風食品は、温かい状態で喫食することが好まれ、特にたこ焼については、喫食時にとろみがあること、またお好み焼については口溶けがよいことが好まれる。また最近は、工場等で大量生産し、冷凍された状態で販売され、店舗や自宅等で、電子レンジ等を用いて再加熱して喫食される冷凍小麦粉焼成和風食品も多く流通している。こうした冷凍品についても、再加熱して喫食した際に、焼成直後と同様に、たこ焼については中身がとろりとやわらかく、またお好み焼については口溶けが良いことが求められている。
【0003】
たこ焼の見かけや食感を向上する方法として、例えば、たこ焼用ミックスに澱粉を配合する方法が提案されている。具体的には、小麦粉に加えて、澱粉としてα化澱粉を配合する方法(特許文献1)や、アセチル化澱粉やアセチル化酸化澱粉を配合する方法(特許文献2及び3)等が知られている。
【0004】
また、冷蔵または冷凍保存後に再加熱しても口溶けがよく良好な食感を有するたこ焼又はお好み焼を製造するためのミックス原料として、小麦粉に加えて、もち種馬鈴薯澱粉とα-アミラーゼを用いることが提案されている(特許文献4)。さらに、冷凍後解凍しても焼きたてのソフトな食感を失わないための冷凍たこ焼用改質材として、食用油脂を含む油相部とアミラーゼを含む水相部とからなる水中油滴型の乳化油脂を用いることが提案されている(特許文献5)。
【0005】
さらに、保型性がよく、冷えても滑らかな生地の食感が維持された、たこ焼きやお好み焼きを調製する方法として、食用油脂、モノグリセリン脂肪酸エステル、至適温度が50~89℃であるα-アミラーゼ、及び至適温度が40~70℃であるキシラナーゼを特定の割合で含有する水中油型乳化油脂組成物を原料として配合することが提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-69903号公報
【特許文献2】特開2003-52341号公報
【特許文献3】特開2013-85524号公報
【特許文献4】特開2018-113865号公報
【特許文献5】特開平9-107932号公報
【特許文献6】特開2020-48522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、後述するたこ焼やお好み焼などに求められる食感を有する小麦粉焼成和風食品であって、バッターを調製後、時間が経過してもバッターの性状が安定しており、所望の形状を難なく製造することができる小麦粉焼成和風食品を提供することを課題とする。また、本発明は、小麦粉焼成和風食品に対して求められる食感、具体的には、例えばたこ焼については中身がしっとりやわらかく、口溶けのよいとろみのある食感、またお好み焼については口溶けがよい食感など、良好な食感を有する小麦粉焼成和風食品を成形性よく製造することができる小麦粉焼成和風食品用ミックスを提供することを課題とする。
さらに本発明は当該小麦粉焼成和風食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、たこ焼やお好み焼などの小麦粉焼成和風食品の生地原料として用いられる小麦粉に、α化澱粉、及びマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、キシラナーゼといった特定の酵素を配合することで、バッターを調製後、時間が経過してもバッターの性状が安定しており、成形性に悪影響を与えることなく、良好な食感を有する小麦粉焼成和風食品が製造できることを見出した。また、特に冷凍品に対して高い食感改良効果が付与できることを確認した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0009】
(I)小麦粉焼成和風食品用ミックス
(I-1)少なくとも小麦粉を含む穀粉、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を含有することを特徴とする、小麦粉焼成和風食品用ミックス。
(I-2)前記小麦粉焼成和風食品が、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、及びこれらに類する小麦粉焼成和風食品からなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)に記載する小麦粉焼成和風食品用ミックス。
【0010】
(II)小麦粉焼成和風食品
(II-1)少なくとも小麦粉を含む穀粉、α化澱粉、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素、並びに水を含有するバッターの焼成物を一部に有することを特徴とする、小麦粉焼成和風食品。
(II-2)前記小麦粉焼成和風食品が、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、及びこれらに類する小麦粉焼成和風食品からなる群より選択される少なくとも1種である、(II-1)に記載する小麦粉焼成和風食品。
(II-3)前記小麦粉焼成和風食品が冷凍食品である、(II-1)又は(II-2)に記載する小麦粉焼成和風食品。
【0011】
(III)小麦粉焼成和風食品の製造方法
(III-1)下記(a)及び(b)の工程を有する小麦粉焼成和風食品の製造方法:
(a)少なくとも小麦粉を含む穀粉;α化澱粉;マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素;並びに水を混合してバッターを調製する工程、及び
(b)前記(a)工程で調製したバッターを具材とともに焼成する工程。
(III-2)前記小麦粉焼成和風食品が、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼き、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、及びこれらに類する小麦粉焼成和風食品からなる群より選択される少なくとも1種である、(III-1)に記載する製造方法。
【0012】
(IV)小麦粉焼成和風食品の食感改良方法
(IV-1)小麦粉焼成和風食品の生地原料として、小麦粉に加えて、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を用いることを特徴とする、小麦粉焼成和風食品の食感改良方法。
(IV-2)前記小麦粉焼成和風食品が、たこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼、及びこれらに類する小麦粉焼成和風食品からなる群より選択される少なくとも1種である、(IV-1)に記載する食感改良方法。
(IV-3)バッターを調製後、時間が経過したバッターを用いても小麦粉焼成和風食品の焼成時の成形性に悪影響を及ぼすことなく、小麦粉焼成和風食品の食感を改良する方法である、(IV-1)又は(IV-2)に記載する食感改良方法。
(IV-4)前記食感改良が、内側の生地のとろみ及び/又は口溶けの向上である、(IV-1)~(IV-3)のいずれかに記載する食感改良方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の小麦粉焼成和風食品用ミックスまたはそれを用いた製造方法によれば、バッターを調製後、時間が経過してもバッターの性状が安定しており、焼成時の成形性に悪影響を与えることなく、たこ焼やお好み焼などの小麦粉焼成和風食品の食感を改良することが可能である。具体的には、本発明のミックスを用いることで、中身(内側の生地)がしっとりやわらかく、口溶けのよいとろみのある食感を有するたこ焼やそれに類する小麦粉焼成和風食品を容易に製造することができる。また本発明のミックスを用いることで、口溶けがよく、口あたりの軽いお好み焼やそれに類する小麦粉焼成和風食品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)小麦粉焼成和風食品用ミックス
本発明の小麦粉焼成和風食品用ミックス(以下、単に「本発明ミックス」とも称する)は、穀粉、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を含有することを特徴とする。
なお、本発明において小麦粉焼成和風食品用ミックスとは、後述するたこ焼やお好み焼などの小麦粉焼成和風食品のバッターを調製するために使用される混合物である。その形状は、制限はされないが、好ましくは粉体状を例示することができる。
以下、本発明ミックスの成分について説明する。
【0015】
[穀粉]
本発明ミックスにおいて穀粉として主に使用されるのは小麦粉である。
本発明ミックスに使用する小麦粉としては、特に制限されず、例えば強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉、及びこれらの熱処理粉などを例示することができる。これらは一種単独で使用しても、二種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。好ましくは薄力粉又は中力粉であり、薄力粉又は中力粉と他の小麦粉とを組み合わせて用いてもよい。特に、薄力粉又は中力粉をミックスの原料として、後述するα化澱粉及び酵素と組み合わせることで、成形性(作業性)、形状、または食感(とろみ、口溶け)が良好な小麦粉焼成和風食品を調製することができる。
【0016】
本発明ミックス中の小麦粉の配合割合としては、50質量%以上から適時選択することができる。好ましくは80~99質量%、より好ましくは85~95質量%である。
【0017】
なお、本発明の効果を妨げないことを限度として、本発明ミックスに、小麦粉に加えて他の穀粉を配合することもできる。かかる他の穀粉としては、上記の限り制限されないものの、例えば、大麦、ライ麦、蕎麦、稗、粟、はと麦、とうもろこし、ホワイトソルガム、及び米(餅米を含む)等の穀類や大豆等の豆類の粉体等を例示することができる。
【0018】
また、穀粉には、植物由来の澱粉、またはこれらに物理的または化学的な加工が施された加工澱粉を配合することもできる。
植物由来の澱粉には、制限されないものの、例えば、馬鈴薯澱粉、餅種(以下、ワキシーともいう)の馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、及び、餅米澱粉等が含まれる。また、加工澱粉には、制限されないものの、例えば、酵素処理澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉、酢酸澱粉(アセチル化澱粉)等のエステル化澱粉、リン酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等のエーテル化澱粉、リン酸架橋澱粉やアジピン酸架橋澱粉等の架橋澱粉、及び、複数の加工を組み合わせた加工澱粉(例えば、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等)が含まれる。
【0019】
[α化澱粉]
α化澱粉は、前述する澱粉または加工澱粉(以下、α化する原料澱粉という意味で、単に「原料澱粉」とも称する)を水の存在下で加熱して糊化(α化)させた澱粉である。α化の方法に特に制限はなく、例えばドラムドライ法やスプレードライ法等も含まれる。本発明ミックスに配合するα化澱粉は、制限されないものの、前記原料澱粉が、好ましくは加工澱粉であり、より好ましくは架橋澱粉、アセチル化澱粉、及びエーテル化澱粉である。なかでも架橋澱粉、特にリン酸架橋澱粉が好ましい。
本発明ミックスには、原料澱粉の種類に応じて、α化澱粉を一種単独で配合しても、また二種以上を任意に組み合わせて配合してもよい。α化澱粉として、好ましくは、前記の通り、リン酸架橋澱粉をα化した澱粉(α化リン酸架橋澱粉)であり、当該リン酸架橋澱粉にはヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、及びリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等も含まれる。
【0020】
本発明ミックスに配合するα化澱粉の割合としては、本発明の効果を奏する範囲であればよい。具体的には、小麦粉焼成和風食品の焼成時の成形性(作業性)に悪影響を与えることなく、後述する酵素配合による食感改良効果を維持または増強するように働く配合割合を挙げることができる。また小麦粉焼成和風食品を冷凍後、再加熱した場合でも、酵素配合による食感改良効果を維持するか、または増強するように働く配合割合であることが好ましい。かかるα化澱粉の配合割合として、本発明ミックス中の穀粉100質量%あたり、40質量%以下の範囲から設定することができる。好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは1~30質量%の範囲を挙げることができる。
【0021】
[酵素]
本発明ミックスに使用する酵素としては、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼを挙げることができる。これらは一種単独で使用しても、二種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。本発明の効果を奏するうえで、好適な使用態様としては、各酵素を各々一種で使用する態様、またはβ-アミラーゼと、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、及びキシラナーゼの少なくとも一方を組み合わせて使用する態様を挙げることができる。このような使用態様によれば、焼成時の成形性(作業性)に悪影響を与えることなく、内側の生地がしっとりやわらかく、口溶けのよいとろみのある食感(温かい状態での食感)を有する小麦粉焼成和風食品を好適に製造することができる。また小麦粉焼成和風食品を冷凍後、再加熱した場合でも、前述する食感を有する小麦粉焼成和風食品を得ることができる。
【0022】
(マルトース生成α-アミラーゼ)
本発明で使用されるマルトース生成α-アミラーゼは、澱粉などのグルコースポリマーに作用して非還元末端から主にα-マルトースを生成するアミラーゼである。一般的なα-アミラーゼは、澱粉のα-1,4-結合をランダムに切断する活性を有するため、相違する。
かかるマルトース生成α-アミラーゼは、商業的に入手することができ、制限されないものの、例えばNovozyme社のNovamyl(登録商標、以下同じ)シリーズ(例えば、Novamyl 3D BG、Novamyl 10000BG等)を例示することができる。
【0023】
本発明ミックス中のマルトース生成α-アミラーゼの配合割合としては、本発明の効果を奏する範囲であればよく、制限されないものの、本発明ミックス100gあたりの酵素活性として0.01~100単位、好ましくは0.05~80単位、より好ましくは0.1~50単位を例示することができる。
なお、当該マルトース生成α-アミラーゼの酵素活性は、マルトトリオースを基質として、これに、使用する酵素をその至適条件(例えば37℃、pH5.0)下で反応させ、1分間に1マイクロモルのマルトトリオースを分解する酵素量から算出することができ、これを1単位(ユニット)としている。マルトトリオースの分解は、生成するグルコースをグルコースCIIテストワコー(富士フィルム和光純薬社)により測定し、評価することができる。
【0024】
(マルトテトラオース生成α-アミラーゼ)
本発明で使用されるマルトテトラオース生成α-アミラーゼは、澱粉などのグルコースポリマーに作用して非還元末端から主にα-マルトテトラオースを生成するアミラーゼである。
かかるマルトテトラオース生成α-アミラーゼは、商業的に入手することができ、制限されないものの、例えばデュポン社のOptimalt4G(登録商標、以下同じ)、POWERFreshシリーズ、ナガセケムテックス社のデナベイクExtraを例示することができる。
【0025】
本発明ミックス中のマルトテトラオース生成α-アミラーゼの配合割合としては、本発明の効果を奏する範囲であればよく、制限されないものの、本発明ミックス100gあたりの酵素活性として0.01~100単位、好ましくは0.05~80単位、より好ましくは0.1~50単位を例示することができる。
なお、当該マルトテトラオース生成α-アミラーゼの酵素活性は、p-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドを基質として、使用する酵素をその至適条件(例えば25℃、pH5.6)下で、アミログルコシダーゼ、α-グルコシダーゼと共に反応させる。1分間に0.0351ミリモルのp-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドを分解する酵素量から算出することができ、これを1単位(ユニット)としている。p-ニトロフェニル-α-D-マルトヘプタオシドの分解は、上記反応で生成するp-ニトロフェノールをアルカリ溶液で発色させ、410nmの吸光度測定により定量し、評価することができる。
【0026】
(β-アミラーゼ)
本発明で使用されるβ-アミラーゼには、澱粉などのグルコースポリマーに作用して非還元末端から主にβ-マルトースを生成するアミラーゼである。
かかるβ-アミラーゼは、商業的に入手することができ、制限されないものの、例えば天野エンザイム社のアマノFを例示することができる。
【0027】
本発明ミックス中のβ-アミラーゼの配合割合としては、本発明の効果を奏する範囲であればよく、制限されないものの、本発明ミックス100gあたりの酵素活性として0.01単位以上、好ましくは0.1単位以上、より好ましくは1単位以上を例示することができる。その上限値は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されないものの、経済的観点から1000単位程度、好ましくは600単位を例示することができる。好ましくは、本発明ミックス100gあたり0.1~600単位、より好ましくは1~600単位、特に好ましくは5~600単位を例示することができる。
当該β-アミラーゼの酵素活性は、可溶性澱粉を基質として、これに、使用する酵素をその至適条件(例えば40℃、pH5.0)下で反応させ、30分間に10mgのグルコースに相当する還元力を増加させる酵素量から算出することができ、これを1単位(ユニット)としている。還元力は、ソモギ変法により測定することができる。
【0028】
(キシラナーゼ)
本発明で使用されるキシラナーゼには、キシラン、アラビノキシランなどのキシロース主体のポリマーに作用して、2つのキシロース残基がβ-1,4結合している箇所を加水分解する。
かかるキシラナーゼは、商業的に入手することができ、制限されないものの、例えばNovozyme社のPentopan(登録商標、以下同じ)シリーズ(例えば、Pentopan 500 BG等)を例示することができる。
【0029】
本発明ミックス中のキシラナーゼの配合割合としては、本発明の効果を奏する範囲であればよく、制限されないものの、本発明ミックス100gあたりの酵素活性として0.01単位以上、好ましくは0.1単位以上、より好ましくは1単位以上を例示することができる。その上限値は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されないものの、経済的観点から1000単位程度、好ましくは500単位を例示することができる。好ましくは、本発明ミックス100gあたり0.1~500単位、より好ましくは1~500単位、特に好ましくは5~500単位を例示することができる。
当該キシラナーゼの酵素活性は、Azo-Wheat Arabinoxylanを基質として、これに、使用する酵素をその至適条件(例えば50℃、pH6.0)下で反応させ、1分間に7.8mMのキシロースに相当する還元力を生成する酵素量から産出することができ、これを1単位(ユニット)とする。還元力は、ソモギ変法により測定することができる。
【0030】
[その他の成分]
本発明ミックスには、前記の成分のほか、本発明の効果を損なわないことを限度として、小麦粉焼成和風食品の生地を調製する原料として一般的に使用される粉体成分を配合することができる。かかる粉体成分としては、制限されないものの、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、粉末水飴、及び砂糖等の糖質;大豆たん白、グルテン、乳たん白、卵白粉、全卵粉等のたん白素材;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、及びキサンタンガムなどの増粘剤;液状油脂、粉末油脂やショートニングなどの油脂;食塩、グルタミン酸ナトリウム、だしパウダー、粉末醤油、及びタンパク質加水分解物等の調味料;昆布粉末、及び鰹節粉末、その他の魚介類の乾燥粉末等の風味原料;香味料や香辛料等の呈味料;色素;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;山芋粉や長芋粉等の植物の乾燥粉末;その他、乳化剤、ベーキングパウダー等の種々の品質改良剤を例示することができる。乳化剤、ベーキングパウダー等の品質改良剤は食品用であればよい。但し、本発明は、こうした品質改良剤を使用しなくても、前述の酵素を含有する本発明ミックスを用いることで、所望の効果を有する小麦粉焼成和風食品が得られることを特徴とする。
【0031】
本発明が対象とする小麦粉焼成和風食品は、主に日本発祥の食べ物とそれらに製法や原材料が類似し同様のカテゴリーとして扱われることがある海外発祥の食べ物を含む食品であり、具体的にはたこ焼、明石焼、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、熊本ちょぼ焼、洋風焼、どんどん焼、及びもんじゃ焼などの、いわゆる「粉もの」とも称される食品の中でも穀粉(主として小麦粉)を水で溶いたバッターを焼成調理した食品である。当該食品には、バッターの中に具材をいれて焼成調理するものと、バッターを薄くのばして軽く焼いた生地の上に具材を乗せるか、又は生地に具材を包んで、一緒に焼成して調理するものが含まれる。なお、たこ焼に入れる茹でたこに代えて、その他の魚介類や野菜などの具材をいれることもできる。また、いか焼のいかに代えて、その他の魚介類などの具材を用いることもできる。このため、本発明が対象とする小麦粉焼成和風食品には、前述するたこ焼やお好み焼等に限らず、これらに類する小麦粉焼成和風食品も含まれる。かかる小麦粉焼成和風食品は、後述するように、前記の本発明ミックスから調製されるバッターを、具材(魚介類、畜肉、野菜、卵など)とともに焼成して製造される食品であり、通常、温かい状態で喫食されることが好まれる。
【0032】
本発明ミックスは、前述する小麦粉焼成和風食品のバッターを調製するために使用される粉体状混合物であり、前述する成分を混合することで調製することができる。使用時(小麦粉焼成和風食品の製造時)に、水とともに、任意に調味料や卵や油脂等を配合して、バッターとして調製される。当該バッターは、小麦粉焼成和風食品の種類に応じて、これに任意に具材をいれて、焼成に供される。
【0033】
(II)小麦粉焼成和風食品、及びその製造方法
本発明が対象とする小麦粉焼成和風食品は前述した通りであり、小麦粉を主体とする穀粉、α化澱粉、及び前述する所定の酵素、及び水を混合して調製されるバッターを焼成して製造される食品である。
【0034】
バッターとともに焼成される具材は、小麦粉焼成和風食品の種類や好みに応じて、適宜選択することができる。例えば、たこ、イカ、桜えび、アサリなどの魚介類またはその加工品(例えば蒲鉾などの練り製品など);豚肉、鶏肉、牛肉などの畜肉またはその加工品(例えばハムやスジ煮込みなどの加工食品など);キャベツ、ネギ、紅しょうが等の野菜またはその加工品;その他、チーズ、餅、中華麺やうどん麺などの麺類、または揚げ玉等を、制限なく、例示することができる。
【0035】
バッターは、簡便には、前記の本発明ミックスに、水、及び必要に応じてその他の原料を添加混合して調製される。当該その他の原料としては、制限されないものの、例えばだし汁、醤油等の調味料、植物油等の油脂、卵液(卵白、卵黄、または全卵)、牛乳、豆乳、及び山芋や長芋のすりおろしを例示することができる。本発明ミックスに対するこれらの成分の配合割合は、小麦粉焼成和風食品の種類に応じて、適宜設定することができ、特に制限されるものではない。また、当該バッターは、調製後に冷蔵庫や冷暗所等に保管して、適宜使用することもできる。
【0036】
本発明の小麦粉焼成和風食品(以下、本発明食品とも称する)は、下記の(a)及び(b)の工程を有する方法により製造することができる。
(a)小麦粉;α化澱粉;マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素;並びに、水を混合してバッターを調製する工程、
(b)前記(a)工程で調製したバッターを具材とともに焼成する工程。
なお、前記(a)の工程で調製するバッターには、前記成分の他、前述する本発明ミックスの調製に使用する各種の成分を配合することができる。(a)工程は、簡便には、前述する本発明ミックスと水とを混合することで実施することができる。
【0037】
これらの工程は、屋台や店舗などで主として手動により実施されてもよいし、また食品製造工場等で一部機械を用いて実施されてもよい。
【0038】
(a)の工程(生地調製工程)では、水に代えて、または水とともに、前述する原料を用いてもよい。また、お好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チヂミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼など、小麦粉焼成和風食品の種類に応じて、この工程で前述する所望の具材を生地に混合することもできる。なお、たこ焼などの具材は、バッターを焼成する際に、バッターの中に添加することができる。
【0039】
(b)の工程(焼成工程)は、対象とする小麦粉焼成和風食品の種類に応じて定法に従って行うことができる。
例えば、手焼きでたこ焼を焼成する場合、制限されないものの、たこ焼用の焼成器を、190~200℃程度に加熱し、その半球状の窪みに(a)工程で調製した生地を流し込み、茹でたこなどの具材を入れて、竹串などを用いて回転させながら円球状に焼成することで製造することができる。また自動たこ焼焼成機を用いて製造することもでき、この場合、鉄板の半球状または釣鐘状の窪みに生地を流し込み、これに茹でたこなどの具材を入れて、片面焼成後、反転させて焼成することで製造することができる。また、例えばお好み焼を焼成する場合、190~200℃程度に加熱した鉄板上に、具材を混ぜた生地を、形状を整えながら置き、必要に応じて、豚肉や卵などの具材を乗せ、適宜形状を整え、裏返しながら焼成することで製造することができる。
後述する実験例に示すように、本発明のミックスから調製されるバッターは、時間経過後もその特性(焼成時の成形性、焼成後の食感)が安定に維持されている。このため、前記(b)の焼成工程は、(a)工程後に速やかに行ってもよいが、(a)工程で調製したバッターを一旦保存した後に、実施することもできる。
【0040】
本発明食品は、生地原料として、前述するように小麦粉に加えてα化澱粉及び所定の酵素を含むミックスを用いることで、焼成時に生地が鉄板に付着したり、生地と具材がまとまらない等といった成形上の問題が生じるのを抑えながら、良好な食感を有する小麦粉焼成和風食品を焼成取得することができる。具体的には、たこ焼や明石焼などについては、内部がしっとりやわらかく、口溶けのよいとろみのある食感に焼成することができ、またお好み焼、ねぎ焼、いか焼(大阪風)、チジミ、もんじゃ焼、熊本ちょぼ焼、洋食焼、どんどん焼などについては口溶けがよく、口あたりの軽い食感に生地を焼成することができる。
【0041】
本発明食品が、冷凍状態で流通販売される製品(冷凍食品)である場合は、前記(a)及び(b)工程後に、さらに下記の(c)の工程を経て製造することができる:
(c)前記(b)工程で焼成された食品を冷凍する工程。
当該冷凍工程は、制限されないものの、-30℃以下で急速冷凍することが好ましく、こうすることで焼き上がりに近い状態で冷凍が可能になり、また細菌の増殖を抑えることができる。斯くして冷凍処理された冷凍食品は、その後、出荷流通されるまで冷凍保管庫などで、例えば-18℃以下の条件で管理保管されることができる。
【0042】
冷凍食品については、再加熱(例えば、電子レンジやオーブンなど)して喫食されるが、本発明食品は、前述するように、生地原料として小麦粉に加えてα化澱粉及び所定の酵素を含むミックスを用いることで、再加熱した場合でも、焼きたて後と同様に、良好な食感を有することを特徴とする。
【0043】
(III)小麦粉焼成和風食品の食感改良方法
本発明は、小麦粉焼成和風食品の食感改良方法を提供する。
当該方法は、小麦粉焼成和風食品の生地原料として、小麦粉に加えて、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼよりなる群から選択される少なくとも一種の酵素を用いることで実施することができる。小麦粉焼成和風食品は冷凍食品であってもよく、電子レンジなどを用いて再加熱して喫食される食品であってもよい。
本発明でいう食感改良効果とは、小麦粉を主体とする生地を焼成して得られる小麦粉焼成和風食品の食感を、小麦粉焼成和風食品の種類に応じて改良する効果であり、例えばたこ焼や明石焼については、生地内部をしっとりやわらかく、口溶けのよいとろみのある食感に改良する効果、お好み焼やネギ焼きについては、焼成した生地内部を口溶けがよく、口あたりが軽い食感に改良する効果が含まれる。
本発明によれば、焼成時の成形性に悪影響を与えることなく、前記の効果を得ることができる。特に本発明によれば、バッター調製から時間が経過したバッターを用いても、当該効果を安定して得ることができる。なお、本発明の方法で使用される小麦粉、α化澱粉、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、及びキシラナーゼといった酵素の種類やその使用割合、並びに対象とする小麦粉焼成和風食品、及びその製造方法などについては、(I)及び(II)で説明した通りであり、前述の記載はここに援用することができる。
【0044】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0045】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。また、下記の実験において食感の評価は、たこ焼やお好み焼等の粉もの(小麦焼成和風食品)の官能評価について日常業務を通じて訓練及び経験を重ね、自社の官能評価試験に合格した10名の専門パネルにより実施した。
【0046】
下記の実験で使用した原料は次の通りである。
小麦粉:商品名 (特)丸昭K(中力粉:昭和産業株式会社製)
α化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉:馬鈴薯澱粉由来
α化リン酸架橋澱粉:タピオカ澱粉由来
澱粉:コーンスターチ(昭和産業株式会社製)
マルトース生成αアミラーゼ:商品名 Novamyl 3D BG(NOVOZYME社製)
マルトテトラオース生成αアミラーゼ:商品名 OPTIMALT 4G (ダニスコ社製)
β-アミラーゼ:商品名 アマノF(天野エンザイム株式会社製)
キシラナーゼ:商品名 Pentopan 500 BG(NOVOZYME社製)
グルコアミラーゼ::商品名 AMG 300L(NOVOZYMES社製)
カビ由来αアミラーゼ:商品名 Fungamyl(NOVOZYME社製)
【0047】
実験例1 たこ焼の製造(機械焼き、釣鐘形)
表1に記載する組成からなるたこ焼用の生地(バッター)を用いて、自動焼成機を用いてたこ焼を焼成し、その食感を評価した。
【0048】
(1)たこ焼ミックス、及びバッターの調製
表1に記載する配合割合で各材料を混合し、たこ焼用ミックスを調製した。酵素量は、酵素を除くたこ焼用ミックス100gあたりの酵素活性として単位(ユニット)で示した。ミキサーに、表1に記載する割合で、しょうゆ、サラダ油、及び水(液体原料)を投入し、これに前記のたこ焼用ミックスを加え、撹拌混合して、たこ焼焼成用生地(バッター)(被験試料1-1~1-9)を調製した。なお、下記のたこ焼きの製造は、各被験試料毎に、調製直後のバッターと、調製後10~15℃の暗所に3時間静置保存したバッターを用いて行った。
【0049】
(2)たこ焼の製造
自動焼成機の焼型の穴(40個)(穴径:43mm、深さ:34mm)に離型油を噴霧塗布した後、自動計量充填機を用いて、前記で調製したバッター(調製直後、保存後)を充填し(約22g/個)、次いで各穴に茹でたこの切り身(4g)を投入した。
ガスバーナー加熱により170~190℃に制御された自動焼成機にて、約14分間加熱焼成を行った。焼成完了後、焼型を自動反転して、焼成したたこ焼を排出した。
【0050】
(3)たこ焼の評価
(a)外観(形状)の評価
焼成機より排出したたこ焼の外観(形状)を下記の基準で評価した。
[外観(形状)の評価基準]
焼成したたこ焼(n=40)のうち、鐘状に成形できない不良品、及び形状が不揃いな不良品の総発生率で評価した。
5:不良品の総発生率が2.5%以下(1個以下)である
4:総発生率が2.5%超5%以下(2個以上3個以下)である
3:総発生率が5%超12.5%以下(3個以上5個以下)である
2:総発生率が12.5%超50%未満(6個以上20個未満)である
1:総発生率が50%以上(20個以上)である。
【0051】
(b)食感(とろみ)の評価
10名の専門パネルに、焼成したたこ焼を熱い状態で食べてもらい、所定のスコア基準に従って、たこ焼の生地内部の食感を評価してもらった。なお評価にあたり、事前に10名の専門パネル間同士で、各自が感じるとろみの強さを、下記のスコアの基準に従って摺り合わせて統一した。
[食感のスコア基準]
5:しっとりとした、やわらかなとろみが強く、口溶けが非常に良好
4:しっとりとした、やわらかなとろみがあり、口溶けが良好
3:とろみを感じる
2:とろみが弱く、やや口溶けが悪い
1:とろみが全くなく、口溶けが悪い
【0052】
(c)評価結果
評価結果を表1に併せて示す。食感(とろみ)の評価結果は、10名のパネルの平均値である。
【表1】
表1に示すように、たこ焼用ミックスの原料として、小麦粉に加えて、マルトース生成α-アミラーゼを用いることで、焼成したたこ焼の食感(生地内部の食感)にとろみが出ることが確認された。しかし、形状(焼成時の成形性)が低下する傾向が認められた(以上、被験試料1-3)。これに対して、原料としてさらにα化澱粉を配合すると、α化澱粉では、十分な食感(とろみ)改善効果は認められないにも関わらず(被験試料1-2)、良好な食感(とろみ)が得られることが確認された。また、α化澱粉を配合することで、成形性の低下も改善することが確認された(被験試料1-4)。同様の効果は、酵素として、マルトース生成α-アミラーゼに代えて、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、又はキシラナーゼを用いた場合でも確認された(被験試料1-5~1-7)。
これに対して、酵素としてグルコアミラーゼやカビ由来α-アミラーゼを用いた場合は、α化澱粉を併用した場合でも、焼成時にたこ焼焼成に付着したり、焦げが発生するなど球状に成形することが難しく、形状不良品が多く発生した。また食感(とろみ)改善効果は、バッター調製から時間が経過するに従って著しく低下することが確認された(被験試料1-8及び1-9)。このことから、小麦粉に加えて、α化澱粉、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、又はキシラナーゼといった酵素を配合したミックス粉を用いてバッターを調製し、これを用いてたこ焼を焼成することで、バッター調製から時間が経過した場合でも、作業性(焼成時の成形性)に悪影響を与えることなく、生地内部がとろりとした所望の食感を有するたこ焼が製造できることが確認された。
【0053】
実験例2 たこ焼の製造(手焼き、丸形)
表2に記載する組成からなるたこ焼焼成用の生地(バッター)を用いて、たこ焼を手焼きで製造し、その食感を評価した。
【0054】
(1)たこ焼ミックス、及びバッターの調製
表2に記載する配合割合で各材料を混合し、たこ焼用ミックスを調製した。酵素量は、酵素を除くたこ焼用ミックス100gあたりの酵素活性として単位(ユニット)で示した。容器に、表2に記載する割合で、しょうゆ、サラダ油、及び水(液体原料)を投入し、これに調製したたこ焼用ミックスを加え、撹拌混合して、たこ焼用生地(バッター)(被験試料2-1~2-11)を調製した。調製後、たこ焼製造まで、10~15℃の暗所に3時間静置保存した。
【0055】
(2)たこ焼の製造
200℃に加熱した、8個(n=8)の半球状の窪み(穴径:50mm、深さ:40mm)を有するたこ焼焼成器にサラダ油を引き、各バッターを流し入れた後、各窪みに茹でたこの切り身(4g)を加え、竹串を用いて回転させて球状になるように形を整えながら10分間焼成し、たこ焼を製造した(被験試料2~1~2-11)。
【0056】
(3)たこ焼の評価
(a)外観(形状)の評価
焼成したたこ焼の外観(形状)を5名の専門パネルが下記の基準で、合議により評価した。
[外観(形状)の評価基準]
5:焼成した全てのたこ焼(n=8)がきれいな球状をしており、非常に良好
4:全てのたこ焼の形状(球状)が整っており、良好
3:形状はやや不揃いであるが、形状不良品(球状に成形できない不良品)は一つもない
2:1~半数未満のたこ焼が形状不良品(球状に成形できない不良品)である
1:半数以上のたこ焼が形状不良品(球状に成形できない不良品)である。
【0057】
(b)食感(とろみ)の評価
10名の専門パネルに、焼成したたこ焼を熱い状態で食べてもらい、実験例1と同じスコア基準に従って、たこ焼の生地内部の食感を評価してもらった。実験例1と同じく、評価にあたり、事前に10名の専門パネル間同士で、各自が感じるとろみの強さを、実験例1と同じスコア基準に従って摺り合わせて統一した。
【0058】
(c)評価結果
評価結果を表2に併せて示す。食感(とろみ)の評価結果は、10名のパネルの平均値である。
【表2】
表2に示すように、手焼きの場合も、機械焼きと同様に、たこ焼用ミックスの原料として、小麦粉に加えて、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ又はキシラナーゼを用いることで、バッター調製から時間が経過した場合でも、作業性(焼成時の成形性)に悪影響を与えることなく、生地内部がとろりとした所望の食感を有するたこ焼が製造できることが確認された(被験試料2-2~2-9)。さらに酵素量をふっても、バッターの性状は安定しており、作業性(焼成時の成形性)に悪影響を与えることなく、生地内部がとろりとした所望の食感を有するたこ焼が製造できることが確認された(被験試料2-2~2-9)。また二以上の酵素を組み合わせることで、食感がさらに向上することが確認された(被験試料2-10及び2-11)。
【0059】
実験例3 冷凍たこ焼の製造(機械焼き、釣鐘形)
表3に記載する組成からなるたこ焼焼成用の生地(バッター)を用いて、たこ焼を、自動焼成機を用いて焼成し、冷凍保存後、再加熱してその食感を評価した。
【0060】
(1)たこ焼ミックス、及びバッターの調製
表3に記載する配合割合で各材料を混合して、たこ焼用ミックスを調製した。酵素量は、酵素を除くたこ焼用ミックス100gあたりの酵素活性として単位(ユニット)で示した。ミキサーに、表3に記載する割合で、しょうゆ、サラダ油、及び水(液体原料)を投入し、これに前記のたこ焼用ミックスを加え、撹拌混合して、たこ焼用生地(バッター)(被験試料3-1~3-7)を調製した。
【0061】
(2)冷凍たこ焼の製造
実験例1と同様の方法で自動焼成機を用いて焼成した。
焼成機より排出したたこ焼は、-10~-15℃に制御された予冷機を通して、十分に冷却した後、スパイラル式凍結庫にて品温-18℃以下に凍結した。凍結後、15個/袋単位で包装して、冷凍保管庫(-20℃)にて1箇月間、保管した(被験試料3-1~3-7)。
【0062】
(3)冷凍たこ焼の評価
(a)外観(形状)の評価
焼成機より排出したたこ焼の外観(形状)を、冷凍処理に供する前に、前述する実験例1に記載する基準に従って評価した。
【0063】
(b)食感(とろみ)の評価
冷凍保管後、冷凍状態にある冷凍たこ焼(被験試料3-1~3-7)を、電子レンジ(出力500W、3分間/8個)で加熱した。これを10名の専門パネルに熱い状態で食べてもらい、前述する実験例1に記載する所定のスコア基準に従って、たこ焼の内部の食感を評価してもらった。なお実験例1と同様に、評価にあたり、10名の専門パネル間同士で、各自が感じるとろみの強さを摺り合わせて統一した。得られた10名の評価結果に基づいて、焼成したたこ焼の食感(とろみ)を、実験例1に記載する基準で評価した
【0064】
(c)評価結果
評価結果を表3に併せて示す。食感(とろみ)の評価結果は、10名のパネルの平均値である。
【表3】
表3に示すように、たこ焼のミックスに、小麦粉に加えて、α化澱粉とマルトース生成α-アミラーゼの酵素を配合することで、一旦冷凍し、再加熱したたこ焼についても、焼きたてのたこ焼と同様に、とろみのある食感が付与できることが確認された(被験試料3-2~3-7)。
【0065】
実験例4 お好み焼の製造
表4に記載する組成からなるお好み焼焼成用の生地(バッター)を用いて、お好み焼を焼成し、その食感を評価した。またその一部を冷凍保存後、再加熱して食感を評価した。
【0066】
(1)お好み焼ミックス、及びバッターの調製
表4に記載する配合割合で各材料を混合して、お好み焼用ミックスを調製した。酵素量は、酵素を除くお好み焼用ミックス100gあたりの酵素活性として単位(ユニット)で示した。表4に記載する割合の水に、調製したお好み焼用ミックスを加え、撹拌混合して、お好み成用生地(バッター)(被験試料4-1~4-6)を調製した。調製後、お好み焼製造まで、10~15℃の暗所に3時間静置保存した。
【0067】
(2)お好み焼の製造
上記で調製したバッター125質量部に、具材としてキャベツ(粗みじん切り)125質量部を混合したものを、サラダ油を引いて200℃に加熱した鉄板の上で、15cm径のセルクルを用いて形状を整えながら、片面5分間焼成し、次いでコテを用いて反転してさらに5分間焼成して、お好み焼を製造した(被験試料4-1~4-6)。また、各お好み焼の一部を急速凍結庫(-35℃)で凍結し、冷凍庫(-18℃)で1週間保管した。
【0068】
(3)お好み焼の評価
(a)作業性の評価
お好み焼を焼成する際の作業性(生地反転作業の状態)を下記の基準に従って評価した。
3:鉄板への付着もなく、生地の反転が問題なくできる
2:生地が鉄板に付着しやすく、成形にやや労力を要するが、生地の反転は可能である
1:生地が鉄板に付着して、生地の反転ができない
【0069】
(b)食感(口溶け)の評価
冷凍保管後、冷凍状態にある冷凍お好み焼(被験試料4-1~4-6)を、電子レンジ(出力500W、7分間/1枚)で加熱した。これを10名の専門パネルに熱い状態で食べてもらい、所定のスコア基準に従って、生地の食感(口溶け)を評価してもらった。なお評価にあたり、事前に10名の専門パネル間同士で、各自が感じる生地の食感とその強さを、下記のスコアの基準に従って摺り合わせて統一した。
[食感のスコア基準]
5:口溶けが非常によく、非常にふんわりとした軽い食感
4:口溶けがよく、ふんわりとした軽い食感
3:口溶けがややよく、軽い食感
2:口溶けがやや悪い
1:口溶けが悪く、重い食感。
【0070】
(c)評価結果
評価結果を表4に併せて示す。食感の評価結果は、10名のパネルの平均値である。
【表4】
表4に示すように、お好み焼のミックスに、小麦粉に加えてα化澱粉を配合しても、十分な食感(とろみ)改善効果は認められないにも関わらず(被験試料4-2)、これにさらにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、又はキシラナーゼを配合することで、口溶けのよいふんわりと軽い食感を有するお好み焼が焼成できることが確認された(被験試料4-3~4-6)。
以上のことから、たこ焼のみならず、お好み焼についても、小麦粉に加えて、α化澱粉、並びにマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、キシラナーゼといった酵素を配合したミックス粉で調製した生地を焼成することで、良好な焼成作業性を維持しつつ、口溶けがよく、ふんわりとした軽い食感を有する所望の小麦粉焼成和風食品が製造できることが確認された。